説明

クラゲの酢酸抽出物製造方法およびクラゲコラーゲン由来ペプチド

【課題】 降圧剤や高血圧予防剤、機能性食品等に利用することのできる、クラゲの酢酸抽出物製造方法およびクラゲコラーゲン由来ペプチドを提供すること。
【解決手段】 クラゲに酢酸を10倍量以上添加し、10〜30分程度加熱することによって、クラゲコラーゲン由来の酢酸分解ペプチドを主成分にしたほぼ均一な溶液を得、ついで減圧乾固した処理物か、または水に溶かして凍結乾燥して粉末化した処理物を得る。酢酸は合成酢でも食酢でもよい。処理物にはACE阻害活性を有するペプチドが含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクラゲの酢酸抽出物製造方法およびクラゲコラーゲン由来ペプチドに係り、特に、有用物質であるコラーゲンを含むクラゲから生活習慣病の一つである高血圧予防のための降圧ペプチドを簡易かつ高収率に取り出し、それらを用いた降圧剤、高血圧予防剤や、それらを含む機能性食品等を提供することのできる、クラゲの酢酸抽出物製造方法およびクラゲコラーゲン由来ペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
日本近海において、夏期に大型クラゲであるエチゼンクラゲが大量発生する場合、主に漁業への影響があげられる。定置網などに多数入網した場合、揚げ網や選別作業などに多大な労力を必要とするため、漁業営業上の妨げとなっている。また、エチゼンクラゲが網の中に入ることによって漁獲量が減少し、経済的にも大きな被害が生じている。つまり、クラゲの重さで網が破れたり、入網した魚が損傷するなどの被害が出ている。2005年の大量発生では、9月末から10月末までの1ヶ月間における全県の定置網漁の水揚げ高が、例年に比べ約3億5千万円減収したという調査結果も報告されている。この解決技術として漁網にピアノ線を用い、入ってきたクラゲを大きな網の目に切り、死滅させ海に廃棄する技術が開発されているが、決定的打開策とはなっていない。
【0003】
また、臨海部の工場や発電所においては、冷却水用の取水口へクラゲが海水取り込みの流れに乗って近づき、この取水口に異物流入を防ぐために設置されているフェンスに収集され、フェンスを塞いでしまう。この結果、このフェンスの閉塞に伴って上記取水口の水位は低下し、冷却水の取水量が減少し、工場や発電所の操業や発電の効率を悪化させている。このため、これらの工場や発電所では、取水口付近のクラゲを自動捕獲・除去することにより、冷却水の取水量確保を図っている。しかし、除去したクラゲを有効利用する技術がないため、クラゲはすべて経費をかけて廃棄されているのが実情である。
【0004】
一方、近年、コラーゲンは有用なサプリメントとして市販されている。従来は特に、牛皮由来の物が圧倒的に多く利用されてきたが、BSE問題などによってほ乳動物由来よりも魚介類など水産物由来のコラーゲンが注目されるようになり、新たなコラーゲン供給源が模索されている。しかしながらその候補資源は未知である。もし、クラゲがコラーゲン供給の一翼を担えれば、産業的にも安全性の面からも画期的である。
【0005】
さて、コラーゲン自体は高分子であるため、実際に生体内へ吸収されているのはコラーゲン由来のペプチドなどの低分子と考えられており、したがってコラーゲンの低分子ペプチドが高付加価値を生むに至っている。クラゲのコラーゲンも高分子であり、そのままでは体内吸収率も低いので、体内に吸収されやすいペプチドなどの低分子製造法が求められている。クラゲの97%は水分であり、それらを利用しやすい形態にするためには、各種の素材と自由な組み合わせができ、しかも、各種食品に使用されやすい粉末、水溶性、溶液の形態にすることが望ましい。
【0006】
さらに、それらの素材は高血圧予防効果の指標であるACE阻害活性などの生理活性を有し、なおかつ製造工程でその活性を維持することが望ましい。また、クラゲコラーゲン由来ペプチドは、食品学的および栄養学的にも、胃液分泌能力が活溌でない、または消化能力が衰えてきた高齢者においても吸収し易いペプチド素材であることが望ましい。かかる目的達成のため、既にコラゲナーゼやペプシンなどの各種蛋白分解酵素処理(後掲非特許文献1)や、古くはペプチドへの分解のために塩酸などの化学処理が提案されている。
【0007】
なお、クラゲ、コラーゲン、ペプチドをキーワードとして、IPDLの特・実公報テキスト検索される例には後掲特許文献1の技術があるが、これは、乳清蛋白を含浸させたクラゲを60〜80℃でボイルし、乳清蛋白を熱変成させずにクラゲ片中のコラーゲンを熱変成させて、外観と触感に特徴のある加工食品を得るものである。
【0008】
【特許文献1】特開平10−084916「クラゲの加工品およびその加工方法」
【非特許文献1】牛田崇博、久保恵亮、中山剛志、東村具徳、唐漢軍、河村幸雄、2005年度日本農芸化学会大会要旨集:276,2005.3.30,札幌
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
さて、クラゲの大量発生は、漁業、発電および関連関係者にとって大きな悩みの種となっており、クラゲコラーゲン由来ペプチドを実用的に製造できる技術が開発されれば、関係者には問題解決の一助となるばかりでなく、生理機能が低下した高齢者や、高血圧等の生活習慣病を抱えた多くの人々にとっても大いに有益であり、大量発生したクラゲの有効利用技術の開発は多くの人々から強く望まれている。
【0010】
しかしながら、上述のようにクラゲコラーゲン由来ペプチドを得る方法は従来存在するが、非特許文献1の技術にはコスト的問題があり、また塩酸等の化学処理による方法では、食品や食材としてはふさわしくない塩酸の使用といった欠点があり、いずれも実用化には至っていなかった。なおまた、クラゲには、コラーゲン以外に生理機能物質資源としての付加価値がないために、従来その有効利用が進まなかったことも、クラゲコラーゲン由来ペプチドの実用化が進展を見なかった一因といえる。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の問題点を除き、有用物質であるコラーゲンを含むクラゲから生活習慣病の一つである高血圧予防のための降圧ペプチドを簡易かつ高収率に取り出し、それらを用いた降圧剤や高血圧予防剤、機能性食品等を実現することのできる、クラゲの酢酸抽出物製造方法およびクラゲコラーゲン由来ペプチドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者は上記課題について検討し、各種試験を重ねた結果、経口摂取可能な有機酸、つまり古今東西を問わず食されてきた酢酸のみを用い、クラゲ本体またはクラゲ由来コラーゲンを主成分とする脱脂後のクラゲ残渣を加熱することにより、それを可溶化したり粉末化できるペプチド断片に分解できることを見出した。さらに、このペプチド溶液や粉末に血圧降下作用の指標であるアンジオテンシン変換酵素 (以下、「ACE」と略記する) 阻害活性があることを明らかにし、上記課題の解決が可能であることを見出し、本願に至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0013】
(1) クラゲに酢酸を添加し、加熱することによって、クラゲコラーゲン由来のペプチドを主成分にしたほぼ均一な溶液を得ることを特徴とする、クラゲの酢酸抽出物製造方法。
(2) クラゲに酢酸を添加し、加熱することによって、クラゲコラーゲン由来のペプチドを主成分にしたほぼ均一な溶液を得、ついで減圧乾固した処理物か、または水に溶かして凍結乾燥して粉末化した処理物を得ることを特徴とする、クラゲの酢酸抽出物製造方法。
(3) 前記クラゲは海中より回収したもの、凍結後に解凍したもの、またはアルコールやアセトンその他の溶媒を用いて脱脂したもののいずれかを用いることを特徴とする、(1)または(2)に記載のクラゲの酢酸抽出物製造方法。
(4) 前記酢酸は、原料クラゲに対して重量で10倍以上の量を添加し、また前記加熱時間は10分以上とすることを特徴とする、(1)ないし(3)のいずれかに記載のクラゲの酢酸抽出物製造方法。
(5) 前記クラゲは、エチゼンクラゲであることを特徴とする、(1)ないし(4)のいずれかに記載のクラゲの酢酸抽出物製造方法。
(6) クラゲに酢酸を添加し、加熱することによって、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害活性を有するクラゲコラーゲン由来のペプチドを得ることを特徴とする、クラゲコラーゲン由来ペプチド製造方法。
【0014】
(7) 酢酸を用いた熱処理によりクラゲを処理して得られる、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害活性を有することを特徴とする、クラゲコラーゲン由来ペプチド。
(8) 下記(A)〜(D)のいずれかのアミノ酸配列を有することを特徴とする、(7)に記載のクラゲコラーゲン由来ペプチド。
(A)Gly−Pro−Thr−Gly−Ala−Thr−Gly−Ala−Ala−Gly−Gln−Arg−Gly
(B)Gly−Ala−Gln−Gly−Ala−Gln−Gly−Gln−Ala−Gly−Leu−Phe
(C)Glyの10回以上の連続繰り返し
(D)Pro−Gly−Val−Gly−Gly−Ala−Leu−Gly
(9) 前記クラゲはエチゼンクラゲであることを特徴とする、(7)または(8)に記載のクラゲコラーゲン由来ペプチド。
(10) (1)ないし(5)のいずれかに記載のクラゲの酢酸抽出物、または(6)ないし(9)のいずれかに記載のクラゲコラーゲン由来ペプチドを用いて製造されることを特徴とする、降圧剤、高血圧予防食品、高血圧予防サプリメント、高血圧予防飲料または高血圧予防薬剤。
【0015】
つまり本発明は、近年、大量発生するクラゲまたはクラゲコラーゲンが主成分となる脱脂後のクラゲ残渣を、米、リンゴ、ブドウなどの糖質原料から醗酵させて製造され、しかも経口摂取可能な酸である酢酸を用いて加熱することによって、これを可溶化、粉末化可能なペプチド断片に分解できる新規な技術に関するものである。また、このようにして得られるペプチド溶液や粉末は、そのままでも各種食品素材に自由な割合で混合して利用することが可能である。さらに、この溶液や粉末および混合物には、高血圧予防効果の指標であるACE阻害活性を備えたものである。
【0016】
本発明は、特に大量発生が問題となっている大型クラゲであるエチゼンクラゲを適用対象とした取組みから生まれたものであるが、適用対象はエチゼンクラゲに限定されず、広くクラゲ全体に対して用いることができるものである。
【0017】
エチゼンクラゲを原料とした場合、海中より回収したもの、凍結後に解凍したもの、あるいはクラゲをアルコールやアセントンなどで脱脂したもののいずれも、出発原料とすることができる。また、添加する酢酸の量は原料の約10倍量程度とすることで、より良好な結果を得ることができる。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。また、加熱時間は10分〜30分程度の沸騰処理が適当である。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。また、添加する酢酸は、化学的に合成した酢酸でも、あるいはまた醸造醗酵した米酢、リンゴ酢、バルサミコ酢等のいわゆる食酢でもよい。
【0018】
得られる酢酸抽出物は、クラゲコラーゲン由来の酢酸分解ペプチドを主成分にしたほぼ均一な溶液としたもの、その後減圧乾固したもの、あるいは水に溶かして凍結乾燥し粉末としたものだが、これらを溶液のまま、粉末のまま、あるいは粉末を再溶解した形で、各種加工素材として自由な割合で混合して用い、食品、サプリメントもしくは薬剤等の製造に供することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のクラゲの酢酸抽出物製造方法およびクラゲコラーゲン由来ペプチドは上述のように構成されるため、クラゲコラーゲンを安全、簡易な方法により、可溶化、粉末化可能なペプチド断片に分解することができる。また本発明によれば、大量発生が問題となるクラゲから、ACE阻害活性を有するペプチドを簡易かつ高収率に取り出し、高血圧予防効果等の生理機能を有する素材として、これを医薬・食品に用いることができる。つまり、これまで多大なコストをかけて処分されていたクラゲについて、その処理・利用の一助とすることができるとともに、これを高い産業的利用価値を備えた生物資源とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について、実施例も用いてより詳細に説明するが、本発明は以下の説明に示された技術に限定されるものではない。
下記実施例では、2004年1月に八戸市南浜沖の小型定置網で捕獲・解体されたエチゼンクラゲの、主に傘部および口丘部を用いた。原料としてはその他、捕獲・解体したクラゲを冷凍庫にて凍結したクラゲ、水洗浄したクラゲ、またその後それらを冷凍したクラゲなど、各種前処理したクラゲを使用することが可能である。特に、凍結したクラゲやクラゲ断片は、流水中で解凍後に出発原料として使用可能である。本願で述べるクラゲとは、クラゲそのもの、および凍結クラゲについてはその凍結を解除した物をいう。また、クラゲの主な蛋白質はコラーゲンであることが知られているが、上記クラゲを冷アセトン処理により脱脂して得たクラゲコラーゲンから同様のペプチド試料を調製するために、この原料(脱脂クラゲコラーゲン)をも試験に供した。
【0021】
添加する酢酸としては、基本的には3%酢酸溶液を使用することが望ましいが、これは食酢または合成酢どちらでもかまわない。ゲル状のクラゲは広い保管場所を必要とするため、使用しにくい点がある。また、クラゲは主にコラーゲン様の蛋白質からなっており、コラーゲンにはこれまで数十種類のタイプが知られており、それらは不溶性の高い物が大部分である。このため従来は、溶液化やその後の粉末化に数週間を要するのが通常であり、コラーゲン自体の性質による技術面、コスト面の双方において問題があったが、本願発明者は、クラゲを昔から酢の物にして食する習慣があることに着眼し、各種酢酸を用いて溶液化とその後の処理による粉末化を試みたものである。
【0022】
その結果、醸造酢、合成酢、またはリンゴ酢などの各種食酢中で加熱沸騰させることにより、容易に溶液化することが可能となり、しかも、その後の凍結乾燥などの処理によって、容易に粉末化することも可能となった。また、処理量が多い場合にはこの製造工程を大型化することによって、効率的に、無駄なく、精度良く温度制御された形で、しかも安定的にエチゼンクラゲの溶液や粉末の製造が可能になった。
【0023】
製造したエチゼンクラゲ粉末の有用性を確認するため、5種類の酢酸加熱処理粉末について、血圧降下作用の指標であるACE阻害活性試験を行った。表1には、各種酢酸処理条件を示す。また、表2には、各種酢酸処理方法による収量及びACE阻害活性IC50値を示す。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】











【0026】
その結果、最も阻害活性の高い物でIC50値 (元の酵素活性を50%阻害するために必要な濃度) が49mg/mLの活性が得られた。これは、他の消化酵素を用いた処理粉末とほぼ同等の結果を示し、その操作が簡易なことから、本発明の酢酸加熱処理による製造法の有用性が明らかとなった。
【0027】
また、この酢酸加熱処理粉末に降圧成分が物質として含まれていることを確認するために、Sep−Pak C18による粗分画を行い、1%トリフロロ酢酸(TFA)−アセトニトリル(CHCN)の溶媒を用い、CHCNを0%、20%、40%、60%と段階的に増加させて溶出を行い、これらを減圧乾固し、凍結乾燥後、白色粉末をそれぞれ得た。それぞれについて、血圧降下作用の指標であるACE阻害活性測定試験を行った。表3には、C18粗分画画分の収量、ACE阻害活性IC50値、蛋白質量およびグリシン量を示す。
【0028】
【表3】

【0029】
その結果、20%CHCN画分は収量も多く、強い活性を示した。この画分は、最もアミノ酸含有量が多く、かつグリシン含有量は30%を超えており、これはコラーゲンから分解したペプチドであることを示唆している。また、酢酸加熱処理前のクラゲアセトン処理残渣、またはアルコール処理残渣のSDSポリアクリルアミド電気泳動では、コラーゲンに由来する幾つかのバンドが確認され、また、これら残渣のアミノ酸組成でもグリシン量がおよそ3割に近い値を与えることから、これらのペプチドがエチゼンクラゲのコラーゲン由来であることが示された。
【0030】
ACE阻害活性の強いSep−Pak C18 20%CHCN溶出画分および40%CHCN溶出画分を、C18逆相HPLC(ODS120T、4.6×250mm、東ソー社)を用いて分離・精製した。
図1は、これらACE阻害活性の強い溶出画分についてのC18逆相HPLCクロマトグラムである。図示されるように、分析開始時から1分毎に60(計120)画分に分画し、図1a(20%CHCN溶出画分)では13分から43分に、図1b(40%CHCN溶出画分)では20分から43分に280nmに吸収を示すピークが得られた。このうち粉末として得られた53画分のACE阻害活性を調べたところ、Fr.1(20−9)に100%、Fr.2(20−19)に77%、Fr.3(40−3)に62%、Fr.4(40−13)に55%のACE阻害活性があった。
【0031】
ACE阻害活性を示したFr.1からFr.4のアミノ酸配列の決定は、Protein Sequencer(PPSQ−10、島津製作所、気相エドマン分解法)を用いて行った。その結果、Fr.1は、Gly−Pro−Thr−Gly−Ala−Thr−Gly−Ala−Ala−Gly−Gln−Arg−Glyというアミノ酸配列であり、Fr.2は、Gly−Ala−Gln−Gly−Ala−Gln−Gly−Gln−Ala−Gly−Leu−Pheという配列であったが、他にも幾つかのアミノ酸配列を持つものが含まれていた。Fr.3は、複数のアミノ酸配列があり、全サイクルでGlyのみで、Glyの10回以上の連続ペプチドであると考えられた。Fr.4は、Pro−Gly−Val−Gly−Gly−Ala−Leu−Glyという配列であった。
【0032】
本発明により得られるエチゼンクラゲの酢酸抽出物は、上述したアミノ酸配列からなるペプチドを含み、これらのペプチドは血圧降下作用を有しており、生活習慣病の一つである高血圧を予防するなどの有用性を備えたものである。しかも安全であり、かつ液状および粉末など食品にも利用しやすい形態の素材提供を可能としたものである。
【実施例】
【0033】
エチゼンクラゲの酢酸加熱処理粉末、あるいは液体は、以下実施例に示す方法で調製することができる。解体されたエチゼンクラゲの傘部および口丘部を用い、これを水道水にて付着物を洗い流し、適当な大きさに切断したもの、あるいはアセトンやアルコールで脱脂したものを出発原料に用いる。特にアルコール処理は腐敗等を防ぐ意味では適当な前処理である。
【0034】
<実施例1>
アセトン処理物を使用する場合は、36.32mgを0.5M酢酸92mLに加え、表1に示した5条件で沸騰処理を行った。その後、3,000rpmで5分間の遠心分離後、酢酸溶液を減圧乾固し、水に溶解後、凍結乾燥により白色のエチゼンクラゲ粉末を得た(表2)。
【0035】
<実施例2>
実施例1で得たエチゼンクラゲ粉末を、小麦粉、そば粉、うるち米粉と練り合わせて各種焼き菓子原料とし、焼き菓子を得た。その結果、小麦粉、そば粉、うるち米粉などに練り合わせて、和洋を問わない各種焼き菓子の原料として使用可能であることが実証された。エチゼンクラゲ粉末はこれらの原料とあらゆる割合で混合可能である。
【0036】
<実施例3>
実施例1で得たエチゼンクラゲ粉末を、ソバ、うどん、パスタやラーメンの麺類原料に添加し、各麺を製造した。その結果、本エチゼンクラゲ粉末はソバ、うどん、パスタやラーメンなどの麺類にも使用可能であることが実証された。この場合も、エチゼンクラゲ粉末は使用する原料とあらゆる割合で混合可能であり、好みに応じて調整が可能である。
【0037】
<実施例4>
実施例1で得たエチゼンクラゲ粉末をリンゴ酢や果実酢などで溶解した。その結果、溶解液そのままで、血圧降下ペプチドを豊富に含有するとともにアミノ酸スコアの高い飲料を、簡単に製造可能であることが実証された。本飲料は健康に良く、しかも保存性の高い調味飲料である。また本飲料は、ペプチドが主成分であるため、消化吸収力が低下した高齢者や病弱の消費者にも有益な食品素材である。
【0038】
<実施例5>
エチゼンクラゲ粉末をサプリメントに加工した。エチゼンクラゲ粉末をポットミル等で微粉末化し、これに糖類などの添加剤(賦形剤)を適度に加え、均一に充分混合した。これを打錠機に供し、打錠・成型することによってエチゼンクラゲ粉末を主成分とする錠剤を製造することができた。錠剤は、糖衣コーティングなどにより、甘みや光沢を加えることができた。
【0039】
エチゼンクラゲ粉末の混合物に適度に水分を加えて混合し、押し出し造粒機でペレットに造粒し、さらに、マルメライザーなどで球状に整形することによって、エチゼンクラゲ顆粒を製造することができた。また、エチゼンクラゲ粉末単独あるいは添加剤と均一かつ充分に混合したものを、乾燥状態でカプセル充填することにより、クラゲカプセルを製造することができた。
【0040】
これらサプリメントは、大きさを変えることができるとともに、添加剤の種類や量を変えることによってクラゲ粉末の含有量やサプリメントの味、摂取時の食感などを調節することができる。これらのクラゲ粉末サプリメントは、クラゲコラーゲン由来の降圧ペプチドおよびアミノ酸等を補充できることが特徴である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のクラゲの酢酸抽出物製造方法およびクラゲコラーゲン由来ペプチドによれば、従来多大なコストをかけて処分されていたクラゲについて、その処理・利用の一助とすることができるとともに、降圧剤、高血圧予防剤、機能性食品に利用することができ、高い産業的利用価値を備えた生物資源に変貌させることができる。したがって、産業上利用価値が高い発明である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明製造方法実施例により得られたクラゲコラーゲン酢酸抽出物の、ACE阻害活性の強い溶出画分についてのC18逆相HPLCクロマトグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラゲに酢酸を添加し、加熱することによって、クラゲコラーゲン由来のペプチドを主成分にしたほぼ均一な溶液を得ることを特徴とする、クラゲの酢酸抽出物製造方法。
【請求項2】
クラゲに酢酸を添加し、加熱することによって、クラゲコラーゲン由来のペプチドを主成分にしたほぼ均一な溶液を得、ついで減圧乾固した処理物か、または水に溶かして凍結乾燥して粉末化した処理物を得ることを特徴とする、クラゲの酢酸抽出物製造方法。
【請求項3】
前記クラゲは海中より回収したもの、凍結後に解凍したもの、またはアルコールやアセトンその他の溶媒を用いて脱脂したもののいずれかを用いることを特徴とする、請求項1または2に記載のクラゲの酢酸抽出物製造方法。
【請求項4】
前記酢酸は、原料クラゲに対して重量で10倍以上の量を添加し、また前記加熱時間は10分以上とすることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載のクラゲの酢酸抽出物製造方法。
【請求項5】
前記クラゲは、エチゼンクラゲであることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載のクラゲの酢酸抽出物製造方法。
【請求項6】
クラゲに酢酸を添加し、加熱することによって、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害活性を有するクラゲコラーゲン由来のペプチドを得ることを特徴とする、クラゲコラーゲン由来ペプチド製造方法。
【請求項7】
酢酸を用いた熱処理によりクラゲを処理して得られる、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害活性を有することを特徴とする、クラゲコラーゲン由来ペプチド。
【請求項8】
下記(A)〜(D)のいずれかのアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項7に記載のクラゲコラーゲン由来ペプチド。
(A)Gly−Pro−Thr−Gly−Ala−Thr−Gly−Ala−Ala−Gly−Gln−Arg−Gly
(B)Gly−Ala−Gln−Gly−Ala−Gln−Gly−Gln−Ala−Gly−Leu−Phe
(C)Glyの10回以上の連続繰り返し
(D)Pro−Gly−Val−Gly−Gly−Ala−Leu−Gly
【請求項9】
前記クラゲはエチゼンクラゲであることを特徴とする、請求項7または8に記載のクラゲコラーゲン由来ペプチド。
【請求項10】
請求項1ないし5のいずれかに記載のクラゲの酢酸抽出物、または請求項6ないし9のいずれかに記載のクラゲコラーゲン由来ペプチドを用いて製造されることを特徴とする、降圧剤、高血圧予防食品、高血圧予防サプリメント、高血圧予防飲料または高血圧予防薬剤。


【図1】
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【公開番号】特開2007−238465(P2007−238465A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−59720(P2006−59720)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(591005453)青森県 (52)
【Fターム(参考)】