説明

ゲート駆動回路

【課題】ゲート端子の入力容量の充放電に伴うスイッチングの遅れを防止して電力用半導体スイッチング素子を高速にスイッチングする。
【解決手段】IGBT1がオフしているときに第1の充放電コンデンサC1を充電し、IGBT1がオフからオンにスイッチングするときに、正端子Pを介した電源電圧と第1の充放電コンデンサC1の充電電圧とを直列に合成した順方向の高電圧によりIGBT1のゲート端子1gの入力容量Ciを瞬時に初期充電して迅速にオンする。また、IGBT1がオフしているときに第2の充放電コンデンサC2を充電し、IGBT1がオンからオフにスイッチングするときに、負端子Nを介した電源電圧と第2の充放電コンデンサC2の充電電圧とを直列に合成した逆方向の高電圧により入力容量Ciを瞬時に初期放電して迅速にオフする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧制御型の電力用半導体スイッチング素子のゲート電圧を制御するゲート駆動回路に関し、詳しくは、スイッチング特性の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車等のモータ駆動の主回路(給電のブリッジ回路等)や、その制御回路(PWM制御回路等)には、IGBT、FET等の電圧制御型の電力用半導体スイッチング素子が用いられる。
【0003】
この種の電力用半導体スイッチング素子は、ゲート端子(制御端子)に無視できない入力容量(ゲート容量)が存在する。この入力容量は、電力用半導体スイッチング素子のオフからオン、その逆のスイッチングにより充放電する。そして、前記入力容量の充放電により、電力損失が発生したり、スイッチングの遅れが生じたりして、電力用半導体スイッチング素子のスイッチング特性が低下する。
【0004】
そこで、この種の電力用半導体スイッチング素子の一例であるFETにおいては、FETのオフ制御に際して、ゲート端子の前記入力容量(ゲート容量)に充電された電荷の一部をコンデンサに蓄積し、前記FETのオン制御に際して、前記コンデンサに蓄積された電荷を前記入力容量の充電に利用し、前記入力容量の放電に伴う電力損失を低減することが提案されている(例えば、特許文献1(要約書、請求項1、段落[0020]−[0029]、図1−図5等)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−12972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の発明のように、オフ制御に際して、ゲート端子の入力容量に充電された電荷の一部をコンデンサに蓄積しておき、オン制御に際して、前記コンデンサに蓄積された電荷を入力容量の充電に利用したとしても、入力容量の充放電に伴うFET等のこの種の電力用半導体スイッチング素子のスイッチングの遅れを防止することはできない。
【0007】
図7はこの種の電力用半導体スイッチング素子の一例であるIGBT100を示し、IGBT100は制御端子としてのゲート端子100gと出力端子としてのコレクタ端子100c、エミッタ端子100eを有する。ゲート端子100gは、トランジスタQaのエミッタ、コレクタを介して直流のゲート電源の正端子Pに接続され、また、トランジスタQbのコレクタ、エミッタを介して前記ゲート電源の接地された負端子Nに接続されている。
【0008】
そして、トランジスタQa、Qbは、IGBT100がオン(開)する際には、トランジスタQaがオン、トランジスタQbがオフに制御され、正端子Pの例えば+5V又は+10Vの矩形波のゲート電圧Vgがゲート端子100gに印加されてIGBT100がオンする。IGBT100がオフ(開)する際には、トランジスタQaがオフ、トランジスタQbがオンに制御され、前記ゲート電圧Vgが消失してIGBT100がオフする。
【0009】
トランジスタQa、Qbの前記した相互に逆相のスイッチングにより、IGBT100は一般的に20KHz程度以下の周波数でスイッチングする。そして、図7の場合、IGBT100のスイッチングにより、例えば電気自動車のバッテリ200から駆動用のモータ300への給電が断続される。
【0010】
IGBT100のゲート端子100gには前記した入力容量(ゲート容量)Ciが寄生し、ゲート電圧Vgに基づく入力容量Ciの充放電により、IGBT100のスイッチングが遅れる。
【0011】
図8はIGBT100の入力容量Ciに基づくスイッチングの遅れを示す波形図であり、同図(a)の前記5V又は10Vの矩形波のゲート電圧Vgがゲート100gに印加されると、ゲート電圧Vgの立ち上がりでは入力容量Ciが充電されてからIGBT100がオンし、ゲート電圧Vgの立下りでは入力容量Ciが放電されてからIGBT100がオフする。そのため、ゲート端子100gの電圧(ゲート・ソース電圧)の立ち上がり、立下りが遅れてIGBT100のスイッチングがゲート電圧Vgの変化から遅れる。このとき、IGBT100のコレクタ・エミッタ間の電圧は同図(b)に示すようにローレベル(L)からハイレベル(H)、その逆に一定の時定数で変化する。IGBT100のコレクタ・エミッタ電流(出力電流)も同図(c)に示すように一定の時定数で変化する。そのため、スイッチングする際には、IGBT100に同図(d)の斜線部の大きな電力損失が生じる。
【0012】
本発明は、ゲート端子の入力容量の充放電に伴うスイッチングの遅れを防止して電力用半導体スイッチング素子を高速にスイッチングする新規なゲート駆動回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した目的を達成するために、本発明のゲート駆動回路は、電圧制御型の電力用半導体スイッチング素子のゲート電圧を制御するゲート駆動回路であって、一方の電源端子と前記電力用半導体スイッチング素子のゲート端子との間を開閉するオン制御半導体スイッチング素子と、前記オン制御半導体スイッチング素子と逆にスイッチングして前記ゲートと他方の電源端子との間を開閉するオフ制御半導体スイッチング素子と、第1、第2の充放電コンデンサと、前記電力用半導体スイッチング素子がオフしているときに、前記オフ制御半導体スイッチング素子を通流する電流により前記第1の充放電コンデンサを初期充電する第1の充電路手段と、前記電力用半導体スイッチング素子がオフからオンにスイッチングするときに、前記オン制御半導体スイッチング素子を介した前記一方の電源端子の電圧と前記第1の充放電コンデンサの充電電圧とを直列に合成した順方向の電圧を前記ゲート端子に印加して前記ゲート端子の入力容量を初期充電するゲート充電用半導体スイッチング素子と、前記電力用半導体スイッチング素子がオンしているときに、前記オン制御半導体スイッチング素子を通流する電流により前記第2の充放電コンデンサを充電する第2の充電路手段と、前記電力用半導体スイッチング素子がオンからオフにスイッチングするときに、前記オフ制御半導体スイッチング素子を介した前記他方の電源端子の電圧と前記第2の充放電コンデンサの充電電圧とを直列に合成した逆方向の電圧を前記ゲート端子に印加して前記入力容量を初期放電するゲート放電用半導体スイッチング素子とを備えたことを特徴としている(請求項1)。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る本発明のゲート駆動回路の場合、電力用半導体スイッチング素子がオフしているときに、第1の充電路手段により、オフ制御半導体スイッチング素子を通流する電流に基づき、第1の充放電コンデンサを充電する。そして、電力用半導体スイッチング素子がオフからオンにスイッチングするときには、ゲート充電用半導体スイッチング素子がオンし、一方の電源端子を介した電源電圧と第1の充放電コンデンサの充電電圧とを直列に合成した順方向の高電圧により電力用半導体スイッチング素子のゲート端子の入力容量を初期充電する。この初期充電に基づいてオン制御半導体スイッチング素子がオンすると、オン制御半導体スイッチング素子を介して電力用半導体スイッチング素子のゲート端子に印加された一方の電源端子の順方向の電圧により、前記入力容量の充電を待たずに、電力用半導体スイッチング素子がオフからオンに迅速にスイッチングしてオンする。
【0015】
さらに、電力用半導体スイッチング素子がオンすると、第2の充電路手段により、オン制御半導体スイッチング素子を通流する電流に基づいて第2の充放電コンデンサを充電する。そして、電力用半導体スイッチング素子がオンからオフにスイッチングするときには、ゲート放電用半導体スイッチング素子がオンし、他方の電源端子を介した電源電圧と第2の充放電コンデンサの充電電圧とを直列に合成した逆方向の高電圧により電力用半導体スイッチング素子のゲート端子の入力容量を瞬時に初期放電する。この初期放電に基づき、オフ制御半導体スイッチング素子がオンすると、オフ制御半導体スイッチング素子を介して電力用半導体スイッチング素子のゲート端子に印加された他方の電源端子の逆向き(又は接地レベル)の電圧により、前記入力容量の放電を待たずに、電力用半導体スイッチング素子がオンからオフに迅速にスイッチングする。
【0016】
したがって、ゲート端子の入力容量の充放電に伴うスイッチングの遅れを防止して電力用半導体スイッチング素子を高速にスイッチングすることができる、新規なゲート駆動回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態のゲート駆動回路の結線図である。
【図2】本発明の第2の実施形態のゲート駆動回路の結線図である。
【図3】本発明の第3の実施形態のゲート駆動回路の結線図である。
【図4】本発明の第4の実施形態のゲート駆動回路の結線図である。
【図5】本発明の第5の実施形態のゲート駆動回路の結線図である。
【図6】本発明の第6の実施形態のゲート駆動回路の結線図である。
【図7】IGBTの一般的なゲート駆動の説明図である。
【図8】図7のIGBTのスイッチングの遅れを説明する波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
つぎに、本発明をより詳細に説明するため、実施形態について、図1〜図6を参照して詳述する。
【0019】
(第1の実施形態)
電力用半導体スイッチング素子をIGBTとし、その入力容量を倍電圧で充放電する第1の実施形態について、図1を参照して説明する。
【0020】
(構成)
図1は本実施形態のゲート駆動回路の結線を示し、同図の1は図7のIGBT100に対応するIGBT(本発明の電圧制御型の電力用半導体スイッチング素子)であり、ゲート端子1gに入力容量(ゲート容量)Ciが寄生する。2、3は図7のモータ200、バッテリ300に対応するモータ、バッテリである。なお、1c、1eはIGBT1のコレクタ端子、エミッタ端子である。
【0021】
Q1は本発明のオン制御半導体スイッチング素子としてのPNPのトランジスタであり、正端子(本発明の一方の電源端子)PとIGBT1のゲート端子1gとの間を開閉する。Q2は本発明のオフ制御半導体スイッチング素子としてのNPNのトランジスタであり、トランジスタQ1と逆にスイッチングしてゲート1gと負端子(本発明の他方の電源端子)Nとの間を開閉する。なお、トランジスタQ1のコレクタは逆流防止用のダイオードD1のアノード、カソードを介してゲート端子1gに接続されている。トランジスタQ2のコレクタは逆流防止用のダイオードD2のカソード、アノードを介してゲート端子1gに接続されている。また、トランジスタQ1、Q2は図示省略したゲート制御部からの逆相のスイッチングチングパルスにより、相互に逆にスイッチングする。
【0022】
C1は第1の充放電コンデンサであり、一端(+側)が逆流防止用のダイオードD3のカソード、アノードを介して正端子Pに接続され、他端(−側)が逆流防止用のダイオードD4のカソード、アノードを介してトランジスタQ1のコレクタに接続されている。C2は第2の充放電コンデンサであり、一端(+側)がダイオードD4のカソードに接続されるとともに逆流防止用のダイオードD5のアノード、カソードを介してトランジスタQ2のコレクタに接続され、他端(−側)が逆流防止用のダイオードD6のアノード、カソードを介して負端子Nに接続されている。なお、充放電コンデンサC1、C2は、電力用半導体スイッチング素子(制御対象)であるIGBT1のゲート耐圧と端子P、N間のゲート電源電圧の比で最大容量が定まる。そして、ゲート耐圧とゲート電源電圧が等しい場合、充放電コンデンサC1、C2の最大容量は、IGBT1のゲート端子1gの入力容量Ciと同等以下である。また、ゲート耐圧がゲート電源電圧の1〜2倍の場合、ゲート電源電圧に対するゲート耐圧の倍率をyとして、充放電コンデンサC1、C2の最大容量は、入力容量Ci×(yの二乗)以下である。さらに、ゲート耐圧がゲート電源電圧の2倍以上の場合、充放電コンデンサC1、C2は最大容量の制限がない。
【0023】
Q3は本発明のゲート充電用半導体スイッチング素子としてのPNPのトランジスタであり、ベースが抵抗R1を介して正端子Pに接続され、エミッタが第1の充放電コンデンサC1の一端に接続され、コレクタがゲート端子1gに接続されている。そして、トランジスタQ3は、IGBT1がオフからオンにスイッチングするときに、トランジスタQ1を介した正端子Pの圧と第1の充放電コンデンサC1の充電電圧とを直列に合成した順方向の電圧をゲート端子1gに印加して入力容量Ciを初期充電する。
【0024】
Q4は本発明のゲート放電用半導体スイッチング素子としてのNPNのトランジスタであり、ベースが抵抗R2を介して負端子Nに接続され、コレクタがゲート端子1gに接続され、エミッタが第1の充放電コンデンサC1の一端に接続されている。そして、トランジスタQ4はIGBT1がオンからオフにスイッチングするときに、トランジスタQ2を介した負端子Nの電圧と第2の充放電コンデンサC2の充電電圧とを直列に合成した逆方向の電圧をゲート端子1gに印加して入力容量Ciを初期放電する。
【0025】
正端子P、ダイオードD3、第1の充放電コンデンサC1、ダイオードD5、トランジスタQ2、負端子Nの経路により、IGBT1がオフしているときに、トランジスタQ2を通流する電流により第1の充放電コンデンサC1を初期充電する第1の充電路手段が形成されている。また、正端子P、トランジスタQ1、ダイオードD4、第2の充放電コンデンサC2、ダイオードD6、負端子Nの経路により、IGBT1がオンしているときに、トランジスタQ1を通流する電流により第2の充放電コンデンサC2を充電する第2の充電路手段が形成されている。
【0026】
(動作)
(1)IGBT1がオフしているとき
トランジスタQ1はオフし、トランジスタQ2はオンしている。そして、第1の充電路手段のトランジスタQ2を通流する電流により第1の充放電コンデンサC1が図示の向きにゲート電源の電圧に初期充電される。なお、ダイオードD3がオンするのでトランジスタQ3は逆バイアスされてオフする。トランジスタQ1、Q3がオフするのでゲート端子1gの入力容量Ciは放電状態である。
【0027】
(2)IGBT1がオフからオンにスイッチングするとき
トランジスタQ1はオフからオンにスイッチングし、トランジスタQ2はオンからオフにスイッチングする。このとき、正端子Pのゲート電源の電圧がトランジスタQ1、ダイオードD4を介して第1の充放電コンデンサC1の充電電圧に順方向に直列合成され、ゲート電源の2倍の電圧(倍電圧)が形成される。そして、ダイオドーD3が逆方向にバイアスされてオフし、トランジスタQ3は倍電圧により順方向にバイアスされてオンする。さらに、前記倍電圧がトランジスタQ3を介してゲート端子1gに印加され、入力容量Ciが倍電圧で瞬時に初期充電される。なお、トランジスタQ1〜Q4は、ベースの入力容量が極めて小さい小信号用のトランジスタであり、入力容量によるスイッチングの遅れは無視することができる。
【0028】
入力容量Ciが略ゲート電源の電圧に初期充電されることにより、トランジスタQ1がオンすると、トランジスタQ1を介した正端子Pのゲート電源の電圧が、入力容量Ciを充電することなく、ほぼそのままゲート電圧としてIGBT1のゲートに印加され、IGBT1が遅れなく迅速にスイッチングしてオンする。なお、入力容量Ciが略ゲート電源の電圧に初期充電されると、第1の充放電コンデンサC1に蓄えられていた電荷が消費され、トランジスタQ3を順方向にバイアスできなくなり、トランジスタQ3はオフした状態となる。なお、これ以降はIGBT1のゲート端子1gの充電に必要な電荷はダイオードD1を介して給電される。
【0029】
(3)IGBT1がオンしているとき
トランジスタQ1はオンし、トランジスタQ2はオフしている。そして、第2の充電路手段のトランジスタQ1を通流する電流により第2の充放電コンデンサC2が図示の向きにゲート電源電圧に初期充電される。なお、トランジスタQ1がオンしているのでゲート端子1gの入力容量Ciは充電状態に維持される。また、ダイオードD6がオンするのでトランジスタQ4は逆バイアスされてオフする。
【0030】
(4)IGBT1がオンからオフにスイッチングするとき
トランジスタQ1はオンからオフにスイッチングし、トランジスタQ2はオフからオンにスイッチングする。このとき、充電された第2の充放電コンデンサC2がダイオードD5およびトランジスタQ2を介して負端子Nに順方向に接続され、ゲート電源の電圧と充放電コンデンサC2の充電電圧とを直列に合成した逆方向の倍電圧が形成される。そして、ダイオードD6が逆方向にバイアスされてオフし、トランジスタQ4は、逆方向の倍電圧により順方向にバイアスされてオンする。この逆方向の倍電圧がトランジスタQ4を介してゲート端子1gに印加され、入力容量Ciが瞬時に初期放電される。
【0031】
入力容量Ciが初期放電されることにより、入力容量Ciの放電を待つことなく、ゲート端子1gが直ちにダイオードD2、トランジスタQ2を介した負端子Nの接地電圧になり、トランジスタQ2がオンすると、IGBT1が遅れなく迅速にスイッチングしてオフする。
【0032】
そして、上記した(1)〜(4)の動作がくり返されることにより、ゲート端子1gの入力容量Ciの充放電に伴うスイッチングの遅れを防止してIGBT1を高速にスイッチングすることができ、IGBT1のスイッチングの遅れに伴う電力損失を低減することができる。また、IGBT1のオンオフの切り替わり時間が短くなるので、サージ吸収回路を削減することができ、動作周波数範囲が拡大する。さらに、電力損失が低減されるので、IGBT1及びその放熱器の小型化を図ることができる。なお、ゲート端子1gには入力容量Ciのエネルギが放電される瞬時に倍電圧が印加されるが、第1の充放電コンデンサC1および第2の充放電コンデンサC2は入力容量Ciに相当するエネルギーしか蓄えられておらず、各部品配線の抵抗分により相殺されるため、倍電圧の印加によってゲート端子1gの絶縁が破壊されることはない。また、第1、第2の充放電コンデンサC1、C2の容量によりゲート端子1gに倍電圧が印加される時間は変化する。そして、第1、第2の充放電コンデンサC1、C2の容量が小さくなる程、ゲート端子1gに倍電圧が印加される時間が短くなって入力容量Ciの充電の効果が少なく(弱く)なる。そのため、第1、第2の充放電コンデンサC1、C2の容量は、入力容量Ciの充電の効果が高くなって入力容量Ciの充放電に伴うIGBT1のスイッチングの遅れが極力防止されるように設定することが望ましい。
【0033】
(第2の実施形態)
電力用半導体スイッチング素子をFETとし、その入力容量を倍電圧で充放電する第2の実施形態について、図2を参照して説明する。
【0034】
図2は本実施形態のゲート駆動回路の結線を示し、図1と同一の符号は同一又は相当するものを示す。
【0035】
図2の構成が図1と異なる点は、第1には、図1のIGBT1をエンハンスメントタイプのnチャンネルのMOSFET(本発明の電圧制御型の電力用半導体スイッチング素子であり、以下、制御対象FETという)10に置き換えた点である。第2には、図1のトランジスタQ1をエンハンスメントタイプのpチャンネルのMOSFET(本発明のオン制御半導体スイッチング素子であり、以下、オン制御FETという)11に置き換え、図1のトランジスタQ2をエンハンスメントタイプのnチャンネルのMOSFET(本発明のオフ制御半導体スイッチング素子であり、以下、オフ制御FETという)12に置き換えた点である。
【0036】
なお、図2の10d、10s、10gは制御対象FET10のドレイン端子、ソース端子、ゲート端子である。そして、ドレイン端子10dに接続される図1のモータ2、バッテリ3の構成は図示を省略している。また、オン制御FET11はソース端子が正端子Pに接続され、オフ制御FET12はソース端子が負端子Nに接続されている。なお、オン制御FET11、オフ制御FET12も、ゲートの入力容量が極めて小さい小信号用のFETであり、入力容量によるスイッチングの遅れは無視することができる。
【0037】
そして、オン制御FET11、オフ制御FET12のスイッチングによって第1、第2の充放電コンデンサC1、C2が充放電することにより、本実施形態の場合も第1の実施形態の場合と同様に動作する。
【0038】
(1)制御対象FET10がオフしているとき
オン制御FET11はオフし、オフ制御FET12はオンしている。そして、第1の充電路手段のオフ制御FET12を通流する電流により第1の充放電コンデンサC1が図示の向きにゲート電源の電圧に初期充電される。
【0039】
(2)制御対象FET10がオフからオンにスイッチングするとき
オン制御FET11はオフからオンにスイッチングし、オフ制御FET12はオンからオフにスイッチングする。このとき、正端子Pのゲート電源の電圧がオン制御FET11、ダイオードD4を介して第1の充放電コンデンサC1の充電電圧に順方向に直列合成され、ゲート電源の2倍の電圧(倍電圧)が形成さる。この倍電圧(高電圧)がトランジスタQ3を介してゲート端子1gに印加されて入力容量Ciが倍電圧で瞬時に初期充電されるので、オン制御FET11がオンすると、制御対象FET10が遅れなく迅速にスイッチングしてオンする。
【0040】
(3)制御対象FET10がオンしているとき
オン制御FET11はオンし、オフ制御FET12はオフしている。そして、第2の充電路手段のオン制御FET11を通流する電流により第2の充放電コンデンサC2が図示の向きにゲート電源の電圧に初期充電される。
【0041】
(4)制御対象FET10がオンからオフにスイッチングするとき
オン制御FET11はオンからオフにスイッチングし、オフ制御FET12はオフからオンにスイッチングする。このとき、充電された第2の充放電コンデンサC2がオフ制御FET12を介して負端子Nに順方向に接続され、ゲート電源の電圧と充放電コンデンサC2の充電電圧とを直列に合成した逆方向の倍電圧がゲート端子1bに印加され、入力容量Ciが瞬時に初期放電されるので、オフ制御FET12がオンすると、制御対象FET10が遅れなく迅速にスイッチングしてオフする。
【0042】
そして、上記した(1)〜(4)の動作がくり返されることにより、ゲート端子1gの入力容量Ciの充放電に伴うスイッチングの遅れを防止して制御対象FET10を高速にスイッチングすることができ、第1の実施形態の場合と同様の効果が得られる。
【0043】
(第3の実施形態)
制御対象FET10の入力容量Ciを3倍電圧で充放電するようにした第2の実施形態の応用例としての第3の実施形態について、図3を参照して説明する。
【0044】
図3は本実施形態のゲート駆動回路の結線を示し、図2と同一の符号は同一又は相当するものを示す。
【0045】
図3の構成が図2と異なる点は、第1には、図3の破線α1、β1で囲んだ部分に示すように、図2の第1の充放電コンデンサC1、トランジスタQ3、逆流防止用のダイオードD3、抵抗R1のオン側の構成及び、図2の第2の充放電コンデンサC2、トランジスタQ4、逆流防止用のダイオードD6、抵抗R2のオフ側の構成を、それぞれ縦列の2組としている点である。第2には、2個の第1の充放電コンデンサC1を同時に充電するため、第1の充電路手段に逆流防止用のダイオードDαを付加し、2個の第2の充放電コンデンサC2を同時に充電するため、第2の充電路手段に逆流防止用のダイオードDβを付加した点である。
【0046】
本実施形態の場合、制御対象FET10がオフしているときに、第1の充電路手段のオフ制御FET12を通流する電流により、2個の第1の充放電コンデンサC1が図示の向きにゲート電源の電圧に初期充電される。そして、制御対象FET10がオフからオンにスイッチングするときには、正端子Pのゲート電源の電圧がオン制御FET11、ダイオードD4を介して一方の第1の充放電コンデンサC1の充電電圧に順方向に直列合成され、さらに、直列合成された電圧がトランジスタQ3を介して他方の第1の充放電コンデンサC1の充電電圧に順方向に直列合成され、ゲート電源の3倍の電圧(3倍電圧)が形成される。この3倍電圧(高電圧)がトランジスタQ3を介してゲート端子1gに印加されて入力容量Ciが一層迅速に初期充電される。そのため、オン制御FET11がオンすると、制御対象FET10が一層迅速にスイッチングしてオンする。
【0047】
また、制御対象FET10がオンしているときに、第2の充電路手段のオン制御FET11を通流する電流により、2個の第2の充放電コンデンサC2が図示の向きにゲート電源の電圧に初期充電される。そして、制御対象FET10がオンからオフにスイッチングするときには、ゲート電源の電圧と2個の第2の充放電コンデンサC2の充電電圧とを直列に合成した逆方向の3倍電圧が入力容量Ciを介してゲート端子1bに印加され、入力容量Ciが一層迅速に初期放電される。そのため、オフ制御FET12がオンすると、制御対象FET10が一層迅速にスイッチングしてオフする。
【0048】
(第4の実施形態)
制御対象FET10の入力容量Ciを4倍電圧で充放電するようにした第4の実施形態について、図4を参照して説明する。
【0049】
図4は本実施形態のゲート駆動回路の結線を示し、図3と同一の符号は同一又は相当するものを示す。
【0050】
図4の構成が図3と異なる点は、第1には、図4の破線α2、β2で囲んだ部分に示すように、図2の第1の充放電コンデンサC1、トランジスタQ3、逆流防止用のダイオードD3、抵抗R1のオン側の構成及び、図2の第2の充放電コンデンサC2、トランジスタQ4、逆流防止用のダイオードD6、抵抗R2のオフ側の構成を、それぞれ縦列の3組としている点である。第2には、3個の第1の充放電コンデンサC1を同時に充電するため、第1の充電路手段に図3のダイオードDαに相当する逆流防止用のダイオードDα1、Dα2を付加し、3個の第2の充放電コンデンサC2を同時に充電するため、第2の充電路手段に図3のダイオードDβに相当する逆流防止用のダイオードDβ1、β2を付加した点である。
【0051】
本実施形態の場合、制御対象FET10がオフしているときに、第1の充電路手段のオフ制御FET12を通流する電流により、3個の第1の充放電コンデンサC1が図示の向きにゲート電源の電圧に初期充電される。そして、制御対象FET10がオフからオンにスイッチングするときには、正端子Pのゲート電源の電圧がオン制御FET11、ダイオードD4を介して一番目の第1の充放電コンデンサC1の充電電圧に順方向に直列合成され、さらに、直列合成された電圧が、一番目、二番目のトランジスタQ3を介して二番目、三番目の第1の充放電コンデンサC1の充電電圧に順方向に直列合成され、ゲート電源の4倍の電圧(4倍電圧)が形成される。この4倍電圧(高電圧)が三番目のトランジスタQ3を介してゲート端子1gに印加されて入力容量Ciが一層迅速に初期充電される。そのため、オン制御FET11がオンすると、制御対象FET10が一層迅速にスイッチングしてオンする。
【0052】
また、制御対象FET10がオンしているときに、第2の充電路手段のオン制御FET11を通流する電流により、3個の第2の充放電コンデンサC2が図示の向きにゲート電源の電圧に初期充電される。そして、制御対象FET10がオンからオフにスイッチングするときには、ゲート電源の電圧と3個の第2の充放電コンデンサC2の充電電圧とを直列に合成した逆方向の4倍電圧が入力容量Ciを介してゲート端子1bに印加され、入力容量Ciが一層迅速に初期放電される。そのため、オフ制御FET12がオンすると、制御対象FET10が一層迅速にスイッチングしてオフする。
【0053】
(第5の実施形態)
制御対象FET10の入力容量Ciを5倍電圧で充放電するようにした第5の実施形態について、図5を参照して説明する。
【0054】
図5は本実施形態のゲート駆動回路の結線を示し、図4と同一の符号は同一又は相当するものを示す。
【0055】
図5の構成が図4と異なる点は、第1には、図5の破線α3、β3で囲んだ部分に示すように、図2の第1の充放電コンデンサC1、トランジスタQ3、逆流防止用のダイオードD3、抵抗R1のオン側の構成及び、図2の第2の充放電コンデンサC2、トランジスタQ4、逆流防止用のダイオードD6、抵抗R2のオフ側の構成を、それぞれ縦列の4組としている点である。第2には、4個の第1の充放電コンデンサC1を同時に充電するため、第1の充電路手段にさらに逆流防止用のダイオードDα3を付加し、4個の第2の充放電コンデンサC2を同時に充電するため、第2の充電路手段にさらに逆流防止用のダイオードDβ3を付加した点である。
【0056】
本実施形態の場合、制御対象FET10がオフしているときに、第1の充電路手段のオフ制御FET12を通流する電流により、4個の第1の充放電コンデンサC1が図示の向きにゲート電源の電圧に初期充電される。そして、制御対象FET10がオフからオンにスイッチングするときには、正端子Pのゲート電源の電圧が4個の充放電コンデンサC1の充電電圧に順方向に直列合成されてゲート電源の5倍の電圧(5倍電圧)が形成される。この4倍電圧(高電圧)が四番目のトランジスタQ3を介してゲート端子1gに印加されることにより入力容量Ciが一層迅速に初期充電される。そのため、オン制御FET11がオンすると、制御対象FET10が一層迅速にスイッチングしてオンする。
【0057】
また、制御対象FET10がオンしているときに、第2の充電路手段のオン制御FET11を通流する電流により、4個の第2の充放電コンデンサC2が図示の向きにゲート電源の電圧に初期充電される。そして、制御対象FET10がオンからオフにスイッチングするときには、ゲート電源の電圧と4個の第2の充放電コンデンサC2の充電電圧とを直列に合成した逆方向の5倍電圧が入力容量Ciを介してゲート端子1bに印加され、入力容量Ciが一層迅速に初期放電される。そのため、オフ制御FET12がオンすると、制御対象FET10が一層迅速にスイッチングしてオフする。
【0058】
(第6の実施形態)
制御対象FET10の入力容量Ciを6倍電圧で充放電するようにした第6の実施形態について、図6を参照して説明する。
【0059】
図6は本実施形態のゲート駆動回路の結線を示し、図5と同一の符号は同一又は相当するものを示す。
【0060】
図6の構成が図5と異なる点は、第1には、図6の破線α4、β4で囲んだ部分に示すように、図2の第1の充放電コンデンサC1、トランジスタQ3、逆流防止用のダイオードD3、抵抗R1のオン側の構成及び、図2の第2の充放電コンデンサC2、トランジスタQ4、逆流防止用のダイオードD6、抵抗R2のオフ側の構成を、それぞれ縦列の5組としている点である。第2には、5個の第1の充放電コンデンサC1を同時に充電するため、第1の充電路手段にさらに逆流防止用のダイオードDα4を付加し、5個の第2の充放電コンデンサC2を同時に充電するため、第2の充電路手段にさらに逆流防止用のダイオードDβ4を付加した点である。
【0061】
本実施形態の場合、制御対象FET10がオフしているときに、第1の充電路手段のオフ制御FET12を通流する電流により、5個の第1の充放電コンデンサC1が図示の向きにゲート電源の電圧に初期充電される。そして、制御対象FET10がオフからオンにスイッチングするときには、正端子Pのゲート電源の電圧が5個の充放電コンデンサC1の充電電圧に順方向に直列合成されてゲート電源の6倍の電圧(6倍電圧)が形成される。この6倍電圧(高電圧)が五番目のトランジスタQ3を介してゲート端子1gに印加されることにより入力容量Ciが一層迅速に初期充電される。そのため、オン制御FET11がオンすると、制御対象FET10が一層迅速にスイッチングしてオンする。
【0062】
また、制御対象FET10がオンしているときに、第2の充電路手段のオン制御FET11を通流する電流により、5個の第2の充放電コンデンサC2が図示の向きにゲート電源の電圧に初期充電される。そして、制御対象FET10がオンからオフにスイッチングするときには、ゲート電源の電圧と5個の第2の充放電コンデンサC2の充電電圧とを直列に合成した逆方向の6倍電圧が入力容量Ciを介してゲート端子1bに印加され、入力容量Ciが一層迅速に初期放電される。そのため、オフ制御FET12がオンすると、制御対象FET10が一層迅速にスイッチングしてオフする。
【0063】
そして、本発明は上記した各実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能であり、例えば、電力用半導体スイッチング素子は、どのような特性の半導体スイッチング素子であってもよい。また、一方、他方の電源端子の極性は各実施形態と逆であってもよく、この場合、両電源端子の極性に応じて、オン制御半導体スイッチング素子、オフ制御半導体スイッチング素子等をnpn、pnp(又はnチャンネル、pチャンネル)に選定し、ダイオードD1〜D6、Dα1〜Dβの向き等を決定すればよい。さらに、各実施形態のトランジスタQ3、Q4についてもFETで形成してもよいのは勿論である。
【0064】
つぎに、本発明のゲート駆動回路は、第3〜第6の実施形態の構成から明らかなように、例えば制御対象FET10の入力容量Ciを7倍電圧以上の高電圧で充放電するように構成できるのは勿論であるが、倍電圧の段数を増やすほど部品数が多くなって大型化し、高価になるので、実用上は6倍電圧(5段)以下に構成するのが好ましい。
【0065】
そして、本発明は、種々の用途の電圧制御型の電力用半導体スイッチング素子のゲート駆動回路に適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 IGBT
1g ゲート端子
10 制御対象FET
11 オン制御FET
12 オフ制御FET
C1 第1の充放電コンデンサ
C2 第2の充放電コンデンサ
Ci 入力容量
D1〜D6、Dα1〜Dβ ダイオード
Q1〜Q4 トランジスタ
P 正端子
N 負端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧制御型の電力用半導体スイッチング素子のゲート電圧を制御するゲート駆動回路であって、
一方の電源端子と前記電力用半導体スイッチング素子のゲート端子との間を開閉するオン制御半導体スイッチング素子と、
前記オン制御半導体スイッチング素子と逆にスイッチングして前記ゲートと他方の電源端子との間を開閉するオフ制御半導体スイッチング素子と、
第1、第2の充放電コンデンサと、
前記電力用半導体スイッチング素子がオフしているときに、前記オフ制御半導体スイッチング素子を通流する電流により前記第1の充放電コンデンサを初期充電する第1の充電路手段と、
前記電力用半導体スイッチング素子がオフからオンにスイッチングするときに、前記オン制御半導体スイッチング素子を介した前記一方の電源端子の電圧と前記第1の充放電コンデンサの充電電圧とを直列に合成した順方向の電圧を前記ゲート端子に印加して前記ゲート端子の入力容量を初期充電するゲート充電用半導体スイッチング素子と、
前記電力用半導体スイッチング素子がオンしているときに、前記オン制御半導体スイッチング素子を通流する電流により前記第2の充放電コンデンサを充電する第2の充電路手段と、
前記電力用半導体スイッチング素子がオンからオフにスイッチングするときに、前記オフ制御半導体スイッチング素子を介した前記他方の電源端子の電圧と前記第2の充放電コンデンサの充電電圧とを直列に合成した逆方向の電圧を前記ゲート端子に印加して前記入力容量を初期放電するゲート放電用半導体スイッチング素子とを備えたことを特徴とするゲート駆動回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−200560(P2010−200560A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45012(P2009−45012)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】