説明

シャワープレート及び気相成長装置

【課題】 シャワープレートの熱膨張による反りと温度上昇を防止し、シャワープレート上での生成物の成長を抑制して、被処理基板上に品質の安定した化合物半導体結晶を成膜できる気相成長装置を提供する。
【解決手段】 シャワーヘッドを保護するためのシャワープレートであって、シャワープレートは、複数のプレート孔を有する複数の短冊形プレートからなり、短冊形プレートが、シャワーヘッドに対してスライド可能に保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、縦型シャワーヘッド型MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)等のシャワープレート及び気相成長装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、化合物半導体材料を用いる発光ダイオード、半導体レーザ、宇宙用ソーラーパワーデバイス、及び高速デバイスの製造においては、トリメチルガリウム(TMG)又はトリメチルアルミニウム(TMA)等の有機金属ガスと、アンモニア(NH3)、ホスフィン(PH3)又はアルシン(AsH3)等の水素化合物ガスとを成膜に寄与する反応ガスとして成長室に導入して化合物半導体結晶を成長させるMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法が用いられている。
【0003】
MOCVD法は、上記の反応ガスをキャリアガスと共に成長室内に導入して加熱し、所定の基板上で気相反応させることにより、その基板上に化合物半導体結晶を成長させる方法である。MOCVD法を用いた化合物半導体結晶の製造においては、成長する化合物半導体結晶の品質を向上させながら、コストを抑えて、歩留まりと生産能力とをどのように最大限確保するかということが常に高く要求されている。
【0004】
図8に、MOCVD法に用いられる従来の縦型シャワーヘッド型MOCVD装置の一例の模式的な構成を示す。このMOCVD装置においては、ガス供給源101から反応炉102の内部の成長室103に反応ガス及びキャリアガスを導入するためのガス配管104が接続されており、反応炉102における内部の成長室103の上部には該成長室103に反応ガス及びキャリアガスを導入するための複数のガス吐出孔を配設したシャワーヘッド105がガス導入部として設置されている。
【0005】
また、成長室103の下部には、基板106を載置するためのサセプタ107が、シャワーヘッド105と対向するように設置されている。サセプタ107は、基板106を加熱するためのヒータ108を備え、図示しないアクチュエータによって回転軸109を中心に回転自在となっている。
【0006】
さらに、反応炉102の下部には、成長室103内のガスを外部に排気するためのガス排気部110が設置されている。このガス排気部110は、パージライン111を介して、排気されたガスを無害化するための排ガス処理装置112に接続されている。
【0007】
上記構成の縦型シャワーヘッド型MOCVD装置において、化合物半導体結晶を成長させる場合には、まず、サセプタ107に基板106を設置し、サセプタ107を回転させ、ヒータ108により基板106を所定の温度に加熱する。その後、シャワーヘッド105に配設されている複数のガス吐出孔から成長室103に反応ガス及びキャリアガス(不活性ガス)を導入する。
【0008】
シャワーヘッドの具体例について、特許文献1を例示して説明する。特許文献1に開示されているシャワーヘッド200は、図9に示すように、成長室201に複数の反応ガスを別々に導入する第1導管202及び第2導管203と、第1導管202及び第2導管203を冷却する冷却チャンバー204を備えている。特許文献1のシャワーヘッド200によれば、反応ガスを成長室201に別々に導入し、次いで、それらを混合し、加熱した基板205に近接した位置で均質な混合物を形成することができる、と記載されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1のシャワーヘッド200は、基板205と対向する面(以下、シャワー表面と記す)に、成長室201で反応したガスによる生成物が付着し、その生成物が堆積してガス吐出孔を覆い目詰まりが生じるという問題が発生する。また、シャワー表面に堆積した生成物が基板205上に落下し、不良が発生するという問題が生じる。
【0010】
このような問題を解決する手段として、例えば、特許文献2に開示の技術が挙げられる。特許文献2には、図10に示すように、上部電極の底面を電極カバー301で覆ったシャワーヘッドが開示されている。電極カバー301は、上部電極のガス噴出細孔302と重なるように同径の細孔303が設けられており、上部電極にネジ304で固定されている。特許文献2のシャワーヘッドでは、この電極カバー301に付着した生成物が堆積する前に、電極カバー301を交換することにより、生成物が落下し基板上の薄膜に取り込まれるのを防ぐことができる。
【0011】
また、同様の構成として、特許文献3には、図11に示すように、プロセス室を上流部分と下流部分とに分離するシャワーヘッド72が開示されている。シャワーヘッド72は、ウエハーの直径に近似した直径を有するアルミニウムの小さな板材であり、大きなリング73に交換可能に取り付けられ、限定されプロセス空間より大きくない構成となっている。このため、異なった寸法のウエハー及び異なった処理条件で使用するために種々のシャワーヘッドを交換することができ、また、小さいシャワーヘッドの使用は費用を減らしプロセスの大きな融通性を提供し、プロセスガスの流れを基板の直上の空間内に集中させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8−91989号公報
【特許文献2】特開平11−131239号公報
【特許文献3】特表2002−511529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
シャワーヘッドは、例えば、特許文献1の冷却チャンバー204のように、ガス吐き出し部の周辺を冷却することにより、反応生成物の成長を抑制しているが、特許文献2のシャワーヘッドでは、被処理基板に対向して配置される電極カバー301が温度上昇しやすく、特に中央部や表面部は高温となり局所的な熱膨張が発生する。そして、電極カバー301の周囲は上部電極にネジ304で固定されているので、図12に示すように、電極カバー301の中央部が下部電極側に反り、上部電極との接触が不十分な状態となる。このため、上部電極から電極カバー301への冷却が妨げられ、電極カバー301の温度は益々上昇することになる。
【0014】
電極カバー301は高温になると、反応ガスの望まない気相反応が促進されて反応生成物が堆積しやすくなるため、電極カバー301を頻繁に交換しなければならず生産能力が低下する問題があった。また、電極カバー301上での望ましくない気相反応は、被処理基板上での気相反応を妨げ、化合物半導体結晶の品質、成膜速度、歩留まりを低下させる問題があった。さらに、電極カバー301が反ると上部電極との間に隙間が生じ、上部電極の表面に反応生成物が堆積される問題もあった。
【0015】
特許文献3に開示されているシャワーヘッド72も、アルミニウムからなる平らな円板形で構成されており、シャワーヘッド72の温度上昇により反りが生じる。
【0016】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、シャワープレートの熱膨張による反りと温度上昇を防止し、シャワープレート上での生成物の成長を抑制して、被処理基板上に品質の安定した化合物半導体結晶を成膜できる気相成長装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
シャワーヘッドを保護するためのシャワープレートであって、シャワープレートは、複数のプレート孔を有する複数の短冊形プレートからなり、短冊形プレートが、シャワーヘッドに対してスライド可能に保持される。
【発明の効果】
【0018】
シャワープレートの熱膨張による反りと温度上昇を防止し、シャワープレート上での生成物の成長を抑制して、被処理基板上に品質の安定した化合物半導体結晶を成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明における気相成長装置の実施の一形態を示すものであって、気相成長装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】実施例1のシャワープレートの平面図及び断面図である。
【図3】実施例1のシャワープレート端部を示す断面図である。
【図4】実施例2の気相成長装置の全体構成を示す概略図である。
【図5】実施例2のシャワープレートの平面図及び断面図である。
【図6】実施例2のシャワープレート端部を示す断面図である。
【図7】実施例3のシャワープレート端部を示す断面図である。
【図8】従来技術である気相成長装置の概略構成を示す断面図である。
【図9】従来技術の気相成長装置のシャワーヘッドの一例を示す断面図である。
【図10】従来技術のシャワープレートの一例を示す断面図である。
【図11】従来技術のシャワーヘッドの他の一例を示す断面図である。
【図12】従来技術のシャワープレートの反りを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の一実施形態について、図1〜7に基づいて詳細に説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分又は相当部分を表わすものとする。
【実施例1】
【0021】
図1に、本発明の気相成長装置として、MOCVD装置50の模式的な構成の一例を示す。図1に示すように、本実施の形態のMOCVD装置50は、内部を大気側と隔離する反応炉1を備えており、反応炉1内部には、反応室隔壁2によって分離された反応外部空間3と反応室4が設けられている。反応外部空間3には、パージガス供給管5が接続されており、パージガス(N2ガス、H2ガス)が導入されている。反応室4には、被処理基板6を載置する基板保持部7が備えられている。
【0022】
基板保持部7は、回転伝達部8の一端に備え付けられており、図示しない回転機構により回転可能となっている。また、基板保持部7の下側には、被処理基板6を加熱するための基板加熱ヒータ9が設けられている。
【0023】
反応炉1の上部には、シャワーヘッド10が取外し可能に配設されている。反応炉1とシャワーヘッド10は、Oリング11aでシールされており、反応炉1に設けられたガス排出口12から排気して内部を気密状態にできる。
【0024】
シャワーヘッド10は、第1ガスを充満させる第1ガス分配空間13と、第1ガスとは異なる第2ガスを充満させる第2ガス分配空間14を備え、第1ガス分配空間13と第2ガス分配空間14との間には、Oリング11bが設けられ、第2ガス分配空間14とその天板14cとの間にもOリング11cが設けられて、各空間が分離可能になっていると共に、各空間の気密状態が保持されている。また、シャワーヘッド10の下部には、冷媒が充満される冷媒空間15を備えており、下部壁面10aは全面が冷媒空間15で冷却されているため、温度が均一となるようにコントロールされている。
【0025】
シャワーヘッド10の下部壁面10aには、成膜時に生成物が直接付着することを防止するため、複数のプレート孔21aが設けられたシャワープレート20が配置されている。シャワープレート20の詳細については後述する。
【0026】
被処理基板6に化合物半導体結晶を成膜するときは、第1ガス分配空間13に、例えば、III族の元素を含む第1ガスが、第1ガス導入口13aから導入され、冷媒空間15を貫通する複数の第1ガス供給管13bを通って冷却された後、第1ガス供給管13bのガス吐出孔H1に連通するシャワープレート20のプレート孔21aから反応室4に導入される。
【0027】
また、第2ガス分配空間14には、例えば、V族の元素を含む第2ガスが、第2ガス導入口14aから導入され、冷媒空間15を貫通する複数の第2ガス供給管14bを通って冷却された後、第2ガス供給管14bのガス吐出孔H2に連通するシャワープレート20のプレート孔21aから反応室4に導入される。
【0028】
このように、第1ガスと第2ガスは、シャワーヘッド10の内部で混合されることなく、別々に反応室4に導入されるようになっているため、シャワーヘッド10の内部で気相反応が生じることが防止されている。
【0029】
基板保持部7に保持された被処理基板6は、基板加熱ヒータ9で高温に加熱されており、反応室4に導入された第1ガスと第2ガスは、高温の被処理基板6上に到達すると気相反応が促進され、被処理基板6上に化合物半導体薄膜が成膜される。なお、被処理基板6上を通過した反応ガスはガス排出口12から排出され、図示しない排ガス処理装置にて無害化される。
【0030】
次に、図2及び図3を用いて、本発明の特徴的な構造である実施例1のシャワープレート20について詳細に説明する。図2(a)はシャワープレート20を被処理基板6側から見た平面図であり、図2(b)はA−A部における断面図であり、図2(c)はB−B部における断面図である。
【0031】
図2(a)に示すように、本発明のシャワープレート20は、複数のプレート孔21aを有する長方形状の短冊形プレート21が、短冊形プレート21の短辺方向に複数並列されて一体となっている。
【0032】
各短冊形プレート21のプレート孔21aは、図1に示すように、シャワーヘッド10のガス吐出孔H1、H2に対応している。複数のプレート孔21aがガス吐出孔H1、H2と重なるように各短冊形プレート21が並列配置され、連通したガス吐出孔H1、H2とプレート孔21aを通じて、反応ガスを反応室4へ導入できるようになっている。
【0033】
そして、本発明のシャワープレート20は、シャワーヘッドに対して短冊形プレート21が長辺方向へスライド可能に保持されることを特徴としている。短冊形プレート21をスライド可能とするため、短冊形プレート21の端部には長辺方向に沿って短冊形プレート21が熱膨張したときの伸長分以上の長さで長穴21bが形成されており、この長穴21b部分をシャワーヘッド10の下部壁面10aにネジ止めすることでスライド可能にしている。
【0034】
図3は短冊形プレート21の長穴21bがねじ止めされた状態を示し、図1のMOCVD装置50のA部を拡大した断面図である。図3に示すように、短冊形プレート21の長穴21bは、高温に加熱される基板保持部7(以下、加熱領域と記す)の外側(以下、非加熱領域と記す)に配置されており、シャワーヘッド10の下部壁面10aにネジ16でねじ止めされ、短冊形プレート21の長穴21bとネジ16の頭部の接触面の摩擦力により、短冊形プレート21を下部壁面10aに保持した状態となっている。
【0035】
シャワープレート20は、成膜中に、加熱領域に配置されたプレート孔21aの設けられた領域と、非加熱領域に配置された長穴21bの設けられた領域とで温度勾配が生じる。
【0036】
シャワープレート20の複数のプレート孔21aの設けられた領域は加熱領域に配置されるため、成膜中に温度が上昇して熱膨張が生じる。ここで、シャワープレート20は、複数の短冊形プレート21から構成されており、短冊形プレート21は長方形状となっているので、熱膨張に対して長辺方向の伸長が短辺方向の伸長に勝るため、各短冊形プレート21が長辺方向に伸長することによって、シャワープレート20における短冊形プレート21の並列方向の反りを防止することができる。
【0037】
また、短冊形プレート21が長辺方向に伸長すると、長穴21bとネジ16の頭部の接触面の摩擦力に勝って、短冊形プレート21がシャワーヘッド10の下部壁面10aに沿ってスライドすることで、伸長分による応力が吸収され、シャワープレート20に反りが生じるのを防止することができる。
【0038】
このように、シャワープレート20は、成膜中も熱膨張による反りが防止され、シャワーヘッド10の下部壁面10aと接触した状態で保持されるため、温度を低温にコントロールすることができる。したがって、短冊形プレート21表面での生成物の成長が抑制されるとともに、被処理基板6上の成膜速度の低下も防止される。また、プレート孔21aに生成物の目詰まりや、被処理基板6上に生成物の落下が生じ難くなり、短冊形プレート21を頻繁に交換する必要がなくなり、気相成長装置の生産能力を向上させることができる。
【0039】
なお、短冊形プレート21は、図2(c)に示すように、例えば、短辺方向の端面を傾斜させ、短辺方向の隣り合う端面が重なり合うように並列することにより、短冊形プレート21間に隙間が生じないように一体化してもよい。これにより、短冊形プレート21間の隙間からシャワーヘッド10に反応ガスが進入し、生成物が付着することを防止できる。
【実施例2】
【0040】
実施例2の気相成長装置は、実施例1で示した短冊形プレート21の長穴21bの代わりに切り欠き部を設けてスライド可能にしたものである。他の構成については実施例1と同じであるため詳細な説明は省略する。
【0041】
図4は、実施例2の気相成長装置であるMOCVD装置60の模式的な構成を示すものである。図4に示すように、MOCVD装置60のシャワープレート22は、短冊形プレート23とプレート保持部24とからなり、短冊形プレート23を係合支持するプレート保持部24がシャワーヘッド10にねじ止めされることにより、シャワープレート22が下部壁面10aに当接する構造となっている。
【0042】
図5(a)はシャワープレート22を被処理基板6側から見た平面図であり、図5(b)はA−A部における断面図であり、図5(c)はB−B部における断面図である。図5に示すように、シャワープレート22は複数の長方形状の短冊形プレート23と、複数の短冊形プレート23を係合支持するプレート保持部24とからなる。各短冊形プレート23の端部下面(被処理基板6側)とプレート保持部24の端部上面(シャワーヘッド10側)には、互いの端部を係合させる切り欠き部23bと切り欠き部24bがそれぞれ形成されている。
【0043】
また、図5(a)に示すように、プレート保持部24の切り欠き部24bには、短冊形プレート23の切り欠き部部23bを係止する係止端部24dが形成されている。各短冊形プレート23は、切り欠き部23bを切り欠き部24bに沿って係止端部24dまで順次滑らせて配置していくことにより、複数の短冊形プレート23をプレート保持部24に並列させて配置することができ、シャワープレート22の取り付けをスムーズに行うことができる。
【0044】
また、このようにして複数の短冊形プレート23を配置することにより、各短冊形プレート23のプレート孔23aがシャワーヘッド10のガス吐出孔H1、H2に位置決めされるともに、各短冊形プレート23がプレート保持部24からすり抜けない構造になっている。
【0045】
図6は短冊形プレート23とプレート保持部24の係合支持部を示し、図4のMOCVD装置60のA部を拡大した断面図である。図6に示すように、短冊形プレート23の切り欠き部23bとプレート保持部24の切り欠き部24bが係合した状態で、短冊形プレート23の端面23cとプレート保持部24の端面24cとの間に、短冊形プレート23の熱膨張による伸長分を吸収する空間部25が設けられている。
【0046】
図6に示すように、短冊形プレート23は、シャワーヘッド10の下部壁面10aに直接固定されず、プレート保持部24の切り欠き部24bの接触面の摩擦力によって保持された状態となっている。このため、短冊形プレート23が温度上昇して熱膨張すると、伸長分は摩擦力に勝って空間部25にスライドするため、短冊形プレート23の長辺方向に反りが生じるのを防止することができる。
【0047】
また、短冊形プレート23とプレート保持部24は、切り欠き部23bと切り欠き部24bが重なり合って、被処理基板6側からシャワーヘッド下部壁面10aが覗かないように遮蔽されているので、反応室4からシャワーヘッド10側への反応ガスの逆流が阻止され、シャワーヘッド10の下部壁面10aに生成物が付着されることがない。このため、シャワーヘッド10に対する清掃等のメンテナンスを減らすことができる。
【実施例3】
【0048】
図7は、実施例3の気相成長装置であり、実施例2で示したシャワープレート22の切り欠き部23bとプレート保持部24の切り欠き部24bの間に潤滑性部材26を設けた構成となっている。潤滑性部材26以外の構成については実施例2と同じであるため詳細な説明は省略する。
【0049】
実施例3の気相成長装置は、図7に示すように、短冊形プレート23の切り欠き部23bとプレート保持部24の切り欠き部24bとの接触面に、潤滑性を有する潤滑性部材26が設けられていることが特徴となっている。潤滑性部材26を設けることにより、短冊形プレート23の切り欠き部23bとプレート保持部24の切り欠き部24bとの接触面における摩擦力が均一になり、短冊形プレート23が熱膨張した伸長分を空間部25へスムーズに移動させることができる。このため、切り欠き部23bと切り欠き部24bの接触面で引っかかってしまい、短冊形プレート23が偏ってスライドすることにより、ガス吐出孔H1、H2とプレート孔23aがずれて孔を塞いだり、空間部25が減少して熱膨張による伸長分が吸収できなくなったりすることを防止できる。
【0050】
また、潤滑性部材26が設けられることにより、短冊形プレート23の切り欠き部23bとプレート保持部24の切り欠き部24bとの間で熱抵抗が大きくなり、加熱領域に配置された短冊形プレート23から非加熱領域に配置されたプレート保持部24への熱移動を分断するため、短冊形プレート23とプレート保持部24のそれぞれ全体の温度をより均一に保つことができ、一部が局所的に熱膨張して反りに至ることを防止できる。
【0051】
潤滑性部材26の材料は、高純度カーボン、熱分解炭素被膜カーボン、熱分解炭素、窒化ホウ素のいずれかによって構成される材料が望ましい。これらの材料は、潤滑性を有するとともに、H2やNH3ガスに対する耐食性、熱に対する耐熱性等も備えているため、気相成長装置の反応炉1の内部環境に適合し、シャワープレート22と併設することが可能である。
【0052】
以上、各実施例について説明したが、本発明においては、MOCVD装置50、60を構成するシャワーヘッド10や、シャワープレート20、22及びその他部材が各実施例に示す構成に限定されないことは言うまでもない。
【0053】
例えば、シャワープレート20、22は、熱伝導率が100W/(m・K)以上であり、また、熱膨張係数が6×10−6/℃以下であることが望ましい。熱伝導率が100W/(m・K)以上であることにより、シャワープレート20、22の表面温度が低く保たれ、裏面との温度差が小さくなる。また、熱膨張係数が6×10−6/℃以下であることにより、熱膨張し難くなり伸長量が小さくなる。このため、シャワープレート20、23の反りが防止され、シャワープレート20、22の表面で生成物が成長することを抑制し、被処理基板6上での成膜レート、膜均一性及び膜の再現性を確保し得る気相成長装置及び気相成長方法を提供することができる。
【0054】
また、前記シャワープレート20、22を構成する短冊形プレート21、23とプレート保持部24の材料は、モリブデンもしくはタングステン、高純度カーボン、SiC皮膜カーボン、TaC皮膜カーボン、熱分解炭素被膜カーボン、熱分解炭素のいずれかが望ましい。これらの材料は、高熱伝導率、低熱膨張係数の素材であるため、上記のようにシャワープレート20、22の反りを防止する効果を奏するとともに、H2やNH3ガスに対する耐食性を有しているため、シャワープレート20、22の耐久性を向上することができる。このため、シャワープレート20、22の交換頻度を減らせるので、タクトの短縮及びコストダウンを図ることができる。
【0055】
また、本発明は、被処理基板を複数枚処理する多枚炉を備える大型装置においても顕著な効果をもたらす。例えば、6インチ基板1枚を処理する単枚炉では、シャワーヘッド10ならびにシャワープレート20、22の直径は、約150mm程度となるが、6インチ基板を7枚処理する多枚炉では、最緻密に配置しても、その直径は、3倍の450mmにも達し、シャワープレート20、22の熱膨張による伸長分は3倍に増加してしまう。また、シャワープレート20、22に温度分布が存在した場合は、さらに熱膨張による変形の寄与が大きくなってしまう。
【0056】
本発明によれば、シャワーヘッド10およびシャワープレート20、22の直径が大きくなる大型装置においても、シャワープレート20、22の反りが防止され、シャワープレート20、22の表面温度が高温とならないため、シャワープレート20、22の表面に形成される生成物の成長を抑制し、被処理基板6上での成膜レート、膜均一性及び膜の再現性を確保することができる。
【0057】
さらに、今回開示された実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0058】
1 反応炉
4 反応室(成長室)
6 被処理基板
7 基板保持部
9 基板加熱ヒータ
10 シャワーヘッド
20、22 シャワープレート
21、23 短冊形プレート
21a、23a プレート孔
21b、24a ネジ孔
23b、24b 切り欠き部
24 プレート保持部
25 空間部
26 潤滑性部材
50、60 MOCVD装置(気相成長装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャワーヘッドを保護するためのシャワープレートであって、
前記シャワープレートは、複数のプレート孔を有する複数の短冊形プレートからなり、
前記短冊形プレートが、前記シャワーヘッドに対してスライド可能に保持されることを特徴とするシャワープレート。
【請求項2】
前記短冊形プレートの端部に形成された長穴が、前記シャワーヘッドにねじ止めされることを特徴とする請求項1記載のシャワープレート。
【請求項3】
前記シャワープレートは、前記短冊形プレートを保持するプレート保持部を備え、
前記短冊形プレートの端部に形成された切り欠き部が、前記プレート保持部に形成された切り欠き部上に配置されることを特徴とする請求項1記載のシャワープレート。
【請求項4】
前記短冊形プレートの切り欠き部と前記プレート保持部の切り欠き部の間に潤滑性部材を設けたことを特徴とする請求項3記載のシャワープレート。
【請求項5】
前記潤滑性部材は、高純度カーボン、熱分解炭素、窒化ホウ素のいずれかを含む素材で構成されていることを特徴とする請求項4に記載のシャワープレート。
【請求項6】
前記短冊形プレートは、モリブデン、タングステン、高純度カーボン、SiC皮膜カーボン、TaC皮膜カーボン、熱分解炭素のいずれかを含む素材で構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5に記載のシャワープレート。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のシャワープレートを備えたことを特徴とする気相成長装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−26358(P2013−26358A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158503(P2011−158503)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】