説明

シート成形用ロール及びシート成形方法

【課題】耐久性を低下させることなく温調能力の向上を図る。また、外セルの柔軟性が軸方向で異なる成形ロールを得る。
【解決手段】シート2を加圧成形するための円筒状の外セル5と、外セル5の内部に配され外セル5の内径よりも小さい外径を有する円筒状の内セル6と、を備える。外セル5が、外セル5と内セル6と間の空間を回流する温調液7によって温調されるシート成形用ロールにおいて、外セル5の内周面に、外セル5の軸回りに沿って延びる雌ネジ状又はリング状の凹部12が形成される。凹部12の深さは、外セル5の径方向の厚みの0.1倍以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺のシートを成形するためのシート成形用ロール及びシート成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シートの成形方法として、Tダイから押出される溶融樹脂を、剛性が高い一対のシート成形用ロールの間に挟み込み、加圧してシート状に成形する加圧成形法が知られている。加圧成形法では、シート成形用ロールの外周の温度を制御することによって、適切な粘度を維持した状態で溶融樹脂をシート状に成形することができる。
【0003】
温度制御機能を有するシート成形用ロールとしては、特許文献1に、薄肉円筒状の外セルと、外セルの内部に配される内セルと、を有してなる二重管ロールが開示されている。外セルと内セルとの間に形成される空間に、温調液を流すことによって、外セルの外周、すなわち二重管ロールの外周の温度が制御されている。
【0004】
また、特許文献1に開示されているシート成形用ロールでは、薄肉の金属体の外セルを用いることによって外セルを弾性変形させることができ、成形対象となるシートが、シート成形用ロールの間に挟まれている時間を長くすることができる。両方又は一方のシート成形用ロールの外セルを弾性変形が可能な外セルとして構成することで、シートの加圧時に外セルを、相対するシート成形用ロールの外周面に倣って弾性変形させることができる。したがって、剛性が高い一対のシート成形用ロール同士の場合に比べて、シートが成形用ロールに挟まれる時間が長くなり、シートをより一層平滑に成形することができる。
【0005】
特許文献2及び特許文献3には、内セルとしてゴムロールを用い、外セルを更に薄肉化した二重管ロールが開示されている。弾性が不十分でシートに圧力を加えることができない薄肉の外セルであっても、ゴムロールの外周面が外セルの内周面に接触するので、ゴムロールの弾性力によってシートに圧力が加えられる。外セルを薄肉化することが可能となるので、温調能力を向上することができる。また、より一層薄いシートを成形することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3194904号
【特許文献2】特許第3422798号
【特許文献3】特開2007−83577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されているシート成形用ロールでは、弾性を確保するために、外セルを薄肉化するのに大きさの限界があった。外セルを薄肉化した場合には、外セルのたわみが大きくなる。そのため、外セルに予め形成しておくクラウン量が増加し、また外セルが薄肉なので、円筒形の形状を維持するのが難しくなり、シート成形用ロールを大型化することが困難であった。
【0008】
また、特許文献2及び特許文献3に開示されているシート成形用ロールでは、内側バックアップロールにゴムロールを用いているので、耐久性が劣るといった課題があった。
【0009】
さらに、外セルの内面がフラットな従来のシート成形用ロールでは、乱流による渦効果が小さく、熱移動の効率が低い。そのため、外セルの冷却性能に限界があった。
【0010】
そこで、本発明は、厚さ0.1mm程度の薄い両面タッチシートを、2m以上の幅広のシート成形用ロールで成形することを可能とし、また耐久性に優れ、高い温度調整能力を有するシート成形用ロールを提供することを目的とする。また、本発明は、薄肉に構成される外セルの剛性または柔軟性が、シート成形用ロールの軸方向に対して異なっているシート成形用ロールを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するために、本発明に係るシート成形用ロールは、シートを加圧成形するための円筒状の外セルと、外セルの内部に配され外セルの内径よりも小さい外径を有する内セルと、を備える。外セルが、外セルと内セルとの間の空間を回流する温調流体によって温調されるシート成形用ロールにおいて、外セルの内周面に、外セルの軸回りに沿って延びる雌ネジ状又はリング状の凹部が形成される。凹部の深さは、外セルの径方向の厚みの0.1倍以上である。
【0012】
また、本発明に係る他のシート成形用ロールは、シートを加圧成形するための円筒状の外セルと、外セルの内部に配され、外セルの内径よりも小さい外径を有する円筒状の内セルと、を備える。外セルが、外セルと内セルと間の空間を回流する温調流体によって温調されるシート成形用ロールであって、外セルの内周面に、外セルの軸回りに沿って延びる雌ネジ状又はリング状の凹部が形成される。凹部のピッチは、凹部の底面における外セルの径方向の厚みの10倍以下である。
【0013】
また、本発明に係る他のシート成形用ロールは、シートを加圧成形するための円筒状のセルと、セルを支持する軸と、を備える。セルが、セルの内周面と軸との間の空間を回流する温調流体によって温調されるシート成形用ロールであって、セルの内周面に、セルの軸回りに沿って延びる雌ネジ状又はリング状の凹部が形成される。凹部の深さは、外セルの径方向の厚みの0.1倍以上である。
【0014】
また、本発明に係る他のシート成形用ロールは、シートを加圧成形するための円筒状のセルと、セルを支持する軸と、を備える。セルが、セルの内周面と軸との間の空間を回流する温調流体によって温調されるシート成形用ロールであって、セルの内周面に、セルの軸回りに沿って延びる雌ネジ状又はリング状の凹部が形成される。凹部のピッチは、凹部の底面におけるセルの径方向の厚みの10倍以下である。
【0015】
また、本発明に係るシート成形方法は、本発明のシート成形用ロールの間に溶融樹脂を挟んでシートを成形する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、比較的薄いシート成形用であって幅が広い大型のシート成形用ロールを製作できる。また、シート成形用ロールの耐久性を低下させることなく温調能力を向上することができる。また、径方向に対して薄肉に構成される外セルの剛性又は柔軟性が、軸方向に対して異なるシート成形用ロールが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】シートの成形装置を示す概略図である。
【図2】シート成形用ロールを示す断面図である。
【図3A】第1の実施形態におけるシート成形用ロールを示す詳細断面図である。
【図3B】第1の実施形態におけるシート成形用ロールの内セルに設けられるガイド壁を示す模式図である。
【図4】シート成形用ロールを軸方向に直交する面で切断して示す断面図である。
【図5】線圧が加えられたときのシート成形用ロールを示す断面図である。
【図6】凹部が延びる方向と、薄板の曲げ易さとの関係を説明するための図である。
【図7】シート成形用ロールの間にシートを挟み込んでいる状態を示す断面図である。
【図8】本実施形態のシート成形用ロールと、従来のシート成形ロールと比較して、たわみ曲線を示す図である。
【図9】図8において比較するシート成形用ロールの形状を示す断面図である。
【図10】第2の実施形態におけるシート成形用ロールを示す詳細断面図である。
【図11】第3及び第4の実施形態における外セルを示す断面図である。
【図12】第4の実施形態における外セルが有する角形の凹部の深さの構成例を示す断面図である。
【図13】第4の実施形態における外セルが有する角形の凹部のピッチの構成例を示す断面図である。
【図14】第5の実施形態における外セルに、凹部を加工する工程を説明するための図である。
【図15】第6の実施形態における外セルが有する凹部の形状を示す断面図である。
【図16】第7の実施形態のシート成形用ロールを示す断面図である。
【図17】第8の実施形態のシート成形用ロールを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
本明細書において、『線圧』とは、一対のロールを押し当てたときのロールの軸方向の単位長さ当たりの力を意味する(例:100N/cm)。線圧はニップ圧とも称する。
【0020】
また、『クラウン』とは、ロールの軸方向の中央部が、ロールの軸方向の端部よりも太い形状を指す。『クラウン量』とは、ロールの軸方向の中央部の直径と、ロールの軸方向の端部の直径との差の値を指し、ロールの軸方向の中央部の直径をD1、ロールの軸方向の端部の直径をD2としたとき、クラウン量=D1−D2で表される。
【0021】
以下、実施形態によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、以下の説明では、上述した実施形態で示したのと同じ部分には同じ符号を付して説明する。
【0022】
(第1の実施形態)
図1に、シートを加圧成形する成形装置の概略図を示す。成形装置1によって成形されるシート2は、厚さが0.05mmから1mm程度までの範囲内の透明クリアシートであり、PC(Polycarbonate)やPMMA(Polymethylmethacrylate)、PET(Polyechylene Terephthalate)などの樹脂材料を用いて成形される。
【0023】
図1に示すように、成形装置1は、樹脂材料をシート状に押出すためのTダイ3と、シート2の厚さや形状を整えるシート成形用ロール(以下、成形ロールと称す)4a、4b及び4cと、を備えている。成形ロール4a、4b及び4cは、成形ロールの軸方向に対して同じ幅を有している。成形ロール4a、4b及び4cによってシート2に線圧がかけられることでシート成形が行われる。
【0024】
Tダイ3は、不図示の押出機から供給される樹脂材料をシート状に押出し、樹脂材料を一対の成形ロール4aと成形ロール4bとの間隙に導く。Tダイ3が鉛直方向の下向きに設置され、Tダイ3の下側に成形ロール4aと成形ロール4bとの間隙が位置するように成形ロール4a及び4bが配設されている。
【0025】
また、成形ロール4a及び成形ロール4bは、溶融樹脂を挟むように互いに平行に配置されている。鉛直方向下向きに押出された溶融樹脂を一対の成形ロール4a及び成形ロール4bで受けることによって樹脂材料の成形性を高めることができる。
【0026】
成形ロール4bは位置が固定されており、成形ロール4aは不図示の加圧装置によって成形ロール4bとの間隙を開閉する方向(図1に示す白抜き矢印の方向)に移動可能に構成されている。成形ロール4a及び成形ロール4bは、通常、同じ周速で回転され、成形ロール4a及び成形ロール4bの軸方向の幅全域に均一な圧力をかけることによってシート2を一定の厚さに成形する。
【0027】
シート2は、成形ロール4aと成形ロール4bとの間隙を通過した後、成形ロール4bに巻き付けられ、必要に応じて成形ロール4cによって搬送方向の下流側に搬送される。また、成形ロール4aと同様に、成形ロール4cも不図示の加圧装置で成形ロール4bとの間隙を開閉する方向(図1に示す白抜き矢印の方向)への移動が可能になっている。
【0028】
成形ロール4cを通過した後、シート2は冷却され、コイル状に巻き取られるか、または所定の長さで切断される。必要に応じて、成形ロール4cや不図示の他の成形ロールを用いて、シート2を再度加圧成形してもよい。
【0029】
次に、成形ロール4aの構造について説明する。図2に、成形ロール4aを、その中心軸を通る面で切断したときの断面図(図1におけるA−A線に沿った断面図)を示す。
【0030】
図2に示すように、成形ロール4aは、弾性を有する薄肉金属体で形成された円筒状の外セル5と、外セル5の内径よりも小さい外径を有する内セル6と、を備える二重管ロールである。したがって、外セル5の内周面と内セル6の外周面との間には空間が形成されており、この空間に、温調流体としての温調液7が流れる流路8cが構成されている。図2に示す外セル5及び内セル6は、鋼製であり、成形ロール4aも鋼を溶接して構成されている。なお、温調流体としては、温調液7の代わりに、気体や気液混合流体が用いられてもよい。
【0031】
また、内セル6の両端には、軸9及びフランジ10が溶接接合されており、軸9が軸受11によって回転可能に支持されている。軸9の一端は、モータ23と連結されており、モータ23によって成形ロール4aが所定の速度で回転駆動される。なお、成形ロールにおいて、モータ23が連結されている側を駆動側とし、この駆動側の反対に位置する側を操作側とする。
【0032】
さらに、軸受11は、不図示の軸受箱を介して成形ロール4bと成形ロール4aとの間隙を開閉する方向(図1に示す白抜き矢印の方向)に押圧する加圧装置が設けられている。加圧装置としては、通常、空気式、又は油圧シリンダ式が使用される。ロール軸受箱は、リニアガイドによって移動可能に支持されており、成形ロールは平行移動することができる。
【0033】
操作側の軸9には、温調液7が流れる流路8aと、流路8aの周りに流路8eとが形成されている。流路8aは、操作側の軸9から成形ロール4aの中心を通って駆動側の軸9に設けられている。また、駆動側のフランジ10には、流路8aと流路8cとを連通する流路8bが形成されており、操作側のフランジ10にも同様に流路8cと流路8eとを連通する流路8dが形成されている。
【0034】
図3Aに、図2に示す成形ロール4aの、軸方向の中央部から操作側にかけて拡大した詳細断面図を示す。図3Aにて、成形ロールの軸方向の長さLの中心の位置をFで示している。図3Aに示すように、外セル5の内周面には、外セル5の軸回りに沿って延びる凹部12が形成されている。第1の実施形態では、凹部12として、凹部12が延びる長手方向に直交する断面形状が台形をなす雌ネジ状の溝が形成されている。また、凹部12は、連続する1本の溝で形成される一条ネジをなすように構成されている。
【0035】
外セル5の軸方向に隣り合う凹部12のピッチPは、外セル5の柔軟性を得るために重要な寸法であり、詳細については後述する。
【0036】
第1の実施形態において、凹部12のピッチPが4mm、外セル5の厚さが5mmであり、外セル5の柔軟性が、凹部12が延びる長手方向に直交する方向において異なる作用を有している。また、このピッチPは熱移動の観点からも重要である。
【0037】
隣り合う凹部12のピッチPは、外セル5の外周面における温調能力の均一性を高めるため、外セル5の径方向の厚み以下にする方がよい。成形時に成形ロール4aに接触するシート2の温度偏差が小さくなり、シート2の結晶化のばらつきが低減される。
【0038】
また、凹部12が形成されている凹形成部12pは、シート2が接触するシート接触部(シート幅)2pよりも広い範囲に形成されている。凹形成部12pの端部からシート接触部2pの端部までの部分には、凹部12よりも深さが小さい凹部(以下、小型凹部13と称す)が形成されている。
【0039】
小型凹部13は、外セル5の肉厚の急激な変化をなくす役割を有している。したがって、肉厚が急激に変化する位置で生じる応力集中を抑制し、外セル5の破損を防止することができる。なお、小型凹部13の代用として、外セル5の径方向の厚みを徐々に変化させることによって、外セル5の軸方向に対して外セル5の内周面を緩やかに変化させたテーパ(不図示)が形成されてもよい。
【0040】
外セル5の内周面は、鋼製である外セル5の腐食を防止するためにメッキ膜が付けられている。特に、凹部12の底面は薄肉に形成された厚さであるので、セルの機械的強度を長期間に亘って保つために、腐食を防止することが重要であり、第1の実施形態ではNiメッキを施す。
【0041】
本実施形態の成形ロールの外セル5の凹部12の深さDは、外セル5の厚さt1の0.1倍以上である(図12参照)。本実施形態のロールの外セル5の凹部12のピッチ(隣接する凹部12間のピッチ)Pは、凹部12の底面の外セルの最小厚さttの10倍以下である(図13参照)。
【0042】
外セル5には、シート接触部2pよりも広い範囲にクラウンが形成されている(以下、クラウンが形成されている範囲をクラウン形成部15と称す)。外セル5は、シート2を成形するときの荷重でたわむ。そこで、予めクラウンを形成しておくことによって、成形ロール4aに荷重が加わった状態で均一な線圧が得られるようにしている。
【0043】
第1の実施形態では、クラウンは外セル5の全領域に形成されていない。クラウン形成部15の端部から外セル5の端部までのクラウンが形成されていない範囲には、外セル5の端部に向かって外径を徐々に小さくするテーパ17が設けられている。テーパ17が設けられることによって、成形ロール4aの端部と成形ロール4b(図1)の端部との接触が回避される。
【0044】
図3A及び図3Bに、内セル6に設けられるガイド壁20を示す。図3A及び図3Bに示すように、外セル5の内周面と内セル6の外周面との間の流路8cには、内セル6の軸回りに沿ってスパイラル状に軸方向に対して傾斜して配置された複数のガイド壁20aが設けられている。ガイド壁20aは、内セル6の外周面に溶接されている。
【0045】
ガイド壁20aは、図3Bに示すように、丸棒状や板状に形成され、規則的に所定の間隔をあけて分散して配列されている。また、ガイド壁20aの端面は、楔状に先細りに形成することで、温調液7の流動抵抗が抑えられている。このガイド壁20aによって、流路8c内を流れる温調液7を整流、分散、撹拌することで、温調液7をロール全体に流している。
【0046】
第1の実施形態では、図3B(a)に示すように、分割された複数のガイド壁20aが用いられているが、図3B(b)に示すように、スパイラル状に連続して形成された複数のガイド壁20bが用いられてもよい。また、ガイド壁20aは、図3B(c)に示すように、内セル6の外周面に、例えば丸棒や板材を溶接接合することによって形成されているが、内セル6の外周面を切削加工して一体に形成されてもよい。外セル5の内周面に対向する、ガイド壁20a(20b)の端面は、外セル5の内周面との間に所定の隙間Sが確保されている。
【0047】
内セル6の肉厚は、外セル5の肉厚が薄いので、成形ロール全体の剛性を高く保つために、外セル5の肉厚よりも厚く形成されており、内セル6の両端のフランジ10と軸9が溶接接合されている。
【0048】
図4に、操作側のフランジ10に平行かつ流路8dの中心を通る面で切断したときの成形ロール4aの断面図(図3Aに示すC−C断面図)を示す。図4に示すように、フランジ10には6つの流路8dが、フランジ10の中心から外周に向かって形成されかつ互いに均等な間隔をあけて設けられており、流路8cと流路8eとが連通されている。なお、駆動側のフランジ10も同様の構造を有している。
【0049】
成形ロール4aの外周の温度制御は、流路8cを流れる温調液7を回流させることによって行われる。温調液7は、冷水や温水等が用いられ、成形ロール4aの外周を所望の温度に制御するために流量が調整される。図2に示すように、温調液7の回流は、まず操作側の軸9に設置されたロータリジョイント16にて外部から取り込まれ、成形ロール4aの中心に設けられた流路8aに沿って駆動側の軸9に向かって流れる。その後、駆動側のフランジ10に形成された流路8bを通って流路8cへ流入し、外セル5の内周面に沿って駆動側から操作側へ到達する。
【0050】
成形ロール4aは、外セル5の内周面に凹部12が形成されており、凹部12が形成されていない場合に比べて温調液7との接触面積が大きくされている。したがって、外セル5と温調液7との間の熱交換も多くなる。
【0051】
内セル6の外周面には、内セル6の軸回りに沿ってスパイラル状に延びる凸壁としてのガイド壁20が設けられており、ガイド壁20が、外セル5と内セル6の間の隙間に配置されている。ガイド壁20は、内セル6の軸方向に対してスパイラル状に傾斜して配置されているので、流路8c内で温調液7が分散、旋回してスパイラル状に流れる。図4に示すように、流路8cは、6つの流路8dに連通されている。
【0052】
成形ロールの操作側の端面では、駆動側の端面と同様に、温調液7が6つの流路8dを通り、操作側のロータリジョイント16の外周流路を通って、外部の温調装置に流入する。温調装置は、温調液7の温度を一定に保つ機能を有している。
【0053】
また、第1の実施形態では、温調液7が凹部12の延在方向に対してほぼ直角に流れるので、乱流が生じる。一般に層流よりも乱流の方が、渦が発生しやすく伝熱効果が高い。したがって、流れに対してほぼ直角に凹部12が形成された第1の実施形態では、効率良く熱交換が行われる。
【0054】
すなわち、第1の実施形態では、接触面積を大きくした効果と、乱流を生じさせる効果とによって、成形ロール4aの温調能力が高められている。
【0055】
上述したように、外セル5の流路8cは、成形ロールの軸方向に対してスパイラル状に配置されたガイド壁20aを有しているので、温調液7がスパイラル方向に整流、分散、撹拌される。このため、温調液7をロール全体に均等に流すことができる。
【0056】
また、外セル5の流路は、図3B(b)に示すように、スパイラル状に連続するガイド壁20bを有する場合には、ガイド壁20bが二重螺旋構造をなすことで、実質的な流路断面積が狭くなり、温調液7の流速を早めて乱流状態にすることが可能になる。このため、温調液7による冷却能力を更に高め、成形ロールに温度ムラが生じるのを抑える効果が得られる。
【0057】
また、本実施形態の成形ロールでは、外セル5の内周面の凹部12によるラビリンス効果によって温調液7を撹拌する作用が得られるので、ガイド壁20a(20b)の作用と合わせて、成形ロールの冷却能力を更に高めることができる。
【0058】
また、図3Aに示すように、ガイド壁20a(20b)の外周面と、外セル5の内周面との間に設けられた所定の隙間Sは、弾性を有する薄肉構造である外セル5がたわみ易いので、一般的な剛体ロールに比べて大きく設定されている。この隙間Sが確保されない場合、外セル5の弾性が十分に確保されないので、柔軟なシート成形性が失う。
【0059】
また、隙間Sは、外セル5に過大な荷重が加わったときに永久たわみが生じる前に、外セル5の内周面がガイド壁20a(20b)に当接するような寸法に設定することで、外セル5に破損や変形が生じることを防ぎ、外セル5の損傷を防止する効果が得られる。
【0060】
最後に、操作側のフランジ10に形成された流路8dから操作側の軸9に設けられた流路8eを通り、成形ロール4aから排出される。その後、温調液7は、外周流路を経て不図示の温調装置に入る。温調装置は、温調液7の温度を一定に保つ機能を有する。
【0061】
本実施形態では、成形ロール4aの主要寸法である外セル5の軸方向の幅及び軸受11間の距離を1400mm及び1660mmとした。シート接触部2p(図3A)を1170mmとした。
【0062】
また、外セル5の外径及び内径を300mm及び290mmとし、外セル5の厚さが5mmとなるようにした。内セル6の外径を270mmとし、外セル5と内セル6との間隔、すなわち流路8cの間隔を10mmとした。内セル6の内径を230mmとし、内セル6の厚さが20mmとなるようにした。内セル6は、成形ロール4aの全体の剛性を保つために、外セル5よりも厚くされている。
【0063】
さらに、凹部12のピッチPを4mmとし、凹部12の深さを1.9mmとした。凹部12の形成によって除去された部分と、凹部12の形成によって凸部として残された部分との断面面積比率を、58%:42%とした。
【0064】
外セル5の外周面のシート接触部2pは、表面にクロムメッキを施した後、鏡面仕上げを行った。また、クラウン形成部15に形成されるクラウンとして、一般的な円弧状のR曲線を用いた。また、第1の実施形態では、テーパ17として、クラウン形成部15の端部の外径に対し、外セル5の端部の直径を1mm小さく設定した。
【0065】
以上のように構成された成形ロール4aは、厚さが0.05mmから1mm程度までの薄いシート2を成形する用途で使用され、シート2の成形時に必要なニップ圧が100N/cmである。
【0066】
なお、図1に示す、成形ロール4aの相手側となる成形ロール4bも内部に温調液7を流すことが可能な二重管構造であり、温調可能となっている。ただし、成形ロール4bの外セル5の厚みは、成形ロール4aの外セル5の厚みよりも厚くされており、想定される線圧(例えば100N/cm)ではほとんど変形しない。したがって、成形ロール4bは、剛体ロールと見なすことができるので、クラウンが形成されていない。
【0067】
図5(a)に、成形ロール4bによって成形ロール4aに線圧がかけられたときの成形ロール4aの断面形状を示す。図5(a)は、図5(b)で示すつぶれ変形と、図5(c)に示すたわみ変形とを足し合わせたものとすることができる。
【0068】
図5(b)は、外セル5の外周の点aから中心に向かって(白抜き矢印の方向)荷重がかけられた場合の外セル5のつぶれ変形aを示す断面図である。実線で示される輪郭が荷重をかけた場合の形状であり、一点鎖線で示される輪郭が荷重をかけていない場合の形状である。外セル5は、荷重がかけられた点aがつぶれ、つぶれた分だけ点aの周辺が膨らむように変形する。
【0069】
したがって、成形ロール4bと成形ロール4aとが、一点で接触するわけではなく、成形ロール4aがつぶれ変形aの分だけ曲面で接触することとなる。なお、成形ロール4bと成形ロール4aとが接触する幅をニップ幅18と称する(図5(a))。
【0070】
図5(c)に、外セル5のシート接触部2p全体にわたって均等に荷重をかけた場合の成形ロール4aのたわみ変形eを示す。図5(d)に、成形ロール4aの軸方向に沿ってたわみ変形eを示す。図5(d)に示すように、外セル5は、軸方向の中心において、たわみ変形eが最大となり、たわみ量eを生じる。したがって、たわみ変形eが最大となる位置での成形ロール4aの断面図は、つぶれ変形aを考慮しない場合、図5(c)に示すように、内セル6の中心6cに対して、外セル5の中心5cがたわみ量eだけ移動する。
【0071】
本実施形態では、外セルの厚さが5mmと薄肉であるので、変形の大部分がつぶれ変形aである。第1の実施形態では、外セル5の軸方向の中央部におけるつぶれ変形a、たわみ変形eはそれぞれ0.14mm、0.06mm程度であり、外セル5のつぶれ変形aの割合が70%を占める。
【0072】
成形ロール4aの外セル5が成形ロールの軸方向の中央部で大きくたわみ、成形ロール4aの相手側となる成形ロール4bは、剛体ロールと見なせるのでたわみが無視でき、変形しない。このため、成形ロール4a及び成形ロール4bのたわみを一致させてニップを成立させるため、荷重負荷時における成形ロール4aのニップ部を直線にする。そこで、あらかじめ計画した荷重でのたわみ量を計算し、そのたわみ量に相当するクラウンを外セル5に付与することによって、ニップ圧力を軸方向にわたって均一にすることができる。
【0073】
第1の実施形態において、クラウン量は、成形ロールの中央の半径を0.2mm大きくすることによって形成されている。すなわち、直径でのクラウン量は0.4mmである。クラウンを付けることで、シート2の成形時に規定の線圧をかけたとき、成形ロール4aの幅方向に均一な線圧が得られる。また、成形ロール4bは、セル厚さが厚い剛体ロールであり、たわみが無視できるので、クラウンを付けていない。
【0074】
次に、線状の凹部12の長手方向と、外セル5の機械的強度との関係について説明する。
【0075】
図6(a)及び図6(b)は、薄板19に形成された線状の凹部20が延びる長手方向と、薄板19の曲げ易さとの関係を説明する図である。図6(a)に示すように、凹部20の長手方向に直交する方向に力を加えることによって、凹部20の長手方向に平行な方向に沿って薄板19を折り曲げる場合(図6(a)における断面Bに沿って白抜き矢印の方向に折り曲げる場合)には、線状の凹部20が形成されていない薄板に比べて小さい力で折り曲げることが可能である。これは、力を加える方向に対して垂直に位置する凹部20において、板厚が薄く断面係数が小さくなっているからである。
【0076】
逆に、図6(b)に示すように、線状の凹部20の長手方向に対して平行な方向に力を加えて、凹部20の長手方向に交差する方向に沿って薄板19を折り曲げる場合(図6(b)における断面Aに沿って白抜き矢印の方向に折り曲げる場合)には、凹部20が形成されていない薄板を折り曲げる場合とほぼ同じ力が必要である。これは、力を加える方向の断面係数が、凹部20が形成されていない薄板の断面係数とほぼ同じだからである。
【0077】
図3に示す凹部12は、外セル5の内周面にほぼ円周方向に沿って形成されているので、図6(b)に示す構成に近い状態である。したがって、外セルは、凹部が形成されていない場合と同様の剛性を有している。
【0078】
また、熱移動に関しては、凹部が形成されている部分は、外セルの厚さが薄くなっているので、外セルの内周面から外周面へ熱が伝わり易く、温調能力が高められている。
【0079】
また、外セル5は、凹部12を有することによって、外セル5の内周面の表面積が大きくされているので、温調液7による温調能力が高められている。
【0080】
つまり、第1の実施形態では、外セル5の剛性を維持しつつ、凹部12が形成されている箇所の外セル5の薄肉化と、上述した外セル5と温調液7との接触面積の増加、及び凹部12によって生じる温調液7の渦効果とによって温調能力が高められている。
【0081】
次に、シート成形時のシートの厚みムラ、特に薄いシートに生じやすいシート縦縞に対するニップ性能について述べる。
【0082】
図7において、凹部12が外セル5の内周を1周するリング状に近い形状に形成されているので、外セル5は、軸方向に沿って柔軟に変形することができる。図7(a)及び図7(b)に、シート2が成形ロール4aと成形ロール4bとの間に挟まれているときの、シート2に対して垂直な面で切断したときの断面図を示す。図7(a)には、凹部12が形成された外セル5を示し、図7(b)には、一様な厚さを有する外セルを示している。
【0083】
図7(b)に示すように、凹部12が形成されていない場合には、外セル5は一体となって変形をするので、溶融樹脂の流入量が多い付近において未圧搾部24(シート縦縞)が生じやすい。未圧搾部24は、外セル5の外周面の圧搾を受けないので、未圧搾部24と圧搾部とで外観が異なり、結果的にシート2が縞状の外観を呈し、不良品になる。
【0084】
シート2として特に薄膜フィルムを成形する場合、Tダイ3から溶融樹脂を軸方向に亘って均一に吐出することが難しく、またシート2が薄いので冷却が早く、成形ロール4a及び4bによって圧搾しても軸方向への溶融樹脂の流れが少なく、シート2に未圧搾部24が生じやすい。外セル5に凹部12を形成することにより、図7(a)に示すように、外セル5は、凹部12の長手方向に直交する方向対して変形が容易となり、未圧搾部24を無くすことができる。また、凹部12を有する外セル5によれば、更に薄いシート2を高速に成形することができる。
【0085】
さらに、本実施形態では、凹部12が外セル5の軸回りにリング状に形成されているので、外セル5が凹部12を有する構造であってもつぶれ変形aが小さくされている。このため、クラウン量も大きくする必要が無く、シート縦縞に対して成形性が良い成形ロールが得られる。
【0086】
[たわみ曲線での比較]
図8に、本実施形態の成形ロール4aのシート噛み込み時のシート縦縞に対する成形性について、凹部が設けられていない従来の成形ロールと比較して、たわみ曲線を示す。図8において、縦軸がたわみ量を示し、横軸が成形ロールの軸方向の長さ(ロール幅)を示す。たわみ曲線とは、成形ロールの表面にニップ線圧をかけて、クラウン形成部の成形ロールの表面のたわみ量を、成形ロールの幅方向に沿ってプロットした曲線である。このシート縦縞に対する成形性(縦縞荷重に対する柔軟性)は、あくまでもクラウン量が同じ成形ロール、すなわち同じ線圧負荷条件で幅方向のたわみ量にて比較することが基本である。
【0087】
図8に示すたわみ曲線は、図9に示すように、以下の3種類のロール形状で比較した。
【0088】
図9(a)に示すように、比較例の形状(1)の外セルは、凹部が無く、本実施形態と同程度に肉厚が厚く形成した。後述する形状(3)の外セル5において、凹部12が無い形状に相当する。図8にて、比較例の形状(1)のたわみ曲線を一点鎖線で示す。
【0089】
図9(b)に示すように、比較例の形状(2)の外セルは、凹部が無く、本実施形態よりも肉厚を薄く形成した。上述した特許文献1に記載の成形ロールに相当する。図8にて、比較例の形状(2)のたわみ曲線を破線で示す。
【0090】
図9(c)に示すように、本実施形態の形状(3)の外セル5は、凹部12を有し、形状(2)よりも肉厚を厚く形成した。図8にて、比較例の形状(3)のたわみ曲線を実線で示す。本実施形態の形状(3)のたわみ量は、比較例の形状(2)のたわみ量とほぼ同じである。
【0091】
比較例の形状(2)と、本実施形態の形状(3)がほぼ同じクラウン量に相当する。形状(1)は、たわみ量の参考例として示す。
【0092】
[線圧負荷条件]
第1の実施形態の成形ロールに、幅10mm×長さ1300mm×100N/cmの線圧荷重を負荷した。但し、シート縦縞の発生を想定して、成形ロールの中央部における長さ320mmの範囲に、部分的な荷重を4箇所に分散して凹凸荷重を負荷し、成形ロールのたわみの柔軟性を確認した。
【0093】
すなわち、凸荷重はシートが有る部分を想定し、凹荷重はシートが無い部分を想定して、シート縦縞を再現した。
【0094】
成形ロールの中央部における長さ320mmの範囲に、部分等分布荷重として、幅10mm×長さ40mm×200N/cmの線圧荷重を4組、ピッチ80mmで等しく分散して負荷した。この中央部における長さ320mmの範囲内の平均ニップ圧は、100N/cmと等しい。
【0095】
[たわみ量の計算結果]
計算方法としては、一般的な有限要素法を用いて電子計算機でたわみ量を計算した。
【0096】
たわみ量の計算結果を図8に示す。
【0097】
図8に示すように、3つのたわみ曲線が示されているが、矢印Eで示す部分に現れているように、中央部に負荷された荷重での上下に屈曲するカーブが大きく、部分荷重に対する追従性、外セルの変形能力が優れていることを示している。
【0098】
比較例の形状(1)は、外セルの厚さが4.6mmにされ、凹部が無いので、そのたわみ量が、実施形態の形状(3)の1/2程度であり、また部分荷重した部分におけるたわみ量の変化、すなわち縦縞荷重に対する柔軟性が少ない。
【0099】
比較例の形状(2)は、外セルの厚さが3.5mmにされ、凹部が無いので、そのたわみ量が、実施形態の形状(3)と同様に大きく、また部分荷重した部分におけるたわみ量の変化、すなわち縦縞荷重に対する柔軟性が大きい。
【0100】
実施形態の形状(3)は、外セルの厚さが4.6mmにされているが、凹部を有するので、全たわみ量が、比較例の形状(2)とほぼ同様であるものの、部分荷重の部分におけるたわみ量の変化、すなわち縦縞荷重に対する柔軟性が、比較例の形状(2)に比べて大きく、縦縞荷重に対する柔軟性が大きい。換言すれば、同じクラウン量の成形ロールであっても、形状(2)に比べて、実施形態の形状(3)の成形ロールが、縦縞荷重に対する柔軟性が優れていることを示している。
【0101】
この柔軟性の評価は、基本的に、あくまでもクラウン量、すなわち同じ線圧負荷条件でシートの幅方向のたわみ量が同じ成形ロールで比較する。
【0102】
[その他の比較]
また、成形ロール4aは、外セル5、内セル6、フランジ10及び軸9が溶接によって成形されているので、外セル5や内セル6を個別に回転させる成形ロールに比べて、高速で回転可能である。第1の実施形態によれば、100m/minの回転速度で使用可能となる。
【0103】
外セルと内セルとが個別に回転する、特許文献2、3に記載の成形ロールでは、外セルと内セルとの摺動部分における機械的強度を高める必要がある。つまり、摺動部分における機械的強度が、この成形ロールでの耐久荷重となる。また、個別に回転する外セルと内セルのシール部分から液漏れが生じやすい。本発明の第1の実施形態における成形ロール4aでは、外セル5と内セル6とが一体となって回転するため、摺動部分が存在しない。したがって、材料の許容強度を線圧の耐久荷重とすることができ、耐久性を高められる。さらに、ゴム、プラスチックなどほとんど用いず、金属で構成することによって耐久性が高められる。
【0104】
本実施形態の成形ロールに対する温調液7の供給及び排出を行うために、一般的な剛体ロールと同様に、ロータリジョイント16を使用することが可能であり、ロータリジョイント16の耐久性に問題はない。
【0105】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態における成形ロール4aの構成を説明する。
【0106】
図10に、第2の実施形態における成形ロール4aの中央部から操作側までの部分を拡大した詳細断面図を示す。
【0107】
第1の実施形態では、凹部12が全て連続した雌ネジとして形成されたが、第2の実施形態では、図10に示すように、最もフランジ10側に形成された凹部12の端部に隣接する位置には、切削刃物を逃がすための逃がし溝21が、外セル5の軸回りに沿ってリング状に形成されている。逃がし溝21を設けることによって、凹部12の加工が容易となる。
【0108】
凹部12を形成する際には、外セル5を軸回りに回転させている状態で、切削刃物を外セル5の径方向の内側から外側に向かって移動させる。その後、切削刃物を外セル5の軸方向に移動させることによって凹部12の加工が行われる。第2の実施形態のように、逃がし溝21を形成することによって、切削刃物を逃がし溝21で一時的に待機させておくことが可能となり、切削刃物を外セル5の軸方向に移動させるタイミングを制御し易くなる。なお、逃がし溝21は、外セル5の軸方向の中心に設けられてもよい。
【0109】
成形ロール4aの長さが長い場合、凹部12を形成するときの切削刃物の位置合わせが難しくなる。その場合には、適宜、逃がし溝21を設けることで、長さが2m以上の長い成形ロール4aであっても、凹部12の加工が容易となる。2m以上の長い成形ロールでは、例えば、凹形成部12pの端部及び外セル5の軸方向の中央部に逃がし溝21を設けることによって、外セル5の軸方向の片側ずつ精度良く加工することが可能になる。なお、逃がし溝21の軸方向の幅は、可能な限り小さく形成することで、外セル5全体の機械的強度の低下を防ぎ、外セル5の剛性、弾性のムラが生じるのを防ぐ。
【0110】
また、凹部形成幅12pは、シート接触部(シート幅)2pよりもやや大きい、または同じに形成されている。クラウン形成部15は、凹部形成幅12pよりも大きく形成されている。第2の実施形態では、第1の実施形態と同様の構造の外セル5に、シート幅2p全体が接しており、熱移動やニップ条件などの均一化が図られている。また、第2の実施形態では、外セル5の構成素材に凹部12を加工する場合、外セル5の回転位置と刃物送りとのタイミングを合わせて加工を行うことが可能になる。
【0111】
第2の実施形態では、外セル5の軸方向の長さ(面長の長さ)を2000mmに形成した。このような長さの外セル5を用いることによって、面長の長さ2m以上の成形ロールを製造することができる。
【0112】
(第3の実施形態)
図11(a)に、第3の実施形態における外セル5を軸方向に平行な面で切断した部分断面図を示す。第1及び第2の実施形態では、凹部12の断面形状を台形状に形成しているのに対し、第3の実施形態では、凹部12の断面形状を、U字状の内面を有する形状、いわゆるU字型に形成した。U字型に形成することによって、凹部12内の角部に円弧状に丸みが形成されるので、応力集中が少なくなり、凹部12の耐久性を高めることができる。なお、凹部12の断面形状を限定するものでなく、特に制限はない。ただし、V字状の内面を有するいわゆるV溝のように、谷部の切欠係数が大きくなる断面形状は、クラックが生じて破損する虞があるので注意が必要である。
【0113】
(第4の実施形態)
図11(b)に、第4の実施形態における外セル5を軸方向に平行な面で切断した部分断面図を示す。第4の実施形態では、凹部12の断面形状を長方形に近い角形に形成したものである。角形の凹部12は、角部が円弧状に設けられ、角部の切欠係数が大きくならないように構成されている。
【0114】
また、外セル5のニップ負荷時の最大応力は、外セル5の内周面に発生し、角形の凹部12の内面の、残存するリブ(凸部)の面積が大きいので、外セル5の応力が低くなり、外セル5の強度的な安全率が高くなり、成形ロールの寿命が長くなる。
【0115】
第4の実施形態における作用は、第1の実施形態と同じであるが、凹部12の断面形状が長方形に近い角形形状であるので、加工が単純になる。
【0116】
第4の実施形態における外セル5が有する角形の凹部12において、凹部12の深さ、凹部12のピッチPの範囲について説明する。
【0117】
[作用]
図12(a)〜図12(c)を参照して、凹部12の深さに関する作用を説明する。
【0118】
本実施形態の成形ロールの外セル5の凹部12の深さDは、外セル5の径方向の厚みtの0.1倍以上に形成されている。
【0119】
図12(a)〜図12(c)に、角形の凹部12を一例として、凹部12の深さt1を変更した変形例をそれぞれ示す。
【0120】
本実施形態の成形ロールでは、外セル5の内周面に設けられた凹部12によって成形ロールの柔軟性を確保することを主の目的とする。加えて、本実施形態の成形ロールは、シート2への熱移動の均一性を図り、伝熱能力の向上を図ることも目的とする。
【0121】
成形ロール、特にタッチロールの用途では、シートの線圧が、軽荷重ロールの場合で10〜100N/cm程度、中荷重ロールの場合で100〜500N/cm程度にされている。外セル5の径方向の厚みt1は、成形ロールの直径と軸方向の長さ、線圧の各種の組み合わせに応じて変わるが、2mm〜20mm程度の範囲内で形成されている。
【0122】
凹部12の深さとしては、例えば図12(a)〜図12(c)に示すように、寸法D1,D2,D3で形成される構成例が挙げられる。
【0123】
[深い凹部]
図12(a)に示すように、深さD1で比較的深く形成された凹部12は、比較的薄いシート用の成形ロールである。一例として、厚さ50μm程度の極薄のシートの成形ロールでは、外セル5の柔軟性を十分に得るために、外セル5の厚みt1が4mm、凹部12の深さtdが3mm程度に形成される。
【0124】
この構成例では、凹部12の深さtd(=D1)が、外セル5の厚みt1の0.75倍にされているが、凹部12の深さtdが、外セル5の厚みt1の0.9倍に形成されてもよく、凹部12の深さtdの上限を特に制限するものではない。
【0125】
この深い凹部12によれば、成形ロールの周面の形状を円形に保ち、かつ外セル5を薄肉に加工できるので、例えば長さが2m以上の大型の成形ロールを製造することが可能になる効果がある。
【0126】
[浅い凹部]
図12(b)、図12(c)に示すように、比較的浅く形成された凹部12として、効果的な深さの範囲を説明する。
【0127】
図12(b)、図12(c)に示すように、深さD2で比較的浅い凹部12において、外セル5の柔軟性を十分に得る構造の一例として、外セル5の厚みt1が5mm、凹部12の深さtd(=D2)が1mmであり、凹部12の深さtdが、外セル5の厚みt1の0.2倍であり、外セル5の軸方向に対する凹部12の幅を、凹部12のピッチPの1/2とした。この構成の場合、外セル5の断面2次モーメントIの値について、凹部12の有無で、凹部12の長手方向に平行な断面と、凹部12の長手方向に直交する断面(幅方向の断面)とで比較する。
【0128】
比較した結果、凹部12を有する場合、凹部12の長手方向と平行な断面での断面2次モーメントの値Iが52%に減少し、凹部12の長手方向と直交する断面での断面2次モーメントの値Iが78%に減少し、凹部12の長手方向に沿って折り曲げたときの減少効果が大きい。その結果、凹部12を有する外セル5に柔軟性を付与することができる。また、凹部12の長手方向と平行な断面では、凹部12が形成されていない部分も存在するが、凹部12による断面2次モーメントの値Iが減少する効果が大きく、外セル5全体として残存する凹部12による断面2次モーメントの値Iによって判断することができる。
【0129】
したがって、外セル5の厚さt1の0.2倍である深さ1mmの凹部12であっても、外セル5に柔軟性を付与する効果が得られ、凹部12の深さとしては、余裕をもって、外セル5の厚さt1の0.1倍であっても柔軟性を得る効果がある。
【0130】
なお、外セル5の厚さt1の0.1倍である深さ0.5mmの凹部では、上述と同様に計算すると、凹部12の長手方向と平行な断面での断面2次モーメントの値Iが73%に減少し、凹部12の長手方向と直交する断面での断面2次モーメントの値Iが89%に減少し、凹部12に平行な方向に沿って折り曲げたときの減少効果が大きい。つまり、外セル5の厚さt1の0.1倍である深さの凹部であっても、外セル5に柔軟性を付与する効果が得られる。
【0131】
また、外セル5の凹部12において、温調液7との接触面積が増加することで熱伝達性能が向上する効果は、図12(c)に示すように凹部12の深さが浅い場合であっても、凹部12のピッチPを小さくすることで温調液との接触面積が増加するので、凹部12の深さとの関連はない。しかしながら、本発明の主の目的は、選択的に外セル5の軸方向に対する柔軟性を改善することにあるので、外セル5の柔軟性を優先的に確保する。
【0132】
また、凹部12の深さについて、厚さ50μm程度の極薄のシートの成形ロールを一例として挙げたが、厚さ0.1mm程度の薄いシートに対して300N/cm程度のニップ圧で高い荷重を負荷する中荷重ロールであっても、本実施形態を同様に適用することが可能であり、柔軟性を付与するのに有効である。したがって、本発明における凹部12の深さは、外セル5の厚さt1の0.1倍以上であればよい。
【0133】
[作用]
凹部12のピッチPに関する作用について説明する。
【0134】
本実施形態の成形ロールの外セル5は、凹部12のピッチ(隣接する凹部12間のピッチ)Pが、凹部12の底面における外セル5の径方向の最小厚みttの10倍以下にされている。
【0135】
図13(a)〜図13(c)に、角形の凹部を一例として、凹部12のピッチPの各種の変形例を示す。
【0136】
上述したように本実施形態の成形ロールは、外セル5の内周面に設けられた凹部12によって成形ロールの柔軟性を確保することを主の目的とする。加えて、本実施形態の成形ロールは、シート2への熱移動の均一性を図り、伝熱能力の向上を図ることも目的とする。
【0137】
凹部12の深さに関する説明で述べたように、成形ロールとして、特にタッチロールの用途では、シート2の線圧が10〜500N/cm程度、外セル5の径方向の厚みt1が2mm〜8mm程度である。凹部12のピッチPとしては、P1、P2、P3の構成例が挙げられる。
【0138】
[小ピッチ]
図13(a)に示すように、ピッチP1の凹部のように、ピッチPを小さくすることで、成形ロールの柔軟性と伝熱特性を、成形ロールの軸方向に対して、より一層、均一化することができる。しかしながら、凹部12のピッチPを小さくすることで凹部12の加工時間が長くなり、製造コストの増加を招いてしまう。
【0139】
上述の第1の実施形態では、外セル5の最小厚みttが3.1mm、外セル5の厚みt1が5mm、ピッチPが4mmであり、(ピッチP/外セル5の厚みt1)の比が、0.80であり、比較的小ピッチである。また、(ピッチP/外セル5の最小厚みtt)の比は、1.29である。
【0140】
[大ピッチ]
図13(b)及び図13(c)に示すように、ピッチPを大きくすることで、凹部12の加工を容易に行うことが可能であるが、成形ロールの軸方向に対して柔軟性と伝熱特性にムラが生じるおそれがある。図13(b)及び図13(c)に示すピッチP2,P3の凹部12は、(ピッチP/外セル5の厚みt1)の比が1.3程度であり、比較的大ピッチである。また、(ピッチP/外セル5の最小厚みtt)の比は、3.2である。
【0141】
現状の成形ロールの設計では、外セル5の最小厚みttが1.0mm、外セル5の厚みt1が8mm、ピッチPが10mm程度であっても、十分に実現性がある。この構成の場合、(ピッチP/外セル5の厚みt1)の比は、1.25程度であり、比較的大ピッチである。また、(ピッチP/外セル5の最小厚みtt)の比は、10である。この構成の場合、ピッチPを設定する指標としては、熱的なムラの発生に影響を及ぼす(ピッチP/外セルの最小厚みtt)の比を用いるのが便利である。
【0142】
したがって、本発明における凹部12のピッチPの範囲としては、(ピッチP/外セル5の最小厚みtt)の比が10倍以下であればよい。
【0143】
(第5の実施形態)
図14に示す凹部12の形状は、残存リブ(凸部)の過度な冷却を防止することを目的とする。この凹部12は、外セル5の軸方向に対する柔軟性を得るためのものであるが、外セル5の内周面の残存リブの冷却が過剰である場合に外セル5の表面から伝熱性能に、軸方向におけるムラが発生する。そのため、本実施形態では、凹部12の残存リブからの熱移動を遮断して、伝熱性能のムラが少なくされている。外セル5の軸方向における残存リブの厚さを小さくすることで、残存リブの先端からの伝熱断面積が少なくなり、残存リブが過度に冷却されることが防止される。
【0144】
このため、図14に示すように、本実施形態の凹部12の底面の幅Wbは、隣接する凹部12間の幅である残存リブの先端の幅Waよりも大きく形成されている。この凹部12を加工する際、図14に示すような断面L字状の切削刃物を外セル5の軸方向に移動させることで、凹部12のねじ切り加工を行う。凹部12の内部の底面側(外セル5の径方向の外側)に向かって幅が広くなる形状に加工することができる。
【0145】
(第6の実施形態)
凹部12は、複数の形状が組み合わされて構成されてもよい。図15に、第6の実施形態における外セル5が有する凹部12の構成例の断面図を示す。図15に示すように、2種類の角形の凹部12aと台形の凹部12bとが交互に並ぶように二重ネジ構造で形成し、一組の角形の凹部12aと台形の凹部12bが隣接する凹部間のピッチPで、凹部リードPPで構成した。この2種類の角形の凹部12a、台形の凹部12bは、深さ、軸方向の幅、凹部12の形状が異なるが、二重ネジ構造で繰り返す形状が得られ、第1及び第2の実施形態と同様に外セル5の柔軟性を確保することができる。
【0146】
なお、凹部12を延ばす形成方向は、外セル5の軸方向に対して斜め方向でもよい。すなわち、部12を多条ネジの雌ネジ状に形成する。凹部12が延びる方向を軸方向に対して傾けることによって、対する成形ロール4bとの接触部に溝部と山部とが混在して接触するので、成形ロールの回転が滑らかになる。これはハスバ歯車が平歯車よりも滑らかに回転することと同じ原理である。
【0147】
この凹部12を軸線に対して傾斜させて配置することで、軸線に直交する断面方向と、軸線に平行な断面方向とにおいて、外セル5の剛性、バネ定数の大きさを調整することが可能になり、成形ロールの設計の自由度を向上し、種々の特性の成形ロールを得ることができる。例えばニップ幅が大きいタッチロールを製造することができる。
【0148】
(第7の実施形態)
図16に示すように、外セル5が軸9に対して嵌め込み方式で構成することで、ロール本体に対して外セル5が着脱可能に構成されてもよい。
【0149】
外セル5をロール本体に対して着脱可能に構成することで、複数種類の線圧の成形ロールを構成することが可能になり、外セル5の表面が損傷した場合に、外セル5のみを交換することが可能になる。
【0150】
外セル5は、軸9に対して外セル5の操作側から軸方向に差し込み、フランジ10に固定ボルト29で固定される。外セル5の両側端面には、Oリング等のシール35が配されており、シール35によって温調液7の漏出が防止されている。2種類の外セル5を用意し、外セル5を交換して使うことで、複数の成形ロールを製造する場合と比べて、成形ロールの製造コストを低減することができる。
【0151】
また、外セル5の操作側の外径は、シート2の成形部分の外径と同じなので、オペレータがニップ部のロール噛み込み状態を目視することでバンクの有無などを点検することが可能なので都合がよい。なお、外セル5の駆動側(モータ側)の外径は、外セル5をフランジ10に固定するために操作側の外径よりも大きく形成されている。
【0152】
また、外セル5の操作側の長さは、相手側となる成形ロールと長さ方向(軸方向)の端面を揃えて製作することができる。操作側を長く形成する必要はないが、駆動側は、相手側となる成形ロールに当接するので、フランジ10の部分のみ長く形成される。
【0153】
上述した第1から第6の実施形態では、二重管ロール、すなわち外セル5及び内セル6を有する構成であったが、内セル6が無い、一重管構造の成形ロールとして構成されてもよい。
【0154】
図16に示すように、第7の実施形態の成形ロールは、内セル6が無く、上述した実施形態における外セル5に対応するセル5を支持する軸9を有する構成である。成形ロールの内部には、軸9の周面に、軸回りに沿ってスパイラル状に延びるガイド壁20が設けられている。
【0155】
また、図16に示した構成では、軸9が、セル5を軸方向に貫通する1つの軸として構成されているが、分割された複数の軸部を連結して構成されてもよい。この構成の場合、成形ロールの中央に位置する軸部は、セル5が連結されるのみの構造である。この構成は、比較的大径で軸方向の長さが比較的短い成形ロールに適用されて好ましい。
【0156】
また、この構成では、セル5の肉厚が比較的厚く、例えば線圧300〜500N/cm程度の線圧が比較的大きい成形ロールに適用することができる。また、この構成は、タッチロールではなく、キャストロールに適用されてもよい。
【0157】
第7の実施形態におけるセル5は、第1から第6の実施形態に比べて直径を大きくし、厚肉にし、さらに表面積を大きくし、温調能力を高めている。BOPP(Bi−oriented Polypropylene:2軸延伸ポリプロピレン)を成形するためのキャストロールなどの高速、高冷却能力が必要な成形ロールに適する。第6の実施形態における成形ロールを用いた場合、シート2の厚さとして0.15mm〜0.8mm、成形速度は120m/minまで可能である。
【0158】
(第8の実施形態)
本実施形態の成形ロールの加熱冷却方式は、上述した温調液7を用いた加熱冷却方式に限定されるものではなく、電気誘導、気体、気液混合流体を用いた他の加熱冷却方式や、成形ロールの内部に温調流体としてのヒートパイプ液を封入してヒートパイプ液を介して間接的に熱交換する加熱冷却方式であってもよい。
【0159】
[気体温調方式]
上述した実施形態では、液体である温調液7が用いられたが、気体が用いられてもよい。上述した実施形態の外セル5が有する凹部12は、いわゆる熱交換用フィンとしても機能するので、気体が用いられても温調能力が得られる。なお、温調流体として気体を用いる場合には、液体を用いる場合に比べて流速を高くすることが好ましい。
【0160】
[2段階温調方式]
また、上述した実施形態では、外セル5の内周側の空間に、液体や気体などの温調流体を直接回流させることで成形ロールの温度調節を行うように構成したが、例えば外セル5の内周側に空間において、第1の温調流体と第2の温調流体を用いて、第1の温調流体と第2の温調流体との間で間接的に熱交換することで、成形ロールの温度調節を行うように構成してもよい。
【0161】
図17に、第8の実施形態の成形ロールの構成例の断面図を示す。図17に示すように、第7の実施形態の成形ロールは、外セル5の内部に、第1の温調流体として温調液7が内部を回流する別のセルとしての円筒状の仕切りセル30が設けられている。本実施形態では、外セル5の内周面と仕切りセル30の外周面との間に、第2の温調流体として気液混合流体であるヒートパイプ液31が封入されている。ヒートパイプ液31は、外セル5と仕切りセル30との間の空間の容積の例えば2/3程度を満たすように封入されている。また、軸9の外周には、スパイラル状のガイド壁20bが設けられており、仕切りセル30内を回流する温調液7が撹拌される。
【0162】
また、外セルには、外セル5と仕切りセル30との間の空間に連通するプラグ32a,32bが設けられており、ヒートパイプ液31を注入、排出、封止することが可能に構成されている。また、必要に応じて、プラグ32a,32bの近傍に圧力計が配置されてもよく、ヒートパイプ液31が封入された空間内の圧力を検出することによって、空間内の気体の有無や圧力を制御することが可能になる。
【0163】
なお、図17に示す構成におけるヒートパイプ液31を満たした空間について、空間内に直接ヒートパイプ液31を満たすのではなく、図示しないが、銅などの細管等にヒートパイプ液31を封入して耐圧構造としたものを複数並べて配置し、その周囲を温調液7で満たしてもよい。この構成の場合、温調液7として、成形ロールの使用温度にて気液変化が生じない水やオイル等のような液体を選択すれば、細管等の圧力制御を簡易な構成で行える。
【0164】
本実施形態の成形ロールによれば、上述した実施形態と同様に、柔軟性を得ると共に、ヒートパイプ液31の均一温度性能を利用して外セル5の外周面の軸方向にわたって均一な温度特性を得る効果がある。
【0165】
(その他の実施形態)
第1の実施形態では、凹部12を1条ネジのように螺旋状を描いて延在させたが、円を描くように延在させたリング状の凹部が複数設けられてもよい。この場合、成形ロール4aの軸を中心に完全な軸対称の構造が得られ、外セル5の機械的強度のばらつきが軽減される。また、小型凹部13に相当する箇所の凹部の深さを段階的に小さくし、外セル5の機械的強度を段階的に変化させることで、凹部が形成され始めている境界での応力を緩和させることもできる。
【0166】
なお、上述した実施形態では、図1に示した一対の成形ロールのうち、シート2が巻き付かない成形ロール4aに適用されたが、シート2が巻き付く成形ロール4bに適用されてもよい。また、第1から第7の実施形態において、成形されるシートの厚さの一例を挙げて説明したが、上述したシートの厚さ用の成形用ロールに限定するものではない。
【0167】
さらに、本実施形態の成形ロールは、シートの成形ロール以外の他のロールに適用されてもよい。
【0168】
本実施形態の成形ロールは、冷却、加熱能力が優れているので、この特性を生かして、シート成形用ロール以外の、加熱、予熱及び冷却を必要とするロール、例えば製紙装置のドライヤーロール、印刷機のロールなどの他の産業用ロールに用いられて好適である。
【符号の説明】
【0169】
1 成形装置
2 シート
4a、4b、4c 成形ロール
5 外セル
6 内セル
7 温調液
8a、8b、8c、8d、8e 流路
12 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートを加圧成形するための円筒状の外セルと、
前記外セルの内部に配され、該外セルの内径よりも小さい外径を有する円筒状の内セルと、を備え、
前記外セルが、該外セルと前記内セルと間の空間を回流する温調流体によって温調されるシート成形用ロールであって、
前記外セルの内面に、該外セルの軸回りに沿って延びる雌ネジ状又はリング状の凹部が形成され、
前記凹部の深さは、前記外セルの径方向の厚みの0.1倍以上である、ことを特徴とするシート成形用ロール。
【請求項2】
シートを加圧成形するための円筒状の外セルと、
前記外セルの内部に配され、該外セルの内径よりも小さい外径を有する円筒状の内セルと、を備え、
前記外セルが、該外セルと前記内セルと間の空間を回流する温調流体によって温調されるシート成形用ロールであって、
前記外セルの内周面に、該外セルの軸回りに沿って延びる雌ネジ状又はリング状の凹部が形成され、
前記凹部のピッチは、前記凹部の底面における前記外セルの径方向の厚みの10倍以下である、ことを特徴とするシート成形用ロール。
【請求項3】
前記内セルの外周面に、該内セルの軸回りに沿ってスパイラル状に延びる凸壁が形成され、該凸壁によって前記温調流体が流れる流路が構成され、
前記凸壁の先端と前記外セルの内周面との間に所定の間隙が設けられ、
前記所定の間隙は、成形時に前記シート成形用ロールに生じるたわみ量以上である、請求項1または2に記載のシート成形用ロール。
【請求項4】
前記凸壁は、前記内セルの軸回り方向に沿って複数に分割され、間隔をあけて配列されている、請求項3に記載のシート成形用ロール。
【請求項5】
シートを加圧成形するための円筒状のセルと、
前記セルを支持する軸と、を備え、
前記セルが、該セルの内周面と前記軸との間の空間を回流する温調流体によって温調されるシート成形用ロールであって、
前記セルの内周面に、該セルの軸回りに沿って延びる雌ネジ状又はリング状の凹部が形成され、
前記凹部の深さは、前記外セルの径方向の厚みの0.1倍以上である、ことを特徴とするシート成形用ロール。
【請求項6】
シートを加圧成形するための円筒状のセルと、
前記セルを支持する軸と、を備え、
前記セルが、該セルの内周面と前記軸との間の空間を回流する温調流体によって温調されるシート成形用ロールであって、
前記セルの内周面に、該セルの軸回りに沿って延びる雌ネジ状又はリング状の凹部が形成され、
前記凹部のピッチは、前記凹部の底面における前記セルの径方向の厚みの10倍以下である、ことを特徴とするシート成形用ロール。
【請求項7】
前温調流体は、気体である、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のシート成形用ロール。
【請求項8】
前記セルと前記軸との間の空間に配され、前記温調流体が内部を回流する別のセルを備え、
前記セルの内周面と前記別のセルの外周面との間の空間に、気液混合流体が封入されている、請求項5または6に記載のシート成形用ロール。
【請求項9】
前記凹部の長手方向に直交する断面形状は、前記長手方向に直交する幅が前記凹部の底面に向かって小さくなる台形状に形成されている、請求項1ないし8のいずれか1項に記載のシート成形用ロール。
【請求項10】
前記凹部の長手方向に直交する断面形状は、U字状の内面を有する形状、または四角形状に形成されている、請求項1ないし8のいずれか1項に記載のシート成形用ロール。
【請求項11】
前記凹部の長手方向に直交する断面形状は、前記長手方向に直交する方向において、前記凹部の底面の幅が、隣接する前記凹部の間の幅よりも大きく形成されている、請求項1ないし10のいずれか1項に記載のシート成形用ロール。
【請求項12】
前記凹部は、隣接する前記凹部間のピッチ、形状、深さの少なくともいずれかが異なる複数種類の凹部を含んでいる、請求項1ないし11のいずれか1項に記載のシート成形用ロール。
【請求項13】
前記凹部は、内面にメッキが施されている、請求項1ないし12のいずれか1項に記載のシート成形用ロール。
【請求項14】
前記外セルまたは前記セルは、クラウンを有している、請求項1ないし13のいずれか1項に記載のシート成形用ロール。
【請求項15】
前記外セルまたは前記セルは、前記外セルまたは前記セルを支持する軸に対して着脱自在に構成されている、請求項1ないし14のいずれか1項に記載のシート成形用ロール。
【請求項16】
請求項1ないし15のいずれか1項に記載のシート成形用ロールの間に溶融樹脂を挟んでシートを成形するシート成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−240331(P2012−240331A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113754(P2011−113754)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】