説明

スイッチ及びESD保護素子

【課題】低消費電力のスイッチ及びESD保護素子を提供する。
【解決手段】本発明の例に関わるスイッチは、基板10上に設けられた第1及び第2の電極11,12と、第1の電極11上に設けられたアンカー14と、アンカー14に支持され、アンカー14から第2の電極12上方まで延在し、導電体が用いられ、第2の電極12に対して上下方向に動く可動構造15と、可動構造15の端部に設けられ、第2の電極上方に配置される接点部16と、可動構造15上に設けられ、可動構造15を構成する材料と応力差を有し、接点部16を第2の電極12に向かって反らせる調整膜18と、可動構造16の周囲を取り囲むように基板10上に設けられ、調整膜18に接触し、駆動電極として機能するキャップ20と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチ及びESD保護素子に関する。
【背景技術】
【0002】
MEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems)を用いたデバイスとしては、主に、可変容量、スイッチ、加速度センサ、圧力センサ、RF(radio frequency)フィルタ、ジャイロスコープ、ミラーデバイスなどが、研究及び開発されている。
【0003】
これらの中で、MEMSスイッチは、オフ時のリークがないので、チップの消費電力(消費電流)の削減に効果的である。また、MEMSスイッチは、半導体集積回路(IC:Integrated circuit)を構成する配線層上に形成できるので、例えば、CMOSインバータのように、ウェハ(チップ)表面に形成される素子及び回路を、スイッチとして用いる場合に比較して、チップ面積を削減できる。
【0004】
それゆえ、MEMSスイッチを“パワーゲーティング”という手法に用いる技術が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。パワーゲーティングとは、半導体集積回路(IC)の消費電力を削減する技術である。この技術は、未使用の回路ブロックへの電源供給を、スイッチ(以下、パワーゲーティングスイッチと呼ぶ)で遮断することにより、リークによる電力の消費を抑制する。
このようなパワーゲーティングスイッチとして、MEMSスイッチを回路ブロックと電源との間に設け、消費電力の低減が図られる。
【0005】
非特許文献1では、熱駆動型のMEMSスイッチが、パワーゲーティングスイッチとして用いられている。熱駆動型のMEMSスイッチは、低電圧で動作するという利点を有する。その一方で、熱駆動型のMEMSスイッチは、駆動電流が大きく、その結果として、消費電力が大きくなってしまう。さらに、熱駆動型のMEMSスイッチは、他の駆動型のMEMSスイッチよりサイズが大きい、スイッチングの速度が遅い、という問題もある。
【0006】
また、MEMSスイッチを回路ブロックと外部(電源,パッド)との間に介在させるという観点から、MEMSスイッチをESD(electrostatic discharge)保護素子に用いることも期待されている。これに関しても、パワーゲーティング技術と同様の問題が、懸念される。
【非特許文献1】A. Raychowdhury, Jeong Il Kim, D. Peroulis, K. Roy,“Integrated MEMS Switches for Leakage Control of Battery Operated Systems”,Porc. IEEE 2006 Custom Integrated Circuits Conference (CICC), pp.457-460
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、消費電力が小さいスイッチ及びESD保護素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の例に関わるスイッチは、基板上に設けられた第1及び第2の電極と、前記第1の電極上に設けられたアンカーと、前記アンカーに支持され、前記アンカーから前記第2の電極上方まで延在し、導電体が用いられ、前記第2の電極に対して上下方向に動く可動構造と、前記可動構造の端部に設けられ、前記第2の電極上方に配置される接点部と、前記可動構造上に設けられ、前記可動構造を構成する材料と応力差を有し、前記接点部を前記第2の電極に向かって反らせる調整膜と、前記可動構造の周囲を取り囲むように前記基板上に設けられ、前記調整膜に接触し、駆動電極として機能するキャップと、を備える。
【0009】
本発明の例に関わるスイッチは、基板上に設けられた第1及び第2の電極と、前記基板上に設けられ、前記第1の電極と前記第2の電極との間に設けられる第3の電極と、前記第1の電極上に設けられるアンカーと、前記アンカーに支持され、前記アンカーから前記第2の電極上方まで延在し、導電体が用いられ、前記第2の電極に対して上下方向に動く可動構造と、前記可動構造の端部に設けられ、前記第2の電極上方に配置される接点部と、前記可動構造上面上に設けられ、前記可動構造を構成する材料と応力差を有し、前記接点部を前記第2の電極に向かって反らせる第1の調整膜と、前記可動構造底面上に設けられ、前記可動構造を構成する材料と応力差を有し、前記可動構造を前記第3の電極に向かって反らせ、前記第3の電極と接触する第2の調整膜と、前記可動構造の周囲を取り囲むように前記基板上に設けられ、前記第1の調整膜に接触するキャップと、を備える。
【0010】
本発明の例に関わるESD保護素子は、ICチップの基板上に設けられ、ESD保護対象である回路とパッドをつなぐ配線に接続される第1の端子と、前記基板上の前記第1の端子と電源配線との間に設けられ、可動構造を有するスイッチと、を具備し、前記ICチップが非アクティブのとき、前記スイッチが低インピーダンス状態になり、前記ICチップがアクティブのとき、前記スイッチが高インピーダンス状態になる、ことを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の例によれば、消費電力が小さいスイッチ及びESD保護素子を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の例の実施の形態について詳細に説明する。尚、以下の説明において、同一の機能及び構成を有する要素については、同一符号を付し、詳細な説明は必要に応じて行う。
【0013】
[第1の実施形態]
第1の実施形態においては、MEMS構造の微細なスイッチについて説明する。
【0014】
(1) 実施例1
(a) 構造
図1を参照して、第1の実施形態の一例に係るMEMSスイッチの構造について説明する。
図1(a)は、本実施形態の第1例に係るMEMSスイッチ1の構造を示す平面図である。図1(b)は、図1(a)のA−A’線に沿うMEMSスイッチ1の断面図である。また、図1(c)は、図1(a)のB−B’線に沿うMEMSスイッチ1の断面図である。
【0015】
図1に示されるMEMSスイッチ1は、ノーマリ・オン(normally-on)型のMEMSスイッチである。また、このスイッチ1の駆動方式は、静電駆動方式である。
【0016】
絶縁性の基板10は、シリコン基板上に形成された絶縁層、ガラス基板、又は、ガラス基板上に形成された絶縁層から構成される。
【0017】
基板10上には、3個の電極11,12,13が設けられる。2個の電極11,12は、x方向(第1の方向)に並んで配置され、残りの1個の電極13は、2個の電極11,12のx方向及びy方向(第2の方向)の周囲を取り囲むように、配置されている。3個の電極11,12,13は、互いに電気的に分離されている。
【0018】
電極11,12,13は、例えば、プラグP1,P2,P3を経由して、基板10内の配線21,22,23に接続される。
第1の電極(第1ポート)11は、スイッチ1の一方の電極であり、電極11には、電位Vsが供給される。電極11は、例えば、プラグP1を経由して、第1の配線21に接続される。
第2の電極(第2ポート)12は、スイッチ1の他方の電極であり、電極12は電位Vdを示す。電極12は、例えば、プラグP2を経由して、第2の配線22に接続される。
【0019】
また、第3の電極13は、スイッチを駆動するための電位Vgが供給される。電極13は、例えば、プラグP3を経由して、第3の配線23に接続される。
可動構造15は、電極11,12上方に設けられる。可動構造15は、2個の電極11,12が並んだ方向(x方向)に延在している。可動構造の平面形状は、例えば、矩形状を有している。
可動構造15は、そのx方向の一端が、電極11上に設けられたアンカー14に支持され、可動構造15はカンチレバー構造(片持ち梁構造)になっている。また、可動構造15のx方向に沿った断面形状は、上向きに凸の形状になっている。
【0020】
可動構造15は、上下方向、つまり、電極12側からキャップ20側へ向かって、又は、キャップ20側から電極12側に向かって動く。
【0021】
可動構造15及びアンカー14は、例えば、導電体から構成される。アンカー14は、電極11と電気的に接続されている。よって、可動構造15は、電極11に電気的に接続される。可動構造15は、電極11から電位Vsが供給される。
【0022】
可動構造15のx方向の他端には、接点部16が設けられている。接点部16は、電極12上方に設けられる。接点部16は下側に、すなわち、電極12に向かって反っている。接点部16は、可動構造15の動作に応じて、電極12と接触状態又は非接触状態になる。接点部16は、例えば、可動構造と同じ導電体が用いられる。
【0023】
可動構造15上には、調整膜18が設けられ、可動構造15と調整膜18とは積層構造をなしている。調整膜18は、例えば、接点部16上方を覆っている。
調整膜18の内部応力は、可動構造15の内部応力に対して、相対的に圧縮性が強い。この調整膜18の圧縮性の内部応力によって、可動構造15の接点部16側が上に凸の形状になり、接点部16が下側(基板側)を向く。以下では、調整膜18の内部応力によって、可動構造15の上に凸する部分を、凸部17と呼ぶ。
【0024】
調整膜18の材料は、例えば、絶縁体が用いられている。但し、調整膜18が可動構造15よりも大きい圧縮力を有していれば、調整膜18の材料は、限定されない。
【0025】
キャップ20は、可動構造15を覆うように、電極13上に設けられる。可動構造15とキャップ20との間の領域は、空洞であり、例えば、真空になっている。尚、図1において、説明の簡単化のため、単層構造のキャップ20を図示しているが、多層構造のキャップであってもよい。
【0026】
キャップ20は、調整膜18の一部分に接触する。キャップ20は、調整膜18を介して、可動構造15の凸部17を上側から押さえつけることによって、接点部16を電極12に接触させる。これによって、接点部16と電極12との接触時の力(コンタクト力)が、大きくされている。キャップ20は導電体を含み、電極13に電気的に接続される。キャップ20は、電極13から電位Vgが供給される。
【0027】
調整膜18の材料が絶縁膜の場合、調整膜18と直接接触するキャップ層20の材料は導電体が用いられる。
このキャップ20は、可動構造15を駆動されるための実質的な電極(駆動電極)として、機能する。つまり、キャップ20に供給される電位Vgと可動構造15に供給される電位Vsとの関係によって、本例のMEMSスイッチ1のオン/オフ状態が制御される。
【0028】
例えば、MEMSスイッチ1は、電位Vgと電位Vsとの間の電位差を実質的に0Vに設定することによって、可動構造15の最上部(凸部17)が、キャップ20により上側から基板10側に押さえつけられて、接点部16と電極12とが接触した状態が保持される。
【0029】
また、MEMSスイッチ1は、電位Vgと電位Vsと間の電位差をある一定の電位差以上に設定することによって、可動構造15とキャップ20との間に静電引力を発生させ、可動構造15が動かされる。これによって、接点部16と電極12とが非接触した状態を保持される。
【0030】
キャップ20上部底面と基板10表面との間隔Hは、可動構造15とキャップ20との間の電位差が実質的に0Vであるときに、キャップ20によって接点部16と電極12との接触状態が保持できる間隔、かつ、可動構造15とキャップ20との間の電位差が、可動構造15が動き始める所定のプルイン電圧Vpiより大きくなったとき、接点部16と電極12とが非接触状態になる間隔である。間隔Hの上限値は、0.5μm以下であることがより好ましい。
【0031】
尚、導電体が用いられた可動構造15と導電体が用いられたキャップ20との間に、絶縁体が用いられた調整膜18が介在しているため、可動構造15とキャップ20が、電気的に直接接続(短絡)することは無い。
【0032】
図1に示されるMEMSスイッチ1は、可動構造15の動作、つまりMEMSスイッチのオン/オフの制御は、可動構造15−キャップ20間の電位差を制御することで実現できる。スイッチ1をオンにするときは、キャップ20によって、可動構造15を上側から押さえつけておくので、可動構造15−キャップ20間の電位差は不要である。また、スイッチ1をオフにするとき、可動構造15を可動構造15−キャップ20の電位差に起因した静電引力によって駆動する。それゆえ、本例のMEMSスイッチ1の消費電力は小さい。
【0033】
また、上記の構成により、MEMSスイッチ1を動作させるためのアクチュエータを、別途に設ける必要はない。それゆえ、本例に示されるMEMSスイッチは、MEMSスイッチの占有面積を小さくできる。
【0034】
尚、本実施例のMEMSスイッチ1において、図1に示されるスイッチ1の構成は、本実施形態を実現するための基本構成を示すのであって、これに限定されない。例えば、図1(a)では、可動構造15の平面形状は矩形状を有しているが、その平面形状は、接点部16側が尖った形状を有してもよい。また、可動構造15と接点部16は、同じ材料を用いてもよいし、接点部16と電極12との接触抵抗の低減や可動構造15の動作などの最適化を図るため、異なる材料を用いてもよい。
【0035】
(b) 製造方法
図2を参照して、本例のMEMSスイッチ1の製造方法について、説明する。図2は、MEMSスイッチ1の製造工程を示す断面図である。
【0036】
図2(a)に示すように、基板10内の所定の位置に、配線21,22,23及びプラグP1,P2,P3が形成される。そして、基板10上に、導電層が堆積され、この導電層が所定の形状に、パターニングにされる。これにより、基板10上に、電極11,12,13が形成される。電極11,12,13は、プラグP1,P2,P3にそれぞれ接触するように形成される。
【0037】
次に、基板10及び電極11,12,13上に、第1の犠牲層40が堆積され、この犠牲層40上面が平坦化される。それから、可動構造15となる導電層が、犠牲層40上に堆積され、その導電層が所定の形状にパターニングされる。
この後、電極11上の犠牲層が除去され、電極11表面が露出される。そして、露出した電極11上に、可動構造15を支えるアンカー14が形成される。アンカー14の材料は、導電体である。尚、アンカー14は、可動構造15と同じ材料を用いて同時に形成してもよい。
可動構造15上に、所定の形状の調整膜18が、形成される。調整膜18は、接点部16上方を覆っている。調整膜18の材料は、例えば、絶縁体である。
【0038】
ここまでの工程において、可動構造17は犠牲層40に密着している。そのため、可動構造17上面に調整膜18が形成されて、調整膜18に起因する圧縮性の内部応力が可動構造17に与えられていても、可動構造15は基板10表面に対してほぼ水平な状態を保っている。
【0039】
図2(b)に示すように、第2の犠牲層41が、可動構造15及び調整膜18上に形成される。犠牲層41上面の基板10表面から高さが所定の高さとなるように、犠牲層41上面は、平坦化される。さらに、犠牲層41は、所定の形状にパターニングされ、電極13上面が露出される。
そして、電極13及び犠牲層41上に、キャップ20となる導電層が堆積される。
【0040】
図2(c)に示すように、キャップ20内に、開口部Qが形成される。そして、犠牲層が、この開口部Qを介して、例えば、ウェットエッチングにより、除去される。
可動構造15と密着していた犠牲層が除去されたため、可動構造15は調整膜18との応力差によって湾曲する。このように、可動構造15は上に凸の形状になっている凸部17を有し、接点部16が電極12に向かって反る。
【0041】
また、キャップ20は、調整膜18を介して、凸部17を上側から基板10側へ押さえつける。これによって、接点部16は電極12に接触する。これは、図2(c)に示す工程のように、犠牲層41上面の高さ(犠牲層41の膜厚)が、所定の高さ(膜厚)になるように平坦化することによって、キャップ20の高さが調整されて、実現される。
【0042】
そして、キャップ20と可動構造15との間の空洞を、例えば、真空に密封するため、封止層25が、キャップ20上に形成される。
【0043】
以上のように、簡単な製造方法によって、本例に係るMEMSスイッチが形成できる。
【0044】
(c) 動作
図3を参照して、本例のMEMSスイッチ1の動作について、説明する。図3は、MEMSスイッチの動作を説明するための図である。
【0045】
図3(a)は、可動構造15に供給される電位Vsとキャップ20に供給される電位Vgが実質的に同じ大きさの場合におけるMEMSスイッチ1の状態を示している。
【0046】
電位Vsは、電極11を経由して、可動構造15に供給される。電位Vgは、電極13を経由して、キャップ20に供給される。電位Vsと電位Vgとの間の電位差(Vg−Vs)は、ほぼ0Vに設定される。
本例のMEMSスイッチ1において、可動構造15の凸部17は、調整膜18を介して、キャップ20により上側から基板10側へ押さえつけられる。
【0047】
電位差(Vg−Vs)が0Vとの時に、可動構造15(調整膜18)とキャップ20との間に、静電引力は発生せず、可動構造15は、駆動電極としてのキャップ20に引き寄せられない。それゆえ、可動構造15は上向きに凸の形状を保持し、接点部16は電極12に接触する。したがって、MEMSスイッチ1のポートに対応する電極11と電極12とは、導通する。このように、可動構造15が駆動する前のMEMSスイッチ1の状態は、オン状態である。このオン状態は、可動構造15とキャップ20との間の電位差(Vg−Vs)が、プルイン電圧Vpiより大きくなるまで保持される。
【0048】
また、図3(b)は、電位Vgと電位Vsとの間の電位差が所定の電位差より大きい場合におけるMEMSスイッチ1の状態を示している。
可動構造15には、電位Vsが供給され、キャップ20には、電位Vsとは異なった大きさの電位Vgが供給される。この場合、可動構造15と駆動電極としてのキャップ20との間に、静電引力が発生する。
【0049】
可動構造15の電位Vsとキャップ20の電位Vgとの電位差(|Vg−Vs|)が、可動構造15が動き始めるプルイン電圧Vpiより大きく設定されると、接点部16がキャップ20側(上側)に引き寄せられる。これによって、可動構造15の凸部17から接点部16までの部分は、上側(キャップ20側)へ動き、調整膜18を介してキャップ20に接触する。これによって、接点部16と電極12とは非接触になり、電気的に分離される。すなわち、MEMSスイッチ1のポートに対応する電極11と電極12とは、導通していない。このように、可動構造15が駆動した後のMEMSスイッチ1の状態は、オフ状態である。
【0050】
本例のMEMSスイッチ1において、可動構造15の凸部17は、調整膜18を介してキャップ20と常に接触している。そのため、可動構造15が駆動して、MEMSスイッチ1がオン状態からオフ状態になるとき、可動構造15の凸部17から先端までの部分は、調整膜18を介して、ジッパー状に順次キャップ20と接触していく。このような可動構造15のジッパー状の動作は、MEMSスイッチ1を低い電圧で駆動できることを意味する。
特に、キャップ20上部底面と基板10表面との間隔が、0.5μm以下に設定されると、MEMSスイッチ1の駆動電位であるプルイン電圧Vpiを1V以下に低減できる。したがって、本例のMEMSスイッチ1は、低電圧で駆動できる。
【0051】
以上のように、本実施形態の実施例1で述べたMEMSスイッチ1は、キャップ20を用いて、微細な可動構造15(凸部17)を上側から基板10側へ押さえつけ、接点部16と電極12とを機械的(構造的)に接触させることによって、オン状態を保持する。また、本例のMEMSスイッチ1は、接点部16を静電引力によって電極12から電気的に分離することで、オフ状態を保持している。
このため、本実施形態のMEMSスイッチ1は、オン/オフ状態を保持するために、大きな電力(電圧)を必要としない。また、MEMSスイッチ1をオン状態からオフ状態にする際、静電引力によって、可動構造15をジッパー状に駆動させるため、その駆動電圧は小さい。
したがって、本例のMEMSスイッチ1によれば、そのMEMSスイッチ1の消費電力を、低減できる。
【0052】
本例のMEMSスイッチ1において、可動構造15は、可動構造15とキャップ20との間に生じる静電引力によって、駆動する。そのため、可動構造15を駆動させるためのアクチュエータを別途に設ける必要はない。したがって、MEMSスイッチの占有面積を小さくできる。
【0053】
また、本例のMEMSスイッチ1は、ノーマリ・オン型のMEMSスイッチであるため、接点部16と電極12とが少しでも非接触になれば、直ちにオフ状態になる。つまり、本例のMEMSスイッチ1は、スイッチング速度が速い。さらに、MEMSスイッチ1の高速なスイッチング特性を実現するため、キャップ20内部は、真空にされることが望ましい。通常のMEMSスイッチでは、真空状態で封止されると、リンギングが生じる。これに対して、本例のMEMSスイッチ1では、可動構造15の最上部(凸部17)が常にキャップ20に固定されているので、リンギングの影響は少ない。それゆえ、本例のMEMSスイッチ1は、高速なスイッチングを実現できる。
【0054】
加えて、2つの導電体間の静電引力の大きさは、2つの導電体の間に介在する絶縁体の誘電率に対して、依存性を示す。それゆえ、絶縁体である調整膜18に誘電率が高い材料を用いることで、キャップ20と可動構造20との間に発生する静電引力を大きくすることができる。このように、調整膜18の材料を最適化することで、スイッチ速度の向上及び消費電力の低減に、貢献できる。
【0055】
以上のように、本実施形態の実施例1によれば、MEMSスイッチの消費電力を低減できる。また、サイズの小さいMEMSスイッチを提供できる。さらに、MEMSスイッチのスイッチング特性を向上できる。
【0056】
(2) 実施例2
図4を参照して、第1の実施形態の一例に係るMEMSスイッチ2について、説明する。
図4は、本実施形態の実施例2に係るMEMSスイッチの構成及び動作を説明するための図である。尚、本例のMEMSスイッチ3の平面形状は、図1(a)に示される構造と同じである。
【0057】
図4に示されるMEMSスイッチ2は、実施例1で述べたMEMSスイッチ1と同様に、ノーマリ・オン型MEMSスイッチであり、その駆動方式は静電駆動方式である。
上述のように、可動構造を上向きに凸の形状にするための調整膜は、その調整膜の内部応力が、可動構造の内部応力に対して相対的に圧縮性が強ければ、その材料は限定されない。それゆえ、図4に示すように、調整膜18Xの材料は、導電体を用いてもよい。
【0058】
この場合、導電体が用いられた調整膜18Xと駆動電極として機能するキャップ(上層キャップ)25Aとの間に、絶縁体が用いられたキャップ(下層キャップ)20Aが、設けられる。
【0059】
絶縁体が用いられたキャップ20Aは、導電体が用いられた調整膜18Xと直接接触する。導電体が用いられたキャップ25Aは、電極13と電気的に接続され、電極13を経由して電位Vgが供給される。
【0060】
本例のMEMSスイッチ2の動作は、図1に示されるMEMSスイッチ1の動作と、実質的に同じである。
図4(a)は、電位Vgと電位Vsとが実質的に同じ大きさの場合におけるMEMSスイッチ2の状態を示している。
【0061】
可動構造15の電位Vsとキャップ25Aの電位Vgとの電位差がほぼ0Vのとき、キャップ20A,25Aと可動構造15との間に、静電引力は生じない。それゆえ、可動構造15の凸部17が、キャップ20A,25Aにより、上側から電極12側へ押さえつけられることによって、接点部16が電極12に接触し、2つの電極11,12は導通する。したがって、可動構造15が駆動する前のMEMSスイッチ2は、オン状態である。
【0062】
また、図4(b)は、電位Vgと電位Vsとの電位差がある電位差より大きい場合におけるMEMSスイッチ2の状態を示している。
【0063】
電位Vsと電位Vgとの電位差がプルイン電圧Vpiより大きくなると、キャップ25Aと可動構造15の間に発生した静電引力によって、可動構造15の凸部17と先端部との間の部分が、キャップ25A側へジッパー状に引き寄せられる。これによって、接点部16と電極12とは、非接触になり、MEMSスイッチ2のポートに対応する2つの電極11,12は、導通しない。したがって、可動構造15が駆動した後のMEMSスイッチ2は、MEMSスイッチはオフ状態である。
【0064】
以上のように、図4に示されるMEMSスイッチ2の構成部材は、図1に示されるMEMSスイッチ1の構成部材と異なる材料が用いられている。この場合においても、図4に示されるMEMSスイッチ2は、図1に示されるMEMSスイッチ1と同様に、小さい駆動電圧によって駆動し、かつ、低い消費電力によってオン/オフ状態を保持する。
【0065】
したがって、図4に示されるMEMSスイッチ2においても、図1に示されるMEMSスイッチと同様の効果が得られるのは、もちろんである。
尚、本実施例のMEMSスイッチ2は、各構成要素に用いられる材料が図1に示したMEMSスイッチ1と異なるのみで、その製造方法は図2を用いて説明した製造工程とほぼ同様である。
【0066】
(3) 実施例3
(a)構造
図5を参照して、第1の実施形態の一例に係るMEMSスイッチ3について、説明する。
【0067】
図5は、本実施形態の実施例3に係るMEMSスイッチの構成及び動作を説明するための図である。尚、本例のMEMSスイッチ3の平面形状は、図1(a)に示される構造と同じである。
【0068】
実施例1及び2においては、ノーマリ・オン型のMEMSスイッチ1,2について、説明したが、可動構造上に積層される調整膜及び可動構造の一部分(凸部)と調整膜を介して接触するキャップを利用して、ノーマリ・オフ型のMEMSスイッチも実現できる。
【0069】
図5に示されるMEMSスイッチ3は、ノーマリ・オフ(normally-off)型のMEMSスイッチである。MEMSスイッチ3の駆動方式は、実施例1及び2のMEMSスイッチと同様に、静電駆動方式である。
【0070】
可動構造15は、電極11上のアンカー14によって、支持されている。可動構造15の先端側には、接点部16が設けられる。接点部16は、電極12上方に配置されている。MEMSスイッチ3がオン状態のとき、接点部16は電極12に対して接触し、MEMSスイッチ3がオフ状態のとき、接点部16は電極12に対して非接触である。
【0071】
キャップ29は、例えば、ダミー層19上に設けられる。ダミー層19は、例えば、電極11,12,13と同じ材料が用いられている。
本例のノーマリ・オフ型のMEMSスイッチ3において、キャップ29は駆動電極と機能しない。本例のMEMSスイッチ3の駆動電極13は、基板10上に設けられる。
駆動電極13は、アンカー14が接続される電極(第1のポート)11と、接点部16と接触する電極(第2のポート)12の間に設けられ、それらの電極11,12とx方向に並んで配置されている。
【0072】
可動構造15上には、2つの調整膜18A,18Bが設けられる。第1の調整膜18Aは、可動構造15上面上に設けられ、接点部16上方を覆っている。第2の調整膜18Bは、可動構造15底面上に設けられ、駆動電極13と接触するように、調整膜18Aとアンカー14との間に配置されている。
調整膜18A、18Bは、可動構造15の内部応力に対して、相対的に圧縮性が強い内部応力を有する。これによって、可動構造15は湾曲する。
調整膜18Aが設けられた可動構造15内の部分17Aは、上向き(キャップ側)に凸の形状に変形する。この結果として、接点部16は、基板側(電極12側)に反っている。このように、接点部16が湾曲した構造を有することによって、接点部16は、電極12との接触時に、電極12に対して大きなコンタクト力が得られる。
調整膜18Bが設けられた可動構造内の部分17Bは、下向き(基板側)に凸の形状に変形する。この結果として、可動構造15は上向き(キャップ29側)に反り、調整膜18Bが設けられた可動構造15の部分は、下向きに凸の形状になっている。
以下では、上向きに凸になっている可動構造15の部分17Aを、凸部17Aとよび、下向きに凸になっている可動構造15の部分17Bを、下向き凸部17Bと呼ぶ。
【0073】
駆動電極13は、調整膜18Bの下方に配置されている。そして、駆動電極13と調整膜18Bの一部分(下向き凸部17B)とが直接接触するように、凸部17Aが、キャップ29によって上側から基板10側に向けて押さえつけられている。但し、調整膜18Bは駆動電極13からわずかに離れた状態であってもよい。尚、キャップ29と基板10表面との間隔H’は、電極11と駆動電極13との電位差(|Vg−Vs|)が実質的に0Vのとき、接点部16と電極12とが接触しない間隔を有している。
【0074】
このように、本例のMEMSスイッチ3において、可動構造15に対して圧縮性の内部応力を与える調整膜18Bが可動構造15の底面上に設けられ、可動構造の調整膜18Bが設けられた部分17Bは上側に向かって反る。これによって、本例のMEMSスイッチ5は、可動構造15と駆動電極13との電位差がほぼ0Vのとき、つまり、可動構造15が駆動する前の状態において、接点部16と電極12とが接触しないノーマリ・オフ型のMEMSスイッチが提供される。
【0075】
尚、図5に示されるMEMSスイッチ3の製造方法は、以下の工程が、図2に示される製造方法と相違する。犠牲層上に、可動構造15を上側に反らせるための調整膜18Bが形成された後、可動構造15及びアンカー14となる導電膜が調整膜18B上に形成される。そして、可動構造15の接点部16を、下側に反らせるための調整膜18Aが、可動構造内の接点部16上方に形成される。この後、図2に示される工程と同様に、キャップ29が形成され、犠牲層が除去される。これによって、図5に示されるMEMSスイッチ3が完成する。
【0076】
(b) 動作
図5(a),(b)を用いて、図5に示されるノーマリ・オフ型のMEMSスイッチ3の動作について、説明する。
図5(a)は、電位Vgと電位Vsが実質的に同じ大きさの場合におけるMEMSスイッチ1の状態を示している。
【0077】
電位Vsは、電極11を経由して、アンカー14及び可動構造15に供給される。電位Vgは、駆動電極13に供給される。電位Vsと電位Vgとの間の電位差(Vg−Vs)は、ほぼ0Vに設定される。
この場合、駆動電極13と可動構造15との間の電位差が無いので、駆動電極13と可動構造15との間に静電引力は、発生しない。そのため、可動構造15は動かず、接点部16が電極12に対して非接触になっている。つまり、MEMSスイッチ3のポートに対応する2つの電極11,12は、導通していない。したがって、可動構造15が駆動する前のMEMSスイッチ1の状態は、オフ状態である。
【0078】
図5(b)は、電位Vgと電位Vsとの電位差がある電位差より大きい場合におけるMEMSスイッチ3の状態を示している。
駆動電極13の電位Vgと可動構造15の電位Vsとの電位差(|Vg−Vs|)が大きくなると、駆動電極13と可動構造15との間に静電引力が発生する。そして、電位差(|Vg−Vs|)がプルイン電圧Vpiより大きくなると、可動構造15は静電引力によって電極13に引き寄せられ、下側(基板10側)へ動く。可動構造15の動きに伴って、調整膜18Aは駆動電極13から離れ、可動構造15の先端側の接点部16は、電極12に直接接触する。これによって、MEMSスイッチ3のポートに対応する2つの電極11,12は、導通する。したがって、可動構造16が駆動した後のMEMSスイッチ3の状態は、オン状態である。
【0079】
MEMSスイッチ3がオフ状態からオン状態になるとき、調整膜18Bが電極13と接触する部分よりも接点部16側にある可動構造15の部分は、調整膜18Bを介して、ジッパー状に順次キャップ20と接触していく。このように、可動構造15は、ジッパー状に動くので、MEMSスイッチを低い電圧で駆動できる。
【0080】
また、上記のように、接点部16が電極12側に反った構造を有すること及び調整膜18B底面全体が駆動電極13と直接接触することによって、接点部16と電極12との間に、大きなコンタクト力が得られる。
【0081】
以上のように、本例のノーマリ・オフ型のMEMSスイッチにおいても、実施例1で述べたノーマリ・オン型のMEMSスイッチと同様に、消費電力を低減できる。消費電極を低減ができる。
【0082】
(4) 適用例
以下、図6乃至8を参照して、本実施形態で述べたMEMSスイッチ1,2,3の適用例について、説明する。
【0083】
(a) パワーゲーティングスイッチ
本実施形態のMEMSスイッチ1,2,3は、パワーゲーティングスイッチに適用できる。
【0084】
例えば、図6のように、半導体基板(チップ)50上に、半導体集積回路(以下、ICと呼ぶ)が形成される。尚、図6においては、説明の簡単化のため、1つの電界効果トランジスタTrのみを図示している。
【0085】
半導体基板50の素子形成領域は、素子分離絶縁膜59によって区画されている。電界効果トランジスタTrは、素子形成領域内に設けられる。
電界効果トランジスタTrは、半導体基板50内に、ソース/ドレインとして機能する2つの拡散層51S,51Dを有している。2つの拡散層51S,51D間の半導体基板50表面(チャネル領域)上には、ゲート絶縁膜52が設けられる。ゲート絶縁膜52上には、ゲート電極53が設けられている。拡散層51S,51D上には、コンタクトプラグCPが設けられ、拡散層51S,51Dは、コンタクトプラグCPを経由して、配線55,56に接続される。
【0086】
電界効果トランジスタTrを覆うように、層間絶縁膜10,57,58が、半導体基板50上に設けられる。複数の配線層が多層配線技術によって積層され、複数の層間絶縁膜10,57,58内の各々に、複数の配線21,22,23,55,56が設けられる。
【0087】
MEMSスイッチ1は、パワーゲーティングスイッチとして、半導体基板50上方に設けられる。つまり、パワーゲーティングスイッチとしてのMEMSスイッチ1は、層間絶縁膜の最上層10を、MEMSスイッチの形成基板10として用いられている。そして、配線21,55やプラグP1,V0,CPを介して、半導体基板20上のトランジスタTrに電気的に接続される。
【0088】
このように、MEMSスイッチ1は、層間絶縁膜を基板に用いて、半導体集積回路(IC)上に積層できるため、MEMSスイッチ1を用いることによって、ICチップのチップサイズが増大することはない。それゆえ、本実施形態のMEMSスイッチ1を、パワーゲーティングスイッチとして利用することで、例えば、CMOSインバータのように、基板表面に形成される電界効果トランジスタを利用したパワーゲーティングスイッチ(以下、トランジスタスイッチと呼ぶ)よりも、チップサイズを削減できる。
【0089】
トランジスタスイッチは、オフ状態であっても、リークが発生する。また、パワーゲーティング技術の採用によるチップサイズの増大を抑制するため、トランジスタスイッチを微細化すると、トランジスタの短チャネル効果などに起因して、リークが発生する。このため、トランジスタスイッチは、リーク及びそのリークに起因した消費電力を含むため、パワーゲーティングスイッチとしての機能を十分に果たせない。
一方、MEMSスイッチ1はオフ状態のとき、リークが実質的に無く、チップ全体の消費電力を低減するのに、非常に有効である。
【0090】
さらには、通常、トランジスタスイッチは、駆動電圧(ゲート電圧)がなければ、オン状態を保持しておくことが困難である。その結果として、低消費電力化のためのパワーゲーティングスイッチに対して、それを構成するトランジスタを動作せるために、電力を供給しなければならない。
これに対して、図1に示されるMEMSスイッチ1のように、ノーマリ・オン型のMEMSスイッチ1であって、キャップ20が可動構造15を上側から押し付けて、接点部16とポートとしての電極12を機械的に接触させている構成であれば、オン状態を保持するための電力は不要になる。また、MEMSスイッチ1は、可動構造15が静電引力によってジッパー状に動くため、オフ状態にするための消費電力(駆動電圧)は低減されている。さらに、ノーマリ・オン型のMEMSスイッチ1は、接点部16が電極12と非接触になれば、直ちにオフするので、そのスイッチング動作は速い。
【0091】
また、トランジスタスイッチは半導体基板50内に拡散層を有するため、その拡散層に起因した寄生容量・寄生抵抗が存在し、ICの動作に対して遅延などの悪影響を及ぼす。これに対して、MEMSスイッチ1は、オン抵抗が小さい、寄生容量が小さい及びデバイスの歪みがない、などの利点を有するため、ICに及ぼす悪影響は小さい。
【0092】
したがって、本実施形態のMEMSスイッチを、パワーゲーティングスイッチとして用いることは、非常に有効である。
【0093】
図7を用いて、本実施形態のMEMSスイッチを用いたパワーゲーティング技術のより具体的な適用例について、説明する。図7(a)及び図7(b)は、MEMSスイッチを用いたパワーゲーティング技術の適用例を説明するためのブロック図である。
【0094】
図7(a)に示すように、パワーゲーティング技術においては、ICチップ内の電源回路61とICチップを構成する回路ブロック62との間に、複数のパワーゲーティングスイッチから構成されるスイッチマトリクス60が、設けられる。尚、図7(a)中においては、1つの回路ブロックのみを図示しているが、1つのICチップ内に複数の回路ブロックが含まれてもよいのはもちろんである。
【0095】
電源回路61は、電源電圧VDDを生成する。回路ブロック62は、複数のサブ回路ブロック63〜63から構成されている。
スイッチマトリクス60を構成しているパワーゲーティングスイッチ1には、本実施形態のMEMSスイッチ1が用いられる。
【0096】
電源電圧VDDは、スイッチマトリクス60を経由して、複数の回路ブロック63〜63へそれぞれ供給される。
この際、スイッチマトリクス60は、動作していない回路ブロック63〜63に電源電圧VDDが供給されないように、スイッチマトリクス60内のMEMSスイッチ1のオン/オフを制御する。
【0097】
図7(a)に示すように、2個以上のMEMSスイッチ1が直列接続された構成を用いて、電源回路61と1つのサブ回路ブロック63〜63とを、それぞれ接続することが好ましい。これは、例えば、スティクションなどに起因して、1つのMEMSスイッチ1がオン状態からオフ状態へ切り替えられない不良が生じても、その不良のスイッチに直列接続された別のスイッチがオフにできれば、サブ回路ブロックへの電源電圧の供給を遮断できるからである。
【0098】
また、図7(a)に示すように、2つの電流経路によって、電源回路61と1つのサブ回路ブロック63〜63とを接続してもよい。このように、各サブ回路ブロック63〜63に接続される複数個のMEMSスイッチ1を並列に配置することによって、オン状態にならないMEMSスイッチ1が、電源回路61とサブ回路ブロック63〜63とを接続する1つの経路内に存在した場合においても、正常なMEMSスイッチ1のオン/オフを制御して、並列接続された別の経路を経由して、電源回路61から所定のサブ回路ブロック63〜63に、電源電圧VDDを供給できる。
【0099】
図7(b)のように、回路ブロック62内のサブ回路ブロック63〜63の動作状況をモニタする電圧モニタ回路66と、スイッチマトリクス60の動作を制御するスイッチマトリクス制御回路68をさらに具備してもよい。
【0100】
図7(b)に示される構成は、電圧モニタ回路66によって、回路ブロック62内のサブ回路ブロック63〜63内の電位をモニタし、スイッチマトリクス制御回路68に、モニタした電圧をフィードバックできる。このような構成によって、各回路ブロック63〜63の動作状況と供給電源の有無とを互いに反映することで、スイッチマトリクス60内の不良スイッチを、同定できる。そして、不良と同定されたスイッチは非選択とし、駆動させなければよい。または、不良スイッチを、スペアのスイッチに置き換えてもよい。
【0101】
以上のように、本実施形態のMEMSスイッチ1,2,3を、パワーゲーティングスイッチに用いることで、チップサイズの削減に貢献できると共に、回路ブロック62の消費電力を低減できる。
【0102】
(b) 回路
本実施形態のMEMSスイッチ1,2,3は、論理回路や記憶回路に適用できる。図8(a)、図8(b)及び図8(c)は、MEMSスイッチを用いた回路の等価回路図を示している。
【0103】
MEMSスイッチは、図8(a)に示す回路要素で示すことができる。図8(a)において、電位Vgが印加される制御端子(ゲート)は、MEMSスイッチの駆動電極に対応する。電流経路の一端及び他端Vs,Vdは、MEMSスイッチの2つのポートに対応する。
【0104】
ノーマリ・オン型のMEMSスイッチは、電位差がプルイン電位Vpi以下のときにオンになり、電位差がプルイン電位Vpiより大きいときにオフになる。プルイン電位Vpi以下の電位を“L”レベル、プルイン電位Vpiより大きい電位を“H”レベルとした場合、ノーマリ・オン型MEMSスイッチは、シリコンを用いたPチャネルMOSトランジスタと等価である。
【0105】
一方、ノーマリ・オフ型MEMSスイッチは、電位差がプルイン電位Vpi以下のときオフし、電位差がプルイン電位Vpiより大きいときオンする。つまり、ノーマリ・オフ型のMEMSスイッチは、シリコンを用いたNチャネルトランジスタと等価である。
【0106】
それゆえ、本実施例で述べたノーマリ・オン型MEMSスイッチ1及びノーマリ・オフ型MEMSスイッチ3を用いて、MOSトランジスタを用いた回路と等価な論理ゲートを構成することができる。
【0107】
例えば、図8(b)に示されるように、ノーマリ・オン/オフ型のMEMSスイッチ1A,3Aを1つずつ用いて、CMOSインバータ(NOTゲート)を構成できる。
【0108】
MEMSスイッチを用いたインバータMIは、制御ゲート(駆動電極)が並列接続され、入力ノードとなる。また、インバータMIを構成する2つのMEMSスイッチの一端(第2のポート)が直列接続され、出力ノードとなる。
また、ノーマリ・オン型のMEMSスイッチの他端(第1のポート)には、駆動電位Vddが供給され、ノーマリ・オフ型のMEMSスイッチの他端(第1のポート)には、接地電位Vssが供給される。
【0109】
このMEMSスイッチを用いたインバータMIの動作は、CMOSインバータの動作と同様である。つまり、“H”レベル(例えば、電位Vdd)又は“L”レベル(例えば、電位0V)の信号の一方が、インバータMIの入力ノードに入力される。その信号のレベルに応じて、一方のMEMSスイッチはオンになり、他方のMEMSスイッチはオフになる。オフしたMEMSスイッチは、オンしたMESスイッチに対して、負荷となる。その結果として、出力ノードn1から出力された信号は、入力された信号が反転した信号となる。
【0110】
上述のように、MEMSスイッチ1A,3Aは、実質的にリークが無い。したがって、MEMSスイッチを用いて、リークの非常に小さいリークレス・ロジックを実現できる。
【0111】
尚、ここでは、MEMSスイッチをインバータ(NOTゲート)に適用した例を示したが、ノーマリ・オン/オフ型のMEMSスイッチを用いて、NANDゲートやNORゲートなど、他の回路(論理ゲート)を構成できるのはもちろんである。
【0112】
また、図8(c)に示すように、MEMSスイッチを用いて、記憶回路を構成することもできる。図8(c)においては、SRAM(Static Random Access Memory)が、MEMSスイッチを用いて、構成されている。
【0113】
図8(c)に示されるSRAMは、図8(b)に示されるインバータMIが2個、つまり、4個のMEMSスイッチ1A,1B,3A,3Bから構成されている。
【0114】
インバータMI1,MI2及び各MEMSスイッチ1A,1B,3A,3Bの接続関係は、CMOSインバータをフリップフロップ接続させて構成したSRAMと、同様である。すなわち、一方のインバータMI1の入力ノードが、他方のインバータMI2の出力ノードn2と接続され、他方のインバータMI2の入力ノードが、一方のインバータの出力ノードn1に接続される。尚、ノードn1,n2には、ワード線及び2つのビット線が、選択スイッチを介してそれぞれ接続されるが、図8(c)中においては、その図示は省略している。
ワード線及びビット線の電位を制御して、MEMSスイッチを用いたSRAMに対して、データの書き込み及びデータの読み出しが実行される。
【0115】
MEMSスイッチを用いたSRAMは、例えば、図7に示されるような回路ブロック62内のサブ回路ブロック63〜63の演算データを、一時的に退避させておくためのレジスタとして使用できる。上述のように、MEMSスイッチは消費電力が小さいため、MEMSスイッチを用いたレジスタ(SRAM)は、CMOSインバータを用いたレジスタよりも消費電力を小さくできる。また、MEMSスイッチは、半導体基板(チップ)上方に積層できるため、チップサイズを削減できる。また、MEMSスイッチは、リークがほとんど無いので、データの保持特性(リテンション特性)が向上できる。
【0116】
以上のように、本実施形態で述べたノーマリ・オン/オフ型のMEMSスイッチを、論理ゲートや記憶回路の構成素子に用いることで、消費電力の低減、チップサイズの削減及びデータ保持の安定化などに貢献できる。
【0117】
[第2の実施形態]
上述のように、MEMS構造及びそのMEMS構造から構成されるスイッチ(MEMSスイッチ)は、様々なデバイスに適用できる。
図6乃至図8のほかに、MEMSスイッチ(MEMS構造)は、ESDから各種の回路及び素子を保護するために用いられる素子、いわゆるESD保護素子として用いることが期待されている。
以下では、MEMSスイッチを用いたESD保護素子について、説明する。
【0118】
(1) 実施例1
図9を参照して、MEMSスイッチを用いたESD保護素子の一例について、説明する。図9は、MEMSスイッチを用いたESD保護素子68が設けられたチップ(IC)を示すブロック図である。
【0119】
図9に示されるESD保護素子68は、例えば、図1に示されるノーマリ・オン型のMEMSスイッチ1を用いている。ESD保護素子68は、ESD保護の対象である回路ブロック62を、ESDから保護する。尚、図9においては、1つの回路ブロック62に対して、1つのESD保護素子68を接続しているが、1つの回路ブロック62に対して、複数のESD保護素子68を接続してもよいのは、もちろんである。
【0120】
図9に示すように、回路ブロック62の電流経路の一端は、例えば、IC62内の入出力部78(例えば、インバータ)は、信号線72を経由して、パッド(入出力端子)70に接続される。また、回路ブロック62の電流経路の他端は、グランド線(低電位電源配線)73に接続される。信号線72には、入力又は出力信号に対応したシグナル電位が供給され、グランド線73には、グランド電位が供給される。ESDが発生した場合、ESDパルスは、パッド70から回路ブロック62に向かって印加される。
【0121】
ESD保護素子68は、ESD保護対象回路(回路ブロック62)に並列に接続される。つまり、ESD保護素子68としてのMEMSスイッチ1の一方の端子(第2のポート(Vd))は、ESD保護対象回路(回路ブロック62)とパッド70とを接続する信号線72に電気的に接続される。MEMSスイッチ1の他方の端子(第1のポート(Vs))は、例えば、ESD保護対象回路(回路ブロック62)の他端と同じグランド線73に電気的に接続される。尚、MEMSスイッチ1を用いたESD保護素子68とESD保護対象回路(回路ブロック62)は異なるグランド線に接続されてもよい。
【0122】
図1に示されるノーマリ・オン型のMEMSスイッチ1がESD保護素子68に用いられた場合、例えば、信号線72から引き出された端子(パッド)に電極が接続され、その電極に接点部16が接触/非接触し、可動構造15及びアンカー14が回路ブロック62と共通のグランド線73に接続される。このため、グランド線73がMEMSスイッチの一方の電極(第1のポート)に対応し、信号線72がMEMSスイッチの他方の電極(第2のポート)に対応する。また、キャップ20が、ESD保護素子68としてのMEMSスイッチ1の動作を制御する制御端子(ゲート)となり、駆動電位Vgが供給される。
【0123】
図1に示されるMEMSスイッチ1を用いたESD保護素子68の動作は、以下のようになる。尚、MEMSスイッチ1の動作は、図3を用いて説明したため、詳細な説明は省略する。
【0124】
回路ブロック62が非アクティブのとき、つまり、回路ブロック62に電源電圧が供給されていないとき、ESD保護素子68としてのMEMSスイッチ1は、オン状態にされる。それゆえ、パッド70は、MEMSスイッチ1の2つのポートを経由して、グランド線75と接続される。
【0125】
ESDパルスがパッド72に入力された場合、ESDパルスはESD保護素子68としてのMEMSスイッチ1に印加される。即ち、ESDパルスは、信号線72に電気的に接続された接点部16から、可動構造15及びアンカー14を経由して、グランド線73に放出される。
【0126】
したがって、ESDに起因した過大な破壊電圧・電流は、回路ブロック62内には印加されず、回路ブロック62がESDパルスによって破壊されることはない。
【0127】
一方、回路ブロック62がアクティブのとき、つまり、回路ブロック62に電源電圧が供給されているとき、ESD保護素子68としてのMEMSスイッチ1は、その制御端子(キャップ20)に駆動電位Vgが供給され、オフ状態にされる。これによって、ESD保護素子68は、回路ブロック62から電気的に分離された状態となる。
【0128】
以上のように、本例のMEMSスイッチを用いたESD保護素子は、ICチップ(回路ブロック)の非アクティブ時にオン状態を保持し、ICチップ(回路ブロック)のアクティブ時にオフ状態を保持する。
【0129】
本例のように、例えば、図1に示されるような、ノーマリ・オン型のMEMSスイッチ1をESD保護素子68に用いた場合、MEMSスイッチ62のゲートに駆動電圧が供給されていないときにオン状態となっている。つまり、チップ全体が電源から電気的に分離されているときであっても、ノーマリ・オン型のMEMSスイッチ1はオン状態を保持できる。
ESDパルスは、チップを回路基板に実装する工程や、半導体デバイスをテストする工程中における、チップの構成部材の静電気帯電によって、発生する可能性が高い。これに対して、パッケージされたチップが電子機器に組み込まれた状態では、ESDパルスによるICチップ(回路ブロック62)の破壊は、大きく低減する。チップ及び電子機器に電源電圧が供給されているときは、ESDパルスによるチップの破壊は、さらに低減する。つまり、ESDパルスは、ICチップ(回路ブロック62)に電源電圧が供給されていないときに、発生する可能性が高い。
【0130】
このように、ESDパルスは、ICチップ及びそれを構成している回路ブロック62が電源から電気的に分離されているときに生じやすいので、図1に示されるような、オン状態を保持するための電源電圧が不要なノーマリ・オン型MEMSスイッチ1を、ESD保護素子1に用いることは、非常に有効である。これにともなって、ESDパルス発生時に、MEMSスイッチ1はスイッチング動作を必要としないので、MEMSスイッチのスイッチング及びその速度が、ESD保護に悪影響を及ぼすことは無い。
【0131】
また、MEMSスイッチ1を用いたESD保護素子68は、半導体基板内に形成されるPN接合(拡散層)を含まないため、抵抗やダイオード、トランジスタを用いたESD保護素子よりも、寄生容量が小さい。そして、回路ブロック62のアクティブ時には、MEMSスイッチ1はオフ状態であり、MEMSスイッチ1は信号線72から電気的に分離されている。
したがって、MEMSスイッチ1を用いたESD保護素子68は、寄生容量やリークに起因する回路ブロック62の配線遅延を引き起こさず、回路ブロック62に対するデータやコマンドの入出力を高速化できる。
【0132】
また、オフ状態のMEMSスイッチ1は実質的にリークが無い。このため、MEMSスイッチ1を用いたESD保護素子68は、回路ブロック62に対する電源電圧の降下を引き起こすことも無い。さらに、図1のMEMSスイッチ1は静電駆動方式であるので、オフ状態を保持するための駆動電位も低い。それゆえ、チップ全体としての消費電力の顕著な増加を引き起こさない。
【0133】
以上のように、MEMSスイッチ1をESD保護素子68として用いることで、低消費電力かつ回路ブロック62の性能を劣化させることなく、回路ブロック62がESDによって破壊されるのを防止できる。したがって、高性能且つ低消費電力なMEMS構造のESD保護素子を提供できる。
【0134】
尚、本例のESD保護素子68は、HBM(Human Body Model)、MM(Machine Model)及びCDM(Charged Device Model)の全てのESDに対して、有効である。
【0135】
(2) 実施例2
図10を参照して、MEMSスイッチを用いたESD保護素子の一例について、説明する。図10は、MEMSスイッチを用いたESD保護素子68及びESD保護対象回路のより具体的な構成を示すブロック図である。
【0136】
図10に示すように、回路ブロック62には、パッド71,74を介して、電源電位VDD及び接地電位VSSがそれぞれ供給される。
【0137】
電源電位VDDと接地電位VSS間には、PN接合を利用したESD保護素子68Xが、設けられる。これは、電源電圧VDDと接地電位Vssの間に、ノーマリ・オン型MEMSスイッチを用いたESD保護素子を設けた場合、オン状態のMEMSスイッチによって電源電位−接地電位間がショートし、MEMSスイッチをオフさせる電位が生成できない場合があるからである。
【0138】
PN接合を利用したESD保護素子68Xは、電源電圧が供給されるパッド71と接地電位が供給されるパッド74との間に、直列に接続される。PN接合を利用したESD保護素子68Xは、例えば、ダイオードである。このダイオード68Xは、カソードがパッド(電源端子)71に接続され、アノードがパッド(接地端子)74に接続される。但し、このESD保護素子68Xは、ダイオードに限定されず、トランジスタを用いたESD保護素子でもよいのは、もちろんである。
本例では、電源電位VDDと接地電位VSSとの間に、PN接合を利用したESD保護素子(本例では、ダイオード)が設けられている。このESD保護素子68Xの寄生容量はMEMSスイッチの寄生容量よりも大きいが、電源電位VDDが供給される配線及び接地電位VSSが供給される配線自体の寄生容量が大きいため、そのESD保護素子68XがICチップ(回路ブロック62)の動作に及ぼす影響は小さい。
【0139】
パワーオン検知回路67Aは、電源電位VDDが供給されるパッド71に接続される。パワーオン検知回路67Aは、チップ(回路ブロック62)に対する電源電位VDDの投入状況を検知し、それに応じて、パワーオン検知信号SPOを電位生成回路66に出力する。
【0140】
電位生成回路67Bは、パワーオン検知回路67Aに接続されている。電位生成回路67Bは、パワーオン検知信号SPOに基づいて、ESD保護素子68としてのMEMSスイッチ1の駆動電位Vgを生成する。
【0141】
ESD保護素子68としてのノーマリ・オン型MEMSスイッチ1は、例えば、図1に示される構造を有するMEMSスイッチである。ノーマリ・オン型MEMSスイッチ1の制御端子(キャップ20)は、電位生成回路67Bに接続される。
MEMSスイッチ1の一端(第2のポート)は、信号の入出力用のパッド70と回路ブロック62内の入出力部との電流経路(信号線)に接続され、MEMSスイッチ1の他端(第1のポート)は、パッド74に接続される。
【0142】
図10に示すように、ダイオード(ESD保護素子)68Xが電源電位VDDと接地電位Vssとの間に接続されることによって、ノーマリ・オン型MEMSスイッチを用いたESD保護素子68による2つの電源間のショートは無くなる。よって、ICチップ(回路ブロック62)と共通の電源電位VDDを用いて、ノーマリ・オン型MEMSスイッチの動作(オン/オフ)を制御できる。
【0143】
図10に示されるMEMSスイッチを用いたESD保護素子を含むチップの動作は、次のようになる。尚、電源電位が投入される前、つまり、チップが非アクティブのとき、ESD保護素子のMEMSスイッチのオン状態であり、これは、図9で述べた動作と同様であるので、ここでの詳細な説明は省略する。
【0144】
パワーオン検知回路67Aは、ICチップ(回路ブロック62)に配線(高電位電源配線)を介して、電源が投入されるのを検知すると、パワーオン検知信号SPOを、電位生成回路67Bに出力する。電源電位VDDの投入により、ICチップ(回路ブロック62)はアクティブになる。
パワーオン検知信号が入力された電位生成回路66は、MEMSスイッチの駆動電位Vgを生成する。そして、生成された電位Vgは、MEMSスイッチ1の制御端子に供給される。尚、駆動電位Vgの大きさは、電源電位VDDと同じ大きさでもよいし、異なる大きさでもよい。
【0145】
生成された電位Vgによって、ESD保護素子68としてのノーマリ・オン型MEMSスイッチ1は、オフ状態になる。つまり、MEMSスイッチ1が、信号線72から電気的に分離される。これによって、信号の入出力が、回路ブロック62と70パッドとの間で実行されるようになる。
【0146】
以上のように、ノーマリ・オン型MEMSスイッチを用いたESD保護素子68のオン/オフ動作が制御される。
【0147】
上述のように、図1に示されるノーマリ・オン型のMEMSスイッチ1は、そのオン状態を保持するための電位は不要であり、そのオフ状態を保持するための電位も小さい。それゆえ、消費電力が小さいESD保護素子を提供できる。
【0148】
また、図10に示される構成であれば、ESD保護素子68としてのMEMSスイッチ1X,1Yは、オフ状態における寄生容量をさらに低減でき、素子及びICチップ(回路ブロック62)に対するひずみも生じない。それゆえ、本例のように、MEMSスイッチを用いたESD保護素子68をチップに搭載した構成によれば、高速IC、高速メモリ及びRF−CMOSチップに対して、特に、有効となる。
【0149】
したがって、図9を用いて説明したMEMSスイッチを用いたESD保護素子68と同様の効果が得られ、高性能且つ低消費電力なMEMS構造のESD保護素子を提供できる。
【0150】
(3) 実施例3
(a) 構造
図11及び図12を参照して、MEMSスイッチを用いたESD保護素子の一例について、説明する。図11は、MEMSスイッチを用いたESD保護素子68の平面図を示し、図12(a)及び図12(b)は、MEMSスイッチを用いたESD保護素子の断面図を示している。
【0151】
図9及び図10に示されるESD保護素子68に用いられるMEMSスイッチは、ノーマリ・オン型であればよく、図1に示されるMEMSスイッチに限定されない。例えば、図11及び図12に示されるように、アクチュエータ9によって駆動されるノーマリ・オン型のMEMSスイッチ4を、ESD保護素子68に用いてもよい。
【0152】
図11及び図12に示されるESD保護素子68は、図9に示されるESD保護素子と同様に、静電駆動方式のノーマリ・オン型MEMSスイッチ4を用いている。このMEMSスイッチは、アクチュエータ9によって、オン状態又はオフ状態に駆動される。
【0153】
図11及び図12を用いて、MEMSスイッチの構造について、説明する。
【0154】
基板100上には、ESD保護対象回路である回路ブロック62、各種の配線72,73,35、パッド70,74,76及びMEMSスイッチ4を用いたESD保護素子が設けられている。配線(信号線)72には、パッド(入出力端子)70を介して、シグナル電位Vsigが供給される。また、配線(グランド線)73には、パッド(接地端子)74を介して、グランド電位Vgndが供給される。
【0155】
可動構造90を構成する梁の部分は、トーションバー93A,93Bを介して、アンカー94A,94Bに接続される。可動構造90、トーションバー93A,93B及びアンカー94A,94Bは、導電体が用いられる。
【0156】
2つのアンカー94A,94Bのうち、一方のアンカー94Aは、配線73を介して、パッド74に接続される。グランド線73及び接地端子74が、MEMSスイッチの一方の電極(第1ポート)に対応する。他方のアンカー94Bは、ダミー配線上に配置されている。尚、接地端子4は、MEMSスイッチ4(ESD保護素子68)と回路ブロック62とで共有してもよいし、それぞれ別途に設けてもよい。
【0157】
可動構造90の信号線72側の先端部には、接点部91が設けられている。
接点部91は、信号線72上方に配置され、信号線72に向かって反っている。接点部91の平面形状は、例えば、先端が尖った形状になっており、かぎ爪形状を有している。このような平面形状により、接点部91の接触抵抗を低減でき、MEMSスイッチのロスを低減できる。尚、接点部91の個数は、1個であってもよいし、2個以上であってもよい。
【0158】
接点部91の材料は、例えば、可動構造と同じ導電体が用いられる。但し、MEMスイッチをESD保護素子に適用する場合、接点部91の材料は、例えば、金(Au)、アルミニウム(Al)及びアルミニウムを含む合金を用いてもよい。Al及びその合金は、その表面に自然酸化膜が形成されるが、ESDパルスによるストレス電圧によって、自然酸化膜がブレイクダウン(絶縁破壊)されるフリッティング(Fritting)現象が生じる。この現象によって、接点部91と電極(配線)とのオーミック接触が実現される。これから示唆されるように、ノーマリ・オン型MEMSスイッチを用いたESD保護素子68は、ICチップが非アクティブ状態時において、完全にオン状態となっている必要はない。すなわち、チップが非アクティブ状態において、ESDパルスが印加されたときに、MEMSスイッチ(ESD保護素子68)が直ちにオンするような低インピーダンス状態になっていればよい。これと同様の理由により、チップが非アクティブ状態時に、接点部91が電極(信号線92)からわずかに離れた状態であっても、ESDパルスが印加されたときに、接点部91が電極(信号線92)に直ちに接触して、MEMSスイッチ4がオン状態となればよい。
但し、ICチップのアクティブ状態時の寄生容量を低減するために、チップのアクティブ時における接点部91と電極(信号線92)との間隔は、非アクティブ状態時の接点部91と電極との間隔よりも大きくなっている必要がある。これは、ICチップのアクティブ状態のとき、MEMSスイッチは高インピーダンス状態になっていることを意味する。
以上のことから、ESD保護素子68として機能するMEMSスイッチの必要条件は、ICチップ(又は回路ブロック)がアクティブのときに、高インピーダンス状態であり、ICチップが非アクティブのときに、低インピーダンス状態となっていることである。
【0159】
図11に示される例においては、信号線72が、MEMSスイッチ4の電極(第2のポート)として機能する。尚、第2のポートとして機能する電極(端子)は、信号線72から別途に引き出された電極でもよく、その引き出された電極と接点部91とが接触する構造であればよい。
【0160】
接点部91の反りは、可動構造(梁)90上の調整膜95によって、実現される。調整膜95は、例えば、絶縁体が用いられ、接点部91を覆うように設けられる。調整膜95は、可動構造90及び接点部91よりも大きな圧縮性の内部応力を有する。この調整膜95と接点部91との応力差により、接点部91(可動構造92の先端)は下側に反る。尚、調整膜95が接点部91に圧縮性の内部応力を与えることができれば、調整膜95の材料は、絶縁体に限定されない。
【0161】
静電アクチュエータ9は、可動構造90の接点部91側と反対側の端部に設けられている。静電アクチュエータ9は、2つのバネ構造97A,97B、上部電極98A及び下部電極98Bを有している。
上部電極98Aは、2つのバネ構造97A,97Bを介して、可動構造90に接続される。上部電極98Aの材料は、例えば、導電体である。
バネ構造97A,97Bが導電体からなるとき、上部電極98Aに供給される電位Vsaは、可動構造90を経由して、グランド線73から供給される。それゆえ、上部電極98Aの電位Vsaは、グランド線73の電位Vgndと実質的に同じ大きさになっている。
【0162】
下部電極98Bは、基板100上に設けられる。下部電極98B表面には、絶縁膜79が設けられ、この絶縁膜79を介して、上部電極98Aと下部電極98Bとが接触する。
【0163】
下部電極98Bは、配線75を介して、パッド76に接続される。パッド76には、アクチュエータ9を駆動させるための電位Vgaが、供給される。下部電極98Bの材料は、例えば、配線75と同じ材料(導電体)が用いられる。
静電アクチュエータ9の上部電極98A上には、絶縁膜99が設けられる。これは、上部電極98Aを下部電極98B側に傾斜させて、上部電極98Aと下部電極98Bとの間隔を狭くし、アクチュエータ9の駆動電圧を低減するためである。この場合、上部電極98Aと下部電極98Bとの間隔は、可動構造90側に近づくにつれて、広くなっている。
【0164】
トーションバー93A,93Bからバネ構造97A,97Bに至る部分(以下、バネ部と呼ぶ)96において、バネ部96のバネ定数(バネ定数k1)は、バネ構造97A,97Bのバネ定数(バネ定数k2)よりも大きい。バネ部96のバネ定数k1を大きくするため、例えば、ダミーメタル79が、可動構造90下方の基板100上に、設けられる。
【0165】
アクチュエータ9は、上部電極98Aと下部電極98Bとの電位差(|Vga−Vsa|)によって生じる静電引力によって、可動構造90を動かす。
【0166】
本例におけるMEMSスイッチ4は、アクチュエータが駆動していないとき、すなわち、上部電極98Aと下部電極98Bとの電位差が実質的に0Vのとき、接点部91と電極(ポート)としての信号線とが接触している。このとき、MEMSスイッチ4(ESD保護素子68)はオン状態である。また、上部電極98Aと下部電極98Bが、アクチュエータのプルイン電圧Vpiaより大きくなったとき、接点部91が信号線から電気的に分離される。このとき、MEMSスイッチ4(ESD保護素子68)はオフ状態になる。
【0167】
このように、本例のMEMSスイッチ4は、ノーマリ・オン型のMEMSスイッチである。
【0168】
(b) 動作
図12を用いて、本例のMEMSスイッチを用いたESD保護素子の動作について、説明する。図12(a)は、MEMSスイッチ4(ESD保護素子68)がオン状態であるときの、断面構造を示し、図12(b)は、MEMSスイッチ4(ESD保護素子68)がオフ状態であるときの断面構造を示している。尚、チップ全体としての動作は、図9及び図10を用いて説明した例と同様であるので、ここでの詳細な説明は省略する。
【0169】
図12(a)に示すように、ICチップ(回路ブロック62)が非アクティブのとき、アクチュエータ9を構成している上部電極98Aと下部電極98Bとの電位差(|Vga−Vsa|)は、実質的に0Vにされる。それゆえ、接点部91が下向きに沿っているため、接点部91が信号線72と接触している。つまり、MEMSスイッチ5は、駆動電位が無くとも、オン状態に保持される。尚、接点部91が信号線92からわずかに離れた状態であってもよい。これは、ESDパルスが信号線72を流れると、信号線72と接点部91との電位差により、静電引力が信号線72と接点部91との間に発生し、MEMSスイッチ5がオンするためである。
【0170】
ESDによって、信号線73の電位Vsigがグランド線の電位Vgndよりも非常に大きくなると、ESDパルスが発生する。本実施例では、MEMSスイッチ4がオン状態(低インピーダンス状態)であり、信号線72とグランド線73とは導通している。このため、発生したESDパルス及びそれに起因する電流は、接点部91、可動構造90及び、トーションバー93A,93Bを経由して、信号線72からグランド線73へ放出される。
それゆえ、ESDパルスは、回路ブロック62内へ流れ込むことなく、グランド端子74へ放出される。
【0171】
図12(b)に示すように、回路ブロック62がアクティブのとき、接点部91と信号線72とが非接触である状態、つまり、MEMSスイッチ4がオフ状態にされる。この具体的な動作は、以下のとおりである。
下部電極98Bに、パッド76及び配線75を経由して、アクチュエータ9の駆動電位Vgaが供給される。一方、上部電極98Aには、電位Vsa(例えば、電位Vgnd)が供給される。
【0172】
上記のように、バネ部96のバネ定数k1は、バネ構造97A,97Bのバネ定数k2よりも大きい。このため、静電アクチュエータ9の上部電極98Aと下部電極98Bとの間の電位差(|Vga−Vsa|)が、上部電極98Aが下部電極98B側へ引き寄せられるアクチュエータ9のプルイン電位Vpiaより大きくなると、バネ構造97A,97Bがバネ部96よりも大きく変形し、トーションバー93A,93Bを回転軸として、接点部91がシーソー状に浮き上がる。これによって、MEMSスイッチ4は、オフ状態になる。このように、MEMSスイッチ4を用いたESD保護素子68は、回路ブロック62のアクティブ時にオフ状態(高インピーダンス状態)にされる。
【0173】
以上のように、ESD保護素子としてのMEMSスイッチ4は、ICチップ(回路ブロック62)の非アクティブ時にオンにされ、ICチップ(回路ブロック62)のアクティブ時にオフにされる。
【0174】
図11及び図12用いて説明したように、ESD保護素子68に用いたノーマリ・オン型MEMSスイッチ4の構造及び具体的な動作は、図1及び図9を用いて説明したESD保護素子68に用いたノーマリ・オン型MEMSスイッチと異なる。
【0175】
しかし、本例においても、ESD保護素子に用いるMEMSスイッチは、ノーマリ・オン型であり、静電駆動方式によって動作する。それゆえ、本例のMEMSスイッチ4を用いたESD保護素子においても、そのオン状態を保持するのに駆動電位は不要であり、且つ、そのオフ状態を保持するための消費電力は小さい。
したがって、図1及び図9を用いて説明したESD保護素子68と同じ効果が得られ、高性能且つ低消費電力なMEMS構造のESD保護素子を提供できる。
【0176】
(4) 実施例4
図13を参照して、MEMSスイッチを用いたESD保護素子の一例について、説明する。図13に示されるESD保護素子68には、ノーマリ・オン型MEMSスイッチ5が用いられている。但し、このMEMSスイッチ5は熱駆動方式であることが、実施例1及び2に示されるMEMSスイッチと異なっている。
【0177】
(a) 構造
図13(a)は、本例のMEMSスイッチ5を用いたESD保護素子68の平面図を示し、図13(b)は、本例のMEMSスイッチ5を用いたESD保護素子の断面構造を模式的に示している。
【0178】
図13に示されるMEMSスイッチ5において、可動構造80は、V字状の平面形状を有している。このV字状の先端が、接点部81となる。
V字形状の先端部(接点部81)から2つの方向に分かれた部分のそれぞれには、アンカー82A,82Bが接続されている。可動構造80は、2つのアンカー82A,82Bによって支持される。可動構造80及びアンカー82A,82Bは、導電体から構成されている。
【0179】
アンカー82Aは、グランド線73上に配置される。このアンカー82Aには、パッド75を経由して、グランド電位Vgndが供給される。
アンカー82Bは、配線74上に配置される。このアンカー82Bには、パッド76を経由して、MEMSスイッチ5の駆動電位Vgが供給される。
接点部81は、V字形状の可動構造80の先端部に設けられ、信号線72上方に配置されている。接点部81の平面形状は、その先端が尖っており、かぎ爪形状を有している。また、接点部は信号線72側(下側)に向かって、沿っている。この接点部81の反りは、可動構造80上面上に設けられた調整膜85によって、得られている。調整膜85は、可動構造80の内部応力よりも大きな圧縮性の内部応力を有している。
また、上記のように、本例のMEMSスイッチ4は、熱駆動型である。それゆえ、可動構造90及び接点部91は、調整膜85の熱膨張率よりも大きい熱膨張率を有する材料が用いられる。尚、一般に、導電体の熱膨張係数は、絶縁膜の熱膨張率よりも大きい。本例において、調整膜85は絶縁体が用いられているが、調整膜85の内部応力及び熱膨張率が、可動構造80及び接点部81の内部応力及び熱膨張率に対する上記の条件を満たしていればよい。
【0180】
本例の熱駆動方式のノーマリ・オン型MEMSスイッチ5は、2つのアンカー82A,82B間の電位差(|Vg−Vgnd|)を所定の電位より大きく設定することで、可動構造80内に電流を流し、電流に起因した熱的な作用によって、MEMSスイッチ5をオフにする。尚、このMEMSスイッチ5は、2つのアンカー82A,82B間の電位差を実質的に0Vに設定することで、オン状態にされる。
【0181】
(b) 動作
図13(b)を用いて、本例のMEMSスイッチ5を用いたESD保護素子68の動作について、説明する。尚、図13(b)は、MEMSスイッチ5のオン/オフ状態時の断面構造を模式的に示している。尚、チップ全体としての動作は、図9及び図10を用いて説明した例と同様であるので、ここでの詳細な説明は省略する。
【0182】
図13(b)に示すように、ICチップ(回路ブロック62)が非アクティブのとき、本例のMEMSスイッチ5は、調整膜85の内部応力に起因した接点部81の反りによって、信号線72と接点部81が接触している。そのため、MEMSスイッチ4(ESD保護素子68)は、駆動電位が無くとも、オン状態になっている。
そして、ESDパルスが信号線73に供給された場合、ESDパルスは、ESD保護素子68としてのMEMSスイッチ5を経由して、グランド線73に放出される。したがって、ICチップ(回路ブロック62)が、ESDパルスによって破壊されることはない。
【0183】
ICチップ(回路ブロック62)がアクティブのとき、図13(a)に示されている2つのパッド75,76間に、ある所定の値以上の電位差(|Vg−Vgnd|)が供給される。すると、電流Iaが、可動構造80内に流れ、この電流Iaによって、可動構造80は発熱する。
【0184】
可動構造80の熱膨張率が、調整膜85の熱膨張率よりも大きいと、可動構造80は、その熱膨張率の違いにより、調整膜85に起因する圧縮性の内部応力を打ち消すような形状変化を起こす。この熱膨張による形状変化によって、可動構造80は信号線72に対して上側に動き、接点部81が信号線72と非接触になる。
【0185】
また、上記のように、ESDパルスは、チップの製造工程中における発生確率が高く、ICチップ(回路ブロック62)の実使用時における発生確率は非常に低い。このため、製造工程後に、MEMSスイッチ5に過大な電流を流し、可動構造80を加熱によって不可逆的に塑性変化させて、MEMSスイッチ5のオフ状態を保持させてもよい。これによれば、MEMSスイッチ5のオフ状態を保持するために、駆動電位が不要となり、オン状態時(ESD保護時)の低消費電力化に加え、MEMSスイッチ5のオフ状態時においても、消費電力を低減できる。また、MEMSスイッチ5を用いたESD保護素子68は、ICチップ(回路ブロック62)から完全に電気的に分離されるため、実使用時のICチップに対して悪影響を及ぼさない。
【0186】
このように、ICチップ(回路ブロック62)がアクティブのとき、可動構造80が形状変化する電流を、可動構造の一端(アンカー82B)から他端(アンカー82A)へ流し、MEMSスイッチをオフにする。これによって、ESD保護素子68は、回路ブロック62から電気的に分離される。
【0187】
本例のように、熱駆動方式のノーマリ・オン型MEMSスイッチ5を用いたESD保護素子68においても、ESD保護素子としてのMEMSスイッチ5は、ICチップ(回路ブロック62)の非アクティブ時にオンにされ、ICチップ(回路ブロック62)のアクティブ時にオフにされる。
したがって、上述の実施例1及び2と同様の効果が得られ、高性能且つ低消費電力のMEMS構造を用いたESD保護素子を提供できる。
【0188】
(5) 実施例5
図14を用いて、MEMSスイッチを用いたESD保護素子の一例について、説明する。図14は、本例のESD保護素子68の構成を示すブロック図である。
【0189】
図9乃至図13を用いて説明した例においては、ノーマリ・オン型MEMSスイッチを用いたESD保護素子によって、トランジスタから構成されるICを、ESDパルスから保護する構成について説明した。但し、各実施例のMEMSスイッチを用いたESD保護素子は、MEMS素子をESDから保護するのに用いてもよいのは、もちろんである。
例えば、図14においては、ノーマリ・オン型のMEMSスイッチ1を用いたESD保護素子68は、RF−MEMS素子69を、ESD保護の対象としている。
【0190】
RF−MEMS素子69の一端には、信号線72が接続され、RF−MEMS素子69の他端には、グランド線73が接続される。そして、ESD保護素子68がRF−MEMS素子69に対して並列接続されるように、ESD保護素子68の一端及び他端が、信号線72及びグランド線73にそれぞれ接続される。
【0191】
ノーマリ・オン型MEMSスイッチ1を用いたESD保護素子68は、RF−MEMS素子69が非アクティブのとき、オン状態となっている。また、そのESD保護素子68は、RF−MEMS素子69がアクティブのとき、オフ状態にされる。
【0192】
この場合においても、ノーマリ・オン型MEMSスイッチ1を用いたESD保護素子68は、MEMS素子69をESD保護対象回路として、ESDパルスから回路を保護できる。したがって、本例においても、実施例1乃至4と同様に、高性能且つ低消費電力のMEMS構造を用いたESD保護素子を提供できる。
【0193】
尚、本例においては、RF−MEMSスイッチをESD保護の対象としたが、他のMEMS構造を用いたデバイスでも同様の効果が得られるのはもちろんである。また、本例において、ESD保護素子68としてのMEMSスイッチは、図11及び図13に示すMEMSスイッチ4,5を用いてもよいのは、もちろんである。
【0194】
(6) まとめ
以上のように、本発明の第2の実施形態において、実施例1乃至5で述べたように、ノーマリ・オン型のMEMSスイッチがESD保護素子に適用される。
そして、ESD保護の対象となる回路(ICやMEMS回路)に電源電圧が供給されていないとき(非アクティブ時)、ESD保護素子としてのMEMSスイッチは、オン(低インピーダンス状態)にされる。一方、ESD保護の対象となる回路に電源電圧が供給されているとき(アクティブ時)、ESD保護素子としてのMEMSスイッチは、オフ(高インピーダンス状態)にされる。
【0195】
これによって、ESDパルスが発生する確率が高い、回路の非アクティブ時において、MEMSスイッチを用いたESD保護素子68は、駆動電位を必要とせずに、オン状態を保持できる。この場合、MEMSスイッチはオン状態を保持しているので、スイッチングによる悪影響も無い。
【0196】
また、ESD保護の対象となる回路のアクティブ時において、MEMSスイッチを用いたESD保護素子68はオフ状態にする。MEMSスイッチは実質的にリークが無いので、ESD保護素子をICチップ(回路ブロック)からほぼ完全に電気的に分離でき、回路に対する電圧降下及び遅延の発生を低減できる。
【0197】
以上のように、本発明の第2の実施形態によれば、ESD保護素子の消費電力を低減でき、且つ、回路に対する悪影響も低減できる。
【0198】
したがって、高性能且つ低消費電力のMEMS構造を用いたESD保護素子を提供できる。
【0199】
[その他]
本発明の例は、上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、各構成要素を変形して具体化できる。また、上述の実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を構成できる。例えば、上述の実施形態に開示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよいし、異なる実施形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0200】
【図1】MEMSスイッチの構造を示す平面図及び断面図。
【図2】MEMSスイッチの製造工程を示す断面図。
【図3】図1のMEMスイッチの動作を説明するための図。
【図4】MEMSスイッチの構造及び動作を説明するための図。
【図5】MEMSスイッチの構造及び動作を説明するための図。
【図6】MEMSスイッチの適用例を説明するための図。
【図7】MEMSスイッチの適用例を説明するための図。
【図8】MEMSスイッチの適用例を説明するための図。
【図9】ESD保護素子の構成例を説明するための図。
【図10】ESD保護素子の構成例を説明するための図。
【図11】ESD保護素子の構造を説明するための図。
【図12】ESD保護素子の構造及び動作を説明するための図。
【図13】ESD保護素子の構造及び動作を説明するための図。
【図14】ESD保護素子の構成例を説明するための図。
【符号の説明】
【0201】
1〜5,1X,1Y:MEMSスイッチ、9:アクチュエータ、10,100:基板、11〜13,98A,98B:電極、14,82A,82B,94A,94B:アンカー、15,80,90:可動構造、16,81,91:接点部、17,17A,17B:凸部、18,18A,18B,85,95:調整膜、20,20A,25A,29:キャップ、40,41:犠牲層、60:スイッチマトリクス、61:電源回路、62:回路ブロック、63〜63:回路ブロック、64:電圧モニタ回路、66:スイッチマトリクス制御回路、67A:パワーオン検知回路、67B:電位生成回路、68,68X:ESD保護素子、69:RF−MEMS素子、70,74,76:パッド、72:信号線、73:グランド線、74,75:配線、93A,93B:トーションバー、96:バネ部、97A,97B:バネ構造。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に設けられた第1及び第2の電極と、
前記第1の電極上に設けられたアンカーと、
前記アンカーに支持され、前記アンカーから前記第2の電極上方まで延在し、導電体が用いられ、前記第2の電極に対して上下方向に動く可動構造と、
前記可動構造の端部に設けられ、前記第2の電極上方に配置される接点部と、
前記可動構造上に設けられ、前記可動構造を構成する材料と応力差を有し、前記接点部を前記第2の電極に向かって反らせる調整膜と、
前記可動構造の周囲を取り囲むように前記基板上に設けられ、前記調整膜に接触し、駆動電極として機能するキャップと、
を具備することを特徴とするスイッチ。
【請求項2】
基板上に設けられた第1及び第2の電極と、
前記基板上に設けられ、前記第1の電極と前記第2の電極との間に設けられる第3の電極と、
前記第1の電極上に設けられるアンカーと、
前記アンカーに支持され、前記アンカーから前記第2の電極上方まで延在し、導電体が用いられ、前記第2の電極に対して上下方向に動く可動構造と、
前記可動構造の端部に設けられ、前記第2の電極上方に配置される接点部と、
前記可動構造上面上に設けられ、前記可動構造を構成する材料と応力差を有し、前記接点部を前記第2の電極に向かって反らせる第1の調整膜と、
前記可動構造底面上に設けられ、前記可動構造を構成する材料と応力差を有し、前記可動構造を前記第3の電極に向かって反らせ、前記第3の電極と接触する第2の調整膜と、
前記可動構造の周囲を取り囲むように前記基板上に設けられ、前記第1の調整膜に接触するキャップと、
を具備することを特徴とするスイッチ。
【請求項3】
ICチップの基板上に設けられ、ESD保護対象である回路とパッドをつなぐ配線に接続される第1の端子と、
前記基板上の前記第1の端子と電源配線との間に設けられ、可動構造を備えるスイッチと、
を具備し、
前記ICチップが非アクティブのとき、前記スイッチが低インピーダンス状態になり、
前記ICチップがアクティブのとき、前記スイッチが高インピーダンス状態になる、
ことを特徴とするESD保護素子。
【請求項4】
前記スイッチは、
前記第1の端子に接続される第1の電極と、
前記基板上に設けられ、前記電源配線に接続され、前記可動構造を支持する少なくとも1つのアンカーと、
前記可動構造の端部に設けられ、前記第1の電極上方に配置される接点部と、
前記可動構造上に設けられ、前記可動構造を構成する材料と応力差を有し、前記接点部を前記第1の電極に向かって反らせる調整膜と、をさらに備え、
前記可動構造は、導電体が用いられ、前記アンカーから前記第1の電極上方まで延在し、前記第1の電極に対して上下方向に動くことを特徴とする請求項3に記載のESD保護素子。
【請求項5】
前記可動構造と前記アンカーとの間に介在するトーションバーと、
前記可動構造に接続され、前記可動構造よりも小さいバネ係数を有するバネ構造と、
前記バネ構造を介して、前記可動構造に接続される上部電極と、
前記基板上に設けられる下部電極と、
をさらに具備していることを特徴とする請求項4に記載のESD保護素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−129371(P2010−129371A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302759(P2008−302759)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】