説明

スタビライザ制御装置

【課題】 アクチュエータの駆動に必要なトルクが過大となったときに、アクチュエータを停止させ、動力が無駄に消費されるのを防ぐようにする。
【解決手段】 車体の横加加速度(ロール量)、電動モータ25の回転位置(モータ実位置)から電流制御許可判断部40により電動モータ25の回転に必要なトルクを算定しつつ、この必要トルクがモータの最大トルクを越えているか否かを判断する。電流制御許可判断部40により電動モータ25が回転可能と判断した場合に、モータ位置制御部37から電流制御部38に指令電流を出力する。電動モータ25を回転できないと判断した場合には指令電流の出力を停止し、スタビライザ装置1の保持力により剛性を確保する。これにより、電力が無駄に消費されるような事態を回避し、エネルギ効率を高めるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に搭載され、車体のロール運動を抑制するのに好適なスタビライザ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両は、コーナリング等の旋回走行時に車体の姿勢を安定させるためにスタビライザ制御装置を備えているものがある。昨今では従前から開発されている油圧式のスタビライザ制御装置の他に、搭載性に優れた電動式スタビライザ制御装置の開発が行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−120175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の旋回走行時にローリング(ロール)が発生しようとすると、スタビライザ制御装置は車体側のロールを抑えるためにアクチュエータを駆動して第1,第2のスタビライザバー間の捩り剛性を高める制御を行う。しかし、車体のロールが過剰に大きくなった場合には、例えば電動モータからなるアクチュエータに過大なトルクが過負荷となって作用する。そして、このような場合には、電動モータに電力を供給しても当該モータを回転駆動することができなくなり、結果的には電力が無駄に消費されるという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、アクチュエータを駆動するのに必要なトルクが過大となったときに、アクチュエータを停止させることによって動力が無駄に消費されるのを低減することができ、エネルギ効率を高めることができるようにしたスタビライザ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために請求項1の発明は、第1のスタビライザバーと、第2のスタビライザバーと、該各スタビライザバーを連結しアクチュエータにより該各スタビライザバー間のねじり剛性を調整する可変剛性部と、前記アクチュエータを制御する制御手段とからなり、前記可変剛性部は、前記第1のスタビライザバーと第2のスタビライザバーとの相対回転に応じたばね力を出力するばね手段と、該ばね手段の移動に対して抵抗力を付与する抵抗手段とを有してなるスタビライザ制御装置において、前記制御手段は、前記第1のスタビライザバーと第2のスタビライザバーとの相対回転により生じる前記ばね力と前記抵抗力との合計値が、予め決められた所定値よりも小さいときに前記アクチュエータを駆動する構成としたことを特徴としている。
【0007】
また、請求項2の発明は、第1のスタビライザバーと、第2のスタビライザバーと、該各スタビライザバーを連結してねじり剛性を調整する可変剛性部とからなり、前記可変剛性部は、前記第1のスタビライザバーと第2のスタビライザバーとの相対回転に応じて直線運動する直動機構と、前記直線運動を抑制する方向に該直動機構を付勢する付勢機構と、該付勢機構を支持する支持手段と、該支持手段を任意の位置で保持力をもって保持する保持手段と、前記支持手段の位置を変更するための力を前記支持手段に付与するアクチュエータと、該アクチュエータの出力を制御する制御手段とを有する構成とし、前記制御手段は、前記第1のスタビライザバーと第2のスタビライザバーとの相対回転により前記付勢機構が付与する付勢力と前記保持力との合計値が、予め決められた所定値よりも小さいときに前記アクチュエータを駆動する構成としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、第1のスタビライザバーと第2のスタビライザバーとの相対回転により生じるばね力と抵抗力(付勢力と保持力)との合計値が、予め決められた所定値よりも大きくなると、アクチュエータの駆動を停止することができ、アクチュエータの動力が無駄に消費されるのを低減できると共に、アクチュエータの効率的な駆動、制御を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施の形態によるスタビライザ制御装置が適用された車両を模式的に示す全体構成図である。
【図2】第1の実施の形態によるスタビライザ装置の具体的構成を示す縦断面図である。
【図3】図1に示すスタビライザ制御装置の制御ブロック図である。
【図4】図3中のモータ位置制御部を具体化して示す制御ブロック図である。
【図5】図3中の電流制御許可判断部を具体化して示す制御ブロック図である。
【図6】電流制御許可判断部における制御処理を示す流れ図である。
【図7】図5中のモータ必要トルク算出部を具体化して示す制御ブロック図である。
【図8】操舵角、横加加速度、モータ必要トルク、電流出力停止フラグ、電流値および剛性の関係を示す特性線図である。
【図9】第2の実施の形態によるスタビライザ制御装置が適用された車両を模式的に示す全体構成図である。
【図10】図9に示すスタビライザ制御装置の制御ブロック図である。
【図11】第2の実施の形態におけるモータ必要トルク算出部を具体化して示す制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態によるスタビライザ制御装置を、添付図面を参照して説明する。
【0011】
図1ないし図8は本発明の第1の実施の形態を示している。図1はスタビライザ装置1を車両の前輪側と後輪側とに使用した場合の全体構成を示し、このスタビライザ装置1は、下記の構成を有することにより車両の横転防止、操縦安定性の向上、さらには乗り心地の向上を図るものである。即ち、車両が道路のコーナ部分等を旋回走行するような状態で、車両にロール方向の慣性力が作用した場合に、車両の前,後に設けられたスタビライザ装置1は、後述するコントローラ29からの制御信号に基づいてそれぞれ車両のロール運動(ローリング)を抑制するように動作し、これにより、車両の横転防止を図り、車両の操縦安定性や乗り心地を向上する。
【0012】
スタビライザ装置1は、長さ方向の中央部分が車両を構成する車体側にブッシュを介して回転可能に取付けられ、図1に示すように、両端側が左,右の車輪側にそれぞれ接続(連結)されている。そして、スタビライザ装置1は、図1、図2に示すように、軸方向の一側に配置される第1のスタビライザバー2と、軸方向の他側に配置される第2のスタビライザバー3と、第1,第2のスタビライザバー2,3の間を連結し、スタビライザバー2,3間の捩り剛性を調整する可変剛性部5とを備えている。
【0013】
また、第2のスタビライザバー3の基端部は、図2に示す如く、延長部4となって後述するケーシング6内に装入されている。第2のスタビライザバー3の延長部4は、ケーシング6内の中心部(軸線O−O)を軸方向に延びた中空軸として形成され、その右側(軸方向の一側)に位置する一側軸部4Aは、ケーシング6の長さ方向中間部まで延びている。延長部4の他側軸部4Bは、ケーシング6に後述のアンギュラ玉軸受9を介して回転可能に支持されている。
【0014】
さらに、延長部4の外周には、一側軸部4Aと他側軸部4Bとの間に位置して後述するボールアンドランプ機構11の回転側ランププレート12が一体的に設けられている。このボールアンドランプ機構11は、スタビライザバー2,3間の相対回転(捩り運動)を捩り剛性をもって互いに伝達するものである。
【0015】
第1,第2のスタビライザバー2,3は、図2に示す如く、軸線O−O上に配置され、車体側に対し軸線O−Oを中心にして捩られる方向に回動自在となるように支持されている。第1,第2のスタビライザバー2,3の間を連結する可変剛性部5は、後述のケーシング6、ボールアンドランプ機構11、付勢機構17、延長部支持部材18、付勢力調整機構20、電動モータ25等により構成されている。
【0016】
可変剛性部5の外形をなすケーシング6は、第1,第2のスタビライザバー2,3間に亘って軸方向に延びる略円筒状の容器として形成されている。そして、ケーシング6は、高い剛性をもった金属材料等により形成され軸線O−Oに沿って軸方向(左,右方向)に延びた略有底円筒状の筒体7と、該筒体7の左側を閉塞した蓋体8と、後述のギヤケース10とを含んで構成されている。
【0017】
ここで、筒体7は、左側の開口部にフランジ部7Aを有し、右側が蓋部7Bによって閉塞されている。また、筒体7の蓋部7Bには、第1のスタビライザバー2の基端側が例えばスプライン結合等の回止め手段を用いて一体的に接続されている。これにより、ケーシング6は、第1のスタビライザバー2と一体的に回動し、第2のスタビライザバー3に対しては相対回転するものである。
【0018】
一方、筒体7の軸方向他側(図2中の左側)に位置する蓋体8は、高い剛性を有する金属材料等により段付円筒状に形成され、筒体7の左側端部を閉塞している。蓋体8の内周側には、後述する一対のアンギュラ玉軸受9が設けられ、該各アンギュラ玉軸受9は、第2のスタビライザバー3を延長部4の位置で回転可能に支持している。
【0019】
筒体7の外周側には、軸方向の右側寄りに位置してギヤケース10が設けられている。このギヤケース10は、軸線O−Oに直交する方向に延びた円筒体からなり、ギヤケース10内には、後述する減速機24のウォームギヤ24B等が収容されている。また、ギヤケース10の長さ方向の中間部には、軸線O−Oとほぼ平行に右側に延びるモータ取付筒部10Aが設けられている。この場合、可変剛性部5のケーシング6は、ボールアンドランプ機構11や付勢機構17等を内部に収納するだけではなく、ケーシング6自体が捩り力、即ち捩りトルクを伝えるための伝達部材としても機能する。
【0020】
直動機構としてのボールアンドランプ機構11は、筒体7の軸方向他側となる左側寄りに位置してケーシング6内に収容されている。ボールアンドランプ機構11は、軸方向他側に位置してケーシング6と相対回転可能な回転側ランププレート12と、該回転側ランププレート12の軸方向一側に対向して筒体7内に設けられ、ケーシング6に対し回転方向に固定された直動側ランププレート13と、各ランププレート12,13間で相対的に転動するように移動可能に設けられた剛体からなる転動体としてのボール14とにより大略構成されている。なお、ボール14として球状体のものを図示しているが、各ランププレート12,13間で転動するものであれば、円錐ころ等の他の転動体でもよい。
【0021】
ここで、ボールアンドランプ機構11は、第1のスタビライザバー2が接続(連結)されたケーシング6と第2のスタビライザバー3との相対回転運動に応じて軸線O−Oに沿った軸方向(図2中の矢示A,B方向)に直線運動するものである。そして、ボールアンドランプ機構11は、後述するランプ溝12A,13Bの形状に従ってトルクの伝達係数が調整され、これによりスタビライザ装置1は、その捩り剛性が調整されるものである。
【0022】
即ち、ボールアンドランプ機構11は、第2のスタビライザバー3とケーシング6とが相対回転したときの角度によって、直動側ランププレート13の軸方向のストロークを変化させることができる。その際、ランプ溝12A,13Bの形状により相対回転角度に対するストローク量を調整することができる。また、直動側ランププレート13のストローク量により付勢機構17の反力が決まり、それが可変剛性部5の捩りトルクとなる。その際、ランプ溝12A,13Bのリード角の設定によりトルクを調整することができる。
【0023】
ここで、直動側ランププレート13は、内周側の案内筒部13Aが延長部4の外周にすべり軸受16を介して支持されている。また、直動側ランププレート13の外周側は、後述の直動ガイド15により回転方向の変位が拘束されるが、軸方向の移動に対しては拘束されていない。これにより、直動側ランププレート13は、内周側のすべり軸受16により延長部4に沿って軸方向に円滑に移動することができる。
【0024】
回転側ランププレート12と直動側ランププレート13には、後述の付勢機構17による推力が作用しており、この推力によってボール14は、回転側ランププレート12と直動側ランププレート13にそれぞれ形成されたランプ溝12A,13Bに押付けられる。そして、ボールアンドランプ機構11は、前記推力とランプ溝12A,13Bの形状とに基づきトルクを伝達する。
【0025】
回転側ランププレート12の右端面(表面)には、ランプ溝12Aが円周方向に延びて複数個(例えば3個)設けられている(1個のみ図示)。ここで、各ランプ溝12Aは、例えば周方向で円弧状に湾曲して形成されている。そして、各ランプ溝12Aは、長さ方向の中央部が最深部となり、この最深部から両端側に向けて所望の曲率で浅くなる円弧状溝として形成されている。
【0026】
また、回転側ランププレート12に対面する直動側ランププレート13の左端面(表面)には、ランプ溝13Bが3個設けられている。この3個のランプ溝13Bは、ランプ溝12Aとほぼ同様に、円弧状に湾曲して形成され、長さ方向の中央部が最深部となり、この最深部から両端側に向けて浅くなる円弧状溝として形成されている。
【0027】
さらに、直動側ランププレート13の外周側には、各ランプ溝13B間に位置して例えば3個のガイド溝13Cが半径方向に延びて形成され、該各ガイド溝13Cには、転がり直動ガイド15が配置されている。この3個の転がり直動ガイド15は、直動側ランププレート13がケーシング6に対して相対回転するのを規制し、筒体7の軸方向に相対変位(直動)するのを許すものである。
【0028】
そして、転がり直動ガイド15は、ガイド溝13Cの溝底側に挿嵌された内側ガイド片15Aと、該内側ガイド片15Aと半径方向で対向するようにガイド溝13C内に軸方向に移動可能に配置された外側ガイド片15Bと、各ガイド片15A,15B間に軸方向に転動可能に設けられた球体15Cとにより大略構成されている。また、外側ガイド片15Bは、筒体7の内周面にボルト止め、圧入、溶接等の手段を用いて固定されている。
【0029】
これにより、各転がり直動ガイド15は、直動側ランププレート13側に固定された内側ガイド片15Aとケーシング6側に固定された外側ガイド片15Bとの間で球体15Cを転動させることにより、ケーシング6と直動側ランププレート13との相対回転を規制しつつ、ケーシング6に対して直動側ランププレート13を軸方向に円滑に移動させることができる。
【0030】
また、第2のスタビライザバー3の延長部4には、一側軸部4Aの外周を覆うようにすべり軸受16が設けられている。このすべり軸受16は、ケーシング6に対して直動側ランププレート13を軸方向に円滑に移動させるもので、案内筒部13Aの内周面に対し、がたつかないように十分に小さな隙間をもってすべり接触するようになっている。
【0031】
このように構成された直動機構としてのボールアンドランプ機構11は、後述する付勢機構17の付勢力を用いて回転側ランププレート12と直動側ランププレート13とを互いに接近する方向に押付けることにより、通常はボール14が両者のランプ溝12A,13Bの最深部に配置される。これによって、第1のスタビライザバー2と第2のスタビライザバー3とは、付勢機構17の付勢力で常に初期角度(車両が左,右方向で傾斜してない角度)になるように付勢される。
【0032】
一方、第1のスタビライザバー2(ケーシング6)と第2のスタビライザバー3とが軸線O−Oを中心にして相対回転した場合には、ランプ溝12Aとランプ溝13Bとが周方向で相対的に位置ずれするから、各ボール14は、各ランプ溝12A,13Bの中央部から端部側に移動する。これにより、各ランププレート12,13は、各ランプ溝12A,13Bの傾斜に従って互いに軸方向に離間する方向に変位する。このため、ランプ溝13Bをランプ溝12Aに向け押付けている付勢機構17の付勢力は大きくなり、このときの捩り剛性を大きくすることができる。
【0033】
付勢機構17は、直動側ランププレート13の右側に位置して筒体7内に設けられている。この付勢機構17は、ボールアンドランプ機構11の軸方向一側(右側)に位置して延長部4の外周に設けられている。付勢機構17は、直動側ランププレート13の直線運動を抑制する方向に該直動側ランププレート13を付勢するもので、回転側ランププレート12に向けて直動側ランププレート13を押付ける押付力を発生する弾性部材により構成されている。
【0034】
即ち、付勢機構17を構成する弾性部材には、図2に示すように複数枚(例えば7枚)の皿ばねを互い違いに重ね合わせて配置したものが用いられている。皿ばねを連ねてなる付勢機構17は、その一端側が直動側ランププレート13に当接し、他端側が後述のプランジャ21に当接するように配置されている。そして、付勢機構17は、ボールアンドランプ機構11の直動側ランププレート13に対し矢示A方向の付勢力(推力)を与えるものである。
【0035】
筒体7内には、付勢機構17の一端側となる右側に位置して延長部支持部材18が設けられている。この延長部支持部材18は、ケーシング6を構成する筒体7の中心部(軸線O−O)側で第2のスタビライザバー3の延長部4を支持するものである。また、延長部支持部材18は、小径な有底円筒状の支持筒18Aと、該支持筒18Aの周方向の3箇所に位置して外周面から突出した扇状突起18Bと、該各扇状突起18Bの外周面から径方向の外向きに延びた脚部18Cとにより大略構成されている。
【0036】
延長部支持部材18を構成する支持筒18A内には、延長部4の一側軸部4Aがすべり軸受16を介して回転自在に挿嵌されている。一方、半径方向に延びた3本の脚部18Cの先端は、筒体7の内周面にボルト止め、圧入、溶接等の手段を用いて固定されている。これにより、延長部支持部材18は、延長部4の一側軸部4Aを軸線O−Oの位置で回転可能に支持することができ、他側軸部4Bを支持するアンギュラ玉軸受9との間で延長部4を両持ち状態で支持することができる。また、支持筒18A内には玉軸受19が設けられ、延長部支持部材18は、玉軸受19を介して後述するねじ部材22の小径部22Bを軸線O−O上で回転可能に支持している。
【0037】
さらに、延長部支持部材18は、隣合う扇状突起18B、脚部18Cの間が軸方向に貫通した切欠き部(図示せず)となり、これらの切欠き部内には、後述するプランジャ21の押し爪21Bが挿通される。これにより、ケーシング6に固定された延長部支持部材18は、プランジャ21の軸方向の移動を許可しつつ、各扇状突起18Bがプランジャ21の回転を規制する廻止め部材として機能している。
【0038】
付勢機構17の一端側となる右側に位置して筒体7内に付勢力調整機構20が設けられ、該付勢力調整機構20は、軸方向(矢示A,B方向)に移動することにより付勢機構17の付勢力を調整するものである。付勢力調整機構20は、後述するプランジャ21の各押し爪21Bが延長部4の外周に配置されている。また、付勢力調整機構20は、例えば付勢機構17の伸縮方向に任意の大きさのセット荷重を付与するものである。
【0039】
付勢力調整機構20は、筒体7内を軸方向に移動可能なプランジャ21、ねじ部材22等により構成されている。ここで、プランジャ21は、ベースとなる円板部21Aを有し、この円板部21Aの表面(左側面)には、延長部支持部材18の前記各切欠き部を貫通して付勢機構17側に延びる3個の押し爪21Bが設けられている。そして、プランジャ21は、各押し爪21Bが直動側ランププレート13との間で付勢機構17をプリセット状態(セット荷重を付与した状態)で挟むように、直動側ランププレート13に軸方向で対向して設けられている。プランジャ21は、付勢機構17(皿ばね)の付勢力を受承して支持する支持手段を構成している。
【0040】
さらに、円板部21Aの中心部にはねじ孔21Cが設けられ、該ねじ孔21Cは、例えば台形ねじとして形成されている。そして、プランジャ21のねじ孔21Cは、後述するねじ部材22の雄ねじ22Cと共に、後述の電動モータ25による回転運動をプランジャ21の直線運動に変換するねじ機構を構成すると共に、支持手段としてのプランジャ21に摩擦力による保持力を与え、プランジャ21を任意の位置で保持する保持手段を構成している。
【0041】
このように、プランジャ21は、台形ねじからなる保持手段(即ち、ねじ孔21Cと雄ねじ22C)を介してねじ部材22に螺合しているため、後述の電動モータ25を用いてねじ部材22を回転駆動しない限りは、図2中の矢示A,B方向のいずれにも変位することはなく、付勢機構17の付勢力によってプランジャ21が軸方向に動くことはない。
【0042】
プランジャ21の内周側から軸方向に延びたねじ部材22は、中空な段付軸として形成され、軸線O−Oを中心として回転するものである。即ち、ねじ部材22は、軸方向一側(右側)の大径部22Aと軸方向他側(左側)の小径部22Bとからなり、両者の間には後述のウォームホイール24Aが一体に形成されている。ねじ部材22は、大径部22Aの先端が筒体7の蓋部7Bにスラスト玉軸受23を介して回転可能に支持され、小径部22Bの先端が延長部支持部材18に対し玉軸受19を介して回転可能に支持されている。
【0043】
ねじ部材22の小径部22Bの外周側には、プランジャ21のねじ孔21Cに螺合する台形ねじからなる雄ねじ22Cが形成され、該雄ねじ22Cは、ねじ孔21Cと一緒にプランジャ21を軸方向に変位させるねじ機構を構成すると共に前記保持手段を構成している。また、ねじ部材22の外周側には、小径部22Bと大径部22Aとの間に位置して後述する減速機24のウォームホイール24Aが一体的に設けられている。
【0044】
ここで、ねじ部材22は、大径部22Aが筒体7の蓋部7B内にスラスト玉軸受23を介して回転可能に支持されている。このため、ねじ部材22に作用する軸方向のスラスト荷重は、このスラスト玉軸受23を介して筒部7により受承され、後述の電動モータ25にスラスト荷重が作用するのを抑えることができる。
【0045】
このように構成された付勢力調整機構20は、電動モータ25によってねじ部材22を正,逆方向に回転駆動し、プランジャ21の各押し爪21Bを直動側ランププレート13に接近させる図2中の矢示A方向と、該直動側ランププレート13から離間させる矢示B方向とに直線的に変位させる。これにより、付勢機構17の各皿ばねは、直動側ランププレート13とプランジャ21の各押し爪21Bとの間で軸方向に撓み変形し、両者の間隔(離間寸法)に応じてボールアンドランプ機構11に対する付勢力、即ちばね荷重が可変に調整される。
【0046】
従って、付勢力調整機構20は、電動モータ25によりねじ部材22を回転駆動してプランジャ21を軸方向に変位させ、ボールアンドランプ機構11に対する付勢機構17の付勢力を調整する。これにより、スタビライザ装置1は、各スタビライザバー2,3間の捩れ角に対する捩り剛性としての捩りトルクを、車両の直進走行時、コーナリング走行時等の走行状態に応じてソフトからハードまで可変に調整することができる。
【0047】
ギヤケース10の位置に設けられた減速機24は、ねじ部材22の外周側に一体的に設けられたウォームホイール24Aと、ギヤケース10内に設けられ該ウォームホイール24Aに噛合したウォームギヤ24Bと、該ウォームギヤ24Bと一体に回転する回転軸24Cとを含んで構成されている。減速機24は、ウォームギヤ24Bの回転をウォームホイール24Aで減速し、大きな回転トルクをねじ部材22に発生させるものである。
【0048】
減速機24を回転駆動するアクチュエータとしての電動モータ25は、ケーシング6に一体形成されたギヤケース10のモータ取付筒部10A内に収納して設けられている。この電動モータ25は、その回転出力が減速機24により減速されてねじ部材22に伝えられるため、出力トルクが相対的に小さい小型のモータを用いることができる。電動モータ25は、各スタビライザバー2,3間で大きなトルクを伝達する部位、付勢機構17による大きな軸力が作用する部位から離れた位置に配置しているから、雨水、飛石等から内部を保護できる程度の強度を有していればよく、軽量なケース等を用いることができる。
【0049】
また、電動モータ25は、制御手段を構成する後述のコントローラ29に電気的に接続され、電動モータ25の回転がコントローラ29によって制御される。コントローラ29の入力側には、図1に示すようにハンドルの操舵角を検出する操舵角センサ26、車両の走行速度を検出する車速センサ27および車体側の横加速度を検出する横加速度センサ28(以下、横Gセンサ28という)等が接続され、出力側にはスタビライザ装置1のアクチュエータである電動モータ25が接続されている。
【0050】
コントローラ29は、図3に示すように、車両モデル部30、微分部31、FF演算部32、時間保持部33、FB演算部34、加算部35、目標位置算出部36、モータ位置制御部37、電流ドライバからなる電流制御部38、電流センサ部39および電流制御許可判断部40等を含んで構成されている。なお、以下の説明では、前輪側のスタビライザ装置1を例に挙げて説明するが、後輪側のスタビライザ装置1についても基本的には同一の制御が行われる。但し、前輪側と後輪側とでは制御ゲイン、制御マップがそれぞれの設置条件に従って変えられるものである。
【0051】
この場合、コントローラ29は、操舵角センサ26で検出した操舵角の信号と車速センサ27で検出した車速の信号とに基づいて、車両モデル部30で下記のように横加速度αy を推定する演算を行う。推定された横加速度αy に基づきフィードフォワード制御(FF制御)にて目標剛性を算出することにより、ロール時の制御性能を向上できるようにしている。
【0052】
まず、車両モデル部30では操舵角(前輪舵角δf )と車速Vとより、下記の数1式の車両モデルを用いて横加速度αy を推定する。ここで、横加速度αy は車両の線形モデルを仮定し、動特性を無視すると、数1の式により求めることができる。但し、Vは車速(m/s)、Aはスタビリティファクタ(S/m)、δf は前輪舵角(rad)、Lはホイールベース(m)である。
【0053】
【数1】

【0054】
次の微分部31では、横加速度(即ち、数1式による横加速度αy )を微分して横加加速度を算出する。フィードフォワード演算部であるFF演算部32は、図3に示す演算マップを参照して前記横加加速度にゲインを乗算することで、車両のロール抑制を行うための目標剛性を決定する。FF演算部32による目標剛性は、操舵角から推定した横加加速度に基づく制御量であるため、車両が旋回を開始する前にスタビライザ装置1の剛性を高めることができる。時間保持部33は、FF演算部32による目標剛性の制御量を予め決められた時間だけ保持することにより、例えば左,右方向に連続してステアリング操作を行う場合でも、制御量を切換えることなく保つことができ、消費動力の低減化に寄与できるものである。
【0055】
一方、FB演算部34は、図3に示す演算マップを参照することにより横Gセンサ28で検出した車体側の横加速度に対する目標剛性をフィードバック制御による演算で求める。そして、加算部35では、FF演算部32による目標剛性とFB演算部34による目標剛性とを足し合わせて最終的な目標剛性を算定する。ここで、FF演算部32とFB演算部34の目標剛性を足し合わせる構成としたが、値の大きい方を選択するハイセレクトとしてもよい。次の目標位置算出部36は、このときの目標剛性に対応した電動モータ25の目標位置(例えば、モータ出力軸の目標となる回転位置)を算出する。
【0056】
次のモータ位置制御部37では、図4に示すように、電動モータ25の実位置(実際の回転位置)と目標位置算出部36から出力される目標位置との偏差を偏差演算部41で求め、このときの偏差に対して後述の如くPI制御を行うことにより、電動モータ25の実際の回転位置(実位置)が目標位置と一致するように制御演算を行うものである。
【0057】
即ち、ゲイン乗算部42では、前記偏差に対して比例要素のゲインKpを乗算する。積分器43は前記偏差を積分し、他のゲイン乗算部44では、この積分値に対して積分要素のゲインKsを乗算する。加算部45は、ゲイン乗算部42,44からの出力値を加算し、この加算値に対応した制御値をマップ演算部46により図4に示すマップを参照して算出する。マップ演算部46で算出された制御値は、電動モータ25を前記目標位置まで回転させるために必要な指令電流として出力されるものである。
【0058】
信号切替部47は、電流制御許可判断部40から出力される制御許可フラグが後述の図6に示す制御処理により値「0」にセットされているか、値「1」にセットされているかを判定し、値「1」の場合にはマップ演算部46で算出された制御値を指令電流として電流制御部38に出力する。しかし、制御許可フラグが値「0」に切換わったときに、信号切替部47は、記憶部48に予め格納された制御値「0」を、電流値が零の指令電流として電流制御部38に出力する。これにより、電動モータ25による無駄な電流消費を低減することができる。
【0059】
なお、前述したモータ位置制御部37では、電動モータ25の実位置と目標位置との偏差に対してPI制御を行う場合を例に挙げて説明したが、これ以外の制御(例えば、比例要素を用いたP制御、これに微分要素を追加して行うPD制御、またはPID制御)を行う構成としてもよく、要は、電動モータ25の実位置を目標位置に短時間で一致または近付けるようにモータの回転位置制御を行う構成とすればよいものである。
【0060】
次に、電流制御許可判断部40は、図5に示すようにモータ必要トルク算出部49、微分器50、モータ最大トルクの記憶部51および制御可能判断部52を含んで構成されている。モータ必要トルク算出部49は、後述の図7に示す制御ブロック図に沿って電動モータ25を回転させるのに必要なトルクを、モータ実位置と目標位置と横Gセンサ28による横加速度とから演算により算出する。
【0061】
微分器50は、モータ実位置を微分して電動モータ25の回転速度を求め、これを制御可能判断部52に出力する。記憶部51は、電動モータ25から出力可能なトルク値をモータ最大トルクとして予め格納されており、このモータ最大トルクのトルク値を制御可能判断部52に出力する。また、電動モータ25に印加している電流値を電流センサ部39(図3参照)で検出し、このときの電流値を制御可能判断部52に出力する。そして、制御可能判断部52は、図6に示す制御処理を行うことにより電動モータ25の回転制御が可能な状態にあるか否かを判断するものである。
【0062】
即ち、図6示す処理動作がスタートすると、ステップ1では、モータ速度がほぼ零(モータ速度≒0)で、かつ電流値が最大となっているか否かを判定する。ステップ1で「NO」と判定するときには、ステップ2に移ってモータ必要トルク算出部49から出力されたモータ必要トルクが、記憶部51に格納された最大トルクを越えたか否かを判定する。ステップ2で「NO」と判定するときには、電動モータ25に電流を供給すればモータの回転制御が可能な場合であるから、ステップ3に移って電流制御許可フラグを「1」にセットし、この状態で次のステップ4に移ってリターンする。
【0063】
一方、ステップ1で「YES」と判定した場合には、供給電流が最大になっているにも拘わらず、電動モータ25は実質的に回転されない状態にあるので、ステップ5に移って電流制御許可フラグを「0」にセットする。また、ステップ2で「YES」と判定したときにも、モータ必要トルクが最大トルクを越えているので、ステップ5に移って電流制御許可フラグを「0」にセットする。
【0064】
これにより、図4に示す信号切替部47は、記憶部48に予め格納された制御値「0」を電流値が零の指令電流として電流制御部38に出力させ、電動モータ25への給電を停止する。この結果、電動モータ25は回転が停止され、この停止位置に保持される。即ち、図2に示すスタビライザ装置1のプランジャ21は、台形ねじからなる保持手段(即ち、ねじ孔21Cと雄ねじ22C)を介してねじ部材22に螺合しているため、電動モータ25が停止している限りは、図2中の矢示A,B方向のいずれにも変位することはなく、付勢機構17の付勢力によってプランジャ21が軸方向に動くことはない。
【0065】
次に、モータ必要トルク算出部49は、図7に示すように、変位算出部53、ロール角推定部54、捩れ角算出部55、ランプ変位算出部56、第1加算部57、軸力演算部58、絶対値演算部59、摩擦力算出部60、トルク算出部61、偏差演算部62、第1掛け算部63、符号判断部64、第2掛け算部65および第2加算部66を含んで構成されている。
【0066】
変位算出部53は、電動モータ25の実位置に従ってねじ部材22の変位をねじ変位として算出する。ロール角推定部54は、例えばX軸方向の横加速度、Y軸方向のロール角、Z軸方向のねじ変位からなる特性を予め記憶した三次元マップ(図7参照)を参照することにより、横Gセンサ28からの横加速度と前記ねじ変位とに従って車体側のロール角をマップ演算により推定する。
【0067】
捩れ角算出部55は、ボールアンドランプ機構11の捩れ角と推定したロール角とが比例関係にあるので、ロール角推定部54によるロール角に比例した捩れ角を算出する。ランプ変位算出部56は、ボールアンドランプ機構11の捩れ角とランプ変位との特性を予め記憶した二次元マップを参照することにより、捩れ角算出部55で求めた捩れ角に対するランプ変位を算出する。
【0068】
第1加算部57は、上述の如く算出したねじ変位とランプ変位とを加算し、これにより、皿ばねからなる付勢機構17の撓み量を求める。軸力演算部58は、前記皿ばねのばね定数を付勢機構17の撓み量に乗算して付勢機構17に発生する軸力(推力)を算出する。絶対値演算部59は算出した軸力の絶対値をとり、摩擦力算出部60は、この絶対値に摩擦係数を乗算して摩擦力、即ち摩擦トルクを算出する。トルク算出部61は、前記軸力の絶対値からねじ部材を回転させるためのトルクを算出する。
【0069】
一方、偏差演算部62は、電動モータ25の実位置と目標位置算出部36からのモータ目標位置との偏差を演算し、第1掛け算部63では、この偏差をモータ実位置に掛け算する。符号判断部64では、第1掛け算部63からの入力値が零より大きいか否かを判断し、入力>0のときには、出力を「+1」に設定する。そして、入力≦0のときには、出力を「−1」に設定する。
【0070】
即ち、電動モータ25によってねじ部材22を回転駆動するときの必要トルクは、付勢機構17による軸力(推力)に抗してねじ部材22を回転する正方向の回転トルクと、これとは逆方向にねじ部材22を回転するときの逆方向の回転トルクとで大きく異なる。そこで、符号判断部64では、前述の如く入力の正,負に応じて出力の符号を切替え、前記軸力が電動モータ25の回転トルクに対して抵抗となる場合には出力を「+1」に設定し、抵抗とならない場合は出力を「−1」に設定する。
【0071】
これにより、第2掛け算部65は、前記軸力が抵抗となる場合にトルク算出部61のトルク値と前記出力の「+1」とを掛け算し、第2加算部66では、このときのトルク値を摩擦力算出部60の摩擦トルクに加算して電動モータ25の必要トルクを大きな値に設定する。一方、前記軸力が抵抗とはならない場合には、第2掛け算部65によりトルク算出部61のトルク値と前記出力の「−1」とを掛け算し、第2加算部66では、マイナスのトルク値を摩擦力算出部60の摩擦トルクに加算して電動モータ25の必要トルクを小さな値に設定する。
【0072】
本実施の形態によるスタビライザ制御装置は、上述の如き構成を有するものであり、次に、その作動について説明する。
【0073】
まず、車両が直進している場合には、車体がロールすることはほとんどない。このために、スタビライザ装置1に求められる捩り剛性は小さく、各スタビライザバー2,3は比較的容易に独立して回動することができる。これにより、例えば直進走行時に一方の車輪が凹部に落ちることがあっても、この一方の車輪だけをストロークさせることができ、安定した走行姿勢を得ることができる。
【0074】
即ち、操舵角、アクセル操作量、ブレーキ操作量、横加速度等の情報を基にして車両の走行状態を判断し、直進走行していると判断した場合には、スタビライザ装置1のねじ部材22を電動モータ25によって予め決められた位置まで回転させ、付勢機構17による軸力(推力)が発生する範囲内で直動側ランププレート13とプランジャ21の押し爪21Bとを離間させる。これにより、付勢機構17に付加される初期荷重を小さくし、第1のスタビライザバー2と第2のスタビライザバー3とを相対回転させるのに必要な捩り力(即ち、捩りトルク)も小さくする。従って、スタビライザ装置1の捩り剛性を小さくできるから、左,右の車輪は、路面の凹凸に合わせて独立してストロークすることができ、良好な乗り心地を得ることができる。
【0075】
次に、ハンドルを操作して道路のコーナ部分等をステアリング走行する場合には、外側へのロールを抑える必要がある。そこで、このような場合には、スタビライザ装置1のねじ部材22を電動モータ25によって先程とは逆方向に回転させ、直動側ランププレート13とプランジャ21の押し爪21Bとの離間寸法を直進時よりも小さくする。これにより、付勢機構17に付加される軸力(初期荷重)が大きくなるから、第1のスタビライザバー2と第2のスタビライザバー3とを相対回転させるのに必要な捩り力も大きくなる。従って、スタビライザ装置1は、各スタビライザバー2,3間の捩り剛性を高めることで、車体が外側にロールするのを抑えることができ、コーナリング時の走行姿勢を安定させることができる。
【0076】
このコーナリング時の制御では、左コーナを走行する場合、右コーナを走行する場合のいずれでも、付勢力調整機構20によって付勢機構17の初期荷重を大きくすることになる。これにより、山道を走行する場合、スラローム走行を行う場合のように、左コーナと右コーナとが交互に続く場合でも、各スタビライザバー2,3間の捩り剛性を一度高めた後には、速度やコーナの大きさに応じて微調整するだけでよく、電動モータ25の頻繁な駆動を防止することができる。
【0077】
ここで、図8に示す特性線は、車両が直進走行の途中で車線変更を行うために隣の車線への乗り移りを想定したときの作動例である。特性線67は、操舵角センサ26で検出した操舵角の特性であり、例えば時間T1 の前,後で車線変更のためにハンドル操作(操舵)が行われている。例えば時間T6 の段階で車線変更が完了し、ハンドルの操作(操舵)も中立位置に戻されている。
【0078】
特性線68は横加加速度の特性を示し、図3に示す車両モデル部30で前記数1式により演算された横加速度αy を微分器31により微分して求められた特性である。特性線68における保持時間は、図3中の時間保持部33による保持時間を示している。モータ必要トルクの特性線69は、電流制御許可判断部40のモータ必要トルク算出部49(図7参照)で前述の如く算出した特性である。
【0079】
電流出力停止フラグの特性線70は、電流制御許可判断部40の制御可能判断部52(図5参照)から出力される制御許可フラグの特性を示し、停止時には反転して電流制御許可フラグが「0」にセットされ、許可時には電流制御許可フラグが「1」にセットされるものである。図8中に実線で示す電流値の特性線71は、図3に示す電流制御部38から電動モータ25に出力する電流値を電流センサ部39により検出したものである。点線で示す特性線72は、比較例(例えば、電流制御許可判断部40を有していないスタビライザ制御装置)による電流値の特性を表したものである。剛性の特性線73は、スタビライザ装置1のスタビライザバー2,3間に発生する捩りトルクの剛性を示したものであり、電動モータ25に電流を出力して目標剛性となるように剛性を可変に制御している。
【0080】
図8中の特性線68による横加加速度が制御閾値±αを越えると、目標剛性を高くするため、例えば時間T1 以降で特性線69に示すようにモータ必要トルクが大きくなり、特性線71,72に示すように電動モータ25に出力する電流値も高く設定される。これにより、スタビライザ装置1の剛性は、特性線73に示すように時間T1 以降で増大される。
【0081】
ところで、モータ必要トルクの特性線69に示すように時間T2 〜T3 では、スタビライザ装置1の電動モータ25を回転させるのに必要なトルクが最大トルクを越えている。このため、比較例の特性線72のように時間T1 〜T4 にわたって電流を供給し続けても、例えば時間T2 〜T3 では電動モータ25を回転させることができず、この間は電力が無駄に消費されることになる。
【0082】
そこで、第1の実施の形態では、特性線69に示すようにモータ必要トルクが時間T2 〜T3 間で最大トルクを越えたときには、電流出力停止フラグ(特性線70)を停止させて電流制御許可フラグを「0」にセットすることにより、実線で示す特性線71のように、時間T2 〜T3 間では電流の出力を停止する構成としている。
【0083】
このため、時間T2 〜T3 間で消費電力が無駄に消費されるのを防止でき、スタビライザ装置1に要求される剛性を確保することができる。そして、時間T3 〜T4 のように、モータ必要トルク(特性線69)が最大トルクよりも小さくなったときには、再び電動モータ25に電流を出力してスタビライザ装置1の剛性を可変に制御することができ、スタビライザ装置1に要求される性能を十分に確保することができる。
【0084】
なお、図8中の時間T4 〜T5 間でも、モータ必要トルク(特性線69参照)が最大トルクを越えている。しかし、この場合には、時間T1 〜T4 にわたる制御でスタビライザ装置1の剛性を、例えば最大の剛性値まで既に高めた状態にあるから、台形ねじによる摩擦保持力(即ち、ねじ孔21Cに螺合した雄ねじ22Cの摩擦トルク)を利用してスタビライザ装置1の剛性を確保することができ、電動モータ25への給電を停止することができる。
【0085】
上述したように、第1の実施の形態では、電流制御許可判断部40のモータ必要トルク算出部49により電動モータ25が回転可能か否かを各種のセンサ情報から推定し、制御可能判断部52により回転可能と判断した場合にのみ、モータ位置制御部37から電流制御部38に指令電流を出力することができ、これによって無駄な消費電力を低減することが可能となる。
【0086】
即ち、モータ必要トルク算出部49では、車体の横加加速度(ロール量)や電動モータ25の回転位置(モータ実位置)から電動モータ25を回転するのに必要なトルクを推定し、その値をモータ最大トルクと制御可能判断部52で比較し、最大トルク以下であった場合にのみ、電動モータ25を回転駆動できると判断して電流の出力を許可するロジックを追加したものである。これにより、電動モータ25を過負荷により回転できずに、消費電力を無駄にするような場合を大幅に削減でき、エネルギ効率を高めて消費動力を低減することができる。
【0087】
モータ必要トルク算出部49では、電動モータ25の回転に必要なトルクの推定するために、電動モータ25の回転角とロール角(スタビライザバー2,3間の捩れ角)から必要なトルクを求める。このトルクは台形ねじ(例えば、ねじ孔21Cと雄ねじ22C)の摩擦と付勢機構17の軸力によるトルクであり、軸力によるトルクは常に電動モータ25を押し戻す方向に働いている。このため、符号判断部64では、付勢機構17による軸力が電動モータ25の回転トルクに対して抵抗になる場合か否かを判別する構成としている。
【0088】
これにより、車体のロール量(スタビライザバー2,3間の捩れ角)とモータ回転角、目標回転角から電動モータ25を回転させるのに必要なトルクを推定することができ、モータ最大トルク以下の場合にのみ電動モータ25に電流を出力することができる。この結果、電動モータ25を回転駆動することができない大ロール時において、電力が無駄に消費されるのを防ぐことができ、エネルギ効率を向上することができる。
【0089】
また、車線変更時等での切り戻し時にロール量が小さくなる場合に回転に必要なトルクが小さくなり回転可能となる条件も判断可能であるため、操舵初期に応答性が悪いため間に合わなかった場合にも切り戻し時に剛性を高めることができる。
【0090】
なお、前記第1の実施の形態では、図6に示す制御処理を制御可能判断部52で行うことにより、電動モータ25の回転制御が可能か否かを判断する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、下記のように誤差を含んだ判定処理を行う構成としてもよい。
【0091】
即ち、モータ必要トルク算出部49で行うモータ必要トルクは推定演算による誤差を含んでいるため、〔モータ必要トルク+誤差<モータ最大トルク〕とした判定処理を行う方がよい。但し、この場合の誤差は、プラス(+)側の誤差か、マイナス(−)側の誤差であるかを判別するのが難しい。このため、制御性能を維持するために−側の誤差と見做して、モータ必要トルクを実際よりも小さくすると、回転可能な範囲でも誤差によって制御しない場合を防ぐことができる。さらに、電動モータ25が回転不可能な場合には、電流を出力してもモータ回転位置(実位置)が変わらないため、この判断で制御を中止することにより、消費動力を抑えることもできる。また、+側の値とすることで制御可能な範囲でもあえて制御しないようにすることで、消費動力低減効果を高めることができる。
【0092】
次に、図9ないし図11は本発明の第2の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、左,右の車輪側に設けた車高センサからの信号により左,右の車高差を求め、この車高差に基づいて車体のロール量(スタビライザバー2,3間の捩れ角)を算出する構成したことにある。なお、本実施の形態では前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0093】
図中、81〜84は本実施の形態で採用した車高センサで、該車高センサ81〜84のうち車高センサ81は、例えば図10に示す「車高RH」として右前輪側に設けられ、この位置で車高を検出する。「車高LH」としての車高センサ82は、左前輪側に設けられ、この位置で車高を検出する。また、右後輪側には、車高センサ83が「車高RH」として設けられ、左後輪側には「車高LH」としての車高センサ84が設けられている。
【0094】
85は本実施の形態で採用した制御手段としてのコントローラで、該コントローラ85は、第1の実施の形態で述べたコントローラ29と同様に、車両モデル部30、微分部31、FF演算部32、時間保持部33、FB演算部34、加算部35、目標位置算出部36、モータ位置制御部37、電流ドライバからなる電流制御部38、電流センサ部39および後述の電流制御許可判断部86等を含んで構成されている。
【0095】
86は本実施の形態で採用した電流制御許可判断部で、該電流制御許可判断部86は、第1の実施の形態で述べた電流制御許可判断部40(図5参照)と同様に、微分器50、モータ最大トルクの記憶部51、制御可能判断部52および後述のモータ必要トルク算出部87を含んで構成されている。しかし、この場合の電流制御許可判断部86は、モータ必要トルク算出部87の構成が第1の実施の形態とは相違している。
【0096】
モータ必要トルク算出部87は、第1の実施の形態で述べたモータ必要トルク算出部49と同様に、変位算出部53、ランプ変位算出部56、第1加算部57、軸力演算部58、絶対値演算部59、摩擦力算出部60、トルク算出部61、偏差演算部62、第1掛け算部63、符号判断部64、第2掛け算部65および第2加算部66を含んで構成されている。しかし、この場合のモータ必要トルク算出部87は、図10に示すように車高差演算部88および捩れ角算出部89を備えている点で第1の実施の形態とは異なっている。
【0097】
ここで、車高差演算部88は、例えば右前輪側の車高センサ81と左前輪側の車高センサ82による車高信号から両者の偏差を演算する。この偏差は、左,右のスタビライザバー2,3間の相対変位に対応するものである。捩れ角算出部89は、車高差演算部88で演算した偏差(相対変位)からスタビライザバー2,3間の捩れ角(ボールアンドランプ機構11の捩れ角)を算出する。即ち、捩れ角=相対変位×比例係数 として算出される。比例係数は、スタビライザバー2,3の取付位置、レバー比等により予め決められる定数である。
【0098】
次に、ランプ変位算出部56では、第1の実施の形態で述べたようにスタビライザバー2,3間(ボールアンドランプ機構11)の捩れ角とランプ変位との関係を予め記憶した二次元マップにより、ボールアンドランプ機構11の捩れ角に対するランプ変位を算出する。そして、その後は第1の実施の形態でも述べたように、第1加算部57、軸力演算部58、絶対値演算部59、摩擦力算出部60、トルク算出部61、偏差演算部62、第1掛け算部63、符号判断部64、第2掛け算部65および第2加算部66による演算、制御を行うものである。
【0099】
かくして、このように構成される第2の実施の形態でも、電流制御許可判断部86のモータ必要トルク算出部87により電動モータ25が回転可能か否かを各種のセンサ情報から推定し、回転可能と判断した場合にのみ指令電流を出力することによって無駄な電力消費を低減することができ、第1の実施の形態とほぼ同様な効果を得ることができる。
【0100】
特に、第2の実施の形態では、左,右の前輪側の車高センサ81,82または左,右の後輪側の車高センサ83,84から出力される車高信号により、ボールアンドランプ機構11の捩れ角とランプ変位を算出する構成としているので、旋回や路面入力によるロールを関係なく検出できるため、どのような場合でも正確なモータ必要トルクを算出することができ、条件によらず消費動力の低減が可能となる。
【0101】
例えば、走行路側での路面入力によってスタビライザバー2,3間が捩られている場合でも、車高センサ81,82(83,84)によってスタビライザバー2,3間の捩れ角が検出できるようなシステム構成としているので、このような場合にも電動モータ25を回転駆動するのに必要なトルクが推定でき、消費動力を低減することができる。
【0102】
なお、前記第2の実施の形態では、車高センサ81〜84を用いて左,右の車高差を演算により求める場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばばね上側の上,下方向加速度センサを用いたオブザーバによる車高の推定、またはその他の信号を用いたオブザーバ等により左,右の車高差を算出する構成としてもよい。
【0103】
また、前記各実施の形態では、各ランププレート12,13にそれぞれ3個のランプ溝12A,13Bを設け、該各ランプ溝12A,13Bに3個のボール14を収容した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えばランプ溝12A,13Bを2個または4個以上設け、ボール14を2個または4個以上設ける構成としてもよい。また、ボール14に代えて円錐ころ等を用いる構成としてもよい。
【0104】
また、各実施の形態では、付勢機構17を複数枚の皿ばねにより構成した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えばコイルばね等の他の弾性体を皿ばねに代えて用いることにより付勢機構を構成してもよい。また、保持手段としては、台形ねじに限らず、例えばラチェット、トルクダイオード等を用いてもよい。
【0105】
一方、各実施の形態では、ねじ部材22と電動モータ25との間に、ウォームホイール24A、ウォームギヤ24B等からなるウォームギヤ式の減速機24を設けた場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えばウォームギヤ式の減速機24に代えて、遊星歯車式の減速機等を用いる構成としてもよい。
【0106】
また、各実施の形態では、電動モータ25をケーシング6(軸線O−O)と平行となるように配置した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば軸線O−Oと直交する方向に電動モータを配置し、この電動モータによってウォームギヤを直接的に回転駆動する構成としてもよい。
【0107】
また、各実施の形態では、アンギュラ玉軸受9、すべり軸受16、玉軸受19、スラスト玉軸受23を使用した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限ることなく、これらの軸受に代えて、同様の機能をもった他の軸受を組み合わせて使用する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0108】
1 スタビライザ装置
2 第1のスタビライザバー
3 第2のスタビライザバー
4 延長部
5 可変剛性部
6 ケーシング
7 筒体
8 蓋体
11 ボールアンドランプ機構(直動機構)
12 回転側ランププレート
13 直動側ランププレート
14 ボール
16 すべり軸受
17 付勢機構(ばね手段)
18 延長部支持部材
20 付勢力調整機構
21 プランジャ(支持手段)
21B 押し爪
21C ねじ孔(保持手段、抵抗手段)
22 ねじ部材
22C 雄ねじ(保持手段、抵抗手段)
25 電動モータ(アクチュエータ)
26 操舵角センサ
27 車速センサ
28 横Gセンサ(横加速度センサ)
29,85 コントローラ(制御手段)
81〜84 車高センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のスタビライザバーと、第2のスタビライザバーと、該各スタビライザバーを連結しアクチュエータにより該各スタビライザバー間のねじり剛性を調整する可変剛性部と、前記アクチュエータを制御する制御手段とからなり、
前記可変剛性部は、前記第1のスタビライザバーと第2のスタビライザバーとの相対回転に応じたばね力を出力するばね手段と、該ばね手段の移動に対して抵抗力を付与する抵抗手段とを有してなるスタビライザ制御装置において、
前記制御手段は、前記第1のスタビライザバーと第2のスタビライザバーとの相対回転により生じる前記ばね力と前記抵抗力との合計値が、予め決められた所定値よりも小さいときに前記アクチュエータを駆動する構成としたことを特徴とするスタビライザ制御装置。
【請求項2】
第1のスタビライザバーと、第2のスタビライザバーと、該各スタビライザバーを連結してねじり剛性を調整する可変剛性部とからなり、
前記可変剛性部は、前記第1のスタビライザバーと第2のスタビライザバーとの相対回転に応じて直線運動する直動機構と、前記直線運動を抑制する方向に該直動機構を付勢する付勢機構と、該付勢機構を支持する支持手段と、該支持手段を任意の位置で保持力をもって保持する保持手段と、前記支持手段の位置を変更するための力を前記支持手段に付与するアクチュエータと、該アクチュエータの出力を制御する制御手段とを有する構成とし、
前記制御手段は、前記第1のスタビライザバーと第2のスタビライザバーとの相対回転により前記付勢機構が付与する付勢力と前記保持力との合計値が、予め決められた所定値よりも小さいときに前記アクチュエータを駆動する構成としてなるスタビライザ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−116262(P2012−116262A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266301(P2010−266301)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】