説明

ステージ装置

【課題】発塵を抑制したステージ装置を提供する。
【解決手段】ステージ装置2は、平らな上面を有するベースプレート50と、非接触軸受によってベースプレート上面の上に浮上する可動フレーム40と、アクチュエータ20を備えている。アクチュエータ20は、その先端が可動フレーム40の側面に当接しており、可動フレーム40を水平面内で位置決めする。アクチュエータ20の先端と可動フレーム40の側面が、回転自在な球部材23を介して当接している。球部材23の回転が可動フレーム40を移動させる際の摺動を抑制するので摺動に起因する発塵が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベースプレート上の可動フレームを水平面内で位置決めするステージ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステージ装置は、ベースプレート上の可動フレームを水平面内で移動/回転させるアクチュエータを備える。「ベースプレート」は、可動フレームを載置する平坦精度の高い上面を有しており、「定盤」と呼ばれることもある。可動フレームの水平面内位置と鉛直軸回り角度の3自由度を制御するために、ステージ装置は少なくとも3個のアクチュエータを備えている。
【0003】
高い位置決め精度が要求されるステージ装置の応用として半導体露光装置がある(例えば特許文献1)。以下では、「半導体露光装置」を単に「露光装置」と称する。露光装置は、半導体ウエハを位置決めするウエハ用ステージユニット、ウエハに照射する照射光のパターンを規定するレクチルを位置決めするレクチル用ステージユニットを備える。レクチル用ステージユニットのベースプレートと可動フレームは、枠形状を有しており、可動フレームに固定されたレクチルを照射光が通過できるようになっている。レクチル用ステージユニットとウエハ用ステージユニットの間には、レクチルを通過した照射光を集光するためのレンズなどを含む光学ユニットが配置されている。レクチル用ステージユニット、光学ユニット、ウエハ用ステージユニットがこの順で配置されている。レクチルを通過した照射光は、光学ユニットを通して調整され、半導体ウエハ上の所定の位置に正確に照射される。半導体装置の微細化に伴い、露光装置等に適用されるステージ装置の位置決め精度の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3180301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ステージ装置の位置決め精度の向上を妨げる要因の一つに発塵がある。発明者の検討によれば、発塵の主な要因は、ベースプレートと可動フレームの間の摺動、及び、可動フレームを移動・位置決めするためのアクチュエータと可動フレームの接触摺動であることが判明した。本発明は、発塵を抑制したステージ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示する新規なステージ装置は、ベースプレートと可動フレームの間の摺動を回避するために、可動フレームを非接触軸受で浮上させる。非接触軸受を採用すると、可動フレームの浮上/着地に伴って可動フレームが上下方向に微動する。可動フレームの上下動を許容するために、このステージ装置は、先端が可動フレームの側面に当接する伸縮ロッドを有するアクチュエータを少なくとも3個備える。このステージ装置は、ロッドの伸展長さを調整することによって可動ステージの水平位置と鉛直軸回り角度を規定する。なお、非接触軸受には、磁気軸受と気体軸受がある。なお、以下では、可動ステージの水平位置と鉛直軸回り角度を調整することを「可動ステージを位置決めする」と称する場合がある。
【0007】
可動フレームを移動させるアクチュエータは、その先端が可動フレームの側面に当接しているので、可動フレームの上下動に伴ってアクチュエータの先端が可動フレームの側面を上下方向に摺動する。また、可動フレームの水平面内の回転に伴い、アクチュエータの先端は可動フレームの側面を水平方向にも摺動する。即ち、非接触軸受と上記のアクチュエータの採用にともない、アクチュエータの先端が可動フレームの側面に対して2次元的に摺動する。
【0008】
本明細書が開示するステージ装置は、アクチュエータ先端と可動フレームの間の摺動を低減するために、アクチュエータの先端と可動フレーム側面の接触部に回転自在な球部材を採用する。このステージ装置は、非接触軸受によってベースプレートと可動フレームの間の摺動をなくすとともに、回転自在な球部材がアクチュエータ先端と可動フレーム側面の摺動を抑制する。このステージ装置は、可動フレームが動く際に摺動する部分が少ないので、発塵を抑制する。即ちこのステージ装置は、非接触軸受と球部材接触のアクチュエータの採用によって発塵を顕著に抑制することができる。
【0009】
具体的には、本明細書が開示するステージ装置は、平らな上面を有するベースプレートと、非接触軸受によってベースプレート上面の上に浮上する可動フレームと、アクチュエータを備えている。アクチュエータは、その先端が可動フレームの側面に当接しており、可動フレームを水平面内で位置決めする。そして、アクチュエータの先端と可動フレーム側面が、回転自在な球部材を介して当接している。ここでいう可動フレーム側面とは、平面が水平方向に面している可動フレーム側面を意味する。
【0010】
球部材は、アクチュータの先端に支持されていてよいし、可動フレームの側面に支持されていてもよい。より具体的には、アクチュエータの先端と可動フレーム側面のいずれか一方に、球部材が遊嵌する窪みが設けられており、球部材と窪みの表面との間に、球部材よりも小径の複数の小球が回転自在に配置されているとよい。小球群がいわゆるベアリングとして機能し、球部材の回転を円滑にする。
【0011】
さらには、アクチュエータの先端と可動フレーム側面の他方が平面であり、その平面と球部材が点接触していることが好適である。即ち、アクチュエータの先端と可動フレーム側面の一方に小球群を介して球部材が遊嵌する窪みが設けられており、他方が平面で球部材と点接触していることが好ましい。そのような構成を有するステージ装置は、アクチュエータ先端の可動フレーム側面に沿った2次元的な動きに対して球部材が追従して円滑に回転するので、アクチュエータ先端と可動フレーム側面の間の摺動を抑制し、発塵を顕著に低減することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、可動フレームの動きに伴う発塵を抑制したステージ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】露光装置の模式的側面図を示す。
【図2】ステージユニットの模式的平面図示す。
【図3】図2の破線で囲んだ部分の拡大断面図を示す。
【図4】可動フレームの底面図を示す。
【図5】可動フレームの軸受部の拡大図を示す。
【図6】他の形態の気体軸受の模式的平面図を示す。
【図7】ステージユニットの鉛直方向の支持構造を説明する図である。
【図8】ステージユニットの水平方向の支持構造を説明する図である。
【実施例】
【0014】
実施例では、ステージ装置の一典型例として、半導体ウエハの露光装置1を説明する。図1に露光装置1の模式的側面図を示す。露光装置1は、2個のステージユニット(第1ステージユニット2、第2ステージユニット8)、光源4、及び、光学ユニット6を備える。光源4と光学ユニット6は、露光装置1の筐体10に固定されている。第1ステージユニット2は、レクチルMを位置決めするためのユニットであり、第2ステージユニット8は、半導体ウエハWを位置決めするためのユニットである。
【0015】
第1ステージユニット2は、ベースプレート50、可動フレーム40、アクチュエータ20を備えており、可動フレーム40にレクチルMが固定されている。アクチュエータ20が可動フレーム40を動かしてレクチルMの水平位置を調整する。第1ステージユニット2は、筐体10に設けられた支持部12と水平位置基準部15によって支持されている。第2ステージユニット8は、第1ステージユニット2と同じ構造を有しており、その可動フレーム9に半導体ウエハWが固定されている。なお、アクチュエータ20、支持部12、水平位置基準部15の詳細な構造については後述する。
【0016】
露光装置1の機能を説明する。光源4から発射された光Lは、レクチルMを通過することによって所望の照射パターンに成形される。レクチルM通過後の照射光は、光学ユニット6を通過することによって照射パターンが縮小され、半導体ウエハWに照射される。半導体ウエハWの所定の位置に正確に照射パターンを照射するため、第1ステージユニット2がレクチルMの水平位置を調整し、第2ステージユニット8が半導体ウエハWの水平位置を調整する。半導体装置の高度化に伴い、露光装置には、照射パターンを高精度に半導体ウエハWの所定位置へ照射する能力が求められている。
【0017】
露光装置1の技術的特徴のいくつかは、ステージユニットの構造に備えられている。以下、第1ステージユニット2の構造を説明する。なお、第2ステージユニット8も同じ構造を有しているので、第2ステージユニット8については説明を省略する。
【0018】
図2に第1ステージユニット2の平面図を示す。なお、図2では、レクチルMの図示を省略するとともに、第1ステージユニット2のベースプレート50を支持する筐体10の支持部12と水平位置基準部15の図示を省略している。
【0019】
可動フレーム40は、上面が平面のベースプレート50の上面に気体軸受(エアベアリング)によって浮上する。気体軸受の構造については後述する。レクチルMを通過した照射光が通過できるように、可動フレーム40は矩形の枠型である。なお、ベースプレート50にも矩形の貫通孔が設けられているが、図2ではその図示を省略している。
【0020】
ベースプレート50には3個のアクチュエータ20a、20b、及び20cが配置されており、それらのアクチュエータ群が可動フレーム40の水平方向位置と鉛直軸回りの角度を調整する。各アクチュエータは、伸縮ロッド21の先端が可動フレーム40の側面に当接している。「可動フレーム40の側面」とは、水平方向を向いている面を意味する。3個のアクチュエータの伸縮ロッドを夫々適宜に伸縮することによって、可動フレーム40の水平方向位置と鉛直軸回りの角度が調整される。
【0021】
より具体的には、第1アクチュエータ20aの先端と第2アクチュエータ20bの先端が可動フレーム40の第1側面40aに当接し、第3アクチュエータ20cの先端が第2側面40bに当接している。アクチュエータの先端には回転自在な球部材23が取り付けられており、球部材23を介してアクチュエータ先端と可動フレーム側面が当接している。3個のアクチュエータは同じ構造を有しているので、以下では第1アクチュエータ20aについてその構造を詳細に説明する。
【0022】
伸縮ロッド21の両側にばね22が配置されている。ばね22は、第1アクチュエータ20aと可動フレーム40を連結しており、可動フレーム40を第1アクチュエータ20aの先端に向けて付勢している。即ち、第1ステージユニット2は、ばね22の付勢力によってアクチュエータの先端と可動フレーム40との接触を維持する。ばね22は、可動フレーム40をアクチュエータ先端に押し当てる弾性部材の一例に相当する。
【0023】
図3に、アクチュエータ先端部の拡大断面図を示す。図3は、図2において破線で囲った部分の拡大断面図に相当する。図面を見やすくするため図3では、球部材23と小球27には、断面を示すハッチングを省略している。伸縮ロッド21の先端には、半球状の窪み24が設けられている。窪み24に球部材23が遊嵌している。球部材23が窪みから飛び出すことを防止するために、リテーナ25が取り付けられている。球部材23の一部が、リテーナ25の孔から外側へ突出している。
【0024】
窪み24の表面と球部材23の間には、半球シェル状のスペーサ26とともに、3個の小球27が配置されている。スペーサ26には3個の孔が等間隔に設けられており、各小球27が各孔に嵌っている。スペーサ26は、3個の小球27の相対位置を維持する。
【0025】
球部材23は、リテーナ25から飛び出している部分で可動フレーム40の平坦な側面40aに点接触している。アクチュエータ20aを駆動すると、即ち、ロッド21を伸縮すると、可動フレーム40がアクチュエータの先端に対して相対的に動く。側面40aの動きに合わせて球部材23と小球27が回転するので、可動フレーム40とアクチュエータ先端の間で摺動が生じない。また、前述したように可動フレーム40は気体軸受によってベースプレート50から浮上している。浮上/着地のときにも可動フレーム40の側面がアクチュエータ先端に対して上下動するが、このときも球部材23と小球27の回転によって、可動フレーム40とアクチュエータ先端の間には摺動が生じない。
【0026】
上記したように、第1ステージユニット2は、可動フレーム40が気体軸受によって浮上しているという特徴と、可動フレーム40の鉛直側面とアクチュエータ先端が回転自在な球部材によって点接触しているという特徴を有している。これらの2つの特徴によって、第1ステージユニット2は、可動フレーム40に摺動箇所がない。そのため、可動フレーム40が動くときに生じる発塵を顕著に抑制することができる。可動フレーム40周辺の発塵は可動フレーム40の位置決め精度に悪影響を与えるが、実施例のステージユニット(露光装置1)は発塵を抑制することによって高い位置決め精度を維持することができる。
【0027】
第1ステージユニット2では、小球群27がベアリングの機能を果し、球部材23とこれを遊嵌している窪み24の表面にも摺動部分が存在しない。また、球部材23と可動フレーム40の側面が点接触していることも、摺動を抑制する効果に寄与している。第2ステージユニット8も、第1ステージユニット2と同じ構造を有しており、発塵を抑制することができる。発塵を抑制するという効果は、気体軸受に替えて磁気軸受を採用しても得られる。
【0028】
露光装置1が備える第1ステージユニット2は、斥力と吸引力を発生する非接触型軸受の採用によって可動フレーム40の位置が上下方向に変動し難く、かつ、斥力と吸引力の併用に起因する可動フレームの面外変形を抑制するという効果も有する。次に、この点について説明する。
【0029】
図4に、可動フレーム40の底面図を示す。前述したように、可動フレーム40は、中央を照射光が通過するために、枠形状をなしている。可動フレーム40の枠の底面は、ベースプレート50の上面に面する。可動フレーム40の底面の四隅に、軸受41が設けられている。夫々の軸受41は、一つの正圧部42と、その両端に隣接する2つの負圧部46a、46bを有している。正圧部42は、可動フレーム40をベースプレート50の上面から浮上させる斥力を発生し、負圧部46a、46bは、可動フレーム40をベースプレート50へ引き付ける吸引力を発生する。正圧部42は斥力部の一例に相当し、負圧部46a、46bは、吸引部の一例に相当する。斥力と吸引力がバランスする位置で可動フレーム40は保持される。
【0030】
図5に、軸受41の拡大図を示す。なお、図5の下方に、軸受41が作動してベースプレート50の上に可動フレーム40が浮上しているときの圧力プロファイルを示す。図5下方のグラフは、図5の左右方向に沿った正圧部42と負圧部46a、46bの圧力プロファイルを示す。
【0031】
正圧部42は、全体が可動フレーム40の底面よりも僅かに突出している平面段丘であり、その上面に正圧溝43が形成されている。正圧溝43は、図5に示すように、中央で十字にクロスしているとともに、十字の各先端が正圧部の側面に沿って延びている。正圧部42の略中央において、雰囲気圧よりも高い圧力の空気を正圧溝43へ供給する噴出孔44が正圧溝43内に設けられている。噴出孔44は、高圧の空気を供給するポンプ(不図示)に通じている。可動フレーム40がベースプレート50の上に載った状態で噴出孔44から高圧空気を噴き出すと、高圧の空気は正圧溝43から正圧部42の段丘上面へと拡がり、図5下のグラフの範囲P3が示すように、正圧部42は雰囲気圧(大気圧)よりも高い圧力を発生する。正圧部42が発生する圧力によって、可動フレーム40が浮上する。
【0032】
負圧部46aと46bは同じ構造を有しているので以下では負圧部46aについて説明する。負圧部46aは、全体が可動フレーム40の底面よりも僅かに突出している平面段丘であり、その上面に負圧溝47が形成されている。負圧部46aは、全体が野球のホームベースのような五角形をなしている。負圧部46aの矩形側の底辺が正圧部42に隣接しており、鋭角の頂点が正圧部42から最も遠くに位置している。別言すれば、負圧部46aでは、正圧部42の中心と負圧部46aの中心を結ぶ直線に交差する方向における幅が正圧部42から離れるにつれて小さくなっている。
【0033】
負圧溝47は、負圧部46aの輪郭に沿って伸びており、閉じたループを形成している。負圧溝47では、正圧部42の中心と負圧部46aの中心を結ぶ直線に交差する方向における溝間の幅が、正圧部42から離れるにつれて小さくなっている。
【0034】
負圧溝47の正圧部42に近い場所に、周囲の空気が吸い込まれる吸気孔48が設けられている。吸気孔48は、負圧溝47から空気を吸い出すバキュームポンプ(不図示)に通じている。可動フレーム40がベースプレート50上に浮上している状態で吸気孔48から周囲の空気が吸い込まれると、図5下のグラフの範囲P1とP2(P4とP5)が示すように、負圧部46a(46b)の段丘上面全体において圧力が大気圧よりも低くなる。負圧部46a(46b)が発生する負圧は、可動フレーム40をベースプレート50に引き付ける吸引力に相当する。この吸引力は、負圧部46a(46b)の形状と負圧溝47の形状に起因して、正圧部42から離れるにつれて小さくなる。
【0035】
第1ステージユニット2は、正圧部42が可動フレーム40を浮上させる斥力を与えるとともに、負圧部46a、46bが可動フレーム40をベースプレート50に引き付ける吸引力を与える。可動フレーム40は、斥力と吸引力がバランスする位置に保持される。第1ステージユニット2は、軸受41が斥力とともに吸引力を発生するので、可動フレーム40の位置が上下方向に変動し難い。
【0036】
吸引力は、負圧部46a(46b)の全体に分布する。正圧部42から離れるにつれて吸引力が小さくなるので、吸引力が一点に集中すると仮定したときの吸引力の中心(吸引力の等価作用点)は正圧部42に近い。正圧部42に分布している斥力が一点に集中すると仮定したときの斥力の中心を「斥力の等価作用点」と称する。第1ステージユニット2は、可動フレーム40に作用する斥力の等価作用点と吸引力の等価作用点が近接しているので、互いに反対方向を向く力に起因して生じる可動フレーム40の面外変形(上下方向の変形)を抑制することができる。露光装置1のステージユニットは、気体軸受によって浮上する可動フレームの位置が上下方向に変動し難いとともに、気体軸受に起因する可動フレームの面外変形を抑制する。
【0037】
露光装置の可動フレーム40は、中央に空間を有する枠形状をしているので面外変形し易い。上記の軸受構造は、中央に空間を有する可動フレーム40に対して効果的である。
【0038】
実施例の露光装置1では、高圧の空気によって斥力を発生した。空気以外のガスを用いて斥力を発生してもよい。斥力と吸引力のいずれか一方、あるいは両方を、磁力で発生してもよい。
【0039】
吸引力を磁力で発生させることもできるが、吸引力の等価作用点を斥力の等価作用点に近づける上記の構造は、負圧による吸引力の場合に特に有効である。これは次の理由による。大気圧は約0.1MPaであるから、負圧による吸引力も0.1MPa以上にはならない。即ち、負圧で大きな吸引力を発生するには負圧部として相応の面積を確保する必要がある。負圧部の面積が広いほど、負圧の等価作用点を正圧部に近づけることの利点が顕著となる。
【0040】
上記したように負圧溝47は、可動フレーム40下面の平面視において閉じたループを形成している。そして、正圧部42(斥力部)の中心と負圧部46a(吸引部)の中心を結ぶ直線に交差する方向における溝間の距離が、正圧部42から離れるにつれて小さくなっている。負圧溝47が閉ループを形成している場合、ループ内の全領域で圧力が雰囲気圧よりも低下するのでループ内の全領域が吸引部を形成する。そのような構造は、正圧部42に近づくにつれて負圧溝間の距離が大きくなって吸引力が増す。従ってそのような構造は、吸引力の等価作用点(負圧部46aの圧力中心)を正圧部42に効果的に近づけることができる。
【0041】
なお、図5下方のグラフの範囲P2(P4)が示すように、正圧部42に近い部分では、負圧部46aは一定の吸引力を発生してもよい。範囲P1(P5)が示すように、正圧部42から離れた部分で、正圧部から離れるにつれて吸引力が小さくなっていればよい。
【0042】
次に、吸引力の等価作用点を正圧部に近づける他の軸受構造を説明する。図6に、他の構造の軸受141の平面図を示す。この例では、円形の正圧部142を囲むように負圧部146が形成されている。正圧部142と負圧部146はともに可動フレームの底面よりも突出する平面段丘である。正圧部142の上面と負圧部146の上面は面一である。正圧部142の中心には高圧空気を噴出する噴出孔144が設けられている。リング状の負圧部146には、負圧部のリング形状に沿って閉じたループ状の負圧溝147が形成されている。負圧溝147にいくつかの吸気孔148が形成されている。この形態では、負圧部146が発生する吸引力の等価作用点は、正圧部142を囲む円に相当する。従って、この形態も、負圧部が発生する吸引力の等価作用点を正圧部142に近づけることができ、斥力と吸引力の併用に起因する可動フレームの面外変形を抑制することができる。
【0043】
露光装置1はまた、ステージユニット自体の支持構造にも技術的特徴を有している。第1ステージユニット2は、そのベースプレート50が露光装置1の筐体10に支持されている。次に、その支持構造について説明する。
【0044】
図7に、第1ステージユニット2の模式的側面図を示し、図8に第1ステージユニット2の模式的平面図を示す。但し、図8では、第1ステージユニット2はベースプレート50のみを示し、アクチュエータ20と可動フレーム40の図示を省略している。ベースプレート50の中央には、照射光が通過する孔が設けられている。筐体10にも、照射光が通過する孔が設けられているが、図ではその孔の図示を省略している。
【0045】
図7に表されているとおり、露光装置1では、筐体10にベースプレート50が支持されており、そのベースプレート50に対して可動フレーム40が位置決めされる。
【0046】
第1ステージユニット2は、筐体10に設けられた3個の支持部12a、12b、12cで下方から支持されている。具体的には、第1ステージユニット2のベースプレート50の下面が、筐体10から伸びている3個の支持部12a、12b、及び12cによって支持されている。各支持部の先端には、回転自在な球部材19が嵌められており、ベースプレート50の下面は球部材19と点接触している。球部材19は、図3に示したアクチュエータ先端の構造と同様の構造によって、支持部12の先端に回転自在に嵌められている。また、支持部12は、その下部が筐体10にねじ込まれている。各支持部12は、その長手軸回りに回転することによって、先端の高さを調整することができる。
【0047】
支持部12の両側には、ばね13が配置されている。ばね13は、ベースプレート50を下方へ引っ張っており、支持部12の先端へ向けて付勢する。図示を省略しているが、ばね13は、3個の支持部12a、12b、及び12cの夫々の近傍に配置されている。支持部12とばね13は、ベースプレート50(即ち第1ステージユニット2)の鉛直方向の位置を規定するが、水平方向の移動を拘束しない。第1ステージユニット2の水平方向位置(鉛直線回りの回転角を含む)は、次に説明するように、3個の水平位置基準部15a、15b、及び15cによって規定される。
【0048】
図8に示すように、筐体10に3箇所の水平位置基準部15a、15b、及び15cが設けられている。水平位置基準部15は、筐体10から上方へ伸びる円柱状の部材である。符号17は、筐体10に設けられたばね係止部である。引っ張りばね16が、各水平位置基準部15の両側に配置されている。ばね16の一端はばね係止部17に連結され、他端はベースプレート50に連結されている。ばね16が、ベースプレート50の側面を各水平位置基準部15に押し当てている。このようにベースプレート50の側面が3個の水平位置基準部15に押し当てられることによって、筐体10に対するベースプレート50の相対的な水平位置と鉛直軸回りの回転角が規定される。引っ張りばね16は、ベースプレート50を水平位置基準部15に押し当てる弾性部材の一例に相当する。
【0049】
3個の水平位置基準部15の位置関係について説明する。ベースプレート50は矩形形状であり、第1の水平位置基準部15aと第2の水平位置基準部15bが、ベースプレート50の第1側面50aに当接している。第3の水平位置基準部15cは、第1側面50aと交差する第2側面50bに当接している。なお、第1側面50aと第2側面50bはいずれも水平方向外側を向いている側面である。
【0050】
ベースプレート50(即ち第1ステージユニット2)は、筐体10に設けられた3個の支持部12によって鉛直方向に支持されているとともに、筐体10に設けられた3個の水平位置基準部15に当接することよって水平位置と鉛直線周りの回転角が規定される。この支持構造は、次の利点を与える。第1ステージユニット2は、筐体10に固定された光学ユニット6(図1参照)に対するレクチルMの水平位置を調整する。レクチルMは第1ステージユニット2の可動フレーム40に固定される。レクチルMを固定する可動フレーム40は、ベースプレート50に対して水平面内で精密に位置決めされる。従って、筐体10とベースプレート50の相対的な位置精度が、レクチルMと光学ユニット6の相対位置決め精度に影響する。実施例の露光装置1では、第1ステージユニット2のベースプレート50を下方から支持する支持部12とは別個に、ベースプレート50の水平方向位置を規定する水平位置基準部15が筐体10に設けられている。この露光装置1は、水平位置基準部15の位置を正確に調整することによって、ベースプレート50の水平面内の正確な位置と鉛直軸回りの正確な角度を定めることができる。また、露光装置1は、各支持部12の先端の高さを調整することによって、ベースプレート50の上面の筐体10に対する水平度を調整することができる。即ち、露光装置1は、筐体10に対するベースプレート50の上面の水平度と水平方向の位置を別々に調整することができる。
【0051】
また、3個の水平位置基準15の配置は、ベースプレート50が熱膨張に起因する面外変形を抑制する。熱膨張は、例えば、照射光の熱によって生じる。露光装置1では、ベースプレート50の第1側面50aに2個の水平位置基準部15a、15bが当接し、第1側面50aと交差する位置関係にある第2側面50bに第3の水平位置基準部15cが当接している。ベースプレート50と各水平位置基準部15との接触は、各水平位置基準部15の近傍に配置された引っ張りばね16によって維持される。仮に、ベースプレート50を図8の左下方向に強く引っ張るとベースプレート50は動く。このことからも理解されるように、3個の水平位置基準部15の上記配置は、ベースプレート50が熱膨張したとき、第1と第2の側面以外の側面が外側へ移動することを許容する。別言すれば、上記配置は、ベースプレート50の水平方向の膨張を許容する。このことにより、上記配置は、ベースプレート50の熱膨張がベースプレート50の上面の面外変形に与える影響を低減することができる。仮にベースプレート50が水平方向の移動を拘束されている場合、膨張による応力が面外変形を引き起こす。実施例の露光装置1では膨張が許容されることによって応力の発生が抑制され、その結果面外変形が抑制される。ステージ装置では、ベースプレート上面の平坦度が可動フレームの位置決め精度に影響する。本実施例の露光装置1は、熱膨張によるベースプレートの面外変形が生じ難いので、可動フレームの位置決め精度を維持することができる。ベースプレートが収縮する場合も同様に、露光装置1は、可動フレームの位置決め精度を維持することができる。また、露光装置1では、第2ステージユニット8も同様の構造により筐体10に支持されており、第1ステージユニット2と同様の作用効果を有する。
【0052】
露光装置1の変形例を説明する。
(1)ステージユニットのアクチュエータ先端の球部材23は、可動フレーム40の側面面に嵌め込まれていてもよい。即ち、ステージユニットは、球部材23が可動フレーム40の側面に設けられた窪みに遊嵌しており、球部材23が平坦なアクチュエータ先端と点接触する構造を有していてもよい。
(2)ステージユニットのベースプレートは、矩形でなく多角形でよい。その場合、2個の水平位置基準部がベースプレートの第1側面に当接しており、他の一つの水平位置基準部が第1側面と交差する位置関係の第2側面に当接していればよい。そのような水平位置基準部の配置は、ベースプレートの膨張を拘束することがなく、膨張に伴うベースプレートの面外変形を抑制する。
【0053】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0054】
1:露光装置(ステージ装置)
2:第1ステージユニット
4:光源
6:光学ユニット
8:第2ステージユニット
10:筐体
12:支持部
15:水平位置基準部
20:アクチュエータ
23:球部材
24:窪み
27:小球
40:可動フレーム
41、141:軸受
42:正圧部(斥力部)
43:正圧溝
44:噴出孔
46a、46b:負圧部(吸引部)
47:負圧溝
50:ベースプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平らな上面を有するベースプレートと、
非接触軸受によってベースプレート上面の上に浮上する可動フレームと、
先端が可動フレームの側面に当接しており、可動フレームを水平面内で位置決めするアクチュエータと、を備えており、
アクチュエータの先端と可動フレーム側面が、回転自在な球部材を介して当接していることを特徴とするステージ装置。
【請求項2】
アクチュエータの先端と可動フレーム側面のいずれか一方に、球部材が遊嵌する窪みが設けられており、球部材と窪みの表面との間に、球部材よりも小径の複数の小球が回転自在に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のステージ装置。
【請求項3】
アクチュエータの先端と可動フレーム側面の他方が平面であり、その平面と球部材が点接触していることを特徴とする請求項2に記載のステージ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−44467(P2011−44467A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190045(P2009−190045)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】