説明

ストラットマウント

【課題】車体に非締結状態で組み付けられるストラットマウントにおいて、ゴム弾性体の水平方向のばね特性を硬くしながら、車体への組み付け安定性を向上させる。
【解決手段】ストラットマウント1は、内筒体10と、この内筒体10の周囲に軸方向が内筒体10の軸方向と一致するように設けられて下側に広がるスカート状に形成された外筒体11と、両筒体10,11の間に設けられて両筒体10,11を連結するゴム弾性体12とを備える。外筒体11に、その周方向の一部が径方向内側に変位してなる変位部11hを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体に非締結状態で組み付けられるストラットマウントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車体に非締結状態で組み付けられる所謂ボルトレスタイプのストラットマウントが従来技術として知られている(例えば、特許文献1参照)。このストラットマウントは、車体パネルに上側に凹むように形成された凹所にその下側から嵌め込まれることにより、車体パネルに組み付けられている。凹所は、上壁部と、この上壁部の外周縁から下側にスカート状に広がる周壁部とを有している。ストラットマウントは、円筒状のインナ部材(内筒体)と、このインナ部材の周囲に軸方向がインナ部材の軸方向と一致するように設けられて下側に広がるスカート状に形成された円筒状のアウタ部材(外筒体)と、これらの両部材の間に設けられて両部材を連結するゴム弾性体とを備えている。アウタ部材は、その下部が下向きに屈曲されており、これによって、この屈曲部とインナ部材との間のゴム弾性体の水平方向長さが比較的短くなっている。
【0003】
そして、車両走行時に路面からの振動がストラットマウントに入力されると、ゴム弾性体が弾性変形することにより、その振動がストラットマウントで吸収され、振動が車体パネルに伝達されるのが抑制される。ここで、上下方向の振動がストラットマウントに入力されると、ゴム弾性体は上下方向に弾性変形するが、そのような上下方向の振動に対しては、ゴム弾性体は、その略全体が効いて、軟らかいばね特性を発揮することになる。一方、水平方向の振動がストラットマウントに入力されると、ゴム弾性体は水平方向に弾性変形するが、上述の如く、屈曲部とインナ部材との間のゴム弾性体の水平方向長さが比較的短くなっているため、そのような水平方向の振動に対しては、ゴム弾性体は、硬いばね特性を発揮することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−232824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ストラットマウントの車体パネルへの組み付け安定性の観点からは、アウタ部材は、ゴム弾性体の車体パネル寄りに配置するのが望ましいが、特許文献1のものでは、屈曲部はアウタ部材の下部にその全周に亘って形成されているため、ストラットマウントの車体パネルへの組み付け安定性が悪化するという問題がある。
【0006】
一方で、ゴム弾性体の水平方向のばね特性を硬くしたいという要求もある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、車体に非締結状態で組み付けられるストラットマウントにおいて、ゴム弾性体の水平方向のばね特性を硬くしながら、車体への組み付け安定性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、車体に非締結状態で組み付けられるストラットマウントであって、内筒体と、上記内筒体の周囲に軸方向が該内筒体の軸方向と一致するように設けられて下側に広がるスカート状に形成された外筒体と、上記両筒体の間に設けられて該両筒体を連結するゴム弾性体とを備えており、上記外筒体には、その周方向の一部が径方向内側に変位してなる変位部が形成されていることを特徴とするものである。
【0009】
これによれば、外筒体に、その周方向の一部が径方向内側に変位してなる変位部を形成しているので、この変位部と内筒体との間のゴム弾性体の水平方向長さが比較的短くなり、ゴム弾性体の水平方向のばね特性が比較的硬くなる。
【0010】
また、変位部は、外筒体の周方向の一部が径方向内側に変位してなるので、外筒体の変位部以外の部分がゴム弾性体の車体寄りに配置され、従来のように、外筒体をその全周に亘って径方向内側に変位させている場合と比較して、ストラットマウントの車体への組み付け安定性が向上する。
【0011】
以上により、ゴム弾性体の水平方向のばね特性を硬くしながら、ストラットマウントの車体への組み付け安定性を向上させることができる。
【0012】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記変位部は、上記外筒体の軸方向の少なくとも一部が径方向内側に向くように変位してなり、上記外筒体における上記変位部の径方向外側には、凹部が形成されていることを特徴とするものである。
【0013】
これによれば、変位部は、外筒体の軸方向の少なくとも一部が径方向内側に向くように変位してなり、外筒体における変位部の径方向外側に、凹部を形成しているので、変位部と内筒体との間のゴム弾性体の水平方向長さが比較的短くなり、ゴム弾性体の水平方向のばね特性が比較的硬くなる。
【0014】
また、変位部は、その径方向内側及び外側の両側からゴム弾性体に支持されているので、ストラットマウントが部分的に、ゴム弾性体に中間筒体が埋設された所謂二重ブッシュ構造に似た構造となり、ゴム弾性体の水平方向のばね特性がより一層硬くなる。
【0015】
第3の発明は、上記第1の発明において、上記変位部は、上記外筒体の上端又は下端から一対の切れ目を入れて該両切れ目の内側部分を径方向内側に折り曲げてなる折り曲げ部であることを特徴とするものである。
【0016】
これによれば、変位部は、外筒体の上端又は下端から一対の切れ目を入れてこの両切れ目の内側部分を径方向内側に折り曲げてなる折り曲げ部であるので、この折り曲げ部と内筒体との間のゴム弾性体の水平方向長さが比較的短くなり、ゴム弾性体の水平方向のばね特性が比較的硬くなる。
【0017】
特に、変位部が、外筒体の下端から一対の切れ目を入れて両切れ目の内側部分を径方向内側に折り曲げてなる折り曲げ部である場合、この折り曲げ部は、その径方向内側及び外側の両側からゴム弾性体に支持されているので、ストラットマウントが部分的に、ゴム弾性体に中間筒体が埋設された所謂二重ブッシュ構造に似た構造となり、ゴム弾性体の水平方向のばね特性がより一層硬くなる。
【0018】
第4の発明は、上記第2又は3の発明において、上記変位部は、上記外筒体の周方向に間隔を開けて複数形成されていることを特徴とするものである。
【0019】
これによれば、変位部を、外筒体の周方向に間隔を開けて複数形成しているので、ゴム弾性体の水平方向のばね特性に所望の方向性が付与可能になる。
【0020】
第5の発明は、上記第1の発明において、上記外筒体は、その周方向に連続波形に折り曲げ形成されていて、周方向に交互に形成された、径方向外側に位置する山部及び径方向内側に位置する上記変位部としての谷部を有していることを特徴とするものである。
【0021】
これによれば、外筒体は、その周方向に連続波形に折り曲げ形成されていて、周方向に交互に形成された、径方向外側に位置する山部及び径方向内側に位置する変位部としての谷部を有しているので、この谷部と内筒体との間のゴム弾性体の水平方向長さが比較的短くなり、ゴム弾性体の水平方向のばね特性が比較的硬くなる。
【0022】
また、谷部は、その径方向内側及び外側の両側からゴム弾性体に支持されているので、ストラットマウントが部分的に、ゴム弾性体に中間筒体が埋設された所謂二重ブッシュ構造に似た構造となり、ゴム弾性体の水平方向のばね特性がより一層硬くなる。
【0023】
また、山部は、ゴム弾性体の車体寄りに配置されているので、従来のように、外筒体をその全周に亘って径方向内側に突出させている場合と比較して、ストラットマウントの車体への組み付け安定性が向上する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、外筒体に、その周方向の一部が径方向内側に変位してなる変位部を形成しているので、この変位部と内筒体との間のゴム弾性体の水平方向長さが比較的短くなり、ゴム弾性体の水平方向のばね特性が比較的硬くなり、また、変位部は、外筒体の周方向の一部が径方向内側に変位してなるので、外筒体の変位部以外の部分がゴム弾性体の車体寄りに配置され、従来のように、外筒体をその全周に亘って径方向内側に変位させている場合と比較して、ストラットマウントの車体への組み付け安定性が向上し、以上により、ゴム弾性体の水平方向のばね特性を硬くしながら、ストラットマウントの車体への組み付け安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態1に係るストラットマウントを上方から見た上面図である。
【図2】図1のII−II線矢視断面図である。
【図3】実施形態1に係るストラットマウントの外筒体を上方から見た上面図である。
【図4】実施形態2に係るストラットマウントの図2相当図である。
【図5】実施形態2に係るストラットマウントの図3相当図である。
【図6】実施形態2に係るストラットマウントの変形例の図2相当図である。
【図7】実施形態2に係るストラットマウントの変形例の図3相当図である。
【図8】実施形態3に係るストラットマウントの図2相当図である。
【図9】実施形態3に係るストラットマウントの図3相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0027】
(実施形態1)
図1、図2は、本発明の実施形態1に係るストラットマウントの概略構成を示しており、このストラットマウント1は、車体パネル2とサスペンション装置のショックアブゾーバのピストンロッド3との間に介在し、且つ車体パネル2に非ボルト締結状態で組み付けられる所謂ボルトレスタイプのものであって、路面からの振動が車体パネル2に伝達されるのを抑制するようになっている。ストラットマウント1は、車体パネル2に上側に凹むように形成された凹部20にその下側から嵌め込まれることにより、車体パネル2に取り付けられている。凹部20は、水平方向に延びる円環状の上壁部20aと、この上壁部20aの外周縁全周から下側にスカート状に直線的に広がる周壁部20bとを有している。つまり、この周壁部20bは、その径が上側に行くに従って徐々に直線的に小さくなるテーパー状に形成されている。
【0028】
ストラットマウント1は、軸方向が上下方向に略一致するように配設されて内部にピストンロッド3が挿通される円筒状の金属製内筒体10と、この内筒体10の外周囲に軸方向が内筒体10の軸方向と一致するように配設されて下側に直線的に広がるスカート状(即ち、径が上側に行くに従って徐々に直線的に小さくなるテーパー状)に形成された円筒状の金属製外筒体11と、これらの両筒体10,11の間に配設されて両筒体10,11を連結するゴム弾性体12とを備えている。
【0029】
尚、図1、図2は、ストラットマウント1に荷重が作用していない無負荷状態を示しているが、ストラットマウント1が車体パネル2とピストンロッド3との間に介装された1G状態では、図示しないが、ゴム弾性体12が撓んで、内筒体10が外筒体11に対し上方に相対変位するので、内筒体10と外筒体11との間のゴム弾性体12が圧縮されることになる。
【0030】
上記内筒体10は、水平方向に延びる円盤状の上壁部10aと、この上壁部10aの外周縁全周から下側にスカート状に広がる周壁部10bとを有している。上壁部10aの中央部には、ピストンロッド3が挿通される挿通孔10cが貫通形成されている。上壁部10aの下面には、円盤状のプレート13が取り付けられており、このプレート13の中央部には、ピストンロッド3が挿通される挿通孔13aが貫通形成されている。
【0031】
上記外筒体11は、図1〜図3に示すように、ゴム弾性体12に埋設されていて、その周方向の一部が径方向内側に変位してなる変位部が一体形成されている。具体的には、外筒体11には、その下部が径方向内側に凹んでなる凹部11gがプレス成形で形成されている。この凹部11gは、外筒体11の周方向に略均等に間隔を開けて複数形成されていて、上下方向(外筒体11の軸方向)に延びるように凹まされてなる。凹部11gは、その底側に位置する上記変位部としての内壁部(底壁部)11hと、この内壁部11hの周方向両端からそれぞれ径方向外側且つ周方向外側に延びる一対の側壁部11i,11iとを有している。つまり、内壁部11hは、外筒体11の下部が径方向内側に向くように変位してなる。言い換えると、内壁部11hは、外筒体11の下部における周方向の一部が径方向内側に突出してなる突出部である。
【0032】
凹部11gの数や配置は、例えば、以下のように設定される。ゴム弾性体12の車両前後方向及び車両左右方向のばね特性を同一にする場合は、凹部11gは、例えば、外筒体11の車両前後左右、車両左前、車両左後、車両右前、及び車両右後に8つ形成されたり、外筒体11の車両前後左右に4つ形成されたりする。また、ゴム弾性体12の車両前後方向及び車両左右方向のばね特性を相違させる場合は、凹部11gは、例えば、外筒体11の車両前後又は車両左右に2つ形成される。図1〜図3のものでは、凹部11gは、外筒体11の車両前後左右、車両左前、車両左後、車両右前、及び車両右後に8つ形成されている。尚、凹部11gの数や配置は、上記のものに限定されず、ゴム弾性体12の所望のばね特性などに応じて適宜設定される。
【0033】
凹部11gの内壁部11hと内筒体10との間の間隔は、その凹部11gに対応する部分に関しては、変位部のない単なるスカート状の外筒体と内筒体との間の間隔と比較して、狭くなっている。これによって、凹部11gの内壁部11hと内筒体10との間のゴム弾性体12の水平方向長さ(径方向長さ)は、その凹部11gに対応する部分に関しては、変位部のない単なるスカート状の外筒体と内筒体との間のゴム弾性体の水平方向長さと比較して、短くなっている。
【0034】
凹部11gの内壁部11hには、その径方向内側及び外側のいずれにもゴム弾性体12が存在している。換言すると、凹部11gの内壁部11hは、その径方向内側及び外側の両側からゴム弾性体12に挟み込み支持されている。これによって、ストラットマウント1は、部分的に、ゴム弾性体に中間筒体が埋設された所謂二重ブッシュ構造に似た構造となっている。
【0035】
また、外筒体11の凹部11g以外の部分は、ゴム弾性体12における車体パネル2の凹部20の周壁部20b寄り(ゴム弾性体12の外周寄り)に配置されている。
【0036】
上記ゴム弾性体12は、図1、図2に示すように、内筒体10の周壁部10b上端部の外周面全周から外方に向かって放射状に広がり、且つ斜め上方向に延びるように略円錐台状に形成されていて、その上側部分は上方に向かって開口している。ゴム弾性体12の外周面は、下側に直線的に広がるスカート状(即ち、径が上側に行くに従って徐々に直線的に小さくなるテーパー状)に形成されていて、外筒体11、及び、車体パネル2の凹部20の周壁部20bと略同じ角度で上下方向に対して傾斜している。ゴム弾性体12の外周面は、ストラットマウント1の車体パネル2への組み付け状態では、車体パネル2の凹部20の周壁部20b内面に弾性接触している。
【0037】
また、内筒体10の上壁部10a外周側の上面全周にはゴム膜14が、内筒体10の周壁部10bにおける上端部以外の部分の外周面全周にはゴム膜15が、それぞれゴム弾性体12と一体形成されている。
【0038】
−ストラットマウントの動作−
以下、ストラットマウント1の動作について説明する。
【0039】
まず、車両の走行時に路面からの振動がタイヤ(図示せず)を介してサスペンション装置に入力されると、その振動がそこで吸収される。そして、サスペンション装置で吸収しきれなかった振動がストラットマウント1に入力されると、ゴム弾性体12が弾性変形することにより、その振動がストラットマウント1で吸収され、振動が車体パネル2に伝達されるのが抑制される。
【0040】
ところで、ストラットマウント1に関しては、ゴム弾性体12の上下方向のばね特性を軟らかく維持しながら、ゴム弾性体12の水平方向のばね特性を硬くしたいという要求がある。
【0041】
ここで、上下方向の振動(即ち、ストラットマウント1の軸方向の振動)がストラットマウント1に入力されると、ゴム弾性体12は上下方向に弾性変形するが、そのような上下方向の振動に対しては、ゴム弾性体12は、その略全体が効いて、変位部のない単なるスカート状の外筒体が埋設されたゴム弾性体と同様、軟らかいばね特性を発揮・維持することになる。
【0042】
一方、水平方向の振動(即ち、ストラットマウント1の軸直方向の振動)がストラットマウント1に入力されると、ゴム弾性体12は水平方向に弾性変形するが、上述の如く、凹部11gの内壁部11hと内筒体10との間のゴム弾性体12の水平方向長さが比較的短く、且つストラットマウント1が部分的に二重ブッシュ構造に似た構造となっているため、そのような水平方向の振動に対しては、ゴム弾性体12は、変位部のない単なるスカート状の外筒体が埋設されたゴム弾性体と比較して、硬いばね特性を発揮することになる。
【0043】
このようにして、ゴム弾性体12の上下方向のばね特性を軟らかく維持しながら、ゴム弾性体12の水平方向のばね特性を硬くしたいという要求を満たしている。
【0044】
−効果−
以上により、本実施形態によれば、外筒体11に、その下部が径方向内側に凹んでなる凹部11gを形成しているので、この凹部11gの変位部としての内壁部11hと内筒体10との間のゴム弾性体12の水平方向長さが比較的短くなり、ゴム弾性体12の水平方向のばね特性が比較的硬くなる。
【0045】
また、凹部11gの内壁部11hは、その径方向内側及び外側の両側からゴム弾性体12に支持されているので、ストラットマウント1が部分的に二重ブッシュ構造に似た構造となり、ゴム弾性体12の水平方向のばね特性がより一層硬くなる。
【0046】
また、凹部11gは、外筒体11の下部における周方向の一部を径方向内側に凹ませてなるので、外筒体11の凹部11g以外の部分がゴム弾性体12の車体パネル2寄りに配置され、従来のように、外筒体をその全周に亘って径方向内側に変位させている場合と比較して、ストラットマウント1の車体パネル2への組み付け安定性が向上する。
【0047】
以上により、ゴム弾性体12の水平方向のばね特性を硬くしながら、ストラットマウント1の車体パネル2への組み付け安定性を向上させることができる。
【0048】
また、凹部11gを、外筒体11の周方向に間隔を開けて複数形成しているので、ゴム弾性体12の水平方向のばね特性に所望の方向性が付与可能になる。
【0049】
また、ストラットマウント1は、ゴム弾性体12に中間筒体を埋設することなく、部分的に、二重ブッシュ構造に似た構造となっているので、ゴム弾性体に中間筒体が埋設されたストラットマウントと比較して、ストラットマウント1のコスト削減が図られる。
【0050】
尚、本実施形態では、凹部11gは、外筒体11の下部に形成しているが、その内壁部11hが、外筒体11の軸方向の少なくとも一部が径方向内側に向くように変位してなる限り、凹部11gの形成位置は、上記のものに限定されない。例えば、外筒体11の上部や軸方向中間部に形成してもよく、あるいは、外筒体11の軸方向全体に亘って形成してもよい。
【0051】
また、本実施形態では、凹部11gは、上下方向に延びていて、底壁部11hと一対の側壁部11i,11iとを有しているが、凹部11gの形状は、上記のものに限定されない。例えば、図示は省略するが、外筒体11の下部を、その周方向に連続波形で且つ上下方向に延びるように折り曲げ形成してもよい。この場合、外筒体11の下部は、その周方向に交互に形成された、径方向外側に位置する山部及び径方向内側に位置する上記変位部(突出部)としての谷部を有している。
【0052】
(実施形態2)
本実施形態では、実施形態1のように、外筒体11に凹部11gを形成する代わりに、外筒体11に、図4、図5に示すように、折り曲げ部11bを形成している。以下、この点について詳細に説明する。
【0053】
外筒体11には、その下端からその軸方向略中央部まで一対の切れ目11a,11aを互いに周方向に所定間隔だけ開くように入れてこの両切れ目11a,11aの内側部分を径方向内側に折り曲げてなる上記変位部としての折り曲げ部11bが形成されている。つまり、この折り曲げ部11bは、外筒体11の下部における周方向の一部が径方向内側に突出してなる突出部である。折り曲げ部11bは、外筒体11の周方向に略均等に間隔を開けて複数形成されていて、上下方向(外筒体11の軸方向)に延びるように折り曲げられてなる。
【0054】
折り曲げ部11bの数や配置は、例えば、以下のように設定される。ゴム弾性体12の車両前後方向及び車両左右方向のばね特性を同一にする場合は、折り曲げ部11bは、例えば、外筒体11の車両前後左右、車両左前、車両左後、車両右前、及び車両右後に8つ形成されたり、外筒体11の車両前後左右に4つ形成されたりする。また、ゴム弾性体12の車両前後方向及び車両左右方向のばね特性を相違させる場合は、折り曲げ部11bは、例えば、外筒体11の車両前後又は車両左右に2つ形成される。図4、図5のものでは、折り曲げ部11bは、外筒体11の車両前後左右、車両左前、車両左後、車両右前、及び車両右後に8つ形成されている。尚、折り曲げ部11bの数や配置は、上記のものに限定されず、ゴム弾性体12の所望のばね特性などに応じて適宜設定される。
【0055】
折り曲げ部11bと内筒体10との間の間隔は、その折り曲げ部11bに対応する部分に関しては、変位部のない単なるスカート状の外筒体と内筒体との間の間隔と比較して、狭くなっている。これによって、折り曲げ部11bと内筒体10との間のゴム弾性体12の水平方向長さは、その折り曲げ部11bに対応する部分に関しては、変位部のない単なるスカート状の外筒体と内筒体との間のゴム弾性体の水平方向長さと比較して、短くなっている。
【0056】
折り曲げ部11bには、その径方向内側及び外側のいずれにもゴム弾性体12が存在している。換言すると、折り曲げ部11bは、その径方向内側及び外側の両側からゴム弾性体12に挟み込み支持されている。これによって、ストラットマウント1は、部分的に、ゴム弾性体に中間筒体が埋設された所謂二重ブッシュ構造に似た構造となっている。
【0057】
また、外筒体11の折り曲げ部11b以外の部分は、ゴム弾性体12における車体パネル2の凹部20の周壁部20b寄りに配置されている。
【0058】
その他の点に関しては、実施形態1とほぼ同様の構成である。
【0059】
そして、上下方向の振動がストラットマウント1に入力されると、ゴム弾性体12は上下方向に弾性変形するが、そのような上下方向の振動に対しては、ゴム弾性体12は、その略全体が効いて、変位部のない単なるスカート状の外筒体が埋設されたゴム弾性体と同様、軟らかいばね特性を発揮・維持することになる。
【0060】
一方、水平方向の振動がストラットマウント1に入力されると、ゴム弾性体12は水平方向に弾性変形するが、上述の如く、折り曲げ部11bと内筒体10との間のゴム弾性体12の水平方向長さが比較的短く、且つストラットマウント1が部分的に二重ブッシュ構造に似た構造となっているため、そのような水平方向の振動に対しては、ゴム弾性体12は、変位部のない単なるスカート状の外筒体が埋設されたゴム弾性体と比較して、硬いばね特性を発揮することになる。
【0061】
このようにして、ゴム弾性体12の上下方向のばね特性を軟らかく維持しながら、ゴム弾性体12の水平方向のばね特性を硬くしたいという要求を満たしている。
【0062】
−効果−
以上により、本実施形態によれば、外筒体11に、その下端から一対の切れ目11a,11aを入れてこの両切れ目11a,11aの内側部分を径方向内側に折り曲げてなる変位部としての折り曲げ部11bを一体形成しているので、この折り曲げ部11bと内筒体10との間のゴム弾性体12の水平方向長さが比較的短くなり、ゴム弾性体12の水平方向のばね特性が比較的硬くなる。
【0063】
また、折り曲げ部11bは、その径方向内側及び外側の両側からゴム弾性体12に支持されているので、ストラットマウント1が部分的に二重ブッシュ構造に似た構造となり、ゴム弾性体12の水平方向のばね特性がより一層硬くなる。
【0064】
また、折り曲げ部11bは、外筒体11の周方向の一部を径方向内側に折り曲げてなるので、外筒体11の折り曲げ部11b以外の部分がゴム弾性体12の車体パネル2寄りに配置され、従来のように、外筒体をその全周に亘って径方向内側に変位させている場合と比較して、ストラットマウント1の車体パネル2への組み付け安定性が向上する。
【0065】
以上により、ゴム弾性体12の水平方向のばね特性を硬くしながら、ストラットマウント1の車体パネル2への組み付け安定性を向上させることができる。
【0066】
また、折り曲げ部11bを、外筒体11の周方向に間隔を開けて複数形成しているので、ゴム弾性体12の水平方向のばね特性に所望の方向性が付与可能になる。
【0067】
また、ストラットマウント1は、ゴム弾性体12に中間筒体を埋設することなく、部分的に、二重ブッシュ構造に似た構造となっているので、ゴム弾性体に中間筒体が埋設されたストラットマウントと比較して、ストラットマウント1のコスト削減が図られる。
【0068】
尚、本実施形態では、外筒体11に、その下端からその軸方向略中央部まで一対の切れ目11a,11aを入れてこの両切れ目11a,11aの内側部分を径方向内側に折り曲げてなる折り曲げ部11bを形成しているが、外筒体11に、図6、図7に示すように、その上端からその軸方向略中央部まで一対の切れ目11c,11cを互いに周方向に所定間隔だけ開くように入れてこの両切れ目11c,11cの内側部分を径方向内側に折り曲げてなる折り曲げ部11dを形成してもよい。つまり、この折り曲げ部11dは、外筒体11の上部における周方向の一部が径方向内側に突出してなる突出部である。折り曲げ部11dは、外筒体11の周方向に略均等に間隔を開けて複数形成されていて、上下方向(外筒体11の軸方向)に延びるように折り曲げられてなる。
【0069】
折り曲げ部11dと内筒体10との間の間隔は、その折り曲げ部11dに対応する部分に関しては、変位部のない単なるスカート状の外筒体と内筒体との間の間隔と比較して、狭くなっている。これによって、折り曲げ部11dと内筒体10との間のゴム弾性体12の水平方向長さは、その折り曲げ部11dに対応する部分に関しては、変位部のない単なるスカート状の外筒体と内筒体との間のゴム弾性体の水平方向長さと比較して、短くなっている。折り曲げ部11dの数や配置は、例えば、上述と同様に設定される。
【0070】
そして、上下方向の振動が上述のようなストラットマウント1に入力されると、ゴム弾性体12は上下方向に弾性変形するが、そのような上下方向の振動に対しては、ゴム弾性体12は、その略全体が効いて、変位部のない単なるスカート状の外筒体が埋設されたゴム弾性体と同様、軟らかいばね特性を発揮・維持することになる。
【0071】
一方、水平方向の振動が上述のようなストラットマウント1に入力されると、ゴム弾性体12は水平方向に弾性変形するが、上述の如く、折り曲げ部11dと内筒体10との間のゴム弾性体12の水平方向長さが比較的短くなっているため、そのような水平方向の振動に対しては、ゴム弾性体12は、変位部のない単なるスカート状の外筒体が埋設されたゴム弾性体と比較して、硬いばね特性を発揮することになる。
【0072】
このようにして、ゴム弾性体12の上下方向のばね特性を軟らかく維持しながら、ゴム弾性体12の水平方向のばね特性を硬くしたいという要求を満たしている。
【0073】
また、本実施形態では、折り曲げ部11b,11dは、上下方向に延びるように折り曲げられてなるが、外筒体11の径方向内側に変位してなる限り、その折り曲げ方向は、上記のものに限定されない。
【0074】
(実施形態3)
本実施形態では、実施形態1、2のように、外筒体11に凹部11gや折り曲げ部11b,11dを形成する代わりに、外筒体11を、図8、図9に示すように、その周方向に連続波形にプレス成形で折り曲げ形成している。以下、この点について詳細に説明する。
【0075】
外筒体11は、その周方向に交互に形成された、径方向外側に位置する山部11e及び径方向内側に位置する上記変位部としての谷部11fを有している。つまり、この谷部11fは、外筒体11の周方向の一部が径方向内側に突出してなる突出部である。
【0076】
山部11eや谷部11fの数や配置は、例えば、以下のように設定される。ゴム弾性体12の車両前後方向及び車両左右方向のばね特性を同一にする場合は、谷部11fは、例えば、外筒体11の車両前後左右、車両左前、車両左後、車両右前、及び車両右後に8つ形成されたり、外筒体11の車両前後左右に4つ形成されたりする。谷部11fが、上述の如く、8つ形成される場合は、山部11eは、隣り合う谷部11f,11fの間に1つずつ、計8つ形成される一方、谷部11fが、上述の如く、4つ形成される場合は、山部11eは、隣り合う谷部11f,11fの間に1つずつ、計4つ形成される。また、ゴム弾性体12の車両前後方向及び車両左右方向のばね特性を相違させる場合は、谷部11fは、例えば、外筒体11の車両前後又は車両左右に2つ形成される。この場合、山部11eは、隣り合う谷部11f,11fの間に1つずつ、計2つ形成される。図8、図9のものでは、谷部11fは、外筒体11の車両前後左右、車両左前、車両左後、車両右前、及び車両右後に8つ形成されている。尚、山部11eや谷部11fの数や配置は、上記のものに限定されず、ゴム弾性体12の所望のばね特性などに応じて適宜設定される。
【0077】
山部11eは、ゴム弾性体12における車体パネル2の凹部20の周壁部20b寄りに配置されている。
【0078】
谷部11fと内筒体10との間の間隔は、その谷部11fに対応する部分に関しては、波形でない単なるスカート状の外筒体と内筒体との間の間隔と比較して、狭くなっている。これによって、谷部11fと内筒体10との間のゴム弾性体12の水平方向長さは、その谷部11fに対応する部分に関しては、波形でない単なるスカート状の外筒体と内筒体との間のゴム弾性体の水平方向長さと比較して、短くなっている。
【0079】
谷部11fには、その径方向内側及び外側のいずれにもゴム弾性体12が存在している。換言すると、谷部11fは、その径方向内側及び外側の両側からゴム弾性体12に挟み込み支持されている。これによって、ストラットマウント1は、部分的に、二重ブッシュ構造に似た構造となっている。
【0080】
その他の点に関しては、実施形態1、2とほぼ同様の構成である。
【0081】
そして、上下方向の振動がストラットマウント1に入力されると、ゴム弾性体12は上下方向に弾性変形するが、そのような上下方向の振動に対しては、ゴム弾性体12は、その略全体(主に、山部11eと内筒体10との間の部分)が効いて、波形でない単なるスカート状の外筒体が埋設されたゴム弾性体12と同様、軟らかいばね特性を発揮・維持することになる。
【0082】
一方、水平方向の振動がストラットマウント1に入力されると、ゴム弾性体12は水平方向に弾性変形するが、上述の如く、谷部11fと内筒体10との間のゴム弾性体12の水平方向長さが比較的短く、且つストラットマウント1が部分的に二重ブッシュ構造に似た構造となっているため、そのような水平方向の振動に対しては、ゴム弾性体12は、波形でない単なるスカート状の外筒体が埋設されたゴム弾性体と比較して、硬いばね特性を発揮することになる。
【0083】
このようにして、ゴム弾性体12の上下方向のばね特性を軟らかく維持しながら、ゴム弾性体12の水平方向のばね特性を硬くしたいという要求を満たしている。
【0084】
−効果−
以上により、本実施形態によれば、外筒体11は、その周方向に連続波形に折り曲げ形成されていて、周方向に交互に形成された、径方向外側に位置する山部11e及び径方向内側に位置する変位部としての谷部11fを有しているので、この谷部11fと内筒体10との間のゴム弾性体12の水平方向長さが比較的短くなり、ゴム弾性体12の水平方向のばね特性が比較的硬くなる。
【0085】
また、谷部11fは、その径方向内側及び外側の両側からゴム弾性体12に支持されているので、ストラットマウント1が部分的に、ゴム弾性体に中間筒体が埋設された二重ブッシュ構造に似た構造となり、ゴム弾性体12の水平方向のばね特性がより一層硬くなる。
【0086】
また、山部11eは、ゴム弾性体12の車体パネル2寄りに配置されているので、従来のように、外筒体をその全周に亘って径方向内側に変位させている場合と比較して、ストラットマウント1の車体パネル2への組み付け安定性が向上する。
【0087】
以上により、ゴム弾性体12の水平方向のばね特性を硬くしながら、ストラットマウント1の車体パネル2への組み付け安定性を向上させることができる。
【0088】
また、ストラットマウント1は、ゴム弾性体12に中間筒体を埋設することなく、部分的に、二重ブッシュ構造に似た構造となっているので、ゴム弾性体に中間筒体が埋設されたストラットマウントと比較して、ストラットマウント1のコスト削減が図られる。
【0089】
(その他の実施形態)
上記各実施形態では、外筒体11に、上記変位部として、凹部11gの底壁部11hや折り曲げ部11b,11d、谷部11fを一体形成しているが、外筒体11の周方向の一部が径方向内側に変位してなる限り、変位部は、上記のものに限定されない。
【0090】
また、上記各実施形態では、外筒体11全体をゴム弾性体12に埋設しているが、外筒体11の上記変位部以外の部分をゴム弾性体12に埋設せず、その外周面に配設してもよい。この場合、外筒体11の外周面は、ストラットマウント1の車体パネル2への組み付け状態では、車体パネル2の凹部20の周壁部20b内面に接触する。
【0091】
また、本発明の趣旨を逸脱しない限り、上記各実施形態の構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0092】
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0093】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書には何ら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0094】
以上説明したように、本発明にかかるストラットマウントは、ゴム弾性体の水平方向のばね特性を硬くしながら、車体への組み付け安定性を向上させることが必要な用途等に適用できる。
【符号の説明】
【0095】
1 ストラットマウント
10 内筒体
11 外筒体
11a,11c 切れ目
11b,11d 折り曲げ部(変位部)
11e 山部
11f 谷部(変位部)
11g 凹部
11h 内壁部(変位部)
12 ゴム弾性体
2 車体パネル
20 凹部
20b 周壁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に非締結状態で組み付けられるストラットマウントであって、
内筒体と、
上記内筒体の周囲に軸方向が該内筒体の軸方向と一致するように設けられて下側に広がるスカート状に形成された外筒体と、
上記両筒体の間に設けられて該両筒体を連結するゴム弾性体とを備えており、
上記外筒体には、その周方向の一部が径方向内側に変位してなる変位部が形成されていることを特徴とするストラットマウント。
【請求項2】
請求項1記載のストラットマウントにおいて、
上記変位部は、上記外筒体の軸方向の少なくとも一部が径方向内側に向くように変位してなり、
上記外筒体における上記変位部の径方向外側には、凹部が形成されていることを特徴とするストラットマウント。
【請求項3】
請求項1記載のストラットマウントにおいて、
上記変位部は、上記外筒体の上端又は下端から一対の切れ目を入れて該両切れ目の内側部分を径方向内側に折り曲げてなる折り曲げ部であることを特徴とするストラットマウント。
【請求項4】
請求項2又は3記載のストラットマウントにおいて、
上記変位部は、上記外筒体の周方向に間隔を開けて複数形成されていることを特徴とするストラットマウント。
【請求項5】
請求項1記載のストラットマウントにおいて、
上記外筒体は、その周方向に連続波形に折り曲げ形成されていて、周方向に交互に形成された、径方向外側に位置する山部及び径方向内側に位置する上記変位部としての谷部を有していることを特徴とするストラットマウント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−276108(P2010−276108A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129157(P2009−129157)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000201869)倉敷化工株式会社 (282)
【Fターム(参考)】