説明

スパッタリング装置および、該スパッタリング装置を用いた半導体デバイスの製造方法

【課題】本発明においては、半導体ウェハの温度を常温から100℃まで、容易に制御可能な冷却機構を有するスパッタリング装置を提供することを目的としている。
【解決手段】真空チャンバと、真空チャンバ内に配置した基板を保持するための基板ホルダと、前記基板ホルダに固定されたシールドと、熱伝導棒とを有し、前記基板ホルダには、前記熱伝導棒の一方の端が接続されており、該熱伝導棒の他端は冷凍機の冷却パネルと接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に薄膜を施すスパッタリング装置に関し、特にスパッタリング処理中の半導体ウェハ温度の上昇を抑え、かつ温度制御する機能を備えたスパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウェハ等の基板上に薄膜を形成する一つの方法としてスパッタリング法が用いられている。一般のスパッタリング法では、真空容器内で、ターゲット材を保持したスパッタ電極に直流電力または高周波電力を印加してプラズマ放電を起こし、陰極降下電圧により陽イオンを陰極であるスパッタ電極に加速衝撃し、この衝撃によってスパッタ電極に設置されたターゲット材から放出された原子を真空槽内に設置した基板上に堆積することにより薄膜が形成される。
【0003】
成膜処理時の半導体ウェハの温度が成膜薄膜の特性結果を大きく左右してしまうため、基板の温度コントロールは重要である。
【0004】
半導体ウェハを冷却する方法として、基板ホルダに冷媒供給管を儲け、冷媒液を流すことが知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、冷却効率をよくするため、半導体ウェハと基板ホルダとの間に温度制御用ガスを導入する構造になっているものもある(例えば、特許文献1参照)。この場合、半導体ウェハ裏面に導入されたガスにより、半導体ウェハが浮き上がらないように半導体ウェハは基板ホルダに押さえつける機構が設けられている。
【0005】
一方、基板を極低温に冷却する装置として、冷凍機のヘッドと熱伝導部材によって基板ホルダと接続し冷却する方法が知られている(特許文献2,3)。
特許文献2には、半導体素子の電気的特性を試験するための半導体冷却装置に冷凍機ヘッドを用いることが開示されている。特許文献2において、ウェハの温度20K以下としている。
特許文献3には、光学測定機にて、試料の低温特性を試験する装置に冷凍機ヘッドを用いることが開示されている。特許文献3では、基板ホルダと半導体ウェハの間にヘリウムガスを導入し、ヘリウムガス量をコントロールすることでウェハの温度をガス量0sccmで61.3Kとし、ガス量200sccmで67.2Kに制御することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002―222849号公報
【特許文献2】特開平8−37226号公報
【特許文献3】特開2007−298506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、昨今の3次元実装向け半導体ウェハのようにスパッタリング装置においても、より低温にて成膜することが要求されてきている。
【0008】
ところが、基板ホルダと半導体ウェハの間に導入するガスによる熱伝導と比較し、ガスを導入しない場合、基板ホルダと半導体ウェハの接触による熱伝導では十分な熱交換が行われないため、冷媒液程度の温度では半導体基板は十分な冷却が行われない。そのため、半導体ウェハの処理中の温度を、例えば、低温成膜で要求される常温から100℃以下にすることは難しい。さらに、連続処理枚数が増えるにつれて基板ホルダ、および周辺のシールドがプラズマからの入熱で蓄熱され、保持されている半導体ウェハの温度が徐々に上昇する傾向がある。
【0009】
冷却効率をあげるために温度制御用ガスを用いる場合、半導体ウェハ裏面に導入されたガスにより、半導体ウェハが浮き上がらないように押さえる機構が必要である。方法としては半導体ウェハを上からクランプする場合や静電チャックを用いる方法がある。前者はクランプ箇所の非成膜領域の発生が生じ、後者の場合には基板ホルダ上部に搭載れたセラミック板内の静電吸着のための電極への電源導入方法などが必要なため、基板ホルダの構造が複雑になる。特に、可動可能な基板ホルダにより基板を保持する場合には、より複雑になる、
そこで、冷媒液や温度制御用ガスを用いずに、基板をより低温に冷却する機構が望まれる。
【0010】
一方、特許文献2、3に記載されている基板の冷却方法を、スパッタリング装置に適用したとしても、半導体ウェハの温度を低温状態に制御することは、困難であった。
これは、スパッタリング装置においては、成膜時にスパッタによる熱により、基板周辺の温度が上昇するためである。また、特許文献2、3に記載されている装置を半導体成膜装置に適用した場合、基板周辺の温度が、プロセスガス、例えば、アルゴンガスの臨界温度以下となり、薄膜特性に大きく影響を及ぼすことがある。
【0011】
そこで、本発明では、半導体ウェハの温度を常温から100℃まで容易に簡単に制御可能な冷却機構を有するスパッタリング装置を提供することを目的とする。また、本発明では、容易に温度制御ができる制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のスパッタリング装置は、真空チャンバと、真空チャンバ内に配置した基板を保持するための基板ホルダと、前記基板ホルダに固定されたシールドと、熱伝導棒とを有し、前記基板ホルダには前記熱伝導棒の一方の端が接続されており、該熱伝導棒の他端は冷凍機の冷却パネルと接続していることを特徴とする。
また、本発明の半導体デバイスの製造方法は、基板に薄膜を形成する工程を有する半導体デバイスの製造方法において、上記スパッタリング装置を用いて基板に薄膜を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のスパッタリング装置によれば、冷媒液や温度制御用ガスを用いずに基板ホルダを低温に容易に制御することができるため、半導体ウェハの低温成膜が容易になる。特に、可動可能な基板ホルダにより基板を保持する場合には、基板ホルダに複雑な構造を設けることなく、半導体ウェハの低温成膜を行うことができる。
また、本発明によれは、基板ホルダ温度は、プロセスガスであるアルゴンの臨界温度以上、つまり、151Kから常温まで制御が可能になる。基板ホルダと半導体ウェハは接触のみの熱伝導のため、半導体ウェハは成膜中は常温から100℃までの温度範囲にすることが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のスパッタリング装置の概略摸式図
【図2】基板ホルダ部の概略摸式図
【図3】冷却パネル部の概略摸式図
【図4】本発明のスパッタリング装置に適用する動作フローチャートの例
【図5】基板ホルダの温度変化を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、発明に係るスパッタリング装置の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明のスパッタリング装置の一態様を示す断面模式図である。本発明のスパッタリング装置は、真空チャンバ1内に、半導体ウェハ12を保持するための基板ホルダ2と、ガス導入口6が設けられている。ガス導入口6には、不図示のガスボンベから真空チャンバ内にスパッタリング用プロセスガスが導入される。
【0016】
また、排気手段として、ゲートバルブ9を介して主排気ポンプ7が接続されている。基板12は、真空チャンバ1に設けられたスリットバルブ5から不図示の搬送ロボットによって、真空チャンバ1内に搬入される。
【0017】
基板ホルダ2は、冷凍機3の冷却パネル13と、熱伝導棒14により接続されている。熱伝導棒14の両端は平らな円板となっている。熱伝導棒14は、銅、アルミなどの熱伝導性の良好な金属部材で形成されている。基板ホルダ2も、銅やステンレスなどの熱伝導性の良好な金属部材で形成される。基板ホルダ2は、熱伝導棒14を介して冷凍機3により冷却される。
熱伝導棒14は真空中となるベローズフランジ19内に設けられてあり、特に熱伝導棒14周辺に保温部材は用いていない。
【0018】
冷凍機3は基板ホルダ2を保持する上下動作可能なベローズフランジ19に接続されており、基板ホルダ2の上下動作に従って冷凍機3も可動する。従って、本発明の熱伝導棒14は可撓性熱伝導部材である必要はない。
【0019】
冷凍機3は、ヘリウムホース17により真空チャンバ外部にある圧縮機4に接続されており、ヘリウムガスが循環する構造となっている。また、冷凍機3に送り込むヘリウムガスの流量をコントロールするため、ヘリウムホースの送り側と戻り側の間に、手動で可変するバイパスバルブ20が搭載されている。冷凍機3に送り込みヘリウム量を予め設定することにより、基板ホルダ2の冷却温度を調整することができる。なお、装置立ち上げ時に、目的とする温度帯用に調整する時以外殆ど調整は行わない。
【0020】
真空容器1には、防着シールドとして、シールド15およびシールド23が配置されている。基板ホルダ2とシールド15は接続されており、基板ホルダ2の上下動作に従って可動する。シールド23は真空チャンバ1の内壁に固定されている。
シールド15はステンレス鋼やアルミのブラスト材などの熱伝導性の部材で形成される。また、基板ホルダ2と接続しているシールド15と、基板ホルダ2は熱伝導棒14を介して冷凍機3と接続しているので、シールド15も、基板ホルダ2および熱伝導棒14を介して冷凍機3により冷却される。
【0021】
図2は、図1のスパッタリング装置において、熱伝導棒14と基板ホルダ2との接続部分の拡大摸式図である。基板ホルダ2と熱伝導棒14の接続部は熱伝導をよくするために、インジウムシート21を挟んでネジ止め22で固定されている。
基板ホルダ2には、温度センサ16として熱電対が組み込まれている。放射温度計で基板ホルダ2の温度を検出してもよい。
また、基板ホルダ2内部には、目的温度に短時間で到達するための発熱体18が組み込まれている。発熱体18の温度制御は、発熱体18に接続された制御手段により行われる。
【0022】
図3は、図1のスパッタリング装置において、熱伝導棒14との接続部分の拡大摸式図を示す。
熱導入棒14と冷凍機3の冷却パネル13もインジウムシート23を挟んでネジ止めで固定接続されている。
【0023】
基板ホルダ2内に埋め込まれた温度センサ16からの信号によって冷凍機と圧縮機のON/OFF制御が行われ、基板ホルダの温度を制御する。
冷却パネル13の温度は、成膜された薄膜特性に影響しないように、プロセスガスの臨界温度(例えばアルゴンガスの場合151K)以上に設定する。
さらに、スパッタリング装置には、基板ホルダからの温度信号により冷凍機と圧縮機の動作をOn/OFFするための制御手段(不図示)、基板ホルダ内に組み込まれた発熱体の温度制御手段(不図示)を備えている。
【0024】
次に、本発明のスパッタリング装置を用いた温度制御方法を、図4の動作フローチャートを用いて説明する。また、基板ホルダの温度の変化を図5に示す。
本発明の温度制御を行うことにより、処理中の半導体ウェハの温度を常温から100℃までの温度コントロールを容易に行うことができ、スパッタリング装置を用いた低温成膜が可能になる。なお、基板ホルダ温度と半導体ウェハの目的温度との関係は事前に実験により確認しておく必要がある。
【0025】
まず、基板ホルダ2に組み込まれた温度センサ16からの信号により基板ホルダ2の温度調節が行われる。温度センサ16の温度が設定温度下限値より低い場合は発熱体18の電源をONし設定温度下限値まで上昇させる。
【0026】
設定温度下限値、設定温度上限値及び、発熱体18への電流値等の設定値は目的温度ごとに事前評価により決定しておく必要がある。
温度センサ16が設定温度下限値に達したら発熱体18への電流供給をOFFする。
そして、事前に設定された各設定温度値に従って、圧縮機4及び、冷凍機3のON/OFF制御が行われる。
【0027】
基板ホルダが設定温度範囲内、つまり上限値と下限値の間になった場合、半導体ウェハ12は、不図示の搬送ロボットによって、開状態にあるスリットバルブ5を通って真空チャンバ2内に導入され、搬送ポジションにある基板ホルダ2の上に保持される。そして、搬送ロボットはスリットバルブ5を通って不図示の搬送チャンバ内に戻り、スリットバルブ5は閉状態になる。
【0028】
基板ホルダ2は成膜ポジションに移動し、プロセスが可能な状態、つまり、主排気ポンプ7上のゲートバルブ9が所定の位置に移動する。プロセスガス、例えばアルゴンガスが導入口6から導入され、カソードマグネット8がモーター11により定常回転されている状態で、ターゲット10にマイナスの高電圧を印加してプラズマを発生させる。
【0029】
成膜中も基板ホルダ2に組み込まれた温度センサ16からの信号で事前に設定された各温度パラメータに従って、圧縮機4のON/OFF制御が行われる。
【0030】
プラズマ中のアルゴンイオンがマイナス極のターゲット10を叩く事で、対向する半導体ウェハ12にターゲット粒子が堆積する。この間プラズマからの入熱により半導体ウェハ12と周辺シールドは温度上昇するが、本発明では、冷凍機3と熱伝導棒14で接続された基板ホルダ2により冷却される。さらに、基板ホルダと接続されたシールド15も冷却される。
【0031】
成膜終了後、半導体ウェハ12は搬送ロボットにより搬送チャンバに回収され、次の半導体ウェハが搬送ロボットにより基板ホルダ2上に保持され、同様のシーケンスがロット終了まで繰り返される。
基板ホルダ2下部の可動可能なベローズフランジ19に接続されている冷凍機3は、基板ホルダ2の上下動作に従って可動する。
【0032】
ヘリウムホース17のヘリウム送り側と戻り側の間に接続された手動バイパスバルブ20は装置立ち上げ時に調整するもので、本シーケンス中に調整は行わない。
【符号の説明】
【0033】
1 真空チャンバ
2 基板ホルダ
3 冷凍機
4 圧縮機
5 スリットバルブ
6 ガス導入口
7 主排気ポンプ
8 カソードマグネット
9 ゲートバルブ
10 ターゲット
11 モーター
12 半導体ウェハ
13 冷却パネル
14 熱伝導棒
15 シールド
16 温度センサ
17 ヘリウムホース
18 発熱体
19 ベローズフランジ
20 手動バイパスバルブ
21 インジウムシート
22 ネジ
23 シールド
24 インジウムシート



【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバと、真空チャンバ内に配置した基板を保持するための基板ホルダと、前記基板ホルダに固定されたシールドと、熱伝導棒とを有し、前記基板ホルダには前記熱伝導棒の一方の端が接続されており、該熱伝導棒の他端は冷凍機の冷却パネルと接続していることを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】
前記基板ホルダは上下に昇降可能であることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記冷凍機は基板ホルダを保持する上下動作可能なベローズフランジに接続されており、基板ホルダの上下動作に従って上下する請求項2に記載のスパッタリング装置。
【請求項4】
前記基板ホルダ内部に温度センサが組み込まれており、前記温度センサによる基板ホルダの温度情報を電気信号として、前記真空容器外部に設けた制御手段に伝送する請求項1ないし3のいずれかに記載のスパッタリング装置。
【請求項5】
前記基板ホルダ内部には、基板ホルダの温度を調整するための発熱体が組み込まれており、前記温度センサ信号により、前記発熱体のON,OFFを制御することを特徴とする請求項4に記載のスパッタリング装置。
【請求項6】
前記冷凍機は、ヘリウムホースにて圧縮機と接続されており、該圧縮機は、前記温度センサ信号により、前記基板ホルダの温度制御を行うことを特徴とする請求項4または5に記載のスパッタリング装置。
【請求項7】
基板に薄膜を形成する工程を有する半導体デバイスの製造方法において、請求項1ないし6に記載のスパッタリング装置を用いて基板に薄膜を形成することを特徴とする半導体デバイスの製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−127136(P2011−127136A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283714(P2009−283714)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】