説明

スラスト玉軸受

【課題】内外軌道輪が分離しないスラスト玉軸受を提供する。
【解決手段】薄板プレス品である外側軌道輪2と内側軌道輪3との間に複数のボール4を収容する。外側軌道輪2を、ボール4が転接する第一レース2aと、この第一レース2aの外周を折曲げ成形してなる外周円筒部2bとで構成する。内側軌道輪3を、ボール4が転接する第二レース3aと、この第二レース3aの内外周をそれぞれ外側軌道輪2側に折曲げ成形してなる内周円筒部3bおよび外周円筒部3cとで構成する。外周円筒部3cの先端に、外側軌道輪2の外周円筒部2bの内側に向いた屈曲部3dを形成する。内側軌道輪3の内周円筒部3bと外周円筒部3cとの間にボール4を保持し、ボール4相互間にグリース又は固体潤滑剤を充填する。外側軌道輪2の外周円筒部2bの先端の複数箇所に、内側軌道輪3の外周円筒部3cの屈曲部3dを覆うように突出した突出部2cを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスラスト玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、シートリフターのアクチュエーター部や、二輪車、四輪車の変速機のギアアッシーなど多くの装置でスラストワッシャーが使用されている。スラストワッシャーは滑り軸受のため初期トルクが大きい。そこで、この初期トルクを低減するために転がり軸受の一種であるスラスト玉軸受の採用が検討されている。このスラスト玉軸受は、例えば特許文献1のように、薄板プレス品で構成した内外軌道輪間に複数のボールをグリースとともに収容したものである。
【特許文献1】実開平5−79047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、例えばシートリフターのアクチュエーター部では、寸法制約上、特にスラスト玉軸受の高さ寸法が例えば約3mm程度と非常に低くなることから、軸受負荷容量を考慮すると、総ボールのようにボール数を多くしたスラスト玉軸受とする必要がある。この場合、内外軌道輪の分離阻止の役割を担うのは内外軌道輪間に充填されたグリース粘性のみである。このため、スラスト玉軸受を装置側に組み付ける際にスラスト玉軸受が内側軌道輪と外側軌道輪とに分離する懸念がある。装置取付け時に内外軌道輪が分離しないようにするためには、スラスト玉軸受の本来の取付け工程以外に、非常に多くの工数が別途必要となる場合がある。さらに、内外軌道輪の隙間からのグリースの漏出も懸念される。
【0004】
本発明は、斯かる実情に鑑み、内外軌道輪が分離しないスラスト玉軸受を提供するもので、さらには、グリースの漏出のおそれをなくすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、請求項1の発明は、薄板プレス品である外側軌道輪と内側軌道輪との間に複数のボールを収容してなるスラスト玉軸受において、前記外側軌道輪を、ボールが転接する第一レースと、この第一レースの外周を折曲げ成形してなる外周円筒部とで構成し、前記内側軌道輪を、ボールが転接する第二レースと、この第二レースの内外周をそれぞれ外側軌道輪側に折曲げ成形してなる内周円筒部および外周円筒部とで構成するとともに、前記外周円筒部の先端に前記外側軌道輪の外周円筒部の内側に向いた屈曲部を形成し、前記内側軌道輪の内周円筒部と外周円筒部との間にボールを保持し、かつ、前記外側軌道輪の外周円筒部の先端の複数箇所に、前記内側軌道輪の外周円筒部の屈曲部を覆うように突出した突出部を形成したことを特徴とする。
【0006】
このスラスト玉軸受は、外側軌道輪の突出部で内側軌道輪の屈曲部を覆っているため、内外の軌道輪の分離を効果的に防止することができる。
【0007】
請求項2の発明は、前記突出部を加締めにより形成したことを特徴とする。
加締めは簡単、確実かつ低コストな加工法であり、内外の軌道輪の分離を効果的に防止することができる。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記突出部に、前記外側軌道輪の外周円筒部の先端側に臨んで漸次径方向で減肉となるように傾斜面を形成したことを特徴とする。このような傾斜面を形成することにより、外側軌道輪と内側軌道輪とを組み付ける際、内側軌道輪の屈曲部を外側軌道輪の突出部の傾斜面がスムーズに乗り越えることができると共に、いったん突出部の傾斜面が内輪の屈曲部を乗り越えると、容易に逆戻りができないので、内外の軌道輪の分離を効果的に防止することができる。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1の発明において、前記内側軌道輪の内周円筒部と外周円筒部との間であってボール相互間の隙間に固体潤滑剤を充填したことを特徴とする。
このスラスト玉軸受では、内外軌道輪間にグリースに代えて固体潤滑剤を充填することにより、潤滑剤の漏洩のおそれがない。
【0010】
請求項5の発明は、請求項4の発明において、固体潤滑剤を、ナフテン系鉱油、ナフテン系合成油またはポリ−α−オレフィン系合成油を基油とする潤滑油もしくはグリースと、ポリアミドやポリエチレン等の粉末状樹脂とからなる混合物を、加熱することにより固形化したもので構成したことを特徴とする。
このような固体潤滑剤は、例えば「ポリルーブ」の商品名(NTN株式会社)で入手可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は以上のように、内側軌道輪の外周円筒部の先端に外側軌道輪の外周円筒部の内側に向いた屈曲部を形成する一方、外側軌道輪の外周円筒部の先端の複数箇所に、内側軌道輪の外周円筒部の屈曲部を覆うように突出した突出部を形成したので、屈曲部と突出部の相互当接により、内外の軌道輪の分離を防止することができる。また、ボール相互間に固体潤滑剤を充填することにより潤滑剤の漏出を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0013】
図1は本発明のスラスト玉軸受1の断面を示す。同図のように、スラスト玉軸受1は薄板プレス品である外側軌道輪2と内側軌道輪3との間に複数のボール4を収容したものである。外側軌道輪2は、ボール4が転接する平坦な円板状の第一レース2aと、この第一レース2aの外周を直角に折曲げ成形してなる外周円筒部2bとを有する。内側軌道輪3は、ボール4が転接する平坦な円板状の第二レース3aと、この第二レース3aの内外周をそれぞれ外側軌道輪2側に直角に折曲げ成形した内周円筒部3bおよび外周円筒部3cとを有する。内側軌道輪3の内周円筒部3bと外周円筒部3cとの間の空間に、複数のボール4とグリースが収容される。ボール4は、保持器を使用しないいわゆる総ボール状態で配設してもよいが、負荷容量との関係からボール数を少なくすることができる場合は保持器を使用してもよい。スラスト玉軸受1の全体の厚みは、シートリフターのアクチュエーター部に使用する場合は、高さ制限の関係で例えば約3mm程度の薄型とする。
【0014】
内側軌道輪3の外周円筒部3cの先端に、外側軌道輪2の外周円筒部2bの内側に向いた屈曲部3dが形成される。一方、外側軌道輪2の外周円筒部2bの先端の複数箇所に、内側軌道輪3の外周円筒部3cの屈曲部3dを覆うように突出した突出部2cが形成される。この突出部2cは、例えば円周方向等間隔に3つ形成する。突出部の数は3つ以上としてもよい。
【0015】
内側軌道輪3の内周円筒部3bと外周円筒部3cとの間であってボール4相互間の隙間に、図2のように、必要に応じて、グリースに代えて固体潤滑剤5を充填することができる。固体潤滑剤5はグリースに比べると漏洩の心配がないという利点がある。固体潤滑剤5は、例えば、ナフテン系鉱油、ナフテン系合成油またはポリ−α−オレフィン系合成油を基油とする潤滑油もしくはグリースと、ポリアミドやポリエチレン等の粉末状樹脂とからなる混合物を、加熱することにより固形化したものである。このような固体潤滑剤は、「ポリルーブ」の商品名(NTN株式会社)で入手可能である。固体潤滑剤としては、その他、高粘度(例えば1000cps以上)のプラスチックグリースも含まれる。プラスチックグリースは、例えばポリエチレン1〜95重量%、好ましくは30重量%以上と石鹸又は非石鹸増稠の潤滑グリース99〜5重量%との混合物を加熱して固形化したものである。或いは、前述の成分に潤滑油の滲み出しを抑制するための添加物を1〜50重量%加えてもよい。
【0016】
本発明のスラスト玉軸受1は以上のように構成され、外側軌道輪2の突出部2cで内側軌道輪3の屈曲部3dを覆っているため、内外の軌道輪2、3が分離することがない。また、屈曲部3dの先端を外側軌道輪2の外周円筒部2bの内側に近接させ、内外軌道輪2、3間の隙間を狭めることにより、グリース漏洩を実質的に阻止することができる。また、図2のように、内外軌道輪2、3間にグリースに代えて固体潤滑剤5を充填することにより、潤滑剤の漏洩のおそれがなくなる。この場合は内側軌道輪3の屈曲部3dと外側軌道輪2の外周円筒部2bとの間の隙間をある程度広げても格別支障はない。
【0017】
次に、図3Aおよび図3Bに基づき本発明の変形実施形態を説明する。この変形実施形態は、外側軌道輪2の外周円筒部2bの先端内側の複数箇所(例えば外周円筒部2bの周方向三等分位置の3箇所)に突出部2dを形成し、この突出部2dに、外側軌道輪2の外周円筒部2bの先端側に臨んで漸次径方向で減肉となるように傾斜面2eを形成したものである。突出部2dの反対側(内側)の面は傾斜面2eよりも角度を急にしたストッパ面2fとする。ストッパ面2fは半径方向と平行な面としてもよい。ストッパ面2fを半径方向と平行な面にすると、突出部2dの先端が鋭角となる。
【0018】
このように、傾斜面2eを有する突出部2dとすることにより、図3Aの矢印方向から外側軌道輪2を内側軌道輪3に分離不能にワンタッチで組み付けることができる。この場合は加締め工程は不要である。すなわち、図3Aの矢印方向から外側軌道輪2を内側軌道輪3に組み付けると、外側軌道輪2の突出部2dの傾斜面2eが内側軌道輪3の屈曲部3dをスムーズに乗り越える。この際、外側軌道輪2の外周円筒部2bが外側にやや弾性変形するか、または内側軌道輪3の外周円筒部3cが内側にやや弾性変形する。そして、いったん突出部2dの傾斜面2eが内側軌道輪3の屈曲部3dを乗り越えると、ストッパ面2fと屈曲部3dとの干渉により容易に逆戻りができない。これにより、内外の軌道輪2、3の分離を効果的に防止することができる。なお、ストッパ面2fを半径方向と平行ないし実質的に平行な面にすると、内外の軌道輪2、3の分離をより効果的に防止することができる。
【0019】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明のスラスト玉軸受はシートリフターのアクチュエーター部に限らず、二輪車や四輪車の変速機のギアアッシーなど、広汎に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のスラスト玉軸受の断面図。
【図2】固体潤滑剤を充填した図1の要部拡大断面図。
【図3A】本発明の変形実施形態に係るスラスト玉軸受の組立時の断面図。
【図3B】本発明の変形実施形態に係るスラスト玉軸受の組立後の断面図。
【符号の説明】
【0022】
1 スラスト玉軸受
2 外側軌道輪
2a 第一レース
2b 外周円筒部
2c、2d 突出部
2e 傾斜面
2f ストッパ面
3 内側軌道輪
3a 第二レース
3b 内周円筒部
3c 外周円筒部
3d 屈曲部
4 ボール
5 固体潤滑剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板プレス品である外側軌道輪と内側軌道輪との間に複数のボールを収容してなるスラスト玉軸受において、
前記外側軌道輪を、ボールが転接する第一レースと、この第一レースの外周を折曲げ成形してなる外周円筒部とで構成し、
前記内側軌道輪を、ボールが転接する第二レースと、この第二レースの内外周をそれぞれ外側軌道輪側に折曲げ成形してなる内周円筒部および外周円筒部とで構成するとともに、前記外周円筒部の先端に前記外側軌道輪の外周円筒部の内側に向いた屈曲部を形成し、
前記内側軌道輪の内周円筒部と外周円筒部との間にボールを保持し、かつ、
前記外側軌道輪の外周円筒部の先端の複数箇所に、前記内側軌道輪の外周円筒部の屈曲部を覆うように突出した突出部を形成したことを特徴とするスラスト玉軸受。
【請求項2】
前記突出部を加締めにより形成したことを特徴とする請求項1に記載のスラスト玉軸受。
【請求項3】
前記突出部に、前記外側軌道輪の外周円筒部の先端側に臨んで漸次径方向で減肉となるように傾斜面を形成したことを特徴とする請求項1に記載のスラスト玉軸受。
【請求項4】
前記内側軌道輪の内周円筒部と外周円筒部との間であってボール相互間の隙間に固体潤滑剤を充填したことを特徴とする請求項1に記載のスラスト玉軸受。
【請求項5】
前記固体潤滑剤は、ナフテン系鉱油、ナフテン系合成油またはポリ−α−オレフィン系合成油を基油とする潤滑油もしくはグリースと、ポリアミドやポリエチレン等の粉末状樹脂とからなる混合物を、加熱することにより固形化したものであることを特徴とする請求項4に記載のスラスト玉軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【公開番号】特開2007−327598(P2007−327598A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−160139(P2006−160139)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】