説明

セルロースアシレートフィルムおよびその製造方法

【課題】 ReとRthの発現領域が広くて湿度に伴う変動が小さいセルロースアシレートフィルムを提供すること。
【解決手段】 炭素数2〜6のアシレート基を2種類以上有し且つ下記式(A)〜(C)を満足するセルロースアシレートと、特定の構造を有するレターデーション上昇剤を含有する、溶液流延によって形成されたセルロースアシレートフィルム。
式(A): 2.4≦X+Y<3.0
式(B): 0≦X≦1.8
式(C): 0.8≦Y<3
(Xはアセチル基の置換度、Yはプロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基およびヘキサノイル基の置換度の総和)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶画像表示装置に有用なセルロースアシレートフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルローストリアセテートフィルムは、透明性や光学的等方性が高い(レターデーション値が低い)との特徴がある。従って、光学的等方性が要求される用途、例えば偏光板には、セルローストリアセテートフィルムを一般に用いることが多い。一方、液晶表示装置等の光学補償フィルム(位相差フィルム)には、逆に光学的異方性(高いレターデーション値)が要求される。従って、光学補償フィルムとしては、ポリカーボネートフィルムやポリスルホンフィルムのようなレターデーション値の高い合成ポリマーフィルムを用いることが一般的であった。
【0003】
しかし最近になって光学的異方性が要求される用途にも使用できる程度に高いレターデーション値を有するセルロースアセテートフィルムが提案されている(例えば特許文献1および2参照)。かかる技術においては、セルローストリアセテートにおいて高いレターデーション値を実現するために、少なくとも2つの芳香環を有する芳香族化合物、中でも1,3,5−トリアジン環を有する化合物を添加して、延伸処理を行っている。
一般にセルローストリアセテートは延伸しにくい高分子素材であり、光学的異方性を大きくすることは困難であることが知られているが、前記特許文献1および2では添加剤を延伸処理で同時に配向させることにより光学的異方性を大きくすることを可能にし、高いレターデーション値を実現している。
【0004】
近年、バーティカルアラインメント(VA)方式の液晶表示素子が開発され、液晶表示装置の軽量化、製造コスト低減のために液晶セルの薄膜化が必須となってきている。このため、光学補償フィルムをはじめとする光学フィルムには、上述の特許文献1および2に記載の1,3,5−トリアジン環を有する化合物で実現できる光学的異方性(Re:フィルム面内のレターデーション、Rth:フィルム厚み方向のレターデーション)に対して、より高いReとより低いRthとが要求されるようになってきた。
【0005】
しかしながら、本発明者が特許文献1および2で開示された方法について鋭意検討した結果、このような手法では、前述のReとRthとをそれぞれ好ましい範囲内に制御することができないことが判明した。さらに、特許文献1および2で開示された光学補償フィルムは湿度によるレターデーション変化が大きいという欠点がある。これは液晶表示装置に組み込んだ際に、表示ムラ、湿度による視認性の変化、および光漏れ等の問題を引き起こすため、その改良が強く求められている。
【0006】
セルロースフィルムの湿度依存性を改良する手段としては、(1)疎水性の高い低分子化合物を添加する方法、および(2)側鎖長い置換基を導入するセルロースアシレート自体の疎水性を高める方法が提案されている。前記(1)についてはレターデーション値の湿度依存性の小さいフィルムが知られている(例えば、特許文献3参照)。また、(2)については炭素原子数が3以上のアシル基の置換度が0.3〜0.8であるセルロースアシレートが知られており(例えば、特許文献4参照)、また、アセチル置換度が1.4〜2.85でありトータルアシル置換度が2.3〜2.85のセルロースアシレートフィルムが知られている(例えば、特許文献5参照)。
【0007】
しかし、上述の方法はいずれも一定の効果は有するものの、依然としてレターデーションの湿度依存性が大きく、かつ、レターデーションの調節範囲が狭いことから更なる改良が必要であった。そこで、新たな光学性能制御技術の開発が必要とされている。
【0008】
【特許文献1】欧州特許公開EP0911656A2号公報
【特許文献2】特開2003−344655号公報
【特許文献3】特開2001−114914号公報
【特許文献4】特開平8−231761号公報
【特許文献5】特開2003−170492号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の第1の目的は、光学特性であるRe(面内レターデーション)、Rth(厚み方向レターデーション)の発現領域が広く、且つOCB、VA等液晶モードに応じて、光学補償適宜なRe値とRth値をそれぞれ好ましい範囲内に制御することができるセルロースアシレートフィルムを提供することにある。
本発明の第2の目的は、膜幅方向(TD)および流れ方向(MD)の光学特性のバラツキが小さく、且つ湿度による光学特性の変化の小さい光学フィルムを用いた偏光板を液晶表示装置に組み込んだ時に発生する表示ムラ、湿度による視認性の変化を大幅に軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者らは鋭意検討した結果、芳香族環4個を有しているために異方性が大きくて、セルロースアシレートと相溶性が良いことを特徴とする一般式(1)の長軸棒状化合物をセルロースアシレートフィルム中に添加することにより、レターデーションの発現領域を広げることに成功した。これによって、横縦延伸倍率の制御に加え、各液晶モード(OCB、VA等)に応じて、光学補償適宜なRe値とRth値をそれぞれ好ましい範囲内に制御することができるようになった。
【0011】
また本発明の発明者らは鋭意検討した結果、アシル置換度が2.4〜3.0で高いセルロースアシレートと疎水性が高いレターデーション上昇剤を使用することによって、湿度に伴う光学特性Re、Rthの変動を小さくし、光学フィルムを用いた偏光板を液晶表示装置に組み込んだ時発生する表示ムラ、視認性変化等の課題が解決し得ることを見出した。
【0012】
さらに本発明の発明者らは鋭意検討した結果、溶液流延製膜したセルロースアシレートフィルムをドライ延伸する手法によって、膜幅方向および流れ方向の光学特性のバラツキが小さく、液晶黒表示する際に光漏れなく、均一性に優れたセルロースアシレート光学補償フィルムを提供できることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明者らは以下の構成を有する本発明を提供する。
[1] 炭素数2〜6のアシレート基を2種類以上有し且つ下記式(A)〜(C)を満足するセルロースアシレートと、少なくとも1種の下記一般式(1)で表される化合物とを含有する、溶液流延によって形成されたセルロースアシレートフィルム。
式(A): 2.4≦X+Y<3.0
式(B): 0≦X≦1.5
式(C): 0.8≦Y<3
(式中、Xはアセチル基の置換度を表し、Yはプロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基およびヘキサノイル基の置換度の総和を表す。)
一般式(1)
【化1】

(式中、Ar1およびAr2はそれぞれ独立にアリール基または芳香族ヘテロ環を表す。L1およびL2はそれぞれ独立に−C(=O)O−、または−C(=O)NR−を表す。Rは水素原子またはアルキル基を表す。Xは下記一般式(2)または一般式(3)を表す。)
一般式(2)
【化2】

(R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
一般式(3)
【化3】

(R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17およびR18はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
【0014】
[2] 上記一般式(1)で表される化合物が下記一般式(1−4)で表される化合物であることを特徴とする[1]に記載のセルロースアシレートフィルム。
一般式(1−4)
【化4】

(式中、R22、R25、R26、R27、R28、R29、R30はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。R31は炭素数1〜12のアルキル基を表す。R32は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。R33は炭素数1〜4のアルキル基を表す。L1およびL2はそれぞれ独立に−C(=O)O−、または−C(=O)NR−を表す。Xは前記一般式(2)または一般式(3)を表す。)
【0015】
[3] 前記一般式(1−4)で表される化合物を、前記セルロースアシレートに対し、0.1質量%〜15質量%含有することを特徴とする[2]に記載のセルロースアシレートフィルム。
【0016】
[4] 波長590nmにおける面内のレターデーション(Re)と厚み方向のレターデーション(Rth)とが、下記式(D)〜(F)を満足することを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1つに記載のセルロースアシレートフィルム。
式(D):0≦Re≦300
式(E):10≦Rth≦500
式(F):1≦Rth/Re≦10
【0017】
[5] 25℃・相対湿度10%の面内のレターデーション(Re)と25℃・相対湿度80%の面内のレターデーション(Re)との差が15nm以下であり、且つ、25℃・相対湿度10%の厚み方向のレターデーション(Rth)と25℃・相対湿度80%の厚み方向のレターデーション(Rth)との差が25nm以下であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1つに記載のセルロースアシレートフィルム。
【0018】
[6] 25℃・相対湿度80%における平衡含水率が3質量%以下であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか1つに記載のセルロースアシレートフィルム。
【0019】
[7] 面内のレターデーション(Re)の幅方向と長手方向の変動と厚み方向のレターデーション(Rth)の幅方向と長手方向の変動がいずれも5nm以下であり、且つ、配向遅相軸の幅方向と長手方向の変動(軸ズレ)が1°以下であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか1つに記載のセルロースアシレートフィルム。
【0020】
[8][1]〜[7]のいずれか1つに記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法であって、前記セルロースアシレートを含有するドープを流延支持体上に流延し、前記流延支持体から剥離したドープ膜を乾燥して残留溶媒量を1質量%以下にした後、得られた膜をドライ延伸することを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【0021】
[9] 前記ドライ延伸において、残留溶媒量を1質量%以下にした前記膜を少なくとも1軸に1%〜200%の延伸倍率で延伸することを特徴とする[8]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【0022】
[10] 溶液流延によって形成されるセルロースアシレートフィルムの延伸前原反膜の膜厚が30〜140μmである。ドライ延伸後の膜厚が20〜110μmであることを特徴とする[1]〜[9]のいずれか1つに記載のセルロースアシレートフィルム。
【0023】
[11] 偏光子の両側に保護フィルムが貼り合わされてなる偏光板であって、該保護フィルムの少なくとも1枚が[1]〜[10]のいずれか1つに記載のセルロースアシレートフィルムであることを特徴とする偏光板。
【0024】
[12] 少なくとも一方の保護フィルムの表面に、ハードコート層、防眩層、および反射防止層から選ばれる少なくとも一層を設けたことを特徴とする[11]記載の偏光板。
【0025】
[13] 液晶セルと、前記液晶セルの両側に配置された二枚の偏光板からなる液晶表示装置であって、少なくとも1枚の偏光板が[11]または[12]に記載の偏光板であることを特徴とする液晶表示装置。
【0026】
[14] 液晶モードがOCBまたはVAモードであることを特徴とする[13]記載の液晶表示装置。
【発明の効果】
【0027】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、光学特性(Re、Rth)の発現領域が広く、OCBまたはVA液晶モードに指定されたReとRthとを同時に満足する光学性能に優れた位相差フィルムとして利用しうるものである。また、本発明のセルロースアシレートフィルムは、湿度変化に伴う光学特性(Re、Rth)の変動が小さいため、液晶表示装置に組み込めば使用環境による視認性の変化を軽減することができる。さらに、本発明のセルロースアシレートフィルムは、膜幅方向および流れ方向の光学特性のバラツキが小さいため、液晶黒表示する際に光漏れがなく、均一性に優れた光学補償フィルムとして利用しうるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0029】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、2種類以上の炭素数2〜6のアシレート基を有し、式(A)〜(C)を満足するセルロースアシレートを含み、溶液流延によって形成されるセルロースアシレートフィルムであって、更にさらに、一般式(1)で表されるレターデーション上昇剤を少なくとも1種含有することを特徴とする。
【0030】
[セルロースアシレート]
本発明に用いられるセルロースアシレートは2種類以上のアシル基を有するセルロースアシレートである。
本発明における2種類以上のアシル基を有するセルロースアシレートはアシル基の疎水性と水酸基の親水性とを適度なバランスに調整することにより、レターデーションの湿度依存性と寸度安定性とを両立させるものである。すなわち、アシル基中のアルキル鎖が平均的に短すぎるおよび/または水酸基比率が高すぎるとレターデーションの湿度依存性が大きくなってしまう。また、アシル基中のアルキル鎖が平均的に長すぎるおよび/または水酸基比率が高すぎるとガラス転移温度(Tg)が低下し、寸度安定性が悪化してしまう。
この観点から、本発明におけるセルロースアシレートは炭素数2〜6のアシル基を2種類以上有する。本発明におけるセルロースアシレートのアシル基としては、フィルムにした際の機械的強さ、溶解性等から、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基がさらに好ましく、アセチル基、プロピオニル基および/またはブチリル基が最も好ましい。
【0031】
本発明においては異なる2種類以上のセルロースアシレートを混合して用いてもよいし、層を分けて用いてもよい。セルロースを構成する、β−1,4に結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部をエステル化した重合体(ポリマー)である。ここで、「アシル置換度」とは、2位、3位および6位のそれぞれについて、セルロースがエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1)の合計を意味する。本発明では、アシル置換度が、好ましくは2.4〜3.0であり、より好ましくは2.45〜2.99であり、特に好ましくは2.5〜2.95である。
【0032】
本発明においては、セルロースの2位、3位および6位のそれぞれの水酸基の置換度は特に限定されないが、セルロースアシレートの6位の置換度が好ましくは0.8以上であり、さらに好ましくは0.85以上であり、特に好ましくは0.90以上であるセルロースアシレートフィルムによってセルロースアシレートの溶解性を向上させることができる。特に非塩素系有機溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。
【0033】
また、本発明におけるセルロースアシレートはアシル基の式(以下、「アシル化度」ともいう)が、下記式(A)〜(C)を満足する(ここで、「X」はアセチル基の置換度を示し、「Y」はプロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基およびヘキサノイル基の置換度の総和を示す)。
式(A): 2.4≦X+Y<3.0
式(B): 0≦X≦1.8
式(C): 0.8≦Y<3
【0034】
Yがプロピオニル基の場合(アシル基としてプロピオニル基を含んでいる場合)、下記式(A1)〜(C1)を満たすことが好ましい。
式(A1): 2.5≦X+Y≦2.99
式(B1): 0≦X≦0.99
式(C1): 2≦Y≦2.95
【0035】
さらに好ましくは下記式(A1’)〜(C1’)を満たすことである。
式(A1’): 2.6≦X+Y≦2.95
式(B1’): 0≦X≦1.69
式(C1’): 2.3≦Y≦2.9
である。
【0036】
また、Yがブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基の場合(アシル基としてブチリル基、ペンタノイル基またはヘキサノイル基を含んでいる場合)は、下記式(A2)〜(C2)を満たすことが好ましい。
式(A2): 2.4≦X+Y≦2.99
式(B2): 0≦X≦1.69
式(C2): 1.3≦Y≦2.2
【0037】
さらに好ましくは、下記式(A2’)〜(C2’)を満たすことである。
式(A2’): 2.5≦X+Y≦2.95
式(B2’): 0≦X≦1.55
式(C2’): 1.4≦Y<2.0
である。
Yが2種以上混合している場合(2種以上のアシル基を含んでいる場合)は、最も多く存在する置換基によって、前記いずれかに分けられる。
【0038】
次に、本発明におけるセルロースアシレートの製造方法について詳細に説明する。本発明におけるセルロースアシレートの、原料綿や合成方法については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)7頁〜12頁にも詳細に記載されている。
【0039】
(原料および前処理)
本発明におけるセルロースアシレートの原料として用いられるセルロース原料としては、広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、綿花リンター由来のセルロース原料が好ましく用いられる。前記セルロース原料としては、α−セルロース含量が92質量%〜99.9質量%の高純度のものを用いることが好ましい。
前記セルロース原料がフィルム状や塊状である場合は、あらかじめ解砕しておくことが好ましい。また、セルロース原料の形態は微細粉末から羽毛状になるまで解砕が進行していることが好ましい。
【0040】
(活性化)
セルロース原料はアシル化に先立って、活性化剤と接触させる処理(活性化)を行うことが好ましい。前記活性化剤としては、カルボン酸または水を用いることができる。水を用いた場合には、活性化の後に酸無水物を過剰に添加して脱水を行ったり、水を置換するためにカルボン酸で洗浄したり、アシル化の条件を調節したりするといった工程を含むことが好ましい。前記活性化剤はいかなる温度に調節して添加してもよく、添加方法としては噴霧、滴下、浸漬などの方法から選択することができる。
【0041】
前記活性化剤として好ましいカルボン酸は、炭素数2〜7のカルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、2−メチルプロピオン酸、吉草酸、3−メチル酪酸、2−メチル酪酸、2,2−ジメチルプロピオン酸(ピバル酸)、ヘキサン酸、2−メチル吉草酸、3−メチル吉草酸、4−メチル吉草酸、2,2−ジメチル酪酸、2,3−ジメチル酪酸、3,3−ジメチル酪酸、シクロペンタンカルボン酸、ヘプタン酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸など)であり、より好ましくは、酢酸、プロピオン酸、または酪酸であり、特に好ましくは酢酸である。
【0042】
活性化の際は、必要に応じてさらに硫酸などのアシル化の触媒を加えることもできる。しかし、硫酸のような強酸を添加すると、解重合が促進されることがあるため、その添加量はセルロースに対して0.1質量%〜10質量%程度に留めることが好ましい。また、2種類以上の活性化剤を併用したり、炭素数2〜7のカルボン酸の酸無水物を添加したりしてもよい。
【0043】
前記活性化剤の添加量は、セルロースに対して5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが特に好ましい。活性化剤の量が該下限値以上であれば、セルロースの活性化の程度が低下するなどの不具合が生じないので好ましい。前記活性化剤の添加量の上限は生産性を低下させない限りにおいて特に制限はないが、セルロースに対して質量で100倍以下であることが好ましく、20倍以下であることがより好ましく、10倍以下であることが特に好ましい。また、活性化剤をセルロースに対して大過剰加えて活性化を行い、その後、濾過、送風乾燥、加熱乾燥、減圧留去、溶媒置換などの操作を行って活性剤の量を減少させてもよい。
【0044】
活性化の時間は20分間以上であることが好ましい。活性化の時間の上限は生産性に影響を及ぼさない範囲であれば特に制限はないが、好ましくは72時間以下であり、さらに好ましくは24時間以下であり、特に好ましくは12時間以下である。また、活性化の温度は0℃〜90℃が好ましく、15℃〜80℃がさらに好ましく、20℃〜60℃が特に好ましい。セルロースの活性化の工程は加圧または減圧条件下で行うこともできる。また、加熱の手段として、マイクロ波や赤外線などの電磁波を用いてもよい。
【0045】
(アシル化)
本発明におけるセルロースアシレートを製造する方法においては、セルロースにカルボン酸の酸無水物を加え、ブレンステッド酸またはルイス酸を触媒として反応させることで、セルロースの水酸基をアシル化することが好ましい。
6位置換度の大きいセルロースアシレートの合成については、特開平11−5851号、特開2002−212338号や特開2002−338601号等の各公報等に記載がある。
【0046】
セルロースアシレートの他の合成法としては、塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、ピリジン、トリエチルアミン、tert−ブトキシカリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなど)の存在下で、カルボン酸無水物やカルボン酸ハライドと反応させる方法やアシル化剤として混合酸無水物(例えば、カルボン酸・トリフルオロ酢酸混合無水物、カルボン酸・メタンスルホン酸混合無水物など)を用いる方法も用いることができる。特に後者の方法は、炭素数の多いアシル基や、カルボン酸無水物−酢酸−硫酸触媒によるアシル化法が困難なアシル基を導入する際には有効である。
【0047】
セルロース混合アシレートを得る方法としては、アシル化剤として2種のカルボン酸無水物を混合または逐次添加により反応させる方法;2種のカルボン酸の混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を用いる方法;カルボン酸とそれ以外のカルボン酸との酸無水物(例えば、酢酸とプロピオン酸無水物)を原料として反応系内で混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を合成してセルロースと反応させる方法;置換度が3に満たないセルロースアシレートを一旦合成し、酸無水物や酸ハライドを用いて、残存する水酸基をさらにアシル化する方法などを用いることができる。
【0048】
(カルボン酸の酸無水物)
カルボン酸の酸無水物として、カルボン酸としての炭素数が2〜7以下のものが好ましく、例えば、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、2−メチルプロピオン酸無水物、吉草酸無水物、3−メチル酪酸無水物、2−メチル酪酸無水物、2,2−ジメチルプロピオン酸無水物(ピバル酸無水物)、ヘキサン酸無水物、2−メチル吉草酸無水物、3−メチル吉草酸無水物、4−メチル吉草酸無水物、2,2−ジメチル酪酸無水物、2,3−ジメチル酪酸無水物、3,3−ジメチル酪酸無水物、シクロペンタンカルボン酸無水物、ヘプタン酸無水物、シクロヘキサンカルボン酸無水物、安息香酸無水物などを挙げることができる。
【0049】
カルボン酸の酸無水物としてより好ましくは、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、吉草酸無水物、ヘキサン酸無水物、ヘプタン酸無水物などの無水物であり、特に好ましくは、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物である。
【0050】
また、混合エステルを調製する目的で、これらの酸無水物を併用して使用することが好ましく行われる。その混合比は目的とする混合エステルの置換比に応じて決定することが好ましい。前記酸無水物は、セルロースに対して、通常は過剰当量添加することが好ましい。すなわち、セルロースの水酸基に対して1.2〜50当量添加することが好ましく、1.5〜30当量添加することがより好ましく、2〜10当量添加することが特に好ましい。
【0051】
(触媒)
本発明におけるセルロースアシレートの製造に用いるアシル化の触媒には、ブレンステッド酸またはルイス酸を使用することが好ましい。ブレンステッド酸およびルイス酸の定義については、例えば、「理化学辞典」第五版(2000年)に記載されている。好ましいブレンステッド酸の例としては、硫酸、過塩素酸、リン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などを挙げることができる。ルイス酸の好ましい例としては、塩化亜鉛、塩化スズ、塩化アンチモン、塩化マグネシウムなどを挙げることができる。
前記触媒としては、硫酸または過塩素酸がより好ましく、硫酸が特に好ましい。触媒の好ましい添加量は、セルロースに対して0.1〜30質量%であり、より好ましくは1〜15質量%であり、特に好ましくは3〜12質量%である。
【0052】
(溶媒)
セルロースのアシル化を行う際には、粘度、反応速度、攪拌性、アシル置換比などを調整する目的で、溶媒を添加してもよい。このような溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、カルボン酸、アセトン、エチルメチルケトン、トルエン、ジメチルスルホキシド、スルホランなどを用いることもできるが、好ましくはカルボン酸であり、例えば、炭素数2〜7のカルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、2−メチルプロピオン酸、吉草酸、3−メチル酪酸、2−メチル酪酸、2,2−ジメチルプロピオン酸(ピバル酸)、ヘキサン酸、2−メチル吉草酸、3−メチル吉草酸、4−メチル吉草酸、2,2−ジメチル酪酸、2,3−ジメチル酪酸、3,3−ジメチル酪酸、シクロペンタンカルボン酸)などを挙げることができ、酢酸、プロピオン酸、酪酸などが更に好ましい。これらの溶媒は混合して用いてもよい。
【0053】
(アシル化の条件)
セルロースのアシル化を行う際には、酸無水物と触媒、さらに、必要に応じて溶媒を混合してからセルロースと混合してもよく、またこれらを別々に逐次セルロースと混合してもよいが、通常は、酸無水物と触媒との混合物、または、酸無水物と触媒と溶媒との混合物をアシル化剤として調製してからセルロースと反応させることが好ましい。アシル化の際の反応熱による反応容器内の温度上昇を抑制するために、アシル化剤を予め冷却しておくことが好ましい。該冷却温度としては、−50℃〜20℃が好ましく、−35℃〜10℃がより好ましく、−25℃〜5℃が特に好ましい。アシル化剤は液状で添加してもよいし、凍結させて結晶、フレーク、またはブロック状の固体として添加してもよい。
【0054】
アシル化剤はさらに、セルロースに対して一度に添加しても、分割して添加してもよい。また、アシル化剤に対してセルロースを一度に添加しても、分割して添加してもよい。アシル化剤を分割して添加する場合は、同一組成のアシル化剤を用いても、複数の組成の異なるアシル化剤を用いてもよい。好ましい例として、1)酸無水物と溶媒との混合物をまず添加し、次いで、触媒を添加する、2)酸無水物および溶媒と触媒の一部との混合物をまず添加し、次いで、触媒の残りと溶媒との混合物を添加する、3)酸無水物と溶媒との混合物をまず添加し、次いで、触媒と溶媒との混合物を添加する、4)溶媒をまず添加し、酸無水物と触媒との混合物あるいは酸無水物と触媒と溶媒との混合物を添加する方法、などを挙げることができる。
【0055】
セルロースのアシル化は発熱反応であるが、本発明におけるセルロースアシレートを製造する方法においては、アシル化の際の最高到達温度が50℃以下であることが好ましい。反応温度が50℃以下であれば、解重合が進行して本発明の用途に適した重合度のセルロースアシレートを得難くなるなどの不都合が生じないため好ましい。また、アシル化の際の最高到達温度としては、好ましくは45℃以下であり、より好ましくは40℃以下であり、特に好ましくは35℃以下である。前記反応温度は温度調節装置を用いて制御しても、アシル化剤の初期温度で制御してもよい。また、反応容器を減圧して、反応系中の液体成分の気化熱で反応温度を制御することもできる。アシル化の際の発熱は反応初期が大きいため、反応初期には冷却し、その後は加熱するなどの制御を行うこともできる。アシル化の終点は、光線透過率、溶液粘度、反応系の温度変化、反応物の有機溶媒に対する溶解性、偏光顕微鏡観察などの手段により決定することができる。
【0056】
前記アシル化反応の際の最低温度は−50℃以上が好ましく、−30℃以上がより好ましく、−20℃以上が特に好ましい。好ましいアシル化の反応時間は0.5時間〜24時間であり、1時間〜12時間がより好ましく、1.5時間〜6時間が特に好ましい。0.5時間では通常の反応条件では反応が十分に進行しにくく、24時間を越えると、工業的な製造効率の観点から好ましくない。
【0057】
(反応停止剤)
本発明に用いられるセルロースアシレートを製造する方法においては、アシル化反応の後に、反応停止剤を加えることが好ましい。
反応停止剤としては、酸無水物を分解するものであればいかなるものでもよい。前記反応停止材の好ましい例としては、水、アルコール(例えばエタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなど)またはこれらを含有する組成物などを挙げることができる。前記反応停止剤は、後述の中和剤を含んでいてもよい。また、反応停止剤の添加に際しては、反応装置の冷却能力を超える大きな発熱が生じて、セルロースアシレートの重合度を低下させる原因となったり、セルロースアシレートが望まない形態で沈殿したりする場合があるなどの不都合を避けるため、水やアルコールを直接添加するよりも、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸と水との混合物を添加することが好ましい。この際のカルボン酸としては酢酸が特に好ましい。また、カルボン酸と水との組成比は任意の割合で用いることができるが、水の含有量が5質量%〜80質量%であることが好ましく、10質量%〜60質量%が更に好ましく、15質量%〜50質量%の範囲であることが特に好ましい。
【0058】
前記反応停止剤は、アシル化の反応容器に添加してもよいし、反応停止剤の容器に反応物を添加してもよい。反応停止剤は3分間〜3時間かけて添加することが好ましい。反応停止剤の添加時間が3分間以上であれば、発熱が大きくなりすぎて重合度低下の原因となったり、酸無水物の加水分解が不十分になったり、セルロースアシレートの安定性を低下させたりするなどの不都合が生じないので好ましい。また反応停止剤の添加時間が3時間以下であれば、工業的な生産性の低下などの問題が生じないため好ましい。反応停止剤の添加時間として、好ましくは4分間〜2時間であり、より好ましくは5分間〜1時間であり、特に好ましくは10分間〜45分間である。反応停止剤を添加する際には反応容器を冷却してもよいし冷却しなくてもよいが、解重合を抑制する目的から、反応容器を冷却して温度上昇を抑制することが好ましい。また、反応停止剤を冷却しておくことも好ましい。
【0059】
(中和剤)
アシル化の反応停止工程あるいはアシル化の反応停止工程後に、系内に残存している過剰の無水カルボン酸の加水分解、カルボン酸およびエステル化触媒の一部または全部の中和のために、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物または酸化物)またはその溶液を添加してもよい。中和剤の溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなど)、カルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸など)、ケトン(例えば、アセトン、エチルメチルケトンなど)、ジメチルスルホキシドなどの極性溶媒、およびこれらの混合溶媒を好ましい例として挙げることができる。
【0060】
(部分加水分解)
このようにして得られたセルロースアシレートは、全置換度がほぼ3に近いものであるが、所望の置換度のものを得る目的で、少量の触媒(一般には、残存する硫酸などのアシル化触媒)と水との存在下で、20〜90℃に数分〜数日間保つことによりエステル結合を部分的に加水分解し、セルロースアシレートのアシル置換度を所望の程度まで減少させること(いわゆる熟成)が一般的に行われる。部分加水分解の過程でセルロースの硫酸エステルも加水分解されることから、加水分解の条件を調節することにより、セルロースに結合した硫酸エステルの量を削減することができる。
【0061】
(部分加水分解の停止)
所望のセルロースアシレートが得られた時点で、系内に残存している触媒を、前記のような中和剤またはその溶液を用いて完全に中和し、部分加水分解を停止させることが好ましい。反応溶液に対して溶解性が低い塩を生成する中和剤(例えば、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウムなど)を添加することにより、溶液中あるいはセルロースに結合した触媒(例えば、硫酸エステル)を効果的に除去することも好ましい。
【0062】
(濾過)
セルロースアシレート中の未反応物、難溶解性塩、その他の異物などを除去または削減する目的として、反応混合物(ドープ)の濾過を行うことが好ましい。濾過は、アシル化の完了から再沈殿までの間のいかなる工程において行ってもよい。濾過圧や取り扱い性の制御の目的から、濾過に先立って適切な溶媒で希釈することも好ましい。
【0063】
(再沈殿)
このようにして得られたセルロースアシレート溶液を、水もしくはカルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸など)水溶液のような貧溶媒中に混合するか、セルロースアシレート溶液中に、貧溶媒を混合することにより、セルロースアシレートを再沈殿させ、洗浄および安定化処理により目的のセルロースアシレートを得ることができる。再沈殿は連続的に行っても、一定量ずつバッチ式で行ってもよい。セルロースアシレート溶液の濃度および貧溶媒の組成をセルロースアシレートの置換様式あるいは重合度により調整することで、再沈殿したセルロースアシレートの形態や分子量分布を制御することも好ましい。
また、精製効果の向上、分子量分布や見かけ密度の調節などの目的から、一旦再沈殿させたセルロースアシレートをその良溶媒(例えば、酢酸やアセトンなど)に再度溶解し、これに貧溶媒(例えば、水など)を作用させることにより再沈殿を行う操作を、必要に応じて1回ないし複数回行ってもよい。
【0064】
(洗浄)
生成したセルロースアシレートは洗浄処理を施すことが好ましい。洗浄処理に用いられる洗浄溶媒としては、セルロースアシレートの溶解性が低く、かつ、不純物を除去することができるものであればいかなるものでもよいが、通常は水または温水が用いられる。洗浄溶媒(洗浄水)の温度は、好ましくは25℃〜100℃であり、さらに好ましくは30℃〜90℃であり、特に好ましくは40℃〜80℃である。洗浄処理は濾過と洗浄液との交換を繰り返すいわゆるバッチ式で行ってもよいし、連続洗浄装置を用いて行ってもよい。また、再沈殿および洗浄の工程で発生した廃液を再沈殿工程の貧溶媒として再利用したり、蒸留などの手段によりカルボン酸などの溶媒を回収して再利用することも好ましい。
洗浄の進行はいかなる手段で追跡を行ってよいが、水素イオン濃度、イオンクロマトグラフィー、電気伝導度、ICP、元素分析、原子吸光スペクトルなどの方法を好ましい例として挙げることができる。
このような処理により、セルロースアシレート中の触媒(硫酸、過塩素酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、塩化亜鉛など)、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物または酸化物など)、中和剤と触媒との反応物、カルボン酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)、中和剤とカルボン酸との反応物などを除去することができる。係る観点から、セルロースアシレートの安定性を高めるためにも有効である。
【0065】
(安定化)
温水処理による洗浄後のセルロースアシレートは、安定性をさらに向上させるためや、カルボン酸臭を低下させるために、弱アルカリ(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムなどの炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、酸化物など)の水溶液などで処理し、残存不純物の量を低減することも好ましい。
残存不純物の量は、洗浄液の量、洗浄の温度、時間、攪拌方法、洗浄容器の形態、安定化剤の組成や濃度により制御できる。本発明においては、残留硫酸根量(硫黄原子の含有量として)が0〜500ppmになるようにアシル化、部分加水分解および洗浄の条件を設定するのが好ましい。
【0066】
(乾燥)
本発明においてセルロースアシレートの含水率を好ましい量に調整するためには、セルロースアシレートを乾燥することが好ましい。乾燥の方法については、目的とする含水率が得られるのであれば特に限定されないが、加熱、送風、減圧、攪拌などの手段を単独または組み合わせで用いることで効率的に行うことが好ましい。乾燥温度として好ましくは0〜200℃であり、さらに好ましくは40〜180℃であり、特に好ましくは50〜160℃である。本発明におけるセルロースアシレートは、その含水率が3質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、0.7質量%以下であることが特に好ましい。
【0067】
(形態)
本発明におけるセルロースアシレートは粒子状、粉末状、繊維状、塊状など種々の形状を取ることができるが、フィルム製造の原料としては粒子状または粉末状であることが好ましい。このため、乾燥後のセルロースアシレートは、粒子サイズの均一化や取り扱い性の改善のために、粉砕や篩がけを行ってもよい。セルロースアシレートが粒子状である場合、使用する粒子の90質量%以上が、0.5〜5mmの粒子サイズを有することが好ましい。また、使用する粒子の50質量%以上が1〜4mmの粒子サイズを有することが好ましい。
【0068】
本発明におけるセルロースアシレートの粒子は、なるべく球形に近い形状を有することが好ましい。また、セルロースアシレートの粒子は、見かけ密度が0.5〜1.3であることが好ましく、0.7〜1.2であることが更に好ましく、0.8〜1.15であることが特に好ましい。見かけ密度の測定法に関しては、JIS K−7365に規定されている。
本発明におけるセルロースアシレートの粒子は安息角が10〜70°であることが好ましく、15〜60°であることがさらに好ましく、20〜50°であることが特に好ましい。
【0069】
(重合度)
本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの重合度は、平均重合度が150〜700であることが好ましく、180〜550が更に好ましく、200〜400特に好ましく、200〜350であることが最も好ましい。前記平均重合度は、宇田らの「極限粘度法」(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)に記載されるように、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による分子量分布測定方法等により測定できる。さらに平均重合度の測定方法については、特開平9−95538号公報にも詳細に記載されている。
本発明においては、セルロースアシレートのGPCによる重量平均重合度/数平均重合度が1.6〜3.6であることが好ましく、1.7〜3.3であることがさらに好ましく、1.8〜3.2であることが特に好ましい。
【0070】
これらのセルロースアシレートは1種類のみを用いてもよく、2種以上混合してもよい。また、セルロースアシレート以外の高分子成分を適宜混合したものでもよい。また、混合される高分子成分はセルロースエステルと相溶性に優れるものが好ましい。本発明におけるセルロースアシレートはフィルムにしたときの透過率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることが更に好ましく、92%以上であることが特に好ましい。
【0071】
(セルロースアシレートの合成例)
以下に本発明に使用されるセルロースアシレートの合成例について、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
<合成例1> (セルロースアセテートプロピオネートの合成)
セルロース(広葉樹パルプ)150質量部、酢酸75質量部を、還流装置を付けた反応容器に入れ、内温40℃で2時間攪拌した。このような前処理を行ったセルロースは膨潤、解砕されて、微細粉末−羽毛状を呈した。
【0073】
別途、アシル化剤としてプロピオン酸無水物1545質量部、硫酸10.5質量部の混合物を作製し、−30℃に冷却した後に、上記の前処理を行ったセルロースを収容する反応容器に加えた。アシル化剤の添加から0.5時間後に内温が10℃、2時間後に内温が23℃になるように調節し、内温を23℃に保ってさらに3時間攪拌した。その後、内温を5℃まで冷却し、5℃に冷却した25質量%含水酢酸120質量部を1時間かけて添加した。内温を40℃に上昇させ、1.5時間攪拌した。硫酸触媒の2倍モル相当の酢酸マグネシウム4水和物に、等重量の水と、等重量の酢酸を加えて溶解した混合溶液を作成し、反応容器に添加して、30分間攪拌した。25質量%含水酢酸1000質量部、33質量%含水酢酸500質量部、50質量%含水酢酸1000質量部、水1000質量部をこの順に加え、セルロースアセテートプロピオネートを沈殿させた。得られたセルロースアセテートプロピオネートは温水にて十分に洗浄した。洗浄後、20℃の0.005質量%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌し、洗浄液のpHが7になるまで、さらに水で洗浄を行った後、70℃で真空乾燥させた。
【0074】
1H−NMR及び、GPC測定によれば、得られたセルロースアセテートプロピオネートは、アセチル化度0.30、プロピオニル化度2.63、重合度320であった。硫酸根の含有量は、ASTM D−817−96により測定した。
【0075】
<合成例2> (セルロースアセテートブチレートの合成)
セルロース(広葉樹パルプ)100質量部、酢酸135質量部を、還流装置を付けた反応容器に入れ、内温40℃で2時間攪拌した。このような前処理を行ったセルロースは膨潤、解砕されて、微細粉末−羽毛状を呈した。
【0076】
別途、アシル化剤として酪酸無水物1080質量部、硫酸10質量部の混合物を作製し、−20℃に冷却した後に、前処理を行ったセルロースを収容する反応容器に加えた。30分経過後、内温を20℃まで上昇させ、5時間反応させた。その後、内温を5℃まで冷却し、約5℃に冷却した12.5質量%含水酢酸2400質量部を1時間かけて添加した。内温を30℃に上昇させ、1時間攪拌した。硫酸触媒の2倍モル相当の酢酸マグネシウム4水和物に等重量の水と、等重量の酢酸を加えて溶解した混合溶液を作成し、反応容器に添加して、30分間攪拌した。酢酸1000質量部、50質量%含水酢酸2500質量部を徐々に加え、セルロースアセテートブチレートを沈殿させた。得られたセルロースアセテートブチレートの沈殿は温水にて十分に洗浄を行った。洗浄後、0.005質量%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌し、さらに、洗浄液のpHが7になるまで水で洗浄を行った後、70℃で乾燥させた。得られたセルロースアセテートブチレートはアセチル化度0.84、ブチリル化度2.12、重合度268であった。
【0077】
[レターデーション上昇剤]
次に本発明における一般式(1)で表されるレターデーション上昇剤に関して詳細に説明する。
本発明のセルロースアシレートフィルムは、下記一般式(1)で表されるレターデーション上昇剤を少なくとも一種1種含有することを特徴とする。
まず、下記一般式(1)で表されるレターデーション上昇剤に関して詳細に説明する。
【0078】
一般式(1)
【化5】

【0079】
(式中、Ar1およびAr2はそれぞれ独立にアリール基または芳香族ヘテロ環を表す。L1およびL2はそれぞれ独立に−C(=O)O−、または−C(=O)NR−を表す。Rは水素原子またはアルキル基を表す。Xは下記一般式(2)または一般式(3)を表す。)
【0080】
一般式(2)
【化6】

(R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
【0081】
一般式(3)
【0082】
【化7】

(R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17およびR18はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
【0083】
一般式(1)中、Ar1およびAr2はそれぞれ独立にアリール基または芳香族ヘテロ環を表し、Ar1、Ar2で表されるアリール基として好ましくは炭素数6〜30のアリール基であり、単環であってもよいし、さらに他の環と縮合環を形成してもよい。また、可能な場合には置換基を有してもよく、置換基としては後述の置換基Tが適用できる。
一般式(1)中、Ar1、Ar2で表されるアリール基としてより好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニル基、p−メチルフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
【0084】
一般式(1)中、Ar1、Ar2で表される芳香族ヘテロ環としては酸素原子、窒素原子あるいは硫黄原子のうち少なくとも1つを含む芳香族ヘテロ環であれば何でもよいが、好ましくは5ないし6員環の酸素原子、窒素原子あるいは硫黄原子のうち少なくとも1つを含む芳香族ヘテロ環である。また、可能な場合にはさらに置換基を有してもよい。置換基としては後述の置換基Tが適用できる。
【0085】
一般式(1)中、Ar1、Ar2で表される芳香族ヘテロ環の具体例としては、例えば、フラン環、ピロール環、チオフェン環、イミダゾール環、ピラゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、トリアゾール環、トリアジン環、インドール環、インダゾール環、プリン環、チアゾリン環、チアゾール環、チアジアゾール環、オキサゾリン環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、キノリン環、イソキノリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、キノキサリン環、キナゾリン環、シンノリン環、プテリジン環、アクリジン環、フェナントロリン環、フェナジン環、テトラゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、ベンゾトリアゾール環、テトラザインデン環、ピロロトリアゾール環、ピラゾロトリアゾール環などが挙げられる。芳香族ヘテロ環として好ましくは、ベンズイミダゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、ベンゾトリアゾール環である。
【0086】
一般式(1)中、L1およびL2はそれぞれ独立に−C(=O)O−または−C(=O)NR−を表し(Rは水素原子またはアルキル基を表す)、どちらも同様に好ましい。ここにおいて、−C(=O)O−と−C(=O)NR−の表記は、左側の結合手がAr1またはAr2に結合し、右側の結合手がXに結合することを意味する。
Rは水素原子またはアルキル基を表し、Rとして好ましくは水素原子または、炭素数1〜6アルキル基であり、より好ましくは水素原子、または炭素数1〜4のアルキル基であり、さらに好ましくは水素原子、メチル基であり、特に好ましくは水素原子である。
【0087】
1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、置換基としては後述の置換基Tが適用できる。
1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8として好ましくは、水素原子、アルキル基、アミノ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子であり、より好ましくは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子であり、さらに好ましくは水素原子、メチル基、メトキシ基、ヒドロキシ基、塩素原子、フッ素原子であり、特に好ましくは水素原子、フッ素原子であり、最も好ましくは水素原子である。
【0088】
11、R12、R13、R14、R15、R16、R17およびR18はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、置換基としては後述の置換基Tが適用できる。
11、R12、R13、R14、R15、R16、R17およびR18として好ましくは、水素原子、アルキル基、アミノ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子であり、より好ましくは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子であり、さらに好ましくは水素原子、メチル基、メトキシ基、ヒドロキシ基、塩素原子、フッ素原子であり、特に好ましくは水素原子、フッ素原子であり、最も好ましくは水素原子である。
【0089】
一般式(1)のうち好ましくは下記一般式(1−1)である。
一般式(1−1)
【化8】

(式中、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28、R29およびR30はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。L1、L2およびXは上記一般式(1)におけるそれらと同義であり、また好ましい範囲も同様である。)
【0090】
21、R26はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R21、R26として好ましくはアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、水酸基であり、より好ましくは、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基であり、さらに好ましくはアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜8、さらに好ましくは炭素数1〜6、特に好ましくは炭素数1〜4)であり、特に好ましくはメトキシ基である。
【0091】
22、R27はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R22、R27として好ましくは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、水酸基であり、より好ましくは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基であり、さらに好ましくは水素原子、アルキル基(好ましくは炭素数1〜4、より好ましくはメチル基である。)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜8、さらに好ましくは炭素数1〜6、特に好ましくは炭素数1〜4)である。特に好ましくは水素原子、メチル基、メトキシ基である。
【0092】
23、R28はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R23、R28として好ましくは水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、水酸基であり、さらに好ましくは、アルキル基、アルコキシ基であり、特に好ましくはアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜8、さらに好ましくは炭素数1〜6、特に好ましくは炭素数1〜4)である。最も好ましくはn−プロポキシ基、エトキシ基、メトキシ基である
【0093】
24、R29はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R24、R29として好ましくは水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、水酸基であり、さらに好ましくは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜8、さらに好ましくは炭素数1〜6、特に好ましくは炭素数1〜4)であり、特に好ましくは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基であり、最も好ましくは水素原子、メチル基、メトキシ基である。
【0094】
25、R30はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R25、R30として好ましくは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、水酸基であり、より好ましくは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基であり、さらに好ましくは水素原子、アルキル基(好ましくは炭素数1〜4より好ましくはメチル基である。)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜8、さらに好ましくは炭素数1〜6特に好ましくは炭素数1〜4)である。特に好ましくは水素原子、メチル基、メトキシ基である。
【0095】
一般式(1)のうちより好ましくは一般式(1−2)である。
一般式(1−2)
【化9】

【0096】
(式中、R21、R22、R24、R25、R26、R27、R28、R29、R30、L1、L2およびXは上記一般式(1−1)におけるそれらと同義であり、また好ましい範囲も同様である。R31は炭素数1〜12のアルキル基を表す。)
【0097】
一般式(1−2)中、R31は炭素数1〜12のアルキル基を表し、R31はで表されるアルキル基は直鎖でも分岐があってもよく、またさらに置換基を有してもよいが、好ましくは炭素数1〜12のアルキル基、より好ましくは炭素数1〜8アルキル基、さらに好ましくは炭素数1〜6アルキル基、特に好ましくは炭素数1〜4のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる)を表す。
【0098】
一般式(1)のうちさらに好ましくは一般式(1−3)である。
【0099】
一般式(1−3)
【化10】

【0100】
(式中、R22、R24、R25、R26、R27、R28、R29、R30、R31、L1、L2およびXは一般式(1−2)におけるそれらと同義であり、また好ましい範囲も同様である。R32は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【0101】
32は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、好ましくは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくは水素原子、メチル基、エチル基であり、さらに好ましくは水素原子またはメチル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0102】
一般式(1)のうち特に好ましくは一般式(1−4)である。
【0103】
一般式(1−4)
【化11】

(式中、R22、R25、R26、R27、R28、R29、R30、R31、R32、L1、L2およびXは一般式(1−3)におけるそれらと同義であり、また好ましい範囲も同様である。R33は炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【0104】
33は炭素数1〜4のアルキル基を表し、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくはメチル基、エチル基であり、さらに好ましくはメチル基である。
【0105】
以下に前述の置換基Tについて説明する。
置換基Tとしては例えばアルキル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8であり、例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ヘキサデシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8であり、例えばビニル基、アリル基、2−ブテニル基、3−ペンテニル基などが挙げられる。)、アルキニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8であり、例えばプロパルギル基、3−ペンチニル基などが挙げられる。)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニル基、p−メチルフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。)、置換または未置換のアミノ基(好ましくは炭素数0〜20、より好ましくは炭素数0〜10、特に好ましくは炭素数0〜6であり、例えばアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基などが挙げられる。)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8であり、例えばメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは炭素数6〜16、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルオキシ基、2−ナフチルオキシ基などが挙げられる。)、アシル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばアセチル基、ベンゾイル基、ホルミル基、ピバロイル基などが挙げられる。)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜12であり、例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などが挙げられる。)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7〜20、より好ましくは炭素数7〜16、特に好ましくは炭素数7〜10であり、例えばフェニルオキシカルボニル基などが挙げられる。)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばアセトキシ基、ベンゾイルオキシ基などが挙げられる。)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばアセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基などが挙げられる。)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜12であり、例えばメトキシカルボニルアミノ基などが挙げられる。)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7〜20、より好ましくは炭素数7〜16、特に好ましくは炭素数7〜12であり、例えばフェニルオキシカルボニルアミノ基などが挙げられる。)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基などが挙げられる。)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜20、より好ましくは炭素数0〜16、特に好ましくは炭素数0〜12であり、例えばスルファモイル基、メチルスルファモイル基、ジメチルスルファモイル基、フェニルスルファモイル基などが挙げられる。)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばカルバモイル基、メチルカルバモイル基、ジエチルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基などが挙げられる。)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメチルチオ基、エチルチオ基などが挙げられる。)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは炭素数6〜16、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルチオ基などが挙げられる。)、スルホニル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメシル基、トシル基などが挙げられる。)、スルフィニル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメタンスルフィニル基、ベンゼンスルフィニル基などが挙げられる。)、ウレイド基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばウレイド基、メチルウレイド基、フェニルウレイド基などが挙げられる。)、リン酸アミド基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばジエチルリン酸アミド基、フェニルリン酸アミド基などが挙げられる。)、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは1〜12であり、ヘテロ原子としては、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子であり、ヘテロ環基の具体例としてはイミダゾリル基、ピリジル基、キノリル基、フリル基、ピペリジル基、モルホリノ基、ベンゾオキサゾリル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズチアゾリル基などが挙げられる。)、シリル基(好ましくは、炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは、炭素数3〜24であり、例えば、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基などが挙げられる)などが挙げられる。これらの置換基はさらに置換されてもよい。
また、置換基が二つ以上ある場合は、同じでも異なってもよい。また、可能な場合には互いに連結して環を形成してもよい。
【0106】
以下に一般式(1)で表される化合物に関して具体例をあげて詳細に説明するが、本発明で用いることができる一般式(1)で表される化合物は以下の具体例によって何ら限定されることはない。
【0107】
【化12】

【0108】
【化13】

【0109】
【化14】

【0110】
【化15】

【0111】
【化16】

【0112】
本発明の一般式(1)および一般式(1−1)ないし一般式(1−4)で表される化合物は置換安息香酸とフェノール、あるいはアニリン誘導体の一般的なエステル化反応、アミド化反応によって合成でき、エステル結合形成反応であればどのような反応を用いてもよい。例えば、置換安息香酸を酸ハロゲン化物に官能基変換した後、フェノール、あるいはアニリン誘導体と縮合する方法、縮合剤あるいは触媒を用いて置換安息香酸とフェノール、あるいはアニリン誘導体を脱水縮合する方法などがあげられる。
製造プロセス等を考慮すると置換安息香酸を酸ハロゲン化物に官能基変換した後、フェノール、あるいはアニリン誘導体と縮合する方法が好ましい。
【0113】
反応溶媒として炭化水素系溶媒(好ましくはトルエン、キシレンが挙げられる。)、エーテル系溶媒(好ましくはジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどが挙げられる)、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどを用いることができる。これらの溶媒は単独でも数種を混合して用いてもよく、反応溶媒として好ましくはトルエン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドである。
【0114】
反応温度としては、好ましくは0〜150℃、より好ましくは0〜100℃、さらに好ましくは0〜90℃であり、特に好ましくは20℃〜90℃である。
本反応には塩基を用いないのが好ましく、塩基を用いる場合には有機塩基、無機塩基のどちらでもよく、好ましくは有機塩基であり、ピリジン、3級アルキルアミン(好ましくはトリエチルアミン、エチルジイソプルピルアミンなどが挙げられる)である。
【0115】
(レターデーション上昇剤の合成例)
以下に一般式(1−1)ないし一般式(1−4)で表される化合物の合成方法を述べる。以下の合成例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0116】
<合成例3> 例示化合物A−1の合成
2,4,5−トリメトキシ安息香酸40.1g(189ミリモル)、4、4’−ジヒドロキシビフェニル16.75g(90ミリモル)、トルエン200mL、ジメチルホルムアミド2mLを70℃に加熱した後、塩化チオニル23.6g(198ミリモル)をゆっくりと滴下し、70℃で2.5時間加熱攪拌した。その後、反応液を室温まで冷却し、メタノール300mLを加え、析出した結晶をろ過回収し、白色の結晶として目的化合物を48.4g(収率94%)得た。また化合物の同定は1H−NMR(400MHz)により行った。
1H−NMR(CDCl3):δ3.93(s,6H),3.95(s,6H),3.99(s,6H),6.58(s,2H),7.28(d,4H),7.62(m,6H)
得られた化合物の融点は227〜229℃であった。
【0117】
<合成例4> 例示化合物A−2の合成
2,4,5−トリメトキシ安息香酸34g(160ミリモル)、4、4’−ジヒドロキシ−3−フルオロビフェニル15g(73ミリモル)、トルエン110mL、ジメチルホルムアミド1.6mLを70℃に加熱した後、塩化チオニル20.9g(176ミリモル)をゆっくりと滴下し、70℃で2.5時間加熱攪拌した。その後、反応液を室温まで冷却し、メタノール300mLを加え、析出した結晶をろ過回収し、白色の結晶として目的化合物を37g(収率86%)得た。また化合物の同定は1H−NMR(400MHz)により行った。
1H−NMR(CDCl3):δ3.93(s,6H),3.95(s,6H),4.00(s,6H),6.59(s,2H),7.26−7.45(m,5H),7.63(m,4H)
得られた化合物の融点は197〜199℃であった。
【0118】
<合成例5> 例示化合物A−3の合成
2,4,5−トリメトキシ安息香酸23.3g(110ミリモル)、4、4’−ジヒドロキシ−3−クロロビフェニル15g(50ミリモル)、トルエン75mL、ジメチルホルムアミド1.1mLを70℃に加熱した後、塩化チオニル14.4g(121ミリモル)をゆっくりと滴下し、80℃で2.5時間加熱攪拌した。その後、反応液を室温まで冷却し、メタノール250mLを加え、析出した結晶をろ過回収し、白色の結晶として目的化合物を26g(収率85%)得た。また化合物の同定は1H−NMR(400MHz)により行った。
1H−NMR(CDCl3):δ3.90−4.00(m,18H),6.59(s,2H),7.26−7.70(m,9H)
得られた化合物の融点は168〜170℃であった。
【0119】
<合成例6> 例示化合物A−4の合成
2,4,5−トリメトキシ安息香酸30.3g(143ミリモル)、4、4’−ジヒドロキシ−3−メチルビフェニル15g(65ミリモル)、トルエン100mL、ジメチルホルムアミド1.4mLを70℃に加熱した後、塩化チオニル18.7g(157ミリモル)をゆっくりと滴下し、70℃で2.5時間加熱攪拌した。その後、反応液を室温まで冷却し、メタノール300mLを加え、析出した結晶をろ過回収し、白色の結晶として目的化合物を27.4g(収率72%)得た。また化合物の同定は1H−NMR(400MHz)により行った。
1H−NMR(CDCl3):δ2.31(s,3H),3.95(s,6H),4.00(s,6H),6.60(s,2H),7.10(m,2H),7.27(m,3H),7.40(m,2H),7.63(d,2H)
マススペクトル:m/z 589(M+H)+
得られた化合物の融点は188〜189℃であった。
【0120】
<合成例7> 例示化合物A−6の合成
2,4,5−トリメトキシ安息香酸5.72g(26.9ミリモル)、ジイソプロピルエチルアミン3.5g(27ミリモル)、テトラヒドロフラン20mLを氷水で冷却した後、メタンスルホニルクロリド3.1g(27ミリモル)をゆっくりと滴下し、滴下後2時間室温で攪拌した。その後、氷水に冷却し、あらかじめビス(4−ヒドロキシフェニル)アセチレン2.9g(13.7ミリモル)、ジイソプロピルエチルアミン3.5g(27ミリモル)をテトラヒドロフラン40mLに溶解させた溶液をゆっくり添加し、滴下後、室温で3時間、50℃で1時間攪拌した。その後水160mLを添加し、得られた結晶をろ過回収し、メタノール100mLを加え、再結晶操作を行い、析出した結晶をろ過回収し、白色の結晶として目的化合物を3.0g(収率19%)得た。
1H−NMR(CDCl3):δ3.93(s,6H),3.95(s,6H),3.99(s,6H),6.57(s,2H),7.24(m,4H),7.58(m,6H)
マススペクトル:m/z 599(M+H)+
得られた化合物の融点は201〜203℃であった。
【0121】
<合成例8> 例示化合物A−7の合成
(6−1) 2,4,5−トリメトキシ安息香酸 4−エチニルアニリドの合成
2,4,5−トリメトキシ安息香酸21.2g(100ミリモル)、ジイソプロピルエチルアミン12.9g(100ミリモル)、テトラヒドロフラン126mLを氷水で冷却した後、メタンスルホニルクロリド11.4g(100ミリモル)をゆっくりと滴下し、滴下後2時間室温で攪拌した。その後、氷水に冷却し、あらかじめ4−エチルアニリン11.7g(100ミリモル)、ジイソプロピルエチルアミン12.9g(100ミリモル)をテトラヒドロフラン42mLに溶解させた溶液をゆっくり添加し、滴下後、室温で6時間攪拌した。その後酢酸エチル200mLを添加し、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、0.5mol/L塩酸水、飽和食塩水の順で有機相を洗浄した。有機相に硫酸ナトリウムを添加し、脱水操作を行い、濾過により硫酸ナトリウムを濾別し、有機溶媒を減圧留去した。メタノール350mLを加え、再結晶操作を行い、析出した結晶をろ過回収し、白色の結晶として目的化合物を15.0g(収率48%)得た。
【0122】
(6−2) 例示化合物A−7の合成
2,4,5−トリメトキシ安息香酸 4−エチニルアニリド3.1g(10ミリモル)、2,4,5−トリメトキシ安息香酸 4−ヨードフェニル4.1g(10ミリモル)、トリエチルアミン5.56mL(40ミルモル)、テトラヒドロフラン15mLを窒素雰囲気下、室温で攪拌し、塩化第一銅 22.8mg(0.12ミリモル)、トリフェニルホスフィン131mg(0.5ミリモル)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリド70mg(0.1ミリモル)を添加し、60℃で3時間加熱攪拌した。その後反応液を室温まで冷却し、水200mLを添加した。得られた結晶を濾過し、メタノール100mLで再結晶操作を行い、黄白色の結晶として目的化合物を5.6g(収率94%)得た。
なお、化合物の同定は1H−NMR(400MHz)により行った。
1H−NMR(DMSO−d6):δ3.92(s,3H),3.93(s,3H),4.05(m,9H)4.15(s,3H)6.96(br,2H),7.46(d,2H),7.55(s,1H), 7.62(s,1H),7.69(d,2H),7.76(d,2H),7.98(d,2H),10.30(s,1H)
得られた化合物の融点は216〜218℃であった。
【0123】
前記一般式(1)および(1−1)ないし(1−4)で表される化合物は、光学フィルム用レターデーション制御剤として用いることができ、特に延伸によるRe発現性に優れたフィルムを得るためのレターデーション制御剤として好適に用いることができる。前記一般式(1)および(1−1)ないし(1−4)で表される化合物は、特にセルロースアシレートフィルム用レターデーション制御剤として有用である。
【0124】
本発明の一般式(1)および(1−1)ないし(1−4)で表されるいずれかの化合物は、少なくとも1種をセルロースアシレートに対して0.1〜15質量%添加することが好ましく、より好ましくは0.5〜12質量%、さらに好ましくは1〜10質量%、特に好ましくは1〜8質量%である。最も好ましくは1〜5質量%である。
【0125】
[有機溶媒]
本発明において、セルロースアシレートを溶解するために用いられる有機溶媒について記述する。
有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルおよび炭素原子数が1〜6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。
エーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、有機溶媒として用いることができる。有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数はいずれかの官能基を有する溶媒の前記した好ましい炭素原子数範囲内であることが好ましい。
【0126】
炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが含まれる。
炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが含まれる。
炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが含まれる。
2種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが含まれる。
炭素原子数が1〜6のハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1または2であることが更に好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25〜75モル%であることが好ましく、30〜70モル%であることがより好ましく、35〜65モル%であることがさらに好ましく、40〜60モル%であることが最も好ましい。メチレンクロリドが、代表的なハロゲン化炭化水素である。
【0127】
また、セルロースアシレートを溶解するために用いられる有機溶媒はメチレンクロライドとアルコールとを混合して用いること(メチレンクロライド系溶媒)が好ましい。この際、メチレンクロライドに対するアルコールの比率は1質量%〜50質量%が好ましく、10質量%〜40質量%が更に好ましく、12質量%〜30質量%が最も好ましい。前記アルコールとしてはメタノール、エタノール、n−ブタノールが好ましく、2種類以上のアルコールを混合して使用してもよい。
【0128】
前記有機溶媒はとしては、酢酸メチルとケトン、アルコールとを混合(酢酸メチル系溶媒)して用いることも好ましい。前記ケトンはアセトンが好ましく、アルコールはメタノール、エタノール、ブタノールが好ましく、これらは混合して使用してもよく単独で使用してもよい。
前記酢酸メチル系溶媒を用いる場合、酢酸メチルの含有量は全溶媒中、70質量%〜95質量%であることが好ましく、より好ましくは75質量%〜90質量%である。また、ケトンの含有量は全溶媒中、5質量%〜30質量%が好ましく、より好ましくは10質量%〜25質量%である。また、アルコールの総和量は5質量%〜30質量%が好ましく、より好ましくは10質量%〜25質量%である。
【0129】
本発明においては、前記有機溶媒の主溶媒として塩素系有機溶媒と非塩素系有機溶媒とを組み合わせることができる。主溶媒である塩素系有機溶媒と非塩素系有機溶媒の好ましい組み合せの代表例としては以下を挙げることができる。但し、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0130】
・ジクロロメタン/メタノール/エタノール/ブタノール(75/10/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/アセトン/メタノール/プロパノール(80/10/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/メタノール/ブタノール/シクロヘキサン(75/10/5/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール(80/10/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/アセトン/メチルエチルケトン/エタノール/イソプロパノール(75/10/10/5/7、質量部)、
・ジクロロメタン/シクロペンタノン/メタノール/イソプロパノール(80/10/5/8、質量部)、
・ジクロロメタン/酢酸メチル/ブタノール(80/10/10、質量部)、
・ジクロロメタン/シクロヘキサノン/メタノール/ヘキサン(70/20/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/エタノール(50/20/20/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/1、3ジオキソラン/メタノール/エタノール(70/20/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/ジオキサン/アセトン/メタノール/エタノール(60/20/10/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/アセトン/シクロペンタノン/エタノール/イソブタノール/シクロヘキサン(65/10/10/5/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/エタノール(70/10/10/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/アセトン/酢酸エチル/エタノール/ブタノール/ヘキサン(65/10/10/5/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/アセト酢酸メチル/メタノール/エタノール(65/20/10/5、質量部)、
・ジクロロメタン/シクロペンタノン/エタノール/ブタノール(65/20/10/5、質量部)、等を挙げることができる。
【0131】
また、前記有機溶媒として非塩素系有機溶媒を組み合わせて用いることもできる。本発明において好ましい非塩素系有機溶媒の組合せは以下を挙げることができる。但し、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0132】
・酢酸メチル/アセトン/メタノール/エタノール/ブタノール(75/10/5/5/5、質量部)、
・酢酸メチル/アセトン/メタノール/エタノール/プロパノール(75/10/5/5/5、質量部)、
・酢酸メチル/アセトン/メタノール/ブタノール/シクロヘキサン(75/10/5/5/5、質量部)、
・酢酸メチル/アセトン/エタノール/ブタノール(81/8/7/4、質量部)
・酢酸メチル/アセトン/エタノール/ブタノール(82/10/4/4、質量部)
・酢酸メチル/アセトン/エタノール/ブタノール(80/10/4/6、質量部)
・酢酸メチル/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール(80/10/5/5、質量部)、
・酢酸メチル/アセトン/メチルエチルケトン/エタノール/イソプロパノール(75/10/10/5/7、質量部)、
・酢酸メチル/シクロペンタノン/メタノール/イソプロパノール(80/10/5/8、質量部)、
・酢酸メチル/アセトン/ブタノール(85/5/5、質量部)、
・酢酸メチル/シクロペンタノン/アセトン/メタノール/ブタノール(60/15/15/5/6、質量部)、
・酢酸メチル/シクロヘキサノン/メタノール/ヘキサン(70/20/5/5、質量部)、
・酢酸メチル/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/エタノール(50/20/20/5/5、質量部)、
・酢酸メチル/1、3ジオキソラン/メタノール/エタノール (70/20/5/5、質量部)、
・酢酸メチル/ジオキサン/アセトン/メタノール/エタノール (60/20/10/5/5、質量部)、
・酢酸メチル/アセトン/シクロペンタノン/エタノール/イソブタノール/シクロヘキサン(65/10/10/5/5/5、質量部)、
【0133】
・ギ酸メチル/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/エタノール(50/20/20/5/5、質量部)、
・ギ酸メチル/アセトン/酢酸エチル/エタノール/ブタノール/ヘキサン(65/10/10/5/5/5、質量部)、
・アセトン/アセト酢酸メチル/メタノール/エタノール(65/20/10/5、質量部)、
・アセトン/シクロペンタノン/エタノール/ブタノール(65/20/10/5、質量部)、
・アセトン/1,3ジオキソラン/エタノール/ブタノール(65/20/10/5、質量部)、
・1、3ジオキソラン/シクロヘキサノン/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール(55/20/10/5/5、質量部)等を挙げることができる。
また、前記非塩素系有機溶媒以外に、ジクロロメタンを全有機溶媒量の10質量%以下で含有させてもよい。
【0134】
[可塑剤]
さらに本発明では可塑剤を添加することにより、湿度に伴うReおよびRth変化を軽減するのに効果がある。前記可塑剤としては、例えば、アルキルフタリルアルキルグリコレート類、リン酸エステルやカルボン酸エステル等が挙げられる。それらは固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。
【0135】
前記アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えば、メチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が挙げられる。
【0136】
前記リン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、フェニルジフェニルホスフェート等を挙げることができる。さらに特表平6−501040号の請求項3〜7に記載のリン酸エステル系可塑剤を好適に用いることができる。
【0137】
前記カルボン酸エステルとしては、例えば、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレートおよびジエチルヘキシルフタレート等のフタル酸エステル類、およびクエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等のクエン酸エステル類、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ビス(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソデシルアジペート、ビス(ブチルジグリコールアジペート)等のアジピン酸エステルを挙げることができる。またその他、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、トリアセチン等を単独あるいは併用するのが好ましい。
【0138】
これらの可塑剤はセルロースアシレートフィルムに対し0質量%〜20質量%用いることが好ましく、より好ましくは1質量%〜15質量%、さらに好ましくは1質量%〜12質量%である。これらの可塑剤は必要に応じて、2種類以上を併用して用いてもよい。
【0139】
[マット剤微粒子]
本発明のセルロースアシレートフィルムには、マット剤として微粒子を加えることが好ましい。本発明に使用される微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子はケイ素を含むものが、濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子サイズが20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができより好ましい。前記見かけ比重は90〜200g/リットル以上が更に好ましく、100〜200g/リットル以上が特に好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0140】
これらの微粒子は、通常平均粒子サイズ0.1〜3.0μmの2次粒子を形成しており、フィルム中では、1次粒子の凝集体として存在し、フィルム表面に0.1〜3.0μmの凹凸を形成させる。2次平均粒子サイズは0.2μm〜1.5μmが好ましく、0.4μm〜1.2μmがさらに好ましく、0.6μm〜1.1μmが最も好ましい。尚、微粒子の1次、2次粒子サイズはフィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒子サイズとした。また、場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒子サイズとした。
【0141】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上、日本アエロジル(株)製)などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976およびR811(以上、日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、これらを適宜使用することができる。
【0142】
前記微粒子の中でも、アエロジル200V、アエロジルR972Vは1次平均粒子サイズが20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上である二酸化珪素の微粒子であることから、光学フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数をさげる効果が大きいため特に好ましい。
【0143】
本発明において2次平均粒子サイズの小さな粒子を有するセルロースアシレートフィルムを得るためには、微粒子の分散液を調製する際にいくつかの手法が考えられる。例えば、溶剤と微粒子とを撹拌混合した微粒子分散液をあらかじめ作製し、この微粒子分散液を別途用意した少量のセルロースアシレート溶液に加えて撹拌溶解し、さらにメインのセルロースアシレートドープ液と混合する方法がある。この方法は二酸化珪素微粒子の分散性がよく、二酸化珪素微粒子がさらに再凝集しにくい点で好ましい調製方法である。ほかにも、溶剤に少量のセルロースエステルを加え、撹拌溶解した後、これに微粒子を加えて分散機で分散を行いこれを微粒子添加液とし、この微粒子添加液をインラインミキサーでドープ液と十分混合する方法もある。本発明はこれらの方法に限定されないが、二酸化珪素微粒子を溶剤などと混合して分散するときの二酸化珪素の濃度は5〜30質量%が好ましく、10〜25質量%がさらに好ましく、15〜20質量%が最も好ましい。分散濃度が高い方が添加量に対する液濁度は低くなり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。最終的なセルロースアシレートのドープ溶液中でのマット剤の添加量は1m2あたり0.01〜1.0gが好ましく、0.03〜0.3gがさらに好ましく、0.08〜0.16gが最も好ましい。
【0144】
[その他添加剤]
本発明のセルロースアシレートフィルムには、セルロースアシレートおよび前記一般式(1)で表されるレターデーション上昇剤(または一般式(2)で表される長軸棒状化合物)のほかに、各調製工程において用途に応じた種々の添加剤(例えば、紫外線防止剤、劣化防止剤、光学異方性コントロール剤、剥離剤、赤外吸収剤、帯電防止剤など)を加えることができ、それらは固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。例えば20℃以下の紫外線吸収剤と20℃以上の紫外線吸収剤との混合や、同様に可塑剤の混合などであり、例えば特開2001−151901号公報などに記載されている。また、赤外吸収染料としては例えば特開2001−194522号公報に記載されている。また前記添加剤の添加時期はドープ作製工程において何れの段階で添加してもよいが、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。さらに、これらの素材の詳細としては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)17頁〜22頁に詳細に記載されている素材が好ましく用いられる。
【0145】
さらに、各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されない。また、セルロースアシレート組成物を用いてなるセルロースアシレートフィルムが多層から形成される場合、各層の添加物の種類や添加量が異なってもよい。本発明のセルロースアシレートフィルム中における、分子量が3000以下の各添加剤化合物の総量は、セルロースアシレートの総量に対して1〜35質量%であることが好ましく、1〜25質量%が更に好ましく、2〜20質量%が特に好ましい。これらの添加剤としては上述したように、光学異方性を低下する化合物、波長分散調整剤、紫外線防止剤、可塑剤、劣化防止剤、微粒子、剥離剤、赤外吸収剤などが挙げられ、その分子量としては3000以下が好ましく、2000以下がより好ましく、1000以下が特に好ましい。これら添加剤の総量が1%以下であると、セルロースアシレート単体の性質が出やすくなり、例えば、温度や湿度の変化に対して光学性能や物理的強度が変動しやすくなるなどの問題がある。またこれら化合物の総量が35%以上であると、セルロースアシレートフィルム中に化合物が相溶する限界を超え、フィルム表面に析出してフィルムが白濁する(フィルムからの泣き出し)などの問題が生じやすくなる。具体的な添加量は、例えば特開2001−151902号公報などに記載されているが、これらは従来から知られている技術である。
【0146】
また、本発明におけるセルロースアシレート溶液(組成物)には、各調製工程において用途に応じた種々の添加剤(例えば、可塑剤、紫外線防止剤、劣化防止剤、微粒子、光学特性調整剤など)を加えることができる。またその添加する時期はドープ作製工程において何れの段階で添加してもよいが、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。
【0147】
[セルロースアシレートフィルムの製造]
次に、本発明におけるセルロースアシレート溶液(組成物)を用いたフィルムの製造方法について述べる。本発明のセルロースアシレートフィルムは、ソルベントキャスト法(溶液流延)により製造する。詳細の製造工程を以下に述べる。
【0148】
(溶解工程)
ソルベントキャスト法では、セルロースアシレートを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフィルムを製造する。
溶解工程は0℃以上の温度(常温または高温)で処理することからなる一般的な方法で、セルロースアシレート溶液を調製することができる。溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法および装置を用いて実施することができる。
セルロースアシレートの量は、得られる溶液中に10〜40質量%含まれるように調整する。セルロースアシレートの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。有機溶媒(主溶媒)中には、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
溶液は、常温(0〜40℃)でセルロースアシレートと有機溶媒とを撹拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧および加熱条件下で撹拌してもよい。具体的には、セルロースアシレートと有機溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、かつ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら撹拌する。加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60〜200℃であり、さらに好ましくは80〜110℃である。
【0149】
本発明におけるセルロースアシレート組成物は、前記一般式(1)で表されるレターデーション上昇剤(一般式(2)で表される長軸棒状化合物)を適当な溶媒に溶解して得られた溶液と、セルロース誘導体を適当な溶媒に溶解して得られたセルロース誘導体溶液とを混合することによって調製することができる。両溶液の混合方法は特に限定されず、両溶液を混合することにより得られた溶液を、フィルム形成用のドープとして用いることができる。また、各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は撹拌できるように構成されている必要がある。また、窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。さらに、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよいし、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。
溶液を加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。
【0150】
容器内部には撹拌翼を設け、これを用いて溶液を撹拌することが好ましい。撹拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。撹拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。
容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶剤中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。
【0151】
また、冷却溶解法により、セルロースアシレート溶液を調製することもできる。冷却溶解法では、通常の溶解方法では溶解させることが困難な有機溶媒中にもセルロースアシレートを溶解させることができる。なお、通常の溶解方法でセルロースアシレートを溶解できる溶媒であっても、冷却溶解法によると迅速に均一な溶液が得られるとの効果がある。
冷却溶解法では最初に、室温で有機溶媒中にセルロースアシレートを撹拌しながら徐々に添加する。
セルロースアシレートの量は、この混合物中に10〜40質量%含まれるように調整することが好ましい。セルロースアシレートの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。さらに、混合物中には上述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
【0152】
次に、混合物を−100〜−10℃(好ましくは−80〜−10℃、さらに好ましくは−50〜−20℃、最も好ましくは−50〜−30℃)に冷却する。冷却は、例えば、ドライアイス・メタノール浴(−75℃)や冷却したジエチレングリコール溶液(−30〜−20℃)中で実施できる。冷却によりセルロースアシレートと有機溶媒との混合物は固化する。
冷却速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。冷却速度は、速いほど好ましいが、10,000℃/秒が理論的な上限であり、1,000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、冷却速度は、冷却を開始する時の温度と最終的な冷却温度との差を、冷却を開始してから最終的な冷却温度に達するまでの時間で割った値である。
【0153】
さらに、これを0〜200℃(好ましくは0〜150℃、さらに好ましくは0〜120℃、最も好ましくは0〜50℃)に加温すると、有機溶媒中にセルロースアシレートが溶解する。昇温は、室温中に放置するだけでもよく、温浴中で加温してもよい。
加温速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。加温速度は、速いほど好ましいが、10,000℃/秒が理論的な上限であり、1,000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、加温速度は、加温を開始する時の温度と最終的な加温温度との差を、加温を開始してから最終的な加温温度に達するまでの時間で割った値である。
以上のようにして、均一な溶液が得られる。なお、溶解が不充分である場合は冷却、加温の操作を繰り返してもよい。溶解が充分であるかどうかは、目視により溶液の外観を観察するだけで判断することができる。
【0154】
冷却溶解法においては、冷却時の結露による水分混入を避けるため、密閉容器を用いることが望ましい。また、冷却加温操作において、冷却時に加圧し、加温時に減圧すると、溶解時間を短縮することができる。加圧および減圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが望ましい。
なお、セルロースアシレート(酢化度:60.9%、粘度平均重合度:299)を冷却溶解法によりメチルアセテート中に溶解した20質量%の溶液は、示差走査熱量計(DSC)による測定によると、33℃近傍にゾル状態とゲル状態との疑似相転移点が存在し、この温度以下では均一なゲル状態となる。従って、この溶液は疑似相転移温度以上、好ましくはゲル相転移温度プラス10℃程度の温度で保する必要がある。ただし、この疑似相転移温度は、セルロースアシレートの酢化度、粘度平均重合度、溶液濃度や使用する有機溶媒により異なる。
【0155】
(ドープ溶液の透明度)
本発明におけるセルロースアシレート溶液(ドープとも呼ぶ)のドープ透明度としては85%以上であることが好ましく、88%以上であることが好ましく、90%以上であることが更に好ましい。本発明においてはセルロースアシレートドープ溶液に各種の添加剤が十分に溶解していることを確認した。具体的なドープ透明度の算出方法としては、ドープ溶液を1cm角のガラスセルに注入し、分光光度計(UV−3150、島津製作所)で550nmの吸光度を測定する。次いで、溶媒のみをあらかじめブランクとして測定しておき、ドープ溶液の吸光度とブランクの吸光度との比からセルロースアシレート溶液の透明度を算出することができる。
【0156】
(濾過工程)
上述の工程を経て調製したセルロースアシレート溶液を、0.1kg/cm2〜30kg/cm2の背圧を加えながら孔径0.1μm〜50μm程度の濾材で濾過する工程である。
濾過に用いるフィルターは、そのメディア構造からサーフェイスタイプとデプスタイプとの2つに大きく分類することができる。前記サーフェイスタイプは被濾過物の通過するメディアの距離が短く、表面の目開きで除去できる粒子の大きさが決まるタイプをいう。前記サーフェイスタイプとしては、例えば、アドバンテック東洋(株)製の濾紙プリーツカートリッジフィルターTCタイプや、ふるいに使用されている金属メッシュなどが挙げられる。
【0157】
また、前記デプスタイプのフィルターは、深層濾過または体積濾過ともいわれ、メディアの厚さをある程度持たせたものである。前記デプスタイプとしては、例えばアドバンテック東洋(株)製のワインドカートリッジフィルターTCWタイプおよびデプスカートリッジフィルターTCPDタイプや、日本精線(株)製のファインポアNFシリーズなどが挙げられる。本発明ではどちらの方式も好ましく用いることができる。
【0158】
一方、フィルターは濾材構造によってメンブランタイプと糸巻きタイプとに分けられる。メンブランタイプは濾材にある一定の大きさと分布とを持った穴が多く設けられているタイプである。同じ大きさと分布を持った穴があいた濾材を何枚か重ねることでメンブランタイプのサーフェイスタイプフィルターとなる。また、外側からコアに向かって濾材の穴の大きさを徐々に小さくした濾材を何枚かある程度の厚み(10〜20mm)になるように重ねることでメンブランタイプのデプスタイプフィルターとなる。
前記メンブランタイプとしては、例えばアドバンテック東洋(株)製のメンブランカートリッジフィルターTCFタイプおよびプリーツカートリッジフィルターTCPEタイプなどが挙げられる。
【0159】
前記糸巻きタイプは、濾材に一定の空隙を持ったエンドレスの繊維、例えばポリプロピレンのような長繊維を撚糸せずに使用し、このような繊維をコアに一定の密度で巻きつけたものである。一定の空隙を有する繊維を芯となるコアから密度勾配を持たせずに巻きつければ、サーフェイスタイプフィルターとなり、濾材の空隙を変化させたり、密度勾配を持たせる等、コア方向に向けて細孔を細かくしていけば、デプスタイプのフィルターとなる。前記糸巻きタイプとしては、例えばアドバンテック東洋(株)製のワインドカートリッジフィルターTCWタイプなどが挙げられる。尚、「コア」とは濾材の糸やメンブランを巻き付ける中空の芯のことを意味する。本発明ではどちらの方式も好ましく用いることができる。
【0160】
フィルターの濾材としては、ポリプロピレンを用いることが、耐溶剤性の観点から好ましい。また、フィルターのコア材料としては、ポリプロピレンまたはステンレス鋼が好ましく、中でもステンレス鋼がより好ましい。ステンレス鋼は長時間使用しても溶剤でコアが膨潤しにくく、締め付け部から凝集物が抜けることがない。
これらのフィルターによる濾過は、ある程度の回数を行うことが不溶解異物の除去の効果が向上する。しかしながら、濾過の回数が多すぎても工程数の割に効果が少なくなるため、製造効率を考慮すると、濾過の回数としては3〜10回が好ましい。
本発明において濾過に用いる濾材の孔径は0.1μm〜50μmであることが好ましく、0.5μm〜30μmであることが更に好ましく、1μm〜20μmが特に好ましい。また、本発明における濾過流量としては、フィルターの単位面積当たりの流量が10ml/min/cm2が好ましく、より好ましくは5ml/min/cm2であり、特に好ましくは1ml/min/cm2である。また、濾過時における温度は20℃〜70℃であることが好ましい。
さらに、前記濾過は、上述のような微細径の濾材で濾過する前に、粗い孔径(50〜100μm)の金属製フィルターで予備濾過することが好ましい。該金属製フィルターを構成する金属としては耐久性の観点からステンレス鋼が好ましい。
【0161】
(流延工程)
前記濾過工程により濾過したセルロースアシレート溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法により本発明のセルロースアシレートフィルムを製造する。ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18〜35質量%となるように濃度を調整することが好ましい。また、ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ドープは、表面温度が10℃以下のドラムまたはバンド上に流延することが好ましい。
ソルベントキャスト法における乾燥方法については、米国特許第2,336,310号、同2,367,603号、同2,492,078号、同2,492,977号、同2,492,978号、同2,607,704号、同2,739,069号、同2,739,070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。バンドまたはドラム上での乾燥は空気、窒素などの不活性ガスを送風することにより行なうことができる。
【0162】
また、得られたフィルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取り、さらに100〜160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶剤を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラムまたはバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
【0163】
調製したセルロースアシレート溶液(ドープ)を用いて二層以上の流延を行いフィルム化することもできる。この場合、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフィルムを作製することが好ましい。ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が10〜40%の範囲となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。
【0164】
二層以上の複数のセルロースアシレート液を流延する場合、複数のセルロースアシレート溶液を流延することが可能で、支持体の進行方向に間隔をおいて設けられた複数の流延口からセルロースアシレートを含む溶液をそれぞれ流延させて積層させながらフィルムを作製してもよい。例えば、特開昭61−158414号、特開平1−122419号、および、特開平11−198285号の各公報に記載の方法を用いることができる。また、2つの流延口からセルロースアシレート溶液を流延することによってもフィルム化することもできる。例えば、特公昭60−27562号、特開昭61−94724号、特開昭61−947245号、特開昭61−104813号、特開昭61−158413号、および、特開平6−134933号の各公報に記載の方法を用いることができる。また、特開昭56−162617号公報に記載の高粘度セルロースアシレート溶液の流れを低粘度のセルロースアシレート溶液で包み込み、その高、低粘度のセルロースアシレート溶液を同時に押し出すセルロースアシレートフィルムの流延方法を用いることもできる。
【0165】
また、二個の流延口を用いて、第一の流延口により支持体に成形したフィルムを剥ぎ取り、支持体面に接していた側に第二の流延を行うことにより、フィルムを作製することもできる。例えば、特公昭44−20235号公報に記載の方法を挙げることができる。
流延するセルロースアシレート溶液は同一の溶液を用いてもよいし、異なるセルロースアシレート溶液を用いてもよい。複数のセルロースアシレート層に機能をもたせるために、その機能に応じたセルロースアシレート溶液を、それぞれの流延口から押し出せばよい。さらに本発明におけるセルロースアシレート溶液は、他の機能層(例えば、接着層、染料層、帯電防止層、アンチハレーション層、紫外線吸収層、偏光膜など)と同時に流延することもできる。
【0166】
従来の単層液では、必要なフィルムの厚さにするためには高濃度で高粘度のセルロースアシレート溶液を押し出すことが必要である。その場合セルロースアシレート溶液の安定性が悪くて固形物が発生し、ブツ故障となったり、平面性が不良となったりして問題となることが多かった。この問題の解決方法として、複数のセルロースアシレート溶液を流延口から流延することにより、高粘度の溶液を同時に支持体上に押し出すことができ、平面性も良化し優れた面状のフィルムが作製できるばかりでなく、濃厚なセルロースアシレート溶液を用いることで乾燥負荷の低減化が達成でき、フィルムの生産スピードを高めることができる。
【0167】
(剥ぎ取り工程)
エンドレスに走行している流延部の支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのセルロースアシレートフィルム(ウェブとも呼ぶ)を金属支持体から剥離する。
本発明において、支持体上からで生乾きのセルロースアシレートフィルム(ウェブ)を剥ぎ取る際のフィルム中の残留溶剤量は10質量%〜250質量%が好ましく、15質量%〜230質量%がより好ましく、20質量%〜220質量%が最も好ましい。ここでいう残留溶剤量は下記(1)式を満足する値である。
(1)式:残存溶剤量=(A−B)×100/B
(Aは剥ぎ取りの際のウェブの質量、BはAにおけるウェブを120℃、3時間乾燥させた後の質量)
【0168】
セルロースアシレートフィルム中の残留溶剤量が250質量%を越えると、支持体上にセルロースアシレートの剥げ残りが発生する場合がある。また、10質量%未満では、セルロースアシレートのゲル強度が増し、回転している支持体の曲率に追従できなくなり、セルロースアシレートフィルムが支持体の下に移動した際に支持体から離れて落下し、搬送不良が発生する場合がある。
【0169】
剥ぎ取り時の残留溶剤のメチレンクロライドとアルコールとの比率は15質量%〜90質量%が好ましく、25質量%〜85質量%がさらに好ましく、35質量%〜80質量%が最も好ましい。
【0170】
酢酸メチル系溶媒での剥ぎ取り時の残留溶剤の酢酸メチルに対するケトン、アルコールの和の比率は15質量%〜90質量%が好ましく、25質量%〜85質量%がさらに好ましく、35質量%〜80質量%が最も好ましい。
【0171】
(乾燥工程)
乾燥工程においては、剥離して得られるウェブの両端をクリップで挟み、幅保持しながらテンターで搬送して乾燥し、続いて乾燥装置のロール群で搬送し乾燥を終了して巻き取り機で所定の長さに巻き取る。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせはその目的により変わる。ハロゲン化銀写真感光材料や電子ディスプレイ用機能性保護膜に用いる溶液流延製膜法においては、溶液流延製膜装置の他に、下引層、帯電防止層、ハレーション防止層、保護層等のフィルムへの表面加工のために、塗布装置が付加されることが多い。
【0172】
本発明における溶液製膜における乾燥方法は特に限定しないが、フィルムの光弾性を確保する観点で、溶剤を含んだ状態から徐々にフィルムの温度を上げる徐昇温乾燥がより好ましい。本発明のようなセルロースアシレートフィルムからなる位相差板は、液晶表示装置内で偏光膜と貼り合わせて使用されることが多い。偏光膜はPVAにヨウ素を含浸し1軸延伸したものが多く、PVAが親水性のため湿度変化に伴い伸張、収縮を繰り返す。このため、偏光膜と共に貼り合わせられたセルロースアシレートフィルムは収縮、伸張応力を受け、この結果セルロースアシレート分子の配向に変化が生じ、ReおよびRthが変化する。このような応力に伴うReおよびRthの変化は光弾性として測定でき、これが5×10-8(cm2/kgf)〜30×10-7(cm2/kgf)が好ましく、より好ましくは6×10-8(cm2/kgf)〜25×10-7(cm2/kgf)が好ましく、さらに好ましくは1×10-7(cm2/kgf)〜20×10-7(cm2/kgf)である。
【0173】
(巻き取り工程)
巻き取り工程は、ウェブを乾燥工程において上述の方法で乾燥させた後、両端をトリミングし、型押し加工(ナーリング付与)した後、巻き取る。このようにして乾燥の終了したフィルム中の残留溶剤は0質量%〜1質量%が好ましく、より好ましくは0質量%〜0.5質量%である。乾燥終了後、両端をトリミングして巻き取る。好ましい幅は0.5m〜5mであり、より好ましくは0.7m〜3mであり、さらに好ましくは1m〜2mである。また、好ましい巻長は300m〜30000mであり、より好ましくは500m〜10000mであり、さらに好ましくは1000m〜7000mである。また、巻き取り前に、少なくとも片面にラミフィルムを付けることも、傷防止の観点から好ましい。
本発明のセルロースアシレートフィルムの厚み(乾燥済みの膜厚)は、30μm〜130μmが好ましく、さらに好ましくは40μm〜130μmである。
【0174】
〔延伸工程〕
次に、溶液流延した本発明のセルロースアシレートフィルムの延伸について説明する。
ReおよびRthを発現させるために、セルロースアシレートフィルムを延伸させることが好ましい。延伸は製膜工程中、オン−ラインで実施してもよく、製膜完了後、一度巻き取った後オフ−ラインで実施してもよい。
延伸工程は流延方向あるいは幅方向に延伸する方法が用いられ、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、特開平4−284211号、特開平4−298310号、特開平11−48271号の各公報などに記載されている方法を利用できる。通常、セルロースアシレートフィルムの面内レターデーションRe値を高い値とするために、上述の工程において製造されたフィルムを延伸する。フィルムの延伸は、常温または加熱条件下で実施する。加熱温度は、フィルムのガラス転移温度前後であることが好ましい。フィルムの延伸は、一軸延伸でもよく2軸延伸でもよい。フィルムは、乾燥中の処理で延伸することができ、特に溶媒が残存する場合は有効である。例えば、フィルムの搬送ローラーの速度を調節して、フィルムの剥ぎ取り速度よりもフィルムの巻き取り速度の方を速くするとフィルムは延伸される。フィルムの巾をテンターで保持しながら搬送して、テンターの巾を徐々に広げることによってもフィルムを延伸できる。フィルムの乾燥後に、延伸機を用いて延伸すること(好ましくはロング延伸機を用いる一軸延伸)もできる。フィルムの延伸倍率(元の長さに対する延伸による増加分の比率)は、0.5〜300%であることが好ましく、さらには1〜200%の延伸が好ましく、特には1〜100%の延伸が好ましい。本発明において、非塩素系有機溶媒で作製されたセルロースアシレートフィルムの延伸は位相差板用途への応用が特に好ましい。位相差板はソルベントキャスト法による製膜工程および製膜したフィルムを延伸する工程を逐次、もしくは連続して行うことで製造することが好ましい。また、延伸は1段で行ってもよく、多段で行ってもよい。
【0175】
延伸速度は5%/分〜1000%/分であることが好ましく、さらに10%/分〜500%/分であることが好ましい。延伸温度は30℃〜160℃が好ましく、70℃〜150℃が更に好ましく、特に85〜150℃が好ましい。延伸はヒートロールおよび/または放射熱源(IRヒーター等)、温風により行うことが好ましい。また、温度の均一性を高めるために恒温槽を設けてもよい。ロール延伸で一軸延伸を行う場合、ロール間距離(L)と該位相差板のフィルム幅(W)との比であるL/Wが、2.0〜5.0であることが好ましい。
【0176】
延伸前には予熱工程を設けることが好ましい。延伸後に熱処理を行ってもよい。熱処理温度はセルロースアセテートフィルムのガラス転移温度より20℃低い値から20℃高い温度で行うことが好ましく、熱処理時間は1秒間〜10分間であることが好ましく,さらには10秒間〜5分間であることが好ましく、特には20秒間〜3分間であることが好ましい。また、加熱方法はゾーン加熱であっても、赤外線ヒータを用いた部分加熱であってもよい。
工程の途中または最後にフィルムの両端をスリットしてもよい。これらのスリット屑は回収し原料として再利用することが好ましい。さらにテンターに関しては、特開平11−077718号公報ではテンターで幅保持しながらウェブを乾燥させる際に、乾燥ガス吹き出し方法、吹き出し角度、風速分布、風速、風量、温度差、風量差、上下吹き出し風量比、高比熱乾燥ガスの使用等を適度にコントロールすることで、溶液流延法による速度を上げたり、ウェブ幅を広げたりする時の平面性等の品質低下防止を確保する方法があり利用できる。
【0177】
また、特開平11−077822号公報に記載のムラ発生を防ぐために、延伸した熱可塑性樹フィルムを延伸工程後、熱緩和工程においてフィルムの幅方向に温度勾配を設けて熱処理する発明が記載されている。また、Reを小さくすることを可能とし、遅相軸のバラツキを低減するために溶媒含有率が2〜50質量%である任意の時点で、幅手方向に張力付与を開始してもよく、さらには溶媒含有率が4〜20質量%である任意の時点で延伸することが好ましい。これにより、ムラ発生を防ぐことが可能となる。クリップ噛み込み幅の規定によるカールを抑制するために、テンタークリップ噛み込み幅≦(33/(log延伸倍率×log揮発分))で延伸することも本発明では利用できる。また、高速軟膜搬送と延伸とを両立させるために、テンター搬送を、前半ピン、後半クリップに切り替えてもよい。
【0178】
さらに、フィルムを延伸する方法としては、ウェブの両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を横方向に広げて横方向に延伸するテンターと呼ばれる横延伸機を好ましく用いることができる。また縦方向に延伸または収縮させるには、同時2軸延伸機を用いて搬送方向(縦方向)にクリップやピンの搬送方向の間隔を広げたり、または縮めることで行うことができることできる。また、リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動すると滑らかに延伸を行うことができ、破断等の危険性が減少できるので好ましい。また、縦方向に延伸する方法としては、複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用して縦方向に延伸する方法も用いることができることがしめされている。なお、これらの延伸方法は複合して用いることもでき、縦延伸、横延伸、縦延伸または縦延伸、縦延伸などのように、延伸工程を2段階以上に分けて行ってもよいことが記載されている。
【0179】
本発明においては、湿度に伴うセルロースアシレートフィルムのReおよびRth変動値を軽減するために、セルロースアシレートフィルムのドライ延伸を用いることがより好ましい。即ち、前記セルロースアシレートを含有するドープを流延支持体上に流延し、前記流延支持体から剥離したドープ膜を乾燥して1質量%以下の残留溶媒量にした後にさらにドライ延伸することが好ましい。完全に乾燥した状態で延伸(ドライ延伸)することは、残存溶媒の揮発により影響を受け難く、また、分子の配向状態を固定し易い。さらに、膜面内の配向軸の軸ズレが小さく、なお且つ、流れ方向と膜幅方向の光学特性(Re、Rth)のバラツキがより小さく、液晶黒表示する際に光漏れがなく、均一表示性に優れる。延伸する際に、好ましい残存溶媒量は1質量%以下であり、より好ましくは0.8質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
延伸温度はセルロースアシレートフィルムのTg〜Tg+50℃で実施するのが好ましく、より好ましくはTg+1℃〜Tg+40℃、特に好ましくはTg+2℃〜Tg+30℃である。ここで云うガラス転移温度とは、延伸直前のフィルムのガラス転移温度を指し、走査型示差熱量計(DSC)を用い測定することができる。
前記ドライ延伸の好ましい延伸倍率は、少なくとも1軸に1%〜200%、より好ましくは1%〜180%、さらに好ましくは5%〜150%である。これらの延伸は1段で実施しても、多段で実施してもよい。ここでいう延伸倍率は、下式を用いて求めたものである。
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/延伸前の長さ
【0180】
このような延伸は、縦延伸、横延伸、またはこれらの組み合わせによって実施される。縦延伸は、(1)ロール延伸(出口側の周速を速くした2対以上のニップロールを用いて、長手方向に延伸)、(2)固定端延伸(フィルムの両端を把持し、これを長手方向に次第に早く搬送し長手方向に延伸)等を用いることができる。さらに横延伸は、テンター延伸{フィルムの両端をチャックで把持しこれを横方向(長手方向と直角方向)に広げて延伸}等を使用することができる。これらの縦延伸、横延伸は、それだけで行なってもよく(1軸延伸)、組み合わせて行ってもよい(2軸延伸)。2軸延伸の場合、縦、横逐次で実施してもよく(逐次延伸)、同時に実施してもよい(同時延伸)。
【0181】
縦延伸、横延伸の延伸速度は10%/分〜10000%/分が好ましく、より好ましくは20%/分〜1000%/分、特に好ましくは30%/分〜800%/分である。多段延伸の場合、各段の延伸速度の平均値を指す。
【0182】
本発明の延伸した膜厚は20μm〜110μmが好ましく、30μm〜110μmがより好ましく、30μm〜100μmが特に好ましい。
【0183】
このような延伸に引き続き、縦または横方向に0%から10%緩和することも好ましい。さらに、延伸に引き続き、100℃〜160℃で1秒〜2分熱固定することも好ましい。
【0184】
本発明のセルロースアシレートフィルムのRe値とRth値とをそれぞれ好ましい範囲に制御するためには、使用する一般式(1)で表されるレターデーション上昇剤(一般式(2)で表される長軸棒状化合物を含む;レターデーション制御剤)の種類および添加量、ならびにフィルムの延伸倍率を適宜調整することが好ましい。特に、本発明では、所望のRth値を達成し得るレターデーション制御剤を選択し、かつ、所望のRe値が得られるように、該レターデーション制御剤の添加量およびフィルムの延伸倍率を適宜設定することにより、所望のRe値およびRth値を有するセルロース誘導体フィルムを得ることができる。
このような延伸により発現する波長590nmにおけるRthは、20nm〜500nmが好ましく、70nm〜500nmがより好ましく、100nm〜500nmが特に好ましい。
【0185】
ReおよびRthは、Re≦Rthであることが好ましく、Rth/Reの比率が1〜10が好ましく、1〜5がより好ましく、1〜3が特に好ましい。このようなReおよびRthは、固定端一軸延伸、より好ましくは縦、横方向の二軸延伸により達成される。すなわち縦、横に延伸することで、面内の屈折率(nx、ny)の差を小さくしてReを小さくすることができ、さらに、縦、横に延伸し面積倍率を大きくして、厚み減少に伴う厚み方向の配向を強くすることで、Rthを大きくすることができるためである。このようなReおよびRthにすることで、より一層黒表示での光漏れを軽減することができる。
【0186】
本明細書において、Re、Rthは各々、波長λにおける面内のリターデーションおよび厚さ方向のリターデーションを表す。ReはKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rthは前記Re、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して+40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値、および面内の遅相軸を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値の計3つの方向で測定したレターデーション値を基にKOBRA 21ADHが算出する。本明細書においては、特に断らない場合にはλの値として590nmを用いる。ここで平均屈折率の仮定値は ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する: セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。
【0187】
本発明のセルロースアシレートフィルムの波長590nmにおける25℃・相対湿度10%におけるReと25℃・相対湿度80%におけるReの差は15nm以下が好ましく、10nm以下がさらに好ましい。
また、波長590nmにおける25℃・相対湿度10%におけるRthと25℃・相対湿度80%におけるRthの差は25nm以下が好ましく、15nm以下がさらに好ましい。
また製膜方向(長手方向)と、フィルムのReの遅相軸とのなす角度θが0°、+90°もしくは−90°に近いほど好ましい。すなわち、縦延伸の場合は0°に近いほどよく、0±2°が好ましく、より好ましくは0±1°、特に好ましくは0±0.5°である。横延伸の場合は、90±2°または90±2°が好ましく、より好ましくは90±1°または90±1°、特に好ましくは90±0.5°または90±0.5°である。
【0188】
これらの未延伸、延伸セルロースアシレートフィルムは単独で使用してもよく、これらと偏光板組み合わせて使用してもよく、これらの上に液晶層や屈折率を制御した層(低反射層)やハードコート層を設けて使用してもよい。
【0189】
(表面処理)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、場合により表面処理を行うことによって、セルロースアシレートフィルムと各機能層(例えば、下塗層およびバック層)との接着の向上を達成することができる。例えばグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸またはアルカリ処理を用いることができる。ここでいう「グロー放電処理」とは、プラズマ励起性気体存在下でフィルム表面にプラズマ処理を施す処理である。
前記グロー放電処理は、10-3〜20Torr(0.13〜2700Pa)の低圧ガス下で実施する低温プラズマ処理を含む。また、大気圧下でのプラズマ処理も、好ましいグロー放電処理である。前記プラズマ励起性気体とは前記のような条件においてプラズマ励起される気体をいい、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンの様なフロン類およびそれらの混合物などが挙げられる。これらについては、詳細が発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)30頁〜32頁に詳細に記載されている。なお、近年注目されている大気圧でのプラズマ処理は、例えば10〜1000Kev下で20〜500kGyの照射エネルギーが用いられ、より好ましくは30〜500Kev下で20〜300kGyの照射エネルギーが用いられる。これらの中でも特に好ましくは、アルカリ鹸化処理でありセルロースアシレートフィルムの表面処理としては極めて有効である。
【0190】
前記アルカリ鹸化処理は、フィルムを鹸化液に浸漬してもよく、鹸化液を塗布してもよい。前記アルカリ鹸化処理は、フィルムをアルカリ鹸化液に浸漬するか、或いはフィルムにアルカリ鹸化液を塗布することにより実施することができる。浸漬法の場合は、NaOHやKOH等のpH10〜14の水溶液を、20℃〜80℃に加温した槽に0.1分から10分通過させたあと、中和、水洗、乾燥することで達成できる。
【0191】
アルカリ鹸化液の塗布方法としては、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、バーコーティング法およびE型塗布法を用いることができる。また、アルカリ鹸化処理塗布液の溶媒は、鹸化液の透明支持体に対して塗布するために濡れ性がよく、また鹸化液溶媒によってフィルム表面に凹凸を形成させずに、面状を良好なまま保つ溶媒を選択することが好ましい。具体的に前記溶媒としては、アルコール系溶媒が好ましく、イソプロピルアルコールが特に好ましい。また、界面活性剤の水溶液を溶媒として使用することもできる。アルカリ鹸化塗布液のアルカリは、前記溶媒に溶解するアルカリが好ましく、KOH、NaOHがさらに好ましい。鹸化塗布液のpHは10以上が好ましく、12以上がさらに好ましい。アルカリ鹸化時の反応条件は、室温で1秒〜5分が好ましく、5秒〜5分がさらに好ましく、20秒〜3分が特に好ましい。さらにアルカリ鹸化反応後には、鹸化液塗布面を水洗あるいは酸で洗浄したあと水洗することが好ましい。また、塗布式鹸化処理と後述の配向膜解塗設を、連続して行うことができ、工程数を減少することができる。これらの鹸化方法は、具体的には、例えば、特開2002−82226号公報、国際公開WO02/46809号公報に内容の記載が挙げられる。
【0192】
また、フィルム表面と機能層との接着性をさせるために下塗り層を設けることも好ましい。この層は前記表面処理をした後、塗設してもよく、表面処理なしで塗設してもよい。下塗層についての詳細は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁に記載されている。
これらの表面処理、下塗り工程は、製膜工程の最後に組み込むこともでき、単独で実施することもでき、後述の機能層付与工程の中で実施することもできる。
【0193】
(機能層付与)
本発明のセルロースアシレートフィルムには、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁〜45頁に詳細に記載されている機能性層を組み合わせることが好ましい。中でも、偏光膜の付与(偏光板)、光学補償層の付与(光学補償フィルム)、反射防止層の付与(反射防止フィルム)が好ましい。
【0194】
(1)偏光膜の付与(偏光板の作製)
[偏光膜の使用素材]
現在、市販の偏光膜は、延伸したポリマーを、浴槽中のヨウ素もしくは二色性色素の溶液に浸漬し、バインダー中にヨウ素、もしくは二色性色素を浸透させることで作製されるのが一般的である。偏光膜は、Optiva Inc.に代表される塗布型偏光膜も利用できる。偏光膜におけるヨウ素および二色性色素は、バインダー中で配向することで偏光性能を発現する。前記二色性色素としては、アゾ系色素、スチルベン系色素、ピラゾロン系色素、トリフェニルメタン系色素、キノリン系色素、オキサジン系色素、チアジン系色素あるいはアントラキノン系色素が用いられる。また、前記二色性色素は、水溶性であることが好ましい。前記二色性色素は、親水性置換基(例えば、スルホ、アミノ、ヒドロキシル)を有することが好ましい。前記二色性色素としては、例えば、発明協会公開技法(公技番号2001−1745号、2001年3月15日発行、発明協会)58頁に記載の化合物が挙げられる。
【0195】
偏光膜のバインダーは、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができ、これらの組み合わせを複数使用することができる。前記バインダーには、例えば特開平8−338913号公報の段落番号[0022]に記載のメタクリレート系共重合体、スチレン系共重合体、ポリオレフィン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリカーボネート等が含まれる。シランカップリング剤をポリマーとして用いることができる。水溶性ポリマー(例えば、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール)が好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがさらに好ましく、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。前記バインダーとしては、重合度が異なるポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを2種類併用することが特に好ましい。ポリビニルアルコールの鹸化度は、70〜100%が好ましく、80〜100%がさらに好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100〜5000であることが好ましい。変性ポリビニルアルコールについては、特開平8−338913号、同9−152509号および同9−316127号の各公報に記載がある。ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールは、2種以上を併用してもよい。
【0196】
偏光膜の厚みの下限は、10μmであることが好ましい。また、厚みの上限は、液晶表示装置の光漏れの観点からは、薄ければ薄い程く、例えば、現在市販の偏光板の厚み(約30μm)以下であることが好ましく、25μm以下がさらに好ましく、20μm以下が特に好ましい。
【0197】
偏光膜のバインダーは架橋していてもよい。また、架橋性の官能基を有するポリマー、モノマーをバインダー中に混合してもよく、バインダーポリマー自身に架橋性官能基を付与してもよい。架橋は、光、熱あるいはpH変化により行うことができ、架橋構造をもったバインダーを形成することができる。架橋剤については、米国再発行特許第23297号明細書に記載がある。また、ホウ素化合物(例えば、ホウ酸、硼砂)も、架橋剤として用いることができる。バインダーの架橋剤の添加量は、バインダーに対して、0.1〜20質量%が好ましい。偏光素子の配向性、偏光膜の耐湿熱性が良好となる。
【0198】
架橋反応が終了後における未反応の架橋剤の含有量は1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。このようにすることで、耐候性が向上する。
【0199】
[偏光膜の延伸]
偏光膜は、偏光膜を延伸するか(延伸法)、もしくはラビングした(ラビング法)後に、ヨウ素、二色性染料で染色することが好ましい。
延伸法の場合、延伸倍率は2.5〜30.0倍が好ましく、3.0〜10.0倍がさらに好ましい。延伸は、空気中でのドライ延伸で実施できる。また、水に浸漬した状態でのウェット延伸を実施してもよい。ドライ延伸の延伸倍率は、2.5〜5.0倍が好ましく、ウェット延伸の延伸倍率は、3.0〜10.0倍が好ましい。延伸はMD方向に平行に行ってもよく(平行延伸)、斜め方向に行なってもよい(斜め延伸)。これらの延伸は、1回で行っても、数回に分けて行ってもよい。数回に分けることによって、高倍率延伸でもより均一に延伸することができる。より好ましいのが斜め方向に10°〜80°の傾きを付けて延伸する斜め延伸である。
【0200】
(I)平行延伸法
平行延伸法について説明する。平行延伸法においては、延伸に先立ち、PVAフィルムを膨潤させる。膨潤度は1.2〜2.0倍(膨潤前と膨潤後との質量比)である。この後、ガイドロール等を介して連続搬送しつつ、水系媒体浴内や二色性物質溶解の染色浴内で、15〜50℃、就中17〜40℃の浴温で延伸する。延伸は2対のニップロールで把持し、後段のニップロールの搬送速度を前段のそれより大きくすることで達成できる。延伸倍率は、延伸後/初期状態の長さ比(以下同じ)に基づくが前記作用効果の点より、延伸倍率は1.2〜3.5倍が好ましく、1.5〜3.0倍であることがさらに好ましい。この後、50℃〜90℃において乾燥させて偏光膜を得ることができる。
【0201】
(II)斜め延伸法
斜め延伸法としては、これには特開2002−86554号公報に記載の斜め方向に傾斜め方向に張り出したテンターを用い延伸する方法を用いることができる。この延伸は空気中で延伸するため、事前に含水させて延伸しやすくすることが必要である。好ましい含水率は5%〜100%、より好ましくは10%〜100%である。
延伸時の温度は40℃〜90℃が好ましく、より好ましくは50℃〜80℃である。湿度は、相対湿度50%〜100%が好ましく、より好ましくは相対湿度70%〜100%、さらに好ましくは相対湿度80%〜100%である。長手方向の進行速度は、1m/分以上が好ましく、より好ましくは3m/分以上である。
延伸の終了後、50℃〜100℃より好ましくは60℃〜90℃で、0.5分〜10分乾燥する。より好ましくは1分〜5分である。
このようにして得られた偏光膜の吸収軸は10°〜80°が好ましく、より好ましくは30°〜60°であり、さらに好ましくは実質的に45°(40°〜50°)である。
【0202】
[貼り合せ]
前記鹸化後のセルロースアシレートフィルムと、延伸して調製した偏光膜とを貼り合わせ偏光板を作製する。これらを張り合わせる方向は、セルロースアシレートフィルムの流延軸方向と偏光板の延伸軸方向とが45°になるように行うのが好ましい。
貼り合わせ際に用いられる接着剤は特に限定されないが、PVA系樹脂(アセトアセチル基、スルホン酸基、カルボキシル基、オキシアルキレン基等の変性PVAを含む)やホウ素化合物水溶液等が挙げられ、中でもPVA系樹脂が好ましい。接着剤層の乾燥後の厚みは0.01〜10μmが好ましく、0.05〜5μmが特に好ましい。
このようにして得られた偏光板の光線透過率は高い方が好ましく、偏光度も高い方が好ましい。偏光板の透過率は、波長550nmの光において、30〜50%の範囲にあることが好ましく、35〜50%の範囲にあることがさらに好ましく、40〜50%の範囲にあることが最も好ましい。偏光度は、波長550nmの光において、90〜100%の範囲にあることが好ましく、95〜100%の範囲にあることがさらに好ましく、99〜100%の範囲にあることが最も好ましい。
【0203】
さらに、このようにして得た偏光板はλ/4板と積層し、円偏光を作製することができる。この場合λ/4板の遅相軸と偏光板の吸収軸とを45°になるように積層する。この時、λ/4板は特に限定されないが、より好ましくは低波長ほどレターデーションが小さくなるような波長依存性を有するものがより好ましい。さらには長手方向に対し20°〜70°傾いた吸収軸を有する偏光膜、および液晶性化合物からなる光学異方性層から成るλ/4板を用いることが好ましい。
【0204】
(2)光学補償層の付与(光学補償フィルムの作製)
光学異方性層は、液晶表示装置の黒表示における液晶セル中の液晶化合物を補償するためのものであり、セルロースアシレートフィルムの上に配向膜を形成し、さらに光学異方性層を付与することで形成される。
【0205】
[配向膜]
光学補償フィルムを作製するには、前記表面処理したセルロースアシレートフィルム上に配向膜を設ける。この配向膜は、液晶性分子の配向方向を規定する機能を有する。しかし、液晶性化合物を配向後にその配向状態を固定してしまえば、配向膜はその役割を果たしているために、光学補償フィルムの構成要素としては必ずしも必須のものではない。即ち、配向状態が固定された配向膜上の光学異方性層のみを偏光子上に転写して光学補償フィルムを作製することも可能である。
前記配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、あるいはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例えば、ω−トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。
前記配向膜は、ポリマーのラビング処理により形成することが好ましい。配向膜に使用するポリマーは、原則として、液晶性分子を配向させる機能のある分子構造を有する。
【0206】
本発明では、液晶性分子を配向させる機能に加えて、架橋性官能基(例えば、二重結合)を有する側鎖を主鎖に結合させるか、あるいは、液晶性分子を配向させる機能を有する架橋性官能基を側鎖に導入することが好ましい。
【0207】
配向膜に使用されるポリマーは、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができ、これらの組み合わせを複数使用することができる。前記ポリマーの例には、例えば特開平8−338913号公報の段落番号[0022]に記載のメタクリレート系共重合体、スチレン系共重合体、ポリオレフィン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリカーボネート等が含まれる。シランカップリング剤をポリマーとして用いることができる。水溶性ポリマー(例えば、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール)が好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがさらに好ましく、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。重合度が異なるポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを2種類併用することが特に好ましい。ポリビニルアルコールの鹸化度は、70〜100%が好ましく、80〜100%がさらに好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100〜5000であることが好ましい。
【0208】
液晶性分子を配向させる機能を有する側鎖は、一般に疎水性基を官能基として有する。具体的な官能基の種類は、液晶性分子の種類および必要とする配向状態に応じて決定する。例えば、変性ポリビニルアルコールの変性基としては、共重合変性、連鎖移動変性またはブロック重合変性により導入できる。変性基の例には、親水性基(カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、チオール基等)、炭素数10〜100個の炭化水素基、フッ素原子置換の炭化水素基、チオエーテル基、重合性基(不飽和重合性基、エポキシ基、アジリニジル基等)、アルコキシシリル基(トリアルコキシ、ジアルコキシ、モノアルコキシ)等が挙げられる。これらの変性ポリビニルアルコール化合物の具体例として、例えば特開2000−155216号公報の段落番号[0022]〜[0145]、同2002−62426号公報の段落番号[0018]〜[0022]に記載のもの等が挙げられる。
【0209】
架橋性官能基を有する側鎖を配向膜ポリマーの主鎖に結合させるか、あるいは、液晶性分子を配向させる機能を有する側鎖に架橋性官能基を導入すると、配向膜のポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを共重合させることができる。その結果、多官能モノマーと多官能モノマーとの間だけではなく、配向膜ポリマーと配向膜ポリマーとの間、そして多官能モノマーと配向膜ポリマーとの間も共有結合で強固に結合される。従って、架橋性官能基を配向膜ポリマーに導入することで、光学補償フィルムの強度を著しく改善することができる。
【0210】
配向膜ポリマーの架橋性官能基は、多官能モノマーと同様に、重合性基を含むことが好ましい。具体的には、例えば特開2000−155216号公報の段落番号[0080]〜[0100]に記載のもの等が挙げられる。配向膜ポリマーは、前記の架橋性官能基とは別に、架橋剤を用いて架橋させることもできる。
【0211】
前記架橋剤としては、アルデヒド、N−メチロール化合物、ジオキサン誘導体、カルボキシル基を活性化することにより作用する化合物、活性ビニル化合物、活性ハロゲン化合物、イソオキサゾールおよびジアルデヒド澱粉が含まれる。また、2種類以上の架橋剤を併用してもよい。具体的には、例えば特開2002−62426号公報の段落番号[0023]〜[0024]に記載の化合物等が挙げられる。反応活性の高いアルデヒド、特にグルタルアルデヒドが好ましい。
架橋剤の添加量は、ポリマーに対して0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜15質量%がさらに好ましい。配向膜に残存する未反応の架橋剤の量は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。このように調節することで、配向膜を液晶表示装置に長期使用、或は高温高湿の雰囲気下に長期間放置しても、レチキュレーション発生のない充分な耐久性が得られる。
【0212】
前記配向膜は、基本的に、配向膜形成材料である前記ポリマー、架橋剤を含む透明支持体(本発明のセルロースアシレートフィルム)上に塗布した後、加熱乾燥(架橋させ)し、ラビング処理することにより形成することができる。架橋反応は、上述のように、透明支持体(本発明のセルロースアシレートフィルム)上に塗布した後、任意の時期に行ってよい。ポリビニルアルコールのような水溶性ポリマーを配向膜形成材料として用いる場合には、塗布液は消泡作用のある有機溶媒(例えば、メタノール)と水との混合溶媒とすることが好ましい。その比率は質量比で水:メタノールが0:100〜99:1であることが好ましく、0:100〜91:9であることがさらに好ましい。これにより、泡の発生が抑えられ、配向膜、さらには光学異方性層の層表面の欠陥が著しく減少する。
【0213】
前記配向膜の塗布方法としては、スピンコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、ロッドコーティング法またはロールコーティング法が好ましく、特にロッドコーティング法が好ましい。また、乾燥後の配向膜の膜厚は0.1〜10μmが好ましい。また、加熱乾燥は、20℃〜110℃で行うことができるが、充分な架橋を形成するためには60℃〜100℃が好ましく、特に80℃〜100℃が好ましい。乾燥時間は1分〜36時間で行うことができるが、好ましくは1分〜30分である。pHも、使用する架橋剤に最適な値に設定することが好ましく、グルタルアルデヒドを使用した場合は、pH4.5〜5.5で、特に5が好ましい。
【0214】
配向膜は、透明支持体(本発明のセルロースアシレートフィルム)上または前記下塗層上に設けられる。前記配向膜は、前記のようにポリマー層を架橋したのち、表面をラビング処理することにより得ることができる。
前記ラビング処理は、LCD(液晶表示装置)の液晶配向処理工程として広く採用されている処理方法を適用することができる。即ち、配向膜の表面を、紙やガーゼ、フェルト、ゴムあるいはナイロン、ポリエステル繊維などを用いて一定方向に擦ることにより、配向を得る方法を用いることができる。一般的には、長さおよび太さが均一な繊維を平均的に植毛した布などを用いて数回程度ラビングを行うことにより実施される。
工業的に実施する場合、搬送している偏光膜のついたフィルムに対し、回転するラビングロールを接触させることで達成するが、ラビングロールの真円度、円筒度、振れ(偏芯)はいずれも30μm以下であることが好ましい。ラビングロールへのフィルムのラップ角度は、0.1°〜90°が好ましい。ただし、特開平8−160430号公報に記載されているように、360°以上巻き付けることで、安定なラビング処理を得ることもできる。フィルムの搬送速度は1〜100m/minが好ましい。ラビング角は0°〜60°の範囲で適切なラビング角度を選択することが好ましい。液晶表示装置に使用する場合は、40°〜50°が好ましい。45°が特に好ましい。
このようにして得た配向膜の膜厚は、0.1μm〜10μmの範囲にあることが好ましい。
【0215】
次に、配向膜の上に光学異方性層の液晶性分子を配向させる。その後、必要に応じて、配向膜ポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを反応させるか、あるいは、架橋剤を用いて配向膜ポリマーを架橋させる。
光学異方性層に用いる液晶性分子には、棒状液晶性分子および円盤状液晶性分子が含まれる。棒状液晶性分子および円盤状液晶性分子は、高分子液晶でも低分子液晶でもよく、さらに、低分子液晶が架橋され液晶性を示さなくなったものも含まれる。
【0216】
[棒状液晶性分子]
前記棒状液晶性分子としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。
なお、棒状液晶性分子には、金属錯体も含まれる。また、棒状液晶性分子を繰り返し単位中に含む液晶ポリマーも、棒状液晶性分子として用いることができる。言い換えると、棒状液晶性分子は、(液晶)ポリマーと結合していてもよい。
【0217】
棒状液晶性分子については、季刊化学総説第22巻液晶の化学(1994)日本化学会編の第4章、第7章および第11章、および液晶デバイスハンドブック日本学術振興会第142委員会編の第3章に記載がある。
前記棒状液晶性分子の複屈折率は、0.001〜0.7の範囲にあることが好ましい。
前記棒状液晶性分子は、その配向状態を固定するために、重合性基を有することが好ましい。重合性基は、ラジカル重合性不飽基或はカチオン重合性基が好ましく、具体的には、例えば特開2002−62427号公報の段落番号[0064]〜[0086]に記載の重合性基、重合性液晶化合物が挙げられる。
【0218】
[円盤状液晶性分子]
前記円盤状(ディスコティック)液晶性分子には、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.71巻、111頁(1981年)に記載されているベンゼン誘導体、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.122巻、141頁(1985年)、Physics lett,A,78巻、82頁(1990)に記載されているトルキセン誘導体、B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁(1984年)に記載されたシクロヘキサン誘導体およびJ.M.Lehnらの研究報告、J.Chem.Commun.,1794頁(1985年)、J.Zhangらの研究報告、J.Am.Chem.Soc.116巻、2655頁(1994年)に記載されているアザクラウン系やフェニルアセチレン系マクロサイクルが含まれる。
【0219】
前記円盤状液晶性分子としては、分子中心の母核に対して、直鎖のアルキル基、アルコキシ基、置換ベンゾイルオキシ基が母核の側鎖として放射線状に置換した構造である液晶性を示す化合物も含まれる。分子または分子の集合体が、回転対称性を有し、一定の配向を付与できる化合物であることが好ましい。円盤状液晶性分子から形成する光学異方性層は、最終的に光学異方性層に含まれる化合物が円盤状液晶性分子である必要はなく、例えば、低分子の円盤状液晶性分子が熱や光で反応する基を有しており、結果的に熱、光で反応により重合または架橋し、高分子量化し液晶性を失った化合物も含まれる。円盤状液晶性分子の好ましい例は、特開平8−50206号公報に記載されている。また、円盤状液晶性分子の重合については、特開平8−27284公報に記載がある。
【0220】
円盤状液晶性分子を重合により固定するためには、円盤状液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。円盤状コアと重合性基は、連結基を介して結合する化合物が好ましく、これにより重合反応においても配向状態を保つことができる。例えば、特開2000−155216号公報の段落番号[0151]〜[0168]に記載の化合物等が挙げられる。
ハイブリッド配向では、円盤状液晶性分子の長軸(円盤面)と偏光膜の面との角度が、光学異方性層の深さ方向でかつ偏光膜の面からの距離の増加と共に増加または減少している。角度は、距離の増加と共に減少することが好ましい。さらに、角度の変化としては、連続的増加、連続的減少、間欠的増加、間欠的減少、連続的増加と連続的減少を含む変化、あるいは、増加および減少を含む間欠的変化が可能である。間欠的変化は、厚さ方向の途中で傾斜角が変化しない領域を含んでいる。角度は、角度が変化しない領域を含んでいても、全体として増加または減少していればよい。さらに、角度は連続的に変化することが好ましい。
【0221】
偏光膜側の円盤状液晶性分子の長軸の平均方向は、一般に円盤状液晶性分子あるいは配向膜の材料を選択することにより、またはラビング処理方法の選択することにより、調整することができる。また、表面側(空気側)の円盤状液晶性分子の長軸(円盤面)方向は、一般に円盤状液晶性分子あるいは円盤状液晶性分子と共に使用する添加剤の種類を選択することにより調整することができる。円盤状液晶性分子と共に使用する添加剤の例としては、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマーおよびポリマーなどを挙げることができる。長軸配向方向の変化の程度も、前記と同様に、液晶性分子と添加剤との選択により調整できる。
【0222】
[光学異方性層の他の組成物]
前記の液晶性分子と共に、重合性モノマー、可塑剤、界面活性剤等を併用して、塗工膜の均一性、膜の強度、液晶分子の配向性等を向上することができる。液晶性分子と相溶性を有し、液晶性分子の傾斜角の変化を与えられるか、あるいは配向を阻害しないことが好ましい。
【0223】
前記重合性モノマーとしては、ラジカル重合性若しくはカチオン重合性の化合物が挙げられる。好ましくは、多官能性ラジカル重合性モノマーであり、前記の重合性基含有の液晶化合物と共重合性のものが好ましい。例えば、特開2002−296423号公報の段落番号[0018]〜[0020]に記載のものが挙げられる。前記化合物の添加量は、円盤状液晶性分子に対して一般に1〜50質量%の範囲にあり、5〜30質量%の範囲にあることが好ましい。
【0224】
前記界面活性剤としては、従来公知の化合物が挙げられるが、特にフッ素系化合物が好ましい。具体的には、例えば特開2001−330725号公報の段落番号[0028]〜[0056]に記載の化合物が挙げられる。
円盤状液晶性分子とともに使用するポリマーは、円盤状液晶性分子に傾斜角の変化を与えられることが好ましい。
ポリマーの例としては、セルロースエステルを挙げることができる。セルロースエステルの好ましい例としては、特開2000−155216号公報の段落番号[0178]に記載のものが挙げられる。液晶性分子の配向を阻害しないように、前記ポリマーの添加量は、液晶性分子に対して0.1〜10質量%の範囲にあることが好ましく、0.1〜8質量%の範囲にあることがより好ましい。
円盤状液晶性分子のディスコティックネマティック液晶相−固相転移温度は、70〜300℃が好ましく、70〜170℃がさらに好ましい。
【0225】
[光学異方性層の形成]
光学異方性層は、液晶性分子および必要に応じて後述の重合性開始剤や任意の成分を含む塗布液を、配向膜の上に塗布することで形成できる。
塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例には、アミド(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例えば、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例えば、ピリジン)、炭化水素(例えば、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラクロロエタン)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライドおよびケトンが好ましい。2種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0226】
塗布液の塗布は、公知の方法(例えば、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法)により実施できる。
光学異方性層の厚さは、0.1〜20μmであることが好ましく、0.5〜15μmであることがさらに好ましく、1〜10μmであることが最も好ましい。
【0227】
[液晶性分子の配向状態の固定]
配向させた液晶性分子を、配向状態を維持して固定することができる。固定化は、重合反応により実施することが好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれる。光重合反応が好ましい。
光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許第2,367,661号、同2,367,670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2,448,828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2,722,512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3,046,127号、同2,951,758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3,549,367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許第4,239,850号明細書記載)およびオキサジアゾール化合物(米国特許第4,212,970号明細書記載)が含まれる。
光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01〜20質量%の範囲にあることが好ましく、0.5〜5質量%の範囲にあることがさらに好ましい。
【0228】
液晶性分子の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。
照射エネルギーは、20mJ/cm2〜50J/cm2の範囲にあることが好ましく、20〜5000mJ/cm2の範囲にあることがより好ましく、100〜800mJ/cm2の範囲にあることがさらに好ましい。また、光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。
保護層を、光学異方性層の上に設けてもよい。
【0229】
また、光学補償フィルムと偏光膜とを組み合わせることも好ましい。具体的には、前記のような光学異方性層用塗布液を偏光膜の表面に塗布することにより光学異方性層を形成する。その結果、偏光膜と光学異方性層との間にポリマーフィルムを使用することなく、偏光膜の寸度変化にともなう応力(歪み×断面積×弾性率)が小さい薄い偏光板が作製される。本発明に従う偏光板を大型の液晶表示装置に取り付けると、光漏れなどの問題を生じることなく、表示品位の高い画像を表示することができる。
偏光膜と光学補償層との傾斜角度は、LCDを構成する液晶セルの両側に貼り合わされる2枚の偏光板の透過軸と液晶セルとの縦または横方向のなす角度にあわせるように延伸することが好ましい。通常の傾斜角度は45°である。しかし、最近は、透過型、反射型および半透過型LCDにおいて必ずしも45°でない装置が開発されており、延伸方向はLCDの設計にあわせて任意に調整できることが好ましい。
【0230】
[液晶表示装置]
このような光学補償フィルムが用いられる各液晶モードについて説明する。
【0231】
(TNモード液晶表示装置)
TNモード液晶表示装置は、カラーTFT液晶表示装置として最も多く利用されており、多数の文献に記載がある。TNモードの黒表示における液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性分子が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性分子が寝た配向状態にある。
【0232】
(OCBモード液晶表示装置)
OCBモード液晶表示装置は、棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルである。ベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装置は、米国特許第4,583,825号、同5,410,422号の各明細書に開示されている。棒状液晶性分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。そのため、この液晶モードは、OCB(Optically Compensatory Bend)液晶モードとも呼ばれる。
OCBモードの液晶セルもTNモード同様、黒表示においては、液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性分子が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性分子が寝た配向状態にある。
【0233】
(VAモード液晶表示装置)
VAモード液晶表示装置は、電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に垂直に配向しているのが特徴であり、VAモードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845記載)、(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(日本液晶討論会の予稿集58〜59(1998)記載)および(4)SURVAIVALモードの液晶セル(LCDインターナショナル98で発表)が含まれる。
【0234】
(IPSモード液晶表示装置)
IPSモード液晶表示装置は、電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に面内に水平に配向しているのが特徴であり、これが電圧印加の有無で液晶の配向方向を変えることでスイッチングするのが特徴である。具体的には特開2004−365941号、特開2004−12731号、特開2004−215620号、特開2002−221726号、特開2002−55341号、特開2003−195333号各公報に記載のものなどを使用できる。
【0235】
(その他液晶表示装置)
ECBモードおよびSTNモードに対しても、前記と同様の考え方で光学的に補償することができる。
【0236】
(3)反射防止層の付与(反射防止フィルムの作製)
反射防止層は、一般に、防汚性層でもある低屈折率層と、および低屈折率層よりも高い屈折率を有する少なくとも一層の層(即ち、高屈折率層、中屈折率層)とを透明基体(本発明のセルロースアシレートフィルム)上に設けて成る。
屈折率の異なる無機化合物(金属酸化物等)の透明薄膜を積層させた多層膜を形成する方法としては、化学蒸着(CVD)法や物理蒸着(PVD)法、金属アルコキシド等の金属化合物のゾルゲル方法でコロイド状金属酸化物粒子皮膜を形成後に後処理(紫外線照射:特開平9−157855号公報、プラズマ処理:特開2002−327310号公報)を施して薄膜を形成する方法が挙げられる。
【0237】
一方、生産性が高い反射防止層としては、無機粒子をマトリックスに分散されてなる薄膜を積層塗布してなる反射防止膜が各種提案されている。
また、上述したような塗布による反射防止フィルムに最上層表面が微細な凹凸の形状を有する防眩性を付与した反射防止層から成る反射防止フィルムも挙げられる。
本発明のセルロースアシレートフィルムは前記いずれの方式にも適用できるが、塗布による方式(塗布型)が特に好ましい。
【0238】
[塗布型反射防止フィルムの層構成]
基体上に少なくとも中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層(最外層)の順序の層構成から成る反射防止膜は、以下の関係を満足する屈折率を有する様に設計される。
高屈折率層の屈折率>中屈折率層の屈折率>透明支持体の屈折率>低屈折率層の屈折率
また、透明支持体と中屈折率層との間に、ハードコート層を設けてもよい。
【0239】
前記塗布型反射防止フィルムは、さらに、中屈折率ハードコート層、高屈折率層および低屈折率層からなってもよい。
このような前記塗布型反射防止フィルムとしては、例えば、特開平8−122504号公報、同8−110401号公報、同10−300902号公報、特開2002−243906号公報、特開2000−111706号公報等が挙げられる。また、各層に他の機能を付与させてもよく、例えば、防汚性の低屈折率層、帯電防止性の高屈折率層としたもの(例えば、特開平10−206603号公報、特開2002−243906号公報等)等が挙げられる。
【0240】
反射防止層のヘイズは、5%以下あることが好ましく、3%以下がさらに好ましい。また、反射防止層の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験でH以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
【0241】
[高屈折率層および中屈折率層]
反射防止層のうち低屈折率層よりも高い屈折率を有する層(高屈折率層および中屈折率層)は、平均粒子サイズ100nm以下の高屈折率の無機化合物超微粒子およびマトリックスバインダーを少なくとも含有する硬化性膜から成ることが好ましい。
高屈折率の無機化合物微粒子としては、屈折率1.65以上の無機化合物が挙げられ、好ましくは屈折率1.9以上のものが挙げられる。例えば、Ti、Zn、Sb、Sn、Zr、Ce、Ta、La、In等の酸化物、これらの金属原子を含む複合酸化物等が挙げられる。
【0242】
このような超微粒子を調製するためには、粒子表面が表面処理剤で処理されること(例えば、シランカップリング剤等:特開平11−295503号公報、同11−153703号公報、特開2000−9908、アニオン性化合物或は有機金属カップリング剤:特開2001−310432号公報等)、高屈折率粒子をコアとしたコアシェル構造とすること(:特開2001−166104号公報等)、特定の分散剤併用(例えば、特開平11−153703号公報、米国特許第6,210,858B1、特開2002−2776069号公報等)等が挙げられる。
また、マトリックスバインダーを形成する材料としては、従来公知の熱可塑性樹脂、硬化性樹脂皮膜等が挙げられる。
【0243】
さらに、マトリックスバインダーとしては、ラジカル重合性および/またはカチオン重合性の重合性基を少なくとも2個以上含有の多官能性化合物含有組成物、加水分解性基を含有の有機金属化合物およびその部分縮合体組成物から選ばれる少なくとも1種の組成物が好ましい。例えば、特開2000−47004号公報、同2001−315242号公報、同2001−31871号公報、同2001−296401号公報等に記載の化合物が挙げられる。
また、金属アルコキドの加水分解縮合物から得られるコロイド状金属酸化物と金属アルコキシド組成物から得られる硬化性膜も好ましい。例えば、特開2001−293818号公報等に記載されている。
【0244】
高屈折率層の屈折率は、一般に1.70〜2.20である。また、高屈折率層の厚さは、5nm〜10μmであることが好ましく、10nm〜1μmであることがさらに好ましい。
さらに、中屈折率層の屈折率は、低屈折率層の屈折率と高屈折率層の屈折率との間の値となるように調整される。中屈折率層の屈折率は、1.50〜1.70であることが好ましい。
【0245】
[低屈折率層]
低屈折率層は、高屈折率層の上に順次積層して成る。低屈折率層の屈折率は1.20〜1.55である。好ましくは1.30〜1.50である。
低屈折率層は耐擦傷性、防汚性を有する最外層として構築することが好ましい。また、耐擦傷性を大きく向上させる手段として表面への滑り性付与が有効で、従来公知のシリコーン化合物によるシリコーンの導入、含フッ素化合物によるフッ素の導入等から成る薄膜層の手段を適用できる。
前記含フッ素化合物の屈折率は1.35〜1.50であることが好ましく、より好ましくは1.36〜1.47である。また、含フッ素化合物はフッ素原子を35〜80質量%の範囲で含む架橋性若しくは重合性の官能基を含む化合物が好ましい。
前記含フッ素化合物としては、例えば、特開平9−222503号公報の段落番号[0018]〜[0026]、同11−38202号公報の段落番号[0019]〜[0030]、特開2001−40284号公報の段落番号[0027]〜[0028]、特開2000−284102号公報等に記載の化合物が挙げられる。
【0246】
前記シリコーン化合物としてはポリシロキサン構造を有する化合物であり、高分子鎖中に硬化性官能基あるいは重合性官能基を含有して、膜中で橋かけ構造を有するものが好ましい。例えば、反応性シリコーン(例えば、サイラプレーン(チッソ(株)製等)、両末端にシラノール基含有のポリシロキサン(特開平11−258403号公報等)等が挙げられる。
架橋または重合性基を有する含フッ素および/またはシロキサンのポリマーの架橋または重合反応は、重合開始剤、増感剤等を含有する最外層を形成するための塗布組成物を塗布と同時または塗布後に光照射や加熱することにより実施することが好ましい。
【0247】
また、前記低屈折率層としては、シランカップリング剤等の有機金属化合物と特定のフッ素含有炭化水素基含有のシランカップリング剤とを触媒共存下に縮合反応で硬化するゾルゲル硬化膜も好ましい。
例えば、ポリフルオロアルキル基含有シラン化合物またはその部分加水分解縮合物(特開昭58−142958号公報、同58−147483号公報、同58−147484号公報、特開平9−157582号公報、同11−106704号公報記載等記載の化合物)、フッ素含有長鎖基であるポリ「パーフルオロアルキルエーテル」基を含有するシリル化合物(特開2000−117902号公報、同2001−48590号公報、同2002−53804号公報記載の化合物等)等が挙げられる。
【0248】
低屈折率層は、前記以外の添加剤として充填剤(例えば、二酸化珪素(シリカ)、含フッ素粒子(フッ化マグネシウム,フッ化カルシウム,フッ化バリウム)等の一次粒子平均径が1〜150nmの低屈折率無機化合物、特開平11−3820公報の段落番号[0020]〜[0038]に記載の有機微粒子等)、シランカップリング剤、滑り剤、界面活性剤等を含有することができる。
低屈折率層が最外層の下層に位置する場合、低屈折率層は気相法(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法等)により形成されてもよい。安価に製造できる点で、塗布法が好ましい。
低屈折率層の膜厚は、30〜200nmであることが好ましく、50〜150nmであることがさらに好ましく、60〜120nmであることが最も好ましい。
【0249】
[ハードコート層]
ハードコート層は、反射防止フィルムに物理強度を付与するために、透明支持体の表面に設けられる。特に、透明支持体と前記高屈折率層との間に設けることが好ましい。
ハードコート層は、光および/または熱の硬化性化合物の架橋反応、または、重合反応により形成されることが好ましい。 硬化性官能基としては、光重合性官能基が好ましく、また加水分解性官能基含有の有機金属化合物は有機アルコキシシリル化合物が好ましい。
これらの化合物の具体例としては、高屈折率層で例示したと同様のものが挙げられる。
【0250】
ハードコート層の具体的な構成組成物としては、例えば、特開2002−144913号公報、同2000−9908号公報、国際公開WO0/46617号公報等記載のものが挙げられる。
高屈折率層はハードコート層を兼ねることができる。このような場合、高屈折率層で記載した手法を用いて微粒子を微細に分散してハードコート層に含有させて形成することが好ましい。
ハードコート層は、平均粒子サイズ0.2μm〜10μmの粒子を含有させて防眩機能(アンチグレア機能)を付与した防眩層(後述)を兼ねることもできる。
ハードコート層の膜厚は用途により適切に設計することができる。ハードコート層の膜厚は、0.2〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜7μmである。
ハードコート層の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験で、H以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。また、JIS K5400に従うテーバー試験で、試験前後の試験片の摩耗量が少ないほど好ましい。
【0251】
[前方散乱層]
前方散乱層は、前記反射防止フィルムを液晶表示装置に適用した場合の、上下左右方向に視角を傾斜させたときの視野角改良効果を付与するために設ける。また、前記ハードコート層中に屈折率の異なる微粒子を分散することで、ハードコート機能と兼ねることもできる。
前記前方散乱層としては、例えば、前方散乱係数を特定化した特開11−38208号公報、透明樹脂と微粒子の相対屈折率を特定範囲とした特開2000−199809号公報、ヘイズ値を40%以上と規定した特開2002−107512号公報等が挙げられる。
【0252】
[その他の層]
前記の層以外に、プライマー層、帯電防止層、下塗り層や保護層等を設けてもよい。
【0253】
[塗布方法]
反射防止フィルムの各層は、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート、マイクログラビア法やエクストルージョンコート法(米国特許第2,681,294号明細書)により、塗布により形成することができる。
【0254】
[アンチグレア機能]
また、反射防止層は、外光を散乱させるアンチグレア機能を有していてもよい。アンチグレア機能は、反射防止膜の表面に凹凸を形成することにより得られる。反射防止層がアンチグレア機能を有する場合、反射防止層のヘイズは、3〜30%であることが好ましく、5〜20%であることがさらに好ましく、7〜20%であることが最も好ましい。
【0255】
反射防止膜表面に凹凸を形成する方法は、これらの表面形状を充分に保持できる方法であればいずれの方法でも適用できる。例えば、低屈折率層中に微粒子を使用して膜表面に凹凸を形成する方法(例えば、特開2000−271878号公報等)、低屈折率層の下層(高屈折率層、中屈折率層またはハードコート層)に比較的大きな粒子(粒子サイズ0.05〜2μm)を少量(0.1〜50質量%)添加して表面凹凸膜を形成し、その上にこれらの形状を維持して低屈折率層を設ける方法(例えば、特開2000−281410号公報、同2000−95893号公報、同2001−100004号公報、同2001−281407号公報等)、最上層(防汚性層)を塗設後の表面に物理的に凹凸形状を転写する方法(例えば、エンボス加工方法として、特開昭63−278839号公報、特開平11−183710号公報、特開2000−275401号公報等記載)等が挙げられる。
【0256】
[用途]
本発明のセルロースアシレートフィルムの用途について以下に簡単に述べる。
本発明のセルロースアシレートフィルムは、光学フィルム、特に偏光板保護フィルム用、液晶表示装置の光学補償シート(位相差フィルムともいう)、反射型液晶表示装置の光学補償シート、ハロゲン化銀写真感光材料用支持体として有用である。
したがって本発明のフィルムの厚さはこれらの用途によって定まり、特に制限はないが、好ましくは30μm以上、より好ましくは30〜200μmである。
【0257】
本発明のセルロースアシレートフィルムを偏光板保護フィルムとして用いる場合、偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することができる。得られたセルロース誘導体フィルムをアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の両面に完全ケン化ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号、特開平6−118232号各公報に記載されているような易接着加工を施してもよい。保護フィルム処理面と偏光子を貼り合わせるために使用される接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系接着剤や、ブチルアクリレート等のビニル系ラテックス等が挙げられる。偏光板は偏光子およびその両面を保護する保護フィルムで構成されており、さらに該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成される。プロテクトフィルムおよびセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。
【0258】
この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。また、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶板へ貼合する面側に用いられる。液晶表示装置には通常2枚の偏光板の間に液晶を含む基板が配置されているが、本発明のセルロースアシレートフィルムを適用した偏光板保護フィルムはどの部位に配置しても優れた表示性が得られる。特に液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護フィルムには透明ハードコート層、防眩層、反射防止層等が設けられるため、該偏光板保護フィルムをこの部分に用いることが特に好ましい。
【0259】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、様々な用途で用いることができ、液晶表示装置の光学補償シートとして用いると特に効果がある。本発明のセルロースアシレートフィルムは、様々な表示モードの液晶セルに用いることができる。TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されている。また、前記表示モードを配向分割した表示モードも提案されている。
【0260】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、いずれの表示モードの液晶表示装置においても有効である。また、透過型、反射型、半透過型のいずれの液晶表示装置においても有効である。本発明のセルロースアシレートフィルムを、TNモードの液晶セルを有するTN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として用いてもよい。本発明のセルロースアシレートフィルムを、STNモードの液晶セルを有するSTN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として用いてもよい。
【0261】
一般的にSTN型液晶表示装置では、液晶セル中の棒状液晶性分子が90°〜360°の範囲にねじられており、棒状液晶性分子の屈折率異方性(△n)とセルギャップ(d)との積(△nd)が300〜1500nmの範囲にある。STN型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、特開2000−105316号公報に記載がある。本発明のセルロースアシレートフィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として特に有利に用いられる。本発明のセルロースアシレートフィルムは、OCBモードの液晶セルを有するOCB型液晶表示装置あるいはHANモードの液晶セルを有するHAN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有利に用いられる。
【0262】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、TN型、STN型、HAN型、GH(Guest−Host)型の反射型液晶表示装置の光学補償シートとしても有利に用いられる。これらの表示モードは古くからよく知られている。TN型反射型液晶表示装置については、特開平10−123478号、国際公開WO98/48320号、特許第3022477号の各公報に記載がある。反射型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、WO00−65384号に記載がある。本発明のセセルロースアシレートフィルムは、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell )モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有利に用いられる。ASMモードの液晶セルは、セルの厚さが位置調整可能な樹脂スペーサーにより維持されているとの特徴がある。
【0263】
その他の性質は、TNモードの液晶セルと同様である。ASMモードの液晶セルとASM型液晶表示装置については、クメ(Kume)他の論文(Kume et al., SID 98 Digest 1089 (1998))に記載がある。以上述べてきたこれらの詳細なセルロース誘導体フィルムの用途は発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)45頁〜59頁に詳細に記載されている。
【0264】
以下に本発明で使用した測定法について記載する。
【0265】
(1)サンプリング
幅方向5点(中央1個所、端部2箇所(両端から全幅の5%の位置)、中央部と端部の中間部2箇所)を長手方向に10mごとに3回サンプリングし、3×3cmの大きさのサンプルを15枚取り出す。以下示すReおよびRthの値は15箇所測定値の平均値である。
【0266】
(2)面内レターデーションRe、厚み方向レターデーションRth
サンプルフィルムを25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、自動複屈折計(KOBRA−21ADH:王子計測機器(株)製)を用いて、25℃、相対湿度60%において、面内レターデーション値(Re)と膜厚方向のレターデーション値(Rth)とを算出した。25℃・相対湿度60%におけるReおよびRthを、Re(60)およびRth(60)し、特に断らない場合には、ReおよびRthは、この値をさす。
【0267】
(3)ReおよびRthの湿度変動値の測定
前記測定で用いたサンプルフィルムを25℃・相対湿度10%で24時間以上調湿した後、25℃・相対湿度10%中で前記と同様にしてReおよびRthを測定する(Re(10)、Rth(10)とする)。
これと同じサンプルフィルムを用い、25℃・相対湿度80%で24時間以上調湿した後、25℃・相対湿度80%中で前記と同様にしてReおよびRthを測定する(Re(80)、Rth(80)とする)。ReおよびRthの湿度変動値は下式に表れ、それぞれ25℃・相対湿度10%と25℃・相対湿度80%の測定値の絶対差である。
Re湿度変動値(nm)=|Re(10)−Re(80)|
Rth湿度変動値(nm)=|Rth(10)−Rth(80)|
【0268】
(4)セルロースアシレートフィルムの平衡含水率
セルロースアシレートフィルムの吸水率は一定温湿度における平衡含水率を測定することにより評価することができる。平衡含水率は一定温湿度に24時間放置した後、平衡に達した試料の水分量をカールフィッシャー法で測定し、水分量(g)を試料重量(g)で除して算出したものである。
セルロースアシレートフィルムの25℃・相対湿度80%における平衡含水率は3質量%以下が好ましく、2.5質量%以下がさらに好ましく、2質量%以下が最も好ましい。
【0269】
(5)Re、Rthのバラツキおよび軸ズレの測定
前述膜幅方向および長手方向(膜流れ方向)にサンプリングした15箇所のサンプルを25℃・相対湿度60%の環境で24時間以上調湿後、自動複屈折計(KOBRA-21ADH/PR:王子計測器(株)製)を用いて、膜面内および流れ方向のRe、Rth、配向遅相軸を測定した。測定した各サンプルの遅相軸測定値の絶対値を取り、その最大値と最小値の差を軸ズレとした。また、幅方向および長手方向のReとRthのバラツキは、それぞれ方向の最大値と最小値の差である。
【0270】
(6)光弾性係数
(ア)1cm幅×10cm長のサンプルを、サンプルの長手方向がMD方向とTD方向になるように2種類切り出す。
(イ)これをエリプソ測定装置(日本分光製 M−150)にセットし、長手方向(10cm長)に沿って100g、200g、300g、400g、500gの荷重を掛けながら、順次25℃・相対湿度60%において632.8nmの光でReを測定する。
(ウ)横軸に応力(荷重をフィルム断面積で割った値(kgf/cm2))、縦軸にRe変化(nm)をプロットし、この傾きから光弾性(cm2/kgf)を求める。
(エ)2種類のサンプルの測定値を平均して光弾性(cm2/kgf)とする。
【0271】
(7)Tg測定と延伸温度との設定
溶液製膜後のフィルムを10mgサンプリングし、DSCの測定パンに入れる。これを窒素気流中で、10℃/分で30℃から250℃まで昇温した後(first−run)、30℃まで−20℃/分で冷却する。この後、再度30℃から250℃まで、10℃/分で昇温する(second−run)。Tgはsecond−runのDSC曲線からで求めた。ベースラインが低温側から偏奇し始める温度を指す。これを基づいて、Tg+10〜40℃の範囲で延伸温度を設定した。実施例においては、係る値を表1に記載した。
【0272】
(8)延伸前フィルムの残存溶媒量
延伸する前フィルムの残存溶媒量は下記式で求めた。
残存溶媒量(質量%)=(A−B)/B×100
(ここで、Aは延伸前時点でサンプリングしたフィルムの質量、BはAにおいて測定したフィルムを120℃で3時間乾燥させた時の質量である。)
【0273】
(9)実装評価
VA型液晶セルを使用した22インチの液晶表示装置(シャープ(株)製)に設けられている観察者側の偏光板を剥がし、代わりに本発明に作製したセルロースアシレートフィルムが液晶セル側となるように粘着剤を介して、観察者側に貼り付けた。観察者側の偏光板の透過軸とバックライト側の偏光板との透過軸が直交するように配置して、液晶表示装置を作製した。湿度変動に伴う視認性と黒表示する時の光漏れ等について実装評価した。
このようにして視認性と光漏れを目視で観察し、3段階で評価して、表2に記載した。「○」が商品として許容されるレベルであり、「△」は用途が限定されるレベルであり、「×」は商品としては好ましくないレベルである。
【実施例】
【0274】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0275】
[実施例1]
(セルロースアシレート溶液の調製)
下記組成物をミキシングタンクに投入し、撹拌して各成分を溶解し、セルロースアシレート溶液Aを調製した。
【0276】
<セルロースアシレート溶液A組成>
・アシル置換度2.7、ブチリル化度1.7、アセチル化度1.0のセルロースアシレート
100.0質量部
・トリフェニルフォスフェート 2.0質量部
・ビフェニルフォスフェート 1.0質量部
・UV剤a:2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン
0.5質量部
・UV剤b:2(2’−ヒドロキシ−3’,5‘−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール 0.2質量部
・UV剤c:2(2’−ヒドロキシ−3’,5‘−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール 0.1質量部
・メチレンクロライド(第1溶媒) 340.0質量部
・エタノール(第2溶媒) 30.0質量部
・ブタノール(第3溶媒) 12.0質量部
【0277】
(マット剤溶液の調製)
下記組成物を分散機に投入し、撹拌して各成分を溶解し、マット剤溶液を調製した。
【0278】
<マット剤溶液組成>
・平均粒子サイズ16nmのシリカ粒子 2.0質量部
(AEROSIL R972、日本アエロジル(株)製)
・メチレンクロライド(第1溶媒) 77.5質量部
・エタノール(第2溶媒) 10.5質量部
・セルロースアシレート溶液A 10.0質量部
【0279】
(レターデーション上昇剤溶液の調製)
下記組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら撹拌して、各成分を溶解し、レターデーション上昇剤溶液を調製した。
【0280】
<レターデーション上昇剤溶液組成>
・レターデーション上昇剤(上述の例示化合物(A−1)) 20質量部
・メチレンクロライド(第1溶媒) 60質量部
【0281】
(セルロースアシレートフィルムNo.1の作製)
前記セルロースアシレート溶液Aを100質量部、マット剤溶液を1.5質量部、および、レターデーション上昇剤溶液1.77質量部を、それぞれ濾過後に混合し、バンド流延機を用いて流延した。残留溶剤含量35質量%でフィルムをバンドから剥離し、生乾きのドープ膜(ウェブ)の両端をピンテンターでクリップした。その後、ピンテンターで保持されたセルロースアシレートフィルムを乾燥ゾーンに搬送した。初めの乾燥は45℃の乾燥風を送風し、さらに120℃、30分乾燥後、セルロースアシレートフィルムを製造した。できあがったセルロースアシレートフィルムの残留溶剤量は0.2質量%であり、膜厚は95μmであった。
【0282】
次に、135℃(Tg+15℃)の温度範囲で100%/秒の速度でMD(固定)0%延伸、100%/秒の速度でTD45%延伸を行った。このような延伸は、縦延伸の後横延伸を行う逐次延伸、縦横同時に延伸する同時2軸延伸から選択し、各々の設定延伸倍率で行った。延伸後、延伸後の幅のまま140℃で30秒間保持した。その後テンションを掛かった状態冷却し、セルローストリアシレートフィルムを得た。得られたフィルムは両端を3cmトリミングした後、両端から2〜10mmの部分に高さ100μmのナーリングを付与し、1000mロール状に巻き取った。延伸後の膜厚が68μmであった。
【0283】
(セルロースアシレートフィルムNo.2〜16の作製)
セルロースアシレートの種類およびレターデーション上昇剤の種類、添加量、延伸倍率、延伸前フィルムの残存溶媒量を下記表1の内容に変更した以外は同様にしてセルロースアシレートフィルムNo.2〜No.16を作製した。
【0284】
表1に示すNo.1〜No.12の本発明のセルロースアシレートフィルムは全て透明性が良好であり、白濁がなく、レターデーション上昇剤の泣き出し現象が無く、面状が優れていた。
また、本発明No.1〜No.4において、レターデーション上昇剤の添加量をさらに増やしていくと、18質量%の添加量で得られたフィルムは白濁し、フィルムの表面にレターデーション上昇剤の泣き出し現象があった。よって、本発明におけるレターデーション上昇剤の最適添加量が15質量%以下であることが好ましいことがわかった。
【0285】
また、実施例1のNo.1フィルムにおいて、可塑剤の総添加量を0質量%〜15質量%の範囲に振ったところ、同様に良好な効果が得られた。
【0286】
【表1】

*表1中の比較化合物(特許文献2:特開2003−344655号公報に記載の化合物)の構造式を以下に示す。
【化17】

【0287】
<セルロースアセテートフィルムの物性測定>
上述で得られた表1に記載の各セルロースアセテートフィルムについて、上述に記載する物性測定方法に基き、面内レターデーション値(Re)および厚み方向レターデーション値(Rth)、ReおよびRth湿度変動値、幅方向および長手方向のReとRthのバラツキ、軸ズレ、平衡含水率等を測定し、実装評価を行った。結果を表2に示す。
【0288】
得られたこれらの測定結果を総合判断し、3段階の基準で評価して表2に記載した。「○」は商品として好ましいレベルであり、「△」は用途が限定されるレベルであり、「×」は商品としては好ましくないレベルである。
【0289】
【表2】

【0290】
表1と表2との結果から分かるように、レターデーション上昇剤を含有しないフィルムNo.13は本発明のNo.1〜No.12のフィルムと比べ、光学特性(Re,Rth)の発現性が明らかに低かった。
【0291】
従来のセルロースアセテート(No.14のフィルム)と低置換度セルロースアシレート(No.15のフィルム)は、湿度変動に伴うReおよびRthの変動が大きいため、これらの光学フィルムを用いた偏光板を液晶表示装置に組み込んだ時、視認性の変化や光漏れ等の問題があった。
【0292】
また、円盤状の上昇剤(前記比較化合物)を含有するNo.16のフィルムは、ある程度のReおよびRthを発現できるが、同じ添加量の本発明におけるレターデーション上昇剤を用いて作製したNo.1フィルムと比べ、複屈折率やReおよびRthの発現性が不十分であり、特にVA液晶セルに要求される高いRe値を満たすのは困難であることが分かった。
【0293】
また、本発明のドライ延伸以外の製造方法で作製したNo.12のフィルムに比べて、本発明のドライ延伸法で作製したNo.1〜No.11のフィルムは、大面積の液晶表示装置に使用する際の性能が優れていた。よって、本発明にしたがって残留溶媒量が1質量%以下の状態でドライ延伸することが効果的であることが確認された。もっとも、No.12のフィルムは、小サイズの液晶表示装置に使用すれば黒表示における不均一と光漏れの問題は観察されない。
【0294】
よって、本発明に、高置換度のセルロースアシレートフィルムに本発明におけるレターデーション上昇剤を添加することにより、湿度変動に伴うReおよびRthの変動を低減し、軸ズレが少なく、高いReとRth発現領域の光学特性を有するセルロースアシレート光学フィルムの作製が可能になった。このため、偏光板保護フィルムや位相差補償フィルムとして使用し、性能に優れた位相差偏光板を見出すに至った。
また、実施例1のNo.1〜No.12フィルムの光弾性を測定したところ、全てのフィルムが下記式を満たしていた。
1×10-7≦光弾性(cm2/kgf)≦20×10-7
【0295】
[実施例2]
(偏光板の作製)
(1)セルロースアシレートフィルムの鹸化
未延伸、延伸セルロースアシレートフィルムを下記のいずれかの方法で鹸化を行った。
(i)塗布鹸化
iso−プロパノール80質量部に水20質量部を加え、これにKOHを2.5mol/Lとなるように溶解し、これを60℃に調温したものを鹸化液として用いた。これを60℃のセルロースアシレートフィルム上に10g/m2塗布し、1分間鹸化した。この後、50℃の温水スプレーを用い、10L/m2・分で1分間吹きかけ洗浄した。
【0296】
(ii)浸漬鹸化
NaOHの3.0mol/L水溶液を鹸化液として用いた。
これを60℃に調温し、セルロースアシレートフィルムを2分間浸漬した。
この後、0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、水洗浴を通した。
【0297】
(2)偏光膜の作製
特開平2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸し、厚み20μmの偏光膜を調製した。
【0298】
(3)貼り合わせ
このようにして得た偏光膜と、前記鹸化処理した未延伸、延伸セルロースアシレートフィルムおよび鹸化処理したフジタック(未延伸トリアセテートフィルム)を、PVA((株)クラレ製、PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、偏光軸とセルロースアシレートフィルムの長手方向が45°となるように下記組み合わせで張り合わせた。
(i)偏光板Aタイプ:延伸セルロースアシレートNo.1〜No.16のフィルム/偏光膜/未延伸セルロースアシレートNO.7のフィルム
(ii)偏光板Bタイプ:延伸セルロースアシレートNo.1〜No.16のフィルム/偏光膜/フジタック
なお、未延伸セルロースアシレートは同じ水準の延伸前のフィルムを使用した。
【0299】
[実施例3]
(光学補償フィルム・液晶表示素子の作製)
VA型液晶セルを使用した22インチの液晶表示装置(シャープ(株)製)に設けられている観察者側の偏光板を剥がし、代わりに実施例2で前記位相差偏光板Aタイプ及び偏光板Bタイプを、セルロースアシレートフィルムが液晶セル側となるように粘着剤を介して、観察者側に貼り付けた。観察者側の偏光板の透過軸とバックライト側の偏光板の透過軸が直交するように配置して、液晶表示装置を作製した。湿度変動に伴う視認性と黒表示する時の光漏れ等を評価した。
本発明の偏光板はコントラストおよび視認性の使用環境湿度依存性が小さく変化が小さく好ましいことがわかった。
【0300】
前記表2に示すように本発明のセルロースアシレートフィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の光学補償フィルムの支持体として特に有利に用いることができる。VA型液晶表示装置に用いる光学補償フィルムのRe値を0〜150nmとし、Rth値を70〜400nmとすることが好ましい。Re値は、20〜70nmであることがさらに好ましい。VA型液晶表示装置に二枚の光学的異方性ポリマーフィルムを使用する場合、フィルムのRth値は70〜250nmであることが好ましい。VA型液晶表示装置に一枚の光学的異方性ポリマーフィルムを使用する場合、フィルムのRth値は150〜400nmであることが好ましい。VA型液晶表示装置は、例えば特開平10−123576号公報に記載されているような配向分割された方式であっても構わない。
【0301】
さらに、特開平11−316378号公報の実施例1の液晶層を塗布したセルロースアセテートフィルムの代わりに、本発明の延伸セルロースアシレートNo.1〜No.11のフィルムを使用しても、良好な光学補償フィルムを作製できた。
特開平7−333433号公報の実施例1の液晶層を塗布したセルロースアセテートフィルムに代わって、本発明の延伸セルロースアシレートNo.11〜No.11のフィルムに変更し光学補償フィルターフィルムを作製しても、良好な光学補償フィルムを作製できた。
【0302】
さらに本発明の偏光板、位相差偏光板を、特開平10−48420号公報の実施例1に記載の液晶表示装置、特開平9−26572号公報の実施例1に記載のディスコティック液晶分子を含む光学的異方性層、ポリビニルアルコールを塗布した配向膜、特開2000−154261号公報の図2〜9に記載の20インチVA型液晶表示装置、特開2000−154261号公報の図10〜15に記載の20インチOCB型液晶表示装置、特開2004−12731号公報の図11に記載のIPS型液晶表示装置に用いたところ、湿熱に伴う表示むら無い良好な視認性を有する液晶表示素子が得られた。
【0303】
[実施例4]
(低反射フィルムの作製)
本発明のセルロースアシレートフィルムを発明協会公開技報(公技番号2001−1745)の実施例47に従い本発明の延伸セルロースアシレートNo.1〜No.11フィルムを用いて低反射フィルムを作製したところ、良好な光学性能が得られた。
さらに本発明のセルロースアシレートを用いた低反射フィルムを、特開平10−48420号公報の実施例1に記載の液晶表示装置、特開2000−154261号公報の図2〜9に記載の20インチVA型液晶表示装置、特開2000−154261号公報の図10〜15に記載の20インチOCB型液晶表示装置、特開2004−12731号公報の図11に記載のIPS型液晶表示装置の最表層に貼り評価を行ったところ、良好な液晶表示素子を得た。
【産業上の利用可能性】
【0304】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、光学フィルム、特に偏光板保護フィルム用、液晶表示装置の光学補償フィルム(位相差フィルムともいう)、反射型液晶表示装置の光学補償フィルム、ハロゲン化銀写真感光材料用支持体として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数2〜6のアシレート基を2種類以上有し且つ下記式(A)〜(C)を満足するセルロースアシレートと、少なくとも1種の下記一般式(1)で表される化合物とを含有する、溶液流延によって形成されたセルロースアシレートフィルム。
式(A): 2.4≦X+Y<3.0
式(B): 0≦X≦1.8
式(C): 0.8≦Y<3
(式中、Xはアセチル基の置換度を表し、Yはプロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基およびヘキサノイル基の置換度の総和を表す。)
一般式(1)
【化1】

(式中、Ar1およびAr2はそれぞれ独立にアリール基または芳香族ヘテロ環を表す。L1およびL2はそれぞれ独立に−C(=O)O−、または−C(=O)NR−を表す。Rは水素原子またはアルキル基を表す。Xは下記一般式(2)または一般式(3)を表す。)
一般式(2)
【化2】


(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
一般式(3)
【化3】

(式中、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17およびR18はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
【請求項2】
上記一般式(1)で表される化合物が下記一般式(1−4)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルム。
一般式(1−4)
【化4】


(式中、R22、R25、R26、R27、R28、R29、R30はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。R31は炭素数1〜12のアルキル基を表す。R32は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。R33は炭素数1〜4のアルキル基を表す。L1およびL2はそれぞれ独立に−C(=O)O−、または−C(=O)NR−を表す。Xは前記一般式(2)または一般式(3)を表す。)
【請求項3】
前記一般式(1−4)で表される化合物を、前記セルロースアシレートに対し、0.1質量%〜15質量%含有することを特徴とする請求項2に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項4】
波長590nmにおける面内のレターデーション(Re)と厚み方向のレターデーション(Rth)とが、下記式(D)〜(F)を満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(D):0≦Re≦300
式(E):10≦Rth≦500
式(F):1≦Rth/Re≦10
【請求項5】
25℃・相対湿度10%の面内のレターデーション(Re)と25℃・相対湿度80%の面内のレターデーション(Re)との差が15nm以下であり、且つ、25℃・相対湿度10%の厚み方向のレターデーション(Rth)と25℃・相対湿度80%の厚み方向のレターデーション(Rth)との差が25nm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項6】
25℃・相対湿度80%における平衡含水率が3質量%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項7】
面内のレターデーション(Re)の幅方向と長手方向の変動と厚み方向のレターデーション(Rth)の幅方向と長手方向の変動がいずれも5nm以下であり、且つ、配向遅相軸の幅方向と長手方向の変動が1°以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法であって、前記セルロースアシレートを含有するドープを流延支持体上に流延し、前記流延支持体から剥離したドープ膜を乾燥して残留溶媒量を1質量%以下にした後、得られた膜をドライ延伸することを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記ドライ延伸において、残留溶媒量を1質量%以下にした前記膜を少なくとも1軸に1%〜200%の延伸倍率で延伸することを特徴とする請求項8に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2006−169305(P2006−169305A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−360741(P2004−360741)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】