説明

センサ付車輪用軸受

【課題】 車両にコンパクトに荷重検出用のセンサを設置できて、車輪にかかる荷重を感度良く検出でき、量産時のコストが安価となるセンサ付車輪用軸受を提供する。
【解決手段】 外方部材1と内方部材2の間に複列の転動体3を介在させ、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、前記外方部材1および内方部材2のうちの固定側部材にセンサユニット21を取付ける。例えば、固定側部材が外方部材1とする。センサユニット21は、センサ取付部材22およびこのセンサ取付部材22に取付けた少なくとも1つ以上の歪みセンサ23からなる。センサ取付部材22は、外方部材1に固定するための2箇所の接触固定部22a,22bを有する。第1の接触固定部22aは車体の懸架装置16に固定する。第2の接触固定部22bは、外方部材1の周面に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車輪の軸受部にかかる荷重を検出する荷重センサを内蔵したセンサ付車輪用軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の安全走行のために、各車輪の回転速度を検出するセンサを車輪用軸受に設けたものがある。従来の一般的な自動車の走行安全性確保対策は、各部の車輪の回転速度を検出することで行われているが、車輪の回転速度だけでは十分でなく、その他のセンサ信号を用いてさらに安全面の制御が可能なことが求められている。
【0003】
そこで、車両走行時に各車輪に作用する荷重から姿勢制御を図ることも考えられる。例えばコーナリングにおいては外側車輪に大きな荷重がかかり、また左右傾斜面走行では片側車輪に、ブレーキングにおいては前輪にそれぞれ荷重が片寄るなど、各車輪にかかる荷重は均等ではない。また、積載荷重不均等の場合にも各車輪にかかる荷重は不均等になる。このため、車輪にかかる荷重を随時検出できれば、その検出結果に基づき、事前にサスペンション等を制御することで、車両走行時の姿勢制御(コーナリング時のローリング防止、ブレーキング時の前輪沈み込み防止、積載荷重不均等による沈み込み防止等)を行うことが可能となる。しかし、車輪に作用する荷重を検出するセンサの適切な設置場所がなく、荷重検出による姿勢制御の実現が難しい。
【0004】
また、今後ステアバイワイヤが導入されて、車軸とステアリングが機械的に結合しないシステムになってくると、車軸方向荷重を検出して運転手が握るハンドルに路面情報を伝達することが求められる。
【0005】
このような要請に応えるものとして、車輪用軸受の外輪に歪みゲージを貼り付け、歪みを検出するようにした車輪用軸受が提案されている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特表2003−530565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車輪用軸受の外輪は、転走面を有し、強度が求められる部品であって、塑性加工や、旋削加工、熱処理、研削加工などの複雑な工程を経て生産される軸受部品であるため、特許文献1のように外輪に歪みゲージを貼り付けるのでは、生産性が悪く、量産時のコストが高くなるという問題点がある。
【0007】
この発明の目的は、車両にコンパクトに荷重検出用のセンサを設置できて、車輪にかかる荷重等を検出でき、量産時のコストが安価となるセンサ付車輪用軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明のセンサ付車輪用軸受は、複列の転走面が内周に形成された外方部材と、この外方部材の転走面と対向する転走面を形成した内方部材と、両転走面間に介在した複列の転動体とを備え、懸架装置に取付けられて車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、センサ取付部材およびこのセンサ取付部材に取付けた少なくとも1つ以上の歪みセンサからなるセンサユニットを、前記外方部材および内方部材のうちの固定側部材に取付け、前記センサ取付部材は、固定側部材に固定するための2箇所の接触固定部を有し、前記接触固定部のうち第1の接触固定部は、車体の懸架装置に固定されるものであり、第2の接触固定部は、前記固定側部材の周面に固定されるものであることを特徴とする。
【0009】
車両走行に伴い回転側部材に荷重が加わると、転動体を介して固定側部材が変形し、その変形はセンサユニットに歪みをもたらす。センサユニットに設けられた歪みセンサは、センサユニットの歪みを検出する。歪みと荷重の関係を予め実験やシミュレーションで求めておけば、歪みセンサの出力から車輪にかかる荷重や車両のステアモーメントを検出することができる。また、この検出した荷重やステアモーメントを自動車の車両制御に使用することが出来る。ステアモーメントは、車両が曲線進路を走行する際に車両用軸受にかかるモーメントである。
センサユニットは、センサ取付部材の2箇所の接触固定部を車体の懸架装置および固定側部材の周面にそれぞれ固定して固定側部材に固定されるため、前記車輪にかかる荷重や車両のステアモーメントの他に、固定側部材と懸架装置の固定状態を検出することができる。固定状態が不良で、固定側部材と懸架装置間に緩みがある場合、センサ取付部材の歪みが大きく現れる。
この車輪用軸受は、センサ取付部材およびこのセンサ取付部材に取付けた少なくとも1つ以上の歪みセンサからなるセンサユニットを固定側部材に取付ける構成としたため、荷重検出用のセンサを車両にコンパクトかつ容易に設置できる。センサ取付部材は固定側部材および懸架装置に固定して取付けられる簡易な部品であるため、これに歪みセンサを取付けることで、量産性に優れたものとでき、コスト低下が図れる。
【0010】
この発明において、前記センサユニットを、前記固定側部材の上部または下部または上下両方に配置することができる。この場合、歪みセンサの出力より、車両にかかる荷重を算出することができる。
【0011】
また、この発明において、前記センサユニットを、前記固定側部材の車両進行方向における前部または後部または前後両方に配置してもよい。この場合、歪みセンサの出力より、車両のステアモーメントを算出することができる。
【0012】
前記センサ取付部材の第2の接触固定部は、前記固定側部材の周方向において、前記第1の接触固定部とは同位相の周方向位置となる前記固定側部材の周面に固定するのが良い。
第1および第2の接触固定部を周方向において同位相とすると、センサ取付部材の長さを短くでき、センサユニットの設置が容易となる。
【0013】
前記固定側部材を外方部材とすることができる。その場合、センサユニットを外方部材に取付ける。
【0014】
前記歪みセンサの出力によって、車輪用軸受に作用する外力、またはタイヤと路面間の作用力を推定する作用力推定手段を設けると良い。
作用力推定手段によって得られる車輪用軸受に作用する外力、またはタイヤと路面間の作用力を自動車の車両制御に使用することにより、きめ細かな車両制御が可能となる。
【0015】
前記固定側部材に作用する外力、または前記タイヤと路面間に作用する作用力として、想定される最大の力が印加された状態においても、前記センサユニットは塑性変形しないものとするのが良い。上記想定される最大の力は、車両故障につながらない走行において想定される最大の力である。
センサユニットに塑性変形が生じると、固定側部材の変形がセンサユニットのセンサ取付部材に正確に伝わらず、歪みの測定に影響を及ぼすからである。
【0016】
前記センサ取付部材はプレス加工品とすることができる。センサ取付部材をプレス加工により製作すると、加工が容易であり、コストダウンが可能になる。
【0017】
前記センサ取付部材は金属粉末射出成形による焼結金属としても良い。
センサ取付部材を金属粉末射出成形により製作すると、寸法精度の良いセンサ取付部材が得られる。
【0018】
前記センサ取付部材と前記固定側部材との固定は、ボルトおよび接着剤のいずれかを用いて行なうか、または両方を併用して行なうか、または溶接を用いて行なうことができる。
上記いずれかの方法でセンサ取付部材と固定側部材とを固定すると、センサ取付部材を固定側部材に強固に固定することができる。そのため、センサ取付部材が固定側部材に対して位置ずれすることがなく、固定側部材の変形をセンサ取付部材に正確に伝えることが可能になる。
【0019】
前記センサ取付部材に温度センサを設けても良い。
車輪用軸受は使用中に温度が変化するため、その温度変化がセンサ取付部材の歪み、または歪みセンサの動作に影響を及ぼす。また、周囲の環境温度の変化に対しても同様の影響を及ぼす。温度センサの出力により歪みセンサの温度特性を補正することで、精度の高い荷重検出を行なうことが可能となる。
【0020】
前記センサ取付部材に加速度センサおよび振動センサのうち少なくとも一つを設けても良い。
センサ取付部材に、歪みセンサの他に加速度センサ、振動センサ等の各種センサを取付けると、荷重と車輪用軸受の状態を1箇所で測定することができ、配線等を簡略なものとすることができる。
【0021】
前記歪みセンサは、前記センサ取付部材の表面に絶縁層を印刷および焼成によって形成し、前記絶縁層の上に電極および歪み測定用抵抗体を印刷および焼成によって形成したものとしても良い。
上記のように歪みセンサを形成すると、歪みセンサをセンサ取付部材に対して接着により固定する場合のように、経年変化による接着強度の低下がないため、センサユニットの信頼性を向上させることができる。また、加工が容易であるため、コストダウンを図れる。
【0022】
前記センサユニットの近傍に、前記歪みセンサの出力信号を処理するセンサ信号処理回路を有するセンサ信号処理回路ユニットを設けても良い。
センサユニットの近傍にセンサ信号処理回路ユニットを設けると、センサユニットからセンサ信号処理回路ユニットへの配線の手間が簡略化できる。また、車輪用軸受以外の場所にセンサ信号処理回路ユニットを設ける場合よりも、センサ信号処理回路ユニットをコンパクトに設置できる。
【発明の効果】
【0023】
この発明のセンサ付車輪用軸受は、複列の転走面が内周に形成された外方部材と、この外方部材の転走面と対向する転走面を形成した内方部材と、両転走面間に介在した複列の転動体とを備え、懸架装置に取付けられて車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、センサ取付部材およびこのセンサ取付部材に取付けた少なくとも1つ以上の歪みセンサからなるセンサユニットを、前記外方部材および内方部材のうちの固定側部材に取付け、前記センサ取付部材は、固定側部材に固定するための2箇所の接触固定部を有し、前記接触固定部のうち第1の接触固定部は、車体の懸架装置に固定されるものであり、第2の接触固定部は、前記固定側部材の周面に固定されるものであるため、車両にコンパクトに荷重検出用のセンサを設置でき、かつ車輪にかかる荷重や車両のステアモーメント、および固定側部材と懸架装置の固定状態を検出できる。センサ取付部材は固定側部材に取付けられる簡易な部品であるため、これに歪みセンサを取付けることで、量産性に優れたものとでき、コスト低下が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
この発明の実施形態を図1ないし図3と共に説明する。この実施形態は、第3世代型の内輪回転タイプで、駆動輪支持用の車輪用軸受に適用したものである。なお、この明細書において、車両に取付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0025】
このセンサ付車輪用軸受は、内周に複列の転走面3を形成した外方部材1と、これら各転走面3に対向する転走面4を形成した内方部材2と、これら外方部材1および内方部材2の転走面3,4間に介在した複列の転動体5とで構成される。この車輪用軸受は、複列のアンギュラ玉軸受型とされていて、転動体5はボールからなり、各列毎に保持器6で保持されている。上記転走面3,4は断面円弧状であり、各転走面3,4は接触角が外向きとなるように形成されている。外方部材1と内方部材2との間の軸受空間の両端は、密封装置7,8によりそれぞれ密封されている。
【0026】
外方部材1は固定側部材となるものであって、全体が一体の部品とされている。外方部材1は、車体懸架装置のナックル16に取付けるためのフランジ1aを外周部に有し、そのフランジ1aの周方向複数箇所(この実施形態では4箇所)に、内周に雌ねじが切られた車体取付孔14が設けられている。一方、ナックル16における前記車体取付孔14と対応する位置には、段付きのナックルボルト孔17が設けられている。ナックルボルト孔17側から挿入したナックルボルト18を車体取付孔14に螺着することで、外方部材1とナックル16(懸架装置)とが互いに固定一体化される。
【0027】
内方部材2は回転側部材となるものであって、車輪取付用のハブフランジ9aを有するハブ輪9と、このハブ輪9の軸部9bのインボード側端の外周に嵌合した内輪10とでなる。これらハブ輪9および内輪10に、前記各列の転走面4が形成されている。ハブ輪9のインボード側端の外周には段差を持って小径となる内輪嵌合面12が設けられ、この内輪嵌合面12に内輪10が嵌合している。ハブ輪9の中心には貫通孔11が設けられている。ハブフランジ9aには、周方向複数箇所にハブボルト19の圧入孔15が設けられている。ハブ輪9のハブフランジ9aの根元部付近には、ホイールおよび制動部品(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部13がアウトボード側に突出している。
【0028】
外方部材1の外周部には、図3に示すセンサユニット21が設けられている。センサユニット21は、センサ取付部材22に、このセンサ取付部材22の歪みを測定する歪みセンサ23を取付けたものである。センサ取付部材22は、前記ナックル16に接触させて固定する第1の接触固定部22aと、外方部材1の外周面に接触させて固定する第2の接触固定部22bとを有している。歪みセンサ23は、センサ取付部材22の中間部に配置され、接着剤等により取付けられている。
【0029】
上記センサユニット21は、図1および図2に示すように、外方部材1の上部に配置され、センサ取付部材22の第1および第2の接触固定部22a,22bにより、両接触固定部22a,22bが外方部材1の周方向において同位相の位置となるように、ナックル16および外方部材1の外周面に接着剤等で固定して取付けられる。第1および第2の接触固定部22a,22bの位置を周方向において同位相とすると、センサ取付部材22の長さを短くすることができるため、センサユニット21の設置が容易である。センサユニット21を取付ける外方部材1の軸方向位置は、外方部材1のアウトボード側端の近傍、例えばアウトボード側列の転走面3よりもアウトボード側の位置とされる。センサ取付部材22は、この外方部材1への固定により塑性変形を起こさない形状や材質とされている。
【0030】
また、センサ取付部材22は、車輪用軸受に予想される最大の荷重が印加された場合でも、塑性変形を起こさない形状とする必要がある。上記想定される最大の力は、車両故障につながらない走行において想定される最大の力である。センサ取付部材22に塑性変形が生じると、外方部材1の変形がセンサ取付部材22に正確に伝わらず、歪みの測定に影響を及ぼすためである。
【0031】
センサユニット21のセンサ取付部材22は、例えばプレス加工により製作することができる。センサ取付部材22をプレス加工品とすると、コストダウンが可能になる。
また、センサ取付部材22は、金属粉末射出成形による焼結金属品としてもよい。金属粉末射出成形は、金属、金属間化合物等の成形技術の一つであり、金属粉末をバインダーと混練する工程、この混練物を用いて射出成形する工程、成形体の脱脂処理を行なう工程、成形体の焼結を行なう工程を含む。この金属粉末射出成形によれば、一般の粉末冶金に比べて焼結密度の高い焼結体が得られ、焼結金属品を高い寸法精度で製作することができ、また機械的強度も高いという利点がある。
【0032】
歪みセンサ23としては、種々のものを使用することができる。例えば、歪みセンサ23が金属箔ストレインゲージで構成されている場合、この金属箔ストレインゲージの耐久性を考慮すると、車輪用軸受に予想される最大の荷重が印加された場合でも、センサ取付部材22における歪みセンサ23取付部分の歪み量が1500マイクロストレイン以下であることが好ましい。同様の理由から、歪みセンサ23が半導体ストレインゲージで構成されている場合は、同歪み量が1000マイクロストレイン以下であることが好ましい。また、歪みセンサ23が圧膜式センサで構成されている場合は、同歪み量が1500マイクロストレイン以下であることが好ましい。
【0033】
図1に示すように、歪みセンサ23の出力を処理する手段として、作用力推定手段31および異常判定手段32が設けられている。これらの手段31,32は、この車輪用軸受の外方部材1等に取付けられた回路基板等に電子回路装置(図示せず)に設けられたものであっても、また自動車の電気制御ユニット(ECU)に設けられたものであっても良い。
【0034】
上記構成のセンサ付車輪用軸受の作用を説明する。ハブ輪9に荷重が印加されると、転動体5を介して外方部材1が変形し、その変形は外方部材1およびナックル16に固定されたセンサ取付部材22に伝わり、センサ取付部材22が変形する。そのセンサ取付部材22の歪みを歪みセンサ23により測定する。センサ取付部材22は外方部材1と比べて脆弱であり、その脆弱なセンサ取付部材22の歪みを歪みセンサ23が測定するため、外方部材1の歪みよりも大きな歪みが得られ、感度良く外方部材1の歪みを検出することができる。
【0035】
荷重の方向や大きさによって歪みの変化が異なるため、予め歪みと荷重の関係を実験やシミュレーションにて求めておけば、車輪用軸受に作用する外力、またはタイヤと路面間の作用力を算出することができる。前記作用力推定手段31は、このように実験やシミュレーションにより予め求めて設定しておいた歪みと荷重の関係から、歪みセンサ23の出力により、車輪用軸受に作用する外力、またはタイヤと路面間の作用力を算出する。前記異常判定手段32は、作用力推定手段31により算出された車輪用軸受に作用する外力、またはタイヤと路面間の作用力が、許容値を超えたと判断される場合に、外部に異常信号を出力する。この異常信号を、自動車の車両制御に使用することができる。また、リアルタイムで車輪用軸受に作用する外力、またはタイヤと路面間の作用力を出力すると、よりきめ細かな車両制御が可能となる。
【0036】
この実施形態のセンサユニット21は、センサ取付部材22に歪みセンサ23を1個だけ取付けた構成としているが、センサ取付部材22に歪みセンサ23を複数個取付けた構成としても良い。センサ取付部材22に歪みセンサ23を複数個取付けると、より一層精度の高い荷重の検出が可能となる。
【0037】
また、この実施形態は、センサユニット21を外方部材1の上部1箇所だけに配置した構成としているが、図4に示すように、センサユニット21を外方部材1の上部および下部の複数箇所に配置した構成としても良い。センサユニット21を複数箇所に配置すると、より一層精度の高い荷重の検出が可能となる。場合によっては、外方部材1の下部1箇所にだけセンサユニット21を配置した構成としてもよい。
【0038】
図5および図6は異なる実施形態を示す。この車輪用軸受は、センサ取付部材22と外方部材1との固定をボルトを用いて行なうものである。図6に示すように、このセンサ取付部材22は、全体形状は図3に示すセンサ取付部材22と同じであり、第1の接触固定部22aに軸方向のボルト挿通孔40が形成され、かつ第2の接触固定部22bに径方向のボルト挿通孔41が形成されている。ナックル16および外方部材1の周面には、前記ボルト挿通孔40,41に対応する位置に、内周面に雌ねじが形成されたボルト螺着孔42,43がそれぞれ形成されている。図5に示すように、センサユニット21は、センサ取付部材22のボルト挿通孔40,41に外周側からボルト44を挿通し(正確にはボルト挿通孔40についてはアウトボード側からボルト44を挿通する)、そのボルト44の雄ねじ部44aをボルト螺着孔42,43に螺着させることにより、ナックル16および外方部材1に固定される。
【0039】
ナックル16および外方部材1に対するセンサ取付部材22の固定については、接着剤およびボルトのいずれを用いても良い。また、両者を併用してもよい。さらには、接着剤やボルトを用いず、溶接でセンサ取付部材22と外方部材1とを固定しても良い。
これらの固定構造のいずれを採用した場合でも、センサ取付部材22と外方部材1とを強固に固定することができる。そのため、センサ取付部材22が外方部材1に対して位置ずれすることがなく、外方部材1の変形をセンサ取付部材22に正確に伝えることが可能になる。
【0040】
図7はセンサユニットの異なる実施形態を示す。このセンサユニット21は、歪みセンサ23とは別に温度センサ24が設けられている。なお、センサ取付部材22の形状は図3に示すものと同じであり、歪みセンサ23および温度センサ24はいずれも、センサ取付部材22の中央部に配置されている。温度センサ24としては、例えば白金測温抵抗または熱電対またはサーミスタを使用することができる。さらに、これら以外の温度を検出することが可能なセンサを使用することもできる。
【0041】
このセンサユニット21を設けた車軸用軸受も、歪みセンサ23がセンサ取付部材22の歪みを検出し、その歪みにより車輪に加わる荷重を測定する。ところで、車輪用軸受は使用中に温度が変化し、その温度変化がセンサ取付部材22の歪み、または歪みセンサ23の動作に影響を及ぼす。そこで、センサ取付部材22に配置した温度センサ24にてセンサ取付部材22の温度を検出し、その検出した温度により歪みセンサ23の出力を補正することにより、歪みセンサ23の温度による影響を除去することができる。これにより、精度の高い荷重検出を行なうことが可能となる。
【0042】
図8はセンサユニットのさらに異なる実施形態を示す。このセンサユニット21は、歪みセンサ23とは別に各種センサ25が設けられている。各種センサ25は、加速度センサおよび振動センサのうちの少なくとも一つとする。なお、センサ取付部材22の形状は図3に示すものと同じであり、歪みセンサ23および各種センサ25はいずれも、センサ取付部材22の中央部に配置されている。
このように、センサ取付部材22に歪みセンサ23および各種センサ25を取付けると、荷重と車輪用軸受の状態を1箇所で測定することができ、配線等を簡略なものとすることができる。
【0043】
図9は前記各実施形態とは異なる方法で歪みセンサを形成したセンサユニットの構造を示す。このセンサユニット21は、センサ取付部材22の上に絶縁層50が形成され、この絶縁層50の表面の両側に対を成す電極51,52が形成され、これら電極51,52の間で前記絶縁層50の上に歪みセンサとなる歪み測定用抵抗体53が形成され、さらに電極51,52と歪み測定用抵抗体53の上に保護膜54を形成された構造となっている。
【0044】
このセンサユニット21の製造方法を次に示す。まず、ステンレス鋼等の金属材料で形成されたセンサ取付部材22の表面にガラス等の絶縁材料を印刷、焼成して絶縁層50を形成する。次に、絶縁層50の表面に、導電性材料を印刷、焼成して電極51,52を形成する。さらに、電極51と電極52との間に、抵抗体となる材料を印刷、焼成して歪み測定用抵抗体53を形成する。さらに、これら電極51,52および歪み測定用抵抗体53を保護するために、保護膜54を形成する。
【0045】
通常、歪みセンサはセンサ取付部材22に対して接着による固定が行なわれるが、この固定構造は、経年変化による接着強度の低下が歪みセンサの検出に影響を及ぼす可能性があり、またコストアップの原因ともなっている。これに対し、この実施形態のように、センサ取付部材22の表面に絶縁層50を印刷および焼成により形成し、この絶縁層50の上に電極51,52および歪みセンサとなる歪み測定用抵抗体53を印刷および焼成により形成したセンサユニット21とすると、信頼性の向上とコストダウンを図ることが可能となる。
【0046】
図10ないし図12はさらに異なる実施形態を示す。この車輪用軸受は、センサユニット21に設けられた歪みセンサや前述の各センサ(温度センサ、加速度センサ、振動センサ)の出力を処理するためのセンサ信号処理回路ユニット60を組み込んだものである。このセンサ信号処理回路ユニット60は外方部材1の外周面に取付けられている。
【0047】
センサ信号処理回路ユニット60は、樹脂等で製作されたハウジング61内に、ガラスエポキシ等で製作された回路基板62を有し、その回路基板62上には、前記歪みセンサ23の出力信号を処理するオペアンプ、抵抗、マイコン等や歪みセンサ23を駆動する電源用の電気・電子部品63が配置されている。また、歪みセンサ23の配線と回路基板62とを接合する接合部64を有している。また、外部からの電源供給や外部へセンサ信号処理回路によって処理された出力信号を出力するケーブル65を有している。センサユニット21に前述の各センサ(温度センサ、加速度センサ、振動センサ)が設けられている場合、センサ信号処理回路ユニット60にはそれぞれのセンサに対応した回路基板62、電気・電子部品63、接合部64、ケーブル65等が設けられる。
【0048】
一般的には、車輪用軸受に設けられた各センサの出力を処理するセンサ信号処理回路ユニットは自動車の電気制御ユニット(ECU)に設けられるが、この実施形態のように、車輪用軸受におけるセンサユニット21の近傍にセンサ信号処理回路ユニット60を設けることで、センサユニット21からセンサ信号処理回路ユニット60への配線の手間が簡略化でき、また車輪用軸受以外の場所にセンサ信号処理回路ユニット60を設ける場合よりも、センサ信号処理回路ユニット60をコンパクトに設置できる。
【0049】
図13および図14は、上記各実施形態とはセンサユニット21の配置箇所が異なる実施形態を示す。上記各実施形態が、外方部材1の上部または下部または上下両方のセンサユニット21が配置されているのに対し、この実施形態は、外方部材1の車両進行方向における前部にセンサユニット21が配置されている。また、図13に示すように、歪みセンサ23の出力を処理する手段として、上記実施形態における作用力推定手段31の代わりに、モーメント推定手段33が設けられている。これ以外は図1ないし図3の実施形態と同じ構成であるため、同一構成箇所には同一符号を付して表示し、その説明を省略する。
【0050】
この実施形態の場合も、ハブ輪9に荷重が印加されると、転動体5を介して外方部材1が変形し、その変形は外方部材1およびナックル16に固定されたセンサ取付部材22に伝わり、センサ取付部材22が変形する。そのセンサ取付部材22の歪みを歪みセンサ23により測定する。センサ取付部材22は外方部材1と比べて脆弱であり、その脆弱なセンサ取付部材22の歪みを歪みセンサ23が測定するため、外方部材1の歪みよりも大きな歪みが得られ、感度良く外方部材1の歪みを検出することができる。
【0051】
荷重の方向や大きさによって歪みの変化が異なるため、予め歪みと荷重の関係を実験やシミュレーションにて求めておけば、車輪用軸受に作用するステアモーメントを算出することができる。ステアモーメントは、車両が曲線進路を走行する際に車両用軸受にかかるモーメントである。前記モーメント推定手段33は、このように実験やシミュレーションにより予め求めて設定しておいた歪みと荷重の関係から、歪みセンサ23の出力により、車輪用軸受に作用するステアモーメントを算出する。これをもとに異常判定手段32は、車輪用軸受に作用するステアモーメントが許容値を超えたと判断される場合に、外部に異常信号を出力する。この異常信号を、自動車の車両制御に使用することができる。また、リアルタイムで車輪用軸受に作用するステアモーメントを出力すると、よりきめ細かな車両制御が可能となる。
【0052】
この実施形態は、外方部材1の車両進行方向における前部1箇所だけにセンサユニット21を配置した構成としているが、図15に示すように、外方部材1の前部および後部の複数箇所にセンサユニット21を配置した構成としても良い。このようにセンサユニット21を複数箇所に配置すると、より一層精度の高いステアモーメントの検出が可能となる。場合によっては、外方部材1の後部1箇所だけにセンサユニット21を配置した構成としてもよい。
【0053】
なお、前記各実施形態では、外方部材1が固定側部材である場合につき説明したが、この発明は、内方部材が固定側部材である車輪用軸受にも適用することができ、その場合、センサユニット21は内方部材の内周となる周間に設ける。
また、前記各実施形態では第3世代型の車輪用軸受に適用した場合につき説明したが、この発明は、軸受部分とハブとが互いに独立した部品となる第1または第2世代型の車輪用軸受や、内方部材の一部が等速ジョイントの外輪で構成される第4世代型の車輪用軸受にも適用することができる。また、このセンサ付車輪用軸受は、従動輪用の車輪用軸受にも適用でき、さらに各世代形式のテーパころタイプの車輪用軸受にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】この発明の実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の断面図とその検出系の概念構成のブロック図とを組み合わせて示す図である。
【図2】同センサ付車輪用軸受の外方部材とセンサユニットとを示す正面図である。
【図3】(A)は同センサユニットの正面図、(B)はその側面図である。
【図4】異なるセンサ付車輪用軸受の外方部材とセンサユニットとを示す正面図である。
【図5】この発明の異なる実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の断面図である。
【図6】(A)は同センサ付車輪用軸受のセンサユニットの平面図、(B)はそのVIB−VIB断面図である。
【図7】(A)は異なるセンサユニットの平面図、(B)はその側面図である。
【図8】(A)さらに異なるセンサユニットの平面図、(B)はその側面図である。
【図9】さらに異なるセンサユニットの断面構造を示す図である。
【図10】この発明のさらに異なる実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の断面図である。
【図11】同センサ付車輪用軸受の外方部材とセンサユニットとを示す正面図である。
【図12】センサ信号処理回路ユニットの平面図である。
【図13】この発明のさらに異なる実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の断面図とその検出系の概念構成のブロック図とを組み合わせて示す図である。
【図14】同センサ付車輪用軸受の外方部材とセンサユニットを示す正面図である。
【図15】(A)は同センサユニットの平面図、(B)はその側面図である。
【符号の説明】
【0055】
1…外方部材(固定側部材)
2…内方部材(回転側部材)
3,4…転走面
5…転動体
7,8…密封装置
16…ナックル(懸架装置)
18…ナックルボルト
21…センサユニット
22…センサ取付部材
22a…第1の接触固定部
22b…第2の接触固定部
23…歪みセンサ
24…温度センサ
25…各種センサ
31…作用力推定手段
32…異常判定手段
33…モーメント推定手段
50…絶縁層
51,52…電極
53…歪み測定用抵抗体
54…保護膜
60…センサ信号処理回路ユニット
61…ハウジング
62…回路基板
63…電気・電子部品
64…接合部
65…ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複列の転走面が内周に形成された外方部材と、この外方部材の転走面と対向する転走面を形成した内方部材と、両転走面間に介在した複列の転動体とを備え、懸架装置に取付けられて車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、
センサ取付部材およびこのセンサ取付部材に取付けた少なくとも1つ以上の歪みセンサからなるセンサユニットを、前記外方部材および内方部材のうちの固定側部材に取付け、前記センサ取付部材は、固定側部材に固定するための2箇所の接触固定部を有し、前記接触固定部のうち第1の接触固定部は、車体の懸架装置に固定されるものであり、第2の接触固定部は、前記固定側部材の周面に固定されるものであることを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項2】
請求項1において、前記センサユニットを、前記固定側部材の上部または下部または上下両方に配置したセンサ付車輪用軸受。
【請求項3】
請求項1において、前記センサユニットを、前記固定側部材の車両進行方向における前部または後部または前後両方に配置したセンサ付車輪用軸受。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記センサ取付部材の第2の接触固定部は、前記固定側部材の周方向において、前記第1の接触固定部とは同位相の周方向位置となる前記固定側部材の周面に固定されるセンサ付車輪用軸受。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記固定側部材が外方部材であるセンサ付車輪用軸受。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記歪みセンサの出力によって、車輪用軸受に作用する外力、またはタイヤと路面間の作用力を推定する作用力推定手段を設けたセンサ付車輪用軸受。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記固定側部材に作用する外力、または前記タイヤと路面間に作用する作用力として、想定される最大の力が印加された状態においても、前記センサユニットのセンサ取付部材は塑性変形しないものとしたセンサ付車輪用軸受。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記センサ取付部材がプレス加工品であるセンサ付車輪用軸受。
【請求項9】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記センサ取付部材が金属射出成形による焼結金属であるセンサ付車輪用軸受。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記センサ取付部材と前記懸架装置との固定を、ボルトおよび接着剤のいずれかを用いて行なうか、または両方を併用して行なうか、または溶接を用いて行なうセンサ付車輪用軸受。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、前記センサ取付部材に温度センサを設けたセンサ付車輪用軸受。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項において、前記センサ取付部材に加速度センサおよび振動センサのうち少なくとも一つを設けたセンサ付車輪用軸受。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれか1項において、前記歪みセンサは、前記センサ取付部材の表面に絶縁層を印刷および焼成によって形成し、前記絶縁層の上に電極および歪み測定用抵抗体を印刷および焼成によって形成したものであるセンサ付車輪用軸受。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のいずれか1項において、前記センサユニットの近傍に、前記歪みセンサの出力信号を処理するセンサ信号処理回路を有するセンサ信号処理回路ユニットを設けたセンサ付車輪用軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−292157(P2007−292157A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−119093(P2006−119093)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】