説明

タンク及びタンクの製造方法

【課題】工数を増加させることなく、タンクを構成する繊維強化樹脂層のボイドを低減することができるとともに、繊維含有率を高められて強度を向上させることができるタンク及びタンクの製造方法を提供する。
【解決手段】タンク1は、略円筒状の貯蔵部2と、貯蔵部2の両端にそれぞれ設けられた口金部3とを有する形状に形成されている。そして、貯蔵部2は、最も内側に位置するとともにガスバリア性を有するライナ4と、ライナ4の外面を被覆する繊維強化樹脂層5と、繊維強化樹脂層5の外面5aを被覆する熱収縮チューブ6とからなる。繊維強化樹脂層5は、複数層の繊維束層の樹脂を硬化して構成されている。熱収縮チューブ6は、繊維強化樹脂層5の外表面に沿った形状に形成されるとともに、その熱収縮温度が繊維束層に含浸されている樹脂の硬化温度より低く、かつ、樹脂のプリキュア温度の範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタンク及びタンクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンクとしては、例えば、ガスバリア性を有するライナを耐圧性の繊維強化プラスチック(以下、繊維強化プラスチックをFRPと記載する)製の外殻で覆うことで構成し、圧縮天然ガス(CNG)、液化天然ガス(LNG)等を収容するタンクが知られている。このようなタンクには、樹脂が含浸されている強化繊維をフィラメントワインディング法によってマンドレルに代えてライナに巻き付けた後、含浸された樹脂を硬化させる処理が行われてFRPからなる外殻が構成されている。
【0003】
そして、従来、中空形状で、外殻がFRPからなる圧力容器としては、マンドレルの上に積層された強化繊維の層の樹脂含有率を増加させて強化繊維の層のボイドを低減した圧力容器が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1に記載された圧力容器を製造する際には、樹脂が含浸された強化繊維を準備し、強化繊維をフィラメントワインディング法によって分割タイプのマンドレルに巻き付けた後、強化繊維に含浸されている樹脂と同質樹脂からなるフィルム樹脂を強化繊維の上に貼り付ける作業を行う。その後、フィルム樹脂上に強化繊維を巻き付ける作業と強化繊維の上にフィルム樹脂を貼り付ける作業とを交互に繰り返し、強化繊維からなる各層間にフィルム樹脂を介装させた後、硬化処理を行うことで特許文献1に記載された圧力容器が成形される。したがって、特許文献1に記載された圧力容器においては、フィルム樹脂を介装させる分だけ樹脂含有率を増加させて、繊維強化樹脂層に存在するボイドを低減することができる。
【特許文献1】特開平7−88817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1に記載された圧力容器は、繊維強化樹脂層の各層間にフィルム樹脂を介装させるために、強化繊維を巻き付ける作業とフィルム樹脂を貼り付ける作業とを複数回交互に行わなければ製造することができない。したがって、特許文献1に記載された圧力容器を製造する場合、工数が増加する。また、樹脂含有率を増加させると、樹脂含有率の増加に反比例して繊維含有率は低下するため、特許文献1に記載の圧力容器では、製造された圧力容器の繊維含有率が低くなり、圧力容器の強度が低下するという問題も発生する。
【0005】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、工数を増加させることなく、タンクを構成する繊維強化樹脂層のボイドを低減することができるとともに、繊維含有率が高められて強度を向上させることができるタンク及びタンクの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、複数層の樹脂含浸繊維束層で中子を被覆した状態で、前記樹脂含浸繊維束層の外面を熱収縮チューブによって覆い、前記熱収縮チューブを熱収縮させ、前記樹脂含浸繊維束層中の気体を前記樹脂含浸繊維束層から押し出した後に、前記樹脂含浸繊維束層に含浸されている樹脂を所定の硬化度まで硬化させる工程を含むことを要旨とする。
【0007】
ここで、「複数層の樹脂含浸繊維束層」とは、見かけ上1層であっても、繊維束を複数積層して構成された層をも含む。「中子」とは、中空形状の成形体を製造する際に用いられる部材を意味し、成形体の一部を構成するものと成形体の製造後に除去されるものとがある。例えば、ライナを中子として使用する場合には、ライナが成形された成形体の内部に成形体の一部としてそのまま残される。また、「所定の硬化度」とは、製品に要求される強度以上になる硬化度を意味する。
【0008】
この発明によれば、熱収縮チューブを熱収縮させることによって、樹脂含浸繊維束層の外面から熱収縮チューブの熱収縮力により樹脂含浸繊維束層に圧力を加え、樹脂含浸繊維束層内部に存在している気体(例えば空気)を樹脂含浸繊維束層の外部に押し出す。そして、その後、樹脂を硬化させることで、ボイドの少ない繊維強化樹脂層を備えたタンクを製造することができる。
【0009】
また、例えば、樹脂をプリキュアする工程と熱収縮チューブを熱収縮させる工程とを同時に行うことで、製造時の工数が増加することを回避できる。したがって、製造時の工数増加を抑制したうえで、樹脂含浸繊維束層内部に存在している気体を押し出してボイドの少ない繊維強化樹脂層を備えたタンクを製造することができる。
【0010】
また、樹脂含浸繊維束層に存在した気体が樹脂含浸繊維束層外に押し出されるため、成形後における繊維強化樹脂層の繊維含有率が高くなる。したがって、強度の高い繊維強化樹脂層を備えたタンクを製造することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記樹脂含浸繊維束層に含浸されている樹脂は、熱硬化性樹脂であることを要旨とする。
この発明によれば、樹脂含浸繊維束層に含浸されている樹脂が熱可塑性樹脂の場合に比べて、強度及び耐熱性に優れたタンクを製造することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記熱収縮チューブの熱収縮温度は前記樹脂含浸繊維束層に含浸されている樹脂の硬化温度より低く、前記熱収縮チューブを前記樹脂の硬化温度より低い温度で熱収縮させることを要旨とする。
【0013】
この発明によれば、熱収縮チューブが熱収縮する前に樹脂が硬化するという事態が生じることを確実に回避することができる。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記熱収縮チューブを、最外層として形成することを要旨とする。
【0014】
この発明によれば、樹脂含浸繊維束層が複数層であっても、最外層に熱収縮チューブを配置して熱収縮チューブの熱収縮が行われるため、全ての樹脂含浸繊維束層中の気体を追い出すことができる。また、繊維強化樹脂層の外表面が熱収縮チューブによって保護されたタンクを製造して、タンクの耐候性を向上させることができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の発明において、予め樹脂が含浸された繊維若しくは予め樹脂が含浸されたシート状の繊維製品を前記中子に巻き付けて、前記中子を被覆することを要旨とする。
【0016】
RTM(レジントランスファーモールディング)法のように加圧状態で樹脂の含浸を行う場合に比べて、常圧の状態で樹脂が含浸された繊維を中子に巻き付けた後、その状態で樹脂を硬化させると、樹脂含浸繊維束層内部の気体を低減することは難しい。しかし、この発明によれば、常圧の状態で樹脂が含浸された繊維を中子に巻き付ける場合でも、繊維強化樹脂層に存在するボイドを低減することができる。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記予め樹脂が含浸された繊維にトウプリプレグを用い、前記トウプリプレグによって前記中子を被覆することを要旨とする。
【0018】
ここで、「トウプリプレグ(プリプレグヤーン)」とは、繊維束に樹脂を含浸し、半硬化状態としたものを意味する。
トウプリプレグは、樹脂が半硬化状態のため、積層されたトウプリプレグ間には樹脂が未硬化の場合より空隙(ボイド)が生じ易い。したがって、トウプリプレグによって中子を被覆した後、樹脂を硬化させることでタンクを製造する場合には、繊維強化樹脂層に存在するボイドを低減することが難しい。しかし、この発明によれば、熱収縮チューブによって圧力を加えることで、積層されたトウプリプレグ間の空隙を低減することができるため、トウプリプレグを用いて繊維強化樹脂層を製造する場合においても、ボイドの少ない繊維強化樹脂層を備えたタンクを製造することができる。
【0019】
また、例えば、液状の樹脂を貯留している樹脂槽に浸すことで樹脂が含浸された繊維を中子に巻き付ける場合、繊維の巻き付け速度を速める程、繊維に含浸された樹脂が飛散する虞が高くなるため、繊維の巻き付け速度は樹脂が飛散しない程度に制限される。しかし、この発明では、トウプリプレグを中子に巻き付ける方法を採用するため、巻き付け速度を従来の巻き付け速度より速くしても、樹脂が飛散するという不具合が生じることはない。したがって、中子に対するトウプリプレグの巻き付け速度を速くして繊維強化樹脂層を備えたタンクをより早く製造することが可能となる。
【0020】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の発明において、前記中子を被覆している前記樹脂含浸繊維束層の外面全体を前記熱収縮チューブによって被覆することを要旨とする。
【0021】
この発明では、熱収縮チューブによって樹脂含浸繊維束層全体に圧力を加えた後に、樹脂を硬化させることで成形するため、樹脂含浸繊維束層全体の気体を低減することができる。また、樹脂含浸繊維束層の繊維含有率をその全体において高めることができる。
【0022】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の発明において、前記熱収縮チューブには、複数の通気孔が設けられていることを要旨とする。
この発明では、熱収縮チューブを熱収縮させて樹脂含浸繊維束層内部に存在している気体を樹脂含浸繊維束層外に押し出す際、樹脂含浸繊維束層の外面に達した気体は通気孔を介して熱収縮チューブの外側に排出させることができる。したがって、円滑に気体を外部へ排出させて、タンクを構成する繊維強化樹脂層のボイドをより低減することができる。
【0023】
請求項9に記載の発明は、筒状の貯蔵部が複数層の樹脂含浸繊維束層の樹脂を硬化して構成された繊維強化樹脂層を備え、前記繊維強化樹脂層の外面を熱収縮チューブで被覆されたことを要旨とする。
【0024】
この発明によれば、ボイドが少なく、強度が高い繊維強化樹脂層を有するタンクを従来に比べて工数を増加させることなく製造することが可能になる。
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の発明において、前記熱収縮チューブは、前記複数層の樹脂含浸繊維束層の最外層を被覆するように構成されていることを要旨とする。
【0025】
この発明によれば、樹脂含浸繊維束層の最外層に熱収縮チューブを配置した状態で製造が行われるため、全ての樹脂含浸繊維束層の気体を追い出すことが可能になる。また、熱収縮チューブによって繊維強化樹脂層の外表面が保護されているため、繊維強化樹脂層が外部環境に影響を受けることは抑制され、タンクの耐候性を向上させることができる。
【0026】
請求項11に記載の発明は、請求項9又は請求項10に記載の発明において、前記熱収縮チューブは、前記樹脂含浸繊維束層の外面全体を被覆していることを要旨とする。
この発明によれば、製造時に熱収縮チューブによって繊維強化樹脂層全体に圧力を加えた状態で繊維強化樹脂層の樹脂を硬化させるため、繊維強化樹脂層全体のボイドを低減することができる。また、繊維強化樹脂層の繊維含有率をその全体において高めることができる。
【0027】
請求項12に記載の発明は、請求項9〜請求項11のいずれか一項に記載の発明において、前記熱収縮チューブには、複数の通気孔が設けられていることを要旨とする。
この発明によれば、製造時に熱収縮チューブが熱収縮して樹脂含浸繊維束層が押圧されると、樹脂含浸繊維束層内に存在していた気体が熱収縮チューブに設けられた通気孔を介して外部へ円滑に排出され、繊維強化樹脂層に存在するボイドをより低減することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、工数を増加させることなく、タンクを構成する繊維強化樹脂層のボイドを低減することができるとともに、繊維含有率を高められて強度を向上させることができるタンク及びタンクの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を具体化した実施形態を図1〜図3に従って説明する。
図1に示すように、タンク1は、略円筒状の貯蔵部2と、貯蔵部2の両端にそれぞれ設けられた口金部3とを有するように形成されている。そして、貯蔵部2は、最も内側に位置するとともにガスバリア性を有するライナ4と、ライナ4の外面を被覆する繊維強化樹脂層5と、繊維強化樹脂層5の外面5aを被覆する熱収縮チューブ6とからなる層構造に構成されている。
【0030】
ライナ4は、タンク1を水素貯蔵タンクとして使用する場合、例えばアルミニウム合金を材質にして形成される。ライナ4は、両端にドーム部7を有する円筒状の胴部8と、ドーム部7の中心に設けられた口金部3とから構成されている。口金部3には、配管のプラグ等を螺合するためのネジ孔9が形成されるとともに、ネジ孔9によって胴部8の内側が外部と連通されている。
【0031】
ドーム部7及び胴部8には、その外面全体を被覆するように繊維強化樹脂層5が設けられている。繊維強化樹脂層5は、ドーム部7及び胴部8に複数層の樹脂含浸繊維束層が巻き付けられて硬化されることにより形成されている。また、この実施形態では繊維強化樹脂層5を構成する強化繊維には炭素繊維が使用され、樹脂には熱硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂が使用されている。繊維強化樹脂層5は、その厚みが胴部8と対応する箇所においてはほぼ一定であるとともに、ドーム部7と対応する箇所においては口金部3に向うにつれて徐々に厚くなるように形成されている。そして、繊維強化樹脂層5の外面5aは、その全体が熱収縮チューブ6によって被覆されている。即ち、この実施形態では、熱収縮チューブ6はタンク1の最外層に配置されている。
【0032】
熱収縮チューブ6は、繊維強化樹脂層5の外表面に沿った形状に形成されるとともに熱収縮して繊維強化樹脂層5に圧着されている。熱収縮チューブ6には、信越シリコーン製のシリコーンゴム熱収縮チューブが用いられるとともに耐熱温度が樹脂の硬化温度より高いものが用いられている。また、熱収縮チューブ6は、その熱収縮温度が繊維強化樹脂層5を構成する樹脂の硬化温度より低く、かつ、樹脂のプリキュア温度の範囲内であり、例えば、熱収縮温度が80℃以上100℃以下のものが用いられている。熱収縮チューブ6は、その全体に複数の通気孔10が均一に形成された状態で設けられている。なお、以下で記載する「硬化」とは、要求される強度を得ることができる所定の硬化度に達した状態の硬化を意味する。また、以下で記載する「プリキュア」とは、樹脂含浸繊維束層に含浸されている樹脂が圧縮変形可能な状態の硬化度にある硬化を意味する。
【0033】
次に前記のように構成されたタンク1の製造方法を図2のフローチャートに従って説明する。タンク1を製造する際、まず、ライナ準備工程S100では、中子として用いるライナ4を準備して、ライナ4を図示しないフィラメントワインディング(以下、フィラメントワインディングを適宜Fwと記載する。)装置に取り付ける。次に、Fw工程S101では、Fw法によって樹脂が含浸された強化繊維をライナ4の外面に連続的に巻き付ける。強化繊維を巻き付ける際には、フープ巻とヘリカル巻とが併用されて樹脂含浸繊維束層(以下、単に繊維束層と記載する場合もある。)11が形成される。なお、繊維束層11は、図3では一層で図示しているが、実際は、フープ巻き層とヘリカル巻き層とから構成された複数層の構造である。
【0034】
次に、強化繊維が巻き付けられたライナ4をFw装置から取外す。そして、図3に示すように、熱収縮チューブ6による被覆工程S102では、強化繊維が巻き付けられたライナ4が予め準備していた熱収縮チューブ6によって包囲されるように熱収縮チューブ6内にまで移動させる。そして、熱収縮チューブ6によって繊維束層11の外面11a全体を覆うことで、樹脂硬化前のタンク1であるプリフォームを作製する(以下、樹脂硬化前のタンク1をプリフォームと記載する。)。
【0035】
熱収縮チューブ6によって繊維束層11を覆った後は、プリフォームを加熱炉内に入れて、プリキュア工程S103を実施する。プリキュア工程S103では、加熱炉内の温度を樹脂がプリキュアし、かつ、熱収縮チューブ6が熱収縮する温度(例えば、90℃)にまで昇温させる。そして、熱収縮チューブ6が熱収縮した後も樹脂のプリキュアが完了するまで加熱炉内の温度を保持する。熱収縮チューブ6が熱収縮して繊維束層11を被覆するとともに樹脂のプリキュアが完了すると、プリキュア工程S103を終了し、次に、樹脂硬化工程S104では、加熱炉内を樹脂の硬化温度にまで昇温させて、樹脂を硬化させる。なお、樹脂の硬化温度は樹脂の種類により異なるが、例えば、エポキシ樹脂の場合は、100〜130℃である。
【0036】
樹脂硬化工程S104の後、加熱炉内から樹脂硬化後のタンク1を取り出し、冷却と、バリ等の除去が行われた後、口金部3のネジ孔9に、水素充填及び放出用配管を接続するためのプラグ等が螺合されてタンク1が完成する。
【0037】
なお、熱収縮チューブ6による被覆工程S102で準備する熱収縮チューブ6は、プリフォームの外径より大きい内径であるとともに所定の温度(例えば、90℃)でチューブの内径が50%熱収縮するものが用いられている。また、準備した熱収縮チューブ6には、複数の通気孔10が全体に均一に設けられている。熱収縮チューブ6においては、チューブ表面積(通気孔を含む)に対する通気孔面積の割合が0.01〜10%に設定されている。具体的には、例えば、全ての通気孔10は、その直径Dが2mmに形成されるとともに、軸方向において隣り合う各通気孔10間の距離T1及び周方向において隣り合う各通気孔10間の距離T2は、どの箇所においてもそれぞれ50mmで一定に設定されている。
【0038】
ここで、繊維束層11の外面11aを熱収縮チューブ6で被覆せずに樹脂を硬化させる場合、繊維束層11内部にボイドが存在したままの状態で樹脂の硬化が進行するため、製造されたタンク1の繊維強化樹脂層5内にボイドの原因となる気泡(気体)が多く存在する。しかし、この実施形態では、樹脂が硬化する前にプリキュア工程S103において、熱収縮チューブ6が熱収縮して繊維束層11の外面11aを押圧し、繊維束層11内部に存在しているボイドの原因となる気泡(気体)を外部に押し出す。押し出された気泡は、通気孔10を通り外部へ排出され、その後に樹脂硬化工程S104が行われる。したがって、本実施形態のタンク1は、繊維束層11内部の気泡が取り除かれたうえで樹脂硬化工程S104が行われることで製造されているため、例えば、繊維束層11の外面11aを熱収縮チューブ6で被覆せずに製造されたタンクに比べて、タンク1の繊維強化樹脂層5に存在するボイドが約20%低減されていることが実験結果から確認できた。
【0039】
また、熱収縮チューブ6が熱収縮する際、繊維束層11は圧縮されて気泡が押し出されるのに伴って、繊維束層11の繊維含有率が高められた状態で樹脂を硬化させることができる。したがって、熱収縮チューブ6を熱収縮させた後に樹脂を硬化させることで製造されたタンク1は、高い強度を得ることができる。
【0040】
製造されたタンク1は、熱収縮チューブ6によって繊維強化樹脂層5の外表面が保護されているため、小石や砂利がタンク1に当たって衝撃が加えられても繊維強化樹脂層5が傷つくことは抑制される。また、タンク1は、熱収縮チューブ6によって保護されているため、硫酸やガソリン(例えば自動車に適用した場合)などがタンク表面に付着しても、強度低下が抑制される。すなわち、タンク1は、耐候性が高く、過酷な環境下にさらされても外部環境の影響を受けることは抑制され、十分に長時間要求される機能を発揮できる程度の性能を維持できるように図られている。
【0041】
この実施の形態では、以下の効果を得ることができる。
(1)繊維束層11の外面11aは、熱収縮チューブ6によって被覆される。繊維束層11の樹脂が硬化する前に、繊維束層11の外面11aは熱収縮チューブ6が熱収縮することによって押圧され、繊維束層11内部に存在している気泡は、外部に押し出される。したがって、タンク1の繊維強化樹脂層5に存在するボイドを低減することができる。
【0042】
(2)プリキュア工程を行う際、同時に熱収縮チューブ6を熱収縮させる工程を行うようにすることで、プリキュア工程とは別の工程で熱収縮チューブ6を熱収縮させる工程を実施する必要がないため、製造時の工数が増加することを回避できる。
【0043】
(3)繊維束層11の外面11aを被覆する熱収縮チューブ6は、熱収縮する際、繊維束層11を圧縮してボイドの原因となる気泡を繊維束層11から押し出すため、繊維強化樹脂層5における繊維含有率を高めることができ、タンク1の強度を高めることができる。
【0044】
(4)繊維束層11の外面11a全体が熱収縮チューブ6によって被覆される。そして、繊維束層11全体に圧力を加えた状態で、繊維束層11内の気泡を繊維束層11外に押し出した後、樹脂を硬化させることで繊維強化樹脂層5が成形されるため、繊維強化樹脂層5全体のボイドを低減することができる。また、繊維強化樹脂層5の繊維含有率をその全体において高めることができる。
【0045】
(5)熱収縮チューブ6は、タンク1の最外層に設けられている。したがって、熱収縮チューブ6によって繊維強化樹脂層5の外表面を保護して、タンク1の耐候性を向上させることができる。
【0046】
(6)熱収縮チューブ6には、通気孔10が設けられている。そして、タンク1を製造する際に、繊維束層11から押し出された気泡を通気孔10を通して熱収縮チューブ6の外側に円滑に排出することができるため、タンク1の繊維強化樹脂層5のボイドをより低減することができる。
【0047】
(7)熱硬化性樹脂が含浸された強化繊維を用いて繊維束層11を形成した。したがって、熱可塑性樹脂が含浸された強化繊維を用いる場合に比べて繊維強化樹脂層5の強度及び耐熱性を高くすることができるため、強度及び耐熱性に優れたタンク1を製造することができる。
【0048】
(8)熱収縮チューブ6は、プリキュア工程S103において樹脂の硬化温度より低い温度で熱収縮させられる。したがって、繊維束層11に含浸されている樹脂が熱収縮チューブ6の熱収縮前に硬化するという事態が生じることを確実に回避できて、繊維束層11中の気泡を押し出すことができる。
【0049】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 熱収縮チューブ6によって繊維束層11の外面11aの一部分を被覆してもよい。例えば、ドーム部7に存在するボイドはとくに低減する必要がない場合には、ライナ4の胴部8と対応する繊維束層11の部位のみ熱収縮チューブ6によって被覆するように変更してもよい。
【0050】
○ 貯蔵部2を構成する層構造を変更してもよい。例えば、図4に示すように、ライナ4の外面は第1繊維強化樹脂層20が被覆するように構成するとともに、第1繊維強化樹脂層20の外面は第1熱収縮チューブ21が被覆するように構成する。そして、第1熱収縮チューブ21の外面は第2繊維強化樹脂層22が被覆するように構成するとともに、第2繊維強化樹脂層22の外面は第2熱収縮チューブ23が被覆するように構成してもよい。このような構成にする場合、ライナ4の外面に強化繊維を巻き付けて第1繊維束層を形成し、第1繊維束層の外面を第1熱収縮チューブ21によって被覆した後、第1熱収縮チューブ21を熱収縮させて第1繊維束層の気泡を押し出す。その後、第1熱収縮チューブ21の外面に強化繊維を巻き付けて第2繊維束層を形成し、第2繊維束層の外面を第2熱収縮チューブ23によって被覆した後、第2熱収縮チューブ23を熱収縮させて第2繊維束層の気泡を押し出す。このような手順でタンクを製造すれば、繊維束層の厚みが厚く、一層の熱収縮チューブ用いて繊維束層を圧縮させるだけでは気泡を十分に押し出せない場合であっても、2回に分けて気泡を押し出せるため各繊維束層のボイドを十分低減することができる。また、第2繊維強化樹脂層22のボイドを低減する必要がないのであれば、第2熱収縮チューブ23を省略し、第2繊維強化樹脂層22が最外層となるような層構造にしてもよい。
【0051】
○ ライナ4を中子として用いてタンク1の一部として残す代わりに、樹脂を硬化させた後に除去される中子を用いてタンクを製造してもよい。例えば、ライナ4が必要ないタンクの場合には、ライナ4の代わりに除去可能な中子、例えば溶融温度の低い中子を用いて樹脂硬化工程S104まで行う。その後、加熱炉内を中子の溶融温度まで昇温させて中子を溶融させれば、中子をタンク1の一部として残さなくとも筒状の貯留部を有するタンクを製造することができる。なお、この場合に用いられる中子は、タンク1から取り除く際に、タンク1を劣化させない程度の温度で溶かすことができる中子である。
【0052】
○ 強化繊維に含浸させる樹脂の種類を変更してもよい。例えば、エポキシ樹脂の代わりに、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させてもよい。
【0053】
○ 予めチューブ状に成形された熱収縮チューブを用いる代わりに、シート状の熱収縮フィルムの両端を接着させてチューブ状に形成し熱収縮チューブとして用いてもよい。
○ 熱収縮チューブ6を熱収縮させるための加熱温度を変更してもよい。例えば、樹脂が硬化しないように加熱温度を調整しつつ、樹脂の硬化温度より高い温度で熱収縮チューブ6を加熱して、熱収縮チューブ6を熱収縮させてもよい。
【0054】
○ 複数の通気孔10を熱収縮チューブ6に不均一に設けてもよい。
○ 通気孔10の形状及び通気孔10の直径Dは、タンク1の大きさや、形状に応じて適宜変更してもよい。
【0055】
○ Fw法によって予め樹脂が含浸された強化繊維をライナ4に巻き付ける代わりに、樹脂が含浸されていない強化繊維をライナ4に巻き付けてもよい。そして、成形型内に強化繊維が巻き付けられたライナを配置して、型内において強化繊維に樹脂を含浸させることでライナを被覆する樹脂含浸繊維束を構成し、その後、型内から取り出し、樹脂を硬化させてもよい。
【0056】
○ Fw法によって樹脂が含浸された強化繊維を用いて繊維束層11を構成する代わりに、シート状の繊維製品としてのプリプレグシートで樹脂含浸繊維束層を構成してもよい。
【0057】
○ 液状の樹脂が含浸された強化繊維を用いて繊維束層を構成する代わりに、予め含浸された樹脂を半硬化状態にしたトウプリプレグを用いて繊維束層を構成してもよい。ここで、トウプリプレグを用いて繊維束層を構成する場合、通常、積層されたトウプリプレグ間には空隙が生じ易い。したがって、トウプリプレグを用いて繊維束層を構成する場合、空隙に起因して繊維強化樹脂層にボイドが多く存在し易い。しかし、樹脂の硬化の進行が遅い温度で熱収縮チューブ6を加熱して熱収縮させ、熱収縮チューブ6によって樹脂含浸繊維束層を押圧すれば、トウプリプレグ間の空隙を低減できるため、トウプリプレグを用いてもボイドの少ないタンク1を製造することができる。また、液状の樹脂に浸されることで含浸された繊維を中子に巻き付ける場合、繊維の巻き付け速度を速めるほど樹脂が飛散する虞が高い。これに対して、中子に巻き付ける繊維としてトウプリプレグを用いれば、巻き付け速度を速くしても、樹脂が飛散するという不具合が生じることはないため、中子に対するトウプリプレグの巻き付け速度は制限されることなく、タンク1をより早く製造することができる。
【0058】
○ 繊維束層11を構成する強化繊維の材質は炭素繊維に限らず、タンク1に要求される性能に合わせて、ガラス繊維等の他の無機繊維やポリアラミド繊維等の高強度、高弾性率の有機繊維を使用してもよい。
【0059】
○ 繊維強化樹脂を構成する樹脂は、熱硬化性樹脂でなくともよく、タンクに要求される強度が低い場合、熱可塑性樹脂を使用してもよい。熱可塑性樹脂として、例えば、ポリエチレン樹脂やポリエステル樹脂が使用される。
【0060】
○ 繊維束層11を構成する繊維束は、連続繊維から構成してもよいし、長繊維や短繊維から構成してもよい。
○ 貯蔵部2は、円筒形状に限定されず、強化繊維を巻き付けることができる形状であれば、断面楕円形や断面多角形の筒状であってもよい。また、貯蔵部2を筒状の一種である、中空円錐台形状に構成してもよい。
【0061】
○ タンク1は、水素ガス、圧縮天然ガス、液化天然ガス等を貯蔵する圧力容器として使用してもよい。また、ガソリン燃料や軽油燃料等を貯蔵する燃料タンクとしてタンク1を使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本実施形態におけるタンクの部分破断側面図。
【図2】本実施形態におけるタンクの製造手順を示すフローチャート。
【図3】熱収縮する前の熱収縮チューブにより被覆されたタンクを示す部分破断側面図。
【図4】別の実施形態におけるタンクの部分断面図。
【符号の説明】
【0063】
1…タンク、2…貯蔵部、5…繊維強化樹脂層、5a…外面、6…熱収縮チューブ、10…通気孔、11…樹脂含浸繊維束層、11a…外面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数層の樹脂含浸繊維束層で中子を被覆した状態で、前記樹脂含浸繊維束層の外面を熱収縮チューブによって覆い、前記熱収縮チューブを熱収縮させ、前記樹脂含浸繊維束層中の気体を前記樹脂含浸繊維束層から押し出した後に、前記樹脂含浸繊維束層に含浸されている樹脂を所定の硬化度まで硬化させる工程を含むタンクの製造方法。
【請求項2】
前記樹脂含浸繊維束層に含浸されている樹脂は、熱硬化性樹脂である請求項1に記載のタンクの製造方法。
【請求項3】
前記熱収縮チューブの熱収縮温度は前記樹脂含浸繊維束層に含浸されている樹脂の硬化温度より低く、前記熱収縮チューブを前記樹脂の硬化温度より低い温度で熱収縮させる請求項2に記載のタンクの製造方法。
【請求項4】
前記熱収縮チューブを、最外層として形成する請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のタンクの製造方法。
【請求項5】
予め樹脂が含浸された繊維若しくは予め樹脂が含浸されたシート状の繊維製品を前記中子に巻き付けて、前記中子を前記樹脂含浸繊維束層で被覆する請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のタンクの製造方法。
【請求項6】
前記予め樹脂が含浸された繊維にトウプリプレグを用い、前記トウプリプレグによって前記中子を被覆する請求項5に記載のタンクの製造方法。
【請求項7】
前記中子を被覆している前記樹脂含浸繊維束層の外面全体を前記熱収縮チューブによって被覆する請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載のタンクの製造方法。
【請求項8】
前記熱収縮チューブには、複数の通気孔が設けられている請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載のタンクの製造方法。
【請求項9】
筒状の貯蔵部が複数層の樹脂含浸繊維束層の樹脂を硬化して構成された繊維強化樹脂層を備え、前記繊維強化樹脂層の外面を熱収縮チューブで被覆されたタンク。
【請求項10】
前記熱収縮チューブは、前記複数層の樹脂含浸繊維束層の最外層を被覆するように構成されている請求項9に記載のタンク。
【請求項11】
前記熱収縮チューブは、前記樹脂含浸繊維束層の外面全体を被覆している請求項9又は請求項10にタンク。
【請求項12】
前記熱収縮チューブには、複数の通気孔が設けられている請求項9〜請求項11のいずれか一項に記載のタンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−309219(P2008−309219A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156414(P2007−156414)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】