説明

タングステン製ルツボとその製造方法、およびサファイア単結晶の製造方法

【課題】高温強度、特に底部と側壁部とを連結する角部の高温強度に優れるタングステン製ルツボを提供すること。
【解決手段】純度99.9%以上のタングステンからなり、底部2と側壁部3とが角部4を介して連結された上部開放の有底筒状のタングステン製ルツボ1であって、前記タングステンは、粒径が10μm以上100μm以下のタングステン結晶粒の割合が粒子数の割合で90%以上であるもの。また、焼結工程やHIP焼結により製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タングステン製ルツボとその製造方法、およびサファイア単結晶の製造方法に係り、特に底部と側壁部とを繋ぐ角部の高温強度に優れるタングステン製ルツボとその製造方法、およびこのようなタングステン製ルツボを用いたサファイア単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属蒸発容器、金属酸化物溶解容器、結晶製作用容器等の高温で用いられる製造装置の一構成部品として、底部と側壁部とが角部を介して連結された上部開放の有底筒状のモリブデン製ルツボが用いられている。
【0003】
このようなモリブデン製ルツボは、モリブデン鍛造体を切削加工することにより、あるいはモリブデンからなる板材を絞り加工することにより製造されている。例えば、特開平11−169993号公報(特許文献1)には、モリブデン鍛造体を用いたルツボが開示されているが、鍛造加工は鍛造加工に伴う押圧や引き延ばしにより粒径の大きなタングステン結晶粒が発生しやすく、特に加工量の大きい角部においてこのような現象が顕著となるために高温強度が低下しやすい。
【0004】
また、モリブデンからなる板材を絞り加工する方法については、側壁部の肉厚減少が避けられず、また底部と側壁部とを繋ぐ角部の繊維組織がみだれやすくなるために高温強度に大きなバラツキが発生する。
また、特許第3917208号公報(特許文献2)には、タングステンを1〜5質量%含有したタングステンモリブデン合金からなるルツボが開示されている。しかしながら、モリブデンの結晶粒径が1mm以上と大きいことから寿命に関しては十分とは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−169993号公報
【特許文献2】特許第3917208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように従来のモリブデン製ルツボは加工歪みが生じやすく、特に加工量の大きい角部には残留歪みが発生しやすく、これにより高温で使用した場合にモリブデン結晶粒の再結晶化が加速されて高温強度が低下しやすくなる。さらに、角部を厚くすることで高温強度を確保することも考えられるが、通常は板材を用いるために必ずしも角部についてのみ厚くすることは容易でない。
【0007】
このようにモリブデン製ルツボの高温強度を向上させるために様々な検討が行われているものの、未だ十分な高温強度、特に底部と側壁部とを連結する角部の高温強度に優れるモリブデン製ルツボは得られていない。特に使用環境が2200℃以上の高温になるとモリブデン製ルツボでは耐久性が不十分であった。この原因の一つとして、モリブデンの融点は2620℃であるため使用環境が高温になるとモリブデンが溶け出すことが挙げられる。一方、タングステンは融点が3400℃と高いことから、高温で使用されるルツボにはタングステンが向いていると思われるが、従来のタングステン製ルツボは高温強度が不十分であった。
本発明は上記した課題を解決するためになされたものであって、高温強度、特に底部と側壁部とを連結する角部の高温強度に優れるタングステン製ルツボを提供することを目的としている。また、本発明は、このような高温強度に優れるタングステン製ルツボを容易に製造するための製造方法を提供することを目的としている。さらに、本発明は、このような高温強度に優れるタングステン製ルツボを用いたサファイア単結晶の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のタングステン製ルツボは、純度99.9%以上のタングステンからなり、底部と側壁部とが角部を介して連結された開口部を有する有底筒状のタングステン製ルツボであって、前記タングステンは、平均結晶粒径が50μm以下であることを特徴とするものである。
また、前記タングステン製ルツボは開口部の内径が100mm以上であることが好ましい。また、前記タングステン製ルツボは密度が95%以上であることが好ましい。また、前記側壁部に対する前記角部のタングステン結晶粒の平均粒径の比が0.8以上1.2以下であることが好ましい。また、前記側壁部と前記角部との厚さが異なることが好ましい。また、前記タングステン製ルツボはサファイア単結晶を製造するための原料の融液を入れるものとして用いられることが好ましい。
また、本発明の第一のタングステン製ルツボの製造方法は、底部と側壁部とが角部を介して連結された上部開放の有底筒状のタングステン製ルツボを製造するための製造方法であって、 純度99.9%以上のタングステン粉末を圧力100MPa以上の圧力でルツボ形状にCIPする成形工程と、水素雰囲気中で1300℃以上で焼結する第一の焼結工程と、還元雰囲気中または不活性雰囲気中で2000℃以上で焼結する第二の焼結工程、を有することを特徴とするものである。
また、本発明の第二のタングステン製ルツボの製造方法は、底部と側壁部とが角部を介して連結された上部開放の有底筒状のタングステン製ルツボを製造するための製造方法であって、純度99.9%以上のタングステン粉末をルツボ形状に成形する成形工程と、不活性雰囲気中、圧力100MPa以上、1300℃以上でHIP処理するHIP工程、とを具備することを特徴とするものである。
また、本発明のサファイア単結晶の製造方法は、原料の融液から結晶成長によりサファイア単結晶を製造するサファイア単結晶の製造方法であって、前記原料の融液を入れるルツボとして本発明のタングステン製ルツボを用いることを特徴とするものである。
また、融液の加熱温度が2000℃以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、純度99.9%以上のタングステンからなり、底部と側壁部とが角部を介して連結された上部開放の有底筒状のタングステン製ルツボにおいて、上記タングステンの平均結晶粒径が50μm以下とすることで、高温強度、特に底部と側壁部とを連結する角部の高温強度に優れるタングステン製ルツボとすることができる。
【0010】
また、本発明によれば、底部と側壁部とが角部を介して連結された上部開放の有底筒状のタングステン製ルツボを製造するタングステン製ルツボの製造方法において、第一焼結工程と第二焼結工程を使った第一の製造方法、またはHIP焼結を使った第二の製造方法を用いることで、高温強度、特に底部と側壁部とを繋ぐ角部の高温強度に優れるタングステン製ルツボを容易に製造することができる。
【0011】
さらに、本発明によれば、原料の融液から結晶成長によりサファイア単結晶を製造するサファイア単結晶の製造方法において、この原料の融液を入れるルツボとして本発明のタングステン製ルツボを用いることで、サファイア単結晶の製造に用いられる製造装置の稼働時間を長くすることができ、これによりサファイア単結晶の生産性を向上し、その生産コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のタングステン製ルツボの一例を示す断面図。
【図2】本発明のタングステン製ルツボの変形例を示す断面図。
【図3】本発明のタングステン製ルツボの他の変形例を示す断面図。
【図4】本発明のタングステン製ルツボのさらに他の変形例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について図面を参照して具体的に説明する。
図1は、本発明のタングステン製ルツボの一例を示す断面図である。本発明のタングステン製ルツボ1は純度99.9%以上のタングステンからなるものであって、略板状の底部2と、この底部2の外周部を囲むように所定の高さに設けられる側壁部3と、これら底部2と側壁部3とを連結する角部4とを有し、これらが上部の開放された有底筒状となるように一体に形成されたものである。角部4は、例えば底部2や側壁部3と略同様な厚さとされると共に、弧状に湾曲するものとされており、側壁部3は、角部4から略垂直に立ち上がるものとされている。また、純度は99.99%以上と高純度である程よい。
つまり、タングステン以外の不純物成分は0.1質量%以下、さらには0.01質量%以下と少ないほどよい。代表的な不純物成分は、鉄が0.01wt%(100wtppm)以下、それ以外の金属成分は合計で0.04wt%(400wtppm)以下、酸素は0.01wt%(100wtppm)以下、窒素は0.01wt%(100wtppm)以下が好ましい。不純物成分は少ないほど良いことは言うまでもない。
【0014】
なお、本発明のタングステン製ルツボ1としては、少なくともルツボとしての機能を有するものであれば特にその形状は制限されるものではなく、例えば図2に示すように角部4が底部2や側壁部3よりも厚くされていてもよいし、また例えば図3に示すように角部4が略直角に折れ曲がるものとされていてもよいし、さらに例えば図4に示すように側壁部3が底部2から開口部側に向かって徐々に拡径するものとされていてもよい。
【0015】
本発明のタングステン製ルツボは、平均結晶粒径が50μm以下である。平均粒径を小さくすることにより、異常粒成長したタングステン結晶粒をなくし、高温強度を高めることができる。平均結晶粒径が50μmを超えると、粒成長した大きいタングステン結晶粒があると組織に歪が生じ、高温強度を低下させる要因となる。
また、平均結晶粒径が50μm以下であったとしても、あまり大きなタングステン結晶粒があることは好ましくない。そのため結晶粒径が10μm以上80μm以下のタングステン結晶粒の割合が粒子数の割合で90%以上であることが好ましい。すなわち、タングステン結晶粒の全粒径の粒子数に対する粒径が10μm以上80μm以下の粒子数の割合((粒径が10μm以上80μm以下の粒子数)/(全粒径の粒子数)×100[%])が90%以上となるものである。
【0016】
このように粒径が10μm以上80μm以下のタングステン結晶粒の割合を90%以上とすることで、言い換えれば粒径が10μm未満といった微小なタングステン結晶粒や、粒径が80μmを超えるような過大なタングステン結晶粒を少なくし、全体としての粒径の大幅なバラツキを抑えることで、高温強度、特に底部2と側壁部3とを連結する角部の高温強度に優れるものとすることができる。
【0017】
なお、90%以上含まれる粒径が10μm以上80μm以下のタングステン結晶粒は、必ずしも粒径が10μm以上80μm以下の中から選ばれる単一の粒径から構成されている必要はなく、粒径が10μm以上80μm以下の範囲内であれば異なる粒径のタングステン結晶粒から構成されることができる。
【0018】
また、粒径が10μm以上80μm以下のタングステン結晶粒の割合は、具体的には従来例である鍛造加工により製造した場合に粒径の大きなタングステン結晶粒が発生しやすい角部4における任意の2箇所と、そうでない側壁部3における任意の2箇所との計4箇所の測定箇所について求められる粒径が10μm以上80μm以下のタングステン結晶粒の割合を平均して求められるものである。
【0019】
平均結晶粒径、10μm以上80μm以下結晶粒の割合の測定は線インターセプト法により行う。まず、タングステン製ルツボ1の個々の測定箇所となる断面について500μm×500μmの大きさの拡大写真を撮り、この写真上において任意に直線を引き、この直線が横切るタングステン結晶粒の粒子数を測定すると共に、この直線が横切る個々のタングステン結晶粒の粒径(直線が横切る部分における粒径、すなわちタングステン結晶粒を横切る直線の長さ)を測定する。
【0020】
そして、「500μm/直線500μm上のタングステン結晶粒の個数」により平均値を求める。この作業を任意の3か所以上について行った平均値を平均結晶粒径とする。なお、平均結晶粒径の求め方は、後述するように角部2か所、側壁部2か所の平均値を取ることが最も好ましい。
また、直線500μm以上に測定されたタングステン結晶粒の粒子数と、粒径が10μm以上80μm以下となるタングステン結晶粒の粒子数とから、上記式により個々の測定箇所における粒径が10μm以上80μm以下のタングステン結晶粒の割合を求めることができる。また、このようにして求められた個々の測定箇所(2箇所(角部4)+2箇所(側壁部3)、計4箇所)における粒径が10μm以上80μm以下のタングステン結晶粒の割合をさらに平均することで、最終的な平均値としての粒径が10μm以上80μm以下のタングステン結晶粒の割合を求めることができる。
【0021】
このようなタングステン製ルツボ1は、高温強度、特に底部2と側壁部3とを連結する角部の高温強度に優れていることから、大型のもの、特に開口部の内径が100mm以上、さらには300mm以上となるようなものに好適に用いることができる。
【0022】
タングステン結晶粒の平均粒径は40μm以下であることが好ましい。このような平均粒径であれば、高温強度、特に底部2と側壁部3とを連結する角部の高温強度に優れるものとなりやすい。
【0023】
側壁部3と角部4との厚さは同じであってもよいし異なっていてもよいが、角部4の高温強度を確保する観点から側壁部3に対して角部4が厚くなっていることが好ましく、例えば側壁部3に対する角部4の厚さの比(角部4の厚さ/側壁部3の厚さ)が1.2以上となっていることが好ましい。厚さの比が上記した範囲よりも小さいと角部4の高温強度を向上させる効果が必ずしも十分でなく、また上記した範囲内であれば角部4の高温強度を十分なものとすることができ、これを超えて大きくなるとかえってタングステン製ルツボ1の重量が不必要に増加するおそれがあるために好ましくない。
【0024】
側壁部3、角部4における厚さを測定する部位は必ずしも限定されるものではないが、通常、側壁部3については、例えば図1の波線5で示すような側壁部3の高さ方向の略中間部であることが好ましく、また角部4については、例えば図1の波線6で示すように、角部4の湾曲部分における内面および外面のそれぞれの径方向の略中間部を結ぶ部分であることが好ましい。
【0025】
また、側壁部3に対する角部4のタングステン結晶粒の平均粒径の比(角部4のタングステン結晶粒の平均粒径/側壁部3のタングステン結晶粒の平均粒径)は0.8以上1.2以下であることが好ましい。平均粒径の比が上記した範囲外となる場合、いずれの場合についても側壁部3と角部4との間に平均粒径の大きなバラツキがあることとなり、高温強度に優れないものとなるおそれがある。
【0026】
なお、側壁部3、角部4のタングステン結晶粒の平均粒径は、具体的にはそれぞれ任意の2箇所の測定箇所について求められるタングステン結晶粒の平均粒径をさらに平均して求められるものである。個々の測定箇所におけるタングステン結晶粒の平均粒径は、上記したような線インターセプト法によりタングステン結晶粒の粒子数と個々のタングステン結晶粒の粒径とを測定し、この個々のタングステン結晶粒の粒径の合計をタングステン結晶粒の粒子数で除すことにより求められるものである。
【0027】
側壁部3、角部4におけるタングステン結晶粒の平均粒径の測定箇所は必ずしも限定されるものではないが、例えば側壁部3については、例えば図1の波線5で示すような側壁部3の高さ方向の略中間部であることが好ましい。また、角部4については、例えば図1に示すように角部4が弧状に湾曲するものについては、この弧状に湾曲する部分の範囲内であることが好ましく、また例えば図3に示すように角部4が角状であるものについては、同図に示す底部2の内面の延長面2aと側壁部3の内面の延長面3aとで囲まれる範囲内であることが好ましい。
【0028】
また、タングステン製ルツボ1の密度は95%以上、さらには97%以上100%以下であることが好ましい。密度の求め方は、タングステンの比重19.3g/cmを理論密度とする。次に、アルキメデス法で実測値を求め、(実測値/理論密度)×100%により密度を求める。
密度95%以上の理論密度に近いものとすることで、例えばサファイア単結晶の製造に用いた場合、この原料の融液がタングステン製ルツボ1から染みだすことを抑制することができる。
【0029】
このようなタングステン製ルツボ1は、タングステン粉末を焼結またはHIP(熱間等方圧加圧加工)処理することにより製造されたものであることが好ましく、特に鍛造加工されていないことが好ましい。なお、本発明のタングステン製ルツボ1については、鍛造加工されていないことが好ましいが、例えば焼結またはHIP処理後に形状を整えるための切削加工等が行われていても構わない。
【0030】
また、焼結またはHIP処理によれば、厚さに関して従来の鍛造加工のような製造上の制限が少なく、側壁部3と角部4とで厚さが異なるものを容易に製造することができ、例えば側壁部3に対して角部4を厚くするようにすることで、角部4の高温強度に優れるものとすることができる。
【0031】
さらに、鍛造加工を行う場合、加工時の押圧による引き延ばしなどにより粒径が100μmを超えるような過大なタングステン結晶粒が発生しやすく、特に角部4のような加工量の大きい部分に過大なタングステン結晶粒が発生して高温強度が低下しやすくなるが、HIP処理後に鍛造加工を行わないものとすることで、このような過大なタングステン結晶粒の発生を抑制し、高温強度、特に角部4の高温強度に優れたものとすることができる。
【0032】
また、鍛造加工を行う場合、角部4に残留歪みが発生しやすく、これにより高温での使用時に再結晶化が加速されて高温強度が低下しやすくなるが、焼結またはHIP処理後に鍛造加工を行わないものとすることで角部4における残留歪みの発生を抑制し、これにより再結晶化を抑制して高温強度に優れたものとすることができる。
【0033】
次に、本発明のタングステン製ルツボ1の製造方法について説明する。本発明のタングステン製ルツボの製造方法は特に限定されるものではないが、効率よく得るための製造方法として次の方法が挙げられる。
本発明の第一のタングステン製ルツボの製造方法は、底部と側壁部とが角部を介して連結された上部開放の有底筒状のタングステン製ルツボを製造するための製造方法であって、純度99.9%以上のタングステン粉末を圧力100MPa以上の圧力でルツボ形状にCIPする成形工程と、水素雰囲気中で1300℃以上で焼結する第一の焼結工程と、還元雰囲気中または不活性雰囲気中で2000℃以上で焼結する第二の焼結工程、を有することを特徴とするものである。
【0034】
まず、タングステン粉末は純度99.9%以上、さらには99.95%以上の高純度粉末を用いることが好ましい。また、その酸素含有量は0.1wt%以下が好ましい。
CIP工程は、成形圧力100MPa以上でルツボ形状の成形体を作製するする。CIP成形(静水圧プレス)は、混合粉末をゴム袋などの柔軟な袋に詰めて、水や油などで圧力をかけて成形する方法である。成形圧力は100MPa以上である。成形圧力が100MPa未満であると成形体の密度が不十分となり、焼結体として密度95%以上のものが得難い。成形圧力の上限は特に限定されるものではないが200MPa以下が好ましい。
【0035】
次に、成形体を水素雰囲気中1300℃以上の温度で焼結する第一の焼結工程を行う。焼結温度の上限は後述する第二の焼結工程の温度より低いことが好ましい。また、焼結時間は8時間以上が好ましい。内径が300mm以上と大型のものは焼結時間を1600℃以上×10時間以上が好ましい。
次に、還元雰囲気中または不活性雰囲気中2000℃以上の温度で焼結する第二の焼結工程を行う。還元雰囲気は、水素雰囲気、一酸化炭素雰囲気などが挙げられる。また、不活性雰囲気はアルゴンが好ましい。また、焼結時間は5時間以上が好ましい。また、第二の焼結工程の焼結温度の上限は特に限定されるものではないが2300℃以下が好ましい。あまり、焼結温度が高いと焼結炉の負担が大きくなる。なお、あまり焼結時間が長いと平均結晶粒径が大きくなるので11時間以下が好ましい。
第一の焼結工程および、必要に応じ第二の焼結工程を水素雰囲気(または還元性雰囲気)で行うことにより、密度低下の原因となる焼結体中の酸素を除去できる。
焼結後は、必要に応じ形状を整えるための切削加工等を行うことも可能である。
【0036】
本発明の第二のタングステン製ルツボの製造方法は、底部と側壁部とが角部を介して連結された上部開放の有底筒状のタングステン製ルツボを製造するための製造方法であって、純度99.9%以上のタングステン粉末をルツボ形状に成形する成形工程と、不活性雰囲気中、圧力100MPa以上、1300℃以上でHIP処理するHIP工程、とを具備することを特徴とするものである。
成形方法は必ずしも限定されるものではなく、例えば一軸金型プレスを用いて行ってもよいし、また例えば一軸金型プレスを用いて予備成形した後、ゴム型を用いてCIP(冷間静水圧プレス)を行ってもよい。また、成形圧力は、例えば50MPa以上200MPa以下とすることが好ましい。成形圧力が上記した範囲よりも小さい場合、例えばHIP処理したとしても十分に緻密化させることができず、高温強度が十分でなく、また密度も十分なものとならないおそれがある。また、成形圧力が上記した範囲よりも大きい場合、例えば成形金型の耐久性が低下するおそれがあるため好ましくない。
【0037】
次に、不活性雰囲気中、圧力100MPa以上、1300℃以上でHIP処理するHIP工程を行う。不活性雰囲気は、アルゴン雰囲気が好ましい。また、圧力は100MPa以上である。100MPa未満では密度が低下するおそれがある。圧力の上限は200MPa以下である。
また、HIP温度は1300℃以上である。1300℃未満では密度が低下するおそれがある。HIP温度の上限は2000℃以下である。また、HIP処理時間は5時間以上が好ましい。
HIP処理後、必要に応じ、形状を整えるための切削加工等を行うことも可能である。
【0038】
このような製造方法によれば、上記したような高温強度に優れる本発明のタングステン製ルツボ1を容易に製造することができる。なお、本発明のタングステン製ルツボ1の製造方法については、鍛造加工以外のものについては必ずしも制限されるものではなく、例えばHIP処理後に形状を整えるための切削加工等を行うことも可能である。
【0039】
HIP処理は、タングステン粉末、またはその成形体を高温においても被覆可能な金属製あるいはガラス製容器等に封入脱気し、不活性雰囲気媒体を通じて等方的に加圧しながら加熱焼結する方法で、例えばホットプレスが一軸方向の加圧であるのに対し等方加圧であるためにより均質高密度の焼結体を低温焼結で得ることができる。
また、第一の製造方法において、第二の焼結工程をHIP処理とする方法も効果的であり、例えば成形体を予め理論密度よりも僅かに低い密度となるように予備焼結した後、この予備焼結体をHIP処理することによりタングステン製ルツボ1としてもよい。このように予め予備焼結を行った後、HIP処理することで、より均質高密度なタングステン製ルツボ1を得ることができる。
【0040】
第一の製造方法または第二の製造方法においては最終的に得られるタングステン製ルツボ1における平均結晶粒径が50μm以下、10μm以上80μm以下のタングステン結晶粒の割合が90%以上となるように、好ましくは密度が95%以上、側壁部3に対する角部4の平均粒径の比が0.8以上1.2以下となるように、上記した温度、圧力、処理時間の範囲内において適宜、温度、圧力、処理時間を調整して行うことが好ましい。
【0041】
また、CIP処理を使う第一の製造方法、HIP処理を使う第二の製造方法であれば内径100mm以上、さらには内径300mm以上の大型のルツボを製造することができる。なお、内径の上限は特に限定されるものではないが600mm以下が好ましい。600mmを超えるとHIP処理時に均一な焼結体を調製する工程が煩雑になる。
【0042】
このようにして得られるタングステン製ルツボ1は、金属蒸発容器、金属酸化物溶解容器、結晶製作用容器等の高温下で用いられる製造装置の一構成部品として好適に用いることができ、特に青色LED用のGaN成膜基板等の基板材料として好適に使用されるサファイア単結晶の製造に用いることができる。
【0043】
サファイア単結晶の製造は、例えばルツボ内に原料を入れて溶融し、この融液にサファイア単結晶からなる種結晶を接触させ、これを回転させながら引き上げることで単結晶を成長させるものである。本発明のタングステン製ルツボ1は、このような原料の融液を入れるためのルツボとして好適に用いられる。
【0044】
具体的には、引き上げ装置として、例えば上部が開口する有底筒状の加熱炉と、この加熱炉の上方から挿入されるようにして配置される引き上げ棒とを有するものを用いる。引き上げ棒の下部先端側には種結晶が固定されている。また、タングステン製ルツボ1は、このような引き上げ装置における加熱炉の内側底部に配置される。
【0045】
このような引き上げ装置においては、まずタングステン製ルツボ1内にサファイア単結晶の原料となる酸化アルミニウムを投入し、溶融させて融液を得る。その後、融液が入ったタングステン製ルツボ1に種結晶を固定した引き上げ棒を入れて種付けを行う。その後、引き上げ棒を回転させながら引き上げて、サファイア単結晶である略円柱状の単結晶インゴットを得る。タングステン製ルツボであれば、溶融温度を2000℃以上、さらには2200℃以上と高温にしたとしても優れた耐久性を示す。
【実施例】
【0046】
以下、本発明について実施例を参照して具体的に説明する。
【0047】
(実施例1〜3)
純度99.95%以上のタングステン粉末(平均粒径5μm、不純物酸素0.1wt%)を用いた。
実施例1はCIP処理(圧力110MPa)、第一の熱処理工程(水素雰囲気中、1350℃×8時間)、第二の熱処理工程(アルゴン雰囲気中2010℃×6時間)とした。
実施例2はCIP処理(圧力130MPa)、第一の熱処理工程(水素雰囲気中、1460℃×9時間)、第二の熱処理工程(アルゴン雰囲気中2050℃×7時間)とした。
実施例3はCIP処理(圧力160MPa)、第一の熱処理工程(水素雰囲気中、1660℃×10時間)、第二の熱処理工程(アルゴン雰囲気中2090℃×5時間)とした。
得られたルツボを表面研磨して実施例1〜3に係るタングステン製ルツボとした。
(比較例1)
純度99.90%のモリブデンからなる板材(モリブデン結晶粒の平均粒径10μm、不純物酸素量0.05wt%)に鍛造加工を行うことによりモリブデン製ルツボを製造した。なお、モリブデン製ルツボの全体形状、角部形状、厚さ(角部、側壁部)は表1に示す通りとした。
(比較例2)
純度99.95%以上のタングステン粉末(平均粒径10μm、不純物酸素0.1wt%)を用いて、CIP圧力100MPa、第一の熱処理工程を水素雰囲気中1800℃×20時間、第二の熱処理工程を2300℃×15時間で製造した。
【0048】
なお、各実施例で製造したタングステン製ルツボの全体形状、角部形状、厚さ(角部、側壁部)は表1に示す通りとした。すなわち、実施例1、3のタングステン製ルツボは、図1に示すように角部が側壁部とほぼ同様な厚さであって弧状に湾曲し、側壁部3が角部4から略垂直に立ち上がるものとした。また、実施例2のタングステン製ルツボは、図2に示すように角部が側壁部に比べて極端に厚いものとした。
【0049】
さらに、各タングステン製ルツボ1の全体形状等の調整は、主として成形段階における成形体の全体形状等を調整することにより行った。
【0050】
【表1】

【0051】
次に、得られたルツボの平均結晶粒径、10〜80μmの結晶粒の割合、側壁部と角部の結晶粒径比、不純物酸素量、密度を求めた。なお、各項目の測定は前述の方法を用いて測定した。その結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
本実施例に係るルツボであれば平均結晶粒径が50μm以下、10〜80μmのタングステン結晶の割合が90%以上と粒径が揃っていた。また、焼結工程で水素雰囲気を用いていることから不純物酸素量は0.01wt%未満と小さくなった。
各実施例、比較例に係るルツボを用いて密度の評価を行った。密度の評価は、まずルツボにサファイア融液を入れた状態で2300℃で1000時間と2000時間の熱処理工程を行った後、粒成長の程度を測定した。具体的には、平均結晶粒径を測定した方法と同じことを行い平均結晶粒径を求めて、その変化率を求めた。その結果を表3に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
実施例に係るルツボであれば優れた耐久性を示した。それに対し、Mo板材を鍛造して製造した比較例1は耐久性が不十分であった。これは鍛造により粒成長が伴うことや水素還元雰囲気により不純物酸素の低減が行われていないためである。また、比較例2のようにタングステンでできていても平均結晶粒径が大きなものは耐久性が低下した。これは粒成長が起きて内部歪が生じるためと考えられる。
【0056】
(実施例4〜6)
タングステン粉末として平均粒径が3μm、不純物酸素0.1wt%のものを用いると共に、タングステン製ルツボの全体形状、厚さ(角部、側壁部)を表4に示すように変更した。
実施例4は、圧力120MPaによる一軸成形を行った後、HIP処理(アルゴン雰囲気中、120MPa、1400℃×7時間)を行ったもの。実施例5は、150MPaで一軸成形を行った後、HIP処理(アルゴン雰囲気中、180MPa、1600℃×8時間)を行ったもの。実施例6は、100MPaでCIP成形、水素雰囲気中1400℃×5時間の予備焼結(第一の焼結工程)後、HIP処理(アルゴン雰囲気中、1500℃×6時間)を行ったもの。なお、HIP処理はステンレス製カプセルに封入して行った。
実施例4〜7について実施例1と同様の測定を行った。その結果を表4〜6に示す。
【0057】
【表4】

【0058】
【表5】

【0059】
【表6】

【0060】
実施例4〜6に係るルツボに関しても優れた耐久性を示すことが分かった。なお、HIP処理だとカプセルに封入して行うため、水素雰囲気中での還元が行われない実施例4、5は酸素量の低減が行われなかった。それに対し、実施例6は第一焼結工程で水素雰囲気中で焼結しているので酸素量の低減が行われた。
言い換えると、不純物酸素量を低減したい場合は、水素雰囲気中で焼結する工程を行った方がよいことになる。
【符号の説明】
【0061】
1…タングステン製ルツボ
2…底部
3…側壁部
4…角部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純度99.9%以上のタングステンからなり、底部と側壁部とが角部を介して連結された開口部を有する有底筒状のタングステン製ルツボであって、
前記タングステンは、平均結晶粒径が50μm以下であることを特徴とするタングステン製ルツボ。
【請求項2】
前記タングステン製ルツボは開口部の内径が100mm以上であることを特徴とする請求項1記載のタングステン製ルツボ。
【請求項3】
前記タングステン製ルツボは密度が95%以上であることを特徴とする請求項1または2記載のタングステン製ルツボ。
【請求項4】
前記側壁部に対する前記角部のタングステン結晶粒の平均粒径の比が0.8以上1.2以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のタングステン製ルツボ。
【請求項5】
前記側壁部と前記角部との厚さが異なることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のタングステン製ルツボ。
【請求項6】
前記タングステン製ルツボはサファイア単結晶を製造するための原料の融液を入れるものとして用いられることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載のタングステン製ルツボ。
【請求項7】
底部と側壁部とが角部を介して連結された上部開放の有底筒状のタングステン製ルツボを製造するための製造方法であって、
純度99.9%以上のタングステン粉末を圧力100MPa以上の圧力でルツボ形状にCIPする成形工程と、水素雰囲気中で1300℃以上で焼結する第一の焼結工程と、還元雰囲気中または不活性雰囲気中で2000℃以上で焼結する第二の焼結工程、を有することを特徴とするタングステン製ルツボの製造方法。
【請求項8】
底部と側壁部とが角部を介して連結された上部開放の有底筒状のタングステン製ルツボを製造するための製造方法であって、
純度99.9%以上のタングステン粉末をルツボ形状に成形する成形工程と、不活性雰囲気中、圧力100MPa以上、1300℃以上でHIP処理するHIP工程、とを具備することを特徴とするタングステン製ルツボの製造方法。
【請求項9】
原料の融液から結晶成長によりサファイア単結晶を製造するサファイア単結晶の製造方法であって、
前記原料の融液を入れるルツボとして請求項1乃至6のいずれか1項記載のタングステン製ルツボを用いることを特徴とするサファイア単結晶の製造方法。
【請求項10】
融液の加熱温度が2000℃以上であることを特徴とする請求項9記載のサファイア単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−127839(P2011−127839A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286947(P2009−286947)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(303058328)東芝マテリアル株式会社 (252)
【Fターム(参考)】