タンパク質の官能性の調節
薬理学的に重要な各種の新規化合物および治療方法を得るために、特定の天然のタンパク質と相互作用しうる分子の合理的な識別方法を提供する。概述すると、この方法は、特定の目的タンパク質の一部を形成するスイッチ制御リガンドを識別し、このタンパク質の一部を形成し、上記のスイッチ制御リガンドと相互作用する相補的なスイッチ制御ポケットを識別する過程を含むものである。このリガンドは、インビボで上記のポケットと相互に作用して上記のタンパク質のコンホメーションおよび生物学的活性を調節し、調節は、リガンドとポケットが相互に作用すると、上記のタンパク質が第一コンホメーションおよび第一生物学的活性を示し、リガンドとポケットが相互に作用しない場合には、上記のタンパク質が、第二の、上記とは異なるコンホメーションおよび生物学的活性を示すよう進行する。次に、上記のタンパク質の第一コンホメーションおよび第二コンホメーションの各サンプルを用意し、そして、これらのサンプルの1以上の候補分子に対するスクリーニングを、候補分子とサンプルとを接触させることによって行る。この過程により、このタンパク質のポケット領域と結合する小型の分子を識別することができる。新規なタンパク質とモジュレータとのアダクト、およびタンパク質の活性の変更方法も提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願についての相互参照
本出願は、仮出願である米国特許出願第60/437,487号のProcess For Modulating Protein Function(2002年12月31日出願)、米国特許出願第60/437,403号のAnti−Cancer Medicaments(2002年12月31日出願)、米国特許出願第60/437,415号のAnti−Inflammatory Medicaments(2002年12月31日出願)、米国特許出願第60/437,304号のAnti−Inflammatory Medicaments(2002年12月31日出願)、および米国特許出願第60/463,804号のMedicaments For the Treatment of Neurodegenerative Disorders or Diabetes(2003年4月18日出願)についての権利を主張するものである。これらの各出願は、ここに言及することをもって、本発明に組み込むものである。
【0002】
1.技術分野
本発明は、広義には、タンパク質の活性モジュレータの役目を果たす分子の新規で合理化された識別方法、ならびに新規なタンパク質とモジュレータのアダクトに関するものである。より詳細には、本発明は、こうした方法およびアダクトであって、好適な態様では、スイッチ制御リガンドとこれと相補的なスイッチ制御ポケットとの相互作用を含むタンパク質コンホメーションの変化機構を利用するような方法およびアダクトに関するものである。
【背景技術】
【0003】
2.先行技術の説明
近年、基礎研究によって、ヒト遺伝コードやそれによって生成されるタンパク質について、かつてない量の情報が生命科学コミュニティにもたらされている。2001年には、ヒトゲノムの完全配列も報告された(Lander,E.S.ら,Initial Sequencing and Analysis of the Human Genome;Nature(2001) 409:860;Venter,J.C.ら,The Sequence of the Human Genome,Science(2001) 291:1304)。全世界の研究コミュニティは、現在、こうした遺伝子配列によってコードされる50,000以上のタンパク質の分類に着手しており、さらに重要なこととして、主要な疾患でありながら、治療が十分に行われていないヒトの疾患の原因タンパク質の識別に取り組んでいる。ヒトゲノムやそのタンパク質によってもたらされる情報、特に、タンパク質の機能をコンホメーションによって制御する分野について多大な情報が存在するにもかかわらず、製薬産業が小型分子治療薬の開発に着手しうるような方法論や戦略は、小型分子治療薬を結合させる際に天然のタンパク質結合部位を利用するところから有意には先に進んでいない。こうした天然の部位は、通常、必須の細胞機能を営むうえで、各種のタンパク質によって利用されている部位であり、その際には、タンパク質がこうした部位に結合することによって天然の基質の処理が進行したり、タンパク質によって、天然リガンド由来の信号が伝達されたりする。これらの天然部位は、タンパク質ファミリー内の他の多くのタンパク質によっても広範に利用されているので、こうした部位と相互に作用する薬剤では、選択性の欠如が問題となることも多く、その結果、最大効力を達成するには治療域が不十分となることも多い。こうした小型分子では、副作用および有害性は、臨床以前の創薬時、臨床治験の間、またはその後市場で明らかになる。副作用および有害性は、薬剤開発プロセスに見られる高い消耗率の主因であり続けている。キナーゼタンパク質ファミリーのタンパク質については、こうした天然部位での相互作用についてのレビューが最近報告されている(J.Dumas,Emerging Pharmacophores: 1997−2000,Expert Opinion on Therapeutic Patents(2001) 11: 405−429;J.Dumas,Editor,Current Topics in Medicinal Chemistry(2002) 2: issue 9を参照されたい)。
【0004】
タンパク質は可撓性であることが知られており、この可撓性を利用して、タンパク質の別々の可撓性の活性部位に結合する小型分子を見いだした事例が報告されている。こうした利用についてのレビューについては、Teague,Nature Reviews/Drug Discovery,Vol.2,pp.527−541(2003)を参照されたい。また、Wuら,Structure,Vol.11,pp.399−410(2003)も参照されたい。しかし、これらの報告では、タンパク質の天然の活性部位のみに結合する小型分子に焦点があてられている。Pengら,Bio. Organic and Medicinal Chemistry Ltrs.,Vol.13,pp.3693−3699(2003),およびSchindlerら,Science,Vol.289,p.1938(2000)には、ablキナーゼの阻害物質が記載されている。こうした阻害物質については、国際公開番号第WO2002/034727号に特定されている。こうした一群の阻害物質は、ATP活性部位に結合し、その一方で、キナーゼ触媒ループの動きを誘導するようなかたちでも結合を生じる。Pargellisら,Nature Structural Biology,Vol.9,p.268(2002)には、国際公開番号第WO00/43384号、およびReganら,J.Medicinal Chemistry,Vol.45,pp.2994−3008(2002)にも開示されている阻害物質p38α−キナーゼが報告されている。これらの一群の阻害物質も、キナーゼのATP活性部位で結合し、同時に、キナーゼ活性化ループの動きを生じる。
【0005】
さらに最近、キナーゼは、活性化ループおよびキナーゼドメイン調節ポケットを利用して、触媒活性の状態を制御していることが開示されている。この点については、最近レビューが公開されている。M.HuseおよびJ.Kuriyan,Cell(2002)109:275を参照されたい。
【発明の開示】
【0006】
本発明は、特定の天然タンパク質(たとえば哺乳動物、特にヒトのタンパク質)と相互作用して、タンパク質の活性を調節する分子を識別する方法、ならびに新規なタンパク質と小型分子モジュレータのアダクトに関するものである。本発明の方法の側面では、天然タンパク質が持つ性質、すなわち、タンパク質は、インビボでコンホメーションが変化し、それに対応してタンパク質の活性も変化するという性質を利用する。たとえば、あるコンホメーションの特定のタンパク質を生物学的に上方調節して酵素とすることができ、一方、同じタンパク質が別のコンホメーションの場合には、生物学的に下方調節することができる。また、本発明では、タンパク質内の「スイッチ制御リガンド」および「スイッチ制御ポケット」と称する領域の相互作用を介して、天然のタンパク質が利用しているコンホメーション変化機構の一つを利用することが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、天然のタンパク質(たとえば哺乳動物、特にヒトのタンパク質)と相互作用して、タンパク質の活性を調節する新規な小型分子モジュレータを合理的に開発する方法を提供するものである。また、新規なタンパク質と小型分子とのアダクトも提供する。本発明は、好ましくは、インビボでコンホメーションが変化し、それに対応してタンパク質の活性も変化するという天然タンパク質の性質を利用する。たとえば、あるコンホメーションの特定の酵素タンパク質を生物学的に上方調節することができ、一方、同じタンパク質が別のコンホメーションの場合には、生物学的に下方調節することができる。本発明では、タンパク質内の「スイッチ制御リガンド」および「スイッチ制御ポケット」と称する領域の相互作用を介して、天然タンパク質が利用しているコンホメーション変化機構の一つを利用することが好ましい。
【0008】
本発明で使用する場合には、「スイッチ制御リガンド」とは、天然タンパク質内の領域またはドメインであって、内部に、生化学的修飾、具体的には、リン酸化、硫酸化、アシル化、または酸化によってインビボで過渡的に修飾されて個別のいずれかをとる1以上のアミノ酸残基を有するものを意味する。同様に、「スイッチ制御ポケット」は、天然のタンパク質内の複数の隣接または非隣接アミノ酸残基であって、インビボで、上記個別状態のいずれかにあるスイッチ制御リガンドの過渡的に修飾された残基と結合して、そのタンパク質のコンホメーションを誘導または制限することにより、そのタンパク質の生物学的活性を調節しうる残基、および/または非天然のスイッチ制御調節分子と結合して、タンパク質のコンホメーションを誘導または制御することにより、そのタンパク質の生物学的活性を調節しうる残基を含むものであるようなものを意味する。
【0009】
本発明のタンパク質・モジュレータ・アダクトは、スイッチ制御ポケットを備えた天然のタンパク質と、タンパク質の上記スイッチ制御ポケット領域に結合した非天然分子を含むものであり、この分子は、そのタンパク質のコンホメーションを誘導または制限することによってそのタンパク質の生物学的活性を少なくとも部分的に調節する役目を果たしている。好ましくは、このタンパク質は、対応するスイッチ制御リガンドも備えており、このリガンドは、インビボで、ポケットと相互作用を生じてタンパク質のコンホメーションおよび生物学的活性を調節し、リガンドとポケットの相互作用が生じると、そのタンパク質が第一コンホメーションおよび第一生物学的活性をとり、リガンドとポケットの相互作用の不在下では、第二の異なったコンホメーションおよび生物学的活性をとるものである。
【0010】
スイッチ制御リガンド/スイッチ制御ポケットの相互作用の性質については、図1〜4の模式図を考慮すると、理解しやすい。すなわち、図1に、「オン」スイッチ制御ポケット102および「オフ」スイッチ制御ポケット104、ならびにスイッチ制御リガンド106を含むタンパク質100を模式的に示す。また、この模式的に描いたタンパク質は、ATP活性部位108も含んでいる。図1のこのタンパク質の例では、リガンド106は、側鎖にOH基110を含むアミノ酸残基3つを備えている。オフ・ポケット104は、対応するX残基112を、オン・ポケット102は、Z残基114を含んでいる。この例では、タンパク質100は、リガンド106上のOH基110の荷電状態に応じて、コンホメーションが変化し、すなわち、OH基は、修飾されていない場合には、中性の電荷を示すが、これらの基がリン酸化されると、負の電荷を示すことになる。
【0011】
ポケット102および104とリガンド106の官能性については、図2〜4を考慮すると理解しやすい。図2では、リガンド106がオフ・ポケット104と協同的に相互作用して、OH基110が、ポケット104の一部を形成するX残基112と相互作用している。こうした相互作用は、主に、OH基110と残基112の間の水素結合によるものである。このリガンド/ポケット相互作用が生じると、タンパク質100が、図1に見られるのとは異なった、タンパク質のオフの、すなわち、生物学的に下方調節されたコンホメーションに対応するコンホメーションをとるようになる。
【0012】
図3は、リガンド106が、図2のオフのポケット相互作用コンホメーションからシフトし、OH基110がリン酸化されて、リガンドが負に帯電した状態を示す。この状態では、リガンドは、ポケット102と相互に作用することによって、タンパク質のコンホメーションを、オン、すなわち生物学的に上方調節された状態(図4)に変化させようとする傾向が強い。図4aには、リガンド106上のリン酸化された基が、正に帯電した残基114に引き寄せられて、安定化されたイオン状の結合を示している状態を示す。図4のコンホメーションでは、タンパク質のコンホメーションが、図2のオフのコンホメーションとは異なる状態となっており、ATP活性部位が利用可能な状態となって、タンパク質がキナーゼ酵素として機能しうる状態となっていることに注意されたい。
【0013】
図1〜4は、タンパク質が、別々のポケット102および104ならびにリガンド106を示す単純な状況について示すものである。しかし、多くの事例では、もっと複雑なスイッチ制御ポケットのパターンが観察される。図6は、小型分子との相互作用に適したポケットが、リガンド106と、たとえばポケット102の双方に由来するアミノ酸残基から形成されている状態を示す。こうしたケースを、リガンド106とポケットの双方に由来する残基から構成される「複合型スイッチ制御ポケット」と称し、番号120で示す。このポケット120と相互に作用してタンパク質を調節する小型分子122も図示する。
【0014】
さらに複雑なスイッチポケットを図7に示す。このポケットは、オン・ポケット102由来の残基と、ATP部位108とを含み、「組合わせ型スイッチ制御ポケット」と称するポケットを構成している。この組合わせ型のポケットを、番号124で示す。このポケットは、リガンド106由来の残基をさらに含むものとすることができる。このポケット124と相互に作用してタンパク質を調節する適当な小型分子126も図示する。
【0015】
したがって、図1〜4に示すような単純なポケットの状況の場合には、小型分子は、単純なポケット102または104と相互に作用するのに対し、図6および7に示すようなさらに複雑な状況では、相互作用を生じるポケットが、ポケット120または124の領域に存在することになることが理解されるはずである。このように、広義では、小型分子は、各スイッチ制御ポケットの「領域」で相互作用を生じる。
【0016】
図8および9は、インシュリン受容体のキナーゼドメインタンパク質のX線結晶構造解析によって得られたリボン図であり、図8は、オンのコンホメーション、すなわち生物学的に上方調節されたコンホメーションのタンパク質を青で示す。この写真では、黄色のストランドは、スイッチ制御リガンドの配列、マゼンタの部分は、リガンド配列と相互に作用して、タンパク質を生物学的に上方調節されたコンホメーションに保つ相補的なオンのスイッチ制御ポケットを形成する鍵残基を示す。一方、図9は、オフのコンホメーション、すなわち生物学的に下方調節されたコンホメーションのタンパク質を、真鍮模擬色で示す。この図では、スイッチ制御配列を図8と同じく黄色で示し、オフのスイッチ制御ポケットの鍵残基は緑で示す。スイッチ制御リガンドとオフのスイッチ制御ポケットとの相互作用によって、タンパク質が、図示した生物学的に下方調節されたコンホメーションに保たれる。
【0017】
模式図についてさらに説明すると、図8の図は、リガンド106がポケット102と相互に作用する図4に対応する。同様に、図9は、リガンド106がポケット104と相互に作用する図2に対応する。
【0018】
当業者は、特定のタンパク質が、タンパク質をオンのポケットとの相互作用へと導く傾向のあるリガンド106のリン酸化が生じているのか、タンパク質をオフのポケットとの相互作用を生じるコンホメーションへと導く傾向のあるリン酸基のリガンドからの脱離が生じているのかにもとづいて、上方調節されたコンホメーションと下方調節されたコンホメーションとの間で経時的に「スイッチ」されることを理解できるはずである。このように、スイッチ制御リガンドとスイッチ制御ポケットとの相互作用によって生じるコンホメーションの変化は、動的な性格をもつものであり、究極的には細胞内の状態によって支配されている。
【0019】
また、タンパク質のコンホメーションに異常が生じると、病状が悪化する可能性があることも理解されるはずである。たとえば、所定のタンパク質が、オフのコンホメーション、すなわち生物学的に下方調節されたコンホメーションのままとなってしまうと、活性のタンパク質が必要とされるような代謝プロセスが停止、遅滞したり、望ましくない副作用が生じる可能性がある。同様に、タンパク質が、オンのコンホメーション、すなわち生物学的に上方調節されたコンホメーションのままとなってしまうと、代謝プロセスが促進されすぎて、その結果、健康上の重篤な問題が生じる場合もある。
【0020】
しかし、タンパク質活性を調節して、正常なインビボのタンパク質の活性を復元または近似させうる小型分子化合物を開発しうることを見出した。図5からわかるように、小型分子116はオフのポケット104と相互に作用して、リガンド106のポケット104との相互作用を防止することができる。この場合、この簡略仮想図では、タンパク質100は、オンのコンホメーション、すなわち生物学的に上方調節されたコンホメーションのままでいる可能性が高くなる。あるいは、小型分子118がオンのポケット102と相互作用することにより、リガンド106のポケット102との相互作用を防止することもできる。この場合、この簡略模式図では、リガンド106がオフのポケット104と相互作用して、タンパク質がオフのコンホメーションに移動する、すなわち生物学的に下方調節されたコンホメーションとなる可能性が高くなる。
【0021】
したがって、タンパク質を分析して、相互作用するスイッチ制御リガンドおよびスイッチ制御ポケットの位置および配列を確認し、同時に、これらがどのように相互作用してタンパク質が、生物学的に上方調節されたコンホメーションと、下方調節されたコンホメーションの間でスイッチされるのかを理解することは、タンパク質の活性を調節しうる小型分子化合物を設計・開発する際に使用できる強力な手段となる。
【0022】
一般に、特定の天然タンパク質と相互に作用してタンパク質活性を調節する分子を識別する方法では、まず、タンパク質の一部を形成するスイッチ制御リガンドと、同じくタンパク質の一部を形成し、このリガンドと相互作用するスイッチ制御ポケットとを識別する。リガンドとポケットとは、協同して相互に作用して、タンパク質のコンホメーションおよび生物学的活性を調節し、その際には、タンパク質は、リガンドとポケットが相互作用すると、第一コンホメーションと対応する第一生物学的活性をとり、リガンドとポケットが相互作用しない場合には、第一コンホメーションとは異なる第二のコンホメーションおよび生物学的活性をとる。
【0023】
次の工程では、第一および第二のコンホメーションのタンパク質の各サンプルを用意し、これらのタンパク質サンプルを使用して、候補小型分子のスクリーニング・アッセイをを行う。こうしたスクリーニングでは、一般に、候補分子を、サンプルの少なくとも1つと接触させ、どの小型分子が、上記で識別したタンパク質のスイッチ制御ポケット領域と結合するかを識別する。
【0024】
本発明の方法は、多岐にわたる天然の哺乳動物(たとえばヒト)のタンパク質、たとえば野生型のコンセンサスタンパク質、疾病の多形、疾病の融合タンパク質、および/または人工的に操作した改変タンパク質に適用することができる。適用可能なタンパク質の分類群としては、酵素、受容体、シグナル伝達タンパク質を挙げることができ、具体的には、キナーゼ、ホスファターゼ、スルホトランスフェラーゼ、スルファターゼ、転写因子、核ホルモン受容体、Gタンパク質結合受容体、Gタンパク質、GTPアーゼ、ホルモン、ポリメラーゼ、およびヌクレオチド調節部位を含む他のタンパク質を挙げることができる。大抵の場合、対象タンパク質の分子量は少なくとも約15kDa、より一般には、約30kDaを超えるものである。
【0025】
本発明の方法の過程では、数多くの技法を用いて、1以上のスイッチ制御リガンド配列および1以上のスイッチ制御ポケットを識別し、候補小型分子モジュレータの上方および下方調節を判定することができる。一般に、こうした方法としては、生物情報学的分析、X線結晶構造解析、磁気共鳴スペクトロスコピー(NMR)、円偏光二色性(CD)、およびアフィニティ系のスクリーニングを挙げることができる。また、全くの通常技術、たとえば、部位特異的突然変異誘発および標準的な生化学実験法も役立つはずである。
【0026】
生物情報学的分析を実施すると、実験を行うことなく、関連したリガンドおよびポケットを識別することが可能である。たとえば、関連タンパク質に関するデータは、場合によっては、利用可能なデータベース、たとえばPUBMEDの使用のみによっても評価することができる。したがって、最初の工程では、配列情報PUBMEDを、対象タンパク質の公知の構造について調べる。次に、BLAST検索を行って、選択した最小ストリンジェンシー(たとえば、60%以上)を含む他の配列を確認することができる。この検索によって、対象点突然変異または多形、ならびに異常融合タンパク質が明らかとなる可能性がある。これらの検索対象は、いずれも、疾患の原因となりうるものであり、疾患の原因となる機能性または機能障害性のスイッチ制御リガンド配列および/またはポケットの識別についての洞察が得られる可能性がある。こうした生物情報学的分析の具体例については、実施例1で後述する。
【0027】
X線結晶構造解析法では、まず、高度に精製されたタンパク質が得られるタンパク質発現法が必要である。全遺伝子を合成する技術を使用して、使用する特定の発現系に対して最適化したタンパク質遺伝子を化学的に合成することもできる。通常技術を用いて、合成オリゴヌクレオチドから任意の遺伝子を迅速に合成することができる。ソフトウェア(Gene Builder(登録商標))と付随する分子生物学的方法を用いると、任意の遺伝子を合成することができる。全遺伝子を合成する方が、最適な発現にむけて、コドンを最適化した遺伝子を迅速に合成できるので、伝統的なクローニング法より有利である。また、複雑な突然変異(たとえば、多くの異なった変異の組合わせによるもの)を、複数工程でなく1工程で生成することも可能である。制限部位を戦略的に配置すると、必要に応じて、突然変異を迅速に付加することができる。したがって、この技術を用いると、より短時間に、はるかに多くの遺伝子構築物を生成できる。タンパク質配列の選択は、系統分析、分子モデリングおよび構造予測、公知の発現、機能的なデータ・スクリーニング、報告済みの文献データの組合わせを用いて判断して、タンパク質製造戦略を開発する。発現構築物を市販の製品および/またはベクターを用いて製造して、タンパク質を、バキュロウイルスに感染させた昆虫細胞で発現させることができる。大腸菌の発現系を使用して、他のタンパク質を製造することもできる。遺伝子は、アフィニティ・タグを付加することによって修飾することもできる。遺伝子は、欠失、点突然変異、タンパク質の融合を生成することによって修飾して、発現を改善したり、精製の便宜をはかったり、結晶化を促進したりすることもできる。
【0028】
タンパク質の精製: 発現実験で得られた全細胞のペーストを、窒素キャビテーション、フレンチプレス、ミクロ流動化のうち、可溶性のタンパク質を得るうえで最も効果的な方法で破砕する。抽出物のタンパク質精製を、複数のカラム(Glu−mAb、metal chelate、Q−seph、S−Seph、Phenyl−Seph、およびCibacron Blueを含む複数のカラム)を標準的な手順で並行して走らせるロボット装置を使用してパラレルに実施し、各分画をSDS−PAGEで分析する。この情報を、公開されている精製プロトコールと組合わせて、精製プロトコールを迅速に開発する。精製を終了したら、タンパク質を、複数の生物物理学的アッセイ(動的光散乱、紫外線吸収、MALDI−ToF、分析用ゲル濾過、等)に供する。
【0029】
結晶の成長とX線による品質分析: スパース行列および集束結晶化スクリーンを、リガンド有りと無しの場合について2以上の温度で用意する。リガンド無しで得た結晶(アポ結晶)をリガンド含浸実験に用いる。結晶の成長状態を、最初の結果にもとづいて、タンパク質結晶に対して最適化する。適当なタンパク質結晶が得られたら、スクリーニングを行って、各種の凍結保存状態について、R−AXIS IVイメージングプレート装置およびX−STREAMクリオスタットで、回折能を測定する。回折能のよいタンパク質結晶を、X線回折データの収集に使用するか、液体窒素中でその後のシンクロトロンX線放射源でのデータ収集用に保存する。タンパク質結晶の回折限界を、少なくとも2回回折画像を、90°の間隔をおいたφスピンドルで撮影することによって決定する。回折画像を収集する間は、φスピンドルを1°揺動する。双方の画像を、X線データ解析のHKL−2000スイートと分解ソフトウェアで処理する。タンパク質結晶の回折解像度は、インデクシングした反射の50%以上が1シグマ以上の強さを有する解像シェルの高い側の解像限界として受け取る。
【0030】
X線回折データの収集: タンパク質結晶が、R−AXIS IVシステムまたはシンクロトロンで3.0Å以上の回折を示すことがわかった場合には、完全なデータセットをシンクロトロンで収集する。ここで、完全なデータセットとは、解像度が最大のシェルでの全ての反射の90%以上を収集した場合として定義するものである。X線回折データは、X線回折データ処理用のソフトウェアのHKL−2000スイートを使用して処理する(固有反射と強度に分解する)。
【0031】
構造の決定: タンパク質の構造を、1以上のタンパク質検索モデルを利用した分子置換(MR)で決定する。このMR法では、タンパク質データバンク(Protein Data Bank、PDB)から入手可能なタンパク質の座標セットを使用する。必要に応じて、構造の決定は、重原子を用いた多重重原子同型置換法(MIR)および/または多波長異常分散(MAD)法で行う。結晶(重原子を含まない母液または凍結保護物質で洗浄後のもの)のEXAFSスキャンで適当な重原子シグナルが得られた場合には、重原子を含浸させた結晶についてのについてのMADシンクロトロンのデータセットを集める。誘導化のための重原子のデータセットの解析は、計算プログラムのCCP4結晶構造解析スイートを使用して行うことができる。重原子の部位を、(│FPH│−│FP│)2の差のパターソンおよび(│F+│−│F−│)2の異常差パターソン図で識別する。
【0032】
スイッチ制御リガンド配列およびポケットの識別に際しては、強磁場核磁気共鳴(NMR)分光分析法を使用することもできる。NMRを用いた研究で、タンパク質、特にタンパク質キナーゼの構造を解明できることが報告されている。(Wuthrich,K;“NMR of Proteins and Nucleic Acids” Wiley−Interscience:1986、Evans,J.N.S.,Biomolecular Nmr Spectroscopy,Oxford University Press:1995、Cavanagh,J.ら,N.Protein Nmr Spectroscopy: Principals and Practice,Academic Press:1996.、Krishna,N.R.;Berliner,L.J. Protein Nmr for the Millenium(Biological Magnetic Resonance,20),Plenum Pub Corp:2003。
【0033】
この20年間で、NMRは、タンパク質の構造やタンパク質と他の生体分子との相互作用を探り、小型分子とタンパク質の相互作用の詳細を明らかにするうえで強力な技法に育ってきた。NMR法は、X線結晶構造解析法と相補的であり、これらの2つの技法を組合わせると、タンパク質と小型分子の相互作用がどのようなものなのかを明らかとするうえで強力な戦略を立てることが可能となる。特に有用なNMR法は、15Nおよび/または13C標識タンパク質を調製し、このタンパク質のスイッチ制御リガンド配列のスイッチ制御ポケットとの相互作用、または小型分子モジュレータのスイッチ制御ポケット領域との相互作用にともなって生じるタンパク質のコンホメーション変化時の化学シフトの動揺を分析するものである。
【0034】
円偏光二色性(CD)は、タンパク質のコンホメーションを調べるのに適した技法であり(Johnson,W.C.,Jr.;Circular Dichroism Spectroscopy and the vacuum ultraviolet region;Ann.Rev.Phys.Chem.(1978) 29:93、Johnson,W.C.,Jr.;Protein secondary structure and circular dichroism: A practical guide” Proteins: Str.Func.Gen.(1990) 7:205、Woody,R.W.“Circular dichroism of peptides”(Chapter 2) The Peptides Volume 7,1985,Academic Press、Berova,N.,Nakanishi,K.,Woody,R.W.,Circular Dichroism: Principles and Applications,2nd Ed. Wiley−VCH,New York,2000、Schmid,F.X.;Spectral methods of characterizing protein conformation and conformational changes in Protein Structure,a practical approach edited by T.E.Creighton,IRL Press,Oxford 1989)、特に、タンパク質キナーゼのコンホメーションの変化を調べるうえでの円偏光二色性の利用も報告されている(Bosca,L.;Moran,F.;Circular dichroism analysis of ligand−induced conformational changes in protein kinase C. Mechanism of translocation of the enzyme from the cytosol to the membranes and its implications. Biochemical J.(1993) 290:827、Okishio,N.;Tanaka,T.;Fukuda,R.;Nagai,M.;Differential Ligand Recognition by the Src and Phosphatidylinositol 3−Kinase Src Homology 3 Domains: Circular Dichroism and Ultraviolet Resonance Raman Studies;Biochemistry(2003) 42: 208、Deng,Z.;Roberts,D.;Wang,X.;Kemp,R.G.;Expression,characterization,and crystallization of the pyrophosphate−dependent phosphofructo−1−kinase of Borrelia burgdorferi.Arch.Biochem.Biophys.(1999) 371: 326;、Reed,J;Kinzel,V;Kemp,B.E.;Cheng,H.C.;Walsh,D.A.;Circular dichroic evidence for an ordered sequence of ligand/binding site interactions in the catalytic reaction of the cAMP−dependent protein kinase. Biochemistry(1985) 24: 2967、Okishio,N.;Tanaka,T.;Nagai,M.;Fukuda,R.;Nagatomo,S.;Kitagawa,T.;Identification of Tyrosine Residues Involved in Ligand Recognition by the Phosphatidylinositol 3−Kinase Src Homology 3 Domain: Circular Dichroism and UV Resonance Raman Studies.,Biochemistry(2001) 40: 15797、Okishio,N.;Tanaka,T.;Fukuda,R.;Nagai,M.;Role of the Conserved Acidic Residue Asp21 in the Structure of Phosphatidylinositol 3−Kinase Src Homology 3 Domain: Circular Dichroism and Nuclear Magnetic Resonance Studies,Biochemistry(2001) 40: 119、Mattsson,P.T.;Lappalainen,I.;Backesjo,C.−M.;Brockmann,E.;Lauren,S.;Vihinen,M.;Smith,C.I.E.;“Six X−linked agammaglobulinemia−causing missense mutations in the Src homology 2 domain of Bruton’s tyrosine kinase: phosphotyrosine−binding and circular dichroism analysis.” J.Immun.(2000) 164: 4170、Raimbault,C.;Couthon,F.;Vial,C.;Buchet,R.;“Effects of pH and KCl on the conformations of creatine kinase from rabbit muscle. Infrared,circular dichroic,and fluorescence studies.” Euro.J.Biochem.(1995) 234: 570、Shah,J.;Shipley,G.G.;Circular dichroic studies of protein kinase C and its interactions with calcium and lipid vesicles. Biochim.Biophys.Acta(1992) 1119: 19)。
【0035】
キナーゼの活性化(上方調節)に際して生じる、下方調節状態の場合よりはっきりとしたヘリックスの組織化およびコンホメーションの変化については、CDによって観察することができる。スイッチ制御ポケットに基づく小型分子による調節が生じる結果、優勢なコンホメーション状態が安定化する可能性がある。小型分子モジュレータの存在下で得られたCDスペクトルと、モジュレータの不在下で得られたCDスペクトルの相関を調べると、小型分子の結合の性質を判定し、そうした結合を通常のATP拮抗阻害物質の結合と区別することができる。
【0036】
各種の生物分析法によって、小型分子のタンパク質に対する結合アフィニティを測定することができる。候補の小型分子モジュレータをスクリーニングする早期の段階では、キャピラリー電気泳動(capillary zone electrophoresis、CZE)を利用するアフィニティ系のスクリーニング法を用いることができる。小型分子モジュレータとタンパク質の相互作用についてのKds(解離定数)を直接測定することもできる。(Heegaard,N.H.H.;Nilsson,S.;Guzman,N.A.;Affinity capillary electrophoresis: important application areas and some recent developments;J. Chromatography B(1998)715: 29−54、 Yen−Ho Chu,Y. −H.;Lees,W.J.;Stassinopoulos,A.;Walsh,C.T.;Using Affinity Capillary Electrophoresis To Determine Binding Stoichiometries of Protein−Ligand Interactions,Biochemistry(1994) 33: 10616−10621、Davis,R.G.;Anderegg R.J.;Blanchard,S.G.,Iterative size−exclusion chromatography coupled with liquid chromatographic mass spectrometry to enrich and identify tight−binding ligands from complex mixtures,Tetrahedron(1999) 55: 11653−1166、Shen Hu,S.;Dovichi,N.J.;Capillary Electrophoresis for the Analysis of Biopolymers;Anal. Chem.(2002) 74: 2833−2850、Honda,S.;Taga,A.;Suzuki,K.;Suzuki,S.;Kakhi,K.,Determination of the association constant of monovalent mode protein−sugar interaction by capillary zone eletrophoresis,J. Chromatography B(1992) 597: 377−382、Colton,I.J.;Carbeck,J.D.;Rao,J.;Whitesides,G.M.,Affinity Capillary Electrophoresis: A physical−organic tool for studying interaction in biomolecular recognition,Electrophoresis(1998) 19: 367−382。
【0037】
別のアフィニティ系のスクリーニング法では、候補タンパク質と結合する蛍光プローブ・レポータを利用する。候補である小型分子モジュレータを、この蛍光プローブアッセイでスクリーニングする。タンパク質と結合する化合物を、蛍光プローブ・レポータの蛍光の低減によって測定する。この方法については、以下の実施例1で報告する。
【0038】
本発明は、小型分子モジュレータとタンパク質のアダクトも提供する。タンパク質は、上述したタイプのものとする。モジュレータに関しては、モジュレータは、モジュレータとタンパク質の結合を最大限促進するために、スイッチ制御ポケット領域内の活性残基と相補的な官能基を有する必要がある。たとえば、各種キナーゼの場合には、1〜3のジカルボニル結合を有するモジュレータが有用であることが多いことがわかった。陽イオン性のスイッチ制御ポケットが見いだされた場合には、小型分子モジュレータは、酸性の官能基または部分、たとえばスルホン基、ホスホン基、カルボキシル基を有するものとすることが多い。分子量に関しては、好適なモジュレータは、通常、分子量が約120−650Da、より好ましくは約300〜550Daである。これらの小型分子モジュレータを全細胞環境で調べる場合には、小型分子モジュレータの特性が、小型分子モジュレータの細胞浸透性を最適化する周知の原理に適合する必要がある(Lipinski’s Rule of 5,Advanced Drug Delivery Reviews,Vol.23,Issues 1−3,pp3−25(1997))。
【0039】
本発明は、タンパク質の生物学的活性を変更する方法も提供するものであり、この方法では、一般に、まず、スイッチ制御ポケットを備えた天然タンパク質を用意する。次に、このタンパク質を、非天然分子のモジュレータと、このモジュレータがタンパク質のポケット領域に結合するような条件で接触させて、タンパク質のコンホメーションの誘導または制限により、少なくとも部分的にタンパク質の生物学的活性を調節する。
以下の実施例は、本発明の代表的な方法について説明するものである。しかし、これらの実施例は、例示を目的としてここに記載するものであって、実施例中の何らかの記載をもって、本発明全体の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0040】
<実施例1>
この実施例では、天然タンパク質の一部を形成するスイッチ制御ポケットの領域と相互作用して、タンパク質のインビボでの生物学的活性を調節する小型分子を識別および/または開発する技術を例示する。具体的には、本発明の方法を用いて、公知のキナーゼタンパク質ファミリーすなわち、abl、p38−α、Gsk−3β、インシュリン受容体−1、タンパク質キナーゼB/Akt、およびトランスフォーミング成長因子B−I受容体キナーゼの分析を行った。
【0041】
工程1:キナーゼタンパク質内のスイッチ制御リガンドの識別と分類
一般に、キナーゼのスイッチ制御リガンドは、この特徴に関しての十分に詳しい情報が入手可能であるならば、各キナーゼから得られた配列および構造についてのデータを使用することよって識別することができる。したがって、本方法のこの工程は、実験をおこなわなくても実施可能である。キナーゼに関する公知のデータを用いることで、過渡的に修飾可能なアミノ酸残基を容易に識別することができ、これらのアミノ酸残基は、こうしたタンパク質の場合には、リン酸化またはアシル化によって修飾される。スイッチ制御リガンド配列の全範囲がどこまでである可能性があるのかについては、推定可能である。キナーゼの場合に役立つもう一つの事項としては、リガンドが、残基のDFG配列から始まることが多いことを挙げることができる(本明細書では、明細書を通じて一文字アミノ酸コードを使用する)。
【0042】
Ablキナーゼ
全長のBCR−Ablの配列を、本明細書では配列番号34で示す。このablキナーゼおよびbcr−abl融合タンパク質キナーゼのスイッチ制御リガンド配列の一つは、配列:D381、F382、G383、L384、S385、R386、L387、M388、T389、G390、D391、T392、Y393、T394、A395、H396(リガンド1)(配列番号1)によって構成されている。上流の調節キナーゼまたは自己リン酸化によって(bcr)ablが活性化すると、Y393がリン酸化され、したがって、Y393が、過渡的に修飾される残基である(Tanisら,Moleulcar and Cellular Biology(2003)23:3884、BrasherおよびVan Etten,The Journal of Biological Chemistry(2000)275:35631)。スイッチ制御リガンド配列は、DFGで始まり、H396で終わる。
【0043】
別のスイッチ制御リガンドは、配列Myr−G2Q3Q4P5G6K7V8L9G10D11Q12R13R14P15S16L17(リガンド2)(配列番号2)を有している。ablキナーゼのアイソフォーム1Bに特異的なリガンド2は、ablタンパク質配列のN末端キャップであり、より具体的には、G2(グリシン2)に位置するN末端ミリストリル基である(JacksonおよびBaltimore,(1989)EMBO Journal 8:449、Resh,Biochem Biophys. Acta(1999)1451:1)。
【0044】
p38−αキナーゼ
p38−αキナーゼ(配列番号3)のスイッチ制御リガンド配列は、配列: D168、F169、G170、L171、A172、R173、H174、T175、D176、D177、E178、M179、T180、G181、Y182、V183、A184、T185、R186、W187、Y188、R189(配列番号4)によって構成されている。p38−αが上流の調節キナーゼによって活性化されるとT180およびY182がリン酸化され(Wilsonら,Chemistry & Biology(1997)4:423およびこの文献の参考文献を参照のこと)、したがって、これらが過渡的に修飾可能な残基である。
【0045】
Gsk−3βキナーゼ
全長のGsk−3βキナーゼの配列を、本明細書では配列番号32で示す。1GNG結晶構造に対応するGsk−3βキナーゼの配列を、本明細書では配列番号33で示す。Gsk−3βキナーゼタンパク質のスイッチ制御リガンド配列は、配列:D200、F201、G202、S203、A204、K205、Q206、L207、V208、K209、G210、E211、P212、N213、V214、S215、Y216、I217、C218、S219、K220(Gskリガンド1)(配列番号5)によって構成され、上流の調節キナーゼによる活性化が生じるとY216がリン酸化される(Hughesら,EMBO Journal(1993)12:803、Lesortら,Journal of Neurochemistry(1999)72:576、ter Haarら,Nature Structural Biology(2001)8:593およびこれらの文献の参考文献を参照のこと。
【0046】
別のスイッチ制御リガンド配列は:G3、R4、P5、R6、T7、T8、S9、F10、A11、E12(Gskリガンド2)(配列番号6)であり、S9が、上流のキナーゼPKB/Aktの作用によってリン酸化される(Dajaniら,Cell(2001)105:721、Crossら,Nature(1995)378:785)。S9が過渡的に修飾可能な残基である。
【0047】
インシュリン受容体キナーゼ−1
全長のIRK−1遺伝子を、本明細書では、配列番号35で示す。1GAG結晶構造に対応する配列を、本明細書では、配列番号36で示す。配列番号36では、少なくとも最初の残基が、配列番号35と異なることに注意されたい。このインシュリン受容体キナーゼ−1のスイッチ制御リガンド配列は、配列:D1150、F1151、G1152、M1153、T1154、R1155、D1156、I1157、Y1158、E1159、T1160、D1161、Y1162、Y1163、R1164、K1165、G1166、G1167、K1168、G1169、L1170(配列番号7)によって構成されている。Y1158、Y1162、およびY1163が、過渡的に修飾可能な残基であり、インシュリン受容体がインシュリンによって活性化されるとリン酸化される(Hubbardら、EMBO Journal(1997)16:5572およびこの文献の参考文献を参照のこと)。
【0048】
タンパク質キナーゼB/Atk
全長のAtk1配列を、本明細書では、配列番号37で示す。タンパク質キナーゼB/Aktキナーゼのみのドメインを、本明細書では、配列番号38で示す。これらの配列は、N末端とC末端が異なっていることに注意されたい。また、キナーゼのみのドメインは、全長配列の残基143で始まっている。タンパク質キナーゼB/Atkのスイッチ制御リガンド配列は、P468、H469、F470、P471、Q472、F473、S474、Y475、S476、A477、S478(配列番号8)によって構成されている。S474が、過渡的に修飾可能な残基であり、上流のキナーゼ調節タンパク質による活性化が生じるとリン酸化され、リン酸化されていないPKB/Atkと比べて、PKB/Ptk活性を1,000倍上昇させる(Yangら、Molecular Cell(2002)9:1227およびこの文献の参考文献を参照のこと)。
【0049】
トランスフォーミング成長因子B−I受容体キナーゼ
TGF−B−I受容体キナーゼの全長配列を本明細書では、配列番号39で示す。このトランスフォーミング成長因子B−I受容体キナーゼのスイッチ制御リガンドが、T185、T186、S187、G188、S189、G190、S191、G192、L193、P194、L185、L196(配列番号9)である。T185、T186、S187、S189、およびS191が、過渡的に修飾可能な残基であり、トランスフォーミング成長因子B−II受容体のキナーゼ活性が活性化されると、一部または全体がリン酸化される(Wranaら,Nature(1994)370:341、ChenおよびWeinberg,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1995)92:1565)。
【0050】
工程2:スイッチ制御ポケットの識別と分類
スイッチ制御リガンドの識別の場合と同じく、相補的なスイッチ制御ポケットも、公開されたキナーゼのデータ、特に、X線結晶構造解析から推定することができる。この分析の最初の工程は、対応するスイッチ制御リガンド内の先に識別した過渡的に修飾可能な残基に結合する残基を識別する作業であった。
【0051】
Ablキナーゼ
ablキナーゼ(配列番号30)のX線結晶構造解析によって、1FPU(配列番号10)(Schlindlerら,Science(2000)289:1938)および1IEP(配列番号11)(Nagarら,Cancer Research(2002)62:4236)の構造にもとづく推定スイッチ制御ポケットの配列が明らかとなった。スイッチ制御ポケットの配列は、上記で識別したキナーゼのスイッチ制御リガンド1の配列と相補的であり、α−Cヘリックス(残基279〜293)と触媒ループ(残基359〜368)の組合せに由来する2つの塩基性アミノ酸のクラスターを備えている。具体的には、α−Cヘリックス由来のリシン285と、触媒ループ由来のアルギニン362が、スイッチ制御ポケットの一部を形成しており、ちなみに、これらの残基は、スイッチ制御リガンド由来の過渡的に修飾された(リン酸化)残基Y393の結合を安定化させる。スイッチ制御ポケットに寄与する他の予測されるアミノ酸残基としては、グリシンに富んだループ(残基253〜279)、N−lobe(残基271)、β−5ストランド(残基313〜318)由来の残基、α−Cヘリックス(残基280〜290)由来の他のアミノ酸、触媒ループ(残基359〜368)由来の他のアミノ酸が挙げられる。また、Cローブ残基401または416は、このポケットの基部を形成しているものと予測される。
【0052】
表1は、(bcr)ablキナーゼのリガンド1のスイッチ制御ポケットを形成するタンパク質配列由来のアミノ酸を示す。アミノ酸残基の位置に言及する場合は、いずれも、全長タンパク質に関するものであり、全長タンパク質の位置223から始まる配列番号30に関するものではない。
【0053】
【表1】
【0054】
ablキナーゼのX線結晶構造解析によって、リガンド2と相補的な構造1OPL(配列番号12および13)にもとづく推定スイッチ制御ポケットの配列が明らかとなった。ablキナーゼのアイソフォーム1Bの構造1OPLのX線結晶構造解析によって、この推定スイッチ制御ポケットが明らかとなる(Nagarら,Cell(2003)112:859)。
【0055】
表2は、(bcr)ablキナーゼのリガンド2と相補的なスイッチ制御ポケットを形成するタンパク質配列由来のアミノ酸配列を示す。
【0056】
【表2】
【0057】
p38−αキナーゼ
p38−αキナーゼ(配列番号31)のX線結晶構造解析によって、1KV2(配列番号14)の構造(Pargellisら;Nat.Struct,Biol.9,pp.268−272(2002))にもとづく推定スイッチ制御ポケットが明らかとなる。さきに識別したスイッチ制御リガンド配列のスイッチ制御ポケットは、α−Cヘリックス(残基61〜78)と触媒ループ(残基146〜155)の組合せに由来する2つの塩基性アミノ酸のクラスターを備えている。具体的には、アルギニン67および/またはアルギニン70は、α−Cヘリックスに由来し、アルギニン149は、触媒ループに由来する。スイッチ制御ポケットに寄与する他の予測されるアミノ酸としては、グリシンに富んだループ(残基34〜36)由来の残基、α−Cヘリックス(残基61〜78)由来のアミノ酸、触媒ループ(残基146〜155)由来のアミノ酸を挙げることができる。また、Cローブ残基197〜200由来のアミノ酸は、このポケットの基部を形成している。
【0058】
表3は、スイッチ制御ポケットを形成しているタンパク質配列由来のアミノ酸を示す。
【0059】
【表3】
【0060】
Gsk−3βキナーゼ
gsk−3βキナーゼのX線結晶構造解析によって、1GNG(配列番号15)、1H8F(配列番号16および17)、1109(配列番号18)および1O9U(配列番号28および29)の構造(Frameら,Molecular Cell,Vol.7,pp.1321−1327(2001)、Dajaniら,Cell,Vol.105,pp.721−732(2001)、Dajaniら,EMBO Journal,Vol.22,pp.494−501(2003)、およびter Haarら,Nature Structural Biology,Vol.8,pp.593−596(2001))にもとづくスイッチ制御ポケットが明らかとなる。さきに識別したスイッチ制御リガンド配列1および2に対応するスイッチ制御ポケットは、α−Cヘリックス(残基96〜104)と触媒ループ(残基177〜186)の組合せに由来する2つの塩基性アミノ酸のクラスターを備えている。具体的には、アルギニン96は、α−Cヘリックスに由来し、アルギニン180は、触媒ループに由来する。スイッチ制御ポケットに寄与する他の予測されるアミノ酸残基としては、グリシンに富んだループ(残基66〜68)に由来する残基、α−Cヘリックス(残基90〜104)に由来するアミノ酸、触媒ループ(残基177〜186)に由来するアミノ酸を挙げることができる。また、Cローブ残基233〜235由来のアミノ酸は、このポケットの基部を形成している。
【0061】
表4は、スイッチ制御ポケットを形成しているタンパク質配列由来のアミノ酸を示す
【0062】
【表4】
【0063】
インシュリン受容体キナーゼ−1
インシュリン受容体キナーゼ−1のX線結晶構造解析によって、1GAG(配列番号19および20)、1IRK(配列番号21)の構造(Parangら,Nat.Structural Biology,8,p.37(2001);Hubbardら,Nature,372,p.476(1994))にもとづくスイッチ制御ポケットが明らかとなる。スイッチ制御リガンド配列のスイッチ制御ポケットは、α−Cヘリックス(残基1037〜1054)と触媒ループ(残基1127〜1137)の組合せに由来する2つの塩基性アミノ酸のクラスターを備えている。具体的には、アルギニン1039は、α−Cヘリックスに由来し、アルギニン1131は、触媒ループに由来する。スイッチ制御ポケットに寄与する他の予測されるアミノ酸残基としては、グリシンに富んだループ(残基1005〜1007)に由来する残基、α−Cヘリックス(残基1037〜1054)に由来するアミノ酸、触媒ループ(残基1127〜1137)に由来するアミノ酸を挙げることができる。また、Cローブ残基1185〜1187由来のアミノ酸は、このポケットの基部を形成している。
【0064】
表5は、スイッチ制御ポケットを形成しているタンパク質配列由来のアミノ酸を示す
【0065】
【表5】
【0066】
タンパク質キナーゼB/Akt
タンパク質キナーゼB/AktのX線結晶構造解析によって、1GZK(配列番号22)、1GZO(配列番号23)、1GZN(配列番号24)の構造(Yangら、Molecular Cell(2002)9:1227)にもとづくスイッチ制御ポケットが明らかとなる。対応するスイッチ制御リガンド配列に対するスイッチ制御ポケットは、Bヘリックス(残基185〜190)、Cヘリックス(残基194〜204)、β−5ストランド(残基225〜231)に由来するアミノ酸残基から構成されている。具体的には、アルギニン202は、Cヘリックスに由来する。
【0067】
表6は、タンパク質キナーゼB/Aktのスイッチ制御ポケットを形成しているタンパク質配列由来のアミノ酸を示す
【0068】
【表6】
【0069】
トランスフォーミング成長因子B−I受容体キナーゼ
トランスフォーミング成長因子B−I受容体キナーゼのX線結晶構造解析によって、1B6C(配列番号25)の構造(Huseら,Cell(1999)96:425)にもとづくスイッチ制御ポケットが明らかとなる。スイッチ制御ポケットは、GS−1ヘリックス、GS−2ヘリックス、Nローブ残基253〜266、α−Cヘリックス残基242〜252に由来するアミノ酸残基によって構成されている。
【0070】
表7は、TGF B−I受容体キナーゼのスイッチ制御ポケットを形成しているタンパク質配列由来のアミノ酸を示す
【0071】
【表7】
【0072】
第二のスイッチ制御ポケットは、TGF B−1受容体キナーゼ中に存在している。このスイッチ制御ポケットは、上述の(bcr)abl(表1)、p38−αキナーゼ(表3)、gsk−3βキナーゼ(表4)について記載したポケットと類似している。TGF B−1は、ポケットに適合する明瞭な相補的なスイッチ制御リガンドを持たないものの、このポケットは、進化的に保存されており、小型分子スイッチ制御モジュレータの結合に際して利用可能となっている。このポケットは、グリシンに富んだループ、α−Cヘリックス、触媒ループ、スイッチ制御リガンド配列、Cローブに由来する残基から構成されている。
【0073】
表8は、スイッチ制御ポケットを形成しているタンパク質配列由来のアミノ酸を示す
【0074】
【表8】
【0075】
第三のスイッチ制御ポケットは、空間的には、ATP結合ポケットとα−Cヘリックスの間に位置しており、表9に特定した構築物に由来する残基から構成されている。このポケットは、αCヘリックスが「閉形態」に歪んだ結果形成され、阻害タンパク質FKBP12(配列番号26)が結合する(Huseら,Molecular Cell(2001)8:671を参照のこと)。
【0076】
表9は、第三スイッチ制御ポケットを形成しているタンパク質配列由来のアミノ酸を示す
【0077】
【表9】
【0078】
工程3:スイッチ制御リガンドとスイッチ制御ポケットとの相互作用の性質の確認、および小型分子の設計上適当な座位の識別
【0079】
1.一般的な計算法
スイッチ制御ポケット、そしてスイッチ制御ポケットとリガンドの相互作用をコンピュータを利用して描写するにあたっては、SurfNet(Laskowski,R.A,J.Mol.Graph.,1995,13,323)、PASS(G.Patrick Brady,G.P.Jr.;Stouten,P.F.W.,J.Computer−Aided Mol.Des.2000,14,383)、Voidoo(G.J.KleywegtおよびT.A.Jones(1994) Acta Cryst D50,178−185;http://www.iucr.ac.uk/journals/acta/tocs/actad/1994/actad5002.html;、およびSquares(Jiang,F.;Kim,S.−H.;“Soft−docking”: Matching of Molecular Surface Cubes,J.Mol.Biol.1991,219,79)を改変したものを、ポケットの可視化を行うGRASP(http://trantor.bioc.columbia.edu/grasp/)と組合わせて使用した。小型分子のケモタイプをこれらの推定部位にパニングおよびドッキングするにあたっては、SoftDock(http://www.scripps.edu/pub/olson−web/doc/autodock/;Morris,G.M.;Goodsell,D.S.;Halliday,R.S.;Huey,R.;Hart,W.E.;Belew,R.K.;Olson,A.J,J.Computational Chemistry,1998,19,1639]およびDock[http://www.cmpharm.ucsf.edu/kuntz/dock.html;Ewing,T.D.A.;Kuntz,I.D.,J.Comp.Chem.1997,18,1175]を、AMBERベース[http://www.amber.ucsf.edu/amber/amber.html]の束縛分子ダイナミクスと適宜組合わせて使用した。
【0080】
ポケット解析プログラムで使用される一般的なアプローチは、隙間領域を画定し、この領域を用いて、タンパク質表面で溶剤がアクセスするうえで利用できる穴を決定するというものである。隙間領域は、球または立方体を基本として把握し、隙間領域の画定に際しては、まず、2つ以上の原子間の領域を球または立方体(全形または裁頭形)で充填し、これらを使用して、3D密度マップを計算し、このマップの輪郭を描いて、隙間領域の表面を画定する。サーフネット(Surfnet)の使用者用マニュアルから抜粋した球についての一般的なアプローチは、下記のようなものである。
【0081】
a.2つの原子AおよびBのファンデルワールス面の間に、ちょうど各面に接触するように、試行隙間球が配置されている。
【0082】
b.隣接する原子について、順番に考えていく。いずれかの原子が、隙間球に貫入するようであれば、試行隙間球の半径を、隙間球が貫入している原子とちょうど接触するようになるまで低減する。この過程を、すべての隣接する原子について考慮するまで繰り返す。球の半径が、所定の最低限度(通常1.0A)に満たない場合には、この球は不適である。そうでない場合には、最終的な隙間球を保存する。
【0083】
この手順を、全ての原子のペアについて考慮し、隙間領域が球で充填されるまで継続する。
【0084】
d.次に、ガウス型関数を使用して、球を使用して格子点の3Dアレイ状の点を更新する。
【0085】
e. この更新は、格子の輪郭を100.0の輪郭レベルで描いた際に、得られる3D面が各隙間球と対応するように行う。
【0086】
f.すべての球で格子が更新されたら、最終的な3D輪郭が、相互貫入する隙間球の表面を表し、したがって、表面ポケットを構成するポケット原子群の範囲を確定することになる。
【0087】
ポケット分析に影響を及ぼす要因としては、格子点の間隔、用いる輪郭レベル、隙間を充填するのに使用する球の半径の最小および最大限度を挙げることができる。一般に、スイッチ制御ポケットのサイズおよび形状は、各個別プログラムによって決定された計算スイッチ制御ポケットを重ね合わせることによって見いだされるコンセンサス・ポケットによって描かれる。
【0088】
上述したように、スイッチ制御リガンドと1以上のスイッチ制御ポケットの相互作用が生じると、「複合型スイッチポケット」と称されるポケットが形成されることが見いだされた。この複合型スイッチポケットは、スイッチ制御リガンドおよびスイッチ制御ポケット由来のアミノ酸残基を含む配列を有している。
【0089】
別のケースでは、スイッチ制御ポケットまたは複合型スイッチ制御ポケットが、活性部位ポケット(たとえば、キナーゼのATPポケット)と重なって、「組合わせ型スイッチ制御ポケット」が形成されることがある。こうした組合わせ型スイッチ制御ポケットは、スイッチ制御阻害物質の役目をはたす小型分子との結合に際しての座位としても有用な可能性がある。
【0090】
複合型スイッチポケットおよび組合せ型スイッチポケットは、もちろん、スイッチ制御ポケットに関して上述したのと同じ技法を使用することによって解析することができる。
【0091】
Ablキナーゼ
SURFNETでのポケットの解析を図10に示す。スイッチ制御ポケットを青で強調してある。このスイッチ制御ポケットをGRASPで見たところを、図11に示す。図中、タンパク質の複合型ポケット領域を丸で囲んである。図12に、(bcr)ablキナーゼの複合型スイッチ制御ポケットを構成する鍵アミノ酸残基を示す。複合型ポケットを構成するアミノ酸残基は、先に識別したスイッチ制御リガンドおよびスイッチ制御ポケットによって提供される。スイッチ制御ポケットの模式図を、図6に示す。
【0092】
表10に、複合型ポケットを構成している具体的なアミノ酸残基を示す。
【0093】
【表10】
【0094】
この複合型スイッチ制御ポケット用の小型分子の当初の設計では、Nローブのβストランド残基(M278)、α−Cヘリックス(E282、K285)、α−Eヘリックス(F359)、触媒ループ(I360、H361、R362、D363、N368)、スイッチ制御リガンド配列(R386、L387、Y393)、Cループ残基(F401)、およびα−Fヘリックス(F416)に由来するアミノ酸と結合する化学プローブに焦点をあてた。この複合型スイッチ制御ポケットを利用すると、この(bcr)ablキナーゼ複合型スイッチ制御ポケット内に繋ぎ止められる阻害物質を設計することができる。
【0095】
スクリーニング用に選択された代表的な化合物は、N−(4−メチル−3−(4−フェニルピリミジン−2−イルアミノ)フェニル)−L−4−(2−オキソ−4−フェニル−オキサゾリジニル−3−カルボニル)ベンズアミドである。
【0096】
図13は、(bcr)ablキナーゼの組合わせ型スイッチ制御ポケットを構成する鍵アミノ酸残基を示す。組合せ型ポケットを構成するアミノ酸残基は、先に識別したスイッチ制御リガンド、スイッチ制御ポケット、ATP活性部位に由来する。組合わせ型スイッチ制御ポケットの模式図を、図7に示す。
【0097】
表11に、組合せ型ポケットを構成している具体的なアミノ酸残基を示す。
【0098】
【表11】
【0099】
この組合わせ型スイッチ制御ポケットを利用すると、この(bcr)ablキナーゼの組合わせ型スイッチ制御ポケット内に繋ぎ止められる阻害物質を設計することができる。
【0100】
スクリーニング用に選ばれた代表的な化合物としては、N−[4−メチル−3−(4−ピリジン−3−イル−ピリミジン−2−イルアミノ)−フェニル]−4−(1,1,3−トリオキソ−[1,2,5]チアジアゾリジン−2−イルメチル)−ベンズアミド、−[4−メチル−3−(4−ピリジン−3−イル−ピリミジン−2−イルアミノ)−フェニル]−D−4−(2−オキソ−4−フェニル−オキサゾリジニル−3−カルボニル)ベンズアミド、−[4−メチル−3−(4−ピリジン−3−イル−ピリミジン−2−イルアミノ)−フェニル]−L−4−(2−オキソ−4−フェニル−オキサゾリジニル−3−カルボニル)ベンズアミド、−[4−メチル−3−(4−ピリジン−3−イル−ピリミジン−イルアミノ)−フェニル]−4−(4,4−ジオキソ−4−チオモルホリノメチル)ベンズアミド、およびN−(3−(4−(ピリジン−3−イル)ピリミジン−2−イルアミノ)−4−メチルフェニル)−4−((1−メチル−3,5−ジオキソ−1,2,4−トリアゾリジン−4−イル)メチル)ベンズアミドを挙げることができる。
【0101】
p38−αキナーゼ
SURFNETでポケットを解析した図を図14に示す。複合型スイッチ制御ポケットを青で強調してある。この複合型スイッチ制御ポケットをGRASPで見たところを、図15に示す。
【0102】
図16は、p38−αキナーゼの複合型スイッチ制御ポケットを構成する鍵アミノ酸残基を示す。これらのアミノ酸は、グリシンに富んだループ(Y35)、α−Cヘリックス(I62、I63、R67、R70、L74、L75、M78)、α−Dヘリックス(I141、I146)、触媒ループ(I147、H148、R149、D150、N155)、Nローブストランド(L167)、スイッチ制御リガンド配列(D168、F169)、およびα−Fヘリックス(Y200)に由来するものである。複合型ポケットを構成している具体的なアミノ酸残基については、下表で説明する。
【0103】
表12に、複合型スイッチ制御ポケットを形成しているタンパク質配列由来のアミノ酸を示す。
【0104】
【表12】
【0105】
この複合型スイッチ制御ポケットを利用すると、このp38−αキナーゼのスイッチ制御ポケット内に繋ぎ止められる制御物質を設計することが可能となる。
【0106】
代表的な化合物としては、3−{4−[3−tert−ブチル−5−(3−(4−クロロフェニル)ウレイド−1H−ピラゾール−1−イル}フェニル)プロパン酸、3−{4−[3−tert−ブチル−5−(3−(ナフタレン−1−イル)ウレイド]−1H−ピラゾール−1−イル}フェニル)プロパン酸、3−(3−{3−tert−ブチル−5−[3−(4−クロロフェニル)ウレイド]−1H−ピラゾール−1−イル)フェニル)プロピオン酸、3−(3−{3−tert−ブチル−5−[3−(ナフタレン−1−イル)ウレイド]−1H−ピラゾール−1−イル)フェニルプロピオン酸、1−{3−tert−ブチル−1−[3−(カルバモイルメチル)フェニル)−1H−ピラゾール−5−イル}−3−(4−クロロフェニル)尿素、および1−{3−tert−ブチル−1−[3−(2−モルホリノ−2−オキソエチル)フェニル]−1H−ピラゾール−5−イル}−3−(ナフタレン−1−イル)尿素を挙げることができる。
【0107】
Gsk−3βキナーゼ
ポケットをSURFNETで解析した図を、図17に示す。図中では、複合型スイッチ制御ポケットが青で強調してある。この複合型スイッチ制御ポケットのGRASPによる解析図を、図18に示す。
【0108】
図19は、gsk−3βキナーゼの複合型スイッチ制御ポケットを構成する鍵アミノ酸残基を示す。残基は、グリシンに富んだループ(F67)、α−Cヘリックス(R96、I100、M101、L104)、α−Dヘリックス(I141、I146)、触媒ループ(I177、C178、H179、R180、D181、N186)、スイッチ制御リガンド配列(D200、F201、S203、K205、L207、V208、P212、N213、V214、Y216)、およびα−Fヘリックス(Y200)に由来するものである。このポケットを利用すると、このgsk−3βキナーゼ複合型スイッチ制御ポケット内に繋ぎ止められる小型分子モジュレータ化合物を設計することができる。
【0109】
表13に示す複合型ポケットは、デュアル機能性を備えたスイッチ制御ポケットである。このポケットは、相補的なリガンド配列1(Gskリガンド1)と結合すると、タンパク質の活性を上方調節するオンのポケットとして機能する。また、このポケットは、相補的なリガンド配列2(Gskリガンド2)と結合すると、タンパク質の活性を下方調節するオフのポケットとして機能する。
【0110】
表13に、複合型スイッチ制御ポケットを形成しているタンパク質配列由来のアミノ酸を示す。
【0111】
【表13】
【0112】
工程4:各種のスイッチ制御状態に静的に封じ込められたタンパク質の発現および精製
遺伝子の合成:遺伝子は、ソフトウェア(Gene Builder(登録商標)、Emerald/deCODE Genetics社製)を使用してコドンの使用を最適化することにより、完全に合成オリゴヌクレオチドから製造した。全遺伝子の合成を行うと、コドンを最適化した遺伝子を迅速に合成することができる。制限部位を戦略的に配置すると、必要に応じて、突然変異を迅速に付加することができる。
【0113】
タンパク質は、バキュロウイルスに感染させた昆虫細胞または大腸菌の発現系で発現させた。遺伝子は、場合によっては、アフィニティ・タグを導入することによって修飾することもでき、この場合、タグを付したタンパク質の一工程での抗体−アフィニティ精製を行うことが可能となることも多い。構築物は、結晶性、リガンドとの相互作用、精製、コドンの使用に関して最適化した。昆虫細胞培養能力が月100リットル以上の容量11リットルのバイオリアクター(Wave Bioreactor)2基を使用した。
【0114】
タンパク質の精製:タンパク質の精製には、AKTA精製装置、AKTA FPLC、Parr Nitrogen Cavitation Bomb、EmulsiFlex−C5ホモジナイザー、Protein Maker(登録商標)タンパク質製造装置(Emeraldの自動並行精製装置)を使用した。精製タンパク質の特性解析には、蛍光分光法、MALDI−ToF質量分析、動的光散乱の機器を使用した。
【0115】
全細胞のペーストを、窒素キャビテーション、フレンチプレス、またはミクロ流動化で破砕した。抽出物を、Protein Maker(登録商標)装置を使用して、タンパク質の並行精製に供した。このProtein Makerは、Emeraldによって開発されたロボット装置で、(Glu−mAb、金属キレート、Q−seph、S−Seph、フェニル−Seph、およびシバクロンブルーを含む)複数の精製カラムで精製を同時に行うことができる。得られた分画は、SDS−PAGEで解析した。精製タンパク質は、各種の生物物理学的アッセイ(動的光散乱、紫外線吸収、MALDI−ToF、分析用ゲル濾過など)に供して、精製レベルを測定した。
【0116】
Ablキナーゼ
Abl構築物1(キナーゼドメイン、6xHis−TEVタグ、残基248−534)、Abl構築物2(キナーゼドメイン、Glu−6xHis−TEVタグ、残基248−518)、abl構築物3(キナーゼドメイン、Glu−6xHis−TEVタグ、残基248−518、Y412Fの変異)、abl構築物4(アイソフォーム、K29R/E30Dの変異を含む1B1−531、TEV−6xHis−Glu)、abl構築物5(K29R/E30D/Y412Fの変異を含むアイソフォーム1B1−531)の全遺伝子合成およびサブクローニングを完了し、昆虫細胞でトランスフェクションを実施した。Bcr−abl構築物1(Glu−6xHis−TEVタグ、残基1−2029)およびbcr−abl構築物2(Glu−6xHis−TEVタグ、残基1−2029;Y412F変異体)も同様に調製し、昆虫細胞にトランスフェクションした。トランスフェクション生成物を、必要に応じて、ATP競合阻害物質PD180790またはGleevecの存在下でフェルンバッハで培養して、生成した(bcr)Ablタンパク質が、Y245またはY412でリン酸化されていないことを確認した(Tanisら,Molecular Cell Biology,Vol.23,p 3884,(2003)、Van Ettenら,Journal of Biological Chemistry,Vol.275,p 35631,(2000)を参照されたい)。タンパク質の発現レベルを、免疫沈降法とSDS−Pageで測定した。abl構築物1および2のタンパク質の発現レベルは、10mg/Lを超えていた。これらの阻害物質の存在下で発現された精製タンパク質のPy20(抗ホスホチロシン抗体)ウェスタン・ブロッティングを行って、これらのタンパク質が、Y245またはY412でリン酸化されていないことを確認した。
【0117】
図20および21は、ニッケル・アフィニティクロマトグラフィー(図20)、およびその後のPOROS HQ陰イオン交換クロマトグラフィー(図21)の後にPD180970の存在下で発現されたabl−構築物2の純度を示す。図22は、ニッケル・アフィニティクロマトグラフィーで得られたabl構築物2についての溶出特性を示し、図23は、POROS HQ陰イオン交換クロマトグラフィーで得られたAbl構築物2についての溶出特性を示す。この形態のablは、リン酸化されていない物理的状態にある。
【0118】
図24は、tevプロテアーゼで処理してGlu−6xHis−TEVアフィニティ・タグを除去した後のAbl構築物2の溶出特性を示す。分画17〜19には、Glu−6x/His−TEVタグが無傷のままのablタンパク質が含有されており、分画20〜23には、Glu−6xHis−TEVタグが除去されたablタンパク質が含有されている。プール分画20〜23を紫外線で解析すると(図25)、吸収の最大が360nmに見られ、ATP競合阻害物質PD180970がablのATPポケットに結合したまま存在していること示唆され、ablタンパク質が、発現および精製の間も、非リン酸化状態に保持されていることが確認された。
【0119】
図26は、ニッケル・アフィニティクロマトグラフィーおよびQ−Sepharoseでのクロマトグラフィーで精製したabl構築物5タンパク質(ablの1−531、Y412F変異体)の溶出プロファイルを示す。図27は、精製プール分画のSDS−Pageでの解析結果を示す。
【0120】
p38−αキナーゼ
p38−αキナーゼ構築物1(6xHis−TEVタグ、全長)または構築物2(Glu−6xHis−TEVタグ、残基5−354)の全遺伝子合成を完了し、タンパク質をアラビノース誘導性ベクターおよびT7プロモータベクターの双方を使用して大腸菌で発現させた。2種の発現ベクター(pET15bおよびpBAD)でのp38−αキナーゼの発現を、0.5MのIPTG(pET15b)または0.2%のアラビノース(pBAD)による誘導の後に調べた。タンパク質の発現は、免疫沈降法およびSDS−Pageで測定した。誘導後のpBAD構築物でのp38−αの発現は、抗GLUモノクローナル抗体を用いた免疫沈降で明瞭に示された。
【0121】
図28は、Q−セファロースを用いたクロマトグラフィーでのp38−αタンパク質の溶出プロファイルを示す。プール精製分画のSDS−Pageの結果を、図29に示す。
【0122】
Gsk−3βキナーゼ
構築物1(6xHis−TEVタグ、全長、1H8Fタンパク質と同配列)、構築物2(10xHis、残基27−393、1GNGタンパク質と同配列)、構築物3(Glu−6xHis−TEVタグ、残基35−385)について、全遺伝子合成を完了した。昆虫細胞でトランスフェクションを行った。タンパク質の発現を、免疫沈降法およびSDS−Pageで測定した。構築物3の発現レベルは、5mg/Lを超えていた。gsk−3βタンパク質の精製で用いた手順では、スイッチ制御リガンドの非リン酸化キナーゼ(GSK−P)とスイッチ制御リガンドのリン酸化キナーゼ(GSK+P)の双方の形態を、同じ発現過程で単離することが可能であった。ニッケル・アフィニティクロマトグラフィーを、20mMのHEPESバッファー(pH7.5)で実施した。この工程に引き続いて、POROS HS(陽イオン交換クロマトグラフィーを行った。図30は、GSK+Pタンパク質のMALDI−TOFスペクトルであり、予測分子イオンが42862Daであることが示されている。
図31は、GSK−Pタンパク質のMADLI−TOFスペクトルであり、予測分子イオンが42781であることが示されている。
【0123】
図32および33に、POROS HSクロマトグラフィーの分画を、SDS−PAGEによって解析し、ホスホチロシン抗体PY−20で染色したものを示す。分画10〜15は、PY−20抗体によってイメージングされ、スイッチ制御リガンドのチロシン残基にリン酸塩が存在していることが示唆された。分画17〜29は、PY−20抗体によってはイメージングされず、スイッチ制御リガンドのチロシンのリン酸化が生じていないことが示唆された。
【0124】
工程5:小型分子スイッチ制御モジュレータ候補を用いた精製タンパク質のスクリーニング
P38−αキナーゼのスクリーニング/P38MAPキナーゼの結合アッセイ
小型分子モジュレータのp38MAPキナーゼに対する結合活性を、公開された方法(C.Pargellisら,Nature Structural Biology(2002)9,268−272、J.Reganら,J.Med.Chem.(2002)45,2994−3008)で修飾したSKF86002を蛍光プローブとして用いた競合アッセイで測定した。概述すると、p38キナーゼ(Kd=180nM)の有力な阻害物質であるSKF86002は、キナーゼとの結合時に340nmで励起されると420nm周辺で蛍光を発する。したがって、p38キナーゼの阻害物質の結合アフィニティは、SKF86002からの蛍光を低減する能力によって測定することができる。SKF86002は、p38−αキナーゼのATP活性部位ポケットの合体状況に関してのレポーターの役目を果たす蛍光プローブ物質となる。p38−αキナーゼのスイッチ制御ポケットと結合する小型分子モジュレータは、タンパク質のコンホメーションを歪ませて、蛍光プローブSKF86002の結合能力を妨害する。したがって、小型分子が、蛍光プローブの結合を妨害する能力を利用して、スイッチ制御ポケットに対する結合状態を実験的に読み取ることができる。対照実験を実施して、小型分子モジュレータが、ATPポケットで競合することによって、蛍光プローブの結合と直接競合するかどうかについて判定した。アッセイは、Polarstar Optimaプレートリーダー(BMG)に載置した384プレート(Greiner nuclear 384プレート)で実施した。具体的には、反応混合物は、0.15%(w/v)のn−オクチルグルコシドと2mMのEDTAとを含有する20mMのBis−Trisプロパン緩衝液(pH7)中に、1μMのSKF86002、80nMのp38キナーゼ、および各種濃度の阻害物質を含んでいた(最終容積65μl)。酵素を加えることによって反応を開始した。プレートを、室温(約25℃)で2時間インキュベートし、その後、420nmでの発光および340nmでの励起を読み取った。rfu(相対蛍光ユニット)値を、対照(小型分子モジュレータ不在のもの)の値と比較することによって、小型分子の各濃度での阻害率を計算した。小型分子モジュレータのIC50の値を、小型分子モジュレータの濃度範囲で得られた阻害率の値から、Prismで計算した。時間依存性の阻害について評価する場合には、プレートを複数の反応時間、たとえば、0.5、1、2、3、4、および6時間で読み取った。IC50の値を、各時点について計算した。IC50の値が反応時間とともに(4時間に2倍以上)低減する場合には、阻害が時間依存性であると認定した。
【0125】
【表14】
IC50の値は、反応時間2時間で得たものである
【0126】
工程6:タンパク質の調節についてのスイッチ制御機構の確認
【0127】
タンパク質に対するアフィニティを有するか、タンパク質活性の機能的調節を示すことが見いだされた小型分子を、生化学的に調べて、結合または機能の調節が、天然のリガンド部位(たとえば、キナーゼタンパク質のATP部位)と非競合性または未競合性であるかどうかについて判定した。この過程は、標準的なLineweaver−Burk型の解析を行うことによって実施した。
【0128】
スイッチ制御モジュレータの各種タンパク質との結合モードを、X線結晶構造解析またはNMR法で判定した。以下のセクションでは、分子の結合モードを判定する際に使用したX線結晶構造解析技術の概要を説明する。
【0129】
X線結晶構造解析を使用した、タンパク質調節のスイッチ制御機構の判定
【0130】
1.結晶化の実験施設:結晶化の試行のデータは、すべて、専用に構築したデータベース・ソフトウェアを使用して捕捉し、このソフトウェアは、結晶化試験を行い、結果を監視する各種のロボット装置を駆動する。B. コンピュータ・ハードウェア:Multiple Linuxのワークステーション、Windows(登録商標)2000のサーバー、およびSilicon GraphicsのO2のワークステーション。 C. X線結晶構造解析ソフトウェア: HKL2000(DENZOおよびSCALEPACKを含む)(X線回折データの処理)、MOSFILM、CCP4スイーツ(AMORE、MOLREP、およびREFMACを含む)(分子置換、MIR、およびMADによるフェージングをはじめとする各種の結晶構造解析計算オペレーション)、SnB(重原子の位置)、SHARP(重原子のフェージング・プログラム)、CNX(モデルの精緻化をはじめとする各種の結晶構造解析計算オペレーション)、EPMR(分子置換)、XtalView(モデルの可視化および構築)。
【0131】
2.結晶の成長とX線による品質分析:スパース行列および集束結晶化スクリーンを、リガンド有りと無しの場合について2以上の温度で用意する。リガンド無しで得た結晶(アポ結晶)をリガンド含浸実験に用いる。適当なタンパク質結晶が得られたら、スクリーニングを行って、各種の凍結保存状態について、R−AXIS IVイメージングプレート装置およびX−STREAMクリオスタットで、タンパク質結晶の回折能を測定する。回折能のよいタンパク質結晶を、インハウスでのX線回折データの収集に使用するか、液体窒素中でその後のシンクロトロンX線放射源(アルゴンヌ国立研究所の高度光子源のCOM−CATビームラインまたは他のシンクロトロンビームライン)でのデータ収集用に保存する。タンパク質結晶の回折限界を、少なくとも2回回折画像を、90°の間隔をおいたφスピンドルで撮影することによって決定する。回折画像を収集する間は、φスピンドルを1°揺動する。双方の画像を、X線データ解析のHKL−2000スイートと分解ソフトウェアで処理する。タンパク質結晶の回折解像回折解像度は、インデクシングした反射の50%以上が1シグマ以上の強さを有する解像シェルの高い側の解像限界として受け取る。
【0132】
3.X線回折データの収集:完全なデータセットとは、解像度が最大のシェルでの全ての反射の90%以上を収集した場合として定義するものである。X線回折データは、X線回折データ処理用のソフトウェアのHKL−2000スイートを使用して処理する(固有反射と強度に分解する)。
【0133】
4.構造の決定:タンパク質−小型分子複合体の構造を、PDBから入手可能な1以上のタンパク質検索モデルを利用して、分子置換(MR)で決定する。必要に応じて、構造の決定は、重原子を用いた多重重原子同型置換法(MIR)および/または多波長異常分散(MAD)法で行う。結晶(重原子を含まない母液または凍結保護物質で洗浄後のもの)のEXAFSスキャンで適当な重原子シグナルが得られた場合には、重原子を含浸させた結晶についてのMADシンクロトロンのデータセットを集める。誘導化のための重原子のデータセットの解析は、計算プログラムのCCP4結晶構造解析スイートを使用して行うことができる。重原子の部位を、(│FPH│−│FP│)2の差のパターソンおよび(│F+│−│F−│)2の異常差パターソン図で識別する。
【0134】
工程7:上記工程の繰り返しによる、小型分子のスイッチ制御モジュレータの改良
【0135】
タンパク質活性を調節することが見いだされた各小型分子を、タンパク質スーパーファミリー内の他のタンパク質(たとえば、候補タンパク質がキナーゼである場合なら、他の各種キナーゼ)、またタンパク質ファミリー間(たとえば、候補タンパク質がキナーゼである場合なら、ホスファターゼおよび転写因子のような他の各種のタンパク質クラス)でのアフィニティおよび機能の調節について評価した。小型分子のスクリーニング・ライブラリーも、このスクリーニング・パラダイム内で評価を行った。構造活性関係(structure activity relationships、SAR)も評価し、その後、小型分子を、候補タンパク質に対してより有効となるように、および/または、候補タンパク質の調節に関しての選択的が増し、標的タンパク質と対抗的なタンパク質との相互作用が低減するように設計した。
【0136】
キナーゼタンパク質の解析によって、スイッチ制御ポケットには、相補的なスイッチ制御リガンドに対する結合のしかたによって分類される4つの種類があること、すなわち、(1)通常は、相補的なスイッチ制御リガンド(帯電リガンド)で、セリン、トレオニン、またはチロシンアミノ酸残基がリン酸化されることによって、または、メチオニンまたはシステインアミノ酸の硫黄原子が酸化されることによって形成される帯電リガンドを安定化して結合するポケット、(2)水素結合または疎水性の相互作用(水素結合/疎水性リガンド)の機序によってリガンドに結合するポケット;(3)アシル化残基(アシル化リガンド)を有するリガンドを結合するポケット、および(4)リガンドと内因的に結合することはないものの、非天然のスイッチ制御モジュレータ化合物(非識別リガンド)と結合しうるポケット、の4種類があることが明らかとなった。また、これらの4種類のポケットは、図1〜4に模式的に示す単純型のポケット、図6に示す複合型のポケット、または図7の複合型のポケットである可能性がある。最後に、ポケットは、ポケットが有するスイッチ制御の機能性によって定義することもでき、すなわち、ポケットは、スイッチ制御リガンドと相互に作用すると、生物学的に情報調節されたコンホメーションを生じるオンのタイプである場合、スイッチ制御リガンドと相互に作用すると、生物学的に下方調節されたコンホメーションを生じるオフのタイプである場合、そして「デュアル機能性」ポケットと称する、すなわち、同じポケットが、異なった相補的なスイッチ制御リガンドと相互に作用することによって、オンのポケットとオフのポケットの両方の役目をはたすことを意味するポケットである場合がある。これと同じ一連のポケットは、すべての対象タンパク質、すなわち、スイッチ制御リガンド配列と相補的なスイッチ制御ポケットとの相互作用によってコンホメーションの変化が生じるようなタンパク質のすべてで見いだすことができる。
【0137】
下記の表15は、工程2および3で説明したポケットを、ポケットの分類および種類に関して、さらに識別するものである。
【0138】
【表15】
【0139】
本発明の主目的は、選択されたタンパク質の1以上のスイッチ制御ポケットの領域に結合して、タンパク質の活性を調節する非天然小型分子のモジュレータ化合物の設計、開発を可能とすることである。この機能的目標は、スイッチ制御ポケットの種類(オン、オフ、デュアル)、選択したモジュレータ化合物の性質、モジュレータ化合物とタンパク質の間の相互作用的結合の種類に応じて、いくつかの異なった方法で達成することができる。
【0140】
たとえば、選択されたモジュレータ化合物は、選択されたスイッチ制御ポケットに、スイッチ制御リガンドのアゴニストとして結合することができ、すなわち、モジュレータ化合物は、天然の相補的なスイッチ制御リガンドによって生じるのと同じタイプのコンホメーションの変化を生じることができる。さしたがって、スイッチ制御リガンドのアゴニストが、オンのポケットと結合した場合には、結果として、タンパク質の活性の上方調節が生じ、オフのポケットと結合した場合には、下方調節が生じる。
【0141】
これとは逆に、所定のモジュレータは、スイッチ制御リガンドのアンタゴニストとして結合することもでき、すなわち、モジュレータ化合物は、天然の相補的なスイッチ制御リガンドによって生じるのとは逆のタイプのコンホメーションの変化を生じることもできる。したがって、スイッチ制御リガンドのアンタゴニストが、オンのポケットと結合した場合には、結果として、タンパク質の活性の下方調節が生じ、オフのポケットと結合した場合には、上方調節が生じる。
【0142】
デュアル機能性のポケットの場合、また非識別リガンドが存在するポケットの場合には、モジュレータ化合物は、生じる応答の種類に応じて、機能的アゴニストとして作用している場合も、機能的アンタゴニストとして作用している場合もある。
【0143】
<実施例2>
スイッチ制御小型分子候補の合成
以下の実施例では、キナーゼタンパク質と相互作用するスイッチ制御分子の候補として特に有用な化合物の合成について説明する。これらの実施例では、アルファベットを付した実施例は、中間生成物の合成について、番号を付した実施例は、最終化合物の合成について記載したものである。
[Boc−スルファミド]アミノエステル(反応物質AA)、1,5,7,−トリメチル−2,4−ジオキソ−3−アザ−ビシクロ[3.3.1]ノナン−7−カルボン酸(反応物質BB)、およびケンプ酸無水物(反応物質CC)を、文献の方法に従って製造した。詳細については、Askewら、J.Am.Chem.Soc.1989,111,1082を参照されたい。
【0144】
実施例A
【0145】
【化1】
m−アミノ安息香酸(200g、1.46mol)の濃HClへの溶液(200mL)に、NaNO2(102g、1.46mol)の水溶液(250mL)を0℃で加えた。反応混合物を1時間撹拌し、SnCl2・2H2O(662g、2.92mol)の濃HCl(2L)への溶液を0℃で加え、反応系をさらに室温で2時間撹拌した。沈殿を濾別し、エタノールおよびエーテルで洗浄したところ、3−ヒドラジノ安息香酸ヒドロクロリドが、白色固形物として得られた。
前反応で得られた粗生成物(200g、1.06mol)と4,4−ジメチル−3−オキソ−ペンタンニトリル(146g、1.167mol)のエタノール(2L)溶液を一晩加熱還流した。反応溶液を真空中で蒸発させ、残留物をカラムクロマトグラフィーで精製したところ、3−(3−tert−ブチル−5−アミノ−1H−ピラゾール−1−イル)安息香酸エチル(実施例A、116g、40%)が白色固形物として、3−(5−アミノ−3−tert−ブチル−1H−ピラゾール−1−イル)安息香酸(93g、36%)とともに得られた。1H NMR(DMSO−d6):8.09(s,1H),8.05(brd,J=8.0Hz,1H),7.87(brd,J=8.0Hz,1H),7.71(t,J=8.0Hz,1H),5.64(s,1H),4.35(q,J=7.2Hz,2H),1.34(t,J=7.2Hz,3),1.28(s,9H).
【0146】
実施例B
【0147】
【化2】
イソシアン酸1−ナフチル(9.42g、55.7mmol)とピリジン(44mL)のTHF(100mL)への溶液に、実施例A(8.0g、27.9mmol)のTHF(200mL)への溶液を0℃で加えた。混合物を室温にて1時間撹拌し、固形分がすべて溶解するまで加熱し、室温にてさらに3時間撹拌し、H2O(200mL)で急冷した。沈殿物を濾過し、希HClおよびH2Oで洗浄し、真空中で乾燥して、3−[3−t−ブチル−5−(3−ナフタレン−1−イル)ウレイド)−1H−ピラゾール−1−イル]安息香酸エチル(12.0g、95%)を、白色粉末として得た。1H NMR(DMSO−d6):9.00(s,1H),8.83(s,1H),8.25 7.42(m,11H),6.42(s,1H),4.30(q,J=7.2Hz,2H),1.26(s,9H),1.06(t,J=7.2Hz,3H);MS(ESI)m/z:457.10(M+H+).
【0148】
実施例C
【0149】
【化3】
実施例A(10.7g、70.0mmol)のピリジン(56mL)とTHF(30mL)の混合物への溶液に、カルバミン酸4−ニトロフェニル4−クロロフェニル(10g、34.8mmol)のTHF(150mL)への溶液を0℃で加えた。混合物を、室温にて1時間撹拌し、固形分がすべて溶解するまで加熱し、室温にてさらに3時間撹拌した。H2O(200mL)とCH2Cl2(200mL)を加え、水相を分離し、CH2Cl2(2×100mL)で抽出した。有機層を一緒にし、1N NaOH、0.1N HCl、および飽和食塩水で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥した。溶剤を真空中で除去したところ3−{3−tert−ブチル−5−[3−(4−クロロフェニル)ウレイド]−1H−ピラゾール−1−イル}安息香酸エチル(8.0g、52%)が得られた。1H NMR(DMSO−d6):δ9.11(s,1H),8.47(s,1H),8.06(m,1H),7.93(d,J=7.6Hz,1H),7.81(d,J=8.0Hz,1H),7.65(dd,J=8.0,7.6Hz,1H),7.43(d,J=8.8Hz,2H),7.30(d,J=8.8Hz,2H),6.34(s,1H),4.30(q,J=6.8Hz,2H),1.27(s,9H),1.25(t,J=6.8Hz,3H);MS(ESI)m/z:441(M++H).
【0150】
実施例D
【0151】
【化4】
実施例B(8.20g、18.0mmol)のTHF(500mL)への溶液に、かきまぜながら、LiAlH4粉末(2.66g、70.0mmol)を、N2中で−10℃にて加えた。混合物を、室温にて2時間撹拌し、過剰のLiAlH4を、氷を徐々に加えることによって分解した。反応混合物を、希HClでpH7まで酸性化し、真空中で濃縮し、残留物をEtOAcで抽出した。有機層を一緒にして、真空中で濃縮したところ、1−{3−tert−ブチル−1−[3−(ヒドロキシメチル)フェニル]−1H−ピラゾール−5−イル}−3−(ナフタレン−1−イル)尿素(7.40g、99%)が、白色粉末として得られた。1H NMR(DMSO−d6):9.19(s,1H),9.04(s,1H),8.80(s,1H),8.26−7.35(m,11H),6.41(s,1H),4.60(s,2H),1.28(s,9H);MS(ESI)m/z:415(M+H+).
【0152】
実施例E
【0153】
【化5】
実施例C(1.66g、4.0mmol)とSOCl2(0.60mL、8.0mmol)のCH3Cl(100mL)への溶液を3時間還流し、真空中で濃縮して、1−{3−tert−ブチル−1−[3−クロロメチル)フェニル]−1H−ピラゾール−5−イル}−3−(ナフタレン−1−イル)尿素(1.68g、97%)を白色粉末として得た。1H NMR(DMSO−d6):δ9.26(s,1H),9.15(s,1H),8.42−7.41(m,11H),6.40(s,1H),4.85(s,2H),1.28(s,9H).MS(ESI)m/z:433(M+H+).
【0154】
実施例F
【0155】
【化6】
実施例C(1.60g、3.63mmol)のTHF(200mL)への溶液に、撹拌しながら、LiAlH4粉末(413mg、10.9mmol)を、N2中で−10℃にて加えた。混合物を2時間撹拌し、氷を加えることによって過剰なLiAlH4を急冷した。溶液を希HClで酸性化してpH7とした。溶液を徐々に除去し、固形分を濾過し、EtOAc(200+100mL)で洗浄した。濾液を濃縮したところ、1−{3−tert−ブチル−1−[3−ヒドロキシメチル)フェニル]−1H−ピラゾール−5−イル}−3−(4−クロロフェニル)尿素(1.40g、97%)が得られた。1H NMR(DMSO−d6):δ9.11(s,1H),8.47(s,1H),7.47−7.27(m,8H),6.35(s,1H),5.30(t,J=5.6Hz,1H),4.55(d,J=5.6Hz,2H),1.26(s,9H);MS(ESI)m/z:399(M+H+).
【0156】
実施例G
【0157】
【化7】
実施例F(800mg、2.0mmol)とSOCl2(0.30mL、4mmol)のCHCl3(30mL)への溶液を、3時間にわたって穏やかに還流した。溶剤を真空中で蒸発させ、残留物をCH2Cl2(2×20mL)に加えた。溶剤を除去すると、1−{3−tert−ブチル−1−[3−(クロロメチル)フェニル]−1H−ピラゾール−5−イル}−3−(4−クロロフェニル)尿素(812mg、97%)が白色粉末として得られた。1H NMR(DMSO−d6):δ9.57(s、1H)、8.75(s、1H)、7.63(s、1H)、7.50−7.26(m、7H)、6.35(s、1H)、4.83(s、2H)、1.27(s、9H);MS(ESI)m/z:417(M+H+).
【0158】
実施例H
【0159】
【化8】
LiAlH4(5.28g、139.2mmol)のTHF(1000mL)への懸濁液に、実施例A(20.0g、69.6mmol)をN2中で0℃にて少量ずつ加えた。反応混合物を5時間撹拌し、0℃の1N HClで急冷し、沈殿物を濾過し、EtOAcで洗浄し、濾液を蒸発させたところ、[3−(5−アミノ−3−tert−ブチル−1H−ピラゾール−1−イル)フェニル]メタノール(15.2g、89%)が得られた。1H NMR(DMSO−d6):7.49(s,1H),7.37(m,2H),7.19(d,J=7.2Hz,1H),5.35(s,1H),5.25(t,J=5.6Hz,1H),5.14(s,2H),4.53(d,J=5.6Hz,2H),1.19(s,9H);MS(ESI)m/z:246.19(M+H+).
前反応で得られた粗生成物(5.0g、20.4mmol)を、無水THF(50mL)およびSOCl2(4.85g、40.8mmol)に溶解し、室温で2時間撹拌し、真空中で濃縮し、3−tert−ブチル−1−(3−クロロメチルフェニル)−1H−ピラゾール−5−アミン(5.4g)を得、これを、N3(3.93g、60.5mmol)のDMF(50mL)への溶液に加えた。反応混合物を30℃に2時間加熱し、H2O(50mL)に加え、CH2Cl2で抽出した。有機層を一緒にし、MgSO4で乾燥し、真空中で濃縮したところ、3−tert−ブチル−1−[3−(アジドメチル)フェニル]−1H−ピラゾール−5−アミン(1.50g、5.55mmol)が得られた。
【0160】
実施例I
【0161】
【化9】
実施例Hを無水THF(10mL)に溶解し、1−イソシアノナフタレン(1.13g、6.66mmol)とピリジン(5.27g、66.6mmol)のTHF溶液(10mL)を室温で加えた。反応混合物を3時間撹拌し、H2O(30mL)で急冷し、得られた沈殿を濾過し、1N HClとエーテルで洗浄して、1−[2−(3−アジドメチル−フェニル)−5−t−ブチル−2H−ピラゾール−3−イル]−3−ナフタレン−1−イル−尿素(2.4g、98%)を白色固形物として得た。
前反応で得られた粗生成物とPd/C(0.4g)のTHF(30mL)への溶液を、1気圧で室温にて2時間水素化した。触媒を濾過によって除去し、濾液を真空中で濃縮したところ、1−{3−tert−ブチル−1−[3−(アミノメチル)フェニル}−1H−ピラゾール−5−イル)−3−(ナフタレン−1−イル)尿素(2.2g、96%)が黄色固形物として得られた。1H NMR(DMSO−d6):9.02(s,1H),7.91(d,J=7.2Hz,1H),7.89(d,J=7.6Hz,2H),7.67−7.33(m,9H),6.40(s,1H),3.81(s,2H),1.27(s,9H);MS(ESI)m/z:414(M+H+).
【0162】
実施例J
【0163】
【化10】
実施例H(1.50g、5.55mmol)の無水THF(10mL)への溶液を、イソシアン酸4−クロロフェニル(1.02g、6.66mmol)とピリジン(5.27g、66.6mmol)のTHF溶液(10mL)に、室温で加えた。反応混合物を、3時間撹拌し、その後、H2O(30mL)を加えた。沈殿を濾過し、1N HClおよびエーテルで洗浄したところ、1−{3−tert−ブチル−1−[3−(アミノメチル)フェニル}−1H−ピラゾール−5イル)−3−(4−クロロフェニル)尿素(2.28g、97%)が白色固形物として得られ、この生成物は、それ以上精製することなく次工程に使用した。MS(ESI)m/z:424(M+H+).
【0164】
実施例K
【0165】
【化11】
ベンジルアミン(16.5g、154mmol)およびブロモ酢酸エチル(51.5g、308mmol)のエタノール(500mL)への溶液に、 K2CO3(127.5g、924mmol)を加えた。混合物を室温にて3時間撹拌し、濾過し、EtOHで洗浄し、真空中で濃縮し、クロマトグラフィーにかけたところ、N−(2−エトキシ−2−オキソエチル)−N−(フェニルメチル)−グリシンエチルエステル(29g、67%)が得られた。1H NMR(CDCl3):δ7.39−7.23(m,5H),4.16(q,J=7.2Hz,4H),3.91(s,2H),3.54(s,4H),1.26(t,J=7.2Hz,6H);MS(ESI):m/e:280(M++H).
N−(2−エトキシ−2−オキソエチル)−N−(フェニルメチル)−グリシンエチルエステル(7.70g、27.6mmol)のメチルアミンアルコール溶液(25〜30%、50mL)への溶液を、密封管中で3時間50℃に加熱し、室温に冷却し、真空中で濃縮したところ、N−(2−メチルアミノ−2−オキソエチル)−N−(フェニルメチル)−グリシンメチルアミドが得られた。収量(7.63g)。1H NMR(CDCl3):δ7.35−7.28(m,5H),6.75(br s,2H),3.71(s,2H),3.20(s,4H),2.81(d,J=5.6Hz,6H);MS(ESI)m/e250(M+H+).
N−(2−メチルアミノ−2−オキソエチル)−N−(フェニルメチル)−グリシンメチルアミド(3.09g、11.2mmol)のMeOH(30mL)との混合物に、10%Pd/C(0.15g)を加えた。混合物を撹拌し、40psiのH2中で、40℃に10時間加熱し、濾過し、真空中で濃縮したところ、N−(2−メチルアミノ−2−オキソエチル)−グリシンメチルアミドが得られた。収量(1.76g)。1H NMR(CDCl3):δ6.95(br s,2H),3.23(s,4H),2.79(d,J=6.0,4.8Hz),2.25(br s 1H);MS(ESI)m/e160(M+H+)
【0166】
実施例L
【0167】
【化12】
【0168】
<実施例3>
【0169】
【化13】
化合物1,1−ジオキソ−[1,2,5]チアジアゾリジン−3−オン(94mg、0.69mmol)とNaH(5.5mg、0.23mmol)の混合物のTHF(2mL)への溶液を、N2中で、−10℃にて、NaHがすべて溶解するまで1時間にわたって撹拌した。実施例E(100mg、0.23mmol)を加え、室温で一晩反応させ、H2Oで急冷し、CH2Cl2で抽出した。有機層を一緒にして真空中で濃縮し、残留物を調製用HPLCで精製したところ、1−(3−tert−ブチル−1−{[3−(1,1,3−トリオキソ−[1,2,5]チアジアゾリジン−2−イル)メチル]フェニル}−1H−ピラゾール−5−イル)−3−(ナフタレン−1−イル)尿素(18mg)が、白色粉末として得られた。1H NMR(CD3OD):δ7.71−7.44(m,11H),6.45(s,1H),4.83(s,2H),4.00(s,2H),1.30(s,9H).MS(ESI)m/z:533.40(M+H+).
【0170】
<実施例5>
【0171】
【化14】
イソシアン酸クロロスルホニル(19.8μL、0.227mmol)のCH2Cl2(0.5mL)への0℃の溶液に、撹拌しながら、ピロリジン(18.8μL、0.227mmol)を、反応溶液の温度が5℃を超えて上昇することのないような速さで加えた。1.5時間撹拌した後、実施例J(97.3mg、0.25mmol)とEt3N(95μL、0.678mmol)のCH2Cl2(1.5mL)への溶液を、反応温度が5℃を超えて上昇することのないような速さで加えた。添加を完了したら、反応溶液を室温まで温め、一晩撹拌した。反応混合物を、10%のHClに加え、CH2Cl2で抽出し、有機層を飽和NaClで洗浄し、MgSO4で乾燥し、濾過した。溶剤を除去し、粗生成物を、調製用HPLCで精製したところ、1−(3−tert−ブチル−1−[[3−N−[[(1−ピロリジニルカルボニル)アミノ]スルホニル]アミノメチル]フェニル]−1H−ピラゾール−5−イル)−3−(4−クロロフェニル)尿素が得られた。1H NMR(CD3OD):δ7.61(s,1H),7.43−7.47(m,3H),7.23−7.25(dd,J=6.8Hz,2H),7.44(dd,J=6.8Hz,2H),6.52(s,1H),4.05(s,2H),3.02(m,4H),1.75(m,4H),1.34(s,9H);MS(ESI)m/z:574.00(M+H+).
【0172】
<実施例6>
【0173】
【化15】
標記化合物を、実施例Iを使用して、実施例5と同様にして製造したところ、1−(3−tert−ブチル−1−[[3−N−[[(1−ピロリジニルカルボニル)アミノ]スルホニル]アミノメチル]−フェニル]−1H−ピラゾール−5−イル)−3−(ナフタレン−1−イル)尿素が得られた。1H NMR(CDCl3):δ7.88(m,2H),7.02−7.39(m,2H),7.43−7.50(m,7H),6.48(s,1H),4.45(s,1H),3.32−3.36(m,4H),1.77−1.81(m,4H),1.34(s,9H);MS(ESI)m/z:590.03(M+H+).
【0174】
<実施例7>
【0175】
【化16】
【0176】
XH2Xλ2(0.5μΛ)に溶解しているクロロスルホニルイソシアネート(19.8μΛ,227μμoλ)の0℃でかくはんされている溶液へ、実施例J(97.3mg,0.25mmol)が、反応溶液の温度が5℃を超えないような速度で添加された。1.5時間のかくはんの後、CH2Cl2(1.5mL)に溶解しているピロリジン(18.8μL,0.227mmol)およびEt3N(95μL,0.678mmol)の溶液が、反応溶液の温度が5℃を超えないような速度で添加された。添加が完了したら、反応溶液は室温まで加温され、一晩かくはんされた。反応混合物は、10%HClに注がれ、CH2Cl2で抽出され、有機相は飽和塩化ナトリウムで洗浄され、Mg2SO4で乾燥され、ろ過された。溶媒の除去の後、粗物質は、分取HPLCによって精製され、1−(3−tert−ブチル−1−[[3−N−[[(1−ピロリジニルスルホニル)アミノ]カルボニル]アミノメチル]フェニル]−1H−ピラゾール−5−イル)−3−(4−クロロフェニル)ウレアが得られた。
【0177】
<実施例8>
【0178】
【化17】
【0179】
標記化合物を、実施例Iを使用して、実施例7と同様にして製造したところ、1−(3−tert−ブチル−1−[[3−N−[[(1−ピロリジニルスルホニル)アミノ]カルボニル]アミノメチル]−フェニル]−1H−ピラゾール−5−イル)−3−(ナフタレン−1−イル)尿素が得られた。1H NMR(CDCl3):δ7.88(m,2H),7.02−7.39(m,2H),7.43−7.50(m,7H),6.48(s,1H),4.45(s,1H),3.32−3.36(m,4H),1.77−1.81(m,4H),1.34(s,9H);MS(ESI)m/z:590.03(M+H+).
【0180】
<実施例21>
【0181】
【化18】
【0182】
乾燥CH2Cl2(4ml)中の実施例L(0.2g,0.58mmol)と1−ナフチルイソシアネート(0.10g,0.6mmol)の混合物を窒素下18時間室温で攪拌した。溶媒を真空で除去し粗製品をエチルアセテート/ヘキサン/CH2Cl2(3/1/0.7)を溶出液(0.11g、灰色がかった白色固体)に使ったカラムクロマトグラフィーで精製し1−{3−tert−ブチル−1−[3−(2−モルホリノ−2−オキソエチル)フェニル]−1H−ピラゾール−5−イル}−3−(ナフタレン−1−イル)ウレア、融点194−196を得た。
【0183】
<実施例23>
【0184】
【化19】
【0185】
実施例L(0.2g,0.58mmol)とフェニルイソシアネート(0.09g,0.6mmol)を用いて実施例21と同様の方法で標題化合物1−{3−tert−ブチル−1−[3−(2−モルホリノ−2−オキソエチル)フェニル]−1H−ピラゾール−5−イル}−3−フェニルウレアを合成した。
【0186】
実施例N
【0187】
【化20】
(3−ニトロフェニル)酢酸(23g、127mmol)のメタノール(250ml)への溶液と、触媒量の真空中で濃縮したH2SO4を18時間加熱還流した。反応混合物を、真空中で濃縮して、黄色の油を得た。この生成物をメタノール(250ml)に溶解し、氷浴中にて18時間撹拌し、アンモニアをゆっくり通気した。揮発成分を真空中で除去した。残留物を、ジエチルエーテルで洗浄し、乾燥して、2−(3−ニトロフェニル)アセトアミド(14g、灰白色の固形物)を得た。1H NMR(CDCl3):δ8.1(s,1H),8.0(d,1H),7.7(d,1H),7.5(m,1H),7.1(bd s,1H),6.2(brs,1H),3.6(s,2H).
【0188】
前反応で得られた粗生成物(8g)と活性炭担持10%Pd(1g)のエタノール(100ml)への溶液を、30psiで18時間にわたって水素化し、セライトで濾過した。揮発成分を真空中で除去したところ、2−(3−アミノフェニル)アセトアミド(5.7g)が得られた。この物質の溶液(7g、46.7mmol)を、6N HCl(100ml)に溶解し、0℃に冷却し、激しく撹拌した。亜硝酸ナトリウム(3.22g、46.7mmol)の水(50ml)への溶液を加えた。30分後に、塩化スズ(II)二水和物(26g)の6N HCl(100ml)への溶液を加えた。反応混合物を、0℃で3時間撹拌した。pHを、50%NaOH水溶液でpH14に調整し、酢酸エチルで抽出した。有機抽出物を一緒にして真空中で濃縮したところ、2−(3−ヒドラジノフェニル)アセトアミドが得られた。
【0189】
前反応で得られた粗生成物(約15mmol)と4,4−ジメチル−3−オキソペンタンニトリル(1.85g、15mmol)のエタノール(60ml)および6N HCl(1.5ml)への溶液を1時間還流し、室温に冷却した。反応混合物を、固形の炭酸水素ナトリウムを加えることによって中和した。スラリーを濾過し、揮発成分を真空中で除去したところ、残留物が得られ、この残留物を酢酸エチルで抽出した。溶剤を真空中で除去したところ、2−[3−(3−tert−ブチル−5−アミノ−1H−ピラゾール−1−イル)フェニル]アセトアミドが、白色固形物(3.2g)として得られ、この生成物は、それ以上精製せずに使用した。
【0190】
<実施例25>
【0191】
【化21】
実施例N(2g、0.73mmol)とイソシアン酸1−ナフチル(0.124g、0.73mmol)の混合物の無水CH2Cl2(4ml)への溶液を、N2中で室温にて18時間撹拌した。溶剤を真空中で除去し、粗製物を酢酸エチル(8ml)で洗浄し、真空中で乾燥したところ、1−{3−tert−ブチル−1−[3−(カルバモイルメチル)フェニル)−1H−ピラゾール−5−イル}−3−(ナフタレン−1−イル)尿素が、白色固形物(0.22g)として得られた。融点: 230℃(dec.);1H NMR(200MHz,DMSO−d6):
δ9.12(s,1H),8.92(s,1H),8.32−8.08(m,3H),7.94−7.44(m,8H),6.44(s,1H),3.51(s,2H),1.31(s,9H);MS.
【0192】
<実施例26>
【0193】
【化22】
標記化合物を、実施例N(0.2g、0.73mmol)およびイソシアン酸4−クロロフェニル(0.112g、0.73mmol)を使用して、実施例23と同様にして合成したところ、1−{3−tert−ブチル−1−[3−(カルバモイルメチル)フェニル)−1H−ピラゾール−5−イル}−3−(4−クロロフェニル)尿素が白色固形物(0.28g)として得られた。融点:222 224℃(dec.);1H NMR(200MHz,DMSO−d6);δ9.15(s,1H),8.46(s,1H),7.55−7.31(m,8H),6.39(s,1H),3.48(s,2H),1.30(s,9H);MS.
【0194】
実施例P
【0195】
【化23】
3−(3−アミノ−フェニル)−アクリル酸メチルエステル(6g)と活性炭担持10%Pd(1g)の混合物のエタノール(50ml)への溶液を、30psiにて18時間水素化し、セライトで濾過した。真空中で揮発成分を除去したところ、3−(3−アミノ−フェニル)プロピオン酸のメチルエステルが(6g)得られた。
前反応で得られた粗生成物(5.7g、31.8mmol)の6N HCl(35ml)への溶液を激しく撹拌しながら、0℃に冷却し、亜硝酸ナトリウム(2.2g)の水(20ml)への溶液を加えた。1時間後、塩化スズ(II)二水和物(18g)の6N HCl(35ml)への溶液を加え、混合物を0℃で3時間撹拌した。pHを、固形KOHを用いてpH14に調整し、EtOAcで抽出した。有機抽出物をまとめて真空中で濃縮したところ、3−(3−ヒドラジノ−フェニル)プロピオン酸メチル(1.7g)が得られた。
前反応で得られた粗生成物(1.7g、8.8mmol)と4,4−ジメチル−3−オキソペンタンニトリル(1.2g、9.7mmol)のエタノール(30ml)および6N HCl(2ml)への撹拌溶液を、18時間還流し、室温に冷却した。揮発成分を真空中で除去し、残留物をEtOAcに溶解し、1N NaOH水溶液で洗浄した。有機層を乾燥し(Na2SO4)、真空中で濃縮し、残留物を、酢酸エチルのヘキサンへの30%溶液を溶出液として使用してカラムクロマトグラフィーで精製したところ、3−[3−(3−tert−ブチル−5−アミノ−1H−ピラゾール−1−イル)フェニル]プロピオン酸メチル(3.2g)が得られ、この生成物はそれ以上精製せずに使用した。
【0196】
<実施例29>
【0197】
【化24】
実施例P(0.35g、1.1mmol)とイソシアン酸1−ナフチル(0.19g、1.05mmol)の混合物の無水CH2Cl2(5ml)への溶液を、N2中で室温にて20時間撹拌した。溶剤を真空中で除去し、残留物を、水酸化リチウム(0.1g)を含むTHF(3ml)/MeOH(2ml)/水(1.5ml)の溶液中で室温にて3時間撹拌し、EtOAcおよび希クエン酸溶液で希釈した。有機層を乾燥し(Na2SO4)、揮発成分を真空中で除去した。残留物を、メタノールのCH2Cl2への3%溶液を溶出液として使用してカラムクロマトグラフィーで精製し、3−(3−{3−tert−ブチル−5−[3−(ナフタレン−1−yl)ウレイド]−1H−ピラゾール−1−イル)フェニルプロピオン酸(0.22g、褐色の固形物)を得た。融点:105−107;1H NMR(200MHz,CDCl3):δ7.87−7.36(m,10H),7.18−7.16(m,1H),6.52(s,1H),2.93(t,J=6.9Hz,2H),2.65(t,J=7.1Hz,2H),1.37(s,9H);MS
【0198】
<実施例30>
【0199】
【化25】
標記化合物を、実施例P(0.30g、0.95mmol)およびイソシアン酸4−クロロフェニル(0.146g、0.95mmol)を使用して、実施例29と同様にして合成したところ、3−(3−{3−tert−ブチル−5−[3−(4−クロロフェニル)ウレイド]−1H−ピラゾール−1−イル)フェニル)プロピオン酸(0.05g、白色固形物)が得られた。融点:85 87;1H NMR(200MHz,CDCl3):δ8.21(s,1H),7.44−7.14(m,7H),6.98(s,1H),6.55(s,1H),2.98(t,J=5.2Hz,2H),2.66(t,J=5.6Hz,2H),1.40(s,9H);MS
【0200】
実施例Q
【0201】
【化26】
3−(4−アミノフェニル)アクリル酸エチル(1.5g)と活性炭担持10%Pd(0.3g)の混合物のエタノール(20ml)への溶液を、30psiにて18時間水素化し、セライトで濾過した。真空中で揮発成分を除去したところ、3−(4−アミノフェニル)プロピオン酸エチル(1.5g)が得られた。
前反応で得られた粗生成物溶液(1.5g、8.4mmol)を、6NのHCl(9ml)に溶解し、0℃に冷却し、激しく撹拌した。亜硝酸ナトリウム(0.58g)の水(7ml)への溶液を加えた。1時間後、塩化スズ(II)二水和物(5g)の6N HCl(10ml)溶液を加えた。反応混合物は、0℃で3時間攪拌された。反応混合物のpHを固形KOHを用いてpH14に調整し、EtOAcで抽出した。有機抽出物をまとめて真空中で濃縮したところ、3−(4−ヒドラジノ−フェニル)−プロピオン酸エチル(1g)が得られた。
前反応で得られた粗生成物(1g、8.8mmol)と4,4−ジメチル−3−オキソペンタンニトリル(0.7g)のエタノール(8ml)および6N HCl(1ml)への溶液を、18時間還流し、室温に冷却した。揮発成分を、真空中で除去した。残留物を酢酸エチルに溶解し、1N水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を乾燥し(Na2SO4)、真空中で濃縮した。残留物を、溶出液としてメタノールのCH2Cl2への0.7%溶液を使用したカラムクロマトグラフィーで精製し、3−{4−[3−tert−ブチル−5−(3−(ナフタレン−1−イル)ウレイド]−1H−ピラゾール−1−イル}フェニル)プロパン酸エチル(0.57g)を得た。
【0202】
<実施例31>
【0203】
【化27】
実施例Q(0.25g、0.8mmol)とイソシアン酸1−ナフチル(0.13g、0.8mmol)の混合物の無水CH2Cl2(5ml)への溶液を、N2中で室温にて20時間撹拌した。溶剤を真空中で除去し、残留物を、水酸化リチウム(0.1g)を含むTHF(3ml)/MeOH(2ml)/水(1.5ml)の溶液中で室温にて3時間撹拌し、EtOAcおよび希クエン酸溶液で希釈した。有機層を乾燥し(Na2SO4)、揮発成分を真空中で除去した。残留物を、メタノールのCH2Cl2への4%溶液を溶出液として使用してカラムクロマトグラフィーで精製し、3−{4−[3−tert−ブチル−5−(3−(ナフタレン−1−イル)ウレイド]−1H−ピラゾール−1−イル}フェニル)プロパン酸(0.18g、灰白色の固形物)を得た。融点:120 122;1H NMR(200MHz,CDCl3):δ7.89−7.06(m,11H),6.5(s,1H),2.89(m,2H),2.61(m,2H),1.37(s,9H);MS
【0204】
<実施例32>
【0205】
【化28】
標記化合物を、実施例Q(0.16g、0.5mmol)およびイソシアン酸4−クロロフェニル(0.077g、0.5mmol)を使用して、実施例31と同様にして合成したところ、3−{4−[3−tert−ブチル−5−(3−(4−クロロフェニル)ウレイド]−1H−ピラゾール−1−イル}フェニル)プロパン酸(0.16g、灰白色固形物)が得られた。融点:112−114;1H NMR(200MHz,CDCl3):δ8.16(s,1H),7.56(s,1H),7.21(s,2H),7.09(s,2H),6.42(s,1H),2.80(m,2H),2.56(m,2H),1.32(s,9H);MS
【0206】
<実施例39>
【0207】
【化29】
【0208】
<実施例41>
【0209】
【化30】
【0210】
磁気式かくはん棒が備えられた100mLの丸底フラスコで、実施例39(2.07g)がCH2Cl2(20mL)に溶解され、氷浴で0℃まで冷却された。BBr3(CH2Cl2の1M溶液;7.5mL)が時間をかけて添加された。反応物は一晩中室温に加温された。さらなるBBr3(CH2Cl2の1M溶液を2×1mL、合計で9.5mmolが添加された)が添加され、反応物はMeOHを添加することによってクエンチされた。溶媒の蒸発により結晶物質が生成し、これは、溶離剤としてCH2Cl2/MeOH(9.6:0.4)を用いたシリカゲル(30g)によるクロマトグラフィーによって分離され、1−[3−tert−ブチル−1−(3−ヒドロキシフェニル)−1H−ピラゾール−5−イル]−3−(ナフタレン−1−イル)ウレア(0.40g,20%)が得られた。
【0211】
実施例X
【0212】
【化31】
【0213】
<実施例59>
【0214】
【化32】
【0215】
実施例X(1.37g)とp−ブロモフェニルイソシアネート(990mg)を用いて実施例41と同様の方法で、標題化合物4−{3−tert−ブチル−5−[3−(4−ブロモフェニル)ウレイド]−1H−ピラゾール−1−イル}安息香酸メチルを白色結晶(1.4g、59%)で、HPLC純度:94%、融点270−272で得た。
【0216】
<実施例60>
【0217】
【化33】
実施例59(700mg)の30mLのトルエンへの溶液(−78℃)に、水素化ジイソブチルアルミニウムのトルエン溶液(1M トルエン溶液、7.5mL)を10分間滴下して加えた。反応混合物を、−78℃で30分間撹拌し、その後0℃で30分間撹拌した。反応混合物を、真空中で無水状態となるまで濃縮し、H2Oで処理した。固形物を濾過し、アセトニトリルで処理した。溶液を無水状態となるまで蒸発させ、残留物を酢酸エチルに溶解し、ヘキサンで沈殿させたところ、黄色の固形物が得られ、この固形物を真空中で乾燥させたところ、1−[3−tert−ブチル−1−(4−ヒドロキシメチル)フェニル)−1H−ピラゾール−5−イル]尿素(400mg、61%)が得られた。HPLC純度:95%;1H NMR(DMSO−d6):δ9.2(s,1H),8.4(s,1H),7.5(m,8H),6.4(s,1H),5.3(t,1H),4.6(d,2H),1.3(s,9H).
上掲の参考文献は、いずれも、ここに言及することによって、本発明に組み込むものである。また、同時に出願する2件の出願、すなわち、Anti−Inflammatory Medicaments,米国特許出願番号10/746,460号(2003年12月24日出願)およびAnti−Cancer Medicaments,米国特許出願番号10/746,407号(2003年12月24日出願)も、ここに言及することによって、本発明に組み込むものである。
【図面の簡単な説明】
【0218】
この特許または出願のファイルは、1以上のカラー図面を含むものである。カラー図面を含む本特許または特許出願の公報の複写物は、特許庁に請求し、必要な費用を支払うことによって入手可能である。
【図1】図1は、「オン」および「オフ」のスイッチ制御ポケット、過渡的に修飾可能なスイッチ制御リガンド、および活性ATP部位を含む、本発明の天然哺乳動物タンパク質の模式図である。
【図2】図2は、図1のタンパク質の模式図であり、この図では、スイッチ制御リガンドがオフのスイッチ制御ポケットと結合状態をとることで、タンパク質が、生物学的に下方調節された第一コンホメーションをとっている。
【図3】図3は、図1と同様の図であるが、スイッチ制御リガンドの特定のアミノ酸残基のOH基がリン酸化され、スイッチ制御リガンドが、帯電して修飾された状態を示す。
【図4】図4は、図2と同様の図であるが、この図では、スイッチ制御リガンドがオンのスイッチ制御ポケットと結合状態をとることで、タンパク質が、図2の第一コンホメーションとは異なる、生物学的に活性な第二コンホメーションをとっている。
【図4a】図4aは、スイッチ制御リガンドのリン酸化された残基と、オンのスイッチ制御ポケット由来の相補的な残基との典型的な結合を図示する拡大模式図である。
【図5】図5は、図1と同様の図であるが、オンおよびオフのスイッチ制御ポケットと結合関係にある小型分子化合物を模式的に示す。
【図6】図6は、スイッチ制御リガンドおよびオンのスイッチ制御ポケットのそれぞれの一部から複合型スイッチ制御ポケットが形成され、小型分子が、この複合型スイッチ制御ポケットと結合関係にあるようなタンパク質の模式図である。
【図7】図7は、オンのスイッチ制御ポケット、スイッチ制御リガンド配列、活性ATP部位のそれぞれの一部から組合わせ型スイッチ制御ポケットが形成され、小型分子が、この組合わせ型スイッチ制御ポケットと結合関係にあるようなタンパク質の模式図である。
【図8】図8は、X線結晶構造解析で得られたリボン図であり、生物学的に上方調節された状態にあるインシュリン受容体のキナーゼタンパク質のオンのコンホメーションを示すものである。
【図9】図9は、図8と同様の図であるが、タンパク質が生物学的に下方調節され、オフのコンホメーションにある状態を示すものである。
【図10】図10は、ablキナーゼを、SURFNETで可視化したものであり、オンのスイッチ制御ポケットを青で示す。
【図11】図11は、ablキナーゼを、GRASPで可視化したものであり、オンのスイッチ制御ポケットを黄色で囲んである。
【図12】図12は、ablキナーゼタンパク質のリボン図であり、オンのスイッチ制御ポケットの重要なアミノ酸残基を識別してある。
【図13】図13は、ablキナーゼタンパク質のリボン図であり、組合せ型のスイッチ制御ポケット(オンのスイッチ制御ポケット/スイッチ制御リガンド配列/ATP活性部位)を示す。
【図14】図14は、p38キナーゼを、SURFNETで可視化したものであり、オンのスイッチ制御ポケットを青で示す。
【図15】図15は、p38キナーゼを、GRASPで可視化したものであり、オンのスイッチ制御ポケットを黄色で囲んである。
【図16】図16は、p38キナーゼタンパク質のリボン図であり、オンのスイッチ制御ポケット重要なアミノ酸残基を識別してある。
【図17】図17は、Gsk−3βキナーゼタンパク質をSURFNETで可視化したものであり、二機能性のオン・オフ・スイッチ制御ポケットを青で示す。
【図18】図18は、Gsk−3βキナーゼタンパク質をGRASPで可視化したものであり、二機能性のオン・オフ・スイッチ制御ポケットを黄色で囲んである。
【図19】図19は、Gsk−3βキナーゼタンパク質のリボン図であり、組合せ型のオン・オフ・スイッチ制御ポケットの重要なアミノ酸残基を識別してある。
【図20】図20は、非リン酸化状態の準精製ablのキナーゼドメインのタンパク質を識別するSDS−PAGEゲルを示す。
【図21】図21は、非リン酸化状態の精製ablのキナーゼタンパク質を識別するSDS−PAGEゲルを示す。
【図22】図22は、準精製ablキナーゼドメインタンパク質のクロマトグラフィーでの溶出特性を示す。
【図23】図23は、精製ablキナーゼドメインタンパク質のクロマトグラフィーでの溶出特性を示す。
【図24】図24は、TEVタグの解裂前(レーン2〜4)および後(レーン5〜8)のabl キナーゼタンパク質を識別したSDS−PAGEのゲルである。
【図25】図25は、精製ablタンパク質の、紫外線スペクトルであり、このタンパク質のATP部位には、小型分子阻害物質であるPD180790が結合している。
【図26】図26は、ニッケル・アフィニティ・クロマトグラフィーおよびQ−セファロースを用いたクロマトグラフィーで精製を行った際の、abl構築物5タンパク質(abl 1−531,Y412F 変異型)のクロマトグラフィーでの溶出特性を示す。
【図27】図27は、精製abl構築物5タンパク質のSDS−PAGEのゲルである。
【図28】図28は、非リン酸化状態にある精製p38αキナーゼタンパク質のクロマトグラフィーでの溶出特性を示す。
【図29】図29は、非リン酸化状態にある精製p38αキナーゼタンパク質のSDS−PAGEのゲルである。
【図30】図30は、リン酸化状態にある活性化されたGsk3−βタンパク質の質量スペクトルである。
【図31】図31は、非リン酸化状態にある活性化されていないGsk3−βタンパク質の質量スペクトルである。
【図32】図32は、ウェスタンブロットで、リン酸化されたGsk3−βタンパク質をホスホチロシン抗体によって染色したところである。
【図33】図33は、ウェスタンブロットで、リン酸化されていないGsk3−βタンパク質をホスホチロシン抗体によって染色したところである。
【配列表】
【技術分野】
【0001】
関連出願についての相互参照
本出願は、仮出願である米国特許出願第60/437,487号のProcess For Modulating Protein Function(2002年12月31日出願)、米国特許出願第60/437,403号のAnti−Cancer Medicaments(2002年12月31日出願)、米国特許出願第60/437,415号のAnti−Inflammatory Medicaments(2002年12月31日出願)、米国特許出願第60/437,304号のAnti−Inflammatory Medicaments(2002年12月31日出願)、および米国特許出願第60/463,804号のMedicaments For the Treatment of Neurodegenerative Disorders or Diabetes(2003年4月18日出願)についての権利を主張するものである。これらの各出願は、ここに言及することをもって、本発明に組み込むものである。
【0002】
1.技術分野
本発明は、広義には、タンパク質の活性モジュレータの役目を果たす分子の新規で合理化された識別方法、ならびに新規なタンパク質とモジュレータのアダクトに関するものである。より詳細には、本発明は、こうした方法およびアダクトであって、好適な態様では、スイッチ制御リガンドとこれと相補的なスイッチ制御ポケットとの相互作用を含むタンパク質コンホメーションの変化機構を利用するような方法およびアダクトに関するものである。
【背景技術】
【0003】
2.先行技術の説明
近年、基礎研究によって、ヒト遺伝コードやそれによって生成されるタンパク質について、かつてない量の情報が生命科学コミュニティにもたらされている。2001年には、ヒトゲノムの完全配列も報告された(Lander,E.S.ら,Initial Sequencing and Analysis of the Human Genome;Nature(2001) 409:860;Venter,J.C.ら,The Sequence of the Human Genome,Science(2001) 291:1304)。全世界の研究コミュニティは、現在、こうした遺伝子配列によってコードされる50,000以上のタンパク質の分類に着手しており、さらに重要なこととして、主要な疾患でありながら、治療が十分に行われていないヒトの疾患の原因タンパク質の識別に取り組んでいる。ヒトゲノムやそのタンパク質によってもたらされる情報、特に、タンパク質の機能をコンホメーションによって制御する分野について多大な情報が存在するにもかかわらず、製薬産業が小型分子治療薬の開発に着手しうるような方法論や戦略は、小型分子治療薬を結合させる際に天然のタンパク質結合部位を利用するところから有意には先に進んでいない。こうした天然の部位は、通常、必須の細胞機能を営むうえで、各種のタンパク質によって利用されている部位であり、その際には、タンパク質がこうした部位に結合することによって天然の基質の処理が進行したり、タンパク質によって、天然リガンド由来の信号が伝達されたりする。これらの天然部位は、タンパク質ファミリー内の他の多くのタンパク質によっても広範に利用されているので、こうした部位と相互に作用する薬剤では、選択性の欠如が問題となることも多く、その結果、最大効力を達成するには治療域が不十分となることも多い。こうした小型分子では、副作用および有害性は、臨床以前の創薬時、臨床治験の間、またはその後市場で明らかになる。副作用および有害性は、薬剤開発プロセスに見られる高い消耗率の主因であり続けている。キナーゼタンパク質ファミリーのタンパク質については、こうした天然部位での相互作用についてのレビューが最近報告されている(J.Dumas,Emerging Pharmacophores: 1997−2000,Expert Opinion on Therapeutic Patents(2001) 11: 405−429;J.Dumas,Editor,Current Topics in Medicinal Chemistry(2002) 2: issue 9を参照されたい)。
【0004】
タンパク質は可撓性であることが知られており、この可撓性を利用して、タンパク質の別々の可撓性の活性部位に結合する小型分子を見いだした事例が報告されている。こうした利用についてのレビューについては、Teague,Nature Reviews/Drug Discovery,Vol.2,pp.527−541(2003)を参照されたい。また、Wuら,Structure,Vol.11,pp.399−410(2003)も参照されたい。しかし、これらの報告では、タンパク質の天然の活性部位のみに結合する小型分子に焦点があてられている。Pengら,Bio. Organic and Medicinal Chemistry Ltrs.,Vol.13,pp.3693−3699(2003),およびSchindlerら,Science,Vol.289,p.1938(2000)には、ablキナーゼの阻害物質が記載されている。こうした阻害物質については、国際公開番号第WO2002/034727号に特定されている。こうした一群の阻害物質は、ATP活性部位に結合し、その一方で、キナーゼ触媒ループの動きを誘導するようなかたちでも結合を生じる。Pargellisら,Nature Structural Biology,Vol.9,p.268(2002)には、国際公開番号第WO00/43384号、およびReganら,J.Medicinal Chemistry,Vol.45,pp.2994−3008(2002)にも開示されている阻害物質p38α−キナーゼが報告されている。これらの一群の阻害物質も、キナーゼのATP活性部位で結合し、同時に、キナーゼ活性化ループの動きを生じる。
【0005】
さらに最近、キナーゼは、活性化ループおよびキナーゼドメイン調節ポケットを利用して、触媒活性の状態を制御していることが開示されている。この点については、最近レビューが公開されている。M.HuseおよびJ.Kuriyan,Cell(2002)109:275を参照されたい。
【発明の開示】
【0006】
本発明は、特定の天然タンパク質(たとえば哺乳動物、特にヒトのタンパク質)と相互作用して、タンパク質の活性を調節する分子を識別する方法、ならびに新規なタンパク質と小型分子モジュレータのアダクトに関するものである。本発明の方法の側面では、天然タンパク質が持つ性質、すなわち、タンパク質は、インビボでコンホメーションが変化し、それに対応してタンパク質の活性も変化するという性質を利用する。たとえば、あるコンホメーションの特定のタンパク質を生物学的に上方調節して酵素とすることができ、一方、同じタンパク質が別のコンホメーションの場合には、生物学的に下方調節することができる。また、本発明では、タンパク質内の「スイッチ制御リガンド」および「スイッチ制御ポケット」と称する領域の相互作用を介して、天然のタンパク質が利用しているコンホメーション変化機構の一つを利用することが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、天然のタンパク質(たとえば哺乳動物、特にヒトのタンパク質)と相互作用して、タンパク質の活性を調節する新規な小型分子モジュレータを合理的に開発する方法を提供するものである。また、新規なタンパク質と小型分子とのアダクトも提供する。本発明は、好ましくは、インビボでコンホメーションが変化し、それに対応してタンパク質の活性も変化するという天然タンパク質の性質を利用する。たとえば、あるコンホメーションの特定の酵素タンパク質を生物学的に上方調節することができ、一方、同じタンパク質が別のコンホメーションの場合には、生物学的に下方調節することができる。本発明では、タンパク質内の「スイッチ制御リガンド」および「スイッチ制御ポケット」と称する領域の相互作用を介して、天然タンパク質が利用しているコンホメーション変化機構の一つを利用することが好ましい。
【0008】
本発明で使用する場合には、「スイッチ制御リガンド」とは、天然タンパク質内の領域またはドメインであって、内部に、生化学的修飾、具体的には、リン酸化、硫酸化、アシル化、または酸化によってインビボで過渡的に修飾されて個別のいずれかをとる1以上のアミノ酸残基を有するものを意味する。同様に、「スイッチ制御ポケット」は、天然のタンパク質内の複数の隣接または非隣接アミノ酸残基であって、インビボで、上記個別状態のいずれかにあるスイッチ制御リガンドの過渡的に修飾された残基と結合して、そのタンパク質のコンホメーションを誘導または制限することにより、そのタンパク質の生物学的活性を調節しうる残基、および/または非天然のスイッチ制御調節分子と結合して、タンパク質のコンホメーションを誘導または制御することにより、そのタンパク質の生物学的活性を調節しうる残基を含むものであるようなものを意味する。
【0009】
本発明のタンパク質・モジュレータ・アダクトは、スイッチ制御ポケットを備えた天然のタンパク質と、タンパク質の上記スイッチ制御ポケット領域に結合した非天然分子を含むものであり、この分子は、そのタンパク質のコンホメーションを誘導または制限することによってそのタンパク質の生物学的活性を少なくとも部分的に調節する役目を果たしている。好ましくは、このタンパク質は、対応するスイッチ制御リガンドも備えており、このリガンドは、インビボで、ポケットと相互作用を生じてタンパク質のコンホメーションおよび生物学的活性を調節し、リガンドとポケットの相互作用が生じると、そのタンパク質が第一コンホメーションおよび第一生物学的活性をとり、リガンドとポケットの相互作用の不在下では、第二の異なったコンホメーションおよび生物学的活性をとるものである。
【0010】
スイッチ制御リガンド/スイッチ制御ポケットの相互作用の性質については、図1〜4の模式図を考慮すると、理解しやすい。すなわち、図1に、「オン」スイッチ制御ポケット102および「オフ」スイッチ制御ポケット104、ならびにスイッチ制御リガンド106を含むタンパク質100を模式的に示す。また、この模式的に描いたタンパク質は、ATP活性部位108も含んでいる。図1のこのタンパク質の例では、リガンド106は、側鎖にOH基110を含むアミノ酸残基3つを備えている。オフ・ポケット104は、対応するX残基112を、オン・ポケット102は、Z残基114を含んでいる。この例では、タンパク質100は、リガンド106上のOH基110の荷電状態に応じて、コンホメーションが変化し、すなわち、OH基は、修飾されていない場合には、中性の電荷を示すが、これらの基がリン酸化されると、負の電荷を示すことになる。
【0011】
ポケット102および104とリガンド106の官能性については、図2〜4を考慮すると理解しやすい。図2では、リガンド106がオフ・ポケット104と協同的に相互作用して、OH基110が、ポケット104の一部を形成するX残基112と相互作用している。こうした相互作用は、主に、OH基110と残基112の間の水素結合によるものである。このリガンド/ポケット相互作用が生じると、タンパク質100が、図1に見られるのとは異なった、タンパク質のオフの、すなわち、生物学的に下方調節されたコンホメーションに対応するコンホメーションをとるようになる。
【0012】
図3は、リガンド106が、図2のオフのポケット相互作用コンホメーションからシフトし、OH基110がリン酸化されて、リガンドが負に帯電した状態を示す。この状態では、リガンドは、ポケット102と相互に作用することによって、タンパク質のコンホメーションを、オン、すなわち生物学的に上方調節された状態(図4)に変化させようとする傾向が強い。図4aには、リガンド106上のリン酸化された基が、正に帯電した残基114に引き寄せられて、安定化されたイオン状の結合を示している状態を示す。図4のコンホメーションでは、タンパク質のコンホメーションが、図2のオフのコンホメーションとは異なる状態となっており、ATP活性部位が利用可能な状態となって、タンパク質がキナーゼ酵素として機能しうる状態となっていることに注意されたい。
【0013】
図1〜4は、タンパク質が、別々のポケット102および104ならびにリガンド106を示す単純な状況について示すものである。しかし、多くの事例では、もっと複雑なスイッチ制御ポケットのパターンが観察される。図6は、小型分子との相互作用に適したポケットが、リガンド106と、たとえばポケット102の双方に由来するアミノ酸残基から形成されている状態を示す。こうしたケースを、リガンド106とポケットの双方に由来する残基から構成される「複合型スイッチ制御ポケット」と称し、番号120で示す。このポケット120と相互に作用してタンパク質を調節する小型分子122も図示する。
【0014】
さらに複雑なスイッチポケットを図7に示す。このポケットは、オン・ポケット102由来の残基と、ATP部位108とを含み、「組合わせ型スイッチ制御ポケット」と称するポケットを構成している。この組合わせ型のポケットを、番号124で示す。このポケットは、リガンド106由来の残基をさらに含むものとすることができる。このポケット124と相互に作用してタンパク質を調節する適当な小型分子126も図示する。
【0015】
したがって、図1〜4に示すような単純なポケットの状況の場合には、小型分子は、単純なポケット102または104と相互に作用するのに対し、図6および7に示すようなさらに複雑な状況では、相互作用を生じるポケットが、ポケット120または124の領域に存在することになることが理解されるはずである。このように、広義では、小型分子は、各スイッチ制御ポケットの「領域」で相互作用を生じる。
【0016】
図8および9は、インシュリン受容体のキナーゼドメインタンパク質のX線結晶構造解析によって得られたリボン図であり、図8は、オンのコンホメーション、すなわち生物学的に上方調節されたコンホメーションのタンパク質を青で示す。この写真では、黄色のストランドは、スイッチ制御リガンドの配列、マゼンタの部分は、リガンド配列と相互に作用して、タンパク質を生物学的に上方調節されたコンホメーションに保つ相補的なオンのスイッチ制御ポケットを形成する鍵残基を示す。一方、図9は、オフのコンホメーション、すなわち生物学的に下方調節されたコンホメーションのタンパク質を、真鍮模擬色で示す。この図では、スイッチ制御配列を図8と同じく黄色で示し、オフのスイッチ制御ポケットの鍵残基は緑で示す。スイッチ制御リガンドとオフのスイッチ制御ポケットとの相互作用によって、タンパク質が、図示した生物学的に下方調節されたコンホメーションに保たれる。
【0017】
模式図についてさらに説明すると、図8の図は、リガンド106がポケット102と相互に作用する図4に対応する。同様に、図9は、リガンド106がポケット104と相互に作用する図2に対応する。
【0018】
当業者は、特定のタンパク質が、タンパク質をオンのポケットとの相互作用へと導く傾向のあるリガンド106のリン酸化が生じているのか、タンパク質をオフのポケットとの相互作用を生じるコンホメーションへと導く傾向のあるリン酸基のリガンドからの脱離が生じているのかにもとづいて、上方調節されたコンホメーションと下方調節されたコンホメーションとの間で経時的に「スイッチ」されることを理解できるはずである。このように、スイッチ制御リガンドとスイッチ制御ポケットとの相互作用によって生じるコンホメーションの変化は、動的な性格をもつものであり、究極的には細胞内の状態によって支配されている。
【0019】
また、タンパク質のコンホメーションに異常が生じると、病状が悪化する可能性があることも理解されるはずである。たとえば、所定のタンパク質が、オフのコンホメーション、すなわち生物学的に下方調節されたコンホメーションのままとなってしまうと、活性のタンパク質が必要とされるような代謝プロセスが停止、遅滞したり、望ましくない副作用が生じる可能性がある。同様に、タンパク質が、オンのコンホメーション、すなわち生物学的に上方調節されたコンホメーションのままとなってしまうと、代謝プロセスが促進されすぎて、その結果、健康上の重篤な問題が生じる場合もある。
【0020】
しかし、タンパク質活性を調節して、正常なインビボのタンパク質の活性を復元または近似させうる小型分子化合物を開発しうることを見出した。図5からわかるように、小型分子116はオフのポケット104と相互に作用して、リガンド106のポケット104との相互作用を防止することができる。この場合、この簡略仮想図では、タンパク質100は、オンのコンホメーション、すなわち生物学的に上方調節されたコンホメーションのままでいる可能性が高くなる。あるいは、小型分子118がオンのポケット102と相互作用することにより、リガンド106のポケット102との相互作用を防止することもできる。この場合、この簡略模式図では、リガンド106がオフのポケット104と相互作用して、タンパク質がオフのコンホメーションに移動する、すなわち生物学的に下方調節されたコンホメーションとなる可能性が高くなる。
【0021】
したがって、タンパク質を分析して、相互作用するスイッチ制御リガンドおよびスイッチ制御ポケットの位置および配列を確認し、同時に、これらがどのように相互作用してタンパク質が、生物学的に上方調節されたコンホメーションと、下方調節されたコンホメーションの間でスイッチされるのかを理解することは、タンパク質の活性を調節しうる小型分子化合物を設計・開発する際に使用できる強力な手段となる。
【0022】
一般に、特定の天然タンパク質と相互に作用してタンパク質活性を調節する分子を識別する方法では、まず、タンパク質の一部を形成するスイッチ制御リガンドと、同じくタンパク質の一部を形成し、このリガンドと相互作用するスイッチ制御ポケットとを識別する。リガンドとポケットとは、協同して相互に作用して、タンパク質のコンホメーションおよび生物学的活性を調節し、その際には、タンパク質は、リガンドとポケットが相互作用すると、第一コンホメーションと対応する第一生物学的活性をとり、リガンドとポケットが相互作用しない場合には、第一コンホメーションとは異なる第二のコンホメーションおよび生物学的活性をとる。
【0023】
次の工程では、第一および第二のコンホメーションのタンパク質の各サンプルを用意し、これらのタンパク質サンプルを使用して、候補小型分子のスクリーニング・アッセイをを行う。こうしたスクリーニングでは、一般に、候補分子を、サンプルの少なくとも1つと接触させ、どの小型分子が、上記で識別したタンパク質のスイッチ制御ポケット領域と結合するかを識別する。
【0024】
本発明の方法は、多岐にわたる天然の哺乳動物(たとえばヒト)のタンパク質、たとえば野生型のコンセンサスタンパク質、疾病の多形、疾病の融合タンパク質、および/または人工的に操作した改変タンパク質に適用することができる。適用可能なタンパク質の分類群としては、酵素、受容体、シグナル伝達タンパク質を挙げることができ、具体的には、キナーゼ、ホスファターゼ、スルホトランスフェラーゼ、スルファターゼ、転写因子、核ホルモン受容体、Gタンパク質結合受容体、Gタンパク質、GTPアーゼ、ホルモン、ポリメラーゼ、およびヌクレオチド調節部位を含む他のタンパク質を挙げることができる。大抵の場合、対象タンパク質の分子量は少なくとも約15kDa、より一般には、約30kDaを超えるものである。
【0025】
本発明の方法の過程では、数多くの技法を用いて、1以上のスイッチ制御リガンド配列および1以上のスイッチ制御ポケットを識別し、候補小型分子モジュレータの上方および下方調節を判定することができる。一般に、こうした方法としては、生物情報学的分析、X線結晶構造解析、磁気共鳴スペクトロスコピー(NMR)、円偏光二色性(CD)、およびアフィニティ系のスクリーニングを挙げることができる。また、全くの通常技術、たとえば、部位特異的突然変異誘発および標準的な生化学実験法も役立つはずである。
【0026】
生物情報学的分析を実施すると、実験を行うことなく、関連したリガンドおよびポケットを識別することが可能である。たとえば、関連タンパク質に関するデータは、場合によっては、利用可能なデータベース、たとえばPUBMEDの使用のみによっても評価することができる。したがって、最初の工程では、配列情報PUBMEDを、対象タンパク質の公知の構造について調べる。次に、BLAST検索を行って、選択した最小ストリンジェンシー(たとえば、60%以上)を含む他の配列を確認することができる。この検索によって、対象点突然変異または多形、ならびに異常融合タンパク質が明らかとなる可能性がある。これらの検索対象は、いずれも、疾患の原因となりうるものであり、疾患の原因となる機能性または機能障害性のスイッチ制御リガンド配列および/またはポケットの識別についての洞察が得られる可能性がある。こうした生物情報学的分析の具体例については、実施例1で後述する。
【0027】
X線結晶構造解析法では、まず、高度に精製されたタンパク質が得られるタンパク質発現法が必要である。全遺伝子を合成する技術を使用して、使用する特定の発現系に対して最適化したタンパク質遺伝子を化学的に合成することもできる。通常技術を用いて、合成オリゴヌクレオチドから任意の遺伝子を迅速に合成することができる。ソフトウェア(Gene Builder(登録商標))と付随する分子生物学的方法を用いると、任意の遺伝子を合成することができる。全遺伝子を合成する方が、最適な発現にむけて、コドンを最適化した遺伝子を迅速に合成できるので、伝統的なクローニング法より有利である。また、複雑な突然変異(たとえば、多くの異なった変異の組合わせによるもの)を、複数工程でなく1工程で生成することも可能である。制限部位を戦略的に配置すると、必要に応じて、突然変異を迅速に付加することができる。したがって、この技術を用いると、より短時間に、はるかに多くの遺伝子構築物を生成できる。タンパク質配列の選択は、系統分析、分子モデリングおよび構造予測、公知の発現、機能的なデータ・スクリーニング、報告済みの文献データの組合わせを用いて判断して、タンパク質製造戦略を開発する。発現構築物を市販の製品および/またはベクターを用いて製造して、タンパク質を、バキュロウイルスに感染させた昆虫細胞で発現させることができる。大腸菌の発現系を使用して、他のタンパク質を製造することもできる。遺伝子は、アフィニティ・タグを付加することによって修飾することもできる。遺伝子は、欠失、点突然変異、タンパク質の融合を生成することによって修飾して、発現を改善したり、精製の便宜をはかったり、結晶化を促進したりすることもできる。
【0028】
タンパク質の精製: 発現実験で得られた全細胞のペーストを、窒素キャビテーション、フレンチプレス、ミクロ流動化のうち、可溶性のタンパク質を得るうえで最も効果的な方法で破砕する。抽出物のタンパク質精製を、複数のカラム(Glu−mAb、metal chelate、Q−seph、S−Seph、Phenyl−Seph、およびCibacron Blueを含む複数のカラム)を標準的な手順で並行して走らせるロボット装置を使用してパラレルに実施し、各分画をSDS−PAGEで分析する。この情報を、公開されている精製プロトコールと組合わせて、精製プロトコールを迅速に開発する。精製を終了したら、タンパク質を、複数の生物物理学的アッセイ(動的光散乱、紫外線吸収、MALDI−ToF、分析用ゲル濾過、等)に供する。
【0029】
結晶の成長とX線による品質分析: スパース行列および集束結晶化スクリーンを、リガンド有りと無しの場合について2以上の温度で用意する。リガンド無しで得た結晶(アポ結晶)をリガンド含浸実験に用いる。結晶の成長状態を、最初の結果にもとづいて、タンパク質結晶に対して最適化する。適当なタンパク質結晶が得られたら、スクリーニングを行って、各種の凍結保存状態について、R−AXIS IVイメージングプレート装置およびX−STREAMクリオスタットで、回折能を測定する。回折能のよいタンパク質結晶を、X線回折データの収集に使用するか、液体窒素中でその後のシンクロトロンX線放射源でのデータ収集用に保存する。タンパク質結晶の回折限界を、少なくとも2回回折画像を、90°の間隔をおいたφスピンドルで撮影することによって決定する。回折画像を収集する間は、φスピンドルを1°揺動する。双方の画像を、X線データ解析のHKL−2000スイートと分解ソフトウェアで処理する。タンパク質結晶の回折解像度は、インデクシングした反射の50%以上が1シグマ以上の強さを有する解像シェルの高い側の解像限界として受け取る。
【0030】
X線回折データの収集: タンパク質結晶が、R−AXIS IVシステムまたはシンクロトロンで3.0Å以上の回折を示すことがわかった場合には、完全なデータセットをシンクロトロンで収集する。ここで、完全なデータセットとは、解像度が最大のシェルでの全ての反射の90%以上を収集した場合として定義するものである。X線回折データは、X線回折データ処理用のソフトウェアのHKL−2000スイートを使用して処理する(固有反射と強度に分解する)。
【0031】
構造の決定: タンパク質の構造を、1以上のタンパク質検索モデルを利用した分子置換(MR)で決定する。このMR法では、タンパク質データバンク(Protein Data Bank、PDB)から入手可能なタンパク質の座標セットを使用する。必要に応じて、構造の決定は、重原子を用いた多重重原子同型置換法(MIR)および/または多波長異常分散(MAD)法で行う。結晶(重原子を含まない母液または凍結保護物質で洗浄後のもの)のEXAFSスキャンで適当な重原子シグナルが得られた場合には、重原子を含浸させた結晶についてのについてのMADシンクロトロンのデータセットを集める。誘導化のための重原子のデータセットの解析は、計算プログラムのCCP4結晶構造解析スイートを使用して行うことができる。重原子の部位を、(│FPH│−│FP│)2の差のパターソンおよび(│F+│−│F−│)2の異常差パターソン図で識別する。
【0032】
スイッチ制御リガンド配列およびポケットの識別に際しては、強磁場核磁気共鳴(NMR)分光分析法を使用することもできる。NMRを用いた研究で、タンパク質、特にタンパク質キナーゼの構造を解明できることが報告されている。(Wuthrich,K;“NMR of Proteins and Nucleic Acids” Wiley−Interscience:1986、Evans,J.N.S.,Biomolecular Nmr Spectroscopy,Oxford University Press:1995、Cavanagh,J.ら,N.Protein Nmr Spectroscopy: Principals and Practice,Academic Press:1996.、Krishna,N.R.;Berliner,L.J. Protein Nmr for the Millenium(Biological Magnetic Resonance,20),Plenum Pub Corp:2003。
【0033】
この20年間で、NMRは、タンパク質の構造やタンパク質と他の生体分子との相互作用を探り、小型分子とタンパク質の相互作用の詳細を明らかにするうえで強力な技法に育ってきた。NMR法は、X線結晶構造解析法と相補的であり、これらの2つの技法を組合わせると、タンパク質と小型分子の相互作用がどのようなものなのかを明らかとするうえで強力な戦略を立てることが可能となる。特に有用なNMR法は、15Nおよび/または13C標識タンパク質を調製し、このタンパク質のスイッチ制御リガンド配列のスイッチ制御ポケットとの相互作用、または小型分子モジュレータのスイッチ制御ポケット領域との相互作用にともなって生じるタンパク質のコンホメーション変化時の化学シフトの動揺を分析するものである。
【0034】
円偏光二色性(CD)は、タンパク質のコンホメーションを調べるのに適した技法であり(Johnson,W.C.,Jr.;Circular Dichroism Spectroscopy and the vacuum ultraviolet region;Ann.Rev.Phys.Chem.(1978) 29:93、Johnson,W.C.,Jr.;Protein secondary structure and circular dichroism: A practical guide” Proteins: Str.Func.Gen.(1990) 7:205、Woody,R.W.“Circular dichroism of peptides”(Chapter 2) The Peptides Volume 7,1985,Academic Press、Berova,N.,Nakanishi,K.,Woody,R.W.,Circular Dichroism: Principles and Applications,2nd Ed. Wiley−VCH,New York,2000、Schmid,F.X.;Spectral methods of characterizing protein conformation and conformational changes in Protein Structure,a practical approach edited by T.E.Creighton,IRL Press,Oxford 1989)、特に、タンパク質キナーゼのコンホメーションの変化を調べるうえでの円偏光二色性の利用も報告されている(Bosca,L.;Moran,F.;Circular dichroism analysis of ligand−induced conformational changes in protein kinase C. Mechanism of translocation of the enzyme from the cytosol to the membranes and its implications. Biochemical J.(1993) 290:827、Okishio,N.;Tanaka,T.;Fukuda,R.;Nagai,M.;Differential Ligand Recognition by the Src and Phosphatidylinositol 3−Kinase Src Homology 3 Domains: Circular Dichroism and Ultraviolet Resonance Raman Studies;Biochemistry(2003) 42: 208、Deng,Z.;Roberts,D.;Wang,X.;Kemp,R.G.;Expression,characterization,and crystallization of the pyrophosphate−dependent phosphofructo−1−kinase of Borrelia burgdorferi.Arch.Biochem.Biophys.(1999) 371: 326;、Reed,J;Kinzel,V;Kemp,B.E.;Cheng,H.C.;Walsh,D.A.;Circular dichroic evidence for an ordered sequence of ligand/binding site interactions in the catalytic reaction of the cAMP−dependent protein kinase. Biochemistry(1985) 24: 2967、Okishio,N.;Tanaka,T.;Nagai,M.;Fukuda,R.;Nagatomo,S.;Kitagawa,T.;Identification of Tyrosine Residues Involved in Ligand Recognition by the Phosphatidylinositol 3−Kinase Src Homology 3 Domain: Circular Dichroism and UV Resonance Raman Studies.,Biochemistry(2001) 40: 15797、Okishio,N.;Tanaka,T.;Fukuda,R.;Nagai,M.;Role of the Conserved Acidic Residue Asp21 in the Structure of Phosphatidylinositol 3−Kinase Src Homology 3 Domain: Circular Dichroism and Nuclear Magnetic Resonance Studies,Biochemistry(2001) 40: 119、Mattsson,P.T.;Lappalainen,I.;Backesjo,C.−M.;Brockmann,E.;Lauren,S.;Vihinen,M.;Smith,C.I.E.;“Six X−linked agammaglobulinemia−causing missense mutations in the Src homology 2 domain of Bruton’s tyrosine kinase: phosphotyrosine−binding and circular dichroism analysis.” J.Immun.(2000) 164: 4170、Raimbault,C.;Couthon,F.;Vial,C.;Buchet,R.;“Effects of pH and KCl on the conformations of creatine kinase from rabbit muscle. Infrared,circular dichroic,and fluorescence studies.” Euro.J.Biochem.(1995) 234: 570、Shah,J.;Shipley,G.G.;Circular dichroic studies of protein kinase C and its interactions with calcium and lipid vesicles. Biochim.Biophys.Acta(1992) 1119: 19)。
【0035】
キナーゼの活性化(上方調節)に際して生じる、下方調節状態の場合よりはっきりとしたヘリックスの組織化およびコンホメーションの変化については、CDによって観察することができる。スイッチ制御ポケットに基づく小型分子による調節が生じる結果、優勢なコンホメーション状態が安定化する可能性がある。小型分子モジュレータの存在下で得られたCDスペクトルと、モジュレータの不在下で得られたCDスペクトルの相関を調べると、小型分子の結合の性質を判定し、そうした結合を通常のATP拮抗阻害物質の結合と区別することができる。
【0036】
各種の生物分析法によって、小型分子のタンパク質に対する結合アフィニティを測定することができる。候補の小型分子モジュレータをスクリーニングする早期の段階では、キャピラリー電気泳動(capillary zone electrophoresis、CZE)を利用するアフィニティ系のスクリーニング法を用いることができる。小型分子モジュレータとタンパク質の相互作用についてのKds(解離定数)を直接測定することもできる。(Heegaard,N.H.H.;Nilsson,S.;Guzman,N.A.;Affinity capillary electrophoresis: important application areas and some recent developments;J. Chromatography B(1998)715: 29−54、 Yen−Ho Chu,Y. −H.;Lees,W.J.;Stassinopoulos,A.;Walsh,C.T.;Using Affinity Capillary Electrophoresis To Determine Binding Stoichiometries of Protein−Ligand Interactions,Biochemistry(1994) 33: 10616−10621、Davis,R.G.;Anderegg R.J.;Blanchard,S.G.,Iterative size−exclusion chromatography coupled with liquid chromatographic mass spectrometry to enrich and identify tight−binding ligands from complex mixtures,Tetrahedron(1999) 55: 11653−1166、Shen Hu,S.;Dovichi,N.J.;Capillary Electrophoresis for the Analysis of Biopolymers;Anal. Chem.(2002) 74: 2833−2850、Honda,S.;Taga,A.;Suzuki,K.;Suzuki,S.;Kakhi,K.,Determination of the association constant of monovalent mode protein−sugar interaction by capillary zone eletrophoresis,J. Chromatography B(1992) 597: 377−382、Colton,I.J.;Carbeck,J.D.;Rao,J.;Whitesides,G.M.,Affinity Capillary Electrophoresis: A physical−organic tool for studying interaction in biomolecular recognition,Electrophoresis(1998) 19: 367−382。
【0037】
別のアフィニティ系のスクリーニング法では、候補タンパク質と結合する蛍光プローブ・レポータを利用する。候補である小型分子モジュレータを、この蛍光プローブアッセイでスクリーニングする。タンパク質と結合する化合物を、蛍光プローブ・レポータの蛍光の低減によって測定する。この方法については、以下の実施例1で報告する。
【0038】
本発明は、小型分子モジュレータとタンパク質のアダクトも提供する。タンパク質は、上述したタイプのものとする。モジュレータに関しては、モジュレータは、モジュレータとタンパク質の結合を最大限促進するために、スイッチ制御ポケット領域内の活性残基と相補的な官能基を有する必要がある。たとえば、各種キナーゼの場合には、1〜3のジカルボニル結合を有するモジュレータが有用であることが多いことがわかった。陽イオン性のスイッチ制御ポケットが見いだされた場合には、小型分子モジュレータは、酸性の官能基または部分、たとえばスルホン基、ホスホン基、カルボキシル基を有するものとすることが多い。分子量に関しては、好適なモジュレータは、通常、分子量が約120−650Da、より好ましくは約300〜550Daである。これらの小型分子モジュレータを全細胞環境で調べる場合には、小型分子モジュレータの特性が、小型分子モジュレータの細胞浸透性を最適化する周知の原理に適合する必要がある(Lipinski’s Rule of 5,Advanced Drug Delivery Reviews,Vol.23,Issues 1−3,pp3−25(1997))。
【0039】
本発明は、タンパク質の生物学的活性を変更する方法も提供するものであり、この方法では、一般に、まず、スイッチ制御ポケットを備えた天然タンパク質を用意する。次に、このタンパク質を、非天然分子のモジュレータと、このモジュレータがタンパク質のポケット領域に結合するような条件で接触させて、タンパク質のコンホメーションの誘導または制限により、少なくとも部分的にタンパク質の生物学的活性を調節する。
以下の実施例は、本発明の代表的な方法について説明するものである。しかし、これらの実施例は、例示を目的としてここに記載するものであって、実施例中の何らかの記載をもって、本発明全体の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0040】
<実施例1>
この実施例では、天然タンパク質の一部を形成するスイッチ制御ポケットの領域と相互作用して、タンパク質のインビボでの生物学的活性を調節する小型分子を識別および/または開発する技術を例示する。具体的には、本発明の方法を用いて、公知のキナーゼタンパク質ファミリーすなわち、abl、p38−α、Gsk−3β、インシュリン受容体−1、タンパク質キナーゼB/Akt、およびトランスフォーミング成長因子B−I受容体キナーゼの分析を行った。
【0041】
工程1:キナーゼタンパク質内のスイッチ制御リガンドの識別と分類
一般に、キナーゼのスイッチ制御リガンドは、この特徴に関しての十分に詳しい情報が入手可能であるならば、各キナーゼから得られた配列および構造についてのデータを使用することよって識別することができる。したがって、本方法のこの工程は、実験をおこなわなくても実施可能である。キナーゼに関する公知のデータを用いることで、過渡的に修飾可能なアミノ酸残基を容易に識別することができ、これらのアミノ酸残基は、こうしたタンパク質の場合には、リン酸化またはアシル化によって修飾される。スイッチ制御リガンド配列の全範囲がどこまでである可能性があるのかについては、推定可能である。キナーゼの場合に役立つもう一つの事項としては、リガンドが、残基のDFG配列から始まることが多いことを挙げることができる(本明細書では、明細書を通じて一文字アミノ酸コードを使用する)。
【0042】
Ablキナーゼ
全長のBCR−Ablの配列を、本明細書では配列番号34で示す。このablキナーゼおよびbcr−abl融合タンパク質キナーゼのスイッチ制御リガンド配列の一つは、配列:D381、F382、G383、L384、S385、R386、L387、M388、T389、G390、D391、T392、Y393、T394、A395、H396(リガンド1)(配列番号1)によって構成されている。上流の調節キナーゼまたは自己リン酸化によって(bcr)ablが活性化すると、Y393がリン酸化され、したがって、Y393が、過渡的に修飾される残基である(Tanisら,Moleulcar and Cellular Biology(2003)23:3884、BrasherおよびVan Etten,The Journal of Biological Chemistry(2000)275:35631)。スイッチ制御リガンド配列は、DFGで始まり、H396で終わる。
【0043】
別のスイッチ制御リガンドは、配列Myr−G2Q3Q4P5G6K7V8L9G10D11Q12R13R14P15S16L17(リガンド2)(配列番号2)を有している。ablキナーゼのアイソフォーム1Bに特異的なリガンド2は、ablタンパク質配列のN末端キャップであり、より具体的には、G2(グリシン2)に位置するN末端ミリストリル基である(JacksonおよびBaltimore,(1989)EMBO Journal 8:449、Resh,Biochem Biophys. Acta(1999)1451:1)。
【0044】
p38−αキナーゼ
p38−αキナーゼ(配列番号3)のスイッチ制御リガンド配列は、配列: D168、F169、G170、L171、A172、R173、H174、T175、D176、D177、E178、M179、T180、G181、Y182、V183、A184、T185、R186、W187、Y188、R189(配列番号4)によって構成されている。p38−αが上流の調節キナーゼによって活性化されるとT180およびY182がリン酸化され(Wilsonら,Chemistry & Biology(1997)4:423およびこの文献の参考文献を参照のこと)、したがって、これらが過渡的に修飾可能な残基である。
【0045】
Gsk−3βキナーゼ
全長のGsk−3βキナーゼの配列を、本明細書では配列番号32で示す。1GNG結晶構造に対応するGsk−3βキナーゼの配列を、本明細書では配列番号33で示す。Gsk−3βキナーゼタンパク質のスイッチ制御リガンド配列は、配列:D200、F201、G202、S203、A204、K205、Q206、L207、V208、K209、G210、E211、P212、N213、V214、S215、Y216、I217、C218、S219、K220(Gskリガンド1)(配列番号5)によって構成され、上流の調節キナーゼによる活性化が生じるとY216がリン酸化される(Hughesら,EMBO Journal(1993)12:803、Lesortら,Journal of Neurochemistry(1999)72:576、ter Haarら,Nature Structural Biology(2001)8:593およびこれらの文献の参考文献を参照のこと。
【0046】
別のスイッチ制御リガンド配列は:G3、R4、P5、R6、T7、T8、S9、F10、A11、E12(Gskリガンド2)(配列番号6)であり、S9が、上流のキナーゼPKB/Aktの作用によってリン酸化される(Dajaniら,Cell(2001)105:721、Crossら,Nature(1995)378:785)。S9が過渡的に修飾可能な残基である。
【0047】
インシュリン受容体キナーゼ−1
全長のIRK−1遺伝子を、本明細書では、配列番号35で示す。1GAG結晶構造に対応する配列を、本明細書では、配列番号36で示す。配列番号36では、少なくとも最初の残基が、配列番号35と異なることに注意されたい。このインシュリン受容体キナーゼ−1のスイッチ制御リガンド配列は、配列:D1150、F1151、G1152、M1153、T1154、R1155、D1156、I1157、Y1158、E1159、T1160、D1161、Y1162、Y1163、R1164、K1165、G1166、G1167、K1168、G1169、L1170(配列番号7)によって構成されている。Y1158、Y1162、およびY1163が、過渡的に修飾可能な残基であり、インシュリン受容体がインシュリンによって活性化されるとリン酸化される(Hubbardら、EMBO Journal(1997)16:5572およびこの文献の参考文献を参照のこと)。
【0048】
タンパク質キナーゼB/Atk
全長のAtk1配列を、本明細書では、配列番号37で示す。タンパク質キナーゼB/Aktキナーゼのみのドメインを、本明細書では、配列番号38で示す。これらの配列は、N末端とC末端が異なっていることに注意されたい。また、キナーゼのみのドメインは、全長配列の残基143で始まっている。タンパク質キナーゼB/Atkのスイッチ制御リガンド配列は、P468、H469、F470、P471、Q472、F473、S474、Y475、S476、A477、S478(配列番号8)によって構成されている。S474が、過渡的に修飾可能な残基であり、上流のキナーゼ調節タンパク質による活性化が生じるとリン酸化され、リン酸化されていないPKB/Atkと比べて、PKB/Ptk活性を1,000倍上昇させる(Yangら、Molecular Cell(2002)9:1227およびこの文献の参考文献を参照のこと)。
【0049】
トランスフォーミング成長因子B−I受容体キナーゼ
TGF−B−I受容体キナーゼの全長配列を本明細書では、配列番号39で示す。このトランスフォーミング成長因子B−I受容体キナーゼのスイッチ制御リガンドが、T185、T186、S187、G188、S189、G190、S191、G192、L193、P194、L185、L196(配列番号9)である。T185、T186、S187、S189、およびS191が、過渡的に修飾可能な残基であり、トランスフォーミング成長因子B−II受容体のキナーゼ活性が活性化されると、一部または全体がリン酸化される(Wranaら,Nature(1994)370:341、ChenおよびWeinberg,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1995)92:1565)。
【0050】
工程2:スイッチ制御ポケットの識別と分類
スイッチ制御リガンドの識別の場合と同じく、相補的なスイッチ制御ポケットも、公開されたキナーゼのデータ、特に、X線結晶構造解析から推定することができる。この分析の最初の工程は、対応するスイッチ制御リガンド内の先に識別した過渡的に修飾可能な残基に結合する残基を識別する作業であった。
【0051】
Ablキナーゼ
ablキナーゼ(配列番号30)のX線結晶構造解析によって、1FPU(配列番号10)(Schlindlerら,Science(2000)289:1938)および1IEP(配列番号11)(Nagarら,Cancer Research(2002)62:4236)の構造にもとづく推定スイッチ制御ポケットの配列が明らかとなった。スイッチ制御ポケットの配列は、上記で識別したキナーゼのスイッチ制御リガンド1の配列と相補的であり、α−Cヘリックス(残基279〜293)と触媒ループ(残基359〜368)の組合せに由来する2つの塩基性アミノ酸のクラスターを備えている。具体的には、α−Cヘリックス由来のリシン285と、触媒ループ由来のアルギニン362が、スイッチ制御ポケットの一部を形成しており、ちなみに、これらの残基は、スイッチ制御リガンド由来の過渡的に修飾された(リン酸化)残基Y393の結合を安定化させる。スイッチ制御ポケットに寄与する他の予測されるアミノ酸残基としては、グリシンに富んだループ(残基253〜279)、N−lobe(残基271)、β−5ストランド(残基313〜318)由来の残基、α−Cヘリックス(残基280〜290)由来の他のアミノ酸、触媒ループ(残基359〜368)由来の他のアミノ酸が挙げられる。また、Cローブ残基401または416は、このポケットの基部を形成しているものと予測される。
【0052】
表1は、(bcr)ablキナーゼのリガンド1のスイッチ制御ポケットを形成するタンパク質配列由来のアミノ酸を示す。アミノ酸残基の位置に言及する場合は、いずれも、全長タンパク質に関するものであり、全長タンパク質の位置223から始まる配列番号30に関するものではない。
【0053】
【表1】
【0054】
ablキナーゼのX線結晶構造解析によって、リガンド2と相補的な構造1OPL(配列番号12および13)にもとづく推定スイッチ制御ポケットの配列が明らかとなった。ablキナーゼのアイソフォーム1Bの構造1OPLのX線結晶構造解析によって、この推定スイッチ制御ポケットが明らかとなる(Nagarら,Cell(2003)112:859)。
【0055】
表2は、(bcr)ablキナーゼのリガンド2と相補的なスイッチ制御ポケットを形成するタンパク質配列由来のアミノ酸配列を示す。
【0056】
【表2】
【0057】
p38−αキナーゼ
p38−αキナーゼ(配列番号31)のX線結晶構造解析によって、1KV2(配列番号14)の構造(Pargellisら;Nat.Struct,Biol.9,pp.268−272(2002))にもとづく推定スイッチ制御ポケットが明らかとなる。さきに識別したスイッチ制御リガンド配列のスイッチ制御ポケットは、α−Cヘリックス(残基61〜78)と触媒ループ(残基146〜155)の組合せに由来する2つの塩基性アミノ酸のクラスターを備えている。具体的には、アルギニン67および/またはアルギニン70は、α−Cヘリックスに由来し、アルギニン149は、触媒ループに由来する。スイッチ制御ポケットに寄与する他の予測されるアミノ酸としては、グリシンに富んだループ(残基34〜36)由来の残基、α−Cヘリックス(残基61〜78)由来のアミノ酸、触媒ループ(残基146〜155)由来のアミノ酸を挙げることができる。また、Cローブ残基197〜200由来のアミノ酸は、このポケットの基部を形成している。
【0058】
表3は、スイッチ制御ポケットを形成しているタンパク質配列由来のアミノ酸を示す。
【0059】
【表3】
【0060】
Gsk−3βキナーゼ
gsk−3βキナーゼのX線結晶構造解析によって、1GNG(配列番号15)、1H8F(配列番号16および17)、1109(配列番号18)および1O9U(配列番号28および29)の構造(Frameら,Molecular Cell,Vol.7,pp.1321−1327(2001)、Dajaniら,Cell,Vol.105,pp.721−732(2001)、Dajaniら,EMBO Journal,Vol.22,pp.494−501(2003)、およびter Haarら,Nature Structural Biology,Vol.8,pp.593−596(2001))にもとづくスイッチ制御ポケットが明らかとなる。さきに識別したスイッチ制御リガンド配列1および2に対応するスイッチ制御ポケットは、α−Cヘリックス(残基96〜104)と触媒ループ(残基177〜186)の組合せに由来する2つの塩基性アミノ酸のクラスターを備えている。具体的には、アルギニン96は、α−Cヘリックスに由来し、アルギニン180は、触媒ループに由来する。スイッチ制御ポケットに寄与する他の予測されるアミノ酸残基としては、グリシンに富んだループ(残基66〜68)に由来する残基、α−Cヘリックス(残基90〜104)に由来するアミノ酸、触媒ループ(残基177〜186)に由来するアミノ酸を挙げることができる。また、Cローブ残基233〜235由来のアミノ酸は、このポケットの基部を形成している。
【0061】
表4は、スイッチ制御ポケットを形成しているタンパク質配列由来のアミノ酸を示す
【0062】
【表4】
【0063】
インシュリン受容体キナーゼ−1
インシュリン受容体キナーゼ−1のX線結晶構造解析によって、1GAG(配列番号19および20)、1IRK(配列番号21)の構造(Parangら,Nat.Structural Biology,8,p.37(2001);Hubbardら,Nature,372,p.476(1994))にもとづくスイッチ制御ポケットが明らかとなる。スイッチ制御リガンド配列のスイッチ制御ポケットは、α−Cヘリックス(残基1037〜1054)と触媒ループ(残基1127〜1137)の組合せに由来する2つの塩基性アミノ酸のクラスターを備えている。具体的には、アルギニン1039は、α−Cヘリックスに由来し、アルギニン1131は、触媒ループに由来する。スイッチ制御ポケットに寄与する他の予測されるアミノ酸残基としては、グリシンに富んだループ(残基1005〜1007)に由来する残基、α−Cヘリックス(残基1037〜1054)に由来するアミノ酸、触媒ループ(残基1127〜1137)に由来するアミノ酸を挙げることができる。また、Cローブ残基1185〜1187由来のアミノ酸は、このポケットの基部を形成している。
【0064】
表5は、スイッチ制御ポケットを形成しているタンパク質配列由来のアミノ酸を示す
【0065】
【表5】
【0066】
タンパク質キナーゼB/Akt
タンパク質キナーゼB/AktのX線結晶構造解析によって、1GZK(配列番号22)、1GZO(配列番号23)、1GZN(配列番号24)の構造(Yangら、Molecular Cell(2002)9:1227)にもとづくスイッチ制御ポケットが明らかとなる。対応するスイッチ制御リガンド配列に対するスイッチ制御ポケットは、Bヘリックス(残基185〜190)、Cヘリックス(残基194〜204)、β−5ストランド(残基225〜231)に由来するアミノ酸残基から構成されている。具体的には、アルギニン202は、Cヘリックスに由来する。
【0067】
表6は、タンパク質キナーゼB/Aktのスイッチ制御ポケットを形成しているタンパク質配列由来のアミノ酸を示す
【0068】
【表6】
【0069】
トランスフォーミング成長因子B−I受容体キナーゼ
トランスフォーミング成長因子B−I受容体キナーゼのX線結晶構造解析によって、1B6C(配列番号25)の構造(Huseら,Cell(1999)96:425)にもとづくスイッチ制御ポケットが明らかとなる。スイッチ制御ポケットは、GS−1ヘリックス、GS−2ヘリックス、Nローブ残基253〜266、α−Cヘリックス残基242〜252に由来するアミノ酸残基によって構成されている。
【0070】
表7は、TGF B−I受容体キナーゼのスイッチ制御ポケットを形成しているタンパク質配列由来のアミノ酸を示す
【0071】
【表7】
【0072】
第二のスイッチ制御ポケットは、TGF B−1受容体キナーゼ中に存在している。このスイッチ制御ポケットは、上述の(bcr)abl(表1)、p38−αキナーゼ(表3)、gsk−3βキナーゼ(表4)について記載したポケットと類似している。TGF B−1は、ポケットに適合する明瞭な相補的なスイッチ制御リガンドを持たないものの、このポケットは、進化的に保存されており、小型分子スイッチ制御モジュレータの結合に際して利用可能となっている。このポケットは、グリシンに富んだループ、α−Cヘリックス、触媒ループ、スイッチ制御リガンド配列、Cローブに由来する残基から構成されている。
【0073】
表8は、スイッチ制御ポケットを形成しているタンパク質配列由来のアミノ酸を示す
【0074】
【表8】
【0075】
第三のスイッチ制御ポケットは、空間的には、ATP結合ポケットとα−Cヘリックスの間に位置しており、表9に特定した構築物に由来する残基から構成されている。このポケットは、αCヘリックスが「閉形態」に歪んだ結果形成され、阻害タンパク質FKBP12(配列番号26)が結合する(Huseら,Molecular Cell(2001)8:671を参照のこと)。
【0076】
表9は、第三スイッチ制御ポケットを形成しているタンパク質配列由来のアミノ酸を示す
【0077】
【表9】
【0078】
工程3:スイッチ制御リガンドとスイッチ制御ポケットとの相互作用の性質の確認、および小型分子の設計上適当な座位の識別
【0079】
1.一般的な計算法
スイッチ制御ポケット、そしてスイッチ制御ポケットとリガンドの相互作用をコンピュータを利用して描写するにあたっては、SurfNet(Laskowski,R.A,J.Mol.Graph.,1995,13,323)、PASS(G.Patrick Brady,G.P.Jr.;Stouten,P.F.W.,J.Computer−Aided Mol.Des.2000,14,383)、Voidoo(G.J.KleywegtおよびT.A.Jones(1994) Acta Cryst D50,178−185;http://www.iucr.ac.uk/journals/acta/tocs/actad/1994/actad5002.html;、およびSquares(Jiang,F.;Kim,S.−H.;“Soft−docking”: Matching of Molecular Surface Cubes,J.Mol.Biol.1991,219,79)を改変したものを、ポケットの可視化を行うGRASP(http://trantor.bioc.columbia.edu/grasp/)と組合わせて使用した。小型分子のケモタイプをこれらの推定部位にパニングおよびドッキングするにあたっては、SoftDock(http://www.scripps.edu/pub/olson−web/doc/autodock/;Morris,G.M.;Goodsell,D.S.;Halliday,R.S.;Huey,R.;Hart,W.E.;Belew,R.K.;Olson,A.J,J.Computational Chemistry,1998,19,1639]およびDock[http://www.cmpharm.ucsf.edu/kuntz/dock.html;Ewing,T.D.A.;Kuntz,I.D.,J.Comp.Chem.1997,18,1175]を、AMBERベース[http://www.amber.ucsf.edu/amber/amber.html]の束縛分子ダイナミクスと適宜組合わせて使用した。
【0080】
ポケット解析プログラムで使用される一般的なアプローチは、隙間領域を画定し、この領域を用いて、タンパク質表面で溶剤がアクセスするうえで利用できる穴を決定するというものである。隙間領域は、球または立方体を基本として把握し、隙間領域の画定に際しては、まず、2つ以上の原子間の領域を球または立方体(全形または裁頭形)で充填し、これらを使用して、3D密度マップを計算し、このマップの輪郭を描いて、隙間領域の表面を画定する。サーフネット(Surfnet)の使用者用マニュアルから抜粋した球についての一般的なアプローチは、下記のようなものである。
【0081】
a.2つの原子AおよびBのファンデルワールス面の間に、ちょうど各面に接触するように、試行隙間球が配置されている。
【0082】
b.隣接する原子について、順番に考えていく。いずれかの原子が、隙間球に貫入するようであれば、試行隙間球の半径を、隙間球が貫入している原子とちょうど接触するようになるまで低減する。この過程を、すべての隣接する原子について考慮するまで繰り返す。球の半径が、所定の最低限度(通常1.0A)に満たない場合には、この球は不適である。そうでない場合には、最終的な隙間球を保存する。
【0083】
この手順を、全ての原子のペアについて考慮し、隙間領域が球で充填されるまで継続する。
【0084】
d.次に、ガウス型関数を使用して、球を使用して格子点の3Dアレイ状の点を更新する。
【0085】
e. この更新は、格子の輪郭を100.0の輪郭レベルで描いた際に、得られる3D面が各隙間球と対応するように行う。
【0086】
f.すべての球で格子が更新されたら、最終的な3D輪郭が、相互貫入する隙間球の表面を表し、したがって、表面ポケットを構成するポケット原子群の範囲を確定することになる。
【0087】
ポケット分析に影響を及ぼす要因としては、格子点の間隔、用いる輪郭レベル、隙間を充填するのに使用する球の半径の最小および最大限度を挙げることができる。一般に、スイッチ制御ポケットのサイズおよび形状は、各個別プログラムによって決定された計算スイッチ制御ポケットを重ね合わせることによって見いだされるコンセンサス・ポケットによって描かれる。
【0088】
上述したように、スイッチ制御リガンドと1以上のスイッチ制御ポケットの相互作用が生じると、「複合型スイッチポケット」と称されるポケットが形成されることが見いだされた。この複合型スイッチポケットは、スイッチ制御リガンドおよびスイッチ制御ポケット由来のアミノ酸残基を含む配列を有している。
【0089】
別のケースでは、スイッチ制御ポケットまたは複合型スイッチ制御ポケットが、活性部位ポケット(たとえば、キナーゼのATPポケット)と重なって、「組合わせ型スイッチ制御ポケット」が形成されることがある。こうした組合わせ型スイッチ制御ポケットは、スイッチ制御阻害物質の役目をはたす小型分子との結合に際しての座位としても有用な可能性がある。
【0090】
複合型スイッチポケットおよび組合せ型スイッチポケットは、もちろん、スイッチ制御ポケットに関して上述したのと同じ技法を使用することによって解析することができる。
【0091】
Ablキナーゼ
SURFNETでのポケットの解析を図10に示す。スイッチ制御ポケットを青で強調してある。このスイッチ制御ポケットをGRASPで見たところを、図11に示す。図中、タンパク質の複合型ポケット領域を丸で囲んである。図12に、(bcr)ablキナーゼの複合型スイッチ制御ポケットを構成する鍵アミノ酸残基を示す。複合型ポケットを構成するアミノ酸残基は、先に識別したスイッチ制御リガンドおよびスイッチ制御ポケットによって提供される。スイッチ制御ポケットの模式図を、図6に示す。
【0092】
表10に、複合型ポケットを構成している具体的なアミノ酸残基を示す。
【0093】
【表10】
【0094】
この複合型スイッチ制御ポケット用の小型分子の当初の設計では、Nローブのβストランド残基(M278)、α−Cヘリックス(E282、K285)、α−Eヘリックス(F359)、触媒ループ(I360、H361、R362、D363、N368)、スイッチ制御リガンド配列(R386、L387、Y393)、Cループ残基(F401)、およびα−Fヘリックス(F416)に由来するアミノ酸と結合する化学プローブに焦点をあてた。この複合型スイッチ制御ポケットを利用すると、この(bcr)ablキナーゼ複合型スイッチ制御ポケット内に繋ぎ止められる阻害物質を設計することができる。
【0095】
スクリーニング用に選択された代表的な化合物は、N−(4−メチル−3−(4−フェニルピリミジン−2−イルアミノ)フェニル)−L−4−(2−オキソ−4−フェニル−オキサゾリジニル−3−カルボニル)ベンズアミドである。
【0096】
図13は、(bcr)ablキナーゼの組合わせ型スイッチ制御ポケットを構成する鍵アミノ酸残基を示す。組合せ型ポケットを構成するアミノ酸残基は、先に識別したスイッチ制御リガンド、スイッチ制御ポケット、ATP活性部位に由来する。組合わせ型スイッチ制御ポケットの模式図を、図7に示す。
【0097】
表11に、組合せ型ポケットを構成している具体的なアミノ酸残基を示す。
【0098】
【表11】
【0099】
この組合わせ型スイッチ制御ポケットを利用すると、この(bcr)ablキナーゼの組合わせ型スイッチ制御ポケット内に繋ぎ止められる阻害物質を設計することができる。
【0100】
スクリーニング用に選ばれた代表的な化合物としては、N−[4−メチル−3−(4−ピリジン−3−イル−ピリミジン−2−イルアミノ)−フェニル]−4−(1,1,3−トリオキソ−[1,2,5]チアジアゾリジン−2−イルメチル)−ベンズアミド、−[4−メチル−3−(4−ピリジン−3−イル−ピリミジン−2−イルアミノ)−フェニル]−D−4−(2−オキソ−4−フェニル−オキサゾリジニル−3−カルボニル)ベンズアミド、−[4−メチル−3−(4−ピリジン−3−イル−ピリミジン−2−イルアミノ)−フェニル]−L−4−(2−オキソ−4−フェニル−オキサゾリジニル−3−カルボニル)ベンズアミド、−[4−メチル−3−(4−ピリジン−3−イル−ピリミジン−イルアミノ)−フェニル]−4−(4,4−ジオキソ−4−チオモルホリノメチル)ベンズアミド、およびN−(3−(4−(ピリジン−3−イル)ピリミジン−2−イルアミノ)−4−メチルフェニル)−4−((1−メチル−3,5−ジオキソ−1,2,4−トリアゾリジン−4−イル)メチル)ベンズアミドを挙げることができる。
【0101】
p38−αキナーゼ
SURFNETでポケットを解析した図を図14に示す。複合型スイッチ制御ポケットを青で強調してある。この複合型スイッチ制御ポケットをGRASPで見たところを、図15に示す。
【0102】
図16は、p38−αキナーゼの複合型スイッチ制御ポケットを構成する鍵アミノ酸残基を示す。これらのアミノ酸は、グリシンに富んだループ(Y35)、α−Cヘリックス(I62、I63、R67、R70、L74、L75、M78)、α−Dヘリックス(I141、I146)、触媒ループ(I147、H148、R149、D150、N155)、Nローブストランド(L167)、スイッチ制御リガンド配列(D168、F169)、およびα−Fヘリックス(Y200)に由来するものである。複合型ポケットを構成している具体的なアミノ酸残基については、下表で説明する。
【0103】
表12に、複合型スイッチ制御ポケットを形成しているタンパク質配列由来のアミノ酸を示す。
【0104】
【表12】
【0105】
この複合型スイッチ制御ポケットを利用すると、このp38−αキナーゼのスイッチ制御ポケット内に繋ぎ止められる制御物質を設計することが可能となる。
【0106】
代表的な化合物としては、3−{4−[3−tert−ブチル−5−(3−(4−クロロフェニル)ウレイド−1H−ピラゾール−1−イル}フェニル)プロパン酸、3−{4−[3−tert−ブチル−5−(3−(ナフタレン−1−イル)ウレイド]−1H−ピラゾール−1−イル}フェニル)プロパン酸、3−(3−{3−tert−ブチル−5−[3−(4−クロロフェニル)ウレイド]−1H−ピラゾール−1−イル)フェニル)プロピオン酸、3−(3−{3−tert−ブチル−5−[3−(ナフタレン−1−イル)ウレイド]−1H−ピラゾール−1−イル)フェニルプロピオン酸、1−{3−tert−ブチル−1−[3−(カルバモイルメチル)フェニル)−1H−ピラゾール−5−イル}−3−(4−クロロフェニル)尿素、および1−{3−tert−ブチル−1−[3−(2−モルホリノ−2−オキソエチル)フェニル]−1H−ピラゾール−5−イル}−3−(ナフタレン−1−イル)尿素を挙げることができる。
【0107】
Gsk−3βキナーゼ
ポケットをSURFNETで解析した図を、図17に示す。図中では、複合型スイッチ制御ポケットが青で強調してある。この複合型スイッチ制御ポケットのGRASPによる解析図を、図18に示す。
【0108】
図19は、gsk−3βキナーゼの複合型スイッチ制御ポケットを構成する鍵アミノ酸残基を示す。残基は、グリシンに富んだループ(F67)、α−Cヘリックス(R96、I100、M101、L104)、α−Dヘリックス(I141、I146)、触媒ループ(I177、C178、H179、R180、D181、N186)、スイッチ制御リガンド配列(D200、F201、S203、K205、L207、V208、P212、N213、V214、Y216)、およびα−Fヘリックス(Y200)に由来するものである。このポケットを利用すると、このgsk−3βキナーゼ複合型スイッチ制御ポケット内に繋ぎ止められる小型分子モジュレータ化合物を設計することができる。
【0109】
表13に示す複合型ポケットは、デュアル機能性を備えたスイッチ制御ポケットである。このポケットは、相補的なリガンド配列1(Gskリガンド1)と結合すると、タンパク質の活性を上方調節するオンのポケットとして機能する。また、このポケットは、相補的なリガンド配列2(Gskリガンド2)と結合すると、タンパク質の活性を下方調節するオフのポケットとして機能する。
【0110】
表13に、複合型スイッチ制御ポケットを形成しているタンパク質配列由来のアミノ酸を示す。
【0111】
【表13】
【0112】
工程4:各種のスイッチ制御状態に静的に封じ込められたタンパク質の発現および精製
遺伝子の合成:遺伝子は、ソフトウェア(Gene Builder(登録商標)、Emerald/deCODE Genetics社製)を使用してコドンの使用を最適化することにより、完全に合成オリゴヌクレオチドから製造した。全遺伝子の合成を行うと、コドンを最適化した遺伝子を迅速に合成することができる。制限部位を戦略的に配置すると、必要に応じて、突然変異を迅速に付加することができる。
【0113】
タンパク質は、バキュロウイルスに感染させた昆虫細胞または大腸菌の発現系で発現させた。遺伝子は、場合によっては、アフィニティ・タグを導入することによって修飾することもでき、この場合、タグを付したタンパク質の一工程での抗体−アフィニティ精製を行うことが可能となることも多い。構築物は、結晶性、リガンドとの相互作用、精製、コドンの使用に関して最適化した。昆虫細胞培養能力が月100リットル以上の容量11リットルのバイオリアクター(Wave Bioreactor)2基を使用した。
【0114】
タンパク質の精製:タンパク質の精製には、AKTA精製装置、AKTA FPLC、Parr Nitrogen Cavitation Bomb、EmulsiFlex−C5ホモジナイザー、Protein Maker(登録商標)タンパク質製造装置(Emeraldの自動並行精製装置)を使用した。精製タンパク質の特性解析には、蛍光分光法、MALDI−ToF質量分析、動的光散乱の機器を使用した。
【0115】
全細胞のペーストを、窒素キャビテーション、フレンチプレス、またはミクロ流動化で破砕した。抽出物を、Protein Maker(登録商標)装置を使用して、タンパク質の並行精製に供した。このProtein Makerは、Emeraldによって開発されたロボット装置で、(Glu−mAb、金属キレート、Q−seph、S−Seph、フェニル−Seph、およびシバクロンブルーを含む)複数の精製カラムで精製を同時に行うことができる。得られた分画は、SDS−PAGEで解析した。精製タンパク質は、各種の生物物理学的アッセイ(動的光散乱、紫外線吸収、MALDI−ToF、分析用ゲル濾過など)に供して、精製レベルを測定した。
【0116】
Ablキナーゼ
Abl構築物1(キナーゼドメイン、6xHis−TEVタグ、残基248−534)、Abl構築物2(キナーゼドメイン、Glu−6xHis−TEVタグ、残基248−518)、abl構築物3(キナーゼドメイン、Glu−6xHis−TEVタグ、残基248−518、Y412Fの変異)、abl構築物4(アイソフォーム、K29R/E30Dの変異を含む1B1−531、TEV−6xHis−Glu)、abl構築物5(K29R/E30D/Y412Fの変異を含むアイソフォーム1B1−531)の全遺伝子合成およびサブクローニングを完了し、昆虫細胞でトランスフェクションを実施した。Bcr−abl構築物1(Glu−6xHis−TEVタグ、残基1−2029)およびbcr−abl構築物2(Glu−6xHis−TEVタグ、残基1−2029;Y412F変異体)も同様に調製し、昆虫細胞にトランスフェクションした。トランスフェクション生成物を、必要に応じて、ATP競合阻害物質PD180790またはGleevecの存在下でフェルンバッハで培養して、生成した(bcr)Ablタンパク質が、Y245またはY412でリン酸化されていないことを確認した(Tanisら,Molecular Cell Biology,Vol.23,p 3884,(2003)、Van Ettenら,Journal of Biological Chemistry,Vol.275,p 35631,(2000)を参照されたい)。タンパク質の発現レベルを、免疫沈降法とSDS−Pageで測定した。abl構築物1および2のタンパク質の発現レベルは、10mg/Lを超えていた。これらの阻害物質の存在下で発現された精製タンパク質のPy20(抗ホスホチロシン抗体)ウェスタン・ブロッティングを行って、これらのタンパク質が、Y245またはY412でリン酸化されていないことを確認した。
【0117】
図20および21は、ニッケル・アフィニティクロマトグラフィー(図20)、およびその後のPOROS HQ陰イオン交換クロマトグラフィー(図21)の後にPD180970の存在下で発現されたabl−構築物2の純度を示す。図22は、ニッケル・アフィニティクロマトグラフィーで得られたabl構築物2についての溶出特性を示し、図23は、POROS HQ陰イオン交換クロマトグラフィーで得られたAbl構築物2についての溶出特性を示す。この形態のablは、リン酸化されていない物理的状態にある。
【0118】
図24は、tevプロテアーゼで処理してGlu−6xHis−TEVアフィニティ・タグを除去した後のAbl構築物2の溶出特性を示す。分画17〜19には、Glu−6x/His−TEVタグが無傷のままのablタンパク質が含有されており、分画20〜23には、Glu−6xHis−TEVタグが除去されたablタンパク質が含有されている。プール分画20〜23を紫外線で解析すると(図25)、吸収の最大が360nmに見られ、ATP競合阻害物質PD180970がablのATPポケットに結合したまま存在していること示唆され、ablタンパク質が、発現および精製の間も、非リン酸化状態に保持されていることが確認された。
【0119】
図26は、ニッケル・アフィニティクロマトグラフィーおよびQ−Sepharoseでのクロマトグラフィーで精製したabl構築物5タンパク質(ablの1−531、Y412F変異体)の溶出プロファイルを示す。図27は、精製プール分画のSDS−Pageでの解析結果を示す。
【0120】
p38−αキナーゼ
p38−αキナーゼ構築物1(6xHis−TEVタグ、全長)または構築物2(Glu−6xHis−TEVタグ、残基5−354)の全遺伝子合成を完了し、タンパク質をアラビノース誘導性ベクターおよびT7プロモータベクターの双方を使用して大腸菌で発現させた。2種の発現ベクター(pET15bおよびpBAD)でのp38−αキナーゼの発現を、0.5MのIPTG(pET15b)または0.2%のアラビノース(pBAD)による誘導の後に調べた。タンパク質の発現は、免疫沈降法およびSDS−Pageで測定した。誘導後のpBAD構築物でのp38−αの発現は、抗GLUモノクローナル抗体を用いた免疫沈降で明瞭に示された。
【0121】
図28は、Q−セファロースを用いたクロマトグラフィーでのp38−αタンパク質の溶出プロファイルを示す。プール精製分画のSDS−Pageの結果を、図29に示す。
【0122】
Gsk−3βキナーゼ
構築物1(6xHis−TEVタグ、全長、1H8Fタンパク質と同配列)、構築物2(10xHis、残基27−393、1GNGタンパク質と同配列)、構築物3(Glu−6xHis−TEVタグ、残基35−385)について、全遺伝子合成を完了した。昆虫細胞でトランスフェクションを行った。タンパク質の発現を、免疫沈降法およびSDS−Pageで測定した。構築物3の発現レベルは、5mg/Lを超えていた。gsk−3βタンパク質の精製で用いた手順では、スイッチ制御リガンドの非リン酸化キナーゼ(GSK−P)とスイッチ制御リガンドのリン酸化キナーゼ(GSK+P)の双方の形態を、同じ発現過程で単離することが可能であった。ニッケル・アフィニティクロマトグラフィーを、20mMのHEPESバッファー(pH7.5)で実施した。この工程に引き続いて、POROS HS(陽イオン交換クロマトグラフィーを行った。図30は、GSK+Pタンパク質のMALDI−TOFスペクトルであり、予測分子イオンが42862Daであることが示されている。
図31は、GSK−Pタンパク質のMADLI−TOFスペクトルであり、予測分子イオンが42781であることが示されている。
【0123】
図32および33に、POROS HSクロマトグラフィーの分画を、SDS−PAGEによって解析し、ホスホチロシン抗体PY−20で染色したものを示す。分画10〜15は、PY−20抗体によってイメージングされ、スイッチ制御リガンドのチロシン残基にリン酸塩が存在していることが示唆された。分画17〜29は、PY−20抗体によってはイメージングされず、スイッチ制御リガンドのチロシンのリン酸化が生じていないことが示唆された。
【0124】
工程5:小型分子スイッチ制御モジュレータ候補を用いた精製タンパク質のスクリーニング
P38−αキナーゼのスクリーニング/P38MAPキナーゼの結合アッセイ
小型分子モジュレータのp38MAPキナーゼに対する結合活性を、公開された方法(C.Pargellisら,Nature Structural Biology(2002)9,268−272、J.Reganら,J.Med.Chem.(2002)45,2994−3008)で修飾したSKF86002を蛍光プローブとして用いた競合アッセイで測定した。概述すると、p38キナーゼ(Kd=180nM)の有力な阻害物質であるSKF86002は、キナーゼとの結合時に340nmで励起されると420nm周辺で蛍光を発する。したがって、p38キナーゼの阻害物質の結合アフィニティは、SKF86002からの蛍光を低減する能力によって測定することができる。SKF86002は、p38−αキナーゼのATP活性部位ポケットの合体状況に関してのレポーターの役目を果たす蛍光プローブ物質となる。p38−αキナーゼのスイッチ制御ポケットと結合する小型分子モジュレータは、タンパク質のコンホメーションを歪ませて、蛍光プローブSKF86002の結合能力を妨害する。したがって、小型分子が、蛍光プローブの結合を妨害する能力を利用して、スイッチ制御ポケットに対する結合状態を実験的に読み取ることができる。対照実験を実施して、小型分子モジュレータが、ATPポケットで競合することによって、蛍光プローブの結合と直接競合するかどうかについて判定した。アッセイは、Polarstar Optimaプレートリーダー(BMG)に載置した384プレート(Greiner nuclear 384プレート)で実施した。具体的には、反応混合物は、0.15%(w/v)のn−オクチルグルコシドと2mMのEDTAとを含有する20mMのBis−Trisプロパン緩衝液(pH7)中に、1μMのSKF86002、80nMのp38キナーゼ、および各種濃度の阻害物質を含んでいた(最終容積65μl)。酵素を加えることによって反応を開始した。プレートを、室温(約25℃)で2時間インキュベートし、その後、420nmでの発光および340nmでの励起を読み取った。rfu(相対蛍光ユニット)値を、対照(小型分子モジュレータ不在のもの)の値と比較することによって、小型分子の各濃度での阻害率を計算した。小型分子モジュレータのIC50の値を、小型分子モジュレータの濃度範囲で得られた阻害率の値から、Prismで計算した。時間依存性の阻害について評価する場合には、プレートを複数の反応時間、たとえば、0.5、1、2、3、4、および6時間で読み取った。IC50の値を、各時点について計算した。IC50の値が反応時間とともに(4時間に2倍以上)低減する場合には、阻害が時間依存性であると認定した。
【0125】
【表14】
IC50の値は、反応時間2時間で得たものである
【0126】
工程6:タンパク質の調節についてのスイッチ制御機構の確認
【0127】
タンパク質に対するアフィニティを有するか、タンパク質活性の機能的調節を示すことが見いだされた小型分子を、生化学的に調べて、結合または機能の調節が、天然のリガンド部位(たとえば、キナーゼタンパク質のATP部位)と非競合性または未競合性であるかどうかについて判定した。この過程は、標準的なLineweaver−Burk型の解析を行うことによって実施した。
【0128】
スイッチ制御モジュレータの各種タンパク質との結合モードを、X線結晶構造解析またはNMR法で判定した。以下のセクションでは、分子の結合モードを判定する際に使用したX線結晶構造解析技術の概要を説明する。
【0129】
X線結晶構造解析を使用した、タンパク質調節のスイッチ制御機構の判定
【0130】
1.結晶化の実験施設:結晶化の試行のデータは、すべて、専用に構築したデータベース・ソフトウェアを使用して捕捉し、このソフトウェアは、結晶化試験を行い、結果を監視する各種のロボット装置を駆動する。B. コンピュータ・ハードウェア:Multiple Linuxのワークステーション、Windows(登録商標)2000のサーバー、およびSilicon GraphicsのO2のワークステーション。 C. X線結晶構造解析ソフトウェア: HKL2000(DENZOおよびSCALEPACKを含む)(X線回折データの処理)、MOSFILM、CCP4スイーツ(AMORE、MOLREP、およびREFMACを含む)(分子置換、MIR、およびMADによるフェージングをはじめとする各種の結晶構造解析計算オペレーション)、SnB(重原子の位置)、SHARP(重原子のフェージング・プログラム)、CNX(モデルの精緻化をはじめとする各種の結晶構造解析計算オペレーション)、EPMR(分子置換)、XtalView(モデルの可視化および構築)。
【0131】
2.結晶の成長とX線による品質分析:スパース行列および集束結晶化スクリーンを、リガンド有りと無しの場合について2以上の温度で用意する。リガンド無しで得た結晶(アポ結晶)をリガンド含浸実験に用いる。適当なタンパク質結晶が得られたら、スクリーニングを行って、各種の凍結保存状態について、R−AXIS IVイメージングプレート装置およびX−STREAMクリオスタットで、タンパク質結晶の回折能を測定する。回折能のよいタンパク質結晶を、インハウスでのX線回折データの収集に使用するか、液体窒素中でその後のシンクロトロンX線放射源(アルゴンヌ国立研究所の高度光子源のCOM−CATビームラインまたは他のシンクロトロンビームライン)でのデータ収集用に保存する。タンパク質結晶の回折限界を、少なくとも2回回折画像を、90°の間隔をおいたφスピンドルで撮影することによって決定する。回折画像を収集する間は、φスピンドルを1°揺動する。双方の画像を、X線データ解析のHKL−2000スイートと分解ソフトウェアで処理する。タンパク質結晶の回折解像回折解像度は、インデクシングした反射の50%以上が1シグマ以上の強さを有する解像シェルの高い側の解像限界として受け取る。
【0132】
3.X線回折データの収集:完全なデータセットとは、解像度が最大のシェルでの全ての反射の90%以上を収集した場合として定義するものである。X線回折データは、X線回折データ処理用のソフトウェアのHKL−2000スイートを使用して処理する(固有反射と強度に分解する)。
【0133】
4.構造の決定:タンパク質−小型分子複合体の構造を、PDBから入手可能な1以上のタンパク質検索モデルを利用して、分子置換(MR)で決定する。必要に応じて、構造の決定は、重原子を用いた多重重原子同型置換法(MIR)および/または多波長異常分散(MAD)法で行う。結晶(重原子を含まない母液または凍結保護物質で洗浄後のもの)のEXAFSスキャンで適当な重原子シグナルが得られた場合には、重原子を含浸させた結晶についてのMADシンクロトロンのデータセットを集める。誘導化のための重原子のデータセットの解析は、計算プログラムのCCP4結晶構造解析スイートを使用して行うことができる。重原子の部位を、(│FPH│−│FP│)2の差のパターソンおよび(│F+│−│F−│)2の異常差パターソン図で識別する。
【0134】
工程7:上記工程の繰り返しによる、小型分子のスイッチ制御モジュレータの改良
【0135】
タンパク質活性を調節することが見いだされた各小型分子を、タンパク質スーパーファミリー内の他のタンパク質(たとえば、候補タンパク質がキナーゼである場合なら、他の各種キナーゼ)、またタンパク質ファミリー間(たとえば、候補タンパク質がキナーゼである場合なら、ホスファターゼおよび転写因子のような他の各種のタンパク質クラス)でのアフィニティおよび機能の調節について評価した。小型分子のスクリーニング・ライブラリーも、このスクリーニング・パラダイム内で評価を行った。構造活性関係(structure activity relationships、SAR)も評価し、その後、小型分子を、候補タンパク質に対してより有効となるように、および/または、候補タンパク質の調節に関しての選択的が増し、標的タンパク質と対抗的なタンパク質との相互作用が低減するように設計した。
【0136】
キナーゼタンパク質の解析によって、スイッチ制御ポケットには、相補的なスイッチ制御リガンドに対する結合のしかたによって分類される4つの種類があること、すなわち、(1)通常は、相補的なスイッチ制御リガンド(帯電リガンド)で、セリン、トレオニン、またはチロシンアミノ酸残基がリン酸化されることによって、または、メチオニンまたはシステインアミノ酸の硫黄原子が酸化されることによって形成される帯電リガンドを安定化して結合するポケット、(2)水素結合または疎水性の相互作用(水素結合/疎水性リガンド)の機序によってリガンドに結合するポケット;(3)アシル化残基(アシル化リガンド)を有するリガンドを結合するポケット、および(4)リガンドと内因的に結合することはないものの、非天然のスイッチ制御モジュレータ化合物(非識別リガンド)と結合しうるポケット、の4種類があることが明らかとなった。また、これらの4種類のポケットは、図1〜4に模式的に示す単純型のポケット、図6に示す複合型のポケット、または図7の複合型のポケットである可能性がある。最後に、ポケットは、ポケットが有するスイッチ制御の機能性によって定義することもでき、すなわち、ポケットは、スイッチ制御リガンドと相互に作用すると、生物学的に情報調節されたコンホメーションを生じるオンのタイプである場合、スイッチ制御リガンドと相互に作用すると、生物学的に下方調節されたコンホメーションを生じるオフのタイプである場合、そして「デュアル機能性」ポケットと称する、すなわち、同じポケットが、異なった相補的なスイッチ制御リガンドと相互に作用することによって、オンのポケットとオフのポケットの両方の役目をはたすことを意味するポケットである場合がある。これと同じ一連のポケットは、すべての対象タンパク質、すなわち、スイッチ制御リガンド配列と相補的なスイッチ制御ポケットとの相互作用によってコンホメーションの変化が生じるようなタンパク質のすべてで見いだすことができる。
【0137】
下記の表15は、工程2および3で説明したポケットを、ポケットの分類および種類に関して、さらに識別するものである。
【0138】
【表15】
【0139】
本発明の主目的は、選択されたタンパク質の1以上のスイッチ制御ポケットの領域に結合して、タンパク質の活性を調節する非天然小型分子のモジュレータ化合物の設計、開発を可能とすることである。この機能的目標は、スイッチ制御ポケットの種類(オン、オフ、デュアル)、選択したモジュレータ化合物の性質、モジュレータ化合物とタンパク質の間の相互作用的結合の種類に応じて、いくつかの異なった方法で達成することができる。
【0140】
たとえば、選択されたモジュレータ化合物は、選択されたスイッチ制御ポケットに、スイッチ制御リガンドのアゴニストとして結合することができ、すなわち、モジュレータ化合物は、天然の相補的なスイッチ制御リガンドによって生じるのと同じタイプのコンホメーションの変化を生じることができる。さしたがって、スイッチ制御リガンドのアゴニストが、オンのポケットと結合した場合には、結果として、タンパク質の活性の上方調節が生じ、オフのポケットと結合した場合には、下方調節が生じる。
【0141】
これとは逆に、所定のモジュレータは、スイッチ制御リガンドのアンタゴニストとして結合することもでき、すなわち、モジュレータ化合物は、天然の相補的なスイッチ制御リガンドによって生じるのとは逆のタイプのコンホメーションの変化を生じることもできる。したがって、スイッチ制御リガンドのアンタゴニストが、オンのポケットと結合した場合には、結果として、タンパク質の活性の下方調節が生じ、オフのポケットと結合した場合には、上方調節が生じる。
【0142】
デュアル機能性のポケットの場合、また非識別リガンドが存在するポケットの場合には、モジュレータ化合物は、生じる応答の種類に応じて、機能的アゴニストとして作用している場合も、機能的アンタゴニストとして作用している場合もある。
【0143】
<実施例2>
スイッチ制御小型分子候補の合成
以下の実施例では、キナーゼタンパク質と相互作用するスイッチ制御分子の候補として特に有用な化合物の合成について説明する。これらの実施例では、アルファベットを付した実施例は、中間生成物の合成について、番号を付した実施例は、最終化合物の合成について記載したものである。
[Boc−スルファミド]アミノエステル(反応物質AA)、1,5,7,−トリメチル−2,4−ジオキソ−3−アザ−ビシクロ[3.3.1]ノナン−7−カルボン酸(反応物質BB)、およびケンプ酸無水物(反応物質CC)を、文献の方法に従って製造した。詳細については、Askewら、J.Am.Chem.Soc.1989,111,1082を参照されたい。
【0144】
実施例A
【0145】
【化1】
m−アミノ安息香酸(200g、1.46mol)の濃HClへの溶液(200mL)に、NaNO2(102g、1.46mol)の水溶液(250mL)を0℃で加えた。反応混合物を1時間撹拌し、SnCl2・2H2O(662g、2.92mol)の濃HCl(2L)への溶液を0℃で加え、反応系をさらに室温で2時間撹拌した。沈殿を濾別し、エタノールおよびエーテルで洗浄したところ、3−ヒドラジノ安息香酸ヒドロクロリドが、白色固形物として得られた。
前反応で得られた粗生成物(200g、1.06mol)と4,4−ジメチル−3−オキソ−ペンタンニトリル(146g、1.167mol)のエタノール(2L)溶液を一晩加熱還流した。反応溶液を真空中で蒸発させ、残留物をカラムクロマトグラフィーで精製したところ、3−(3−tert−ブチル−5−アミノ−1H−ピラゾール−1−イル)安息香酸エチル(実施例A、116g、40%)が白色固形物として、3−(5−アミノ−3−tert−ブチル−1H−ピラゾール−1−イル)安息香酸(93g、36%)とともに得られた。1H NMR(DMSO−d6):8.09(s,1H),8.05(brd,J=8.0Hz,1H),7.87(brd,J=8.0Hz,1H),7.71(t,J=8.0Hz,1H),5.64(s,1H),4.35(q,J=7.2Hz,2H),1.34(t,J=7.2Hz,3),1.28(s,9H).
【0146】
実施例B
【0147】
【化2】
イソシアン酸1−ナフチル(9.42g、55.7mmol)とピリジン(44mL)のTHF(100mL)への溶液に、実施例A(8.0g、27.9mmol)のTHF(200mL)への溶液を0℃で加えた。混合物を室温にて1時間撹拌し、固形分がすべて溶解するまで加熱し、室温にてさらに3時間撹拌し、H2O(200mL)で急冷した。沈殿物を濾過し、希HClおよびH2Oで洗浄し、真空中で乾燥して、3−[3−t−ブチル−5−(3−ナフタレン−1−イル)ウレイド)−1H−ピラゾール−1−イル]安息香酸エチル(12.0g、95%)を、白色粉末として得た。1H NMR(DMSO−d6):9.00(s,1H),8.83(s,1H),8.25 7.42(m,11H),6.42(s,1H),4.30(q,J=7.2Hz,2H),1.26(s,9H),1.06(t,J=7.2Hz,3H);MS(ESI)m/z:457.10(M+H+).
【0148】
実施例C
【0149】
【化3】
実施例A(10.7g、70.0mmol)のピリジン(56mL)とTHF(30mL)の混合物への溶液に、カルバミン酸4−ニトロフェニル4−クロロフェニル(10g、34.8mmol)のTHF(150mL)への溶液を0℃で加えた。混合物を、室温にて1時間撹拌し、固形分がすべて溶解するまで加熱し、室温にてさらに3時間撹拌した。H2O(200mL)とCH2Cl2(200mL)を加え、水相を分離し、CH2Cl2(2×100mL)で抽出した。有機層を一緒にし、1N NaOH、0.1N HCl、および飽和食塩水で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥した。溶剤を真空中で除去したところ3−{3−tert−ブチル−5−[3−(4−クロロフェニル)ウレイド]−1H−ピラゾール−1−イル}安息香酸エチル(8.0g、52%)が得られた。1H NMR(DMSO−d6):δ9.11(s,1H),8.47(s,1H),8.06(m,1H),7.93(d,J=7.6Hz,1H),7.81(d,J=8.0Hz,1H),7.65(dd,J=8.0,7.6Hz,1H),7.43(d,J=8.8Hz,2H),7.30(d,J=8.8Hz,2H),6.34(s,1H),4.30(q,J=6.8Hz,2H),1.27(s,9H),1.25(t,J=6.8Hz,3H);MS(ESI)m/z:441(M++H).
【0150】
実施例D
【0151】
【化4】
実施例B(8.20g、18.0mmol)のTHF(500mL)への溶液に、かきまぜながら、LiAlH4粉末(2.66g、70.0mmol)を、N2中で−10℃にて加えた。混合物を、室温にて2時間撹拌し、過剰のLiAlH4を、氷を徐々に加えることによって分解した。反応混合物を、希HClでpH7まで酸性化し、真空中で濃縮し、残留物をEtOAcで抽出した。有機層を一緒にして、真空中で濃縮したところ、1−{3−tert−ブチル−1−[3−(ヒドロキシメチル)フェニル]−1H−ピラゾール−5−イル}−3−(ナフタレン−1−イル)尿素(7.40g、99%)が、白色粉末として得られた。1H NMR(DMSO−d6):9.19(s,1H),9.04(s,1H),8.80(s,1H),8.26−7.35(m,11H),6.41(s,1H),4.60(s,2H),1.28(s,9H);MS(ESI)m/z:415(M+H+).
【0152】
実施例E
【0153】
【化5】
実施例C(1.66g、4.0mmol)とSOCl2(0.60mL、8.0mmol)のCH3Cl(100mL)への溶液を3時間還流し、真空中で濃縮して、1−{3−tert−ブチル−1−[3−クロロメチル)フェニル]−1H−ピラゾール−5−イル}−3−(ナフタレン−1−イル)尿素(1.68g、97%)を白色粉末として得た。1H NMR(DMSO−d6):δ9.26(s,1H),9.15(s,1H),8.42−7.41(m,11H),6.40(s,1H),4.85(s,2H),1.28(s,9H).MS(ESI)m/z:433(M+H+).
【0154】
実施例F
【0155】
【化6】
実施例C(1.60g、3.63mmol)のTHF(200mL)への溶液に、撹拌しながら、LiAlH4粉末(413mg、10.9mmol)を、N2中で−10℃にて加えた。混合物を2時間撹拌し、氷を加えることによって過剰なLiAlH4を急冷した。溶液を希HClで酸性化してpH7とした。溶液を徐々に除去し、固形分を濾過し、EtOAc(200+100mL)で洗浄した。濾液を濃縮したところ、1−{3−tert−ブチル−1−[3−ヒドロキシメチル)フェニル]−1H−ピラゾール−5−イル}−3−(4−クロロフェニル)尿素(1.40g、97%)が得られた。1H NMR(DMSO−d6):δ9.11(s,1H),8.47(s,1H),7.47−7.27(m,8H),6.35(s,1H),5.30(t,J=5.6Hz,1H),4.55(d,J=5.6Hz,2H),1.26(s,9H);MS(ESI)m/z:399(M+H+).
【0156】
実施例G
【0157】
【化7】
実施例F(800mg、2.0mmol)とSOCl2(0.30mL、4mmol)のCHCl3(30mL)への溶液を、3時間にわたって穏やかに還流した。溶剤を真空中で蒸発させ、残留物をCH2Cl2(2×20mL)に加えた。溶剤を除去すると、1−{3−tert−ブチル−1−[3−(クロロメチル)フェニル]−1H−ピラゾール−5−イル}−3−(4−クロロフェニル)尿素(812mg、97%)が白色粉末として得られた。1H NMR(DMSO−d6):δ9.57(s、1H)、8.75(s、1H)、7.63(s、1H)、7.50−7.26(m、7H)、6.35(s、1H)、4.83(s、2H)、1.27(s、9H);MS(ESI)m/z:417(M+H+).
【0158】
実施例H
【0159】
【化8】
LiAlH4(5.28g、139.2mmol)のTHF(1000mL)への懸濁液に、実施例A(20.0g、69.6mmol)をN2中で0℃にて少量ずつ加えた。反応混合物を5時間撹拌し、0℃の1N HClで急冷し、沈殿物を濾過し、EtOAcで洗浄し、濾液を蒸発させたところ、[3−(5−アミノ−3−tert−ブチル−1H−ピラゾール−1−イル)フェニル]メタノール(15.2g、89%)が得られた。1H NMR(DMSO−d6):7.49(s,1H),7.37(m,2H),7.19(d,J=7.2Hz,1H),5.35(s,1H),5.25(t,J=5.6Hz,1H),5.14(s,2H),4.53(d,J=5.6Hz,2H),1.19(s,9H);MS(ESI)m/z:246.19(M+H+).
前反応で得られた粗生成物(5.0g、20.4mmol)を、無水THF(50mL)およびSOCl2(4.85g、40.8mmol)に溶解し、室温で2時間撹拌し、真空中で濃縮し、3−tert−ブチル−1−(3−クロロメチルフェニル)−1H−ピラゾール−5−アミン(5.4g)を得、これを、N3(3.93g、60.5mmol)のDMF(50mL)への溶液に加えた。反応混合物を30℃に2時間加熱し、H2O(50mL)に加え、CH2Cl2で抽出した。有機層を一緒にし、MgSO4で乾燥し、真空中で濃縮したところ、3−tert−ブチル−1−[3−(アジドメチル)フェニル]−1H−ピラゾール−5−アミン(1.50g、5.55mmol)が得られた。
【0160】
実施例I
【0161】
【化9】
実施例Hを無水THF(10mL)に溶解し、1−イソシアノナフタレン(1.13g、6.66mmol)とピリジン(5.27g、66.6mmol)のTHF溶液(10mL)を室温で加えた。反応混合物を3時間撹拌し、H2O(30mL)で急冷し、得られた沈殿を濾過し、1N HClとエーテルで洗浄して、1−[2−(3−アジドメチル−フェニル)−5−t−ブチル−2H−ピラゾール−3−イル]−3−ナフタレン−1−イル−尿素(2.4g、98%)を白色固形物として得た。
前反応で得られた粗生成物とPd/C(0.4g)のTHF(30mL)への溶液を、1気圧で室温にて2時間水素化した。触媒を濾過によって除去し、濾液を真空中で濃縮したところ、1−{3−tert−ブチル−1−[3−(アミノメチル)フェニル}−1H−ピラゾール−5−イル)−3−(ナフタレン−1−イル)尿素(2.2g、96%)が黄色固形物として得られた。1H NMR(DMSO−d6):9.02(s,1H),7.91(d,J=7.2Hz,1H),7.89(d,J=7.6Hz,2H),7.67−7.33(m,9H),6.40(s,1H),3.81(s,2H),1.27(s,9H);MS(ESI)m/z:414(M+H+).
【0162】
実施例J
【0163】
【化10】
実施例H(1.50g、5.55mmol)の無水THF(10mL)への溶液を、イソシアン酸4−クロロフェニル(1.02g、6.66mmol)とピリジン(5.27g、66.6mmol)のTHF溶液(10mL)に、室温で加えた。反応混合物を、3時間撹拌し、その後、H2O(30mL)を加えた。沈殿を濾過し、1N HClおよびエーテルで洗浄したところ、1−{3−tert−ブチル−1−[3−(アミノメチル)フェニル}−1H−ピラゾール−5イル)−3−(4−クロロフェニル)尿素(2.28g、97%)が白色固形物として得られ、この生成物は、それ以上精製することなく次工程に使用した。MS(ESI)m/z:424(M+H+).
【0164】
実施例K
【0165】
【化11】
ベンジルアミン(16.5g、154mmol)およびブロモ酢酸エチル(51.5g、308mmol)のエタノール(500mL)への溶液に、 K2CO3(127.5g、924mmol)を加えた。混合物を室温にて3時間撹拌し、濾過し、EtOHで洗浄し、真空中で濃縮し、クロマトグラフィーにかけたところ、N−(2−エトキシ−2−オキソエチル)−N−(フェニルメチル)−グリシンエチルエステル(29g、67%)が得られた。1H NMR(CDCl3):δ7.39−7.23(m,5H),4.16(q,J=7.2Hz,4H),3.91(s,2H),3.54(s,4H),1.26(t,J=7.2Hz,6H);MS(ESI):m/e:280(M++H).
N−(2−エトキシ−2−オキソエチル)−N−(フェニルメチル)−グリシンエチルエステル(7.70g、27.6mmol)のメチルアミンアルコール溶液(25〜30%、50mL)への溶液を、密封管中で3時間50℃に加熱し、室温に冷却し、真空中で濃縮したところ、N−(2−メチルアミノ−2−オキソエチル)−N−(フェニルメチル)−グリシンメチルアミドが得られた。収量(7.63g)。1H NMR(CDCl3):δ7.35−7.28(m,5H),6.75(br s,2H),3.71(s,2H),3.20(s,4H),2.81(d,J=5.6Hz,6H);MS(ESI)m/e250(M+H+).
N−(2−メチルアミノ−2−オキソエチル)−N−(フェニルメチル)−グリシンメチルアミド(3.09g、11.2mmol)のMeOH(30mL)との混合物に、10%Pd/C(0.15g)を加えた。混合物を撹拌し、40psiのH2中で、40℃に10時間加熱し、濾過し、真空中で濃縮したところ、N−(2−メチルアミノ−2−オキソエチル)−グリシンメチルアミドが得られた。収量(1.76g)。1H NMR(CDCl3):δ6.95(br s,2H),3.23(s,4H),2.79(d,J=6.0,4.8Hz),2.25(br s 1H);MS(ESI)m/e160(M+H+)
【0166】
実施例L
【0167】
【化12】
【0168】
<実施例3>
【0169】
【化13】
化合物1,1−ジオキソ−[1,2,5]チアジアゾリジン−3−オン(94mg、0.69mmol)とNaH(5.5mg、0.23mmol)の混合物のTHF(2mL)への溶液を、N2中で、−10℃にて、NaHがすべて溶解するまで1時間にわたって撹拌した。実施例E(100mg、0.23mmol)を加え、室温で一晩反応させ、H2Oで急冷し、CH2Cl2で抽出した。有機層を一緒にして真空中で濃縮し、残留物を調製用HPLCで精製したところ、1−(3−tert−ブチル−1−{[3−(1,1,3−トリオキソ−[1,2,5]チアジアゾリジン−2−イル)メチル]フェニル}−1H−ピラゾール−5−イル)−3−(ナフタレン−1−イル)尿素(18mg)が、白色粉末として得られた。1H NMR(CD3OD):δ7.71−7.44(m,11H),6.45(s,1H),4.83(s,2H),4.00(s,2H),1.30(s,9H).MS(ESI)m/z:533.40(M+H+).
【0170】
<実施例5>
【0171】
【化14】
イソシアン酸クロロスルホニル(19.8μL、0.227mmol)のCH2Cl2(0.5mL)への0℃の溶液に、撹拌しながら、ピロリジン(18.8μL、0.227mmol)を、反応溶液の温度が5℃を超えて上昇することのないような速さで加えた。1.5時間撹拌した後、実施例J(97.3mg、0.25mmol)とEt3N(95μL、0.678mmol)のCH2Cl2(1.5mL)への溶液を、反応温度が5℃を超えて上昇することのないような速さで加えた。添加を完了したら、反応溶液を室温まで温め、一晩撹拌した。反応混合物を、10%のHClに加え、CH2Cl2で抽出し、有機層を飽和NaClで洗浄し、MgSO4で乾燥し、濾過した。溶剤を除去し、粗生成物を、調製用HPLCで精製したところ、1−(3−tert−ブチル−1−[[3−N−[[(1−ピロリジニルカルボニル)アミノ]スルホニル]アミノメチル]フェニル]−1H−ピラゾール−5−イル)−3−(4−クロロフェニル)尿素が得られた。1H NMR(CD3OD):δ7.61(s,1H),7.43−7.47(m,3H),7.23−7.25(dd,J=6.8Hz,2H),7.44(dd,J=6.8Hz,2H),6.52(s,1H),4.05(s,2H),3.02(m,4H),1.75(m,4H),1.34(s,9H);MS(ESI)m/z:574.00(M+H+).
【0172】
<実施例6>
【0173】
【化15】
標記化合物を、実施例Iを使用して、実施例5と同様にして製造したところ、1−(3−tert−ブチル−1−[[3−N−[[(1−ピロリジニルカルボニル)アミノ]スルホニル]アミノメチル]−フェニル]−1H−ピラゾール−5−イル)−3−(ナフタレン−1−イル)尿素が得られた。1H NMR(CDCl3):δ7.88(m,2H),7.02−7.39(m,2H),7.43−7.50(m,7H),6.48(s,1H),4.45(s,1H),3.32−3.36(m,4H),1.77−1.81(m,4H),1.34(s,9H);MS(ESI)m/z:590.03(M+H+).
【0174】
<実施例7>
【0175】
【化16】
【0176】
XH2Xλ2(0.5μΛ)に溶解しているクロロスルホニルイソシアネート(19.8μΛ,227μμoλ)の0℃でかくはんされている溶液へ、実施例J(97.3mg,0.25mmol)が、反応溶液の温度が5℃を超えないような速度で添加された。1.5時間のかくはんの後、CH2Cl2(1.5mL)に溶解しているピロリジン(18.8μL,0.227mmol)およびEt3N(95μL,0.678mmol)の溶液が、反応溶液の温度が5℃を超えないような速度で添加された。添加が完了したら、反応溶液は室温まで加温され、一晩かくはんされた。反応混合物は、10%HClに注がれ、CH2Cl2で抽出され、有機相は飽和塩化ナトリウムで洗浄され、Mg2SO4で乾燥され、ろ過された。溶媒の除去の後、粗物質は、分取HPLCによって精製され、1−(3−tert−ブチル−1−[[3−N−[[(1−ピロリジニルスルホニル)アミノ]カルボニル]アミノメチル]フェニル]−1H−ピラゾール−5−イル)−3−(4−クロロフェニル)ウレアが得られた。
【0177】
<実施例8>
【0178】
【化17】
【0179】
標記化合物を、実施例Iを使用して、実施例7と同様にして製造したところ、1−(3−tert−ブチル−1−[[3−N−[[(1−ピロリジニルスルホニル)アミノ]カルボニル]アミノメチル]−フェニル]−1H−ピラゾール−5−イル)−3−(ナフタレン−1−イル)尿素が得られた。1H NMR(CDCl3):δ7.88(m,2H),7.02−7.39(m,2H),7.43−7.50(m,7H),6.48(s,1H),4.45(s,1H),3.32−3.36(m,4H),1.77−1.81(m,4H),1.34(s,9H);MS(ESI)m/z:590.03(M+H+).
【0180】
<実施例21>
【0181】
【化18】
【0182】
乾燥CH2Cl2(4ml)中の実施例L(0.2g,0.58mmol)と1−ナフチルイソシアネート(0.10g,0.6mmol)の混合物を窒素下18時間室温で攪拌した。溶媒を真空で除去し粗製品をエチルアセテート/ヘキサン/CH2Cl2(3/1/0.7)を溶出液(0.11g、灰色がかった白色固体)に使ったカラムクロマトグラフィーで精製し1−{3−tert−ブチル−1−[3−(2−モルホリノ−2−オキソエチル)フェニル]−1H−ピラゾール−5−イル}−3−(ナフタレン−1−イル)ウレア、融点194−196を得た。
【0183】
<実施例23>
【0184】
【化19】
【0185】
実施例L(0.2g,0.58mmol)とフェニルイソシアネート(0.09g,0.6mmol)を用いて実施例21と同様の方法で標題化合物1−{3−tert−ブチル−1−[3−(2−モルホリノ−2−オキソエチル)フェニル]−1H−ピラゾール−5−イル}−3−フェニルウレアを合成した。
【0186】
実施例N
【0187】
【化20】
(3−ニトロフェニル)酢酸(23g、127mmol)のメタノール(250ml)への溶液と、触媒量の真空中で濃縮したH2SO4を18時間加熱還流した。反応混合物を、真空中で濃縮して、黄色の油を得た。この生成物をメタノール(250ml)に溶解し、氷浴中にて18時間撹拌し、アンモニアをゆっくり通気した。揮発成分を真空中で除去した。残留物を、ジエチルエーテルで洗浄し、乾燥して、2−(3−ニトロフェニル)アセトアミド(14g、灰白色の固形物)を得た。1H NMR(CDCl3):δ8.1(s,1H),8.0(d,1H),7.7(d,1H),7.5(m,1H),7.1(bd s,1H),6.2(brs,1H),3.6(s,2H).
【0188】
前反応で得られた粗生成物(8g)と活性炭担持10%Pd(1g)のエタノール(100ml)への溶液を、30psiで18時間にわたって水素化し、セライトで濾過した。揮発成分を真空中で除去したところ、2−(3−アミノフェニル)アセトアミド(5.7g)が得られた。この物質の溶液(7g、46.7mmol)を、6N HCl(100ml)に溶解し、0℃に冷却し、激しく撹拌した。亜硝酸ナトリウム(3.22g、46.7mmol)の水(50ml)への溶液を加えた。30分後に、塩化スズ(II)二水和物(26g)の6N HCl(100ml)への溶液を加えた。反応混合物を、0℃で3時間撹拌した。pHを、50%NaOH水溶液でpH14に調整し、酢酸エチルで抽出した。有機抽出物を一緒にして真空中で濃縮したところ、2−(3−ヒドラジノフェニル)アセトアミドが得られた。
【0189】
前反応で得られた粗生成物(約15mmol)と4,4−ジメチル−3−オキソペンタンニトリル(1.85g、15mmol)のエタノール(60ml)および6N HCl(1.5ml)への溶液を1時間還流し、室温に冷却した。反応混合物を、固形の炭酸水素ナトリウムを加えることによって中和した。スラリーを濾過し、揮発成分を真空中で除去したところ、残留物が得られ、この残留物を酢酸エチルで抽出した。溶剤を真空中で除去したところ、2−[3−(3−tert−ブチル−5−アミノ−1H−ピラゾール−1−イル)フェニル]アセトアミドが、白色固形物(3.2g)として得られ、この生成物は、それ以上精製せずに使用した。
【0190】
<実施例25>
【0191】
【化21】
実施例N(2g、0.73mmol)とイソシアン酸1−ナフチル(0.124g、0.73mmol)の混合物の無水CH2Cl2(4ml)への溶液を、N2中で室温にて18時間撹拌した。溶剤を真空中で除去し、粗製物を酢酸エチル(8ml)で洗浄し、真空中で乾燥したところ、1−{3−tert−ブチル−1−[3−(カルバモイルメチル)フェニル)−1H−ピラゾール−5−イル}−3−(ナフタレン−1−イル)尿素が、白色固形物(0.22g)として得られた。融点: 230℃(dec.);1H NMR(200MHz,DMSO−d6):
δ9.12(s,1H),8.92(s,1H),8.32−8.08(m,3H),7.94−7.44(m,8H),6.44(s,1H),3.51(s,2H),1.31(s,9H);MS.
【0192】
<実施例26>
【0193】
【化22】
標記化合物を、実施例N(0.2g、0.73mmol)およびイソシアン酸4−クロロフェニル(0.112g、0.73mmol)を使用して、実施例23と同様にして合成したところ、1−{3−tert−ブチル−1−[3−(カルバモイルメチル)フェニル)−1H−ピラゾール−5−イル}−3−(4−クロロフェニル)尿素が白色固形物(0.28g)として得られた。融点:222 224℃(dec.);1H NMR(200MHz,DMSO−d6);δ9.15(s,1H),8.46(s,1H),7.55−7.31(m,8H),6.39(s,1H),3.48(s,2H),1.30(s,9H);MS.
【0194】
実施例P
【0195】
【化23】
3−(3−アミノ−フェニル)−アクリル酸メチルエステル(6g)と活性炭担持10%Pd(1g)の混合物のエタノール(50ml)への溶液を、30psiにて18時間水素化し、セライトで濾過した。真空中で揮発成分を除去したところ、3−(3−アミノ−フェニル)プロピオン酸のメチルエステルが(6g)得られた。
前反応で得られた粗生成物(5.7g、31.8mmol)の6N HCl(35ml)への溶液を激しく撹拌しながら、0℃に冷却し、亜硝酸ナトリウム(2.2g)の水(20ml)への溶液を加えた。1時間後、塩化スズ(II)二水和物(18g)の6N HCl(35ml)への溶液を加え、混合物を0℃で3時間撹拌した。pHを、固形KOHを用いてpH14に調整し、EtOAcで抽出した。有機抽出物をまとめて真空中で濃縮したところ、3−(3−ヒドラジノ−フェニル)プロピオン酸メチル(1.7g)が得られた。
前反応で得られた粗生成物(1.7g、8.8mmol)と4,4−ジメチル−3−オキソペンタンニトリル(1.2g、9.7mmol)のエタノール(30ml)および6N HCl(2ml)への撹拌溶液を、18時間還流し、室温に冷却した。揮発成分を真空中で除去し、残留物をEtOAcに溶解し、1N NaOH水溶液で洗浄した。有機層を乾燥し(Na2SO4)、真空中で濃縮し、残留物を、酢酸エチルのヘキサンへの30%溶液を溶出液として使用してカラムクロマトグラフィーで精製したところ、3−[3−(3−tert−ブチル−5−アミノ−1H−ピラゾール−1−イル)フェニル]プロピオン酸メチル(3.2g)が得られ、この生成物はそれ以上精製せずに使用した。
【0196】
<実施例29>
【0197】
【化24】
実施例P(0.35g、1.1mmol)とイソシアン酸1−ナフチル(0.19g、1.05mmol)の混合物の無水CH2Cl2(5ml)への溶液を、N2中で室温にて20時間撹拌した。溶剤を真空中で除去し、残留物を、水酸化リチウム(0.1g)を含むTHF(3ml)/MeOH(2ml)/水(1.5ml)の溶液中で室温にて3時間撹拌し、EtOAcおよび希クエン酸溶液で希釈した。有機層を乾燥し(Na2SO4)、揮発成分を真空中で除去した。残留物を、メタノールのCH2Cl2への3%溶液を溶出液として使用してカラムクロマトグラフィーで精製し、3−(3−{3−tert−ブチル−5−[3−(ナフタレン−1−yl)ウレイド]−1H−ピラゾール−1−イル)フェニルプロピオン酸(0.22g、褐色の固形物)を得た。融点:105−107;1H NMR(200MHz,CDCl3):δ7.87−7.36(m,10H),7.18−7.16(m,1H),6.52(s,1H),2.93(t,J=6.9Hz,2H),2.65(t,J=7.1Hz,2H),1.37(s,9H);MS
【0198】
<実施例30>
【0199】
【化25】
標記化合物を、実施例P(0.30g、0.95mmol)およびイソシアン酸4−クロロフェニル(0.146g、0.95mmol)を使用して、実施例29と同様にして合成したところ、3−(3−{3−tert−ブチル−5−[3−(4−クロロフェニル)ウレイド]−1H−ピラゾール−1−イル)フェニル)プロピオン酸(0.05g、白色固形物)が得られた。融点:85 87;1H NMR(200MHz,CDCl3):δ8.21(s,1H),7.44−7.14(m,7H),6.98(s,1H),6.55(s,1H),2.98(t,J=5.2Hz,2H),2.66(t,J=5.6Hz,2H),1.40(s,9H);MS
【0200】
実施例Q
【0201】
【化26】
3−(4−アミノフェニル)アクリル酸エチル(1.5g)と活性炭担持10%Pd(0.3g)の混合物のエタノール(20ml)への溶液を、30psiにて18時間水素化し、セライトで濾過した。真空中で揮発成分を除去したところ、3−(4−アミノフェニル)プロピオン酸エチル(1.5g)が得られた。
前反応で得られた粗生成物溶液(1.5g、8.4mmol)を、6NのHCl(9ml)に溶解し、0℃に冷却し、激しく撹拌した。亜硝酸ナトリウム(0.58g)の水(7ml)への溶液を加えた。1時間後、塩化スズ(II)二水和物(5g)の6N HCl(10ml)溶液を加えた。反応混合物は、0℃で3時間攪拌された。反応混合物のpHを固形KOHを用いてpH14に調整し、EtOAcで抽出した。有機抽出物をまとめて真空中で濃縮したところ、3−(4−ヒドラジノ−フェニル)−プロピオン酸エチル(1g)が得られた。
前反応で得られた粗生成物(1g、8.8mmol)と4,4−ジメチル−3−オキソペンタンニトリル(0.7g)のエタノール(8ml)および6N HCl(1ml)への溶液を、18時間還流し、室温に冷却した。揮発成分を、真空中で除去した。残留物を酢酸エチルに溶解し、1N水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を乾燥し(Na2SO4)、真空中で濃縮した。残留物を、溶出液としてメタノールのCH2Cl2への0.7%溶液を使用したカラムクロマトグラフィーで精製し、3−{4−[3−tert−ブチル−5−(3−(ナフタレン−1−イル)ウレイド]−1H−ピラゾール−1−イル}フェニル)プロパン酸エチル(0.57g)を得た。
【0202】
<実施例31>
【0203】
【化27】
実施例Q(0.25g、0.8mmol)とイソシアン酸1−ナフチル(0.13g、0.8mmol)の混合物の無水CH2Cl2(5ml)への溶液を、N2中で室温にて20時間撹拌した。溶剤を真空中で除去し、残留物を、水酸化リチウム(0.1g)を含むTHF(3ml)/MeOH(2ml)/水(1.5ml)の溶液中で室温にて3時間撹拌し、EtOAcおよび希クエン酸溶液で希釈した。有機層を乾燥し(Na2SO4)、揮発成分を真空中で除去した。残留物を、メタノールのCH2Cl2への4%溶液を溶出液として使用してカラムクロマトグラフィーで精製し、3−{4−[3−tert−ブチル−5−(3−(ナフタレン−1−イル)ウレイド]−1H−ピラゾール−1−イル}フェニル)プロパン酸(0.18g、灰白色の固形物)を得た。融点:120 122;1H NMR(200MHz,CDCl3):δ7.89−7.06(m,11H),6.5(s,1H),2.89(m,2H),2.61(m,2H),1.37(s,9H);MS
【0204】
<実施例32>
【0205】
【化28】
標記化合物を、実施例Q(0.16g、0.5mmol)およびイソシアン酸4−クロロフェニル(0.077g、0.5mmol)を使用して、実施例31と同様にして合成したところ、3−{4−[3−tert−ブチル−5−(3−(4−クロロフェニル)ウレイド]−1H−ピラゾール−1−イル}フェニル)プロパン酸(0.16g、灰白色固形物)が得られた。融点:112−114;1H NMR(200MHz,CDCl3):δ8.16(s,1H),7.56(s,1H),7.21(s,2H),7.09(s,2H),6.42(s,1H),2.80(m,2H),2.56(m,2H),1.32(s,9H);MS
【0206】
<実施例39>
【0207】
【化29】
【0208】
<実施例41>
【0209】
【化30】
【0210】
磁気式かくはん棒が備えられた100mLの丸底フラスコで、実施例39(2.07g)がCH2Cl2(20mL)に溶解され、氷浴で0℃まで冷却された。BBr3(CH2Cl2の1M溶液;7.5mL)が時間をかけて添加された。反応物は一晩中室温に加温された。さらなるBBr3(CH2Cl2の1M溶液を2×1mL、合計で9.5mmolが添加された)が添加され、反応物はMeOHを添加することによってクエンチされた。溶媒の蒸発により結晶物質が生成し、これは、溶離剤としてCH2Cl2/MeOH(9.6:0.4)を用いたシリカゲル(30g)によるクロマトグラフィーによって分離され、1−[3−tert−ブチル−1−(3−ヒドロキシフェニル)−1H−ピラゾール−5−イル]−3−(ナフタレン−1−イル)ウレア(0.40g,20%)が得られた。
【0211】
実施例X
【0212】
【化31】
【0213】
<実施例59>
【0214】
【化32】
【0215】
実施例X(1.37g)とp−ブロモフェニルイソシアネート(990mg)を用いて実施例41と同様の方法で、標題化合物4−{3−tert−ブチル−5−[3−(4−ブロモフェニル)ウレイド]−1H−ピラゾール−1−イル}安息香酸メチルを白色結晶(1.4g、59%)で、HPLC純度:94%、融点270−272で得た。
【0216】
<実施例60>
【0217】
【化33】
実施例59(700mg)の30mLのトルエンへの溶液(−78℃)に、水素化ジイソブチルアルミニウムのトルエン溶液(1M トルエン溶液、7.5mL)を10分間滴下して加えた。反応混合物を、−78℃で30分間撹拌し、その後0℃で30分間撹拌した。反応混合物を、真空中で無水状態となるまで濃縮し、H2Oで処理した。固形物を濾過し、アセトニトリルで処理した。溶液を無水状態となるまで蒸発させ、残留物を酢酸エチルに溶解し、ヘキサンで沈殿させたところ、黄色の固形物が得られ、この固形物を真空中で乾燥させたところ、1−[3−tert−ブチル−1−(4−ヒドロキシメチル)フェニル)−1H−ピラゾール−5−イル]尿素(400mg、61%)が得られた。HPLC純度:95%;1H NMR(DMSO−d6):δ9.2(s,1H),8.4(s,1H),7.5(m,8H),6.4(s,1H),5.3(t,1H),4.6(d,2H),1.3(s,9H).
上掲の参考文献は、いずれも、ここに言及することによって、本発明に組み込むものである。また、同時に出願する2件の出願、すなわち、Anti−Inflammatory Medicaments,米国特許出願番号10/746,460号(2003年12月24日出願)およびAnti−Cancer Medicaments,米国特許出願番号10/746,407号(2003年12月24日出願)も、ここに言及することによって、本発明に組み込むものである。
【図面の簡単な説明】
【0218】
この特許または出願のファイルは、1以上のカラー図面を含むものである。カラー図面を含む本特許または特許出願の公報の複写物は、特許庁に請求し、必要な費用を支払うことによって入手可能である。
【図1】図1は、「オン」および「オフ」のスイッチ制御ポケット、過渡的に修飾可能なスイッチ制御リガンド、および活性ATP部位を含む、本発明の天然哺乳動物タンパク質の模式図である。
【図2】図2は、図1のタンパク質の模式図であり、この図では、スイッチ制御リガンドがオフのスイッチ制御ポケットと結合状態をとることで、タンパク質が、生物学的に下方調節された第一コンホメーションをとっている。
【図3】図3は、図1と同様の図であるが、スイッチ制御リガンドの特定のアミノ酸残基のOH基がリン酸化され、スイッチ制御リガンドが、帯電して修飾された状態を示す。
【図4】図4は、図2と同様の図であるが、この図では、スイッチ制御リガンドがオンのスイッチ制御ポケットと結合状態をとることで、タンパク質が、図2の第一コンホメーションとは異なる、生物学的に活性な第二コンホメーションをとっている。
【図4a】図4aは、スイッチ制御リガンドのリン酸化された残基と、オンのスイッチ制御ポケット由来の相補的な残基との典型的な結合を図示する拡大模式図である。
【図5】図5は、図1と同様の図であるが、オンおよびオフのスイッチ制御ポケットと結合関係にある小型分子化合物を模式的に示す。
【図6】図6は、スイッチ制御リガンドおよびオンのスイッチ制御ポケットのそれぞれの一部から複合型スイッチ制御ポケットが形成され、小型分子が、この複合型スイッチ制御ポケットと結合関係にあるようなタンパク質の模式図である。
【図7】図7は、オンのスイッチ制御ポケット、スイッチ制御リガンド配列、活性ATP部位のそれぞれの一部から組合わせ型スイッチ制御ポケットが形成され、小型分子が、この組合わせ型スイッチ制御ポケットと結合関係にあるようなタンパク質の模式図である。
【図8】図8は、X線結晶構造解析で得られたリボン図であり、生物学的に上方調節された状態にあるインシュリン受容体のキナーゼタンパク質のオンのコンホメーションを示すものである。
【図9】図9は、図8と同様の図であるが、タンパク質が生物学的に下方調節され、オフのコンホメーションにある状態を示すものである。
【図10】図10は、ablキナーゼを、SURFNETで可視化したものであり、オンのスイッチ制御ポケットを青で示す。
【図11】図11は、ablキナーゼを、GRASPで可視化したものであり、オンのスイッチ制御ポケットを黄色で囲んである。
【図12】図12は、ablキナーゼタンパク質のリボン図であり、オンのスイッチ制御ポケットの重要なアミノ酸残基を識別してある。
【図13】図13は、ablキナーゼタンパク質のリボン図であり、組合せ型のスイッチ制御ポケット(オンのスイッチ制御ポケット/スイッチ制御リガンド配列/ATP活性部位)を示す。
【図14】図14は、p38キナーゼを、SURFNETで可視化したものであり、オンのスイッチ制御ポケットを青で示す。
【図15】図15は、p38キナーゼを、GRASPで可視化したものであり、オンのスイッチ制御ポケットを黄色で囲んである。
【図16】図16は、p38キナーゼタンパク質のリボン図であり、オンのスイッチ制御ポケット重要なアミノ酸残基を識別してある。
【図17】図17は、Gsk−3βキナーゼタンパク質をSURFNETで可視化したものであり、二機能性のオン・オフ・スイッチ制御ポケットを青で示す。
【図18】図18は、Gsk−3βキナーゼタンパク質をGRASPで可視化したものであり、二機能性のオン・オフ・スイッチ制御ポケットを黄色で囲んである。
【図19】図19は、Gsk−3βキナーゼタンパク質のリボン図であり、組合せ型のオン・オフ・スイッチ制御ポケットの重要なアミノ酸残基を識別してある。
【図20】図20は、非リン酸化状態の準精製ablのキナーゼドメインのタンパク質を識別するSDS−PAGEゲルを示す。
【図21】図21は、非リン酸化状態の精製ablのキナーゼタンパク質を識別するSDS−PAGEゲルを示す。
【図22】図22は、準精製ablキナーゼドメインタンパク質のクロマトグラフィーでの溶出特性を示す。
【図23】図23は、精製ablキナーゼドメインタンパク質のクロマトグラフィーでの溶出特性を示す。
【図24】図24は、TEVタグの解裂前(レーン2〜4)および後(レーン5〜8)のabl キナーゼタンパク質を識別したSDS−PAGEのゲルである。
【図25】図25は、精製ablタンパク質の、紫外線スペクトルであり、このタンパク質のATP部位には、小型分子阻害物質であるPD180790が結合している。
【図26】図26は、ニッケル・アフィニティ・クロマトグラフィーおよびQ−セファロースを用いたクロマトグラフィーで精製を行った際の、abl構築物5タンパク質(abl 1−531,Y412F 変異型)のクロマトグラフィーでの溶出特性を示す。
【図27】図27は、精製abl構築物5タンパク質のSDS−PAGEのゲルである。
【図28】図28は、非リン酸化状態にある精製p38αキナーゼタンパク質のクロマトグラフィーでの溶出特性を示す。
【図29】図29は、非リン酸化状態にある精製p38αキナーゼタンパク質のSDS−PAGEのゲルである。
【図30】図30は、リン酸化状態にある活性化されたGsk3−βタンパク質の質量スペクトルである。
【図31】図31は、非リン酸化状態にある活性化されていないGsk3−βタンパク質の質量スペクトルである。
【図32】図32は、ウェスタンブロットで、リン酸化されたGsk3−βタンパク質をホスホチロシン抗体によって染色したところである。
【図33】図33は、ウェスタンブロットで、リン酸化されていないGsk3−βタンパク質をホスホチロシン抗体によって染色したところである。
【配列表】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の天然タンパク質と相互に作用して、そのタンパク質の活性を調節する分子を識別する方法であって、
上記タンパク質の一部を形成するスイッチ制御リガンドを識別し、
上記タンパク質の一部を形成し、上記スイッチ制御リガンドと相互作用するスイッチ制御ポケットを識別し、ここで上記リガンドは、インビボで上記ポケットと相互に作用して上記タンパク質のコンホメーションおよび生物学的活性を調節し、調節は、リガンドとポケットが相互に作用すると、上記タンパク質が第一コンホメーションおよび第一生物学的活性を示し、リガンドとポケットが相互に作用しない場合には、上記タンパク質が、第二の、上記とは異なるコンホメーションおよび生物学的活性を示すよう進行するものであり、
上記タンパク質の第一コンホメーションおよび第二コンホメーションの各サンプルを用意し、そして、
1以上の候補分子に対する上記サンプルの1以上のスクリーニングを、候補分子を上記サンプルの一つと接触させることによって行い、このタンパク質のポケット領域に結合してタンパク質の活性を調節する小型分子を識別する
過程を含む方法。
【請求項2】
上記タンパク質が、酵素、受容体、シグナル伝達タンパク質よりなる群から選ばれる請求項1記載の方法。
【請求項3】
上記タンパク質が、キナーゼ、ホスファターゼ、スルホトランスフェラーゼ、スルファターゼ、転写因子、核ホルモン受容体、Gタンパク質結合受容体、Gタンパク質、GTPアーゼ、ホルモン、ポリメラーゼ、およびヌクレオチド調節部位を含む他のタンパク質よりなる群から選ばれる請求項2記載の方法。
【請求項4】
上記タンパク質の分子量が、少なくとも約15kDaである請求項1記載の方法。
【請求項5】
上記分子量が、約30kDaを超えるものである請求項4記載の方法。
【請求項6】
上記スイッチ制御リガンド配列およびスイッチ制御ポケットの識別過程が、生物情報学的分析、X線結晶構造解析、磁気共鳴スペクトロスコピー(NMR)、円偏光二色性(CD)、およびアフィニティ系のスクリーニングよりなる群から選ばれるものである請求項1記載の方法。
【請求項7】
上記のタンパク質を用意する過程が、上記の第一および第二のコンホメーションに対応するそれぞれの状態に静的に封じ込められている上記タンパク質の実質的に精製されたサンプルを得る過程である請求項1記載の方法。
【請求項8】
上記の接触過程が、アフィニティ系のスクリーニング、キャピラリーゾーン電気泳動、蛍光プローブ置換分析、磁気共鳴スペクトロスコピー、円偏光二色性、X線結晶構造解析よりなる群から選ばれる技術を含むものである請求項1記載の方法。
【請求項9】
上記タンパク質がキナーゼタンパク質である請求項1記載の方法。
【請求項10】
スイッチ制御ポケットを備えた天然タンパク質と、このタンパク質のスイッチ制御ポケットに結合している非天然分子を含むタンパク質・モジュレータ・アダクトであって、この分子が、上記タンパク質のコンホメーションを誘導または制限することによって上記タンパク質の生物学的活性を少なくとも部分的に調節する役目をはたしているアダクト。
【請求項11】
上記分子が、上記タンパク質のコンホメーションの変化を誘導する役目をはたしている請求項10記載のアダクト。
【請求項12】
上記分子が、上記タンパク質のコンホメーションの変化を制限する役目をはたしている請求項10記載のアダクト。
【請求項13】
上記タンパク質が、スイッチ制御リガンドも含んでおり、このリガンドが、インビボで上記ポケットと相互作用して、上記タンパク質のコンホメーションおよび生物学的活性を調節しており、調節は、リガンドとポケットが相互に作用すると、上記タンパク質が、第一コンホメーションおよび第一生物学的活性を示し、リガンドとポケットが相互に作用しない場合には、第二の、上記とは異なるコンホメーションおよび生物学的活性を示すよう進行するものである請求項10記載のアダクト。
【請求項14】
上記ポケットが、オンのポケットであり、上記分子が、アゴニストとして、上記タンパク質のこのオンのポケットの領域に結合するものである請求項10記載のアダクト。
【請求項15】
上記ポケットが、オンのポケットであり、上記分子が、アンタゴニストとして、上記タンパク質のこのオンのポケットの領域に結合するものである請求項10記載のアダクト。
【請求項16】
上記ポケットが、オフのポケットであり、上記分子が、アゴニストとして、上記タンパク質のこのオフのポケットの領域に結合するものである請求項10記載のアダクト。
【請求項17】
上記ポケットが、オフのポケットであり、上記分子が、アンタゴニストとして、上記タンパク質のこのオフのポケットの領域に結合するものである請求項10記載のアダクト。
【請求項18】
上記タンパク質が、酵素、受容体、シグナル伝達タンパク質よりなる群から選ばれる請求項10記載のアダクト。
【請求項19】
上記タンパク質が、キナーゼ、ホスファターゼ、スルホトランスフェラーゼ、スルファターゼ、転写因子、核ホルモン受容体、Gタンパク質結合受容体、Gタンパク質、GTPアーゼ、ホルモン、ポリメラーゼ、およびヌクレオチド調節部位を含む他のタンパク質よりなる群から選ばれる請求項18記載のアダクト。
【請求項20】
上記タンパク質の分子量が、少なくとも約15kDaである請求項10記載のアダクト。
【請求項21】
上記分子量が、約30kDaを超えるものである請求項20記載のアダクト。
【請求項22】
上記タンパク質が、キナーゼタンパク質である請求項10記載のアダクト。
【請求項23】
タンパク質の生物学的活性を変更する方法であって、
スイッチ制御ポケットを備えた天然タンパク質を用意し、
上記タンパク質を、非天然分子のモジュレータと接触させ、
上記モジュレータを上記タンパク質の上記ポケットの領域に結合させて、タンパク質のコンホメーションの誘導または制限により、少なくとも部分的にタンパク質の生物学的活性を調節する
過程を含むタンパク質の生物学的活性を変更する方法。
【請求項24】
上記分子が、上記タンパク質のコンホメーションの変化を誘導する役目をはたしている請求項23記載の方法。
【請求項25】
上記分子が、上記タンパク質のコンホメーションの変化を制限する役目をはたしている請求項23記載の方法。
【請求項26】
上記タンパク質が、スイッチ制御リガンドも含んでおり、このリガンドが、インビボで上記ポケットと相互作用して、上記タンパク質のコンホメーションおよび生物学的活性を調節しており、調節は、リガンドとポケットが相互に作用すると、上記タンパク質が、第一コンホメーションおよび第一生物学的活性を示し、リガンドとポケットが相互に作用しない場合には、第二の、上記とは異なるコンホメーションおよび生物学的活性を示すよう進行するものである請求項23記載の方法。
【請求項27】
上記ポケットが、オンのポケットであり、上記分子が、アゴニストとして、上記タンパク質のこのオンのポケットの領域に結合するものである請求項23記載の方法。
【請求項28】
上記ポケットが、オンのポケットであり、上記分子が、アンタゴニストとして、上記タンパク質のこのオンのポケットの領域に結合するものである請求項23記載の方法。
【請求項29】
上記ポケットが、オフのポケットであり、上記分子が、アゴニストとして、上記タンパク質のこのオフのポケットの領域に結合するものである請求項23記載の方法。
【請求項30】
上記ポケットが、オフのポケットであり、上記分子が、アンタゴニストとして、上記タンパク質のこのオフのポケットの領域に結合するものである請求項23記載の方法。
【請求項31】
上記タンパク質が、酵素、受容体、シグナル伝達タンパク質よりなる群から選ばれる請求項23記載の方法。
【請求項32】
上記タンパク質が、キナーゼ、ホスファターゼ、スルホトランスフェラーゼ、スルファターゼ、転写因子、核ホルモン受容体、Gタンパク質結合受容体、Gタンパク質、GTPアーゼ、ホルモン、ポリメラーゼ、およびヌクレオチド調節部位を含む他のタンパク質よりなる群から選ばれる請求項31記載の方法。
【請求項33】
上記タンパク質の分子量が、少なくとも約15kDaである請求項32記載の方法。
【請求項34】
上記分子量が、約30kDaを超えるものである請求項33記載の方法。
【請求項35】
上記タンパク質が、キナーゼタンパク質である請求項32記載の方法。
【請求項1】
特定の天然タンパク質と相互に作用して、そのタンパク質の活性を調節する分子を識別する方法であって、
上記タンパク質の一部を形成するスイッチ制御リガンドを識別し、
上記タンパク質の一部を形成し、上記スイッチ制御リガンドと相互作用するスイッチ制御ポケットを識別し、ここで上記リガンドは、インビボで上記ポケットと相互に作用して上記タンパク質のコンホメーションおよび生物学的活性を調節し、調節は、リガンドとポケットが相互に作用すると、上記タンパク質が第一コンホメーションおよび第一生物学的活性を示し、リガンドとポケットが相互に作用しない場合には、上記タンパク質が、第二の、上記とは異なるコンホメーションおよび生物学的活性を示すよう進行するものであり、
上記タンパク質の第一コンホメーションおよび第二コンホメーションの各サンプルを用意し、そして、
1以上の候補分子に対する上記サンプルの1以上のスクリーニングを、候補分子を上記サンプルの一つと接触させることによって行い、このタンパク質のポケット領域に結合してタンパク質の活性を調節する小型分子を識別する
過程を含む方法。
【請求項2】
上記タンパク質が、酵素、受容体、シグナル伝達タンパク質よりなる群から選ばれる請求項1記載の方法。
【請求項3】
上記タンパク質が、キナーゼ、ホスファターゼ、スルホトランスフェラーゼ、スルファターゼ、転写因子、核ホルモン受容体、Gタンパク質結合受容体、Gタンパク質、GTPアーゼ、ホルモン、ポリメラーゼ、およびヌクレオチド調節部位を含む他のタンパク質よりなる群から選ばれる請求項2記載の方法。
【請求項4】
上記タンパク質の分子量が、少なくとも約15kDaである請求項1記載の方法。
【請求項5】
上記分子量が、約30kDaを超えるものである請求項4記載の方法。
【請求項6】
上記スイッチ制御リガンド配列およびスイッチ制御ポケットの識別過程が、生物情報学的分析、X線結晶構造解析、磁気共鳴スペクトロスコピー(NMR)、円偏光二色性(CD)、およびアフィニティ系のスクリーニングよりなる群から選ばれるものである請求項1記載の方法。
【請求項7】
上記のタンパク質を用意する過程が、上記の第一および第二のコンホメーションに対応するそれぞれの状態に静的に封じ込められている上記タンパク質の実質的に精製されたサンプルを得る過程である請求項1記載の方法。
【請求項8】
上記の接触過程が、アフィニティ系のスクリーニング、キャピラリーゾーン電気泳動、蛍光プローブ置換分析、磁気共鳴スペクトロスコピー、円偏光二色性、X線結晶構造解析よりなる群から選ばれる技術を含むものである請求項1記載の方法。
【請求項9】
上記タンパク質がキナーゼタンパク質である請求項1記載の方法。
【請求項10】
スイッチ制御ポケットを備えた天然タンパク質と、このタンパク質のスイッチ制御ポケットに結合している非天然分子を含むタンパク質・モジュレータ・アダクトであって、この分子が、上記タンパク質のコンホメーションを誘導または制限することによって上記タンパク質の生物学的活性を少なくとも部分的に調節する役目をはたしているアダクト。
【請求項11】
上記分子が、上記タンパク質のコンホメーションの変化を誘導する役目をはたしている請求項10記載のアダクト。
【請求項12】
上記分子が、上記タンパク質のコンホメーションの変化を制限する役目をはたしている請求項10記載のアダクト。
【請求項13】
上記タンパク質が、スイッチ制御リガンドも含んでおり、このリガンドが、インビボで上記ポケットと相互作用して、上記タンパク質のコンホメーションおよび生物学的活性を調節しており、調節は、リガンドとポケットが相互に作用すると、上記タンパク質が、第一コンホメーションおよび第一生物学的活性を示し、リガンドとポケットが相互に作用しない場合には、第二の、上記とは異なるコンホメーションおよび生物学的活性を示すよう進行するものである請求項10記載のアダクト。
【請求項14】
上記ポケットが、オンのポケットであり、上記分子が、アゴニストとして、上記タンパク質のこのオンのポケットの領域に結合するものである請求項10記載のアダクト。
【請求項15】
上記ポケットが、オンのポケットであり、上記分子が、アンタゴニストとして、上記タンパク質のこのオンのポケットの領域に結合するものである請求項10記載のアダクト。
【請求項16】
上記ポケットが、オフのポケットであり、上記分子が、アゴニストとして、上記タンパク質のこのオフのポケットの領域に結合するものである請求項10記載のアダクト。
【請求項17】
上記ポケットが、オフのポケットであり、上記分子が、アンタゴニストとして、上記タンパク質のこのオフのポケットの領域に結合するものである請求項10記載のアダクト。
【請求項18】
上記タンパク質が、酵素、受容体、シグナル伝達タンパク質よりなる群から選ばれる請求項10記載のアダクト。
【請求項19】
上記タンパク質が、キナーゼ、ホスファターゼ、スルホトランスフェラーゼ、スルファターゼ、転写因子、核ホルモン受容体、Gタンパク質結合受容体、Gタンパク質、GTPアーゼ、ホルモン、ポリメラーゼ、およびヌクレオチド調節部位を含む他のタンパク質よりなる群から選ばれる請求項18記載のアダクト。
【請求項20】
上記タンパク質の分子量が、少なくとも約15kDaである請求項10記載のアダクト。
【請求項21】
上記分子量が、約30kDaを超えるものである請求項20記載のアダクト。
【請求項22】
上記タンパク質が、キナーゼタンパク質である請求項10記載のアダクト。
【請求項23】
タンパク質の生物学的活性を変更する方法であって、
スイッチ制御ポケットを備えた天然タンパク質を用意し、
上記タンパク質を、非天然分子のモジュレータと接触させ、
上記モジュレータを上記タンパク質の上記ポケットの領域に結合させて、タンパク質のコンホメーションの誘導または制限により、少なくとも部分的にタンパク質の生物学的活性を調節する
過程を含むタンパク質の生物学的活性を変更する方法。
【請求項24】
上記分子が、上記タンパク質のコンホメーションの変化を誘導する役目をはたしている請求項23記載の方法。
【請求項25】
上記分子が、上記タンパク質のコンホメーションの変化を制限する役目をはたしている請求項23記載の方法。
【請求項26】
上記タンパク質が、スイッチ制御リガンドも含んでおり、このリガンドが、インビボで上記ポケットと相互作用して、上記タンパク質のコンホメーションおよび生物学的活性を調節しており、調節は、リガンドとポケットが相互に作用すると、上記タンパク質が、第一コンホメーションおよび第一生物学的活性を示し、リガンドとポケットが相互に作用しない場合には、第二の、上記とは異なるコンホメーションおよび生物学的活性を示すよう進行するものである請求項23記載の方法。
【請求項27】
上記ポケットが、オンのポケットであり、上記分子が、アゴニストとして、上記タンパク質のこのオンのポケットの領域に結合するものである請求項23記載の方法。
【請求項28】
上記ポケットが、オンのポケットであり、上記分子が、アンタゴニストとして、上記タンパク質のこのオンのポケットの領域に結合するものである請求項23記載の方法。
【請求項29】
上記ポケットが、オフのポケットであり、上記分子が、アゴニストとして、上記タンパク質のこのオフのポケットの領域に結合するものである請求項23記載の方法。
【請求項30】
上記ポケットが、オフのポケットであり、上記分子が、アンタゴニストとして、上記タンパク質のこのオフのポケットの領域に結合するものである請求項23記載の方法。
【請求項31】
上記タンパク質が、酵素、受容体、シグナル伝達タンパク質よりなる群から選ばれる請求項23記載の方法。
【請求項32】
上記タンパク質が、キナーゼ、ホスファターゼ、スルホトランスフェラーゼ、スルファターゼ、転写因子、核ホルモン受容体、Gタンパク質結合受容体、Gタンパク質、GTPアーゼ、ホルモン、ポリメラーゼ、およびヌクレオチド調節部位を含む他のタンパク質よりなる群から選ばれる請求項31記載の方法。
【請求項33】
上記タンパク質の分子量が、少なくとも約15kDaである請求項32記載の方法。
【請求項34】
上記分子量が、約30kDaを超えるものである請求項33記載の方法。
【請求項35】
上記タンパク質が、キナーゼタンパク質である請求項32記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【公表番号】特表2006−517654(P2006−517654A)
【公表日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−508626(P2005−508626)
【出願日】平成15年12月26日(2003.12.26)
【国際出願番号】PCT/US2003/041450
【国際公開番号】WO2004/061084
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
Linux
【出願人】(505247306)デシファラ ファーマスーティカルズ, エルエルシー (10)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年12月26日(2003.12.26)
【国際出願番号】PCT/US2003/041450
【国際公開番号】WO2004/061084
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
Linux
【出願人】(505247306)デシファラ ファーマスーティカルズ, エルエルシー (10)
【Fターム(参考)】
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