説明

ターボチャージャの排ガスシール構造

【課題】 タービン容量を可変とするターボチャージャにおいて、タービン容量を制御する弁部材の軸部と軸部を回動自在に挿通支持する軸受部との間隙から流出する排ガス量を低減できるターボチャージャの排ガスシール構造を提供する。
【解決手段】 タービンロータと、排ガス通路3が形成されるタービンハウジング2と、軸受部7と、軸受部7に回動自在に挿通支持される軸部6と、弁部材4と、を有し、排ガス通路3に排ガスを流入させると共に、弁部材4によりタービン容量を可変とするターボチャージャにおいて、軸受部7の内径よりも小さな内径を有し、軸部6と相対変位自在なシール部材10を、タービンハウジング2の内部側及び外部側の夫々において、軸部6に挿通し、外部側のシール部材10を軸受部7の側面に付勢する付勢手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービンハウジングの内部に排ガスを流入させると共に、タービン容量を可変とするターボチャージャの排ガスシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボチャージャは、タービンハウジングの内部に流入する排ガスのエネルギーを利用して、エンジンに圧縮した空気を供給する。具体的には、エンジンの排ガスによって、タービンハウジングの内部に設けたタービンロータを回転させ、このタービンロータと同軸で連結しているコンプレッサハウジング内のコンプレッサロータを回転させて、コンプレッサハウジングの内部に吸入した空気を圧縮し、エンジンに供給する。
【0003】
ターボチャージャには、通常、エンジンの低速域から高速域まで変化する回転数に応じて変動する排ガスのエネルギーを効率的に利用するために、タービンハウジングの内部に流入する排ガス流を制御する弁部材が設けられている。このような弁部材としては、タービンロータへ送られる排ガス量を制御して過給圧が高くなり過ぎないようにするウエストゲートバルブや、流入する排ガス量に応じてタービン容量を切換え、一定の過給圧を維持するフローコントロールバルブがある。
【0004】
ウエストゲートバルブは、流入部に設けられた排出部と連通するバイパス通路口を開閉するもので、流入する排ガスが一定量以上の場合には、バルブを開いて過剰な排ガスをタービンロータを経由させずに排出させる。フローコントロールバルブは、タービンロータへの排ガス通路が二つに分かれている場合にその一方の通路口を開閉するもので、流入する排ガス量が少なくなるとバルブを閉じてタービンの容量を小さくする。また、流入する排ガス量が多い場合には、バルブを開いてタービン容量を大きくする。
【0005】
ウエストゲートバルブやフローコントロールバルブは、通常、その軸部がタービンハウジングの内部側と外部側とを連通する軸受部に回動自在に挿通支持されており、タービンハウジングの外部側から回動させることにより、バルブを開閉させて排ガス流を制御する。このような弁部材は800℃以上の排ガスに直接晒されるため、弁部材の軸部と軸受部との間隙は熱膨張や熱変形等による焼き付きを防止すべく一般的な軸と軸受との間隙よりも大きく設けてある。このため、タービンハウジングに流入した排ガスは、その一部がタービンハウジングの内外の圧力差により軸部と軸受部との間隙から大気へ流出するという問題が生じていた。
【0006】
この問題に対しては、軸受部の内径よりも小さな内径を有するワッシャをシール部材として、弁部材と軸受部との間において軸部に嵌合した排ガスのシール構造(例えば、特許文献1参照)が知られている。このシール構造によれば、排ガスの温度によって軸部を熱膨張させて軸部とシール部材との間隙を小さくでき、また、排ガスの圧力によって弁部材とシール部材を軸受部に押し付けることができる。これにより、軸部と軸受部との間隙から外部に流出する排ガス量を低減することができる。
【0007】
また、軸受部の内周面に嵌合するシール部材と弁部材の軸部の外周面に嵌合するシール部材とを軸部の軸心方向に隣接配置することにより、排ガスの流出通路を曲折かつ長くし、外部に流出する排ガス量を低減する排ガスのシール構造(例えば、特許文献2参照)についても検討されている。
【0008】
【特許文献1】特開平8−334030号公報
【特許文献2】特開平5−248253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記従来のターボチャージャにおいては、エンジンの振動や弁部材を制御するアクチュエータ荷重等により軸受部内で軸部が傾く場合がある。したがって、前記特許文献1及び2に記載されたシール構造では、軸部とシール部材との間隙が小さく、軸部の傾きにシール部材が追随してしまうため、シール部材と軸受部との間に隙間が生じ、この隙間から排ガスが流出するという問題があった。
【0010】
また、前記特許文献1及び2に記載されたシール構造は、タービン容量が可変のターボチャージャに採用されるものではない。そのため、タービン容量が可変のターボチャージャに特有のフローコントロールバルブのシール構造については検討されていない。すなわち、フローコントロールバルブは排ガスが流入する排ガス通路に設けられているため、排気部と連通するバイパス通路側に設けられているウエストゲートバルブに比べて雰囲気温度、圧力が高くなっている。また、フローコントロールバルブのサイズは、その役割からウエストゲートバルブよりも大きく、これに合わせて軸部及び軸受部も大きく設定されている。このようにフローコントロールバルブでは、ウエストゲートバルブに比べて軸部と軸受部との間隙はより大きく設けられており、また外部との圧力差も大きいため、外部へ流出する排ガス量はより多くなっている。したがって、フローコントロールバルブに対して求められる排ガスの流出量の低減幅は、ウエストゲートバルブにおける低減幅よりも大きくなっており、このようなフローコントロールバルブに対応できる排ガスのシール構造が求められていた。
【0011】
本発明は上記問題に鑑み案出されたものであり、タービン容量を可変とするターボチャージャにおいて、タービン容量を制御する弁部材の軸部と、当該軸部を回動自在に挿通支持する軸受部との間隙から流出する排ガス量を低減できるターボチャージャの排ガスシール構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明に係るターボチャージャの第1特徴構成は、タービンロータと、第1スクロール部と第2スクロール部とを備え前記タービンロータが配置される排ガス通路が形成されるタービンハウジングと、前記タービンロータより上流側の前記排ガス通路に連通する空間に配置され、前記タービンハウジングの内部側と外部側とを連通する軸受部と、該軸受部に回動自在に挿通支持される軸部とを備え、前記軸部の回動により前記第1スクロール部及び前記第2スクロール部の連通を制御する弁部材と、を有し、前記排ガス通路に排ガスを流入させると共に、前記弁部材により前記第1スクロール部及び前記第2スクロール部の連通を制御してタービン容量を可変とするターボチャージャにおいて、前記軸受部の内径よりも小さな内径を有し、前記軸部と相対変位自在なシール部材を、前記タービンハウジングの内部側及び外部側の夫々において、前記軸部に挿通し、前記外部側のシール部材を前記軸受部の側面に付勢する付勢手段を備えた点にある。
【0013】
つまり、この構成によれば、タービンハウジングの内部側において軸部に挿通したシール部材にはタービンロータに流入する前の排ガスの流入圧が作用するため、当該シール部材は、この排ガスの圧力によって軸受部の側面に付勢され、外部側において軸部に挿通したシール部材は、付勢手段によって軸受部の側面に付勢される。
また、軸部に挿通したシール部材は、軸受部の内径よりも小さな内径を有し、軸部と相対変位自在であるため、軸部が傾いた場合であっても軸部に追随することはない。
このため、排ガスが外部へ流出する際には、排ガスを軸部とシール部材との間隙を確実に通すことができるため、排ガスの流出通路を小さくすることができる。
【0014】
また、シール部材は、タービンハウジングの内部側及び外部側の夫々において軸部に挿通してあるため、タービンハウジングの内部と軸受部との間と、軸受部とタービンハウジング外部との間にそれぞれ圧力差を生じさせることができる。このため、それぞれの圧力差は、タービンハウジングの内部と外部との圧力差より小さくすることができる。
したがって、軸部と軸受部との間隙から排ガスをより流出し難くすることができ、比較的高い排ガスの流入圧が作用する場合、つまりタービンロータの上流側の排ガス通路に連通する空間に軸受部及び軸部が配置されるような弁部材においても、該弁部材から漏れる排ガス量を低減することができる。
【0015】
本発明に係るターボチャージャの排ガスシール構造の第2特徴構成は、タービンロータと、第1スクロール部と第2スクロール部とを備え前記タービンロータが配置される排ガス通路が形成されるタービンハウジングと、前記タービンロータより上流側の前記排ガス通路に連通する空間に配置され、前記タービンハウジングの内部側と外部側とを連通する軸受部と、該軸受部に回動自在に挿通支持される軸部とを備え、前記軸部の回動により前記第1スクロール部及び前記第2スクロール部の連通を制御する弁部材と、を有し、前記排ガス通路に排ガスを流入させると共に、前記弁部材により前記第1スクロール部及び前記第2スクロール部の連通を制御してタービン容量を可変とするターボチャージャにおいて、前記軸受部の内径よりも小さな内径を有し、前記軸部と相対変位自在なシール部材を、前記タービンハウジングの外部側において、前記軸部に複数挿通し、該シール部材を前記軸受部の側面に付勢する付勢手段を備えた点にある。
【0016】
つまり、この構成によれば、タービンハウジングの外部側において軸部に複数挿通したシール部材は、付勢手段によって軸受部の側面に付勢される。
また、軸部に挿通したシール部材は、軸受部の内径よりも小さな内径を有し、軸部と相対変位自在であるため、軸部が傾いた場合であっても軸部に追随することはない。
このため、排ガスが外部へ流出する際には、排ガスを軸部とシール部材との間隙を確実に通すことができるため、排ガスの流出通路を小さくすることができる。
【0017】
また、シール部材を軸部に複数挿通してあるため、排ガスの流出通路を複雑にして、長くすることができる。
したがって、軸部と軸受部との間隙から排ガスをより流出し難くすることができ、比較的高い排ガスの流入圧が作用する場合、つまりタービンロータの上流側の排ガス通路に連通する空間に軸受部及び軸部が配置されるような弁部材においても、該弁部材から漏れる排ガス量を低減することができる。
【0018】
本発明に係るターボチャージャの排ガスシール構造の第3特徴構成は、タービンロータと、第1スクロール部と第2スクロール部とを備え前記タービンロータが配置される排ガス通路が形成されるタービンハウジングと、前記タービンロータより上流側の前記排ガス通路に連通する空間に配置され、前記タービンハウジングの内部側と外部側とを連通する軸受部と、該軸受部に回動自在に挿通支持される軸部とを備え、前記軸部の回動により前記第1スクロール部及び前記第2スクロール部の連通を制御する弁部材と、を有し、前記排ガス通路に排ガスを流入させると共に、前記弁部材により前記第1スクロール部及び前記第2スクロール部の連通を制御してタービン容量を可変とするターボチャージャにおいて、前記軸受部の内径よりも小さな内径を有し、前記軸部と相対変位自在なシール部材を、前記タービンハウジングの内部側において前記軸部に少なくとも1つ挿通すると共に、前記タービンハウジングの外部側において前記軸部に複数挿通し、前記外部側のシール部材を前記軸受部の側面に付勢する付勢手段を備えた点にある。
【0019】
つまり、この構成によれば、タービンハウジングの内部側において軸部に挿通したシール部材にはタービンロータに流入する前の排ガスの流入圧が作用するため、当該シール部材は、この排ガスの圧力によって軸受部の側面に付勢され、外部側において軸部に挿通したシール部材は、付勢手段によって軸受部の側面に付勢される。
また、軸部に挿通したシール部材は、軸受部の内径よりも小さな内径を有し、軸部と相対変位自在であるため、軸部が傾いた場合であっても軸部に追随することはない。
このため、排ガスが外部へ流出する際には、排ガスを軸部とシール部材との間隙を確実に通すことができるため、排ガスの流出通路を小さくすることができる。
【0020】
また、シール部材は、タービンハウジングの内部側及び外部側の夫々において軸部に挿通してあるため、タービンハウジングの内部と軸受部との間と、軸受部とタービンハウジング外部との間にそれぞれ圧力差を生じさせることができる。このため、それぞれの圧力差は、タービンハウジングの内部と外部との圧力差より小さくすることができる。
【0021】
さらに、タービンハウジングの外部側において軸部にシール部材を複数挿通してあるため、排ガスの流出通路を複雑にして、長くすることができる。
したがって、軸部と軸受部との間隙から排ガスをより流出し難くすることができ、比較的高い排ガスの流入圧が作用する場合、つまりタービンロータの上流側の排ガス通路に連通する空間に軸受部及び軸部が配置されるような弁部材においても、該弁部材から漏れる排ガス量を低減することができる。
【0022】
本発明に係るターボチャージャの排ガスシール構造の第4特徴構成は、前記付勢手段は、前記タービンハウジングの外部側において、前記軸部に外挿すると共に、前記軸部に設けたフランジ部と前記シール部材とに亘って配置したコイルバネである点である。
【0023】
つまり、この構成によれば、スプリングバネによって、タービンハウジングの外部側において軸部に挿通したシール部材を軸受部の側面に付勢すると共に、フランジ部を介して、軸部を付勢することができる。このため、シール部材を軸受部の側面に確実に付勢させることに加えて、エンジンの振動や、弁部材を制御するアクチュエータ荷重等によって軸部が傾くことを抑制することもできる。
【0024】
また、コイルバネは、タービンハウジングの外部側において軸部に挿通してあるため、排ガスの温度に対する影響を低くすることができる。
【0025】
本発明に係るターボチャージャの排ガスシール構造の第5特徴構成は、前記内部側のシール部材を前記軸受部の側面に付勢する第2の付勢手段を備えている点にある。
【0026】
つまり、この構成によれば、タービンハウジングの内部の排ガスの圧力が低い場合であっても、タービンハウジングの内部側において軸部に挿通したシール部材を軸受部の側面に確実に付勢することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
〔第一の実施形態〕
以下に、本発明の第一の実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態に係るターボチャージャは、タービン容量が可変のターボチャージャ(以下、単に「ターボチャージャ」と称する)であり、図1に示すようにタービンロータ1を備えるタービン部100と、コンプレッサロータ(図示しない)を備えるコンプレッサ部200と、タービンロータ1とコンプレッサロータとを連結する連結シャフト301を備える連結部300とを有して構成される。ターボチャージャは、エンジン(図示しない)の排ガスによってタービンロータ1を回転させ、このタービンロータ1と連結しているコンプレッサロータを回転させて空気を圧縮し、エンジンに供給する。
【0028】
タービン部100は、図1及び2に示すようにタービンロータ1を収容するタービンハウジング2と、内部が内周スクロール部(第1スクロール部)3aと外周スクロール部(第2スクロール部)3bとに仕切られた排ガス通路3と、弁部材としてのフローコントロールバルブ4及びウエストゲートバルブ5とを備えている。そして、タービンハウジング2の内部に流入した排ガスは、排ガス通路3を経てタービンロータ1へ送られる。
また、排ガス通路3を形成するタービンハウジング2の中心部にタービンロータ1が配置されており、排ガスはタービンハウジング2の外周側から排ガス通路3に流入されて、タービンハウジング2の中心部からタービンロータ1を介して該タービンハウジング2の外部に流出するようになっている。また、図2に示すように、内周スクロール部3aと外周スクロール部3bとの仕切りは、その一部分が、内周スクロール部3aと外周スクロール部3bとを仕切る仕切部15と、内周スクロール部3aと外周スクロール部3bとを連通する連通部16とが交互に配置される形態となっている。これにより、内周スクロール部3aと外周スクロール部3bとは基本的には、常に連通状態となっている。
【0029】
フローコントロールバルブ4は、内周スクロール部3aと外周スクロール部3bとの連通を制御して、タービン容量を可変とするための弁部材であり、タービンハウジング2の内部に流入する排ガス量に応じて、内周スクロール部3aと外周スクロール部3bとを仕切る壁部に設けられた外周スクロール部3bの入口を開閉制御するものである。フローコントロールバルブ4は、排ガスの流入量が少ない場合には外周スクロール部3bの入口を閉じて、排ガスを主に内周スクロール部3aに流入させてタービン容量を小さくする。一方、排ガスの流入量が多くなると、外周スクロール部3bの入口を開いて内周スクロール部3aと外周スクロール部3bとの両方に充分な排ガスを流入させてタービン容量を大きくする。尚、このフローコントロールバルブ4は、図2に示すようにタービンロータ1よりも上流側の排ガス通路3に連通する空間に配置されている。さらに具体的には、図3に示すように、排ガス通路3のタービンロータ1より上流側において、外周スクロール部3bを形成するタービンハウジング2の内部側と外部側とを連通するように軸受部7が配置され、この軸受部7に軸部であるシャフト6が回動自在に挿通支持されており、外周スクロール部3b内において、該シャフト6にアーム8を介してフローコントロールバルブ4が連結されている。ここで、前述したように外周スクロール部3bと内周スクロール部3aとは、連結部16により常時連通状態とされていることから、軸受部7及びシャフト6が配置される空間には、フローコントロールバルブ4の開閉状態にかかわらず、エンジンから流入してタービンロータ1に流入する前の排ガスの流入圧が作用する。そのため、これら軸受部7及びシャフト6には、比較的高い圧力が常時作用するため、より優れた排ガスのシール構造が求められている部分となっている。
【0030】
ウエストゲートバルブ5は、タービンハウジング2の内部に流入する排ガス量に応じて排ガスの排出口と連通するバイパス通路5aの入口を開閉制御するものである。ウエストゲートバルブ5は、排ガスの流入量が一定以上になった場合にバイパス通路5aの入口を開いて、過剰な排ガスをタービンロータを経由させずに排出させて、エンジンへ供給する空気の圧力を略一定に保つ。
【0031】
本実施形態においては、図3に示すように本発明に係るターボチャージャの排ガスシール構造を、フローコントロールバルブ4に適用した場合の一例について説明する。
本実施形態に係るターボチャージャの排ガスシール構造は、フローコントロールバルブ4の軸部であるシャフト6と、シャフト6が回動自在に挿通支持してある軸受部7とを備えており、この軸受部7の側面にタービンハウジング2の内部側及び外部側の夫々においてシャフト6に挿通したワッシャ10を、コイルバネ11によって付勢して設けてある。さらに、内部側のワッシャ10にはタービンロータ1に流入される前の排ガスの流入圧が作用するため、内部側のワッシャ10は、この排ガスの圧力によっても軸受部の側面に付勢されている。これにより、それぞれのワッシャ10と軸受部7の側面とを密着させて、排ガスが外部へ流出する際には、排ガスをシャフト6とワッシャ10との間隙に通すことができる。
【0032】
シャフト6には、タービンハウジング2の内部側においてフローコントロールバルブ4と連結するアーム8が外嵌装着され、外部側においてフランジ部9aを有するレバー9が外嵌装着されている。レバー9には駆動装置(図示しない)が接続されており、この駆動装置によりレバー9を介してシャフト6を回動させ、フローコントロールバルブ4を開閉制御する。
【0033】
ワッシャ10は本発明におけるシール部材の一例であり、その内径を軸受部7の内径よりも小さく設定してあると共に、軸体に挿通した際にも一定の間隙を生じるようにして軸体と相対変位自在に設けてある。これにより、ワッシャ10をシャフト6に挿通した際に生じる間隙を、シャフト6と軸受部7との間隙よりも小さくすることができると共に、シャフト6が傾いた場合でもワッシャ10をシャフト6に追随しないようにできる。
【0034】
また、ワッシャ10は、高温の排ガスに晒されるため、排ガス温度に耐え得るステンレス、インコネル、セラミックス等に例示される耐熱材で構成することが好ましい。さらには、低温時から高温時までワッシャ10とシャフト6との間隙を略一定に保つため、シャフト6を構成する材質の高温平均線膨張係数に対し、同等もしくは高い特性係数を有する材質で構成することが好ましい。尚、シャフト6を構成する材質は、従来のものと同様のものが適用される。
【0035】
本実施形態においては、ワッシャ10は同一の内径のものを例として説明したが、タービンハウジング2の内部側と外部側とでは雰囲気温度が異なるため、それぞれの温度に対応させて、内部側のワッシャ10の内径と外部側のワッシャ10の内径とを異なるように設けることもできる。また、ワッシャ10を構成する材料についても同様であり、内部側のワッシャ10を構成する材料と外部側のワッシャを構成する材料とは、同一でも異なっていてもよく、それぞれの温度に対して耐熱性のある材料を適宜選択すればよい。
また、本実施形態においては、タービンハウジング2の内部側においてシャフト6に挿通したワッシャ10と、外部側において挿通したワッシャ10とをそれぞれ1枚ずつ設けた例を示したが、特に制限はなく、片側または両側に複数設けることもできる。
【0036】
コイルバネ11は、本発明における付勢手段の一例である。コイルバネ11は、レバー9のフランジ部9aと外部側のワッシャ10とに亘って圧縮して配置してある。コイルバネ11の一方の側でフランジ部9aを介してシャフト6をタービンハウジング2の外部側に付勢することにより、アーム8及び軸受部7でその間に配置したワッシャ10を付勢挟持する。同時にコイルバネ11の他方の側で外部側のワッシャ10を、埃除けとして設けられたダストカバー12を介して軸受部7の側面に付勢する。これにより、ワッシャ10と軸受部7の側面とを密着させることができる。
本実施形態におけるコイルバネ11は、フランジ部9aを介してシャフト6を付勢しているため、ワッシャ10を確実に軸受部7に密着させることができると共に、エンジンの振動や、弁部材を制御するアクチュエータ荷重等によって軸部が傾くことを抑制することもできる。
また、コイルバネ11は、タービンハウジングの外部側に配置してあるため、排ガスの温度に対する影響を低くすることができ、熱膨張や熱変形等を抑えることができる。また、これによりコイルバネ11を構成する材質の選択の幅も広がる。
【0037】
コイルバネ11は、外部側のワッシャ10を軸受部7の側面と密着させて、その間隙から排ガスが流出するのを防止するため、シャフト6と軸受部7との間隙から流出する排ガスの圧力より大きい付勢力で付勢している。
また、内部側のワッシャ10を、常にアーム8と軸受部7の側面とで付勢挟持させるためには、コイルバネ11はエンジンの振動によってシャフト6が振動するのを抑えることができる付勢力で付勢することがより好ましい。但し、コイルバネ11によってシャフト6の振動を完全に抑えられなくても、振動が大きくなるようなエンジンの回転数の場合には、タービンハウジング内部の排ガスの圧力が高まり、ワッシャ10を軸受部7の側面に付勢できる。また、排ガスの圧力が小さくなるようなエンジンの回転数の場合には、振動が小さくなるため、コイルバネ11によってアーム8を介してワッシャ10を軸受部7の側面に付勢することができる。
尚、本実施形態においては、コイルバネ11によって外部側のワッシャ10を軸受部7の側面に付勢すると同時に内部側のワッシャ10を軸受部7の側面に付勢する場合を例示したが、内部側のワッシャ10は、タービンハウジング2の内部の排ガスの圧力のみによって軸受部7の側面に付勢させてもよい。この場合、排ガスの圧力が低くなるとワッシャ10を付勢し難くなるが、排ガスの流出圧力も低下するため何ら問題はない。
【0038】
ダストカバー12は、従来公知の形状、材質が用いられ特に制限はない。また、使用しなくても何ら問題はない。
【0039】
このように構成されたターボチャージャの排ガスシール構造であれば、排ガスが外部へ流出する際には、排ガスをシャフト6とワッシャ10との間隙を確実に通すことができるため、排ガスの流出通路を小さくすることができる。
また、タービンハウジング2の内部と軸受部7との間と、軸受部7とタービンハウジング2の外部との間にそれぞれ圧力差を生じさせることができる。このため、それぞれの圧力差は、タービンハウジング2の内部と外部との圧力差より小さくすることができる。
したがって、シャフト6と軸受部7との間隙から排ガスをより流出し難くすることができ、タービンロータ1に流入される前の比較的高い排ガスの流入圧が作用する場合であっても、流出する排ガス量を低減することができる。
【0040】
〔第二の実施形態〕
次に本発明に係る第二の実施形態について説明する。本実施形態に係るターボチャージャの排ガスシール構造では、図4に示すようにタービンハウジング2の外部側においてのみシャフト6に3枚のワッシャ10が設けてある。これらのワッシャ10はコイルバネ11によって軸受部7の側面に付勢してある。これにより軸受部7側のワッシャ10を軸受部7の側面と密着させると共に、それぞれのワッシャ10を互いに密着させている。尚、その他の構成は、第一の実施形態と同様である。
【0041】
本実施形態に係るターボチャージャの排ガスシール構造によって得られる排ガスの流出通路の一例を説明する。本実施形態におけるワッシャ10は、エンジンの振動等によって、例えば図5に示すようにシャフト6の軸心方向視でそれぞれが偏心する。このためシャフト6とワッシャ10とのそれぞれの間隙13は、互いのワッシャ10の重なりによって小さくなり、排ガスはワッシャ10の重なりによって生じる間隙13aを通過し難くなる。また、排ガスが1枚のワッシャ10とシャフト6との比較的大きな間隙13を通過したとしても、2枚めのワッシャ10とシャフト6との間隙13を通過するためには、シャフト6の円周方向に移動しながら通過することになり、排ガスの流出通路を複雑にして、長くすることができる。したがって、複数のワッシャ10を設けることによりシャフト6と軸受部7との間隙から排ガスをより流出し難くすることができ、タービンロータ1に流入される前の比較的高い排ガスの流入圧が作用する場合であっても、流出する排ガス量を低減することができる。
【0042】
尚、本実施形態では3枚のワッシャ10を使用した場合を例示したが、ワッシャ10は2枚以上設けてあればその枚数に制限はない。また、本実施形態においては、ワッシャ10を同一形状、同一材質ものを使用した例を示したが、外部側の複数のワッシャ10をそれぞれに異なる形状、材質のものを適用してもよい。
【0043】
〔第三の実施形態〕
次に本発明に係る第三の実施形態について説明する。本実施形態に係るターボチャージャの排ガスシール構造では、図6に示すようにタービンハウジング2の外部側に3枚のワッシャ10、内部側に1枚のワッシャ10が設けてあり、軸受部7側のワッシャ10を軸受部7の側面と密着させると共に、それぞれの隣り合うワッシャ10を互いに密着させている。尚、その他の構成は、第一の実施形態と同様である。
【0044】
このような構成であれば、タービンハウジング2の内部と軸受部7との間と、軸受部7とタービンハウジング2の外部との間にそれぞれ圧力差を生じさせ、それぞれの圧力差を、タービンハウジングの内部と外部との圧力差より小さくすることができる。
さらに、タービンハウジング2の外部側において排ガスの流出通路を複雑にして、長くすることができる。
したがって、シャフト6と軸受部7との間隙から排ガスをより流出し難くすることができ、タービンロータ1に流入される前の比較的高い排ガスの流入圧が作用する場合であっても、流出する排ガス量を低減することができる。
【0045】
〔その他の実施形態〕
前記第1の実施形態及び第3の実施形態においては、内部側のワッシャ10を、排ガスの圧力とコイルバネ11とによって付勢する例を示したが、これに限らず、例えば軸受部7の内部側の側面にフックを設けてワッシャ10を係合させて付勢するように、第2の付勢手段を設けてもよい。これによれば、排ガスの圧力が低く、かつシャフト6の振動が大きい場合であっても、確実に内部側のワッシャ10を軸受部7の側面に密着させることができる。
【0046】
前記各実施形態においては、シャフト6を付勢する例を示したが、別に付勢しなくてもよい。
また、前記各実施形態においては、シール部材としてワッシャ10を使用した例を示したが、これに限られるものではない。
前記各実施形態においては、付勢手段としてコイルバネ11を使用した例を示したが、これに限られるものではなく、皿バネ等も使用できる。
【0047】
尚、本発明に係るターボチャージャの排ガスシール構造は、フローコントロールバルブ4に適用するものであるが、ウエストゲートバルブ5に適用しても同様の効果が得られる。ウエストゲートバルブ5では、フローコントロールバルブ4に比べて、雰囲気温度が低く、タービンハウジング2の外部との圧力差が小さいため、本発明に係る排ガスのシール構造によって排ガスの流出量を低減できることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第一の実施形態に係るターボチャージャの一部断面を示す全体略図
【図2】図1のA−A断面図
【図3】図2のB−B断面図
【図4】本発明の第二の実施形態に係る排ガスシール構造を示す断面図
【図5】本発明の第二の実施形態に係る排ガスシール構造における排ガスの通路形状を説明する図
【図6】本発明の第三の実施形態に係る排ガスシール構造を示す断面図
【符号の説明】
【0049】
1 タービンロータ
2 タービンハウジング
4 弁部材(フローコントロールバルブ)
5 弁部材(ウエストゲートバルブ)
6 軸部(シャフト)
7 軸受部
9 レバー
9a フランジ部
10 シール部材(ワッシャ)
11 付勢手段(コイルバネ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンロータと、
第1スクロール部と第2スクロール部とを備え前記タービンロータが配置される排ガス通路が形成されるタービンハウジングと、
前記タービンロータより上流側の前記排ガス通路に連通する空間に配置され、前記タービンハウジングの内部側と外部側とを連通する軸受部と、該軸受部に回動自在に挿通支持される軸部とを備え、前記軸部の回動により前記第1スクロール部及び前記第2スクロール部の連通を制御する弁部材と、を有し、
前記排ガス通路に排ガスを流入させると共に、前記弁部材により前記第1スクロール部及び前記第2スクロール部の連通を制御してタービン容量を可変とするターボチャージャにおいて、
前記軸受部の内径よりも小さな内径を有し、前記軸部と相対変位自在なシール部材を、前記タービンハウジングの内部側及び外部側の夫々において、前記軸部に挿通し、
前記外部側のシール部材を前記軸受部の側面に付勢する付勢手段を備えたターボチャージャの排ガスシール構造。
【請求項2】
タービンロータと、
第1スクロール部と第2スクロール部とを備え前記タービンロータが配置される排ガス通路が形成されるタービンハウジングと、
前記タービンロータより上流側の前記排ガス通路に連通する空間に配置され、前記タービンハウジングの内部側と外部側とを連通する軸受部と、該軸受部に回動自在に挿通支持される軸部とを備え、前記軸部の回動により前記第1スクロール部及び前記第2スクロール部の連通を制御する弁部材と、を有し、
前記排ガス通路に排ガスを流入させると共に、前記弁部材により前記第1スクロール部及び前記第2スクロール部の連通を制御してタービン容量を可変とするターボチャージャにおいて、
前記軸受部の内径よりも小さな内径を有し、前記軸部と相対変位自在なシール部材を、前記タービンハウジングの外部側において、前記軸部に複数挿通し、
該シール部材を前記軸受部の側面に付勢する付勢手段を備えたターボチャージャの排ガスシール構造。
【請求項3】
タービンロータと、
第1スクロール部と第2スクロール部とを備え前記タービンロータが配置される排ガス通路が形成されるタービンハウジングと、
前記タービンロータより上流側の前記排ガス通路に連通する空間に配置され、前記タービンハウジングの内部側と外部側とを連通する軸受部と、該軸受部に回動自在に挿通支持される軸部とを備え、前記軸部の回動により前記第1スクロール部及び前記第2スクロール部の連通を制御する弁部材と、を有し、
前記排ガス通路に排ガスを流入させると共に、前記弁部材により前記第1スクロール部及び前記第2スクロール部の連通を制御してタービン容量を可変とするターボチャージャにおいて、
前記軸受部の内径よりも小さな内径を有し、前記軸部と相対変位自在なシール部材を、前記タービンハウジングの内部側において前記軸部に少なくとも1つ挿通すると共に、前記タービンハウジングの外部側において前記軸部に複数挿通し、
前記外部側のシール部材を前記軸受部の側面に付勢する付勢手段を備えたターボチャージャの排ガスシール構造。
【請求項4】
前記付勢手段は、前記タービンハウジングの外部側において、前記軸部に外挿すると共に、前記軸部に設けたフランジ部と前記シール部材とに亘って配置したコイルバネである請求項1乃至3の何れか一項に記載のターボチャージャの排ガスシール構造。
【請求項5】
前記内部側のシール部材を前記軸受部の側面に付勢する第2の付勢手段を備えている請求項1、3、4の何れか一項に記載のターボチャージャの排ガスシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−291782(P2006−291782A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−111444(P2005−111444)
【出願日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】