説明

ターボ分子ポンプ

【課題】コスト上昇を抑えつつエレクトリカルランアウトを防止できるターボ分子ポンプの提供。
【解決手段】ターボ分子ポンプは、複数段の回転翼32が形成されたロータ30と、回転翼32に対して回転軸方向に交互に配置された複数段の固定翼22と、ロータ30が固定され、モータ36により回転駆動されるシャフト12と、シャフト12を磁気浮上させる磁気軸受37a,37b,38と、シャフト12の磁気浮上位置を検出する渦電流式ギャップセンサ27a,27b,28とを備え、ラジアルセンサ27a,27bの検出対象として非磁性金属から成るターゲット部材13,14と、スラストセンサ28の検出対象として非磁性金属で形成されたロータディスク15とが設けられている。なお、ターゲット部材13およびロータディスク15を、シャフト12に着脱可能に固定するようにしても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気軸受式のターボ分子ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
高速回転が要求されるターボ分子ポンプや工作機械などにおいては、磁気軸受装置が用いられることが多い。磁気軸受装置では、回転体とのギャップをギャップセンサで検出し、その検出結果を電磁石の励磁電流制御にフィードバックしている。例えば、5軸磁気軸受装置の場合には、軸方向に設けられた一対のラジアル磁気軸受とスラスト磁気軸受とにより回転軸が非接触支持され、磁気軸受のそれぞれにギャップセンサが設けられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ギャップセンサには一般的に渦電流式のセンサが用いられ、そのセンサは、センサコイルと、センサコイルに高周波電流を印加する高周波発振回路とで構成される。コイルに高周波電流を流すと高周波磁界が発生し、そのコイルが測定対象である金属材料(回転軸)に近づくと、電磁誘導作用により金属材料の表面に渦電流が発生し、この渦電流による損失のために発振振幅が減少する。発振振幅は距離が近いと小さくなり、距離が離れると大きくなるので、この発振振幅の変化により測定対象までのギャップを求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−344874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、測定対象が鋼材のような磁性材料である場合、残留磁気によって、真値以外の出カ(高調波成分のノイズ)を検出してしまうという問題が生じる。これはエレクトリカルランアウトと呼ばれる現象であり、上述した金属材料の残留磁気の他に、結晶構造の不均一や、軸表面の焼入硬度のバラツキ等によっても発生する。このようなエレクトリカルランアウトが発生すると、発生した真値以外の信号に対して制御回路が応答してしまうため、回転体に対して不必要な制御を実施することとなり、不安定な運転状態となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明によるターボ分子ポンプは、複数段の回転翼が形成されたロータと、回転翼に対して回転軸方向に交互に配置された複数段の固定翼と、ロータが固定され、モータにより回転駆動される回転軸と、回転軸を磁気浮上させる磁気軸受と、回転軸の磁気浮上位置を検出する渦電流式ギャップセンサと、渦電流式ギャップセンサの検出対象として回転軸に固定された非磁性金属部材と、を備えることを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載のターボ分子ポンプにおいて、非磁性金属部材は、回転軸に対して着脱可能に固定されていることを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項2に記載のターボ分子ポンプにおいて、渦電流式ギャップセンサは、回転軸のラジアル方向浮上位置を検出するラジアルセンサと、回転軸のスラスト方向浮上位置を検出するスラストセンサとを有し、非磁性金属部材は、スラストセンサの検出対象として設けられたスラスト用非磁性金属部材と、回転軸に締結されるロータと回転軸との間に挟持され、ラジアルセンサの検出対象として設けられたラジアル用非磁性金属部材と、を有することを特徴とする。
請求項4の発明は、請求項3に記載のターボ分子ポンプにおいて、スラスト用非磁性金属部材は、磁気軸受のスラスト磁気軸受用に回転軸に着脱可能に設けられたロータディスクの、少なくとも一部を非磁性金属で形成することにより構成され、スラストセンサを非磁性金属に対向して配置したことを特徴とする。
請求項5の発明は、請求項4に記載のターボ分子ポンプにおいて、ロータディスクの全体を非磁性金属で形成したことを特徴とする。
請求項6の発明は、請求項3に記載のターボ分子ポンプにおいて、スラストセンサは前記回転軸の端面に対向して配置され、スラスト用非磁性金属部材を、端面に着脱可能に設けたことを特徴とする。
請求項7の発明は、請求項1に記載のターボ分子ポンプにおいて、非磁性金属部材は焼きばめまたは圧入により回転軸に固定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、コスト上昇を抑えつつエレクトリカルランアウトを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】ターボ分子ポンプのポンプ本体1を示す図であり、(a)はポンプ本体1の断面図、(b)は上部ラジアルセンサ27aの配置を示す。
【図2】センサ信号の波形を説明する図であり、(a)は整流前のセンサ信号を示し、(b)は整流後のセンサ信号を示す。
【図3】エレクトリカルランアウトを説明する図であり、(a)は残留磁気による高周波成分のノイズを示し、(b)はエレクトリカルランアウトが有る場合のセンサ波形のFFT解析結果を示し、(c)はエレクトリカルランアウトが無い場合のセンサ波形のFFT解析結果を示す。
【図4】ターゲット部材の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明の実施するための一形態について説明する。図1はターボ分子ポンプのポンプ本体1を示す図であり、(a)はポンプ本体1の断面図、(b)は上部ラジアルセンサ27aの配置を示す。ターボ分子ポンプは、図1(a)に示すポンプ本体1と不図示のコントロールユニットとで構成される。
【0010】
ポンプ本体1のポンプケーシング21内には、複数段の回転翼32と円筒状のネジロータ31とが形成されたロータ30が設けられている。ロータ30は、モータ36によって回転駆動されるシャフト12にボルト締結されている。さらに、ポンプケーシング21内には、軸方向に対して回転翼32に対して交互に配置された複数段の固定翼22と、ネジロータ31の外周側に設けられたネジステータ24とが設けられている。各固定翼22は、スペーサリング23を介してベース20上に載置される。ポンプケーシング21をベース20に固定すると、積層されたスペーサリング23がベース20とポンプケーシング21との間に挟持され、固定翼22が位置決めされる。
【0011】
ベース20には排気ポート25が設けられ、この排気ポート25にバックポンプが接続される。ロータ30を磁気浮上させつつモータ36により高速回転駆動することにより、吸気口側の気体分子は排気ポート25側へと排気される。
【0012】
図1(a)に示したターボ分子ポンプは磁気浮上式のターボ分子ポンプであって、5軸制御の磁気軸受を構成するラジアル磁気軸受37a,37bおよびスラスト磁気軸受38を備えている。スラスト磁気軸受38は、シャフト12の下部にボルト固定されたロータディスク15を軸方向上下から挟むように配置されている。ここでは、ロータディスク15をボルト固定しているが、着脱可能な固定方法であれば、ボルト固定に限定されない。例えば、シャフト側にネジ部を形成し、ナットによりロータディスク15を固定しても良い。
【0013】
なお、磁気軸受が作動していない時にはメカニカルベアリング26,29によりロータ30は支持される。上部ラジアルセンサ27a、下部ラジアルセンサ27bおよびスラストセンサ28によりロータ30の浮上位置を検出し、その検出結果に基づいてロータ30を磁気軸受37a,37b,38により所定位置に非接触支持するように制御されている。図1(b)に示すように、上部ラジアルセンサ27aは、x軸方向およびy軸方向に一対ずつ設けられている。下部ラジアルセンサ27bについても同様である。
【0014】
センサ27a,27b,28には、前述したように高周波電流が印加されるコイルを備えたギャップセンサが用いられている。シャフト12のラジアルセンサ27a,27bが対向する位置には、非磁性金属で形成されたターゲット部材13,14が設けられている。また、スラストセンサ28が対向するロータディスク15も、非磁性金属で構成されている。
【0015】
前述したように、センサ27a,27b,28のセンサコイルに高周波電流を流すと、高周波交流磁界が発生する。この交流磁界が測定対象であるターゲット部材13,14やロータディスク15を貫くと、この磁界を打ち消すように渦電流が流れ、この渦電流による損失のために発振振幅が減少する。図2(a)の曲線L1はセンサ信号を示す図であり、例えば、上部ラジアルセンサ27aとターゲット部材13との距離(ギャップ)が変化すると振幅が変化する。ギャップが大きい場合には振幅が大きく、ギャップが小さくなると振幅も小さくなる。図2(a)に示すセンサ信号L1を整流回路により整流すると、図2(b)に示すような信号L2が得られる。
【0016】
しかしながら、ロータ位置を検出した際に、ランアウト(RUN−OUT)現象と呼ばれる真値以外の出力が表れることがある。ランアウトには、対象面の傷、凹凸、偏心等が原因で発生するメカニカルランアウトと、鋼材の残留磁気、結晶構造の不均一、軸表面の焼入硬度のバラツキ等が原因で発生するエレクトリカルランアウトとがある。メカニカルランアウトについては、対象面の修正研摩等によりほぼ防止することができる。本実施の形態は、後者のエレクトリカルランアウトの防止を目的としたもので、センサ27a,27b,28の検出対象であるターゲット部材13,14およびロータディスク15を非磁性金属で形成したことを特徴とする。
【0017】
従来、シャフト12の材料には、一般的にSUS304やS45C等の金属材料が用いられ、ロータディスク15についても同様の材料が用いられている。そのため、図3(a)の曲線L3に示すように、センサ出力波形に残留磁気による高周波成分のノイズが含まれるようになる。一方、曲線L4は、エレクトリカルランアウトが発生していない正常なセンサ信号波形を示している。
【0018】
図3(b)、(c)はセンサ波形のFFT解析結果を示したものである。図3(b)はエレクトリカルランアウトが発生している場合を示したもので、印加される高周波電流の周波数f0以外の周波数成分が発生していることが分かる。図3(a)に示すようなエレクトリカルランアウトが発生すると、真値以外の信号に対して磁気軸受制御回路が応答してしまうため、不安定な運転状態となってしまう。
【0019】
一方、本実施の形態では、上述したようにターゲット部材13,14およびロータディスク15を非磁性金属(例えば、銅やSUS316)で形成しているので、残留磁気を原因とするエレクトリカルランアウトの発生を防止することができる。
【0020】
なお、エレクトリカルランアウト対策として、表面の研磨、検出部への表面処理、シャフト全体を非磁性金属で形成するなどが可能であるが、非常にシビアな条件で研磨や表面処理を行う必要があり、コストアップが問題となる。非磁性金属を使用する場合でも、材料のばらつき(ミルシートに記載されている範囲でのばらつき)によってエレクトリカルランアウトが発生する可能性があるので、材料の各種成分の含有量をシビアに調整したもの使用する必要があり、材料が汎用品でなくなることにより高価となる。そのため、シャフト全体を非磁性金属で形成する方法は、コスト面で問題がある。一方、本実施の形態では、センサ27a,27b,28が対向する検出部分だけを非磁性金属とする構成としているので、シャフト部分には安価で入手しやすい材料を選定することが可能となり、コスト上昇を抑えることができる。
【0021】
上部ラジアルセンサ27aに対するターゲット部材13は、シャフト12の上端に被せるようなキャップ形状をしている。シャフト上端にターゲット部材13を外挿した後、ロータ30をシャフト12にボルト締結することで、ターゲット部材13がシャフト12に固定される。そのため、ターゲット部材13の交換が容易となる。ロータディスク15も、シャフト12にボルト締結等で固定される構造なので、ターゲット部材13の場合と同様に交換が容易である。
【0022】
また、下部ラジアルセンサ27bに対するターゲット部材14は、シャフト12にモータロータ等を組み付ける際に、同時にプレス圧入や焼きばめすることによりシャフト12に固定される構造となっているが、図4(a)に示すように、シャフト12にボルト固定するようにしても良い。図4(a)に示す例では、下部ラジアルセンサ27bをラジアル磁気軸受37bの下側に配置し、キャップ状のターゲット部材140を、ボルト16により固定するようにした。
【0023】
このように、センサの検出対象であるターゲット部材やロータディスクを容易に交換可能とすると、次のようなメリットがある。すなわち、組み立て工程やマテリアルハンドリングの際に、ターゲット部材13の外周面(検出面)に傷ついたり凹凸ができたりすると、その傷によりメカニカルランアウトが発生してしまう場合がある。しかしながら、上述したようにターゲット部材やロータディスクを交換可能に構成すると、それらを交換することで、そのようなメカニカルランアウトに対処することができ、従来のようにシャフト全体を廃棄しなくても済む。
【0024】
また、図4(a)に示すように、ロータディスク15全体を非磁性金属で形成する代わりに、ロータディスク15の下面側、すなわち、シャフト12の下端に、非磁性金属のターゲット部材150をボルト17のより固定しても良い。図4(a)のような構成とすることにより、全てのターゲット部材を容易に交換可能とすることができ、交換時の作業性も良い。
【0025】
なお、図1に示す例では、ロータディスク15の全体を非磁性金属で形成したが、図4(b)に示すように、スラストセンサ28が対向する領域のみを非磁性金属で形成するようにしても良い。図4(b)に示す例では、ロータディスク15に非磁性金属のターゲット部材151を圧入している。また、図1に示すターゲット部材13を、圧入や焼きばめによりシャフト12に固定しても良い。
【0026】
上述した各実施形態はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施形態での効果を単独あるいは相乗して奏することができるからである。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【符号の説明】
【0027】
1:ポンプ本体、12:シャフト、13,14,140,150,151:ターゲット部材、15:ロータディスク、27a:上部ラジアルセンサ、27b:下部ラジアルセンサ、28:スラストセンサ、30:ロータ、32:回転翼、36:モータ、37a,37b:ラジアル磁気軸受、38:スラスト磁気軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数段の回転翼が形成されたロータと、
前記回転翼に対して回転軸方向に交互に配置された複数段の固定翼と、
前記ロータが固定され、モータにより回転駆動される回転軸と、
前記回転軸を磁気浮上させる磁気軸受と、
前記回転軸の磁気浮上位置を検出する渦電流式ギャップセンサと、
前記渦電流式ギャップセンサの検出対象として前記回転軸に固定された非磁性金属部材と、を備えることを特徴とするターボ分子ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記非磁性金属部材は、前記回転軸に対して着脱可能に固定されていることを特徴とするターボ分子ポンプ。
【請求項3】
請求項2に記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記渦電流式ギャップセンサは、前記回転軸のラジアル方向浮上位置を検出するラジアルセンサと、前記回転軸のスラスト方向浮上位置を検出するスラストセンサとを有し、
前記非磁性金属部材は、前記スラストセンサの検出対象として設けられたスラスト用非磁性金属部材と、前記回転軸に締結される前記ロータと前記回転軸との間に挟持され、前記ラジアルセンサの検出対象として設けられたラジアル用非磁性金属部材と、を有することを特徴とするターボ分子ポンプ。
【請求項4】
請求項3に記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記スラスト用非磁性金属部材は、前記磁気軸受のスラスト磁気軸受用に前記回転軸に着脱可能に設けられたロータディスクの、少なくとも一部を非磁性金属で形成することにより構成され、
前記スラストセンサを前記非磁性金属に対向して配置したことを特徴とするターボ分子ポンプ。
【請求項5】
請求項4に記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記ロータディスクの全体を非磁性金属で形成したことを特徴とするターボ分子ポンプ。
【請求項6】
請求項3に記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記スラストセンサは前記回転軸の端面に対向して配置され、
前記スラスト用非磁性金属部材を、前記端面に着脱可能に設けたことを特徴とするターボ分子ポンプ。
【請求項7】
請求項1に記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記非磁性金属部材は焼きばめまたは圧入により前記回転軸に固定されていることを特徴とするターボ分子ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−144712(P2011−144712A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4226(P2010−4226)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】