説明

ダイコータとその洗浄方法

【課題】塗工幅の調整を行え、分解することなくダイ内部の洗浄を簡単且つ容易に行う。
【解決手段】ダイコータ1は、マニホールド8とスリット9と液溜め部10を有するダイ内部を備えている。ダイ内部の塗工幅方向両側に側板11、11を設けた。ダイ内部に一対の中子14を収容して液密に仕切ると共にダイ内部を摺動可能とした。中子14によって塗工液の塗工幅を設定する。マニホールド8内の中央に供給口19を、側板11,11に孔部20a、20bを設け、洗浄液を供給・排出することで中子14をダイ内部で往復移動させて洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工基材等の被塗布物に塗工液を塗布するためのダイコータとその洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ダイコータはフィルム等の塗工基材に粘着剤等の塗工液を塗布する場合、金型で仕切られたマニホールドに塗工液を供給してスリットを通して先端の塗布口から塗工基材に塗布する。また、別種のダイコータとしてスリットに連結してスリットよりも幅広の液溜め部(リップ部)を備えたものがあり(特許文献1参照)、液溜め部に設けた開口を塗布口として塗工基材に塗工液を塗布する。
ところで、上述したダイコータで塗布する塗工液を異種のもの、例えば塗工液Aから塗工液Bに交換して使用する場合、塗工液Aをダイコータ内部から排出し、内部を洗浄した後に塗工液Bを供給する必要がある。従来、ダイコータ内部の洗浄に際してはダイコータを形成する金型を分解して洗浄場で洗浄液を用いて洗浄し、その後に再度組み立てる必要があった。
しかしながら、このようなダイコータの解体、洗浄、再組み立てからなる洗浄作業は繁雑であり、手間がかかる欠点があった。しかも、塗工液の希釈液や洗浄液としてトルエンやアセトン等の有機溶剤を用いるために作業員の健康上取り扱いに注意を必要とし、好ましくなかった。
そのため、塗工液A、塗工液B等の専用のダイコータを個別に用意し、塗工液交換やそのための洗浄を行うことなく特定の塗工液用のダイコータを継続して専用のラインで使用することが行われている場合もあった。しかしながら、一種の塗工液についての塗布回数が少なく且つ複数の塗工液を使用する場合や、多数のダイコータや多数のラインをコスト上やスペース上の理由で用意できない場合等にはダイコータ内部を洗浄して塗工液を交換して使用せざるを得なかった。
【0003】
このような場合に、分解することなくダイコータ内部を洗浄して塗工液の交換を行えるようにした技術として、下記特許文献2、3に記載されたものが提案されている。
例えば特許文献2記載のダイコータは、左右のサイドプレートの間に金型でマニホールドとスリットからなるダイ内部を形成し、マニホールド内に移動可能な流路遮断治具を配置したダイコータを提案している。このダイコータは、塗工液交換に際してサイドプレートの流路遮断治具をゆっくり一方から他方に向けてマニホールド内を移動させながら、マニホールド内の塗工液Aを一方のバルブから排出し、他方のバルブから塗工液Bを供給して塗工液A,Bの入れ替えを行う。しかも、流路遮断治具をゆっくり移動させることでマニホールド内が負圧になるのを防止し、スリットに滞留していた塗工液Aは交換した塗工液Bによって塗工時に押し出されるとしている。
【0004】
また、特許文献3記載のダイコータは、マニホールドとスリットとを備え、マニホールドの中央に塗工液を供給及び排出する孔を設け、両側に洗浄液を交互に供給排出する孔を設けている。更にマニホールド内にはシール機能を有していて洗浄液の圧力で往復動する清掃手段を設けている。そして、塗工液を排出した後で両端の孔の一方から洗浄液をマニホールド内に供給して清掃手段を移動させ、他端に至ると他方の孔から洗浄液をマニホールド内に供給して清掃手段を逆方向に移動させる。清掃手段の往復動によってマニホールドとスリット内の洗浄を行うことになる。また、スリットには塗布幅を調整するために一対のシートが両側に装着されている。
また、スリットの塗布幅を調整する手段として特許文献4に記載されたものがあり、このダイコータはマニホールドとスリットの端部からデッケル付きのインナーシャフトを挿入し、その停止位置によってスリットの塗工幅を設定できるようになっている。
【特許文献1】特開2002−18339号公報
【特許文献2】特開平6−47334号公報
【特許文献3】特開平6−277599号公報
【特許文献4】特開平5−317778公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献2では、マニホールド内の塗工液Aを他の塗工液Bに交換でき得るが、スリット内に残存する塗工液Aは交換後の塗工液Bで押し出す際に、塗工液Bによる塗布の最初はA,Bの塗工液が混合したものが吐出することになるために、塗布に用いることができず、廃棄しなければならない欠点がある。しかも塗工液A,Bの交換時に塗工液A,Bの供給圧力と排出圧力のバランスが悪いと塗工液B内にスリット内の塗工液Aが混入するおそれがあり、圧力調整が精密でないとスムーズで無駄のない交換ができない欠点がある。
また特許文献3でも、清掃手段はマニホールド内にのみ配設されていて往復動するために、特許文献1と同様の欠点がある。
【0006】
更に、特許文献2のダイコータでは塗工幅を調整する構成は開示されておらず、例えば特許文献4記載のデッケル付きインナーシャフトをダイ内部に挿入すれば塗工幅の調整は可能であるが、流路遮断治具を取り外す必要がある。逆に洗浄時には塗工幅を調整するための手段は流路遮断治具のダイ内部走行の邪魔になるため取り外す必要がある。
これに対し、特許文献3では、塗工幅の調整に際してはスリット内に一対のシートを挿入するために、洗浄時において清掃手段がマニホールド内を走行する際に邪魔にはならないが、シートをスリット両側に配置することでダイ内部の空間が階段状になって塗布時にシートの背面側のマニホールド内に塗工液が滞留してしまい、容易に吐出されないために塗工液が新旧入り交じって塗工液品質が不均一になるおそれがある。
更に特許文献4では、塗工幅の調整時にデッケル付きのインナーシャフトによってマニホールドとスリットを同一幅に設定できる点で特許文献3の不具合は発生しないが、この構造では洗浄時にデッケル付きインナーシャフトが邪魔になるため取り外す必要があるという不具合が残ってしまう。
また、上述の特許文献2及び3では、マニホールド内にのみ流路遮断治具や清掃手段を装着して洗浄を行う構成であるため、スリットに液溜め部(リップ部)を接続してなるダイコータの洗浄はできないという不具合があった。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みて、塗布幅の調整を行えると共にダイ内部の洗浄を分解することなく簡単且つ容易に行えるようにしたダイコータ及びその洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるダイコータは、ダイ本体内にマニホールド及びスリットを有するダイ内部を備え、前記マニホールドからスリットを通して塗布口から塗工液を塗布するようにしたダイコータにおいて、ダイ内部のマニホールド及びスリットに収容されて液密に仕切ると共に該ダイ内部を摺動可能な中子を一対配設し、中子によって塗工液の塗工幅を設定すると共に、中子を往復移動させることでダイ内部を洗浄するようにしたことを特徴とする。
本発明によれば、ダイコータのダイ内部における塗工液の塗工幅を調整する場合、中子をダイ内部で移動させて一対の中子の間隔で塗工幅を任意に設定でき、その際、中子はダイ内部でマニホールドとスリットを液密に仕切って位置決めされるため、ダイ内部に供給される塗工液が滞留することなく順次塗布口から塗布される。しかも、洗浄に際しては、ダイ内部に洗浄液を供給すると共に中子をダイ内部で往復摺動させることで、分解することなく洗浄を行えると共に塗工幅設定手段である中子が洗浄の邪魔にならない。
【0009】
本発明によるダイコータの洗浄方法は、ダイ本体内にマニホールド及びスリットを有するダイ内部を備え、該ダイ内部の塗工幅方向の両側にはダイ内部を仕切る側部が設けられており、前記マニホールドからスリットを通して塗布口から塗工液を塗布するようにしたダイコータにおいて、ダイ内部に収容されて液密に仕切ると共に該ダイ内部を摺動可能な中子を一対配設し、塗工時には中子によって塗工液の塗工幅を予め設定し、洗浄時にはマニホールド内で中子と側部との間または二つの中子の間に洗浄液を供給して中子を往復摺動させることで、ダイ内部を洗浄するようにしたことを特徴とする。
ダイ内部において洗浄液の供給及び排出と中子の往復移動とを関連して制御することで、ダイ内部の洗浄を確実に行える。しかも、中子によって塗工幅を設定できるから、洗浄と塗工幅の設定を簡単且つ容易に行える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるダイコータは、中子に塗工幅設定手段と洗浄手段とを兼用させたから、ダイ内部に供給される塗工液が滞留して品質の変化を来すことなく順次塗布口から塗布できる。しかも、洗浄に際しては、中子を往復摺動させるために分解することなく洗浄を行えると共に洗浄の邪魔にならない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のダイコータとその洗浄方法は、ダイ内部に、スリットに連結されていて該スリットよりも幅広で塗布口を有する液溜め部が設けられており、中子は液溜め部も液密に仕切るように形成されていることが好ましい。
中子を往復移動させることで液溜め部も洗浄することができ、確実に洗浄と塗工幅の調整を行える。
なお、中子は金属板等の剛性部材に軟質部材を組み合わせ、軟質部材が剛性部材よりも全周に亘って外側に突出して形成されていることが好ましく、この構成によってダイ内部を液密に仕切ると共にダイ内部の内壁を摺動して洗浄と塗工幅の調整を行う。
また、ダイ本体の塗工幅方向の両側にはダイ内部を塞ぐ側部が設けられており、該側板にはダイ内部に洗浄液を出し入れする孔部が形成され、且つダイ本体の略中央部にはマニホールド内に塗工液を供給すると共に洗浄液を出し入れ可能な供給口が設けられていて、ダイ内部の洗浄時には、中子の位置に応じて中子と側部との間または二つの中子の間に洗浄液を供給して、中子の移動によってダイ内部を洗浄するようにしてもよい。
ダイ内部において一方の空間では洗浄液の供給に合わせて中子を摺動させ、他方の空間では洗浄液の排出を行うことで、ダイ内部の洗浄を行うことができる。
【実施例】
【0012】
以下、本発明の実施例によるダイコータを図1乃至図7により説明する。図1は第一実施例によるダイコータの塗布状態と洗浄状態を示す側面図、図2はダイコータの分解斜視図、図3(a)、(b)は中子の構成を示す図、図4乃至図7(a)、(b)はダイコータの塗布工程と洗浄工程を示す塗工幅方向とこれに直交する方向の略縦断面図である。
図1に示す実施例によるダイコータ1は例えば両面テープなどのフィルムからなる塗工基材fに塗工液として例えば合成樹脂からなる粘着剤を薄膜塗工するものである。塗工に際して、ダイコータ1の塗布口2をバックロール3の外周面3aに対向させ、バックロール3の外周面3aにガイドされて走行する塗工基材fを介して外周面3aに塗布口2を当接または近接させた状態で塗工液を塗布する。塗布に際してバックロール3を回転させて塗工基材fを走行させながらダイコータ1の塗布口2から薄膜状に塗工剤を塗布する。
また、後述するダイコータ1内の洗浄に際してはバックロール3の外周面3aにPETフィルム等の閉塞フィルムF(閉鎖部材)を当接させ、この閉塞フィルムFにダイコータ1の塗布口2を密着させて閉鎖させた状態で行う。
【0013】
次に、ダイコータ1の構成を図1及び図2により説明する。図2において、ダイコータ1のダイ本体5(金型)は固定部6と背面部7を接合することで、両部6,7間にマニホールド8とスリット9と液溜め部10からなる空間が互いに連通して形成され、これらの空間は塗工液を収容するダイ内部1aを構成する。そしてその塗工幅方向の両側には一対の側板11,11(側部)がねじ止め等で固定部6と背面部7の両端面に固着され、ダイ内部1aを封止する。ここで、マニホールド8とスリット9と液溜め部10について、両側板11、11間方向の長さを塗工幅といい、塗工幅に直交する各空間の長さを空間幅という。
また、マニホールド8は例えば断面略半円形または半四角形等の筒状に形成され、スリット9はマニホールド8よりも空間幅が微少な間隙を形成し、液溜め部10ではスリット9よりも空間幅が大きくマニホールド8とは反対側の端部が外部に開口した塗布口2を形成している。液溜め部10の塗布口2は固定部6の断面略凸曲面形状の先端部6aと、背面部7の先端部7aとが対向して形成されている。背面部7の先端部7aには入り口プレート12が設けられ、入り口プレート12は塗布口2から離間するに従って次第に下方に向けて傾斜する板状に形成されている。
【0014】
そして、ダイコータ1のダイ内部1aには、マニホールド8とスリット9と液溜め部10の縦断面形状を有する一対の中子(サイドダム)14、14が液密に装着され、ダイ内部1aを塗工幅方向に移動可能とされている。中子14の先端面14aは塗布口2近傍に位置し、固定部6の先端部6aと背面部7の先端部7aと同一または若干低い高さとされている。
中子14は、図1及び図3に示すようにマニホールド8とスリット9と液溜め部10の断面形状に沿う一対の金属板15、15(剛性部材)と、これら金属板15,15間に挟まれた耐溶剤性の弾性体16(軟質部材)とでサンドイッチ構造に形成されている。弾性体16は、例えば板状の発泡ポリウレタン、発泡ポリエチレンやフッ素樹脂等の合成樹脂部材や軟質ゴムまたは軟質ウレタン等のゴム部材等からなることが好ましい。
そして、金属板15はダイ内部1aの空間幅方向の縦断面形状より若干小さい外形寸法とされ、弾性体16はダイ内部1aの空間幅方向の縦断面形状より全周で若干大きい外形寸法とされている。そのため、金属板15で剛性を確保し、弾性体16で移動可能な液密性を確保している。
なお、中子14は、上記構成に代えて、1の金属板15の外周面の全周に亘って上記弾性体16をライニング、溶着または焼き付け等で囲うことで一体化して構成してもよい。
それぞれの中子14は幅決め用のシャフト17に連結され、このシャフト17は側板11に設けた孔部11aを液密に貫通して外部に突出し、進退可能とされている。そのため、シャフト17は中子14のダイ内部1aでのスムーズな移動をガイドする。シャフト17は手動や機械的手段、モータ等の電動手段、油圧手段等を用いて操作して中子14を往復摺動できる。
【0015】
また、背面部7(固定部6でもよい)の塗工幅方向の中央には塗工液の供給口19が穿孔され、この供給口19を介して塗工液を供給及び排出し、また供給口19を通して洗浄液を供給及び排出することができる。更に両側の側板11、11には洗浄剤の圧入口20a、20bがそれぞれ穿孔されていて、圧入口20a、20bから洗浄剤がダイコータ1のダイ内部1a内に圧入され、排出させられることになる。
なお、圧入口20a、20bは、中子14が摺動可能で有れば背面部7または固定部6の両端に穿孔してもよい。そのために、マニホールド8内の両端近傍に中子14のストッパを設けてもよい。
また、スリットの空間幅(スリット幅)は好ましくは1〜6mm、更に好ましくは2〜4mm程度とし、これによって供給口19からダイ内部1a内に供給される塗工液の脈動を防止できる。
そして、ダイコータ1による塗工に際して、中子14、14をシャフト17を操作してダイ内部1a内で摺動させて、その間隔を設定して塗工幅を決定することができる。また、ダイ内部1aの洗浄に際して、側板11、11の圧入口20a,20bから洗浄液を圧入することで、中子14,14を押動して中子14,14が互いに当接するまでダイ内部1a内を移動させることができる。また、供給口19から洗浄液を圧入することで、中子14,14を側板11,11に当接するまで摺動させ、洗浄液を圧入口20a、20bから排出することができる。
【0016】
次に塗工液と洗浄液の循環路について図4により説明する。図4において、塗工液は塗工液ポンプP1を介して主流路22を流れて供給口19からダイコータ1のダイ内部1aに供給でき、主流路22内には、切り換えバルブV1、開閉バルブV2、排出バルブV5が設けられている。また、洗浄剤ポンプP2につながる第一洗浄流路23は切り換えバルブV1で主流路22に連通する。第二洗浄流路24は一端が開閉バルブV3を介して切り換えバルブV1と開閉バルブV2との間で主流路22に連通し、他端は圧入口20aに接続される。第三洗浄流路25は一端が開閉バルブV4を介して切り換えバルブV1と開閉バルブV2との間で主流路22に連通し、他端は圧入口20bに接続される。第二、第三洗浄流路24,25は圧入口20a、20b近傍でそれぞれ分岐されて洗浄液排出バルブV6、V7を介して洗浄液排出路に接続されている。
なお、洗浄液は塗工液の溶剤、例えばアセトン、トルエン、酢酸エチル等を用いることが好ましい。洗浄終了後にダイ内部1aに洗浄液が若干残っていると新たな塗工液と混合することになるが、溶剤系の洗浄液であれば塗工液の品質を劣化させたり変質させることはない。
【0017】
本実施の形態によるダイコータ1は上述の構成を有しており、その塗布方法と洗浄方法を図4乃至図7を中心に説明する。
先ず、塗工液の塗工時には、図4に示すように、シャフト17,17を操作してダイコータ1のダイ内部1a内で中子14,14を摺動して塗布口2による塗工幅を中子14,14間の間隔で設定し、各シャフト17を固定する。この状態で各中子14は固定部6及び背面部7の内面と液密に接触して、その外側に塗工液が漏れ出ないため、塗工幅を精密に設定できる。しかも、中子14はマニホールド8,スリット9,液溜め部10に亘って同一の塗工幅に設定している。
そして、切り換えバルブV1を主流路22に連通し、開閉バルブV2を開にして、塗工液ポンプP1を作動して塗工液を供給口19からダイコータ1のマニホールド8内に供給する。すると、マニホールド8内の塗工液は順次供給される塗工液に押し出されてスリット9及び液溜め部10内へ送り込まれる。
そして、バックアップロール3を回転させてその外周面3a上に塗工基材fを走行させ、ダイコータ1の塗布口2を外周面3aに僅かな距離を開けて対向させ、塗工基材fに液溜め部10内の塗工液を薄膜状に塗布する。このとき、固定部6の凸曲面状をなす先端部6aはバックアップロール3の外周面3aとの関係で薄膜の塗工精度と塗工プロファイルを決定する。
【0018】
次に塗工液を別の塗工液に交換する場合、前の塗工液を排出してダイ内部1aを洗浄する。洗浄工程では、各中子14のシャフト17をフリー状態にする。図1及び図5に示すように、閉塞フィルムFをバックアップロール3の外周面3a上に張り出し、ダイコータ1を外周面3a側に移動させて塗布口2を外周面3aとの間に位置する閉塞フィルムFで閉鎖する。次に主流路22の開閉バルブV2を閉にすると共に塗工液排出用の排出バルブV5を開とし、塗工液を供給口19を通して排出可能にする。また、切り換えバルブV1を洗浄液ポンプP2側に連通し、開閉バルブV3、V4を開にする。
そして、洗浄液を、洗浄液ポンプP2から第二、第三洗浄液流路24、25を介して両側板11、11の圧入口20a、20bからマニホールド8内に供給する。すると、各中子14は洗浄液の液圧に押動されて他方の中子14方向に移動し、ダイ内面1aを摺動しながら内壁を洗浄する。中子14、14で押動された塗工液は供給口19から排出される。中子14、14が互いに当接してマニホールド8内の塗工液が排出され終わったら、一旦ポンプP2を停止する。
次に図6に示すように、排出バルブV5、開閉バルブV3、V4を閉、開閉バルブV2を開、第二、第三洗浄液流路24,25から分岐された流路の洗浄液排出バルブV6、V7を開にする。洗浄液ポンプP2を再び駆動し、洗浄液を主流路22を通して供給口19から予め若干離間させた中子14,14間のマニホールド8内中央部に供給する。すると、各中子14,14は洗浄液の圧力によって側板11、11方向に押動され、ダイ内部1aの内壁を摺動しながら洗浄する。これと同時にダイ内部1a両側の洗浄液はそれぞれ中子14、14によって外側に押動され、側板11,11の圧入口20a、20bから外部に排出される。
【0019】
上述した中子14、14をダイ内部1a内で塗工幅の方向に往復摺動させて洗浄液を出し入れする作業を1〜複数回繰り返すことで、ダイ内部1aの洗浄を完了できる。そして、ダイコータ1をバックアップロール3から離間させ、閉塞フィルムFを塗布口2から取り外し、先端部6a,7aを洗浄する。
洗浄後に別個の塗工液をダイコータ1のダイ内部1aに供給することで新たな塗工を行える。
【0020】
上述のように本実施例によるダイコータ1とその洗浄方法によれば、ダイコータ1を分解することなくダイ内部1aの洗浄を行える。洗浄の際、中子14はマニホールド8だけでなくスリット9及び液溜め部10内にも液密に摺動可能に配設されて往復摺動して洗浄作業を行うため、洗浄に際して異種の塗工液が混合するおそれがなく、確実に洗浄できる。しかもダイ内部1aの洗浄に用いる中子14は塗工幅の調整部材として兼用することができ、マニホールド8からスリット9及び液溜め部10まで同一幅(塗工幅)に設定されるため、マニホールド8内等に塗工液が一部滞留して塗工液が劣化することもなく供給圧力によって確実に順次押し出されて塗工に用いられる。しかも塗工幅の設定と洗浄に際して中子14を用いて簡単且つ容易にこれらの作業を行える。
【0021】
また、上述の実施例では、ダイコータ1の洗浄時に閉塞フィルムFで塗布口2を閉鎖するようにしたが、これに代えてシート状のゴム板等のパッキン部材27(閉鎖部材)をバックアップロール3の外周面3aに接触させて閉鎖するようにしてもよい(図8参照)。
また、上述の実施例では、ダイコータ1のダイ内部1aをマニホールド8とスリット9と液溜め部10とで構成したが、本発明はこのような構成に限定されることなく、例えば図8に示すように液溜め部10を設けない構成であってもよい。この場合、ダイ内部1aはマニホールド8とスリット9とで構成され、スリット9のバックアップロール3に対向する開口を塗布口2とする。この場合には、中子14もマニホールド8とスリット9からなる空間幅方向の縦断面形状に形成され、液溜め部10に嵌合する部分は設けない形状となる。
なお、上述の実施例における洗浄作業では、各中子14の移動範囲はダイコータ1のダイ内部1aの塗工幅方向の中央までとしたが、これに代えてダイ内部1aの中央を越えて摺動可能としてもよい。これによって洗浄しにくいダイ内部1aの中央部分についても摺動による洗浄を行える。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例によるダイコータを用いた塗布状態と塗布口を閉鎖した状態を示す図である。
【図2】実施例によるダイコータの分解斜視図である。
【図3】中子の構成を示す図であり、(a)は側面図、(b)は正面図である。
【図4】ダイコータの塗布状態を示す図であり、(a)はバックアップロールとの関係を示す塗工幅に直交する方向の縦断面図、(b)はダイコータの塗工幅方向の概略縦断面図である。
【図5】ダイコータの洗浄状態であって、中子の間隔を狭める方向に移動させる状態を示す図4(a)、(b)と同様な図である。
【図6】ダイコータの洗浄状態であって、中子の間隔を広げる方向に移動させる状態を示す図4(a)、(b)と同様な図である。
【図7】ダイコータの洗浄状態であって、中子の間隔を狭める方向に移動させる状態を示す図4(a)、(b)と同様な図である。
【図8】変形例によるダイコータを示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 ダイコータ
2 塗布口
8 マニホールド
9 スリット
10 液溜め部
11 側板(側部)
14 中子
15 金属板(剛性部材)
16 弾性体(軟質部材)
19 供給口
20a、20b 圧入口(孔部)
f 塗工基材
F 閉塞フィルム(閉鎖部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイ本体内にマニホールド及びスリットを有するダイ内部を備え、前記マニホールドからスリットを通して塗布口から塗工液を塗布するようにしたダイコータにおいて、
前記ダイ内部のマニホールド及びスリットに収容されて液密に仕切ると共に該ダイ内部を摺動可能な中子を一対配設し、
前記中子によって塗工液の塗工幅を設定すると共に、前記中子を往復移動させることで前記ダイ内部を洗浄するようにしたことを特徴とするダイコータ。
【請求項2】
前記ダイ内部には、前記スリットに連結されていて該スリットよりも幅広で前記塗布口を有する液溜め部が設けられており、前記中子は液溜め部も液密に仕切るように形成されている請求項1に記載のダイコータ。
【請求項3】
前記ダイ本体の塗工幅方向の両側にはダイ内部を塞ぐ側部が設けられており、
該側板にはダイ内部に洗浄液を出し入れする孔部が形成され、且つ前記ダイ本体の略中央部にはマニホールド内に塗工液を供給すると共に洗浄液を出し入れ可能な供給口が設けられていて、
前記ダイ内部の洗浄時には、前記中子の位置に応じて前記中子と側部との間または二つの前記中子の間に洗浄液を供給して、前記中子の移動によってダイ内部を洗浄するようにした請求項1または2に記載のダイコータ。
【請求項4】
ダイ本体内にマニホールド及びスリットを有するダイ内部を備え、該ダイ内部の塗工幅方向の両側にはダイ内部を仕切る側部が設けられており、前記マニホールドからスリットを通して塗布口から塗工液を塗布するようにしたダイコータにおいて、
前記ダイ内部に収容されて液密に仕切ると共に該ダイ内部を摺動可能な中子を一対配設し、
塗工時には、前記中子によって塗工液の塗工幅を予め設定し、
洗浄時には、前記マニホールド内で前記中子と側部との間または二つの前記中子の間に洗浄液を供給して、前記中子を往復摺動させることでダイ内部を洗浄するようにしたことを特徴とするダイコータの洗浄方法。
【請求項5】
前記ダイ内部には、前記スリットに連結されていて該スリットよりも幅広で前記塗布口を有する液溜め部が設けられ、前記中子は液溜め部も液密に仕切っていて、
前記中子を往復移動させることで液溜め部も洗浄するようにした請求項4に記載のダイコータの洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−775(P2006−775A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−181154(P2004−181154)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】