説明

チャンバの内部状況推定方法及び記憶媒体

【課題】チャンバの内部から排出されるパーティクルの数を用いてチャンバの内部状況を正確に推定することができるチャンバの内部状況推定方法を提供する。
【解決手段】基板処理装置10においてNPPCシーケンスを実行した際の全排出パーティクル数の時系列データからガス衝撃力モード、ガス粘性力モード及び静電気力モードに対応した特性値(閾値越え開始点、閾値越え終了点、閾値越え積算時間及び閾値越え回数)が抽出され、該特性値とウエハ上パーティクルの数の相関関係(感度、ばらつき)が算出され、さらに、算出された相関関係及び新たな時系列データにおける特性値に基づいてウエハ上パーティクルの数が推定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャンバの内部状況推定方法及び記憶媒体に関し、特に、ウエハを収容して該ウエハに所定の処理を施すャンバの内部状況推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板としてのウエハを収容して該ウエハに所定の処理、例えば、プラズマ処理を施すチャンバを備える基板処理装置が知られている。この基板処理装置では、所定の処理を繰り返し実行すると、例えば、プラズマ処理に起因して生じたパーティクルがチャンバの内部の構成部品の表面に付着する。これらのパーティクルはウエハから製造される半導体デバイスの不具合の原因となるため定期的に除去する必要がある。
【0003】
従来、チャンバの内部からパーティクルを除去する方法として、ドライクリーニングが多用されている。該ドライクリーニングでは酸素ガスから生じたプラズマを用いて構成部品の表面をスパッタする等してパーティクルを除去している。ところで、ドライクリーニングではパーティクルを完全に除去することが困難であり、且つプラズマを発生させる必要があり手間がかかることから、近年、プラズマを用いない方法として、NPPC(Non Plasma Particle Cleaning)シーケンスが用いられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
NPPCシーケンスでは、ガス衝撃力、ガス粘性力及び静電気力を用いて構成部品からパーティクルを剥離させるとともにチャンバから排出する。NPPCシーケンスは、通常、ガス衝撃力を生じさせるためにチャンバの内部に急激に所定のガス、例えば、Nガスを導入するガス衝撃力モードと、チャンバの内部を所定の圧力に制御することによって導入されたNガスからガス粘性力を生じさせるガス粘性力モードと、構成部品に直流電圧を印加することによってパーティクル及び構成部品の間に静電気力を生じさせる静電気力モードとからなる。
【0005】
ドライクリーニングやNPPCシーケンスによってチャンバの内部からパーティクルを除去する場合、チャンバの内部状況、例えば、チャンバ内からどの程度パーティクルが除去されたのかを把握する必要があるために、チャンバから排出されたパーティクル(以下、「排出パーティクル」という。)の数をカウントしている。具体的には、チャンバに連通する排気管に、散乱光を用いてパーティクルを検出するISPM(In-Situ Particle Monitor)を設け、該排気管内を流れるパーティクルの数をカウントしており、例えば、ISPMによってカウントされたパーティクルの数が0となれば、チャンバの内部からパーティクルがほとんど除去されたと推定している。
【0006】
また、チャンバの内部で問題や或る特定の事象が発生すると、NPPCシーケンスの各モードは互いに異なる影響を受ける(具体的には各モードで除去されるパーティクルの数が変わる)ため、モード毎に除去される排出パーティクルの数を把握することは、チャンバの内部状況を推定するために非常に有効な手段と考えられている。
【特許文献1】特開2005−317900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ISPMによってカウントされた排出パーティクルの数には、各モードで除去されたパーティクルの数が重畳されているため、モード毎に排出パーティクルの数を個別に把握するのは困難である。すなわち、NPPCシーケンスを実行する際にISPMによってカウントされた排出パーティクルの数そのものはチャンバの内部で発生した問題を正確に反映していないことがある。
【0008】
例えば、本発明者が本発明に先行して行った実験では、NPPCシーケンスを実行する際にISPMによってカウントされた排出パーティクルの数と、チャンバの内部に収容されたウエハの表面に付着したパーティクルの数との相関係数は0.0448と非常に低かった。
【0009】
したがって、ISPMによってカウントされた排出パーティクルの数をそのまま用いてもチャンバの内部状況を正確に推定するのは困難である。
【0010】
本発明の目的は、チャンバの内部から排出されるパーティクルの数を用いてチャンバの内部状況を正確に推定することができるチャンバの内部状況推定方法及び記憶媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1記載のチャンバの内部状況推定方法は、基板を収容して該基板に所定の処理を施すチャンバであって、複数のパーティクル除去モードからなるパーティクル除去シーケンスが適用されるチャンバの内部状況を推定するチャンバの内部状況推定方法であって、前記チャンバの内部から排出されるパーティクルの数の時系列データから各前記パーティクル除去モードに対応した特性値を抽出し、且つ該抽出された特性値と前記チャンバの内部状況の関係を算出する関係算出ステップと、前記算出された関係及び新たなパーティクルの数の時系列データにおける前記特性値に基づいて前記チャンバの内部状況を推定する内部状況推定ステップとを有することを特徴とする。
【0012】
請求項2記載のチャンバの内部状況推定方法は、請求項1記載のチャンバの内部状況推定方法において、前記チャンバの内部状況は前記基板の表面に付着したパーティクルの数であることを特徴とする。
【0013】
請求項3記載のチャンバの内部状況推定方法は、請求項1又は2記載のチャンバの内部状況推定方法において、前記複数のパーティクル除去モードはガス衝撃力を利用するモード、ガス粘性力を利用するモード、静電気力を利用するモードを含み、前記特性値は、所定の閾値を前記時系列データが越えた回数、前記時系列データが前記所定の閾値を最初に越えた時間、前記時系列データが前記所定の閾値を最後に下回った時間、及び前記時系列データが前記所定の閾値を越えていた積算時間であることを特徴とする。
【0014】
請求項4記載のチャンバの内部状況推定方法は、請求項3記載のチャンバの内部状況推定方法において、前記所定の閾値が複数設定されることを特徴とする。
【0015】
請求項5記載のチャンバの内部状況推定方法は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のチャンバの内部状況推定方法において、前記関係算出ステップでは、各前記特性値と前記チャンバの内部状況の関係におけるばらつきを算出し、前記内部状況推定ステップでは、前記算出されたばらつきが大きいほど、前記関係及び前記新たなパーティクルの数の時系列データにおける前記特性値に基づいて推定された前記チャンバの内部状況を低く評価することを特徴とする。
【0016】
上記目的を達成するために、請求項6記載のチャンバの内部状況推定方法は、基板を収容して該基板に所定の処理を施すチャンバであって、複数のパーティクル除去モードからなるパーティクル除去シーケンスが適用されるチャンバの内部状況を推定するチャンバの内部状況推定方法であって、前記チャンバの内部から排出されるパーティクルの数の時系列データから各前記パーティクル除去モードに対応した特性値を抽出し、さらに、複数の前記チャンバの内部状況に関して前記チャンバの内部状況毎に予め前記特性値の群を作成する特性値群作成ステップと、前記作成された前記特性値の群及び新たなパーティクルの数の時系列データにおける前記特性値の整合度に基づいてチャンバの内部状況を推定する内部状況推定ステップとを有することを特徴とする。
【0017】
請求項7記載のチャンバの内部状況推定方法は、請求項6記載のチャンバの内部状況推定方法において、前記複数の前記チャンバの内部状況は、正常な状況、突発的に前記パーティクルが発生した状況、及び前記チャンバのメンテナンスが必要な状況であることを特徴とする。
【0018】
請求項8記載のチャンバの内部状況推定方法は、請求項6又は7記載のチャンバの内部状況推定方法において、前記複数のパーティクル除去モードはガス衝撃力を利用するモード、ガス粘性力を利用するモード、静電気力を利用するモードを含み、前記特性値は、所定の閾値を前記時系列データが越えた回数、前記時系列データが前記所定の閾値を最初に越えた時間、前記時系列データが前記所定の閾値を最後に下回った時間、及び前記時系列データが前記所定の閾値を越えていた積算時間であることを特徴とする。
【0019】
請求項9記載のチャンバの内部状況推定方法は、請求項8記載のチャンバの内部状況推定方法において、前記所定の閾値が複数設定されることを特徴とする。
【0020】
請求項10記載のチャンバの内部状況推定方法は、請求項6乃至9のいずれか1項に記載のチャンバの内部状況推定方法において、前記整合度は、前記作成された前記特性値の群、及び前記新たなパーティクルの数の時系列データにおける前記特性値の多次元的な距離であることを特徴とする。
【0021】
請求項11記載のチャンバの内部状況推定方法は、請求項6乃至10のいずれか1項に記載のチャンバの内部状況推定方法において、前記内部状況推定ステップでは、前記整合度に基づいたチャンバの内部状況の推定がMT法を用いて実行されることを特徴とする。
【0022】
上記目的を達成するために、請求項12記載の記憶媒体は、基板を収容して該基板に所定の処理を施すチャンバであって、複数のパーティクル除去モードからなるパーティクル除去シーケンスが適用されるチャンバの内部状況を推定するチャンバの内部状況推定方法をコンピュータに実行させるプログラムを格納するコンピュータで読み取り可能な記憶媒体であって、前記内部状況推定方法は、前記チャンバの内部から排出されるパーティクルの数の時系列データから各前記パーティクル除去モードに対応した特性値を抽出し、且つ該抽出された特性値と前記チャンバの内部状況の関係を算出する関係算出ステップと、前記算出された関係及び新たなパーティクルの数の時系列データにおける前記特性値に基づいて前記チャンバの内部状況を推定する内部状況推定ステップとを有することを特徴とする。
【0023】
上記目的を達成するために、請求項13記載の記憶媒体は、基板を収容して該基板に所定の処理を施すチャンバであって、複数のパーティクル除去モードからなるパーティクル除去シーケンスが適用されるチャンバの内部状況を推定するチャンバの内部状況推定方法をコンピュータに実行させるプログラムを格納するコンピュータで読み取り可能な記憶媒体であって、前記内部状況推定方法は、前記チャンバの内部から排出されるパーティクルの数の時系列データから各前記パーティクル除去モードに対応した特性値を抽出し、さらに、複数の前記チャンバの内部状況に関して前記チャンバの内部状況毎に予め前記特性値の群を作成する特性値群作成ステップと、前記作成された前記特性値の群及び新たなパーティクルの数の時系列データにおける前記特性値の整合度に基づいてチャンバの内部状況を推定する内部状況推定ステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
請求項1記載のチャンバの内部状況推定方法及び請求項12記載の記憶媒体によれば、チャンバの内部から排出されるパーティクルの数の時系列データから各パーティクル除去モードに対応した特性値が抽出され、該抽出された特性値とチャンバの内部状況の関係が算出され、さらに、算出された関係及び新たなパーティクルの数の時系列データにおける特性値に基づいてチャンバの内部状況が推定される。各パーティクル除去モードに対応した特性値には該当するモードの特徴が顕著に表れるので、チャンバの内部状況の推定は各モードの特徴が顕著に表れる特性値を用いて行われることになる。これにより、内部状況の推定から各モードで除去されたパーティクルの数の重畳の影響を低減できることができ、もって、チャンバの内部から排出されるパーティクルの数を用いてチャンバの内部状況を正確に推定することができる。
【0025】
請求項2記載のチャンバの内部状況推定方法によれば、チャンバの内部から排出されるパーティクルの数を用いて基板の表面に付着したパーティクルの数を正確に推定することができる。
【0026】
請求項3記載のチャンバの内部状況推定方法によれば、複数のパーティクル除去モードはガス衝撃力を利用するモード、ガス粘性力を利用するモード、静電気力を利用するモードを含み、特性値は、所定の閾値を時系列データが越えた回数、時系列データが所定の閾値を最初に越えた時間、時系列データが所定の閾値を最後に下回った時間、及び時系列データが所定の閾値を越えていた積算時間である。ガス衝撃力を利用するモードでは、初期に多量のパーティクルが排出され、ガス粘性力を利用するモードでは、比較的長時間に亘り且つ連続してパーティクルが排出され、静電気力を利用するモードでは、比較的長時間に亘り且つ断続的にパーティクルが排出されるので、ガス衝撃力を利用するモードは、特に、時系列データが所定の閾値を最初に越えた時間に関連し、ガス粘性力を利用するモードは、特に、時系列データが所定の閾値を最初に越えた時間、時系列データが所定の閾値を最後に下回った時間、及び時系列データが所定の閾値を越えていた積算時間に関連し、静電気力を利用するモードは、特に、時系列データが所定の閾値を最初に越えた時間、時系列データが所定の閾値を最後に下回った時間、及び所定の閾値を時系列データが越えた回数に関連する。したがって、これらの特性値を用いることによって内部状況の推定から各モードで除去されたパーティクルの数の重畳の影響を確実に取り除くことができる。
【0027】
請求項4記載のチャンバの内部状況推定方法によれば、所定の閾値が複数設定されるので、内部状況の推定に用いる特性値の種類を増やすことができ、もって、該推定の統計的信頼性を向上することができる。
【0028】
請求項5記載のチャンバの内部状況推定方法によれば、算出されたばらつきが大きいほど、各特性値とチャンバの内部状況の関係と新たなパーティクルの数の時系列データにおける特性値に基づいて推定されたチャンバの内部状況が低く評価されるので、チャンバの内部状況との相関が低い特性値に基づいて推定された内部状況が低く評価される。これにより、内部状況の推定をチャンバの内部状況との相関が高い特性値を優先的に用いて行うことになり、もって、該推定の精度を向上することができる。
【0029】
請求項6記載のチャンバの内部状況推定方法及び請求項13記載の記憶媒体よれば、チャンバの内部から排出されるパーティクルの数の時系列データから各パーティクル除去モードに対応した特性値が抽出され、複数のチャンバの内部状況に関してチャンバの内部状況毎に予め特性値の群が作成され、さらに、作成された特性値の群及び新たなパーティクルの数の時系列データにおける特性値の整合度に基づいてチャンバの内部状況が推定される。各パーティクル除去モードに対応した特性値には該当するモードの特徴が顕著に表れるので、チャンバの内部状況の推定は各モードの特徴が顕著に表れる特性値を用いて行われることになる。これにより、内部状況の推定から各モードで除去されたパーティクルの数の重畳の影響を低減できることができ、もって、チャンバの内部から排出されるパーティクルの数を用いてチャンバの内部状況を正確に推定することができる。
【0030】
請求項7記載のチャンバの内部状況推定方法によれば、チャンバの内部状況が、正常な状況、突発的にパーティクルが発生した状況、及びチャンバのメンテナンスが必要な状況のいずれかであることを正確に推定することができる。
【0031】
請求項10記載のチャンバの内部状況推定方法によれば、整合度は、作成された特性値の群及び新たなパーティクルの数の時系列データにおける特性値の多次元的な距離であるので、チャンバの内部状況を容易に推定することができる。
【0032】
請求項11記載のチャンバの内部状況推定方法によれば、整合度に基づいたチャンバの内部状況の推定がMT法を用いて実行される。MT法は統計的信頼性の高い手法であるため、チャンバの内部状況の推定の精度を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0034】
まず、本発明の第1の実施の形態に係るチャンバの内部状況推定方法について説明する。
【0035】
図1は、本実施の形態に係るチャンバの内部状況推定方法が適用されるチャンバを備える基板処理装置の概略構成を示す断面図である。
【0036】
図1において、基板処理装置10は、基板としてのウエハ(図示しない)を収容するチャンバ11と、該チャンバ11の内部の下方に配置されてウエハを載置する載置台12と、チャンバ11の内部において載置台12と対向するように配置されたシャワーヘッド13とを備える。
【0037】
チャンバ11は、APC(Adaptive Pressure Control)バルブ、DP(Dry Pump)やTMP(Turbo Molecular Pump)(いずれも図示しない)が接続された排気管14と連通する。DPはチャンバ11の内部を粗引きし、TMPはチャンバ11の内部を真空引きし、APCバルブは開閉可能なバルブであり、チャンバ11の内部の圧力を制御する。排気管14の途中には、該排気管14内を流れるパーティクル等を検出するISPM15が設けられている。
【0038】
載置台12は円柱状のステージであり、その上部に静電電極板16を内蔵する。該静電電極板16は直流電源17に接続される。静電電極板16に直流の高電圧が印加されると、該静電電極板16は静電気力、例えば、クーロン力によってウエハを載置台12の上面に吸着する。また、載置台12には高周波電源21が接続され、該高周波電源21は高周波電圧を載置台12に印加する。該高周波電圧を印加された載置台12は、下部電極として機能し、チャンバ11の内部に高周波電圧を印加する。
【0039】
シャワーヘッド13はバッファ室18を内蔵し、該バッファ室18は複数のガス穴20を介してチャンバ11の内部と連通する。また、バッファ室18には処理ガス導入管19が連通し、該処理ガス導入管19はバッファ室18及びガス穴20を介してチャンバ11の内部に処理ガスを導入する。
【0040】
この基板処理装置10では、チャンバ11の内部が減圧された後に、処理ガスがチャンバ11の内部に導入され、且つ該内部に高周波電圧が印加される。このとき、処理ガスが高周波電圧によって励起してプラズマが生じる。このプラズマが載置台12上のウエハへ到達して該ウエハにプラズマ処理、例えば、エッチング処理を施す。
【0041】
ところで、基板処理装置10では、プラズマ処理を繰り返し実行すると、例えば、プラズマ処理に起因して生じたパーティクルがチャンバ11の内部の構成部品の表面に付着する。これらのパーティクルを除去するためのチャンバ洗浄方法としてNPPCシーケンスが用いられる。
【0042】
図2は、NPPCシーケンスを示すフローチャートである。NPPCシーケンスは、通常、チャンバ11がウエハを収容していない状態で定期的に実行される。
【0043】
図2において、まず、APCバルブを開いてTMPやDPによってチャンバ11の内部の真空引きを行い(ステップS21)、内部の圧力が所定値まで下がったときに、APCバルブを閉じ、以後はDPのみでチャンバ11の内部を粗引きする(ステップS22)。
【0044】
次いで、シャワーヘッド13からチャンバ11の内部へNガスを大流量でパージする(ステップS23)。このとき、チャンバ11の内部ではガス衝撃波が発生し、該ガス衝撃波が構成部品の表面に到達すると、該表面に付着するパーティクルにガス衝撃波に起因するガス衝撃力が作用してパーティクルが表面から剥離して巻き上げられ、その後、排気管14から排出される(ガス衝撃力を利用するパーティクル除去モード)。また、Nガスのパージは継続されるため、チャンバ11の内部にNガスの粘性流が生じる。該粘性流が構成部品の表面に到達すると、該表面に付着するパーティクルに粘性流に起因するガス粘性力が作用してパーティクルが表面から剥離して巻き上げられ、その後、排気管14から排出される(ガス粘性力を利用するパーティクル除去モード)。
【0045】
なお、チャンバ11の内部が所定の圧力以上であれば粘性流が生じやすくなるため、APCバルブは、チャンバ11の内部の圧力が、所定の圧力、例えば、133Pa(1Torr)を下回らないように、好ましくは、チャンバ11の内部の圧力が、数万Pa(数百Torr)を下回らないように、チャンバ11の内部の圧力を制御する。
【0046】
ここで、チャンバ11の内部へ導入されるガスは、Nガスに限られず、不活性ガスであればよく、例えば、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、ラドン(Rn)等のガスや、Oガスなどを用いてもよい。
【0047】
次いで、直流電源17が静電電極板16への直流の高電圧(HV)の印加・不印加を繰り返す(ステップS24)。このとき、静電電極板16への高電圧の印加に起因して、静電場が発生してチャンバ11の構成部品の表面に静電気力が作用することにより、各構成部品の表面からパーティクルが剥離して巻き上げられ、その後、排気管14から排出される(静電気力を利用するパーティクル除去モード)。
【0048】
上記静電気力は、静電電極板16への高電圧の印加の開始時及び停止時に、構成部品の表面に効果的に作用する。ここで、基板処理装置10では、静電電極板16への高電圧の印加が繰り返し行われるため、構成部品の表面に効果的な静電気力が繰り返して作用する。これにより、構成部品の表面に付着したパーティクルを除去することができる。
【0049】
次いで、シャワーヘッド13からのNガスの大流量パージを中止し(ステップS25)、さらに、APCバルブを開き、DPのみによる粗引きを中止する(ステップS26)。
【0050】
次いで、チャンバ11の内部の洗浄度が目標値を上回ったか否かを判別する(ステップS27)。例えば、NPPCシーケンスが実行された直後にチャンバの内部に収容されるウエハの表面に付着したパーティクル(以下、「ウエハ上パーティクル」という。)の数を、ステップS22〜S24の実行中にISPM15がカウントした排気管14内を流れる排出パーティクルの数(以下、「全排出パーティクル数」という。)から推定し、該推定されたウエハ上パーティクルの数(チャンバの内部状況)が目標のパーティクルの数を下回ったか否かを判別する。
【0051】
ステップS27の判別の結果、内部の洗浄度が目標値を上回れば、本処理を終了し、内部の洗浄度が目標値以下であれば、ステップS21に戻る。
【0052】
NPPCシーケンスは、上述したように、3つのパーティクル除去モード、すなわち、ガス衝撃力を利用するパーティクル除去モード(以下、「ガス衝撃力モード」という)、ガス粘性力を利用するパーティクル除去モード(以下、「ガス粘性力モード」という)、及び静電気力を利用するパーティクル除去モード(以下、「静電気力モード」という)からなる。ここで、上述したように、全排出パーティクル数とウエハ上パーティクルの数との相関係数が非常に低い理由は、全排出パーティクル数に、ガス衝撃力モードで除去されたパーティクルの数、ガス粘性力モードで除去されたパーティクルの数、及び静電気力モードで除去されたパーティクルの数が重畳されており、チャンバ11の内部で特定の事象が発生して各モードで除去されるパーティクルの数が変化しても全排出パーティクル数は余り変化しないためである。
【0053】
そこで、本発明者は、各モードで除去されたパーティクルの数の重畳の影響を低減することを検討した。そして、図3に示すような全排出パーティクル数の時系列データを数多く観察するとともに、各モードにおけるパーティクルの除去メカニズムを分析していたところ、モード毎に除去されたパーティクルの時間的な発生形態が異なることを発見した。
【0054】
具体的には、ガス衝撃力モードは、チャンバ11の内部へNガスが大流量でパージされた瞬間に発生するガス衝撃波に起因してパーティクルが除去されるため、NPPCシーケンスの初期に多量のパーティクルが排出されることに特徴があり、ガス粘性力モードは、チャンバ11の内部へ継続してパージされるNガスの粘性流に起因してパーティクルが除去されるため、NPPCシーケンスにおいて比較的長時間に亘り且つ連続してパーティクルが排出されることに特徴があり、静電気力モードでは、静電電極板16へ断続的に印加される高電圧に起因してパーティクルが除去されるため、NPPCシーケンスにおいて比較的長時間に亘り且つ断続的にパーティクルが排出されることに特徴があることを発見した。
【0055】
そして、本発明者は、全排出パーティクル数の時系列データから、各モードで除去されるパーティクルの発生形態の特徴が顕著に表れる特性値(各パーティクル除去モードに対応した特性値)を抽出し、該抽出された特性値を用いれば、各モードで除去されたパーティクルの数の重畳の影響を低減できることに想到した。
【0056】
本実施の形態では、全排出パーティクル数の時系列データにおいて、所定のパーティクル数である閾値を設定し、該閾値を基準として複数の上記特性値を抽出する。
【0057】
図4は、NPPCシーケンスの各モードで除去されるパーティクルの発生形態の特徴が顕著に表れる特性値を示す図である。なお、図4の横軸及び縦軸は図3の横軸及び縦軸と同じであり、閾値として閾値1及び閾値2が設定されているが、以下、簡潔に説明するために、閾値1のみについて言及する。
【0058】
ガス衝撃力モードは、NPPCシーケンスの初期に多量のパーティクルが排出されるため、全排出パーティクル数の時系列データ(以下、単に「時系列データ」という。)が閾値を最初に越えた時間(図中「閾値1越え開始点」)と関連し、ガス粘性力モードは、NPPCシーケンスにおいて比較的長時間に亘り且つ連続してパーティクルが排出されるため、時系列データが閾値を最初に越えた時間(図中「閾値1越え開始点」)、時系列データが閾値を最後に下回った時間(図中「閾値1越え終了点」)、及び時系列データが閾値を越えていた積算時間(図中「閾値1越え積算時間」)に関連し、静電気力モードは、NPPCシーケンスにおいて比較的長時間に亘り且つ断続的にパーティクルが排出されるため、時系列データが閾値を最初に越えた時間(図中「閾値1越え開始点」)、時系列データが閾値を最後に下回った時間(図中「閾値1越え終了点」)、及び閾値を時系列データが越えた回数(図中「閾値1越え回数」)に関連する。
【0059】
したがって、本実施の形態では、時系列データから、例えば、閾値越え開始点、閾値越え終了点、閾値越え積算時間及び閾値越え回数を特性値として抽出する。
【0060】
図5は、時系列データから抽出された各特性値とウエハ上パーティクルの数を示す表である。なお、図5では、閾値として、「閾値1」及び「閾値2」が設定され、閾値越え開始点、閾値越え終了点、閾値越え積算時間及び閾値越え回数、ウエハ上パーティクルの数をそれぞれ「開始点」、「終了点」、「積算時間」、「回数」、「パーティクル数」と簡略化して表記している。
【0061】
ウエハ上パーティクルの数を各特性値を用いて推定するためには、各特性値とウエハ上パーティクルの数の相関関係を算出する必要がある。ここで、相関関係を算出するためには、データが複数必要であるため、閾値越え開始点、閾値越え終了点、閾値越え積算時間及び閾値越え回数は、複数の同じ条件時系列データから複数抽出される。例えば、図5に示すように、同じ条件で3回NPPCシーケンスを実行し、それぞれにおいて全排出パーティクルをカウントし、1回目、2回目及び3回目の時系列データから3つの特性値を抽出する。
【0062】
図6は、特性値とウエハ上パーティクルの数の相関関係の一例を示す図である。図6では、特性値として「閾値1越え積算時間」を想定している。
【0063】
図6に示すように、各閾値1越え積算時間と、各閾値1越え積算時間に対応するウエハ上パーティクルの数とを2次元グラフ上にプロット(図中「●」で示す。)し、閾値1越え積算時間及びウエハ上パーティクルの数の相関関係、例えば、傾きである感度(Signal)やばらつき(Noise)を算出する。
【0064】
上述したような相関関係の算出を全ての特性値について実行し、各特性値について感度及びばらつきに対する感度の比であるS/N比を算出する(関係算出ステップ)(図7の表参照。)。
【0065】
以上までの手順をウエハ上パーティクルの推定まで、例えば、基板処理装置10が設置されてから最初のNPPCシーケンスの実行の際に行う。
【0066】
その後、所定回数のプラズマ処理の実行を経て実行されるNPPCシーケンスにおいて、ISPM15によって全排出パーティクル数の時系列データ(以下、「新たな時系列データ」という。)を求め、該新たな時系列データにおける特性値(新たなパーティクルの数の時系列データにおける特性値)と、既に算出された各特性値とウエハ上パーティクルの数の相関関係とに基づいてウエハ上パーティクルの数を推定する。
【0067】
例えば、閾値1越え積算時間に関しては、図6に示すように、今回の「閾値1越え積算時間」が既に算出された傾きを有する相関線(図中点線で示す。)上に存在すると仮定して、今回の「閾値1越え積算時間」を相関線上にプロット(図中「○」で示す。)し、プロットされた今回の「閾値1越え積算時間」に対応する「ウエハ上パーティクルの数」を読み取る。そして、該読み取った「ウエハ上パーティクルの数」を推定値とする。
【0068】
ここで、時系列データからは複数の特性値が得られるため、特性値毎にウエハ上パーティクルの推定値が得られる。本実施の形態では、複数のウエハ上パーティクルの推定値を下記式に従って積算し、該積算された推定値を推定されたウエハ上パーティクルの数とする。
N = Σ K×1/α×β×P
Nはウエハ上パーティクルの数、Kは調整係数、αはS/N比、βは感度、Pは新たな時系列データにおける特性値である。
【0069】
ここで、特性値毎に得られた推定値をそのまま積算すると、ウエハ上パーティクルの数Nが非常に大きな値となるため、上記式に示すように、特性値毎に得られた推定値(1/α×β×P)には調整係数Kが乗じられて適切な値に調整される。
【0070】
また、ばらつきが大きい相関関係を用いて推定値を得ても、該推定値の統計的信頼性は低いので、上記式に示すように、特性値毎に得られた推定値にはS/N比の逆数が乗じられる。すなわち、相関関係におけるばらつきが大きいほど、推定値は低く評価される。
【0071】
本実施の形態では、以上のようにして全排出パーティクル数の時系列データからウエハ上パーティクルの数を推定する(内部状況推定ステップ)。
【0072】
本実施の形態に係るチャンバの内部状況推定方法によれば、全排出パーティクル数の時系列データからガス衝撃力モード、ガス粘性力モード及び静電気力モードに対応した特性値(閾値越え開始点、閾値越え終了点、閾値越え積算時間、及び閾値越え回数)が抽出され、該特性値とウエハ上パーティクルの数の相関関係(感度、ばらつき)が算出され、さらに、算出された相関関係及び新たな時系列データにおける特性値に基づいてウエハ上パーティクルの数が推定される。閾値越え開始点、閾値越え終了点、閾値越え積算時間、及び閾値越え回数にはガス衝撃力モード、ガス粘性力モード及び静電気力モードの特徴が顕著に表れるので、ウエハ上パーティクルの数の推定は各モードの特徴が顕著に表れる特性値を用いて行われることになる。これにより、ウエハ上パーティクルの数の推定から各モードで除去されたパーティクルの数の重畳の影響を低減できることができ、もって、全排出パーティクル数を用いてウエハ上パーティクルの数を正確に推定することができる。
【0073】
また、本実施の形態に係るチャンバの内部状況推定方法では、算出された特性値とウエハ上パーティクルの数の相関関係におけるばらつきが大きいほど、相関関係及び新たな時系列データにおける特性値から得られた推定値が低く評価されるので、ウエハ上パーティクルの数との相関が低い特性値から得られた推定値が低く評価される。これにより、ウエハ上パーティクルの数の推定をウエハ上パーティクルの数との相関が高い特性値を優先的に用いて行うことになり、もって、該推定の精度を向上することができる。
【0074】
さらに、本実施の形態に係るチャンバの内部状況推定方法では、全排出パーティクル数の時系列データから特性値を抽出するための閾値を複数設定するのが好ましい。これにより、ウエハ上パーティクルの数の推定に用いる特性値の種類を増やすことができ、もって、該推定の統計的信頼性を向上することができる。
【0075】
ところで、本発明者は、図3に示すような全排出パーティクル数の時系列データを数多く観察していたところ、チャンバ11の使用状況が異なると、同じNPPCシーケンスを実行してもパーティクルの発生形態が異なることを発見した。例えば、プラズマ処理に用いるとチャンバ11内部にポリマーが堆積し易い処理ガスを用いてプラズマ処理を繰り返し実行した後にNPPCシーケンスを実行すると、多量のパーティクルが排出される一方、ドライクリーニングの実行後にNPPCシーケンスを実行しても、殆どパーティクルが排出されない。したがって、上述した全排出パーティクル数の時系列データからの特性値の抽出、及び各特性値とウエハ上パーティクルの数の相関関係の算出は、各使用状況について行うことが好ましい。チャンバ11の使用状況に応じてウエハ上パーティクルの数の推定に用いる相関関係を使い分けることによってより該推定の精度を向上することができる。
【0076】
また、上述した本実施の形態では全排出パーティクル数の時系列データを用いたが、ウエハ上パーティクルの数の推定に用いることができる時系列データはこれに限られず、凡そウエハ上パーティクルの数に関連ある時系列データであれば推定に用いることができる。例えば、プラズマ発光モニタによって観測されたチャンバ11の内部の発光状態の時系列データ、載置台12に印加される高周波電圧の反射波の時系列データや温度センサによって測定されたチャンバ11の内部の雰囲気温度の時系列データが該当する。
【0077】
次に、本発明の第2の実施の形態に係るチャンバの内部状況推定方法について説明する。
【0078】
本実施の形態は、その構成、作用が上述した第1の実施の形態と基本的に同じであり、推定するチャンバの内部状況がウエハ上パーティクルの数ではない点で異なるのみであるため、重複した構成、作用については説明を省略し、以下に異なる構成、作用についての説明を行う。
【0079】
チャンバ11の使用状況が異なると同じNPPCシーケンスを実行してもパーティクルの発生形態が異なるという事実に基づいて、本発明者は、チャンバ11の内部状況が異なってもパーティクルの発生形態が異なると推察した。
【0080】
そこで、本発明者が、チャンバ11の内部状況が正常な状況(パーティクルが殆ど存在していない状況)である場合、突発的にパーティクルが発生した状況である場合、及びチャンバ11のメンテナンスが必要な状況(パーティクルが或る程度存在している状況)である場合について、NPPCシーケンスを実行したときの全排出パーティクル数の時系列データを取得したところ、本発明者は、図8(A)〜図8(C)に示すように、各時系列データの形態が異なることを確認した。
【0081】
図8(A)は、チャンバ11の内部状況が正常な状況である場合における時系列データである。この場合、チャンバ11の内部には殆どパーティクルが存在していないため、NPPCシーケンスを実行しても、ガス衝撃力モード、ガス粘性力モード、及び静電気力モードのいずれにおいても殆どパーティクルは除去されない。したがって、NPPCシーケンスのほぼ全期間に亘って殆どパーティクルが排出されないという時系列データが得られた。
【0082】
図8(B)は、チャンバ11の内部状況が突発的にパーティクルが発生した状況である場合における時系列データである。この場合、パーティクルが各構成部品の表面に付着してから間もないため、パーティクルは各構成部品の表面から容易に剥離する。したがって、NPPCシーケンスを実行すると、パーティクルはガス衝撃力モードで殆ど除去される。その結果、NPPCシーケンスの初期に多量のパーティクルが排出されるという時系列データが得られた。
【0083】
図8(C)は、チャンバ11の内部状況がチャンバ11のメンテナンスが必要な状況である場合における時系列データである。この場合、或る程度の数のパーティクルが各構成部品の表面に付着し、且つ各パーティクルが各構成部品の表面に付着してから或る程度の時間が経過しているため、パーティクルは各構成部品の表面から一気に剥離せず、少しずつ剥離していく。したがって、NPPCシーケンスを実行すると、主としてガス粘性力モードや静電気力モードで除去される。その結果、NPPCシーケンスにおいて比較的長時間に亘ってパーティクルが排出されるという時系列データが得られた。
【0084】
以上説明したように、各内部状況はNPPCシーケンスの各モード(ガス衝撃力モード、ガス粘性力モード、静電気力モード)と密接な関連がある。
【0085】
ここで、各内部状況の時系列データには、ガス衝撃力モードで除去されたパーティクルの数、ガス粘性力モードで除去されたパーティクルの数、及び静電気力モードで除去されたパーティクルの数が重畳されているため、各内部状況の時系列データそのものからは各モードで除去されるパーティクルの数を把握するのは困難である。したがって、時系列データそのものから各内部状況の特徴を表すデータを得るのは困難である。
【0086】
一方、上述した第1の実施の形態と同様に、各内部状況の時系列データから各モードに対応した特性値(閾値越え開始点、閾値越え終了点、閾値越え積算時間及び閾値越え回数)を抽出すれば、各内部状況の特徴を表す特性値の群が得られる。
【0087】
本実施の形態では、各内部状況の特徴を表す特性値の群を用いてチャンバ11の内部状況を推定する。
【0088】
具体的には、まず、複数のチャンバ11の内部状況(正常な状況、突発的にパーティクルが発生した状況、チャンバ11のメンテナンスが必要な状況)について、それぞれの時系列データから閾値越え開始点、閾値越え終了点、閾値越え積算時間及び閾値越え回数を抽出し、各内部状況の特徴を表す特性値の群を予め作成する(特性値群作成ステップ)。このとき、統計的な信頼性を向上させるために各内部状況についてNPPCシーケンス実行時の時系列データの取得を複数回行い、複数の時系列データから特性値を抽出することによって各特性値のn数を増加させるのが好ましい。
【0089】
次いで、新たに実行されるNPPCシーケンスの全排出パーティクル数の時系列データ(以下、「新たな時系列データ」という。)から特性値(閾値越え開始点、閾値越え終了点、閾値越え積算時間及び閾値越え回数)(新たなパーティクルの数の時系列データにおける特性値)を抽出し、予め作成した各内部状況の特徴を表す特性値の群と、新たな時系列データにおける特性値との整合度に基づいてチャンバ11の内部状況を推定する(内部状況推定ステップ)。
【0090】
本実施の形態では、上記整合度として多次元的な距離であるマハラノビスの距離を用い、該整合度に基づいたチャンバ11の内部状況の推定がMT法を用いる。
【0091】
図9は、MT法を用いたチャンバの内部状況の推定方法を説明するための図である。なお、時系列データからは少なくとも4つの特性値(閾値越え開始点、閾値越え終了点、閾値越え積算時間及び閾値越え回数)が抽出されるため、各内部状況の特徴を表す特性値の群は4次元以上の多次元空間に存在するが、簡単のために、図9では2次元空間に存在するものとする。
【0092】
図9において、まず、予め作成した各内部状況の特徴を表す特性値の群を2次元空間に配置し(図中楕円で示す。)、次いで、新たな時系列データにおける特性値をプロットし(図中「○」で示す。)、各内部状況の特徴を表す特性値の群と新たな時系列データにおける特性値とのマハラノビスの距離(図中矢印で示す。)を求める。そして、新たな時系列データにおける特性値とのマハラノビスの距離が最も小さい特性値の群に対応する内部状況(正常な状況、突発的にパーティクルが発生した状況、及びチャンバ11のメンテナンスが必要な状況のいずれか)が、新たにNPPCシーケンスを実行した時点におけるチャンバ11の内部状況であると推定する。
【0093】
本実施の形態に係るチャンバの内部状況推定方法によれば、全排出パーティクル数の時系列データからガス衝撃力モード、ガス粘性力モード及び静電気力モードに対応した特性値(閾値越え開始点、閾値越え終了点、閾値越え積算時間及び閾値越え回数)が抽出され、複数のチャンバ11の内部状況(正常な状況、突発的にパーティクルが発生した状況、チャンバ11のメンテナンスが必要な状況)について、それぞれの時系列データから特性値が抽出され、各内部状況の特徴を表す特性値の群が予め作成され、さらに、予め作成した各内部状況の特徴を表す特性値の群及び新たな時系列データにおける特性値の整合度に基づいてチャンバ11の内部状況が推定される。閾値越え開始点、閾値越え終了点、閾値越え積算時間及び閾値越え回数にはガス衝撃力モード、ガス粘性力モード及び静電気力モードの特徴が顕著に表れるので、チャンバ11の内部状況の推定は各モードの特徴が顕著に表れる特性値を用いて行われることになる。これにより、チャンバ11の内部状況から各モードで除去されたパーティクルの数の重畳の影響を低減できることができ、もって、チャンバ11の内部から排出されるパーティクルの数を用いてチャンバ11の内部状況を正確に推定することができる。
【0094】
上述した本実施の形態に係るチャンバの内部状況推定方法では、整合度は、予め作成した各内部状況の特徴を表す特性値の群及び新たな時系列データにおける特性値のマハラノビスの距離であるので、チャンバ11の内部状況を容易に推定することができる。
【0095】
また、上述した本実施の形態に係るチャンバの内部状況推定方法では、整合度に基づいたチャンバ11の内部状況の推定がMT法を用いて実行される。MT法は統計的信頼性の高い手法であるため、チャンバ11の内部状況の推定の精度を向上することができる。
【0096】
なお、本実施の形態でも、第1の実施の形態と同様に、全排出パーティクル数の時系列データから特性値を抽出するための閾値を複数設定するのが好ましい。また、例えば、プラズマ発光モニタによって観測されたチャンバ11の内部の発光状態の時系列データ、載置台12に印加される高周波電圧の反射波の時系列データや温度センサによって測定されたチャンバ11の内部の雰囲気温度の時系列データをチャンバ11の内部状況の推定に用いてもよい。
【0097】
また、本発明の目的は、上述した各実施の形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを記録した記憶媒体を、コンピュータ、例えば、基板処理装置10の制御部や基板処理装置10に接続された外部サーバに供給し、コンピュータのCPUが記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出して実行することによっても達成される。
【0098】
この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が上述した各実施の形態の機能を実現することになり、プログラムコード及びそのプログラムコードを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。
【0099】
また、プログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、RAM、NV−RAM、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD(DVD−ROM、DVD−RAM、DVD−RW、DVD+RW)等の光ディスク、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、他のROM等の上記プログラムコードを記憶できるものであればよい。或いは、上記プログラムコードは、インターネット、商用ネットワーク、若しくはローカルエリアネットワーク等に接続される不図示の他のコンピュータやデータベース等からダウンロードすることによりコンピュータに供給されてもよい。
【0100】
また、コンピュータが読み出したプログラムコードを実行することにより、上記各実施の形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムコードの指示に基づき、CPU上で稼動しているOS(オペレーティングシステム)等が実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって上述した各実施の形態の機能が実現される場合も含まれる。
【0101】
更に、記憶媒体から読み出されたプログラムコードが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書き込まれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPU等が実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって上述した各実施の形態の機能が実現される場合も含まれる。
【0102】
上記プログラムコードの形態は、オブジェクトコード、インタプリタにより実行されるプログラムコード、OSに供給されるスクリプトデータ等の形態から成ってもよい。
【実施例】
【0103】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0104】
実施例
まず、基板処理装置10において複数回のプラズマ処理を実行した後、NPPCシーケンスを実行し、ISPM15が排気管14内を流れる排出パーティクルの数をカウントした。
【0105】
次いで、上述した第1の実施の形態に係るチャンバの内部状況推定方法を実行してウエハ上パーティクルの数を推定し、実際のウエハ上パーティクルの数と比較したところ、推定されたウエハ上パーティクルの数、及び実際のウエハ上パーティクルの数の相関係数は0.888であった。
【0106】
比較例
実施例と同様に、基板処理装置10において複数回のプラズマ処理を実行した後、NPPCシーケンスを実行し、ISPM15が排気管14内を流れる排出パーティクルの数をカウントした。
【0107】
次いで、ISPM15によってカウントされた排出パーティクルの数と、実際のウエハ上パーティクルの数と比較したところ、カウントされた排出パーティクルの数、及び実際のウエハ上パーティクルの数の相関係数は0.0448であった。
【0108】
以上より、全排出パーティクル数の時系列データからNPPCシーケンスの各モードに対応した特性値を抽出し、該特性値と実際のウエハ上パーティクルの数の相関関係を算出し、さらに、算出された相関関係及び新たな時系列データにおける特性値に基づいてウエハ上パーティクルの数を推定すると、チャンバ11の内部状況を正確に推定することができるのが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るチャンバの内部状況推定方法が適用されるチャンバを備える基板処理装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】NPPCシーケンスを示すフローチャートである。
【図3】NPPCシーケンスの実行時における全排出パーティクル数の時系列データを示す図である。
【図4】NPPCシーケンスの各モードで除去されるパーティクルの発生形態の特徴が顕著に表れる特性値を示す図である。
【図5】時系列データから抽出された各特性値とウエハ上パーティクルの数を示す表である。
【図6】特性値とウエハ上パーティクルの数の相関関係の一例を示す図である。
【図7】各特性値についての感度及びS/N比を示す表である。
【図8】チャンバの内部状況が異なる場合におけるNPPCシーケンスを実行したときの全排出パーティクル数の時系列データを示す図であり、図8(A)はチャンバの内部状況が正常な状況である場合であり、図8(B)はチャンバの内部状況が突発的にパーティクルが発生した状況である場合であり、図8(C)はチャンバの内部状況がチャンバのメンテナンスが必要な状況である場合である。
【図9】MT法を用いたチャンバの内部状況の推定方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0110】
10 基板処理装置
11 チャンバ
12 載置台
14 排気管
15 ISPM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を収容して該基板に所定の処理を施すチャンバであって、複数のパーティクル除去モードからなるパーティクル除去シーケンスが適用されるチャンバの内部状況を推定するチャンバの内部状況推定方法であって、
前記チャンバの内部から排出されるパーティクルの数の時系列データから各前記パーティクル除去モードに対応した特性値を抽出し、且つ該抽出された特性値と前記チャンバの内部状況の関係を算出する関係算出ステップと、
前記算出された関係及び新たなパーティクルの数の時系列データにおける前記特性値に基づいて前記チャンバの内部状況を推定する内部状況推定ステップとを有することを特徴とするチャンバの内部状況推定方法。
【請求項2】
前記チャンバの内部状況は前記基板の表面に付着したパーティクルの数であることを特徴とする請求項1記載のチャンバの内部状況推定方法。
【請求項3】
前記複数のパーティクル除去モードはガス衝撃力を利用するモード、ガス粘性力を利用するモード、静電気力を利用するモードを含み、
前記特性値は、所定の閾値を前記時系列データが越えた回数、前記時系列データが前記所定の閾値を最初に越えた時間、前記時系列データが前記所定の閾値を最後に下回った時間、及び前記時系列データが前記所定の閾値を越えていた積算時間であることを特徴とする請求項1又は2記載のチャンバの内部状況推定方法。
【請求項4】
前記所定の閾値が複数設定されることを特徴とする請求項3記載のチャンバの内部状況推定方法。
【請求項5】
前記関係算出ステップでは、各前記特性値と前記チャンバの内部状況の関係におけるばらつきを算出し、前記内部状況推定ステップでは、前記算出されたばらつきが大きいほど、前記関係及び前記新たなパーティクルの数の時系列データにおける前記特性値に基づいて推定された前記チャンバの内部状況を低く評価することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のチャンバの内部状況推定方法。
【請求項6】
基板を収容して該基板に所定の処理を施すチャンバであって、複数のパーティクル除去モードからなるパーティクル除去シーケンスが適用されるチャンバの内部状況を推定するチャンバの内部状況推定方法であって、
前記チャンバの内部から排出されるパーティクルの数の時系列データから各前記パーティクル除去モードに対応した特性値を抽出し、さらに、複数の前記チャンバの内部状況に関して前記チャンバの内部状況毎に予め前記特性値の群を作成する特性値群作成ステップと、
前記作成された前記特性値の群及び新たなパーティクルの数の時系列データにおける前記特性値の整合度に基づいてチャンバの内部状況を推定する内部状況推定ステップとを有することを特徴とするチャンバの内部状況推定方法。
【請求項7】
前記複数の前記チャンバの内部状況は、正常な状況、突発的に前記パーティクルが発生した状況、及び前記チャンバのメンテナンスが必要な状況であることを特徴とする請求項6記載のチャンバの内部状況推定方法。
【請求項8】
前記複数のパーティクル除去モードはガス衝撃力を利用するモード、ガス粘性力を利用するモード、静電気力を利用するモードを含み、
前記特性値は、所定の閾値を前記時系列データが越えた回数、前記時系列データが前記所定の閾値を最初に越えた時間、前記時系列データが前記所定の閾値を最後に下回った時間、及び前記時系列データが前記所定の閾値を越えていた積算時間であることを特徴とする請求項6又は7記載のチャンバの内部状況推定方法。
【請求項9】
前記所定の閾値が複数設定されることを特徴とする請求項8記載のチャンバの内部状況推定方法。
【請求項10】
前記整合度は、前記作成された前記特性値の群、及び前記新たなパーティクルの数の時系列データにおける前記特性値の多次元的な距離であることを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載のチャンバの内部状況推定方法。
【請求項11】
前記内部状況推定ステップでは、前記整合度に基づいたチャンバの内部状況の推定がMT法を用いて実行されることを特徴とする請求項6乃至10のいずれか1項に記載のチャンバの内部状況推定方法。
【請求項12】
基板を収容して該基板に所定の処理を施すチャンバであって、複数のパーティクル除去モードからなるパーティクル除去シーケンスが適用されるチャンバの内部状況を推定するチャンバの内部状況推定方法をコンピュータに実行させるプログラムを格納するコンピュータで読み取り可能な記憶媒体であって、前記内部状況推定方法は、
前記チャンバの内部から排出されるパーティクルの数の時系列データから各前記パーティクル除去モードに対応した特性値を抽出し、且つ該抽出された特性値と前記チャンバの内部状況の関係を算出する関係算出ステップと、
前記算出された関係及び新たなパーティクルの数の時系列データにおける前記特性値に基づいて前記チャンバの内部状況を推定する内部状況推定ステップとを有することを特徴とする記憶媒体。
【請求項13】
基板を収容して該基板に所定の処理を施すチャンバであって、複数のパーティクル除去モードからなるパーティクル除去シーケンスが適用されるチャンバの内部状況を推定するチャンバの内部状況推定方法をコンピュータに実行させるプログラムを格納するコンピュータで読み取り可能な記憶媒体であって、前記内部状況推定方法は、
前記チャンバの内部から排出されるパーティクルの数の時系列データから各前記パーティクル除去モードに対応した特性値を抽出し、さらに、複数の前記チャンバの内部状況に関して前記チャンバの内部状況毎に予め前記特性値の群を作成する特性値群作成ステップと、
前記作成された前記特性値の群及び新たなパーティクルの数の時系列データにおける前記特性値の整合度に基づいてチャンバの内部状況を推定する内部状況推定ステップとを有することを特徴とする記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−290086(P2009−290086A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142805(P2008−142805)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】