説明

ディジタルPLL装置

【課題】入力信号の周波数が変動してもジッタを低減させることが可能なディジタルPLL装置を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係るディジタルPLL装置は、入力信号に対する再生クロックの位相遅れ、位相進みを検出する位相検出器と、位相検出器からの出力信号を積分し、積分値に応じて位相ずれ信号を発生するランダムウォークフィルタ部と、入力信号の周波数値に応じた値を有する周波数信号を生成する周波数検出器と、位相ずれ信号の値と周波数信号の値とを加算した値を有する制御信号を生成する加算器と、制御信号の値を分周比として、マスタークロックを分周した再生クロックを生成する制御分周部と、を備える。制御分周部における分周比の中心値N(Nは自然数)は、周波数信号の値によって定められることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディジタルPLL装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
入力信号の位相と一致した位相を有する再生クロックを生成するPLL装置が知られている。このPLL装置の動作をディジタル的に行うディジタルPLL装置も提案されている(例えば、特許文献1〜3)。
【0003】
ディジタルPLL装置は、入力信号と再生クロックとの位相差に応じて、マスタークロックを分周する分周比を固定中心値Nから例えばN+1またはN−1に変更することによって、入力信号の位相と再生クロックの位相とを一致させる。入力信号の位相と再生クロックの位相とを一致させた後には、分周比を固定中心値Nに戻す。ディジタルPLL装置は、このような分周比N,N+1,N−1の変更動作を継続することによって、入力信号の位相と再生クロックの位相とを継続的に一致させる。
【特許文献1】特開平5−268007号公報
【特許文献2】特開平8−316826号公報
【特許文献3】特開平6−111490号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、UHF帯RFIDシステム(Radio Frequency IDentification)のEPC Global Class1 Generation1b規格では、応答器(無線ICタグともいう)から出力されるデータの周波数が中心周波数に対して最大±25%(0.8倍〜1.33倍)まで変動することが許容されている。この周波数変動±25%を1ビット中の位相変動に換算すると、±90度に相当する。この応答器から出力されたデータを入力信号とするリーダライタにおけるディジタルPLL装置では、データの周波数が中心周波数に対して最大±25%変動した場合、再生クロックの位相を入力信号の位相に合わせるために1ビット中で最大±90度ずらすこととなる。このディジタルPLL装置では、分周比N,N+1,N−1の変更動作を継続するので、すなわち再生クロックの周波数をデータの中心周波数付近に戻す動作を繰り返すので、再生クロックの位相を入力信号の位相に合わせるために最大±90度ずらす動作が断続的に繰り返されることとなる。したがって、再生クロックには最大±90度の大きなジッタが発生してしまう。
【0005】
そこで、本発明は、入力信号の周波数が変動してもジッタを低減させることが可能なディジタルPLL装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のディジタルPLL装置は、(a)入力信号に対する再生クロックの位相遅れ、位相進みを検出する位相検出器と、(b)位相検出器からの出力信号を積分し、積分値に応じて位相ずれ信号を発生するランダムウォークフィルタ部と、(c)入力信号の周波数値に応じた値を有する周波数信号を生成する周波数検出器と、(d)位相ずれ信号の値と周波数信号の値とを加算した値を有する制御信号を生成する加算器と、(e)制御信号の値を分周比として、マスタークロックを分周した再生クロックを生成する制御分周部と、を備えている。(f)制御分周部における分周比の中心値N(Nは自然数)は、周波数信号の値によって定められることを特徴とする。
【0007】
このディジタルPLL装置によれば、位相検出器、ランダムウォークフィルタ部、加算器、および制御分周部とのループ処理によって、入力信号の位相とほぼ一致した位相を有する再生クロックが生成される。その際、制御分周部における分周比を定める制御信号の値には、周波数検出器から出力される周波数信号の値が加算器によって加算される。この周波数信号の値は入力信号の周波数値に応じた値であり、制御分周部における分周比の中心値N(Nは自然数)は周波数信号の値によって定められるので、分周比の中心値Nによって定まる再生クロックと入力信号との周波数差が低減される。すなわち、この周波数差から換算される再生クロックと入力信号との位相差が低減される。したがって、このディジタルPLL装置によれば、入力信号の周波数が変動しても、再生クロックのジッタを低減することが可能である。
【0008】
制御分周部における分周比の変更量+aまたは−a(aは自然数)は、位相ずれ信号の値によって定められ、制御分周部は、分周比の中心値Nを+aずつ増加または−aずつ減少する。このとき、分周比の変更量の絶対値aは1であることが好ましい。この構成によれば、制御分周部における分周比N,N+a,N−aの変更量が小さいので、再生クロックのジッタを更に低減することが可能である。
【0009】
また、分周比の中心値Nの中心値は16であることが好ましい。制御分周部にプログラマブルカウンタが用いられる場合、プログラマブルカウンタの回路構成を合理化するために、分周比は2のべき乗であることが好ましい。ところで、分周比を小さく設定すると、周波数検出器において入力信号の周波数値に精度よく応じた値を有する周波数信号を生成することが困難となる。一方、分周比を大きく設定すると、処理すべき周波数が上がり、ディジタルPLL装置において必要な処理能力が増大し、一般的には消費電力の増加という好ましくない事態となる。しかしながら、この構成によれば、分周比の中心値Nの中心値を16と設定することによって、制御分周部にプログラマブルカウンタが用いられる場合でも、ディジタルPLL装置における必要な処理能力が増大することなく、入力信号の周波数値に精度よく応じた値を有する周波数信号を生成することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、入力信号の周波数が変動してもジッタを低減することが可能なディジタルPLL装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
【0012】
まず、本発明の実施形態に係るディジタルPLL装置が用いられるRFIDシステム(Radio Frequency IDentification)の一例について説明する。図1は、RFIDシステムの構成を示す図である。図1に示すRFIDシステム1は、リーダライタ10および応答器(無線ICタグともいう)20から構成されており、応答器20に記憶されている情報をリーダライタ10によって無線で読み取ることができる。
【0013】
以下では、リーダライタ10および応答器20の構成の一例を説明する。リーダライタ10は、応答器20へ要求信号を送信し、この要求信号に応じて応答器20から出力される応答信号を受けることによって、応答器20に予め記憶されている情報を読み取る。そのために、リーダライタ10は、制御部11、送信部12、変調器13、発振器14、増幅器15、サーキュレータ16、アンテナ17、復調器18、および受信部19を備えている。
【0014】
制御部11は要求信号を生成する。制御部11は送信部12に接続されており、送信部12は制御部11からの要求信号を変調器13へ導く。変調器13には発振器14からの搬送波(例えば950MHzの交流電力)も入力される。変調器13は、要求信号によって搬送波を変調した出力要求信号を生成する。変調器13は増幅器15に接続されており、増幅器15はサーキュレータ16に接続されている。サーキュレータ16は、増幅器15を介して入力される出力要求信号をアンテナ17へ導く。アンテナ17は、電気信号すなわち出力要求信号を電磁波に変換すると共に、この電磁波を応答器20へ放射する。
【0015】
また、アンテナ17は、応答器20から放射された電磁波を受けて、この電磁波に応じた電気信号すなわち出力応答信号を再生する。サーキュレータ16は、この応答信号を復調器18へ導く。復調器18には発振器14からの搬送波も入力される。復調器18は、搬送波を用いて出力応答信号を復調し、応答信号を再生する。復調器18は受信部19に接続されており、受信部19は応答信号を制御部11へ導く。制御部11は、ディジタルPLL装置30を有しており、復調された応答信号から再生クロックを生成することによって要求信号を識別および解析する。
【0016】
応答器20は、リーダライタ10からの要求信号に応じて、予め記憶されている情報を応答信号としてリーダライタ10へ返信する。そのために、応答器20は、アンテナ21、共振部22、電源部23、変調・復調部24、制御部25、およびデータ記憶部26を備えている。
【0017】
アンテナ21は、リーダライタ10から放射された電磁波を受けて、この電磁波に応じた電気信号、すなわちリーダライタ10からの出力要求信号を再生する。アンテナ21は、共振部22を介して電源部23および変調・復調部24に接続されている。共振部22は、電源部23および変調・復調部24とアンテナ21とのインピーダンス整合を調整する共振回路である。電源部23は、出力要求信号における搬送波を整流することによって直流電力を生成し、この直流電力を変調・復調部24、制御部25、およびデータ記憶部26へ供給する。変調・復調部24は、変調回路と復調回路とを有している。復調回路は、出力要求信号を復調することによってリーダライタ10からの要求信号を再生する。変調・復調部24は制御部25に接続されている。制御部25は、PLL装置を有しており、復調された要求信号から再生クロックを生成することによって要求信号を識別および解析する。
【0018】
また、制御部25は、解析結果に応じてデータ記憶部26に予め記憶されているデータから、PLL装置の再生クロックに基づいて応答信号を生成する。変調・復調部24における変調回路は、この応答信号に応じて共振部22のインピーダンスを変化させる。このようにして、入力される出力要求信号に対する共振部22の反射率を変化させ、負荷変調された出力応答信号を生成する。アンテナ21は、この出力応答信号を電磁波に変換すると共に、この電磁波をリーダライタ10へ放射する。
【0019】
ここで、負荷変調された出力応答信号にリーダライタ10からの要求信号が重畳されないように、リーダライタ10における要求信号の送信時間は、最低限、要求信号を識別できる程度の短い時間である。すなわち、制御部25における応答信号生成時、リーダライタ10から出力される出力要求信号は、要求信号を含まず、エネルギー供給のための無変調搬送波である。したがって、制御部25における応答信号生成時、制御部25におけるPLL装置には要求信号が入力されておらず、このPLL装置はフリーラン状態となる。そのために、要求信号受信開始時に位相および周波数が要求信号に一致した再生クロックは、電源電圧の揺らぎ等によって、徐々に変動してしまう。この再生クロックに基づいて生成される応答信号の周波数は大きく変動することとなる。
【0020】
本発明は、このように周波数が大きく変動する信号を入力信号としても、再生クロックのジッタを低減することが可能なディジタルPLL装置に関し、上述したリーダライタ10におけるディジタルPLL装置30として好適なディジタルPLL装置に関する。図2は、本発明の実施形態に係るディジタルPLL装置の構成を示す回路図である。ディジタルPLL装置30は、位相検出器31、ランダムウォークフィルタ部(以下、「RWF部」という)32、周波数検出器34、加算器35、および制御分周部36を備えている。
【0021】
位相検出器31の第1の入力端子には、上述したように、応答器20から受ける応答信号が入力信号として入力される。位相検出器31の第2の入力端子には、ディジタルPLL装置30の出力クロックである再生クロックが入力される。位相検出器31は、入力信号に対する再生クロックの位相遅れ、位相進みを検出する。位相検出器31の出力端子は、RWF部32の入力端子に接続されている。
【0022】
RWF部32は、位相検出器31からの出力信号を積分し、積分値に応じて位相ずれ信号を発生する。そのために、RWF部32は、ランダムウォークフィルタ(以下、「RWF」という)32a、リセットホールド部32b、およびリセット制御部32cを有している。
【0023】
RWF32aの入力端子は、位相検出器31の出力端子に接続されている。RWF32aは、位相検出器31からの出力信号のパルスをカウントし、カウント値が予め記憶されている所定値に達する場合に、入力信号に対する再生クロックの位相ずれ(位相遅れまたは位相進み)を表す値を有する位相ずれ信号を発生する。例えば、RWF32aは、カウント値が位相遅れのための所定値に達する場合に位相遅れを表す値−aを有する位相ずれ信号を発生し、カウント値が位相進みのための所定値に達する場合に位相進みを表す値+aを有する位相ずれ信号を発生する。
【0024】
RWF32aの出力端子は、リセットホールド部32bの入力端子に接続されている。リセットホールド部32bは、位相ずれ信号を受けると、この位相ずれ信号を出力する。また、リセットホールド部32bのリセット端子は、リセット制御部32cの出力端子に接続されており、リセット制御部32cからのリセット信号に基づいて位相ずれ信号の出力を停止する。リセットホールド部32bの出力端子は、加算器35の第1の入力端子およびRWF32aの制御端子に接続されている。なお、リセット制御部32cについては後述する。
【0025】
RWF32aの制御端子は、リセットホールド部32bの出力端子に接続されている。RWF32aは、リセットホールド部32bから位相ずれ信号が出力されたら、位相ずれ信号、カウント値をリセットする。
【0026】
ここで、RWF部32によって生成される位相ずれ信号の値は、制御分周部36における分周比の変更量+aまたは−a(aは自然数)を定める。例えば、位相検出器31が位相遅れを検出し、RWF32aの積分値が予め定められたカウント値に達したとすると、リセットホールド部32bは現在の位相が遅れた状態であると判断し、再生クロックの周波数を上げるために制御分周部36における制御分周器36aの分周数を−a減少する。一方、位相検出器31が位相進みを検出した時には、リセットホールド部32bは現在の位相が進んだ状態にあると判断し、再生クロックの周波数を下げるために制御分周部36における制御分周器36aの分周数を+a増加する。制御分周器36aとして、プログラマブルカウンタを使用した場合、リセットホールド部32bの制御に基づき、プログラマブルカウンタの分周比が逐次、変化されることになる。なお、再生クロックにおけるジッタを低減するためには、位相ずれ信号の絶対値aは小さい値であることが好ましく、1であることが好ましい。
【0027】
周波数検出器34の入力端子には入力信号が入力される。周波数検出器34は、入力信号の周波数値に応じた値を有する周波数信号を生成する。ここで、周波数信号の値は、制御分周部36における分周比の中心値N(Nは自然数)を定める。この分周比の中心値Nの中心値は16であることが好ましい。例えば、入力信号が標準周波数である場合にN=16が選択されるとすると、入力信号が標準周波数より高く、標準周波数の1.15倍である場合、N=14(16/1.15)が選択される。一方、入力信号が標準周波数より低く、標準周波数の0.85倍である場合、N=19(16/0.85)が選択される。周波数検出器34の詳細は後述する。周波数検出器34の出力端子は、加算器35の第2の入力端子に接続されている。
【0028】
加算器35は、位相ずれ信号と周波数信号とを加算した値を有する制御信号を生成する。すなわち、加算器35は、制御分周部36における制御分周器36aのための分周比の中心値Nと分周比の変更量±aとから、制御分周器36aにおける分周比N±aを定める。例えば、入力信号が標準周波数である場合に16分周され、変更量の絶対値a=1であるとすると、入力信号が標準周波数より高く、標準周波数の1.15倍である場合、1/14分周を中心に1/13分周または1/15分周で位相制御される。一方、入力信号が標準周波数より低く、標準周波数の0.85倍である場合、1/19分周を中心に1/18分周または1/20分周で位相制御される。加算器35の出力端子は、制御分周部36の制御端子に接続されている。
【0029】
制御分周部36は、制御分周器36aおよび固定分周器36bから構成されている。制御分周器36aの入力端子にはマスタークロックが入力されており、制御分周器36aの制御端子は加算器35の出力端子に接続されている。制御分周器36aは、制御信号の値を分周比として、マスタークロックを分周した分周クロックを生成する。制御分周器36aの出力端子は、固定分周器36bの入力端子およびリセット制御部32cの第1の入力端子に接続されている。
【0030】
固定分周器36bは、分周クロックを固定の分周値で分周した再生クロックを生成する。固定分周器36bの出力端子は、位相検出器31の第2の入力端子およびリセット制御部32cの第2の入力端子に接続されている。
【0031】
リセット制御部32cは、第2の入力端子に入力される再生クロックに基づいて、第1の入力端子に入力される分周クロックの周期数のカウントを開始し、このカウント値が予め設定された回数(J回)に達したときにリセット信号を発生する。すなわち、リセット制御部32cは、再生クロックに基づき、制御分周器36aにおいて行われる位相修正を可変量化させる回路で、制御分周器36aにおけるN−a分周またはN+a分周を何回行わせるかを制御する。リセット制御部32cは、予め設定された回数(J回)に、制御分周器36aの位相修正回数が達したとき、位相修正終了の指令信号(リセット信号)をリセットホールド部に与え、位相修正操作を終了させる。このとき、上記したリセットホールド部32bは、指令信号を受けて位相ずれ信号の出力を停止し、制御分周器36aの制御を解除し、制御分周器36aの分周比をNにもどす。
【0032】
次に、周波数検出器34について詳細に説明する。図3は、周波数検出器を示す回路図である。図3に示す周波数検出器34は、入力信号における周波数情報を検出し、この周波数情報に応じた周波数信号を生成する。そのために、周波数検出器34は、Pビットカウンタ41、1/2割算器42、スイッチ43、Pビットラッチ部44,45,46、加算器47、1/4割算器48、判定部49、コンパレータ50,51,52,53、およびAND演算部54を備えている。
【0033】
Pビットカウンタ41の入力端子には入力信号が入力される。Pビットカウンタ(Pは例えば32)41のクロック端子には基準クロックが入力され、Pビットカウンタ41のリセット端子にはリセット信号が入力される。なお、基準クロックは入力信号より十分に早いクロックであればよく、基準クロックにはマスタークロックもしくはマスタークロックを分周したクロックが適用可能である。基準クロックとして、マスタークロックを固定分周器36bの分周比nで割ったものを使用した場合には、本周波数検出器の出力そのものが中心値Nとなる。Pビットカウンタ41は、基準クロックのタイミングで入力信号の周期長をカウントし、カウント値に応じたディジタル値の出力信号を生成する。具体的には、Pビットカウンタ41は、入力信号の立ち上がりから次の立ち上がりまでの時間において、基準クロックのクロック数をカウントすることによって入力信号の周期長を測定する。Pビットカウンタ41は、リセット信号に基づいて、入力信号の次の立ち上がりでカウント数をリセットし、新たにカウントを始める。したがって、Pビットカウンタ41の出力信号は入力信号の周波数情報を表している。Pビットカウンタ41の出力端子は、スイッチ43の第1の端子および1/2割算器42の入力端子に接続されている。
【0034】
1/2割算器42は、Pビットカウンタ41からの出力信号のディジタル値を半分にした出力信号を生成する。1/2割算器42の出力端子はスイッチ43の第2の端子に接続されている。
【0035】
スイッチ43には、リーダライタ10における制御部11内の識別器から応答信号判別情報、すなわち入力信号識別情報が入力されている。スイッチ43は、この入力信号識別情報に基づいて、第1の端子と第2の端子とのいずれかを第3の端子に接続するか選択する。具体的には、スイッチ43は、入力信号の論理が「1」である場合に第1の端子と第3の端子を接続し、入力信号の論理が「0」である場合に第2の端子と第3の端子を接続する。
【0036】
図4は、入力信号の波形を示す図である。この入力信号はサブキャリアFSKと呼ばれている。図4に示されるように、1ビットが短い周期の「10」を2サイクル含む波形である場合、論理は「1」であり、1ビットが長い周期(短い周期のちょうど2倍)の「10」を1サイクル含む波形である場合、論理は「0」である。したがって、入力信号の論理が「0」である場合には、論理が「1」である場合に比べて時間が2倍になるので、Pビットカウンタ41の出力信号のディジタル値を1/2倍にしている。なお、図4におけるm−i(例えば、i=−1〜6)は、Pビットカウンタ41における入力信号の測定区間番号を表している。
【0037】
スイッチ43の第3の端子は、Pビットラッチ部44の入力端子、加算器47の第1の入力端子、およびコンパレータ50の入力端子に接続されている。同様に、Pビットラッチ部44の出力端子は、Pビットラッチ部45の入力端子、加算器47の第2の入力端子、およびコンパレータ51の入力端子に接続されており、Pビットラッチ部45の出力端子は、Pビットラッチ部46の入力端子、加算器47の第3の入力端子、およびコンパレータ52の入力端子に接続されている。また、Pビットラッチ部46の出力端子は、加算器47の第4の入力端子、およびコンパレータ53の入力端子に接続されている。Pビットラッチ部44〜46は、Pビットカウンタ41からの出力信号を順次にラッチする。
【0038】
図5は、周波数検出器における各部信号波形を示す図である。図5(a)〜(f)には、入力信号波形、Pビットカウンタ41の出力信号波形、スイッチ43の出力信号波形、およびPビットラッチ部44,45,46の出力信号波形それぞれの時間変化が順に示されている。なお、それぞれの信号波形のタイミングは一致している。図5におけるNn−i(例えば、i=−1〜6:iは図4に対応している)は、Pビットカウンタ41の測定区間ごとの出力信号を表している。また、Nn±iの各iは、測定区間番号m−iの各iに対応している。上述したように、区間番号m,m+1の論理は「0」であるので、(c)のNn+1,Nnのディジタル値は、Pビットカウンタ41の出力信号のディジタル値の1/2倍となっている。このように、Pビットラッチ部44の出力信号、Pビットラッチ部45の出力信号、およびPビットラッチ部46の出力信号は、Pビットカウンタ41の出力信号を基準として、1測定区間ずつ順に遅れている。
【0039】
加算器47は、スイッチ43の出力信号およびPビットラッチ部44,45,46の出力信号を加算する。加算器47の出力端子は、1/4割算器48の入力端子に接続されている。1/4割算器48は、加算器47の出力信号のディジタル値を1/4倍にする。1/4割算器48の出力端子は、判定部49の入力端子に接続されている。すなわち、加算器47および1/4割算器48によって、Pビットカウンタ41の測定区間における先行4つの周波数情報の平均値が得られる。Pビットカウンタ41の測定区間における先行4つの周波数情報は、入力信号における2ビット(論理「1」が連続した場合)〜4ビット(論理「0」が連続した場合)の周波数情報に相当する。
【0040】
コンパレータ50は、スイッチ43の出力信号の値と予め設定された上限値および下限値とを比較することによって、スイッチ43の出力信号が上限値および下限値の間の値を有する場合に論理「1」の出力信号を生成し、スイッチ43の出力信号が上限値および下限値の間の値を有さない場合に論理「0」の出力信号を生成する。同様に、コンパレータ51〜53は、それぞれ、Pビットラッチ部44〜46の出力信号の値と予め設定された上限値および下限値とを比較することによって、Pビットラッチ部44〜46の出力信号が上限値および下限値の間の値を有する場合に論理「1」の出力信号を生成し、Pビットラッチ部44〜46の出力信号が上限値および下限値の間の値を有さない場合に論理「0」の出力信号を生成する。コンパレータ50〜53の各々の出力端子は、AND演算部54の4つの入力端子に接続されている。
【0041】
AND演算部54は、コンパレータ50〜53からの出力信号の論理が全て「1」である場合に論理「1」を有する出力信号を出力し、コンパレータ50〜53からの出力信号のいずれかの論理が「0」である場合に論理「0」を有する出力信号を出力する。AND演算部54の出力端子は、判定部49の制御端子に接続されている。
【0042】
判定部49は、AND演算部54からの出力信号に基づいて、1/4割算器48から受ける周波数情報の平均値を値Nとして有する周波数信号を出力する。例えば、AND演算部54からの出力信号の値が「1」である場合に、1/4割算器48からの周波数情報の平均値を値Nとして有する周波数信号を出力し、AND演算部54からの出力信号の値が「0」である場合には、この周波数信号を出力しない。
【0043】
すなわち、コンパレータ50〜53は、測定した周波数情報が予め設定された上限値と下限値の間の値を有するか否かを判定し、AND演算部54に入力する。これによって、測定区間における先行する4つの周波数情報がすべて異常でないかを判定し、周波数情報を使うか否かを判定部49で決定する。このように、周波数検出器34は、入力信号の立ち上がりから次の立ち上がりまでの時間を測定し、測定区間における先行する4つの周波数情報がすべて異常でないことを判断した上で周波数情報として使用する。すなわち、加算器35に入力される周波数信号の値Nは、Pビットカウンタ41にて入力信号の周期をカウントした数である。そのため、判定部49の後段において周波数情報を変換する必要性なく、カウントした値が正しいか否かをPビットカウンタ41の後段において判断する構成となっている。
【0044】
次に、ディジタルPLL装置30の動作を説明する。入力信号が入力されると、周波数検出器34におけるPビットカウンタ41によって、基準クロックのタイミングで入力信号の周期長がカウントされ、このカウント値に応じたディジタル値の出力信号が生成される。リーダライタ10内の識別器の指令に基づくスイッチ43によって、入力信号の論理が「1」である場合にはPビットカウンタ41の出力信号が出力され、入力信号の論理が「0」である場合には1/2割算器42によってPビットカウンタ41の出力信号のディジタル値が半分にされた出力信号が出力される。すると、Pビットラッチ部44,45,46によって、それぞれPビットカウンタ41の測定区間における1つ前の出力信号、2つ前の出力信号、3つ前の出力信号が出力され、これらの出力信号は、加算器47によってPビットカウンタ41の測定区間における現在の出力信号と加算され、1/4割算器48によって平均化される。
【0045】
コンパレータ50,51,52,53では、Pビットカウンタ41の測定区間における現在の出力信号の値、1つ前の出力信号の値、2つ前の出力信号の値、3つ前の出力信号の値がそれぞれ所定の範囲内である場合には論理「1」の出力信号が出力され、AND演算部54によって論理「1」の出力信号が出力される。すると、判定部49によって、1/4割算器48からの出力信号の値を値Nとして有する周波数信号が加算器35へ出力される。すなわち、コンパレータ50〜53、AND演算部54、および判定部49によって、Pビットカウンタ41にてカウントされた周波数情報が正常であることが判定され、この周波数情報が周波数信号として加算器35へ出力される。
【0046】
一方、コンパレータ50,51,52,53では、Pビットカウンタ41の測定区間における現在の出力信号の値、1つ前の出力信号の値、2つ前の出力信号の値、3つ前の出力信号の値のうち何れかが所定の範囲外である場合には、対応のコンパレータによって論理「0」の出力信号が出力され、AND演算部54によって論理「0」の出力信号が出力される。すると、判定部49によって周波数信号が加算器35へ出力されない。すなわち、コンパレータ50〜53、AND演算部54、および判定部49によって、Pビットカウンタ41にてカウントされた周波数情報が異常であることが判定され、周波数信号が加算器35へ出力されない。このような場合は、例えば直近の正しい値を保持させ、本実施形態のディジタルPLL装置30の安定動作に寄与する。
【0047】
また、位相検出器31によって入力信号に対する再生クロックの位相遅れ、位相進みを検出され、RWF32aによって位相検出器31からの出力信号のパルスがカウントされる。
【0048】
(i)再生クロックの位相が入力信号の位相付近である場合
RWF32aによってカウントされた値が所定の値に達しないので、位相ずれ信号がRWF32aおよびリセットホールド部32bから出力されない。
【0049】
すると、加算器35によって値Nを有する制御信号が生成される。制御分周器36aでは、この制御信号の値Nに基づいてマスタークロックをN分周した分周クロックが生成され、更に固定分周器36bによって分周されて再生クロックが生成される。このように、再生クロックの位相が入力信号の位相付近である場合には、制御分周器36aによるN分周が継続される。
【0050】
(ii)次に、再生クロックの位相が入力信号の位相より遅れている場合
RWF32aによってカウントされた値が所定の値に達し、位相遅れを表す値−aを有する位相ずれ信号がRWF32aおよびリセットホールド部32bから出力されると共に、リセットホールド部32bがロックされ、値−aを有する位相ずれ信号が出力され続ける。
【0051】
すると、位相ずれ信号の値−aと周波数信号の値Nとは加算器35によって加算され、値N−aを有する制御信号が生成される。制御分周器36aでは、この制御信号の値N−aに基づいてマスタークロックをN−a分周した分周クロックが生成され、更に固定分周器36bによって分周されて再生クロックが生成される。制御分周器36aにおいてN−1分周がJ回行われると、リセット制御部32cからリセット信号が出力され、リセットホールド部32bからの位相ずれ信号が停止されて、加算器35によって制御信号の値がN−aからNに戻る。すると、制御分周器36aにおけるN−a分周がN分周に戻る。このように、再生クロックの位相が入力信号の位相より遅れている場合には、制御分周器36aによるJ回のN−a分周によって再生クロックの位相が進められる。
【0052】
(iii)再生クロックの位相が入力信号の位相より進んでいる場合
RWF32aによってカウントされた値が所定の値に達し、位相進みを表す値+aを有する位相ずれ信号がRWF32aおよびリセットホールド部32bから出力されると共に、リセットホールド部32bがロックされ、値+aを有する位相ずれ信号が出力され続ける。
【0053】
すると、位相ずれ信号の値+aと周波数信号の値Nとは加算器によって加算され、値N+aを有する制御信号が生成される。制御分周器36aでは、この制御信号の値N+aに基づいてマスタークロックをN+a分周した分周クロックが生成され、更に固定分周器36bによって分周されて再生クロックが生成される。制御分周器36aにおいてN+a分周がJ回行われると、リセット制御部32cからリセット信号が出力され、リセットホールド部32bからの位相ずれ信号が停止されて、加算器35によって制御信号の値がN+aからNに戻る。すると、制御分周器36aにおけるN+a分周がN分周に戻る。このように、再生クロックの位相が入力信号の位相より進んでいる場合には、制御分周器36aによるJ回のN+a分周によって再生クロックの位相が遅らせされる。
【0054】
ところで、上述したように、RFIDシステム1における応答器20内のPLL装置のフリーラン動作によって、応答器20から出力される応答信号の周波数が変動することがある。RFIDシステム1では、応答器20から出力される応答信号の周波数が中心周波数に対して最大±25%(0.8倍〜1.33倍)まで変動することが許容されている。すなわち、リーダライタ10におけるディジタルPLL装置30の入力信号の周波数が中心周波数に対して最大±25%まで変動することがある。この周波数変動±25%を位相変動に換算すると、±90度に相当する。
【0055】
しかしながら、本実施形態のディジタルPLL装置30によれば、制御分周部36内の制御分周器36aにおける分周比を定める制御信号の値には、周波数検出器34から出力される周波数信号の値が加算器35によって加算される。この周波数信号の値は入力信号の周波数値に応じた値であり、制御分周部36内の制御分周器36aにおける分周比の中心値Nは周波数信号の値によって定められるので、分周比の中心値Nによって定まる再生クロックと入力信号との周波数差が低減される。したがって、このディジタルPLL装置30によれば、入力信号の周波数が大きく変動しても、再生クロックのジッタを低減することが可能である。
【0056】
例えば、入力信号が中心周波数である場合に16分周され、a=1であるとすると、1/16分周を中心に1/15分周または、1/17分周で位相制御される。入力信号が中心周波数より高く、中心周波数の1.15倍である場合、1/14分周を中心に1/13分周または1/15分周で位相制御され、周波数差から換算されるジッタは±15度に抑えることができる。一方、入力信号が中心周波数より低く、中心周波数の0.85倍である場合、1/19分周を中心に1/18分周または1/20分周で位相制御され、周波数差から換算されるジッタは±15度に抑えることができる。
【0057】
ところで、一般にカウンタは、2、4、8、16、32など2のべき乗の回数をカウントする毎に出力パルスを出力するように構成すれば、回路の簡素化が図れる。
【0058】
そのため、制御分周器36aとしてプログラマブルカウンタが用いられる場合、制御分周器36aの分周比の中心値Nは2のべき乗の値であることが好ましい。ここで、分周比の中心値Nは周波数検出器34から出力される周波数信号の値Nであり、この周波数信号の値NはPビットカウンタ41のカウント数Nに相当する。したがって、Pビットカウンタ41では、2のべき乗の回数で入力信号をカウントすることが望ましい。また、Pビットカウンタ41のカウント数Nは、図4に示す入力信号の波形とPビットカウンタ41のカウント数との関係を考慮し、論理「1」の区間と論理「0」の区間とをともに把握できるカウント数にする必要性がある。
【0059】
具体的には、Pビットカウンタ41のカウント数がN=8である場合、Pビットカウンタ41では、入力信号における論理「1」の区間の一つのパルスのカウント数が2回であるので、入力信号におけるパルスの立ち上がりを確実に把握することができない可能性がある。一方、Pビットカウンタ41のカウント数がN=32である場合、Pビットカウンタ41では、入力信号における論理「1」の区間の一つのパルスのカウント数が8回であるので、入力信号におけるパルスの立ち上がりを確実に把握することができるが、カウント数が多くなることによって、周波数検出器34および制御分周器36aにおける消費電力が増大し、ディジタルPLL装置30全体としての消費電力が増大する可能性がある。
【0060】
そこで、本実施形態では、Pビットカウンタ41のカウント数N、すなわち制御分周器36aにおける分周比の中心値Nの中心値を16とすることによって、Pビットカウンタ41では、入力信号における論理「1」の区間の一つのパルスのカウント数が4回となり、入力信号におけるパルスの立ち上がりを確実に捕らえることができ、更に最小限のカウント数で入力信号の周期をカウントすることができ、ディジタルPLL装置30における消費電力が低減される。
【0061】
なお、本発明は上記した本実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。本実施形態では、本発明の利点を明確化するためにRFIDシステムへの適用例を示したが、本発明のディジタルPLL装置は様々なシステムに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】RFIDシステムの構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係るディジタルPLL装置の構成を示す回路図である。
【図3】周波数検出器を示す回路図である。
【図4】入力信号の波形を示す図である。
【図5】周波数検出器における各部信号波形を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1…RFIDシステム、10…リーダライタ、11…制御部、12…送信部、13…変調器、14…発振器、15…増幅器、16…サーキュレータ、17…アンテナ、18…復調器、19…受信部、20…応答器、21…アンテナ、22…共振部、23…電源部、24…変調・復調部、25…制御部、26…データ記憶部、30…ディジタルPLL装置、31…位相検出器、32…ランダムウォークフィルタ部(RWF部)、32a…ランダムウォークフィルタ(RWF)、32b…リセットホールド部、32c…リセット制御部、34…周波数検出器、35…加算器、36…制御分周部、36a…制御分周器、36b…固定分周器、41…Pビットカウンタ、42…1/2割算器、43…スイッチ、44〜46…Pビットラッチ部、47…加算器、48…1/4割算器、49…判定部、50〜53…コンパレータ、54…AND演算部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号に対する再生クロックの位相遅れ、位相進みを検出する位相検出器と、
前記位相検出器からの出力信号を積分し、積分値に応じて位相ずれ信号を発生するランダムウォークフィルタ部と、
前記入力信号の周波数値に応じた値を有する周波数信号を生成する周波数検出器と、
前記位相ずれ信号の値と前記周波数信号の値とを加算した値を有する制御信号を生成する加算器と、
前記制御信号の値を分周比として、マスタークロックを分周した前記再生クロックを生成する制御分周部と、
を備え、
前記制御分周部における前記分周比の中心値N(Nは自然数)は、前記周波数信号の値によって定められることを特徴とする、
ディジタルPLL装置。
【請求項2】
前記制御分周部における前記分周比の変更量+aまたは−a(aは自然数)は、前記位相ずれ信号の値によって定められ、
前記制御分周部は、前記分周比の中心値Nを+aずつ増加または−aずつ減少する、
ことを特徴とする請求項1に記載のディジタルPLL装置。
【請求項3】
前記分周比の変更量の絶対値aが1である、ことを特徴とする請求項2に記載のディジタルPLL装置。
【請求項4】
前記分周比の中心値Nの中心値が16である、ことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のディジタルPLL装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−251547(P2007−251547A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−71517(P2006−71517)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】