説明

ディスクブレーキ

【課題】良好な応答性を確保することができるディスクブレーキを提供する。
【解決手段】回転規制機構34Aがキャリア41(一方の出力部材)のピストン12の戻し方向の回転を規制し、インターナルギヤ46(他方の出力部材)が所定範囲回転して回転規制機構34Aに作用し、ピストン12を戻し方向に移動するようにモータ38がサンギヤ44(入力部材)を回転したとき、これに伴うインターナルギヤ46の回転によりキャリア41に対する回転規制機構34Aの回転規制を解除する。従来技術で推力の保持(自己保持)のため等に用いられるウォームギヤを用いずに駐車ブレーキを解除できる。このため、駐車ブレーキの解除を迅速に行え、駐車ブレーキ解除後の走行開始を迅速に行え、応答性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動に用いられるディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキでは、駐車ブレーキ機能を達成するためのブレーキ力の自己保持をウォーム減速機に持たせるように構成される場合がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−177532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術では、ブレーキ力の自己保持をウォーム減速機が担っているため、応答性が劣るという問題がある。
本発明は、良好な応答性を確保することができるディスクブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明は、ディスクを挟んでその両側に配置される一対のパッドと、前記一対のパッドのうち少なくとも一方をディスクに押し付けるピストンと、該ピストンが接触状態で移動可能に納められるシリンダを有して該シリンダへの液圧供給により前記ピストンを推進するキャリパ本体と、前記キャリパ本体に設けられる電動モータと、前記キャリパ本体に設けられ、前記電動モータの回転に基づいて前記ピストンを推進し、推進した該ピストンを駐車制動位置に保持させる駐車ブレーキ機構とを備えたディスクブレーキにおいて、前記駐車ブレーキ機構は、前記電動モータによる回転を増力する減速機構と、該減速機構の回転を直動に変換する回転直動変換機構と、前記減速機構の前記ピストンの戻し方向の回転を規制する回転規制機構と、を有し、前記減速機構は、前記モータからの入力を受けて回転する入力部材と、該入力部材の回転入力を増力した回転出力として互いに逆方向に回転する一対の出力部材と、を有し、該一対の出力部材および前記入力部材が同軸となった入出力同軸型減速機で構成され、前記一対の出力部材のいずれか一方の出力部材が前記回転直動変換機構に回転を伝達し、前記回転規制機構が前記一方の出力部材の前記ピストンの戻し方向の回転を規制し、前記一対の出力部材のいずれか他方の出力部材が所定範囲回転して前記回転規制機構に作用し、前記ピストンを戻し方向に移動するように前記モータが前記入力部材を回転したとき、これに伴う他方の出力部材の回転により前記一方の出力部材に対する前記回転規制機構の回転規制を解除することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1記載の発明によれば、ディスクブレーキの駐車ブレーキ機能の応答性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の第1実施形態に係るディスクブレーキの断面図である。
【図2】図1のディスクブレーキの部分断面図であり、(ア)は、図1のB−B矢示に沿う断面図、(イ)は、図1のA−A矢示に沿う断面図、(ウ)は、図1のC−C矢示に沿う断面図である。
【図3A】図1のディスクブレーキの作動を説明するための図であり、(ア1)は、ある作動状態におけるディスクブレーキの図1のB−B矢示に沿う断面図、(イ1)は、(ア1)に対応した図1のA−A矢示に沿う断面図、(ア2)は、(ア1)とは異なる作動状態におけるディスクブレーキの図1のB−B矢示に沿う断面図、(イ2)は、(ア2)に対応した図1のA−A矢示に沿う断面図、(ア3)は、(ア1)、(ア2)とは異なる作動状態におけるディスクブレーキの図1のB−B矢示に沿う断面図、(イ3)は、(ア3)に対応した図1のA−A矢示に沿う断面図である。
【図3B】図3Aに関連して図1のディスクブレーキの作動を説明するための図であり、(ア1)は、ある作動状態におけるディスクブレーキの図1のB−B矢示に沿う断面図、(イ1)は、(ア1)に対応した図1のA−A矢示に沿う断面図、(ア2)は、(ア1)とは異なる作動状態におけるディスクブレーキの図1のB−B矢示に沿う断面図、(イ2)は、(ア2)に対応した図1のA−A矢示に沿う断面図、(ア3)は、(ア1)、(ア2)とは異なる作動状態におけるディスクブレーキの図1のB−B矢示に沿う断面図、(イ3)は、(ア3)に対応した図1のA−A矢示に沿う断面図である。
【図3C】図3A、図3Bに関連して図1のディスクブレーキの作動を説明するための図であり、(ア1)は、ある作動状態におけるディスクブレーキの図1のB−B矢示に沿う断面図、(イ1)は、(ア1)に対応した図1のA−A矢示に沿う断面図、(ア2)は、(ア1)とは異なる作動状態におけるディスクブレーキの図1のB−B矢示に沿う断面図、(イ2)は、(ア2)に対応した図1のA−A矢示に沿う断面図、(ア3)は、(ア1)、(ア2)とは異なる作動状態におけるディスクブレーキの図1のB−B矢示に沿う断面図、(イ3)は、(ア3)に対応した図1のA−A矢示に沿う断面図である。
【図4A】本発明の第2実施形態に係るディスクブレーキの作動を説明するための図であり、(ア1)は、ある作動状態におけるディスクブレーキの参照される図1(以下、「参照される図1」に代えて単に「図1」という。)のB−B矢示に沿う断面図、(イ1)は、(ア1)に対応した図1のA−A矢示に沿う断面図、(ア2)は、(ア1)とは異なる作動状態におけるディスクブレーキの図1のB−B矢示に沿う断面図、(イ2)は、(ア2)に対応した図1のA−A矢示に沿う断面図、(ア3)は、(ア1)、(ア2)とは異なる作動状態におけるディスクブレーキの図1のB−B矢示に沿う断面図、(イ3)は、(ア3)に対応した図1のA−A矢示に沿う断面図である。
【図4B】図4Aに関連して第2実施形態に係るディスクブレーキ(図4A。図1参照)の作動を説明するための図であり、(ア1)は、ある作動状態におけるディスクブレーキの図1のB−B矢示に沿う断面図、(イ1)は、(ア1)に対応した図1のA−A矢示に沿う断面図、(ア2)は、(ア1)とは異なる作動状態におけるディスクブレーキの図1のB−B矢示に沿う断面図、(イ2)は、(ア2)に対応した図1のA−A矢示に沿う断面図、(ア3)は、(ア1)、(ア2)とは異なる作動状態におけるディスクブレーキの図1のB−B矢示に沿う断面図、(イ3)は、(ア3)に対応した図1のA−A矢示に沿う断面図である。
【図5A】本発明の第3実施形態に係るディスクブレーキの作動を説明するための図であり、(ア1)は、ある作動状態におけるディスクブレーキの参照される図1(以下、「参照される図1」に代えて単に「図1」という。)のB−B矢示に沿う断面図、(イ1)は、(ア1)に対応した図1のA−A矢示に沿う断面図、(ア2)は、(ア1)とは異なる作動状態におけるディスクブレーキの図1のB−B矢示に沿う断面図、(イ2)は、(ア2)に対応した図1のA−A矢示に沿う断面図、(ア3)は、(ア1)、(ア2)とは異なる作動状態におけるディスクブレーキの図1のB−B矢示に沿う断面図、(イ3)は、(ア3)に対応した図1のA−A矢示に沿う断面図である。
【図5B】図5Aに関連して第3実施形態に係るディスクブレーキ(図5A。図1参照)の作動を説明するための図であり、(ア1)は、ある作動状態におけるディスクブレーキの図1のB−B矢示に沿う断面図、(イ1)は、(ア1)に対応した図1のA−A矢示に沿う断面図、(ア2)は、(ア1)とは異なる作動状態におけるディスクブレーキの図1のB−B矢示に沿う断面図、(イ2)は、(ア2)に対応した図1のA−A矢示に沿う断面図、(ア3)は、(ア1)、(ア2)とは異なる作動状態におけるディスクブレーキの図1のB−B矢示に沿う断面図、(イ3)は、(ア3)に対応した図1のA−A矢示に沿う断面図である。
【図6】本発明の第4実施形態に係るディスクブレーキの断面図である。
【図7】図6のディスクブレーキの作動を説明するための図であり、(ア1)は、ある作動状態における図6のB−B矢示に沿う断面図、(イ1)は、(ア1)に対応した図6のA−A矢示に沿う断面図、(ア2)は、(ア1)とは異なる作動状態におけるディスクブレーキの図6のB−B矢示に沿う断面図、(イ2)は、(ア2)に対応した図6のA−A矢示に沿う断面図である。
【図8】本発明の第5実施形態に係るディスクブレーキの断面図である。
【図9】図8のシャッタを示す斜視図である。
【図10】図8のディスクブレーキが用いる部材を示す図であり、(ア)は図8のB−B線部分について、模式的に示す図であり、(エ)は図8のシャッタを示す平面図である。
【図11A】図8のディスクブレーキの作動を説明するための図であり、(ア1)は、ある作動状態におけるディスクブレーキの図8のB−B線部分について、模式的に示す図、(ア2)は、(ア1)とは異なる作動状態におけるディスクブレーキの図8のB−B線部分について、模式的に示す図、(ア3)は、(ア1)、(ア2)とは異なる作動状態におけるディスクブレーキの図8のB−B線部分について、模式的に示す図、(ア4)は、(ア1)、(ア2)、(ア3)とは異なる作動状態におけるディスクブレーキの図8のB−B線部分について、模式的に示す図、(ア5)は、(ア1)〜(ア4)とは異なる作動状態におけるディスクブレーキの図8のB−B線部分について、模式的に示す図、(ア6)は、(ア1)〜(ア5)とは異なる作動状態におけるディスクブレーキの図8のB−B線部分について、模式的に示す図である。
【図11B】図8のディスクブレーキの作動を説明するための図であり、(ア7)は、(ア1)〜(ア6)とは異なる作動状態におけるディスクブレーキの図8のB−B線部分について、模式的に示す図、(ア8)は、(ア1)〜(ア7)とは異なる作動状態におけるディスクブレーキの図8のB−B線部分について、模式的に示す図、(ア9)は、(ア1)〜(ア8)とは異なる作動状態におけるディスクブレーキの図8のB−B線部分について、模式的に示す図である。
【図12】本発明の第6実施形態に係るディスクブレーキの部分断面図である。
【図13】図12のシャッタを示す斜視図である。
【図14】第6実施形態(図12)の作動を説明するための図であり、(ア1)は、ある作動状態におけるディスクブレーキ(第6実施形態)の図12のB−B線部分について、模式的に示す図、(ア2)は、(ア1)とは異なる作動状態におけるディスクブレーキの図12のB−B線部分について、模式的に示す図である。
【図15】本発明の第7実施形態に係るディスクブレーキの部分断面図である。
【図16】第7実施形態(図15)の作動を説明するための図であり、(ア1)は、ある作動状態におけるディスクブレーキ(第7実施形態)の図15のB−B線部分について、模式的に示す図、(ア2)は、(ア1)とは異なる作動状態におけるディスクブレーキの図15のB−B線部分について、模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、第1の実施形態に係るディスクブレーキを図1、図2及び図3A〜図3Cに基づいて説明する。
図1及び図2に本実施形態に係るディスクブレーキ1を示す。図1、図2において、2,3は車両の回転部に取付けられたディスクロータ1Aを挟んで両側に配置された一対のブレーキパッド、4はキャリパである。本ディスクブレーキ1は、キャリパ浮動型として構成されている。前記一対のブレーキパッド2,3およびキャリパ4は、車両のナックル等の非回転部に固定されたキャリア5に、ディスクロータ1Aの軸方向へ移動可能に支持されている。
【0009】
キャリパ4の主体であるキャリパ本体6は、車両内側のブレーキパッドであるインナパッド2に対向する基端側にシリンダ部7が、車両外側のブレーキパッドであるアウタパッド3に対向する先端側に爪部8がそれぞれ形成されている。シリンダ部7には、インナパッド2側を開口部となし、他端が底壁9により閉じられた有底のシリンダ10が形成されている。このシリンダ10内には、ピストンシール11を介して接触状態で移動可能にピストン12が内装されている。
ピストン12は、カップ形状をなし、その底部がインナパッド2に対向するようにシリンダ10内に収められている。このピストン12とキャリパ本体6の底壁9との間は液圧室13として画成されている。この液圧室13には、シリンダ部7に設けた図示しないポートを通じて、マスタシリンダなどの図示しない液圧源から液圧が供給されるようになっている。なお、本実施形態では、液圧源としてマスタシリンダを例にして説明する。ピストン12は、その底面に設けた凹部14にインナパッド2の背面に設けた凸部15を係合させることにより回り止めされている。また、ピストン12の底部とキャリパ本体6との間には、シリンダ10内への異物の進入を防ぐダストブーツ16が介装されている。
【0010】
キャリパ本体6の液圧室13の底部側には、駐車ブレーキ機構34のハウジング35が取付けられている。ハウジング35には、電動モータの一例であるモータ38が設けられている。また、ハウジング35には、モータ38による回転を増力する平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36と、回転規制機構34Aとが設けられている。
【0011】
キャリパ本体6には、ボール−ランプ機構28とパッド摩耗調整機構17とが設けられている。ボール−ランプ機構28は、遊星歯車減速機構36を介してモータ38から受ける回転運動を直線方向の運動(以下、適宜、直線動又は直動という。)に変換してピストン12に付与し、ピストン12を移動させるようになっている。パッド摩耗調整機構17は、ブレーキパッド2,3の摩耗に応じてピストン12の位置を調整するようになっている。本実施形態では、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36が減速機構を構成している。また、ボール−ランプ機構28が回転直動変換機構を構成している。パッド摩耗調整機構17は、調整ナット18及びプッシュロッド19を備えている。調整ナット18は、ピストン12内に回転可能に嵌合され、ピストン12側に形成されたテーパ状の摩擦面20に摩擦係合する摩擦面21を有している、また調整ナット18は、皿ばね22及びスラストベアリング23によって、摩擦面21がピストン12の摩擦面20に押し付けられている。なお、調整ナット18の先端部は、ピストン12の底部に形成された室24に接触状態で移動可能でかつ気密的に嵌合されており、室24は、通路25及びダストブーツ16を介して大気に開放されている。
【0012】
プッシュロッド19は、一端部が調整ナット18に螺合し、他端部がリテーナ26によってシリンダ10の軸方向に移動可能に案内されて、その軸回りの回転が規制されている。プッシュロッド19は、コイルばね27のばね力がシリンダ10の底部側へ付与されることにより、回転直動変換機構としてのボール−ランプ機構28の回転直動プレート29側へ、スラストワッシャ30を介して押し付けられている。
調整ナット18とプッシュロッド19は多条ねじによって互いに螺合しており、回転及び直線運動(便宜上、適宜、直動という。)の変換が相互に可能となっている。多条ねじである調整ナット18とプッシュロッド19との間には、所定のビルトインクリアランスが設けられている。このため、調整ナット18とプッシュロッド19とは、相対回転することなく、ビルトインクリアランスの分だけ相互に直線移動できるようになっている。なお、コイルばね27のばね力は、皿ばね22のばね力よりも大きくなっている。
【0013】
ボール−ランプ機構28は、軸方向に移動可能で、かつ、軸回りに回転可能に支持された回転直動プレート29と、シリンダ10の底壁9によって軸方向に支持され、かつ、ピン31によって回り止めされた固定プレート32とを備えている。回転直動プレート29および固定プレート32の互いの対向面には、複数の円弧状の傾斜されたボール溝29A、32Aが形成されている。ボール溝29A、32A間に、それぞれ鋼球からなるボール33が装入されている。そして、回転直動プレート29を回転させると、ボール溝29A、32A間をボール33が転動することにより、回転直動プレート29が軸方向及び回転方向に移動するようになっている。なお、ボール溝29A、32Aは、傾斜を途中で変化させて構成しても良い。
【0014】
ボール−ランプ機構28の回転直動プレート29に連結された駆動軸39は、液圧室13の底部をシール40によって気密的に貫通して、ハウジング35内へ延ばされている。駆動軸39の先端部には、遊星歯車減速機構36のキャリア41がスプライン42によって軸方向に接触状態で移動可能でかつ回転不能に取り付けられている。本実施形態では、キャリア41が減速機構の回転体に相当する。
【0015】
遊星歯車減速機構36は、サンギヤ44、プラネタリギヤ45、インターナルギヤ46、およびキャリア41から構成される。サンギヤ44は、平歯多段減速機構37の第2減速ギヤ43の先端部に形成されて本実施形態における入力部材として構成されている。プラネタリギヤ45は、サンギヤ44と噛み合い、サンギヤ44の周囲に複数配置されている。インターナルギヤ46は、複数のプラネタリギヤ45それぞれと噛み合い、複数のプラネタリギヤ45の外周側に配置されて本実施形態における他方の出力部材として構成されている。前述のキャリア41は、本実施形態における一方の出力部材として構成されている。プラネタリギヤ45は、キャリア41に固定されたピン47によって、回転可能に支持されている。インターナルギヤ46は、カラー48、リテーナ49により、ハウジング35に対して回転可能かつ軸方向接触状態で移動不可に支持されている。キャリア41は、サンギヤ44および駆動軸39の間に介在されたワッシャ50およびリテーナ49によって軸方向の移動を規制される。
【0016】
次に回転規制機構34Aについて説明する。
インターナルギヤ46には、第1凸部51、第2凸部52が形成され、それぞれキャリア41と軸方向に同じ位置まで突出している。ハウジング35には、キャリア41の外周側に固定ピン53が配置され、この固定ピン53に対し、係止部材の一例であるレバー54が回転可能に支持されている。レバー54には、ツメ部55が形成されている。図2(ア)に示される非駐車ブレーキ状態から、インターナルギヤ46が時計回りに回転して第1凸部51に接触すると、ツメ部55は反時計回りに回転し、キャリア41に接触する。一方、インターナルギヤ46が反時計回りに回転して、第2凸部52がツメ部55に接触すると、ツメ部55は時計回りに回転し、ハウジング35に接触する。
【0017】
第1凸部51と第2凸部52は、ツメ部55に対して所定のガタ区間を持って形成されており、ガタ区間において第1凸部51と第2凸部52はどちらもツメ部55には接触しないようになっている。レバー54は、第1凸部51、第2凸部52の両方とも接触していない状態では、レバー54とハウジング35の間にあるコイルばね56によってハウジング35に接触するよう、セット荷重が付与されている。
キャリア41の外周部には、ツメ部55と係合する複数のラチェット歯57が形成されており、ツメ部55がキャリア41に接触する位置にある場合、ツメ部55とラチェット歯57が噛み合うようになっている。また、ツメ部55とラチェット歯57の噛み合い部は、キャリア41の図2(ア)の時計方向への回転は規制するが、反時計方向へはラチェット歯57でツメ部55を押し上げ、回転できるよう形成されている。
【0018】
平歯多段減速機構37は、ピニオンギヤ59、第1減速ギヤ60、及び第2減速ギヤ43から構成されている。ピニオンギヤ59は、モータ38のシャフト58に圧入されている。第1減速ギヤ60は、ピニオンギヤ59に噛み合う大歯車60Aと大歯車60Aから軸方向にずれた小歯車60Bとが一体に形成されている。第2減速ギヤ43は、第1減速ギヤ60の小歯車60Bに噛み合う大歯車43Aと遊星歯車減速機構36のサンギヤ44が一体に形成されている。第1減速ギヤ60は、ハウジング35およびカバー61に固定された第1シャフト62によって回転可能に支持されている。また、第2減速ギヤ43はカバー61に固定された第2シャフト63によって回転可能に支持されている。
【0019】
前記モータ38には、該モータ38を駆動制御する制御手段である電子制御装置からなるECU70が接続されている。また、ECU70には、駐車ブレーキの作動・解除を指示するべく操作されるパーキングスイッチ71が接続されている。
【0020】
以上のように構成した本実施形態の作用について次に説明する。
まずディスクブレーキ1の液圧ブレーキとしての作動について説明する。
前記マスタシリンダ(図示せず)から液圧室13へ液圧を供給すると、ピストン12がピストンシール11を撓ませながら前進して、一方のブレーキパッド2をディスクロータ1Aに押し付け、その反力によってキャリパ4を移動させ、爪部8を介して他方のブレーキパッド3をディスクロータ1Aに押し付ける。これにより、ブレーキパッド2,3によってディスクロータ1Aを挟みつけて制動力を発生させる。前記マスタシリンダからの液圧を解除すると、ピストンシール11の弾性によってピストン12が原位置まで後退して、制動が解除される。ブレーキパッド2,3が摩耗してピストン12の移動量が大きくなると、ピストン12とピストンシール11との間に滑りが生じることによって、ピストン12の原位置を移動させて、パッドクリアランスを一定に調整する。
【0021】
次に、駐車ブレーキ機構34の作動を図1、図2及び図3A〜図3Cに基づいて説明する。
図3A(ア1)、(イ1)は、駐車ブレーキ解除状態となる駐車ブレーキのリリース状態を示している図である。この状態からパーキングスイッチ71が操作されて駐車ブレーキ作動時となる駐車ブレーキをアプライする時には、ECU70によりモータ38が駆動されて平歯多段減速機構37、遊星歯車減速機構36が回転する。これにより、キャリア41が反時計方向へ回動するようトルクが付与される。ここで、ボール−ランプ機構28はコイルばね27によって軸力が付与されているため、所定のトルクが付与されるまでは、回転直動プレート29は回動しないようになっている。このため、回転直動プレート29に駆動軸39を介して接続されているキャリア41は回転せず、キャリア41の反力を受けるインターナルギヤ46がサンギヤ44の回転により時計方向に回転することになる。
【0022】
さらにサンギヤ44の回転が進むと、図3A(ア2)、(イ2)に示すように、インターナルギヤ46の第1凸部51がレバー54のツメ部55に接触する。ここで、駐車ブレーキにおいて必要とする制動力Fを発生するより前に、ツメ部55とラチェット歯57が噛み合う位置〔図3A(ア3)、(イ3)〕になるようレバー54を回転させる。このことを達成するために、本実施形態では、レバー54に作用する固定ピン53回りのモーメント等に基づいて設定される以下の条件式(2)を満たすよう、各部品形状およびコイルばね56のセット荷重を定めている。なお、式(2)は基本式である式(1)を変形したものである。
【0023】
c≦Fa … (1)
{aL/(2πbη)}{η/(1+η)}F−Fc≧0 … (2)
ここで、条件式中の各符号は以下の内容を示している。
:コイルばね56の力
:第1凸部51からツメ部55に加わる力
a:Fに垂直で、第1凸部51接触部から固定ピン53中心までの距離
b:Fに垂直で、キャリア41中心から第1凸部51接触部までの距離
c:Fに垂直で、コイルばね56の中心から固定ピン53中心までの距離
L:ボール−ランプ機構28のリード
η:ボールランプ機構28の機械効率
η:遊星歯車減速機構36における、歯車の噛み合い効率
:サンギヤ44とインターナルギヤ46の歯数比(>0 )
【0024】
上述したレバー54の回転により、キャリア41とツメ部55が接触後、さらにモータ38を駆動してサンギヤ44を回転させると、図3A(ア3)、(イ3)に示すようにラチェット歯57がツメ部55に接触する。ここで、ラチェット歯57がレバー54を押し上げ、図3B(ア1)、(イ1)に示すように反時計方向へ回転していくように設定している。このことを達成するために、本実施形態では、レバー54に作用する固定ピン53回りのモーメント等に基づいて設定される以下の条件式(4)を満たすようにしている。なお、式(4)は基本式である式(3)を変形したものである。
【0025】
m+Fh+Fg≧Ff … (3)
m+{L/(2πη)}〔(h+μg)/(j・sink)−{f/(d・cose)}{η/(1+η)}〕F≧0 … (4)
【0026】
ここで、条件式中の各符号は以下の内容を示している。
: ラチェット歯57からツメ部55に加わる力
: ラチェット歯57とツメ部55の接触部における摩擦力
d: 第1凸部51接触部とキャリア41中心までの距離
e: 第1凸部51接触部−キャリア41中心間の線分に対して垂直な線とFのベクトル方向とのなす角
f:Fに垂直で、第1凸部51接触部から固定ピン53中心までの距離
g:Fに垂直で、ラチェット歯57接触部から固定ピン53中心までの距離
h:Fに垂直で、ラチェット歯57接触部から固定ピン53中心までの距離
j: ラチェット歯57とツメ部55との接触部からキャリア41中心までの距離
k: ラチェット歯57接触部−キャリア41中心間の線分に対して垂直な線とFのベクトル方向との
なす角
m:Fに垂直で、コイルばね56の中心から固定ピン53中心までの距離
μ:ラチェット歯57とツメ部55の接触部における摩擦係数
【0027】
上記レバー54の回転により必要な制動力Fに達した後、モータ38への通電を減少させていくと、制動力による反力により、ボール−ランプ機構28は逆回転しようとする。このため駆動軸39を通じ、キャリア41は減力方向(時計方向)にトルクがかかって回転する。しかし、まだレバー54がキャリア41に接触しているため、ツメ部55とラチェット歯57が接触してキャリア41が停止して制動力を保持する〔図3B(ア2)、(イ2)〕。ここで、モータ38への通電停止後も、ツメ部55とラチェット歯57が噛み合いを保持するには、次の条件式(6)を満たせばよい。なお、式(6)は基本式である式(5)を変形したものである。
【0028】
q+Fr≧Fm … (5)
{L/(2πnη・cosp)} (q+μr)F−Fm≧0 … (6)
【0029】
ここで、条件式中の各符号は以下の内容を示している。
: ラチェット歯57とツメ部55の接触部に加わる力
: ラチェット歯57とツメ部55の接触部における摩擦力
n: ラチェット歯57とツメ部55の接触部からキャリア41中心までの距離
p: ラチェット歯57接触部−キャリア41中心間の線分に対して垂直な線とFのベクトル方向とのなす角
q:Fに垂直で、ラチェット歯57接触部から固定ピン53中心までの距離
r :Fに垂直で、ラチェット歯57接触部から固定ピン53中心までの距離
μ: ラチェット歯57とツメ部55の接触部における摩擦係数
【0030】
なお、必要な推力に達したかどうかの判定は、モータ38への電流モニタ値(モータ38に実際に流れている電流)によりECU70が判断する。例えば、必要推力に対する電流しきい値を超えたかどうかで判定している。なお、上記判断は、ラチェット歯57乗り越え時の電流変化をカウントし、必要推力を発生する位置に対応するカウント値まで到達したかどうかで判定するようにしても良い。
【0031】
次に、駐車ブレーキ作動状態からパーキングスイッチ71が操作されて駐車ブレーキ解除、すなわち駐車ブレーキをリリースさせるときは、ECU70は、モータ38をアプライ時と反対方向へ回転させるようにモータ38へ通電する。このとき、キャリア41には時計方向へトルクが加わるが、レバー54で係止されているため回転しない。一方、インターナルギヤ46は、キャリア41のレバー54による係止トルクを反力として反時計方向に回転し、図3B(ア3)、(イ3)に示すように第2凸部52がツメ部55に接触する。ここで図3C(ア1)、(イ1)に示すように、第2凸部52がツメ部55を押し上げ、ラチェット歯57との係合を外す。このことを達成するために、本実施形態では、レバー54に作用する固定ピン53回りのモーメント等に基づいて設定される以下の条件式(8)、(9)を満たすようにしている。
まずレバー54の固定ピン53まわりのモーメントについて、条件式(8)を満たすようにしている。なお、式(8)は基本式である式(7)を変形したものである。
【0032】
m+Fu≧Fg+Fr … (7)
(2πηm/L)F+{u/(s・cost)}{η/(1+η)}F´
−{(q+μr)/(n・cosp)}{F´+F}≧0 … (8)
【0033】
さらに、モータ38および駐車ブレーキ機構34で発生できる最大の制動力をFmaxとし、条件式(9)を満たすようにしている。
【0034】
max≧F´ ・・・ (9)
【0035】
ここで、条件式中の各符号は以下の内容を示している。
:第2凸部52とツメ部55の接触部に加わる力
s:第2凸部52とツメ部55の接触部からキャリア41中心までの距離
t:第2凸部52接触部−キャリア41中心間の線分に対して垂直な線とFのベクトル方向とのなす角
u:Fに垂直で、第2凸部52接触部から固定ピン53中心までの距離
F´:モータ38にて、レバー54の係合を解除するため出したトルクの絶対値を、推力として換算した等価推力
F:リリース前に発生していた推力
【0036】
レバー54の係合が解除されると、インターナルギヤ46は回転方向にフリーとなり、遊星歯車減速機構38は減速機として機能せず、第1凸部51とツメ部55が接触するまで、インターナルギヤ46とキャリア41はどちらも時計方向へ回転する〔図3C(ア2)、(イ2)〕。例えば、モータ38の回転によるサンギヤ44の回転速度、制動反力によるボール−ランプ機構28からの回転速度が同じであれば、インターナルギヤ46も同じ回転速度となり、減速比は1/1となる。このように、インターナルギヤ46を回転方向にフリーにし、あたかも減速比を落としたかのように作動させることで、モータ38の回転速度を上げることなく、リリース時の作動時間を短縮させることができる。そして、第1凸部51とツメ部55が接触した後は、遊星歯車減速機構36は所定の減速比で作動し〔図3C(ア3)、(イ3)〕、ボール−ランプ機構28が初期位置〔図3A(ア1)、(イ1)〕まで戻り、リリース動作が完了する。
【0037】
本実施形態では、回転規制機構34Aがキャリア41(一方の出力部材)のピストン12の戻し方向の回転を規制し、インターナルギヤ46(他方の出力部材)が所定範囲回転して回転規制機構34Aに作用し、ピストン12を戻し方向に移動するようにモータ38がサンギヤ44(入力部材)を回転したとき、これに伴うインターナルギヤ46の回転によりキャリア41に対する回転規制機構34Aの回転規制を解除する。従来技術で推力の保持(自己保持)のため等に用いられるような機械効率が悪く、減速比が大きいままで一定であるウォームギヤを用いることなく、駐車ブレーキを解除することができる。このため、駐車ブレーキの解除を迅速に行え、運転者の操作に対する応答性が向上する。したがって、駐車ブレーキ解除後の走行開始を迅速に行うことができる。
【0038】
モータ38への通電停止は、モータ38への電流モニタ値により判断する。このモータ38への通電停止の判断に対し、次の(i)〜(iii)項に記載の方策を講じることが考えられる。
(i)ボール−ランプ機構28の初期位置における電流しきい値を用いて判定する。
(ii)第2凸部52とツメ部55接触までのガタ区間において、電流変化値があるしきい値以下(変化しない)になったかどうかで判定する。
(iii)第2凸部52とツメ部55の接触により、電流変化値があるしきい値以上になったかどうかで判定する。
【0039】
本実施形態では、回転規制機構34Aに遊星歯車減速機構36を組み合わせて用いているが、遊星歯車減速機構36に代えて、サイクロ減速機、ボール減速機、ハーモニックドライブなど、他の公知の減速機構(同軸上に3つの入出力軸があり)を用いてもよい。
【0040】
本実施形態では、回転規制機構34Aをラチェット機構で構成しており、推力保持するため、推力を発生する機構には効率の良い機構を使える、即ち、省エネを図ることができる。このため、従来品と同等のモータを用いるとすると、従来品に比べ減速比は小さくすることができる。ここで、同等の応答速度で作動すると、モータの回転速度は低くて良いため、従来品に比べギヤの作動音を小さくできる。減速比を従来品と同じく大きいままとするなら、従来品に比べモータを小形化することが可能である。
【0041】
また、本実施形態では、回転規制機構34Aをラチェット機構で構成しているが、これに代えて、1wayクラッチで用いるようなスプラグ等のコマないし円筒の機構で回転規制機構を構成してもよい。
【0042】
次に、本発明の第2実施形態を図4A、図4Bに基づき、図1、図2、図3A〜図3Cを参照して説明する。
第2実施形態は、第1実施形態に比して、第1実施形態が用いた回転規制機構34Aと異なる構成の回転規制機構34Bを採用したことが主に異なっている。
図4A、図4Bにおいて、第2実施形態の回転規制機構34Bが有するレバー101は、ハウジング104に固定されたピン102に回転可能に支持されており、かつトーションばね103により、ツメ部105をキャリア41へ押し付けるよう力が付与されている。インターナルギヤ46に形成された第1凸部51は、インターナルギヤ46が時計回りに回転すると、ハウジングの凸部104Aと接触する。一方、第2凸部52は、インターナルギヤ46が反時計回りに回転するとツメ部105に接触し、ツメ部105がハウジング104の凸部104Aに接触するまで回転を許容する。なお、ツメ部105と、キャリア41に形成されたラチェット歯57の噛み合いは、第1実施形態の場合と同様に、キャリア41の時計方向への回転は規制するが、反時計方向へはラチェット歯57でツメ部105を押し上げ、回転できるよう形成されている。
【0043】
次に、回転規制機構34Bの作動を説明する。
図4A(ア1)、(イ1)は、駐車ブレーキ解除状態となるリリース状態を示した図である。駐車ブレーキ作動時であるアプライ時は、モータ38によって平歯多段減速機構37、遊星歯車減速機構36が回転し、キャリア41が反時計方向へ回動するようトルクが付与される。ここで、ボール−ランプ機構28はコイルばね27によって軸力が付与されているため、所定のトルクが付与されるまでは、回転直動プレート29は回動しないようになっている。このため、回転直動プレート29に駆動軸39を介して接続されているキャリア41は回転せず、キャリア41の反力を受けるインターナルギヤ46がサンギヤ44の回転により時計方向に回転することになる。その後、第1凸部51がハウジング104の凸部104Aに接触し、これを反力として、今度はキャリア41が反時計方向へ回転する。
【0044】
さらにサンギヤ44の回転が進むと、図4A(ア2)、(イ2)に示すようにラチェット歯57がツメ部105に接触する。ここで、ラチェット歯57がレバー101を押し上げるために必要な力は、基本的にトーションばね103をたわませる力のみであるため、第1実施形態の場合と同様に、インターナルギヤ46のトルク、発生推力に関係することなく、常に一定である。よって、アプライ時のモータ38からの伝達効率をさらに向上させることができる。
【0045】
必要な制動力に達した後、モータ38への通電を停止させると、制動力による反力により、ボール−ランプ機構28は逆回転しようとする。このため駆動軸39を通じ、キャリア41は減力方向(図中時計方向)へ回転するが、図4A(ア3)、(イ3)に示すようにツメ部105とラチェット歯57がかみ合い、制動力を保持する。ここで駐車ブレーキのアプライが完了して駐車ブレーキ作動状態となる。
【0046】
駐車ブレーキを解除する駐車ブレーキのリリース時は、第1実施形態の場合と同様に、モータ38をアプライ時と反対方向へ回転させると、図4B(ア1)、(イ1)に示すように、第2凸部52がツメ部105を押し上げ、ラチェット歯57との係合を外す。
なお、ツメ部105がラチェット歯57から外れるための条件は基本的に第1実施形態の場合と同様である。
【0047】
次にレバー101の係合が解除されると、第1実施形態の場合と同様に、キャリア41と共にインターナルギヤ46は時計方向へ回転するため、再び第2凸部52がツメ部105と離間し、レバー101がキャリア41に接触する。もしここでラチェット歯57があれば、再度ツメ部105とラチェット歯57がかみ合う。このツメ部係合ないし解除の動作を、ラチェット歯57の形成されてない位置まで繰り返しながら、ボール−ランプ機構28を初期位置まで戻す〔図4B(ア2)、(イ2)〜(6)〕。なお、モータ38に十分な出力があれば、常時第2凸部52を接触させ、レバー101を押し上げておくこともできる。
この第2実施形態も、前記第1実施形態と同様に、駐車ブレーキの解除を迅速に行え、運転者の操作に対する応答性が向上して、駐車ブレーキ解除後の走行開始を迅速に行うことができる。
【0048】
次に、本発明の第3実施形態を図5A、図5Bに基づき、図1、図2、図3A〜図3C、図4A、図4Bを参照して説明する。
第3実施形態は、第1実施形態に比して、第1実施形態が用いた回転規制機構34Aと異なる構成の回転規制機構34Cを採用したことが異なっている。
図5A、図5Bにおいて、インターナルギヤ201には、第1凸部202、第2凸部203が形成され、それぞれキャリア41と軸方向に同じ位置まで突出している。第1凸部には、ハウジング204の凸部204Aと接触して回転を規制されるストッパ部202A、およびトーションばね205の一端と接触する押付部202Bが一体に形成されている。トーションばね205の巻線部はハウジング204に圧入固定されたピン206に支持され、もう一端はレバー207と接触している。
【0049】
なお、駐車ブレーキのリリース時〔図5A(ア1)、(イ1)〕においては、押付部202B側にあるトーションばね205の腕部がハウジング凸部204Aに接触しているため、一端は押付部202Bとは離間している。よって、トーションばね205は、あるセットトルクをもってハウジング凸部204A とレバー207の間に配置され、かつレバー207をキャリア41側へ回転させるよう力を付与している。レバー207はハウジング204に固定されたピン208に回転可能に支持されており、かつコイルばね209により、ツメ部207Aをハウジング204へ押し付けるようセット荷重が与えられている。レバー207に加わるピン208回りのモーメントは、リリース時において、コイルばね209によるモーメントの方がトーションばね205によるモーメントより大きく、レバー207はハウジングへ接触した状態にいる。
しかし、インターナルギヤ201が時計方向へ回転し、ストッパ部202Aがハウジング凸部204Aと接触する位置まで進むと、トーションばね205によるモーメントの方がコイルばね209によるモーメントより大きくなり、レバー207をキャリア41側へ接触させる。
【0050】
次に、作動を説明する。
図5A(ア1)、(イ1)は駐車ブレーキ解除状態である駐車ブレーキのリリース状態を示した図である。この状態からパーキングスイッチ71が操作されて駐車ブレーキ作動時となる駐車ブレーキをアプライする時には、ECU70によりモータ38が駆動されて平歯多段減速機構37、遊星歯車減速機構36が回転する。これにより、キャリア41が反時計方向へ回動するようトルクが付与される。ここで、ボール−ランプ機構28はコイルばね27によって軸力が付与されているため、所定のトルクが付与されるまでは、回転直動プレート29は回動しないようになっている。このため、回転直動プレート29に駆動軸39を介して接続されているキャリア41は回転せず、キャリア41の反力を受けるインターナルギヤ46がサンギヤ44の回転により時計方向に回転することになる。
その後、第1凸部202のストッパ部202Aがハウジング204の凸部204Aに接触し、これを反力として、今度はキャリア41が反時計方向へ回転する。ここで、レバー207はキャリア41側へ回転、接触する。
【0051】
さらに回転させると、図5A(ア2)、(イ2)に示すようにラチェット歯57がツメ部207Aに接触する。ここで、ラチェット歯57がレバー207を押し上げるために必要な力は、基本的にトーションばね205をたわませる力のみであるため、第1実施形態の場合と同様に、インターナルギヤ46のトルク、発生推力に関係することなく、常に一定である。よって、第2実施形態の場合と同様に、アプライ時の効率をさらに向上させることができる。
【0052】
必要な制動力に達した後、モータ38への通電を停止させると、制動力による反力により、ボール−ランプ機構28は逆回転しようとする。このため駆動軸39を通じ、キャリア41は減力方向(時計方向)へ回転するが、図5A(ア3)、(イ3)に示すようにツメ部207Aとラチェット歯57がかみ合い、制動力を保持する。ここで駐車ブレーキのアプライが完了する。
【0053】
駐車ブレーキの解除で駐車ブレーキをリリースさせるときは、第1、第2実施形態の場合と同様に、モータ38をアプライ時と反対方向へ回転させ、第2凸部203によりツメ部207Aを押し上げ、ラチェット歯57との係合を外す〔図5B(ア1)、(イ1)〕。なお、ツメ部207Aがラチェット歯57から外れるための条件は第1実施形態と同等である。
【0054】
レバー207の係合が解除されると、インターナルギヤ201は回転方向にフリーとなり、遊星歯車減速機構38は減速機として機能せず、第1実施形態の場合と同様に、第1凸部202のストッパ部202Aとハウジング204の凸部204Aが接触するまで、インターナルギヤ201とキャリア41はどちらも時計方向へ回転する〔図5B(ア2)、(イ2)〕。このように、可撓部材であるトーションばね205を追加することで、変形例1に示したアプライ時の高効率化と、第1実施形態において示した駐車ブレーキのリリース時すなわち駐車ブレーキ解除時の応答性向上を、同時に達成することができる。
【0055】
次に、本発明の第4実施形態を図6、図7に基づいて説明する。
第4実施形態は、第1実施形態に比して、第1実施形態が用いたボール−ランプ機構(回転直動変換機構)に代えてボールねじ機構301を設けたこと、回転規制機構34Aに組み合わせる減速機構として差動歯車減速機構302、モータ38から差動歯車減速機構302へトルクを伝達・増幅する機構としてベルト減速機構303を用いたことが主に異なっている。第4実施形態では、第1実施形態の回転規制機構34Aと異なる回転規制機構を用いているが、便宜上、同等の符号34Aを用いて説明する。
図6、図7において、ボールねじ機構301は、ピストン12に対し回転不能に収納されたナット304と、シリンダ10に対し回転可能なロッド305と、これらの互いの対向面に形成されたボール溝304A、305A間に装入された、転動体である複数のボール306とを備えている。ナットはピストン12に対し、図6の差動歯車減速機構302側(図中右方向)へは接触状態で移動可能だが、ディスクロータ1A側(図中左方向)へは肩部304Bが接触するようになっている。ロッド305はニードルスラスト軸受307、ワッシャ308を介し、シリンダ10へピストン12からの推力を受けるようになっている。またロッド305は、ボールスラスト軸受309、カップ310および止め輪311を介しシリンダ10に回転可能に取り付けられる。
【0056】
差動歯車減速機構302は、偏心軸312と、偏心軸312の偏心部313に回転可能に嵌合されて2つの外歯314A、314Bを有するリング状の平歯車314と、平歯車314の一方の外歯314Aに噛合う内歯315Aを有する回転ディスク315と、平歯車314の他方の外歯314Bに噛合う内歯316Aを有する回転ディスク316とを備えている。回転ディスク315と回転ディスク316は、それぞれ偏心軸312の回転軸に対し、回転可能に支持されている。なお偏心軸312の一端は、ベルト減速機構303側へ延ばされて、その先端部にキー317を介し、大プーリ318が回転不能に挿入されている。なお、回転ディスク315および偏心軸312は、軸受319、320を介し、シリンダ10と一体に形成されたハウジング324に回転可能に支持されている。回転ディスク315は、中心部においてロッド305の駆動軸321とスプライン等により回転不能に結合されている。
【0057】
本構成による動作は一般的な遊星減速機構と同一であり、偏心軸312を回転させると、回転ディスク315と回転ディスク316は互いに異なる方向へ、所定の減速比にて回転する。この構成によれば、第1実施形態に示す遊星歯車減速機構より大きな減速比を得られつつも、部品点数が少なくてよいため、低コスト化に有利である。
【0058】
ベルト減速機構303は、モータ38のシャフト58に圧入された小プーリ322、大プーリ318と小プーリ322の間に掛けられたベルト323から構成される。なおベルト323は、Vベルト、歯付きベルトなど、公知のベルトなら何でも可である。これより、モータ38の作動により小プーリ322が回転すると、所定の減速比(小プーリ322と大プーリ318の直径の比)で大プーリ318が回転する。
【0059】
回転規制機構34Aは、図7(ア1)〔図6のB−B矢示に沿う断面〕、(イ1)〔図6のA−A矢示に沿う断面〕、(ア2)〔図6のB−B矢示に沿う断面〕、(イ2)〔図6のA−A矢示に沿う断面〕において、ハウジング324に固定されたピン325に対し回転可能に支持されたレバー326と、レバー326のツメ部326Aをハウジング324側へ力を付与するコイルばね327とを備えている。回転ディスク315(第1ディスク)の外周にはラチェット部315Bが形成され、ツメ部326Aが回転ディスク315側へ移動した際は、ツメ部326Aとかみ合う形状となっている。なお、このかみ合いは、回転ディスク315が反時計方向へ回転するのを規制するが、時計方向へはツメ部326Aを押し上げ、回転できるようになっている。レバー326には解除ピン326Bおよび係合ピン326Cが形成され、回転ディスク316(第2ディスク)の外周側まで伸ばされている。回転ディスク316の外周には、ピン接触部316Bが形成されている。
【0060】
ここで、回転ディスク316が時計方向へ回転すると、ピン接触部316Bの斜面で解除ピン326Bを押し、ツメ部326Aとラチェット部315Bの係合を解除し、ハウジング324側へ回転させるようになっている〔図7(ア1)、(イ1)〕。一方、回転ディスク316を反時計方向へ回転させると、今度はピン接触部316Bで係合ピン326Cを押し、ツメ部326Aをラチェット部315Bとかみ合う位置へ回転させる〔図7(ア2)、(イ2)〕。
【0061】
第4実施形態では、回転ディスク315およびラチェット部315Bが、第1実施形態のキャリア41およびラチェット部57に相当している。また、第4実施形態では、回転ディスク316のピン接触部316Bと、レバー326の解除ピン326Bとの接触が、第1実施形態におけるインターナルギヤ46の第2凸部52と、レバー54のツメ部55との接触に相当している。さらに、第4実施形態では、回転ディスク316のピン接触部316Bと、レバー326の係合ピン326Cとの接触が、第1実施形態におけるインターナルギヤ46の第1凸部51と、レバー54のツメ部55との接触に相当している。
【0062】
第4実施形態によれば、回転直動変換機構をボールねじ機構301のみとしたため、第1実施形態で用いられるようなパッド摩耗追従機構が不要となり、部品点数が少なくて製造が容易になる。また、特に軸方向において、コンパクトに構成することができ、ディスクブレーキの小型化を図ることができる。なお、第4実施形態ではボールねじを用いたが、精密ローラねじ等、他の公知の高効率連続ねじを用いても良い。
【0063】
次に、本発明の第5実施形態に係るディスクブレーキを図8、図9、図10、図11A、図11Bに基づき、第1実施形態(図1)を参照して、説明する。なお、第5実施形態に係るディスクブレーキにおける第1実施形態に係るディスクブレーキと同等部分についての説明は、適宜、省略する。
【0064】
第5実施形態では、図8に示すように、キャリア41の隣に、接触しないがごく近接してシャッタ80が配置されている。シャッタ80は、シリンダ部7の底壁9に固定されたスリーブ81によって回転可能に支持されている。シャッタ80とシリンダ部7の底壁9の間には皿ばね82が介在されており、シャッタ80をスリーブ81のフランジ部81Aへ付勢している。このため、シャッタ80の回転に対して、ある一定の抵抗(適宜、回転抵抗とも言う。)が付与されている。
【0065】
シャッタ80は、図9及び図10(エ)に示すように、中央部に孔(符号省略)が形成された段差を持った円板状のシャッタ本体80Hと、シャッタ本体80Hの外周に形成された複数の凸部80Aと、から大略構成されている。凸部80Aは、シャッタ本体80Hの径方向外方に延びて形成されている。
本実施形態では、凸部80Aが、あるラチェット歯57と隣り合うラチェット歯57の間にできる谷部57Aに位置するとき、谷部57Aが軸方向に隠れるようになっている。換言すれば凸部80Aが谷部57Aに対して軸方向〔図10(ア)紙面表裏方向〕に重なるようになっている。
【0066】
また、シャッタ80のシャッタ本体80Hには、複数の長穴80Bが形成されている。この長穴80Bには、キャリア41に固定されたピン47の頭部47Aが、所謂ガタ分が形成された状態で入るようになっている。これより、シャッタ80はキャリア41に対し、長穴80Bとピン47の頭部47Aのガタ分だけ、相対的に回転できるようになっている。ここで、図10(ア)において、キャリア41に対しシャッタ80が時計回りに回転すると、凸部80Aは谷部57Aと重なり(換言すれば谷部57Aに臨み)、谷部57Aが隠れる位置となる。反対に、キャリア41に対しシャッタ80が反時計回りに回転すると、凸部80Aはラチェット歯57と重なり、谷部57Aが現れるようになっている。
【0067】
なお、前記頭部47Aと共に、ピン47を構成する軸部を以下、便宜上、適宜、ピン軸部47Bという。
前記図10(ア)は、図8のB−B線部分を図8右から左方向に見たときの模式図である。そして、図10(ア)において、ピン47の頭部47Aは紙面向こう側に配置され、これに対してキャリア41は、紙面手前側に配置されている。
なお、レバー54のツメ部55は、キャリア41のラチェット歯57、およびシャッタ80の凸部80Aの両方に当接するよう、軸方向の幅が決められている。
【0068】
以上のように構成した本第5実施形態の作用について次に説明する。
第5実施形態では、ディスクブレーキ1の液圧ブレーキとしての作動は、前記第1実施形態と同等に行われる。
【0069】
第5実施形態における駐車ブレーキ機構34の作動を図11A及び図11Bに基づいて説明する。
図11A (ア1)は、駐車ブレーキ解除状態となる駐車ブレーキのリリース状態を示している図である。この状態からパーキングスイッチ71が操作されて駐車ブレーキ作動時となる駐車ブレーキをアプライする時には、ECU70によりモータ38が駆動されて平歯多段減速機構37、遊星歯車減速機構36が回転する。これにより、キャリア41が反時計方向へ回動するようトルクが付与される。ここで、ボール−ランプ機構28はコイルばね27によって軸力が付与されているため、所定のトルクが付与されるまでは、回転直動プレート29は回動しないようになっている。このため、回転直動プレート29に駆動軸39を介して接続されているキャリア41は回転せず、キャリア41の反力を受けるインターナルギヤ46がサンギヤ44の回転により時計方向に回転することになる。
【0070】
さらにサンギヤ44の回転が進むと、図11A(ア2)に示すように、インターナルギヤ46の第1凸部51がレバー54のツメ部55に接触する。ここで、レバー54を回転させるトルクより、ボール‐ランプ機構28を回転させるトルクの方が小さくなるようセットしてあるので、今度はインターナルギヤ46が停止し、キャリア41が反時計方向に回転する。このとき、シャッタ80は皿ばね82によって回転抵抗を与えられているため、図11A(ア3)のように、シャッタ80は回転しない。そして、シャッタ80の長穴80Bのガタ分だけキャリア41が回転し、ピン47の頭部47Aが長穴80Bの側面に当接すると、シャッタ80はキャリア41と一体となって回転する。このとき図11A(ア4)のように、シャッタ80の凸部80Aは、ラチェット歯57間の谷部57Aと重なるため、谷部57Aが隠れる。
【0071】
さらにモータ38を回転させ、ボール‐ランプ機構28の作用により制動力が発生すると、レバー54を回転させるトルクより、ボール‐ランプ機構28を回転させるトルクの方が大きくなるため、図11A(ア5)に示すように、レバー54が回転し、ツメ部55がキャリア41に当接する。このとき、ラチェット歯57間の谷部57Aはシャッタ80の凸部80Aが重なっているため、ツメ部55は、凸部80Aに当接することとなり、谷部57Aには当接しない(入り込まない)。したがって、駐車ブレーキのアプライ時におけるラチェット機構特有の当接音を抑止することができる。よって、ディスクブレーキの静粛性を向上させることができる。
【0072】
また、前記第1実施形態では、ツメ部55が谷部57Aにある状態からラチェット歯57を乗り越える際、インターナルギヤ46からのトルクに抗しキャリア41を回転させるための追加トルクが必要である。これに対し、本実施第5形態においては、上述したようにツメ部55が谷部57Aに入ることがないため、アプライ時のトルク変動を抑制でき、さらなる低トルク化(高効率化)、およびギヤ音の低減が可能である。この点においても、ディスクブレーキの静粛性を向上させることができる。
【0073】
必要な制動力に達した後〔図11A(ア6)〕、モータ38への通電を減少させていくと、制動力による反力により、ボール‐ランプ機構28は逆回転する。このため、図11B(ア7)のように、キャリア41は時計方向に回転する。一方、シャッタ80は、皿ばね82による回転抵抗があるため回転しない。そして長穴80Bのガタ分だけキャリア41が回転すると〔図11B(ア8)〕、キャリア41とシャッタ80は一体となって時計方向へ回転する。このとき、ラチェット歯57とシャッタ80の凸部80Aが重なり、谷部57Aが現れる。ここで、インターナルギヤ46にも時計方向への回転トルクがかかっているので、ツメ部55が谷部57Aに入り込む位置までキャリア41が回転すると、レバー54が回転し、ツメ部55とラチェット歯57がかみ合う。これより、キャリア41が停止し、制動力を保持する〔図11B(ア9)〕。
【0074】
なお、リリース動作、および各状態を成立させるための条件式は、前記第1実施形態と同等である。
【0075】
本実施形態においては、シャッタ80の凸部80Aにより、谷部57Aは完全に隠れるようにした。しかし、ラッチ動作の信頼性向上のため、キャリア41が時計方向へ回転する際は、必ずツメ部55が谷部57Aに入り込んでシャッタ80とキャリア41を相対回転させるよう、凸部80Aの周方向幅を短くしても良い。
また、本実施形態ではシャッタ80に回転抵抗を与える要素として皿ばね82を用いたが、ウェーブワッシャ等、他の公知な同様のばねを用いても良い。もしくは、部品を追加せず、シャッタ80とキャリア41(回転体)との間に介在させたグリースによって抵抗(粘性抵抗)を与えても良い。
【0076】
次に、本発明の第6実施形態に係るディスクブレーキを図12〜14に基づいて説明する。なお、本実施形態の基本的な構成および動作は第5実施形態と同じであるため、異なる箇所のみ説明する。
【0077】
第6実施形態では、図12〜14に示すように、第5実施形態のシャッタ80に代えてシャッタ180を設けている。シャッタ180は、第5実施形態のシャッタ80と同様に、キャリア41に近接して配置されている。シャッタ180は、第5実施形態のシャッタ本体80Hと同等に構成されたシャッタ本体180Hと、第5実施形態の凸部80Aに代えて、シャッタ本体80Hの外周に形成された複数のツバ部181と、から大略構成されている。なお、シャッタ本体180Hに形成される長穴については、便宜上、長穴182という。長穴182には、キャリア41に固定されたピン47の頭部47Aが、所謂ガタ分が形成された状態で入るようになっている。これより、シャッタ180とキャリア41は、長穴182とピン47の頭部47Aのガタ分だけ、相対的に回転できるようになっている。
【0078】
ツバ部181は、シャッタ本体180Hと直交する方向に延びて形成されており、谷部57Aに対し、径方向に重なるようになっている。なお、第5実施形態の凸部47Aは、谷部57Aに対し、上述したように軸方向に重なる(図10参照)になっており、この点、ツバ部181は、凸部47Aに比して、谷部57Aに対する重なり方向が異なっている。
この第6実施形態によれば、アプライ時にレバー54のツメ部55と当接する面積を広くとることができ、第5実施形態に対し耐久性(耐摩耗性)を改善することができる。
【0079】
次に、本発明の第7実施形態に係るディスクブレーキを図15及び図16に基づき、を参照して説明する。なお、本実施形態の基本的な構成および動作は第5実施形態と同じであるため、異なる箇所のみ説明する。
【0080】
本第7実施形態では、第5実施形態のキャリア41及びピン47に代えて、キャリア241及びピン247を設けている。ピン247は、ピン47と同様にプラネタリギヤ45を回転支持する。ピン247は、ピン47が備える頭部47Aに相当する頭部を有しておらず、キャリア241に対し圧入固定されている。キャリア241の外周にはラチェット歯257が形成され、第5実施形態同様、レバー54のツメ部55と当接するようになっている。キャリア241の中心部にはフランジ部241Aが形成され、隣り合うラチェット歯257の間の谷部257Aと同じ数の切り欠き部241Bが形成されている。
【0081】
フランジ部241Aは、1つの円弧状部材410と、複数個(本実施形態では4個)のく字形部材420とから大略構成されている。
円弧状部材410は、後述するスリーブ292に沿う円弧状の円弧状部材本体411と、円弧状部材本体411から円弧状部材本体411の径方向外方に屈曲して(略く字形をなすようにして)延びる円弧状部材ツバ部412とからなっている。
【0082】
く字形部材420は、後述するスリーブ292に沿う円弧状のく字形部材本体421と、く字形部材本体421からく字形部材本体421の径方向外方に屈曲して(略く字形をなすようにして)延びるく字形部材ツバ部422とからなっている。
円弧状部材410の円弧状部材本体411、4個のく字形部材420のく字形部材本体421が筒状をなすように、く字形部材420及び4個のく字形部材420が組みつけられ、各部材間に前記切り欠き部241Bが形成されている。
【0083】
各切り欠き部241Bには、それぞれ板ばね290の一端が介在され、板ばね290の他端には、シャッタ部材291がかしめられている。これらの板ばね290は、フランジ部241Aの内径側に圧入固定されるスリーブ292によって固定されている。本実施形態では、板ばね290の一端は、円弧状部材本体411又はく字形部材本体421とスリーブ292とに挟み付けられている。キャリア241が動作していない状態では、図16(ア1)のように、フランジ部241A(円弧状部材410及びく字形部材420)のツバ部241C(円弧状部材ツバ部412及びく字形部材ツバ部422)の先端241Dにシャッタ部材291が当接するよう、板ばね290が付勢している。なお、レバー54のツメ部55の幅は、ラチェット歯257とシャッタ部材291の両方に当接するよう決められている。
【0084】
次に動作について説明する。第5実施形態同様、アプライ要求によりモータ38を回転させることで、遊星歯車減速機構36が作動し、キャリア241が回転する。このとき、シャッタ部材291にはキャリア241の外周方向へ向かう遠心力Fが作用するため、シャッタ部材291は板ばね290の付勢力に抗し、板ばね290とツバ部241Cが当接するまで移動する〔図16(ア2)〕。このとき、隣り合うラチェット歯257間の谷部257Aは、シャッタ部材291によって軸方向に隠されるため、第5実施形態の例と同様に、ツメ部55は谷部257Aに入り込まず、当接音が発生しない。本第7実施形態においては、所望の制動力に達した位置でモータ38を停止または減速させることで、谷部257Aを現すことができるので、第5実施形態で必要とされるようにシャッタ80の長穴80Bのガタ分戻したり、又は第6実施形態で必要とされるようにシャッタ180の長穴182のガタ分戻したりする必要がない。したがって、モータ38で発生させる制動力を小さくすることができ、消費電力、耐久性で有利となる。
【0085】
上述した各実施形態においては、ディスクを挟んでその両側に配置される一対のパッドと、前記一対のパッドのうち少なくとも一方をディスクに押し付けるピストンと、該ピストンが接触状態で移動可能に納められるシリンダを有して該シリンダへの液圧供給により前記ピストンを推進するキャリパ本体と、前記キャリパ本体に設けられる電動モータと、前記キャリパ本体に設けられ、前記電動モータの回転に基づいて前記ピストンを推進し、推進した該ピストンを駐車制動位置に保持させる駐車ブレーキ機構とを備えたディスクブレーキにおいて、前記駐車ブレーキ機構は、前記電動モータによる回転を増力する減速機構と、該減速機構の回転を直動に変換する回転直動変換機構と、前記減速機構の前記ピストンの戻し方向の回転を規制する回転規制機構と、を有し、前記減速機構は、前記モータからの入力を受けて回転する入力部材と、該入力部材の回転入力を増力した回転出力として互いに逆方向に回転する一対の出力部材と、を有し、該一対の出力部材および前記入力部材が同軸となった入出力同軸型減速機で構成され、前記一対の出力部材のいずれか一方の出力部材が前記回転直動変換機構に回転を伝達し、前記回転規制機構が前記一方の出力部材の前記ピストンの戻し方向の回転を規制し、前記一対の出力部材のいずれか他方の出力部材が所定範囲回転して前記回転規制機構に作用し、前記ピストンを戻し方向に移動するように前記モータが前記入力部材を回転したとき、これに伴う他方の出力部材の回転により前記一方の出力部材に対する前記回転規制機構の回転規制を解除するようになっている。このような構成により、ディスクブレーキの駐車ブレーキ機能の応答性を向上させることができる。
【0086】
上述した各実施形態においては、前記入力部材に対し、前記他方の出力部材が逆方向に回転し、前記一方の出力部材が同方向に回転するようになっている。
【0087】
上述した各実施形態においては、前記回転規制機構は、前記一方の出力部材に設けられた爪部と、前記キャリパ本体に支持され、前記爪部に係止・解除されるレバー部材と、を有するようになっている。
【0088】
上述した各実施形態においては、前記他方の出力部材は、一対の接触部を有し、一の接触部がレバー部材に接触してこれを係止位置とし、他の接触部がレバー部材に接触してこれを解除位置とするようになっている。
【0089】
上述した各実施形態においては、前記レバー部材は、前記爪部からの解除方向に力付与部材により力が付与されている。
【0090】
上述した各実施形態においては、前記回転規制機構は、前記キャリパ本体に支持され、前記他方の出力部材の回転力によりその回転方向に応じて前記一方の出力部材に係止・解除される係止部材を有している。
【0091】
上述した各実施形態においては、前記回転規制機構は、前記一方の出力部材が前記ピストンの推進方向に回転するときに前記一方の出力部材の前記ピストンの戻し方向の回転を規制する第1の位置と、前記一方の出力部材が前記ピストンの戻り方向に回転するときに前記一方の出力部材の前記ピストンの戻し方向の回転を許容する第2の位置とに変化するようになっている。
【0092】
上述した第1,2,3,5,6,7実施形態においては、前記減速機構は、遊星歯車減速機であることを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ。
【0093】
上述した第1,2,3,5,6,7実施形態においては、前記遊星歯車減速機は、前記電動モータからの入力を受けて回転する入力ギヤと、該入力ギヤに噛み合って該入力ギヤの回転に伴って公転する公転ギヤと、該公転ギヤの公転により回転する出力部材と、前記公転ギヤに噛み合って該公転ギヤの自転を抑制して該公転ギヤを公転させるとともに公転ギヤからの回転力により回転するガイド部材と、を備え、前記出力部材および前記ガイド部材のいずれか一方の部材が前記回転直動変換機構に回転を伝達し、前記出力部材および前記ガイド部材のいずれか他方の部材が所定範囲回転して前記回転規制機構に作用するように構成され、前記回転規制機構は、前記一方の部材に形成された爪部と、前記キャリパ本体に支持され前記他方の部材の回転力によって爪部に係止・解除されるレバー部材とから構成されている。
【0094】
上述した各実施形態においては、前記回転直動変換機構は、ボール−ランプ機構となっている。
【0095】
上述した各実施形態においては、前記ボール−ランプ機構と前記ピストンとの間には、前記パッドの摩耗量に応じてピストンの位置を前進位置に保持する摩耗補償機構を有している。
【0096】
上述した第4実施形態においては、前記回転直動変換機構は、ねじ機構となっている。
【0097】
上述した各実施形態においては、前記電動モータは、駐車ブレーキ指示手段からの保持信号または解除信号に基づいて前記電動モータを駆動する制御手段により制御され、該制御手段は、駐車ブレーキ指示手段からの保持信号に基づいて前記電動モータを駆動し始め、該電動モータが前記ピストンを駐車制動位置とする電流値になった後に、前記電動モータを停止することで、前記回転規制機構が前記一方の出力部材の回転を規制するようになっている。
【0098】
上述した各実施形態においては、前記制御手段は、駐車ブレーキ指示手段からの解除信号に基づいて前記ピストンが後退する方向に前記電動モータを駆動し始め、該電動モータの電流値に応じて前記電動モータを停止するようになっている。
【0099】
上述した第5,6,7実施形態においては、前記回転規制機構は、前記減速機構に備えられた回転体に設けられた複数の凸部のいずれか1つに係止して前記ピストン戻し方向の回転を規制し、前記回転体が前記ピストンの推進方向に回転しているときに、前記回転体の複数の凸部に当接する方向に付勢され、前記減速機構の回転体は、前記ピストンの推進方向に回転しているときに前記凸部間への前記回転規制機構の進入を抑止するシャッタ部材を有している。このような構成により、駐車ブレーキ作動のアプライ時にラチェット機構の当接音を抑制することができ、ディスクブレーキの静粛性が向上する。
【符号の説明】
【0100】
1A…ディスク(ディスクロータ)、2、3…ブレーキパッド、12…ピストン、10…シリンダ、6…キャリパ本体、38…モータ(電動モータ)、34…駐車ブレーキ機構、36…遊星歯車減速機構(減速機構,入出力同軸型減速機)、37…平歯多段減速機構(減速機構)、34A…回転規制機構、44…サンギヤ(入力部材)、41…キャリア(一方の出力部材)、46…インターナルギヤ(他方の出力部材)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクを挟んでその両側に配置される一対のパッドと、
前記一対のパッドのうち少なくとも一方をディスクに押し付けるピストンと、
該ピストンが接触状態で移動可能に納められるシリンダを有して該シリンダへの液圧供給により前記ピストンを推進するキャリパ本体と、
前記キャリパ本体に設けられる電動モータと、
前記キャリパ本体に設けられ、前記電動モータの回転に基づいて前記ピストンを推進し、推進した該ピストンを駐車制動位置に保持させる駐車ブレーキ機構とを備えたディスクブレーキにおいて、
前記駐車ブレーキ機構は、
前記電動モータによる回転を増力する減速機構と、
該減速機構の回転を直動に変換する回転直動変換機構と、
前記減速機構の前記ピストンの戻し方向の回転を規制する回転規制機構と、を有し、
前記減速機構は、前記モータからの入力を受けて回転する入力部材と、
該入力部材の回転入力を増力した回転出力として互いに逆方向に回転する一対の出力部材と、を有し、該一対の出力部材および前記入力部材が同軸となった入出力同軸型減速機で構成され、
前記一対の出力部材のいずれか一方の出力部材が前記回転直動変換機構に回転を伝達し、
前記回転規制機構が前記一方の出力部材の前記ピストンの戻し方向の回転を規制し、
前記一対の出力部材のいずれか他方の出力部材が所定範囲回転して前記回転規制機構に作用し、前記ピストンを戻し方向に移動するように前記モータが前記入力部材を回転したとき、これに伴う他方の出力部材の回転により前記一方の出力部材に対する前記回転規制機構の回転規制を解除する、ことを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項2】
前記入力部材に対し、前記他方の出力部材が逆方向に回転し、前記一方の出力部材が同方向に回転することを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ。
【請求項3】
前記回転規制機構は、
前記一方の出力部材に設けられた爪部と、
前記キャリパ本体に支持され、前記爪部に係止・解除されるレバー部材と、を有することを特徴とする請求項2に記載のディスクブレーキ。
【請求項4】
前記他方の出力部材は、一対の接触部を有し、一の接触部がレバー部材に接触してこれを係止位置とし、他の接触部がレバー部材に接触してこれを解除位置とすることを特徴とする請求項3に記載のディスクブレーキ。
【請求項5】
前記レバー部材は、前記爪部からの解除方向に力付与部材により力が付与されていることを特徴とする請求項3に記載のディスクブレーキ。
【請求項6】
前記レバー部材は、前記爪部への係止方向に力付与部材により力が付与されていることを特徴とする請求項3に記載のディスクブレーキ。
【請求項7】
前記回転規制機構は、前記キャリパ本体に支持され、前記他方の出力部材の回転力によりその回転方向に応じて前記一方の出力部材に係止・解除される係止部材を有していることを特徴とする請求項2に記載のディスクブレーキ。
【請求項8】
前記回転規制機構は、
前記一方の出力部材が前記ピストンの推進方向に回転するときに前記一方の出力部材の前記ピストンの戻し方向の回転を規制する第1の位置と、
前記一方の出力部材が前記ピストンの戻り方向に回転するときに前記一方の出力部材の前記ピストンの戻し方向の回転を許容する第2の位置とに変化することを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ。
【請求項9】
前記電動モータは、駐車ブレーキ指示手段からの保持信号または解除信号に基づいて前記電動モータを駆動する制御手段により制御され、
該制御手段は、駐車ブレーキ指示手段からの保持信号に基づいて前記電動モータを駆動し始め、該電動モータが前記ピストンを駐車制動位置とする電流値になった後に、前記電動モータを停止することで、前記回転規制機構が前記一方の出力部材の回転を規制することを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ。
【請求項10】
前記回転規制機構は、前記減速機構に備えられた回転体に設けられた複数の凸部のいずれか1つに係止して前記ピストン戻し方向の回転を規制し、前記回転体が前記ピストンの推進方向に回転しているときに、前記回転体の複数の凸部に当接する方向に付勢され、前記減速機構の回転体は、前記ピストンの推進方向に回転しているときに前記凸部間への前記回転規制機構の進入を抑止するシャッタ部材を有していることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載のディスクブレーキ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図3C】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11A】
image rotate

【図11B】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2010−169248(P2010−169248A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228611(P2009−228611)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ハーモニックドライブ
2.サイクロ
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】