説明

ディーゼルエンジンの排気後処理装置

【課題】フィルタを排気通路の上流側に、NOxトラップ触媒を排気通路の下流に備えさせるレイアウトにおいても、NOxトラップ触媒下流に排出されるHCを抑制し得る装置を提供する。
【解決手段】フィルタ(13)を排気通路の上流側に、NOxトラップ触媒(15)を排気通路の下流側に備え、NOxトラップ触媒(15)の再生時期になったとき、理論空燃比相当以下の空気過剰率を基本目標空気過剰率として、排気の空気過剰率をこの基本目標空気過剰率とするリッチスパイク処理を行わせるディーゼルエンジンの排気後処理装置において、SOFが相対的に多く発生する運転域ではリッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率を増大側に補正する空気過剰率補正手段(53)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はディーゼルエンジンの排気後処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流入する排気中のパティキュレートを捕集するフィルタを排気通路の上流側に、NOx触媒(NOx吸着触媒及びNOx吸蔵触媒)を排気通路の下流側に備えるものがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−298024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、排気の空気過剰率が理論空燃比相当の値より大きいときに流入する排気中のNOxをトラップし、排気の当量比空気過剰率が理論空燃比相当の値以上のときにトラップしたNOxを脱離浄化するNOxトラップ触媒がある。このNOxトラップ触媒の上流側にフィルタを備えないレイアウトの場合には、リッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率が得られるようにポスト噴射量を設定することで、NOxトラップ触媒に還元量を過不足なく供給できる。
【0005】
一方、本発明者は、NOxトラップ触媒の上流側にフィルタを備えさせるレイアウトの排気後処理装置を検討している。このレイアウトの場合にも上記のリッチスパイク処理をそのまま適用してみたところ、NOxトラップ触媒15の下流に排出されるHC量が、NOxトラップ触媒の上流側にフィルタを備えないレイアウトの場合よりも大きくなってしまうことがわかった。
【0006】
そこで本発明は、フィルタを排気通路の上流側に、NOxトラップ触媒を排気通路の下流に備えさせるレイアウトにおいても、NOxトラップ触媒の下流に排出されるHCを抑制し得る排気後処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のディーゼルエンジンの排気後処理装置では、流入する排気中に存在するドライスート及びSOFからなるパティキュレートを捕集するフィルタを排気通路の上流側に、排気の空気過剰率が理論空燃比相当の値より大きいときに流入する排気中のNOxをトラップし、排気の空気過剰率が理論空燃比相当の値以上のときにトラップしたNOxを脱離浄化するNOxトラップ触媒を排気通路の下流側に備え、NOxトラップ触媒の再生時期になったとき、理論空燃比相当の値以下の空気過剰率を基本目標空気過剰率として、この基本目標空気過剰率が得られるようにリッチスパイク処理を行わせる。そして、前記SOFが相対的に多く発生する運転域では前記リッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率を増大側に補正する空気過剰率補正手段を備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、SOFが相対的に多く発生する運転域でリッチスパイク処理時にフィルタから脱離したSOFがHCとしてNOxトラップ触媒に流れてくることを見越して、リッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率を増大側に補正するので、フィルタを排気通路の上流側に、NOxトラップ触媒を排気通路の下流に備えさせるレイアウトの場合であっても、NOxトラップ触媒への還元剤量の供給過多を抑制してNOxトラップ触媒の下流に排出されるHCを減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態のディーゼルエンジンの排気後処理装置の概略構成図である。
【図2】SOF吸着量算出部及びポスト噴射量算出部のブロック図である。
【図3】基本エンジンアウトSOF量の特性図である。
【図4】冷却水温に対する水温補正係数の特性図である。
【図5】酸化触媒温度に対する浄化補正係数の特性図である。
【図6】ドライスート量に対するSOF吸着容量の特性図である。
【図7】フィルタ温度に対するSOF吸着容量の特性図である。
【図8】実空気過剰率に対するSOF脱離量の特性図である。
【図9】フィルタ温度に対するSOF脱離量の特性図である。
【図10】排気の体積速度に対するSOF脱離量の特性図である。
【図11】SOF吸着量に対するHC脱離量の特性図である。
【図12】フィルタ温度に対するHC脱離量の特性図である。
【図13】HC脱離量に対する空気過剰率補正量の特性図である。
【図14】燃料噴射量に対する空気過剰率補正量の特性図である。
【図15】シリンダ吸入空気量に対する空気過剰率補正量の特性図である。
【図16】エンジン回転速度に対する空気過剰率補正量の特性図である。
【図17】ポスト噴射量の特性図である。
【図18】空気過剰率補正量算出部のブロック図である。
【図19】第1実施形態のHC濃度の変化を比較例との対比で示す示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
図1は本発明の第1実施形態のディーゼルエンジンの排気後処理装置を示す概略構成図である。図1において、ディーゼルエンジン1の吸気通路2には可変ノズル型のターボチャージャ3の吸気コンプレッサを備える。吸入空気は吸気コンプレッサによって過給され、インタークーラ4で冷却され、常開のスロットル弁5を通過した後、コレクタ6を経て、各気筒のシリンダ内へ流入する。燃料は、コモンレール式燃料噴射装置により、すなわち、高圧燃料ポンプ7により高圧化されてコモンレール8に送られ、各気筒の燃料噴射弁9からシリンダ内へ直接噴射される。シリンダ内に流入した空気と噴射された燃料はここで圧縮着火により燃焼し、排気は排気通路10へ流出する。
【0012】
排気通路10に流出した排気の一部は、EGRガスとして、EGR通路11によりEGR弁12を介して吸気側に還流される。排気の残りは、可変ノズル型のターボチャージャ3の排気タービンを通り、排気タービンを駆動する。
【0013】
エンジンコントロールユニット21には、アクセルセンサ22からのアクセル開度(アクセルペダルの踏込量のこと)ACC、クランク角センサ23からのエンジン回転速度Neの各信号が入力されている。そしてコントロールユニット21では、エンジン負荷(アクセル開度など)及びエンジン回転速度Neに基づいて、メイン噴射の燃料噴射時期及び燃料噴射量を算出し、これらに対応する開弁指令信号を燃料噴射弁9に出力する。また、エンジンコントロールユニット21では、目標EGR率と目標吸入空気量とが得られるようにEGR制御と過給圧制御を協調して行う。なお、エンジンコントロールユニット21は中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成されている。
【0014】
排気通路10の排気タービン下流には、排気中のパティキュレートを捕集するフィルタ(DPF)13を配置してある。フィルタ13のパティキュレート堆積量が所定値(閾値)に達すると、エンジンコントロールユニット21ではフィルタ13を再生する。例えばメイン噴射直後の膨張行程あるいは排気行程でポスト噴射を行うことにより排気をパティキュレートの燃焼する温度にまで上昇させてフィルタ13の再生処理を行い、フィルタ13に堆積しているパティキュレートを燃焼除去し、フィルタ13を再生する。目標となる再生温度が得られるようにエンジンの負荷と回転速度と(運転条件)に応じてポスト噴射量とポスト噴射時期とを予め定めておき、そのときのエンジンの負荷と回転速度とに応じたポスト噴射量とポスト噴射時期とが得られるようにポスト噴射を行う。
【0015】
フィルタ13に堆積しているパティキュレートの全てが燃焼除去される完全再生を行わせるには再生処理時にフィルタ13の許容温度を超えない範囲で少しでもパティキュレートの燃焼温度を高めてやることが必要となる。このため本実施形態ではフィルタ13の上流に酸化触媒(貴金属)14を配置してある。この酸化触媒14によりフィルタ13の再生処理のためのポスト噴射によって流入する排気成分(HC、CO)を燃焼させて排気の温度を高めフィルタ13内のパティキュレートの燃焼を促進させる。なお、フィルタ13を構成する担体に酸化触媒をコーティングしてもよい。このときには、パティキュレートが燃焼する際の酸化反応を促進してその分フィルタ13のベッド温度を実質的に上昇させ、フィルタ13内のパティキュレートの燃焼を促進させることができる。
【0016】
なお、触媒は酸化触媒14に限られない。酸化機能を備える触媒であれば、酸化触媒に代えることができる。図1は酸化触媒14として三元触媒(TWC)を採用する場合である。
【0017】
フィルタ13の下流には、酸素雰囲気で排気中のNOxをトラップ(例えば吸着)し、還元雰囲気ではトラップしていたNOxを脱離し、排気中のHCを還元剤として用いて還元・浄化するNOxトラップ触媒(LNT)15を備える。酸素雰囲気は排気の空気過剰率が1.0(理論空燃比相当の値)より大きいときに得られる。一方、還元雰囲気は排気の空気過剰率が1.0以下のときに得られる。
【0018】
このNOxトラップ触媒15のNOx堆積量が所定値(閾値)に達すると、エンジンコントロールユニット21では、NOxトラップ触媒15を流れる排気を酸素雰囲気から還元雰囲気へと切換えるためリッチスパイク処理を行う。ここでのリッチスパイク処理は、メイン噴射直後の膨張行程あるいは排気行程でポスト噴射を行って、排気通路10に排出される未燃のHC量を増やし、このHCを還元剤としてNOxトラップ触媒15に供給することである。
【0019】
ディーゼルエンジン1では、通常運転時に1.0(理論空燃比相当の値)よりも大きな値の空気過剰率(理論空燃比よりもリーン側の空燃比)で運転するので、ポスト噴射の追加だけでは排気の空気過剰率を1.0へと切換えることができない。このため、通常運転時に全開位置にあるスロットル弁5をリッチスパイク処理時に閉じてやることでシリンダに流入する吸入空気量(この吸入空気量を以下「シリンダ吸入空気量」という。)Qacを減らし、これによって、排気の空気過剰率を1.0へと切換える。つまり、メイン噴射量とポスト噴射量の合計の燃料噴射量Qfuelと、シリンダ吸入空気量Qacとで定まる空気過剰率が1.0となるように、ポスト噴射量とスロットル弁開度(吸入空気量)とを定めるのである。ここで、リッチスパイク処理時のスロットル弁開度を定めてやれば、ポスト噴射量が一義的に定まる。
【0020】
また、所定の時間毎(一定の周期)にNOxトラップ触媒15にトラップされる所定時間当たりのNOx量を算出し、この所定時間当たりのNOx量を加算(積算)してNOxトラップ触媒15に堆積するNOx堆積量を算出する。このNOx堆積量と、予め定めてある閾値とを比較し、NOx堆積量が閾値以上となったとき(NOxトラップ触媒15の再生時期となったとき)、ポスト噴射(リッチスパイク処理)を実行する。還元浄化すべきNOx堆積量は基本的には閾値と同じである。従って、閾値に等しいNOx堆積量を、目標空気過剰率が1.0のもとで全て還元浄化するのに適したポスト噴射量も予め定まる。
【0021】
このようにして、排気の空気過剰率を1.0を超える値としている通常運転時に、NOx堆積量が閾値以上となったとき、スロットル弁開度を全開状態から所定のスロットル弁開度へと切換える(スロットル絞りを行う)と共に、ポスト噴射を開始し、ポスト噴射期間を経過したときポスト噴射を終了しスロットル弁5を全開位置へと戻す。
【0022】
さて、NOxトラップ触媒15の上流側にフィルタ13を備えないレイアウトの場合には、リッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率tλ0(=1.0)が得られるようにポスト噴射量を設定することで、NOxトラップ触媒15への還元量が過不足なく供給されるようにしている。そこで、NOxトラップ触媒15の上流側にフィルタ13を備えるレイアウトの場合にもこのリッチスパイク処理をそのまま適用してみたところ、NOxトラップ触媒15の下流に排出されるHC量が大きくなってしまうことがわかった。
【0023】
この原因を解析したところ、次のことが判明している。すなわち、フィルタ13に堆積するパーティキュレートは、炭素粒子であるドライスートと、ミスト状のHCである有機溶剤可溶成分(以下、「SOF」という。)とから構成されている。エンジン負荷が相対的に小さな低負荷域(あるいはシリンダ内の燃焼温度が相対的に低い低温域)での運転時には、シリンダ内の燃焼温度があまり上昇しないので、エンジン負荷が相対的に大きな高負荷域(あるいはシリンダ内の燃焼温度が相対的に高い高温域)での運転時よりもSOFが多く発生する。このSOFは上記のようにフィルタ13に捕集される。そして、フィルタ26にSOFが相対的に多く吸着されている状態でNOxトラップ触媒15の再生時期となりポスト噴射を行ったとき、フィルタ13からSOFが脱離し、HCとしてNOxトラップ触媒15に流入することが分かってきたのである。
【0024】
リッチスパイク処理でNOxトラップ触媒15にどのくらいの還元剤の量(つまりポスト噴射量)を供給したらよいかはNOx堆積量により予め定まっている。しかしながら、リッチスパイク処理時にフィルタ13から脱離してくるHCについては考えていなかった。このため、フィルタ13からNOxトラップ触媒15に供給されるHC(還元剤)の分だけ、NOxトラップ触媒15への還元剤の供給量が過多となってしまう。この結果、NOxトラップ触媒15でNOxの還元に用いられずに余ったHCがNOxトラップ触媒15の下流にそのまま排出されるというわけである。
【0025】
そこで第1実施形態では、SOFが相対的に多く発生する運転域でリッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率を増大側に補正する空気過剰率補正手段を備えさせる。
【0026】
本実施形態のリッチスパイク処理では、メイン噴射後にポスト噴射を行い、このポスト噴射によりNOxトラップ触媒15に還元剤としてのHCを供給することで、排気の空気過剰率を基本目標空気過剰率である1.0(理論空燃比相当の値)とするものを前提としている。このため、リッチスパイク処理時にフィルタ13から脱離してくるHC量に応じてポスト噴射量を減量側に補正することにより、リッチスパイク処理時の目標空気過剰率を1.0より大きくなる値へと補正する。
【0027】
エンジンコントロールユニット21で行われるこの制御を、図2のブロック図を参照して詳述する。
【0028】
図2において、ポスト噴射量算出部50のブロック図を図2上段に、SOF吸着量算出部30のブロック図を図2下段に示している。図2下段のブロック図から説明する。
【0029】
さて、ここでは簡単のため、1.0より大きな値の目標空気過剰率で運転するモード(通常運転モード)と、リッチスパイク処理を行うモード(リッチスパイクモード)と、フィルタ13を再生するモード(フィルタ再生モード)との3つのモードしかない場合で考える。また、リッチスパイクモードの直前にはフィルタ再生モードが実行されてないものとする。
【0030】
SOF吸着量算出部30は、基本エンジンアウトSOF量算出部31、水温補正係数算出部32、乗算部33、浄化補正係数算出部34、乗算部35、基本SOF吸着量算出部36、SOF吸着容量算出部38、SOF脱離量算出部40などからなっている。そして、SOF吸着量算出部30では、通常運転モードのとき一定の周期で(例えば10ms毎に)フィルタ13のSOF吸着量を算出する。
【0031】
まず、基本エンジンアウトSOF量算出部31では、エンジン回転速度Ne[rpm]と目標エンジントルクTrq[Nm]とから図3を内容とするマップを参照することにより、エンジンアウト(排気通路10入口)より出てくる所定時間当たり(10ms当たり)SOF量を基本エンジンアウトSOF量[mg/s]として算出する。
【0032】
図3に示したように基本エンジンアウトSOF量は、エンジン回転速度Neが一定のとき、目標エンジントルクTrqが大きくなるほど小さくなる値である。これは、SOFはシリンダ内での燃焼温度が相対的に低い側で多く発生するところ、目標エンジントルクTrqが大きくなると、それだけ多くの燃料が供給されてシリンダ内での燃焼温度が高温となり、SOFの発生する量が少なくなるためである。また、エンジン回転速度Neに対してはほとんど感度をもっていない。すなわち、目標エンジントルクTrqが一定のとき、エンジン回転速度Neが大きくなると基本エンジンアウトSOF量は少し小さくなる値である。このように、エンジン負荷が相対的に小さな低負荷域でエンジン負荷が相対的に大きな高負荷側よりSOFが相対的に多く発生する。
【0033】
上記の目標エンジントルクTrqは、基本的にはアクセルセンサ22により検出されるアクセル開度ACCと、クランク角センサ23により検出されるエンジン回転速度Neとから、例えば所定のマップを検索することにより算出させればよい。
【0034】
水温補正係数算出部32では、水温センサ24により検出される冷却水温TW[℃]から図4を内容とするテーブルを検索することにより、水温補正係数Ktw[無名数]を算出する。乗算部33では、この水温補正係数Ktwを上記の基本エンジンアウトSOF量に乗算して、エンジンアウトSOF量[mg/s]を算出する。つまり、
エンジンアウトSOF量=基本エンジンアウトSOF量×Ktw
…(1)
の式によりエンジンアウトSOF量を算出する。
【0035】
(1)式のように水温補正係数Ktwを導入した趣旨は、冷却水温TWが相対的に低くなるほどシリンダ内のSOFの発生が多くなり、その多くなったSOFの分だけ、フィルタ13に堆積するSOF量が増大するためである。
【0036】
図4に示したように、水温補正係数Ktwは冷却水温TWが所定値TW0のとき1.0で、所定値TW0未満の温度域では冷却水温TWが低くなるほど1.0より大きくなる値である。これは、所定値TW0未満の温度域において冷却水温TWが相対的に低い場合の方が、冷却水温TWが相対的に高い場合よりシリンダ内の燃焼温度が相対的に低くなり、その分SOFが多く発生するためである。
【0037】
浄化補正係数算出部34では、酸化触媒14の温度TWCtemp[℃]から図5を内容とするテーブルを検索することにより、浄化補正係数Ktwc[無名数]を算出する。乗算部35では、この浄化補正係数Ktwcを上記のエンジンアウトSOF量に乗算して、フィルタ流入SOF量[mg/s]を算出する。つまり、
フィルタ流入SOF量=エンジンアウトSOF量×Ktwc …(2)
の式によりフィルタ流入SOF量を算出する。
【0038】
(2)式のように浄化補正係数Ktwcを導入した趣旨は次の通りである。すなわち、シリンダ内で発生し、排気通路10に流入したSOFの一部は酸化触媒14により酸化されて消失する。この酸化触媒14により酸化されて消失するSOFの分だけ、フィルタ13に堆積するSOFの量が減少するので、これを考慮するためである。
【0039】
図5に示したように、浄化補正係数Ktwcは酸化触媒温度TWCtempが所定値TWC0以下のとき1.0となる。これは、所定値TWC0以下の温度域では酸化触媒14が活性化しておらず、SOFが酸化触媒14を通過しても酸化されることがないためである。
【0040】
一方、所定値TWC0を超える温度域で浄化補正係数Ktwcは酸化触媒温度TWCtempが高くなるほど小さくなる値である。これは、酸化触媒14が活性化する所定値TWC0を超える温度域において、酸化触媒温度TWCtempが高いほど、流入するSOFを多く浄化(酸化)するので、その分フィルタ13に堆積するSOF量が小さくなるためである。酸化触媒温度TWCtempは酸化触媒14に設けた温度センサ25により検出する。
【0041】
基本SOF吸着量算出部36では、このフィルタ流入SOF量を前回までにフィルタ13に堆積している基本SOF吸着量[mg]に加算することにより、フィルタ13の基本SOF吸着量[mg]を算出する。つまり、
基本SOF吸着量=基本SOF吸着量(前回)+フィルタ流入SOF量
…(3)
ただし、基本SOF吸着量(前回);前回までの基本SOF吸着量、
の式によりフィルタ13の基本SOF吸着量を算出する。(3)式は、フィルタ13に流入するSOF量を一定の周期で加算してフィルタ13の基本SOF吸着量を算出するものである。「基本」を冠しているのは、減算部41を経たSOF吸着量と区別するためである。
【0042】
フィルタ13に堆積するSOFはフィルタ13の再生処理によって消失するので、(3)式右辺の基本SOF吸着量(前回)はフィルタ再生モードの終了直後にゼロにリセットする。前回値保持部37では、(3)式右辺の基本SOF吸着量(前回)を保持している。
【0043】
SOF吸着容量算出部38ではフィルタ13に堆積するドライスート量msoot[mg]と、温度センサ26により検出されるフィルタ温度DPFtempとから所定のマップを検索することによりフィルタ13のSOF吸着容量[mg]を算出する。最小側選択部39では、SOF吸着容量算出部38で算出したこのSOF吸着容量と、基本SOF吸着量算出部36で算出した基本SOF吸着量とを比較し、小さい値の側を選択して出力する。つまり、基本SOF吸着量がSOF吸着容量以下であれば基本SOF吸着量を、基本SOF吸着量がSOF吸着容量を超えていればSOF吸着容量を出力する。
【0044】
このように、基本SOF吸着量算出部36で算出した値(演算値)を、SOF吸着容量で制限するのは、演算値である基本SOF吸着量がフィルタ13に実際に堆積し得るSOF吸着量の最大値(つまりSOF吸着容量)を上回ってしまうことがあるためである。フィルタ13に実際に堆積し得るSOF吸着量には限界があり、この限界値はフィルタ13に堆積するドライスート量msoot[mg]と、フィルタ温度DPFtempとに依存している。
【0045】
フィルタ13のSOF吸着容量の特性を図6、図7に具体的に示す。図6に示したようにフィルタ13のSOF吸着容量は、フィルタ温度DPFtempが一定の条件のとき、フィルタ13に堆積するドライスート量msootが大きくなるほど大きくなる値である。これは、排気中のSOFは単独で排気通路10内を漂うというよりもドライスートに付着して排気通路10内を漂うことが多く、従ってフィルタ13に堆積するドライスート量msootが大きいほどフィルタ13に吸着し得るSOF量が大きくなるためである。
【0046】
また、図7に示したようにフィルタ13のSOF吸着容量は、フィルタ13に堆積するドライスート量msootが一定の条件のとき、フィルタ温度DPFtempが高くなるほど小さくなる値である。これは、フィルタ温度DPFtempが高くなるほどフィルタ13から脱離してゆくSOFが多くなり、その分フィルタ13に吸着し得るSOF量が減少するためである。
【0047】
上記ドライスート量msootの算出については公知の算出方法(特開平7−34857号公報参照)を用いればよい。
【0048】
ここまでは、通常運転モードのときにSOFがフィルタ13に堆積する側に着目して考えた。一方、SOFは、ドライスートと相違してフィルタ温度DPFtempが相対的に高くなってくるとフィルタ13から容易に脱離する。通常運転モードのときにこの脱離するSOF量を算出するのが、SOF脱離量算出部40である。すなわち、SOF脱離量算出部40では、排気の実空気過剰率rλ[無名数]、フィルタ温度DPFtemp、フィルタ13を流れる排気の体積速度SV[m3/s]に基づいて、通常運転モードにおけるフィルタ13からのSOF脱離量[mg]を算出する。減算部41では、最小側選択部38からの出力[mg]より、このSOF脱離量を減算した値を、フィルタ13のSOF吸着量[mg]として算出する。つまり
SOF吸着量=最小側選択部出力−SOF脱離量 …(4)
の式によりフィルタ13のSOF吸着量を算出する。
【0049】
通常運転モードにおけるフィルタ13からのSOF脱離量の特性を図8、図9、図10に具体的に示す。図8に示したように通常運転モードにおけるフィルタ13からのSOF脱離量は、フィルタ温度DPFtemp、排気の体積速度SVが一定の条件のとき、排気の実空気過剰率rλが小さくなるほど大きくなる値である。これは、実空気過剰率rλが相対的に小さい場合に、シリンダ内の燃焼温度は実空気過剰率rλが相対的に大きい場合より高温となって排気温度が上昇し、その分フィルタ13よりSOFが脱離し易くなるためである。上記の実空気過剰率rλは、例えば酸化触媒14の上流に設けた空燃比センサ27により検出される実空燃比から求めればよい。実空燃比を理論空燃比で除した値が実空気過剰率rλである。
【0050】
図9に示したように通常運転モードにおけるフィルタ13からのSOF脱離量は、実空気過剰率rλ、排気の体積速度SVが一定の条件のとき、フィルタ温度DPFtempが所定値1(例えば100℃程度)から所定値2(例えば250℃程度)の範囲で大きくなる値である。これは、フィルタ温度DPFtempが所定値1を超える当たりからフィルタ13よりSOFが活発に脱離するためである。また、フィルタ温度DPFtempが所定値2を超えた領域でフィルタ13からのSOF脱離量が小さくなるのは、フィルタ13にSOFが残っていないためである。
【0051】
図10に示したように通常運転モードにおけるフィルタ13からのSOF脱離量は、実空気過剰率rλ、フィルタ温度DPFtempが一定の条件のとき、排気の体積速度SVが大きくなるほど大きくなる値である。これは、排気の体積速度SVが相対的に大きい場合のほうが、排気の体積SVが相対的に小さい場合より排気流れに吹き飛ばされてフィルタ13より脱離するSOFが相対的に多くなるためである。エンジン1が高負荷になるほど排気の体積速度SVが大きくなるので、排気の体積流量SVに代えてアクセル開度ACC、燃料噴射量Qfuel、目標エンジントルクTrqを用いることができる。
【0052】
最大側選択部42では、ゼロ[mg]と減算部41からのSOF吸着量とを比較し大きい側を出力する。これは、SOF吸着量が負の値で算出されることを防止するためである。
【0053】
このようにして算出された通常運転モードにおけるフィルタ13のSOF吸着量は、図2上段のポスト噴射量算出部50に入力されている。
【0054】
図2上段のブロック図に移ると、ポスト噴射量算出部50は、HC脱離量算出部51、空気過剰率補正量算出部52、空気過剰率補正部53、ポスト噴射量算出部54からなる。通常運転モードからリッチスパイクモードへと切換わったタイミングでポスト噴射量算出部50が働く。
【0055】
HC脱離量算出部51では、フィルタ13のSOF吸着量と、フィルタ温度DPFtempとから所定のマップを検索することにより、リッチスパイク処理時におけるフィルタ13からのSOF脱離量を、フィルタ13のHC脱離量[mg]として算出する。
【0056】
HC脱離量算出部51(HC脱離量算出手段)においてもフィルタ13からのSOF脱離量を算出している点で、HC脱離量算出部40と同様である。ただし、SOF脱離量算出部40では通常運転モードにおけるフィルタ13からのSOF脱離量を算出するのに対し、HC脱離量算出部51ではリッチスパイクモードへの切換時(リッチスパイク処理開始時)におけるフィルタ13からのSOF脱離量を算出する点で相違する。ここでは、リッチスパイク処理時にフィルタからNOxトラップ触媒に供給されるHCを問題とするため、通常運転モードのときに必要となるSOF脱離量算出部40とは別に、リッチスパイク処理時に必要となるHC脱離量算出部51を設けたのである。
【0057】
リッチスパイク処理時におけるフィルタ13のHC脱離量の特性を図11、図12に具体的に示す。図11に示したようにフィルタ13のHC脱離量は、リッチスパイクモードへの切換時のフィルタ温度DPFtempが一定の条件のとき、リッチスパイクモードへの切換時のフィルタ13のSOF吸着量が大きいほど大きくなる値である。これは、リッチスパイクモードへの切換時のフィルタ13のSOF吸着量が大きいほど、リッチスパイク処理時におけるフィルタ13のHC脱離量が大きくなるためである。
【0058】
リッチスパイクモードへの切換時のフィルタ13のSOF吸着量が大きいほどリッチスパイク処理時におけるフィルタ13のHC脱離量が大きくなる理由は、HCのフィルタ13への物理吸着によるものと考えられるが、実はよく分かっていない。しかしながら、実験結果によれば、リッチスパイクモードへの切換時のフィルタ13のSOF吸着量が大きいほどリッチスパイク処理時におけるフィルタ13のHC脱離量が大きくなっている。図11はこの実験結果を表したものである。
【0059】
図12に示したようにフィルタ13のHC脱離量は、リッチスパイクモードへの切換時のフィルタ13のSOF吸着量が一定の条件のとき、リッチスパイクモードへの切換時のフィルタ温度DPFtempが所定値1(例えば100℃程度)から所定値2(例えば250℃程度)の範囲で大きくなる値である。これは、リッチスパイクモードへの切換時のフィルタ温度DPFtempが所定値1を超える当たりからフィルタ13よりSOFが活発に脱離するためである。また、リッチスパイクモードへの切換時のフィルタ温度DPFtempが所定値2を超えた領域でSOF脱離量が小さくなるのは、フィルタ13にSOFが残っていないためである。図12の特性は図9の特性と同様である。
【0060】
空気過剰率補正量算出部52では、リッチスパイク処理時におけるフィルタ13のHC脱離量、リッチスパイクモードへの切換時(リッチスパイク処理開始時)における運転点に基づいて、空気過剰率補正量Δλ[無名数]を算出する。空気過剰率補正部53(空気過剰率補正手段)では、リッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率tλ0[無名数]にこの空気過剰率補正量Δλを加算してリッチスパイク処理時の目標空気過剰率tλ[無名数]を算出する。つまり、
tλ=tλ0+Δλ …(5)
の式によりリッチスパイク処理時の目標空気過剰率tλを算出する。(5)式右辺のリッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率rλ0は1.0(理論空燃比相当の値)である。基本目標空気過剰率tλ0は、NOxトラップ触媒15の上流側にフィルタ13を備えていないレイアウトの場合のリッチスパイク処理時の目標空気過剰率である。
【0061】
図13に示したように空気過剰率補正量Δλは、適合点エンジン回転速度Nemat、適合点燃料噴射量Qfmat、適合点シリンダ吸入空気量Qacmatのとき、リッチスパイク処理時におけるフィルタ13のHC脱離量がゼロでゼロとなる。また、リッチスパイク処理時におけるフィルタ13のHC脱離量が正の値で大きくなるほど空気過剰率補正量Δλは大きくなる。
【0062】
空気過剰率補正量Δλが正の値で算出されると、目標空気過剰率tλは1.0より大きくなる。つまり、リッチスパイク処理を行うためのポスト噴射量は、空気過剰率補正量Δλがゼロの場合より減少側に補正される。リッチスパイク処理時におけるフィルタ13のHC脱離量が正の値で大きくなるほど空気過剰率補正量Δλを正の値で大きくする理由は次の通りである。すなわち、リッチスパイク処理時にフィルタ13のHC脱離量が還元剤として余分にNOxトラップ触媒15に供給されてしまうので、この余分に供給される還元剤の分をポスト噴射による還元剤から差し引くためである。
【0063】
このように、リッチスパイク処理時におけるフィルタ13のHC脱離量に関しては、空気過剰率補正量Δλは排気の空気過剰率を1.0より増大側に補正する値である。言い換えると、リッチスパイク処理時の目標空気過剰率tλを1.0より減少側に補正する値となることはない。
【0064】
上記の「適合点燃料噴射量Qfmat」は適合点での燃料噴射量Qfuel、「適合点シリンダ吸入空気量Qacmat」は適合点でのシリンダ吸入空気量Qacmat、「適合点エンジン回転速度Nemat」は適合点でのエンジン回転速度のことである。適合点でリッチスパイク処理を行えば、リッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率tλ0の混合気が得られる。つまり「適合点」とは、NOxトラップ触媒15の上流側にフィルタ13を備えないレイアウトの場合に、リッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率tλ0が得られるエンジン運転点のことである。
【0065】
ここで、通常運転モードでNOxトラップ触媒15の再生時期になったとき、燃料噴射量Qfuel、シリンダ吸入空気量Qac、エンジン回転速度Neから定まるエンジン運転点が適合点にあるとは限らない。つまり、NOxトラップ触媒15の上流側にフィルタ13を備えないレイアウトの場合に、通常運転モードにおいて適合点を外れたエンジン運転点でリッチスパイク処理を行ったときにはリッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率rλ0が得られないことがある。
【0066】
そこで本実施形態では、リッチスパイクモードへの切換時(リッチスパイク処理開始時)のエンジン運転点に応じても、空気過剰率補正量Δλを算出する。これは、NOxトラップ触媒15の上流側にフィルタ13を備えないレイアウトの場合に、適合点より外れたエンジン運転点でリッチスパイク処理を行ったときでも、リッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率tλ0の混合気が得られるようにするためである。ここで、リッチスパイクモードへの切換時のエンジン運転点はリッチスパイクモードへの切換時のエンジン回転速度Ne、燃料噴射量Qfuel、シリンダ吸入空気量Qacから定まる。従って、リッチスパイクモードへの切換時の燃料噴射量Qfuel、シリンダ吸入空気量Qac、エンジン回転速度Neに応じても空気過剰率補正量Δλを算出する。
【0067】
リッチスパイクモードへの切換時の運転点(Ne、Qfuel、Qac)に基づく空気過剰率補正量Δλの特性を図14、図15、図16に具体的に示す。
【0068】
図14に示したように空気過剰率補正量Δλは、エンジン回転速度Neが適合点エンジン回転速度Nemat、シリンダ吸入空気量Qacが適合点シリンダ吸入空気量Qacmatのとき、実際の燃料噴射量Qfuelが適合点燃料噴射量Qfmatを外れて大きくなるほど正で大きくなる値である。これは、リッチスパイクモードへの切換時の実際の燃料噴射量Qfuelが適合点燃料噴射量Qfmatを外れて大きくなっていると、その大きくなっている燃料噴射量の分だけリッチスパイク処理時の実空気過剰率がリッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率tλ0より小さくなるので、この小さくなったリッチスパイク処理時の実空気過剰率をリッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率rλ0へと戻すためである。
【0069】
また、図14に示したように空気過剰率補正量Δλは、実際の燃料噴射量Qfuelが適合点燃料噴射量Qfmatを外れて小さくなるほど負で大きくなる値である。これは、リッチスパイクモードへの切換時の実際の燃料噴射量Qfuelが適合点燃料噴射量Qfmatを外れて小さくなっていると、その小さくなっている燃料噴射量の分だけリッチスパイク処理時の実空気過剰率がリッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率tλ0より大きくなるので、この大きくなったリッチスパイク処理時の実空気過剰率をリッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率tλ0へと戻すためである。
【0070】
図15に示したように空気過剰率補正量Δλは、エンジン回転速度Neが適合点エンジン回転速度Nemat、燃料噴射量Qfuelが適合点燃料噴射量Qfmatのとき、実際のシリンダ吸入空気量Qacが適合点シリンダ吸入空気量Qacmatを外れて大きくなるほど負で大きくなる値である。これは、リッチスパイクモードへの切換時の実際のシリンダ吸入空気量Qacが適合点シリンダ吸入空気量Qacmatを外れて大きくなっていると、その大きくなっているシリンダ空気量の分だけリッチスパイク処理時の実空気過剰率がリッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率tλ0より大きくなるので、この大きくなったリッチスパイク処理時の実空気過剰率をリッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率tλ0へと戻すためである。
【0071】
また、図15に示したように空気過剰率補正量Δλは、実際のシリンダ吸入空気量Qacが適合点シリンダ吸入空気量Qacmatを外れて小さくなるほど正で大きくなる値である。これは、リッチスパイクモードへの切換時の実際のシリンダ吸入空気量Qacが適合点シリンダ吸入空気量Qacmatを外れて小さくなっていると、その小さくなっているシリンダ空気量の分だけリッチスパイク処理時の実空気過剰率がリッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率tλ0より小さくなるので、この小さくなったリッチスパイク処理時の実空気過剰率をリッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率tλ0へと戻すためである。
【0072】
図16に示したように空気過剰率補正量Δλは、燃料噴射量Qfuelが適合点燃料噴射量Qfmat、シリンダ吸入空気量Qacが適合点シリンダ吸入空気量Qacmatのとき、実際のエンジン回転速度Neが適合点エンジン回転速度Nematを外れて大きくなるほど正で大きくなる値である。これは、リッチスパイクモードへの切換時の実際のエンジン回転速度Neが適合点エンジン回転速度Nematを外れて大きくなっていると、その大きくなっっているエンジン回転速度の分だけシリンダ吸入空気量が減ってリッチスパイク処理時の実空気過剰率がリッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率tλ0より小さくなるので、この小さくなったリッチスパイク処理時の実空気過剰率をリッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率tλ0へと戻すためである。
【0073】
また、図16に示したように空気過剰率補正量Δλは、実際のエンジン回転速度Neが適合点エンジン回転速度Nematを外れて小さくなるほど負で大きくなる値である。これは、リッチスパイクモードへの切換時の実際のエンジン回転速度Neが適合点エンジン回転速度Nematを外れて小さくなっていると、その小さくなっているエンジン回転速度の分だけシリンダ吸入空気量が増えてリッチスパイク処理時の実空気過剰率がリッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率tλ0より大きくなるので、この大きくなったリッチスパイク処理時の実空気過剰率をリッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率tλ0へと戻すためである。
【0074】
このように、フィルタ13のHC脱離量以外のパラメータ(Ne、Qfuel、Qac)に関しては空気過剰率補正量Δλは空気過剰率を1.0より増大する側の値、空気過剰率を1.0より減少させる側の値のいずれにもなり得る。
【0075】
上記のように、リッチスパイク処理時におけるフィルタ13のHC脱離量に基づいて空気過剰率補正量を算出する趣旨と、リッチスパイクモードへの切換時のエンジン運転点に基づいて空気過剰率補正量を算出する趣旨とは異なっている。つまり、空気過剰率補正量Δλには2つの異なる趣旨が含まれているので、趣旨毎に分離した空気過剰率として構成することもできる。例えば、空気過剰率補正量算出部52を、図18に示したように、第1空気過剰率補正量算出部52a、第2空気過剰率補正量算出部52b、第3空気過剰率補正量算出部52c、第4空気過剰率補正量算出部52d、加算部52eから構成する。
【0076】
第1空気過剰率補正量算出部52aでは、リッチスパイク処理時におけるフィルタ13のHC脱離量に基づいて、リッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率を増大側に補正する値である空気過剰率補正量(第1空気過剰率補正量)Δλ1[無名数]を算出する。
【0077】
第2空気過剰率補正量算出部52bでは、リッチスパイクモードへの切換時の燃料噴射量Qfuelに基づいて、NOxトラップ触媒15の上流側にフィルタ13を備えないレイアウトの場合にリッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率を得るための空気過剰率補正量(第2空気過剰率補正量)Δλ2[無名数]を算出する。
【0078】
第3空気過剰率補正量算出部52cでは、リッチスパイクモードへの切換時のシリンダ吸入空気量Qacに基づいて、NOxトラップ触媒15の上流側にフィルタ13を備えないレイアウトの場合にリッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率を得るための空気過剰率補正量(第3空気過剰率補正量)Δλ3[無名数]を算出する。
【0079】
第4空気過剰率補正量算出部52dでは、リッチスパイクモードへの切換時のエンジン回転速度Neに基づいて、NOxトラップ触媒15の上流側にフィルタ13を備えないレイアウトの場合にリッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率を得るための空気過剰率補正量(第4空気過剰率補正量)Δλ4[無名数]を算出する。
【0080】
加算部52eでは、これら4つの空気過剰率補正量Δλ1〜Δλ4を加算した値を空気過剰率補正量Δλ(=Δλ1+Δλ2+Δλ3+Δλ4)として算出する。
【0081】
上記のリッチスパイクモードへの切換時の燃料噴射量Qfuelはリッチスパイクモードへの切換時のエンジン目標トルクTrqに比例する値である。従って、リッチスパイクモードへの切換時のエンジン目標トルクTrqに比例させてリッチスパイクモードへの切換時の燃料噴射量Qfuelを算出すればよい。
【0082】
シリンダ吸入空気量は、スロットル弁5上流の吸気通路に設けたエアフローメータ28により検出される吸入空気量Qaに対し、例えば一次遅れ処理を行うことによって求めている(公知)。従って、リッチスパイクモードへの切換時のこの一次遅れ処理値をリッチスパイクモードへの切換時のシリンダ吸入空気量Qacとすればい。
【0083】
図2に戻りポスト噴射量算出部54では、このようにして算出されたリッチスパイク処理時の目標空気過剰率tλ(=tλ0+Δλ)から図17を内容とするテーブルを検索することにより、ポスト噴射量Qpostを算出する。
【0084】
図17において、リッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率tλ0のときのポスト噴射量を「基本ポスト噴射量Qpost0」とする。ポスト噴射量Qpostは、リッチスパイク処理時の目標空気過剰率tλがリッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率tλ0より大きくなるほど基本ポスト噴射量Qpost0より小さくなる値である。これは、tλがtλ0より大きくなるときにはポスト噴射量Qpostを基本ポスト噴射量Qpost0より小さくして排気の空気過剰率を大きくなる側に向かわせ、tλが得られるようにするためである。
【0085】
また、図17に示したようにポスト噴射量Qpostは、リッチスパイク処理時の目標空気過剰率tλがリッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率tλ0より小さくなるほど基本ポスト噴射量Qpost0より大きくなる値である。これは、tλがtλ0より小さくなるときにはポスト噴射量Qpostを基本ポスト噴射量Qpost0より大きくして排気の空気過剰率を小さくなる側に向かわせ、tλが得られるようにするためである。
【0086】
なお、ポスト噴射量Qpostは、コモンレール8の燃料圧力とポスト噴射期間とで定まるので、コモンレール8の燃料圧力が定まれば、ポスト噴射期間が一義的に定まる。このため、ポスト噴射量Qpostと、そのときのコモンレール燃料圧力からポスト噴射期間を定めるようにしてもかまわない。
【0087】
リッチスパイク処理部55では、リッチスパイクモードへの切換時にスロットル弁5を所定の開度まで閉じると共に、このようにして算出されるポスト噴射量Qpost(あるいはポスト噴射期間)を用いてポスト噴射を行う。
【0088】
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
【0089】
図19には、NOxトラップ触媒15の上流側にフィルタ13を備えるレイアウトに対して、SOFが相対的に多く発生する運転域でのリッチスパイク処理時にHC濃度がどのように変化するのかを示している。このうち、本発明のリッチスパイク処理時の空気過剰率補正を行わない場合を図19上段に比較例として、本実施形態のリッチスパイク処理時の空気過剰率補正を行った場合を図19下段にそれぞれ示している。
【0090】
図19において、破線で示した「要求値」はNOxトラップ触媒15を再生するために必要となるHC濃度の要求値である。本実施形態によれば、リッチスパイク処理時にフィルタ13から脱離してくるHC量の分だけ空気過剰率を増大側に補正してリッチスパイク処理時の基本空気過剰率tλ0が得られるようにしている。このため、図19下段に実線で示したようにフィルタ出口(NOxトラップ触媒入口)でのHC濃度がこの要求値以下に収まっている。この結果、図19下段に二点鎖線で示したようにテールパイプ出口でのHC濃度を抑制できている。
【0091】
一方、比較例では、リッチスパイク処理時にフィルタ13から脱離して供給されるHC量を考えていない。このため、フィルタ13から脱離するHCの分が供給過多となり、図19上段に実線で示したようにフィルタ出口(NOxトラップ触媒入口)でのHC濃度の要求値を超えてしまっている。このため、図19上段にハッチングで示した面積分のHCが供給過多となり、NOxトラップ触媒15で還元剤として用いられることなくNOx触媒15下流に流れる。この結果、図19上段に二点鎖線で示したようにテールパイプ出口でのHC濃度が本実施形態の場合より大きくなっている。
【0092】
このように、本実施形態によれば、流入する排気中に存在するドライスート及びSOFからなるパティキュレートを捕集するフィルタ13を排気通路10の上流側に、排気の空気過剰率が理論空燃比相当の値より大きいときに流入する排気中のNOxをトラップし、排気の空気過剰率が理論空燃比相当の値以上のときにトラップしたNOxを脱離浄化するNOxトラップ触媒15を排気通路10の下流側に備え、NOxトラップ触媒15の再生時期になったとき、理論空燃比相当の値以下の空気過剰率を基本目標空気過剰率tλ0として、この基本目標空気過剰率tλ0が得られるようにリッチスパイク処理を行わせるディーゼルエンジンの排気後処理装置において、SOFが相対的に多く発生する運転域ではリッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率tλ0を増大側に補正する空気過剰率補正手段(図2の53)を備えるので、フィルタ13を排気通路10の上流側に、NOxトラップ触媒15を排気通路10の下流に備えさせるレイアウトの場合であっても、NOxトラップ触媒15への還元剤量の供給過多を抑制してNOxトラップ触媒15の下流に排出されるHCを減らすことができる。
【0093】
本実施形態によれば、SOFが相対的に多く発生する運転域は、シリンダ内の燃焼温度が相対的に低い低温域またはエンジン負荷が相対的に小さな低負荷域であるので、シリンダ内の燃焼温度が相対的に低い低温域またはエンジン負荷が相対的に小さな低負荷域でリッチスパイク処理を行っても、NOxトラップ触媒15への還元剤量の供給過多を抑制することができる。
【0094】
本実施形態によれば、前記空気過剰率補正手段は、リッチスパイクモードへの切換時(リッチスパイク処理開始時)におけるフィルタ13のSOF吸着量と、リッチスパイクモードへの切換時(リッチスパイク処理開始時)におけるフィルタの温度DPFtempとに基づいてリッチスパイクモード(リッチスパイク処理時)におけるフィルタ13のHC脱離量を算出するHC脱離量算出部51(HC脱離量算出手段)と、この算出したリッチスパイクモードにおけるフィルタのHC脱離量に応じてリッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率tλ0を増大側に補正するための空気過剰率補正量Δλを算出する空気過剰率補正量算出部52(空気過剰率補正量算出手段)とを備えるので、リッチスパイクモードにおけるフィルタ13のSOF吸着量やリッチスパイクモードにおけるフィルタ13の温度DPFtempによらず、リッチスパイクモードにおけるフィルタ13のHC脱離量を過不足なく与えることができる。
【0095】
本実施形態によれば、空気過剰率補正量算出部52(空気過剰率補正量算出手段)は、リッチスパイクモード(リッチスパイク処理時)におけるフィルタ13のHC脱離量が多いほど空気過剰率補正量を大きくするので(図13参照)、リッチスパイクモードにおけるフィルタ13のHC脱離量によらず、NOxトラップ触媒15に過不足のない還元剤量を供給できる。
【0096】
本実施形態によれば、空気過剰率補正量Δλを、リッチスパイクモードへの切換時(リッチスパイク処理開始時)のエンジン運転点に応じても空気過剰率補正量算出部52が算出するので、異なるエンジン運転点でリッチスパイク処理を行っても、NOxトラップ触媒15への還元剤量を過不足なく与えることができる。
【0097】
本実施形態によれば、リッチスパイク処理時におけるフィルタ13のHC脱離量は、リッチスパイクモードへの切換時(リッチスパイク処理開始時)におけるフィルタ13のSOF吸着量が大きいほど大きくなる値であるので(図11参照)、リッチスパイクモードへの切換時におけるフィルタ13のSOF吸着量が相違しても、リッチスパイク処理時におけるフィルタ13からのHC脱離量を過不足なく与えることができる。
【0098】
本実施形態によれば、フィルタ13のSOF吸着量を、通常運転モードのとき(リッチスパイク処理時でないとき)にフィルタ13に流入するSOF量をSOF吸着量算出部36が一定の周期で加算し、通常運転モードのとき(リッチスパイク処理時でないとき)にフィルタ13から脱離するSOF量を減算部41が一定の周期で減算することにより算出するので、通常運転モードでの時々刻々のSOF吸着量を精度よく把握することができる。このため、通常運転モードのどのタイミングでリッチスパイク処理を開始しても、空気過剰率補正を適切に行うことができる。
【0099】
本実施形態によれば、通常運転モードのとき(リッチスパイク処理時でないとき)にフィルタ13に流入するSOF量を一定の周期で加算した値がフィルタ13のSOF吸着容量を超えるときにはこのSOF吸着容量に最小側選択部39が制限するので、フィルタ13に実際には吸着されていないSOF吸着量が算出されることを防止できる。
【0100】
本実施形態によれば、通常運転モードのとき(リッチスパイク処理時でないとき)にフィルタ13に流入するSOF量を、エンジンアウトSOF量に基づいて乗算部35が算出するので、エンジンアウトSOF量が相違してもフィルタ13に流入するSOF量を過不足なく与えることができる。
【0101】
本実施形態によれば、通常運転モードのとき(リッチスパイク処理時でないとき)にフィルタ13から脱離するSOF量を、実空気過剰率rλ、フィルタ13の温度DPFtemp、排気の体積速度SVの少なくとも一つに基づいてSOF脱離量算出部40が算出するので、実空気過剰率rλ、フィルタ13の温度DPFtemp、排気の体積速度SVが相違しても、通常運転モードのときにフィルタ13から脱離するSOF量を過不足なく与えることができる。
【符号の説明】
【0102】
1 エンジン
5 スロットル弁
9 燃料噴射弁
13 フィルタ
15 NOxトラップ触媒
21 エンジンコントロールユニット
30 SOF吸着量算出部
50 ポスト噴射量算出部
51 HC脱離量算出部(HC脱離量算出手段)
52 空気過剰率補正量算出部(空気過剰率補正量算出手段)
53 空気過剰率補正部(空気過剰率補正手段)
54 ポスト噴射量算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入する排気中に存在するドライスート及びSOFからなるパティキュレートを捕集するフィルタを排気通路の上流側に、排気の空気過剰率が理論空燃比相当の値より大きいときに流入する排気中のNOxをトラップし、排気の空気過剰率が理論空燃比相当の値以上のときにトラップしたNOxを脱離浄化するNOxトラップ触媒を排気通路の下流側に備え、
NOxトラップ触媒の再生時期になったとき、理論空燃比相当の値以下の空気過剰率を基本目標空気過剰率として、この基本目標空気過剰率が得られるようにリッチスパイク処理を行わせるディーゼルエンジンの排気後処理装置において、
前記SOFが相対的に多く発生する運転域では前記リッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率を増大側に補正する空気過剰率補正手段を備えることを特徴とするディーゼルエンジンの排気後処理装置。
【請求項2】
前記SOFが相対的に多く発生する運転域は、シリンダ内の燃焼温度が相対的に低い低温域またはエンジン負荷が相対的に小さな低負荷域であることを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジンの排気後処理装置。
【請求項3】
前記空気過剰率補正手段は、
前記リッチスパイク処理開始時におけるフィルタのSOF吸着量と、前記リッチスパイク処理開始時におけるフィルタの温度とに基づいて前記リッチスパイク処理時におけるフィルタのHC脱離量を算出するHC脱離量算出手段と、
この算出したリッチスパイク処理時におけるフィルタのHC脱離量に応じて前記リッチスパイク処理時の基本目標空気過剰率を増大側に補正するための空気過剰率補正量を算出する空気過剰率補正量算出手段と
を備えることを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジンの排気後処理装置。
【請求項4】
前記空気過剰率補正量算出手段は、前記リッチスパイク処理時におけるフィルタのHC脱離量が多いほど前記空気過剰率補正量を大きくすることを特徴とする請求項3に記載のディーゼルエンジンの排気後処理装置。
【請求項5】
前記空気過剰率補正量を、リッチスパイク処理開始時のエンジン運転点に応じても算出することを特徴とする請求項3に記載のディーゼルエンジンの排気後処理装置。
【請求項6】
前記リッチスパイク処理時におけるフィルタのHC脱離量は、前記リッチスパイク処理開始時におけるフィルタのSOF吸着量が大きいほど大きくなる値であることを特徴とする請求項3または4に記載のディーゼルエンジンの排気後処理装置。
【請求項7】
前記フィルタのSOF吸着量を、前記リッチスパイク処理時でないときにフィルタに流入するSOF量を一定の周期で加算し、前記リッチスパイク処理時でないときにフィルタから脱離するSOF量を一定の周期で減算することにより算出することを特徴とする請求項3に記載のディーゼルエンジンの排気後処理装置。
【請求項8】
前記リッチスパイク処理時でないときにフィルタに流入するSOF量を一定の周期で加算した値が前記フィルタのSOF吸着容量を超えるときにはこのSOF吸着容量に制限することを特徴とする請求項7に記載のディーゼルエンジンの排気後処理装置。
【請求項9】
前記リッチスパイク処理時でないときにフィルタに流入するSOF量を、エンジンアウトSOF量に基づいて算出することを特徴とする請求項7または8に記載のディーゼルエンジンの排気後処理装置。
【請求項10】
前記リッチスパイク処理時でないときにフィルタから脱離するSOF量を、実空気過剰率、前記フィルタの温度、排気の体積速度の少なくとも一つに基づいて算出することを特徴とする請求項7に記載のディーゼルエンジンの排気後処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−24210(P2013−24210A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162350(P2011−162350)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】