説明

ディーゼル型直接噴射内燃機関用の燃料の気化を容易にする方法

【課題】通常の直接噴射機関に存在する構成部材を使用する方法によって従来技術の欠点を解消する。
【解決手段】本発明は、燃焼室(18)を含む少なくとも1つのシリンダー(10)と、吸気管(20)及び弁(22)を含む少なくとも1つの流体吸気手段と、排気管(24)及び弁(26)を含む少なくとも1つの燃焼ガス排気手段と、弁制御手段(28、30)と、燃料噴射手段(32)とを有する直接噴射4工程機関における燃料の気化を容易にする方法に関する。この方法は、吸気工程の開始間際に、吸気流体を燃焼室に送り込むように吸気弁(22)を開き、排気管(20)に入っている燃焼ガスの少なくとも一部を再び燃焼室に送り込むように排気弁(26)を開くことと、吸気工程が終了する前に、排気弁を閉じることと、吸気工程の終了間際に、吸気弁を閉じることと、吸気工程の間、燃焼室内へ少なくとも1回燃料噴射を実施することとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料混合物を圧縮し自己着火させる直接噴射内燃機関、特にディーゼル型機関において燃料の気化を容易にする方法に関する。
【0002】
有利なことに、本発明は、2つの燃焼モード、すなわち、均質燃焼モード、特にHCCI(予混合圧縮着火)と、従来の燃焼モードとに従って動作することのできる機関に関する。
【背景技術】
【0003】
好ましくは低機関負荷および中機関負荷に使用される均質動作モードは、燃料を燃焼室内に非常に早い時期(たとえば、機関吸気工程の間)に噴射して、燃料と、空気や空気と再循環排気ガス(EGR)との混合物などの流体とを均質に混合することから成る。
【0004】
好ましくは高機関荷重に使用される従来の燃焼動作モードでは、燃料噴射がピストン圧縮上死点の近くで行われ、自己着火、次いで拡散による従来の燃焼が生じる。
【0005】
この燃焼モードでは、たとえば、吸気工程の開始時に「パイロット」噴射と呼ばれる早期燃料噴射を実施することも可能である。
【0006】
均質燃焼動作モードでは、均質な混合物を得るために燃料噴射を機関運転サイクルの非常に早い時期に行うと有利であるが、噴射された燃料によってシリンダー壁が濡れる恐れがある。
【0007】
したがって、吸気工程の開始時の燃料噴射は、このような機関のピストンが通常備えるボウルに噴射された燃料を閉じ込め、一方、この燃料とシリンダー壁との接触を制限するという利点を有するが、燃焼室に導入されている流体の温度は十分に高くならない。したがって、このボウル、次いで燃焼室に噴射される燃料が気化するのは困難である。
【0008】
従来の動作モードでは、パイロット噴射は、上述のような噴射された燃料の気化の問題に関して同じ欠点を有する。
【0009】
この燃料気化の問題は、燃料混合物の燃焼の進行を阻害し、大気中への汚染物質の排出量を増大させると共に、機関による燃料の過剰消費を招く。
【0010】
ガソリン型間接噴射機関では、燃料を液体形態または微細液滴の形態で、吸気管に入っている排気ガス中に噴射することによって、気化を実現することが知られている。燃料は、高温のガスに接触すると、気化して霧状になり、このガスだけでなく、その後機関の燃焼室に送り込まれる流体とも混合される。
【0011】
基本的に燃焼噴射を吸気管内で行うことはできないため、直接噴射機関のこのような転換は不可能である。
【0012】
しかし、燃料の気化を向上させることは基本的に、燃料混合物の燃焼時に一酸化炭素(CO)および未燃炭化水素(HC)の排気量を減らす利点を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明、通常の直接噴射機関に存在する構成部材を使用する方法によって上述の欠点を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、均質動作モードおよび従来の動作モードに従って動作することができる直接噴射4工程内燃機関であって、燃焼室を含む少なくとも1つのシリンダーと、吸気管および吸気弁を含む少なくとも1つの流体吸気手段と、排気管および排気弁を含む少なくとも1つの燃焼ガス排気手段と、弁の開閉を制御する手段と、燃料噴射手段とを有する直接噴射4工程機関における燃料の気化を容易にする方法において、
吸気工程の開始間際に、吸気流体を燃焼室に送り込むように吸気弁を開き、排気管に入っている燃焼ガスの少なくとも一部を再び燃焼室に送り込むように排気弁を開くことと、
吸気工程が終了する前に、排気弁を閉じることと、
吸気工程の終了間際に、吸気弁を閉じることと、
吸気工程の間に、燃焼室内へ少なくとも1回燃料噴射を実施することとを含むことを特徴とする方法に関する。
【0015】
この方法は、排気弁を開く前に少なくとも1回燃料噴射を実施することを含んでよい。
【0016】
この方法は、排気弁を開いた後に少なくとも1回燃料噴射を実施することを含んでよい。
【0017】
この方法は、排気弁を閉じた後に少なくとも1回燃料噴射を実施することを含んでよい。
【0018】
この方法は、排気ガスが燃焼室に再導入されるときに一連な排気弁開閉サイクルを実施することを含んでよい。
【0019】
この方法は、機関吸気工程の開始間際に、吸気弁を開く前に排気弁を開くことを含んでよい。
【0020】
この方法は、機関吸気工程の開始間際に、排気弁を吸気弁と同時に開くことを含んでよい。
【0021】
少なくとも排気弁を制御する手段は、弁のリフト法則を変更可能である。
【0022】
本発明の他の特徴および利点は、非制限的な例として与えられた以下の説明を、添付の図面を参照して読んだときに明らかになろう。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、従来技術の欠点が解消され、上述の目的が達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1〜3では、図示の内燃機関は、2つの燃焼モード、すなわち、均質燃焼モード、特にHCCI(予混合圧縮着火)と、従来の燃焼モードとに従って動作することのできる直接噴射4工程(または4サイクル)内燃機関である。
【0025】
低機関負荷および中機関負荷に使用される均質動作モードは、速い時期(たとえば機関吸気工程の間)に燃焼室内に燃料を噴射して、燃料と、空気や空気と再循環排気ガス(EGR)との混合物などの流体とを均質に混合する。
【0026】
好ましくは高機関負荷に使用される従来の燃焼動作モードでは、燃料噴射が圧縮上死点の近くで行われ、自己着火、次いで拡散による従来の燃焼が生じる。たとえば、吸気工程の開始時に「パイロット」噴射と呼ばれる早期燃料噴射を実施することも可能である。
【0027】
この機関は、ピストン14が、クランクシャフト(不図示)によって制御されるロッドの作用の下で直線往復運動しながら内部をスライドする、シリンダー本体12を含む少なくとも1つのシリンダー10を有している。シリンダー本体は、その上部がシリンダーヘッド16によって閉鎖され、したがって、シリンダー本体の横壁と、シリンダーヘッドと、ピストンの上部とから成る燃焼室18が区画される。
【0028】
燃焼室とは、上方に形成された容積に、ピストンの頂部に形成されることがあるボウル状のくぼみの容積を加えた容積である。
【0029】
シリンダーヘッドは、燃焼室への開口部が吸気弁22によって制御される吸気管20を有する少なくとも1つの吸気手段を備えている。シリンダーヘッドは、燃焼室との連通が排気弁26によって制御される排気管24を有する少なくとも1つの排気手段も備えている。
【0030】
吸気弁および/または排気弁の開閉は、これらの弁の開閉時間とリフトに関するこれらの弁のリフト法則を、互いに独立にまたは組み合わせて変更するのを可能にする手段28および30によって制御される。これらの手段は、VVT(可変弁タイミング)、VVL(可変弁リフト)、またはVVA(可変弁作動)として公知である。
【0031】
この排気弁および場合によっては吸気弁を、「カムレス」と呼ばれ、すなわち、カムシャフトを有さない制御手段によって制御することも可能である。この場合、機関は、弁ロッドに直接的または間接的に作用する電磁制御アクチュエータや油圧制御アクチュエータや電動油圧制御アクチュエータや空気圧制御アクチュエータや電空制御アクチュエータのような、各弁専用の作動手段を有する。
【0032】
図1〜3に関連して説明する例では、吸気弁22の開閉は、カムシャフトのような従来の手段28によって制御され、一方、排気弁26は、特にVVA型手段によってそのリフト法則を変更するのを可能にする手段30によって制御される。
【0033】
機関は、燃料と燃焼室に入っている流体との混合物が得られるように燃料を燃焼室18内に噴霧する、好ましくはマルチジェット噴射ノズル(図では軸線によって示されている)の形をした燃料噴射手段32を有している。
【0034】
排気弁制御手段30および燃料噴射手段32は、機関が通常備える機関計算機と呼ばれる計算ユニット(不図示)によって制御される。もちろん、吸気弁制御手段28がカムレス型手段であるかまたはこれらの弁のリフト法則を変更するのを可能にする種類の手段である場合、計算機はこれらの制御手段も制御する。
【0035】
この計算機の目的は特に、弁の開閉と、機関サイクル中の噴射時間や燃料噴射持続時間などのノズル噴射パラメータとを調節することである。
【0036】
以下の方法の説明は、図1〜3の機関に関連する説明である。
【0037】
図1は、この機関の排気工程の終了後および吸気工程の開始時の直接噴射機関の構成を示している。この構成では、ピストン14はその吸気上死点(PMHa)にあり、燃焼室18に燃焼ガス34(または排気ガス)が入っており、排気管には燃焼ガスのみが入っており、吸気管には吸気流体が入っている。
【0038】
このPMHa位置から、ピストン14が吸気工程のためのロッドおよびクランクシャフトの作用の下で駆動され、ピストンは、その吸気上死点PMHaからその圧縮下死点(図3のPMBc)に向かう垂直下向き運動(図1および2の矢印F)を行う。
【0039】
PMHaの近くで、計算機は、排気弁26が開位置になり、一方、吸気弁22が従来どおりカムシャフト28の作用で開かれるように、制御手段30を制御する。この位置では、ピストン14の運動の作用の下で、排気管24に入っている燃焼ガス34および吸気管に入っている流体が燃焼室18に送り込まれる。
【0040】
計算機はまた、この吸気工程の間に、噴射ノズル32によって燃焼室への少なくとも1回の燃料噴射を制御する。
【0041】
有利なことに、上述の例によれば、排気弁を閉じる前に、燃料室に導入された流体と燃料室に再導入された燃焼ガスとの混合物において少なくとも1回の燃料噴射が実施される。高温の流体/燃焼ガス混合物におけるこの燃料噴射は、液体燃料とシリンダー壁との接触を著しく軽減しつつ、燃料をこの混合物との接触時に気化する効果を有する。
【0042】
もちろん、本発明の範囲から逸脱せずに、通常燃焼室の死容積中に存在する残留燃焼ガスによってこの燃料の気化を実施し、排気管に入っている燃焼ガスの導入時にこの気化が継続されるように、この噴射を排気弁を開く前に行うことができる。
【0043】
さらに、排気弁を閉じた後で、燃焼室に導入された流体と燃料室に再導入された燃焼ガスとの混合物に噴射された燃料を接触させ、この燃料を気化させることができる。
【0044】
有利なことに、吸気工程の開始時には、吸気弁22が開く前に、ピストン/シリンダーヘッド距離、厳密にはピストンくぼみの底部と弁上の対応する面との間の距離が適切な距離になった直後に、排気弁26が開く。この排気弁は次に点V(で閉じる。吸気弁を開くのは、排気弁を開いた直後または点V(で排気弁を閉じるのとほぼ同時と考えることができる。もちろん、この2つの弁を吸気工程の開始時に同時に開くことなど、この2つの弁の任意の他の構成も考えられる。
【0045】
PMHaから数10度のクランク回転角(図2のV()に相当するピストン14の限られた変位の後で、計算機が、排気弁26が閉じるのを制御し、吸気弁22は従来どおりその開位置のままであり、流体は引き続き燃焼室18に送り込まれ、気化供給物と混合される。噴射ノズルは、このピストンの下降運動中ずっとまたは下降運動の一部の間燃焼室への燃料噴射を継続することができる。噴射された燃料は、吸気流体と混合された供給物との接触時に、燃料室に入っている供給物の温度の作用の下でよりうまく気化することができ、得られる燃料混合物の均質性が大幅に向上する。
【0046】
この吸気工程の終了時に、ピストン14は圧縮下死点PMBc(図3)の近くに位置し、吸気弁22はカムシャフト28の作用の下で閉位置に位置する。
【0047】
したがって、吸気工程の終了間際に吸気弁22を閉じるときに燃焼室18内で得られる混合物は、ある量の燃焼ガスを含む流体/気化燃料混合物である。
【0048】
公知のように、この機関動作方法は引き続き燃料混合物圧縮工程になり、燃料噴射および燃焼を継続することができる。
【0049】
上述のように排気弁を開く吸気工程の間に、燃焼ガスが燃焼室に送り込まれるときに燃料を噴射することが可能である。
【0050】
プログラムに従って弁がクランク回転角V(で閉じるまで、燃料噴射に関連する排気弁の開閉サイクルを連続的に実施することも可能である。これは、燃焼ガスに含まれる熱量が噴射された燃料を気化して燃焼室に送り込むのに使用されるときに燃焼ガスの温度の局所的な低下を最低限に抑える効果を有する。
【0051】
もちろん、当業者なら、機関吸気工程の終了時に燃焼室に存在する燃焼ガスの量によって圧縮および自己着火による燃料混合物の燃焼が変化しないように機関吸気工程のクランク回転角V(で排気弁を閉じる動作を制御するであろう。
【0052】
本発明は、上述の実施例に限定されず、任意の変形実施形態および均等物を包含する。
【0053】
特に、上述の方法は、本出願人によって出願されたフランス特許第2818324号および第2818325号に記載された機関で使用することができる。この機関は、少なくともシリンダーと、このシリンダー内を滑るピストンと、突起のベースとボウルの周壁を連結する底壁を有する凹状のボウルの中心に配置されたティートを有するピストンの上面によって一方の側に形成された燃料室とを有する。この機関は、2tan-1CD/2F以下のナップ角度で燃料を噴射する噴射ノズルも有し、ここで、CDはシリンダーの直径であり、Fは噴射ノズルからの燃料ジェットの発射点と上死点に対する50(のクランク角度に相当するピストン位置との間の距離である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明による方法の様々な段階の進行を示す直接噴射機関の図である。
【図2】本発明による方法の様々な段階の進行を示す直接噴射機関の図である。
【図3】本発明による方法の様々な段階の進行を示す直接噴射機関の図である。
【符号の説明】
【0055】
10 シリンダー
12 シリンダー本体
14 ピストン
16 シリンダーヘッド
18 燃焼室
22 吸気弁
24 排気管
26 排気弁
28、30 制御手段
32 噴射手段
34 燃焼ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
均質動作モードおよび従来の動作モードに従って動作することができる直接噴射4工程内燃機関であって、燃焼室(18)を含む少なくとも1つのシリンダー(10)と、吸気管(20)および吸気弁(22)を含む少なくとも1つの流体吸気手段と、排気管(24)および排気弁(26)を含む少なくとも1つの燃焼ガス排気手段と、弁開閉制御手段(28、30)と、燃料噴射手段(32)とを有する直接噴射4工程内燃機関における燃料の気化を容易にする方法において、
吸気工程の開始間際に、吸気流体を前記燃焼室に送り込むように前記吸気弁(22)を開き、前記排気管(20)に入っている燃焼ガスの少なくとも一部を再び前記燃焼室に送り込むように前記排気弁(26)を開くことと、
前記吸気工程が終了する前に、前記排気弁(26)を閉じることと、
前記吸気工程の終了間際に、前記吸気弁(22)を閉じることと、
前記吸気工程の間に、前記燃焼室内へ少なくとも1回燃料噴射を実施することと、を含む方法。
【請求項2】
前記排気弁(26)を開く前に少なくとも1回燃料噴射を実施することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記排気弁(26)を開いた後に少なくとも1回燃料噴射を実施することを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記排気弁(26)を閉じた後に少なくとも1回燃料噴射を実施することを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
排気ガスが前記燃焼室(18)に再導入されるときに前記排気弁(26)を開閉する連続的なサイクルを実施することを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記吸気工程の開始間際に、前記吸気弁(22)よりも先に前記排気弁(26)を開くことを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記吸気工程の開始間際に、前記排気弁(26)を前記吸気弁(22)を開くのと同時に開くことを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも前記排気弁(26)を制御する前記手段(30)は、前記排気弁のリフト法則を変更可能である、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−208834(P2008−208834A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43722(P2008−43722)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(591007826)イエフペ (261)
【Fターム(参考)】