説明

トラクター直装式ブームスプレーヤ

【課題】 ブームが実際に傾斜した場合にそのブームを速やかに、かつ適正に回動制御して迅速な傾斜角度の補正ができるトラクター直装式ブームスプレーヤを提供する。
【解決手段】 ブーム4が基部フレーム3に対してその重心近傍で回動自在に支持されているとともに、ブーム4を正逆方向に回動させるブーム回動手段8と、前輪車軸24の車体21に対する相対的な傾斜角度を計測する前輪傾斜角度計測手段9と、走行面の凹凸により後輪が傾斜する前に、前輪車軸の相対的な傾斜角度の方向と反対方向にブーム4を回動させるための準備をブーム回動手段8に実行させるブーム回動準備制御手段11と、ブーム4の基部フレーム3に対する相対的な傾斜角度を計測するブーム傾斜角度計測手段10と、ブーム4の相対的な傾斜角度が所定の範囲を超えた場合、回動準備中のブーム回動手段8を駆動してブーム4を制御するブーム回動制御手段12とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクターに直接装着して圃場に薬液を散布するトラクター直装式ブームスプレーヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なブームスプレーヤは、左右に延出されたブームと呼ばれるフレーム構造体に、農薬等の薬剤を散布する複数の散布ノズルを配置し、このブームをトラクター等に装着させて、圃場を走行しながら薬剤を散布するものである。このようなブームスプレーヤは、薬剤を広範囲に散布するのに適している。
【0003】
しかし、圃場には小石や大小のぬかるみ等があって大小様々な凹凸の走行路が存在している。そのため、トラクターが圃場を走行すると、その車体が装着されたブームと共に左右に揺れたり、振動することがある。前記ブームが揺れて傾斜等すると、ブームが圃場や作物と接触して傷つけてしまったり、散布方向が変わってしまうため薬剤が狭い範囲に散布されたり、逆に散布されない領域が生じたりして斑状になってしまうという問題がある。
【0004】
そこで、本出願人は、これまでにブームと圃場との平衡状態を維持する機能を備えたブームスプレーヤに関する発明を提案している。例えば、特許第2649827号公報では、トラクターに直装された中央ブームと、この中央ブームの左右両側部を基端部としてアクチュエータにより回動可能に取り付けられた左右の基ブームと、この基ブームの先端部を基端部としてアクチュエータにより回動可能に取り付けられた左右の先ブームと、各ブームの地表又は作物までの距離を検出する距離センサーと、前記トラクターの車体と前輪枠との相対傾斜角度を計測する傾斜センサーとを有し、この傾斜センサーの計測信号に基づいて後輪が傾斜する前に各ブームに設けられた各アクチュエータを制御して各ブームの圃場または作物に対する高さを所定の範囲内に保持することを特徴とするトラクター直装スプレーヤのブーム制御装置が提案されている(特許文献1)。
【0005】
すなわち、この特許文献1に記載の発明は、走行路の凹凸面に対し、前輪が通過してから後輪が通過するまでのタイムラグを利用し、その凹凸面により後輪が傾斜する前にブームの制御を行うことにより、前記ブームと圃場または作物との平行関係を維持することを特徴とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2649827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された発明においては、前輪と後輪とが同じように傾斜するとは限らず、むしろ傾斜の程度などは異なることも多いため、傾斜した走行路を後輪が通過する前にブームを制御すると、却って必要以上に傾斜し過ぎたり、不十分な場合がある。例えば、前輪が小石を踏み傾斜したとして、その小石が前輪に踏まれたことにより地中に沈み込み、後輪がその上を通過しても車体は傾斜しない場合や前輪が凹凸面を潰して後輪に影響を与えない場合もある。この様な場合、傾斜していない走行路を通過してもブームは傾斜制御されてしまうため、ブームと圃場または作物との平行関係を失う要因となってしまう。そこで、ブームが実際に傾斜した場合にのみ前記ブームを回動させて前記ブームと圃場または作物との平行関係を維持したいという要望が強い。
【0008】
本発明は、このような課題ないし要望を解決するためになされたものであって、ブームが実際に傾斜した場合にそのブームを速やかに、かつ適正に回動制御して迅速な傾斜角度の補正ができるトラクター直装式ブームスプレーヤを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るトラクター直装式ブームスプレーヤは、前輪および後輪を備えたトラクターと、このトラクターの後方に設置される基部フレームと、この基部フレームに支持されて前記トラクターの左右に延出されたブームと、このブームに設置されて薬液を散布する複数の散布ノズルと、前記薬液を貯留する薬液貯留タンクと、この薬液貯留タンクから前記各散布ノズルへ前記薬液を供給する薬液供給ポンプとを有するトラクター直装式ブームスプレーヤであって、前記ブームが前記基部フレームに対してその重心近傍で回動自在に支持されているとともに、前記ブームを正逆方向に回動させるブーム回動手段と、走行面の凹凸により傾斜する前輪車軸の車体に対する相対的な傾斜角度を計測する前輪傾斜角度計測手段と、前記前輪車軸の相対的な傾斜角度に基づいて前記走行面の凹凸により後輪が傾斜する前に、前記前輪車軸の相対的な傾斜角度の方向と反対方向に前記ブームを回動させるための準備を前記ブーム回動手段に実行させるブーム回動準備制御手段と、前記ブームの前記基部フレームに対する相対的な傾斜角度を計測するブーム傾斜角度計測手段と、前記ブームの相対的な傾斜角度が所定の範囲を超えた場合、回動準備中の前記ブーム回動手段を駆動して前記ブームを回動させることにより前記ブームの相対的な傾斜角度を所定の範囲内に制御するブーム回動制御手段とを有する。
【0010】
また、本発明の一形態として、前記ブーム回動手段が、正逆方向に回転可能な回転モーターと、この回転モーターと前記ブームとの連結および切り離しの切り換えを可能とするクラッチ機構とを有しており、前記前輪傾斜角度計測手段により前記前輪車軸の前記車体に対する相対的な傾斜角度が所定の範囲を超えた場合、前記ブーム回動準備制御手段が、前記ブームを前記前輪車軸の相対的な傾斜方向と反対方向へ回動させる準備のために前記回転モーターを空転させてニュートラル状態で待機させ、前記ブーム傾斜角度計測手段により前記ブームの前記基部フレームに対する相対的な傾斜角度が所定の範囲を超えた場合、前記ブーム回動制御手段が、前記クラッチ機構を制御して前記回転モーターと前記ブームとを連結し、前記ブームを回動させるようにしてもよい。
【0011】
さらに、本発明の一形態として、前記ブーム回動手段が、前記ブームを油圧によって正逆方向に回動させる油圧式ブーム回動機構と、油圧用の油を貯留する油貯留タンクと、この油貯留タンクから前記油圧式ブーム回動機構に前記油を供給する油圧ポンプと、前記油圧式ブーム回動機構と前記油貯留タンクとを直接的に連通させて前記ブームの回動をフリー状態にするブームフリー油路と、前記油圧式ブーム回動機構と前記油貯留タンクとを前記油圧ポンプを介して連通するブーム回動油路と、前記油圧式ブーム回動機構へ油の流入・流出方向を切り換えることで前記ブームを正逆方向に回動可能に制御する方向切換弁と、前記ブームフリー油路と前記ブーム回動油路との流路を任意に切り換える油路切換弁とを有しており、前記前輪傾斜角度計測手段により前記前輪車軸の前記車体に対する相対的な傾斜角度が所定の範囲を超えた場合、前記ブーム回動準備制御手段は、前記ブームを前記前輪車軸の相対的な傾斜方向と反対方向へ回動させる準備のために、前記方向切換弁により前記流路を前記反対方向へと切り換えるとともに、前記油路切換弁により前記ブームフリー油路に切り換えることで前記ブームをニュートラル状態にて待機させ、前記ブーム傾斜角度計測手段により前記ブームの前記基部フレームに対する相対的な傾斜角度が所定の範囲を超えた場合、前記ブーム回動制御手段は、前記油路切換弁により前記流路を前記ブーム回動油路に切り換えるとともに、前記油圧ポンプを作動させて前記ブームを回動させるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ブームが実際に傾斜した場合にそのブームを速やかに、かつ適正に回動制御し、迅速な傾斜角度の補正をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るトラクター直装式ブームスプレーヤの第一実施形態を示す後方から見た背面図である。
【図2】本発明に係るトラクター直装式ブームスプレーヤの第一実施形態を示す上方から見た平面図である。
【図3】本発明に係るトラクター直装式ブームスプレーヤの第一実施形態を示す側面図である。
【図4】本第一実施形態におけるブームの傾斜角度を制御する手段を示すブロック構成図である。
【図5】走行路の凹凸面上を通過する前輪車軸を示す拡大正面図である。
【図6】本第一実施形態における基部フレームおよびブームを示す拡大側面図である。
【図7】本第一実施形態における基部フレームおよびブームを示す拡大背面図である。
【図8】本第一実施形態における基部フレームとブームとの連結部分を示す拡大平面図である。
【図9】本第一実施形態におけるブーム制御手段の制御手順を示すフローチャートである。
【図10】本第二実施形態におけるブーム回動手段を示すブロック図である。
【図11】本第二実施形態における基部フレームおよびブームを示す拡大斜視図である。
【図12】本第二実施形態における油圧シリンダーの構造を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るトラクター直装式ブームスプレーヤの第一実施形態について図面を用いて説明する。図1、図2および図3は、本第一実施形態におけるトラクター直装式ブームスプレーヤ1の背面図、平面図および側面図である。
【0015】
本第一実施形態のトラクター直装式ブームスプレーヤ1は、主として、トラクター2と、このトラクター2の後方に設置される基部フレーム3と、この基部フレーム3に支持されるブーム4と、このブーム4に設置される散布ノズル5と、薬液を貯留する薬液貯留タンク6と、散布ノズル5に薬液を供給する薬液供給ポンプ7と、ブーム4を回動させるブーム回動手段8と、前輪車軸24の傾斜角度を測定する前輪傾斜角度計測手段9と、ブーム4の傾斜角度を計測するブーム傾斜角度計測手段10と、図4に示すブーム回動準備制御手段11およびブーム回動制御手段12として機能するブーム制御手段13とにより構成されている。以下、各構成について詳細に説明する。
【0016】
トラクター2は、圃場を走行する走行車であり、少なくとも、車体21と、この車体21の前方に設けられる前輪22と、車体21の後方に設けられる後輪23とを備えており、後方部分にブームを取り付け可能に構成されている。車体21には、各種機能を操縦するための操縦席が設けられており、図示しないが、操縦席には舵を取るためのハンドルやブームの傾斜角度を調節するコントローラー25、このコントローラー25に接続されたブーム制御手段13が備えられている。
【0017】
前輪22は、左右のタイヤからなり、ハンドルと連動して回動することでトラクターの旋回を可能としている。また、図5に示すように、左右のタイヤは前輪車軸24により連結されており、この前輪車軸24は車体21の底部において回動可能に接続されている。よって、凹凸を有する走行路を前輪が通過した場合、前輪車軸24は凹凸面に追従して左右に傾斜するが、車体21は揺れを吸収して傾斜しない構成になっている。
【0018】
一方、後輪23は、車体21前方に設けられたエンジンを駆動力とする左右のタイヤにより構成されており、凹凸を有する走行路を後輪23が通過した場合、その凹凸面に追従して左右に傾斜するとともに、車体21も一緒に傾斜する構成になっている。
【0019】
基部フレーム3は、トラクター2の後方に設置されてブーム4の基部となるものである。本第一実施形態では、図1ないし図3、図6および図7に示すように、トラクター2の後方に固定されたガイドフレーム31と、このガイドフレーム31に沿って上下に摺動可能な上下フレーム32と、この上下フレーム32を油圧制御により昇降可能とするブーム上下用油圧シリンダー33とから構成される。
【0020】
ブーム4は、基部フレーム3に対してその重心近傍で回動自在に支持されているとともに、トラクター2の左右に延出されている。本第一実施形態では、図8に示すように、上下フレーム32に設けられるブーム回動手段8を介して軸支されている。
【0021】
また、本第一実施形態におけるブーム4は、中央ブーム41と、この中央ブーム41の左右両端部を基端部として左右それぞれに接続される基ブーム42,42と、各基ブーム42,42の先端部を基端部として接続される先ブーム43,43とからなり、中央ブーム41と基ブーム42との接続部には略水平方向に回動可能な油圧式のアクチュエータ44が設けられており、基ブーム42と先ブーム43との接続部には略垂直方向に回動可能な油圧式のアクチュエータ44が設けられている。すなわち、本第一実施形態におけるブーム4は、アクチュエータ44の油圧制御により前記接続部において折り畳み可能になっている。
【0022】
次に、薬液を圃場に散布するスプレーヤとしての構成である散布ノズル5、薬液貯留タンク6および薬液供給ポンプ7について説明する。
【0023】
散布ノズル5は、圧送される薬液を液状、滴状または霧状であって、直線状、円錐状まはた扇状に散布するものである。本第一実施形態では、複数の散布ノズル5をブーム4に沿って所定間隔を隔てて設置している。なお、散布ノズル5の種類や数、設置間隔等は、特に限定されるものではなく、散布する薬液の種類、圃場および作物の状態、ブーム4の長さ等に基づいて適宜選択されるものである。
【0024】
薬液貯留タンク6は、散布ノズル4に供給する薬液を貯留しておくためのタンクである。本第一実施形態における薬液貯留タンク6は、図1ないし図3に示すように、基部フレーム3とトラクター2後部との間に設置されている。
【0025】
薬液供給ポンプ7は、薬液貯留タンク6から各散布ノズル5へ薬液を圧送するポンプである。使用されるポンプは、容積型ポンプ、渦巻き型ポンプ等から適宜選択することができる。また、ポンプの動力源は、特に限定されるものではなく、トラクターのバッテリーの電力やエンジンの回転力等であってよい。
【0026】
次に、ブーム4の圃場または作物に対する平衡状態を保つための機構であるブーム回動手段8、前輪傾斜角度計測手段9、ブーム傾斜角度計測手段10およびブーム制御手段13について説明する。
【0027】
ブーム回動手段8は、基部フレーム3に支持されたブーム4を任意の方向に回動させるためのものである。また、本第一実施形態では、ブーム4を基部フレーム3に支持する支持部材を兼ねており、ブーム4を重心近傍で支持している。
【0028】
本第一実施形態におけるブーム回動手段は、図8に示すように、正逆方向に回転可能な回転モーター81と、この回転モーター81とブーム4との連結および切り離しの切り換えを可能としたクラッチ機構82とからなる。
【0029】
回転モーター81は、ブーム4を任意の方向に回動させるための駆動源であり、上下フレーム32に固定されている。なお、ブーム回動手段8で用いられる回転モーター81は、特に限定されるものではなく、電気式回転モーターや油圧式回転モータ等から適宜選択される。
【0030】
クラッチ機構82は、回転モーター81とブーム4とを断続的に連結および切り離しを切り換え可能としたものである。よって、回転モーター81とブーム4とを連結することで回転モーター81の回転力をブーム4に伝達することができる。また、回転モーター81とブーム4とを切り離すことで回転モーター81を空転させてニュートラル状態にすることができる。なお、クラッチ機構82は、特に限定されるものではなく、単板乾式クラッチやスプリングクラッチ等から適宜選択されるものである。また、ブーム4に伝達する回転トルクを調整するため、回転モーター81とクラッチ機構82との間にギヤ等を設けていてもよい。
【0031】
前輪傾斜角度計測手段9は、走行路の凹凸面により傾斜する前輪車軸24の車体21に対する相対的な傾斜角度を計測するものである。本第一実施形態では、図5に示すように、前輪車軸24に設けられた前輪車軸傾斜センサー91と車体21に設けられた車体傾斜センサー92とからなる。これらの傾斜センサー91,92は、水平面に対する傾斜角度を計測可能なセンサーである。
【0032】
ブーム傾斜角度計測手段10は、ブーム4の基部フレーム3に対する相対的な傾斜角度を計測するものである。本第一実施形態では、図8に示すように、ブーム4に設けられたブーム傾斜センサー101と、基部フレーム3に設置された基部フレーム傾斜センサー102とからなる。このブーム傾斜角度計測手段10における傾斜センサー101,102は、前輪傾斜角度計測手段9の傾斜センサー91,92と同様、水平面に対する傾斜角度を計測可能なセンサーである。
【0033】
なお、前輪傾斜角度計測手段9およびブーム傾斜角度計測手段10は、上述のように傾斜センサーを2つ使用するものに限定されず、例えば、前輪車軸24と車体21との接続部分やブーム4と基部フレーム3との支持部分の回転角度を直接的に計測する回転角度計測器等を使用してもよい。
【0034】
本第一実施形態におけるブーム制御手段13は、図4に示すように、主として、入力インターフェース14、記憶手段15、演算処理手段16、タイマー17および出力インターフェース18を有するコンピューターで構成されている。
【0035】
入力インターフェース14は、各種信号を受信する受信器であり、主として、前輪傾斜角度計測手段9により計測された前輪車軸24および車体21の傾斜角度を示す前輪傾斜角度信号と、ブーム傾斜角度計測手段10により計測されたブーム4および基部フレーム3の傾斜角度を示すブーム傾斜角度信号とを受信するようになっている。また、本第一実施形態では、操縦席に設けられたコントローラー25によりユーザーから指示されたブーム回動手段8、ブーム上下用油圧シリンダー33、ブーム4に設置されたアクチュエータ44および薬液供給ポンプ7への動作指示信号を受信するようになっている。
【0036】
記憶手段15は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスク、フラッシュメモリ等によって構成されており、各種のデータを記憶するとともに、演算処理手段16が演算を行う際のワーキングエリアとして機能するものである。
【0037】
本第一実施形態では、ブーム制御プログラムを記憶するプログラム記憶部151と、ブームの回動準備を開始するための前輪の傾斜角度のしきい値を記憶させる前輪傾斜角度しきい値記憶部152と、ブームの回動を開始するためのブームの傾斜角度のしきい値を記憶させるブーム傾斜角度しきい値記憶部153とを有している。
【0038】
演算処理手段16は、CPU(Central Processing Unit)等から構成されており、記憶手段15のプログラム記憶部151に記憶されたプログラムを実行させることにより、図4に示すように、ブーム回動準備制御手段11およびブーム回動制御手段12として機能する。また、本第一実施形態では、ブーム4の回動準備を停止する準備停止判別手段161と、動作制御信号を送信するように処理する動作制御手段162とを有している。
【0039】
ブーム回動準備制御手段11は、前輪傾斜角度計測手段9の計測結果に基づいて、ブーム回動手段8に対してブーム4を回動させるための準備を実行させるものである。本第一実施形態では、図4に示すように傾斜角度算出部111と、傾斜角度判別部112と、回転モーター制御部113とを有している。
【0040】
傾斜角度算出部111は、前輪傾斜角度計測手段9の前輪車軸傾斜センサー91および車体傾斜センサー92により計測された前輪車軸24および車体21の傾斜角度を取得し、各傾斜角度の差から前輪車軸24の相対的な傾斜角度を算出するものである。なお、前輪傾斜角度計測手段9が前輪車軸24と車体21との相対的な傾斜角度を直接的に計測するものである場合は本構成は必要としない。
【0041】
傾斜角度判別部112は、前輪車軸24と車体21との相対的な傾斜角度が補正の基準となる所定の角度を超えたか否かを判別するものである。本第一実施形態では、前輪傾斜角度しきい値記憶部152に記憶されたしきい値を取得し、前輪車軸24の相対的な傾斜角度がそのしきい値より大きいか否かを判別している。
【0042】
回転モーター制御部113は、回転モーター81に任意の方向に回転するよう実行させるものである。特に、前輪車軸24の相対的な傾斜角度が所定の角度を超えた場合、相対的な傾斜角度の方向と反対方向に回転モーター81を回転させるようになっている。
【0043】
ブーム回動制御手段12は、ブーム傾斜角度計測手段10により計測された計測結果に基づいて、ブーム回動手段8に対してブーム4の回動を実行させるものである。本第一実施形態では、ブーム傾斜角度算出部121と、ブーム傾斜角度判別手段122と、クラッチ制御部123とから構成されている。
【0044】
ブーム傾斜角度算出部121は、ブーム傾斜角度計測手段10のブーム傾斜センサー101および基部フレーム傾斜センサー102により計測されたブーム4および基部フレーム3の傾斜角度を取得し、各傾斜角度の差からブーム4の相対的な傾斜角度を算出するものである。なお、ブーム傾斜角度計測手段10がブーム4と基部フレーム3との相対的な傾斜角度を直接的に計測するものである場合は本構成は必要としない。
【0045】
ブーム傾斜角度判別部122は、ブーム4と基部フレーム3との相対的な傾斜角度が所定の角度を超えたか否かを判別するものである。本第一実施形態では、ブーム傾斜角度しきい値記憶部153に記憶されたしきい値を取得し、ブーム4の相対的な傾斜角度がそのしきい値より大きいか否かを判別している。
【0046】
クラッチ制御部123は、クラッチ機構82による回転モーター81とブーム4との連結および切り離しを実行させるものである。特に、ブーム4の相対的な傾斜角度が所定の範囲を超えた場合、回転モーター81とブーム4とを連結させるようになっている。
【0047】
準備停止手段161は、ブーム回動準備制御手段11により、ブーム回動手段8に対してブーム4を回動させるための準備を実行させてからの時間が、所定の時間を超えているか否かを判別し、所定の時間を超えた場合に、ブーム回動準備制御手段11によるブーム4の回動準備を停止させるものである。前輪車軸24の傾斜角を求めることにより傾斜を補正する準備をしたものの、結局、後輪では補正が必要なほどの傾斜をしなかった場合など、適当な時間経過を基準として回動準備を解消するためのものである。本第一実施形態では、ブーム4を回動させるための準備を実行させたときからの経過時間と、走行路の凹凸面により前輪22が傾斜してから、その走行路の凹凸面を後輪23が通過するまでに必要な時間とを比較することにより判別を行っている。
【0048】
なお、本第一実施形態における準備停止手段161は、ブーム回動手段8に対してブーム4を回動させるための準備を実行させたときからの経過時間を基準として、ブーム4の回動準備を停止するか否かを判別したが、判別する基準はこれに限定されるものではなく、例えば、ブーム4の回動準備を開始してから走行したトラクター2の走行距離を基準としてもよい。
【0049】
動作制御手段162は、入力インターフェース14で受信した動作指示信号に基づいて、出力インターフェース18を介してブーム回動手段8等に動作制御信号を送信するように処理するものである。
【0050】
タイマー17は、ブーム回動準備制御手段11により、ブーム回動手段8に対してブーム4を回動させるための準備を実行させた後の時間を計測するためのものである。
【0051】
出力インターフェース18は、演算処理手段16により制御されて、ブーム回動手段8に動作制御信号を送信するものである。また、本第一実施形態においては、ブーム上下用油圧シリンダー33やブーム4に設けられた各アクチュエータ44、薬液供給ポンプ7に対しても、動作制御信号を送信するようになっている。
【0052】
次に、本第一実施形態のトラクター直装式ブームスプレーヤ1の各構成の作用について説明する。
【0053】
まず、ブーム4と圃場または作物とが平衡状態となるように調整を行う。具体的には、ユーザーはコントローラー25によりブーム上下用油圧シリンダー33、ブーム4に設けられた各アクチュエータ44およびブーム回動手段8に対して動作指示を行う。入力インターフェース14は、このコントローラー25を介してユーザーからの指示に基づく動作指示信号を受信する。演算処理手段16は、受信した動作指示信号に基づき、出力インターフェース18からブーム上下用油圧シリンダー33等に対して動作制御信号を送信する。ブーム上下用油圧シリンダー33等は、動作制御信号に従って動作し、ブーム4が圃場または作物と平衡状態になるように調整を行う。
【0054】
ブーム4の調整後は、クラッチ機構82により回転モーター81とブーム4とを切り離し、ブーム4を回動自在な状態にさせる。
【0055】
トラクター2は、この状態で圃場を走行する。ユーザーがコントローラー25により薬液散布の動作指示を行うと、入力インターフェース14でその動作指示信号を受信し、動作制御手段162によって、出力インターフェース18から薬液供給ポンプ7へと動作制御信号を送信する。薬液供給ポンプ7は、動作制御信号に従って薬液貯留タンク6から散布ノズル5へ薬液を圧送する。これにより、薬液は、散布ノズル5から噴射され、圃場に散布される。
【0056】
このときブーム4は、基部フレーム3に重心近傍を支持されているため、走行路における小さな凹凸によっては殆ど傾斜しない。しかし、走行路に石等による比較的大きな凹凸がある場合、後輪23がその上を通過することにより車体21が傾斜し、基部フレーム3とブーム4との支持部分における摩擦力等によってブーム4が傾斜することがある。
【0057】
そこで、走行路にブーム4が傾斜するような凹凸がある場合、ブーム制御手段13が作動し、ブーム4と圃場または作物との平行を維持するように制御する。具体的には、図9に示すフローチャートを用いて以下に説明する。
【0058】
まず、前輪傾斜角度計測手段9は、前輪車軸24の車体21に対する相対的な傾斜角度を計測する(ステップS1)。本第一実施形態では、前輪車軸24および車体21に設けられた前輪車軸傾斜センサー91および車体傾斜センサー92により、前輪車軸24および車体21の水平面に対する傾斜角度をそれぞれ計測する。
【0059】
次に、ブーム回動準備制御手段11の傾斜角度算出部111が、前輪車軸傾斜センサー91および車体傾斜センサー92で計測された前輪車軸24および車体21の傾斜角度を取得し、各傾斜角度の差から前輪車軸24の車体21に対する相対的な傾斜角度を算出する(ステップS2)。
【0060】
傾斜角度判別部112は、前輪傾斜角度しきい値記憶部152に記憶されたしきい値を取得し、算出された前輪車軸24の相対的な傾斜角度と比較して、前輪車軸24の相対的な傾斜角度がしきい値を超えたか否かを判別する(ステップS3)。前輪車軸24の相対的な傾斜角度がしきい値を超えていない場合(ステップS3:NO)、ステップS1に戻り、前輪車軸24が相対的に傾斜したか否かの監視を続行する。
【0061】
一方、前輪車軸24の相対的な傾斜角度がしきい値を超えた場合(ステップS3:YES)、回転モーター制御部113は、回転モーター81に対し出力インターフェース18を介して動作制御信号を送信し回転を開始させる(ステップS4)。このときの回転モーター81の回転方向は、前輪車軸24の相対的な傾斜角度の方向と反対方向である。この段階では、クラッチ機構82は回転モーター81とブーム4とを切り離した状態であるため、回転モーター81は空転してニュートラル状態となっている。また、タイマー17により、回転モーター81の回転が開始後の時間計測を開始する。
【0062】
次に、ブーム傾斜角度計測手段10がブーム4の基部フレーム3に対する相対的な傾斜角度を計測する(ステップS5)。本第一実施形態では、ブーム傾斜センサー101および基部フレーム傾斜センサー102によって、ブーム4および基部フレーム3の水平面に対する傾斜角度をそれぞれ計測する。
【0063】
ブーム回動制御手段12のブーム傾斜角度算出部121は、ブーム傾斜センサー101および基部フレーム傾斜センサー102で計測されたブーム4および基部フレーム3の傾斜角度を取得し、各傾斜角度の差からブーム4の基部フレーム3に対する相対的な傾斜角度を算出する(ステップS6)。
【0064】
ブーム傾斜角度判別部122は、ブーム傾斜角度しきい値記憶部153に記憶されたしきい値を取得し、算出されたブーム4の相対的な傾斜角度と比較して、ブーム4の相対的な傾斜角度がしきい値を越えたか否かを判別する(ステップS7)。
【0065】
ブーム4の相対的な傾斜角度がしきい値を越えていない場合(ステップS7:NO)、準備停止手段161が、タイマー17によって計測された時間、つまり回転モーター81の回転開始後の時間が、前輪22が傾斜してから後輪23が通過するまでに必要な所定の時間を超えているか否かを判別する(ステップS8)。ここで、回転モーター81の回転開始後の時間が、所定の時間を超えていない場合(ステップS8:NO)、ステップS5に戻り、ブーム4が傾斜したか否かの監視を続行する。また、回転モーター81の回転開始後の時間が、所定の時間を超えた場合(ステップS8:YES)、回転モーター81を停止させ(ステップS12)、ステップS13に進む。
【0066】
このように、準備停止手段161により、前輪車軸24が傾斜したたにもかかわらず、ブーム4が傾斜しなかった場合は、回転モーター81を停止させることで、次の走行路の凹凸に対する制御に切り換えることができる。
【0067】
一方、ブーム4の相対的な傾斜角度がしきい値を超えた場合(ステップS7:YES)、クラッチ制御部123は、クラッチ機構82に対し、出力インターフェース18を介して動作制御信号を送信し、回転モーター81とブーム4とを連結させる(ステップS9)。
【0068】
回転モーター81は、ブーム回動準備制御手段11によって既に回転しているため、回転モーター81とブーム4とが連結することにより、直ちにブーム4は回動を開始する。また、回転モーター81の回転方向は、ブーム4が傾斜する方向と反対方向に回転しているため、ブーム4の相対的な傾斜角度が所定の範囲内になるように速やかに回動させることができる。
【0069】
そして、ブーム4の相対的な傾斜角度がしきい値以内になったか否かを判別する(ステップS10)。ブーム4の相対的な傾斜角度がしきい値を超えている場合(ステップS10:NO)、ステップS9に戻り、ブーム4の相対的な傾斜角度が所定の範囲内になるまで、回転モーター81とブーム4との連結を維持する。
【0070】
一方、ブーム4の相対的な傾斜角度がしきい値以下になった場合(ステップS10:YES)、クラッチ制御部123は、回転モーター81とブーム4との連結を切り離すとともに、回転モーター81の回転を停止する(ステップS11)。
【0071】
最後に、ユーザーによる制御終了の指示があるか否かを判別する(ステップS13)。制御終了の指示が無い場合(ステップS13:NO)、以上のステップS1からステップS12の処理を繰り返し行う。これにより、制御中は、ブーム4と圃場または作物との平行を維持することとなる。そして、エンジンを停止したり、コントローラ25により制御終了の指示があった場合(ステップS13:YES)、制御を終了する。
【0072】
以上のような本第一実施形態のトラクター直装式ブームスプレーヤ1によれば、以下の効果を得ることができる。
1.ブーム4が基部フレーム3に対して重心近傍で回動自在に支持されているため、走行路の小さな凹凸による車体の傾斜に対してはブーム4は殆ど傾斜せず、ブーム4と圃場または作物との平行を維持することができる。
2.走行路の大きな凹凸によって傾斜した場合には、ブーム回動制御手段12によってブーム4の傾斜を停止し、圃場または作物に対して平行となるまでブーム4を回動することができる。
3.前輪車軸24と車体21との相対的な傾斜角度を計測し、予めブーム4を回動させる準備を行っているため、ブーム4が傾斜し始めたらすぐにブーム4を回動させて補正することができるため、ほぼリアルタイムの制御を行うことができる。
4.ブーム4が実際に傾斜した場合のみにブーム4の回動制御を行うことができる。
【0073】
次に、本発明に係るトラクター直装式ブームスプレーヤ1の第二実施形態について図面を用いて説明する。なお、本第二実施形態の構成のうち、上述した第一実施形態の構成と同等または相当する構成については同一の符号を付し、再度の説明を省略する。
【0074】
図10は、本第二実施形態におけるブーム回動手段8bを示すブロック図である。本第二実施形態におけるブーム回動手段8bは、ブーム4を油圧によって正逆方向に回動させる油圧式ブーム回動機構83と、油圧用の油を貯留する油貯留タンク84と、油圧式ブーム回動機構83に油を供給する油圧ポンプ85と、油圧式ブーム回動機構83と油貯留タンク84とを直接的に連通させてブーム4の回転をフリー状態にするブームフリー油路86と、油圧式ブーム回動機構83と油貯留タンク84とを油圧ポンプ85を介して連通するブーム回動油路87と、油圧式ブーム回動機構83へ油の流入・流出方向を切り換えることでブーム4を正逆方向に回動可能に制御する方向切換弁88と、ブームフリー油路86とブーム回動油路87との流路を任意に切り換える油路切換弁89とにより構成されている。
【0075】
油圧式ブーム回動機構83は、ブーム4を油圧によって正逆方向に回動させるものである。本第二実施形態では、伸縮自在な油圧シリンダー831からなり、図11に示すように、この油圧シリンダー831のピストンの端部およびシリンダーの端部がそれぞれブーム4と上下フレーム32とに連結されている。この油圧式ブーム回動機構83は、図12に示すように、油が供給される油室834と、この油室834内で摺動自在に設けられて油室834を第一油室832および第二油室833に分割する摺動板835とを有する。第一油室832に油が供給されると摺動板835が第二油室834方向に摺動することにより油圧シリンダー831は伸び、第二油室833内の油は外部に放出され、一方、第二油室833に油が供給されると摺動板835が第一油室832方向に摺動することにより油圧シリンダー831は縮み、第一油室832内の油は外部に放出される構造を有している。
【0076】
なお、油圧式ブーム回動機構83は、油圧シリンダー831によるものに限定されるものではなく、例えば、ブーム4を支持する支持部分として、ブーム4と基部フレーム3との間に設けられる油圧式回転モーターでもよい。
【0077】
油貯留タンク84は、油圧式ブーム回動機構83に供給する油圧用の油を貯留しておくものである。油貯留タンク84内は外部と連通しており、油が大気圧で貯留されている。
【0078】
油圧ポンプ85は、油貯留タンク84に貯留された油を油圧式ブーム回動機構83に供給するためのものである。使用されるポンプは、容積型ポンプ、渦巻き型ポンプ等から適宜選択することができる。
【0079】
ブームフリー油路86は、油圧式ブーム回動機構83と油貯留タンク84とを直接的に連通させる油路である。本第二実施形態では、図10に示すように、油貯留タンク84と油路切換弁89とを繋ぐ流路と、油路切換弁89から方向切換弁88を介して油圧式ブーム回動機構83までを繋ぐ流路とによって構成される。
【0080】
一方、ブーム回動油路87は、油圧式ブーム回動機構83と油貯留タンク84とを油圧ポンプ85を介して連通する油路である。本第二実施形態では、油貯留タンク84から油圧ポンプ85を介して油路切換弁89まで繋ぐ流路と、油路切換弁89から方向切換弁88を介して油圧式ブーム回動機構83までを繋ぐ流路とによって構成される。
【0081】
方向切換弁88は、ブーム4を正逆方向に回動可能に制御するための切換弁である。本第二実施形態では、ブーム4を正逆方向に回動可能に制御するため、第一油室832および第二油室833の流入・流出方向を切り換える構成になっている。
【0082】
具体的には、第一油室832に油を供給して第二油室833から油を放出させる場合、方向切換弁88は、油圧ポンプ85と第一油室832とを連通させるとともに、第二油室833と油貯留タンク84とを連通させる。また、第二油室833に油を供給して第一油室832から油を放出させる場合、方向切換弁88は、油圧ポンプ85と第二油室833とを連通させるとともに、第一油室832と油貯留タンク84とを連通させる。
【0083】
油路切換弁89は、電磁弁等により構成されており、ブームフリー油路86とブーム回動油路87との流路を任意に切り換えるものである。本第二実施形態では、ブームフリー油路86とブーム回動油路87との流路をいずれか一方を選択し切り換えるようになっている。
【0084】
次に、本第二実施形態のトラクター直装式ブームスプレーヤ1におけるブーム回動手段8に関連する各構成の作用について説明する。
【0085】
まず、本第二実施形態におけるブーム回動手段8は、油路切換弁89により油路としてブーム回動油路87を選択し、方向切換弁88により第一油室832および第二油室833の流入・流出方向を切り換えることにより、この状態にて油圧シリンダー831を伸縮させればブーム4を任意の方向に回動させることができる。
【0086】
一方、本第二実施形態におけるブーム回動手段8が、油路切換弁85により油路としてブームフリー油路86を選択した場合、方向切換弁88がどの方向に切り換えられていても、第一油室832および第二油室833は油貯留タンク84に直接的に連通しており、第一油室832および第二油室833に圧力の差が無いため、ブーム4はフリーの状態で回動自在に維持されている。
【0087】
従って、前輪傾斜角度計測手段9によって計測された前輪車軸24の車体21に対する相対的な傾斜角度が所定の範囲を超えた場合、ブーム回動準備制御手段11は、流路を方向切換弁88により前輪車軸24の相対的な傾斜方向と反対方向へブーム4を回動させる方向へと切り換えるとともに、油路切換弁89により流路を前記ブームフリー油路86に切り換えることでニュートラル状態で待機させ、ブーム4を回動準備状態にする。
【0088】
また、ブーム4の回動を準備させた後、前記ブーム傾斜角度計測手段10によって計測されたブーム4の基部フレーム3に対する相対的な傾斜角度が所定の範囲を超えた場合、ブーム回動制御手段12は、油路切換弁89を制御して油路をブーム回動油路87に切り換えるとともに、油圧ポンプ85を作動させてブーム4を回動させる。
【0089】
以上のように、本第二実施形態では、第一実施形態と同様の効果を得られる。すなわち、油圧式ブーム回動機構83を用いたとしても、前輪車軸24と車体21との相対的な傾斜角度を計測し、予めブーム4を回動させる準備を行っているため、ブーム4が傾斜し始めたらすぐにブーム4を回動させることができる。
【0090】
なお、本発明に係るトラクター直装式ブームスプレーヤ1は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0091】
例えば、各実施形態におけるブーム制御手段13は、コンピュータにより構成されているが、これに限定されるものではない。例えば、前記前輪傾斜角度計測手段9により計測された前記前輪車軸24の前記車体21に対する相対的な傾斜角度が所定の範囲を超えた場合に、アラーム音を発するようにし、ブーム4の回動準備は手動で行ってもよい。
【符号の説明】
【0092】
1 トラクター直装式ブームスプレーヤ
2 トラクター
3 基部フレーム
4 ブーム
5 散布ノズル
6 薬液貯留タンク
7 薬液供給ポンプ
8 ブーム回動手段
9 前輪傾斜角度計測手段
10 ブーム傾斜角度計測手段
11 ブーム回動準備制御手段
12 ブーム回動制御手段
13 ブーム制御手段
14 入力インターフェース
15 記憶手段
16 演算処理手段
17 タイマー
18 出力インターフェース
21 車体
22 前輪
23 後輪
24 前輪車軸
25 コントローラー
31 ガイドフレーム
32 上下フレーム
33 ブーム上下用油圧シリンダー
41 中央ブーム
42 基ブーム
43 先ブーム
44 アクチュエータ
81 回転モーター
82 クラッチ機構
83 油圧式ブーム回動機構
84 油貯留タンク
85 油圧ポンプ
86 ブームフリー油路
87 ブーム回動油路
88 方向切換弁
89 油路切換弁
91 前輪車軸傾斜センサー
92 車体傾斜センサー
101 ブーム傾斜センサー
102 基部フレーム傾斜センサー
111 傾斜角度算出部
112 傾斜角度判別部
113 回転モーター制御部
121 ブーム傾斜角度算出部
122 ブーム傾斜角度判別部
123 クラッチ制御部
161 準備停止手段
162 動作制御手段
831 油圧シリンダー
832 第一油室
833 第二油室
834 油室
835 摺動板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪および後輪を備えたトラクターと、
このトラクターの後方に設置される基部フレームと、
この基部フレームに支持されて前記トラクターの左右に延出されたブームと、
このブームに設置されて薬液を散布する複数の散布ノズルと、
前記薬液を貯留する薬液貯留タンクと、
この薬液貯留タンクから前記各散布ノズルへ前記薬液を供給する薬液供給ポンプと
を有するトラクター直装式ブームスプレーヤであって、
前記ブームが前記基部フレームに対してその重心近傍で回動自在に支持されているとともに、
前記ブームを正逆方向に回動させるブーム回動手段と、
走行面の凹凸により傾斜する前輪車軸の車体に対する相対的な傾斜角度を計測する前輪傾斜角度計測手段と、
前記前輪車軸の相対的な傾斜角度に基づいて前記走行面の凹凸により後輪が傾斜する前に、前記前輪車軸の相対的な傾斜角度の方向と反対方向に前記ブームを回動させるための準備を前記ブーム回動手段に実行させるブーム回動準備制御手段と、
前記ブームの前記基部フレームに対する相対的な傾斜角度を計測するブーム傾斜角度計測手段と、
前記ブームの相対的な傾斜角度が所定の範囲を超えた場合、回動準備中の前記ブーム回動手段を駆動して前記ブームを回動させることにより前記ブームの相対的な傾斜角度を所定の範囲内に制御するブーム回動制御手段と
を有するトラクター直装式ブームスプレーヤ。
【請求項2】
前記ブーム回動手段が、正逆方向に回転可能な回転モーターと、この回転モーターと前記ブームとの連結および切り離しの切り換えを可能とするクラッチ機構とを有しており、
前記前輪傾斜角度計測手段により前記前輪車軸の前記車体に対する相対的な傾斜角度が所定の範囲を超えた場合、前記ブーム回動準備制御手段が、前記ブームを前記前輪車軸の相対的な傾斜方向と反対方向へ回動させる準備のために前記回転モーターを空転させてニュートラル状態で待機させ、
前記ブーム傾斜角度計測手段により前記ブームの前記基部フレームに対する相対的な傾斜角度が所定の範囲を超えた場合、前記ブーム回動制御手段が、前記クラッチ機構を制御して前記回転モーターと前記ブームとを連結し、前記ブームを回動させる請求項1に記載のトラクター直装式ブームスプレーヤ。
【請求項3】
前記ブーム回動手段が、前記ブームを油圧によって正逆方向に回動させる油圧式ブーム回動機構と、油圧用の油を貯留する油貯留タンクと、この油貯留タンクから前記油圧式ブーム回動機構に前記油を供給する油圧ポンプと、前記油圧式ブーム回動機構と前記油貯留タンクとを直接的に連通させて前記ブームの回動をフリー状態にするブームフリー油路と、前記油圧式ブーム回動機構と前記油貯留タンクとを前記油圧ポンプを介して連通するブーム回動油路と、前記油圧式ブーム回動機構へ油の流入・流出方向を切り換えることで前記ブームを正逆方向に回動可能に制御する方向切換弁と、前記ブームフリー油路と前記ブーム回動油路との流路を任意に切り換える油路切換弁とを有しており、
前記前輪傾斜角度計測手段により前記前輪車軸の前記車体に対する相対的な傾斜角度が所定の範囲を超えた場合、前記ブーム回動準備制御手段は、前記ブームを前記前輪車軸の相対的な傾斜方向と反対方向へ回動させる準備のために、前記方向切換弁により前記流路を前記反対方向へと切り換えるとともに、前記油路切換弁により前記ブームフリー油路に切り換えることで前記ブームをニュートラル状態にて待機させ、
前記ブーム傾斜角度計測手段により前記ブームの前記基部フレームに対する相対的な傾斜角度が所定の範囲を超えた場合、前記ブーム回動制御手段は、前記油路切換弁により前記流路を前記ブーム回動油路に切り換えるとともに、前記油圧ポンプを作動させて前記ブームを回動させる請求項1に記載のトラクター直装式ブームスプレーヤ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2012−245455(P2012−245455A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118243(P2011−118243)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000222978)東洋農機株式会社 (27)
【Fターム(参考)】