説明

トンネル型磁気検出素子およびその製造方法

【課題】 特に、絶縁障壁層をTi−Oで形成した構造において、低いRAを維持したまま、従来に比べて抵抗変化率(ΔR/R)を高く出来、また、フリー磁性層の保磁力を従来と同様に低い状態に保ち、さらには、層間結合磁界Hinを従来より小さくできるトンネル型磁気検出素子及びその製造方法に係る。
【解決手段】 絶縁障壁層5はTi−Oで形成される。前記絶縁障壁層5の上に形成されるフリー磁性層8は、下からCoFe合金で形成されたエンハンス層6、Pt層10及びNiFe合金で形成された軟磁性層7の積層構造で形成される。これにより、低いRAを維持したまま、従来に比べて抵抗変化率(ΔR/R)を高く出来、また、フリー磁性層8の保磁力を従来と同様に低い状態に保ち、さらには、層間結合磁界Hinを従来より小さくできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばハードディスク装置に搭載されたり、あるいはMRAM(磁気抵抗メモリ)として用いられるトンネル型磁気検出素子に係り、特に、絶縁障壁層をTi−Oで形成した構造において、低いRAを維持したまま、従来に比べて抵抗変化率(ΔR/R)を高く出来、また、フリー磁性層の保磁力を従来と同様に低い状態に保ち、さらには、層間結合磁界Hinを従来より小さくできるトンネル型磁気検出素子及びその製造方法に係る。
【背景技術】
【0002】
トンネル型磁気検出素子(トンネル型磁気抵抗効果素子)は、トンネル効果を利用して抵抗変化を生じさせるものであり、固定磁性層の磁化と、フリー磁性層の磁化とが反平行のとき、前記固定磁性層とフリー磁性層との間に設けられた絶縁障壁層(トンネル障壁層)を介してトンネル電流が流れにくくなって、抵抗値は最大になり、一方、前記固定磁性層の磁化とフリー磁性層の磁化が平行のとき、最も前記トンネル電流は流れ易くなり抵抗値は最小になる。
【0003】
この原理を利用し、外部磁界の影響を受けてフリー磁性層の磁化が変動することにより、変化する電気抵抗を電圧変化としてとらえ、記録媒体からの洩れ磁界が検出されるようになっている。
【0004】
ところで、前記絶縁障壁層の材質を変えると、抵抗変化率(ΔR/R)に代表される特性が変わってしまうため、前記絶縁障壁層の材質ごとに研究を行うことが必要であった。
【0005】
トンネル型磁気検出素子として重要な特性は、抵抗変化率(ΔR/R)、RA(素子抵抗R×面積A)、フリー磁性層の保磁力Hc、フリー磁性層と固定磁性層間に作用する層間結合磁界(Hin)等であり、これら特性の最適化を目指して絶縁障壁層や、前記絶縁障壁層の上下に形成される固定磁性層及びフリー磁性層の材質、膜構成の改良が進められている。
【特許文献1】特開2000−215414号公報
【特許文献2】特開2002−204010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来から前記絶縁障壁層として使用される材質に酸化アルミニウム(Al−O)がよく知られている。Al−Oを絶縁障壁層として使用した場合、前記絶縁障壁層の膜厚を厚く形成することでトンネル効果が適切に発揮されて抵抗変化率(ΔR/R)の向上を図ることが出来るが同時に、RAが増大するといった問題が発生した。
【0007】
RAの増大は、高速データ転送を適切に行えなくなり、高記録密度化に適切に対応できない等の問題をもたらすために前記RAは出来る限り小さくしなければならなかった。
【0008】
RAを小さくするには、例えば前記絶縁障壁層の膜厚を薄くすればよいが、Al−Oで絶縁障壁層を形成した場合、絶縁障壁層の膜厚を薄くすると、急激に抵抗変化率(ΔR/R)が低下することがわかった。
【0009】
一方、酸化チタン(Ti−O)を絶縁障壁層として使用した場合、薄い膜厚で形成してもAl−Oに比べて抵抗変化率(ΔR/R)の低下を抑制でき、よって低いRA領域で、絶縁障壁層をAl−Oで形成した場合より高い抵抗変化率(ΔR/R)を得ることができることがわかった。
【0010】
しかしながら、前記絶縁障壁層としてTi−Oを使用するとRAを適切に改善できるものの、抵抗変化率(ΔR/R)の大きさ自体はまだ不十分であった。
【0011】
前記絶縁障壁層にTi−Oを使用したトンネル型磁気検出素子において抵抗変化率(ΔR/R)を向上させるためには、例えばフリー磁性層の絶縁障壁層との界面側にスピン分極率の高いCoFe合金からなるエンハンス層を設ければよい。このとき、CoFe合金のCo組成比を50at%以上(Fe組成比を50at%以下)などとするとさらに高いスピン分極率を得ることができ、より効果的に高い前記抵抗変化率(ΔR/R)を得ることが可能となる。
【0012】
しかし高い抵抗変化率(ΔR/R)を得ることが出来る一方で、今度はフリー磁性層の保磁力Hcや、層間結合磁界Hinが大きくなるといった問題があった。前記層間結合磁界Hinの増大は、磁気ヘッドとして動作させる際に波形の非対称性(アシンメトリー)の増大を招くため、前記層間結合磁界Hinを低減することは重要であった。
【0013】
このように従来ではまだ、絶縁障壁層としてTi−Oを使用した場合に、高い抵抗変化率(ΔR/R)、低いフリー磁性層の保磁力Hc及び低い層間結合磁界Hinを全て満足する構成は得られていなかった。
【0014】
特許文献1及び特許文献2に記載された発明にはトンネル型磁気検出素子について記載されているものの、絶縁障壁層としてTi−Oを使用していない。上記したように絶縁障壁層に使用される材質によって抵抗変化率(ΔR/R)等の特性が左右されるため、特許文献1及び特許文献2に記載された発明には、絶縁障壁層をTi−Oで形成した際の上記した課題認識は無く、当然に、抵抗変化率(ΔR/R)、保磁力Hc及び層間結合磁界Hinの各特性を改善するための構成は開示されていない。
【0015】
特許文献1に記載された発明には、トンネル型磁気検出素子の絶縁障壁層の材質が開示されていない。またフリー磁性層をNiFe/界面制御層/CoFeで形成することが開示されているが、界面制御層としてCuを用いた実験しか行っていない(特許文献1の本願明細書の[0053]欄以降を参照されたい)。
【0016】
また特許文献2に記載された発明では、Al/CoFe/Ru/NiFeと積層した膜構成で実験を行っているが(特許文献2の例えば[0258]欄を参照されたい)、絶縁障壁層としてTi−Oを使用した実験はない。
【0017】
そこで本発明は、上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、絶縁障壁層をTi−Oで形成したトンネル型磁気検出素子に係り、低いRAを維持したまま、従来に比べて抵抗変化率(ΔR/R)を高く出来、また、フリー磁性層の保磁力を従来と同様に低い状態に保ち、さらには、層間結合磁界Hinを従来より小さくできるトンネル型磁気検出素子及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明におけるトンネル型磁気検出素子は、下から第1磁性層、絶縁障壁層、第2磁性層の順で積層され、前記第1磁性層及び第2磁性層のうち一方が、磁化方向が固定される固定磁性層で、他方が外部磁界により磁化方向が変動するフリー磁性層であり、
前記絶縁障壁層は、Ti−Oで形成され、
前記フリー磁性層は、少なくともNiを有する軟磁性層と、前記軟磁性層と前記絶縁障壁層間に形成され、前記軟磁性層よりもスピン分極率が高いエンハンス層とを有して構成され、
前記軟磁性層と前記エンハンス層間にPt層が介在していることを特徴とするものである。
【0019】
本発明では、絶縁障壁層がTi−Oで形成されたトンネル型磁気検出素子において、低いRAを維持しつつ、従来に比べて高い抵抗変化率(ΔR/R)を得ることが可能になる。また、フリー磁性層の保磁力を従来と同様に低くでき、さらには、フリー磁性層と固定磁性層間に作用する層間結合磁界(Hin)を従来に比べて小さくできる。
【0020】
また本発明では、前記Pt層の膜厚は2Å以上で10Å以下で形成されることが好ましい。これにより後述する実験では、抵抗変化率(ΔR/R)を従来(Pt層がない形態)に比べて適切に向上させることができ、また従来と同様に低い保磁力を維持しつつ、従来に比べて層間結合磁界Hinを小さくできることがわかっている。
【0021】
また本発明では、前記エンハンス層はCoFe100−Xで形成され、Co組成比xは5at%以上で50at%よりも小さい範囲内であることが好ましい。これにより、抵抗変化率(ΔR/R)を高くしつつ、フリー磁性層の保磁力Hcの増大を抑制できる。
【0022】
また本発明では、前記エンハンス層の少なくとも一部は、体心立方構造で形成されることが、フリー磁性層の保磁力Hcの増大を適切に抑制でき好適である。
【0023】
また本発明では、前記軟磁性層は、NiFe100−Yで形成され、Ni組成比Yは81.5at%以上で100at%以下であることが好ましい。これによりフリー磁性層の軟磁気特性を向上できる。
【0024】
また本発明では、前記Pt層と前記エンハンス層との界面、及び前記Pt層と前記軟磁性層との界面では構成元素の相互拡散が生じ、Pt濃度が前記Pt層内から前記エンハンス層、及び前記軟磁性層の内部方向に向けて徐々に減少する濃度勾配が形成される形態であってもよい。
【0025】
また本発明では、前記第1磁性層が前記固定磁性層であり、前記第2磁性層がフリー磁性層であることが好ましい。
【0026】
また本発明は、下から第1磁性層、絶縁障壁層、第2磁性層の順で積層し、前記第1磁性層及び第2磁性層のうち一方が、磁化方向が固定される固定磁性層で、他方が外部磁界により磁化方向が変動するフリー磁性層であり、前記フリー磁性層を、少なくともNiを有する軟磁性層と、前記軟磁性層と前記絶縁障壁層間に形成された、前記軟磁性層よりもスピン分極率が高いエンハンス層とを有して構成するトンネル型磁気検出素子の製造方法において、
(a) 前記第1磁性層を形成する工程、
(b) 前記第1磁性層上にTi−Oから成る前記絶縁障壁層を形成する工程、
(c) 前記絶縁障壁層上に、前記第2磁性層を形成する工程、
を有し、
さらに以下の(d)工程を有することを特徴とするものである。
(d) 前記軟磁性層と前記エンハンス層間にPt層を介在させる工程。
【0027】
本発明では、これにより、低いRAを維持しつつ、従来に比べて高い抵抗変化率(ΔR/R)を得ることができ、また、フリー磁性層の保磁力を従来と同様に低くでき、さらには、フリー磁性層と固定磁性層間に作用する層間結合磁界(Hin)を従来に比べて小さくできるトンネル型磁気検出素子を簡単且つ適切に製造することが出来る。
【0028】
本発明では、前記Pt層を2Å以上で10Å以下の範囲内で形成することが好ましい。抵抗変化率(ΔR/R)を従来に比べて適切に向上させることができ、また従来と同様に低い保磁力を維持しつつ、従来に比べて層間結合磁界Hinを小さくできる。
【0029】
また本発明では、前記エンハンス層をCoFe100−Xで形成し、このときCo組成比Xを5at%以上で50at%よりも小さい範囲内で形成することが好ましい。これにより、抵抗変化率(ΔR/R)を高くしつつ、フリー磁性層の保磁力Hcの増大を抑制できる。
【0030】
また本発明では、前記軟磁性層を、NiFe100−Yで形成し、このときNi組成比Yを81.5at%以上で100at%以下の範囲内で形成することが好ましい。
【0031】
さらに本発明では、前記第1磁性層を固定磁性層で、前記第2磁性層をフリー磁性層で形成し、前記(c)工程時、前記(d)工程でのPt層を前記絶縁障壁層上に形成されたエンハンス層上に形成し、さらに前記Pt層上に前記軟磁性層を形成することが好ましい。
本発明では、前記(c)工程の後、アニール処理を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0032】
本発明では、絶縁障壁層がTi−Oで形成されたトンネル型磁気検出素子において、低いRAを維持しつつ、従来に比べて高い抵抗変化率(ΔR/R)を得ることが可能になる。また、フリー磁性層の保磁力を従来と同様に低くでき、さらには、フリー磁性層と固定磁性層間に作用する層間結合磁界(Hin)を従来に比べて小さくできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
図1は本実施形態のトンネル型磁気検出素子(トンネル型磁気抵抗効果素子)を記録媒体との対向面と平行な方向から切断した断面図である。
【0034】
トンネル型磁気検出素子は、ハードディスク装置に設けられた浮上式スライダのトレーリング側端部などに設けられて、ハードディスクなどの記録磁界を検出するものである。なお、図中においてX方向は、トラック幅方向、Y方向は、磁気記録媒体からの洩れ磁界の方向(ハイト方向)、Z方向は、ハードディスクなどの磁気記録媒体の移動方向及び前記トンネル型磁気検出素子の各層の積層方向、である。
【0035】
図1の最も下に形成されているのは、例えばNiFe合金で形成された下部シールド層21である。前記下部シールド層21上に積層体T1が形成されている。なお前記トンネル型磁気検出素子は、前記積層体T1と、前記積層体T1のトラック幅方向(図示X方向)の両側に形成された下側絶縁層22、ハードバイアス層23、上側絶縁層24とで構成される。
【0036】
前記積層体T1の最下層は、Ta,Hf,Nb,Zr,Ti,Mo,Wのうち1種または2種以上の元素などの非磁性材料で形成された下地層1である。この下地層1の上に、シード層2が設けられる。前記シード層2は、NiFeCrまたはCrによって形成される。前記シード層2をNiFeCrによって形成すると、前記シード層2は、面心立方(fcc)構造を有し、膜面と平行な方向に{111}面として表される等価な結晶面が優先配向しているものになる。また、前記シード層2をCrによって形成すると、前記シード層2は、体心立方(bcc)構造を有し、膜面と平行な方向に{110}面として表される等価な結晶面が優先配向しているものになる。なお、前記下地層1は形成されなくともよい。
【0037】
前記シード層2の上に形成された反強磁性層3は、元素X(ただしXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料で形成されることが好ましい。
【0038】
これら白金族元素を用いたX−Mn合金は、耐食性に優れ、またブロッキング温度も高く、さらに交換結合磁界(Hex)を大きくできるなど反強磁性材料として優れた特性を有している。
【0039】
また前記反強磁性層3は、元素Xと元素X′(ただし元素X′は、Ne,Ar,Kr,Xe,Be,B,C,N,Mg,Al,Si,P,Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Ag,Cd,Sn,Hf,Ta,W,Re,Au,Pb、及び希土類元素のうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料で形成されてもよい。
【0040】
前記反強磁性層3上には本実施形態の「第1磁性層」に相当する固定磁性層4が形成されている。前記固定磁性層4は、下から第1固定磁性層4a、非磁性中間層4b、第2固定磁性層4cの順で積層された積層フェリ構造である。前記反強磁性層3との界面での交換結合磁界及び非磁性中間層4bを介した反強磁性的交換結合磁界(RKKY的相互作用)により前記第1固定磁性層4aと第2固定磁性層4cの磁化方向は互いに反平行状態にされる。これは、いわゆる積層フェリ構造と呼ばれ、この構成により前記固定磁性層4の磁化を安定した状態にでき、また前記固定磁性層4と反強磁性層3との界面で発生する交換結合磁界を見かけ上大きくすることができる。なお前記第1固定磁性層4a及び第2固定磁性層4cは例えば12〜24Å程度で形成され、非磁性中間層4bは8Å〜10Å程度で形成される。
【0041】
前記第1固定磁性層4a及び第2固定磁性層4cはCoFe、NiFe,CoFeNiなどの強磁性材料で形成されている。また非磁性中間層4bは、Ru、Rh、Ir、Cr、Re、Cuなどの非磁性導電材料で形成される。
【0042】
前記固定磁性層4上には絶縁障壁層5が形成されている。前記絶縁障壁層5は、酸化チタン(Ti−O)で形成される。前記絶縁障壁層5はTi−Oからなるターゲットを用いて、スパッタ成膜してもよいが、Tiを1〜10Å程度の膜厚で形成した後、酸化させてTi−Oとしたものであることが好ましい。この場合、酸化されるので膜厚が厚くなるが、絶縁障壁層5の膜厚は1〜20Å程度が好ましい。絶縁障壁層5の膜厚があまり大きいと、最もトンネル電流が流れ易いはずの第2固定磁性層4cとフリー磁性層8との磁化が平行な状態でもトンネル電流が流れにくく出力が小さくなり好ましくない。
【0043】
前記絶縁障壁層5上には、本実施形態の「第2磁性層」に相当するフリー磁性層8が形成されている。前記フリー磁性層8は、NiFe合金等の磁性材料で形成される軟磁性層7と、前記軟磁性層7と前記絶縁障壁層5との間に形成されたCoFe合金等からなるエンハンス層6、及び前記軟磁性層7と前記エンハンス層6との間に設けられたPt層10とで構成される。前記軟磁性層7は、NiFe、NiあるいはNiFeCo等で形成されるが、特に軟磁気特性に優れた(低い保磁力及び磁歪等)NiFe100−Yで形成され、Ni組成比Yは81.5at%以上で100at%以下であることが好ましく、90at%以下であることがより好ましい。
【0044】
また前記エンハンス層6は、前記軟磁性層7よりもスピン分極率の大きい磁性材料で形成される。本実施形態では、前記エンハンス層6は、CoFe100−Xで形成され、Co組成比Xは5at%以上で50at%よりも小さいことが好ましい。より好ましくはCo組成比Xは30at%以下である。
【0045】
スピン分極率の大きいCoFe合金で前記エンハンス層6を形成することで、抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることができる。Co含有量が大きくなるとフリー磁性層8の保磁力Hcやフリー磁性層8と固定磁性層4間に作用する層間結合磁界Hinの増大を招くので、本実施形態では、前記Co含有量は上記のように、5at%以上で50at%よりも小さい範囲に設定されることが好ましい。
【0046】
また、エンハンス層6は、形成される膜厚があまり厚いと、軟磁性層7の磁気検出感度に影響を与え、検出感度の低下につながるので、前記軟磁性層7より薄い膜厚で形成される。前記軟磁性層7は例えば30〜70Å程度で形成され、前記エンハンス層6は10Å程度で形成される。なお、前記エンハンス層6の膜厚は6〜20Åが好ましい。
【0047】
前記軟磁性層7と前記エンハンス層6との間に介在するPt層10については後で詳述する。
【0048】
前記フリー磁性層8のトラック幅方向(図示X方向)の幅寸法でトラック幅Twが決められる。
【0049】
前記フリー磁性層8上にはTa等の非磁性材料で形成された保護層9が形成されている。
【0050】
以上のようにして積層体T1が前記下部シールド層21上に形成されている。前記積層体T1のトラック幅方向(図示X方向)における両側端面11,11は、下側から上側に向けて徐々に前記トラック幅方向の幅寸法が小さくなるように傾斜面で形成されている。
【0051】
図1に示すように、前記積層体T1の両側に広がる下部シールド層21上から前記積層体T1の両側端面11上にかけて下側絶縁層22が形成され、前記下側絶縁層22上にハードバイアス層23が形成され、さらに前記ハードバイアス層23上に上側絶縁層24が形成されている。
【0052】
前記下側絶縁層22と前記ハードバイアス層23間にバイアス下地層(図示しない)が形成されていてもよい。前記バイアス下地層は例えばCr、W、Tiで形成される。
【0053】
前記絶縁層22,24はAlやSiO等の絶縁材料で形成されたものであり、前記積層体T1内を各層の界面と垂直方向に流れる電流が、前記積層体T1のトラック幅方向の両側に分流するのを抑制すべく前記ハードバイアス層23の上下を絶縁するものである。前記ハードバイアス層23は例えばCo−Pt(コバルト−白金)合金やCo−Cr−Pt(コバルト−クロム−白金)合金などで形成される。
【0054】
前記積層体T1上及び上側絶縁層24上にはNiFe合金等で形成された上部シールド層26が形成されている。
【0055】
図1に示す実施形態では、前記下部シールド層21及び上部シールド層26が前記積層体T1に対する電極層として機能し、前記積層体T1の各層の膜面に対し垂直方向(図示Z方向と平行な方向)に電流が流される。
【0056】
前記フリー磁性層8は、前記ハードバイアス層23からのバイアス磁界を受けてトラック幅方向(図示X方向)と平行な方向に磁化されている。一方、固定磁性層4を構成する第1固定磁性層4a及び第2固定磁性層4cはハイト方向(図示Y方向)と平行な方向に磁化されている。前記固定磁性層4は積層フェリ構造であるため、第1固定磁性層4aと第2固定磁性層4cはそれぞれ反平行に磁化されている。前記固定磁性層4は磁化が固定されている(外部磁界によって磁化変動しない)が、前記フリー磁性層8の磁化は外部磁界により変動する。
【0057】
前記フリー磁性層8が、外部磁界により磁化変動すると、第2固定磁性層4cとフリー磁性層との磁化が反平行のとき、前記第2固定磁性層4cとフリー磁性層8との間に設けられた絶縁障壁層5を介してトンネル電流が流れにくくなって、抵抗値は最大になり、一方、前記第2固定磁性層4cとフリー磁性層8との磁化が平行のとき、最も前記トンネル電流は流れ易くなり抵抗値は最小になる。
【0058】
この原理を利用し、外部磁界の影響を受けてフリー磁性層8の磁化が変動することにより、変化する電気抵抗を電圧変化としてとらえ、記録媒体からの洩れ磁界が検出されるようになっている。
【0059】
本実施形態のトンネル型磁気検出素子の特徴的部分について以下に説明する。
図1に示すように本実施形態では、前記軟磁性層7と前記エンハンス層6との間にPt層10が介在している。前記Pt層10を前記軟磁性層7と前記エンハンス層6との間に設けることで、絶縁障壁層5をTi−O(酸化チタン)で形成した本実施形態のトンネル型磁気検出素子において、低いRAを維持しつつ、抵抗変化率(ΔR/R)を従来より高くでき、さらにフリー磁性層8の保磁力Hc及び層間結合磁界Hinを小さくできることが後述する実験で証明されている。具体的数値の一例を示すと、RAを2〜5Ωμm程度、好ましくは2〜3Ωμm程度の範囲内に設定でき、抵抗変化率(ΔR/R)を24〜27%程度、フリー磁性層8の保磁力Hcを3〜5Oe(1Oeは約79A/m)程度、層間結合磁界Hinを12〜16Oe程度に設定できる。
【0060】
前記抵抗変化率(ΔR/R)を大きくできる理由は定かでないが、考えられる一つの原因としては、軟磁性層7を構成するNiFe合金のNi原子が、前記絶縁障壁層5やエンハンス層6にまで拡散するのを前記Pt層10で抑制している、すなわちPt層10による拡散防止効果が影響しているのではないかと思われる。しかし、後述する実験で示すように、Ptと同じ白金族元素であるRuを、前記軟磁性層7とエンハンス層6との間に介在させた構成(このフリー磁性層の構成は特許文献2の[0258]欄等に記載の構成と同じである)であると抵抗変化率(ΔR/R)が低下することがわかっており、単に拡散防止効果だけなく、絶縁障壁層5をTi−Oとし且つ前記軟磁性層7とエンハンス層6との間にPt層10を介在させることで、他の作用も加味されて抵抗変化率(ΔR/R)が上昇していると考えられる。
【0061】
また本実施形態での前記フリー磁性層8の保磁力Hcが、前記Pt層10を設けない形態、すなわち前記フリー磁性層8を軟磁性層7とエンハンス層6との2層構造とした形態とほぼ同じ大きさであることからすると、CoFe合金で形成された前記エンハンス層6と前記Pt層10とが拡散して保磁力Hcが高いことで知られるCoPt合金等がほとんど形成されていないのではないかと推測される。CoPt合金は稠密六方構造(hcp)であるが、本実施形態では、エンハンス層6を含めて全体的にhcpになっておらず、CoFe合金で形成された前記エンハンス層6の少なくとも一部は体心立方構造(bcc)を保ち、そのため、保磁力Hcの増大が抑制されていると思われる。
【0062】
本実施形態では、前記エンハンス層6をCoFe合金以外の磁性材料、例えばCo等で形成してもよいが、前記エンハンス層6をCoFe100−Xで形成したとき、Co組成比Xを5at%〜50at%(ただし50at%を含まない)に設定する。Co組成比を大きくすることでスピン分極率が大きくなり、抵抗変化率(ΔR/R)の向上を期待できるが、その一方でフリー磁性層8の保磁力Hcの増大を招く。本実施形態ではスピン分極率が高いエンハンス層6を設けて抵抗変化率(ΔR/R)の向上を図ることに変わりないが、このとき、できる限りフリー磁性層8の保磁力Hcの増大を抑制できる組成比でエンハンス層6を形成し、いまだ不十分な抵抗変化率(ΔR/R)を、Pt層10をエンハンス層6と軟磁性層7間に介在させることで向上させているのである。
【0063】
本実施形態では、従来に比べてフリー磁性層8と固定磁性層4間に作用する層間結合磁界Hinを小さくできるから、アシンメトリー(asymmetry 再生波形の非対称性)を小さくでき、従来に比べて再生特性の安定性を向上させることが出来る。
【0064】
なお、前記絶縁障壁層5をTi−Oで形成すると、前記絶縁障壁層5を体心立方構造(bcc)、体心正方構造、ルチル型構造、あるいは非晶質構造のうち少なくともいずれか1つで形成できる。そして、Ti−Oで形成された前記絶縁障壁層5の上に、前記エンハンス層6を、5at%以上で50at%よりも小さいCoを有するCoFe合金で形成すると、前記エンハンス層6を適切に、体心立方構造(bcc)で形成できる。
【0065】
前記Pt層10の膜厚は2Å以上で10Å以下であることが好ましい。前記Pt層10の膜厚があまり厚くなると抵抗変化率(ΔR/R)が低下するので好ましくない。特に前記Pt層10を4〜6Åの範囲内とすると安定して高い抵抗変化率(ΔR/R)を得ることが出来る。
【0066】
また前記軟磁性層7とエンハンス層6はPt層10を介して強磁性的結合し共に同じ方向に磁化されていると考えられる。
【0067】
トンネル型磁気検出素子は、後述するように製造工程においてアニール処理(熱処理)が施される。アニール処理は240〜310℃程度の温度で行われる。このアニール処理は、固定磁性層4を構成する第1固定磁性層4aと前記反強磁性層3との間で交換結合磁界(Hex)を生じさせるための磁場中アニール処理等である。
【0068】
前記アニール処理により、図2のように、前記Pt層10と前記軟磁性層7との界面、及び前記Pt層10とエンハンス層6との界面での構成元素の相互拡散が生じて、前記界面の存在が無くなり、Pt濃度が、Pt層10の内部、例えば膜厚中心から前記軟磁性層7の内部方向、及び前記エンハンス層6の内部方向にかけて徐々に小さくなる濃度勾配が形成されると考えられる。
【0069】
このような濃度勾配の形成も結晶構造等に影響を与えて抵抗変化率(ΔR/R)の向上等に寄与しているかもしれない。
【0070】
ただし上記したように、前記Pt層10とエンハンス層6との間での拡散により、前記エンハンス層6全てがhcpに変態することはなく、前記エンハンス層6の少なくとも一部は体心立方構造(bcc)を保っていると考えられる。
【0071】
本実施形態では、下から反強磁性層3、固定磁性層(第1磁性層)4、絶縁障壁層5、及びフリー磁性層(第2磁性層)8の順に積層されているが、下からフリー磁性層(第1磁性層)8、絶縁障壁層5、固定磁性層(第2磁性層)4及び反強磁性層3の順に積層される構成を除外するものではない。
【0072】
本実施形態のトンネル型磁気検出素子の製造方法について説明する。図3ないし図6は、製造工程中におけるトンネル型磁気検出素子を図1と同じ方向から切断した部分断面図である。
【0073】
図3に示す工程では、下部シールド層21上に、下地層1、シード層2、反強磁性層3、第1固定磁性層4a、非磁性中間層4b、及び第2固定磁性層4cを連続成膜する。各層を例えば、スパッタ法で成膜する。
【0074】
次に前記第2固定磁性層4cの表面に対してプラズマ処理を施す。前記プラズマ処理を行うことで、前記固定磁性層4とフリー磁性層8との間に作用する層間結合磁界(Hin)を効果的に小さくできる。
【0075】
次に、前記第2固定磁性層4c上に、Ti層15をスパッタ法で成膜する。Ti層15は後の工程で酸化されるので、酸化後の膜厚が絶縁障壁層5の膜厚となるように、前記Ti層15を形成する。
【0076】
次に、真空チャンバー内に酸素を流入する。これにより前記Ti層15は酸化されて、絶縁障壁層5が形成される。
【0077】
次に、図4に示すように、前記絶縁障壁層5上に、CoFe合金から成るエンハンス層6、Pt層10、及びNiFe合金から成る軟磁性層7から成るフリー磁性層8をスパッタ法で成膜する。さらに、前記フリー磁性層8上に、例えばTaからなる保護層9をスパッタ法で成膜する。以上により下地層1から保護層9までが積層された積層体T1を形成する。
【0078】
次に、図5に示すように、前記積層体T1上に、リフトオフ用レジスト層30を形成し、前記リフトオフ用レジスト層30に覆われていない前記積層体T1のトラック幅方向(図示X方向)における両側端部をエッチング等で除去する。
【0079】
次に、図6に示すように、前記積層体T1のトラック幅方向(図示X方向)の両側であって前記下部シールド層21上に、下から下側絶縁層22、ハードバイアス層23、及び上側絶縁層24の順に積層する。
【0080】
そして前記リフトオフ用レジスト層30を除去し、前記積層体T1及び前記上側絶縁層24上に上部シールド層26を形成する。
【0081】
上記したトンネル型磁気検出素子の製造方法では、その形成過程でアニール処理を含む。代表的なアニール処理は、前記反強磁性層3と第1固定磁性層4a間に交換結合磁界(Hex)を生じさせるためのアニール処理である。
【0082】
前記アニール処理により、Pt層10のPtは、前記エンハンス層6及び軟磁性層7へ元素拡散を起こし、Pt濃度が前記Pt層10の膜厚中心から前記エンハンス層6の内部、及び軟磁性層7の内部に向けて徐々に減少する濃度勾配が形成されると考えられる。
【0083】
なお、絶縁障壁層5をTi層15の酸化によって形成する場合、酸化の方法としては、ラジカル酸化、イオン酸化、プラズマ酸化あるいは自然酸化等を挙げることができる。
【0084】
上記したトンネル型磁気検出素子の製造方法ではPt層10を、エンハンス層6と軟磁性層7との間に介在させている。これにより、低いRAを維持しつつ、従来に比べて抵抗変化率(ΔR/R)を高くでき、さらにフリー磁性層8の保磁力Hcを従来と同様に小さい値に維持できるとともに、従来よりフリー磁性層8と固定磁性層4との間に作用する層間結合磁界Hinを小さくすることが可能なトンネル型磁気検出素子を簡単且つ適切に製造できる。
【0085】
本実施形態では、前記Pt層10を2Å以上で10Å以下の薄い膜厚で形成する。Pt層10を10Åよりも厚くすると抵抗変化率(ΔR/R)の低下が大きくなり、逆にPt層10を設けない従来構成よりも抵抗変化率(ΔR/R)が低下しやすくなりPt層10を設けたことの効果が薄れてしまう。また前記Pt層10を2Å以上にすると大きな抵抗変化率(ΔR/R)の向上効果が見られたことから、前記Pt層10を2Å〜10Åの範囲内に設定することが好ましい。
【0086】
本実施形態では、絶縁障壁層5及びフリー磁性層8を下からTi−O/CoFe/Pt/NiFeの順に積層する。抵抗変化率(ΔR/R)の向上効果は、軟磁性層7を構成するNi元素が、熱処理等を施した場合でも、エンハンス層6(CoFe)や絶縁障壁層5にまで拡散するのが抑制されたことや、その他の要因、特に絶縁障壁層5をTi−Oとし且つ前記軟磁性層7とエンハンス層6との間に介Pt層10を在させることで、他の特別な作用も加味されて抵抗変化率(ΔR/R)が上昇していると考えられる。
【0087】
本実施形態では前記エンハンス層6を構成するCoFeのCo組成比を5〜50at%(ただし50at%は含まない)に設定する。これにより抵抗変化率(ΔR/R)の向上と低保磁力Hcを適切に保つことが出来る。
【0088】
本発明では、前記軟磁性層7を、NiFe100−Yで形成し、このときNi組成比Yを81.5at%以上で100at%以下の範囲内で形成する。これによりフリー磁性層8の軟磁気特性を向上できる(低い保磁力Hcや磁歪λ等を得ることができる)。
【0089】
本実施形態では、前記エンハンス層6を体心立方構造(bcc)で形成する。上記したように積層体T1に対して所定条件での熱処理を施すことで各層の界面で構成元素の相互拡散が生じているものと思われる。ただしこのとき前記エンハンス層6の少なくとも一部は体心立方構造(bcc)を保っており、フリー磁性層8の保磁力Hcの増大を抑制していると考えられる。
【0090】
本実施形態では、前記トンネル型磁気検出素子は、ハードディスク装置に使用される以外に、MRAM(磁気抵抗メモリ)等として用いることが出来る。
【実施例】
【0091】
図1に示すトンネル型磁気検出素子を形成した。実験では基本膜構成(積層体T1)を、下から順に、下地層1;Ta(30)/シード層2;NiFeCr(50)/反強磁性層3;IrMn(70)/固定磁性層4[第1固定磁性層4a;Co70at%Fe30at%(14)/非磁性中間層4b;Ru(9.1)/第2固定磁性層4c;Co90at%Fe10at%(18)]/絶縁障壁層5/フリー磁性層8[エンハンス層6;Co10at%Fe90at%(10)/Pt(x)/軟磁性層7;Ni86at%Fe14at%(50)]/保護層[Ru(20)/Ta(180)]とした。なお括弧内の数値は平均膜厚を示し単位はÅである。
【0092】
各試料において、各第2固定磁性層4cの表面をプラズマ処理した。
また各試料において、前記プラズマ処理後、前記第2固定磁性層4c上にTiを1〜10Å形成し、Tiを酸化してTi−Oから成る絶縁障壁層5を形成した。
【0093】
また、上記基本膜構成に対して、240〜300℃の範囲で、4時間の熱処理を施した。
【0094】
実験では、エンハンス層6と軟磁性層7との間に介在させたPt層10の膜厚を、0Å、2Å、4Å、6Å、8Å及び10Åとした各試料における抵抗変化率(ΔR/R)、フリー磁性層8の保磁力Hc及び前記フリー磁性層8と固定磁性層4との間で作用する層間結合磁界Hinの大きさを夫々測定し、Pt層10の膜厚と抵抗変化率(ΔR/R)との関係、Pt層10の膜厚とフリー磁性層8の保磁力Hcの関係、及びPt層10の膜厚と層間結合磁界Hinとの関係を求めた。その実験結果が、図7ないし図9である。なお各試料において、RA(素子抵抗R×素子面積A)は2〜3Ωμmの範囲内であった。
【0095】
図7に示すように、エンハンス層6と軟磁性層7との間にPt層10を介在させるとともに、前記Pt層10の膜厚を2〜10Åの範囲内にすると、前記Pt層10を介在させない従来例に比べて抵抗変化率(ΔR/R)を大きくできることがわかった。特に、前記Pt層10の膜厚を4〜6Åの範囲内に設定すると、高く安定した抵抗変化率(ΔR/R)を得ることが出来ることがわかった。
【0096】
次に図8に示すように、エンハンス層6と軟磁性層7との間に介在させるPt層10の膜厚を2〜10Åの範囲にすると、前記Pt層10を介在させない従来例と同様に低いフリー磁性層8の保磁力Hcを保てることがわかった。
【0097】
次に図9に示すように、エンハンス層6と軟磁性層7との間に介在させるPt層10の膜厚を2〜10Åの範囲内にすると、前記Pt層10を介在させない従来例に比べて層間結合磁界Hinを小さくできることがわかった。
【0098】
次に、上記した基本膜構成のPt層をRu層に置換した比較例を形成した。プラズマ処理や熱処理条件は上記の実験と同じにした。エンハンス層6と軟磁性層7との間にPt層を介在させた実施例と、比較例におけるPt層及びRu層の膜厚と抵抗変化率(ΔR/R)との関係について調べた実験結果が図10である。
【0099】
図10に示すようにRu層を介在させた比較例では、Ru層を介在させない、すなわちフリー磁性層8を軟磁性層7とエンハンス層6の2層構造で形成した従来例よりも抵抗変化率(ΔR/R)が低下することがわかった。一方、Pt層を介在させた実施例では、前記従来例よりも抵抗変化率(ΔR/R)が上昇することがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本実施形態のトンネル型磁気検出素子を記録媒体との対向面と平行な方向から切断した断面図、
【図2】本実施形態のフリー磁性層の構造を示す部分拡大断面図と、Ptの組成変調を示すグラフ、
【図3】本実施形態のトンネル型磁気検出素子の製造方法を示す一工程図(製造工程中の前記トンネル型磁気検出素子を記録媒体との対向面と平行な方向から切断した断面図)、
【図4】図3の次に行われる一工程図(製造工程中の前記トンネル型磁気検出素子を記録媒体との対向面と平行な方向から切断した断面図)、
【図5】図4の次に行われる一工程図(製造工程中の前記トンネル型磁気検出素子を記録媒体との対向面と平行な方向から切断した断面図)、
【図6】図5の次に行われる一工程図(製造工程中の前記トンネル型磁気検出素子を記録媒体との対向面と平行な方向から切断した断面図)、
【図7】軟磁性層(NiFe)とエンハンス層(CoFe)との間に介在するPt層の膜厚と抵抗変化率(ΔR/R)との関係を示すグラフ、
【図8】軟磁性層(NiFe)とエンハンス層(CoFe)との間に介在するPt層の膜厚とフリー磁性層の保磁力Hcとの関係を示すグラフ、
【図9】軟磁性層(NiFe)とエンハンス層(CoFe)との間に介在するPt層の膜厚と層間結合磁界Hinとの関係を示すグラフ、
【図10】軟磁性層(NiFe)とエンハンス層(CoFe)との間への挿入層をPt層あるいはRu層とした場合の前記挿入層と抵抗変化率(ΔR/R)との関係を示すグラフ、
【符号の説明】
【0101】
3 反強磁性層
4 固定磁性層
4a 第1固定磁性層
4b 非磁性中間層
4c 第2固定磁性層
5 絶縁障壁層
6 エンハンス層
7 軟磁性層
8 フリー磁性層
9 保護層
10 Pt層
15 金属層
21 下部シールド層
22,24 絶縁層
23 ハードバイアス層
26 上部シールド層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下から第1磁性層、絶縁障壁層、第2磁性層の順で積層され、前記第1磁性層及び第2磁性層のうち一方が、磁化方向が固定される固定磁性層で、他方が外部磁界により磁化方向が変動するフリー磁性層であり、
前記絶縁障壁層は、Ti−Oで形成され、
前記フリー磁性層は、少なくともNiを有する軟磁性層と、前記軟磁性層と前記絶縁障壁層間に形成され、前記軟磁性層よりもスピン分極率が高いエンハンス層とを有して構成され、
前記軟磁性層と前記エンハンス層間にPt層が介在していることを特徴とするトンネル型磁気検出素子。
【請求項2】
前記Pt層の膜厚は2Å以上で10Å以下で形成される請求項1記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項3】
前記エンハンス層はCoFe100−Xで形成され、Co組成比xは5at%以上で50at%よりも小さい範囲内である請求項1又は2に記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項4】
前記エンハンス層の少なくとも一部は、体心立方構造で形成される請求項1ないし3のいずれかに記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項5】
前記軟磁性層は、NiFe100−Yで形成され、Ni組成比Yは81.5at%以上で100at%以下である請求項1ないし4のいずれかに記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項6】
前記Pt層と前記エンハンス層との界面、及び前記Pt層と前記軟磁性層との界面では構成元素の相互拡散が生じ、Pt濃度が前記Pt層内から前記エンハンス層、及び前記軟磁性層の内部方向に向けて徐々に減少する濃度勾配が形成される請求項1ないし5のいずれかに記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項7】
前記第1磁性層が前記固定磁性層であり、前記第2磁性層がフリー磁性層である請求項1ないし6のいずれかに記載のトンネル型磁気検出素子。
【請求項8】
下から第1磁性層、絶縁障壁層、第2磁性層の順で積層し、前記第1磁性層及び第2磁性層のうち一方が、磁化方向が固定される固定磁性層で、他方が外部磁界により磁化方向が変動するフリー磁性層であり、前記フリー磁性層を、少なくともNiを有する軟磁性層と、前記軟磁性層と前記絶縁障壁層間に形成された、前記軟磁性層よりもスピン分極率が高いエンハンス層とを有して構成するトンネル型磁気検出素子の製造方法において、
(a) 前記第1磁性層を形成する工程、
(b) 前記第1磁性層上にTi−Oから成る前記絶縁障壁層を形成する工程、
(c) 前記絶縁障壁層上に、前記第2磁性層を形成する工程、
を有し、
さらに以下の(d)工程を有することを特徴とするトンネル型磁気検出素子の製造方法。
(d) 前記軟磁性層と前記エンハンス層間にPt層を介在させる工程。
【請求項9】
前記Pt層を2Å以上で10Å以下の範囲内で形成する請求項8記載のトンネル型磁気検出素子の製造方法。
【請求項10】
前記エンハンス層をCoFe100−Xで形成し、このときCo組成比Xを5at%以上で50at%よりも小さい範囲内で形成する請求項8又は9に記載のトンネル型磁気検出素子の製造方法。
【請求項11】
前記軟磁性層を、NiFe100−Yで形成し、このときNi組成比Yを81.5at%以上で100at%以下の範囲内で形成する請求項8ないし10のいずれかに記載のトンネル型磁気検出素子の製造方法。
【請求項12】
前記第1磁性層を固定磁性層で、前記第2磁性層をフリー磁性層で形成し、前記(c)工程時、前記(d)工程でのPt層を前記絶縁障壁層上に形成されたエンハンス層上に形成し、さらに前記Pt層上に前記軟磁性層を形成する請求項8ないし11のいずれかに記載のトンネル型磁気検出素子の製造方法。
【請求項13】
前記(c)工程の後、アニール処理を行う請求項8ないし12のいずれかに記載のトンネル型磁気検出素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−71868(P2008−71868A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−247958(P2006−247958)
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】