説明

ドハティ増幅回路

【課題】 従来のドハティ増幅回路では、AM−PM特性(振幅−位相特性)の変動が複雑であって、十分な歪補償を行うのが困難であるという問題点があり、本発明は、AM−PM特性を改善し、歪の小さいドハティ増幅回路を提供する。
【解決手段】 互いにAM−PM特性の異なる複数のドハティ増幅部を縦続接続したものであって、例えば、AM−PM特性が逆特性となるGaAsFETを用いた成るドハティ増幅部20と、LD−MOSFETを用いたドハティ増幅部30とを縦続接続したものであり、それぞれのドハティ増幅部で発生する位相変化を相殺して、全体として良好なAM−PM特性を実現し、歪を低減するドハティ増幅回路である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話システム等の無線通信システムの基地局等において用いられる高周波増幅回路であるドハティ増幅回路に係り、特に増幅器出力端における位相特性及び歪特性を改善することができるドハティ増幅回路に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、携帯電話等の移動体通信分野の普及はめざましく、その通信基地局増幅器に関しても設備の充実が図られている。これらの装置に関しても、携帯電話等と同様に高効率化の要求が高まっている。
現在普及が図られているW−CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)等のデジタル変調方式を用いた通信においては、その原理上、信号の復調を行う為には、増幅器の平均出力電力に対して飽和電力を十分に大きくする、すなわちバックオフを十分に取る必要がある。
【0003】
通常のFETを用いた増幅器において、その効率は、出力平均電力が飽和電力に近いほど高くなる。そのため、バックオフが大きいデジタル変調方式の増幅器の高効率化を図ることは困難であったが、これを実現する高周波増幅回路のひとつとしてドハティ増幅回路がある。
【0004】
ここで、一般的なドハティ増幅回路について図11を用いて説明する。図11は、一般的なドハティ増幅回路の構成ブロック図である。
図1に示すように、一般的なドハティ増幅回路は、入力端子101と、電力分配器102と、A級又はAB級又はB級にバイアスされたキャリアアンプ(キャリア増幅器)103と、キャリアアンプの入力整合回路104と、キャリアアンプの出力整合回路105と、1/4波長(λ/4)線路106と、λ/4線路107と、キャリアアンプよりも深くバイアスされ、AB級又はB級又はC級で動作するピークアンプ(ピーク増幅器)108と、ピークアンプの入力整合回路109と、ピークアンプの出力整合回路110と、ドハティ合成点111と、ドハティ合成点から負荷抵抗へのインピーダンス変換を行うλ/4線路112と、出力端子113とから構成され、負荷抵抗114に接続されている。
【0005】
上記構成のドハティ増幅回路の動作について図11及び図12を用いて説明する。図12は、入力レベルが低い場合のドハティ増幅回路の接続を示す構成ブロック図である。
入力端子101から入った信号は、電力分配器102で分配される。分配された一方の信号は、入力整合回路104を介してキャリアアンプ103に入力され、増幅される。キャリアアンプ103の出力は、出力整合回路105を介してλ/4線路106に入力され、インピーダンス変換される。
【0006】
分配器102で分配されたもう一方の信号は、λ/4線路107で位相を90°遅らされ、入力整合回路109を介してピークアンプ108に入力され増幅される。
λ/4線路106の出力及びピークアンプ108の出力は出力整合回路110を介してドハティ合成点111において合成される。合成された信号は、λ/4線路112でインピーダンス変換され、出力端子113を介して負荷抵抗114に入力される。このようにして従来のドハティ増幅器における動作が行われるものである。
【0007】
そして、上記構成のドハティ増幅器において、入力レベルが低い場合には、ピークアンプ110がオフとなり、キャリアアンプ104のみが動作する。そのため、ピークアンプ出力側のインピーダンスは非常に高く見えるためにオープン状態とみなすことができ、図12のように接続していると考えられる。
このとき、キャリアアンプ103から見た出力インピーダンスは、負荷に接続されたλ/4線路112と、キャリアアンプ103に接続されたλ/4線路106によって2Z0に見える。したがって、このときの上記構成の増幅器の出力電力は、キャリアアンプ103の出力電圧をV0CとするとV0C2/2Z0となる。
【0008】
通常、FETは、その出力電圧によって動作効率が決まり、出力電圧が高いほど効率が良くなっていく。したがって、ドハティ増幅器は、入力レベルが低い図12の状態においては、負荷インピーダンスZ0が接続された状態のFETと比較して、1/2の出力電力で同じ効率を得ることができる。
【0009】
入力電圧が徐々に高くなると、次第にピークアンプも動作を始めるようになる。この段階では、ピークアンプ103によって出力電力への供給がなされると同時に、キャリアアンプ103の負荷インピーダンスが2R0からR0へ低下するため、キャリアアンプ103は高い効率を維持したままその出力電力を増大させる。
【0010】
入力電力が十分に高いレベルにおいては、キャリアアンプ103、ピークアンプ108がともに動作していると考えられるため、図11のように整合しているものと考えられる。このときキャリアアンプ103及びピークアンプ108は、共に出力インピーダンスはZ0に整合するようになり、ドハティ増幅器(ドハティアンプ)としての出力電力は通常の2合成の増幅器と同様に2×V02/Z0となる。
【0011】
このように、ドハティ増幅器は、従来のA級、AB級といったアンプと比較して、入力レベルの低い、いわゆるバックオフの大きな動作点において高効率となる特長があるものである。
【0012】
しかし、その一方で、ドハティ増幅器は、B級あるいはC級の低いバイアス点に設定された増幅器を有するため、一般的に、その歪特性はAクラスあるいはABクラスの増幅器と比較して悪くなっている。原因としては、AM−AM特性(入力電力−出力電力特性)、及びAM−PM特性(出力電力−出力位相特性)の劣化により、入出力信号の線形性が保たれなくなることが挙げられる。
【0013】
ここで、一般的な増幅素子であるシリコン半導体のLD−MOSFET(Lateral Doped Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)増幅素子単体のAM−PM特性について図13を用いて説明する。図13は、LD−MOSFET増幅素子の出力に対する位相特性の一例を示す説明図である。
図13に示すように、本来、LD−MOSFET(LD−MOS)単体でのAM−PM特性は出力レベルが低いときには位相が変動しないが、出力レベルが高くなるにつれて位相は遅れる傾向がある。この傾向は増幅素子の飽和点近辺まで続く。
【0014】
しかし、ドハティ増幅器の場合、その挙動は異なる。
ここで、図14及び図15を用いてLD−MOSFETを用いたドハティ増幅器の概略構成及びドハティ増幅器のAM−PM特性について説明する。図14は、LD−MOSFETを用いたドハティ増幅器の概略構成図であり、図15は、60W出力のドハティ増幅器のAM−PM特性の測定結果の例を示す説明図である。
図14に示すように、LD−MOSFETを用いたドハティ増幅器の基本的な構成は図11に示した一般的なドハティ増幅器と同一であり、入力端子81と、電力分配器82と、キャリアアンプ83と、λ/4線路84と、λ/4線路85と、ピークアンプ86と、ドハティ合成点87と、λ/4線路88と、出力端子89とから構成され、負荷抵抗90に接続されている。
そして、図14の増幅器では、キャリアアンプ83及びピークアンプ86がいずれもLD−MOSFETで構成されているものである。
【0015】
次に、LD−MOSFETを用いた60W出力のドハティ増幅器のAM−PM特性の測定結果について説明する。
図15に示すように、ドレインバイアスを変えて入力信号の電流及び電圧を変化させ、様々な条件におけるAM−PM特性を測定すると、どの条件においても、ピークアンプの動作点近辺で位相が盛り上がるように急激に進み、その後、図13に示した本来のLD−MOSのAM−PM特性と同様に、飽和点近くまで遅れていくことがわかる。
【0016】
シミュレーションでも同様の結果が得られている。
LD−MOSFETで構成されたドハティ増幅器のAM−PM特性のシミュレーション結果について、図16を用いて説明する。図16は、LD−MOSFETで構成されたドハティ増幅器のAM−PM特性のシミュレーション結果を示す説明図である。
図16に示すように、出力レベルが低いときには位相の変動は小さいが、ピークアンプが動作を開始すると急激に位相が進み、その後急激に遅れるようになる。
【0017】
このようなドハティ増幅器のAM−PM特性を、単体のキャリアアンプ及びピークアンプのAM−PM特性と比較してみる。図17は、LD−MOSFETを用いたドハティ増幅回路のAM−PM特性を示す説明図である。図17では、単体のLD−MOSFETから成るキャリアアンプ及びピークアンプのAM−PM特性と、それを組み合わせて構成されたドハティ増幅回路のAM−PM特性とを示している。
図17に示すように、LD−MOSFET単体のキャリアアンプはピークアンプが動作を始めるレベルの少し手前まで、位相の変化がほとんどなく、その後遅れていく。また、ピークアンプは、ドハティ増幅器においてピークアンプが動作を始めるレベル付近でやや変動がある。しかし、この2つを組み合わせてドハティ増幅器を構成した場合のAM−PM特性は、非常に位相変動が大きくなっている。
【0018】
同様に、別のLD−MOSFETから成るドハティ増幅回路におけるAM−PM特性を図18に示す。図18は、別のLD−MOSFETのキャリアアンプ及びピークアンプのAM−PM特性と、ドハティ増幅回路のAM−PM特性を示す説明図である。
図18に示すように、ドハティ増幅器の位相変動としては、入力レベルが低い状態においては、キャリアアンプのみが動作しているため、キャリアアンプのAM−PM特性が出力に現れることとなり、出力電力が高くなるにつれて徐々に位相遅れが発生する。
入力レベルが高くなると、ピークアンプが動作を始めるが、ピークアンプの動作点はキャリアアンプよりも低いため、その位相遅れの大きさもキャリアアンプよりは小さくなる。ドハティ増幅器はキャリアアンプとピークアンプとが並列に接続された形であるため、ドハティ増幅器の出力位相は、キャリアンプとピークアンプの出力電力レベルに応じて、キャリアアンプ出力位相とピークアンプ出力位相の間を取る特性となり、入力電力レベルに対する出力位相の変化は複雑となり、変動量は大きくなる。
【0019】
AM−PM特性が出力レベルが上がるにつれて変化するということは、増幅器に変調信号を入力した場合、歪のピーク成分がさまざまな位相ベクトルを持つことになるため、歪補償をかけにくくなる。例えば、発生する歪成分の同振幅、逆位相を前段で注入するプリディストーション歪補償などは、効果が期待できなくなるというデメリットがある。またこれを防ぐにはAM−PM特性がフラットに近くなるように、増幅器を十分なバックオフをとった動作点で使う必要があるが、効率が悪くなってしまう欠点があるため、ドハティ増幅器のメリットが得られなくなる。
【0020】
ところで、高周波用の別の増幅素子としては、化合物半導体であるGaAsFET(ガリウム砒素FET)がある。
ここで、GaAsFET単体のAM−PM特性について図19を用いて説明する。図19は、GaAsFET増幅素子の出力に対する位相特性の一例を示す説明図である。
図19に示すように、GaAsFETのAM−PM特性は、低出力では位相の変化はなく、一定の出力レベルを越えると位相が進み、それ以降は飽和出力に近づくほど位相が進む特性となっている。つまり、一般的に、GaAsFETのAM−PM特性は、LD−MOSFETとは逆の特性といえる。
【0021】
ここで、GaAsFETを用いたドハティ増幅器の概略構成及びドハティ増幅器のAM−PM特性について、図20及び図21を用いて説明する。図20は、GaAsFETを用いたドハティ増幅器の概略構成図であり、図21は、GaAsFETを用いたキャリアアンプ単体及びピークアンプ単体と、これらを組み合わせたドハティ増幅器のAM−PM特性の例を示す説明図である。
図20に示すように、GaAsFETを用いたドハティ増幅器の基本的な構成は図11に示した一般的なドハティ増幅器や図14に示したLD−MOSFETを用いたドハティ増幅器と同一であり、入力端子91と、電力分配器92と、キャリアアンプ93と、λ/4線路94と、λ/4線路95と、ピークアンプ96と、ドハティ合成点97と、λ/4線路98と、出力端子99とから構成され、負荷抵抗100に接続されている。
そして、図20の増幅器では、キャリアアンプ93及びピークアンプ94がいずれもGaAsFETで構成されている。
【0022】
また、図21に示すように、GaAsFETを用いた増幅器の位相特性は、入力レベルが高くなるにしたがって、徐々に位相進みが発生するようになる。このため、GaAsFETを用いたドハティ増幅器の出力位相は、図18に示したLD−MOSFETを用いたドハティ増幅器と同様に、キャリアアンプとピークアンプの出力電力レベルに応じて、キャリアアンプ出力の位相とピークアンプ出力の位相の間を取る特性となり、入力電力レベルに対する出力位相の変動量は大きいものとなる。
【0023】
更に、ドハティ増幅器のAM−PM特性は、キャリアアンプとピークアンプの2つのFETの組み合わせによって生じるために、通常のABクラスのFETを用いた増幅器のように、出力の増加に応じて単純に位相の遅れや進みが増加するのではなく、図15,16,17,18及び図21に示すように、出力位相の変化が複雑になることがわかる。
【0024】
そのため、増幅器の歪補償回路の一種であるプリディストーション回路で歪補償を実現する場合には、入力レベルや位相調整回路の分解能を高くする必要があり、プリディストーション回路の構成に大きな負担をもたらすこととなる。
【0025】
尚、ドハティ増幅器の従来技術としては、平成15年2月21日公開の特開2003−51725号「HEMT−HBTドハーティ・マイクロ波増幅器」(出願人:ティーアールダブリュー・インコーポレーテッド、発明者:ケヴィン・ダブリュー・コバヤシ)がある。
この従来技術は、HEMT/HBT技術によって形成し、HEMTの低ノイズ性能と、HBTの高線形性を利用して、低電力レベルでは低ノイズ増幅器として機能し、RF電力レベルでは高電力増幅器に自動的に切り替わるものであり、電力効率の改善を図ることができるものである。
【0026】
また、別の従来の技術としては、平成6年8月5日公開の特開2004−222151号「ドハーティ増幅器」(出願人:日本電気株式会社、発明者:椎熊一実)がある。
この従来技術は、キャリア増幅器/又はピーク増幅器の前段に、それぞれの増幅器において発生する歪、特にAM−PM歪を補償する前置歪み補償回路を設けたものであり、ドハーティ増幅器の歪特性を補償することができるものである。
【0027】
【特許文献1】特開2003−51725号公報
【特許文献2】特開2004−222151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
しかしながら、従来のドハティ増幅回路では、AM−PM特性(位相特性)の変動が複雑であって、十分な歪補償を行うのが困難であるという問題点があった。
【0029】
本発明は、上記実状に鑑みて為されたもので、AM−PM特性を改善し、歪の小さいドハティ増幅回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0030】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、低入力レベルから増幅動作を行うキャリア増幅器と、一定の入力レベル以上で増幅動作を行うピーク増幅器と、入力電力をキャリア増幅器とピーク増幅器に分岐する電力分配器と、キャリア増幅器の出力とピーク増幅器の出力とを合成する合成部とを備えたドハティ増幅部を有するドハティ増幅回路であって、ドハティ増幅部を複数縦続接続し、縦続接続された複数のドハティ増幅部の振幅−位相特性が、互いに異なる特性であることを特徴としている。
【0031】
また、上記従来例の問題点を解決するための本発明は、低入力レベルから増幅動作を行うキャリア増幅器と、一定の入力レベル以上で増幅動作を行うピーク増幅器と、入力電力を前記キャリア増幅器とピーク増幅器に分岐する電力分配器と、キャリア増幅器の出力と前記ピーク増幅器の出力を合成する合成部とを備えたドハティ増幅部を有するドハティ増幅回路であって、キャリア増幅器とピーク増幅器とがGaAsFETで構成された第1のドハティ増幅部と、キャリア増幅器とピーク増幅器とがLD−MOSFETで構成された第2のドハティ増幅部とを備え、第1のドハティ増幅部と第2のドハティ増幅部とを縦続接続したことを特徴としている。
【0032】
また、本発明は、上記ドハティ増幅回路において、第1のドハティ増幅部を前段に、第2のドハティ増幅部を後段にして縦続接続したことを特徴としている。
【0033】
また、上記従来例の問題点を解決するための本発明は、低入力レベルから増幅動作を行うキャリア増幅器と、一定の入力レベル以上で増幅動作を行うピーク増幅器と、入力電力を前記キャリア増幅器とピーク増幅器に分岐する電力分配器と、キャリア増幅器の出力とピーク増幅器の出力とを合成する合成部とを備えたドハティ増幅部を有するドハティ増幅回路であって、ドハティ増幅部の前段に、ドハティ増幅部の振幅−位相特性を補償する回路を直列に接続したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、振幅−位相特性が互いに異なるドハティ増幅部を複数縦続接続したドハティ増幅回路としているので、複数のドハティ増幅部の振幅−位相特性が、全体として相殺されるように構成すれば、回路からの出力信号の振幅−位相特性を良好にし、歪を低減することができる効果がある。
【0035】
また、本発明によれば、キャリア増幅器とピーク増幅器とがGaAsFETで構成された第1のドハティ増幅部と、キャリア増幅器とピーク増幅器とがLD−MOSFETで構成された第2のドハティ増幅部とを縦続接続したドハティ増幅回路としているので、GaAsFETの振幅−位相特性と、LD−MOSFETの振幅−位相特性とが相殺され、高レベルまで良好な振幅−位相特性を得ることができ、且つ歪を低減することができる効果がある。
【0036】
また、本発明によれば、ドハティ増幅部の前段に、ドハティ増幅部の振幅−位相特性を補償する回路を直列に接続したドハティ増幅回路としているので、ドハティ増幅部で発生する位相の変化を補償することができ、出力信号の振幅−位相特性を良好にし、歪を低減することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
本発明のドハティ増幅回路は、キャリアアンプ用いる増幅素子とピークアンプに用いる増幅素子について、その振幅−位相特性(AM−PM特性)が逆特性となる増幅素子を単独でまたは組み合わせて用いたものであって、例えば、キャリアアンプとしてLD−MOSFETを用い、ピークアンプとしてGaAsFETを用いたものであり、これにより、2つの増幅器のAM−PM特性が互いに相殺され、ドハティ合成後の増幅信号のAM−PM特性を良好にし、歪量の小さなドハティ増幅器を実現することができるものである。
【0038】
また、本発明のドハティ増幅回路は、互いにAM−PM特性の異なる複数のドハティ増幅部を縦続接続したものであって、例えば、AM−PM特性が逆特性となるGaAsFETを用いた成るドハティ増幅部と、LD−MOSFETを用いたドハティ増幅部とを縦続接続したものであり、それぞれのドハティ増幅部で発生する位相変化を相殺して、全体として良好なAM−PM特性を実現し、歪を低減することができるものである。
【0039】
また、本発明のドハティ増幅回路は、キャリアアンプ及び/又はピークアンプを、それぞれ、AM−PM特性の異なる増幅素子を直列に接続した構成としたものであって、例えば、キャリアアンプ及び/又はピークアンプをGaAsFETとLD−MOSFETとを縦続接続した構成としたものであり、キャリアアンプ及び/又はピークアンプの出力のAM−PM特性を平坦にして、ドハティ合成後の出力信号のAM−PM特性を良好にし、歪を低減することができるものである。
【0040】
また、本発明のドハティ増幅回路は、ドハティ増幅回路の前段に、当該ドハティ増幅回路のAM−PM特性を補償する回路を設けたものであって、例えば、LD−MOSFETから成るドハティ増幅器の前段に、GaAsFETを接続したものであり、LD−MOSFETから成るドハティ増幅器の位相遅れをGaAsFETの逆特性で補償してAM−PM特性を平坦に近づけ、歪を低減することができるものである。
【0041】
本発明の第1の実施の形態に係るドハティ増幅回路について説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態に係るドハティ増幅回路(第1のドハティ増幅回路)の概略構成ブロック図である。尚、図1に示したドハティ増幅回路も、本来は図11と同様に各種整合回路を設けた構成となっているが、ここでは説明を簡単にするために、主要な構成部分のみを図示している。
図1に示すように、第1のドハティ増幅回路は、信号を入力する入力端子11と、入力信号を2つに分配する電力分配器12と、A級又はAB級又はB級にバイアスされ電力分配器12からの一方の出力を増幅するキャリアアンプ13と、キャリアアンプ13の出力についてインピーダンス変換を行うλ/4線路14と、電力分配器12からのもう一方の出力についてインピーダンス変換するλ/4線路15と、キャリアアンプよりも深くバイアスされ、AB級又はB級又はC級で動作してλ/4線路15からの出力を増幅するピークアンプ16と、λ/4線路14からの出力とピークアンプ16からの出力とを合成するドハティ合成点17と、合成信号のインピーダンスを負荷抵抗に整合するλ/4線路18と、増幅信号を出力する出力端子19とから構成され、負荷抵抗10に接続されている。
【0042】
そして、第1のドハティ増幅回路の特徴として、キャリアアンプ13がLD−MOSFETで構成され、ピークアンプ16がGaAsFETで構成されているものである。
【0043】
上述したように、LD−MOSFETのAM−PM特性は、入力電力又は出力電力が増加するにつれて位相遅れが大きくなり、GaAsFETのAM−PM特性は、入力電力又は出力電力が増加するにつれて位相進みが大きくなるものであって、これら2種類の増幅素子はAM−PM特性において逆特性となっている。
【0044】
第1のドハティ増幅回路では、このことを利用して、この2種類の増幅素子をそれぞれキャリアアンプとピークアンプに用いることにより、ドハティ合成後の増幅信号のAM−PM特性の位相変化を相殺して平坦にし、それによって位相ベクトルのばらつきをなくして歪の低減を図るものである。
【0045】
次に、第1のドハティ増幅回路のAM−PM特性について図2を用いて説明する。図2は、第1のドハティ増幅回路のAM−PM特性を示す説明図である。
図2には、第1のドハティ増幅回路で用いられているLD−MOSFETのキャリアアンプ(単体)と、GaAsFETのピークアンプ(単体)と、これらを組み合わせたドハティ増幅回路についてのAM−PM特性が示されている。図2に示すように、ドハティ増幅回路の出力位相は、キャリアンプとピークアンプの出力電力に応じて、キャリアアンプ出力の位相とピークアンプ出力の位相の間を取る特性となるため、入力電力が小さくキャリアアンプのみが動作している時にはドハティ増幅回路の特性はキャリアアンプの特性に追随する。
【0046】
そして、入力電力が増加してピークアンプがオンすると、キャリアアンプ出力の位相変化とは逆の変化となるピークアンプ出力が増加するため、入力電力の増加に伴って第1のドハティ増幅回路の特性は、キャリアアンプの位相変化を打ち消すように変化する。したがって、図2に示した第1のドハティ増幅回路のAM−PM特性は、図16及び図21に示した従来のドハティ増幅回路と比較して、高レベルまで平坦性を保ち、良好な特性となっている。また、従来のドハティ増幅器の位相変化と比較すると、位相変動の複雑さも小さくなっている。
【0047】
尚、ここでは第1のドハティ増幅回路として、キャリアアンプにLD−MOSFET、ピークアンプにGaAsFETを用いた回路について説明したが、キャリアアンプにGaAsFET、ピークアンプにLD−MOSFETを用いた構成としても構わない。このような構成とした場合には、ドハティ増幅回路のAM−PM特性の(位相の)変化の方向が変わるだけで、AM−PM特性を良好にすると共に、位相変動の複雑さを小さくするという同様の効果を得ることができるものである。
【0048】
つまり、第1のドハティ増幅回路では、キャリアアンプとピークアンプの増幅素子として、互いにAM−PM特性の異なる素子を用いることにより、ドハティ合成の際に互いのAM−PM特性を相殺して、合成後のAM−PM特性を良好にするものである。
【0049】
本発明の第1の実施の形態に係るドハティ増幅回路(第1のドハティ増幅回路)によれば、キャリアアンプとして、入力電力(又は出力電力)の増加に伴い位相遅れが発生するLD−MOSFETを用い、ピークアンプとして、入力電力(又は出力電力)の増加に伴い位相進みが発生するGaAsFETを用いた構成としているので、キャリアアンプ出力のAM−PM特性とピークアンプ出力のAM−PM特性とが逆特性となり、ドハティ合成においてそれらを合成するとAM−PM特性が相殺され、特別な構成を加えることなく、合成後の増幅信号のAM−PM特性を平坦にし、且つ位相変動の複雑さも小さくすることができ、それによって位相ベクトルのばらつきを小さくして歪を低減させることができる効果がある。
【0050】
次に、本発明の第2の実施の形態に係るドハティ増幅回路(第2のドハティ増幅回路)について用いて説明する。
第2のドハティ増幅回路は、GaAsFETを用いた第1のドハティ増幅器と、LD−MOSFETを用いた第2のドハティ増幅器とを縦続接続したものであり、第1のドハティ増幅器におけるAM−PM特性を第2のドハティ増幅器で打ち消すように作用して、出力信号のAM−PM特性を平坦にすることができるものである。
【0051】
第2のドハティ増幅回路の構成について図3を用いて説明する。図3は、第2のドハティ増幅回路の構成を示す概略構成ブロック図である。尚、図3に示したドハティ増幅回路も、本来は図11と同様に各種整合回路を設けた構成となっているが、ここでは説明を簡単にするために、主要な構成部分のみを図示している。
図3に示すように、第2のドハティ増幅回路は、GaAsFETを用いたGaAsFETドハティ増幅部20と、LD−MOSFETを用いたLD−MOSFETドハティ増幅部30とを縦続接続した構成となっている。
【0052】
尚、請求項における「合成部」は、図3のλ/4線路24(34)と、ドハティ合成点27(37)と、λ/4線路28(38)とを合わせた部分に相当している。また、請求項における「第1のドハティ増幅部」は、GaAsFETドハティ増幅部20に相当し、「第2のドハティ増幅部」はLD−MOSFET増幅部30に相当している。
【0053】
GaAsFETドハティ増幅部20は、図20に示したGaAsFETを用いた従来のドハティ増幅器と同一の構成であり、入力端子21と、電力分配器22と、GaAsFETから成るキャリアアンプ23と、λ/4線路24と、λ/4線路25と、GaAsFETから成るピークアンプ26と、ドハティ合成点27と、λ/4線路28と、出力端子29とから構成されている。
【0054】
また、LD−MOSFET増幅部30は、図14に示したLD−MOSFETを用いた従来のドハティ増幅器と同様の構成であり、入力端子31と、電力分配器32と、LD−MOSFETから成るキャリアアンプ33と、λ/4線路34と、λ/4線路35と、LD−MOSFETから成るピークアンプ36と、ドハティ合成点37と、λ/4線路38と、出力端子39とから構成され、負荷抵抗40に接続されている。
そして、第2のドハティ増幅回路においては、GaAsFETドハティ増幅部20の出力端子29と、第2のドハティ増幅部30の入力端子31とが接続された構成となっている。
【0055】
上記構成のGaAsFETドハティ増幅部20及びLD−MOSFETドハティ増幅部30における動作は、従来のドハティ増幅回路と同様であるため説明を省略するが、GaAsFETドハティ増幅部20とLD−MOSFETドハティ増幅部30とを縦続接続しているので、GaAsFET増幅部20で一旦増幅された信号を、更にLD−MOSFET増幅部30で増幅して出力するものとなっている。
【0056】
次に、上記構成の第2のドハティ増幅回路におけるAM−PM特性(出力位相−入力電力)について図4を用いて説明する。図4は、第2のドハティ増幅回路におけるAM−PM特性を示す説明図である。
図4では、GaAsFETドハティ増幅部20単体のAM−PM特性と、LD−MOSFET増幅部30単体のAM−PM特性と、これらを縦続接続した第2のドハティ増幅回路のAM−PM特性とを示している。
【0057】
図4に示すように、GaAsFETドハティ増幅部20のAM−PM特性は、図21に示したGaAsFETを用いた従来のドハティ増幅器のAM−PM特性と同様であり、入力電力の増加につれて、出力位相の進みが大きくなるものである。
また、LD−MOSFETドハティ増幅部30のAM−PM特性は、図18に示したLD−MOSFETを用いた従来のドハティ増幅器のAM−PM特性と同様であり、入力電力の増加につれて、出力位相の遅れが大きくなるものである。
【0058】
したがって、特性が反対となっている第1のドハティ増幅部20と第2のドハティ増幅部30とを縦続接続することにより、図4に示すように、GaAsFETドハティ増幅部20で発生した位相変化を、LD−MOSFETドハティ増幅部30で相殺することができ、合成後の第2のドハティ増幅回路全体のAM−PM特性を平坦に近づけることができ、特に、高入力レベルにおけるAM−PM特性を大幅に改善できるものである。
【0059】
更に、単独のGaAsFETドハティ増幅部20とLD−MOSFETドハティ増幅部30のAM−PM特性には、それぞれのピーク増幅器が動作を開始した後で、それぞれ、位相の複雑な変動がみられるが、GaAsFETドハティ増幅部20とLD−MOSFETドハティ増幅部30とのAM−PM特性が逆特性となるよう、それぞれの増幅部の素子を適切に選択し、バイアス電圧等を調整しておけば、GaAsFETドハティ増幅部20で発生した位相変化を、LD−MOSFETドハティ増幅部30によってより効果的に相殺することができ、合成後の第2のドハティ増幅回路全体のAM−PM特性をきわめて良好にすることができるものである。
【0060】
本発明の第2の実施の形態に係るドハティ増幅回路(第2のドハティ増幅回路)によれば、キャリアアンプ及びピークアンプにGaAsFETを用いたGaAsFETドハティ増幅部20と、キャリアアンプ及びピークアンプにLD−MOSFETを用いたLD−MOSFETドハティ増幅部30とを縦続接続し、GaAsFETドハティ増幅部20とLD−MOSFETドハティ増幅部30のAM−PM特性が互いに逆特性となるよう調整された構成としているので、GaAsFETドハティ増幅部20で発生した位相変化を、逆特性を示すLD−MOSFETドハティ増幅部30で打ち消して、第2のドハティ増幅回路全体のAM−PM特性を平坦にすることができ、歪を大幅に低減することができる効果がある。
【0061】
尚、ここではGaAsFETを用いたドハティ増幅部を前段に、LD−MOSFETを用いたドハティ増幅部を後段に縦続接続したが、接続順を逆にしても構わず、その場合にはLD−MOSFETドハティ増幅部で生じた位相変化をGaAsFETドハティ増幅部で打ち消して、同様の効果を得ることができるものである。
【0062】
更に、ここでは2種類のドハティ増幅部としてGaAsFETを用いたドハティ増幅部と、LD−MOSFETを用いたドハティ増幅部を備えたものについて説明したが、増幅素子の種類や組合せはこれらに限るものではなく、AM−PM特性が異なる複数のドハティ増幅部を縦続接続する構成であれば増幅素子の種類や組合せは任意に選択可能であり、個々のドハティ増幅部におけるAM−PM特性を互いに補償し、相殺することにより、全体としてAM−PM特性の良好な増幅回路を実現する効果がある。
【0063】
また、縦続接続するドハティ増幅部が2つの場合には、それらのAM−PM特性ができるだけ逆特性となっていることが望ましく、縦続接続するドハティ増幅部が3つ以上であれば、全体としてAM−PM特性を相殺して補償するよう構成すればよい。
【0064】
次に、本発明の第3の実施の形態に係るドハティ増幅回路(第3のドハティ増幅回路)について説明する。
第3のドハティ増幅回路は、キャリアアンプ及びピークアンプのそれぞれを、GaAsFETとLD−MOSFETとを直列に接続した構成とし、合成前のキャリアアンプ及びピークアンプの出力についてAM−PM特性を平坦にすることができるものである。
【0065】
第3のドハティ増幅回路の構成について図5を用いて説明する。図5は、第3のドハティ増幅回路の構成を示す概略構成ブロック図である。
図5に示すように、第3のドハティ増幅回路は、基本的な構成は図11に示した従来のドハティ増幅回路と同様であるが、キャリアアンプ及びピークアンプの構成が従来とは異なっているものであり、入力端子41と、電力分配器42と、キャリアアンプ43と、λ/4線路44と、λ/4線路45と、ピークアンプ46と、ドハティ合成点47と、λ/4線路48と、出力端子49とから構成されている。
【0066】
そして、第3のドハティ増幅回路の特徴部分として、キャリアアンプ43は、GaAsFET43aと、LD−MOSFET43bとが直列に接続されたユニットとなっている。同様に、ピークアンプ46は、GaAsFET46aと、LD−MOSFET46bとが直列に接続されたユニットとなっている。
【0067】
次に、第3のドハティ増幅回路のAM−PM特性特性について図6を用いて説明する。図6は、第3のドハティ増幅回路のキャリアアンプ単体(又はピークアンプ単体)におけるAM−PM特性を示す説明図である。
図6では、GaAsFET43aのAM−PM特性と、LD−MOSFET43bのAM−PM特性と、それらを接続したキャリアアンプ単体のAM−PM特性とを示している。
【0068】
図6に示すように、GaAsFETのAM−PM特性は、図19に示したように、出力電力が増加するにつれて位相が進んでいくものである。逆に、LD−MOSFETのAM−PM特性は、図13に示したように、飽和出力に近づくほど位相が遅れていく。そこで、逆特性のGaAsFETとLD−MOSFETとを接続して用いることにより、図6の「LD−MOSFET+GaAsFET」に示すように、後段のLD−MOSFETで生じる位相変化を打ち消すような位相変化を、前段のGaAsFETで生じさせて、キャリアアンプ又はピークアンプ単体のAM−PM特性を改善させるものである。ここで、GaAsFETは、あえてC級にバイアスされているが、これは、LD−MOSFETと逆特性となる領域で使用するためである。
【0069】
このように、AM−PM特性が改善されることにより、バックオフを大きくとることができ、より飽和出力に近い出力レベルでも位相特性が変化しなくなるため、第3のドハティ増幅回路出力端での歪のピーク成分を抑えることができるものである。
【0070】
すなわち、第3のドハティ増幅回路では、キャリアアンプ又はピークアンプのユニット毎に、GaAsFET及びLD−MOSFETを直列に接続し、GaAsFETとLD−MOSFETの出力電力に対する位相特性の違いを利用して位相変化を相殺して、ユニット内の位相特性を改善し、位相特性が改善された状態でドハティ合成を行って、増幅回路出力の位相特性と歪の改善を図るものである。
【0071】
次に、第3のドハティ増幅回路における歪補償について図7を用いて説明する。図7は、第3のドハティ増幅回路における歪補償の例を示す模式説明図である。
図7に示すように、GaAsFET及びLD−MOSFETを直列に接続する場合に、図7(a)のGaAsFET単体での歪スペクトルと、図7(b)のLD−MOSFET単体での歪スペクトルとが、逆位相、同振幅になるように調整して接続する。
【0072】
つまり、GaAsFET及びLD−MOSFETの歪発生量(キャリアに対する相対値)を同じにして逆位相で合成することにより、相殺して歪補償が実現でき、図7(c)に示すように、キャリアアンプ単体およびピークアンプ単体での歪改善を図ることができるものである。
【0073】
次に、GaAsFET+LD−MOSFET構成のキャリアアンプとピークアンプをドハティ合成した場合のAM−PM特性について図8を用いて説明する。図8は、図5に示した第3のドハティ増幅回路のAM−PM特性を示す説明図である。
図8には、GaAsFET+LD−MOSFETのキャリアアンプ(単体)のAM−PM特性と、GaAsFET+LD−MOSFETのピークアンプ(単体)のAM−PM特性と、これらのユニットからの出力をドハティ合成した出力のAM−PM特性を示している。
【0074】
既に、キャリアアンプ及びピークアンプをLD−MOSFETで構成したドハティ増幅回路のAM−PM特性については図17を用いて説明しているが、図17と図8の特性とを比較すると、ユニット内にGaAsFETを備えた図8の特性では、キャリアアンプ、ピークアンプ共に高出力まで位相の遅れが現れず、平坦なAM−PM特性となっている。そのため、それらを合成したドハティ合成でのAM−PM特性を比較しても、図8では、合成前の特性が良好なため、高出力まで平坦なAM−PM特性が得られ、ドハティ合成出力のAM−PM特性が大いに改善されていることがわかる。
【0075】
本発明の第3の実施の形態に係るドハティ増幅回路によれば、キャリアアンプ及びピークアンプを、AM−PM特性が異なるGaAsFETとLD−MOSFETを直列に接続したユニット構成とし、ユニット内でAM−PM特性が相殺されることにより、それぞれのアンプのAM−PM特性を改善することができ、AM−PM特性の良好な信号同士をドハティ合成して、増幅器のAM−PM特性を向上させると共に歪を低減することができる効果がある。
【0076】
尚、ここでは、各ユニット内で、GaAsFETを前段、LD−MOSFETを後段として直列に接続したが、LD−MOSFETを前段、GaAsFETを後段としても構わない。
【0077】
次に、本発明の第4の実施の形態に係るドハティ増幅回路(第4のドハティ増幅回路)について説明する。
第4のドハティ増幅回路は、LD−MOSFETドハティ増幅回路の前段に、AM−PM特性が逆特性となるGaAsFETを直列に挿入した構成であり、増幅器出力のAM−PM特性を改善するものである。
【0078】
第4のドハティ増幅回路の構成について図9を用いて説明する。図9は、第4のドハティ増幅回路の概略構成ブロック図である。
図9に示すように、第4のドハティ増幅回路は、図11に示した従来のドハティ増幅回路の電力分配器の前段に、GaAsFETを備えた構成であり、従来と同様の部分として、入力端子51と、電力分配器52と、LD−MOSFETを用いたキャリアアンプ53と、λ/4線路54と、λ/4線路55と、LD−MOSFETを用いたピークアンプ56と、ドハティ合成点57と、λ/4線路58と、出力端子59とを備え、第4のドハティ増幅回路の特徴部分として、電力分配器52の前段にGaAsFET前段部60を備えている。
ここで、GaAsFET前段部60は、後段のドハティ増幅器のAM−PM特性を打ち消す逆特性となっている。
【0079】
次に、第4のドハティ増幅回路のAM−PM特性について図10を用いて説明する。図10は、第4のドハティ増幅回路のAM−PM特性を示す説明図である。
図10では、GaAsFET60のAM−PM特性と、LD−MOSFETを用いたドハティ増幅回路のAM−PM特性と、当該ドハティ増幅回路の前段にGaAsFET前段部60を設けた場合のAM−PM特性を示している。
【0080】
図10に示すように、LD−MOSFETを用いたドハティ増幅回路のAM−PM特性は、ピークアンプが動作を始めるレベルあたりから一旦位相が進み、その後、飽和電力まで位相は遅れていく。一方GaAsFET前段部のAM−PM特性は、出力電力の増加と共に位相が進んでいく。
そのため、GaAsFET前段部60を直列に接続した、LD−MOSFETドハティ増幅回路のAM−PM特性は、GaAsFET前段部によってドハティ増幅回路の位相遅れのAM−PM特性が打ち消されて、かなり高出力まで位相変化が小さくなっていることがわかり、AM−PM特性が改善されていることがわかる。
【0081】
すなわち、第4のドハティ増幅回路は、ドハティ増幅回路の、キャリアアンプとピークアンプに入力電力を分岐する分配器の前段に、当該ドハティ増幅回路で発生するAM−PM特性を補償する回路を設けたものであり、増幅器出力のAM−PM特性を改善し、歪を低減することができるものである。
尚、上記構成とは逆に、LD−MOSFETを前段部に、GaAsFETをドハティ増幅部としてもよく、この場合にも歪特性を改善できるものである。
【0082】
本発明の第4の実施の形態に係るドハティ増幅回路によれば、LD−MOSFETを用いたドハティ増幅回路の前段に、AM−PM特性が、当該ドハティ増幅回路とは逆特性となるGaAsFET前段部60を設けているので、LD−MOSFETを用いたドハティ増幅回路のAM−PM特性を、GaAsFET前段部60の特性で相殺して、増幅器出力のAM−PM特性を改善し、歪を低減することができる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、位相特性及び歪特性を改善することができるドハティ増幅回路に適している。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るドハティ増幅回路(第1のドハティ増幅回路)の概略構成ブロック図である。
【図2】第1のドハティ増幅回路のAM−PM特性を示す説明図である。
【図3】第2のドハティ増幅回路の構成を示す概略構成ブロック図である。
【図4】第2のドハティ増幅回路におけるAM−PM特性を示す説明図である。
【図5】第3のドハティ増幅回路の構成を示す概略構成ブロック図である。
【図6】第3のドハティ増幅回路のキャリアアンプ単体(又はピークアンプ単体)におけるAM−PM特性を示す説明図である。
【図7】第3のドハティ増幅回路における歪補償の例を示す模式説明図である。
【図8】図5に示した第3のドハティ増幅回路のAM−PM特性を示す説明図である。
【図9】第4のドハティ増幅回路の概略構成ブロック図である。
【図10】第4のドハティ増幅回路のAM−PM特性を示す説明図である。
【図11】一般的なドハティ増幅回路の構成ブロック図である。
【図12】入力レベルが低い場合のドハティ増幅回路の接続を示す構成ブロック図である。
【図13】LD−MOSFET増幅素子の出力に対する位相特性の一例を示す説明図である。
【図14】LD−MOSFETを用いたドハティ増幅器の概略構成図である。
【図15】60W出力のドハティ増幅器のAM−PM特性の測定結果の例を示す説明図である。
【図16】LD−MOSFETで構成されたドハティ増幅器のAM−PM特性のシミュレーション結果を示す説明図である。
【図17】LD−MOSFETを用いたドハティ増幅回路のAM−PM特性を示す説明図である。
【図18】別のLD−MOSFETのキャリアアンプ及びピークアンプのAM−PM特性と、ドハティ増幅回路のAM−PM特性を示す説明図である。
【図19】GaAsFET増幅素子の出力に対する位相特性の一例を示す説明図である。
【図20】GaAsFETを用いたドハティ増幅器の概略構成図である。
【図21】GaAsFETを用いたドハティ増幅器のAM−PM特性の例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0085】
11,21,31,41,51,81,91…入力端子、 12,22,32,42,52,82,92…電力分配器、 13,23,33,43,53,83,93…キャリアアンプ、 14,24,34,44,54,84,94…λ/4線路、 15、25,35,45,55,85,95…λ/4線路、 16、26,36,46,56,86,96…ピークアンプ、 17,27,37,47,57,87,97…ドハティ合成点、 18,28,38,48,58,88,98…λ/4線路、 19,29,39,49,59,89,99…出力端子、 10,40,90,100…出力負荷、 60…GaAsFET前段部、 101…入力端子、 102…電力分配器、 103…キャリアアンプ、 104…入力整合回路、 105…出力整合回路、 106…λ/4線路、 107…λ/4線路、 108…ピークアンプ、 109…入力整合回路、 110…出力整合回路、 111…ドハティ合成点、 112…λ/4線路、 113…出力端子、 114…出力負荷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低入力レベルから増幅動作を行うキャリア増幅器と、
一定の入力レベル以上で増幅動作を行うピーク増幅器と、
入力電力を前記キャリア増幅器とピーク増幅器に分岐する電力分配器と、
前記キャリア増幅器の出力と前記ピーク増幅器の出力とを合成する合成部とを備えたドハティ増幅部を有するドハティ増幅回路であって、
前記ドハティ増幅部を複数縦続接続し、
前記縦続接続された複数のドハティ増幅部の振幅−位相特性が、互いに異なる特性であることを特徴とするドハティ増幅回路。
【請求項2】
低入力レベルから増幅動作を行うキャリア増幅器と、
一定の入力レベル以上で増幅動作を行うピーク増幅器と、
入力電力を前記キャリア増幅器とピーク増幅器に分岐する電力分配器と、
前記キャリア増幅器の出力と前記ピーク増幅器の出力とを合成する合成部とを備えたドハティ増幅部を有するドハティ増幅回路であって、
前記キャリア増幅器と前記ピーク増幅器とがGaAsFETで構成された第1のドハティ増幅部と、
前記キャリア増幅器と前記ピーク増幅器とがLD−MOSFETで構成された第2のドハティ増幅部とを備え、
前記第1のドハティ増幅部と前記第2のドハティ増幅部とを縦続接続したことを特徴とするドハティ増幅回路。
【請求項3】
第1のドハティ増幅部を前段に、第2のドハティ増幅部を後段にして縦続接続したことを特徴とする請求項2記載のドハティ増幅回路。
【請求項4】
低入力レベルから増幅動作を行うキャリア増幅器と、
一定の入力レベル以上で増幅動作を行うピーク増幅器と、
入力電力を前記キャリア増幅器とピーク増幅器に分岐する電力分配器と、
前記キャリア増幅器の出力と前記ピーク増幅器の出力とを合成する合成部とを備えたドハティ増幅部を有するドハティ増幅回路であって、
前記ドハティ増幅部の前段に、前記ドハティ増幅部の振幅−位相特性を補償する回路を直列に接続したことを特徴とするドハティ増幅回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2008−193720(P2008−193720A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67594(P2008−67594)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【分割の表示】特願2005−195712(P2005−195712)の分割
【原出願日】平成17年7月5日(2005.7.5)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】