説明

ナノインプリント用離型処理方法および離型膜

【課題】 ナノインプリントリソグラフィーにおいて従来使用されているF-SAMと遜色ない離型性を有し、耐久性の点でさらにすぐれている離型処理方法および離型膜を提供する。
【解決手段】 ナノインプリント用モールドの表面に設ける離型膜として、ポリジメチルシロキサン(PDMS)薄膜を使用する。上記のポリジメチルシロキサン薄膜は、ポリジメチルシロキサンの片側末端にシランカップリング基が結合した化合物を用いてモールド表面に成膜するのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型(モールド)を押し付けることでレジスト上にナノパターンを転写するナノインプリントのための離型処理方法および離型膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナノインプリントリソグラフィーにおいては、金型(モールド)からレジストの付着を防ぐために、モールド表面(転写しようとするパターンを有する面)を離型膜で覆うことが必要不可欠である。この離型膜として、フッ素含有自己組織化膜(F-SAM)が一般的に使用されている。F-SAMでは、主鎖は主に炭素結合からなり、側鎖にフッ素を有する官能基が結合することで離型性が発現している。
【0003】
F-SAMはディップコート法や化学気相成長(CVD)法によって成膜される(下記の非特許文献1・2参照)。そのほかにSYLGARD(東レ・ダウコーニング(株)。商標)などを用いてマスターモールドからPDMSゴムを型取りし、型取りしたPDMSゴムをそのままソフトリソグラフィーやUVナノインプリントリソグラフィーのモールドとして用いる方法もある(非特許文献3参照)。また、モールド表面をアミノシラン化し、主鎖がPDMSのモノグリシジルエーテルを反応させ、PDMS薄膜を成膜する方法がある(非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Y. Hirai et al.: J. Photopolym. Sci. Technol., 14 (2001) 457.
【非特許文献2】A. Hozumi et al.: Lagnmuir, 15 (1999) 7600.
【非特許文献3】Y. Xia et al.: Annu. Rev. Mat. Sci. 28 (1998) 153.
【非特許文献4】M. J. Lee, et al.: Adv. Mater. 18 (2006)3115.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
モールド表面の離型膜としてF-SAMを用いた場合、繰り返しナノインプリントを行うことで離型性が劣化することが知られている。
本発明は、F-SAMと遜色ない離型性を有しているとともに耐久性の点でさらにすぐれる離型処理方法、およびそれによる離型膜を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の離型処理方法および離型膜は、ナノインプリント用モールドの表面に設ける離型膜として、ポリジメチルシロキサン(PDMS)薄膜を用いることを特徴とする。
F-SAMの主鎖が主に炭素結合であるのに対し、PDMSは、炭素結合よりも強固なシロキサン結合が主鎖であり、尚且つ側鎖にメチル基が結合している。したがってPDMS薄膜は離型性を有し、熱的、化学的に安定な薄膜である。そのため、本発明によれば、成膜によるモールドパターン形状の変形をきたすことなく、繰り返しナノインプリントによる離型膜の劣化を低減することが可能である。
【0007】
とくに、上記のポリジメチルシロキサン薄膜を、ポリジメチルシロキサンの片側末端にシランカップリング基が結合した化合物(図1参照)を用いてモールド表面に成膜するのがよい。それにより、F-SAMと遜色ない離型性を有していて耐久性が一層すぐれた離型膜を得ることができる。
上記のシランカップリング基が結合した化合物を用いる事でモールド表面を処理することなく、離型膜を形成することができる。
【0008】
また、ポリジメチルシロキサンの片側末端にシランカップリング基が結合した上記の化合物をモールド表面にスピンコートし、さらに、たとえば200℃で10時間程度の真空アニールを行ったうえ、トルエンによるリンスを行って余分なシランカップリング剤を除去することとするのが好ましい。そうすることにより、離型性・耐久性にすぐれるとともにナノパターンを正確に転写できる点でも有利な離型膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0009】
発明によれば、F-SAMと遜色ない離型性とすぐれた耐久性をそなえた離型膜を得ることができ、繰り返しナノインプリントにおけるスループットを高めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】片側末端にシランカップリング基が結合したPDMSの化学構造式である。
【図2】(a)・(b)のそれぞれは、F-SAMとPDMS薄膜との水滴接触角の写真である。
【図3】PDMS薄膜とF-SAMのXPSワイドスキャンスペクトルである。
【図4】(a)・(b)・(c)のそれぞれは、Si基板、F-SAM、PDMS薄膜のフォースカーブである。
【図5】(a)・(b)・(c)のそれぞれは、Si基板、F-SAM、PDMS薄膜のフリクショナルカーブである。
【図6】SPMを用いた摩擦力、吸着力測定方法、及びフリクショナルカーブとフォースカーブの例である。
【図7】(a)・(b)のそれぞれは、F-SAMとPDMS薄膜との原子間力顕微鏡像である。
【図8】PDMS薄膜を離型膜として用いたUVナノインプリントによって作製されたPAK-01のパターンである。
【図9】PDMS薄膜を離型膜として用いたステップアンドリピートUVナノインプリントによって作製された1回目(図(a))と150回目(図(b))のレジスト(PAK-01)上のパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に片側末端にシランカップリング基が結合したPDMSを示す。この化合物はPolymer source
Inc.の製品である。このPDMSシランカップリング剤を離型剤として基板もしくは石英モールドにスピンコートし、200℃で10時間真空アニールした。そして、余分なシランカップリング剤を除去するため、トルエンでリンスを行った。このようにしてPDMS薄膜を成膜した。
【0012】
上記のPDMS薄膜について特性を調べるため、接触角測定、X線光電子分光法(XPS)による表面化学結合状態評価、走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用いた付着力、摩擦力測定、表面形状評価を行った。このとき、比較試料としてOPTOOL(商標) HD-1100TH(ダイキン工業(株))を使用して成膜したF-SAMを用いた。F-SAMはディップコートにより成膜した。
【0013】
図2に、PDMS薄膜とF-SAM上における水の接触角を示す。PDMS薄膜は106°、F-SAMは115°であった。PDMS薄膜の接触角の方がF-SAMよりも約10°低い。しかし、ナノインプリント離型膜として必要と言われている100°は超えており、ナノインプリントを実施することに問題はない。
【0014】
次にXPSによって各膜の表面化学結合状態を評価した。図3にPDMS薄膜とF-SAMのワイドスキャンスペクトルを示す。F-SAMのスペクトルではF由来の強いピークが観察されるが、PDMS薄膜では全く観察されない。このことから、PDMS薄膜の離型性はフッ素由来ではなく、メチル基由来であることを確認した。
【0015】
次にSPMを用いて付着力および摩擦力の測定を行った。測定用カンチレバーとして先端に直径1μmのSiO2ガラスビーズが付いたカンチレバーを用いた。カンチレバーのバネ定数は0.95N/mであり、基板への押しつけ力は約10nNで付着力、摩擦力を測定した。付着力と摩擦力はそれぞれフォースカーブとフリクショナルカーブから得た。また、フリクショナルカーブはカンチレバーのねじれから得られ、フリクショナルカーブの差分信号を摩擦力と定義するため、この測定では摩擦力の単位はmVである。この測定ではF-SAMに加え、参照試料としてSi基板上でも測定した。
SPMによる摩擦力、吸着力の測定方法およびフリクショナルカーブ、フォースカーブの例を図6に示している。摩擦力の測定については、カンチレバーを基板上で1往復走査させ、往路および復路でカンチレバーがねじれるとき発生する電子信号をプロットして、フリクショナルカーブを得る。吸着力を測定は、まずカンチレバーを基板表面に近づけて吸着させ、指定した圧力がかかるまで押し付けたのち、カンチレバーを引き上げていく。その際、カンチレバーと基板の間の吸着力に応じてカンチレバーはしなってから基板から脱離する。この一連の動作で生じるカンチレバー先端にかかる圧力を縦軸に、カンチレバーと基板との距離を横軸にとったものがフォースカーブであり、吸着力はこのフォースカーブの頂点の座標により評価している。
【0016】
図4、5にSi基板、F-SAM、PDMS薄膜のフォースカーブとフリクショナルカーブを示す。付着力はSi基板が112nN、F-SAMが62nN、PDMS薄膜が69nNであった。両離型膜ともにSi基板よりは付着力が低い。また、PDMS薄膜の方がF-SAMに比べてわずかに付着力は大きかった。一方、摩擦力はSi基板が19mV、F-SAMが6mV、PDMS薄膜が0.1mVであった。Si基板に比べ、F-SAMでも半分以下の値になったが、PDMS薄膜ではほとんど0という値を示した。ナノインプリントにおけるモールド離型の際、離型膜とレジストとの間には付着と摩擦が発生し、離型膜の劣化にも影響を与えると考えられる。そのため、摩擦力がほとんどないという事はナノインプリント時に離型膜へのダメージがかなり低減されると予想される。
【0017】
図7にPDMS薄膜とF-SAMのダイナミックフォースモード(DFM)による原子間力顕微鏡(AFM)像を示す。表面形状を比較してみると、F-SAMは高さ数nmではあるが凸凹が存在しているのに対し、PDMS薄膜はほとんど凸凹が存在しない。このような形状も低摩擦力の原因と考えられる。
【0018】
上記により、PDMS薄膜はF-SAMと遜色ない離型性を有していることを確認した。また、特筆すべきことに局所領域における摩擦力がほとんどないことが分かった。そこでナノインプリントを実施することで、実際に離型膜として機能するか調べた。
【0019】
試験では、UVナノインプリントレジストとしてPAK-01(東洋合成工業(株))を用いた。インプリント圧力は3MPa、UV波長、照度、照射時間は365nm、40mW/cm2、30秒で行った。図8にPAK-01上にインプリントされたライン幅80nm、スペース幅190nmのラインアンドスペースパターン(L&S)を示す。このようにPDMS薄膜を成膜したモールドを用いて微細なパターンが転写可能であることを確認した。また、離型膜の耐久性を調べるため、PDMS薄膜を成膜したモールドを用いてステップアンドリピートUVナノインプリントを行った。図9に1回目と150回目のインプリントパターンを示す。この時のパターンはライン幅、スペース幅ともに200nmであるが、150回のUVナノインプリントを実施してもパターンはきれいに転写されることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、ナノインプリントリソグラフィーにおいて利用することができる。離型膜が炭素結合より強固なシロキサン結合であること、また局所領域における摩擦力がほとんどないことから、優れた耐久性を有し、ナノインプリントのスループットを高めることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノインプリント用モールドの表面に設ける離型膜として、ポリジメチルシロキサン薄膜を用いることを特徴とするナノインプリント用離型処理方法。
【請求項2】
ポリジメチルシロキサンの片側末端にシランカップリング基が結合した化合物を用いて上記のポリジメチルシロキサン薄膜を成膜することを特徴とする請求項1に記載のナノインプリント用離型処理方法。
【請求項3】
ポリジメチルシロキサンの片側末端にシランカップリング基が結合した上記の化合物をモールド表面にスピンコートし、さらに真空アニールを行ったうえ、トルエンによるリンスを行って余分なシランカップリング剤を除去することを特徴する請求項2に記載のナノインプリント用離型処理方法。
【請求項4】
ナノインプリント用モールドの表面に設ける離型膜であって、請求項1〜3のいずれかに記載の離型処理方法によって形成されたことを特徴とするナノインプリント用離型膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−248641(P2012−248641A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118531(P2011−118531)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【出願人】(597138508)明昌機工株式会社 (11)
【Fターム(参考)】