説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】クラッチフェーシングの磨耗を防ぐことの可能なハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】ハイブリッド車両の制御装置は、エンジンと、トルクコンバータと、モータジェネレータと、を有するハイブリッド車両に適用され、制御手段を備える。トルクコンバータは、その入力軸と出力軸とを直接締結することが可能なロックアップクラッチを有する。エンジン及びモータジェネレータは、トルクコンバータの入力軸に接続される。制御手段は、減速時において、ロックアップクラッチのスリップ制御を行うとともに、モータジェネレータの回生制動トルクによりトルクコンバータの入力軸の回転数を低下させる。このようにすることで、トルクコンバータにおける入力軸と出力軸との回転数差が比較的大きい状態にある時間を短縮することができ、ロックアップクラッチのフェーシングの磨耗の進行を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両に好適な制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、エンジンを駆動させる燃料の節約と、エンジンの回転による騒音の低減と、燃料の燃焼により発生する排気ガスの低減とを目的として、エンジン及びモータジェネレータとを搭載したハイブリッド車両が提案されている。このハイブリッド車両においては、車両の走行状態に基づいて、エンジン又はモータジェネレータを制御して、車両を走行させるように構成されている。
【0003】
このようなハイブリッド車両の一例として、エンジンの出力軸に、モータジェネレータが設けられているとともに、トルクコンバータを介して変速機が接続された構成を有するハイブリッド車両がある。トルクコンバータは、オイルなどの流体継手を介してエンジンと変速機とを連結するため、トルクコンバータの入力軸と出力軸との間で回転数差が生じ、駆動力の伝達効率が悪化し得る。そこで、トルクコンバータには、入力軸と出力軸とを機械的に連結可能とするため、ロックアップクラッチといった摩擦係合要素が設けられている。
【0004】
例えば、以下の特許文献1には、ロックアップクラッチの減速スリップ制御を行う際に、ロックアップクラッチの締結力を一時的に高く設定して、エンジン回転数をすばやく低下させる技術が記載されている。特許文献2には、エンジン、モータジェネレータ、ロックアップクラッチを有したトルクコンバータ及び変速機構を備えたハイブリッド車両において、減速走行時にエネルギー回生を行う技術が記載されている。特許文献3には、エンジン、モータジェネレータ、トルクコンバータ、クラッチを有し、クラッチを解放してエンジン回転数とトルクコンバータのタービン回転数との差を減少させるようにモータジェネレータの動力をエンジンに付与する技術が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平2−163566号公報
【特許文献2】特開2006−153041号公報
【特許文献3】特開2006−153284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、ロックアップクラッチの締結力が低い状態でのスリップ制御時と比較して、エンジン回転数は素早く低下するようになるものの、ロックアップクラッチの締結力が高い分、クラッチフェーシングは磨耗してしまい、耐久性が低下してしまう。
【0007】
また、減速スリップ制御時には、エンジンの出力軸の回転数(トルクコンバータの入力軸の回転数)とトルクコンバータの出力軸の回転数との回転数差が0近傍になると、クラッチフェーシングがフロントカバーに噛み付きやすくなるという問題がある。この問題に対し、特許文献1に記載の技術では、ロックアップクラッチの締結力を低下させることにより解決を図っているものの、エンジンの出力軸の回転数(トルクコンバータの入力軸の回転数)とトルクコンバータの出力軸の回転数との回転数差が0近傍にある限りにおいては、クラッチフェーシングのフロントカバーへの噛み付きは依然として発生する状況にあり、十分に解決されているとはいえない。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、クラッチフェーシングの磨耗の進行を抑えるとともに、クラッチフェーシングのフロントカバーへの噛み付きを防ぐことの可能なハイブリッド車両の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの観点では、ロックアップクラッチを有するトルクコンバータと、前記トルクコンバータの入力軸に接続されたエンジン及びモータジェネレータと、を有するハイブリッド車両に適用されるハイブリッド車両の制御装置は、減速時において、前記ロックアップクラッチのスリップ制御を行うとともに、前記モータジェネレータの回生制動トルクにより前記トルクコンバータの入力軸の回転数を低下させる制御手段を備える。
【0010】
上記のハイブリッド車両の制御装置は、エンジンと、トルクコンバータと、モータジェネレータと、を有するハイブリッド車両に適用され、例えば、ECU(Electronic Control Unit)などの制御手段を有する。前記トルクコンバータは、その入力軸と出力軸とを直接締結することが可能なロックアップクラッチを有する。前記エンジン及び前記モータジェネレータは、前記トルクコンバータの入力軸に接続される。前記制御手段は、減速時において、前記ロックアップクラッチのスリップ制御を行うとともに、前記モータジェネレータの回生制動トルクにより前記トルクコンバータの入力軸の回転数を低下させる。このようにすることで、前記トルクコンバータにおける入力軸と出力軸との回転数差が比較的大きい状態にある時間を短縮することができ、前記ロックアップクラッチのフェーシングの磨耗の進行を抑えることができる。また、前記ロックアップクラッチはスリップ制御されているので、ロックアップクラッチの締結力を高めてエンジン回転数を低下させる特許文献1に記載の方法と比較しても、前記ロックアップクラッチのフェーシングの磨耗の進行を抑えることができる。
【0011】
上記のハイブリッド車両の制御装置の他の一態様は、前記制御手段は、前記トルクコンバータの入力軸の回転数と前記トルクコンバータの出力軸の回転数との回転数差が所定値以上となるまで、前記モータジェネレータの回生制動トルクにより前記トルクコンバータの入力軸の回転数を一定の割合で減少させる。このようにすることで、ロックアップクラッチのフェーシングがコンバータカバーに噛み付くことにより発生するショックを抑えることができる。
【0012】
上記のハイブリッド車両の制御装置の好適な実施例は、前記エンジンの出力軸と前記トルクコンバータの入力軸との間に接続された係合手段を備え、前記制御手段は、減速時において、前記ロックアップクラッチのスリップ制御を行うとともに、前記トルクコンバータの入力軸の回転数及び前記エンジンの回転数が前記トルクコンバータの出力軸の回転数よりも小さくなるまで、前記係合手段を解放又はスリップさせる。前記係合手段は、例えばクラッチである。これによっても、前記トルクコンバータにおける入力軸と出力軸との回転数差が比較的大きい状態にある時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0013】
ロックアップクラッチを有するトルクコンバータと、前記トルクコンバータの入力軸に接続されたエンジン及びモータジェネレータと、を有するハイブリッド車両に適用されるハイブリッド車両の制御装置であって、減速時において、前記ロックアップクラッチのスリップ制御を行うとともに、前記モータジェネレータの回生制動トルクにより前記トルクコンバータの入力軸の回転数を低下させる制御手段を備える。このようにすることで、前記トルクコンバータにおける入力軸と出力軸との回転数差が比較的大きい状態にある時間を短縮することができ、前記ロックアップクラッチのフェーシングの磨耗の進行を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0015】
[第1実施形態]
図1に第1実施形態に係るハイブリッド車両の概略構成を示す。図1に示すハイブリッド車両は、エンジン1、モータジェネレータMG、トルクコンバータ2、自動変速機構3、を備える。エンジン1及びモータジェネレータMGは、ハイブリッド車両の駆動源に相当し、直列に接続されている。トルクコンバータ2及び自動変速機構3は、これらの駆動源に接続されている。具体的には、エンジン1及びモータジェネレータMGは、トルクコンバータ2の入力軸に接続されている。トルクコンバータ2の出力軸は、自動変速機構3の入力軸と接続されている。自動変速機構3の出力軸5は、駆動輪(不図示)に接続されている。従って、エンジン1及びモータジェネレータMGからの駆動力が択一的に若しくは一緒にトルクコンバータ2及び自動変速機構3を介して変速されて駆動輪に伝達され、ハイブリッド車両が走行駆動される。
【0016】
また、走行中にアクセルペダル(不図示)の踏み込みが解放されて減速走行するときに、駆動輪からの駆動力が自動変速機構3及びトルクコンバータ2を介して駆動源に伝達されるが、このとき、エンジン1のフリクショントルクによる制動作用が生じるとともに、モータジェネレータMGが駆動することによる発電が行われる。モータジェネレータMGは、エンジン1及びトルクコンバータ2の入力軸と接続されているため、モータジェネレータMGが発電を行うことにより、エンジン1の出力軸1a及びトルクコンバータ2の入力軸には、モータジェネレータMGより回生制動トルクが作用する。従って、ECU10は、モータジェネレータMGを制御することにより、エンジン1の回転数を変化させることができる。
【0017】
エンジン1は燃料を燃焼して動力を発生する熱機関であり、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンなどが挙げられる。トルクコンバータ2は、オイルを介して動力を伝達する機能を有する流体式動力伝達装置の一種である。トルクコンバータ2は、ロックアップクラッチにより、トルクコンバータ2の入力軸と出力軸との間を締結及び解放することが可能に構成されている。ロックアップクラッチを解放した状態では、駆動源(エンジン1及びモータジェネレータMG)と自動変速機構3との間でオイルを介して駆動力の伝達が行われる。ロックアップクラッチを締結した状態では、駆動源と自動変速機構3とが直結されて、駆動源からの駆動力が直接、自動変速機構3に伝達される。なお、油圧制御装置4は、トルクコンバータ2に供給されるオイルの油圧を調整する機能を有する。
【0018】
ECU(Electronic Control Unit)10は、図示しないCPU、ROM、RAM、A/D変換器及び入出力インターフェイスなどを有し、各種センサからの検出信号に基づいて、エンジン1、モータジェネレータMG、油圧制御装置4、の制御を行う。図1において、一点鎖線で示す矢印がECU10より供給される制御信号の流れを示している。例えば、ECU10は、エンジン1、モータジェネレータMG、の夫々に設けられた図示しない回転数センサからの検出信号に基づいて、エンジン1、モータジェネレータMG、の夫々の回転数を検出する。ECU10は、これらの回転数に基づいて、モータジェネレータMG、油圧制御装置4の制御を行う。ECU10は、本発明のハイブリッド車両の制御装置に相当し、制御手段として機能する。
【0019】
トルクコンバータ2の構成について、図2を用いて詳細に説明する。図2は、トルクコンバータの構成を示す模式図である。図2において、符号のない実線矢印及び破線矢印は、オイルの流れを示している。
【0020】
トルクコンバータ2は、主に、ロックアップクラッチ21と、ポンプインペラ22と、タービンライナ23と、ステータ24と、より構成される。ロックアップクラッチ21は、フェーシング21bを備えたロックアップピストン21aと、コンバータカバー26と、より構成される。
【0021】
エンジン1及びモータジェネレータMGの出力軸1a、Maは、トルクコンバータ2の入力軸27と接続されている。従って、第1実施形態に係るハイブリッド車両の場合、トルクコンバータ2の入力軸27の回転数は、モータジェネレータMGの回転数(モータ回転数)及びエンジン1の回転数(エンジン回転数)と一致する。トルクコンバータ2の入力軸27は、コンバータカバー26を介して、ポンプインペラ22と接続されている。トルクコンバータ2の出力軸28は、ロックアップピストン21a及びタービンライナ23と接続されている。トルクコンバータ2の出力軸28の回転数は、タービン回転数と一致する。ステータ24は、ワンウェイクラッチ25を有し、トルク増幅機能を有する。
【0022】
解放側油室31及び締結側油室32は、油圧制御装置4と通路33を介して結ばれており、オイルは通路33を行き来している。油圧制御装置4は、ECU10からの制御信号に基づいて、オイルの油圧の供給先を、コンバータカバー26とロックアップピストン21aとの間の解放側油室31と、ポンプインペラ22側の締結側油室32と、の間で切り換えるとともに、オイルの油圧を調整する。なお、通路33は、実際には、トルクコンバータ2の出力軸28内部を通過しているが、図2では、説明の便宜上、出力軸28とは独立して記載している。
【0023】
油圧制御装置4が油圧を締結側油室32に供給した場合には、解放側油室31より油圧がドレインされる。従って、破線矢印に示すように、オイルは締結側油室32から解放側油室31へと向かう方向に流れる。この場合、締結側油室32の油圧の方が、解放側油室31の油圧よりも大きくなるため、矢印AW1に示す方向の力、即ち、ロックアップピストン21aをコンバータカバー26に押し付ける方向の力が作用する。つまり、ロックアップクラッチ21の締結力を強める力が作用する。この締結力は、締結側油室32に供給される油圧の大きさに比例する。
【0024】
また、油圧制御装置4が油圧を解放側油室31に供給した場合には、締結側油室32より油圧がドレインされる。従って、実線矢印に示すように、オイルは解放側油室31から締結側油室32へと向かう方向に流れる。この場合、解放側油室31の油圧の方が、締結側油室32の油圧よりも大きくなるため、矢印AW2に示す方向の力、即ち、ロックアップピストン21aをコンバータカバー26から引き離す方向の力が作用する。つまり、ロックアップクラッチ21の締結力を弱める力が作用する。
【0025】
従って、ECU10は、油圧制御装置4を制御して、解放側油室31又は締結側油室32に供給する油圧を調整することにより、ロックアップクラッチ21の締結力を調整することができる。具体的には、ECU10は、油圧制御装置4を制御して、解放側油室31又は締結側油室32に供給する油圧を調整することにより、解放側油室31の油圧と締結側油室32の油圧との間の大小関係を変化させることができ、ロックアップクラッチ21が締結した状態である締結状態、及び、ロックアップクラッチ21が解放された状態であるコンバータ状態、を実現することができる。
【0026】
ECU10は、ロックアップクラッチ21の締結状態とコンバータ状態との間の中間領域では、油圧制御装置4に制御信号を供給して、解放側油室31の油圧又は締結側油室32の油圧を調整することにより、ロックアップピストン21aのフェーシング21bとコンバータカバー26とを滑らせる状態(スリップ状態)にするスリップ制御を行う。例えば、アクセルペダルの踏み込みが解除された車両の減速時(パワーオフ時)に、ロックアップクラッチ21はスリップ状態に制御される(減速スリップ制御)。
【0027】
ここで、加速から減速への移行がコンバータ状態から行われる場合には、加速時にタービン回転数よりも高回転側にあったエンジン回転数が、減速スリップ制御時には、タービン回転数よりも低下する。その減速移行期においては、エンジン回転数とタービン回転数との差が比較的大きな状態から、所定のフィードバック制御値まで低下するまでの間、ロックアップクラッチ21はスリップ状態に制御される。そのため、ロックアップクラッチ21のフェーシング21bは、エンジン回転数とタービン回転数との回転数差の比較的大きな状態の下でスリップする時間が長くなり、即ち、トルクコンバータ2における入力軸27の回転数と出力軸28の回転数との回転数差の比較的大きい状態の下でスリップする時間が長くなり、磨耗が進行して耐久性が低下してしまう。
【0028】
また、この減速スリップ制御時には、エンジン回転数とタービン回転数とが反転するため、その移行途中においてはこの回転数差が0になる点を通過する。言い換えると、トルクコンバータ2における入力軸27と出力軸28との回転数差が0になる点を通過する。このように、トルクコンバータ2における入力軸27と出力軸28との回転数差が0になる近傍においては、フェーシング21bとオイルとの間の摩擦係数が急激に大きくなる。そのため、トルクコンバータ2における入力軸27と出力軸28との回転数差が0の近傍においては、ロックアップクラッチ21の締結力が小さな締結力であっても、フェーシング21bはコンバータカバー26に噛み付きやすくなる。フェーシング21bがコンバータカバー26に噛み付くと、突然、ロックアップクラッチ21が締結状態になるため、ショックが発生する。
【0029】
そこで、第1実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置では、ECU10は、減速時において、ロックアップクラッチ21のスリップ制御を行うとともに、モータジェネレータMGの回生制動トルクにより、エンジン回転数、即ち、トルクコンバータ2の入力軸27の回転数を低下させることとする。これにより、トルクコンバータ2における入力軸27と出力軸28との回転数差が比較的大きい状態にある時間を短縮することができる。また、ECU10は、エンジン回転数とタービン回転数との回転数差が所定値以上となるまで、即ち、トルクコンバータ2の入力軸27の回転数とトルクコンバータ21の出力軸28の回転数との回転数差が所定値以上となるまで、エンジン回転数、即ち、トルクコンバータ2の入力軸27の回転数を一定の割合で減少させることとする。これにより、フェーシング21bがコンバータカバー26に噛み付くことにより発生するショックを抑えることができる。以下に図3を用いて具体的に述べる。
【0030】
図3(a)から(c)は、回転数(エンジン回転数及びタービン回転数)、ロックアップ締結力(ロックアップクラッチ21の締結力)、MGトルク(モータジェネレータMGの回生制動トルク)の夫々について、時間に対する変化を示すグラフである。
【0031】
図3(a)、(b)に示すように、加速運転領域においてはコンバータ状態であるため、エンジン回転数とタービン回転数との間には比較的大きな回転数差がある。この状態でアクセルペダルが戻されるとスロットルバルブが全閉となり減速運転が開始される。図3では、減速運転開始時を時刻t1として示している。この減速開始とともに減速スリップ制御(フィードバック制御)が開始されると、エンジン回転数の低下が緩慢であるため、エンジン回転数とタービン回転数との回転差が比較的大きな状態が長く続く。そのため、先に述べたように、ロックアップクラッチ21のフェーシング21bは、トルクコンバータにおける入力軸27と出力軸28との回転数差の大きい状態の下でスリップする時間が長くなり、磨耗が進行して耐久性が低下してしまう。
【0032】
これに対し、第1実施形態では、ECU10は、減速開始後、時刻t1からt4の間、図3(b)に示すように、一時的にロックアップクラッチ21を、フードバック制御時のスリップ状態における締結力よりも低い締結力のスリップ状態、又は、コンバータ状態にするとともに、図3(c)に示すように、モータジェネレータMGを制御して、エンジン1の出力軸1aに対して回生制動トルクをかけることにより、エンジン回転数を低下させる。エンジン回転数は、トルクコンバータ2の入力軸27の回転数と一致するので、このエンジン回転数を低下させる制御は、トルクコンバータ2の入力軸27の回転数を低下させる制御でもある。
【0033】
この制御(以下では、「エンジン回転数減少制御」と称す)は、図3(a)に示すように、エンジン回転数がタービン回転数よりも大きな状態から、エンジン回転数が減少して、エンジン回転数とタービン回転数とが反転するまで実行される。このように、モータジェネレータMGの回生制動トルクによりエンジン回転数を強制的に低下させることにより、エンジン回転数とタービン回転数との間の回転数差が大きい状態となっている時間、即ち、トルクコンバータ2における入力軸27と出力軸28との回転数差が大きい状態となっている時間を短縮することができ、ロックアップクラッチ21のフェーシング21bの磨耗の進行を抑えることができる。
【0034】
また、上述のエンジン回転数減少制御が行われると、エンジン回転数とタービン回転数とが反転するため、その移行途中においてはこの回転数差が0になる点Spを通過する。先に述べたように、この回転数差が0になる点Spの近傍においては、フェーシング21bとオイルとの間の摩擦係数が急激に大きくなる。そのため、回転数差が0の近傍においては、ロックアップクラッチ21の締結力が小さな締結力であっても、フェーシング21bはコンバータカバー26に噛み付きやすくなり、ショックが発生しやすくなる。
【0035】
これに対し、第1実施形態では、ECU10は、エンジン回転数がタービン回転数よりも大きな状態において、エンジン回転数とタービン回転数との回転数差が所定値よりも小さくなった時(図3でいうと時刻t2)には、モータジェネレータMGを制御して、エンジン1の出力軸1a、即ち、トルクコンバータ2の入力軸27に対して作用する回生制動トルクを変化させることで、エンジン回転数、即ち、トルクコンバータ2の入力軸27の回転数を一定の割合で減少させる。
【0036】
具体的には、ECU10は、図3(c)に示すように、モータジェネレータMGを制御して、エンジン1の出力軸1a及びトルクコンバータ2の入力軸27に対して作用する回生制動トルクを減少させる。この回生制動トルクの減少分の大きさは、フェーシング21bがコンバータカバー26に噛み付くことによりトルクコンバータ2の入力軸27に発生するトルクの大きさである。
【0037】
つまり、ECU10は、エンジン回転数とタービン回転数との回転数差が所定値よりも小さくなった時には、フェーシング21bがコンバータカバー26に噛み付いたときにトルクコンバータ2の入力軸に発生するトルクの大きさの分だけ、予め、回生制動トルクを減少させることとする。このようにすることで、フェーシング21bがコンバータカバー26に噛み付いた場合であっても、エンジン回転数、即ち、トルクコンバータ2の入力軸27の回転数を一定の割合で減少させることができ、フェーシング21bがコンバータカバー26に噛み付くことにより発生するショックを抑えることができる。この制御は、エンジン回転数とタービン回転数とが反転した後、タービン回転数とエンジン回転数との回転数差が所定値以上となるまで実行される。なお、所定値は、エンジン回転数とタービン回転数との回転数差(トルクコンバータ2における入力軸27と出力軸28との回転数差)がこの値よりも小さくなると、フェーシング21bのコンバータカバー26への噛み付きが発生するような値である。言い換えると、フェーシング21bとオイルとの間の摩擦係数が急激に上昇するような値である。所定値は、予め実験などにより求められ、ROMなどに記録されている。
【0038】
なお、所定値は、フェーシング21bやオイルの経年劣化により変化する。そのため、ECU10は、上述の制御に加えて、エンジン回転数の変化などに基づいて、所定値を変化させることとしてもよい。例えば、ECU10は、エンジン回転数とタービン回転数との回転数差が所定値よりも小さくなる前に、エンジン回転数の変化などに基づいて、フェーシング21bがコンバータカバー26に噛み付いたと判定した場合には、そのときの回転数差を、新たな所定値として設定するとしてもよい。
【0039】
ECU10は、タービン回転数とエンジン回転数との回転数差が所定値以上となった時(図3でいうと時刻t3)には、モータジェネレータMGを制御して、タービン回転数とエンジン回転数との回転数差が一定値になるように、回生制動トルクを調整した後、エンジン回転数減少制御時よりもロックアップクラッチ21の締結力を大きくして、減速スリップ制御を行う(図3でいうと時刻t4)。
【0040】
以上に述べた第1実施形態によれば、減速時において、ロックアップクラッチ21のスリップ制御を行うとともに、モータジェネレータMGの回生制動トルクによりエンジン回転数、即ち、トルクコンバータ2の入力軸27の回転数を低下させることとする。このようにすることで、エンジン回転数とタービン回転数との間の回転数差が比較的大きい状態にある時間を短縮することができる。言い換えると、トルクコンバータ2における入力軸27と出力軸28との回転数差が比較的大きい状態にある時間を短縮することができる。これにより、ロックアップクラッチ21のフェーシング21bの磨耗の進行を抑えることができる。また、エンジン回転数減少制御が行われている間、ロックアップクラッチ21は、締結力が比較的小さいスリップ状態、又は、コンバータ状態にされているので、ロックアップクラッチ21の締結力を高めてエンジン回転数を低下させる方法(特許文献1参照)と比較しても、ロックアップクラッチ21のフェーシング21bの磨耗の進行を抑えることができる。
【0041】
さらに、第1実施形態によれば、エンジン回転数減少制御時において、エンジン回転数とタービン回転数との回転数差、即ち、トルクコンバータ2における入力軸27と出力軸28との回転数差が所定値以上となるまで、エンジン回転数、即ち、トルクコンバータの入力軸27の回転数を一定の割合で減少させることとする。これにより、フェーシング21bがコンバータカバー26に噛み付くことにより発生するショックを抑えることができる。
【0042】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図4に、第2実施形態に係るハイブリッド車両の概略構成を示す。図4に示す第2実施形態に係るハイブリッド車両の構成要素について、図1に示した第1実施形態に係るハイブリッド車両の構成要素と同じ構成要素には、図1と同じ符号を付加している。また、一点鎖線で示す矢印は、ECU10からの制御信号の流れを示している。また、図4に示すトルクコンバータ2の構成は、図2に示したのと同様の構成を有する。従って、トルクコンバータ2の構成要素についても、図2で用いた符号を用いるものとする。
【0043】
第2実施形態に係るハイブリッド車両では、第1実施形態に係るハイブリッド車両と異なり、エンジン1の出力軸1aとトルクコンバータ2の入力軸27との間にクラッチ6が設けられている。エンジン1とトルクコンバータ2との間のトルクの伝達及び遮断は、クラッチ6を締結及び解放することにより行われる。モータジェネレータMGの出力軸Maは、トルクコンバータ2の入力軸27と接続されている。従って、クラッチ6を解放した状態では、モータジェネレータMGの出力軸Maは、エンジン1の出力軸1aには接続されずに、トルクコンバータ2の入力軸27にのみ接続されることとなる。そのため、モータジェネレータMGの回生制動トルクは、トルクコンバータ2の入力軸27に対してのみ作用するとともに、トルクコンバータ2の入力軸27の回転数は、モータジェネレータMGのモータ回転数と一致する。なお、クラッチ6の締結及び解放は、ECU10からの制御信号によって制御される。
【0044】
第2実施形態に係るハイブリッド車両では、ECU10は、減速時において、ロックアップクラッチ21のスリップ制御を行うとともに、トルクコンバータ2の入力軸27の回転数及びエンジン回転数が、タービン回転数、即ち、トルクコンバータ2の出力軸28の回転数よりも小さくなるまで、クラッチ6を解放又はスリップさせることとする。以下に図5を用いて具体的に述べる。
【0045】
図5(a)から(c)は、回転数(エンジン回転数、モータ回転数、タービン回転数)、ロックアップ締結力(ロックアップクラッチ21の締結力)、クラッチ6の状態の夫々について、時間に対する変化を示すグラフである。
【0046】
第2実施形態では、ECU10は、減速開始後、時刻ta1からta2の間、図5(b)に示すように、一時的にロックアップクラッチ21を、フードバック制御時のスリップ状態よりも締結力のより低いスリップ状態、又は、コンバータ状態にするとともに、図5(c)に示すように、クラッチ6を係合状態から解放又はスリップ状態にする。ECU10は、減速運転開始時刻ta1で、クラッチ6を解放又はスリップ状態とすることにより、エンジン回転数とモータ回転数とは夫々異なった回転数で変化させることが可能となる。ECU10は、時刻ta1からta2の間、モータ回転数、及び、エンジン回転数を夫々低下させる(図5(a))。具体的には、ECU10は、クラッチ6を解放又はスリップ状態にして、エンジン回転数をエンジン1自身のフリクションにより速やかに低下させる。また、ECU10は、モータジェネレータMGを制御して、モータ回転数を低下させる。モータ回転数は、トルクコンバータ2の入力軸27の回転数と一致するので、モータ回転数を低下させる制御は、トルクコンバータ2の入力軸27の回転数を低下させる制御でもある。
【0047】
上述の制御は、エンジン回転数及びモータ回転数(トルクコンバータ2の入力軸27の回転数)がタービン回転数(トルクコンバータ2の出力軸28の回転数)よりも大きな状態から、エンジン回転数及びモータ回転数が減少して、エンジン回転数及びモータ回転数とタービン回転数とが反転するまで実行される。このようにしても、トルクコンバータ2における入力軸27と出力軸28との回転数差が比較的大きい状態にある時間を短縮することができ、ロックアップクラッチ21のフェーシング21bの磨耗の進行を抑えることができる。
【0048】
また、モータ回転数がタービン回転数よりも大きな状態において、モータ回転数とタービン回転数との回転数差が所定値よりも小さくなった時には、モータ回転数がトルクコンバータ2の入力軸27の回転数と一致しているため、トルクコンバータ2における入力軸27と出力軸28との回転数差も所定値よりも小さくなる。従って、この場合にも、フェーシング21bがコンバータカバー26に噛み付くおそれがある。
【0049】
そこで、第2実施形態では、ECU10は、モータ回転数とタービン回転数との回転数差が所定値よりも小さくなった時には、モータジェネレータMGを制御して、トルクコンバータ2の入力軸27に対して作用する回生制動トルクを変化させることで、モータ回転数、即ち、トルクコンバータ2の入力軸27の回転数を一定の割合で減少させる。これにより、フェーシング21bがコンバータカバー26に噛み付くことにより発生するショックを抑えることができる。この制御は、モータ回転数とタービン回転数とが反転した後、モータ回転数とタービン回転数との回転数差が所定値以上となるまで実行される。この所定値も、モータ回転数とタービン回転数との回転数差(トルクコンバータ2における入力軸27と出力軸28との回転数差)がこの値よりも小さくなると、フェーシング21bのコンバータカバー26への噛み付きが発生するような値である。所定値は、予め実験などにより求められ、ROMなどに記録されている。
【0050】
ECU10は、モータジェネレータMGを制御して、モータ回転数とタービン回転数との回転数差が所定値以上となり、かつ、モータ回転数がエンジン回転数に一致した時(図3でいうと時刻ta2)に、クラッチ6を制御して、クラッチ6を係合状態にする。そして、ECU10は、タービン回転数とエンジン回転数との回転数差が一定値になるように、回生制動トルクを調整した後、ロックアップクラッチ21の締結力を大きくして、減速スリップ制御を行う。
【0051】
以上に述べた第2実施形態によれば、減速時において、ロックアップクラッチ21のスリップ制御を行うとともに、モータ回転数(トルクコンバータ2の入力軸27の回転数)及びエンジン回転数が、タービン回転数(トルクコンバータ2の出力軸28の回転数)よりも小さくなるまで、クラッチ6を解放又はスリップさせることとする。これによっても、トルクコンバータ2における入力軸27と出力軸28との回転数差が比較的大きい状態にある時間を短縮することができ、ロックアップクラッチ21のフェーシング21bの磨耗の進行を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】第1実施形態に係るハイブリッド車両の概略構成を示す図である。
【図2】トルクコンバータの構成を示す模式図である。
【図3】回転数、ロックアップ締結力、回生制動トルクの夫々についての時間に対する変化を示すグラフである。
【図4】第2実施形態に係るハイブリッド車両の概略構成を示す図である。
【図5】回転数、ロックアップ締結力、クラッチの状態の夫々についての時間に対する変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
MG モータジェネレータ
1 エンジン
2 トルクコンバータ
3 自動変速機構
4 油圧制御装置
5 出力軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロックアップクラッチを有するトルクコンバータと、前記トルクコンバータの入力軸に接続されたエンジン及びモータジェネレータと、を有するハイブリッド車両に適用されるハイブリッド車両の制御装置であって、
減速時において、前記ロックアップクラッチのスリップ制御を行うとともに、前記モータジェネレータの回生制動トルクにより前記トルクコンバータの入力軸の回転数を低下させる制御手段を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記トルクコンバータの入力軸の回転数と前記トルクコンバータの出力軸の回転数との回転数差が所定値以上となるまで、前記モータジェネレータの回生制動トルクにより前記トルクコンバータの入力軸の回転数を一定の割合で減少させる請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記エンジンの出力軸と前記トルクコンバータの入力軸との間に接続された係合手段を備え、
前記制御手段は、減速時において、前記ロックアップクラッチのスリップ制御を行うとともに、前記トルクコンバータの入力軸の回転数及び前記エンジンの回転数が前記トルクコンバータの出力軸の回転数よりも小さくなるまで、前記係合手段を解放又はスリップさせる請求項1又は2に記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−184396(P2009−184396A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23506(P2008−23506)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】