説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】変速機内部に溜まった余分の作動油による引き摺りフリクショントルクを低減することで、燃費の向上を図ること。
【解決手段】FRハイブリッド車両の制御装置は、エンジンEngと、モータ/ジェネレータMGと、第1クラッチCL1と、自動変速機ATと、ライン圧指示値生成ブロック30と、ライン圧ソレノイド23と、を備える。ライン圧指示値生成ブロック30は、少なくとも第1クラッチCL1の締結による「HEVモード」と、第1クラッチCL1の開放による「EVモード」と、を有し、これらのシステムモードの動作毎に設定された最低必要ライン圧に基づいてライン圧指示値を生成する。ライン圧ソレノイド23は、第1クラッチCL1や自動変速機ATの基本油圧であるライン圧PLを、ライン圧指示値に応じて制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド駆動系の油圧システムを動作させるための基本油圧であるライン圧を制御するハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイブリッド車両の制御装置としては、油圧制御回路により駆動装置へ循環供給される作動油の潤滑圧が、エンジンの作動時における発進クラッチの係合率に基づいて潤滑圧制御手段により制御されるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この従来装置によれば、発進クラッチの係合率に応じて駆動状態が変化する第1モータジェネレータおよび/または第2モータジェネレータの冷却に必要な流量が適切に得られる。これにより、第1モータジェネレータおよび/または第2モータジェネレータの耐久性が向上する。また、一律に潤滑圧を高くして常時流量を増加させないため燃費の悪化が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−183687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のハイブリッド車両の制御装置にあっては、エンジン作動時における発進クラッチの係合率に基づいて潤滑圧を制御する。このため、ハイブリッド車両に特有のEVモードやHEVモード等々の細かいシステム動作モードごとの最適潤滑油量を設定することができず、変速機内部に溜まった余分の作動油による引き摺りフリクショントルクが増して、燃費が悪化してしまう、という問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、変速機内部に溜まった余分の作動油による引き摺りフリクショントルクを低減することで、燃費の向上を図ることができるハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のハイブリッド車両の制御装置では、エンジンと、モータと、油圧クラッチと、変速機と、ライン圧指示値生成手段と、ライン圧制御手段と、を備える手段とした。
前記油圧クラッチは、前記エンジンと前記モータの間に設けられ、締結と開放を行う。
前記変速機は、前記モータと前記駆動輪との間に設けられ、油圧により変速段あるいは変速比を変更する変速制御を行う。
前記ライン圧指示値生成手段は、少なくとも前記油圧クラッチの締結によるハイブリッド車モードと、前記油圧クラッチの開放による電気自動車モードと、を有し、これらのシステムモードの動作毎に設定された最低必要ライン圧に基づいてライン圧指示値を生成する。
前記ライン圧制御手段は、前記油圧クラッチや前記変速機の基本油圧であるライン圧を、前記ライン圧指示値に応じて制御する。
【発明の効果】
【0008】
したがって、ハイブリッド車モードが選択されているときは、ライン圧指示値生成手段において、ハイブリッド車モードの動作により設定された最低必要ライン圧に基づいてライン圧指示値が生成される。また、電気自動車モードが選択されているときは、ライン圧指示値生成手段において、電気自動車モードの動作により設定された最低必要ライン圧に基づいてライン圧指示値が生成される。そして、ライン圧制御手段において、油圧クラッチや変速機の基本油圧であるライン圧が、ライン圧指示値に応じて制御される。
このように、システムモードの動作毎に設定された最低必要ライン圧に基づいてライン圧指示値を生成するようにしている。このため、システムモードの異なる動作にかかわらず必要最大圧のライン圧とする制御を行う場合に比べ、システムモードのそれぞれの動作に対するライン圧最適化が図られることで、変速機内部の潤滑油量が減る。
したがって、変速機内部に溜まった余分の作動油による引き摺りフリクショントルクが低減される。この結果、燃費の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1の制御装置が適用された後輪駆動によるFRハイブリッド車両(ハイブリッド車両の一例)を示す全体システム図である。
【図2】実施例1のATコントローラ7に設定されている自動変速機ATのシフトマップの一例を示す図である。
【図3】実施例1の統合コントローラ10のモード選択部に設定されているEV-HEV選択マップの一例を示す図である。
【図4】実施例1のATコントローラ7におけるライン圧指示値を生成する構成を示すライン圧指示値生成ブロック図である。
【図5】実施例1のATコントローラ7におけるライン圧指示値生成のうちシステムモード最低必要ライン圧の生成処理を示すフローチャートである。
【図6】実施例2のATコントローラ7におけるライン圧指示値生成のうちシステムモード最低必要ライン圧の生成構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1および実施例2に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の制御装置が適用された後輪駆動によるFRハイブリッド車両を示す全体システム図である。
【0012】
実施例1におけるFRハイブリッド車両の駆動系は、図1に示すように、エンジンEngと、フライホイールFWと、第1クラッチCL1(油圧クラッチ)と、モータ/ジェネレータMG(モータ)と、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、変速機入力軸INと、メカオイルポンプM-O/Pと、サブオイルポンプS-O/Pと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、を有する。なお、FLは左前輪、FRは右前輪である。
【0013】
前記エンジンEngは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンであり、エンジンコントローラ1からのエンジン制御指令に基づいて、エンジン始動制御やエンジン停止制御やスロットルバルブのバルブ開度制御やフューエルカット制御等が行われる。なお、エンジン出力軸には、フライホイールFWが設けられている。
【0014】
前記第1クラッチCL1は、前記エンジンEngとモータ/ジェネレータMGの間に介装されたクラッチであり、第1クラッチコントローラ5からの第1クラッチ制御指令に基づき第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された第1クラッチ制御油圧により、締結・半締結状態・開放が制御される。この第1クラッチCL1としては、例えば、ダイアフラムスプリングによる付勢力にて完全締結を保ち、ピストン14aを有する油圧アクチュエータ14を用いたストローク制御により、完全締結〜スリップ締結〜完全開放までが制御されるノーマルクローズの乾式単板クラッチが用いられる。
【0015】
前記モータ/ジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータ/ジェネレータであり、モータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータ/ジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(力行)、ロータがエンジンEngや駆動輪から回転エネルギーを受ける場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能し、バッテリ4を充電することもできる(回生)。なお、このモータ/ジェネレータMGのロータは、自動変速機ATの変速機入力軸INに連結されている。
【0016】
前記第2クラッチCL2は、前記モータ/ジェネレータMGと左右後輪RL,RRの間に介装されたクラッチであり、ATコントローラ7からの第2クラッチ制御指令に基づき第2クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、締結・スリップ締結・開放が制御される。この第2クラッチCL2としては、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できるノーマルオープンの湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキが用いられる。なお、第1クラッチ油圧ユニット6と第2クラッチ油圧ユニット8は、自動変速機ATに付設される油圧コントロールバルブユニットCVUに内蔵している。
【0017】
前記自動変速機ATは、有段階の変速段を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り替える有段変速機であり、実施例1では前進7速/後退1速の変速段を持つ有段変速機としている。そして、実施例1では、前記第2クラッチCL2として、自動変速機ATとは独立の専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数のクラッチ要素のうち、所定の条件に適合するクラッチ要素(多板クラッチや多板ブレーキ)を選択している。
【0018】
前記自動変速機ATの変速機入力軸IN(=モータ軸)には、変速機入力軸INにより駆動されるメカオイルポンプM-O/Pが設けられている。そして、車両停止時等でメカオイルポンプM-O/Pからの吐出圧が不足するとき、油圧低下を抑えるために電動モータにより駆動されるサブオイルポンプS-O/Pが、モータハウジング等に設けられている。なお、サブオイルポンプS-O/Pの駆動制御は、後述するATコントローラ7により行われる。
【0019】
前記自動変速機ATの変速機出力軸には、プロペラシャフトPSが連結されている。そして、このプロペラシャフトPSは、ディファレンシャルDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。
【0020】
このFRハイブリッド車両は、駆動形態の違いによる走行モードとして、電気自動車モード(以下、「EVモード」という。)と、ハイブリッド車モード(以下、「HEVモード」という。)と、駆動トルクコントロールモード(以下、「WSCモード」という。)と、を有する。
【0021】
前記「EVモード」は、第1クラッチCL1を開放状態とし、モータ/ジェネレータMGの駆動力のみで走行するモードであり、モータ走行モード・回生走行モードを有する。この「EVモード」は、基本的に、要求駆動力が低く、バッテリSOCが確保されているときに選択される。
【0022】
前記「HEVモード」は、第1クラッチCL1を締結状態として走行するモードであり、モータアシスト走行モード・発電走行モード・エンジン走行モードを有し、何れかのモードにより走行する。この「HEVモード」は、基本的に、要求駆動力が高いとき、あるいは、バッテリSOCが不足するようなときに選択される。
【0023】
前記「WSCモード」は、モータ/ジェネレータMGの回転数制御により、第2クラッチCL2をスリップ締結状態に維持し、第2クラッチCL2を経過するクラッチ伝達トルクが、車両状態や運転者のアクセル操作に応じて決まる要求駆動トルクとなるようにクラッチトルク容量をコントロールしながら走行するモードである。この「WSCモード」は、「HEVモード」の選択状態での停車時・発進時・減速時等のように、エンジン回転数がアイドル回転数を下回るような走行領域において選択される。
【0024】
次に、FRハイブリッド車両の制御系を説明する。
実施例1におけるFRハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、ATコントローラ7(変速機コントローラ)と、第2クラッチ油圧ユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。なお、各コントローラ1,2,5,7,9と、統合コントローラ10とは、情報交換が互いに可能なCAN通信線11(通信線)を介して接続されている。
【0025】
前記エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報と、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令と、他の必要情報を入力する。そして、エンジン動作点(Ne,Te)を制御する指令を、エンジンEngのスロットルバルブアクチュエータ等へ出力する。
【0026】
前記モータコントローラ2は、モータ/ジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報と、統合コントローラ10からの目標MGトルク指令および目標MG回転数指令と、他の必要情報を入力する。そして、モータ/ジェネレータMGのモータ動作点(Nm,Tm)を制御する指令をインバータ3へ出力する。なお、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電容量をあらわすバッテリSOCを監視していて、このバッテリSOC情報を、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0027】
前記第1クラッチコントローラ5は、油圧アクチュエータ14のピストン14aのストローク位置を検出する第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報と、統合コントローラ10からの目標CL1トルク指令と、他の必要情報を入力する。そして、第1クラッチCL1の締結・半締結・開放を制御する指令を油圧コントロールバルブユニットCVU内の第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。
【0028】
前記ATコントローラ7は、アクセル開度センサ16と、車速センサ17と、他のセンサ類18等からの情報を入力する。そして、Dレンジを選択しての走行時、アクセル開度APOと車速VSPにより決まる運転点が、図2に示すシフトマップ上で存在する位置により最適な変速段を検索し、検索された変速段を得る制御指令を油圧コントロールバルブユニットCVUに出力する。前記シフトマップとは、図2に示すように、アクセル開度APOと車速VSPに応じてアップ変速線とダウン変速線を書き込んだマップをいう。
この変速制御に加えて、統合コントローラ10から目標CL2トルク指令を入力した場合、第2クラッチCL2のスリップ締結を制御する指令を油圧コントロールバルブユニットCVU内の第2クラッチ油圧ユニット8に出力する第2クラッチ制御を行う。
【0029】
前記ATコントローラ7は、ハイブリッド駆動系の油圧システム(第1クラッチCL1、第2クラッチCL2を含む自動変速機AT)を動作させるための基本油圧であるライン圧PLを、ライン圧ソレノイド23(ライン圧制御手段)によって制御する。このライン圧制御は、ATコントローラ7からライン圧ソレノイド23へのライン圧指示値に応じて図外のプレッシャレギュレータバルブへのソレノイド圧を作り出す。そして、プレッシャレギュレータバルブでは、ポンプ圧を元圧とし、ソレノイド圧を作動信号圧として、ソレノイド圧に応じたライン圧PLに制御する。
【0030】
前記ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19と、ブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報と、統合コントローラ10からの回生協調制御指令と、他の必要情報を入力する。そして、例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められる要求制動力に対し回生制動力だけでは不足する場合、その不足分を機械制動力(液圧制動力やモータ制動力)で補うように、回生協調ブレーキ制御を行う。
【0031】
前記統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギーを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21や他のセンサ・スイッチ類22からの必要情報およびCAN通信線11を介して情報を入力する。そして、エンジンコントローラ1へ目標エンジントルク指令、モータコントローラ2へ目標MGトルク指令および目標MG回転数指令、第1クラッチコントローラ5へ目標CL1トルク指令、ATコントローラ7へ目標CL2トルク指令、ブレーキコントローラ9へ回生協調制御指令を出力する。
【0032】
この統合コントローラ10には、アクセル開度APOと車速VSPにより決まる運転点が、図3に示すEV-HEV選択マップ上で存在する位置により最適な走行モードを検索し、検索した走行モードを目標走行モードとして選択するモード選択部を有する。このEV-HEV選択マップには、EV領域に存在する運転点(APO,VSP)が横切ると「EVモード」から「HEVモード」へと切り替えるEV⇒HEV切替線と、HEV領域に存在する運転点(APO,VSP)が横切ると「HEVモード」から「EVモード」へと切り替えるHEV⇒EV切替線と、「HEVモード」の選択時に運転点(APO,VSP)がWSC領域に入ると「WSCモード」へと切り替えるHEV⇒WSC切替線と、が設定されている。前記HEV⇒EV切替線と前記HEV⇒EV切替線は、EV領域とHEV領域を分ける線としてヒステリシス量を持たせて設定されている。前記HEV⇒WSC切替線は、自動変速機ATが1速段のときに、エンジンEngがアイドル回転数を維持する第1設定車速VSP1に沿って設定されている。但し、「EVモード」の選択中、バッテリSOCが所定値以下になると、強制的に「HEVモード」を目標走行モードとする。
【0033】
図4は、実施例1のATコントローラ7におけるライン圧指示値を生成する構成を示すライン圧指示値生成ブロック図である。図5は、実施例1のATコントローラ7におけるライン圧指示値生成のうちシステムモード最低必要ライン圧の生成処理を示すフローチャートである。以下、図4および図5に基づき要部構成を説明する。
【0034】
実施例1のライン圧指示値生成ブロック30(ライン圧指示値生成手段)は、図4に示すように、クラッチ保持最低ライン圧生成部31と、第1クラッチ開放最低ライン圧部32と、システムモード最低必要ライン圧生成部33と、ライン圧選択部34と、を備えている。
【0035】
前記クラッチ保持最低ライン圧生成部31は、図4に示すように、自動変速機ATへのT/M入力トルクとT/M入力回転数と変速段の制御信号を入力する。そして、入力されるトルクや回転数により、各変速段において締結されるクラッチ要素が滑りなく締結状態が保持されるクラッチ保持最低ライン圧を生成し、ライン圧選択部34に出力する。
【0036】
前記第1クラッチ開放最低ライン圧部32は、図4に示すように、第1クラッチCL1のCL1開放圧指令値の制御信号を入力する。そして、CL1開放圧指令値に対応するCL1開放最低ライン圧を生成し、ライン圧選択部34に出力する。
【0037】
前記システムモード最低必要ライン圧生成部33は、図4に示すように、CAN通信線11を介し、CL1開放圧指令値、T/M入力トルク、T/M入力回転数、変速段等のおよそ15程度の制御信号を入力する。そして、これらハイブリッド駆動系に有するシステム構成要素への複数の制御信号を組み合わせて現在のシステムモードの状態を判定する。判定されるシステムモード状態としては、「EVモード」、「HEVモード」、「WSCモード」、「P_N_Idleモード」、「M-WSCモード」、「EV→始動モード」等がある。そして、これらのシステムモードの動作毎にシステムモード最低必要ライン圧を生成し、ライン圧選択部34に出力する。
【0038】
前記ライン圧選択部34は、図4に示すように、クラッチ保持最低ライン圧生成部31からの「クラッチ保持最低ライン圧」と、第1クラッチ開放最低ライン圧部32からの「CL1開放最低ライン圧」と、システムモード最低必要ライン圧生成部33からの「システムモード最低必要ライン圧」を入力する。そして、これらのライン圧のうち、セレクトハイにより最大ライン圧を選択し、最大ライン圧を得る指示値をライン圧指示値として生成し、ライン圧ソレノイド23に出力する。
【0039】
前記システムモード最低必要ライン圧生成部33におけるシステムモード最低必要ライン圧の生成処理を、図5のフローチャートに基づいて説明する。
【0040】
ステップS1では、既存のCAN通信線11から、必要信号(CL1開放圧指令値、T/M入力トルク、T/M入力回転数、変速段等)を取り込み、ステップS2へ進む。
【0041】
ステップS2では、ステップS1での必要信号の取り込みに続き、必要信号から現在のシステムモードの状態を判定し、ステップS3へ進む(システムモード判定部)。
【0042】
ステップS3では、ステップS2でのシステムモードの判定に続き、判定したシステムモードの動作毎にシステムモード最低必要ライン圧を生成し、ライン圧選択部34に出力し、エンドへ進む。
【0043】
次に、作用を説明する。
実施例1のFRハイブリッド車両の制御装置における作用を、「システムモード対応のライン圧制御作用」、「セレクトハイによるライン圧制御作用」、「システムモードの状態判定作用」に分けて説明する。
【0044】
[システムモード対応のライン圧制御作用]
通常、コンベンショナルなエンジン車両では、エンジンが常時作動状態であり、また、自動変速機に入力されるトルクや、制御油圧から決まる自動変速機の基本油圧であるライン圧は、入力トルクで一意的に決まる。
【0045】
しかし、ハイブリッド車両は、エンジンEngを停止した状態を作り出すために、第1クラッチCL1を切り離す必要が有り、その状態で「EVモード」により走行したり、停止したり、発進したり、回生したりする。また、エンジンEngを作動状態でも同じく、「HEVモード」により走行したり、停止したりする。また、第2クラッチCL2をスリップさせて「WSCモード」により発進したりする。このようなシステムモードの動作パターンがいくつもある中では、本当に必要となるライン圧PLもいくつかに分かれる。
【0046】
これに対し、「HEVモード」が選択されているときは、システムモード最低必要ライン圧生成部33において、「HEVモード」の動作により設定された最低必要ライン圧に基づいてシステムモード最低必要ライン圧が決められる。そして、システムモード最低必要ライン圧が最大圧のときには、ライン圧選択部34において、システムモード最低必要ライン圧を得るライン圧指示値が生成される。
【0047】
また、「EVモード」が選択されているときは、システムモード最低必要ライン圧生成部33において、「EVモード」の動作により設定された最低必要ライン圧に基づいてシステムモード最低必要ライン圧が決められる。そして、システムモード最低必要ライン圧が最大圧のときには、ライン圧選択部34において、システムモード最低必要ライン圧を得るライン圧指示値が生成される。
【0048】
そして、ATコントローラ7からライン圧指示値をライン圧ソレノイド23が入力すると、自動変速機ATや第1クラッチCL1や第2クラッチCL2の基本油圧であるライン圧PLが、ライン圧指示値に応じて制御される。
【0049】
このように、実施例1では、システムモードの動作毎に設定された最低必要ライン圧に基づいてライン圧指示値を生成するようにしている。
このため、システムモードの異なる動作にかかわらず必要最大圧のライン圧とする制御を行う場合に比べ、システムモードのそれぞれの動作に対するライン圧最適化が図られることで、自動変速機AT内部の潤滑油量が減る。
したがって、自動変速機ATの内部に溜まった余分の作動油によるクラッチ要素の引き摺りフリクショントルクが低減される。この結果、燃費の向上を図ることができる。
【0050】
[セレクトハイによるライン圧制御作用]
実施例1のハイブリッド駆動系において、ライン圧PLを決める要因は、
・入力トルク
・CL1開放必要圧
・システムモードに応じた最低PL圧
というように3つあり、これらの3つの要因のセレクトハイによる高い圧力値をライン圧PLとする構成を採用している(図4)。
【0051】
すなわち、クラッチ保持最低ライン圧生成部31は、T/M入力トルクとT/M入力回転数と変速段の制御信号を入力し、各変速段において締結されるクラッチ要素が滑りなく締結状態が保持されるクラッチ保持最低ライン圧を生成する。第1クラッチ開放最低ライン圧部32は、CL1開放圧指令値の制御信号を入力し、CL1開放圧指令値に対応するCL1開放最低ライン圧を生成する。システムモード最低必要ライン圧生成部33は、必要信号を取り込み、必要信号からシステムモードを判定し、判定したシステムモードの最低必要ライン圧を生成する。そして、ライン圧選択部34において、入力される「クラッチ保持最低ライン圧」と「CL1開放最低ライン圧」と「システムモード最低必要ライン圧」のうち、セレクトハイにより最大ライン圧を選択し、最大ライン圧を得る指示値をライン圧指示値として生成する。
【0052】
このように、実施例1では、ライン圧PLを決める3つの要因のセレクトハイによる高い圧力値をライン圧PLとする構成を採用した。
このため、自動変速機ATと第1クラッチCL1と複数のシステムモードをハイブリッド駆動系に有するとき、油圧過剰とならない最適なライン圧PLを設定することができる。
【0053】
[システムモードの状態判定作用]
システムモードの状態判別に応じて最低ライン圧を切り替える方法には、いくつか方法がある。このうち、実施例1では、ラインL圧を決めるATコントローラ7がシステムモードの状態を判別する構成を採用した(図5)。
【0054】
すなわち、システムモード最低必要ライン圧生成部33におけるシステムモード最低必要ライン圧の生成処理は、図5のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→エンドへと進むことで行われる。ステップS1では、既存のCAN通信線11から、必要信号(CL1開放圧指令値、T/M入力トルク、T/M入力回転数、変速段等)が取り込まれる。ステップS2では、必要信号から現在のシステムモードの状態(「EVモード」、「HEVモード」、「WSCモード」、「P_N_Idleモード」、「M-WSCモード」、「EV→始動モード」等)が判定される。ステップS3では、判定したシステムモードの動作毎にシステムモード最低必要ライン圧を生成し、ライン圧選択部34に出力し、エンドへ進む。
【0055】
このように、他の制御信号を組み合わせて、現在のシステムモードの状態をATコントローラ7が判定する構成とした。
このため、CAN通信線11を経由する通信信号の追加を必要とすることなく、既存の通信信号を用いながら、システムモードの状態判別とライン圧制御のためのライン圧指示値の生成を、ATコントローラ7のみで行うことができる。
【0056】
次に、効果を説明する。
実施例1のFRハイブリッド車両の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0057】
(1) エンジンEngと、
モータ(モータ/ジェネレータMG)と、
前記エンジンEngと前記モータ(モータ/ジェネレータMG)の間に設けられ、締結と開放を行う油圧クラッチ(第1クラッチCL1)と、
前記モータ(モータ/ジェネレータMG)と前記駆動輪(左右後輪RL,RR)との間に設けられ、油圧により変速段あるいは変速比を変更する変速制御を行う変速機(自動変速機AT)と、
少なくとも前記油圧クラッチ(第1クラッチCL1)の締結によるハイブリッド車モード(HEVモード)と、前記油圧クラッチ(第1クラッチCL1)の開放による電気自動車モード(EVモード)と、を有し、これらのシステムモードの動作毎に設定された最低必要ライン圧に基づいてライン圧指示値を生成するライン圧指示値生成手段(ライン圧指示値生成ブロック30)と、
前記油圧クラッチ(第1クラッチCL1)や前記変速機(自動変速機AT)の基本油圧であるライン圧PLを、前記ライン圧指示値に応じて制御するライン圧制御手段(ライン圧ソレノイド23)と、
を備える。
このため、変速機(自動変速機AT)内部に溜まった余分の作動油による引き摺りフリクショントルクを低減することで、燃費の向上を図ることができる。
【0058】
(2) 前記油圧クラッチは、油圧供給によりクラッチ開放させるノーマルクローズの第1クラッチCL1であり、
前記変速機は、油圧により締結・開放が制御される複数のクラッチ要素の掛け替え制御により複数の変速段を得る自動変速機ATであり、
前記ライン圧指示値生成手段(ライン圧指示値生成ブロック30)は、前記自動変速機ATへの入力トルクや変速段に基づいて設定されるクラッチ保持最低ライン圧と、前記第1クラッチCL1への開放圧指令値に基づいて設定される第1クラッチ開放最低ライン圧と、前記システムモードの動作毎に設定されたシステムモード最低必要ライン圧と、のセレクトハイにより、ライン圧指示値を生成する(図4)。
このため、(1)の効果に加え、自動変速機ATと第1クラッチCL1と複数のシステムモードをハイブリッド駆動系に有するとき、油圧過剰とならない最適なライン圧PLを設定することができる。
【0059】
(3) 前記ライン圧指示値生成手段(ライン圧指示値生成ブロック30)は、ハイブリッド駆動系に有するシステム構成要素への複数の制御信号を組み合わせて現在のシステムモードの状態を判定するシステムモード状態判定部(ステップS2)を、前記ライン圧PLを制御する変速機コントローラ(ATコントローラ7)に有する(図5)。
このため、(1)または(2)の効果に加え、通信信号の追加を必要とすることなく、既存の通信信号を用いながら、システムモードの状態判別とライン圧制御のためのライン圧指示値の生成を、ATコントローラ7のみで行うことができる。
【実施例2】
【0060】
実施例2は、現在のシステムモードの状態を統合コントローラにより判定するようにした例である。
【0061】
まず、構成を説明する。
図6は、実施例2のATコントローラ7におけるライン圧指示値生成のうちシステムモード最低必要ライン圧の生成構成を示すブロック図である。つまり、実施例2は、図4の実施例1のシステムモード最低必要ライン圧生成部33に代え、統合コントローラ10とシステムモード最低必要ライン圧生成部33’を用いた例である。
【0062】
前記統合コントローラ10は、ハイブリッド駆動系に有するシステム構成要素への複数の制御信号を組み合わせて現在のシステムモードの状態を判定するシステムモード状態判定部を有する。そして、判定したシステムモードの状態を識別子化し、識別子であらわした状態判別信号を、CAN通信線11を介してライン圧PLを制御するATコントローラ7に送る。なお、識別子とは、例えば、複数桁の数値等のように、数字や文字や記号やこれらの組み合わせにより各モードを識別してあらわしたものをいう。
【0063】
前記システムモード最低必要ライン圧生成部33’は、統合コントローラ10からの状態判別信号を入力し、状態判別信号があらわすシステムモードの動作毎にシステムモード最低必要ライン圧を生成し、ライン圧選択部34に出力する。
なお、図1〜図3の構成は、実施例1と同様であるので、図示ならびに説明を省略する。
【0064】
次に、システムモードの状態判定作用を説明する。
実施例1で述べたように、システムモードの状態判別に応じて最低ライン圧を切り替える方法には、いくつか方法がある。このうち、実施例2では、全体のシステム動作を管理する統合コントローラ10にてシステムモードの状態を判別する構成を採用した(図6)。
【0065】
すなわち、実施例1のように、ATコントローラ7でシステムモードの状態を判別すると、各信号の出るタイミングまで合わせたロジック作成が必要で、モード状態判別制御が複雑になる。
【0066】
これに対し、全体のシステム動作を管理する統合コントローラ10にてシステムモードの状態を判別すると、統合コントローラ10とATコントローラ7が同じテーブルを参照することでシステムモードの状態を認識でき、システムモードの状態判別を確実に行うことができる。
なお、他の「システムモード対応のライン圧制御作用」、「セレクトハイによるライン圧制御作用」は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0067】
次に、効果を説明する。
実施例2のハイブリッド車両の制御装置にあっては、下記の効果を得ることができる。
【0068】
(4) 前記ライン圧指示値生成手段(ライン圧指示値生成ブロック30)は、ハイブリッド駆動系に有するシステム構成要素への複数の制御信号を組み合わせて現在のシステムモードの状態を判定するシステムモード状態判定部を、全体のシステム動作を管理する統合コントローラ10に有し、
前記統合コントローラ10は、判定したシステムモードの状態を識別子化し、識別子であらわした状態判別信号を、通信線(CAN通信線11)を介して前記ライン圧PLを制御する変速機コントローラ(ATコントローラ7)に送る(図6)。
このため、実施例1の(1)または(2)の効果に加え、統合コントローラ10と変速機コントローラ(ATコントローラ7)が同じテーブルを参照することでシステムモードの状態を認識でき、システムモードの状態判別を確実に行うことができる。
【0069】
以上、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実施例1および実施例2に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例1,2に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0070】
実施例1,2では、第2クラッチCL2を、有段式の自動変速機ATに内蔵した摩擦要素の中から選択する例を示した。しかし、自動変速機ATとは別に第2クラッチCL2を設けても良く、例えば、モータ/ジェネレータMGと変速機入力軸との間に自動変速機ATとは別に第2クラッチCL2を設ける例や、変速機出力軸と駆動輪の間に自動変速機ATとは別に第2クラッチCL2を設ける例も含まれる。
【0071】
実施例1,2では、変速機として、前進7速後退1速の有段式の自動変速機ATを用いる例を示した。しかし、有段式自動変速機の場合、変速段数はこれに限られるものではなく、変速段として2速段以上の複数の変速段を有する自動変速機であれば良い。また、変速機として、ベルト式無段変速機等のように、変速比を無段階に変更する無段変速機を用いてもよい。
【0072】
実施例1,2では、制御装置を後輪駆動のハイブリッド車両に対し適用した例を示したが、前輪駆動のハイブリッド車両に対しても適用することができる。要するに、油圧クラッチと変速機が搭載され、走行モードとして、少なくともEVモードとHEVモードを有するハイブリッド車両であれば適用できる。
【符号の説明】
【0073】
Eng エンジン
CL1 第1クラッチ(油圧クラッチ)
MG モータ/ジェネレータ(モータ)
CL2 第2クラッチ
AT 自動変速機(変速機)
IN 変速機入力軸
M-O/P メカオイルポンプ
S-O/P サブオイルポンプ
RL 左後輪(駆動輪)
RR 右後輪(駆動輪)
1 エンジンコントローラ
2 モータコントローラ
3 インバータ
4 バッテリ
5 第1クラッチコントローラ
6 第1クラッチ油圧ユニット
7 ATコントローラ(変速機コントローラ)
8 第2クラッチ油圧ユニット
9 ブレーキコントローラ
10 統合コントローラ
23 ライン圧ソレノイド(ライン圧制御手段)
30 ライン圧指示値生成ブロック(ライン圧指示値生成手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
モータと、
前記エンジンと前記モータの間に設けられ、締結と開放を行う油圧クラッチと、
前記モータと前記駆動輪との間に設けられ、油圧により変速段あるいは変速比を変更する変速制御を行う変速機と、
少なくとも前記油圧クラッチの締結によるハイブリッド車モードと、前記油圧クラッチの開放による電気自動車モードと、を有し、これらのシステムモードの動作毎に設定された最低必要ライン圧に基づいてライン圧指示値を生成するライン圧指示値生成手段と、
前記油圧クラッチや前記変速機の基本油圧であるライン圧を、前記ライン圧指示値に応じて制御するライン圧制御手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記油圧クラッチは、油圧供給によりクラッチ開放させるノーマルクローズの第1クラッチであり、
前記変速機は、油圧により締結・開放が制御される複数のクラッチ要素の掛け替え制御により複数の変速段を得る自動変速機であり、
前記ライン圧指示値生成手段は、前記自動変速機への入力トルクや変速段に基づいて設定されるクラッチ保持最低ライン圧と、前記第1クラッチへの開放圧指令値に基づいて設定される第1クラッチ開放最低ライン圧と、前記システムモードの動作毎に設定されたシステムモード最低必要ライン圧と、のセレクトハイにより、ライン圧指示値を生成することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記ライン圧指示値生成手段は、ハイブリッド駆動系に有するシステム構成要素への複数の制御信号を組み合わせて現在のシステムモードの状態を判定するシステムモード状態判定部を、前記ライン圧を制御する変速機コントローラに有することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記ライン圧指示値生成手段は、ハイブリッド駆動系に有するシステム構成要素への複数の制御信号を組み合わせて現在のシステムモードの状態を判定するシステムモード状態判定部を、全体のシステム動作を管理する統合コントローラに有し、
前記統合コントローラは、判定したシステムモードの状態を識別子化し、識別子であらわした状態判別信号を、通信線を介して前記ライン圧を制御する変速機コントローラに送ることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−86675(P2012−86675A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235179(P2010−235179)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】