説明

ハイブリッド電気自動車の制御装置

【課題】エンジン駆動による発電に依存することなく、且つ電動機による走行をむやみに抑制や禁止することなく、エンジンと電動機とを効率的に用いて燃費及び排ガス特性の改善を十分に達成しながら、渋滞予測から渋滞突入までの間にバッテリのSOCを十分に確保でき、もって渋滞中に可能な限り電動機による走行を継続できるハイブリッド電気自動車の制御装置を提供する。
【解決手段】渋滞予測時にはバッテリのSOCが平衡するSOCバランス点を70%まで増加させることにより、SOCバランス点の増加過程においてエンジン主体の走行を行いながら車両減速時の回生制動によりバッテリを充電してSOCを確保し、その後の渋滞突入時にはSOCバランス点を30%まで減少させ、SOCバランス点の減少過程において電動機主体の走行を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイブリッド電気自動車の制御装置に関し、詳しくは、パラレル式ハイブリッド型電気自動車の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンと電動機とを車両に搭載し、エンジンの駆動力と電動機の駆動力とをそれぞれ車両の駆動輪に伝達可能とした、いわゆるパラレル型ハイブリッド電気自動車が開発され実用化されている。このようなパラレル型ハイブリッド電気自動車では、電動機を駆動させるためにバッテリを搭載しているが、当該バッテリの充電率(SOC:State Of Charge)が減少した場合には、電動機を発電機として使用してバッテリへの充電を行うようにしている。
例えば車両減速時においては、駆動輪から逆に伝達される駆動力により電動機を発電機として機能させると共に、このとき電動機が発生する回生トルクにより駆動輪に減速抵抗を付与する回生制動を行い、また、通常の走行時には、必要に応じてエンジンの駆動力により電動機を駆動して発電機として機能させ、発電された電力をバッテリに充電している。
【0003】
ところで、例えば、渋滞時のように停止と発進とを頻繁に繰り返しながら低速走行する条件下でエンジン走行を行うと、効率の悪い低回転域でエンジンが運転されて燃費や排ガス特性の観点から望ましくないため、このような走行条件では可能な限り電動機による走行を行うべきである。しかし、渋滞中に電動機による走行を継続するにはバッテリのSOCが十分に確保されている必要があり、そのためには、渋滞に突入する以前に電動機を発電機として機能させてバッテリを充電しておく必要がある。
【0004】
このような事情を鑑みて、例えば特許文献1及び特許文献2の技術が提案されている。
特許文献1に記載された技術では、通常の走行時には、通常時SOC制御モードとして設定されたSOCの上限値と下限値とに基づき、その範囲内でバッテリのSOCを制御する、いわゆるピンポン制御を行う一方、VICSなどの渋滞情報に基づき自車の前方に渋滞が発生していると判断したときには、通常時SOC制御モードよりもSOCの上限値を大に、下限値を小に設定した渋滞時SOC制御モードに切り換えている。渋滞時SOC制御モードへの切換は、自車が渋滞の最後尾に追い着いたときに渋滞時SOC制御モードのSOC上限値までバッテリを充電可能な充電開始点として割り出された充電ポイントに基づき、自車が充電ポイントに到達した時点で開始する。
【0005】
渋滞時SOC制御モードでは、回生制動のみならずエンジンの駆動力を利用した発電を積極的に行うことによりSOCの迅速な上昇を図り、その後に自車が渋滞に突入すると電動機による走行に切り換え、自車が渋滞を抜けたとき或いはSOCが下限値まで減少したときに通常時SOC制御モードに復帰している。SOCの上限及び下限の領域を拡大した渋滞時SOC制御モードにより、渋滞に突入した時点では上限値相当までバッテリのSOCを確保可能となると共に、その後の渋滞中にはSOCが下限値に減少するまで電動機による走行を継続可能となる。
また、特許文献2に記載された技術は、特許文献1の技術をベースとして、上記充電ポイントから渋滞の最後尾に追い着くまでの間、電動機による走行を抑制若しくは禁止することにより、エンジン駆動による発電の頻度を減少させてSOCの低下を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−134719号公報
【特許文献2】特開2006−109577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の技術は、SOCの確保のためにエンジン駆動による発電を積極的に行っているが、エンジン駆動の頻度が増加することは排ガス特性の観点で好ましくない。また、発電された電力で電動機を駆動するには、電動機による発電、バッテリへの充電、バッテリからの放電、電動機による駆動などの多数の過程を要し、それぞれの過程での効率が重なって全体の効率がかなり悪化してしまう。よって、充電ポイント以降では、本来のハイブリッド電気自動車による燃費及び排ガス特性の改善効果が阻害されてしまうという問題がある。
【0008】
また、電動機による走行を抑制若しくは禁止する特許文献2の技術では、電動機による走行に起因するSOCの減少が抑制されると共に、ひいてはエンジン駆動による発電の頻度を減少させることにも繋がる。しかし、その反面、ハイブリッド電気自動車の特徴である電動機による走行が抑制や禁止されることにより、やはり充電ポイント以降では燃費及び排ガス特性の改善効果が十分に得られず、抜本的な対策とは言い難かった。
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、エンジン駆動による発電に依存することなく、且つ電動機による走行をむやみに抑制や禁止することなく、エンジンと電動機とを効率的に用いて燃費及び排ガス特性の改善を十分に達成しながら、渋滞予測から渋滞突入までの間にバッテリのSOCを十分に確保でき、もって渋滞中に可能な限り電動機による走行を継続することができるハイブリッド電気自動車の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、車両の駆動輪に駆動力を伝達可能なエンジンと、バッテリの蓄電力により駆動輪に駆動力を伝達可能な電動機と、運転者の要求トルクをエンジン側及び電動機側の駆動力に配分し、配分した駆動力に基づきエンジン及び電動機をそれぞれ制御して車両を走行させる一方、エンジンの駆動力或いは車両減速時に駆動輪から逆に伝達される駆動力により電動機を発電機として機能させてバッテリを充電する制御手段と、自車の進路上の渋滞を予測すると共に、渋滞への自車の突入を判定する渋滞予測手段と、電動機の駆動によるバッテリの放電状況及び発電機によるバッテリの充電状況に応じてバッテリの充電率が増減後に平衡したときのSOCバランス点を調整可能であり、渋滞予測手段により渋滞が予測されたときにはSOCバランス点を通常走行時に比較して増加させ、渋滞予測手段により自車の渋滞への突入が判定されたときにはSOCバランス点を通常走行時に比較して減少させるSOCバランス点調整手段とを備えたものである。
【0010】
従って、渋滞予測手段により渋滞が予測されたときには、SOCバランス点調整手段によりバッテリのSOCバランス点が通常走行時に比較して増加される。このときの自車は最終的には渋滞に突入することから全体として減速傾向にあるため、SOCバランス点を増加させる過程では、自車が減速する度に駆動輪から逆に伝達される駆動力により電動機が発電機として機能してバッテリを充電する。即ち、特許文献1のようにエンジン駆動による発電に依存することなく、減速時の回生電力によりバッテリの充電率が次第に増加し、また、特許文献2のように電動機による走行を抑制若しくは禁止することなく、ハイブリッド電気自動車の特徴を活かしてエンジンと電動機とが効率的に用いられ、燃費及び排ガス特性の改善効果が十分に得られる。
【0011】
そして、渋滞予測手段により渋滞への突入が判定されたときには、SOCバランス点調整手段によりバッテリのSOCバランス点が通常走行時に比較して減少される。充電バランス点を減少させる過程では電動機主体の走行が行われることになるが、渋滞の予測から渋滞突入までの間にバッテリの充電率が十分に確保されていることから、低回転域で効率が悪いエンジンの使用を極力抑制して電動機主体の走行を長時間に亘って継続可能となり、結果として渋滞中においても燃費及び排ガス特性の改善効果が十分に得られる。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1において、制御手段が、電動機側への駆動力配分を大とした特性の高SOC制御マップ及び電動機側への駆動力配分を小とした特性の低SOC制御マップを備え、バッテリの充電率が所定の閾値以上のときには、エンジン側及び電動機側への駆動力配分の決定に高SOC制御マップを適用し、バッテリの充電率が閾値未満のときには、駆動力配分の決定に低SOC制御マップを適用し、SOCバランス点調整手段が、渋滞の予測時には閾値を増加設定することによりSOCバランス点を増加させ、渋滞への突入時には上記閾値を減少設定することにより充電バランス点を減少させるものである。
【0013】
従って、渋滞の予測時にはSOCバランス点調整手段により閾値が増加設定され、この増加設定された閾値に基づきバッテリの充電率が判定される。結果としてバッテリの充電率が閾値未満となって電動機側への駆動力配分を小とした特性の低SOC制御マップが一時的に選択され続け、エンジン主体の走行によりバッテリの放電よりも充電の方が上回ることから充電率は次第に増加した後に平衡する(増加後のSOCバランス点に相当)。
また、渋滞への突入時には、SOCバランス点調整手段により閾値が減少設定され、この減少設定された閾値に基づきバッテリの充電率が判定される。結果としてバッテリの充電率が閾値以上となって電動機側への駆動力配分を大とした特性の高SOC制御マップが一時的に選択され続け、電動機主体の走行によりバッテリの充電よりも放電の方が上回ることから充電率は次第に減少した後に平衡する(減少後のSOCバランス点に相当)。
【0014】
このように閾値を増減設定するだけの簡単な処理によりSOCバランス点を調整可能であり、しかも、上記説明から明らかなように、SOCバランス点は増減後の閾値を目標として平衡することから、最適なSOCバランス点に確実に調整可能となる。
請求項3の発明は、請求項2において、低SOC制御マップが、エンジンが常に燃料消費率の最良領域近傍または排ガス特性の最良領域近傍で運転されるように駆動力配分の特性が設定されているものである。
従って、低SOC制御マップの適用時にはエンジン主体の走行が行われるが、エンジンが燃料消費率の最良領域近傍や排ガス特性の最良領域近傍で運転されるため、エンジン運転による燃費悪化や排ガス特性悪化が最小限に抑制される。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように請求項1の発明のハイブリッド電気自動車の制御装置によれば、渋滞が予測されたときにはバッテリのSOCバランス点を通常走行時に比較して増加させ、渋滞への突入が判定されたときにはバッテリのSOCバランス点を通常走行時に比較して減少させるようにしたため、エンジン駆動による発電に依存することなく、且つ電動機による走行をむやみに抑制や禁止することなく、エンジンと電動機とを効率的に用いて燃費及び排ガス特性の改善を十分に達成しながら、渋滞予測から渋滞突入までの間にバッテリのSOCを十分に確保でき、もって渋滞中に可能な限り電動機による走行を継続することができる。
【0016】
請求項2の発明のハイブリッド電気自動車の制御装置によれば、請求項1に加えて、電動機側への駆動力配分を異にした2種のSOC制御マップをバッテリの充電率に応じて切り換えるようにし、このときに適用する閾値を増減することによりSOCバランス点を調整するようにしたため、簡単な処理によりSOCバランス点を適切に調整でき、ひいては渋滞予測時や渋滞中に対応した最適な駆動力配分でエンジン及び電動機を制御することができる。
請求項3の発明のハイブリッド電気自動車の制御装置によれば、請求項2に加えて、エンジンを常に燃料消費率の最良領域近傍または排ガス特性の最良領域近傍で運転するように低SOC制御マップの特性を設定したため、エンジン主体で走行しているときのエンジン運転による燃費悪化や排ガス特性悪化を最小限に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態であるハイブリッド型電気自動車の制御装置を示す全体構成図である。
【図2】高SOC制御マップを示す特性図である。
【図3】低SOC制御マップを示す特性図である。
【図4】図3に対応してエンジン燃料消費率を等高線状に表した特性図である。
【図5】車両ECUが実行する制御マップ切換ルーチンを示すフローチャートである。
【図6】車両ECUが実行する渋滞対応制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図7】渋滞予測から渋滞通過までのバッテリSOCの制御状況を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化したハイブリッド電気自動車の制御装置の一実施形態を説明する。
図1は本発明の一実施形態であるハイブリッド型電気自動車の制御装置を示す全体構成図である。
ハイブリッド型電気自動車1はパラレル式ハイブリッド型電気自動車であり、ディーゼルエンジン(以下エンジンという)2の出力軸にはクラッチ4の入力軸が連結されており、クラッチ4の出力軸には例えば永久磁石式同期電動機のように発電も可能な電動機6の回転軸を介して変速機8の入力軸が連結されている。また、変速機8の出力軸はプロペラシャフト10、差動装置12及び駆動軸14を介して左右の駆動輪16に接続されている。
なお、エンジン2は、一般的に自動車に用いられる原動機であり、ディーゼルエンジン以外のガソリンエンジンなどでも良く、ここでは特にその種類を問わない。
【0019】
従って、クラッチ4が接続されているときには、エンジン2の出力軸と電動機6の回転軸の両方が変速機8を介して駆動輪16と機械的に接続され、クラッチ4が切断されているときには電動機6の回転軸のみが変速機8を介して駆動輪16と機械的に接続される。
電動機6は、バッテリ18に蓄えられた直流電力がインバータ20によって交流電力に変換されて供給されることによりモータとして作動し、その駆動力が変速機8によって適切な速度に変速された後に駆動輪16に伝達されるよう構成されている。また、車両減速時には電動機6が発電機(ジェネレータ)として作動し、駆動輪16から逆に伝達される駆動力により電動機6が交流電力を発電すると共に、このとき電動機6が発生する回生トルクにより駆動輪16に減速抵抗が付与される。そして、この交流電力はインバータ20によって直流電力に変換された後、バッテリ18に充電され、駆動輪16の回転による運動エネルギが電気エネルギとして回収される。
【0020】
一方、エンジン2の駆動力は、クラッチ4が接続されているときに電動機6の回転軸を経由して変速機8に伝達され、適切な速度に変速された後に駆動輪16に伝達される。従って、エンジン2の駆動力が駆動輪16に伝達されているときに電動機6がモータとして作動する場合には、エンジン2の駆動力と電動機6の駆動力とがそれぞれ変速機8を介して駆動輪16に伝達されることになる。即ち、車両の駆動のために駆動輪16に伝達されるべき駆動力の一部がエンジン2から供給されると共に、不足分が電動機6から供給されアシストされる。
また、バッテリ18の充電率(以下、SOCという)が低下してバッテリ18を充電する必要があるときには、車両の走行中であっても、電動機6が発電機として作動すると共に、エンジン2の駆動力の一部を用いて電動機6を作動することにより発電が行われ、発電された交流電力をインバータ20によって直流電力に変換した後にバッテリ18に充電するようにしている。
【0021】
車両ECU22は、車両やエンジン2の運転状態、及びエンジンECU24、インバータECU26並びにバッテリECU28からの情報などに応じて、クラッチ4の接続・切断制御及び変速機8の変速段切換制御を行うと共に、これらの制御状態や車両の発進、加速、減速など様々な運転状態に合わせてエンジン2や電動機6を適切に運転するための統合制御を行う。
そして車両ECU22は、このような制御を行う際に、アクセルペダル30の踏込量を検出するアクセル開度センサ32や、車両の走行速度を検出する車速センサ34、及び電動機6ひいてはエンジン2の回転速度を変速機8の入力回転速度として検出する回転速度センサ36の検出結果に基づき、運転者の要求トルクを演算し、この要求トルクから、エンジン2が発生する駆動力及び電動機6が発生する駆動力を設定している(制御手段)。
【0022】
エンジンECU24は、エンジン2自体の運転に必要な各種制御を行うと共に、車両ECU22によって設定されたエンジン2に必要とされる駆動力をエンジン2が発生するよう、エンジン2の燃料の噴射量や噴射時期などを制御する(制御手段)。
インバータECU26は、車両ECU22によって設定された電動機6が発生すべき駆動力に基づきインバータ20を制御することにより、電動機6をモータ作動または発電機作動させて運転制御する(制御手段)。
バッテリECU28は、バッテリ18の温度、バッテリ18の電圧、インバータ20とバッテリ18との間に流れる電流などを検出すると共に、これらの検出結果からバッテリ18のSOCを求め、求めたSOCを検出結果と共に車両ECU22に送っている。
【0023】
一方、車両ECU22は、予め設定された高SOC用及び低SOC用の2種の制御マップに基づき、要求トルクを達成するためのエンジン2及び電動機6の駆動力を設定しており、これにより、エンジン1及び電動機6を効率的に用いて常に運転者の要求に応じた車両の加減速を実現している。また、これらの2種のSOC制御マップをバッテリ18のSOCに応じて切り換えることによりSOCを適正値に保持しており、以下、当該制御マップの切換について述べる。
図2は高SOC制御マップを示す特性図、図3は低SOC制御マップを示す特性図である。
何れの制御マップも縦軸を運転者の要求トルクとし、横軸をエンジン回転速度としており、エンジン回転速度毎に要求トルクを達成するためのエンジン2及び電動機6の駆動力を導き出すようになっている。また、何れの制御マップでも、エンジン2の最大トルク曲線を上限とした領域中の高トルク側に電動機6の作動領域が設定されており、作動領域の外縁に沿って設定されたトルク制限曲線を境界として、エンジン2と電動機6との駆動力が配分される。
【0024】
例えば、電動機6の作動領域が設定されていない高回転域、或いは電動機6の作動領域が設定されたエンジン回転域であっても要求トルクが小さくてトルク制限曲線に達しないときには、エンジン2の駆動力のみで要求トルクが達成され、一方、要求トルクが大きくてトルク制限曲線を越えて電動機6の作動領域内に侵入するときには、エンジン2の駆動力がトルク制限曲線で制限され、不足分が電動機6の駆動力でアシストされる。
図2,3の比較から明らかなように、高SOC制御マップに比較して低SOC制御マップでは電動機6の作動領域が大幅に縮小されており、高SOC制御マップが電動機6の作動領域を極限まで拡大した特性であるのに対し、低SOC制御マップは電動機6の作動領域を必要最小限に縮小した特性である。従って、高SOC制御マップに基づけば、エンジン2の駆動力が大幅に制限されて電動機6を主体として車両が走行し、低SOC制御マップに基づけば、電動機6の駆動力が大幅に制限されてエンジン2を主体として車両が走行する。
【0025】
また、低SOC制御マップにおける電動機6の作動領域は、エンジン2の燃料消費率の最良領域を考慮して設定されている。即ち、図4は、図3に対応してエンジン2の燃料消費率を等高線状に表した特性図であるが、ハッチングで示す燃料消費率の最良領域上をトルク制限曲線が横切るように、電動機6の作動領域が設定されている。従って、エンジン2の駆動力をトルク制限曲線で制限した場合、エンジン2は燃料消費率の最良領域、若しくは最良領域に近い領域で運転され、要求トルクに対する不足分が電動機6の駆動力でアシストされることになる。
なお、高SOC制御マップとしては、電動機6の作動を優先した所謂EV制御マップを用いてもよい。当該EV制御マップでは、要求トルクを上限として電動機6側に最大の駆動力を配分し、要求トルクに対して不足分があればエンジン側の駆動力でアシストするように駆動力配分が設定される。
【0026】
車両ECU22は、これらのSOC制御マップをバッテリECU28から入力されるバッテリ18のSOCに応じて切り換えている。
図5は車両ECU22が実行する制御マップ切換ルーチンを示すフローチャートであり、車両ECU22は車両の走行中に当該ルーチンを所定の制御インターバルで実行している。
まず、ステップS2で現在のバッテリ18のSOCがSOC閾値以上であるか否かを判定する。後述するように本実施形態では、道路状況(具体的には、通常時、渋滞予測時、渋滞中の3種)に応じてSOC閾値(30%、50%、70%)を切り換えているが、ここでは通常時を例に挙げて述べる。通常時のSOC閾値としては、例えば50%が設定されており、ステップS2では実際のSOCが50%以上であるか否かが判定される。
【0027】
ステップS2の判定がYes(肯定)のときにはステップS4に移行し、図2に示す高SOC制御マップを適用し、一方、ステップS2の判定がNo(否定)のときにはステップS6に移行し、図3に示す低SOC制御マップを適用し、その後に一旦ルーチンを終了する。なお、ステップS2の判定処理にはヒステリシスが設定されており、制御マップの頻繁な切換、ひいてはエンジン2及び電動機6の運転状態の急変を防止している。
高SOC制御マップの適用時には、電動機6主体の走行により燃費及び排ガス特性の改善効果が得られると共に、電動機6の電力消費により全体としてバッテリ18の充電よりも放電の方が上回ることからSOCは次第に減少する。低SOC制御マップの適用時には、エンジン2主体の走行により全体としてバッテリ18の放電よりも充電の方が上回ることからSOCは次第に増加する。また、低SOC制御マップの適用時には、エンジン2が燃料消費率の最小領域若しくは近傍で運転されるため、エンジン運転による燃費悪化は最小限に抑制される。
【0028】
そして、バッテリ18のSOCは選択された制御マップに応じて増加及び減少を繰り返しながら次第にSOC閾値である50%近傍で平衡し、その後は50%近傍に保持され続ける。このように制御マップの切換により増減後に平衡したときの最終的なSOCの値をSOCバランス点と称する。
ところで、[背景技術]で述べた特許文献1及び特許文献2の技術と同じく、本実施形態でも、自車の前方に渋滞が発生していると判断したときには、渋滞に突入する以前にバッテリ18のSOCを確保し、且つ渋滞中には可能な限り電動機6による走行を継続すべく渋滞時専用の処理を実行している。そこで、この渋滞対応制御について以下に述べる。
【0029】
渋滞に関する判定のために、車両ECU22にはナビゲーションユニット38が接続されている。ナビゲーションユニット38は、GPSアンテナ40を介して人工衛星からのGPS信号を受信して自車の現在位置を特定すると共に、内蔵しているVICS機能を利用して、路側ビーコンやFM多重放送から渋滞情報、即ち、自車の進路上の渋滞の有無、発生位置、規模などの情報を受信する。
これらの自車の位置情報及び渋滞情報がナビゲーションユニットから車両ECU22に入力され、車両ECU22では、これらの情報に基づき上記渋滞対応制御として、図6に示す渋滞対応制御ルーチンを所定の制御インターバルで実行する。
【0030】
まず、ステップS12でナビゲーションユニット38から入力された自車の位置情報及び渋滞情報に基づき、自車の前方に渋滞が発生しているか否かを判定し、判定がNoのときにはステップS14に移行する。ステップS14では自車が既に渋滞に突入しているか否かを判定し、判定がNoのときにはステップS16に移行して上記SOC閾値として50%を設定した後、ルーチンを終了する。
一方、上記ステップS12でYesの判定を下したとき、即ち渋滞が予測されるときにはステップS18に移行してSOC閾値として70%を設定する(SOCバランス点調整手段)。また、上記ステップS14でYesの判定を下したとき、即ち渋滞中であるときにはステップS20に移行してSOC閾値として30%を設定する(SOCバランス点調整手段)。SOC=70%はバッテリが満充電に近いときの値に相当し、SOC=30%は、車両走行に支障を生じない下限付近の値に相当する。
【0031】
但し、これらの3種のSOCは30%、50%、70%に限定されるものではなく、電動機6、バッテリ18、インバータ20の仕様などに応じて任意に変更可能である。
以上の車両ECU22の処理により、渋滞の予測から渋滞を通過するまでのバッテリ18のSOCは図7のタイムチャートに示すように制御される。
まず、渋滞を予測する以前の通常時においては、50%に設定されたSOC閾値に基づきSOC制御マップが切り換えられることにより、SOCバランス点は50%近傍に保持されている。ステップS2で渋滞が予測されると、SOC閾値が50%から70%に切り換えられるが、この時点のSOCバランス点は50%近傍にあるため、一時的に低SOC制御マップが選択され続けてエンジン2主体の走行が行われる。
【0032】
このときの自車の走行状態は渋滞状況によって様々であり、当初は渋滞の影響を受けずに走行を継続して後に渋滞の最後尾で急停止する場合も、緩やかな減速を継続して最後尾に追い着く場合も、加減速を繰り返しながら渋滞に最後尾に追い着く場合もある。しかし、何れにしても自車は最終的には渋滞に突入することから全体として減速傾向にあると共に、このときには低SOC制御マップの適用によりSOCバランス点を増加(50%→70%)させる過程にある。
【0033】
このため、自車が減速する度に電動機6が発電機として機能して回生制動が行われ、例えば特許文献1のようにエンジン駆動による発電に依存することなく、回生電力の充電によりバッテリ18のSOCが次第に増加する。また、このときには特許文献2のように電動機による走行を抑制若しくは禁止することなく、ハイブリッド電気自動車の特徴を活かしてエンジン2と電動機6とを効率的に用いることにより、エンジン2を燃料消費率の最良領域、若しくは最良領域に近い領域で運転しながら、不足分を電動機6の出力トルクで適切にアシストして要求トルクを達成している。
これらの制御の結果、バッテリ18のSOCバランス点は次第に70%に接近し、70%近傍に到達した後は低SOC制御マップと高SOC制御マップとが交互に切り換られながら70%近傍のSOCバランス点が保持される。
【0034】
このようにしてバッテリ18が満充電に近い状態で渋滞に突入し、渋滞突入と同時にSOC制御マップの切換閾値が70%から30%に切り換えられる。この時点のSOCバランス点は70%近傍にあるため、一時的に高SOC制御マップが選択され続けて電動機6主体の走行が行われる。このときの自車の走行状態についても渋滞状況によって様々であり、停車と発進を繰り返す場合も、極低速での走行を継続する場合も、長時間の停車を挟みつつ走行する場合もある。しかし、何れにしても電動機6主体の走行によりエンジン2の作動が極力抑制され、これにより燃費及び排ガス特性の改善効果が得られる。
【0035】
そして、電動機6主体の走行によりバッテリ18のSOCバランス点は次第に減少して最終的に30%まで減少するが、渋滞突入時のバッテリ18が満充電に近いため渋滞中に電動機6主体の走行を長時間に亘って継続できる。一方、何れかの時点で渋滞は解消し、これに呼応してSOC閾値は30%から50%に戻されて通常走行に復帰する。
以上のように本実施形態では、渋滞が予測されて渋滞への接近に伴って自車が減速傾向にあるときに、SOC制御マップの切換によりSOCバランス点を増加させており、そのSOCバランス点の増加過程で電動機6を発電機として機能させて回生制動を積極的に行うことによりバッテリのSOCを確保している。
【0036】
従って、エンジン駆動による発電に依存した特許文献1の技術、或いは電動機による走行を抑制若しくは禁止する特許文献2の技術とは異なり、渋滞予測から渋滞突入までの間においてもハイブリッド電気自動車の特徴を活かしてエンジン2と電動機6とを効率的に用いているため、燃費及び排ガス特性の改善効果を十分に得ることができる。
特に本実施形態では、低SOC制御マップに基づきエンジン2が燃料消費率の最良領域、若しくは最良領域に近い領域で運転されるため、エンジン運転による燃費悪化を最小限に抑制することができる。
【0037】
また、自車が渋滞に突入するとSOC制御マップの切換によりSOCバランス点を減少させており、その減少過程では電動機6主体の走行が行われることになるが、渋滞突入時のバッテリ18は満充電に近い状態であることから、低回転域で効率が悪いエンジン2の使用を極力抑制して電動機6主体の走行を長時間に亘って継続でき、もって渋滞中においても燃費及び排ガス特性の改善効果を十分に得ることができる。
一方、エンジン2及び電動機6の作動領域を異にした2種のSOC制御マップをバッテリ18のSOCに応じて切り換えるようにし、このときに適用する閾値を増減設定することによりSOCバランス点を調整するようにした。よって、簡単な処理によりSOCバランス点を適切に調整でき、ひいては渋滞予測時や渋滞中に対応した最適な駆動力配分でエンジン2及び電動機6を制御することができる。
【0038】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、VICS機能により受信した渋滞情報に基づき渋滞を予測したが、これに限定されるものではない。渋滞への突入に先立って自車の走行状態には車速の低下や頻繁な加減速などの特有の兆候が現れることから、例えば、所定車速未満の走行状態が所定時間以上継続したことを条件として、或いは所定車速未満の走行状態で加減速が頻繁に生じたことを条件として渋滞を予測するようにしてもよい。
【0039】
また、上記実施形態では、渋滞の予測された時点(ステップS12がYes)でSOC閾値を50%から70%に切り換えたが、このタイミングに限定されるものではない。例えば渋滞が予測された時点から渋滞の最後尾との距離を監視し、当該距離が所定値を下回った時点でSOC閾値の切換を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0040】
2 エンジン
6 電動機
16 駆動輪
18 バッテリ
22 車両ECU(制御手段、渋滞予測手段、SOCバランス点調整手段)
24 エンジンECU(制御手段)
26 インバータECU(制御手段)
38 ナビゲーションユニット(渋滞予測手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動輪に駆動力を伝達可能なエンジンと、
バッテリの蓄電力により上記駆動輪に駆動力を伝達可能な電動機と、
運転者の要求トルクを上記エンジン側及び電動機側の駆動力に配分し、該配分した駆動力に基づき上記エンジン及び電動機をそれぞれ制御して車両を走行させる一方、上記エンジンの駆動力或いは上記車両減速時に上記駆動輪から逆に伝達される駆動力により上記電動機を発電機として機能させてバッテリを充電する制御手段と、
自車の進路上の渋滞を予測すると共に、該渋滞への自車の突入を判定する渋滞予測手段と、
上記電動機の駆動による上記バッテリの放電状況及び上記発電機による上記バッテリの充電状況に応じて該バッテリの充電率が増減後に平衡したときのSOCバランス点を調整可能であり、上記渋滞予測手段により渋滞が予測されたときには上記SOCバランス点を通常走行時に比較して増加させ、上記渋滞予測手段により自車の渋滞への突入が判定されたときには上記SOCバランス点を通常走行時に比較して減少させるSOCバランス点調整手段と
を備えたことを特徴とするハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項2】
上記制御手段は、上記電動機側への駆動力配分を大とした特性の高SOC制御マップ及び上記電動機側への駆動力配分を小とした特性の低SOC制御マップを備え、上記バッテリの充電率が所定の閾値以上のときには、上記エンジン側及び電動機側への駆動力配分の決定に上記高SOC制御マップを適用し、上記バッテリの充電率が上記閾値未満のときには、上記駆動力配分の決定に上記低SOC制御マップを適用し、
上記SOCバランス点調整手段は、上記渋滞の予測時には上記閾値を増加設定することにより上記SOCバランス点を増加させ、上記渋滞への突入時には上記閾値を減少設定することにより上記充電バランス点を減少させることを特徴とする請求項1記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項3】
上記低SOC制御マップは、上記エンジンが常に燃料消費率の最良領域近傍または排ガス特性の最良領域近傍で運転されるように駆動力配分の特性が設定されていることを特徴とする請求項2記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−98652(P2011−98652A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254890(P2009−254890)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】