説明

バイパス弁を備える低出力HMT

【課題】 あらかじめ定められた状態の下で、エンジンを停止させないで、車両を停車させるように構成された液圧回路を備える車両を操作する方法を提供する。
【解決手段】 この方法は、第1および第2の流体ラインを介して、互いに流体接続されている第1および第2の液圧キットを有する液圧回路を用意するステップを含んでいる。バイパス弁が、第1の流体ラインと第2の流体ラインとの間に配置され、液圧回路内の圧力を低下させるために、あらかじめ定められたいくつかの状態の1つが出現したときに作動するように制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧機械式トランスミッションを搭載した車両に関する。より詳細には、本発明は、バイパス弁を備える、改良された液圧回路、およびそれを用いる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
縁石や丸太、ブレーキその他の外力のために、車両を突然停車させられたときには、速度伝達比を急速に0まで減少させるか、または、トランスミッションとエンジンとの間のトルク伝達を遮断するための二次手段を作動させなければならない。液圧機械式トランスミッションにおいては、車両の負荷が突然に発生したときには、液圧回転キット間の再循環流路の一方の側の液圧は、急速に上昇する。
【0003】
車両を停車させるためにブレーキをかけるか、または、他の外部手段を用いると、そのトルク伝達によって、エンジン速度を低下させようとし、突然にエンジン負荷が発生する。エンジン負荷が非常に大きいと、特にエンジンの出力トルクのレベルが最低レベルにある低スロットル設定において、エンジンは、その作動を止めて停止する。
【0004】
停止と始動の急激に変化する負荷状態にさらされる液圧機械式トランスミッション(HMT)または液圧トランスミッション(HST)は、車両スロットルが低出力用に設定されているときに、伝達トルクが車両駆動系からエンジン出力シャフトに向けられるのを阻止しうる手段を備えていなければならない。
【0005】
負荷状態の変更は、通常、HMT比またはHST比の設定を調整することによって、または、エンジンとトランスミッションとの間にクラッチ機構を設けて、エンジン速度を低速に維持することにより処理される。実際には、トルクを、エンジンに戻るように一方向に伝達するために、ワンウェイベアリングのような逆転機構が設けられることもある。これによって、エンジンは、一方向には加速されるが、逆方向には減速されるようになる。
【0006】
一般に、このような手法を用いて、トランスミッションにより、エンジンにエンジンが停止するような負荷がかけられることが防止される。しかし、クラッチの欠点は、車両が逆方向へ惰性走行することを可能にするということである。さらに、クラッチは摩擦に基づいているから、磨耗して、トルク伝達能力が低下したり、最終的に故障したりするおそれがある。
【0007】
エンジンの停止を防止するために、HMT比やHST比を調整するという選択肢にも欠点がある。詳しく言うと、これらの比を設定するハードウェアが与えることができる応答よりも速い応答を必要とする状態が存在するからである。調整を、比を減らすように行うべきか、それとも、増やすように行うべきかを、ロジック回路は判定しなければならない。また、この判定のためには、エンジン停止を防止するために必要な遮断を与えるために、エンジンとトランスミッションとの間で、トルクを伝達する必要がある方向がわからなければならない。したがって、比を調整しなければならない方向は、運転者の入力、減速要件、ブレーキの印加による外部負荷、および/または地形に依存することとなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の第1の目的は、あらかじめ定められた状態の下で、エンジンを停止させないように液圧回路を操作する、改善された方法を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、車両の惰性走行を防止することである。
【0010】
本発明のさらに別の目的は、クラッチを不要にする液圧回路を提供することである。
【0011】
本発明のこれらおよび他の目的、特徴、または利点は、本明細書および請求の範囲から明白になると思う。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、液圧回路を備える車両を操作する方法に関する。この方法は、第1および第2の流体ラインを介して、第2の液圧キットに流体接続されている第1の液圧キットを有する液圧回路を用意するステップを含んでいる。この液圧回路は、さらに、第1および第2の流体ラインを介して、第1および第2の液圧キットに並列に接続されているバイパス弁を備えている。バイパス弁は、液圧回路内の圧力を低下させるために、あらかじめ定められた状態が出現したときに、バイパス弁が開くように制御される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、フォークリフト、スキッドローダなどの車両の車輪を駆動するために、通常、エンジンと組み合わせて用いられる液圧回路10を示している。液圧回路10は、当技術分野において公知のように、斜板14を有しており、チャージポンプ16に接続され、かつ、リザーバ18と流体接続している液圧ポンプのような第1の液圧キット12を備えている。第1の液圧キット12は、同様に、リザーバ22と流体接続している第2の液圧キット20、すなわち液圧モータと流体接続されている。第1の液圧キット12、すなわち液圧ポンプと、第2の液圧キット20すなわち液圧モータとは、第1および第2の流体ライン24および26を介して、流体接続されている。第1および第2の流体ライン24および26は、また、逆止弁システム28に流体接続されている。したがって、チャージポンプ16を介して、リザーバ30からのさらなる流体を、液圧回路に供給することができる。
【0014】
さらに、第1の液圧キット12と第2の液圧キット20との間に、バイパス弁32が流体接続されている。詳細には、バイパス弁32は、第1の流体ライン24と第2の流体ライン26とを流体接続させているバイパス流体ライン34内で、第1および第2の液圧キット12および20と並列に流体接続されている。
【0015】
一実施形態として、バイパス弁32は、当技術分野において公知のように、デジタルデバイスすなわちデジタル弁であってもよい。それに代えて、バイパス弁32は、所望の操作を行うためのコントローラ36に電気的に接続された比例弁であってもよい。第1の液圧キット12と第2の液圧キット20との間に、並列にバイパス弁を配置することによって、第1の流体ライン24と第2の流体ライン26との間のバイパス弁が開いたときに、システム内の圧力が低下する。したがって、斜板角度、および液圧機械式トランスミッションの液体レッグを形成している2つの液圧キットの速度に関係なく、液圧機械式トランスミッションの液体レッグを通過するトルクは低下する。
【0016】
好適な一実施形態においては、バイパス弁32は、コントローラ36に電気的に接続された比例バイパス弁である。コントローラ36は、液圧回路10を制御および操作するために、斜板14、スロットル38、エンジン速度40、車両速度42、ブレーキ44、およびギア選択46に関する入力信号を受ける。具体的には、これらの入力信号の全てを監視することによって、コントローラは、液圧回路10を操作するための信号を、斜板ドライバ48およびバイパス弁32に送ることができる。
【0017】
動作時、バイパス弁32が開くと、液圧回路10内の液圧が低下し、その結果、エンジンにかかるトルク負荷が制限される。バイパス弁の開度は、2つの変数を監視することによって制御される。第1の変数は、第1の液圧キット12、すなわち可変液圧ユニットの斜板14の位置によって定められる、液圧機械式トランスミッション比百分率である。第2の変数は、車両速度とエンジン速度との相対速度比として定められる、実際の車両速度比百分率、および液圧機械式トランスミッション比百分率と、車両速度比百分率との大きさが同じになるように、歯車に応じて調整するための一定のスケーリングパラメータである。
【0018】
バイパス弁32が開いた後、液圧機械式トランスミッション比百分率が0に戻れば、バイパス弁32を、車両速度比百分率のみに基づいて閉じることができる。車両の停車時には、バイパス弁32を流れる液流は少ないから、バイパス弁32を急速に閉じてもよい。しかしながら、車両の動力学にしたがって、例えば、車両が丘の上にあるときのように、車両がたどっている傾斜にしたがって、車両が走行している場合には、バイパス弁32が、ゆっくり閉じるように調整しなければならない。具体的には、トランスミッションを通じて車両に停止トルクが維持されるように、閉じる速度を調整しなければならない。
【0019】
しかし、停止トルクは、エンジン制動トルクレベルを超過するほど大きくなることはできない。それは、エンジン速度の上昇、またはエンジン停止のどちらかをもたらす。バイパス弁32が、両方向性に作動するから、流体流は、車両走行または負荷の方向に関係なく、液圧ループの高圧側から低圧側に進む。
【0020】
バイパス弁32の動作は、バイパス弁32が液圧回路内の圧力を低下させるように作動する必要のある、あらかじめ定められた一連の状態に制限されている。1つのあらかじめ定められた状態は、通常の減速中に生じる。通常の減速中に、エンジンが、その起動速度に達したとき、液圧機械式トランスミッション比百分率は、0パーセントよりも大きくなることがある。さらに、車両が走行しているということは、実際の車両速度比百分率も、0パーセントよりも大きいということを意味している。したがって、エンジン、トランスミッション、またはドライブラインのいずれかは、車両を停車させるために必要な車輪から、トランスミッションを通じてエンジンに達する、いかなるトルクも吸収しなければならない。
【0021】
詳細に述べると、車両が走行する速度は、液圧機械式トランスミッション比百分率、および、丘の傾斜、および/または車両速度と傾斜とによって運動量に転換される車両重量などの外部負荷に依存する。液圧機械式トランスミッションの制御は、通常、なだらかな減速を行わせるように限定されている。この状態の下では、バイパス弁の開度は、液圧機械式トランスミッション比百分率と、実際の車両速度比百分率との間の差によって決定される。この差が、あらかじめ定められたオフセット量よりも大きければ、バイパス弁は、あらかじめ定められたオフセット量を超えた差分の大きさに比例して開けられる。
【0022】
このバイパス弁ロジックを実行すると、エンジン速度が、低アイドル速度設定値に達したとき、バイパス弁は、液圧機械式トランスミッション比百分率が0パーセントに達するまで、液圧機械式トランスミッション比百分率と、エンジン速度に対する車両速度比百分率との間の差の大きさに応じて開かれる。液圧機械式トランスミッション比百分率が0パーセントに達した後、バイパス弁流路面積は、エンジン速度に対する車両速度比百分率によって決定されるレベルまで開かれる。
【0023】
車両速度とエンジン速度との比が、あらかじめ定められた設定値となると、バイパス弁は完全に閉じられる。この設定値は、エンジン動トルクが、エンジン停止をもたらすことなく、車両を減速させ続けるのに十分なレベルであるように、あらかじめ定められている。バイパス弁を開く時点を、低アイドル速度設定値よりも低いエンジン速度における時点まで遅らせることによって、エンジン制動が低スロットル位置において最小になる速度までエンジン制動を下げるように、エンジンを用いることができる。
【0024】
バイパス弁32は、丘上の車両速度値を制限するためにも用いられる。車両は、バイパス弁を開きながら丘を下って行くときに、加速される。車両速度が、あらかじめ定められた値に達すると、通常は、エンジン速度に対する車両速度比が増加するにつれて開いていくバイパス弁32を、車両速度比のさらなる増加とともに閉じるように制御することができる。これにより、液圧制動は可能となり、エンジン速度に与える影響を最小として、丘上の車両速度を制限することとなる。
【0025】
バイパス弁32を開くためにあらかじめ定められた別の1つの状態は、運転者が、非常停車するときのように、スロットルをオフにしながら急ブレーキ操作を行うときに生じる。エンジン速度、車両速度、スロットルコマンド、およびエンジン減速の全てが、非常停車が作動していることを指示したときに、バイパス弁32が開かれる。バイパス弁32の開度は、液圧機械式トランスミッション比百分率と、エンジン速度に対する車両速度比百分率との差によって決定される。
【0026】
非常停車と連動して、制御ロジックは、さらに、液圧機械式トランスミッション比百分率を、あらかじめ定められた量だけ、実際の車両速度比より低いレベルに設定し直す。これによって、液圧機械式トランスミッション比百分率は、急速に、より0パーセントに近くなり、エンジンへの負荷が軽減される。さらに、これによって、液圧機械式トランスミッション比百分率と、実際の物理的な車両速度比百分率とは、よりよく一致するようになる。したがって、斜板14の位置が、車両速度比百分率を0パーセントに導くコマンドに厳密に適合するように定められ、バイパス弁32を通る流量は、ほんの一時的に多くなった後、急速に、非常に少ないレベルまで低下する。
【0027】
非常停車の間に、車両の停車に先立って、スロットルの回復が始まった場合には、斜板14は、すでに、エンジン速度を回復させることを可能にする位置に戻っているが、車両による加速に遅れをもたらすほどではない。これらの2つの動作は、ともに、非常停車中のエンジンの停止を防止する。
【0028】
あらかじめ定められたさらに別の1つの状態は、エンジンが作動しておらず、かつ、車両の走行を可能にするためにバイパス弁32を開かなければならないときである。詳細に述べると、バイパス弁32を開くことによって、液圧機械式トランスミッション比百分率が0パーセントでなくなると、車両を走行させて、ギアをシフトすることができる。しかし、車両速度値を制限する必要があるため、開度は、車両速度の増加とともに減らされる。第1および第2の液圧キット12および20の内部漏洩によって車両は走行するが、車両速度は、バイパス弁を開くことによって制限される。
【0029】
あらかじめ定められた別の1つの状態は、バイパス弁32を開く、あらかじめ定められた別の状態に続いて、車両が、車両推進を再び得ようと試みるときに生じる。これは、バイパス弁32が、正しいタイミングで閉じられることを必要とする。最小スロットル入力の低加速状態下で、バイパス弁32を早急に閉じると、バイパス弁の液流の急速な低下というような、重大な反射運動が生じる。これによって、圧力の急速な上昇、したがって、トランスミッションを通過するトルクの増加が生じる。さらに、スロットルが大きく変化すると、運転者は、車両の加速度を大きくするために、液圧機械式トランスミッションを通過して伝達されるトルクを急速に増加させようとする。
【0030】
したがって、スロットルの再作動中のバイパス弁32の閉止は、スロットルコマンド値によって制御される。スロットルコマンド値が大きければ大きいほど、バイパス弁を、与えられた開度から閉じるまでに要する時間は、より短かくなる。バイパス弁32が閉じてしまえば、それ以上の動作は不要である。スロットルコマンドが与えられた後、バイパス弁が閉じるまでに要する時間は、バイパス弁が開いていればいるほど、より長くなる。
【0031】
図3および図4は、バイパス弁32を用いた液圧回路を有する車両の作動状態を示すグラフである。グラフのx軸は、時間(単位:秒)を表わしている。一方、グラフの左側のy軸は、百分率を表わしており、また、グラフの右側のy軸は、毎分の回転数、すなわちrpmを表わしている。詳細には、これらのグラフは、バイパス弁百分率50、液圧機械式トランスミッション比百分率52、実際の車両速度比百分率54、さらに、rpmで測定したエンジン速度56および車両速度58を、時間の関数として示している。
【0032】
図3は、バイパス弁を用いた減速状態を示しており、一方、図4は、急ブレーキすなわち非常停車の状態を示している。両例において、バイパス弁の使用によって、エンジン速度および車両速度は、エンジンを停止させないように、正確に維持される。
【0033】
したがって、液圧回路を有する車両を操作する改良された方法が提供される。バイパス弁32を用いると、バイパス弁自体が、クラッチと同じ機能を果たすとともに、両走行方向において、エンジン制動トルクを供給するという利点を得ることができる。クラッチを除去したことによって、摩耗、終局的故障、およびクラッチ交換の必要性という欠点が除かれる。バイパス弁は、閉ループ回路の両側間の相対圧力を制御して、エンジンと車両駆動車輪との間で、液圧機械式トランスミッションまたは液圧トランスミッション内からのトルクの大きさを制限する。その結果、惰性走行が制限されて、改善された動作が可能になり、少なくとも上述の目的の全てが達成される。
【0034】
当業者であれば、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明のデバイスに、種々の変更を加えることができることを認識しうると思う。このような変更例および変形例は、全て、請求の範囲内にあり、請求の範囲によって保護されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明による液圧回路の略図である。
【図2】液圧回路のための制御回路の略図である。
【図3】x軸を時間(秒)、y軸を百分率および回転数(rpm)としたときに、エンジン回転数および車両回転数の関数として、減速時のバイパス弁の開度を示すグラフである。
【図4】x軸を時間(秒)、y軸を百分率および回転数(rpm)としたときに、エンジン回転数および車両回転数の関数として、非常停車時のバイパス弁の開度を示すグラフである。
【符号の説明】
【0036】
10 液圧回路
12 第1の液圧キット
14 斜板
16 チャージポンプ
18、22、30 リザーバ
20 第2の液圧キット
24 第1の流体ライン
26 第2の流体ライン
28 逆止弁システム
32 バイパス弁
34 バイパス流体ライン
36 コントローラ
38 スロットル
40、56 エンジン速度
42、58 車両速度
44 ブレーキ
46 ギア選択
48 斜板ドライバ
50 バイパス弁百分率
52 液圧機械式トランスミッション比百分率
54 車両速度比百分率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1および第2の流体ラインを介して、第2の液圧キットに流体接続されている第1の液圧キットを有する液圧回路を用意するステップと、
前記第1の流体ラインと第2の流体ラインとの間に配置され、かつそれらの流体ラインに流体接続されるバイパス弁を用意するステップと、
前記液圧回路内の圧力を低下させるために、あらかじめ定めた状態が出現したときに、前記バイパス弁を作動させるステップ
とを含む、液圧回路を備える車両の操作方法。
【請求項2】
前記あらかじめ定められた状態は、液圧機械式トランスミッション比と、実際の車両速度比との間の差が、あらかじめ定められたオフセット量よりも大きい状態である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記バイパス弁は、前記あらかじめ定められたオフセット量を超過する差分に比例して開かれる、請求項2に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−109012(P2009−109012A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−276669(P2008−276669)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(501004464)サウアー ダンフォス インコーポレイテッド (31)
【Fターム(参考)】