説明

バリア性容器

【課題】水性の内容物の種類によって液切れ性を調整しながら同時に高いレベルのバリア性を出す技術を提供することを目的とする。
【解決手段】プラスチック製中空容器において本体内面が単層または多層のセラミック薄膜コートされ、その水素結合由来の表面自由エネルギーγs−hが3mN/m以下であることを特徴とするバリア性容器を提供する。
特に、セラミック薄膜がCVD法またはスパッタ、蒸着等のPVD法で形成されていることを特徴とする請求項1記載のバリア性容器や、セラミック薄膜の組成が酸化珪素、ダイヤモンドライクカーボンまたはアルミナを主成分とすることを特徴とするバリア性容器が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素結合由来の表面自由エネルギーγs−hが3mN/m以下であるバリア性容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ここ最近、中空容器は食品分野や医薬品分野等の様々な分野において、様々な機能を求められている。その中でプラスチック容器は、軽量、低コストという理由から包装容器として広く使用されている。さて容器としてボトル、カップ、トレー等があるが、内容物が水性の液体(粘性体含む)の種類によっては注ぎ時の液切れが悪くなることがあった。一方、組み合わせる容器によってもその液切れが悪くなることもあった。
【0003】
さて、近年ではバリア性を持たせるために特にプラスチック容器にコーティングする技術が様々開発されており、これらの技術によりバリア薄膜が形成されたプラスチック容器が広く出回っている。(例えば、特許文献1参照。)また、水性の内容物の種類によって液切れ性を調整しながら同時に高いレベルのバリア性を出すことは困難であった。
【0004】
特許文献等は以下の通り。
【特許文献1】実開平05−35660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記技術の問題点を解決するためになされたもので、従来は内容物の種類によって液切れ性を調整しながら同時にセラミック薄膜を用いて高いレベルのバリア性を出すことは困難であった。
【0006】
本発明は容器内面にバリア性のコートを行い、さらに液切れ性改良のため、その濡れ性を水性の内容物に合わせて調整するコートを積層して多層化する。これを同じ原料を用いたセラミック薄膜コートで実現することで安価であり、かつバリア性に水性の内容物の液切れ性を付加させた容器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を克服するために考え出されたものであり、請求項1記載の発明は、プラスチック製中空容器(例えばボトル、カップ、トレーなど)において本体内面が単層または多層のセラミック薄膜コートされ、その水素結合由来の表面自由エネルギーγs−hが3mN/m以下であることを特徴とするバリア性容器としたものである。
【0008】
請求項2記載の発明は、セラミック薄膜がCVD法またはスパッタ、蒸着等のPVD法で形成されていることを特徴とする請求項1記載のバリア性容器としたものである。
【0009】
請求項3記載の発明は、セラミック薄膜組成が酸化珪素、ダイヤモンドライクカーボンまたはアルミナを主成分とすることを特徴とする請求項1または2記載のバリア性容器としたものである。
【0010】
代表的なコーティング法としては以下のものが挙げられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は容器内面にバリア性のコートを行い、さらに液切れ性改良のために濡れ性を水性の内容物に合わせて調整するコートを積層して多層化する。これを同じ原料を用いたセラミック薄膜コートで実現することで安価であり、かつバリア性に内容物の液切れ性を付加させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を1実施例に基づいて説明するがこれに限定されるものではない。
【0013】
プラスチック容器として単層のPETボトルを用いこれにプラズマ助成式CVD法により、プロセスガスの化学反応により容器表面に薄膜を形成させた。その装置構成としては、例えば図−1に示すようにマイクロ波における円筒型空洞共振器を形成する金属容器(1)内に石英ガラス等による円筒管(2)があり、その円筒管内部に成膜対象物であるPETボトル(3)が配置され、円筒管内部を真空吸引して、さらにガス導入菅(4)より原料ガスを注入する。このとき使用できる原料ガスについては、主ガスとしてヘキサ・メチル・ジ・シロキサン(以下HMDSOと称する)の他、トリ・メチル・シロキサンなどを用いることが可能で、また、サブガスとしては、酸素の他、窒素、などを用いることが可能である。成膜された層はいわゆるセラミック層SiOxCy(x=1〜2.2/y=0.3〜3)を主成分とする。プラズマを発生させるためのマイクロ波電力はマイクロ波発振器(5)によって生成され、導波管(6)を介して円筒型空洞共振器内部へと導かれる。そしてこのマイクロ波エネルギーによって、容器内面(7)付近でプラズマが発生する。
【0014】
上記波源としてマイクロ波以外にもプラズマ助成式CVD成膜が可能な高周波電力で印加することも可能である。ここで用いられるボトルの基材としてはPET以外に、PE、PP、PIなどを選ぶことが可能であり、ブロー成形、射出成形、押出成形等により容器の形状に成形する。
【0015】
これらの積層体を用いて包装体に展開した場合の代表例は以下の通りになる。
構成1)ボトル基材/バリア層/←最内層側
構成2)ボトル基材/バリア層/濡れ性調整層←最内層側
なお、バリア層と濡れ性調整層がセラミック薄膜コートである。
【0016】
この場合、バリア層のみの構成で水素結合由来の表面自由エネルギーγs−hが3mN/m以下を実現する構成1の構成が製造上でも容易だが、
上記の構成例に限らず、様々なボトル、カップやトレー等の容器と原料ガス、波源を組み合わせることで、水性の内容物の液切れ可能なバリア性容器を実現することが可能となった。
【実施例1】
【0017】
PETボトルへのセラミック薄膜コートサンプルの作成
ポリエチレンテレフタレートで延伸成形した容器500ml、口内径25mm、平均肉厚0.5mmの円筒容器(PETボトル)をプラズマ助成式CVD法を用いて成膜した。図1に示すようにSUS304で作成したマイクロ波における円筒型空洞共振器を形成する金属容器(1)内に石英ガラス等による円筒管(2)があり、その円筒管内部に成膜対象物であるPETボトル(3)が配置され、円、筒管内部を0.01torrまで真空吸引して一定減圧状態を保つ。さらにバリア性のコートを行うためガス導入菅(4)より原料ガスHMDSOの流量を10ml/min、酸素の流量を50ml/min注入することで0.1torrの真空圧力に調整してからプラズマを発生させるためのマイクロ波電力はマイクロ波発振器(5)によって生成され、導波管(6)を介して円筒型空洞共振器内部へと導かれる。そしてこのマイクロ波エネルギーによって、容器内面(7)付近でプ
ラズマが発生する。2.45GHzのマイクロ波で5sec間プラズマ成膜した。印加電力は200Wだった。
【0018】
上記の作成したセラミック薄膜コートPETボトルの評価サンプル作成・評価
容器内面の表面自由エネルギーγs−hは内面を20mm×50mm角に切り出し表面自由エネルギーγsを規定するのに必要な分子間力群を拡張Fowkes理論にもとづいて各々の表面自由エネルギーであるロンドン力(分散力)γs−d、双極子力γs−p、水素結合力γs−hに分けて算出した。このため上記3種の表面自由エネルギーを以下、蒸留水、ジヨードメタン、1−ブロモナフタレンの3種試薬を用いて協和界面科学社のFACE surface free energy analyzing system
Model EG−25で測定した。
【0019】
また、アクリル板とエポキシ系接着剤を用いて簡易蓋材として密封された容器の酸素バリア性をMOCON社のOXTRANで測定した。
【0020】
実施例1では、原料ガスHMDSOの流量を10ml/min、酸素の流量を50ml/min注入することでコートし、さらに原料ガスHMDSOの流量を10ml/min、酸素の流量を0ml/min注入することでコートを積層して多層化し、その酸素バリアと表面自由エネルギー、接触角、蒸留水の切れ性を表1に記す。
【実施例2】
【0021】
比較例1
原料ガスHMDSOの流量を10ml/min、酸素の流量を50ml/min注入することでコートし、その酸素バリアと表面自由エネルギー、接触角、蒸留水の切れ性を表1に記す。
【実施例3】
【0022】
比較例2
原料ガスHMDSOの流量0ml/min、酸素の流量0ml/minとしたPETボトル自体の酸素バリアと表面自由エネルギー、接触角、蒸留水の切れ性を表1に記す。
【0023】
セラミック薄膜コートをプラズマ助成式CVD法によりボトル、カップやトレーの内面に成膜することで容器内面にバリア性のコートを行い、さらに液切れ性改良のためその濡れ性を水性の内容物に合わせて調整するコートを積層して多層化する。これを同じ原料を用いたセラミック薄膜コートで実現することで安価であり、かつバリア性に内容物の液切れ性を付加させることが可能となる。
【0024】
従来のPETボトルに相当する比較例2では蒸留水の場合はその水素結合由来の表面自由エネルギーγs−hが4.5mN/mあることから本来の蒸留水が持つ水素結合由来の表面自由エネルギーγl−hが42.4mN/mに対して引き込む力が弱いため濡れ広がり難くなる。(接触角で65.2゜)但し、液切れは十分とは言えない。また酸素バリアを発現するには至っていない。その酸素バリア性は0.0800fmol/pkg/s/paである。
【0025】
そこで、単層でセラミック薄膜コートした比較例1では酸素バリア性は0.0070fmol/pkg/s/paを発現することが可能になった。但し、本件の原料ガス、サブガス流量条件では水素結合に寄与するOH基が導入され易くその水素結合由来の表面自由エネルギーγs−hが27.5mN/mと高いため上記の蒸留水が持つ水素結合由来の表面自由エネルギーγl−hが42.4mN/mに対して引き込む力が強くなるため蒸留水は濡れ広がり易く(接触角で20.3゜)液切れできない。
【0026】
一方、ボトル内面に多層で原料ガス、サブガスの流量を変えてコートする条件である実施例1では酸素バリア性はさらに向上し0.0050fmol/pkg/paになり、さらに積層する2回目の液切れ性改良のために濡れ性を水性の内容物に合わせて調整するコートでは水素結合に寄与するOH基を極力少なくすることができる。その結果、水素結合由来の表面自由エネルギーγs−hも1.2mN/mとなり、非常に低いため上記の蒸留水が持つ水素結合由来の表面自由エネルギーγl−hが42.4mN/mに対して引き込む力がほとんど発生せず蒸留水は濡れ広がらない。(接触角で82.5゜)すなわち、液切れは十分であるといえる。
【0027】
これらの条件は、原料ガス、サブガスの流量や波源の種類、印加電力により変わってくるため、特にこの範囲に限定するものではない。適宜調整が可能である。
【0028】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0029】
中空容器は食品分野や医薬品分野等の様々な分野において、様々な機能を求められているプラスチック容器。特にその中でも、軽量、低コストという理由から包装容器として広く使用されている容器としてボトル、カップ、トレー等であり、さらに内容物が水性の液体(粘性体含む)の種類によっては注ぎ時の液切れが悪くなることがあったり、組み合わせる容器によってもその液切れが悪くなることもあった容器に好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】マイクロ波CVD成膜装置の概略断面図である。
【符号の説明】
【0031】
(1):円筒型空洞共振器を形成する金属容器
(2):石英ガラス等による円筒管
(3):PETボトル
(4):ガス導入菅
(5):マイクロ波発振器
(6):導波管
(7):容器内面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック製中空容器において本体内面が単層または多層のセラミック薄膜コートされ、その水素結合由来の表面自由エネルギーγs−hが3mN/m以下であることを特徴とするバリア性容器。
【請求項2】
セラミック薄膜がCVD法またはスパッタ、蒸着等のPVD法で形成されていることを特徴とする請求項1記載のバリア性容器。
【請求項3】
セラミック薄膜の組成が酸化珪素、ダイヤモンドライクカーボンまたはアルミナを主成分とすることを特徴とする請求項1または2記載のバリア性容器。

【図1】
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【公開番号】特開2006−27712(P2006−27712A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212675(P2004−212675)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】