説明

バリア情報提供システム及び方法とこれに用いる低速車両

【課題】 走行中の低速車両からバリア情報を自動的に収集してそのバリア情報を地図情報に対応づけられるようにし、安価でかつ普及し易いバリア情報提供システムとする。
【解決手段】 本発明は、バリア情報を含むプローブ情報を生成する複数の低速車両(車いす)3と、この複数の低速車両3から収集したプローブ情報に基づいてバリア情報を地図情報と対応づけ、この地図情報と対応づけられたバリア情報を低速車両3に送信するサーバ装置2とを備えたバリア情報提供システム1である。上記低速車両3には、自車両の走行位置を検出する位置検出部16と、走行時に自車両に生じる振動又は傾斜度若しくはこれらの双方に基づいてバリア情報を自動的に生成するバリア情報生成部11,12,22と、走行位置とバリア情報とを含むプローブ情報をサーバ装置2に送信するためのデータ送信部である携帯電話機8が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリア情報を含むプローブ情報を複数の低速車両から収集し、そのプローブ情報に基づいて地図情報と対応づけられたバリア情報を、低速車両に提供するようにしたバリア情報提供システム及び方法と、これに用いる低速車両に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、高速走行が可能な乗用車の技術分野においては、自車両を出発地点から目的地点まで誘導する経路探索装置(例えば、車載ナビゲーション装置)が既に周知である。この経路探索装置は、出発地点から目的地点までの最適経路を所定の経路探索ロジックを用いて演算し、この演算結果である最適経路を、ディスプレイやスピーカ等の出力装置を介して画像や音声で搭乗者に案内するものである。
かかる最適経路の探索手法は、例えば、リンクコストが最小となる最適経路を特定の経路探索ロジックによって算出するのが一般的であり、この経路探索ロジックとしては、例えばダイクストラ法やポテンシャル法が利用される(特許文献1参照)。
【0003】
このように、従来の経路探索装置は、リンクコストが最小となるような最適経路を案内するが、この場合のリンクコストは、専ら一般乗用車が走行する場合の旅行時間に基づいており、車両がすべてのリンクを無理なく通行可能であるという前提に立っている。
従って、従来の経路探索装置を車いす等の低速車両にそのまま転用すると、案内された経路に大きな傾斜や段差があったり、案内された経路が凹凸の激しい走行困難な路面状態であったりする場合、かかる路面を嫌うユーザは、案内された経路とは別の経路を自力で探す必要がある。
【0004】
そこで、傾斜や段差の有無といった場所の特徴量を算出するための基準となる比較対象を含むように撮影された画像に基づいて、比較対象に予め定められた基準値を用いて場所の特徴量を推定し、この場所の特徴量を画像撮影場所の位置情報に対応づけて地図情報として記憶する、地図情報の取得方法が提案されている(特許文献2参照)。
この取得方法によれば、場所の特徴量が画像撮影場所の位置情報に対応づけて地図情報として記憶されているので、この地図情報を車いす側の端末装置にダウンロードして表示することにより、車いすのユーザは、傾斜や階段等の有無といった場所の特徴を予め察知することができる。
【0005】
【特許文献1】特開平7−103777号公報
【特許文献2】特開2002−297611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の地図情報の取得方法では、撮影画像に基づいて場所の特徴量(バリア情報)を推定するので、その撮影画像を地図情報と対応づけるために複雑な画像認識アルゴリズムが必要であるし、データ収集のために比較的高価な撮影装置(カメラ)が必要であるから、システムが高騰化するという欠点がある。
また、撮影画像によって場所の特徴量をデータ収集する方法では、ユーザ自身が画像の撮影を行うのに非常に手間がかかるので、なかなか普及しないという欠点もある。
【0007】
本発明は、かかる問題点に鑑み、走行中の低速車両からバリア情報を自動的に収集してそのバリア情報を地図情報に対応づけられるようにして、安価でかつ普及し易いバリア情報提供システム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のバリア情報提供システム(請求項1)は、バリア情報を含むプローブ情報を生成する複数の低速車両と、この複数の低速車両から収集した前記プローブ情報に基づいて前記バリア情報を地図情報と対応づけ、この地図情報と対応づけられた前記バリア情報を前記低速車両に送信するサーバ装置と、を備えているバリア情報提供システムであって、前記低速車両は、自車両の走行位置を検出する位置検出部と、走行時に自車両に生じる振動又は傾斜度若しくはこれらの双方に基づいて前記バリア情報を自動的に生成するバリア情報生成部と、前記走行位置と前記バリア情報とを含む前記プローブ情報を前記サーバ装置に送信するためのデータ送信部と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明のバリア情報提供システムによれば、低速車両のバリア情報生成部が、走行時に自車両に生じる振動又は傾斜度若しくはこれらの双方に基づいて前記バリア情報を自動的に生成し、データ送信部が、走行位置とバリア情報とを含むプローブ情報をサーバ装置に送信するので、走行中の低速車両からバリア情報を自動的に収集でき、プローブ情報を受けたサーバ装置において、バリア情報を地図情報に対応づけることができる。
このように、ユーザが画像の撮影を行わなくても、バリア情報をサーバ装置に収集できるので、複雑な画像認識アルゴリズムや高価な撮影装置が不要となり、システムを安価に構築できるとともに、バリア情報の収集が簡単であるため普及し易いシステムとなる。
【0010】
本発明のバリア情報提供システムにおいて、前記サーバ装置は、具体的には、前記地図情報を記憶する地図データベースと、前記地図情報と対応づけて前記バリア情報を記憶するバリアデータベースと、複数の前記低速車両から取得した前記プローブ情報に含まれる前記走行位置と前記バリア情報とに基づいて、前記バリアデータベースの前記バリア情報を更新する情報更新部と、を有するものを採用することができる(請求項2)。
【0011】
この場合、上記情報更新部が、複数の低速車両から取得したプローブ情報に含まれる走行位置とバリア情報とに基づいてバリア情報を更新するので、バリア情報の更新条件として統計的処理を実行することにより、正確なバリア情報をバリアデータベースに蓄積することができ、低速車両に提供するバリア情報の精度を向上することができる。
【0012】
本発明のバリア情報提供システムにおいて、前記バリア情報生成部は、具体的には、次の(1)又は(2)のセンサ若しくはこれらの双方と、このセンサの検出値に基づいて、前記バリア情報を構成するバリア種別を特定するバリア種別特定部とからなるものを採用することができる(請求項3)。
(1) 前記低速車両に生じる上下方向の振動を検出する第1のセンサ
(2) 前記低速車両に生じる傾斜度を検出する第2のセンサ
【0013】
また、この場合、前記バリア種別特定部が判定する前記バリア種別は、次の(a)〜(d)のうちの少なくとも1つの種別を含むことができる(請求項4)。
(a) 前記低速車両による走行が困難な凹凸路面を有する悪路
(b) 前記低速車両による走行が困難な傾斜度を有する傾斜路
(c) 前記低速車両による走行が容易なバリアフリールート
(d) 前記低速車両が通過困難な段差ポイント
【0014】
一方、本発明のバリア情報提供システムにおいて、前記低速車両は、前記地図情報を画面表示するとともに、前記バリア種別特定部で特定された前記バリア種別を、前記地図情報とともに識別可能に表示する画面表示部を備えていることが好ましい(請求項5)。
この場合、上記画面表示部が、バリア種別特定部で特定されたバリア種別を地図情報とともに識別可能に表示するので、この画面表示部を見たユーザがバリア種別を地図上で予め認識することができ、ユーザが低速車両で走行すべき経路を容易に判断できるようになる。
【0015】
また、本発明のバリア情報提供システムにおいて、前記低速車両又は前記サーバ装置は、前記低速車両の目的地までの最適経路を探索する経路探索部を備えていてもよい。
この場合、前記経路探索部として、前記バリアフリールートを優先的に前記最適経路として選択するものを採用すれば(請求項6)、悪路や傾斜路等のバリアルートを予め回避した最適経路をユーザに提供することができる。
【0016】
本発明の低速車両(請求項7)は、本発明のバリア情報提供システム(請求項1)に用いる低速車両であって、当該提供システム(請求項1)と同様の作用効果を奏する。
また、本発明のバリア情報提供方法(請求項8)は、本発明のバリア情報提供システム(請求項1)で行われる提供方法であって、当該提供システム(請求項1)と同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0017】
以上の通り、本発明によれば、低速車両のユーザが画像の撮影を行わなくても、バリア情報をサーバ装置に収集できるので、複雑な画像認識アルゴリズムや高価な撮影装置が不要であり、安価でかつ普及し易いバリア情報提供システムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
〔システムの全体構成〕
図1は、本発明のバリア情報提供システム1の全体構成とサーバ装置2の内部構成を示す機能ブロック図である。
図1に示すように、本実施形態の提供システム1は、サーバ装置2と、このサーバ装置2と通信可能な複数の低速車両3とから構成されている。
【0019】
なお、本明細書において、「低速車両」とは、平均速度が20km以下の車両、より好ましくは、人間が歩く程度の走行速度で走行する車両のことをいい、例えば、車いす、乳母車、リヤカー、人力車等がこれに含まれる。また、車いすの駆動方式は、電動及び人力のいずれであってもよい。
本実施形態のバリア情報提供システム1では、上記低速車両3の一例として、車いすが採用されている。
【0020】
本実施形態のバリア情報提供システム1は、予め入会登録された会員の車いす3自体をセンサとして、複数の車いす3からサーバ装置2がプローブ情報を収集し、メンバー間で相互に情報提供し合って運用することにより、サーバ装置2が各会員に対してバリア情報を提供するようにしたものである。
従って、この提供システム1によれば、通常の地図情報とともに、これらの情報には通常含まれていないバリア情報を、各会員に提供することができる。なお、本実施形態のバリア情報提供システム1では、サーバ装置2が、車いす3のユーザ4に対して最適経路の探索結果を提示するナビゲーション機能を備えている。
【0021】
本記提供システム1のサーバ装置2は、専用の通信回線を介して地図情報センタ5に接続されており、必要に応じて地図情報を当該センタ5から入手している。また、サーバ装置2は、インターネット網6を通じて携帯電話機8の無線基地局7と双方向で通信可能である。
各車いす3のユーザ(搭乗者)4が有する携帯端末である携帯電話機8は、無線基地局7と双方向で通信可能であり、この無線基地局7は上記インターネット網8に接続されている。このため、各車いす3は、ほぼリアルタイムでサーバ装置2との間で情報を送受信可能となっている。
【0022】
〔車載装置の構成〕
図2は、車いす3に搭載された車載装置9の構成を示す機能ブロック図である。
本実施形態の車載装置9は、加速度センサ11と、傾斜センサ12と、車輪速センサ13と、方位センサ14と、車載コンピュータ15とを含み、この車載コンピュータ15の通信インタフェースに前記携帯電話機8が接続されている。
また、携帯電話機8は、GPS(Global Positioning System )受信機16と、入力装置17と、画像表示部18とを備えている。
【0023】
加速度センサ11は、走行中の車いす3に発生する上下方向の加速度を検出するものである。この場合、例えば、車いす3が、砂利道、未舗装路、凸凹の激しいタイル路等の悪路を走行中であるとすると、加速度センサ11は、比較的高い周波数の振動や衝撃を継続して検出することになる。
傾斜センサ12は、走行中の車いす3に生じる前後方向(車両進行方向)の傾斜度と、左右方向の傾斜度とを検出可能である。
【0024】
この場合、例えば、車いす3が、段差を乗り上げるために前輪又は後輪を浮かせたとすると、傾斜センサ12は、前後方向の傾斜を比較的短時間だけ検出することになる。また、車いす3が、左右方向に傾斜した道路や、傾斜が急な坂道を走行中の場合には、傾斜センサ12は、左右方向の傾斜度や前後方向の傾斜度を比較的長い時間に亘って検出する。
更に、車輪速センサ13は、走行中の車いす3の車輪の回転速度を常時検出しており、方位センサ14は、走行中の車いす3の方位を常時検出している。
【0025】
一方、携帯電話機8に搭載されたGPS受信機16は、GPS衛星(図示せず)からの信号をリアルタイムで受信しており、前記車載コンピュータ15は、そのGPS信号に基づいて車いす3の走行位置(経緯度座標)を常時検出している。
なお、本実施形態では、GPS受信機16での位置検出ができないエリア(屋内又は地下等)を車いす3が通行する場合には、車輪速センサ13が検出した回転速度と、方位センサ14が検出した走行方向とにより、当該車いす3の走行位置が特定されるようになっている。
【0026】
携帯電話機8の入力装置17は、この電話機8に対して所定の入力操作を行うための押しボタン等よりなるヒューマンインタフェースである。
また、携帯電話機8の画面表示部18は、液晶パネル等よりなり、サーバ装置2から受信した地図情報(道路地図データを含む。)やこれに対応するバリア種別とともに、GPS受信機16等で検出された車いす3の現在位置を画面上に表示することができる。
【0027】
車載装置9の車載コンピュータ15は、HDDやメモリ等よりなる記憶装置20と、この記憶装置20から各種のコンピュータプログラムを読み出して実行する演算装置(CPU)21とを有している。
この演算装置21は、上記コンピュータプログラムの実行により実現される機能部として、バリア種別特定部22と、プローブ情報生成部23とを備えている。以下、この各機能部22,23が行う処理内容について説明する。
【0028】
まず、車載コンピュータ15のバリア種別特定部22は、加速度センサ11と傾斜センサ12による検出値に基づいて、自車両3の走行位置が、次の(a)〜(d)のうちのいずれのバリア種別に該当するかを特定する。
(a) 車いす3による走行が困難な凹凸路面を有する悪路
(b) 車いす3による走行が困難な傾斜度を有する傾斜路
(c) 車いす3による走行が容易なバリアフリールート
(d) 車いす3による走行が通過困難な段差ポイント
【0029】
このうち、(a)の悪路は、例えば、加速度センサ11で検出される所定の閾値以上の上下方向の加速度が、比較的短い周期で所定時間以上連続しているか否かによって判定される。また、(b)の傾斜路は、傾斜センサ12で検出される所定の閾値以上の左右方向又は前後方向の傾斜度が、所定時間以上連続しているか否かによって判定される。
(c)のバリアフリールートは、加速度センサ11で検出される上下方向の加速度が所定の閾値未満であり、かつ、傾斜センサ12で検出される左右方向及び前後方向の傾斜度が所定の閾値未満である状態が、所定時間以上継続しているか否かによって判定される。
【0030】
更に、(d)の段差ポイントは、傾斜センサ12で検出される前後方向の傾斜度が、所定の閾値以上で急激に変化したか否かによって判定される。
従って、本実施形態では、振動検出用の第1のセンサである加速度センサ11と、傾斜度検出用の第2のセンサである傾斜センサ12と、前記バリア種別特定部22とにより、走行時に自身の車いす3に生じる振動又は傾斜度若しくはこれらの双方に基づいて、上記バリア種別(a)〜(d)よりなるバリア情報を自動的に生成する、バリア情報生成部が構成されている。
【0031】
一方、車載コンピュータ15のプローブ情報生成部23は、サーバ装置2側にデータ送信するためのプローブ情報を生成する。このプローブ情報には、GPS信号に基づく走行位置と、その走行位置に対応する走行時刻と、その走行位置に対応するバリア種別よりなるバリア情報とが含まれる。
すなわち、プローブ情報生成部23が生成するプローブ情報のフレームには、バリア種別特定部22が特定する種別のデータ格納部があり、当該情報生成部23は、各走行位置に対応するバリア種別をそのデータ格納部に格納する。
【0032】
プローブ情報生成部23が生成したプローブ情報のデータは、記憶装置20に一時的に記憶され、一定のデータ量となった時点で、携帯電話機8を通じてサーバ装置2に送信される。
なお、サーバ装置2に対するプローブ情報のデータ送信は、必ずしも携帯電話機8を用いて行う必要はなく、車載装置9をユーザ4の自宅等にあるパソコン(PC)に接続し、このパソコンを用いてインターネットにアクセスして行うこともできる。また、この場合のデータ送信は、無線LANやブルートゥース(Bluetooth:登録商標)等の近距離無線通信装置を用いて行うこともできるし、車載装置9にWiMAX通信装置を搭載し、この装置を用いてリアルタイムでサーバ装置2にアクセスして行うこともできる。
【0033】
〔サーバ装置の構成〕
図1に示すように、サーバ装置2は、ワークステーション等よりなる処理コンピュータ26と、この処理コンピュータ26に接続された通信インタフェースよりなる第1及び第2通信部27,28と、処理コンピュータ26の外部記憶領域である各種データベース29〜31とから構成されている。
第1通信部27は、専用回線で地図情報センタ5に接続されている。また、第2通信部28は、インターネット網6を介して前記無線基地局7に接続され、この無線基地局7と車いす3の搭乗者の携帯電話機8との間で、無線通信による情報の送受信が行われる。
【0034】
各データベース29〜31のうち、地図データベース29には、道路地図データを含む地図情報が記録されている。道路地図データには、交差点データとリンクデータとが含まれている。
交差点データは、交差点IDと交差点位置とを対応付けたデータである。また、リンクデータは、特定リンクのリンクIDに対して、特定リンクの始点・終点・補間点の位置、特定リンクの始点に接続するリンクID、特定リンクの終点に接続するリンクID、及び、特定リンクのリンクコストを対応付けたデータよりなる。
【0035】
リンクコストは、例えば、特定リンクとその終点に接続するリンクの組み合わせの数だけ用意されており、特定リンクの始点に進入してから当該特定リンクの終点を退出し、次に接続するリンクの始点に進入するまでに要する時間として設定されている。
すなわち、リンクコストには、特定リンクの始点から終点までを走行するのに要するコスト(時間)と、その特定リンクの終点から次のリンクの始点までを走行するのに要するコスト(時間)、つまり、交差点通過に要するコストが含まれている。
【0036】
会員データベース30には、当該システム1に参加する登録会員の識別情報が保存されている。
また、バリアデータベース31には、複数の登録会員の車いす3から受信したプローブ情報より抽出された、前記(a)〜(d)のバリア種別よりなるバリア情報が保存されている。このバリア種別は、地図データベース29の道路地図データに対応づけられており、この対応づけは、例えば、道路地図データを構成する各リンクデータに対してそれぞれバリア種別を特定する方法で行われる。
【0037】
〔処理コンピュータの構成と処理内容〕
サーバ装置2の処理コンピュータ26は、HDDやメモリ等よりなる記憶装置32と、この記憶装置32から各種のコンピュータプログラムを読み出して実行する演算装置33とを含んでいる。
この演算装置33は、上記コンピュータプログラムの実行により実現される機能部として、バリア情報更新部34と、バリア情報提供部35と、経路探索部36とを備えている。以下、この各機能部34,35,36が行う処理内容について説明する。
【0038】
まず、処理コンピュータ26のバリア情報更新部34は、会員データベース30に記録されている登録会員からプローブ情報を受信すると、このプローブ情報に含まれる走行位置とバリア種別(バリア情報)と基づいて、バリアデータベース31におけるバリア種別を更新する。
具体的には、バリア情報更新部34は、複数の車いす3からのプローブ情報が収集されると、このプローブ情報から走行時刻、走行位置及びバリア種別を抽出し、一定期間内において同じ走行位置での同じバリア種別が所定回数(例えば、3回以上)以上検出されている場合には、当該バリア種別をその走行位置でのバリア種別であると特定する。
【0039】
そして、バリア情報更新部34は、上記走行位置に対応する道路地図データ(例えば、リンクデータ)を抽出し、道路地図データにバリア種別を対応づけて、当該バリア種別をバリアデータベース31に記録する。
このようにして、バリアデータベース31のバリア種別(バリア情報)が、各車いす3から送信されるプローブ情報に基づいて、逐次更新される。
【0040】
一方、バリア情報提供部35は、登録会員からの要求に応じて、地図情報とこれに対応づけられたバリア情報を登録会員に提供するものである。
具体的には、バリア情報提供部35は、登録会員の携帯電話機8からのアップリンク信号に、地図情報や経路探索の要求信号(車いす8の現在位置を含む。)が含まれている場合に、その車いす3の現在位置や探索経路周辺の道路地図データとバリア種別とを、地図データベース29及びバリアデータベース31から読み出し、それらのデータを、ダウンリンク信号に含めて登録会員の携帯電話機8に送信する。
【0041】
処理コンピュータ26の経路探索部36は、登録会員の携帯電話機8からのアップリンク信号に経路探索の要求信号が含まれている場合に、所定の探索ロジックに基づく経路探索処理を実行する。
例えば、経路探索部36は、出発地点から目的地点までの最小のリンクコストとなる最適経路を探索する、ダイクストラ法又はポテンシャル法を利用した経路探索ロジックを実行する。
【0042】
〔経路探索処理のフローチャート〕
図3は、本システム1を利用した経路探索処理を示すフローチャートである。
図3に示すように、まず、登録会員である車いす3のユーザ4が、携帯電話機8の入力装置17を操作して出発地点と目的地点を設定し、この情報を含む経路探索の要求信号をサーバ装置2に送信する(ステップS1)。この場合、出発地点の設定がない場合には、車いす3の現在位置が出発地点となる。
【0043】
上記出発地点と目的地点は、携帯電話機8を通じてサーバ装置2に送信され、処理コンピュータ26による経路探索処理が行われる。
すなわち、サーバ装置2の処理コンピュータ26は、前記経路探索部36を実行することより、設定された出発地点と目的地点とから、例えばリンクコストが最小となる最適経路を探索する(ステップS2)。
その後、処理コンピュータ26は、バリア情報提供部35を実行し、車いす3や最適経路周辺の道路地図データとこれに対応するバリア種別とを、地図データベース29及びバリアデータベース31から読み出す(ステップS3)。
【0044】
そして、処理コンピュータ26は、道路地図データ、バリア種別及び最適経路を当該車いす3に対するダウンリンク信号に格納し(ステップS4)、そのダウンリンク信号を、第2通信部28を通じて登録会員であるユーザ4の携帯電話機8に送信する(ステップS5)。
一方、ダウンリンク信号を受信したユーザ4の携帯電話機8は、道路地図データ、バリア種別及び最適経路を画面表示部18に表示する(ステップ6)。
【0045】
図4は、上記画面表示部18による道路地図とバリア種別の表示例を示す図である。
この画面表示部18では、道路地図データにバリア種別(前記(a)〜(d))が含まれている場合には、そのバリア種別を当該道路に識別可能に表示するようになっている。
例えば、図4に示す例では、前記(a)の悪路は、黒塗りの道路として表示され、前記(b)の傾斜路は、点線を施した道路として表示されている。
【0046】
また、前記(c)のバリアフリールートは、斜線を施した道路として表示され、前記(d)の段差ポイントは、道路の途中を分断する3本線で表示されている。
なお、図4に示す画面表示部18において、道路地図データに対応するバリア種別がない場合には、白抜きの通常表示になっており、また、図4で連続して並ぶ矢印群は、最適経路の案内表示である。
【0047】
上記画面表示部18を目視した車いす3のユーザ4は、自身の判断で最適経路を選択するか否かを判断し(ステップS7)、仮に最適経路を選択する場合には、車いす3をその最適経路に沿って走行させて、目的地点に到着することになる(ステップS8)。
この場合、経路探索部36が算出した最適経路は時間的に最適なルートであるから、このルート中には、悪路や傾斜路が含まれていることがあるが、図4に示すように、バリア種別(a)〜(d)が地図上に表示されておれば、ユーザ4が最適経路中のバリアを迂回して別ルートを選択することが可能になる。
【0048】
もっとも、本実施形態において、処理コンピュータ26の経路探索部36が、単にリンクコストを最小にする経路探索ロジックではなく、バリア種別が前記(a)の悪路や前記(b)の傾斜路になっているリンクや、前記(d)の段差ポイントを含むリンクを経路探索候補から外すことにより、前記(c)のバリアフリールートが優先的に最適経路として選択される経路探索ロジックを実行するようにしてもよい。
この場合、携帯電話機8の画面表示部18に表示される最適経路は、必ずバリアフリールートに沿った経路となる。
【0049】
本実施形態のバリア情報提供システム1によれば、車いす3側の加速度センサ11、傾斜センサ12及びバリア種別特定部22が、走行時に自身の車いす3に生じる加速度と傾斜度に基づいてバリア種別(バリア情報)を自動的に生成し、このバリア種別と走行位置とを含むプローブ情報を、携帯電話機8を介してサーバ装置2に送信するので、走行中の車いす3からバリア種別を自動的に収集でき、プローブ情報を受けたサーバ装置2が、バリア種別を道路地図データに対応づけることができる。
【0050】
従って、ユーザ4が画像の撮影を行わなくても、バリア情報をサーバ装置2に収集できるので、複雑な画像認識アルゴリズムや高価な撮影装置が不要であり、バリア情報提供システム1を安価に構築することができ、バリア情報の収集が簡単であるため普及し易いシステム1となる。
また、本実施形態のバリア情報提供システム1によれば、走行時に自身の車いす3に生じる加速度と傾斜度に基づいてバリア種別(バリア情報)を自動的に生成するので、車いす3のユーザ4が意識せずにバリア種別を収集できるとともに、撮影画像によるポイントごとの情報収集ではなく、車いす3が通行可能な道路や通行路に対して、広範囲の情報収集を行うことができる。
【0051】
〔その他の変形例〕
今回開示した実施形態は本発明の例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は、上記実施形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲とその構成と均等な意味及び範囲内での全ての変更が含まれる。
例えば、上記実施形態において、車いす3のユーザ4は、経路探索を除いて、地図情報とこれに対応するバリア情報の提供のみをサーバ装置2に要求することもできる。
【0052】
また、上記実施形態では、サーバ装置2が目的地点までの経路探索を行っているが、この経路探索を車いす3の車載装置9側で実行するようにしてもよい。
更に、上記実施形態では、サーバ装置2と車載装置9の間の情報通信を、携帯電話機8を通じて行っているが、例えば、サーバ装置2との情報通信を、インターネット通信可能なノートPC等の他の端末装置を用いて行うこともできる。
【0053】
また、上記実施形態では、各車いす3の車載装置9のバリア種別判定部22が、加速度センサ11及び傾斜センサ12の検出値に基づいてバリア種別を特定しているが、その検出値をそのまま走行位置とともにサーバ装置2に送信し、バリア種別の特定をサーバ装置2側で実行するようにしてもよい。
更に、上記実施形態では、車いす3に生じる上下方向の振動を検出する第1のセンサとして加速度センサ11を採用しているが、その上下方向の振動については、例えば、車いす3のサスペンションに設けた歪センサや、車いす3のシートに設けた応力センサによっても検出することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上の通り、本発明は、車いす等の低速車両3のユーザ4に対して、通行路のバリア情報を提供するものである。
このため、本発明は、例えば、国立公園、レジャーランド及び観光地といった、自動車の交通量が無いか或いは比較的少ない道路や通路のバリア情報を、低速車両3のユーザ4に提供するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】バリア情報提供システムの全体構成とサーバ装置の内部構成を示す機能ブロック図である。
【図2】車いすに搭載された車載装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図3】経路探索処理を示すフローチャートである。
【図4】画面表示部による道路地図とバリア種別の表示例を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1 バリア情報提供システム
2 サーバ装置
3 車いす(低速車両)
4 ユーザ
5 地図情報センタ
6 インターネット網
7 無線基地局
8 携帯電話機(データ送信部)
9 車載装置
11 加速度センサ(第1のセンサ:バリア情報生成部)
12 傾斜センサ(第2のセンサ:バリア情報生成部)
15 車載コンピュータ
16 GPS受信機(位置検出部)
17 入力装置
18 画面表示部
22 バリア種別特定部(バリア情報生成部)
23 プローブ情報生成部
26 処理コンピュータ
29 地図データベース
30 会員データベース
31 バリアデータベース
34 バリア情報更新部
35 バリア情報提供部
36 経路探索部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バリア情報を含むプローブ情報を生成する複数の低速車両と、この複数の低速車両から収集した前記プローブ情報に基づいて前記バリア情報を地図情報と対応づけ、この地図情報と対応づけられた前記バリア情報を前記低速車両に送信するサーバ装置と、を備えているバリア情報提供システムであって、
前記低速車両は、
自車両の走行位置を検出する位置検出部と、
走行時に自車両に生じる振動又は傾斜度若しくはこれらの双方に基づいて前記バリア情報を自動的に生成するバリア情報生成部と、
前記走行位置と前記バリア情報とを含む前記プローブ情報を前記サーバ装置に送信するためのデータ送信部と、を有することを特徴とするバリア情報提供システム。
【請求項2】
前記サーバ装置は、
前記地図情報を記憶する地図データベースと、
前記地図情報と対応づけて前記バリア情報を記憶するバリアデータベースと、
複数の前記低速車両から取得した前記プローブ情報に含まれる前記走行位置と前記バリア情報とに基づいて、前記バリアデータベースの前記バリア情報を更新する情報更新部と、を有する請求項1に記載のバリア情報提供システム。
【請求項3】
前記バリア情報生成部は、次の(1)又は(2)のセンサ若しくはこれらの双方と、このセンサの検出値に基づいて、前記バリア情報を構成するバリア種別を特定するバリア種別特定部とからなる請求項1又は2に記載のバリア情報提供システム。
(1) 前記低速車両に生じる上下方向の振動を検出する第1のセンサ
(2) 前記低速車両に生じる傾斜度を検出する第2のセンサ
【請求項4】
前記バリア種別特定部が特定する前記バリア種別は、次の(a)〜(d)のうちの少なくとも1つの種別を含む請求項3に記載のバリア情報提供システム。
(a) 前記低速車両による走行が困難な凹凸路面を有する悪路
(b) 前記低速車両による走行が困難な傾斜度を有する傾斜路
(c) 前記低速車両による走行が容易なバリアフリールート
(d) 前記低速車両が通過困難な段差ポイント
【請求項5】
前記低速車両は、前記地図情報を画面表示するとともに、前記バリア種別特定部で特定された前記バリア種別を、前記地図情報とともに識別可能に表示する画面表示部を備えている請求項4に記載のバリア情報提供システム。
【請求項6】
前記低速車両又は前記サーバ装置は、前記低速車両の目的地までの最適経路を探索する経路探索部を備えており、
前記経路探索部は、前記バリアフリールートを優先的に前記最適経路として選択する請求項4又は5に記載のバリア情報提供システム。
【請求項7】
バリア情報を含むプローブ情報を生成してサーバ装置に送信し、地図情報と対応づけられた前記バリア情報を前記サーバ装置から受信する低速車両であって、
自車両の走行位置を検出する位置検出部と、
走行時に自車両に生じる振動又は傾斜度若しくはこれらの双方に基づいて前記バリア情報を自動的に生成するバリア情報生成部と、
前記走行位置と前記バリア情報とを含む前記プローブ情報を前記サーバ装置に送信するデータ送信部と、を備えていることを特徴とする低速車両。
【請求項8】
走行時に低速車両に生じる振動又は傾斜度若しくはこれらの双方に基づいてバリア情報を自動的に生成して、そのバリア情報と自車両の走行位置とを含むプローブ情報を、複数の低速車両からサーバ装置に送信し、
前記走行位置と前記バリア情報とを含むプローブ情報に基づいて、前記バリア情報を地図情報に対応づけ、この地図情報と対応づけられた前記バリア情報を、前記サーバ装置から前記低速車両に送信することを特徴とするバリア情報提供方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−20702(P2010−20702A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182883(P2008−182883)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】