パワーモジュール用基板、パワーモジュール用基板の製造方法及びパワーモジュール
【課題】冷熱サイクル負荷時において、回路層の表面にうねりやシワが発生することを抑制でき、かつ、セラミックス基板と回路層との接合界面に熱応力が作用することを抑制でき、冷熱サイクル信頼性に優れたパワーモジュール用基板を提供する。
【解決手段】セラミックス基板11の一方の面に回路層12が接合されてなり、この回路層12の表面に電子部品が搭載されるパワーモジュール用基板10であって、回路層12は、アルミニウムの母相中に析出物粒子が分散された析出分散型のアルミニウム合金で構成されており、回路層12の断面の走査型電子顕微鏡観察において、回路層12のうちセラミックス基板11との接合界面部分には、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%未満とされた析出物欠乏層12Aが形成されており、回路層12の一方の面側においては、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%以上とされていることを特徴とする。
【解決手段】セラミックス基板11の一方の面に回路層12が接合されてなり、この回路層12の表面に電子部品が搭載されるパワーモジュール用基板10であって、回路層12は、アルミニウムの母相中に析出物粒子が分散された析出分散型のアルミニウム合金で構成されており、回路層12の断面の走査型電子顕微鏡観察において、回路層12のうちセラミックス基板11との接合界面部分には、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%未満とされた析出物欠乏層12Aが形成されており、回路層12の一方の面側においては、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%以上とされていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体素子等の電子部品が搭載される回路層を備えたパワーモジュール用基板、このパワーモジュール用基板の製造方法、このパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の中でも電力供給のためのパワー素子は発熱量が比較的高いため、これを搭載する基板としては、例えば、特許文献1に示すように、AlN(窒化アルミ)からなるセラミックス基板上に、回路層となるアルミニウム板がAl−Si系のろう材を介して接合されたパワーモジュール用基板が広く用いられている。
また、例えば特許文献2−4に示すように、セラミックス基板の上にアルミニウム合金部材を溶湯接合法によって接合して回路層を形成したパワーモジュール用基板が提案されている。
このようなパワーモジュール用基板においては、回路層の上に、はんだ層を介してパワー素子としての半導体素子が搭載され、パワーモジュールとして使用される。
【0003】
ここで、上述のパワーモジュールにおいては、使用時に冷熱サイクルが負荷されることになる。すると、セラミックス基板とアルミニウムとの熱膨張係数の差による応力がセラミックス基板と回路層との接合界面に作用し、接合信頼性が低下するおそれがある。そこで、従来は、純度が99.99%以上の4Nアルミニウム等の比較的変形抵抗の小さなアルミニウムで回路層を構成して熱応力を回路層の変形によって吸収することで、接合信頼性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−328087号公報
【特許文献2】特開2002−329814号公報
【特許文献3】特開2005−252136号公報
【特許文献4】特開2007−092150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、回路層を純度が99.99%以上(4Nアルミニウム)等の比較的変形抵抗の小さなアルミニウムで構成した場合、冷熱サイクルを負荷した際に、回路層の表面にうねりやシワが発生してしまうといった問題があった。このように回路層の表面にうねりやシワが発生すると、はんだ層を介して接合した半導体素子等の電子部品との接合が不十分となり、パワーモジュールの信頼性が低下することになる。
特に、最近では、パワーモジュールの小型化・薄肉化が進められるとともに、その使用環境も厳しくなってきており、半導体素子等の電子部品からの発熱量が大きくなっているため、冷熱サイクルの温度差が大きく、回路層の表面にうねりやシワがさらに発生しやすい状況になっている。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、冷熱サイクル負荷時において、回路層の表面にうねりやシワが発生することを抑制でき、かつ、セラミックス基板と回路層との接合界面に熱応力が作用することを抑制でき、冷熱サイクル信頼性に優れたパワーモジュール用基板、このパワーモジュール用基板の製造方法、このパワーモジュール用基板を備えたパワーモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明のパワーモジュール用基板は、セラミックス基板の一方の面に回路層が接合されてなり、この回路層の表面に電子部品が搭載されるパワーモジュール用基板であって、前記回路層は、アルミニウムの母相中に析出物粒子が分散された析出分散型のアルミニウム合金で構成されており、前記回路層の断面の走査型電子顕微鏡観察において、前記回路層のうち前記セラミックス基板との接合界面部分には、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%未満とされた析出物欠乏層が形成されており、前記回路層の一方の面側においては、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%以上とされていることを特徴としている。
【0008】
なお、回路層断面の走査型電子顕微鏡観察において観察される析出物粒子の粒径は、断面円形をなす粒径rの基準析出物粒子を想定し、この基準析出物粒子と同等の面積を有する析出物粒子の粒径をrとする。
また、析出物粒子の存在比率は、EPMAの面分析あるいはマッピングにより析出物粒子を構成する元素を含むことが確認できている粒子とそれ以外の箇所に二値化分離処理をした際の面積率で算出する。
【0009】
この構成のパワーモジュール用基板によれば、回路層がアルミニウムの母相中に析出物粒子が分散された析出分散型のアルミニウム合金で構成されており、前記回路層の一方の面側においては、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%以上とされていることから、回路層の一方の面側部分が析出強化されることになる。よって、回路層の一方の面側部分の変形抵抗が大きくなり、冷熱サイクル負荷時におけるうねりやシワの発生を抑制することが可能となる。なお、アルミニウムの母相には、アルミニウム以外の元素が固溶していてもよい。
【0010】
また、回路層のうち前記セラミックス基板との接合界面部分には、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%未満とされた析出物欠乏層が形成されているので、回路層とセラミックス基板とが、良好に接合されることになる。また、析出物欠乏層においては、変形抵抗が小さくなることから、セラミックス基板と回路層との熱膨張係数の差に起因する熱応力をこの析出物欠乏層によって緩和することができ、冷熱サイクル負荷時におけるセラミックス基板の割れの発生を抑制することができる。
【0011】
ここで、前記析出物欠乏層は、前記接合界面からの厚さが2μm以上50μm以下の範囲内に設定されていることが好ましい。
この場合、前記析出物欠乏層の前記接合界面からの厚さが2μm以上とされているので、セラミックス基板と回路層との熱膨張係数の差に起因する熱応力をこの析出物欠乏層によって確実に緩和することができ、冷熱サイクル負荷時における回路層とセラミックス基板との接合信頼性を向上させることができる。
また、前記析出物欠乏層の厚さは、セラミックス基板と回路層となるアルミニウム板とを接合する際における、これらセラミックス基板と回路層の界面に形成される溶融金属領域における溶融金属量によって決定される。よって、前記析出物欠乏層の前記接合界面からの厚さが50μm以下とされている場合には、セラミックス基板と回路層となるアルミニウム板との界面に形成される溶融金属領域における溶融金属量が抑えられることになり、余剰な溶融金属による染みの発生を抑制することができる。
【0012】
また、前記析出物粒子が、FeとMnを含有していることが好ましい。
この場合、FeとMnを含有する析出物粒子によって、回路層の一方の面側部分の変形抵抗を確実に高くすることができ、冷熱サイクル負荷時におけるうねりやシワの発生を抑制することが可能となる。また、回路層を構成するアルミニウム合金として、例えばA3003合金等を用いることができる。
【0013】
本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、セラミックス基板の一方の面に回路層が接合されてなり、この回路層の表面に電子部品が搭載されるパワーモジュール用基板の製造方法であって、回路層となる金属板として、アルミニウムの母相中に析出物粒子が分散された析出分散型のアルミニウム合金で構成されたアルミニウム板を準備し、このアルミニウム板と、セラミックス基板とを、ろう材を介して積層する積層工程と、積層された前記アルミニウム板と前記セラミックス基板とを積層方向に加圧するとともに加熱し、前記アルミニウム板と前記セラミックス基板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、この溶融金属領域を凝固させることによって、前記アルミニウム板と前記セラミックス基板とを接合して前記回路層を形成する凝固工程と、を備えており、前記加熱工程及び前記凝固工程により、前記回路層のうち前記セラミックス基板との接合界面部分に、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%未満とされた析出物欠乏層を形成することを特徴としている。
【0014】
この構成のパワーモジュール用基板の製造方法によれば、加熱工程において、回路層となるアルミニウム板とセラミックス基板との界面に介在させたろう材を溶融させることで、アルミニウム板とセラミックス基板との界面に溶融金属領域を形成し、凝固工程でこの溶融金属領域を凝固させているので、前記アルミニウム板と前記セラミックス基板とを接合することで回路層を形成することができる。また、加熱工程において、溶融金属領域を形成しているので、前記回路層のうち前記セラミックス基板との接合界面部分に、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%未満とされた析出物欠乏層を形成することが可能となる。すなわち、加熱工程において、ろう材が溶融するとともにアルミニウム板の一部も溶融し、溶融金属領域が形成されることになる。このとき、アルミニウム板中の析出物粒子が溶融金属領域に溶出し、析出物欠乏層が形成されることになる。ここで、ろう材箔の材質及び厚さ、加熱工程における加熱温度及び加熱時間を調整することで、溶融金属領域における溶融金属量が変化し、前記析出物欠乏層の厚さが制御される。
【0015】
また、本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、セラミックス基板の一方の面に回路層が接合されてなり、この回路層の表面に電子部品が搭載されるパワーモジュール用基板の製造方法であって、回路層となる金属板として、アルミニウムの母相中に析出物粒子が分散された析出分散型のアルミニウム合金で構成されたアルミニウム板を準備し、このアルミニウム板の接合面又はセラミックス基板の接合面のうちの少なくとも一方に、Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着して固着層を形成する固着工程と、この固着層を介して、前記アルミニウム板と前記セラミックス基板とを積層する積層工程と、積層された前記アルミニウム板と前記セラミックス基板とを積層方向に加圧するとともに加熱し、前記アルミニウム板と前記セラミックス基板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、この溶融金属領域を凝固させることによって、前記アルミニウム板と前記セラミックス基板とを接合して前記回路層を形成する凝固工程と、を備えており、前記加熱工程及び前記凝固工程により、前記回路層のうち前記セラミックス基板との接合界面部分に、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%未満とされた析出物欠乏層を形成することを特徴としている。
【0016】
この構成のパワーモジュール用基板の製造方法によれば、加熱工程において、回路層となるアルミニウム板とセラミックス基板との界面に介在させた添加元素を回路層側に拡散させることで、溶融金属領域を形成し、凝固工程でこの溶融金属領域を凝固させているので、前記アルミニウム板と前記セラミックス基板とを接合することで回路層を形成することができる。また、加熱工程において、溶融金属領域を形成しているので、前記回路層のうち前記セラミックス基板との接合界面部分に、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%未満とされた析出物欠乏層を形成することが可能となる。すなわち、加熱工程において、添加元素が回路層側に拡散することでアルミニウム板の一部が溶融し、溶融金属領域が形成されることになる。このとき、アルミニウム板中の析出物粒子が溶融金属領域に溶出し、析出物欠乏層が形成されることになる。ここで、添加元素の固着量、加熱工程における加熱温度及び加熱時間を調整することで、溶融金属領域における溶融金属量が変化し、前記析出物欠乏層の厚さが制御される。
また、Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素は、アルミニウムの融点を降下させる元素であるため、比較的低温条件において、アルミニウム板とセラミックス基板との界面に溶融金属領域を形成することができる。
【0017】
ここで、前記固着工程では、前記添加元素とともにアルミニウムを固着させることが好ましい。
この場合、前記添加元素とともにアルミニウムを固着させているので、添加元素を確実に固着させることができる。なお、前記添加元素とともにAlを固着させるには、前記添加元素とAlとを同時に蒸着してもよいし、前記添加元素とAlの合金をターゲットとして用いてスパッタリングを行ってもよい。
【0018】
また、前記固着工程は、めっき、蒸着、CVD、スパッタリング、コールドスプレー、又は、前記添加元素を含有する粉末が分散されたペースト若しくはインクの塗布によって前記添加元素を固着し、前記固着層を形成することが好ましい。
この場合、めっき、蒸着、CVD、スパッタリング、コールドスプレー、又は、前記添加元素を含有する粉末が分散されたペースト若しくはインクの塗布によって、前記添加元素を確実に固着でき、前述の固着層を形成することができる。また、前記添加元素の固着量を精度良く調整することが可能となる。
【0019】
本発明のパワーモジュールは、前述のパワーモジュール用基板と、このパワーモジュール用基板上に搭載される電子部品と、を備えたことを特徴としている。
この構成のパワーモジュールによれば、セラミックス基板と回路層との接合強度が高く、かつ、冷熱サイクル時において回路層の一方の面にうねりやシワが発生せず、回路層の一方の面に搭載された電子部品と回路層とを確実に接合することができる。よって、使用環境が厳しい場合であっても、その信頼性を飛躍的に向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、冷熱サイクル負荷時において、回路層の表面にうねりやシワが発生することを抑制でき、かつ、セラミックス基板と回路層との接合界面に熱応力が作用することを抑制でき、冷熱サイクル信頼性に優れたパワーモジュール用基板、このパワーモジュール用基板の製造方法、このパワーモジュール用基板を備えたパワーモジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【図2】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板を示す説明図である。
【図3】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板の回路層の走査型電子顕微鏡によるCOMPO像である。
【図4】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示すフロー図である。
【図5】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図6】図5におけるアルミニウム板とセラミックス基板との接合界面近傍を示す説明図である。
【図7】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【図8】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板を示す説明図である。
【図9】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板の回路層及び金属層の添加元素の濃度分布を示す説明図である。
【図10】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板の回路層及び金属層とセラミックス基板との接合界面の模式図である。
【図11】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示すフロー図である。
【図12】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図13】図12におけるアルミニウム板とセラミックス基板との接合界面近傍を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
図1に、本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板10を用いたパワーモジュール1を示す。
このパワーモジュール1は、回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12の表面にはんだ層2を介して接合された半導体チップ3と、ヒートシンク40とを備えている。ここで、はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層12とはんだ層2との間にNiメッキ層(図示なし)が設けられている。
【0023】
パワーモジュール用基板10は、図1及び図2に示すように、絶縁層を構成するセラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一面(図1及び図2において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他面(図1及び図2において下面)に配設された金属層13とを備えている。
【0024】
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAl2O3(アルミナ)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0025】
回路層12は、図5に示すように、セラミックス基板11の一方の面(図1、図2及び図5において上面)に、導電性を有するアルミニウム板22が接合されることにより形成されている。
この回路層12は、図3に示すように、アルミニウムの母相中に析出物粒子12Cが分散された析出分散型のアルミニウム合金で構成されており、本実施形態では、FeとMnとを含む析出物粒子が分散されたアルミニウム合金(例えば、A3003合金)の圧延板からなるアルミニウム板22がセラミックス基板11に接合されることにより形成されている。なお、回路層12の厚さは、0.1〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
【0026】
金属層13は、図5に示すように、セラミックス基板11の他方の面(図1、図2及び図5において下面)に、アルミニウム板23が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層13は、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板23がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。なお、金属層13の厚さは、0.1〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
【0027】
ヒートシンク40は、前述のパワーモジュール用基板10を冷却するためのものであり、図1に示すように、天板部41と、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路42とを備えている。ヒートシンク40(天板部41)は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
また、本実施形態においては、ヒートシンク40の天板部41と金属層13との間には、アルミニウム又はアルミニウム合金若しくはアルミニウムを含む複合材(例えばAlSiC等)からなる緩衝層15が設けられている。
【0028】
そして、図2に示すように、回路層12は、セラミックス基板11との接合界面側部分に配設された析出物欠乏層12Aと、この析出物欠乏層12Aに積層する本体層12Bと、を備えている。
ここで、析出物欠乏層12Aの接合界面からの厚さtは、2μm≦t≦50μmの範囲内に設定されている。
また、本体層12Bは、回路層12の一方の面(すなわち、半導体チップ3が搭載される搭載面)にまで延在している。
【0029】
そして、回路層12の断面を走査型電子顕微鏡で観察した結果、図3に示すように、セラミックス基板11との接合界面30側部分に配設された析出物欠乏層12Aにおいては、粒径0.1μm以上の析出物粒子12Cの存在比率が3%未満とされており、本体層12Bにおいては、粒径0.1μm以上の析出物粒子12Cの存在比率が3%以上とされている。すなわち、析出物欠乏層12Aと本体層12Bとでは、粒径0.1μm以上の析出物粒子12Cの分散状態が異なっているのである。
【0030】
なお、回路層12の断面の走査型電子顕微鏡観察において観察される析出物粒子12Cの粒径は、断面円形をなす粒径rの基準析出物粒子を想定し、この基準析出物粒子と同等の面積を有する析出物粒子12Cの粒径をrとした。
また、析出物粒子12Cの存在比率は、EPMAの面分析あるいはマッピングによりFeとMnを含むことが確認できている粒子とそれ以外の箇所に二値化分離処理をした際の面積率で算出した。
【0031】
以下に、前述の構成のパワーモジュール用基板10の製造方法について、図4から図6を参照して説明する。
【0032】
(積層工程S01)
まず、図4及び図5に示すように、セラミックス基板11の一方の面側に、回路層12となるアルミニウム板22(A3003合金の圧延板)が、厚さ5〜50μm(本実施形態では14μm)のろう材箔24を介して積層され、セラミックス基板11の他方の面側に、金属層13となるアルミニウム板23(4Nアルミニウムの圧延板)が厚さ5〜50μm(本実施形態では14μm)のろう材箔25を介して積層される。
なお、本実施形態においては、ろう材箔24、25は、融点降下元素であるSiを含有したAl−Si系のろう材(Al−7.5質量%Si)とされている。
【0033】
(加熱工程S02)
次に、積層工程S01において形成された積層体を、その積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm2)した状態で加熱炉内に装入して加熱する。この加熱工程S02によって、ろう材箔24、25とアルミニウム板22、23の一部とが溶融し、図6に示すように、アルミニウム板22、23とセラミックス基板11との界面にそれぞれ溶融金属領域26、27が形成される。ここで、加熱温度は550℃以上650℃以下、加熱時間は30分以上180分以下とされている。
この加熱工程S02においては、ろう材箔24が溶融するとともにアルミニウム板22の一部も溶融し、溶融金属領域26が形成されることになる。このとき、アルミニウム板22中の析出物粒子12Cが溶融金属領域26に溶出し、上述の析出物欠乏層12Aが形成されることになる。
【0034】
(凝固工程S03)
次に、積層体を冷却することによって溶融金属領域26、27を凝固させ、セラミックス基板11とアルミニウム板22、23とを接合する。このとき、ろう材箔24、25に含まれる融点降下元素(Si)がアルミニウム板22、23側へと拡散していくことになる。
このようにして、回路層12及び金属層13となるアルミニウム板22、23とセラミックス基板11とが接合され、本実施形態であるパワーモジュール用基板10が製造される。
【0035】
そして、このパワーモジュール用基板10の金属層13の他方の面側に、緩衝層15を介してヒートシンク40がろう付け等によって接合され、ヒートシンク付パワーモジュール用基板が形成される。また、回路層12の表面にはんだ層2を介して半導体チップ3を搭載することで本実施形態であるパワーモジュール1が製出される。
【0036】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板10においては、回路層12が、アルミニウムの母相中に析出物粒子が分散された析出分散型のアルミニウム合金からなるアルミニウム板22を接合することで構成されており、回路層12の一方の面側(すなわち、半導体チップ3が搭載される搭載面)においては、粒径0.1μm以上の析出物粒子12Cの存在比率が3%以上とされた本体層12Bが配設されていることから、回路層12の一方の面側部分が析出強化されることになる。
したがって、回路層12の一方の面側部分の変形抵抗が大きくなり、冷熱サイクル負荷時におけるうねりやシワの発生を抑制することが可能となる。よって、一方の面上に搭載された半導体チップ3と回路層12との間の接合信頼性を大幅に向上させることが可能となる。
【0037】
また、回路層12のうちセラミックス基板11との接合界面部分には、粒径0.1μm以上の析出物粒子12Cの存在比率が3%未満とされた析出物欠乏層12Aが形成されているので、回路層12とセラミックス基板11とが良好に接合されることになる。また、析出物欠乏層12Aにおいては、析出物粒子12Cの分散量が少なく変形抵抗が小さくなることから、セラミックス基板11と回路層12との熱膨張係数の差に起因する熱応力をこの析出物欠乏層12Aによって緩和することができ、冷熱サイクル負荷時におけるセラミックス基板11の割れの発生を抑制することができる。
【0038】
さらに、本実施形態では、析出物欠乏層12Aの接合界面からの厚さtが、t≧2μmとされているので、セラミックス基板11と回路層12との熱膨張係数の差に起因する熱応力をこの析出物欠乏層12Aによって確実に緩和することができ、冷熱サイクル負荷時における回路層12とセラミックス基板11との接合信頼性を向上させることができる。
また、析出物欠乏層12Aの厚さは、セラミックス基板11と回路層12の界面に形成される溶融金属領域26における溶融金属量によって決定される。よって、析出物欠乏層12Aの接合界面からの厚さtを、t≦50μmとすることにより、セラミックス基板11と回路層12となるアルミニウム板22との界面に形成される溶融金属領域26における溶融金属量が抑えられることになり、余剰な溶融金属による染みの発生を抑制することができる。
【0039】
また、本実施形態では、回路層12が、FeとMnを含有する析出物粒子12Cが分散されたアルミニウム合金(例えばA3003合金)で構成されているので、回路層11の一方の面側部分の変形抵抗を確実に高くすることができ、冷熱サイクル負荷時におけるうねりやシワの発生を抑制することが可能となる。
【0040】
また、本実施形態であるパワーモジュール用基板10の製造方法によれば、加熱工程S02において、回路層12となるアルミニウム板22とセラミックス基板11との界面に介在させたろう材24を溶融させることで、アルミニウム板22とセラミックス基板11との界面に溶融金属領域26を形成し、かつ、金属層13となるアルミニウム板23とセラミックス基板11との界面に介在させたろう材25を溶融させることで、アルミニウム板23とセラミックス基板11との界面に溶融金属領域27を形成し、凝固工程S03において、これら溶融金属領域26、27を凝固させているので、アルミニウム板22、23とセラミックス基板11とを接合することで、本実施形態であるパワーモジュール用基板10が製出されることになる。
【0041】
また、加熱工程S02において、アルミニウム板22とセラミックス基板11との界面に溶融金属領域26を形成することにより、回路層12のうちセラミックス基板11との接合界面部分に、粒径0.1μm以上の析出物粒子12Cの存在比率が3%未満とされた析出物欠乏層12Aを形成することが可能となる。ここで、ろう材箔24の材質及び厚さ、加熱工程S02における加熱温度及び加熱時間を調整することで、溶融金属領域26における溶融金属量が変化し、析出物欠乏層12Aの厚さを制御することが可能となる。
【0042】
次に、本発明の第2の実施形態について図7から図13を参照して説明する。
このパワーモジュール101は、回路層112が配設されたパワーモジュール用基板110と、回路層112の表面にはんだ層2を介して接合された半導体チップ3と、ヒートシンク140とを備えている。ここで、はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層112とはんだ層2との間にNiメッキ層(図示なし)が設けられている。
【0043】
パワーモジュール用基板110は、セラミックス基板111と、このセラミックス基板111の一方の面(図7において上面)に配設された回路層112と、セラミックス基板111の他方の面(図7において下面)に配設された金属層113とを備えている。
セラミックス基板111は、回路層112と金属層113との間の電気的接続を防止するものである。本実施形態では、セラミックス基板111は絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。また、セラミックス基板111の厚さは、0.2〜0.8mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0044】
図12に示すように、回路層112は、セラミックス基板111の一方の面に導電性を有するアルミニウム板122が接合されることにより形成されている。
この回路層112は、アルミニウムの母相中に析出物粒子が分散された析出分散型のアルミニウム合金で構成されており、本実施形態では、FeとMnとを含む析出物粒子が分散されたアルミニウム合金(例えば、A3003合金)の圧延板からなるアルミニウム板122がセラミックス基板111に接合されることにより形成されている。なお、回路層112の厚さは、0.1〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.4mmに設定されている。
【0045】
また、金属層113は、セラミックス基板111の他方の面にアルミニウム板123が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層113は、純度が99.99%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板123がセラミックス基板111に接合されることで形成されている。なお、金属層112の厚さは、0.1〜5.0mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、2.0mmに設定されている。
【0046】
ヒートシンク140は、前述のパワーモジュール用基板110を冷却するためのものであり、図7に示すように、天板部141と、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路142とを備えている。ヒートシンク140(天板部141)は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
【0047】
そして、図8に示すように、回路層112は、セラミックス基板111との接合界面側部分に配設された析出物欠乏層112Aと、この析出物欠乏層112Aに積層する本体層112Bと、を備えている。
ここで、析出物欠乏層112Aの接合界面からの厚さtは、2μm≦t≦50μmの範囲内に設定されている。
また、本体層112Bは、回路層112の一方の面(すなわち、半導体チップ3が搭載される搭載面)にまで延在している。
【0048】
そして、回路層112の断面を走査型電子顕微鏡で観察した結果、セラミックス基板111との接合界面側部分に配設された析出物欠乏層112Aにおいては、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%未満とされており、本体層112Bにおいては、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%以上とされている。すなわち、析出物欠乏層112Aと本体層112Bとでは、粒径0.1μm以上の析出物粒子の分散状態が異なっているのである。
【0049】
なお、回路層112の断面を走査型電子顕微鏡で観察される析出物粒子の粒径は、断面円形をなす粒径rの基準析出物粒子を想定し、この基準析出物粒子と同等の面積を有する析出物粒子の粒径をrとした。
また、析出物粒子の存在比率は、EPMAの面分析あるいはマッピングによりFeとMnを含むことが確認できている粒子とそれ以外の箇所に二値化分離処理をした際の面積率で算出した。
【0050】
また、本実施形態では、セラミックス基板111と回路層112(アルミニウム板122)及び金属層113(アルミニウム板123)との接合界面130においては、回路層112(アルミニウム板122)及び金属層113(アルミニウム板123)に、Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素が固溶している。
回路層112及び金属層113の接合界面130近傍には、接合界面130から積層方向に離間するにしたがい漸次添加元素の濃度が低下する濃度傾斜層133が形成されている。ここで、回路層112及び金属層113の接合界面130近傍の添加元素の濃度の合計が、0.01質量%以上5質量%以下の範囲内に設定されている。
【0051】
なお、回路層112及び金属層113の接合界面130近傍の添加元素の濃度は、EPMA分析(スポット径30μm)によって、接合界面130から50μmの位置で5点測定した平均値である。また、図9のグラフは、回路層112(アルミニウム板122)及び金属層113(アルミニウム板123)の中央部分において積層方向にライン分析を行い、前述の50μm位置での濃度を基準として求めたものである。
ここで、本実施形態では、Cuを添加元素として用いており、回路層112及び金属層113の接合界面130近傍のCu濃度が0.01質量%以上5質量%以下に設定されている。
【0052】
また、セラミックス基板111と回路層112(アルミニウム板122)及び金属層113(アルミニウム板123)との接合界面130を透過電子顕微鏡において観察した場合には、図10に示すように、接合界面130に添加元素(Cu)が濃縮した添加元素高濃度部132が形成されている。この添加元素高濃度部132においては、添加元素の濃度(Cu濃度)が、回路層112(アルミニウム板122)及び金属層113(アルミニウム板123)中の添加元素の濃度(Cu濃度)の2倍以上とされている。なお、この添加元素高濃度部132の厚さHは4nm以下とされている。
【0053】
なお、ここで観察する接合界面130は、図10に示すように、回路層112(アルミニウム板122)及び金属層113(アルミニウム板123)の格子像の界面側端部とセラミックス基板111の格子像の接合界面側端部との間の中央を基準面Sとする。また、回路層112(アルミニウム板122)及び金属層113(アルミニウム板123)中の添加元素の濃度(Cu濃度)とは、回路層112(アルミニウム板122)及び金属層113(アルミニウム板123)のうち接合界面130から一定距離(本実施形態では、5nm以上)離れた部分における添加元素の濃度(Cu濃度)である。
【0054】
また、この接合界面130をエネルギー分散型X線分析法(EDS)で分析した際のAl、添加元素(Cu)、O、Nの質量比が、Al:添加元素(Cu):O:N=50〜90質量%:1〜30質量%:1〜10質量%:25質量%以下の範囲内に設定されている。なお、EDSによる分析を行う際のスポット径は1〜4nmとされており、接合界面130を複数点(例えば、本実施形態では20点)で測定し、その平均値を算出している。また、回路層112及び金属層113を構成するアルミニウム板122、123の結晶粒界とセラミックス基板111との接合界面130は測定対象とせず、回路層112及び金属層113を構成するアルミニウム板122、123の結晶粒とセラミックス基板111との接合界面130のみを測定対象としている。
【0055】
なお、本明細書中におけるエネルギー分散型X線分析法による分析値は、日本電子製の電子顕微鏡JEM−2010Fに搭載したサーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製のエネルギー分散型蛍光X線元素分析装置NORAN System7を用いて加速電圧200kVで行った。
【0056】
以下に、前述の構成のパワーモジュール用基板110の製造方法について、図11から図13を参照して説明する。
【0057】
(固着工程S11)
まず、図11及び図12に示すように、回路層112となるアルミニウム板122のセラミックス基板111との接合面及び金属層113となるアルミニウム板123のセラミックス基板111との接合面に、スパッタリングによって、Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着して固着層124、125を形成する。このとき、固着層124、125における添加元素量は0.01mg/cm2以上10mg/cm2以下の範囲内とされている。
本実施形態では、添加元素としてCuを用いており、固着層124、125における添加元素量(Cu量)は0.08mg/cm2以上2.7mg/cm2以下に設定されている。
さらに、本実施形態では、アルミニウム板123のうちヒートシンク140の天板部141との接合面にも、Cuを固着することで固着層126を形成している。
【0058】
(積層工程S12)
次に、アルミニウム板122をセラミックス基板111の一方の面側に積層し、かつ、アルミニウム板123をセラミックス基板111の他方の面側に積層する。このとき、図12に示すように、アルミニウム板122、123のうち固着層124、125形成された面がセラミックス基板111を向くように積層する。すなわち、アルミニウム板122、123とセラミックス基板111との間に固着層124、125を介在させているのである。
さらに、本実施形態では、アルミニウム板123の他方の面側に、固着層126を介して天板部141を積層する。
【0059】
(加熱工程S13)
次に、積層工程S12において積層されたアルミニウム板122、セラミックス基板111、アルミニウム板123、天板部141を、その積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm2)した状態で加熱炉内に装入して加熱し、図13に示すように、アルミニウム板122、123とセラミックス基板111との界面にそれぞれ溶融金属領域127、128が形成される。これら溶融金属領域127、128は、固着層124、125のCuがアルミニウム板122、123側に拡散することによって、アルミニウム板122、123の固着層124、125近傍のCu濃度が上昇して融点が低くなることにより形成されるものである。同様に、固着層126のCuがアルミニウム板123及び天板部141側に拡散することによってアルミニウム板123と天板部141との界面にも溶融金属領域が形成されることになる。
この加熱工程S13においては、アルミニウム板122中の析出物粒子が溶融金属領域127に溶出し、上述の析出物欠乏層112Aが形成されることになる。
【0060】
(凝固工程S14)
次に、溶融金属領域127,128が形成された状態で温度を一定に保持しておく。すると、溶融金属領域127,128中のCuが、さらにアルミニウム板122、123側へと拡散していくことになる。これにより、溶融金属領域127,128であった部分のCu濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していくことになる。つまり、セラミックス基板111とアルミニウム板122、123とは、いわゆる等温拡散接合(Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)によって接合されているのである。このようにして凝固が進行した後に、常温にまで冷却を行う。
同様に、アルミニウム板123と天板部141との間に形成された溶融金属領域中のCuがアルミニウム板123及び天板部141側へと拡散していくことにより、凝固が進行していくことになる。
【0061】
このようにして、回路層112及び金属層113となるアルミニウム板122、123とセラミックス基板111とが接合され、本実施形態であるパワーモジュール用基板110が製造される。また、アルミニウム板123と天板部141とも接合されて、ヒートシンク付パワーモジュールが構成されることになる。すなわち、本実施形態では、パワーモジュール用基板110の形成と、ヒートシンク140の接合と、を同時に実施しているのである。
【0062】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板110及びパワーモジュール101においては、上述の第1の実施形態と同様に、回路層112が、アルミニウムの母相中に析出物粒子が分散された析出分散型のアルミニウム合金からなるアルミニウム板122を接合することで構成されており、回路層112の一方の面側(すなわち、半導体チップ3が搭載される搭載面)に、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%以上とされた本体層112Bが配設されていることから、回路層112の一方の面側部分が析出強化されることになり、冷熱サイクル負荷時におけるうねりやシワの発生を抑制することが可能となる。
【0063】
また、回路層112のうちセラミックス基板111との接合界面部分に、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%未満とされた析出物欠乏層112Aが形成されているので、セラミックス基板111と回路層112との熱膨張係数の差に起因する熱応力をこの析出物欠乏層112Aによって緩和することができ、冷熱サイクル負荷時におけるセラミックス基板111の割れの発生を抑制することができる。
【0064】
さらに、回路層112及び金属層113とセラミックス基板111との接合界面130には、Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiのうちのいずれか1種又は2種以上の添加元素が固溶しており、本実施形態では、添加元素としてCuが固溶されているので、回路層112及び金属層113とセラミックス基板111との接合界面130側部分が固溶強化することになり、回路層112及び金属層113部分での破断を防止することができる。
【0065】
ここで、回路層112及び金属層113のうち接合界面130近傍における添加元素の濃度(本実施形態ではCu濃度)が0.01質量%以上5質量%以下の範囲内に設定されているので、回路層112及び金属層113の接合界面130近傍の強度が過剰に高くなることを防止でき、このパワーモジュール用基板110に冷熱サイクルが負荷された際に、熱応力を回路層112及び金属層113で緩和することが可能となり、セラミックス基板111の割れの発生を抑制できる。
【0066】
また、回路層112及び金属層113とセラミックス基板111との接合界面130には、Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiのうちのいずれか1種又は2種以上の添加元素の濃度(本実施形態ではCu濃度)が、回路層112及び金属層113中の前記添加元素の濃度の2倍以上とされた添加元素高濃度部132が形成されているので、界面近傍に存在する添加元素原子(Cu原子)により、回路層112及び金属層113とセラミックス基板111との接合強度の向上を図ることが可能となる。
【0067】
また、添加元素高濃度部132を含む接合界面130をエネルギー分散型X線分析法で分析したAl、添加元素(Cu)、Oの質量比が、分析した際のAl、添加元素(Cu)、O、Nの質量比が、Al:添加元素(Cu):O:N=50〜90質量%:1〜30質量%:1〜10質量%:25質量%以下の範囲内に設定されているので、Alと添加元素(Cu)との反応物が過剰に生成されることがなく、回路層112及び金属層113とセラミックス基板111との接合を良好に行うことができる。また、この反応物によって回路層112及び金属層113の接合界面130近傍が必要以上に強化されることがなく、熱応力を確実に吸収することが可能となり、冷熱サイクル負荷時のセラミックス基板111の割れの発生を抑制することができる。
【0068】
また、本実施形態であるパワーモジュール用基板110の製造方法によれば、加熱工程S13において、回路層112となるアルミニウム板122とセラミックス基板111との界面に介在させた添加元素(Cu)を回路層112側に拡散させることで、溶融金属領域127を形成し、凝固工程S14でこの溶融金属領域127を凝固させているので、アルミニウム板122とセラミックス基板111とを接合することで回路層112を形成することができる。また、加熱工程S13において、溶融金属領域127を形成する際に、回路層112のうちセラミックス基板111との接合界面130部分に、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%未満とされた析出物欠乏層112Aを形成することが可能となる。すなわち、加熱工程S13において、添加元素(Cu)が回路層112側に拡散することでアルミニウム板122の一部が溶融し、溶融金属領域127が形成されることになる。このとき、アルミニウム板122中の析出物粒子が溶融金属領域127に溶出し、析出物欠乏層112Aが形成されることになる。ここで、添加元素(Cu)の固着量、加熱工程S13における加熱温度及び加熱時間を調整することで、溶融金属領域127における溶融金属量が変化し、析出物欠乏層112Aの厚さを制御することが可能となる。
【0069】
また、Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素は、アルミニウムの融点を降下させる元素であるため、比較的低温条件において、アルミニウム板122とセラミックス基板111との界面に溶融金属領域127を形成することができる。
【0070】
また、固着工程S11では、スパッタリングによって添加元素(Cu)を固着しているので、アルミニウム板122とセラミックス基板111との間に確実に添加元素(Cu)を配設することができ、アルミニウム板122とセラミックス基板111とを確実に
接合することができる。また、添加元素(Cu)の固着量を精度良く調整することが可能となり、析出物欠乏層112Aの厚さを制御することができる。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、回路層を、析出物粒子がFe,Mnを含有する析出分散型のアルミニウム合金(A3003合金)によって構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、他の析出分散型のアルミニウム合金で回路層を構成してもよい。
【0072】
また、セラミックス基板として、Al2O3、AlNを例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、Si3N4等の他のセラミックス基板であってもよい。
なお、第2の実施形態では、セラミックス基板としてAlNを用いた場合において、接合界面をエネルギー分散型X線分析法(EDS)で分析した際のAl、添加元素(Cu)、O、Nの質量比が、Al:添加元素(Cu):O:N=50〜90質量%:1〜30質量%:1〜10質量%:25質量%以下の範囲内に設定されているものとして説明したが、例えばセラミックス基板としてAl2O3を用いた場合においては、Al、添加元素(Cu)、Oの質量比が、Al:添加元素(Cu):O=50〜90質量%:1〜30質量%:45質量%以下の範囲内に設定されていることが好ましい。
【0073】
ここで、接合界面に存在する添加元素原子の質量比が30質量%を超えると、Alと添加元素との反応物が過剰に生成されることになり、この反応物が接合を阻害するおそれがある。また、この反応物によってアルミニウム板の接合界面近傍が必要以上に強化されることになり、冷熱サイクル負荷時にセラミックス基板に応力が作用し、セラミックス基板が割れてしまうおそれがある。一方、添加元素原子の質量比が1質量%未満であると、添加元素原子による接合強度の向上を充分に図ることができなくなるおそれがある。
以上のことから、接合界面における添加元素原子の質量比は、1〜30質量%の範囲内とすることが好ましいのである。
【0074】
また、固着工程においては、Alとともに添加元素を固着してもよい。この場合、Ca及びLi等の酸化しやすい元素であっても確実に固着させることが可能となる。なお、添加元素とともにAlを固着させるには、前記添加元素とAlとを同時に蒸着してもよいし、添加元素とAlの合金をターゲットとして用いてスパッタリングを行ってもよい。
【0075】
さらに、ヒートシンクの構造に特に限定はなく、種々の構成のヒートシンクを用いることができる。例えばコルゲートフィンを有するものであっても良いし、放熱フィンが立設されたものであってもよい。
【実施例】
【0076】
本発明の有効性を確認するために行った比較実験について説明する。
【0077】
(本発明例1)
まず、厚さ0.635mmのAlNからなるセラミックス基板に、回路層として、厚さ0.6mmのA3003合金からなるアルミニウム板、及び、金属層として厚さ0.6mmの4Nアルミニウムからなるアルミニウム板を、Al−Si系のろう材(Al−7.5質量%Si)を用いて、接合し、パワーモジュール用基板を製作した。
なお、ろう材箔の厚さを14μmとし、加圧条件3.0kgf/cm2、加熱温度625℃、加熱時間30分、加熱雰囲気を真空とした。
【0078】
(本発明例2)
厚さ0.635mmのAlNからなるセラミックス基板に、回路層として、厚さ0.6mmのA3003合金からなるアルミニウム板、及び、金属層として厚さ0.6mmの4Nアルミニウムからなるアルミニウム板を、第2の実施形態のように添加元素を固着させてTLP接合し、パワーモジュール用基板を製作した。
なお、添加元素としてCuを用い、Cuの固着量を0.9mg/cm2とし、加圧条件5.0kgf/cm2、加熱温度610℃、加熱時間(保持時間)30分、加熱雰囲気を真空とした。
【0079】
(比較例1)
厚さ0.635mmのAlNからなるセラミックス基板に、回路層として、厚さ0.6mmの4Nアルミニウムからなるアルミニウム板、及び、金属層として厚さ0.6mmの4Nアルミニウムからなるアルミニウム板を、Al−Si系のろう材(Al−7.5質量%Si)を用いて、接合し、パワーモジュール用基板を製作した。
なお、ろう材箔の厚さを14μmとし、加圧条件3.0kgf/cm2、加熱温度625℃、加熱時間30分、加熱雰囲気を真空とした。
【0080】
(比較例2)
厚さ0.635mmのAlNからなるセラミックス基板に、回路層として、厚さ0.6mmの4Nアルミニウムからなるアルミニウム板、及び、金属層として厚さ0.6mmの4Nアルミニウムからなるアルミニウム板を、第2の実施形態のように添加元素を固着させてTLP接合し、パワーモジュール用基板を製作した。
なお、添加元素としてCuを用い、Cuの固着量を0.9mg/cm2とし、加圧条件5.0kgf/cm2、加熱温度610℃、加熱時間(保持時間)30分、加熱雰囲気を真空とした。
【0081】
そして、これらの試験片を用いて冷熱サイクル試験を実施した。具体的には、冷熱サイクル(−45℃−125℃)を2000回繰り返した後に、試験片を観察し、回路層表面のうねり状態、セラミックス基板と回路層との間の接合率を評価した。結果を表1に示す。
なお、うねりについては、半径が2μmの球状先端を有し、テーパ角が90°の円錐を触針として用い、2.5(mm/基準長さ)×5区間の距離を、荷重4mN,速度1mm/sで表面を走査して区間平均の粗さ曲線を測定し、その十点平均粗さRz(JIS B0601−1994)を算出した。
また、接合率は、以下の式で算出した。ここで、「初期接合面積」とは、接合前における接合すべき面積のことである。
接合率 = (初期接合面積−剥離面積)/初期接合面積
【0082】
また、回路層における析出物欠陥層の厚さ、析出物の平均粒度、を評価した。
本明細書での析出物欠乏層の厚さは、走査型電子顕微鏡によって観察した本発明例1,2及び比較例1,2の試料の断面をAdobe Photoshop CS2(Adobe Systems Incorporated製)の明るさ・コントラストコマンドを用いて解析した像又は写真において、最もセラミックス基板に近接した析出物付近に生じる画像コントラストの境界と金属/セラミックス界面との平均距離と定義した。
また、
観察した像及び写真において、その明るさやコントラストを変量させた。すると、析出物欠乏層が存在している試料においては、析出物欠乏層と析出物非欠乏層の間にコントラスト境界が観察される。そこで、本明細書においては、このコントラスト境界と金属/セラミック界面との距離を析出物欠乏層の厚さと定義した。
また、本明細書における析出物の平均粒径は、走査型電子顕微鏡にて本発明例1,2及び比較例1,2の試料の断面を観察した像及び写真のある一定の領域において、以下の式で定義した。
(析出物の平均粒径)=(A/B/π)0.5
A=(観察領域における粒径0.1μm以上の析出物粒子の面積比率)×観察領域の面積
B=(観察領域内に存在する粒径0.1μm以上の析出物粒子の個数)
π:円周率
【0083】
【表1】
【0084】
比較例1、2では、接合率は高いものの回路層の表面にうねりが確認された。
これに対して、回路層をA3003合金で構成した本発明例1、2においては、回路層表面のうねりが抑制され、かつ、接合率も高かった。
また、本発明例1、2においては、回路層に析出物欠乏層が形成されていることが確認された。
【符号の説明】
【0085】
1、101 パワーモジュール
3 半導体チップ(電子部品)
10、110 パワーモジュール用基板
11、111 セラミックス基板
12、112 回路層
12A、112A 析出物欠乏層
12C 析出物粒子
22、122 アルミニウム板
23、123 アルミニウム板
24 ろう材箔
26 溶融金属領域
124 固着層
127 溶融金属領域
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体素子等の電子部品が搭載される回路層を備えたパワーモジュール用基板、このパワーモジュール用基板の製造方法、このパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の中でも電力供給のためのパワー素子は発熱量が比較的高いため、これを搭載する基板としては、例えば、特許文献1に示すように、AlN(窒化アルミ)からなるセラミックス基板上に、回路層となるアルミニウム板がAl−Si系のろう材を介して接合されたパワーモジュール用基板が広く用いられている。
また、例えば特許文献2−4に示すように、セラミックス基板の上にアルミニウム合金部材を溶湯接合法によって接合して回路層を形成したパワーモジュール用基板が提案されている。
このようなパワーモジュール用基板においては、回路層の上に、はんだ層を介してパワー素子としての半導体素子が搭載され、パワーモジュールとして使用される。
【0003】
ここで、上述のパワーモジュールにおいては、使用時に冷熱サイクルが負荷されることになる。すると、セラミックス基板とアルミニウムとの熱膨張係数の差による応力がセラミックス基板と回路層との接合界面に作用し、接合信頼性が低下するおそれがある。そこで、従来は、純度が99.99%以上の4Nアルミニウム等の比較的変形抵抗の小さなアルミニウムで回路層を構成して熱応力を回路層の変形によって吸収することで、接合信頼性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−328087号公報
【特許文献2】特開2002−329814号公報
【特許文献3】特開2005−252136号公報
【特許文献4】特開2007−092150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、回路層を純度が99.99%以上(4Nアルミニウム)等の比較的変形抵抗の小さなアルミニウムで構成した場合、冷熱サイクルを負荷した際に、回路層の表面にうねりやシワが発生してしまうといった問題があった。このように回路層の表面にうねりやシワが発生すると、はんだ層を介して接合した半導体素子等の電子部品との接合が不十分となり、パワーモジュールの信頼性が低下することになる。
特に、最近では、パワーモジュールの小型化・薄肉化が進められるとともに、その使用環境も厳しくなってきており、半導体素子等の電子部品からの発熱量が大きくなっているため、冷熱サイクルの温度差が大きく、回路層の表面にうねりやシワがさらに発生しやすい状況になっている。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、冷熱サイクル負荷時において、回路層の表面にうねりやシワが発生することを抑制でき、かつ、セラミックス基板と回路層との接合界面に熱応力が作用することを抑制でき、冷熱サイクル信頼性に優れたパワーモジュール用基板、このパワーモジュール用基板の製造方法、このパワーモジュール用基板を備えたパワーモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明のパワーモジュール用基板は、セラミックス基板の一方の面に回路層が接合されてなり、この回路層の表面に電子部品が搭載されるパワーモジュール用基板であって、前記回路層は、アルミニウムの母相中に析出物粒子が分散された析出分散型のアルミニウム合金で構成されており、前記回路層の断面の走査型電子顕微鏡観察において、前記回路層のうち前記セラミックス基板との接合界面部分には、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%未満とされた析出物欠乏層が形成されており、前記回路層の一方の面側においては、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%以上とされていることを特徴としている。
【0008】
なお、回路層断面の走査型電子顕微鏡観察において観察される析出物粒子の粒径は、断面円形をなす粒径rの基準析出物粒子を想定し、この基準析出物粒子と同等の面積を有する析出物粒子の粒径をrとする。
また、析出物粒子の存在比率は、EPMAの面分析あるいはマッピングにより析出物粒子を構成する元素を含むことが確認できている粒子とそれ以外の箇所に二値化分離処理をした際の面積率で算出する。
【0009】
この構成のパワーモジュール用基板によれば、回路層がアルミニウムの母相中に析出物粒子が分散された析出分散型のアルミニウム合金で構成されており、前記回路層の一方の面側においては、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%以上とされていることから、回路層の一方の面側部分が析出強化されることになる。よって、回路層の一方の面側部分の変形抵抗が大きくなり、冷熱サイクル負荷時におけるうねりやシワの発生を抑制することが可能となる。なお、アルミニウムの母相には、アルミニウム以外の元素が固溶していてもよい。
【0010】
また、回路層のうち前記セラミックス基板との接合界面部分には、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%未満とされた析出物欠乏層が形成されているので、回路層とセラミックス基板とが、良好に接合されることになる。また、析出物欠乏層においては、変形抵抗が小さくなることから、セラミックス基板と回路層との熱膨張係数の差に起因する熱応力をこの析出物欠乏層によって緩和することができ、冷熱サイクル負荷時におけるセラミックス基板の割れの発生を抑制することができる。
【0011】
ここで、前記析出物欠乏層は、前記接合界面からの厚さが2μm以上50μm以下の範囲内に設定されていることが好ましい。
この場合、前記析出物欠乏層の前記接合界面からの厚さが2μm以上とされているので、セラミックス基板と回路層との熱膨張係数の差に起因する熱応力をこの析出物欠乏層によって確実に緩和することができ、冷熱サイクル負荷時における回路層とセラミックス基板との接合信頼性を向上させることができる。
また、前記析出物欠乏層の厚さは、セラミックス基板と回路層となるアルミニウム板とを接合する際における、これらセラミックス基板と回路層の界面に形成される溶融金属領域における溶融金属量によって決定される。よって、前記析出物欠乏層の前記接合界面からの厚さが50μm以下とされている場合には、セラミックス基板と回路層となるアルミニウム板との界面に形成される溶融金属領域における溶融金属量が抑えられることになり、余剰な溶融金属による染みの発生を抑制することができる。
【0012】
また、前記析出物粒子が、FeとMnを含有していることが好ましい。
この場合、FeとMnを含有する析出物粒子によって、回路層の一方の面側部分の変形抵抗を確実に高くすることができ、冷熱サイクル負荷時におけるうねりやシワの発生を抑制することが可能となる。また、回路層を構成するアルミニウム合金として、例えばA3003合金等を用いることができる。
【0013】
本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、セラミックス基板の一方の面に回路層が接合されてなり、この回路層の表面に電子部品が搭載されるパワーモジュール用基板の製造方法であって、回路層となる金属板として、アルミニウムの母相中に析出物粒子が分散された析出分散型のアルミニウム合金で構成されたアルミニウム板を準備し、このアルミニウム板と、セラミックス基板とを、ろう材を介して積層する積層工程と、積層された前記アルミニウム板と前記セラミックス基板とを積層方向に加圧するとともに加熱し、前記アルミニウム板と前記セラミックス基板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、この溶融金属領域を凝固させることによって、前記アルミニウム板と前記セラミックス基板とを接合して前記回路層を形成する凝固工程と、を備えており、前記加熱工程及び前記凝固工程により、前記回路層のうち前記セラミックス基板との接合界面部分に、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%未満とされた析出物欠乏層を形成することを特徴としている。
【0014】
この構成のパワーモジュール用基板の製造方法によれば、加熱工程において、回路層となるアルミニウム板とセラミックス基板との界面に介在させたろう材を溶融させることで、アルミニウム板とセラミックス基板との界面に溶融金属領域を形成し、凝固工程でこの溶融金属領域を凝固させているので、前記アルミニウム板と前記セラミックス基板とを接合することで回路層を形成することができる。また、加熱工程において、溶融金属領域を形成しているので、前記回路層のうち前記セラミックス基板との接合界面部分に、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%未満とされた析出物欠乏層を形成することが可能となる。すなわち、加熱工程において、ろう材が溶融するとともにアルミニウム板の一部も溶融し、溶融金属領域が形成されることになる。このとき、アルミニウム板中の析出物粒子が溶融金属領域に溶出し、析出物欠乏層が形成されることになる。ここで、ろう材箔の材質及び厚さ、加熱工程における加熱温度及び加熱時間を調整することで、溶融金属領域における溶融金属量が変化し、前記析出物欠乏層の厚さが制御される。
【0015】
また、本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、セラミックス基板の一方の面に回路層が接合されてなり、この回路層の表面に電子部品が搭載されるパワーモジュール用基板の製造方法であって、回路層となる金属板として、アルミニウムの母相中に析出物粒子が分散された析出分散型のアルミニウム合金で構成されたアルミニウム板を準備し、このアルミニウム板の接合面又はセラミックス基板の接合面のうちの少なくとも一方に、Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着して固着層を形成する固着工程と、この固着層を介して、前記アルミニウム板と前記セラミックス基板とを積層する積層工程と、積層された前記アルミニウム板と前記セラミックス基板とを積層方向に加圧するとともに加熱し、前記アルミニウム板と前記セラミックス基板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、この溶融金属領域を凝固させることによって、前記アルミニウム板と前記セラミックス基板とを接合して前記回路層を形成する凝固工程と、を備えており、前記加熱工程及び前記凝固工程により、前記回路層のうち前記セラミックス基板との接合界面部分に、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%未満とされた析出物欠乏層を形成することを特徴としている。
【0016】
この構成のパワーモジュール用基板の製造方法によれば、加熱工程において、回路層となるアルミニウム板とセラミックス基板との界面に介在させた添加元素を回路層側に拡散させることで、溶融金属領域を形成し、凝固工程でこの溶融金属領域を凝固させているので、前記アルミニウム板と前記セラミックス基板とを接合することで回路層を形成することができる。また、加熱工程において、溶融金属領域を形成しているので、前記回路層のうち前記セラミックス基板との接合界面部分に、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%未満とされた析出物欠乏層を形成することが可能となる。すなわち、加熱工程において、添加元素が回路層側に拡散することでアルミニウム板の一部が溶融し、溶融金属領域が形成されることになる。このとき、アルミニウム板中の析出物粒子が溶融金属領域に溶出し、析出物欠乏層が形成されることになる。ここで、添加元素の固着量、加熱工程における加熱温度及び加熱時間を調整することで、溶融金属領域における溶融金属量が変化し、前記析出物欠乏層の厚さが制御される。
また、Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素は、アルミニウムの融点を降下させる元素であるため、比較的低温条件において、アルミニウム板とセラミックス基板との界面に溶融金属領域を形成することができる。
【0017】
ここで、前記固着工程では、前記添加元素とともにアルミニウムを固着させることが好ましい。
この場合、前記添加元素とともにアルミニウムを固着させているので、添加元素を確実に固着させることができる。なお、前記添加元素とともにAlを固着させるには、前記添加元素とAlとを同時に蒸着してもよいし、前記添加元素とAlの合金をターゲットとして用いてスパッタリングを行ってもよい。
【0018】
また、前記固着工程は、めっき、蒸着、CVD、スパッタリング、コールドスプレー、又は、前記添加元素を含有する粉末が分散されたペースト若しくはインクの塗布によって前記添加元素を固着し、前記固着層を形成することが好ましい。
この場合、めっき、蒸着、CVD、スパッタリング、コールドスプレー、又は、前記添加元素を含有する粉末が分散されたペースト若しくはインクの塗布によって、前記添加元素を確実に固着でき、前述の固着層を形成することができる。また、前記添加元素の固着量を精度良く調整することが可能となる。
【0019】
本発明のパワーモジュールは、前述のパワーモジュール用基板と、このパワーモジュール用基板上に搭載される電子部品と、を備えたことを特徴としている。
この構成のパワーモジュールによれば、セラミックス基板と回路層との接合強度が高く、かつ、冷熱サイクル時において回路層の一方の面にうねりやシワが発生せず、回路層の一方の面に搭載された電子部品と回路層とを確実に接合することができる。よって、使用環境が厳しい場合であっても、その信頼性を飛躍的に向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、冷熱サイクル負荷時において、回路層の表面にうねりやシワが発生することを抑制でき、かつ、セラミックス基板と回路層との接合界面に熱応力が作用することを抑制でき、冷熱サイクル信頼性に優れたパワーモジュール用基板、このパワーモジュール用基板の製造方法、このパワーモジュール用基板を備えたパワーモジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【図2】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板を示す説明図である。
【図3】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板の回路層の走査型電子顕微鏡によるCOMPO像である。
【図4】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示すフロー図である。
【図5】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図6】図5におけるアルミニウム板とセラミックス基板との接合界面近傍を示す説明図である。
【図7】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【図8】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板を示す説明図である。
【図9】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板の回路層及び金属層の添加元素の濃度分布を示す説明図である。
【図10】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板の回路層及び金属層とセラミックス基板との接合界面の模式図である。
【図11】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示すフロー図である。
【図12】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図13】図12におけるアルミニウム板とセラミックス基板との接合界面近傍を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
図1に、本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板10を用いたパワーモジュール1を示す。
このパワーモジュール1は、回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12の表面にはんだ層2を介して接合された半導体チップ3と、ヒートシンク40とを備えている。ここで、はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層12とはんだ層2との間にNiメッキ層(図示なし)が設けられている。
【0023】
パワーモジュール用基板10は、図1及び図2に示すように、絶縁層を構成するセラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一面(図1及び図2において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他面(図1及び図2において下面)に配設された金属層13とを備えている。
【0024】
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAl2O3(アルミナ)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0025】
回路層12は、図5に示すように、セラミックス基板11の一方の面(図1、図2及び図5において上面)に、導電性を有するアルミニウム板22が接合されることにより形成されている。
この回路層12は、図3に示すように、アルミニウムの母相中に析出物粒子12Cが分散された析出分散型のアルミニウム合金で構成されており、本実施形態では、FeとMnとを含む析出物粒子が分散されたアルミニウム合金(例えば、A3003合金)の圧延板からなるアルミニウム板22がセラミックス基板11に接合されることにより形成されている。なお、回路層12の厚さは、0.1〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
【0026】
金属層13は、図5に示すように、セラミックス基板11の他方の面(図1、図2及び図5において下面)に、アルミニウム板23が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層13は、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板23がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。なお、金属層13の厚さは、0.1〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
【0027】
ヒートシンク40は、前述のパワーモジュール用基板10を冷却するためのものであり、図1に示すように、天板部41と、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路42とを備えている。ヒートシンク40(天板部41)は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
また、本実施形態においては、ヒートシンク40の天板部41と金属層13との間には、アルミニウム又はアルミニウム合金若しくはアルミニウムを含む複合材(例えばAlSiC等)からなる緩衝層15が設けられている。
【0028】
そして、図2に示すように、回路層12は、セラミックス基板11との接合界面側部分に配設された析出物欠乏層12Aと、この析出物欠乏層12Aに積層する本体層12Bと、を備えている。
ここで、析出物欠乏層12Aの接合界面からの厚さtは、2μm≦t≦50μmの範囲内に設定されている。
また、本体層12Bは、回路層12の一方の面(すなわち、半導体チップ3が搭載される搭載面)にまで延在している。
【0029】
そして、回路層12の断面を走査型電子顕微鏡で観察した結果、図3に示すように、セラミックス基板11との接合界面30側部分に配設された析出物欠乏層12Aにおいては、粒径0.1μm以上の析出物粒子12Cの存在比率が3%未満とされており、本体層12Bにおいては、粒径0.1μm以上の析出物粒子12Cの存在比率が3%以上とされている。すなわち、析出物欠乏層12Aと本体層12Bとでは、粒径0.1μm以上の析出物粒子12Cの分散状態が異なっているのである。
【0030】
なお、回路層12の断面の走査型電子顕微鏡観察において観察される析出物粒子12Cの粒径は、断面円形をなす粒径rの基準析出物粒子を想定し、この基準析出物粒子と同等の面積を有する析出物粒子12Cの粒径をrとした。
また、析出物粒子12Cの存在比率は、EPMAの面分析あるいはマッピングによりFeとMnを含むことが確認できている粒子とそれ以外の箇所に二値化分離処理をした際の面積率で算出した。
【0031】
以下に、前述の構成のパワーモジュール用基板10の製造方法について、図4から図6を参照して説明する。
【0032】
(積層工程S01)
まず、図4及び図5に示すように、セラミックス基板11の一方の面側に、回路層12となるアルミニウム板22(A3003合金の圧延板)が、厚さ5〜50μm(本実施形態では14μm)のろう材箔24を介して積層され、セラミックス基板11の他方の面側に、金属層13となるアルミニウム板23(4Nアルミニウムの圧延板)が厚さ5〜50μm(本実施形態では14μm)のろう材箔25を介して積層される。
なお、本実施形態においては、ろう材箔24、25は、融点降下元素であるSiを含有したAl−Si系のろう材(Al−7.5質量%Si)とされている。
【0033】
(加熱工程S02)
次に、積層工程S01において形成された積層体を、その積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm2)した状態で加熱炉内に装入して加熱する。この加熱工程S02によって、ろう材箔24、25とアルミニウム板22、23の一部とが溶融し、図6に示すように、アルミニウム板22、23とセラミックス基板11との界面にそれぞれ溶融金属領域26、27が形成される。ここで、加熱温度は550℃以上650℃以下、加熱時間は30分以上180分以下とされている。
この加熱工程S02においては、ろう材箔24が溶融するとともにアルミニウム板22の一部も溶融し、溶融金属領域26が形成されることになる。このとき、アルミニウム板22中の析出物粒子12Cが溶融金属領域26に溶出し、上述の析出物欠乏層12Aが形成されることになる。
【0034】
(凝固工程S03)
次に、積層体を冷却することによって溶融金属領域26、27を凝固させ、セラミックス基板11とアルミニウム板22、23とを接合する。このとき、ろう材箔24、25に含まれる融点降下元素(Si)がアルミニウム板22、23側へと拡散していくことになる。
このようにして、回路層12及び金属層13となるアルミニウム板22、23とセラミックス基板11とが接合され、本実施形態であるパワーモジュール用基板10が製造される。
【0035】
そして、このパワーモジュール用基板10の金属層13の他方の面側に、緩衝層15を介してヒートシンク40がろう付け等によって接合され、ヒートシンク付パワーモジュール用基板が形成される。また、回路層12の表面にはんだ層2を介して半導体チップ3を搭載することで本実施形態であるパワーモジュール1が製出される。
【0036】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板10においては、回路層12が、アルミニウムの母相中に析出物粒子が分散された析出分散型のアルミニウム合金からなるアルミニウム板22を接合することで構成されており、回路層12の一方の面側(すなわち、半導体チップ3が搭載される搭載面)においては、粒径0.1μm以上の析出物粒子12Cの存在比率が3%以上とされた本体層12Bが配設されていることから、回路層12の一方の面側部分が析出強化されることになる。
したがって、回路層12の一方の面側部分の変形抵抗が大きくなり、冷熱サイクル負荷時におけるうねりやシワの発生を抑制することが可能となる。よって、一方の面上に搭載された半導体チップ3と回路層12との間の接合信頼性を大幅に向上させることが可能となる。
【0037】
また、回路層12のうちセラミックス基板11との接合界面部分には、粒径0.1μm以上の析出物粒子12Cの存在比率が3%未満とされた析出物欠乏層12Aが形成されているので、回路層12とセラミックス基板11とが良好に接合されることになる。また、析出物欠乏層12Aにおいては、析出物粒子12Cの分散量が少なく変形抵抗が小さくなることから、セラミックス基板11と回路層12との熱膨張係数の差に起因する熱応力をこの析出物欠乏層12Aによって緩和することができ、冷熱サイクル負荷時におけるセラミックス基板11の割れの発生を抑制することができる。
【0038】
さらに、本実施形態では、析出物欠乏層12Aの接合界面からの厚さtが、t≧2μmとされているので、セラミックス基板11と回路層12との熱膨張係数の差に起因する熱応力をこの析出物欠乏層12Aによって確実に緩和することができ、冷熱サイクル負荷時における回路層12とセラミックス基板11との接合信頼性を向上させることができる。
また、析出物欠乏層12Aの厚さは、セラミックス基板11と回路層12の界面に形成される溶融金属領域26における溶融金属量によって決定される。よって、析出物欠乏層12Aの接合界面からの厚さtを、t≦50μmとすることにより、セラミックス基板11と回路層12となるアルミニウム板22との界面に形成される溶融金属領域26における溶融金属量が抑えられることになり、余剰な溶融金属による染みの発生を抑制することができる。
【0039】
また、本実施形態では、回路層12が、FeとMnを含有する析出物粒子12Cが分散されたアルミニウム合金(例えばA3003合金)で構成されているので、回路層11の一方の面側部分の変形抵抗を確実に高くすることができ、冷熱サイクル負荷時におけるうねりやシワの発生を抑制することが可能となる。
【0040】
また、本実施形態であるパワーモジュール用基板10の製造方法によれば、加熱工程S02において、回路層12となるアルミニウム板22とセラミックス基板11との界面に介在させたろう材24を溶融させることで、アルミニウム板22とセラミックス基板11との界面に溶融金属領域26を形成し、かつ、金属層13となるアルミニウム板23とセラミックス基板11との界面に介在させたろう材25を溶融させることで、アルミニウム板23とセラミックス基板11との界面に溶融金属領域27を形成し、凝固工程S03において、これら溶融金属領域26、27を凝固させているので、アルミニウム板22、23とセラミックス基板11とを接合することで、本実施形態であるパワーモジュール用基板10が製出されることになる。
【0041】
また、加熱工程S02において、アルミニウム板22とセラミックス基板11との界面に溶融金属領域26を形成することにより、回路層12のうちセラミックス基板11との接合界面部分に、粒径0.1μm以上の析出物粒子12Cの存在比率が3%未満とされた析出物欠乏層12Aを形成することが可能となる。ここで、ろう材箔24の材質及び厚さ、加熱工程S02における加熱温度及び加熱時間を調整することで、溶融金属領域26における溶融金属量が変化し、析出物欠乏層12Aの厚さを制御することが可能となる。
【0042】
次に、本発明の第2の実施形態について図7から図13を参照して説明する。
このパワーモジュール101は、回路層112が配設されたパワーモジュール用基板110と、回路層112の表面にはんだ層2を介して接合された半導体チップ3と、ヒートシンク140とを備えている。ここで、はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層112とはんだ層2との間にNiメッキ層(図示なし)が設けられている。
【0043】
パワーモジュール用基板110は、セラミックス基板111と、このセラミックス基板111の一方の面(図7において上面)に配設された回路層112と、セラミックス基板111の他方の面(図7において下面)に配設された金属層113とを備えている。
セラミックス基板111は、回路層112と金属層113との間の電気的接続を防止するものである。本実施形態では、セラミックス基板111は絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。また、セラミックス基板111の厚さは、0.2〜0.8mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0044】
図12に示すように、回路層112は、セラミックス基板111の一方の面に導電性を有するアルミニウム板122が接合されることにより形成されている。
この回路層112は、アルミニウムの母相中に析出物粒子が分散された析出分散型のアルミニウム合金で構成されており、本実施形態では、FeとMnとを含む析出物粒子が分散されたアルミニウム合金(例えば、A3003合金)の圧延板からなるアルミニウム板122がセラミックス基板111に接合されることにより形成されている。なお、回路層112の厚さは、0.1〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.4mmに設定されている。
【0045】
また、金属層113は、セラミックス基板111の他方の面にアルミニウム板123が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層113は、純度が99.99%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板123がセラミックス基板111に接合されることで形成されている。なお、金属層112の厚さは、0.1〜5.0mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、2.0mmに設定されている。
【0046】
ヒートシンク140は、前述のパワーモジュール用基板110を冷却するためのものであり、図7に示すように、天板部141と、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路142とを備えている。ヒートシンク140(天板部141)は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
【0047】
そして、図8に示すように、回路層112は、セラミックス基板111との接合界面側部分に配設された析出物欠乏層112Aと、この析出物欠乏層112Aに積層する本体層112Bと、を備えている。
ここで、析出物欠乏層112Aの接合界面からの厚さtは、2μm≦t≦50μmの範囲内に設定されている。
また、本体層112Bは、回路層112の一方の面(すなわち、半導体チップ3が搭載される搭載面)にまで延在している。
【0048】
そして、回路層112の断面を走査型電子顕微鏡で観察した結果、セラミックス基板111との接合界面側部分に配設された析出物欠乏層112Aにおいては、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%未満とされており、本体層112Bにおいては、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%以上とされている。すなわち、析出物欠乏層112Aと本体層112Bとでは、粒径0.1μm以上の析出物粒子の分散状態が異なっているのである。
【0049】
なお、回路層112の断面を走査型電子顕微鏡で観察される析出物粒子の粒径は、断面円形をなす粒径rの基準析出物粒子を想定し、この基準析出物粒子と同等の面積を有する析出物粒子の粒径をrとした。
また、析出物粒子の存在比率は、EPMAの面分析あるいはマッピングによりFeとMnを含むことが確認できている粒子とそれ以外の箇所に二値化分離処理をした際の面積率で算出した。
【0050】
また、本実施形態では、セラミックス基板111と回路層112(アルミニウム板122)及び金属層113(アルミニウム板123)との接合界面130においては、回路層112(アルミニウム板122)及び金属層113(アルミニウム板123)に、Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素が固溶している。
回路層112及び金属層113の接合界面130近傍には、接合界面130から積層方向に離間するにしたがい漸次添加元素の濃度が低下する濃度傾斜層133が形成されている。ここで、回路層112及び金属層113の接合界面130近傍の添加元素の濃度の合計が、0.01質量%以上5質量%以下の範囲内に設定されている。
【0051】
なお、回路層112及び金属層113の接合界面130近傍の添加元素の濃度は、EPMA分析(スポット径30μm)によって、接合界面130から50μmの位置で5点測定した平均値である。また、図9のグラフは、回路層112(アルミニウム板122)及び金属層113(アルミニウム板123)の中央部分において積層方向にライン分析を行い、前述の50μm位置での濃度を基準として求めたものである。
ここで、本実施形態では、Cuを添加元素として用いており、回路層112及び金属層113の接合界面130近傍のCu濃度が0.01質量%以上5質量%以下に設定されている。
【0052】
また、セラミックス基板111と回路層112(アルミニウム板122)及び金属層113(アルミニウム板123)との接合界面130を透過電子顕微鏡において観察した場合には、図10に示すように、接合界面130に添加元素(Cu)が濃縮した添加元素高濃度部132が形成されている。この添加元素高濃度部132においては、添加元素の濃度(Cu濃度)が、回路層112(アルミニウム板122)及び金属層113(アルミニウム板123)中の添加元素の濃度(Cu濃度)の2倍以上とされている。なお、この添加元素高濃度部132の厚さHは4nm以下とされている。
【0053】
なお、ここで観察する接合界面130は、図10に示すように、回路層112(アルミニウム板122)及び金属層113(アルミニウム板123)の格子像の界面側端部とセラミックス基板111の格子像の接合界面側端部との間の中央を基準面Sとする。また、回路層112(アルミニウム板122)及び金属層113(アルミニウム板123)中の添加元素の濃度(Cu濃度)とは、回路層112(アルミニウム板122)及び金属層113(アルミニウム板123)のうち接合界面130から一定距離(本実施形態では、5nm以上)離れた部分における添加元素の濃度(Cu濃度)である。
【0054】
また、この接合界面130をエネルギー分散型X線分析法(EDS)で分析した際のAl、添加元素(Cu)、O、Nの質量比が、Al:添加元素(Cu):O:N=50〜90質量%:1〜30質量%:1〜10質量%:25質量%以下の範囲内に設定されている。なお、EDSによる分析を行う際のスポット径は1〜4nmとされており、接合界面130を複数点(例えば、本実施形態では20点)で測定し、その平均値を算出している。また、回路層112及び金属層113を構成するアルミニウム板122、123の結晶粒界とセラミックス基板111との接合界面130は測定対象とせず、回路層112及び金属層113を構成するアルミニウム板122、123の結晶粒とセラミックス基板111との接合界面130のみを測定対象としている。
【0055】
なお、本明細書中におけるエネルギー分散型X線分析法による分析値は、日本電子製の電子顕微鏡JEM−2010Fに搭載したサーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製のエネルギー分散型蛍光X線元素分析装置NORAN System7を用いて加速電圧200kVで行った。
【0056】
以下に、前述の構成のパワーモジュール用基板110の製造方法について、図11から図13を参照して説明する。
【0057】
(固着工程S11)
まず、図11及び図12に示すように、回路層112となるアルミニウム板122のセラミックス基板111との接合面及び金属層113となるアルミニウム板123のセラミックス基板111との接合面に、スパッタリングによって、Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着して固着層124、125を形成する。このとき、固着層124、125における添加元素量は0.01mg/cm2以上10mg/cm2以下の範囲内とされている。
本実施形態では、添加元素としてCuを用いており、固着層124、125における添加元素量(Cu量)は0.08mg/cm2以上2.7mg/cm2以下に設定されている。
さらに、本実施形態では、アルミニウム板123のうちヒートシンク140の天板部141との接合面にも、Cuを固着することで固着層126を形成している。
【0058】
(積層工程S12)
次に、アルミニウム板122をセラミックス基板111の一方の面側に積層し、かつ、アルミニウム板123をセラミックス基板111の他方の面側に積層する。このとき、図12に示すように、アルミニウム板122、123のうち固着層124、125形成された面がセラミックス基板111を向くように積層する。すなわち、アルミニウム板122、123とセラミックス基板111との間に固着層124、125を介在させているのである。
さらに、本実施形態では、アルミニウム板123の他方の面側に、固着層126を介して天板部141を積層する。
【0059】
(加熱工程S13)
次に、積層工程S12において積層されたアルミニウム板122、セラミックス基板111、アルミニウム板123、天板部141を、その積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm2)した状態で加熱炉内に装入して加熱し、図13に示すように、アルミニウム板122、123とセラミックス基板111との界面にそれぞれ溶融金属領域127、128が形成される。これら溶融金属領域127、128は、固着層124、125のCuがアルミニウム板122、123側に拡散することによって、アルミニウム板122、123の固着層124、125近傍のCu濃度が上昇して融点が低くなることにより形成されるものである。同様に、固着層126のCuがアルミニウム板123及び天板部141側に拡散することによってアルミニウム板123と天板部141との界面にも溶融金属領域が形成されることになる。
この加熱工程S13においては、アルミニウム板122中の析出物粒子が溶融金属領域127に溶出し、上述の析出物欠乏層112Aが形成されることになる。
【0060】
(凝固工程S14)
次に、溶融金属領域127,128が形成された状態で温度を一定に保持しておく。すると、溶融金属領域127,128中のCuが、さらにアルミニウム板122、123側へと拡散していくことになる。これにより、溶融金属領域127,128であった部分のCu濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していくことになる。つまり、セラミックス基板111とアルミニウム板122、123とは、いわゆる等温拡散接合(Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)によって接合されているのである。このようにして凝固が進行した後に、常温にまで冷却を行う。
同様に、アルミニウム板123と天板部141との間に形成された溶融金属領域中のCuがアルミニウム板123及び天板部141側へと拡散していくことにより、凝固が進行していくことになる。
【0061】
このようにして、回路層112及び金属層113となるアルミニウム板122、123とセラミックス基板111とが接合され、本実施形態であるパワーモジュール用基板110が製造される。また、アルミニウム板123と天板部141とも接合されて、ヒートシンク付パワーモジュールが構成されることになる。すなわち、本実施形態では、パワーモジュール用基板110の形成と、ヒートシンク140の接合と、を同時に実施しているのである。
【0062】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板110及びパワーモジュール101においては、上述の第1の実施形態と同様に、回路層112が、アルミニウムの母相中に析出物粒子が分散された析出分散型のアルミニウム合金からなるアルミニウム板122を接合することで構成されており、回路層112の一方の面側(すなわち、半導体チップ3が搭載される搭載面)に、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%以上とされた本体層112Bが配設されていることから、回路層112の一方の面側部分が析出強化されることになり、冷熱サイクル負荷時におけるうねりやシワの発生を抑制することが可能となる。
【0063】
また、回路層112のうちセラミックス基板111との接合界面部分に、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%未満とされた析出物欠乏層112Aが形成されているので、セラミックス基板111と回路層112との熱膨張係数の差に起因する熱応力をこの析出物欠乏層112Aによって緩和することができ、冷熱サイクル負荷時におけるセラミックス基板111の割れの発生を抑制することができる。
【0064】
さらに、回路層112及び金属層113とセラミックス基板111との接合界面130には、Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiのうちのいずれか1種又は2種以上の添加元素が固溶しており、本実施形態では、添加元素としてCuが固溶されているので、回路層112及び金属層113とセラミックス基板111との接合界面130側部分が固溶強化することになり、回路層112及び金属層113部分での破断を防止することができる。
【0065】
ここで、回路層112及び金属層113のうち接合界面130近傍における添加元素の濃度(本実施形態ではCu濃度)が0.01質量%以上5質量%以下の範囲内に設定されているので、回路層112及び金属層113の接合界面130近傍の強度が過剰に高くなることを防止でき、このパワーモジュール用基板110に冷熱サイクルが負荷された際に、熱応力を回路層112及び金属層113で緩和することが可能となり、セラミックス基板111の割れの発生を抑制できる。
【0066】
また、回路層112及び金属層113とセラミックス基板111との接合界面130には、Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiのうちのいずれか1種又は2種以上の添加元素の濃度(本実施形態ではCu濃度)が、回路層112及び金属層113中の前記添加元素の濃度の2倍以上とされた添加元素高濃度部132が形成されているので、界面近傍に存在する添加元素原子(Cu原子)により、回路層112及び金属層113とセラミックス基板111との接合強度の向上を図ることが可能となる。
【0067】
また、添加元素高濃度部132を含む接合界面130をエネルギー分散型X線分析法で分析したAl、添加元素(Cu)、Oの質量比が、分析した際のAl、添加元素(Cu)、O、Nの質量比が、Al:添加元素(Cu):O:N=50〜90質量%:1〜30質量%:1〜10質量%:25質量%以下の範囲内に設定されているので、Alと添加元素(Cu)との反応物が過剰に生成されることがなく、回路層112及び金属層113とセラミックス基板111との接合を良好に行うことができる。また、この反応物によって回路層112及び金属層113の接合界面130近傍が必要以上に強化されることがなく、熱応力を確実に吸収することが可能となり、冷熱サイクル負荷時のセラミックス基板111の割れの発生を抑制することができる。
【0068】
また、本実施形態であるパワーモジュール用基板110の製造方法によれば、加熱工程S13において、回路層112となるアルミニウム板122とセラミックス基板111との界面に介在させた添加元素(Cu)を回路層112側に拡散させることで、溶融金属領域127を形成し、凝固工程S14でこの溶融金属領域127を凝固させているので、アルミニウム板122とセラミックス基板111とを接合することで回路層112を形成することができる。また、加熱工程S13において、溶融金属領域127を形成する際に、回路層112のうちセラミックス基板111との接合界面130部分に、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%未満とされた析出物欠乏層112Aを形成することが可能となる。すなわち、加熱工程S13において、添加元素(Cu)が回路層112側に拡散することでアルミニウム板122の一部が溶融し、溶融金属領域127が形成されることになる。このとき、アルミニウム板122中の析出物粒子が溶融金属領域127に溶出し、析出物欠乏層112Aが形成されることになる。ここで、添加元素(Cu)の固着量、加熱工程S13における加熱温度及び加熱時間を調整することで、溶融金属領域127における溶融金属量が変化し、析出物欠乏層112Aの厚さを制御することが可能となる。
【0069】
また、Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素は、アルミニウムの融点を降下させる元素であるため、比較的低温条件において、アルミニウム板122とセラミックス基板111との界面に溶融金属領域127を形成することができる。
【0070】
また、固着工程S11では、スパッタリングによって添加元素(Cu)を固着しているので、アルミニウム板122とセラミックス基板111との間に確実に添加元素(Cu)を配設することができ、アルミニウム板122とセラミックス基板111とを確実に
接合することができる。また、添加元素(Cu)の固着量を精度良く調整することが可能となり、析出物欠乏層112Aの厚さを制御することができる。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、回路層を、析出物粒子がFe,Mnを含有する析出分散型のアルミニウム合金(A3003合金)によって構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、他の析出分散型のアルミニウム合金で回路層を構成してもよい。
【0072】
また、セラミックス基板として、Al2O3、AlNを例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、Si3N4等の他のセラミックス基板であってもよい。
なお、第2の実施形態では、セラミックス基板としてAlNを用いた場合において、接合界面をエネルギー分散型X線分析法(EDS)で分析した際のAl、添加元素(Cu)、O、Nの質量比が、Al:添加元素(Cu):O:N=50〜90質量%:1〜30質量%:1〜10質量%:25質量%以下の範囲内に設定されているものとして説明したが、例えばセラミックス基板としてAl2O3を用いた場合においては、Al、添加元素(Cu)、Oの質量比が、Al:添加元素(Cu):O=50〜90質量%:1〜30質量%:45質量%以下の範囲内に設定されていることが好ましい。
【0073】
ここで、接合界面に存在する添加元素原子の質量比が30質量%を超えると、Alと添加元素との反応物が過剰に生成されることになり、この反応物が接合を阻害するおそれがある。また、この反応物によってアルミニウム板の接合界面近傍が必要以上に強化されることになり、冷熱サイクル負荷時にセラミックス基板に応力が作用し、セラミックス基板が割れてしまうおそれがある。一方、添加元素原子の質量比が1質量%未満であると、添加元素原子による接合強度の向上を充分に図ることができなくなるおそれがある。
以上のことから、接合界面における添加元素原子の質量比は、1〜30質量%の範囲内とすることが好ましいのである。
【0074】
また、固着工程においては、Alとともに添加元素を固着してもよい。この場合、Ca及びLi等の酸化しやすい元素であっても確実に固着させることが可能となる。なお、添加元素とともにAlを固着させるには、前記添加元素とAlとを同時に蒸着してもよいし、添加元素とAlの合金をターゲットとして用いてスパッタリングを行ってもよい。
【0075】
さらに、ヒートシンクの構造に特に限定はなく、種々の構成のヒートシンクを用いることができる。例えばコルゲートフィンを有するものであっても良いし、放熱フィンが立設されたものであってもよい。
【実施例】
【0076】
本発明の有効性を確認するために行った比較実験について説明する。
【0077】
(本発明例1)
まず、厚さ0.635mmのAlNからなるセラミックス基板に、回路層として、厚さ0.6mmのA3003合金からなるアルミニウム板、及び、金属層として厚さ0.6mmの4Nアルミニウムからなるアルミニウム板を、Al−Si系のろう材(Al−7.5質量%Si)を用いて、接合し、パワーモジュール用基板を製作した。
なお、ろう材箔の厚さを14μmとし、加圧条件3.0kgf/cm2、加熱温度625℃、加熱時間30分、加熱雰囲気を真空とした。
【0078】
(本発明例2)
厚さ0.635mmのAlNからなるセラミックス基板に、回路層として、厚さ0.6mmのA3003合金からなるアルミニウム板、及び、金属層として厚さ0.6mmの4Nアルミニウムからなるアルミニウム板を、第2の実施形態のように添加元素を固着させてTLP接合し、パワーモジュール用基板を製作した。
なお、添加元素としてCuを用い、Cuの固着量を0.9mg/cm2とし、加圧条件5.0kgf/cm2、加熱温度610℃、加熱時間(保持時間)30分、加熱雰囲気を真空とした。
【0079】
(比較例1)
厚さ0.635mmのAlNからなるセラミックス基板に、回路層として、厚さ0.6mmの4Nアルミニウムからなるアルミニウム板、及び、金属層として厚さ0.6mmの4Nアルミニウムからなるアルミニウム板を、Al−Si系のろう材(Al−7.5質量%Si)を用いて、接合し、パワーモジュール用基板を製作した。
なお、ろう材箔の厚さを14μmとし、加圧条件3.0kgf/cm2、加熱温度625℃、加熱時間30分、加熱雰囲気を真空とした。
【0080】
(比較例2)
厚さ0.635mmのAlNからなるセラミックス基板に、回路層として、厚さ0.6mmの4Nアルミニウムからなるアルミニウム板、及び、金属層として厚さ0.6mmの4Nアルミニウムからなるアルミニウム板を、第2の実施形態のように添加元素を固着させてTLP接合し、パワーモジュール用基板を製作した。
なお、添加元素としてCuを用い、Cuの固着量を0.9mg/cm2とし、加圧条件5.0kgf/cm2、加熱温度610℃、加熱時間(保持時間)30分、加熱雰囲気を真空とした。
【0081】
そして、これらの試験片を用いて冷熱サイクル試験を実施した。具体的には、冷熱サイクル(−45℃−125℃)を2000回繰り返した後に、試験片を観察し、回路層表面のうねり状態、セラミックス基板と回路層との間の接合率を評価した。結果を表1に示す。
なお、うねりについては、半径が2μmの球状先端を有し、テーパ角が90°の円錐を触針として用い、2.5(mm/基準長さ)×5区間の距離を、荷重4mN,速度1mm/sで表面を走査して区間平均の粗さ曲線を測定し、その十点平均粗さRz(JIS B0601−1994)を算出した。
また、接合率は、以下の式で算出した。ここで、「初期接合面積」とは、接合前における接合すべき面積のことである。
接合率 = (初期接合面積−剥離面積)/初期接合面積
【0082】
また、回路層における析出物欠陥層の厚さ、析出物の平均粒度、を評価した。
本明細書での析出物欠乏層の厚さは、走査型電子顕微鏡によって観察した本発明例1,2及び比較例1,2の試料の断面をAdobe Photoshop CS2(Adobe Systems Incorporated製)の明るさ・コントラストコマンドを用いて解析した像又は写真において、最もセラミックス基板に近接した析出物付近に生じる画像コントラストの境界と金属/セラミックス界面との平均距離と定義した。
また、
観察した像及び写真において、その明るさやコントラストを変量させた。すると、析出物欠乏層が存在している試料においては、析出物欠乏層と析出物非欠乏層の間にコントラスト境界が観察される。そこで、本明細書においては、このコントラスト境界と金属/セラミック界面との距離を析出物欠乏層の厚さと定義した。
また、本明細書における析出物の平均粒径は、走査型電子顕微鏡にて本発明例1,2及び比較例1,2の試料の断面を観察した像及び写真のある一定の領域において、以下の式で定義した。
(析出物の平均粒径)=(A/B/π)0.5
A=(観察領域における粒径0.1μm以上の析出物粒子の面積比率)×観察領域の面積
B=(観察領域内に存在する粒径0.1μm以上の析出物粒子の個数)
π:円周率
【0083】
【表1】
【0084】
比較例1、2では、接合率は高いものの回路層の表面にうねりが確認された。
これに対して、回路層をA3003合金で構成した本発明例1、2においては、回路層表面のうねりが抑制され、かつ、接合率も高かった。
また、本発明例1、2においては、回路層に析出物欠乏層が形成されていることが確認された。
【符号の説明】
【0085】
1、101 パワーモジュール
3 半導体チップ(電子部品)
10、110 パワーモジュール用基板
11、111 セラミックス基板
12、112 回路層
12A、112A 析出物欠乏層
12C 析出物粒子
22、122 アルミニウム板
23、123 アルミニウム板
24 ろう材箔
26 溶融金属領域
124 固着層
127 溶融金属領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の一方の面に回路層が接合されてなり、この回路層の表面に電子部品が搭載されるパワーモジュール用基板であって、
前記回路層は、アルミニウムの母相中に析出物粒子が分散された析出分散型のアルミニウム合金で構成されており、
前記回路層の断面の走査型電子顕微鏡観察において、前記回路層のうち前記セラミックス基板との接合界面部分には、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%未満とされた析出物欠乏層が形成されており、
前記回路層の一方の面側においては、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%以上とされていることを特徴とするパワーモジュール用基板。
【請求項2】
前記析出物欠乏層は、前記接合界面からの厚さが2μm以上50μm以下の範囲内に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項3】
前記析出物粒子が、Fe及びMnを含有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項4】
セラミックス基板の一方の面に回路層が接合されてなり、この回路層の表面に電子部品が搭載されるパワーモジュール用基板の製造方法であって、
回路層となる金属板として、アルミニウムの母相中に析出物粒子が分散された析出分散型のアルミニウム合金で構成されたアルミニウム板を準備し、このアルミニウム板と、セラミックス基板とを、ろう材を介して積層する積層工程と、
積層された前記アルミニウム板と前記セラミックス基板とを積層方向に加圧するとともに加熱し、前記アルミニウム板と前記セラミックス基板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、
この溶融金属領域を凝固させることによって、前記アルミニウム板と前記セラミックス基板とを接合して前記回路層を形成する凝固工程と、を備えており、
前記加熱工程及び前記凝固工程により、前記回路層のうち前記セラミックス基板との接合界面部分に、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%未満とされた析出物欠乏層を形成することを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項5】
セラミックス基板の一方の面に回路層が接合されてなり、この回路層の表面に電子部品が搭載されるパワーモジュール用基板の製造方法であって、
回路層となる金属板として、アルミニウムの母相中に析出物粒子が分散された析出分散型のアルミニウム合金で構成されたアルミニウム板を準備し、このアルミニウム板の接合面又はセラミックス基板の接合面のうちの少なくとも一方に、Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着して固着層を形成する固着工程と、
この固着層を介して、前記アルミニウム板と前記セラミックス基板とを積層する積層工程と、
積層された前記アルミニウム板と前記セラミックス基板とを積層方向に加圧するとともに加熱し、前記アルミニウム板と前記セラミックス基板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、
この溶融金属領域を凝固させることによって、前記アルミニウム板と前記セラミックス基板とを接合して前記回路層を形成する凝固工程と、を備えており、
前記加熱工程及び前記凝固工程により、前記回路層のうち前記セラミックス基板との接合界面部分に、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%未満とされた析出物欠乏層を形成することを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項6】
前記固着工程では、前記添加元素とともにアルミニウムを固着することを特徴とする請求項5に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項7】
前記固着工程は、めっき、蒸着、CVD、スパッタリング、コールドスプレー、又は、前記添加元素を含有する粉末が分散されたペースト若しくはインクの塗布によって前記添加元素を固着し、前記固着層を形成することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板と、前記回路層の表面に搭載される電子部品と、を備えたことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項1】
セラミックス基板の一方の面に回路層が接合されてなり、この回路層の表面に電子部品が搭載されるパワーモジュール用基板であって、
前記回路層は、アルミニウムの母相中に析出物粒子が分散された析出分散型のアルミニウム合金で構成されており、
前記回路層の断面の走査型電子顕微鏡観察において、前記回路層のうち前記セラミックス基板との接合界面部分には、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%未満とされた析出物欠乏層が形成されており、
前記回路層の一方の面側においては、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%以上とされていることを特徴とするパワーモジュール用基板。
【請求項2】
前記析出物欠乏層は、前記接合界面からの厚さが2μm以上50μm以下の範囲内に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項3】
前記析出物粒子が、Fe及びMnを含有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項4】
セラミックス基板の一方の面に回路層が接合されてなり、この回路層の表面に電子部品が搭載されるパワーモジュール用基板の製造方法であって、
回路層となる金属板として、アルミニウムの母相中に析出物粒子が分散された析出分散型のアルミニウム合金で構成されたアルミニウム板を準備し、このアルミニウム板と、セラミックス基板とを、ろう材を介して積層する積層工程と、
積層された前記アルミニウム板と前記セラミックス基板とを積層方向に加圧するとともに加熱し、前記アルミニウム板と前記セラミックス基板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、
この溶融金属領域を凝固させることによって、前記アルミニウム板と前記セラミックス基板とを接合して前記回路層を形成する凝固工程と、を備えており、
前記加熱工程及び前記凝固工程により、前記回路層のうち前記セラミックス基板との接合界面部分に、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%未満とされた析出物欠乏層を形成することを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項5】
セラミックス基板の一方の面に回路層が接合されてなり、この回路層の表面に電子部品が搭載されるパワーモジュール用基板の製造方法であって、
回路層となる金属板として、アルミニウムの母相中に析出物粒子が分散された析出分散型のアルミニウム合金で構成されたアルミニウム板を準備し、このアルミニウム板の接合面又はセラミックス基板の接合面のうちの少なくとも一方に、Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着して固着層を形成する固着工程と、
この固着層を介して、前記アルミニウム板と前記セラミックス基板とを積層する積層工程と、
積層された前記アルミニウム板と前記セラミックス基板とを積層方向に加圧するとともに加熱し、前記アルミニウム板と前記セラミックス基板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、
この溶融金属領域を凝固させることによって、前記アルミニウム板と前記セラミックス基板とを接合して前記回路層を形成する凝固工程と、を備えており、
前記加熱工程及び前記凝固工程により、前記回路層のうち前記セラミックス基板との接合界面部分に、粒径0.1μm以上の析出物粒子の存在比率が3%未満とされた析出物欠乏層を形成することを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項6】
前記固着工程では、前記添加元素とともにアルミニウムを固着することを特徴とする請求項5に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項7】
前記固着工程は、めっき、蒸着、CVD、スパッタリング、コールドスプレー、又は、前記添加元素を含有する粉末が分散されたペースト若しくはインクの塗布によって前記添加元素を固着し、前記固着層を形成することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板と、前記回路層の表面に搭載される電子部品と、を備えたことを特徴とするパワーモジュール。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図3】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図3】
【公開番号】特開2012−59836(P2012−59836A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200141(P2010−200141)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]