説明

ビニルアルコールコポリマークリオゲル、ビニルアルコールコポリマー並びにそれらの方法及び製品

クリオゲル形成性ビニルアルコールコポリマーは、化学架橋剤の不存在下及び乳化剤の不存在下において水溶液中で約10質量%未満の濃度で、クリオゲル、即ち、凍結ゲル化によって形成されるヒドロゲルを形成するように操作可能である。一実施形態において、ビニルアルコールコポリマークリオゲルは少なくとも約75質量%の水とビニルコポリマーとを含み、このビニルコポリマーは化学架橋剤の不存在下及び乳化剤の不存在下において約10質量%未満の濃度でクリオゲルを形成するように操作可能である。別の実施形態において、ビニルアルコールコポリマークリオゲルは、少なくとも約75質量%の水、及び少なくとも約80質量%の酢酸ビニルモノマーと、(i)少なくとも約3質量%のアクリルアミドモノマー若しくはアクリルアミドモノマーとアクリル酸モノマーとの混合物又は(ii)少なくとも約5質量%のアクリル酸モノマーとから形成された酢酸ビニルコポリマーの鹸化生成物を含んでなるビニルアルコールコポリマーを含む。酢酸ビニルコポリマー、ビニルアルコールコポリマー及びビニルアルコールコポリマークリオゲルを個々の方法に従って形成でき、ビニルアルコールコポリマークリオゲルは、生物医学的インプラント及び薄膜を含む種々の用途に、また、治療薬又は美容剤の送達のために使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニルアルコールコポリマークリオゲル、即ち、凍結ゲル化(cryotropic gelation)によって形成されたヒドロゲル、そのクリオゲルの形成に好適なビニルアルコールコポリマー、及びそのビニルアルコールコポリマーの形成に好適な酢酸ビニルコポリマーを対象とする。本発明はまた、酢酸ビニルコポリマーの形成方法、ビニルアルコールコポリマーの形成方法、及びビニルアルコールコポリマークリオゲルの形成方法を対象とする。更なる実施形態において、本発明は、そのビニルアルコールコポリマークリオゲルから形成された生物医学的インプラント及び薄膜、並びに治療薬又は美容剤のための送達システムを対象とする。
【背景技術】
【0002】
従来のポリビニルアルコール(PVA)は、繊維、接着剤、フィルム、膜、釣り餌、及び薬物送達ビヒクルに幅広く使用されているポリマーである。PVAはまた、種々の薬用及び非薬用チューインガムに基材としてよく用いられている。PVAとアクリル酸又はメタクリル酸とのコポリマーは、制御された薬物送及びpH感受性スマート薬物送達ビヒクルについて研究されている(Ranjhaら,「pH-sensitive non-crosslinked poly(vinyl alcohol-co-acrylic acid)hydrogels for site specific drug delivery」, Saudi Pharmaceutical Journal, 7(3):137〜143(1999); Hiraiら,「pH-Induced structure change of poly(vinyl alcohol)hydrogel crosslinked with poly(acrylic acid)」、Angewandte Makromolekulare Chemie, 240:213〜219(1996); Barbaniら,「Hydrogels based on poly(vinyl alcohol-co-acrylic acid) as innovative system for controlled drug delivery」, Journal of Applied Biomaterials and Biomechanics, 2:192(2004); 及びColuccioら, 「Preparation and characterization of poly(vinyl alcohol-co-acrylic acid)microparticles as a smart drug delivery systems」, Journal of Applied Biomaterials and Biomechanics, 2:202(2004))。
【0003】
従来のPVAヒドロゲルもまた、生物医学的用途について、例えば、高い水分含量及びレオロジーが適している軟組織への適用において詳細に研究されている。化学物質、例えばグルタルアルデヒドの添加による架橋(Canalら,「Correlation between Mesh Size and Equilibrium Degree of Swelling of Polymeric Networks」, Journal of Biomedical Materials Research, 23:1183〜1193(1989); Kuriharaら,「Crosslinking of poly(vinyl alcohol)-graft-N-isopropylacrylamide copolymer membranes with glutaraldehyde and permeation of solutes through the membranes」, Polymer, 37:1123〜1128(1996); 及びMckennaら,「Effect of Cross-Links on the Thermodynamics of Poly(Vinyl Alcohol)Hydrogels」, Polymer, 35:5737〜5742(1994))、照射/光重合による架橋、及び凍結ゲル化による架橋(Staufferら, 「Poly(Vinyl Alcohol)Hydrogels Prepared by Freezing-Thawing Cyclic Processing」, Polymer, 33:3932〜3936(1992); Urushizakiら, 「Swelling and Mechanical-Properties of Poly(Vinyl Alcohol)Hydrogels」, International Journal of Pharmaceutics, 58:135〜142(1990); 及びPeppasら,「Controlled Release from Poly(Vinyl Alcohol)Gels Prepared by Freezing-Thawing Processes」, Journal of Controlled Release, 18:95〜100(1992))などの架橋が、PVAの機械的性質を制御するメカニズムとして研究されている。
【0004】
しかし、グルタルアルデヒドには細胞毒性があることが知られているので、このような化学架橋剤を用いて製造されたヒドロゲルは、未反応の毒性成分が含まれないことが再確認されない限り、用途が限られる。照射架橋したPVAヒドロゲルが、生物活性物質の放出制御ついて記載されている(Pentherら, Jena Math. Nat. Wiss. Reihe, 36:669(1987))。しかし、これらのゲルは一般的に弱く(Yoshiiら, Radiation Physics and Chemistry, 46:169〜174(1995))、照射法は一般的には費用がかかり、工業規模への規模拡大は困難である。
【0005】
凍結ゲル化(cryotropic gelation)、即ち、例えば-5〜-196℃の温度範囲での凍結と融解の連続実施におけるゲル形成は、有害なおそれがある架橋剤又は照射を使用せずにしっかりしたヒドロゲルを製造するので、医薬及び生物工学用途に最適な物理的ゲル形成法である。このようなクリオゲルは、例えば放出制御製剤において有用な薬物送達ビヒクルとして作用できる。初期のクリオゲルは1940年代にドイツで製造され、澱粉糊の凍結によってスポンジを製造するものであった。PVA溶液からのクリオゲルは1970年代にゼリー状釣り餌の製造用として記載された(Inoueら, 「Water-resistant poly(vinyl alcohol) plastics」, 特公昭47-12854(1972))。ポリビニルアルコールポリマーの凍結ゲル化特性は、Nambu,「Rubber-like poly(vinyl alcohol) gel」, 高分子論文集, 47:695〜703(1990); Peppasら,「Reinforced Uncrosslinked Poly(Vinyl Alcohol)Gels Produced by Cyclic Freezing-Thawing Processes-a Short Review」, Journal of Controlled Release, 16:305〜310(1991); 及びLozinsky, 「Cryotropic gelation of poly(vinyl alcohol)solutions」, Uspekhi Khimii, 67:641〜655(1998)に記載されている。PVA系のヒドロゲル系は、環境条件、例えば、pH、磁場、又は光の比較的わずかな変化によって著しい体積変化を受ける種々の刺激応答性薬剤系の開発に用いられてきた(Hernandezら, 「Viscoelastic properties of poly(vinyl alcohol)hydrogels and ferrogels obtained through freezing-thawing cycles」, Polymer, 45(16):5543〜5549(2004))。
【0006】
PVAは、生物医学用途のための凍結ゲル化剤の中でおそらく最も一般的なポリマーであり、なぜなら、無毒性で且つ生体適合性を有するからである。更に、PVA系クリオゲルの構造機能相関が広範囲に文献記載されている。一般に、分子量が大きいPVAゲルは、分子量が小さい類似体よりもしっかりしたクリオゲルを形成する(Lozinsky、上記)。これは、ポリマー鎖が長くなっていることが、隣接鎖間の絡み合いと最終的には局所的な結晶化の可能性が増大させるためである。しかし、高分子量のポリマーは溶解性がより低いことが知られている。同様に、利用可能な側鎖の密度が高くなると、分岐度が低い類似体よりもしっかりしたゲルを形成する(同文献)。
【0007】
クリオゲルの形成メカニズムは複雑である。簡潔には、凍結時に、ポリマー濃度の高い部分領域が生じ、それが微結晶の形成とポリマー鎖間の架橋を促進して、マクロ多孔質メッシュが形成されると考えられている(Domotenkoら, 「Influence of Regimes of Freezing of Aqueous Solutions of Polyvinyl-Alcohol and Conditions of Defreezing of Samples on Properties of Obtained Cryogels」, Vysokomolekulyarnye Soedineniya Seriya, A30:1661〜1666(1988))。結果として、PVA鎖は、微小結晶ゾーン(microcrystallinity zone)として知られる規則的構造を形成する(Yakoyamaら,「Morphology and structure of highly elastic poly(vinyl alcohol)hydrogel prepared by repeated freezing-and-melting」, Coll. Polym. Sci., 264:595〜601(1986))。それらは接合の結び目(junction knot)として働き、OH基が自由に鎖間相互作用に関与できる場合にのみ生じる。工業用PVAは一般にポリ酢酸ビニルの鹸化によって製造されるので、PVA溶液のゲル化能力、特に凍結ゲル化によるゲル化能力が決まるには、ポリマーの分子量及び立体規則性に加えて脱アセチル化度が重要であり、なぜなら、PVA微結晶の形成に必要とされる十分に長時間の分子間接触のカップリングを残留アセチル基が妨害するからである。したがって、PVAの硬質クリオゲルの製造には、高度に脱アセチル化されたPVAを使用する必要がある(Wataseら, 「Rheological and DSC Changes in Polyvinyl-Alcohol)Gels Induced by Immersion in Water」, Journal of Polymer Science Part B-Polymer Physics, 23:1803〜1811(1985))。
【0008】
ヒドロゲルは一般に、その化学的性質及び水分含量に応じて様々な機械的性質を有することができるが、機械的強度は一般に比較的低い(Hydrogels in Medicine and Pharmacy: Vol.I〜III., Peppas, Ed., CRC Press Boca Raton, Florida(1986))。現在知られているPVA系クリオゲルは典型的には、約14〜16質量%の濃度でしっかりしたゲル構造を形成し(Lozinsky, 上記)、しかも追加の架橋剤が使用される場合が多い。機械的に硬いクリオゲルマトリックスの製造には濃縮PVA溶液が使用されるが、特にポリマー分子量が60〜70kDaを超える場合には、高濃縮(>20質量%)PVA溶液は過度に粘稠である(Lozinskyら, 「Poly(vinyl alcohol)cryogels employed as matrices for cell immobilization. 3. Overview of recent research and developments」, Enzyme and Microbial Technology, 23:227〜242(1998))。Lozinskyのロシア特許第2003-131705/04号は、PVA系クリオゲルが3〜25質量%の濃度において界面活性剤の添加によって形成されること、及び隣接ポリマー鎖間の物理架橋と高いマクロ多孔度とを共に得るには界面活性剤(本明細書中では「乳化剤」とも称する)の添加が重要であることが判明したことを開示している。Lozinskyのこの特許は更に、乳化剤の化学的特性(カチオン性、アニオン性又は両性)は、乳化剤が組成物中に存在しさえすれば重要ではないことを開示している。
【0009】
前述の通り、PVAは典型的には、ポリ酢酸ビニルの鹸化によって製造される。ポリ酢酸ビニル系ポリマーのよく用いられる重合経路は、成功裏に重合を行うために乳化剤又は保護親水コロイドを利用する。更に、この方法(即ち、いわゆる「ワニス法」)には従来、有害で且つ環境に優しくない、したがって特別な取り扱いを必要とする有機溶媒が用いられている。加えて、酢酸ビニル製品の鹸化時に、従来は、硬いゼリー状塊が形成され、次いで、それが、かなりのエネルギー投入量を必要とする高剪断ホモジナイザーを使用して壊される。GB特許第835,651号は、高温での乾燥時に耐水性硬質フィルムを生成する安定な分散液を形成するために、限られた量のアクリルアミドを用いて製造された酢酸ビニルポリマーを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭47-12854
【特許文献2】ロシア特許第2003-131705/04号
【特許文献3】GB特許第835,651号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Ranjhaら,「pH-sensitive non-crosslinked poly(vinyl alcohol-co-acrylic acid)hydrogels for site specific drug delivery」, Saudi Pharmaceutical Journal, 7(3):137〜143(1999)
【非特許文献2】Hiraiら,「pH-Induced structure change of poly(vinyl alcohol)hydrogel crosslinked with poly(acrylic acid)」, Angewandte Makromolekulare Chemie, 240:213〜219(1996)
【非特許文献3】Barbaniら,「Hydrogels based on poly(vinyl alcohol-co-acrylic acid) as innovative system for controlled drug delivery」、Journal of Applied Biomaterials and Biomechanics, 2:192(2004)
【非特許文献4】Coluccioら,「Preparation and characterization of poly(vinyl alcohol-co-acrylic acid)microparticles as a smart drug delivery systems」, Journal of Applied Biomaterials and Biomechanics, 2:202(2004)
【非特許文献5】Canalら,「Correlation between Mesh Size and Equilibrium Degree of Swelling of Polymeric Networks」, Journal of Biomedical Materials Research, 23:1183〜1193(1989)
【非特許文献6】Kuriharaら,「Crosslinking of poly(vinyl alcohol)-graft-N-isopropylacrylamide copolymer membranes with glutaraldehyde and permeation of solutes through the membranes」, Polymer, 37:1123〜1128(1996)
【非特許文献7】Mckennaら,「Effect of Cross-Links on the Thermodynamics of Poly(Vinyl Alcohol)Hydrogels」, Polymer, 35:5737〜5742(1994)
【非特許文献8】Staufferら,「Poly(Vinyl Alcohol)Hydrogels Prepared by Freezing-Thawing Cyclic Processing」, Polymer, 33:3932〜3936(1992)
【非特許文献9】Urushizakiら,「Swelling and Mechanical-Properties of Poly(Vinyl Alcohol)Hydrogels」, International Journal of Pharmaceutics, 58:135〜142(1990)
【非特許文献10】Peppasら,「Controlled Release from Poly(Vinyl Alcohol)Gels Prepared by Freezing-Thawing Processes」, Journal of Controlled Release, 18:95〜100(1992)
【非特許文献11】Pentherら, Jena Math. Nat. Wiss. Reihe, 36:669(1987)
【非特許文献12】Yoshiiら, Radiation Physics and Chemistry, 46:169〜174(1995)
【非特許文献13】Nambu,「Rubber-like poly(vinyl alcohol) gel」, 高分子論文集, 47:695〜703(1990)
【非特許文献14】Peppasら,「Reinforced Uncrosslinked Poly(Vinyl Alcohol)Gels Produced by Cyclic Freezing-Thawing Processes-a Short Review」, Journal of Controlled Release, 16:305〜310(1991)
【非特許文献15】Lozinsky,「Cryotropic gelation of poly(vinyl alcohol)solutions」, Uspekhi Khimii, 67:641〜655(1998)
【非特許文献16】Hernandezら,「Viscoelastic properties of poly(vinyl alcohol)hydrogels and ferrogels obtained through freezing-thawing cycles」, Polymer, 45(16):5543〜5549(2004)
【非特許文献17】Domotenkoら,「Influence of Regimes of Freezing of Aqueous Solutions of Polyvinyl-Alcohol and Conditions of Defreezing of Samples on Properties of Obtained Cryogels」, Vysokomolekulyarnye Soedineniya Seriya, A30:1661〜1666(1988)
【非特許文献18】Yakoyamaら,「Morphology and structure of highly elastic poly(vinyl alcohol)hydrogel prepared by repeated freezing-and-melting」, Coll.Polym.Sci. , 264:595〜601(1986)
【非特許文献19】Wataseら,「Rheological and DSC Changes in Polyvinyl-Alcohol)Gels Induced by Immersion in Water」、Journal of Polymer Science Part B-Polymer Physics, 23:1803〜1811(1985)
【非特許文献20】Hydrogels in Medicine and Pharmacy: Vol.I〜III. , Peppas, Ed. , CRC Press Boca Raton, Florida(1986)
【非特許文献21】Lozinskyら,「Poly(vinyl alcohol)cryogels employed as matrices for cell immobilization. 3. Overview of recent research and developments」, Enzyme and Microbial Technology, 23:227〜242(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
PVAが無毒性であって且つ生体適合性を有することを考慮しても、PVAを種々の用途で幅広く使用するには、PVAヒドロゲルの更なる改良が望ましい。
【0013】
したがって、本発明の目的は、改良されたビニルアルコール系ヒドロゲル、より特に、改良されたビニルアルコール系クリオゲル、即ち、凍結ゲル化によって形成されたヒドロゲルを提供することである。関連した目的は、このようなビニルアルコール系クリオゲルを容易にする材料及び方法を提供すること、並びにこのようなビニルアルコール系クリオゲルの用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
一実施形態において、本発明は、化学架橋剤の不存在下及び乳化剤の不存在下において10質量%未満の濃度にて水溶液中でクリオゲルを形成するよう作用できるクリオゲル形成性ビニルアルコールコポリマーに関する。
【0015】
別の実施形態において、本発明は、酢酸ビニルコポリマーの形成方法を目的とし、この方法は、重合開始剤及び緩衝剤を含むが乳化剤を含まない水性媒体中で、モノマーの質量に基づき、少なくとも約80質量%の酢酸ビニルモノマーと、(i)少なくとも約3質量%のアクリルアミドモノマー若しくはアクリルアミドモノマーとアクリル酸モノマーとの混合物又は(ii)少なくとも約5質量%のアクリル酸モノマーとを共重合させるステップを含む。得られる酢酸ビニルコポリマーは、特にビニルアルコールコポリマーの形成に使用できる。したがって、関連する実施形態において、本発明は、前記の方法に従って酢酸ビニルコポリマーを形成するステップと、前記酢酸ビニルコポリマーを鹸化して、クリオゲル形成性ビニルアルコールコポリマーを形成するステップとを含むクリオゲル形成性ビニルアルコールコポリマーの形成方法を目的とする。
【0016】
別の実施形態において、本発明は、ビニルアルコールコポリマークリオゲルの形成方法を目的とする。この方法は、本発明のビニルアルコールコポリマーの水溶液を0℃〜約-196℃の温度において凍結させて成形塊(molded mass)を形成するステップと、前記成形塊を融解させてヒドロゲルを形成するステップとを含む。
【0017】
更なる実施形態において、本発明は、ビニルアルコールコポリマークリオゲルを目的とする。一実施形態において、ビニルアルコールコポリマークリオゲルは、少なくとも約75質量%の水を含んでおり、化学架橋剤の不存在下及び乳化剤の不存在下において水溶液中約10質量%未満の濃度でクリオゲルを形成するよう作用できるビニルアルコールコポリマーから形成される。別の実施形態において、ビニルアルコールコポリマークリオゲルは、少なくとも約75質量%の水を含んでおり、少なくとも約80質量%の酢酸ビニルモノマーと(i)少なくとも約3質量%のアクリルアミドモノマー若しくはアクリルアミドモノマーとアクリル酸モノマーとの混合物又は(ii)少なくとも約5質量%のアクリル酸モノマーとから形成された酢酸ビニルコポリマーの鹸化生成物を含むビニルアルコールコポリマーから形成される。
【発明の効果】
【0018】
本発明のビニルアルコールコポリマークリオゲル及びビニルアルコールコポリマーは、乳化剤及び化学架橋剤を用いることなく容易に製造でき、したがって、局所使用及び生体内(in vivo)使用などの幅広い種類の用途での使用に適する点において有利である。更に、本発明のビニルアルコールコポリマークリオゲルは、比較的低濃度のビニルアルコールコポリマーから形成できるので有利である。このビニルアルコールコポリマークリオゲルの性質は、特にクリオゲルの形成に用いる酢酸ビニルコポリマー及びビニルアルコールコポリマーによって制御できる。本発明の方法は、望ましい特性を有するビニルアルコールコポリマークリオゲル及びビニルアルコールコポリマーの製造を容易にする。これら及びその他の目的及び利点は、以下の詳細な説明を考慮すればより明白になる。
【0019】
詳細な説明は、以下の図面を考慮に入れれば、理解がより深まるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1A】実施例1のクリオゲルの環境制御型走査電子顕微鏡(ESEM)写真を示す。
【図1B】実施例2のクリオゲルの環境制御型走査電子顕微鏡(ESEM)写真を示す。
【図1C】実施例3のクリオゲルの環境制御型走査電子顕微鏡(ESEM)写真を示す。
【図2】実施例1〜3のクリオゲルの示差走査熱力測定(DSC)の結果を示す。
【図3A】実施例1〜3のクリオゲルの熱重量分析(TGA)の結果を示す。
【図3B】実施例1〜3のクリオゲルの熱重量分析(TGA)の結果を示す。
【図4A】実施例1〜3のクリオゲルの動的機械熱分析(DMTA)の結果を示す。
【図4B】実施例1〜3のクリオゲルの動的機械熱分析(DMTA)の結果を示す。
【図5A】紫外分光法によって分析した実施例1〜3のクリオゲルからのサッカリンナトリウムの放出を示す。
【図5B】紫外分光法によって分析した実施例1〜3のクリオゲルからのサッカリンナトリウムの放出を示す。
【図6】クリオゲルのマトリックス内の染料(フルオレセインナトリウム(fluorescin sodium))の均一分布を示す。
【図7A】紫外分光法によって分析した実施例1〜3のクリオゲルからのゾルピデム(Zolpidem)の放出を示し、0.9%塩化ナトリウム溶液中のゾルピデムの徐放を示している。
【図7B】紫外分光法によって分析した実施例1〜3のクリオゲルからのゾルピデムの放出を示し、ゾルピデム放出に対するpHの影響を示している。
【図8A】適用前の口腔内薬物送達用の粘膜付着フィルムを示す。
【図8B】下唇に適用された口腔内薬物送達用の粘膜付着フィルムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図面が関係する実施形態については、実施例中で更に詳述する。これらの実施形態は、本質的に説明のためのものであって、本発明を限定することを意図していない。また、図面及び本発明の個々の特徴は、以下の詳細な説明を考慮すれば、より明白となり、理解がより深まるであろう。
【0022】
本発明は、ビニルアルコールコポリマー及びビニルアルコールコポリマークリオゲル、ビニルアルコールコポリマーの形成方法、ビニルアルコールコポリマーを形成できる酢酸ビニルコポリマーの形成方法、並びにビニルアルコールコポリマークリオゲルの形成方法を目的とする。ここで詳述するように、このビニルアルコールコポリマーは幅広い種類の用途への使用に適する。
【0023】
より具体的には、本発明に係るビニルアルコールコポリマーは、クリオゲル形成性ビニルアルコールコポリマーであり、即ち、それらは凍結融解時にクリオゲルを形成し、化学架橋剤の不存在下及び乳化剤の不存在下において水溶液中約10質量%未満の濃度でクリオゲルを形成するよう作用できる。より具体的な実施形態において、ビニルアルコールコポリマーは水溶液中約5質量%未満の濃度でクリオゲルを形成するよう作用でき、更なる実施形態においては、水溶液中約1〜2質量%の濃度でクリオゲルを形成するよう作用できる。従来のビニルアルコールコポリマーは典型的には、約14〜16質量%よりも低い濃度ではクリオゲルを形成せず、十分な機械強度を有するゲルを形成するには架橋剤を必要とすることが多いので、本発明のビニルアルコールコポリマーは先行技術よりも著しく優る利点を有する。
【0024】
一実施形態において、このビニルアルコールコポリマーは、特定の酢酸ビニルコポリマーの鹸化生成物を含む。より詳細には、酢酸ビニルコポリマーは、少なくとも約80質量%の酢酸ビニルモノマーと、(i)少なくとも約3質量%のアクリルアミドモノマー若しくはアクリルアミドモノマーとアクリル酸モノマーとの混合物又は(ii)少なくとも約5質量%のアクリル酸モノマーとから形成される。本発明の開示の範囲内では、「アクリル酸モノマー」には、アクリル酸とアクリル酸の同族体が含まれ、これにはメチル、エチル及びプロピルアクリル酸並びにアクリレートが含まれるがこれらに限定するものではない。「アクリルアミドモノマー」には、アクリルアミドとアクリルアミドの同族体が含まれ、これにはメチル、エチル及びプロピルアクリルアミドが含まれるがそれらに限定するものではない。共重合は、水性媒体中において乳化剤の不存在下で実施することが好ましい。本発明の開示の範囲内では、用語「乳化剤」には、全ての乳化剤、表面活性剤、又は界面活性剤が含まれる。アクリルアミド及び/アクリル酸モノマーは、a)自己乳化系を獲得し、それによって混入する乳化剤の使用を回避する、b)ヒドロゲル形成時に架橋を促進し且つヒドロゲルの強度を制御し、それによってヒドロゲル形成において、混入する化学架橋剤の使用を回避する、並びに/又はc)顕著な環境応答性、例えば、pH応答性ゲル、熱応答性ゲルなどのための官能基を導入するなどの多くの役割を果たす。例えば、弱酸又は弱塩基のイオン性基を有するアクリル酸又はアクリルアミドモノマーを導入すればpH応答性の系を形成でき、一方、疎水性側鎖を導入すれば熱応答性ゲルを形成できる。アクリル酸モノマーは主に自己乳化剤の役割を果たし、クリオゲル形成時に架橋を促進する。アクリルアミドモノマーを含むコポリマーからは一般に、コモノマーとしてアクリル酸のみを含むコポリマーよりもしっかりした(firmer)クリオゲルが得られる。アクリルアミドモノマー系単位は、ビニルアルコールコポリマーの形成における鹸化段階の間に一部分がアクリル酸に加水分解されることに注意すべきである。
【0025】
アクリル酸モノマーの量は約20質量%を超えないべきであり、より特に約15質量%を超えないべきであり、更に特に約10質量%を超えないべきである。過剰量のアクリル酸モノマーを添加すると、鹸化段階において粘質物が形成され、粉末状のビニルアルコールコポリマー生成物は得られない。同様に、アクリルアミドモノマーの量は約20質量%を超えないべきであり、より特に約15質量%を超えないべきであり、更に特に約10質量%を超えないべきである。したがって、酢酸ビニルモノマーの量は、約80〜95質量%若しくは約80〜97質量%の範囲であるべきであり、又はより特定の実施形態では、少なくとも約85質量%若しくは約85〜95質量%の範囲であるべきである。
【0026】
一実施形態において、酢酸ビニルの共重合は、重合開始剤及び緩衝剤を用いて実施する。重合用開始剤の選択及びその溶解度は生成物の性質に影響を与える可能性がある。開始剤は、水溶性物質、例えば、過硫酸アンモニウム若しくは過硫酸カリウムなどのアルカリ過硫酸塩、又は油溶性物質、例えば、過酸化ベンゾイル、或いはそれらの組合せであることができる。前記2種の組合せは、得られるポリマーの官能性に更に影響を及ぼす可能性がある。元のモノマーの比が同じであったとしても、開始剤又はその組合せの選択によっては、異なる分子量、極限粘度数(intrinsic viscosity)及び多分散度を有するポリマーが生じる。好適な緩衝剤としては、炭酸水素塩、燐酸塩などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
ビニルアルコールコポリマーは、酢酸ビニルコポリマーの鹸化生成物として形成される。安定な酢酸ビニルコポリマーエマルジョンの鹸化をアルカリ媒体中で実施する。有利なことに、この鹸化は、従来の方法において典型的に形成される硬いゲル塊を形成することなく、粉末状の生成物を形成する。したがって、本発明の方法は、硬いゲル塊を分散させるための高剪断ホモジナイザーの、後での使用を回避する。一実施形態において、得られる生成物の鹸化度は少なくとも約90%である。更なる実施形態において、得られる生成物の鹸化度は92%より大きく、より具体的には93%より大きく、更に具体的には95%より大きい。得られる生成物は、アクリル酸、その同族体、アクリルアミド、その同族体、又はそれらの組合せで官能化されたビニルアルコールコポリマー(PVA)主鎖ポリマーからなる。得られるPVA生成物の0.05MのNaNO3中での固有粘度数(characteristic viscosity)[η]は典型的には1〜4である。PVA生成物の分子量は典型的には10,000〜170,000ダルトンである。ポリマー生成物のエマルジョンは、典型的には3.8〜5.2のpH及び典型的には30〜50質量%の乾燥固形分を特徴とする。これらの数値範囲は、特定の選択した実施形態の代表例に過ぎず、限定的な意味に考えてはならない。
【0028】
このように、ビニルアルコールコポリマーを用いて、その水溶液を0〜約-196℃、より特に約-15〜約-35℃の範囲の温度において凍結させて成形塊を形成し、続いて前記成形塊を凍結温度より高い温度で融解させてヒドロゲルを形成することによって、ビニルアルコールコポリマークリオゲルを形成できる。凍結は、必要に応じて任意の適当な時間、例えば、数分、例えば、2、3、5、10、20、30、40若しくは50分から、1時間若しくは数時間又はそれ以上、例えば、2、3、5、10、15、20、24若しくは30時間又はそれ以上までの時間実施できる。例えば数分から数時間までの種々の時間の反復凍結融解を用いて、ゲル強度を増大できる。クリオゲルは約75質量%より多い水を含む。特定の実施形態において、クリオゲルは少なくとも90質量%の水及び約1〜約10質量%のビニルアルコールコポリマーを含み、より特に少なくとも約95質量%の水及び約1〜約5質量%のビニルアルコールコポリマーを含み、一部の用途では、約96質量%超の水及び約1〜約4質量%のビニルアルコールコポリマーを含む。クリオゲル形成のためのビニルアルコールコポリマーの下限閾値濃度は典型的には約1質量%である。特定の実施形態において、ビニルアルコールコポリマーの濃度は約3〜4質量%である。必要ならば、例えば、本発明を強固な生物医学的インプラントの形成に用いる場合には、より高濃度の、例えば最大約25質量%のビニルアルコールコポリマーを使用できる。しかし、理論に束縛されることを意図しないが、アクリル酸及び/又はアクリルアミドコモノマー中のイオン化可能な基の存在は、ポリマー濃度が低い場合であっても強固なゲル構造の形成に有利であると考えられる。実際に、ビニルアルコールコポリマー約4質量%及び水96質量%の場合に非常にしっかりした(firm)クリオゲル構造が形成されるが、一方、一般に入手可能なビニルアルコールポリマーがしっかりしたクリオゲルを形成するのは、PVAが約14〜16質量%又はそれ以上の場合である。
【0029】
本発明に係るビニルアルコールコポリマークリオゲルは、乳化剤を含まないビニルアルコールコポリマーから形成され、グルタルアルデヒドなどの従来の化学架橋剤を用いずにしっかりした(firm)構造を実現可能である。したがって、毒性成分が回避され、このクリオゲルは生物医学的用途に、例えば、治療薬及び/又は美容剤の送達システムに、並びに生物医学的インプラントとして使用するのに有利である。よりしっかり(firm)したヒドロゲルが望ましい場合には、従来の架橋技術を用いて、即ち、グルタルアルデヒドなどの従来の架橋剤又は照射を用いて、クリオゲル形成後に共有結合によってクリオゲルに更なる剛性を与えることができる。
【0030】
或いは、非共有結合性結合剤を用いてビニルアルコールコポリマークリオゲルの機械的性質を調節する他の方法も使用できる。例えば、クリオゲル形成前にビニルアルコールコポリマー溶液中に1種又は複数のアミノ酸を含ませて、レオロジー調節剤として作用させることができる。好適なアミノ酸としては、イソロイシン、アラニン、ロイシン、アスパラギン、リジン、アスパルテート、メチオニン、システイン、フェニルアラニン、グルタメート、トレオニン、グルタミン、トリプトファン、グリシン、バリン、プロリン、セリン、チロシン、アルギニン、及びヒスチジンが挙げられるが、これらに限定されない。このようなアミノ酸は、以下に更に詳述するプロバイオティック添加剤(probiotic additive)として作用することもできる。
【0031】
得られるゲルの官能基組成(functional composition)によって、ゲルの性質は、例えば、ゲル強度及び/又はレオロジーに関して、大きく異なる可能性がある。官能基組成によっては、以下に更に詳述するように、得られるクリオゲルは軟質(製剤又は局所用製剤、例えば、以下に限定するものではないが、リンクルフィラー、膣注入剤、及び直腸注入剤などにより適する)又は硬質(例えば、経口投与、直腸坐剤、又は膣坐剤により適する)であることができる。更に、官能基組成は、ビニルアルコールコポリマークリオゲルの生分解性を制御するために変えることができる。一実施形態において、ビニルアルコールコポリマークリオゲルは、例えば、1時間、数時間、1日、数日、1カ月、又は数カ月にわたって生分解性である。別の実施形態において、ビニルアルコールコポリマークリオゲルは非生分解性である。PVAは、分子量が18,000ダルトン以下の場合には、一般的に生分解性であり、腎障害を引き起こさないことがよく知られている。本発明に係るビニルアルコールコポリマーの分子量は、当業者によく知られた方法を用いてレオロジー測定値から算出できる。イオン化可能な官能基及びポリマー鎖のランダム分岐の存在により、本発明に従って製造されたビニルアルコールコポリマー及びクリオゲルは、粘度測定値から算出された分子量が18,000ダルトンよりかなり大きくても、生分解性であることができる。したがって、特定のポリマー組成のそれぞれについてクリオゲルの生分解性を検証するためには、インビボ試験が必要である。しかし、本発明のクリオゲルが生分解し易いのは、化学架橋剤を用いて生成される共有結合とは異なる隣接ポリマー鎖間結合の物理的特性のためであるというのが一般的理解である。したがって、前述のように、非生分解性ゲルを得るためには、凍結処理後に、従来の架橋法の追加使用、例えば、グルタルアルデヒド(これに限定するものではないが)などの化学架橋剤又は照射による共有結合の形成が利用可能である。
【0032】
一実施形態においては、得られたビニルアルコールコポリマークリオゲルを従来の凍結乾燥法による凍結乾燥に供して、明確な細孔構造を有する固体材料を得ることができる。この多孔質材料は、種々の固体剤形、例えば、治療薬又は美容剤送達用のプラグが含まれるがこれらに限定するものではない種々の用途に使用できる。
【0033】
本発明のビニルアルコールコポリマークリオゲルには、所望に応じて治療薬、美容剤、又は機能剤(functional agent)を任意選択で配合できる。例えば、1種又は複数の薬物をビニルアルコールコポリマークリオゲル中に配合して、薬物送達ビヒクルを得ることができる。前述のような薬剤の配合は、凍結ゲル化前又は凍結ゲル化後のいずれに実施してもよい。前者の場合には、ビニルアルコールコポリマーを所望の薬剤の溶液中に、例えば、約50℃〜80℃の温度において溶解させるが、他の温度も適宜使用可能である。具体的な実施形態において、ビニルアルコールコポリマーは約60℃〜約75℃、又はより特に約62℃〜約71℃の温度において所望の薬剤の溶液中に溶解させる。あるいは、薬剤をビニルアルコールコポリマー溶液中に、例えば、約50℃〜約80℃の温度で溶解させることができるが、他の温度も適宜採用できる。具体的な実施形態において、薬剤はビニルアルコールコポリマーの溶液中に約60℃〜約75℃、又はより特に約62℃〜約71℃の温度において溶解させる。クリオゲルをオートクレーブ処理によって滅菌すべき場合には、この薬物の溶解とオートクレーブ処理を単一工程で一緒にすることができる。この場合には、溶解は、使用するスチーム圧力に応じて、典型的には100〜144℃のオートクレーブ処理温度において実施する。成分の溶解及び使用する場合にはオートクレーブ処理の後、溶液を所望の型に流し込み、上述のように凍結させる。融解させることで、配合されたビニルアルコールコポリマークリオゲル製剤が得られる。
【0034】
あるいは、所望の薬剤のクリオゲルへの組込みは、クリオゲルの形成後に、例えば、薬剤溶液中にクリオゲルを浸漬することによって行うことができる。このような組込みは、クリオゲル形成後に行う任意の更なる架橋の前及び/又は後に、例えば、照射、共有結合、及び非共有結合による任意の更なる架橋の前及び/又は後に実施できる。
【0035】
配合された薬剤は、治療薬、美容剤、及び/又は機能剤を含むことができる。治療薬の例としては、鎮痛薬、麻酔薬、抗細菌薬、抗真菌薬、抗炎症薬、かゆみ止め薬、抗アレルギー薬、抗ミメティック薬(anti-mimetic)、免疫調整薬、精神安定薬、睡眠補助薬、抗不安薬、血管拡張薬、骨成長促進剤(bone growth enhancer)、破骨細胞抑制薬、又はビタミンが挙げられるが、これらに限定されない。或いは、治療薬は、プロバイオティック添加剤として作用するアミノ酸であることもできる。その他の実施形態において、治療薬は、生物学的マクロ複合体(biological macrocomplex)を含むことができる。生物学的マクロ複合体の非限定的な例としては、プラスミド、ウィルス、バクテリオファージ、蛋白質ミセル、ミトコンドリア(mytochondriae)などの細胞構成要素オルガネラが挙げられる。本発明の特定の実施形態においては、ビニルアルコールコポリマークリオゲルに、難溶性の治療薬を配合できる。
【0036】
美容剤の例としては、着色成分などが挙げられるが、これに限定されない。機能剤の例としては、着色剤、呈味増強剤、保存剤、酸化防止剤、又は滑剤(lubricant)が挙げられるが、これらに限定されない。チオール化粘膜付着強化剤は、クリオゲルの粘膜付着性を増大させる機能剤として使用できる。チオール化粘膜付着強化剤は、当業界で知られており、その例としてはシステインが挙げられるがこれに限定されない。更に、機能剤には前述のアミノ酸レオロジー調節剤も含まれる。以下に詳述するように、このような機能剤は、凍結ゲル化前にビニルアルコールコポリマー溶液に添加してもよいし、形成されたクリオゲルに配合してもよい。種々の配合されたビニルアルコールコポリマークリオゲルの具体的な実施形態を以下に更に詳述する。
【0037】
ビニルアルコールコポリマークリオゲルは、種々の形態で使用できる。例えば、局所投与用として、注入剤として、カプセル剤(ハードカプセル剤又はソフトカプセル剤)中にクリオゲルとして若しくは乾燥プラグの形態で埋め込んで、局所投与用などの薄膜、口腔内又は舌下薬物送達用などの粘膜付着フィルム、直腸若しくは膣送達用などの坐剤として形成して、チューインガム用、例えば薬物若しくは化粧料送達用、生物医学的インプラント(薬剤が配合された又は配合されていない)用の基材として使用することなどが可能である。具体的な非限定例を以下に記載する。
【0038】
一実施形態においては、クリオゲルを凍結乾燥させ、それに治療薬を配合して、固体プラグを形成する。このようなプラグは種々の用途で使用できる。一実施形態において、プラグは、胃内浮遊型薬物送達ビヒクルとして使用できる。このデバイスに組み込まれる薬物としては、カフェイン、テオフィリン、ジルチアゼム、塩酸プロプラノロール、ビピリジン、トラマドール、及びオメプラゾールが挙げられるが、これらに限定されない。別の実施形態において、プラグは、ニコチン吸入デバイス用の担体として、例えば、無煙ニコチン投与を可能にするために、例えば禁煙を支援するために使用できる。特定の実施形態において、ビニルアルコールコポリマークリオゲルの凍結乾燥固体多孔質プラグには、回転式蒸発を用いることによってニコチンのエタノール溶液からニコチンを配合する。次に、ニコチンが配合された固体プラグを、吸入デバイス、例えば、喫煙のパフィング行動の模倣を可能にするマウスピースを含む短いパイプ中に組み込む。
【0039】
本発明の別の実施形態には、薬物含有局所用製剤が含まれる。例えば、より具体的な実施形態において、局所用製剤は、例えば、創傷治療前若しくは創傷治療用に、熱傷治癒用に、昆虫刺傷治療用に、授乳に関連する痛みに、又は痔疾及び亀裂などの直腸障害に使用できる。本発明に係る配合されたビニルアルコールコポリマークリオゲルにおける高い水分含量と薬物徐放との組合せは、このような局所用製剤に非常に有利である。クリオゲルは、組み込まれた薬物を徐放し且つ水分含量が非常に高い軟質ヒドロゲルとして形成できる。特定の実施形態においては、クリオゲル製剤に抗生物質、消毒薬、又は抗真菌薬を配合し、乾燥させて、薄膜にする。この薄膜は、滲出液との接触時に膨潤し、その結果、創傷を被覆するだけでなく創傷表面への良好な付着性を示す。薄膜の膨潤により、配合薬物の持続放出が開始される。好適な薬物としては、ニトロフラゾン、フシジン酸、マフェニド、ヨウ素、バシトラシン、リドカイン、ブピバカイン、レボブピバカイン、プリロカイン、ロピバカイン、メピバカイン、及びアロエベラが挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
別の特定の実施形態において、クリオゲル製剤は、局所痛緩和、抗炎症治療用の局所製剤、又は深部温熱用リニメント剤に使用する。薬物としては、ジクロフェナクナトリウム、サリチル酸、及びサリチル酸メチルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
別の実施形態において、ビニルアルコールコポリマークリオゲルは、乾癬、湿疹の治療、及び他の皮膚炎治療形態に使用できる。薬物としては、インターロイキン-6拮抗薬、抗炎症薬、副腎皮質ステロイド、ピメクロリムス及びタクロリムスのような免疫調整薬、カプサイシン及びメタノールのようなかゆみ止め薬、並びに塩酸ナロキソン及びジブカインが挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
本発明の別の実施形態は、粘膜付着製剤を目的とする。粘膜付着製剤は、例えば、口腔内、口蓋、又は舌下薬物送達に使用できる。ビニルアルコールコポリマークリオゲルに薬物を配合し、乾燥させて、水との接触時に迅速に膨潤することによって優れた粘膜付着性を示す薄膜形態にする。粘膜付着性は、口腔内における製剤の保持時間を長くし、その下に存在する粘膜との緊密な接触及び迅速な作用発現を確実にする。特定の実施形態においては、粘膜付着製剤は、上記のとおりビニルアルコールコポリマーから調製されたクリオゲルから形成され、これは任意選択でチオール化粘膜付着強化剤(例えばこれに限定されないがシステイン)を含んでいてもよく、これが粘膜付着性を強める働きをする。別の特定の実施形態においては、粘膜付着製剤は、特に精神安定薬、睡眠補助薬、又は抗不安薬を含み、それらの例としては、ジアゼパム、オキサゼパム、ロラゼパム、アルプラゾラム、ブスピロン、フルラゼパム、プロピオマジン、トリアゾラム、ニトラゼパム、エスゾピクリオン(eszopiclione)、ゾプルクロン(zoplclone)、モダフィニル、ラメルテオン、ザレプロン、メラトニン、吉草根、セントジョーンズワート、レストリル、ナトリウムオキシベート、ミダゾラム、ゾルピデム、及び塩酸ジフェンヒドラミンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
本発明の別の実施形態は、歯科における穏やかな局所麻酔のための口蓋用粘膜付着フィルムを目的とする。特定の実施形態において、粘膜付着フィルムは、前述のようにビニルアルコールコポリマーから製造されたクリオゲルから形成され、これは任意選択でチオール化粘膜付着強化剤(例えばこれに限定されないがシステイン)を含んでいてもよく、これが先に記したように粘膜付着性を強める働きをする。好適な薬物としては、リドカイン、ブピバカイン、レボブピバカイン、プリロカイン、ロピバカイン、及びメピバカインなどの麻酔薬が挙げられるが、これらに限定されない。粘膜付着製剤の更なる特定の実施形態は、例えば、アレルギー反応、乗り物酔い、妊娠及び癌における吐き気の迅速な治療に有用なヒスタミン拮抗薬を含む。抗アレルギー物質としては、クレマスチン、フェキソフェナジン、ロラチジン、アクリバスチン、デスロラチジン、セトリジン(cetrizine)、レボセトリジン、ミゾラスチンが挙げられるが、これらに限定されない。乗り物酔い及び吐き気の治療に有用なアンチミメティック(antimemetic)薬としては、プロメタジン、シンナリジン、シクリジン、及びメクリジンが挙げられるが、これらに限定されない。別の特定の実施形態は、心臓病治療用の粘膜付着製剤である。この薬物としては、二硝酸イソソルビド又はニトログリセリンなどの血管拡張薬が挙げられるが、これに限定されない。
【0044】
本発明の別の実施形態には、例えば薬物放出制御を可能にするための、pH感受性クリオゲル系が含まれる。クリオゲルのこの感受性は、導入されたイオン性官能基の最適バランスによって調節可能である。この導入イオン性官能基は、生成されるゲルの強度だけでなく膨潤挙動にも影響を及ぼし、ひいては組み込まれた薬物の種々のpHにおける放出にも影響を及ぼす。特定の実施形態において、pH感受性クリオゲル系は、任意選択でソフトカプセル剤若しくはハードカプセルに埋め込まれていてもよい固体プラグ又はクリオゲルである。より具体的な実施形態において、このpH感受性クリオゲル系は、膣用ヒドロゲル製剤である。
【0045】
本発明の別の実施形態として、薬物含有熱感受性クリオゲルが含まれる。温度変化に対するクリオゲルの感受性は、親油性側鎖(例えば、メチル-、エチル-、プロピル-アクリレート/アクリルアミド誘導体)の導入によって達成される。より具体的な実施形態において、この熱感受性クリオゲルは体温で液化する。
【0046】
本発明の更なる実施形態は、直腸用クリオゲル製剤である。薬物としては、インドメタシン、パラセタモール、ジアゼパム、プロプラノロール、及びアテノロールが挙げられるが、これらに限定されない。この製剤は、高い水分含量及び適当な稠度を有する点で有利である。本発明の更に別の実施形態は、潰瘍性大腸炎の治療のための直腸用軟質クリオゲル注入製剤である。薬物としては、5-アミノサリチル酸(メサラジン)又はその誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
本発明の別の実施形態は、膣用ヒドロゲル製剤の形態である。薬物としては、抗真菌薬又は抗生物質、例えば、エコナゾール、メトロニダゾール、及び/又はクロトリマゾールが挙げられるが、これらに限定されない。この製剤は、高い水分含量及び適当な稠度を有する点で有利である。
【0048】
別の実施形態は、本発明に従って製造されたクリオゲル材料を基材し、膣用固体プラグとして有用な製剤である。薬物としては、エコナゾール、メトロニダゾール、及びクロトリマゾールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
本発明のその他の実施形態には、疼痛緩和のためにクリオゲルに配合された1種又は複数の鎮痛薬を含む製剤が含まれる。適当な鎮痛薬としては、モルヒネ、コデイン、オキシコドン、フェンタニル、テバイン、メタドン、ケトベミドン、ペチジン、トラマドール、プロポキシフェン、ヒドロモルホン、ヒドロコドン、オキシモルホン、デスモルヒネ、ジアセチルモルヒネ、ニコモルヒネ、ジプロパノイルモルヒネ、ベンジルモルヒネ、及びエチルモルヒネが挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
本発明の更なる実施形態においては、ビニルアルコールコポリマークリオゲルを、生物医学的インプラント、例えば、整形外科用インプラントとして形成する。整形外科用インプラントの非限定的例としては、人工椎間板、半月板インプラント、及び蝸牛インプラントが挙げられるが、これらに限定されない。クリオゲル系を好ましい形状に成形する。これには任意選択で治療薬を配合できる。ポリマー溶液を、凍結ゲル化の前又は後に、好ましくは凍結ゲル化の前に、オートクレーブ処理によって滅菌する。使用に適した薬物の非限定的例としては、骨形成蛋白質、抗生物質、例えば、ゲンタマイシン、トブラマイシン、アモキシシリン、及びセファロチン、並びにビスホスホネート、例えば、パミドロメート、ネリドロネート、オルパドロネート、アレンドロネート、イバンドロネート、リセドロネート、及びゾレドロネートなどが挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態において、生物医学的インプラントクリオゲルを形成するためのビニルアルコールコポリマー溶液は、レオロジー調節剤及びプロバイオティック添加剤の両方の役割をする1種又は複数のアミノ酸を含む。上述の1種又は複数のアミノ酸を使用できる。
【0051】
本発明のその他の実施形態において、ビニルアルコールコポリマークリオゲルは、例えば骨再生のための、生分解性インプラントとして使用できる。このクリオゲルは、マクロ多孔質組織スキャフォールドとして望ましい形状に成形でき、任意選択で、例えば、骨成長促進剤、破骨細胞活動及び骨吸収を阻害する薬物、骨の成長を刺激する薬物、成長因子、並びに骨及び軟骨の形成を誘発する能力を有するサイトカイン、抗生物質を配合してもよい。コポリマー溶液を、凍結ゲル化前又は後に、好ましくは凍結ゲル化前に、オートクレーブ処理によって滅菌する。配合に好適な薬物の非限定的例としては、骨形成蛋白質、抗生物質、例えば、ゲンタマイシン、トブラマイシン、アモキシシリン及びセファロチン、並びにビスホスホネート、例えば、パミドロメート、ネリドロネート、オルパドロネート、アレンドロネート、イバンドロネート、リセドロネート、及びゾレドロネートが挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態において、生分解性インプラントクリオゲルを形成するためのビニルアルコールコポリマー溶液は、レオロジー調節剤及びプロバイオティック添加剤の両方の役割をする1種又は複数のアミノ酸を含む。上述の1種又は複数のアミノ酸を使用できる。
【0052】
本発明の別の実施形態は、生物学的マクロ複合体の送達のための、滅菌された埋め込み可能なマクロ多孔質クリオゲルを含む生物医学的インプラントを目的とする。生物学的マクロ複合体の非限定的な例としては、プラスミド、ウィルス、バクテリオファージ、蛋白質ミセル、及びミトコンドリアなどの細胞構成要素オルガネラが挙げられる。ポリマー溶液を、凍結ゲル化前又は後に、好ましくは凍結ゲル化前に、オートクレーブ処理によって滅菌する。特定の実施形態において、生分解性インプラントクリオゲルを形成するためのビニルアルコールコポリマー溶液は、レオロジー調節剤及びプロバイオティック活性の両方の役割をする1種又は複数のアミノ酸を含む。好適なアミノ酸は上で詳述したものである。
【0053】
本発明の更なる実施形態は、種々の滅菌された化粧用の生分解性フィラー及び/又はインプラントである。化粧用のこれらの系は強固(植え込み可能)であっても、柔軟(注入可能)であってもよい。これらには更にビタミン、例えばビタミンC、E、若しくはA、又は他のプロバイオティック物質を配合できる。生分解性フィラー及びインプラントの非限定的例は、リンクルフィラー、豊胸用インプラント、尻インプラント、頬インプラントなどの顔面インプラントなどである。
【0054】
以下の実施例は、本発明の種々の態様の非限定的実施形態を示す。
【実施例1】
【0055】
[実施例1]
この実施例では、以下の分散液:
酢酸ビニル 86ml
アクリルアミド 7.1g
メタクリル酸 8.6g
NaHCO3 1g
過硫酸アンモニウム 0.3g
水 150ml
から酢酸ビニルコポリマーを製造した。
【0056】
チラー及びミキサーが接続された三つ口反応器を水浴中に入れた。酢酸ビニル86g、アクリルアミド7.1g、メタクリル酸7.1g、炭酸水素ナトリウム1.0g、水140ml、及び予め水10mlに溶解させた過硫酸アンモニウム0.3gを反応器に充填した。前記試薬を、白色エマルジョンが形成され且つ残留モノマー濃度が0.4質量%以下となるまで、緩速撹拌しながら64〜70℃において5〜6時間放置した。生成したエマルジョンは40.1質量%の固形分を含み、4.4のpH及び16.5 Pa.s.の粘度を示した。次いで、得られた粘稠で白色のコポリマーエマルジョンを冷やし、更にアルカリ媒体中で以下の混合物を用いて鹸化させた(下記の分散液は上記コポリマーエマルジョン生成物を意味する):
分散液 180ml
水 240ml
エタノール 1800ml
NaOH 24g
【0057】
具体的には、エマルジョン180mlを水240mlで希釈し、エタノール1800ml中に水酸化ナトリウム24gを含む反応器中に入れた。20℃において、粉末PVAを析出させ、その混合物に撹拌しながら酢酸を添加して、アルカリを中和した。次いで、ビニルアルコールコポリマーを濾過し、粗製生成物をエタノールで十分に洗浄し、その後に乾燥させた。生成物の収量は50.62gであった。得られた生成物の1質量%溶液の20℃における粘度は、12.5 mPa・s、極限粘度数[η]が1.5であった。得られたビニルアルコールコポリマー生成物は、アセテート基2.3質量%、カルボキシレート基9.24質量%、カルボン酸基1.35質量%、及びアミド基4.75質量%を含んでいた。
【実施例2】
【0058】
[実施例2]
この実施例では、以下の分散液:
酢酸ビニル 86ml
アクリルアミド 7.1g
アクリル酸 7.2g
NaHCO3 0.75g
過酸化ベンゾイル 0.12g
過硫酸アンモニウム 0.23g
水 152ml
から酢酸ビニルコポリマーを製造した。
【0059】
上述した三つ口反応器を水浴中に入れ、酢酸ビニル86ml、アクリルアミド7.1g、アクリル酸7.2g、炭酸水素ナトリウム0.75g、水190ml、過酸化ベンゾイル0.12g、及び予め水10mlに溶かした過硫酸アンモニウム0.23gを反応器に充填した。前記試薬を、白色エマルジョンが形成され且つ残留モノマー濃度が0.4質量%以下となるまで、緩速撹拌しながら64〜70℃において4時間放置した。生成したエマルジョンは39.5質量%の固形分を含み、3.8のpH及び38.5 Pa・sの粘度を示した。次いで、この粘稠な白色エマルジョンを冷やし、更にアルカリ媒体中で以下の混合物を用いて鹸化した(下記の分散液はコポリマーエマルジョン生成物を意味する):
分散液 180ml
水 240ml
エタノール 1500ml
NaOH 24g
【0060】
上記エマルジョン180mlを水240mlで希釈し、エタノール1500ml中に水酸化ナトリウム24gを含む反応器中に装填した。エマルジョンを反応器に滴下して添加し、撹拌した。20℃において、粉末ビニルアルコールコポリマーを析出させ、その混合物に撹拌しながら酢酸を添加して、アルカリを中和した。次いで、ビニルアルコールコポリマーを濾過し、粗製生成物をエタノールで十分に洗浄し、その後に乾燥させた。生成物の収量は50gであった。得られた生成物の1質量%溶液の20℃における粘度は50 mPa・s、極限粘度数[η]が3.05であった。得られたビニルアルコールコポリマー生成物は、アセテート基3.97質量%、カルボキシレート基8.55質量%、及びアミド基5.57質量%を含んでいた。
【実施例3】
【0061】
[実施例3]
この実施例では、以下の分散液:
酢酸ビニル 160ml
アクリルアミド 25g
NaHCO3 1.3g
過硫酸カリウム 0.5g
水 350ml
から酢酸ビニルコポリマーを製造した。
【0062】
上述した三つ口反応器を水浴中に入れ、酢酸ビニル160ml、アクリルアミド25g、炭酸水素ナトリウム1.3g、水330ml、及び予め水20mlに溶かした過硫酸カリウム0.5gを反応器に充填した。前記試薬を、白色エマルジョンが形成され且つ残留モノマー濃度が0.4質量%以下となるまで、緩速撹拌しながら64〜70℃において3.5時間放置した。生成したエマルジョンは32.5質量%の固形分を含み、5.1のpH及び45.24 Pa・sの粘度を示した。次いで、この粘稠な白色エマルジョンを冷やし、更にアルカリ媒体中で以下の混合物を用いて鹸化した(下記分散液はこのコポリマーエマルジョン生成物を意味する):
分散液 180ml
水 240ml
エタノール 1800ml
NaOH 24g
【0063】
上記のエマルジョン180mlを水240mlで希釈し、エタノール1800ml中に水酸化ナトリウム24gを含む反応器中に装填した。エマルジョンを反応器に滴下して添加し、撹拌した。20℃において、粉末ビニルアルコールコポリマーを析出させ、その混合物に撹拌しながら酢酸を添加して、アルカリを中和した。次いで、ビニルアルコールコポリマーを濾過し、粗製生成物をエタノールで十分に洗浄し、その後に乾燥させた。生成物の収量は37.46gであった。得られた生成物の1質量%溶液の20℃における粘度は10.7 mPa・s、極限粘度数[η]が1.61であった。得られたビニルアルコールコポリマー生成物は、アセテート基6.02質量%、カルボキシレート基1.97質量%、及びアミド基13.63質量%を含んでいた。
【0064】
実施例1、2、及び3で得られた材料の特性評価
【0065】
クリオゲルの特性が官能基組成によって異なることを示すために、本明細書中の実施例1〜3に記載した3種のビニルアルコールコポリマー組成物(それぞれ、PVA-1、PVA-2及びPVA-3と表す)の特性評価をした。PVA-1はビニルアルコールとアクリルアミド及びメタクリル酸とのコポリマーであり、PVA-2はビニルアルコールとアクリルアミド及びアクリル酸とのコポリマーであり、PVA-3はビニルアルコールとアクリルアミドとのコポリマーであった。0.05MのNaNO3中におけるサンプルの固有粘度数(極限粘度数)はPVA-1、PVA-2及びPVA-3についてそれぞれ、1.61、3.05、及び1.5dl/gであり、平均鹸化度は94〜97%であった。クリオゲルを形成させるために、各ビニルアルコールコポリマー0.4gを、80℃において撹拌しながら脱イオン水10ml中に溶かした。次に、その透明な溶液を-22℃において一晩凍結させ、室温で融解させた。生成したゲルを続いて分析に用いた。
【0066】
ビニルアルコールコポリマークリオゲルの視覚化を、ペルチェ(Peltier)冷却ステージを備えた環境制御型走査電子顕微鏡検査(ESEM)(Philips XL30 SEM)を用いて行った。グルタルアルデヒド又は四酸化オスミウムなどの固定剤は使用しなかった。クリオゲルを水に浸漬し、ESEMチャンバーに入れた。ペルチェステージの温度を-7℃に固定して、サンプルを凍結させた。凍結させる際、チャンバー内の圧力は5mBarに設定し、加速電圧を印加した(20又は25kV)。次いで、チャンバー内の圧力を1mBarまで降下させて、凍結水の昇華を起こさせた。ESEMは、水和したサンプルの検査を可能にする電子顕微鏡検査技術である。しかし、ヒドロゲル中の細孔が水で満たされ、質量に占める水の割合が96%に及ぶ場合には、細孔構造の視覚化は困難である。更に、毛細管力のため、その構造は水の除去時につぶれて高密度の凝集体になる。電子顕微鏡検査でよく使用されるグルタルアルデヒド又は四酸化オスミウムなどの固定剤の使用は好ましくなく、なぜならグルタルアルデヒドはPVA用の公知の架橋剤だからである。乾燥時に構造がつぶれることを回避するために、ゲルサンプルを最初に凍結させ、次に水を昇華させて、細孔構造を完全な形で残した。図1A〜1Cにおいて、そのゲルマクロ孔構造が視覚化されている。これらの写真に示されるように、PVA-1サンプル中の細孔はほぼ10〜15μm程度であり、開放スポンジ様構造が明確に視認できる。PVA-2サンプルの細孔はPVA-1よりもかなり小さかった(約7μm)。更に、細孔壁がPVA-1よりも厚く、それらの分布はより高密度であるようであった。最も小さい細孔はPVA-3で観察され、細孔は2μm程度のもののみであった。その細孔壁は一般に薄かったが、ときどき厚い構造が視認できた。
【0067】
コポリマーの熱的性質を検討した。示差走査熱量測定法(DSC)には、セイコーDSC 220(SSC/5200h、セイコー電子工業(株)、日本)を用いた。測定器の較正を、以下の金属の融点Tm(℃)及び融解熱ΔHm(J/g)について行った:インジウム(150.60℃、28.59J/g)、錫(232℃、60.62J/g)、ガリウム(29.80℃、80.17J/g)、及び亜鉛(419℃、111.40J/g)。この実験はN2雰囲気下で行った。加熱速度は10℃/分とした。元のコポリマーサンプルを蓋付きアルミニウムパン(TA Instruments、Delaware、USA)中で慎重に秤量した。空のパンを対照として用いた。熱重量分析(TGA)には、TGA/SDTA 581e(Mettler Toledo、Switzerland)測定器を用いた。この実験は空気雰囲気下で行った。加熱速度は10℃/分とした。元のポリマーサンプルを開放型の70μl酸化アルミニウムるつぼ中で慎重に秤量した。水分量を、100℃における質量損失として算出した。図2には、DSCプロットを示してある(下方のプロットは一次導関数である)。クリオゲルの水分は96質量%であったので、DSC及びTGAプロフィールは全体的に水の蒸発によって左右されると考えられた。したがって、凍結ゲル化を行っていない元のコポリマーについて、DSC及びTGA分析を行った。DSC分析の前に、サンプルを-30℃に冷却した。温度の上昇につれて、サンプル中に存在する水は最初に融解し、次に蒸発し始める。約100℃において、全てのサンプルで、水の蒸発に相当する大きい吸熱ピークが見られる。更に加熱すると、約230℃において第2の大きい吸熱ピークが見られ、これはPVAの融点に相当する。更に加熱すると熱分解が起こる。少なくとも2つのサンプル(PVA-2及びPVA-3)において約40℃に小さい相転移ピークが検出されることに注意しなければならない。純粋なPVAのガラス転移温度は81℃であり、これらのサンプルにおけるTgの低下は、水分の可塑化作用及び官能基の存在に対する複雑な応答である可能性があった。図3A及び3Bには、TGAの結果を示してある(下方のプロットは一次導関数である)。TGAから、PVA-1、PVA-2、及びPVA-3の水分量がそれぞれ7.25、11.0
5、及び4.13質量%であることが示された。
【0068】
クリオゲルのレオロジー特性を解明するために、動的機械熱分析(DMTA)を行った。これは、クエット型の速度制御測定器(Bohlin VOR Reometer、Bohlin Reologi、Sweden)を使用して1Hzにおいて動的振動モードで行った。測定システムは、同心シリンダー、C14型とした。分析には4.13mmのトーションワイヤーを使用した。蒸発を防ぐために、サンプルの上部にシリコーン油を用いた。負荷歪が線形粘弾性領域にあることを確認した。測定はそれぞれ、20、30、40、50、60、及び70℃において行った。位相角δは以下のように定義される:
tanδ=G"/G' (1)
[式中、G'は弾性率(貯蔵弾性率)であり、G"は粘弾性率(損失弾性率)である]。図4A及び4Bには、ビニルアルコールコポリマークリオゲルのレオロジー特性を示してある。図4Aには、クリオゲルの弾性率を温度の関数としてプロットしてある。PVA-1及びPVA-2サンプルでは、弾性率G'は10〜40℃の範囲において一定であるが、これより高い温度ではG'の値は低下していく。PVA-3サンプルでは、弾性率G'の値の低下は約50℃で起こる。G'の値が高いほど、ゲルはより弾性である。このプロットから、この組の中ではPVA-1が最も弱いゲルを形成したことがわかる。最も強力なゲルはPVA-3によって形成され、PVA-2がそれに次いだ。図4Bには、位相角δが温度の関数としてプロットしてある。従来より、位相角δが極大を示す温度が、ポリマーのガラス転移温度と定義されている。80℃より高い温度ではポリマーが完全に溶解することに注意しなければならない。したがって、このプロットから、PVA-1が約50℃のTgを示し、PVA-2及びPVA-3のTg値がそれぞれ、70℃及び80℃であることを結論づけることができる。しかし、図2のDSCの結果によれば、PVA-2及びPVA-3サンプルの相転移の開始は、約50℃で観察される。10°未満の位相角値は強いゲル構造に典型的である。10〜40℃の範囲では、PVA-1は、高い位相角δ値及び低い弾性率G'値の両者によって示されるように、非常に弱いゲル構造を形成することがわかる。10〜50℃の範囲におけるPVA-3の低い位相角δ値は強いゲルを示し、PVA-2のゲル特性はPVA-1とPVA-3の中間である。ESEMで視覚化された細孔が小さいほど、また、細孔密度が高いほど、ゲル構造がより強かったことに注意すべきである。
【0069】
クリオゲルからの薬物放出特性を詳しく調べるために、モデル物質としてサッカリンナトリウムをクリオゲルに配合した。サッカリンナトリウム50mgを脱イオン水に溶かし、合計体積を50mlとした。原液5mlを10mlガラスバイアル中に入れ、ビニルアルコールコポリマー0.2gを添加した。この溶液を、コポリマーが溶解するまで80℃に加熱し、さらに-22℃において一晩凍結させた。このサンプルを室温で融解させた。生成したクリオゲルサンプルは円筒形であった(高さ2cm、直径2.3cm)。ガラスビーカーに脱イオン水100mlを満たし、それぞれ30℃又は50℃に加熱した。そのクリオゲルサンプルをビーカー中に入れ、サッカリンナトリウムの放出を紫外分光光度計(UV1650PC、島津製作所、日本)によって270nmで監視した。図5A及び5Bには、ビニルアルコールコポリマークリオゲルからのサッカリンナトリウムの放出プロフィールを示してある。サッカリンナトリウムはPVA-3から最も速く放出され、PVA-1がそれに次いで速かった。最も遅い放出プロフィールはPVA-2で観察された。ゲル強度又は細孔径とは直接相関しない。薬物の化学的性質によっては、PVAと薬物との間に種々の相互作用が生じる場合があることが、これまで確認されている。サッカリンナトリウムはイオン化された分子であるので、放出プロフィールの差は、PVA-複合体との種々の静電相互作用による可能性があった。
【0070】
組み込まれた薬物がクリオゲル製剤中に均一に分布していることを確認するために、サッカリンナトリウムの組み込みに関して前述したのと同様の方法で、フルオレセインナトリウムをPVA-3中に組み込んだ。5質量%のクリオゲルを用いた。図6は、この黄色染料がクリオゲルマトリックスに均一に分散されたことを示している。
【実施例4】
【0071】
[実施例4]
この実施例では、以下の分散液:
酢酸ビニル 86ml
アクリル酸 14.5g
NaHCO3 0.8g
過硫酸カリウム 0.1g
水 150g
から酢酸ビニルコポリマーを製造した。
【0072】
前述の三つ口反応器を水浴中に入れ、酢酸ビニル86g、アクリル酸14.5g、炭酸水素ナトリウム0.8g、水140ml、及び予め水10mlに溶かした過硫酸カリウム0.1gを反応器に充填した。前記試薬を、白色エマルジョンが形成され且つ残留モノマー濃度が0.4質量%以下となるまで、緩速撹拌しながら64〜70℃において4.5時間放置した。生成したエマルジョンは40.1質量%の固形分を含み、3.2のpH及び9.78Pa・sの粘度を示した。次いで、この粘稠な白色エマルジョンを冷やし、更にアルカリ媒体中で以下の混合物を用いて鹸化させた(下記分散液はコポリマーエマルジョン生成物を意味する):
分散液 30ml
水 30〜40ml
エタノール 300ml
NaOH 4g
【0073】
エマルジョン30mlを水40mlで希釈し、エタノール300ml中に水酸化ナトリウム4gを含む反応器中に装填した。このエマルジョンを反応器に滴下して添加し、撹拌した。20℃において、粉末ビニルアルコールコポリマーを析出させ、撹拌しながら混合物に酢酸を添加して、アルカリを中和した。次いで、ビニルアルコールコポリマーを濾過し、粗製生成物をエタノールで十分に洗浄し、その後に乾燥させた。生成物の収量は6.1gであった。得られた生成物の20℃における1質量%水溶液の粘度は46.02 mPa・s、極限粘度数[η]が1.5であった。得られたPVA生成物は、アセテート基6.49質量%、カルボキシレート基21.17質量%を含んでいた。
【実施例5】
【0074】
[実施例5]
実施例1、2、及び3のビニルアルコールコポリマー(即ち、PVA-1、PVA-2及びPVA-3)を64℃において水に溶かして、5%のビニルアルコールコポリマー溶液を調製した。薬物ゾルピデムを前記の溶液に添加した。ゾルピデム5mgを含む得られた溶液3mlを円筒の型に注入し、-30℃において一晩凍結させた。その成形品を室温で融解させて、すぐ使用できる経口用クリオゲルを得た。同様に、一晩凍結乾燥させることによって、固体プラグを作成した。異なる剤形からの及び異なるpHにおけるゾルピデムの放出プロフィールをそれぞれ、図7A及び7Bに示す。
【実施例6】
【0075】
[実施例6]
実施例3の材料(PVA-3)を64℃において水中に溶解させて、5%の改質ビニルアルコールコポリマー溶液を調製した。薬物ジアゼパムを前記溶液中に添加した。ジアゼパム5mgを含む得られた溶液3mlを浅い型に注ぎ、-30℃において一晩凍結させた。成形品を室温で融解させ、一定質量になるまで乾燥させて、薄いフィルム(0.2〜0.5mm)を作成した。このフィルムは、口腔用の粘膜付着性薬物送達ビヒクルとしてすぐに使用可能である。図8A及び8Bは、使用前及び生体内(in vivo)投与部位におけるフィルムの物理的外観を示す。
【実施例7】
【0076】
[実施例7]
実施例2の材料(PVA-2)にテオフィリンを配合し、凍結乾燥させ、ハードカプセル剤の形態に製剤化する。5質量%のクリオゲルを用い、薬物は実施例5と同様にして組み込む。この剤形は、胃内浮遊型薬物送達ビヒクルとして使用するものである。
【実施例8】
【0077】
[実施例8]
実施例1の材料(PVA-1)にリドカインを配合し、熱傷治癒用の局所用製剤に使用する。本発明のビニルアルコールコポリマーを用いて軟質ヒドロゲルを形成し、これはその類似体に比べて組み込まれた薬物をゆっくり放出し且つ水分含量が著しく多い。3.5質量%のクリオゲルを用いる。薬物は実施例5と同様にして組み込む。
【実施例9】
【0078】
[実施例9]
実施例2からの材料(PVA-2)に、創傷治癒用のニトロフラゾンを配合する。この薬物を含む5質量%クリオゲルを調製し、薄いフィルム(0.2〜0.5mm)の形態に成形し、次いで一定の質量になるまで乾燥させる。このフィルムは、創傷からの滲出液との接触時に膨潤することによってニトロフラゾンの放出を開始する粘膜付着性薬物送達ビヒクルとして使用するものである。
【実施例10】
【0079】
[実施例10]
実施例1の材料(PVA-1)にジクロフェナクナトリウムを配合する。これは、局所痛緩和用の局所用製剤として使用するものである。4質量%のクリオゲルを用いる。薬物は実施例5と同様にして組み込む。
【実施例11】
【0080】
[実施例11]
実施例1の材料(PVA-1)に、乾癬治療用のインターロイキン-6(IL-6)拮抗薬(サンプル11a)及びコルチゾン(サンプル11b)を配合する。3.8質量%のクリオゲルを用いる。薬物は実施例5と同様にして組み込む。
【実施例12】
【0081】
[実施例12]
実施例3の材料(PVA-3)にインドメタシンを配合して、直腸用のしっかりした(firm)ヒドロゲル製剤を形成する。この剤形は、高い水分含量及び適当な弾性を有する点で有利である。7質量%のクリオゲルを用いる。薬物は実施例6と同様にして組み込む。
【実施例13】
【0082】
[実施例13]
実施例3の材料(PVA-3)にメトロニダゾールを配合して、膣内投与用のしっかりしたヒドロゲル製剤を形成する。この剤形は、高い水分含量並びに適当な堅さ及び弾性を有する点で有利である。7質量%のクリオゲルを用いる。薬物は実施例5と同様にして組み込む。
【実施例14】
【0083】
[実施例14]
この実施例では、実施例1の手順を用いて以下の分散液:
酢酸ビニル 160ml
エタクリルアミド 25g
NaHCO3 1.3g
過硫酸カリウム 0.5g
水 350ml
から酢酸ビニルコポリマーを製造した。
【0084】
実施例1の手順を用いて、生成物をアルカリ媒体中で以下の混合物を用いて鹸化した(下記分散液はコポリマーエマルジョン生成物を意味する):
分散液 180ml
水 240ml
エタノール 1800ml
NaOH 24g
【0085】
インドメタシンの直腸内薬物投与用の熱応答性ゲル形成マトリックスとして、7質量%のポリマーヒドロゲルを用いる。
【実施例15】
【0086】
[実施例15]
実施例4の材料を用いて、柔軟な稠度を有する生分解性注入用フィラー(例えば、リンクルフィラーなど)を調製する。4質量%のポリマークリオゲルを用いる。凍結ゲル化前に、ポリマーにオートクレーブ処理及び滅菌を行う。1つの実験では、フィラーにビタミンCを配合する。
【実施例16】
【0087】
[実施例16]
実施例3と同様にして製造した生分解性の埋め込み可能な材料(PVA-3)を、マクロ多孔質組織スキャフォールドとして成形する。このクリオゲルにBMP-2(骨形成蛋白質-2)を含ませる。凍結ゲル化前に、ポリマーにオートクレーブ処理及び滅菌を行う。9質量%のクリオゲルを用い、薬物は実施例5と同様にして組み込む。
【実施例17】
【0088】
[実施例17]
実施例3と同様にして製造した生分解性の埋め込み可能な材料(PVA-3)を、尻インプラントとして使用できるしっかりした(firm)美容用フィラーとして成形する。9質量%のクリオゲルを用いる。薬物を実施例5と同様にして組み込んでもよい。
【実施例18】
【0089】
[実施例18]
実施例2からの材料(PVA-2)に、口腔内薬物送達用の二硝酸イソソルビドを配合する。薬物を含む5質量%クリオゲルを調製し、薄いスラブの形態に成形し、次いで一定の質量になるまで乾燥させる。このフィルムは、粘膜付着性口腔内薬物送達ビヒクルとして使用することを意図するものである。
【実施例19】
【0090】
[実施例19]
実施例2からの材料(PVA-2)に、潰瘍性大腸炎治療用注入剤としての使用を目的として、5-アミノサリチル酸(メサラジン)を配合する。3質量%のクリオゲルを用いる。薬物は実施例5と同様にして組み込む。
【実施例20】
【0091】
実施例2からの材料(PVA-2)に、持続放出及び慢性痛緩和のためのソフトカプセル剤への使用を目的として、クエン酸フェンタニルを配合する。5質量%のクリオゲルを用いる。薬物は実施例5と同様にして組み込む。
【0092】
本明細書中に記載した具体的な例及び実施形態は、本質的に例示に過ぎず、「特許請求の範囲」によって規定される本発明を限定することを意図していない。更なる実施形態及び例並びにその利点は、本明細書を考慮すれば当業者には明白であり、「特許請求の範囲」の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学架橋剤の不存在下及び乳化剤の不存在下で、水溶液中で約10質量%未満の濃度でクリオゲルを形成するよう作用できるクリオゲル形成性ビニルアルコールコポリマー。
【請求項2】
化学架橋剤の不存在下及び乳化剤の不存在下で、水溶液中で約5質量%以下の濃度でクリオゲルを形成するよう作用できる、請求項1に記載のビニルアルコールコポリマー。
【請求項3】
少なくとも約80質量%の酢酸ビニルモノマーと、(i)少なくとも約3質量%のアクリルアミドモノマー若しくはアクリルアミドモノマーとアクリル酸モノマーとの混合物又は(ii)少なくとも約5質量%のアクリル酸モノマーとから形成された酢酸ビニルコポリマーの鹸化生成物を含む、請求項1又は2に記載のビニルアルコールコポリマー。
【請求項4】
前記鹸化生成物が少なくとも約90%の鹸化度を有する、請求項3に記載のビニルアルコールコポリマー。
【請求項5】
少なくとも約85質量%の酢酸ビニルモノマーから形成された酢酸ビニルコポリマーの鹸化生成物を含む、請求項3又は4に記載のビニルアルコールコポリマー。
【請求項6】
乳化剤を含まない、請求項1〜5のいずれか一項に記載のビニルアルコールコポリマー。
【請求項7】
粉末の形態である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のビニルアルコールコポリマー。
【請求項8】
重合開始剤及び緩衝剤を用いて、乳化剤を含まない水性媒体中で、モノマーの質量に基づき、少なくとも約80質量%の酢酸ビニルモノマーと、(i)少なくとも約3質量%のアクリルアミドモノマー若しくはアクリルアミドモノマーとアクリル酸モノマーとの混合物又は(ii)少なくとも約5質量%のアクリル酸モノマーとを共重合させるステップを含む、酢酸ビニルコポリマーの製造方法。
【請求項9】
前記共重合に少なくとも約85質量%の酢酸ビニルモノマーを使用する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の方法に従って酢酸ビニルコポリマーを形成するステップと、前記酢酸ビニルコポリマーを鹸化して、クリオゲル形成性ビニルアルコールコポリマーを形成するステップとを含む、クリオゲル形成性ビニルアルコールコポリマーの製造方法。
【請求項11】
前記酢酸ビニルコポリマーを、鹸化度が少なくとも約90%となるように鹸化する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ビニルアルコールコポリマーを粉末の形態で析出させる、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のビニルアルコールコポリマーの水溶液を0℃〜約-196℃の温度において凍結させて成形塊を形成させるステップと、前記成形塊を融解させてヒドロゲルを形成させるステップとを含む、ビニルアルコールコポリマークリオゲルの形成方法。
【請求項14】
請求項9〜12のいずれか一項に記載の方法に従ってビニルアルコールコポリマーを形成させるステップと、前記ビニルアルコールコポリマーの水溶液を0℃〜約-196℃の温度において凍結させて成形塊を形成させるステップと、前記成形塊を融解してヒドロゲルを形成させるステップとを含む、ビニルアルコールコポリマークリオゲルの形成方法。
【請求項15】
前記ビニルアルコールコポリマー水溶液を約-15℃〜約-35℃の温度において凍結させる、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記水溶液が約1〜約10質量%の前記ビニルアルコールコポリマーを含む、請求項13〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記水溶液が約1〜約5質量%の前記ビニルアルコールコポリマーを含む、請求項13〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
請求項13〜17のいずれか一項に記載の方法に従って形成されたビニルアルコールコポリマークリオゲルを凍結乾燥させるステップを含む、多孔質固体材料の製造方法。
【請求項19】
少なくとも約75質量%の水を含んでおり、化学架橋剤の不存在下及び乳化剤の不存在下において水溶液中で約10質量%未満の濃度でクリオゲルを形成するよう作用できるビニルアルコールコポリマーから形成された、ビニルアルコールコポリマークリオゲル。
【請求項20】
少なくとも約75質量%の水を含んでおり、少なくとも約80質量%の酢酸ビニルモノマーと(i)少なくとも約3質量%のアクリルアミドモノマー若しくはアクリルアミドモノマーとアクリル酸モノマーとの混合物又は(ii)少なくとも約5質量%のアクリル酸モノマーとから形成された酢酸ビニルコポリマーの鹸化生成物を含むビニルアルコールコポリマーから形成された、ビニルアルコールコポリマークリオゲル。
【請求項21】
少なくとも90質量%の水を含む、請求項19又は20に記載のクリオゲル。
【請求項22】
少なくとも95質量%の水を含む、請求項19又は20に記載のクリオゲル。
【請求項23】
乳化剤及び化学架橋剤を含まない、請求項19〜22のいずれか一項に記載のクリオゲル。
【請求項24】
治療薬及び/又は美容剤が配合された、請求項19〜23のいずれか一項に記載のクリオゲル。
【請求項25】
鎮痛薬、麻酔薬、抗細菌薬、抗真菌薬、抗炎症薬、かゆみ止め薬、抗アレルギー薬、抗ミメティック薬、免疫調整薬、精神安定薬、睡眠補助薬、抗不安薬、血管拡張薬、骨成長促進剤、破骨細胞抑制薬、又はビタミンを含めた少なくとも1種の治療薬が配合された、請求項24に記載のクリオゲル。
【請求項26】
着色剤、呈味増強剤、保存剤、酸化防止剤、滑剤、レオロジー調節剤、又はチオール化された粘膜付着強化剤を含む少なくとも1種の機能剤が配合された、請求項19〜25のいずれか一項に記載のクリオゲル。
【請求項27】
システインが配合された、請求項26に記載のクリオゲル。
【請求項28】
生分解性である、請求項19〜27のいずれか一項に記載のクリオゲル。
【請求項29】
非生分解性である、請求項19〜27のいずれか一項に記載のクリオゲル。
【請求項30】
請求項19〜29のいずれか一項に記載のポリビニルクリオゲルから形成された生物医学的インプラント。
【請求項31】
前記クリオゲルに少なくとも1種のアミノ酸が配合された、請求項30に記載の生物医学的インプラント。
【請求項32】
前記クリオゲルに生物学的マクロ複合体が配合された、請求項30に記載の生物医学的インプラント。
【請求項33】
前記生物学的マクロ複合体が、プラスミド、ウイルス、バクテリオファージ、蛋白質ミセル、又は細胞構成要素オルガネラである、請求項32に記載の生物医学的インプラント。
【請求項34】
請求項19〜29のいずれか一項に記載のクリオゲルから形成された薄膜。
【請求項35】
前記クリオゲルに少なくとも1種のチオール化された粘膜付着強化剤が配合された、請求項34に記載の薄膜。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【公表番号】特表2012−503036(P2012−503036A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526620(P2011−526620)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【国際出願番号】PCT/IB2009/054012
【国際公開番号】WO2010/029517
【国際公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(511066687)
【出願人】(511066698)
【Fターム(参考)】