説明

フォトマスク検査方法

【目的】フォトマスク上のゴミ等の異物を高感度で検出するフォトマスク検査方法を提供する。
【構成】表面に第1の領域と第1の領域より検査光に対して高い反射率を有する第2の領域を備えるフォトマスクの検査方法であって、フォトマスクの反射画像を取得し、この反射画像について、第1の領域の反射強度以上の画素値を有する画素の画素値を前記第1の領域の画素値に書き換える処理を行ったアンダーシュート画像を作成し、このアンダーシュート画像と底上げした凹型カーネルとの差の二乗和から成るSSD(Sum of Squared Difference)画像を作成し、このSSD画像にスムージング処理を行った局所暗部強調画像を作成し、この局所暗部強調画像と所定の閾値との比較により異物を検出することを特徴とするフォトマスク検査方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトマスク上のゴミ等の異物を高感度で検出するフォトマスク検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体は、一般的にレジストが塗布されたウェハに、フォトマスク(以下、マスクとも呼ぶ)に形成されたパターンを縮小投影する形で製造される。すなわち、マスクはカメラでいうネガの役割を持っており、マスクに欠陥が存在すると、そのマスクで製造された全てのウェハに欠陥が転写されることになる。このため、マスクの欠陥検査は半導体製造プロセスにおいて極めて重要な役割を担っている。
【0003】
マスクの欠陥検査は、マスク上のパターン同士を比較する方法(die−to−die)と、マスクの設計データを利用して検査する方法(die−to−database)が知られている。これらの検査方法はいずれもパターンの情報がないマスク領域については比較の対象がなく検査することができない。しかし、実際にはマスクのスクライブエリアやマスクIDなど、パターン情報のない領域についても欠陥、取り分けごみ等の異物の有無を検査することが必要である。
【0004】
パターンの情報がないマスク領域の検査手法としては、例えば特許文献1に記載の方法が良く知られている。この方法には、例えば、図9のように、欠陥のないマスクの各点の反射信号(図中縦軸R)と透過信号(図中横軸T)の関係が必ず収まる領域91を設定し、領域91から逸脱する点を欠陥とするものがある。この方法は、反射画像と透過画像に相対位置ズレがなく、ノイズも殆どない理想条件下では有効だと思われる。しかし、実際には、反射画像と透過画像の相対位置ズレやノイズなどの影響で、欠陥でなくても領域91から逸脱するケースや、欠陥が領域91に入り込むケースが存在する。これは特にパターンのエッジ(境界部)で頻繁に見られる現象である。
【0005】
反射画像と透過画像の相対位置ズレの対策として、図10のように反射画像(図中横軸R)とその2次微分画像(図中縦軸R”)との関係が必ず収まる領域92を設定し、領域92から逸脱する点を欠陥とする方法、図11のように透過画像(図中横軸T)をその2次微分画像(図中縦軸T”)との関係が必ず収まる領域93を設定し、領域93から逸脱する点を欠陥とする方法も特許文献1に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−76359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
もっとも、特許文献1の方法によっても、反射画像と透過画像の相対位置ズレ、ノイズ、パターンエッジの影響による誤検出には十分な対応はなされていない。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、フォトマスク上のゴミ等の異物を高感度で検出するフォトマスク検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様のフォトマスク検査方法は、表面に第1の領域と前記第1の領域より検査光に対して高い反射率を有する第2の領域を備えるフォトマスクの検査方法であって、前記フォトマスクの反射画像を取得し、前記反射画像について、前記第1の領域の反射強度以上の画素値を有する画素の画素値を前記第1の領域の画素値に書き換える処理を行ったアンダーシュート画像を作成し、前記アンダーシュート画像と底上げした凹型カーネルとの差の二乗和から成るSSD(Sum of Squared Difference)画像を作成し、前記SSD画像にスムージング処理を行った局所暗部強調画像を作成し、前記局所暗部強調画像と所定の閾値との比較により異物を検出することを特徴とする。
【0010】
ここで、前記底上げした凹型カーネルが底上げした逆ガウシアン型カーネルであることが望ましい。
【0011】
ここで、前記第1の領域がガラス基板であることが望ましい。
【0012】
ここで、前記フォトマスクがEUV露光用のフォトマスクであることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、フォトマスク上のゴミ等の異物を高感度で検出するフォトマスク検査方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態のフォトマスク検査方法の工程図である。
【図2】異物が乗ったマスクの反射画像の一例を示す図である。
【図3】図2の反射画像を基に作成されたアンダーシュート画像の一例を示す図である。
【図4】底上げした逆ガウシアン型カーネルの一例を示す図である。
【図5】図3のアンダーシュート画像を基に作成されたSSD画像の一例を示す図である。
【図6】凹型カーネルの別の例を示す図である。
【図7】スムージング用カーネルの一例を示す図である。
【図8】図5のSSD画像を基に作成された局所暗部強調画像の一例を示す図である。
【図9】従来技術のフォトマスク検査方法の説明図である。
【図10】従来技術のフォトマスク検査方法の説明図である。
【図11】従来技術のフォトマスク検査方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本明細書中、「カーネル」とは、画像に対して演算処理を行う際に用いる行列を意味するものとする。
【0016】
本発明の実施の形態のフォトマスク検査方法は、表面に第1の領域と第1の領域より検査光に対して高い反射率を有する第2の領域を備えるフォトマスクの検査方法であって、フォトマスクの反射画像を取得し、取得した反射画像について、第1の領域の反射強度以上の画素値を有する画素の画素値を第1の領域の画素値に書き換える処理を行ったアンダーシュート画像を作成し、このアンダーシュート画像と底上げした凹型カーネルとの差の二乗和から成るSSD(Sum of Squared Difference)画像を作成し、SSD画像にスムージング処理を行った局所暗部強調画像を作成し、局所暗部強調画像と所定の閾値との比較により異物を検出する。
【0017】
図1は、本実施の形態のフォトマスク検査方法の工程図である。
【0018】
検査対象となるマスクには、その表面に、例えば、UV(Ultra Violet)光である検査光に対し低い反射率を有する領域(第1の領域)と、高い反射率を有する領域(第2の領域)が共存する。ここでは、ガラス基板上にハーフトーン膜のパターンが形成されるマスクを例にする。すなわち、検査光に対し低い反射率を有する領域がガラス基板であり、ガラス基板より高い反射率を有する領域がハーフトーン膜である場合を例に説明する。
【0019】
まず、検査するマスクの反射画像を取得する(S10)。反射画像の取得には、例えば、マスクの欠陥検査に用いられる反射画像の取得が可能な公知のパターン検査装置を用いる。反射画像は複数の画素で構成される。
【0020】
図2に、異物が乗ったマスクの反射画像の一例を示す。図2(a)が反射画像、図2(b)が反射画像のAA’断面の画素値の分布である。ここで、画素値とは反射画像等の画像を構成する各画素における階調値を示す値である。反射画像の場合は、各画素における検査光の反射強度が階調値として表される。反射強度が強い領域の画素値が高くなり、反射強度が弱い領域の画素値が低くなる。
【0021】
図2(a)に示すように、ハーフトーン膜12がガラス基板14の上に付いており、この反射画像10では、異物16がハーフトーン膜12とガラス基板の境界部のガラス基板14側に乗っている。
【0022】
一般に、反射画像では、異物は光を散乱するために反射強度が弱くなり暗く見える。したがって、反射画像10においても異物16は局所暗部として示されている。また、低い反射率を有する領域と、それよりも高い反射率を有する領域の境界部には、光の干渉により暗部が現われる。ここでは、この暗部をアンダーシュートと称する。図2(a)、(b)に示すように、ガラス基板14とハーフトーン膜12との境界部にアンダーシュート18が現われている。
【0023】
このように、反射画像では、2つの異なる反射率を有する領域の境界部にアンダーシュート18が生ずる。このため、異物16を検査する際に、異物16とアンダーシュート18の階調値の差が小さくなり、異物16の識別が困難になるという問題がある。
【0024】
S10で反射画像10を取得した後に、アンダーシュート画像の作成を行う(S11)。ここで、アンダーシュート画像は、反射画像10について、ガラス領域14の反射強度以上の画素値を有する画素の画素値を、ガラス領域の画素値に書き換える処理を行うことで作成する。
【0025】
図3は、図2の反射画像を基に作成されたアンダーシュート画像の一例を示す図である。図3(a)がアンダーシュート画像、図3(b)がアンダーシュート画像のAA’断面の画素値の分布である。図3に示すように、アンダーシュート画像20では、ガラス基板14の反射強度以上の画素値を有するハーフトーン膜12の領域の画素の画素値を、ガラス領域14の画素値に書き換えている。従って、ガラス基板14の反射強度を下回る異物16とアンダーシュート18の分布が均一な画素値のバックグラウンドに対する暗部として強調されることになる。
【0026】
次に、SSD画像の作成を行う(S12)。ここで、SSD画像は、アンダーシュート画像20と底上げした凹型カーネルとの差の二乗和を取ることによって作成する。ここでは、底上げした凹型カーネルが底上げした逆ガウシアン型カーネルであるである場合を例に説明する。
【0027】
図4は、底上げした逆ガウシアン型カーネルの一例を示す図である。図4(a)が底上げした逆ガウシアン型カーネルの一例、図4(b)が図4(a)の底上げした逆ガウシアン型カーネルの2次元的な分布図である。ここで、底上げとは、逆ガウシアン型カーネルの最小値が0以上であることを意味する。アンダーシュート画像20で異物16の画素値が0を下回ることは通常ありえないことによる。
【0028】
底上げした逆ガウシアン型カーネルは、アンダーシュート画像20のガラス基板14の画素値から、ガウシアン分布を引き算した分布となっていることが望ましい。これによって、SSD処理後の異物16のバックグラウンドとなる画素値をおおむね0に近づけることができるからである。
【0029】
図5は、図3のアンダーシュート画像を基に作成されたSSD画像の一例を示す図である。図5(a)がSSD画像、図5(b)がSSD画像のAA’断面の画素値の分布である。図5に示すように、SSD画像30では、アンダーシュート18は明るい、すなわち画素値の大きい二重線に、異物16は内部が暗く周囲が明るいドーナッツ状に変換される。
【0030】
これは、SSD処理により、凹の画素値分布を有するアンダーシュート18や異物16においては、底上げした逆ガウシアン型カーネルの端部が凹の画素値分布の端部にかかると処理後の画素値が増幅され、底上げした逆ガウシアン型カーネルの中央部と凹の部分が重なると処理後の画素値が低下することによる。
【0031】
図6は、凹型カーネルの別の例を示す図である。一般に、異物16の画素値分布は逆ガウシアン形状に近いため、上述のように、底上げした凹型カーネルが底上げした逆ガウシアン型であることが望ましい。しかし、底上げした凹型カーネルは、例えば、図6(a)に示すような底上げした台形形状や、図6(b)に示すような底上げしたV字形状であってもかまわない。
【0032】
次に、局所暗部強調画像の作成を行う(S13)。ここで、局所暗部強調画像は、SSD画像30にスムージング処理を行うことによって作成する。図7は、スムージング処理に用いられるスムージング用カーネルの一例を示す図である。スムージング処理は、例えば、SSD画像30に図7に示すスムージング用カーネルを畳み込む処理を行う。
【0033】
図8は、図5のSSD画像を基に作成された局所暗部強調画像の一例を示す図である。図8(a)が局所暗部強調画像、図8(b)が局所暗部強調画像のAA’断面の画素値の分布である。
【0034】
図8に示すように、局所暗部強調画像40では、アンダーシュート18の二重線は、周囲の暗部に引きずられて強度が低下した、すなわち暗くなった二重線となる。一方、反射画像10上の局所暗部であった異物16は、その中央が高い画素値に囲まれているため、スムージング処理により強度が強調された明るい略円形形状となる。
【0035】
次に、異物検出を行う(S14)。異物検出は、図8(b)に示すように、局所暗部強調画像40と所定の閾値Thとの比較し、閾値Th以上の画素値を示す領域を異物として検出する。
【0036】
このように、本実施の形態では、S11からS14の処理により、反射画像10では、同様な反射強度(画素値)を有しているがために分離が困難であったアンダーシュート18と、異物16を、その形状の違いをうまく利用した処理を行うことで分離し、異物のみを検出することが可能となる。したがって、フォトマスク上のゴミ等の異物を高感度で検出するフォトマスク検査方法を提供することが可能となる。
【0037】
なお、S10における反射画像取得後の反射画像に対するS11〜S14の処理は、例えば、反射画像10を取得するパターン検査装置に備えられるコンピュータ等の演算処理部のハードウェアあるいはハードウェアとソフトウェアとの組み合わせによって実現できる。
【0038】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。検査装置構成や検査方法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる検査装置構成や検査方法を適宜選択して用いることができる。その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのフォトマスク検査方法は、本発明の範囲に包含される。
【0039】
例えば、S10で取得される検査対象となる反射画像10に、あらかじめスムージング処理をかけてノイズを減らした上で、S11以降の処理を行っても構わない。
【0040】
また、スムージング処理に適用するスムージング用カーネルを例えば、円形状やリング状にしても構わない。SSD処理に適用する底上げした凹型カーネルやスムージング処理に適用するスムージング用カーネルは、フォトマスク表面の各領域の反射強度や異物の形状等に合わせて適宜最適なサイズや形状を有するものを採用すればよい。
【0041】
そして、実施の形態ではガラス基板とハーフトーン膜からなる透過型のUV露光用のフォトマスクを例に説明したが、反射型のEUV(Extreme Ultra Violet)露光用のフォトマスクにも本発明は有効である。
【0042】
また、実施の形態においては、フォトマスクが表面に、検査光に対して2つの異なる反射強度を有する領域がある場合を例に説明したが、検査光に対して3つ以上の異なる反射強度を有する領域を表面に有するフォトマスクに対しても本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0043】
10 反射画像
12 ハーフトーン膜
14 ガラス基板
16 異物
18 アンダーシュート
20 アンダーシュート画像
30 SSD画像
40 局所暗部強調画像


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の領域と前記第1の領域より検査光に対して高い反射率を有する第2の領域を備えるフォトマスクの検査方法であって、
前記フォトマスクの反射画像を取得し、
前記反射画像について、前記第1の領域の反射強度以上の画素値を有する画素の画素値を前記第1の領域の画素値に書き換える処理を行ったアンダーシュート画像を作成し、
前記アンダーシュート画像と底上げした凹型カーネルとの差の二乗和から成るSSD(Sum of Squared Difference)画像を作成し、
前記SSD画像にスムージング処理を行った局所暗部強調画像を作成し、
前記局所暗部強調画像と所定の閾値との比較により異物を検出することを特徴とするフォトマスク検査方法。
【請求項2】
前記底上げした凹型カーネルが底上げした逆ガウシアン型カーネルであることを特徴とする請求項1記載のフォトマスク検査方法。
【請求項3】
前記第1の領域がガラス基板であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のフォトマスク検査方法。
【請求項4】
前記フォトマスクがEUV露光用のフォトマスクであることを特徴とする請求項1または請求項2記載のフォトマスク検査方法。









【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図5】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−2528(P2011−2528A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143817(P2009−143817)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】