説明

フォトレジストにおいて用いるための感光性成分

式(I)(式中、記号及び指数はそれぞれ以下のように定義される:Aは、A’、R、又はO−Rであり;ここで、Rは、1〜8個の炭素原子を有する、直鎖、分岐鎖、又は環式で、飽和又は不飽和の脂肪族基であり;A’は、同一か又は異なり、式(Ia)であり;Bは、結合、−O−C(O)−、−C(O)−O−、−O−C(O)−、−C(O)−NH−、−NH−C(O)−、−C(O)−O−CH−CH(OH)−CH−O−、−O−CH−CH(OH)−CH−O−(O)C−、−O−C(O)−O−、−O−C(O)−NH−、又は−NH−C(O)−O−であり;Rは、H又はOHであり;mは、1、2、3、4、又は5であり;Yは、式(II)、(III)、(IV)、(V)であり;nは、≧3の正の有理数であり;Eは、同一か又は異なり、−CH−CHR−、−CHR−CH−、−CH−CHR−O−、−O−CHR−CH−、−(CH−O−、又は−O−(CH)−であり;Rは、H又はCHであり;rは、1又は4である)の化合物は、フォトレジストのための感光性成分として好適である。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール性ヒドロキシル基に結合したジアゾナフトキノンスルホニル基を有する感光性のオリゴマー又はポリマー、その製造方法、及びフォトレジストにおける感光性成分としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトレジストは、例えば、集積回路、コンピューターチップ、及びフラットパネルディスプレイのようなマイクロエレクトロニクス部品を製造するためのリソグラフィー法において用いられている。集積回路を製造するための公知の方法(例えば、DeForest, "Photoresist Materials and Processes", McGraw-Hill Book Company, New York, 1975を参照)は、例えばシリコンウエハをフォトレジストの薄層で被覆することから構成される。次に、フォトレジスト中に存在する溶媒を蒸発させ、レジスト層を基材上に固定するために、被覆されたウエハを加熱処理する。続いて、被覆された基材を、フォトマスクを通して照射に曝露し、これにより、レジスト層の化学的又は物理的特性の変化を引き起こす。用いられる照射線は、通常、赤外領域の光線、可視光線、UV光線、X線、又は電子線である。照射の後、被覆された基材を、所謂現像剤溶液で処理する。
【0003】
ポジ型フォトレジスト(ポジ型レジスト)の場合には、照射線に曝露されたレジスト層の領域を、溶解及び除去する。フォトレジストがネガ型レジストである場合には、レジスト層の非照射領域を溶解及び除去し、照射された領域を残留させる。ポジ型レジストの場合、しばしば、転位反応か又は保護基を脱離することによって、照射中の溶解度の増加が達成される。ネガ型レジストの場合、例えば、架橋反応を起こすことによって、照射中の溶解度の減少が達成される。レジスト層が現像操作によって除去された領域においては、基材の保護されていない表面が曝露され、次に、例えばエッチング溶液又はプラズマ処理を用いてエッチされる。また、他の方法で、曝露された表面を処理又は操作することができ、或いは、その特性を変化させることができる。レジスト層がその上に残存する表面領域は、エッチング操作によって攻撃されない。ここで、残留するレジスト層を基材から完全に除去する。照射において用いたフォトマスクに対応するエッチパターンがその上に存在する基材表面が残留する。
【0004】
実施において有用であることが判明しており、365nm(i線)、405nm(h線)、及び436nm(g線)の波長における照射に特に好適なポジ型レジストのための公知に原材料は、長年、ジアゾナフトキノン官能基と組み合わされているノボラック樹脂である。これらの系を用いると、約0.25μmの解像度(線幅)を有する構造を得ることができる。一般的に認められている理論によれば、ノボラックとジアゾナフトキノン官能基とを組み合わせると、ジアゾナフトキノンのCO及びN部分によって機能して、ノボラックポリマーのフェノール性OH基と強い水素結合の一部を構成し、それによってアルカリ性現像剤水溶液の攻撃を受けにくくなる。これにより、水性アルカリ性現像剤中でのノボラック/ジアゾナフトキノン層の層減耗速度が大きく遅延する。好適な波長の光で照射した後、ジアゾナフトキノン基は、インデンカルボン酸基に光化学的に転化し、これはもはや抑制作用を有さず、層除去速度を多少加速しさえもする。
【0005】
ノボラック/ジアゾナフトキノンの組み合わせを得る伝統的な方法は、ノボラック樹脂を、そのフェノール性OH基の全部又は一部がジアゾナフトキノンスルホニル基でエステル化されているフェノール性OH基を有する低分子量化合物と混合することから構成される。これらの低分子量化合物は、感光性基を有しているので、「感光剤」又は「PAC(「光活性化合物」の略号として)」としても知られている。感光剤又はPACとして、多数の異なる化合物が既に知られている。例として幾つかの構造を以下に記載する。
【0006】
JP−1142548においては、メタ−/パラ−クレゾールノボラック樹脂及び感光剤から構成されるポジ型フォトレジスト混合物が記載されている。感光剤は、2,3,4−トリスヒドロキシベンゾフェノン又は2,3,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンのようなポリヒドロキシベンゾフェノン、及び1,2−ジアゾナフトキノン−4−スルホン酸又は1,2−ジアゾナフトキノン−5−スルホン酸のエステル化生成物である。
【0007】
EP−0395049−A1においては、アルカリ可溶性ノボラック樹脂及び感光性材料から構成されるポジ型フォトレジスト配合物が記載されている。感光性材料は、1,2−ジアゾナフトキノン−5(又は−4)−スルホニルクロリド及び芳香族ポリヒドロキシ化合物の反応生成物である。芳香族ポリヒドロキシ化合物は、構造:Ar−X−Ar(ここで、Arは、OH基、及びアルキル又はアルコキシ基の群からの1つ又は2つの更なる置換基を有するベンゼン環であり、Xは、−O−、−C(O)−、−C(O)O−、−C(S)−、−NHC(O)−、−NHC(O)O−、又はC〜Cアルキルであってよい二価の基である)を有する。
【0008】
JP−10221846においては、専らOH基に対してオルト位を介してホルムアルデヒドに結合している4つのパラクレゾール単位から構成される完全に線状のノボラックオリゴマーが記載されている。ジアゾナフトキノン基によってOH基を部分的か又は完全にエステル化することによってフォトレジスト用の感光性成分が得られる。
【0009】
ノボラックを感光剤又はPACと混合することによってノボラック/ジアゾナフトキノンの組み合わせを得る公知の方法に加えて、ジアゾナフトキノン基の少なくとも一部を、高分子量ノボラック樹脂のフェノール性OH基に直接結合させる可能性も存在する。これにもかかわらず、一般に、低分子量の感光剤又はPACを加える必要性が未だ存在する。
【0010】
現在の最新技術によれば、多数の異なる混合物が公知である。例として幾つかの混合物を以下に記載する。
【0011】
US−5,529,880及びUS−5,723,254においては、OH基の最大で20%以下がジアゾナフトキノン基によってエステル化されているノボラック樹脂、及び、その少なくとも50%がジアゾナフトキノン基によってエステル化されている2〜5個のフェノール性OH基を有するオリゴマーフェノールの混合物であるフォトレジストが記載されている。
【0012】
JP−2004−4029840においては、必須成分として、フェノール性OH基の一部がジアゾナフトキノンエステルの形態で存在しているアルカリ可溶性ノボラック樹脂を含むフォトレジストが記載されている。
【0013】
JP−59084239においては、その必須成分が、そのフェノール性OH基の一部がジアゾナフトキノン基によってエステル化されているノボラック樹脂である感光性組成物が記載されている。
【0014】
工業的に現在用いられているプロセスにおいては、フォトレジストに低分子量PACを加えることが不可避である。これはまた、ジアゾナフトキノン基をノボラック樹脂に直接結合させる場合にもあてはまる。これは、感光性(溶解度の変化に必要な最小の照射エネルギー)がかかる系においては不十分であり、そのためいかなる場合においても一定量のPACを加えなければならないためである。しかしながら、特に高度にエステル化されたPACは、程度の差はあるが長時間の放置の後は、フォトレジスト溶液から沈殿するか又は晶出する高い傾向を示す。この現象により、フォトレジスト溶液の貯蔵安定性が大きく制限され、処理において大きな問題を引き起こす可能性がある。被覆ウエハ上に存在する粒子は、得られる構造体よりも非常に大きな寸法を有しており、したがってウエハの少なくとも一部を使用できなくする。これを回避するために、実際には、被覆操作の直前に、レジスト溶液から粒子を除去する微細孔フィルターを挿入する。フォトレジストの過剰な粒子形成により、フィルターの頻繁で複雑な交換が必要になり、したがって完全に除去することはできない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の目的は、従来技術の上記の欠点を回避し、特に高い貯蔵安定性を有するフォトレジスト溶液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
ここで、ジアゾナフトキノンスルホニル単位によって末端が変性されたオリゴマー又はポリマーのポリエーテル及びポリオレフィンが、高い感光性に加えて、有機溶媒中における良好な溶解性、及び沈殿又は晶出する低い傾向を有し、したがってフォトレジスト用の感光性成分として著しく好適であることが分かった。
【0017】
したがって、本発明は、式(I):
【0018】
【化1】

【0019】
(式中、記号及び指数はそれぞれ以下のように定義される:
Aは、A’、R、又はO−Rであり;ここで、Rは、1〜8個の炭素原子を有する、直鎖、分岐鎖、又は環式で、飽和又は不飽和の脂肪族基であり;
A’は、同一か又は異なり、
【0020】
【化2】

【0021】
であり、
Bは、結合、−O−C(O)−、−C(O)−O−、−O−C(O)−、−C(O)−NH−、−NH−C(O)−、−C(O)−O−CH−CH(OH)−CH−O−、−O−CH−CH(OH)−CH−O−(O)C−、−O−C(O)−O−、−O−C(O)−NH−、又は−NH−C(O)−O−であり;
は、H又はOHであり;
mは、1、2、3、4、又は5であり;
Yは、
【0022】
【化3】

【0023】
であり;
nは、≧3の正の有理数であり;
Eは、同一か又は異なり、−CH−CHR−、−CHR−CH−、−CH−CHR−O−、−O−CHR−CH−、−(CH−O−、又は−O−(CH)−であり;
は、H又はCHであり;
rは、1又は4である)
の化合物を提供する。
【0024】
式(I)のオリゴマー又はポリマー(以下において、ひとまとめにしてポリマーと称する)は、それらの高い感光性、有機溶媒中における良好な溶解性、及び低い結晶化傾向のために、フォトレジスト、特にポジ型レジストにおける感光性成分として非常に好適である。
【0025】
式(I)のポリマーは、ホモポリマー(繰り返し単位Eが同一である)か、又はコポリマー(繰り返し単位Eが異なる構造E’、E”等を有する)である。
【0026】
式(I)のコポリマーは、例えば、ランダムコポリマー(例えば、E’−E”−E’−E’−E”−E’−E”−E”−E”・・・)、交互コポリマー(−[E’−E”]−)、又はブロックコポリマー(例えば、(E’−E’−E’)(E”−E”−E”))であってよい。
【0027】
式(I)において、分岐及び/又はエーテル部分を有する単位Eが好ましく、プロピレングリコール(−O−CH−CH(CH)−)、エチレングリコール(−O−CH−CH−)、及びテトラメチレンオキシド(−O−(CH−)単位が特に好ましい。
【0028】
一般に、式(I)のポリマーは、50〜10,000、好ましくは100〜2500、より好ましくは120〜1500の重量平均分子量(Mw)を有する。
【0029】
nは、式(I)のポリマー中に存在する繰り返し単位の平均(分布)であるので、整数以外の数値(例えば5.5)を有することもできる。
【0030】
式(I)における記号及び指数は、好ましくは、それぞれ以下のように定義される。
【0031】
Aは、好ましくは、A’、R、又はORであり;ここで、Rは、直鎖又は分岐鎖のC〜Cアルキル基又はC〜Cシクロアルキルであり;
Bは、好ましくは、結合、−O−、−C(O)−O−、−O−C(O)−、−C(O)−O−CH−CH(OH)−CH−O−、又は−CH−CH(OH)−CH−O−C(O)−であり;
は、好ましくは、H又はOHであり;
mは、好ましくは、2、3、又は4であり;
Yは、好ましくは、
【0032】
【化4】

【0033】
であり;
nは、好ましくは、≧3且つ≦80の正の有理数であり;
Eは、好ましくは、−CH−CHR−O−、−O−CHR−CH−、又は−(CH−O−、−O−(CH−であり;
は、好ましくは、H又はCHであり;
rは、好ましくは、1又は4である。
【0034】
記号及び指数がそれぞれ好ましい定義を有する式(I)の化合物が好ましい。
【0035】
式(I)における記号及び指数は、より好ましくは以下の定義を有する。
【0036】
Aは、より好ましくは、A’、R、又はORであり;ここで、Rは、直鎖又は分岐鎖のC〜Cアルキル基であり;
Bは、より好ましくは、結合、−O−、−O−C(O)−、−C(O)−O−、−C(O)−O−CH−CH(OH)−CH−O−、又は−CH−CH(OH)−CH−O−C(O)−であり;
は、より好ましくは、H又はOHであり;
mは、より好ましくは、2、又は3であり;
Yは、より好ましくは
【0037】
【化5】

【0038】
であり;
nは、より好ましくは、≧5且つ≦20であり;
Eは、より好ましくは、−CH−CH(CH)−O−、−CH−CH−O−、−OCH(CH)−CH−、−O−CH−CH−、−CH(CH)−CH−O−、−O−CH−CH(CH)−、又は−(CH−O−、又は−O−(CH−である。
【0039】
記号及び指数がそれぞれより好ましい定義を有する式(I)の化合物が特に好ましい。
【0040】
特に、式(I)における記号及び指数は、それぞれ次のように定義される。

Aは、特に、A’、直鎖又は分岐鎖のC〜Cアルキル基であり;
Bは、特に、結合、−C(O)−O−、−O−C(O)−、−C(O)−O−CH−CH(OH)−CH−O−、又は−CH−CH(OH)−CH−O−C(O)−であり;
は、特に、H又はOHであり;
mは、特に、2、又は3であり;
Yは、特に、
【0041】
【化6】

【0042】
であり;
nは、特に、≧5且つ≦15であり;
Eは、特に、−O−CH−CH−、−CH−CH−O−、−OCH(CH)−CH−、−O−CH−CH(CH)−、CH(CH)−CH−O−、又は−CH−CH(CH)−O−である。
【0043】
Eに関しては、エチレングリコール及びプロピレングリコール単位の混合物が特に好ましい。
【0044】
ポリマー単位Eは、例えば、"Kirk-Othmer, Encyclopedia of Chemical Technology", 2004, 第5版, John & Wiley & Sonsにおいて総論の形態で記載されている、ポリグリコール、ポリアセタール、及びポリオレフィンを製造するための公知の方法によって調製することができる。
【0045】
これらの末端が変性されているか又は未変性のポリマーは、更に、商業的に入手することができる。ポリエチレングリコールビスグリシジルエーテル及びポリプロピレングリコールビスグリシジルエーテルは例えばNagase & Co., Ltd. (日本国東京)によって、アルキルポリエチレングリコール及びアルキルポリプロピレングリコールは例えばBASF Aktiengesellschaft (Ludwigshafen, ドイツ)又はClariant GmbH (Sulzbach, ドイツ)によって販売されている。
【0046】
ポリマー前駆体(E)を、例えば、J. March, Advanced Organic Chemistry, 第5版, John Wiley & Sons, New York 2001, p.707-711又はH. Kotsoki, Synthesis 4 (1999), p.603-606において示されているようなエーテル化、エステル化、又はアミド化の公知の方法によって、1種又は複数の芳香族成分A’(A’=A;ここではm=0)と反応させる。
【0047】
例えば、アルコール又はそれらのメタンスルホネートを、ピロガロール又は他の(ポリ)ヒドロキシベンゼンと反応させることができる。
【0048】
式(I)の化合物は、その後、公知の方法で、対応する前駆体を、有機溶媒中において、2,1−ジアゾナフトキノン−4−スルホニルクロリド、2,1−ジアゾナフトキノン−5−スルホニルクロリド、7−メトキシ−2,1−ジアゾナフトキノン−4−又は−5−スルホニルクロリド及び塩基と反応させることによって合成する。一般に、二つの合成経路が可能である。第1に、生成物を、過剰の水中で沈殿させ、適当な場合には乾燥後に再沈殿させることによって、固体として単離することができる。第2に、合成を、あったとしても限られた水混和性しか有しない有機溶媒中で行うことができる。この場合においては、精製は、水で洗浄し、相分離し、次に、溶解水の残留物を除去するために溶解した形態の生成物を含む有機相を初期蒸留することによって行う。
【0049】
したがって、本発明は、また、式(I)’
(ここで、
A’は、
【0050】
【化7】

【0051】
であり;
pは、1、2、3、4、又は5であり;
残りの記号及び指数はそれぞれ式(I)において定義した通りである)
の化合物を、有機溶媒中、塩基の存在下において、2,1−ジアゾナフトキノン−4−スルホニルクロリド、2,1−ジアゾナフトキノン−5−スルホニルクロリド、7−メトキシ−2,1−ジアゾナフトキノン−4−及び5−スルホニルクロリドの群からの少なくとも1種の化合物と反応させることによる、式(I)の化合物の製造方法を提供する。
【0052】
好ましい有機溶媒は、アセトン、2−ブタノン、γ−ブチロラクトン、1,4−ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートである。
【0053】
好ましい塩基は、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ピリジン、N−メチルモルホリン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、及び1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデス−7−エンのような第3級塩基である。
【0054】
本発明は、更に、フォトレジスト、好ましくはポジ型レジストの構成成分としての式(I)の化合物の使用を提供する。
【0055】
更に、本発明は、
(a)式(I)の1種以上の化合物を含む感光性成分;及び
(b)膜形成性塩基可溶性成分;
を含むフォトレジスト組成物、好ましくはポジ型レジスト組成物を提供する。
【0056】
用いる膜形成性成分は、一般にノボラック樹脂である。
【0057】
有用なノボラック樹脂としては、、通常の公知の(例えば、A. Gardziella, L.A. Pilate, "Phenolic Resins", 第2版, Springer Verlag, Berlin, 2000を参照)、フェノール又はフェノール誘導体及び低級アルデヒド又はケトンからの酸又は他の金属イオン接触縮合反応によって得ることのできる全てのタイプのものが挙げられる。有用なフェノール誘導体としては、例えば、フェノール自体、クレゾール(1−、2−、又は3−メチルフェノール)、o−、m−、又はp−アルキルフェノール、キシレノール(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−、又は3,6−ジメチルフェノール)、o−、m−、又はp−フェニルフェノール、ジアルキルフェノール、トリアルキルフェノール、モノ−、ジ−、又はトリアルコキシフェノール、ピロカテコール(1,2−ジヒドロキシベンゼン)、レゾルシノール(1,3−ジヒドロキシベンゼン)、ヒドロキノン(1,4−ジヒドロキシベンゼン)、ピロガロール(1,2,3−トリヒドロキシベンゼン)、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン、又はフロログルシノール(1,3,5−トリヒドロキシベンゼン)が挙げられる。これら又は他のフェノール類は、単独か、又は2種以上の成分の混合物で用いることができる。個別か又は組み合わせて用いることのできる有用なアルデヒド又はケトンとしては、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、フルフラール、プロピオンアルデヒド、アクロレイン、クロトンアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジフェニルケトン、又は他のアルデヒド若しくはケトンが挙げられる。広範囲の異なるモノマー又はモノマーの組み合わせからの全てのタイプのノボラックの合成は、数多くの文献及び特許に詳細に記載されており、通常的に知られている従来技術である。また、例えば、分別によって低分子量フラクションを除去するか、或いは異なるモル質量を有する2種以上のノボラックを選択的に混合することによって明確に調節されたモル質量又はモル質量分布を有する特定のモノマーから形成されるノボラックの使用が記載されている(例えば、US−4,529,682、US−6,096,477、WO−00/34829、及びUS−3,666,473を参照)。
【0058】
好ましいノボラック樹脂は、ホルムアルデヒドとの縮合によって、任意の混合物のモノマーフェノール、クレゾール、及びキシレノールから得られるものである。
【0059】
式(I)の化合物の割合は、通常、膜形成性樹脂100重量部を基準として、5〜50重量部、好ましくは10〜40重量部である。
【0060】
フォトレジスト組成物のために好適な溶媒は、エチレングリコールモノメチルエーテル及びエチレングリコールモノエチルエーテルのようなエチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート及びエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートのようなエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル及びプロピレングリコールモノエチルエーテルのようなプロピレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート及びプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートのようなプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、乳酸メチル及び乳酸エチルのような乳酸エステル、トルエン及びキシレンのような芳香族炭化水素、メチルエチルケトン、2−ヘプタノン、及びシクロヘキサノンのようなケトン、N,N−ジメチルアセトアミド及びN−メチルピロリドンのようなアミド、γ−ブチロラクトンのようなラクトン、並びに酢酸エチル、酢酸ブチル、及び酢酸3−メトキシブチルのような酢酸エステルである。これらの溶媒は、個別か、或いは2種以上の混合物として用いることができる。
【0061】
1−メトキシ−2−プロピルアセテート、1−メトキシ−2−プロパノール、乳酸エチル、及び酢酸ブチルが特に好ましい。
【0062】
場合によっては、フォトレジスト組成物に、更なる添加剤、例えば接着助剤としての染料を混合してもよい。染料の例は、メチルバイオレット、クリスタルバイオレット、及びマラカイトグリーンであり、接着助剤の例としては、アルキルイミダゾリン、酪酸、アルカン酸、ポリヒドロキシスチレン、ポリビニルメチルエーテル、t−ブチルノボラック、エポキシシラン、エポキシポリマー、及びシランが挙げられる。
【0063】
フォトレジスト組成物は、所定量の溶媒中に、膜形成性成分、式(I)の化合物、及び場合によっては更なる添加剤を溶解し、且つ場合によっては混合物を濾過することによって調製することができる。かくして調製された感光性フォトレジスト組成物を基材に施して、集積半導体スイッチング素子、フォトフィルター、及び液晶ディスプレイのようなFPDを製造する。基材は、ガラス基材及びシリコン基材のような任意の寸法の任意の基材であってよい。これらは、また、膜、例えばクロム膜、酸化ケイ素膜、又は反射防止膜を含むこれらの基材であってもよい。基材は、任意の公知の方法によって、例えばスピン被覆、ロール被覆、ランド被覆、流動及び展開被覆、ドクター被覆、浸漬被覆、及びスリット被覆によって、フォトレジスト組成物で被覆することができる。
【0064】
感光性膜を形成するために、フォトレジスト組成物を基材に施し、次に穏やかに加熱処理する。その後、レジストパターンを形成するために、フォトマスクを通して膜を照射し、当業者に公知で通常の方法によって現像する。365nm、405nm、及び436nmの波長の光が好ましい。
【0065】
その後の現像のために用いる現像剤は、従来の感光性樹脂組成物において用いられているような任意の現像剤であってよい。現像剤の好ましい例としては、塩基性現像剤、即ち、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシド、コリン、アルカリ金属ヒドロキシド、アルカリ金属メタシリケート(水和物)、アルカリ金属ホスフェート(水和物)、アンモニア溶液、アルキルアミン、アルカノールアミン、及び複素環式アミンのような、アルカリ性化合物の水溶液が挙げられ、アルカリ性現像剤としてはテトラメチルアンモニウムヒドロキシドの水溶液が特に好ましい。適当な場合には、アルカリ性現像剤溶液は、メタノール及びエタノールのような水溶性の有機溶媒、或いは界面活性剤を含んでいてもよい。アルカリ性現像剤による現像の後は、通常、水による洗浄を行う。
【0066】
本発明は、更に、
(a)本発明のフォトレジスト組成物の膜で基材を被覆し;
(b)形成されたフォトレジスト膜を、フォトマスクを通して照射し;
(c)照射されたフォトレジスト膜を加熱処理し;
(d)照射され加熱処理されたフォトレジスト膜を、アルカリ性現像剤を用いて現像する;
ことによる、基材の構造被覆方法を提供する。
【0067】
更に、本発明は、本発明のフォトレジスト組成物によって被覆された基材、並びに半導体スイッチング素子及びフラットパネルディスプレイの製造におけるその使用を提供する。
【0068】
実施例によって、本発明を、それにより限定することなく詳細に説明する。
【実施例】
【0069】
下記の実施例に関しては、次の前駆体を用いた。
【0070】
前駆体1:1モルのポリプロピレングリコールビス(グリシジルエーテル)と2モルの没食子酸を反応させることによって調製した。nは7の平均値を有していた。
【0071】
【化8】

【0072】
前駆体2:1モルのポリエチレングリコールビス(グリシジルエーテル)と2モルの没食子酸を反応させることによって調製した。nは9の平均値を有していた。
【0073】
【化9】

【0074】
前駆体3:1モルのポリプロピレングリコールビス(グリシジルエーテル)と2モルの3,5−ジヒドロキシ安息香酸を反応させることによって調製した。nは7の平均値を有していた。
【0075】
【化10】

【0076】
前駆体4:1モルのポリエチレングリコールビス(グリシジルエーテル)と2モルの3,5−ジヒドロキシ安息香酸を反応させることによって調製した。nは9の平均値を有していた。
【0077】
【化11】

【0078】
前駆体5:1モルのポリプロピレングリコールビス(グリシジルエーテル)と2モルの4−ヒドロキシ安息香酸を反応させることによって調製した。nは7の平均値を有していた。
【0079】
【化12】

【0080】
前駆体6:1モルのピロガロールと1モルのポリプロピレングリコールモノメチルエーテルを反応させることによって調製した。nは6.5の平均値を有していた。
【0081】
【化13】

【0082】
前駆体7:1モルのピロガロールと1モルのポリエチレングリコールモノメチルエーテルを反応させることによって調製した。nは8.5の平均値を有していた。
【0083】
【化14】

【0084】
2,1−ジアゾナフトキノン−5−スルホニルクロリドを用いて前駆体をエステル化し、その後、生成物を沈殿及び乾燥するための一般的方法「A」:
1モルの適当な前駆体を表1に示すモル比の2,1−ジアゾナフトキノン−5−スルホニルクロリド中に溶解して、アセトン中15重量%の明澄な溶液を得た。15〜20℃の温度において、2,1−ジアゾナフトキノン−5−スルホニルクロリドのモル数を基準として1.05モル当量のトリエチルアミンを30分以内で滴加し、混合物を更に60分撹拌した。溶液を濾過してそれから沈殿アンモニウムヒドロクロリドを除去し、20倍量の0.02%HCl水溶液中にゆっくりと滴加した。沈殿した生成物を吸引濾過し、脱イオン水で十分に洗浄し、真空乾燥し、含水量が<1%になるまで40℃で72時間乾燥した。生成物が赤褐色の固体として得られた。
【0085】
2,1−ジアゾナフトキノン−5−スルホニルクロリドを用いて有機溶媒中で前駆体をエステル化し、沈殿を行わない(生成物を溶液として得る)ための一般的方法「L」:
1モルの適当な前駆体を、1−メトキシ−2−プロピルアセテート及び1−メトキシ−2−プロパノールの9:1混合物中の表1に示すモル比の2,1−ジアゾナフトキノン−5−スルホニルクロリド中に溶解して、15重量%の明澄な溶液を得た。15〜20℃の温度において、2,1−ジアゾナフトキノン−5−スルホニルクロリドのモル数を基準として1.05モル当量のジメチルエタノールアミンを30分以内で滴加し、混合物を更に60分撹拌した。次に、反応溶液を、量比1:1で0.3%HCl水溶液によって洗浄した。水性相を除去した後、有機相を量比1:1で脱イオン水によって洗浄し、水性相を除去した。残りの有機相を、まず45℃及び20mbarの真空下で60分間初期蒸留した。次に、圧力を8mbarに低下させ、更に約60分間蒸留を継続した。分析によって正確に測定して30〜40重量%の固体含量を有する1−メトキシ−2−プロピルアセテート(PGMEA)中の生成物の暗赤色の溶液が残留した。含水量は<0.5%であった。
【0086】
表1に示す式(I)の化合物が得られた。
【0087】
【表1】

【0088】
リソグラフィープロセスを以下のようにして行った。
【0089】
まず、表2に示す配合にしたがって表1に示すPACからすぐに使用できるレジスト溶液を調製した。PACを、ノボラック樹脂及び添加剤と一緒に溶解して、PGMEA(1−メトキシ−2−プロピルアセテート)中の明澄な溶液を得、27重量%の全固体含量に調節した。使用の直前に、0.45μmのフィルターを通してレジスト溶液を濾過した。
【0090】
【表2】

【0091】
スピン被覆を用いてSiウエハ上にレジスト溶液を被覆し、スピン速度は、乾燥後に約1.5μm(照射波長の干渉に関連するカップリングインに依存する)の極めて正確なレジスト層厚さが達成されるように調節した。被覆の後、ウエハを制御可能なホットプレート上で加熱処理して、規定の条件下で溶媒を除去した。一般に、乾燥は90℃の温度で60秒行った。次に、異なる照射線量を有する特定の照射波長の照射ユニット(ウエハステッパー)によって層を照射した。照射は不足照射及び過照射が行われるように調節した。即ち、通常の寸法よりも大きく通常の寸法よりも小さい寸法までの寸法を有するマスク構造を撮像した。照射後、ウエハを110℃で60秒間ホットプレート上で加熱処理することによって、曝露後加熱処理にかけた。その後、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの2.38%水溶液を用いて、23℃において60秒間、層を現像し、次にウエハをDI水ですすいだ。現像によって先に照射された領域が除去された。
【0092】
結果を下表3にまとめる。
【0093】
【表3】

【0094】
本発明化合物と2種の公知の対照試料との間の比較リソグラフィー試験においては、リソグラフィーに関して不利な特性は見られなかった。匹敵する感光性(表3参照)に加えて、全ての試料の解像能及び明瞭な現像挙動も狭い範囲内で同等であったが、本発明化合物(I)の溶液は非常に長い貯蔵安定性を有していた(表3、4欄を参照)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、記号及び指数はそれぞれ以下のように定義される:
Aは、A’、R、又はO−Rであり;ここで、Rは、1〜8個の炭素原子を有する、直鎖、分岐鎖、又は環式で、飽和又は不飽和の脂肪族基であり;
A’は、同一か又は異なり、
【化2】

であり、
Bは、結合、−O−C(O)−、−C(O)−O−、−O−C(O)−、−C(O)−NH−、−NH−C(O)−、−C(O)−O−CH−CH(OH)−CH−O−、−O−CH−CH(OH)−CH−O−(O)C−、−O−C(O)−O−、−O−C(O)−NH−、又は−NH−C(O)−O−であり;
は、H又はOHであり;
mは、1、2、3、4、又は5であり;
Yは、
【化3】

であり;
nは、≧3の正の有理数であり;
Eは、同一か又は異なり、−CH−CHR−、−CHR−CH−、−CH−CHR−O−、−O−CHR−CH−、−(CH−O−、又は−O−(CH)−であり;
は、H又はCHであり;
rは、1又は4である)
の化合物。
【請求項2】
式(I)の記号及び指数がそれぞれ以下のように定義される請求項1に記載の式(I)の化合物:
Aは、A’、R、又はORであり;ここで、Rは、直鎖又は分岐鎖のC〜Cアルキル基又はC〜Cシクロアルキルであり;
Bは、結合、−O−、−C(O)−O−、−O−C(O)−、−C(O)−O−CH−CH(OH)−CH−O−、又は−CH−CH(OH)−CH−O−C(O)−であり;
は、H又はOHであり;
mは、2、3、又は4であり;
Yは、
【化4】

であり;
nは、≧3且つ≦80の正の有理数であり;
Eは、−CH−CHR−O−、−O−CHR−CH−、又は−(CH−O−、−O−(CH−であり;
は、H又はCHであり;
rは、1又は4である。
【請求項3】
式(I)の記号及び指数がそれぞれ以下のように定義される請求項1又は2に記載の式(I)の化合物:
Aは、A’、R、又はORであり;ここで、Rは、直鎖又は分岐鎖のC〜Cアルキル基であり;
Bは、結合、−O−、−O−C(O)−、−C(O)−O−、−C(O)−O−CH−CH(OH)−CH−O−、又は−CH−CH(OH)−CH−O−C(O)−であり;
は、H又はOHであり;
mは、2、又は3であり;
Yは、
【化5】

であり;
nは、≧5且つ≦20であり;
Eは、−CH−CH(CH)−O−、−CH−CH−O−、−O−CH(CH)−CH−、−O−CH−CH−、−CH(CH)−CH−O−、−O−CH−CH(CH)−、又は−(CH−O−、又は−O−(CH−である。
【請求項4】
式(I)の記号及び指数がそれぞれ以下のように定義される請求項1〜3のいずれかに記載の式(I)の化合物:
Aは、A’、直鎖又は分岐鎖のC〜Cアルキル基であり;
Bは、結合、−C(O)−O−、−O−C(O)−、−C(O)−O−CH−CH(OH)−CH−O−、又は−CH−CH(OH)−CH−O−C(O)−であり;
は、H又はOHであり;
mは、2、又は3であり;
Yは、
【化6】

であり;
nは、≧5且つ≦15であり;
Eは、−O−CH−CH−、−CH−CH−O−、−OCH(CH)−CH−、−O−CH−CH(CH)−、CH(CH)−CH−O−、又は−CH−CH(CH)−O−である。
【請求項5】
式(I)’
(ここで、
A’は、
【化7】

であり;
pは、1、2、3、4、又は5であり;
残りの記号及び指数はそれぞれ式(I)において定義した通りである)
の化合物を、有機溶媒中、塩基の存在下において、2,1−ジアゾナフトキノン−4−スルホニルクロリド、2,1−ジアゾナフトキノン−5−スルホニルクロリド、7−メトキシ−2,1−ジアゾナフトキノン−4−及び5−スルホニルクロリドの群からの少なくとも1種の化合物と反応させることによる、請求項1〜4のいずれかに記載の式(I)の化合物の製造方法。
【請求項6】
フォトレジストの構成成分としての、請求項1〜4のいずれかに記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項7】
(a)請求項1〜4のいずれかに記載の式(I)の1種以上の化合物を含む感光性成分;及び
(b)膜形成性塩基可溶性成分;
を含むフォトレジスト組成物。
【請求項8】
(a)請求項7に記載のフォトレジスト組成物の膜で基材を被覆し;
(b)形成されたフォトレジスト膜を、フォトマスクを通して照射し;
(c)照射されたフォトレジスト膜を加熱処理し;
(d)照射され加熱処理されたフォトレジスト膜を、アルカリ性現像剤を用いて現像する;
ことによる、基材の構造被覆方法。
【請求項9】
請求項7に記載のフォトレジスト組成物によって被覆された基材。
【請求項10】
半導体スイッチング素子及びフラットパネルディスプレイの製造における請求項9に記載の基材の使用。

【公表番号】特表2009−514913(P2009−514913A)
【公表日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−539314(P2008−539314)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【国際出願番号】PCT/EP2006/010607
【国際公開番号】WO2007/051646
【国際公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(505474968)エイズィー・エレクトロニック・マテリアルズ・(ジャーマニー)・ゲーエムベーハー (3)
【Fターム(参考)】