説明

フライホイール蓄電装置

【課題】 回転体の回転数を可能な限り低く制御して、定常損失を小さくすることができるフライホイール蓄電装置を提供する。
【解決手段】 車両が走行中か停止中かが判断される(ステップS1)。走行中の場合は加速中かが判断され(ステップS2)フライホイール蓄電装置(F/W)の回転数Nが許容最低回転数N1を上回る場合のみF/Wからの放電が行われる(ステップS3〜S4)。一方、加速中でないと判断された場合ブレーキが踏まれているか判断され(ステップS5)、「YES」の場合には電力回生制動が行われ(ステップS8)、「NO」の場合にはF/Wの回転数Nが基底回転数N2より上回るように充電される(ステップS6〜S7)。一方、車両の停止中に時間tが充電開始時間t2だけ経過すると(ステップS9)F/Wの回転数が最高回転数N3になるまで充電が行われる(ステップS10〜S12)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に自動車や鉄道車両といった移動体に搭載され、内燃機関動力と電気動力とを併用する、いわゆるハイブリッド動力装置に使用されるフライホイール蓄電装置に係り、特に動作に伴って発生する損失を最小限に抑える制御を行うフライホイール蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、環境保全および有限である石油資源の将来を配慮して、自動車の動力を内燃機関動力から電気動力に転換することが、自動車業界における今後の開発の動向であり、この開発は将来へ向けての長い道のりを辿ることと予想される。そのため、内燃機関動力を一挙に電気動力に転換することは、現状において、その見通しが小さく、その中間的な形態として、内燃機関動力と電気動力とを併用する、いわゆるハイブリッドカーが開発されている。
【0003】
ここで、上述した、ハイブリッドカーの構成を図6(a)にて示す。この図において、ハイブリッドカーは、エンジン(内燃機関)101と、発電機102と、例えば、整流素子から構成され、交流から直流への整流を行うコンバータ103と、バッテリ104と、回生コンバータ105と、モータ/ジェネレータ(以下、M/Gという)106と、制御装置111と、エンジン制御を行うECU(Engine Control Unit)112と、アクセル113と、ブレーキ114と、駆動輪Wと、ディファレンシャルギヤ(以下、デフという)Dとから構成される。M/G106は、電力端子から電力を供給されると通常のモータとして動作し、回転軸から動力を供給されると発電機(ジェネレータ)として動作する。また、M/G106は内部の図示しない回転計により車速信号を生成する。
【0004】
エンジン101の出力回転軸が発電機102に結合される。発電機102の出力端がコンバータ103の入力端Tciに接続される。コンバータ103の出力端Tcoがバッテリ104のプラス側端子および回生コンバータ105の直流側端子Tdcと接続される。回生コンバータ105の交流側端子TacがM/G106の電力端子と接続される。M/G106の回転軸がデフDを介して駆動輪Wに結合される。以上のように、このハイブリッドカーはシリーズハイブリッド形式の構成をなす。
【0005】
制御装置111は、コンバータ103と、回生コンバータ105と、M/G106と、ECU112と、アクセル113と、ブレーキ114とに接続されて、ハイブリッドカーの制御を行う。制御装置111はM/G106から車速信号を入力し、且つ、アクセル113およびブレーキ114から各々の踏み込み量を入力して、該データより現在の運転状況を判断し、回生コンバータ105に動作の指示を与えるための動作指示信号を出力する。また、制御装置111は、ECU112を介してエンジン101に始動または停止の指示を行う。
【0006】
回生コンバータ105は、図7に示すように、インバータ121と、インバータ121の直流入力端TidとGnd(グランド)との間に接続されるコンデンサC1と、インバータ121の交流出力端Toaと直列に接続されるインダクタンス122とから構成される。
尚、インバータ121は内部にスイッチング素子の切り替え用のゲート回路を含んでおり、制御装置111から出力される動作指示信号によって制御される。また、上述したインバータ121の交流出力端Toa側の回路において、「///」は、三相回路を示す。
【0007】
回生コンバータ105は、直流側端子Tdcに、コンバータ103またはバッテリ104から直流電力を入力し、コンデンサC1に蓄積する。インバータ121は該直流電力を直流側端子Tdcから入力して交流電力に変換し、交流出力端Toaから出力する。該交流電力はインダクタンス122を介して、回生コンバータ105の交流側端子Tacから出力される。
【0008】
次に、上記構成によるハイブリッドカーの動作について図6および図7を参照して説明する。
先ず、ハイブリッドカーの加速時には、図6(a)におけるバッテリ104からM/G106への電力供給経路により、主たる電力が伝達される。すなわち、バッテリ104から出力された直流電力は回生コンバータ105によって交流電力に変換され、M/G106に供給される。この後、回生コンバータ105内部において、制御装置111の指示に基づいて、インバータ121が回生コンバータ105の交流側端子Tacにおける交流電圧より振幅が大きく、且つ、位相の進んだ電圧を交流出力端Toaに発生させることにより、インダクタンス122にかかる交流電圧と逆向きの電流が流れる。つまり、この後も、バッテリ104から出力された直流電力が回生コンバータ105によって交流電力に変換されて、M/G106への電力の供給が継続され、駆動輪Wが駆動される。
また、運転者により急加速が指示された場合、図6(a)における全てのM/G106への電力供給経路によって電力の伝達が行われる。すなわち、制御装置111の指示に基づいて、ECU112によって、エンジン101が始動して、発電機102によって交流電力が発電され、コンバータ103によって直流電力に変換される。そして、上述した動作により、コンバータ103から出力される直流電力と、前述したバッテリ104から出力される直流電力とが、回生コンバータ105によって交流電力に変換されて、M/G106へ供給され、駆動輪Wが駆動される。
【0009】
次に、ハイブリッドカーの速度がある程度上がり、定速走行が行われる時には、図6(b)に示すように、エンジン101が効率のよい定回転数にて回転し、発電機102によって交流電力が発電され、コンバータ103によって直流電力に変換される。そして、制御装置111の指示に基づいて、図示しない遮断器によって、バッテリ104のプラス側端子がコンバータ103の出力端Tcoおよび回生コンバータ105の直流側端子Tdcと遮断される。上述した動作により、コンバータ103から出力される直流電力のみが、回生コンバータ105によって交流電力に変換されて、M/G106へ供給され、駆動輪Wが駆動される。
【0010】
次に、ハイブリッドカーのブレーキが踏まれて、制動が行われる時には、図6(c)に示すように、駆動輪Wからの駆動力がデフDを介してM/G106に与えられる。M/G106は、該駆動力に応じた交流電力を発生して、回生コンバータ105に供給する。このとき、回生コンバータ105内部において、制御装置111の指示に基づいて、インバータ121が回生コンバータ105の交流側端子Tacにおける交流電圧より振幅が大きく、且つ、位相の遅れた電圧を交流出力端Toaに発生させることにより、インダクタンス122にかかる交流電圧と同相の電流が流れる。つまり、この後は、M/G106から出力された電力が回生コンバータ105内のコンデンサC1によって蓄積されることとなる。そして、コンデンサC1がフルに充電され、余剰の電力がバッテリ104に供給される。このように、回生コンバータ105によって回生制動が行われ、バッテリ104に回生電力が回収される。尚、エンジン101はECU112を介した制御装置111の制御によって停止する。また、コンバータ103は制御装置111の制御に基づいて、内部のスイッチによって、バッテリ104および回生コンバータ105との接続を遮断する。
以上の動作により、エンジンを効率よく使用でき、また、回生制動により制動時の運動エネルギーを回収して、次の加速時にリサイクルでき、燃費向上を図ることができる。
【0011】
しかしながら、上述した、従来のハイブリッドカーには、以下のような問題がある。すなわち、ハイブリッドカーに使用されるリチウムイオン、ニッケル水素等の高性能なバッテリ104は、充放電回数によって寿命が決まるため、加減速頻度の高い鉄道やバス、配送車等の産業車両に適用するとすぐに寿命が来て交換が必要になる。バッテリ104の交換に伴うコストアップが、ハイブリッド化による燃費向上による経済効果を上回る為、現実には、ハイブリッドカーは使えば使うほど損をするという、不経済な装置になっている。また、気温が氷点下を下回る寒冷地においては、バッテリ104の性能が著しく低下し、また、夏場には温度が上昇してバッテリ104の性能や信頼性が著しく阻害される。この問題は、図6(a)に示すシリーズハイブリッド形式のみならず、パラレルハイブリッド形式等、バッテリを利用するハイブリッドカーにおいては、回避できないものである。また、この対策として、バッテリ104の充放電深度を浅くして、寿命を延ばすことが考えられるが、寿命を10倍延ばすためには、充放電深度を1/10にしなければならないため、同等の蓄電容量を確保するためにバッテリ104の容量を10倍にする必要がある。これにより、バッテリ104のコストが10倍になってしまう。
【0012】
上述したように、ハイブリッドカーにおいては、バッテリ104の抱える問題がネックとなっており、これを解決するハイブリッドカーとして、例えば、特許文献1に、内燃機関の回転軸と同軸に設けられたモータ/発電機の電源回路に、高速回転するフライホイール(以下、回転体という)およびこの回転体を高速回転させることにより電力を回転エネルギーとして蓄積する装置を備えたフライホイール蓄電装置を付加して、該フライホイール蓄電装置により、減速時に運動エネルギーを蓄えて、次の加速時に該運動エネルギーを利用することができる内燃機関の制動および補助加速装置が記載されている。
【特許文献1】特開平10−295002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上述したフライホイール蓄電装置においては、以下のような問題があった。すなわち、フライホイール蓄電装置は、回転体の軸受けの摩擦損、回転時の風損(空気抵抗)、鉄心による鉄損および巻線による銅損(電気損)からなる定常損失を常に発生しており、定常損失は回転数に比例して増大するため、フライホイール蓄電装置の回転数をできる限り低くして使用することによって定常損失を減らすことができる。しかし、上述した内燃機関の制動および補助加速装置は、バッテリの寿命を延ばすためにバッテリによる充放電に代えてフライホイール蓄電装置による充放電を行うという技術的思想のものであり、フライホイール蓄電装置の回転数を低く抑えずにフライホイール蓄電装置の充放電を制御している。そのため、フライホイール蓄電装置の定常損失を小さくすることができないという問題があった。
【0014】
また、上記のフライホイール蓄電装置は、例えば、走行時にはユーザのアクセル開度等に関係なく、一律に「走行モード」なるモードを設定されて制御されるため、ユーザが加速を望んだとしても、フライホイール蓄電装置はそれに対応して、蓄積し、そして、放出し得るエネルギーの量を変更することができない。そのため、フライホイール蓄電装置は、種々の運転状況に対応して、最大限のエネルギーを蓄積し、放出することができないという問題もあった。
【0015】
本発明は、上記事情を考慮してなされたもので、その目的は、回転数を可能な限り低く制御して、定常損失を小さくすることができるフライホイール蓄電装置を提供することにある。また、本発明の他の目的は、種々の運転状況に対応して、最大限のエネルギーを蓄積し、放出することができるフライホイール蓄電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、この発明では、以下の手段を提案している。
請求項1に係る発明は、内燃機関と共に電動機を駆動源とするハイブリッド自動車もしくはハイブリッド鉄道車両である移動体に搭載され、フライホイールと、前記フライホイールの回転軸に結合された電動発電機と、前記電動機と前記電動発電機との電力の授受の仲立ちをする電力伝達手段と、前記電力伝達手段を制御する制御手段とを備えたフライホイール蓄電装置であって、前記制御手段が、前記移動体の停止中、または前記フライホイールの回転数が前記フライホイールの最低運転回転数を下回った場合に電力伝達手段から前記電動発電機へ電力を供給させる電力供給指示手段を備えたことを特徴とする。
この発明によれば、フライホイール蓄電装置が、移動体の停止中に電動発電機に電力が供給され、フライホイールに該エネルギーが蓄積されるため、移動体が次に発進する際に必要なエネルギーをフライホイールに用意しておくことができる。また、フライホイールの回転数が最低運転回転数を下回った場合に電動発電機に電力を供給して、該フライホイールを可能な限り低い回転数にて使用することができるので、回転数に比例して増大する定常損失を低減することができる。
【0017】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のフライホイール蓄電装置であって、前記制御手段が、予め設定された所定の停車時間から発進時間を予測する第1の予測手段を備え、 前記電力供給指示手段が、前記第1の予測手段により予測された発進時間迄に前記フライホイールの回転数が前記フライホイールの最高運転回転数になるように前記電力伝達手段に指示を行うことを特徴とする。
この発明によれば、フライホイール蓄電装置が、第1の予測手段によって、発進時間を予測し、該発信時間に間に合うようにフライホイールにエネルギーを蓄積するので、ただ時間が経過するだけでも、蓄積したエネルギーの喪失、つまり、定常損失が生じる性質を持つフライホイール蓄電装置において、定常損失を生じる時間を短縮して、エネルギーの蓄積を行うことができる。
【0018】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載のフライホイール蓄電装置であって、前記制御手段が、前記停車時間を過去の平均によって予測を行う第2の予測手段と、前記第2の予測手段によって算出された停車時間から発進時間を予測する第1の予測手段とを備え、 前記電力供給指示手段が、前記第1の予測手段により予測された発進時間迄に前記フライホイールの回転数が前記フライホイールの最高運転回転数になるように前記電力伝達手段に指示を行うことを特徴とする。
この発明によれば、フライホイール蓄電装置が、第2の予測手段によって、停車時間を過去の実績の平均値から予測するので、該停車時間の予測の精度を向上させることができる。
【0019】
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれかの項に記載のフライホイール蓄電装置であって、前記制御手段が、運転状況に応じてユーザにより設定された車両の運転モードに応じて前記最高運転回転数および前記最低運転回転数を変更する運転回転数領域変更手段を備えたことを特徴とする。
この発明によれば、フライホイール蓄電装置が、ユーザが設定したハイブリッド車両の種々の運転モードに応じて、該車両の動力を補助するためのエネルギーの量を変更できるので、例えば、ユーザが力強い走りを実現するモードを設定したり、燃費を重視した走りを実現するモードを設定したりして、それらのモードに応じた動力の補助を行うことができる。
【0020】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載のフライホイール蓄電装置であって、前記運転回転数領域変更手段が、車両のアクセル開度や前記フライホールの回転数に応じて前記最高運転回転数および前記最低運転回転数を自動的に変更することを特徴とする。
この発明によれば、上述した、各運転モードをユーザがスイッチ等により設定するのではなく、制御装置の運転回転数領域変更手段が車両のアクセル開度やフライホールの回転数に応じて設定するので、ユーザが、アクセルワークのみによって、どの運転モードにて運転を行いたいかを指示することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、フライホイール蓄電装置へのエネルギーの蓄積を停止中、および所定の基底回転数を下回った場合に限定するようにしたので、定常損失を最小にでき、高いエネルギー効率が得られる効果がある。
また、本発明によれば、運転状況に応じてユーザが設定した各運転モードの設定に応じて最高運転回転数、最低運転回転数を変更し、また、アクセル開度やフライホイール回転数を下に自動的に切替えるようにしたので、あらゆる運転状況においても、定常損失を最小にすることができ、高いエネルギー効率が得られる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1(a)は本発明の一実施形態によるハイブリッドカーの構成を示す図である。この図において、ハイブリッドカーは、フライホイール蓄電装置1(以下、F/Wという)と、エンジン101と、動力伝達機構107と、M/G108(電動機)と、回生コンバータ109(電力伝達手段)と、オートマティックトランスミッション(以下、A/Tという)110と、ECU112と、アクセル113と、ブレーキ114と、制御装置115(制御手段)(電力供給指示手段)(第1の予測手段)(第2の予測手段)(運転回転数領域変更手段)と、駆動輪Wと、デフDとから構成される。動力伝達機構107は、例えば、摩擦クラッチや電磁クラッチからなる。M/G108は、例えば、誘導モータから構成され、M/G106と同等の動作を行う。A/T110は内部に図示しないクラッチを有している。
【0023】
エンジン101の出力回転軸が動力伝達機構107の入力回転軸に結合される。動力伝達機構107の出力回転軸がM/G108の回転軸に結合される。M/G108の回転軸がA/T110の入力回転軸に結合される。A/T110の出力回転軸がデフDを介して駆動輪Wに結合される。M/G108の電力端子が回生コンバータ109の端子Taと接続される。回生コンバータ109の端子TbがF/Wの電力端子に接続される。
以上のように、このハイブリッドカーはFF(Front-Engine Front-Drive)形式のパワートレインを用いたパラレルハイブリッド形式の構成にF/Wが付加される構成になっている。
【0024】
制御装置115は、F/Wと、M/G108と、回生コンバータ109と、ECU112と、アクセル113と、ブレーキ114とに接続されて、ハイブリッドカーの制御を行う。制御装置115はECU112から車速信号を入力し、アクセル113およびブレーキ114から各々の踏み込み量を入力し、且つ、F/Wから、後述する回転体18の回転数(以下、F/Wの回転数という)Nを入力する。そして、該データより現在の運転状況ならびに回転体18の回転状況を判断し、回生コンバータ109に動作の指示を与えるための動作指示信号を出力する。
【0025】
回生コンバータ109は、図2に示すように、インバータ121と、インバータ121の直流入力端TidとGnd(グランド)との間に接続されるコンデンサC1と、インバータ121の交流出力端Toaと直列に接続されるインダクタンス122と、インバータ131と、インバータ131の交流出力端Toaaと直列に接続されるインダクタンス132とから構成される。つまり、回生コンバータ109は、従来の回生コンバータ105の直流側端子Tdcにインバータ131の直流入力端Tidaが接続され、インバータ131の交流出力端Toaaにインダクタンス132の一方の端が接続され、インダクタンス132の他方の端に端子Taが接続される構成になっている。また、インダクタンス122には、端子Tacに代わり、端子Tbが接続される。
尚、インバータ121およびインバータ131は内部にスイッチング素子の切り替え用のゲート回路を含んでおり、制御装置115から出力される動作指示信号によって、それぞれ制御される。また、上述したインバータ121の交流出力端Toa側およびインバータ131の交流出力端Toaa側の回路において、「///」は、三相回路を示す。
【0026】
回生コンバータ109内部において、コンデンサC1に直流電力を蓄積しており、インバータ121は該直流電力を直流入力端Tidから入力して、制御装置115の指示に基づいて、後述するように、インダクタンス122前後の交流電圧の振幅および位相の関係を制御して交流電力の変換を行うことにより、前述した回生コンバータ105と同様に、端子Tbにおいて、交流電力の授受を行う。また、インバータ131はコンデンサC1に蓄積されている直流電力を直流入力端Tidaから入力して、制御装置115の指示に基づいて、後述するように、インダクタンス132前後の交流電圧の振幅および位相の関係を制御して交流電力の変換を行うことにより、インバータ121と同様に、端子Taにおいて、交流電力の授受を行う。
【0027】
図3は、F/Wの構成を示す図である。このF/Wは、ケーシング2と、ケーシング2内に回転自在に設けられるフライホイールである回転体18とを備えている。
【0028】
ケーシング2は、筒状の上側壁3と、上側壁3の上端開口部を閉塞する円板状の上鏡板4と、上側壁3の下端開口部を閉塞するアルミ製の円板状の下鏡板6と、下鏡板6で上端開口部が閉塞される筒状の下側壁9と、下側壁9の下端開口部を閉塞する円板状の底板10とから構成されている。
【0029】
上鏡板4と上側壁3と下鏡板6とによって囲まれる部分には密閉された減圧室11が形成され、この減圧室11内に回転体18が回転自在に設けられるようになっている。下側壁9と下鏡板6と底板10とによって囲まれる部分には密閉されたオイル室12が形成され、このオイル室12内に油潤滑式軸受である上軸受ユニット25及び下軸受ユニット30を潤滑するためのオイル13が充填されるようになっている。
【0030】
減圧室11とオイル室12との間は下鏡板6に設けられている連通孔7を介して相互に連通し、この連通孔7を介して上軸受ユニット25から排出されるオイル13がオイル室12内に戻されるようになっている。また、下軸受ユニット30とオイル室12との間は下軸受ユニット30に設けられている連通孔32を介して相互に連通し、この連通孔32を介して下軸受ユニット30から排出されるオイル13がオイル室12内に戻されるようになっている。また、減圧室11及びオイル室12は減圧ポンプ等から構成される減圧装置(図示せず)に接続され、この減圧装置の作動により0.2気圧前後に減圧保持されるようになっている。
【0031】
回転体18は、一般の鉄鋼材料で形成されるものであって、本体部19と、本体部19の中心部に一体に設けられる回転軸22とから構成されている。回転体18は、回転軸22の上端部を上鏡板4の中央部に設けられる上軸受ユニット25によって軸支され、回転軸22の下端部を下鏡板6の中央部に設けられる後述する下軸受ユニット30によって軸支されることで、減圧室11内において回転自在となるものである。
尚、回転軸22は、F/Wが搭載される車両の車軸とは結合されず、両者は独立して回転する。
【0032】
本体部19は、上端が閉塞された筒状をなすものであって、その軸線上に回転軸22が一体に設けられるようになっている。本体部19の側板の内周面は大径部20と小径部21の2段に形成され、小径部21に電動機35(電動発電機)のローター42を構成する筒状の永久磁石43が取り付けられるようになっている。
【0033】
回転軸22は、本体部19の上板の上面中央部に一体に設けられる上軸23と、上板の下面中央部に一体に設けられるとともに、先端部が側板の下端よりも下方に突出する下軸24とから構成されるようになっている。回転軸22の上軸23の上端部は後述する上軸受ユニット25によって回転自在に軸支され、下軸24の下端部は後述する下軸受ユニット30によって回転自在に軸支されるようになっている。
【0034】
上軸受ユニット25は、上鏡板4の中央部に取り付けられるものであって、上鏡板4の中央部の軸受取付け用孔5内に嵌合されるベース26と、ベース26の軸挿入用孔27内の入口部に装着されるころ軸受28と、ベース26の軸挿入用孔27内の奥部に装着される動圧式スラスト軸受である緊急タッチアップ用軸受29とから構成され、ころ軸受28の内周側で回転軸22の上軸23を回転自在に軸支するようになっている。緊急タッチアップ軸受29と回転軸22の上軸23の上端との間には所定の間隙が形成され、この間隙によって緊急タッチアップ軸受29は通常は不作動の状態にあり、緊急タッチアップ軸受29による損失が発生するのを防止している。
【0035】
下軸受ユニット30は、下鏡板6の中央部に取り付けられるものであって、下鏡板6の中央部の軸受取付け用孔8内に嵌合されるベース31と、ベース31の軸挿入用孔33内の入口部に装着されるアンギュラ玉軸受34とから構成され、アンギュラ玉軸受34の内周側で回転軸22の下軸24を回転自在に軸支するようになっている。
【0036】
下鏡板6の上面中央部にはアルミ製の筒状の支持軸37が一体に立設され、この支持軸37の中心部を回転体18の回転軸22の下軸24が回転自在に挿通するようになっている。支持軸37の周囲には鉄心38が取り付けられるとともに、鉄心38には巻線39が取り付けられるようになっている。巻線39の上側コイル出部分40とこれに対向する回転体18との間には、回転体18の本体部19の側板の大径部20により所定の距離の逃げ41が形成されるようになっている。
【0037】
支持軸37と鉄心38と巻線39とによってステーター36が構成され、前述した永久磁石43と回転体18とによってローター42が構成され、ステーター36とローター42とによって電動機35が構成されるものである。
【0038】
回転体18の上面外周縁部に対向する上鏡板4の下面側の部分には永久磁石式の荷重軽減装置47が設けられるようになっている。荷重軽減装置47は、ボルトによって上鏡板4に固定されるようになっている。荷重軽減装置47により回転体18の自重の50〜80%が支持されるようになっている。
【0039】
回転体18の回転軸22の上軸23の上方には回転検出装置48が設けられ、この回転検出装置48により回転体22の回転角度が検出されるようになっている。
尚、回転検出装置48は、回転体18の回転数であるF/Wの回転数Nを外部に出力する。
【0040】
そして、回生コンバータ109が、制御装置115により、回生コンバータ109の端子TaからF/Wの電力端子へ交流電力の伝達を行うように制御されると、ステーター36の巻線39に電圧が印加されて、ローター42である回転体18が高速で回転し、回生コンバータ109から供給された電気エネルギーが回転エネルギーに変換されて蓄えられることになる。また、上記とは逆に、回生コンバータ109が、端子Taにおいて、F/Wの電力端子から交流電力の入力を行うように制御されると、回転体18の回転により、ステーター36の巻線39に発生した電力が回生コンバータ109に供給される。つまり、回転体18の回転エネルギーが電気エネルギーに変換され、外部の負荷に供給されることになる。また、回生コンバータ109内のインバータ121および131の全てのスイッチング素子をOFFにするように制御されると、端子Taにおける電力の伝達経路が遮断され、F/Wは回生コンバータ109と電力の伝達を行わないことになる。
以上より、制御装置115により行われる、回生コンバータ109の端子Taにおける電力の伝達の可否および伝達方向の制御に基づいて、F/Wは回生コンバータ109と電力の伝達を行うことになる。
尚、潤滑のために使用されるオイルの経路等については、図示を省略している。
【0041】
上記のように構成したF/Wにあっては、上軸受ユニット25と下軸受ユニット30とによって回転体18の上下端部を支持しているので、揺動振動に対して支持が破綻するようなことはなく、ゴーストップ頻度の高い移動体(バス、乗用車、路面電車、鉄道等)で有効に利用することができることになる。
【0042】
次に、本実施形態によるハイブリッドカーの動作の概要について説明する。
先ず、ハイブリッドカーの加速時には、図1(a)に示すように、動力伝達機構107が接続され、一般の自動車と同様に、エンジン101がA/T110およびデフDを介して駆動輪Wを駆動する。このとき、F/W内の回転体18の回転エネルギーが電動機35によって電気エネルギーに変換され、巻線39から該電気エネルギーが取り出され、回生コンバータ109の端子Tbに出力される。
【0043】
そして、回生コンバータ109内部において、制御装置115の指示に基づいて、インバータ121が回生コンバータ109の端子Tbにおける交流電圧より振幅が大きく、且つ、位相の遅れた電圧を交流出力端Toaに発生させることにより、インダクタンス122にかかる交流電圧と同相の電流が流れる。これにより、コンデンサC1に電力が蓄積される。そして、制御装置115の指示に基づいて、インバータ131が回生コンバータ109の端子Taにおける交流電圧より振幅が大きく、且つ、位相の進んだ電圧を交流出力端Toaaに発生させることにより、インダクタンス132にかかる交流電圧と逆向きの電流が流れる。これにより、回生コンバータ109の端子Taから電力が放出されることになる。よって、以上の動作より、回生コンバータ109が端子Tbから端子Taへ電力の伝達を継続的に行うことになる。そして、該電力はM/G108に供給され、駆動輪Wへの駆動力を補助する。それにより、一般の自動車と同等の加速を、少ない燃料消費にて得ることができる。
【0044】
次に、ハイブリッドカーの速度がある程度上がり、定速走行が行われる時には、図1(b)に示すように、エンジン101が効率のよい定回転数にて回転し、回生コンバータ109内部において、制御装置115の指示に基づいて、インバータ121および131の全てのスイッチング素子がOFFにされ、端子Taと端子Tbとの間の電力の伝達を停止し、F/W内の電動機35からの電力の補助がなされることなく、駆動輪Wを駆動する。
尚、M/G108は、界磁の励磁電流を停止し、回転子がフリーな状態にする。
【0045】
次に、ハイブリッドカーのブレーキが踏まれて、制動が行われる時には、図1(c)に示すように、駆動輪Wからの駆動力がデフDおよびA/T110を介してM/G108に与えられる。それにより、M/G108に交流電力が発生し、回生制動が動作し、回生コンバータ109の端子Taに出力される。
【0046】
そして、回生コンバータ109内部において、制御装置115の指示に基づいて、インバータ131が回生コンバータ109の端子Taにおける交流電圧より振幅が大きく、且つ、位相の遅れた電圧を交流出力端Toaaに発生させることにより、インダクタンス132にかかる交流電圧と同相の電流が流れる。これにより、コンデンサC1に電力が蓄積される。そして、制御装置115の指示に基づいて、インバータ121が回生コンバータ109の端子Tbにおける交流電圧より振幅が大きく、且つ、位相の進んだ電圧を交流出力端Toaに発生させることにより、インダクタンス122にかかる交流電圧と逆向きの電流が流れる。これにより、回生コンバータ109の端子Tbから電力が放出されることになる。よって、以上の動作より、回生コンバータ109が端子Taから端子Tbへ電力の伝達を継続的に行うことになる。
【0047】
そして、該電力は、F/W内の電動機35の巻線39に供給され、電動機35を回転させ、電気エネルギーを回転体18の回転エネルギーに変換する。以上の動作により、該電力が、F/W内の回転体18に、運動エネルギーの形により回収される。このとき、動力伝達機構107が開放され、エンジン101におけるエンジンブレーキにより、F/Wに蓄積すべきエネルギーのロスが発生することが回避される。そして、制動が終了すると、動力伝達機構107が接続されて、次の発進加速に備えられる。
【0048】
また、制動が終了し、車両が停止しているときに、F/Wの回転数Nが、回転体18の最低運転回転数(以下、基底回転数という)N2に満たないときは、A/T110をニュートラルにして、エンジン101の出力回転によってM/G108に電力を発生させ、制御装置115により、回生コンバータ109を端子Taから端子Tbへ電力の伝達を行うように制御して、該電力をF/W内の電動機35に与えて、F/Wの回転数Nを上昇させて、回転体18に与えられた電力に相当する運動エネルギーを蓄積させる。以下、回生コンバータ109を端子Taから端子Tbへ電力の伝達を行うように制御して、F/Wに電力を与えて、回転体18の運動エネルギーとして蓄積することを「F/Wを充電する」という。
【0049】
以上の動作により、エンジンを効率よく使用でき、また、回生制動により制動時の運動エネルギーを回収して、次の加速時にリサイクルでき、燃費向上を図ることができる。
【0050】
尚、基底回転数N2は、F/Wの上軸受ユニット25および下軸受ユニットにおいて、F/Wの回転数Nが低くなって回転軸22および上軸受ユニット25および下軸受ユニットを損傷しないように、該損傷を引き起こさない最低の回転数である。これは、許容最低回転数N1と等しいか大きな値に選定する。
【0051】
また、F/Wの上軸受ユニット25および下軸受ユニットにおいて、F/Wの回転数Nが高くなって回転軸22および上軸受ユニット25および下軸受ユニットを損傷しないように、最高運転回転数(以下、最高回転数という)N3は、該損傷を引き起さない最高の回転数である許容最高回転数N4と等しいか小さな値に選定する。
以上のような定義より、基底回転数N2から最高回転数N3をF/Wの運転領域といい、これは、許容最低回転数N1から許容最高回転数N4の範囲内に選定すべきものとなる。
【0052】
次に、F/Wを、定常損失を低減して使用する制御の概念について説明する。
F/Wは、バッテリ等の電池とは異なり、前述したような定常損失が大きく、それがために、時間が経過するだけでも蓄積しているエネルギーが減っていくという性質がある。また、この定常損失は、F/Wの回転数Nに比例して増大するので、F/Wの充電を行ったら、すぐに、制御装置115により、回生コンバータ109を端子Tbから端子Taへ電力の伝達を行うように制御して、回生コンバータ109がF/Wから電力を入力するようにすることにより、回転体18に蓄積されたエネルギーを取り出し(以下、放電という)、F/Wから放電していないときは、できるだけF/Wの回転数Nを低く保つことが望ましい。
上記のように、できるだけF/Wの回転数Nを低く保つことによって、定常損失を低くすることができるとともに、エネルギー効率を高めることができる。そのため、F/Wにおいては、定常損失を極力小さくするような運転制御が行われることが望まれることになる。
【0053】
図4は、本実施形態において、制御装置115による、F/Wの定常損失を低減する制御を示すフローチャートである。以下、図面を参照して上記の動作を説明する。
先ず、ハイブリッドカーのキーによってエンジン101が始動される。ここで、発進直前までに、A/T110がニュートラルにされ、動力伝達機構107が接続されて、回生コンバータ109が端子Taから端子Tbに電力の伝達を行うように制御される。そして、エンジン101の出力回転によって、M/G108にて発電された電力が回生コンバータ109を介してF/W内の電動機35に供給されて、F/Wの回転数Nが、回転体18の最高回転数N3になるまで充電が行われる。以下、図4に示すフローチャートにより、F/Wの定常損失を低減する制御の動作が行われる。この動作は、制御装置に組み込まれたソフトウェアによって、所定のサンプリング周期にて定期的に呼び出されて、1サンプリング周期毎に「スタート」から開始して、「終了」にて終了する。そして、前述したサンプリング周期にて、該フローチャートによる動作が「スタート」から再び開始される。
【0054】
先ず、制御装置内の速度判定器によって、車両の車速信号が解析され、車両が「走行中」か「停止中」かが判断される(ステップS1)。判断が「走行中」であった場合、ステップS2に移行し、車両のアクセルがONになっているか、つまり、ユーザが加速しようとして、アクセルが踏み込まれているかが判断される。判断が「YES」であった場合、ステップS3に移行し、F/Wの回転数Nが許容最低回転数N1より高いか否かが判断される。判断が「YES」であった場合、F/Wから回生コンバータ109を介してM/G108へ放電できる状態であり、ステップS4に移行し、F/WからM/G108へ放電が行われる。つまり、F/Wが、エンジン101の動力を補助することになる。そして、予め決められた時間が経過すると、該フローチャートによる動作が終了する。そして、前述したサンプリング周期にて、該フローチャートによる動作が「スタート」から再び開始される。
一方、ステップS3における判断が「NO」であった場合、前述したように、回転体18の回転軸22の回転数が低いために、回転体18の軸受けである上軸受ユニット25および下軸受ユニット30を損傷させないために、回生コンバータ109内のインバータ121および131のスイッチング素子を全てOFFにして、回生コンバータ109の端子TaとTbとの間の電力の伝達を停止することにより、F/WからM/G108への放電が停止されて、該フローチャートによる動作が終了される。
【0055】
一方、ステップS2における判断が「NO」であった場合は、ユーザが加速しようとしていない場合となり、具体的には、ブレーキをかけようとしているか、等速走行をしているかのいずれかとなる。次に、ステップS5に移行し、車両のブレーキがONになっているかが判断される。判断が「NO」であった場合、ステップS6に移行し、F/Wの回転数Nが基底回転数N2を上回っているかが判断される。判断が「YES」であった場合、何もせずに該フローチャートによる動作を終了する。一方、判断が「NO」であった場合、ステップS7に移行し、F/WをM/G108によって充電し、F/Wの回転数Nを上昇させる。そして、ステップS6に戻り、F/Wの回転数Nが基底回転数N2を上回っているかが再び判断される。つまり、F/Wの回転数Nが基底回転数N2以上になるまで、ステップS6およびS7の動作が繰り返されることになる。これは、ステップS6およびS7において、車両が等速走行している場合となる。
【0056】
また、ステップS1における判断が「停止中」であった場合、制御装置内の図示しないタイマが、以下のような動作を行う。すなわち、ステップS1における判断が一定時間以上「停止中」でなかった後に、初めて「停止中」となったときは、車両が停止した状態になったことを意味するので、そのときに、制御装置内の変数値tを「0」にリセットする。前述したように、本フローチャートは、所定のサンプリング周期にて定期的に呼び出されて、1サンプリング周期毎に「スタート」から開始して、「終了」にて終了し、そして、前述したサンプリング周期にて、該フローチャートによる動作が「スタート」から再び開始する動作をしている。このため、2回目以降の動作時に、ステップS1における判断が初めて「停止中」となった時刻からの経過時間を変数値tに取り込むことにより、変数値tをタイマとして使用することができる。この動作より、以下、変数値tをタイマの計時値tという。
【0057】
次に、ステップS9に移行し、タイマの計時値tがt2と等しいかが判断される。つまり、車両が停止してからt2だけ時間が経過したかが判断される。判断が「NO」であった場合、何もせずに該フローチャートによる動作を終了する。一方、ステップS9における判断が「YES」であった場合、つまり、ステップS1にて車両が停止中と判明してから時間t2が経過した場合、ステップS10に移行し、動力伝達機構107が接続され、A/T110がニュートラルにされて、エンジン101の出力回転によって、F/Wの充電が行われる。次に、ステップS11に移行し、該充電によってF/Wの回転数Nが最高回転数N3になったか否かが判断される。判断が「NO」であった場合、つまり、F/Wの回転数がN3になるまで充電されていない場合はステップS11に戻り、F/Wの回転数がN3になるまで、該動作が繰り返される。一方、判断が「YES」であった場合、つまり、F/Wが最高回転数N3まで充電された場合、ステップS12に移行し、F/Wの充電が停止され、該フローチャートによる動作が終了する。
【0058】
図5は、本実施形態におけるハイブリッドカーの各走行状態におけるF/Wの動作を示すグラフである。ここで、図5(a)は後述するパターン走行時の動作を示すグラフであり、図5(b)は市街地走行時の動作を示すグラフであり、図5(c)は郊外もしくは高速道路走行時の動作を示すグラフである。以下、図4と図5を参照して、各走行状態におけるF/Wの動作を説明する。
【0059】
まず、ハイブリッドカーの走行状態が、図5(a)に示すパターン走行である場合のF/Wの定常損失を低減する制御の動作を説明する。
尚、パターン走行とは、電車やバス等を想定した運転パターンによる走行である。すなわち、一定時間だけ決められた最高速度付近で走り、一定時間だけ停止することを繰り返すパターンによる走行である。この場合、走行時間、停車時間が在る程度決まっているため、加速時にF/Wの蓄積エネルギーの殆どを放電し、停止したら充電を開始し、発進までに充電を終了させるようにすることにより、F/Wの定常損失を最小にできる。
【0060】
先ず、図5(a)において、F/Wは、回転体18の最高回転数N3になるまで充電が行われた時点からスタートしており、車両の発進時刻Tm1に至るまでに、高回転による定常損失のため、右下がりのカーブにてF/Wの回転数が低下する。次に、時刻Tm2まで車両が加速して、F/Wが図4のステップS3〜S4における放電動作を行い、F/Wの回転数が低下する。
【0061】
次に、時刻Tm2から車両が等速走行し、ステップS6〜S7における動作を行う。すなわち、時刻Tm3まではF/Wの充放電は行われずに定常損失によりF/Wの回転数が下がってゆき、時刻Tm3において、F/Wの回転数が基底回転数N2を下回ろうとすると、ステップS7においてF/Wの充電が行われて基底回転数N2を上昇させる。以上のようにステップS6〜S7におけるループにより、F/Wの回転数が基底回転数N2に保たれる。
【0062】
次に、時刻Tm4にブレーキが踏まれて、ステップS5における減速動作が行われると、予め決められた時間だけ遅れた時刻Tm5からF/Wに回生コンバータ109を介してM/G108からステップS8における電力回生が行われて、F/Wの回転数が上昇する。そして、時刻Tm6にて車両が停止する。
【0063】
そして、次の発進に備えて、F/Wを最高回転数N3まで充電する。ここで、発進直前に該充電を完了させることにより、前述した定常損失を抑えることができる。そのため、本実施形態においては、時刻Tm6から停止時間t1だけ経過した時刻Tm10まで車両が停車しているとして、ステップS9〜S12の動作により、時刻Tm6から、充電を開始するまでの時間である充電開始時間t2だけ経過した時刻Tm7にてF/Wの充電を開始し、時刻Tm8にて充電を終了し、予め決められた時間だけ遅れた時刻Tm9にてF/Wの回転数が最高回転数N3になるようにしている。このようにして、発進時刻Tm10までに十分近接した時刻Tm9にてF/Wの充電を完了するようにしている。
【0064】
尚、充電開始時間t2は、停止時間t1からF/Wの充電を行う時間を引いた時間より短い時間であることが必要である。しかし、停止時間t1にはバラツキがあるので、以下のような方法によって停止時間t1を決定し、それにより、充電開始時間t2を決定することが考えられる。すなわち、停止時間t1を過去の実績の平均値から決定することが考えられる。また、鉄道のように、時刻がダイヤ(ダイヤグラム)によって正確に決まっている場合は、発進時間から逆算したり、停車時間を毎回自動計測して平均値を算出し、これに基づいてF/Wの充電時間を決める等の方法が考えられる。
【0065】
また、停止したら、すぐにF/Wの充電を開始し、平均停車時間においてF/Wの充電が完了するように、該F/Wの回転数をできるだけ高くしないようにして、ゆっくりと時間をかけてF/Wを充電してもよい。このようにすることによっても、定常損失を低減することができる。
【0066】
また、本実施形態においては、ステップS2において、アクセルONか否かを判断する動作において、判断が「NO」であった後に、ステップS5にてブレーキONでないという状態を、「等速走行をしている」としている。ここで、電気自動車においては、アクセルを緩めることにより、エンジン車のように、原動機のブレーキ(エンジンブレーキ)がかからないため、ステップS2における「アクセルONでない状態」の定義は、「アクセルが緩められている状態」となる。
【0067】
しかし、一般に、電気自動車のアクセルの設定として、エンジン車から乗り換えたユーザが違和感を持たないように、アクセルを緩めると、軽い回生制動を働かすことが多い。この設定により、アクセルを緩めることにより、原動機のブレーキが動作することになる。また、エンジン101とM/G108とが補い合いながら車両を駆動するハイブリッドカーにおいては、アクセルを緩めることにより、エンジン101のエンジンブレーキも作動するので、ステップS2における「アクセルONでない状態」の定義は以下のようになる。すなわち、「アクセルONでない状態」の定義は「アクセルを一定の開度にて保つ状態」となる。
【0068】
次に、ハイブリッドカーの走行状態が、図5(b)に示す市街地走行である場合のF/Wの定常損失を低減する制御の動作を説明する。
尚、市街地走行においては、等速走行、コーナリング時の減速、加速、および、信号待ちの停止等が想定される。
【0069】
先ず、図5(b)において、グラフのスタート時点から時刻Tn1、Tn2を経た後の時刻Tn3までの動作は、図5(a)におけるグラフのスタート時点から時刻Tm1、Tm2、Tm3を経た後の時刻Tm4までの動作と同等である。つまり、発進、加速、等速走行においては図5(a)におけるグラフと同等の動作を行う。
【0070】
次に、時刻Tn3からTn4を経たTn5において、交差点におけるコーナリングが行われる。このとき、減速が行われている時刻Tn3〜Tn4においては、F/Wにエネルギーが戻ってくるが、すぐ後の時刻Tn4〜Tn5において、加速が行われてF/Wに戻ってきたエネルギーが再利用されるので、F/Wの再充電はしない。
【0071】
次に、時刻Tn5〜Tn6においては、時刻Tn1〜Tn2と同じく、等速走行を行う。また、時刻Tn6〜Tn10においては、図5(a)における時刻Tm5〜Tm10と類似したタイミングにて、同様にF/Wの充電動作を行う。このときの、停止した時刻Tn6から充電を開始する時刻Tn7までの充電時間時間t2は信号待ちの停止時間の平均値を用いて決めている。こうすることにより、一時停止の度に充電が開始されるといった、煩雑なことが起こらなくなる。
【0072】
次に、ハイブリッドカーの走行状態が、図5(c)に示す郊外もしくは高速道路走行である場合のF/Wの定常損失を低減する制御の動作を説明する。
尚、郊外もしくは高速道路走行においては、加減速が殆どなく、F/Wは殆ど利用されず、基底回転数N2をキープするような制御が行われる。
【0073】
先ず、図5(c)において、グラフのスタート時点から時刻Tp1、Tp2を経た後の時刻Tp3までの動作は、図5(a)におけるグラフのスタート時点から時刻Tm1、Tm2、Tm3を経た後の時刻Tm4までの動作と同等である。つまり、発進、加速、等速走行においては図5(a)におけるグラフと同等の動作を行う。
【0074】
次に、時刻Tp3から以後は、ステップS6〜S7におけるループによる動作により、F/Wの回転数を基底回転数N2に保つような制御が行われる。
【0075】
以上、各走行状態におけるF/Wの基本的な動作について説明したが、ユーザによってアクセルの踏み方に差があることや、ユーザが状況に応じて省エネ性を重視した運転をするか、ドライブフィールを重視した運転をするかを選択できるよう、パワーモード、エコノミーモード、ハイウェイモードの3種類の切替スイッチを運転席に備え、それぞれの運転モードをユーザが自由に選択できるようにすることもできる。
この場合、上記の各運転モードにて、切替スイッチの状態に応じて、以下のようにF/Wの動作が行われる。
【0076】
先ず、パワーモードにおいては、F/Wの制御における閾値である基底回転数N2および最高回転数N3の値が高めに設定されて、大きなエネルギーの出し入れが出来るような制御がおこなわれる。この場合、F/Wにて扱うエネルギーの全般的なレベルが大きくなるので、F/Wを高回転数にて使用するための定常損失の増大を度外視する。
この場合、基底回転数N2が高めに設定されるので、追い越し加速の際にも十分なエネルギーを供給できるようになる。
【0077】
次に、エコノミーモードにおいては、基底回転数N2および最高回転数N3の値が低めに設定されて、F/Wの制御が行われる。
このモードにおいては、あまりスピードを出さない運転が続く場合に、最初の加速が完了した後にF/Wに余分なエネルギーが残り、該エネルギーによるF/Wの回転数の増加による定常損失の増大を抑制することができるようになる。
【0078】
次に、ハイウェイモードにおいては、基底回転数N2が必要最小値、つまり、許容最低回転数N1とほぼ同一回転数に設定され、ハイウェイ走行における定常損失が最小になるように、F/Wの制御が行われる
【0079】
また、本実施形態においては、上述した、パワーモード、エコノミーモード、ハイウェイモードの3種類の運転モードを運転席に備えられた切替スイッチによらず制御装置が車両の運転状況を認識して切替える、AUTOモードを設定することができるようにしている。尚、AUTOモードのON/OFFは、ユーザが運転席に備えられたAUTOモードON/OFFスイッチによってなされるようになっている。
【0080】
上述した、AUTOモードにおいては、エネルギーの出し入れ量(回転数の変動幅)やアクセル開度を観測することにより、上記の各運転モードのうち、どの運転モードに移行させるのが最もよいかを自動的に判断して、移行する。
例えば、F/Wの現状の回転における最低値を予め定められた時間間隔にてメモリに記憶しておき、基底回転数N2まで下がらない状態が続いた場合、最高回転数N3を自動的に下げることにより、エコノミーモードに移行する。逆に、アクセル間度が大きい運転が続いた場合、基底回転数N2および最高回転数N3の値を自動的に上げて、パワーモードに移行する。また、加減速頻度を観測し、該加減速頻度が低い場合、基底回転数N2を自動的に下げてハイウェイモードに移行する。
【0081】
尚、上述したAUTOモードは、公知のファジィ制御、適応制御、ニューラルネットワーク等を利用したインテリジェント制御により実現してもよい。
【0082】
また、本実施形態においては、以下に示すような休止モードを設定することができるようにしている。すなわち、ハイブリッドカーに、例えば、バッテリといった、他の蓄電媒体(図示せず)を備えて、該ハイブリッドカーが、お昼休み、休憩時間、あるいは1日の終わり等、長い時間、停止した状態になることが予めわかっている場合に、F/Wに蓄積されたエネルギーを該蓄電媒体に回収し、F/Wの回転を停止させる運転モードである。
このモードにおいては、ハイブリッドカーが停止していて、F/Wによる動力の補助を全く必要としないときに、F/Wの回転を停止させて、ただF/Wが回転しているだけで失われるエネルギーである定常損失を減少させることができる。
【0083】
また、本実施形態においては、ハイブリッドカーが、前述した信号待ち等による一時停止の時間より十分長い時間停止した場合、自動的に上述した休止モードに移行する、自動休止モードを備えている。これによって、上述した休止モードへの移行の機会が増加し、さらなるF/Wの定常損失の減少を図ることができる。
尚、休止モードおよび自動休止モードのON/OFFは、ユーザが運転席に備えられた休止モードON/OFFスイッチおよび自動休止モードON/OFFスイッチによってなされるようになっている。
【0084】
尚、車両の始動当初には、F/Wに蓄積されているエネルギーが小さい場合が多く、また、F/Wの軸受の潤滑のために、F/Wを許容最低回転数N1以下にしないようにエネルギーを取り出している。そのため、車両の始動直後の加速時には、F/Wによる動力の補助が期待できない。そのため、本実施形態においては、車両の始動直後に、F/Wを最高回転数N3まで充電することを想定したが、この動作は必須のものではない。すなわち、車両が停止するときに、回生制動によってF/Wにエネルギーが蓄積されるため、次の発進時からF/Wによる動力の補助が期待できるようになるため、車両の始動当初のF/Wの充電を行わなくてもよい。これにより、さらに定常損失を低減することができる。
【0085】
また、本実施形態においては、F/W内の電動機35を同期電動機とし、制御装置115が、F/Wの回転数をF/Wに設けられた回転検出装置48から入力する構成としたが、電動機35を誘導電動機として、F/Wにレゾルバを設け、回生コンバータ109に該レゾルバから回転数の情報を出力して、制御装置115が、該情報を回生コンバータ109から入力してもよい。
【0086】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲での設計変更も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の一実施形態におけるハイブリッドカーの構成および該車両の加速時、定速走行時、制動時の電力およびエネルギーの流れを示す図である。
【図2】同実施形態における回生コンバータ109の構成を示す図である。
【図3】同実施形態におけるフライホイール蓄電装置1(F/W)の構成を示す図である。
【図4】同実施形態におけるフライホイール蓄電装置1(F/W)の定常損失を低減する制御を示すフローチャートである。
【図5】同実施形態におけるハイブリッドカーの各走行状態におけるフライホイール蓄電装置1(F/W)の動作を示すグラフである。
【図6】従来におけるハイブリッドカーの構成および該車両の加速時、定速走行時、制動時の電力およびエネルギーの流れを示す図である。
【図7】従来における回生コンバータ105の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0088】
1 フライホイール蓄電装置(F/W)
2 ケーシング
3 上側壁
4 上鏡板
5、8 軸受取付け用孔
6 下鏡板
7、32 連通孔
9 下側壁
10 底板
11 減圧室
12 オイル室
13 オイル
18 回転体
19 本体部
20 大径部
21 小径部
22 回転軸
23 上軸
24 下軸
25 上軸受ユニット
26、31 ベース
27、33 軸挿入用孔
28 ころ軸受
29 緊急タッチアップ用軸受
30 下軸受ユニット
34 アンギュラ玉軸受
35 電動機(電動発電機)
36 ステーター
37 支持軸
38 鉄心
39 巻線
40 上側コイル出部分
41 逃げ
42 ローター
43 永久磁石
47 荷重軽減装置
48 回転検出装置
101 エンジン(内燃機関)
102 発電機
103 コンバータ
104 バッテリ
105 回生コンバータ
106 モータ/ジェネレータ(M/G)
107 動力伝達機構
108 モータ/ジェネレータ(M/G)(電動機)
109 回生コンバータ(電力伝達手段)
110 オートマティックトランスミッション(A/T)
111 制御装置
112 ECU(Engine Control Unit)
113 アクセル
114 ブレーキ
115 制御装置(制御手段)(電力供給指示手段)(第1の予測手段)(第2の予測手段)(運転回転数領域変更手段)
121、131 インバータ
122、132 インダクタンス
W 駆動輪
D ディファレンシャルギヤ(デフ)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と共に電動機を駆動源とするハイブリッド自動車もしくはハイブリッド鉄道車両である移動体に搭載され、
フライホイールと、
前記フライホイールの回転軸に結合された電動発電機と、
前記電動機と前記電動発電機との電力の授受の仲立ちをする電力伝達手段と、
前記電力伝達手段を制御する制御手段と、
を備えたフライホイール蓄電装置であって、
前記制御手段が、
前記移動体の停止中、または前記フライホイールの回転数が前記フライホイールの最低運転回転数を下回った場合に電力伝達手段から前記電動発電機へ電力を供給させる電力供給指示手段を、
備えたことを特徴とするフライホイール蓄電装置。
【請求項2】
前記制御手段が、予め設定された所定の停車時間から発進時間を予測する第1の予測手段を備え、
前記電力供給指示手段が、前記第1の予測手段により予測された発進時間迄に前記フライホイールの回転数が前記フライホイールの最高運転回転数になるように前記電力伝達手段に指示を行うことを特徴とする請求項1に記載のフライホイール蓄電装置。
【請求項3】
前記制御手段が、前記停車時間を過去の平均によって予測を行う第2の予測手段と、前記第2の予測手段によって算出された停車時間から発進時間を予測する第1の予測手段とを備え、
前記電力供給指示手段が、前記第1の予測手段により予測された発進時間迄に前記フライホイールの回転数が前記フライホイールの最高運転回転数になるように前記電力伝達手段に指示を行うことを特徴とする請求項1に記載のフライホイール蓄電装置。
【請求項4】
前記制御手段が、
運転状況に応じてユーザにより設定された車両の運転モードに応じて前記最高運転回転数および前記最低運転回転数を変更する運転回転数領域変更手段を、
備えたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかの項に記載のフライホイール蓄電装置。
【請求項5】
前記運転回転数領域変更手段が、車両のアクセル開度や前記フライホールの回転数に応じて前記最高運転回転数および前記最低運転回転数を自動的に変更することを特徴とする請求項4に記載のフライホイール蓄電装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−25489(P2006−25489A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−199367(P2004−199367)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000002059)神鋼電機株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】