説明

フラッシュプリント配線板およびその製造方法ならびにフラッシュプリント配線板からなる多層プリント配線板。

【課題】回路用導体の表面が平滑であるフラッシュプリント配線板の容易な製造方法を提供し、このフラッシュプリント配線板を内層コア材として用いた、層間の絶縁特性と量産性に優れ且つ板厚均一で薄層化した多層プリント配線板を提供することを目的とする。
【解決手段】有機フィルムの表面粗さ(Ra)が0.01μm以下である面に回路用導体を形成した転写用シートを製作する転写用シート製作工程と、前記転写用シート2枚のそれぞれ回路用導体の形成された面を、プリプレグを挟むように配して、前記回路用導体を前記プリプレグの表面と略同一面にまで埋め込んで積層成形する積層成形工程と、前記有機フィルムを前記プリプレグが硬化した絶縁樹脂基板および前記回路用導体から剥がす剥がし工程とを用いて製作したラッシュプリント配線板を接着フィルムまたはワニスからなる層間絶縁層で積層成形したことを特徴とする多層プリント配線板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路用導体を絶縁樹脂基板に埋め込んだフラッシュプリント配線板とその製造方法、およびフラッシュプリント配線板を用いた多層プリント配線板に関し、更には、フラッシュプリント配線板に接合する絶縁層の薄層化に適した多層プリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
多層プリント配線板の板厚の薄層化若しくは均一化への要求に対して、回路用導体を絶縁樹脂基板の表面と略同一面にまで埋め込んで、凹凸の無い平滑な表面からなるフラッシュプリント配線板を内層用コア材として用いた多層プリント配線板が知られている。特許文献1によれば、フラッシュプリント配線板の製作に用いる絶縁樹脂基板をガラス布等の補強材入りのプリプレグに換えて、機能材料粉末入り樹脂シートにすることで内層用コア材の厚みを20μまでの薄層化を可能としている。しかし、内層用コア材はその製作工程またはその後の利用工程でのハンドリングに対応するため所定の機械的強度が必要であることから、更なる薄層化は困難である。
【0003】
多層プリント配線板の板厚を更に薄くするためのもう1つ方法は、内層用コア材と接合する絶縁層を薄層化することである。特許文献2によると、ガラスクロスを補強材とするプリプレグからなる絶縁層の厚みは、40μmが極薄値と言われている。またガラスクロス基材入りプリプレグからなる絶縁層の薄層化は、ガラスクロスに起因して耐マイグレーション性が低下する等の問題(特許文献3参照)から、ガラスクロス基材を含まない樹脂材料だけを半硬化状態にした接着フィルムをプリント配線板接着用の層間絶縁材料に用いることが開示されている(特許文献4参照)。また薄い層間絶縁層を有する基板を提供する に、ビニルベンジル樹脂に高誘電率フィラーを混入した接着シートを用い導体パターンが埋め込まれた絶縁基板同士を接合する多層プリント配線板が開示されており、この接着シートからなる層間絶縁層の厚みが20μm以下であることを言及している(特許文献5参照)。
【0004】
なお、上記特許文献において、「樹脂シート」、「接着フィルム」、「接着シート」の用語が使われているが、以下本明細書では非特許文献1を参考にして、ガラスクロスに含浸した樹脂がBステージ状態からなる接着シートをプリプレグと呼び、基材を含まない接着シートを接着フィルムと呼ぶこととする。
【0005】
【特許文献1】特開2005-019883
【特許文献2】特開平10-287832
【特許文献3】特開平08-293678
【特許文献4】特開平10-183076
【特許文献5】特開2004-214633
【非特許文献1】プリント回路技術用語辞典編集委員会編「プリント回路技術用語辞典第2版」日刊工業新聞社 2002年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術では、内層用コア材と接合する絶縁層の薄層化と絶縁信頼性に関して、主として絶縁層を形成する樹脂材質や充填物による対応を開示している。また内層用コア材が回路用導体を絶縁樹脂基板に埋め込んだ凹凸の無い平滑な表面からなるフラッシュプリント配線板である場合における絶縁層の薄層化の対応や絶縁信頼性の確認についての開示は、限られている。本発明は以上の点を鑑みて、内層コア基板に接合する絶縁層の極限的薄層化が可能で絶縁信頼性の高い薄板多層プリント配線板とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記のような課題について鋭意検討した結果、薄層化すべき絶縁層が接合するフラッシュプリント配線板の回路用導体の表面粗さ(Ra)を0.01μm以下にすることにより、この回路用導体に接合する薄層化した絶縁層の層間絶縁信頼性を確保できる多層プリント配線板が得られることを知見した。更に、表面粗さ(Ra)0.01μm以下の回路用導体の表面を有するフラッシュプリント配線板は、有機フィルムの表面粗さ(Ra)0.01μm以下の面に回路用導体を形成し、この回路用導体を転写法によりプリプレグに埋め込んで積層成形して製造する方法により容易に製作できることに到達した。
【0008】
すなわち、本発明にかかるフラッシュプリント配線板は、絶縁樹脂基板の少なくとも片面に回路用導体を前記絶縁樹脂基板の表面と略同一面にまで埋め込んだフラッシュプリント配線板において、前記回路用導体の露出している面の表面粗さ(Ra)が0.01μm以下であることを特徴とするものである。本発明において,「略同一面」とは,回路用導体の全体厚み分が絶縁樹脂基板の中に埋まって,回路用導体の表面が絶縁樹脂基板の表面と同一面となっていることであり,絶縁樹脂基板の表面と回路用導体の表面との間に,段差が生じていない状態である。上記フラッシュプリント配線板において、前記絶縁樹脂基板が、エポキシ樹脂、BT(ビスマレイミド・トリアジン)樹脂、変性PPE(ポリフェニレンエーテル)樹脂の何れか1つを補強材に含浸させたプリプレグからなることが好ましい。
【0009】
また、本発明にかかる多層プリント配線板は、上記フラッシュプリント配線板を用いた多層プリント配線板において、該フラッシュプリント配線板と接合する絶縁層として、補強材のない接着フィルムまたはワニスを用いて積層成形することを特徴とする。前記ワニスはポリイミド樹脂からなることが好適で、更にはワニスからなる絶縁層の積層成形後の厚みが1μm以下であることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明にかかるフラッシュプリント配線板の製造方法は、有機フィルムの表面粗さ(Ra)が0.01μm以下である面に回路用導体を形成した転写用シートを製作する転写用シート製作工程と、前記転写用シート2枚のそれぞれ回路用導体の形成された面を、前記プリプレグを挟むように配して、前記回路用導体を前記プリプレグの表面と略同一面にまで埋め込んで積層成形する積層成形工程と、前記有機フィルムを前記プリプレグが硬化した絶縁樹脂基板および前記回路用導体から剥がす剥がし工程とを含むことを特徴とする。前記有機フィルムは、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂のいずれかであることが好ましい。
【0011】
前記転写用シート製作工程は、前記有機フィルムの表面粗さ(Ra)が0.01μm以下の面に真空蒸着による銅からなる薄膜導通層を形成する導通層形成工程と、前記薄膜導通層の表面に電気めっきによる銅めっき層形成工程とを含むことが好ましい。さらに、前記銅めっき層形成工程が、銅めっき層の形成されていない部位の薄膜導通層を除去するソフトエッチング工程とを含み、該ソフトエッチング工程が、前記薄膜導通層と前記銅めっき層からなる回路用導体の表面を粗化する工程でもあることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明による多層プリント配線板は、内層用コア材として用いるフラッシュプリント配線板において、回路用導体の露出面の表面粗さ(Ra)を0,01μm以下に形成していることから、層間絶縁特性がよく、絶縁層を極めて薄くすることが出来て薄層化多層板の要請に充分応えるプリント配線板である。また、本発明にかかるフラッシュプリント配線板の製造方法は、入手容易で表面粗さの小さい有機フィルム面上に回路用導体の形成し、転写法で絶縁樹脂基板と略同一面まで埋め込んだ回路用導体の表面が極めて平滑に形成されていることと、該フラッシュプリント配線板に接合する絶縁層をワニス塗布法で薄層化して形成していることから、生産性と絶縁特性のよい構成の多層プリント配線板を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本願発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す発明の諸態様に想到した。本発明は、発明者らがプリント配線板の回路用導体の表面粗さとその上に接合する絶縁樹脂層の絶縁性に関し良く周知した結果得られたものである。
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、フラッシュプリント配線板およびその製造方法並びにこのフラッシュプリント配線板を用いた多層プリント配線板の実施の形態の一例について図面を参照して説明する。
【0015】
図1は本発明の実施形態に係るフラッシュプリント配線板1の断面を示す一例である。絶縁樹脂基板2の表面3と略同一面になるように回路用導体4が絶縁樹脂基板2に埋め込まれており、回路用導体4の露出している面5の表面粗さ(Ra)は0.01μm以下に形成されたフラッシュプリント配線板である。図1の例では、絶縁樹脂基板2の両面に回路用導体4が埋め込まれた所謂両面板である。また図2のような絶縁樹脂基板2の片面側だけに回路用導体4を埋め込んだ片面のフラッシュプリント配線板11も本発明の例である。
【0016】
絶縁樹脂基板2は、プリント配線板材料としての絶縁特性、成形性、硬化後の強度等を考慮して、エポキシ樹脂、BT(ビスマレイミド・トリアジン)樹脂、変性PPE(ポリフェニレンエーテル)樹脂のいずれか1種をガラス布に含浸させたリプレグを用いて成形するのが好適である。しかし、プリプレグの成分はこれらの樹脂に限定されるものではない。
【0017】
以下図3〜図4を用いて両面のフラッシュプリント配線板1の製造方法の一例について詳細に説明する。図3は、本発明のフラッシュプリント配線板1の製造に用いる転写用シート14の製造方法を説明するものである。図3(A)は絶縁性の有機フィルム6であり、少なくともこの片方の面7の表面粗さ(Ra)が0.01μm以下のものである。この有機フィルム6は、この表面7に形成した回路用導体4を絶縁樹脂基板2に転写するための転写用シート14へと製作される(図3(E))。この製作に当り、有機フィルム6を適当サイズの型枠に固定することや支持板に貼りつける等は作業性の点で好ましい。一方、有機フィルム6の表面粗さが本発明のフラッシュプリント配線板1における回路用導体4の露出している面5の表面粗さを決定するものである。
【0018】
この有機フィルム6は、後述する回路用導体の形成における耐薬品性、積層成形工程における耐熱性や、プリプレグを硬化させた絶縁樹脂基板2からの剥離性および剥離するに必要な強度等を考慮して適宜決定され、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂等が望ましい。更に望ましくは、ポリイミド樹脂からなる有機フィルムが耐熱性、他の樹脂との剥離性の点で好ましい。しかし、本発明はこれらの樹脂に限定されるものではない。
【0019】
次の図3(B)は、有機フィルム6の表面粗さ(Ra)0.01μm以下の表面7の全面に薄膜導通層8を形成する工程である。非導電性の有機フィルム6上に設ける薄膜通電層8は、回路用導体4を電気めっきで形成する際に電極として使用するものであり、銅、ニッケルや金等の金属が採用されるが、本実施形態では、薄膜導通層8もプリント配線板1の回路用導体4の一部を形成することから銅が好適である。有機フィルム6の表面7に金属の薄膜導通層8を形成する方法は、例えば、化学金属メッキ、真空蒸着、スパッタリング等による方法が挙げられる。経験的には回路用導体4を転写後に有機フィルム6を薄膜導通層8から剥がす際の剥離性等を考慮して銅の真空蒸着が好ましい。
【0020】
この薄膜導通層8の膜厚は、電気めっきの電極として機能し、且つ、後述するソフトエッチングで容易に除去できる程度の厚み0.1〜1μmで充分である。
【0021】
次の図3(C)〜(D)は薄膜導通層8を電気めっきの電極として用いたパターンめっき法による銅めっき層9の形成工程である。公知の銅のパターンめっき法が可能で、めっき厚みは5〜30μmとすることが良い
回路用導体のパターン形成の別法には、薄膜導通層8の上にパネルめっき法で全面に所定厚の銅めっきをした後、回路用導体のパターンに対応するエッチングレジストを前記パネルめっき面上に作成してから、パネルめっきした銅をエッチングして回路用導体を形成するサブトラクト法も可能である。しかしファインパターンの回路用導体を形成するにはパターンめっき法が好適である。図3(D)は、パターンめっき法での銅パターンを形成した後、めっきレジストを除去した状態である。
【0022】
次に図3(E)は、ソフトエッチング処理により、銅の薄膜導通層8の露出部分12を除去し、銅めっき層9とその下に残った薄膜導通層8からなる銅の回路用導体4を形成し、この回路用導体4の表面に表面粗化13を施した状態である。表面粗化は回路用導体を後述するプリプレグからなる絶縁樹脂基板に転写する際に、回路用導体の絶縁樹脂基板に対する密着性を確保するため回路用導体4の表面を粗化する表面処理である。
【0023】
銅の回路用導体に関する表面粗化法には、次亜塩素酸ナトリウム系処理液による黒化処理、蟻酸系処理液による処理、過硫酸塩類系や硫酸過水系ソフトエッチング液での処理等が知られている。その中で過硫酸塩類系や硫酸過水系ソフトエッチング液の処理は、塩素フリー化出来ること、非アルカリ性であるから有機フィルムへのダメージが少ないこと等の信頼性の点で好ましい。また、図3(D)の状態から、過硫酸塩類系ソフトエッチング液での処理を行うと、薄膜銅通層8の露出部分12のエッチング除去による回路用導体4の形成とその回路用導体4の表面粗化13とをほぼ同一処理で行うことができる。以上の工程により転写用シート14の製作が完了する。
【0024】
次に図4における(F)〜(G)は、図3で製作した転写用シート14の2枚それぞれに形成した回路用導体4をプリプレグ15に埋め込んで一体化する積層成形工程を示す。その後の(H)〜(I)は有機フィルム6を剥がす剥がし工程を示す。これらの工程により、フラッシュプリント配線板1の製作が行われるものである。
【0025】
まず、図4(F)では、図3で製作した転写用シート14の2枚について、それぞれ回路用導体4を対向させ相互の位置合わせした後、プリプレグ15を挟むように配置した状態で積層冶具板17に載置して、積層プレス内で加圧加熱して積層成形する。この成形により、回路用導体4はプリプレグ15が硬化した絶縁樹脂基板2の表面3と略同一面にまで埋め込まれ固定される(図4(G)参照)。冷却した後、積層プレスから取り出し、有機フィルム6に挟まれたフラッシュプリント配線板1から成る積層体21となる(図4(H))。この積層体21から有機フィルム6を絶縁樹脂基板2および回路用導体4から引き剥がしたものが両面のフラッシュプリント配線板1(図4(I)参照)になる。
【0026】
プリプレグ15は、積層プレス等による加圧加熱成形によりプリント配線板の絶縁樹脂基板となるもので、ガラス布等の補強材に熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等を含浸させたプリプレグが市販されている。ガラス布基材エポキシ樹脂のプリプレグがプリント配線材料として広く使われている点で好適である。補強材はガラス布、アラミド不織布等が知られているが、成形硬化後の表面平滑性等を考慮して選択することが良い。更にプリプレグの仕様選定にあたっては、回路用導体の充分な埋め込み性に関係する樹脂量や、板厚均一性の良いフラッシュプリント配線板の積層成形に関係する樹脂流れ量等を最適化することが望ましい。
【0027】
また、積層プレスによる積層成形の条件は、圧力と温度との制御を最適化し、樹脂の充分な溶融と流動化を図り、プリプレグ15に埋め込まれた回路用導体4の側面に樹脂が隈なく満ち渡らせることが重要である。このために真空度を20×133.3Pa以下に出来る密閉型の積層プレス装置を用いることが好適である。さらに本発明に用いる積層冶具板17は転写用シート14に接する面が鏡面仕上げであり、積層プレス成形時に有機フィルム6の回路用導体4が形成される表面の表面粗さに変化をもたらすものでは無いことが好適である。
【0028】
このように適正なプリプレグ仕様と積層プレス条件で積層成形することにより、密集し複雑に配線された回路用導体4のパターンの側面にも樹脂が埋まり、回路用導体4と絶縁樹脂基板2との境界部分を段差無く成形したフラッシュプリント配線板1が製作される。なお、有機フィルム6は回路用導体4の表面保護のために剥がさず残してことが良い(図4(H)参照)。
【0029】
次に、本発明である板厚の薄く且つ板厚バラツキの少ない多層プリント配線板とその構成について説明する。図5のその実施形態の一例であり、図4(H)の両面のフラッシュプリント配線板1の3枚と接着フィルムとで構成した6層プリント配線板を示すものである。図5では図示簡略化のため、両面のフラッシュプリント配線板1の3枚の回路用導体は同じパターンで図示しているが、上から順に1枚目は層番号1と2に、2枚目は層番号3と4に、3枚目は層番号5と6に対応する回路用導体が埋め込まれたフラッシュプリント配線板1である。この層番号に従って、図4(H)までの製造方法により6層分に充当する3枚の積層体21を用意する。次にこの3個の積層体21で層番号2〜5の回路用導体に接合している有機フィルム6を剥がし、層番号2と3および層番号4と5とを接合する層間の絶縁層22として接着フィルムをそれぞれ配置し、各フラッシュプリント配線板1を相互に位置合わせをして重ねる(図5(J)参照)。この状態を図4(F)と同様に積層冶具板17に載置して積層プレスに投入し、所定条件による加圧加熱で積層成形をして多層積層体25を製作する(図5(K)参照)。冷却後、この多層積層体25をプレス機より取り出し、層番号1と6に接合している有機フィルム6を剥がし、所定要部に層間接続のためのバイアホール26等を設けて多層プリント配線板27が完成する(図5(L)参照)。
【0030】
ここで接着フィルムとは、プリント配線板の絶縁樹脂基板を形成する熱硬化性樹脂をこの樹脂との剥離性の良い支持フィルムに塗布してBステージ状態としたものである。例えば市販の接着フィルムには、エポキシ樹脂からなる日立化成製cute TC―A(厚み50μm)や住友ベークライト製APL3601(厚み30〜80μm)等があり、プリプレグ等に比べ積層成形後の厚みの薄いものが知られている。本発明の多層プリント配線板の接着フィルムに求められる主な機能は、フラッシュプリント配線板間を接着することと層間絶縁性を確保することである。本発明にかかる回路用導体の表面粗さが0.01μm以下であるフラッシュプリント配線板に接合する層間の絶縁層は、後述する実施例のように、極めて薄くても充分な層間絶縁性を有することを確認した。その結果、従来の多層プリント配線板の層間絶縁層に用いるプリプレグに比べ薄層の接着フィルムを設定することが出来、総板厚の薄い多層プリント配線を提供できる。また、本発明の多層プリント配線板では、回路用導体が絶縁樹脂基板に埋め込まれたフラッシュプリント配線板を内層用コア材に用いているので、内層の回路用導体のパターン密度等に依存する板厚バラツキは少ない。
次に、本発明による多層プリント配線板の実施形態のもう一つ例を説明する。この実施形態は、図5における絶縁層22を接着フィルムに換えてエポキシ樹脂のワニスを用いた構成であり、接着フィルムよりも更に薄い絶縁層をワニスにより形成することが出来ることが特徴である
この構成は、本発明品であるフラッシュプリント配線板1の片側面(例えば図5(J)のL3およびL5の面)にワニスをスピンコート法等で塗布した後、Bステージまで反応させてから対応するフラッシュプリント回路板の面(例えばL3の面にはL2面の、L5の面にはL4の面のフラッシュプリント回路板を)を位置合わせしてから積層成形して多層プリント配線板を製作する。その際、スピンコート法等で塗布するワニスの膜厚は、1μm以下で均一膜厚に形成する。本発明にかかるフラッシュプリント配線板のワニス膜を形成する面は、回路用導体が絶縁樹脂基板の表面と略同一面まで埋め込まれ、回路用導体の露出している表面の表面粗さが小さくかつ回路用導体と絶縁樹脂基板との境界が段差なく平滑に成形してあり、スピンコート法でワニスを薄く、ムラ無くかつ均一に塗布することができる。
【0031】
以上、本発明にかかる多層プリント配線板は、層間の絶縁層22を極めて薄層化した接着フィルムまたはワニスで形成することにより、総板厚を薄くして製作できる。更に本発明の多層プリント配線板は、内層になる回路用導体が各絶縁樹脂基板に埋め込んで製造されていることから内層の回路用導体のパターン密粗による板厚ばらつきが少なく製作できる。
【0032】
また、図5(K)または(L)まで製作完了した多層プリント配線板をビルドアップ法による多層プリント配線板を製作するための内層用コア材として用いることは、この外側に設ける絶縁層を薄層化出来ることになり好適である。薄く出来る理由は、本発明の多層プリント配線板である内層用コア材の最外層(例えば図5(L)のL1やL6層)を覆う絶縁層は、L1やL6の回路用導体が既に埋め込んであるので、回路用導体間を充填するための余剰樹脂分が不要であり、その分だけ薄くしても絶縁信頼性が確保出来るからである。
【0033】
以下、本発明に係るプリント配線板およびその製造方法の一例を実施例で詳述する。
【実施例】
【0034】
この実施例は、有機フィルム6の表面粗さ(Ra)0.01μm以下の面に回路用導体4を形成した転写用シート14を用い、絶縁樹脂基板2の表面と略同一面にまで回路用導体4を埋め込み、且つ回路用導体の露出する面の表面粗さ(Ra)が0.01μm以下の片面プリント配線板11を製作したものである。更に、このプリント配線板11の回路用導体4に接合させた極薄の絶縁層30の絶縁信頼性について確認したものである。
【0035】
この実施例の詳細を説明すると、まず、表1のように、有機フィルムとして厚さ25μmの市販ポリイミドフィルムを幾つか入手し、その片面の表面粗さ(Ra)を測定し、0.01μm以下のポリイミドフィルム1種を実施例1として本実施例に用いた。尚、表面粗さ(Ra)の測定は、非接触3次元表面形状測定装置(Zygo社製)で行った。実施例1のポリイミドフィルムは製品名ユーピレックス(宇部興産(株)製)を用い、表面粗さRaは0.007μmであった。なお、ポリイミドフィルムの厚さは、75μm以上の厚いものが回路用導体等の位置や寸法精度の点から望まれる。
【0036】
同様に、0.01μm以上の表面粗さの入手した市販品BとCのポリイミドフィルムについても、表面粗さを測定して、以下記述する本実施例と同様に片面プリント配線板を製作し比較例2〜3とした。この他に有機フィルムに換えて、表面粗さ(Ra)が0.002μmのシリコンウエハーを用い、外は実施例1に出来るだけ従って製作した片面プリント配線板を比較例4とした。以上の実施例1および比較例2〜4に関する諸測定値等は、表1に記載した。
【0037】
【表1】

【0038】
次に、実施例1における転写用シート14の製作方法を詳細説明する。まず、表1の実施例1におけるポリイミドフィルム31の表面粗さ(Ra)が0.007μmの面の全面に銅を真空蒸着させ、0.3μm厚みの銅の薄膜導通層8を形成した。
【0039】
次に、この薄膜導通層8の上に15μm厚のめっきレジスト10を形成してから、薄膜導通層8を電極としてパターンめっき法で厚さ10μmの銅めっき層9を形成した後、めっきレジスト10を剥離除去した。
【0040】
その後、過硫酸ナトリウム系のソフトエッチング液中で浸漬処理し、銅パターンが形成されなかった部分の薄膜導通層8をエッチング除去して回路用導体4を形成し、同時に回路用導体4の表面粗化13を行い転写用シート14を製作した。なお、実施例1における回路用導体4は、図7における下電極33となるものであり、約2mm×3mmのパターンを複数配置したものである。なお、図6や図7では、簡略表示のため一つのパターンだけを下電極33として表示とした。
【0041】
比較例2〜4に用いたポリイミドフィルムおよびシリコンウエハーについても同様に処理し、比較例としてそれぞれ転写用シートを製作した。
【0042】
次に図6を参照し実施例1の片面プリント配線板11の製作方法を詳細説明する。実施例1での片面プリント配線板11は、絶縁樹脂基板2の片面だけに下電極33となる回路用導体4を埋め込んで製作したものである。従って図4(F)におけるプリプレグ15の下側は転写用シート14に換えて、積層成形時におけるプリプレグ15と積層冶具板17との接着を防ぐための離型フィルム18を用いて片面プリント配線板11を積層成形した。
【0043】
まず、図6(O)に示すように積層冶具板17の上に離型フィルム18を敷く。実施例1ではポリイミドフィルムを離型フィルム18として用いた。その上に、プリプレグ15を重ねる。プリプレグ15はガラスエポキシ多層材料(日立化成製GEA−67N)の厚み0.1mmのもの1枚を用いた。更に、このプリプレグ15の上に下電極33となるパターンの回路用導体4を形成した転写用シート14を、回路用導体4がプリプレグ15と対向するように重ね、その上にもう一枚の積層冶具板17を重ねる。この状態を積層プレスに投入し、真空度20×133.3Pa以下、加圧20Kg/cm2 加熱180℃で2hrの条件で積層プレス装置を運転し積層成形を行った。冷却後、積層プレス装置から積層体21を取り出し、離型フィルム18をプリプレグが硬化した絶縁樹脂基板2からはがし、更に転写用シート14を構成していたポリイミドフィルム31を、絶縁樹脂基板2および回路用導体4から丁寧に剥がして片面プリント配線板11を製作した。
【0044】
この片面プリント配線板11の下電極33を構成する回路用導体4の露出している表面5の表面粗さ(Ra)を測定したところ0.008μmであった。
【0045】
同様に比較例2〜4の転写用シートを用いて同様に片面プリント配線板を製作し、それぞれ下電極となる回路用導体の露出している表面の表面粗さを測定した。それぞれの測定値は表1に記載した如くであり、用いたポリイミドフィルムまたはシリコンウエハーの表面粗さの値が回路用導体の露出面の表面粗さに反映していることが判る。
【0046】
さらに、埋め込まれた回路用導体4とその周囲を満たしている絶縁樹脂基板2の樹脂との状態を観察したところ、全ての回路用導体4は、その露出表面が絶縁樹脂基板の表面と段差無く略同一面と成るまで埋め込まれており、回路用導体4の側面には、絶縁樹脂基板2を構成する樹脂が隙間なく接合していた。また比較用に製作した比較例2〜4の片面プリント配線板についても実施例1と同様に回路用導体と絶縁樹脂基板との面が平滑に成形されていた。
【0047】
次に、本実施例1と比較例2〜4で製作したそれぞれの片面プリント配線板11の下電極を配置した側の表面に、熱硬化性ポリイミドのワニスを用いて極薄の絶縁層30を形成し、図7の評価方法で回路用導体4の表面粗さとそれに接合する極薄の絶縁層30の絶縁特性を評価した。
【0048】
この評価に用いた評価用基板の製作詳細について図7を参照して説明する。まず、上記で製作した実施例1および比較例2〜4の片面プリント配線板11の下電極33の埋め込まれている側の全面にスピンコータを用いてポリイミド樹脂コーテング液(京セラケミカル製CT4112)を塗布した後、熱循環式乾乾燥炉中において180℃、1Hrで硬化させて極薄の絶縁層30を形成した。また、下電極33に測定用プローブ35を当接するため極薄の絶縁層30の開口部分は、極薄の絶縁層30の当該部分をレーザ焼処理し下電極33を露出させて作成した。また、この極薄の絶縁層30の膜厚は、評価後の片面プリント配線板それぞれをマイクロセクション法による顕微鏡観察で測定し、実施例1および比較例2〜4で形成した極薄の絶縁層のいずれもが厚み0.5〜0.6μmの範囲に分布していることを確認した。なお、この膜厚値は、絶縁層の接合する回路用導体の表面粗さに依存する絶縁特性が顕著に表れるようにするために、実施例1および比較例2〜4の下電極の表面粗さ値を考慮して発明者らが設定した膜厚である。
【0049】
次に、極薄の絶縁層30の表面に上電極31を真空蒸着法で製作した。上電極32は0.2mm□の面積のものを2.0mm×2.5mm面積の下電極33の位置に対応して、30ケ設ける仕様の蒸着メタルマスクを極薄の絶縁層30の表面に当接固定し、金の真空蒸着膜で製作した。このとき上電極32となる金の蒸着膜は、0.3μm以上の膜厚になるようにした。
【0050】
次に、図7のように絶縁抵抗測定器34を用いて、各評価基板における表面粗さが判っている下電極33とそれに接合している極薄の絶縁層30の絶縁特性を測定した。上電極32に対して下電極33に−40Vの電位を供給するように絶縁抵抗測定器からのプローブを当接させ、もう一方の0V電位のプローブを極薄の絶縁層30の表面に設けた30ケの上電極32に順に当てて絶縁抵抗を測定し、電流密度に換算した。この際電流密度が1.0×10^(−8)A/dm2以上を絶縁性不合格とし、実施例1と比較例2〜4とでそれぞれ30ケの上電極数に対する不合格個数および不合格率を表1に記載した。
【0051】
この結果から、極薄の絶縁層30の不合格率は、接合している下電極33つまり回路用導体4の表面粗さの大小に依存していることが明確になった。実施例1および比較例4のように、表面粗さ(Ra)0.01μm以下の下電極33に接合する極薄の絶縁層30の絶縁特性は、表面粗さが0.01μmを超える下電極からなる比較例2〜3に比べ格段に良い事がわかる。また、回路用導体の表面粗さは、回路用導体を形成させる有機フィルムつまりポリイミドフィルムの表面粗さをそのまま転写して形成されることも明瞭となった。
【0052】
以上のことから、本発明によれば、回路用導体を形成する表面が表面粗さ0.01μm以下の有機フィルムを選択することで、回路用導体の表面の表面粗さ0.01μm以下であるフラッシュプリント配線板を容易に製作できる。更に、本発明のフラッシュプリント配線板に接合する絶縁層を絶縁信頼性があり極薄(例えば1μm以下)に構成した多層プリント配線板もしくはビルドアッププリント配線板を提供できる。
【0053】
なお、実施例1および比較例2〜4では、ガラス布基材エポキシ樹脂からなるフラッシュプリント配線板に対してポリイミド樹脂による極薄の絶縁層を形成したが、勿論、内層用コア材として用いるフラッシュプリント配線板と対応する極薄の絶縁層の樹脂種は同一であることが好適である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、回路用導体を絶縁樹脂基板に埋め込んだフラッシュプリント配線板とその製造方法、およびフラッシュプリント配線板を用いた均一板厚で薄い多層プリント配線板を提供するものである。更に、本発明のフラッシュプリント配線板または多層プリント配線板をコア基板に用いると、コア基板の外側に設ける絶縁層を薄くした軽量・薄層のビルドアップ基板の製作が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明における両面フラッシュプリント配線板の断面の一例を表す説明図
【図2】本発明における片面フラッシュプリント配線板の断面の一例を表す説明図
【図3】本発明における転写用シートの製造方法の一例を表す説明図
【図4】本発明における両面フラッシュプリント配線板の製造方法の一例を表す説明図
【図5】本発明における多層プリント配線板の構成の一例を表す説明図
【図6】実施例1における片面フラッシュプリント配線板の製作方法を説明する図
【図7】実施例1における回路用導体の表面粗さと超薄絶縁層の絶縁特性との関係を評価する方法を説明する図
【符号の説明】
【0056】
1:両面フラッシュプリント配線板
2:絶縁樹脂基板
3:絶縁樹脂基板の表面
4:回路用導体
5:回路導体の表面
6:有機フィルム
7:有機フィルムの表面粗さが0.01μm以下の面
8:薄膜導通層
9:銅めっき層
10:めっきレジスト
11:片面フラッシュプリント配線板
13:粗化処理面
14:転写用シート
15:プリプレグ
17:積層冶具板
18:離形フィルム
21:積層体
22:絶縁層
25:多層用積層体
27:多層プリント配線板
30:極薄の絶縁層
31:ポリイミドフィルム
32:絶縁性評価用上電極
33:絶縁性評価用下電極
34:絶縁抵抗測定器
35:抵抗測定用プローブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁樹脂基板の少なくとも片面に回路用導体を前記絶縁樹脂基板の表面と略同一面にまで埋め込んだフラッシュプリント配線板において、
前記回路用導体の露出している面の表面粗さ(Ra)が0.01μm以下であることを特徴とするフラッシュプリント配線板。
【請求項2】
前記絶縁樹脂基板が、エポキシ樹脂、BT(ビスマレイミド・トリアジン)樹脂、変性PPE(ポリフェニレンエーテル)樹脂の何れか1つを補強材に含浸させたプリプレグからなることを特徴とする請求項1に記載のフラッシュプリント配線板。
【請求項3】
請求項1乃至2のいずれかに記載のフラッシュプリント配線板を用いた多層プリント配線板において、
該フラッシュプリント配線板と接合する絶縁層として、補強材のない接着フィルムを用いて積層成形したことを特徴とする多層プリント配線板。
【請求項4】
請求項1乃至2のいずれかに記載のフラッシュプリント配線板を用いた多層プリント配線板において、
該フラッシュプリント配線板と接合する絶縁層として、ワニスを用いて積層成形したことを特徴とする多層プリント配線板。
【請求項5】
前記ワニスがポリイミド樹脂からなることを特徴とする請求項4に記載の多層プリント配線板。
【請求項6】
前記絶縁層の積層成形後の厚みが、1μm以下であることを特徴とする請求項4乃至5に記載の多層プリント配線板。
【請求項7】
有機フィルムの表面粗さ(Ra)が0.01μm以下である面に回路用導体を形成した転写用シートを製作する転写用シート製作工程と、
前記転写用シート2枚のそれぞれ回路用導体の形成された面を、前記プリプレグを挟むように配して、前記回路用導体を前記プリプレグの表面と略同一面にまで埋め込んで積層成形する積層成形工程と、
前記有機フィルムを前記プリプレグが硬化した絶縁樹脂基板および前記回路用導体から剥がす剥がし工程と
を含むことを特徴とするフラッシュプリント配線板の製造方法。
【請求項8】
前記有機フィルムが、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂のいずれかからなることを特徴とする請求項7に記載のフラッシュプリント配線板の製造方法。
【請求項9】
前記転写用シート製作工程が、
前記有機フィルムの表面粗さ(Ra)が0.01μm以下の面に銅からなる薄膜導通層を形成する導通層形成工程と、
前記薄膜導通層の表面に電気めっきによる銅めっき層形成工程と
を含むことを特徴とする請求項7乃至8に記載のフラッシュプリント配線板の製造方法。
【請求項10】
前記銅めっき層形成工程が、銅めっき層の形成されていない部位の薄膜導通層を除去するソフトエッチング工程とを含み、
該ソフトエッチング工程が、前記薄膜導通層と前記銅めっき層からなる回路用導体の表面を粗化する工程でもあることを特徴とする請求項7乃至9に記載のフラッシュプリント配線板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−221068(P2007−221068A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−42928(P2006−42928)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(000104629)キヤノン・コンポーネンツ株式会社 (49)
【Fターム(参考)】