説明

フラットパネルディスプレイ用耐熱透明プラスチック基板

【課題】光学特性、耐熱性および機械特性に優れた耐熱透明プラスチック基板の提供。
【解決手段】それぞれ独立して炭素数3〜12の分岐状アルキル基又は環状アルキル基を有するフマル酸ジエステル残基単位を含むフマル酸ジエステル重合体(A)及び炭素数1〜12のアルキル基又は環状アルキル基を有するアクリル酸エステル残基単位を含むアクリル酸エステル重合体(B)を含有するフラットパネルディスプレイ用耐熱透明プラスチック基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱透明プラスチック基板に関するものであり、さらに詳しくは、光学特性および機械特性に優れたフラットパネルディスプレイ用の耐熱透明プラスチック基板に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、電子ペーパーなどに代表されるフラットパネルディスプレイは、薄型、軽量、低消費電力などの特徴を生かして、薄型テレビ、コンピューターモニター、ノートブックパソコン、携帯電話、カーナビゲーションなどの表示素子として急成長している。従来これらの表示素子の基板として、ガラス基板が用いられてきた。しかしながら、ガラス基板は、比重が高いため重い、衝撃強度に弱く割れやすく、薄肉化が困難、フレキシビリティーがない等の課題がある。プラスチックを基板に用いることにより、薄肉軽量化が可能となること、更に、フレキシブルディスプレイへの展開が期待できることから、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ、電子ペーパーを中心に、プラスチック基板を用いたディスプレイの開発が精力的に進められている。
【0003】
しかしながら、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ、電子ペーパーの製造工程では、薄膜トランジスター(以下、TFTと記す。)形成工程、パネルの張り合わせ工程、配向膜形成工程、透明電極形成工程など多くの工程で、150℃から200℃以上の高いプロセス温度が必要となる。そのため、ディスプレイの基板には高い耐熱性が要求される。また、ディスプレイの表示特性に対する要求も年々厳しくなっていることから、ディスプレイ基板に対しても優れた光学特性が求められている。
【0004】
代表的な耐熱性透明プラスチックとして、ポリカーボネート(以下、PCと記す。)が知られているが、PCは、ガラス転移温度が、150℃前後でありディスプレイ基板、特にTFTを用いたアクティブディスプレイ用の基板としては、耐熱性に大きな課題がある。高耐熱の透明プラスチックとしてポリエーテルスルフォン(以下、PESと記す。)がある。PESは、180℃の耐熱性を有するものの薄黄色から茶色に着色しており、色調、透明性に課題がある。また、光弾性定数が大きく、わずかな応力や歪により複屈折(光学的な異方性)を生じる、屈折率の波長依存性が大きいなど光学的な特性にも課題があり、プラスチック基板としての特性を十分満足していない。
【0005】
全芳香族ポリイミドは、300℃以上の高い耐熱性を有するが、濃い茶色を有するなど光学特性に課題がある。
【0006】
一方、フマル酸ジエステルからなる高重合体は、1981年大津らにより見出され(例えば非特許文献1参照)、フマル酸ジエステルの重合挙動については、多くの報告がなされている(例えば非特許文献2参照)。また、フマル酸ジエステル重合体からなる光学材料が開示され、光学レンズ、プリズムレンズ、光ファイバーが記載されている(特許文献1参照)。しかしながらこれら文献には本発明のディスプレイ用の耐熱透明プラスチック基板は開示されていない。
【0007】
また、ビニル系ポリマーの改質剤としての用途が開示されており(特許文献2参照)、アクリル酸エステル系ポリマーコンポジットが開示されている(特許文献3参照)。しかしながらこれらはビニルポリマーの改質剤であり耐熱透明プラスチック基板は開示されていない。
【0008】
我々は特定のフマル酸ジエステル系樹脂からなるプラスチック基板および表示素子が優れた耐熱性および透明性を有していることを見出している(特許文献4参照)。
【0009】
しかしながら、特許文献4に記載のフマル酸ジエステル系樹脂よりなるプラスチック基板はフィルム面内方向の位相差は小さいが、フィルム厚み方向の位相差が大きいといった課題がある。またディスプレイ製造プロセスにおけるハンドリング性の点から更なる機械強度の向上が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭61−028513号公報
【特許文献2】特開昭59−109547号公報
【特許文献3】特開昭61−181812号公報
【特許文献4】特開2005−97544号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Polymer Preprints,Japan,30,832(1981)
【非特許文献2】ラジカル重合ハンドブック(159頁)、株式会社エス・ティー・エス
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、フィルム膜厚方向の位相差が小さく、光学特性に優れ、機械特性に優れたディスプレイ用耐熱透明プラスチック基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、フマル酸ジエステル重合体およびアクリル酸エステル重合体を含有する耐熱透明プラスチック基板が、フィルム膜厚方向の位相差が小さく、機械特性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、所定の一般式で示されるフマル酸ジエステル残基単位を含むフマル酸ジエステル重合体(A)及び所定の一般式で示されるアクリル酸エステル残基単位を含むアクリル酸エステル重合体(B)を含有することを特徴とするフラットパネルディスプレイ用耐熱透明プラスチック基板である。
【0014】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0015】
本発明のフラットパネルディスプレイ用耐熱透明プラスチック基板(以下、耐熱透明プラスチック基板と略する場合がある)は、下記一般式(1)で示されるフマル酸ジエステル残基単位を含むフマル酸ジエステル重合体(A)及び下記一般式(2)で示されるアクリル酸エステル残基単位を含むアクリル酸エステル重合体(B)を含有するものである。
【0016】
【化1】

(式中、R、Rはそれぞれ独立して炭素数3〜12の分岐状アルキル基又は環状アルキル基を示す。)
【0017】
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基又は環状アルキル基を示す。)
本発明の耐熱透明プラスチック基板に含有されるフマル酸ジエステル重合体(A)は、一般式(1)で示されるフマル酸ジエステル残基単位を含むものである。ここで、フマル酸ジエステル残基単位のエステル置換基であるR、Rは、それぞれ独立して炭素数3〜12の分岐状アルキル基又は環状アルキル基であり、例えば、イソプロピル基、s−ブチル基、t−ブチル基、s−ペンチル基、t−ペンチル基、s−ヘキシル基、t−ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、特に耐熱性、機械特性に優れたものとなることからイソプロピル基、s−ブチル基、t−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基であることが好ましく、特に耐熱性、機械特性のバランスに優れたものとなることからイソプロピル基が好ましい。ここで、R又はRが直鎖アルキルの場合、又は、炭素数が12を越える場合、フマル酸ジエステル系樹脂のガラス転移温度が低いものとなり、プラスチック基板の耐熱性が低下したり、機械特性が低いものとなる。一般式(1)で示されるフマル酸ジエステル残基単位としては、具体的には、フマル酸ジイソプロピル残基、フマル酸ジ−s−ブチル残基、フマル酸ジ−t−ブチル残基、フマル酸ジ−s−ペンチル残基、フマル酸ジ−t−ペンチル残基、フマル酸ジ−s−ヘキシル残基、フマル酸ジ−t−ヘキシル残基、フマル酸ジ−2−エチルヘキシル、フマル酸ジシクロプロピル残基、フマル酸ジシクロペンチル残基、フマル酸ジシクロヘキシル残基等が挙げられ、フマル酸ジイソプロピル残基、フマル酸ジ−s−ブチル残基、フマル酸ジ−t−ブチル残基、フマル酸ジシクロペンチル残基、フマル酸ジシクロヘキシル残基が好ましく、特にフマル酸ジイソプロピル残基が好ましい。
【0018】
フマル酸ジエステル重合体(A)は、一般式(1)で示されるフマル酸ジエステル残基単位を含むものであるが、耐熱性が良好なプラスチック基板となるため、一般式(1)に示されるフマル酸ジエステル残基単位60モル%以上、フマル酸ジエステル類と共重合可能な残基単位40モル%以下を含む重合体が好ましく、一般式(1)に示されるフマル酸ジエステル残基単位60〜90モル%、フマル酸ジエステル類と共重合可能な残基単位10〜40モル%を含む重合体がさらに好ましい。
【0019】
フマル酸ジエステル類と共重合可能な残基単位としては、例えば、フマル酸ジエチル残基、フマル酸ジ−n−プロピル残基、フマル酸−n−ブチル残基などの直鎖アルキルを有するフマル酸エステル残基、スチレン残基、α−メチルスチレン残基などのスチレン類残基;アクリル酸残基;アクリル酸メチル残基、アクリル酸エチル残基、アクリル酸ブチル残基などのアクリル酸エステル類残基;メタクリル酸残基;メタクリル酸メチル残基、メタクリル酸エチル残基、メタクリル酸ブチル残基などのメタクリル酸エステル類残基;酢酸ビニル残基、プロピオン酸ビニル残基などのビニルエステル類残基;アクリロニトリル残基;メタクリロニトリル残基;エチレン残基、プロピレン残基などのオレフィン類残基等の1種又は2種以上を挙げることができる。これらのうち、相溶性が良好でヘーズの小さなプラスチック基板が得られることから、フマル酸ジエチル残基、フマル酸ジ−n−プロピル残基、フマル酸−n−ブチル残基などの直鎖アルキルを有するフマル酸エステル残基が好ましい。
【0020】
フマル酸ジエステル重合体(A)は、得られる耐熱透明プラスチック基板の機械強度と表面性を維持するため、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー(以下、GPCと記す。)により測定した溶出曲線より得られる標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が1×10〜5×10が好ましく、特に機械特性に優れ、製膜時の成形加工性に優れたものとなることから1×10〜2×10であることが好ましい。
【0021】
フマル酸ジエステル重合体(A)の製造方法としては、該フマル酸ジエステル重合体が得られる限りにおいて如何なる方法により製造してもよく、例えば、フマル酸ジエステル類、場合によってはフマル酸ジエステル類と共重合可能な単量体を併用しラジカル重合を行うことにより製造することができる。この際のフマル酸ジエステル類としては、例えば、フマル酸ジイソプロピル、フマル酸ジ−s−ブチル、フマル酸ジ−t−ブチル、フマル酸ジ−s−ペンチル、フマル酸ジ−t−ペンチル、フマル酸ジ−s−ヘキシル、フマル酸ジ−t−ヘキシル、フマル酸ジ−2−エチルヘキシル、フマル酸ジシクロプロピル、フマル酸ジシクロペンチル、フマル酸ジシクロヘキシル等が挙げられ、フマル酸ジエステルと共重合可能な単量体としては、例えば、フマル酸ジエチル、フマル酸ジ−n−プロピル、フマル酸ジ−n−ブチル、スチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン類;アクリル酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸エステル類;メタクリル酸;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸エステル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;アクリロニトリル;メタクリロニトリル;エチレン、プロピレンなどのオレフィン類等の1種又は2種以上を挙げることができる。
【0022】
また、これら単量体の重合を行うラジカル重合法としては、公知の重合方法で行ってもよく、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法のいずれもが採用可能である。
【0023】
ラジカル重合法を行う際の重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエートなどの有機過酸化物;2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−ブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)などのアゾ系開始剤等が挙げられる。
【0024】
そして、溶液重合法又は沈殿重合法において使用可能な溶媒として特に制限はなく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族溶媒;メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコールなどのアルコール系溶媒;シクロヘキサン;ジオキサン;テトラヒドロフラン;アセトン;メチルエチルケトン;ジメチルホルムアミド;酢酸イソプロピル等が挙げられ、これらの混合溶媒をも挙げられる。
【0025】
また、ラジカル重合を行う際の重合温度は、重合開始剤の分解温度に応じて適宜設定することができ、一般的には30〜150℃の範囲で行うことが好ましい。
【0026】
本発明の耐熱透明プラスチック基板に含有されるアクリル酸エステル重合体(B)は、一般式(2)で示されるアクリル酸エステル残基単位を含むものである。ここで、アクリル酸エステル残基単位のエステル置換基であるRは、炭素数1〜12のアルキル基又は環状アルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、s−ペンチル基、t−ペンチル基、n−ヘキシル基、s−ヘキシル基、t−ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−エチルヘキシル基、ラウリル基等が挙げられ、特に耐熱性、機械特性に優れたものとなることからエチル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基であることが好ましく、特に透明性に優れたものとなることからエチル基が好ましい。一般式(2)で示されるアクリル酸エステル残基単位としては、具体的には、アクリル酸メチル残基、アクリル酸エチル残基、アクリル酸プロピル残基、アクリル酸イソプロピル残基、アクリル酸−n−ブチル残基、アクリル酸イソブチル残基、アクリル酸−t−ブチル残基、アクリル酸−s−ペンチル残基、アクリル酸−t−ペンチル残基、アクリル酸−n−ヘキシル残基、アクリル酸−s−ヘキシル残基、アクリル酸シクロヘキシル残基等が挙げられ、アクリル酸エチル残基、アクリル酸−n−ブチル残基、アクリル酸−n−ヘキシル残基が好ましく、特にアクリル酸エチル残基が好ましい。
【0027】
アクリル酸エステル重合体(B)は、一般式(2)で示されるアクリル酸エステル残基単位を含むものであるが、透明性に優れるため、一般式(2)に示されるアクリル酸エステル残基単位60モル%以上を含むことが好ましく、75モル%以上を含むことがさらに好ましい。また、一般式(2)に示されるアクリル酸エステル残基単位60モル%以上、アクリル酸エステル類と共重合可能な残基単位40モル%以下を含むことも好ましい。アクリル酸エステル類と共重合可能な残基単位としては、例えば、スチレン残基、α−メチルスチレン残基などのスチレン類残基;メタクリル酸残基;メタクリル酸メチル残基、メタクリル酸エチル残基、メタクリル酸ブチル残基などのメタクリル酸エステル類残基;酢酸ビニル残基、プロピオン酸ビニル残基などのビニルエステル類残基;アクリロニトリル残基;メタクリロニトリル残基;エチレン残基、プロピレン残基などのオレフィン類残基等の1種又は2種以上を挙げることができる。
【0028】
アクリル酸エステル重合体(B)は、得られる耐熱透明プラスチック基板の機械強度と耐熱性を維持するため、GPCにより測定した溶出曲線より得られる標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が1×10〜1×10が好ましく、特に機械特性に優れ、製膜時の成形加工性に優れたものとなることから1×10〜5×10であることが好ましい。
【0029】
アクリル酸エステル重合体(B)の製造方法としては、該アクリル酸エステル重合体が得られる限りにおいて如何なる方法により製造してもよく、例えば、アクリル酸エステル類、場合によってはアクリル酸エステル類と共重合可能な単量体を併用しラジカル重合を行うことにより製造することができる。この際のアクリル酸エステル類としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−t−ブチル、アクリル酸−s−ペンチル、アクリル酸−t−ペンチル、アクリル酸−n−ヘキシル、アクリル酸−s−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられ、アクリル酸エステルと共重合可能な単量体としては、例えば、スチレン類、メタクリル酸エステル類、ビニルエステル類、アクリロニトリル、オレフィン類等の1種又は2種以上を挙げることができる。
【0030】
また、これら単量体の重合を行うラジカル重合法としては、公知の重合方法で行ってもよく、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法のいずれもが採用可能である。
【0031】
ラジカル重合法を行う際の重合開始剤としては、例えば、上述した有機過酸化物、アゾ系開始剤等が挙げられる。
【0032】
そして、溶液重合法又は沈殿重合法において使用可能な溶媒として特に制限はなく、例えば、芳香族溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、酢酸エステル系溶媒、ジメチルホルムアミド等が挙げられ、これらの混合溶媒も挙げられる。
【0033】
また、ラジカル重合を行う際の重合温度は、重合開始剤の分解温度に応じて適宜設定することができ、一般的には30〜150℃の範囲で行うことが好ましい。
【0034】
本発明の耐熱透明プラスチック基板に含有されるフマル酸ジエステル重合体(A)とアクリル酸エステル重合体(B)の割合は、特に限定するものではないが、得られる耐熱透明プラスチック基板の耐熱性と厚み方向の位相差を維持するため、フマル酸ジエステル重合体(A)60〜99重量%、アクリル酸エステル重合体(B)1〜40重量%が好ましく、特にフマル酸ジエステル重合体(A)75〜95重量%、アクリル酸エステル重合体(B)5〜25重量%が好ましい。
【0035】
本発明の耐熱透明プラスチック基板は、基板厚み方向の位相差、機械特性を維持するため、厚みが10〜200μmであることが好ましく、さらに好ましくは30〜100μmの範囲である。
【0036】
本発明の耐熱透明プラスチック基板は、ディスプレイにした場合の視野角特性の不具合(例えば、ディスプレイを斜めから見た場合のコントラストの低下や色ずれ)を防止するため、基板厚み方向の位相差が0〜−200nmが好ましく、さらに好ましくは0〜−150nm、特に0〜−100nmが好ましい。基板厚み方向の位相差(Rth)は、式(1)で示される。ここでnxは基板の面内方向の屈折率、nyはnxと直交する基板面内方向の屈折率、nzは基板厚み方向の屈折率、dは基板の厚みを示す。基板厚み方向の位相差(Rth)は、全自動複屈折計(王子計測機器株式会社製、商品名:KOBRA−21ADH)を用い、測定波長589nmの条件で測定した値を用いた。
【0037】
Rth=[(nx+ny)/2−nz]xd (1)
本発明の耐熱透明プラスチック基板は、ディスプレイに使用した際の画質、特にコントラストを維持するため、ヘーズが2%以下が好ましく、さらに1%以下が好ましい。
【0038】
本発明の耐熱透明プラスチック基板の製造方法としては、本発明の耐熱透明プラスチック基板の製造が可能であれば如何なる方法を用いてもよいが、光学特性、耐熱性、表面特性などに優れる耐熱透明プラスチック基板が得られることから、溶液キャスト法により製造することが好ましい。ここで、溶液キャスト法とは、樹脂溶液(一般にはドープと称する。)を支持基板上に流延した後、加熱することにより溶媒を蒸発させてプラスチック基板を得る方法である。流延する方法としては、例えば、Tダイ法、ドクターブレード法、バーコーター法、ロールコーター法、リップコーター法等が用いられ、工業的には、ダイからドープをベルト状又はドラム状の支持基板に連続的に押し出す方法が最も一般的に用いられている。また、用いられる支持基板としては、例えば、ガラス基板、ステンレスやフェロタイプなどの金属基板、ポリエチレンテレフタレートなどのプラスチック基板等がある。高度に表面性、光学均質性の優れた基板を工業的に連続製膜するには、表面を鏡面仕上げした金属基板が好ましく用いられる。溶液キャスト法において、厚み精度、表面平滑性に優れた耐熱透明プラスチック基板を製造する際には、樹脂溶液の粘度は極めて重要な因子であり、樹脂溶液の粘度は樹脂の濃度、分子量、溶媒の種類に依存するものである。本発明の耐熱透明プラスチック基板を製造する際の樹脂溶液はフマル酸ジエステル重合体(A)とアクリル酸エステル重合体(B)を溶媒に溶解し調整する。樹脂溶液の粘度は重合体の分子量、重合体の濃度、溶媒の種類で調整可能である。樹脂溶液の粘度としては、100〜10000cpsが好ましく、500〜5000cpsがさらに好ましく、特に1000〜3000cpsが好ましい。
【0039】
また、本発明の耐熱透明プラスチック基板は、必要に応じて他樹脂からなるフィルムと積層することができる。他樹脂としては、例えば、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリナフタレンテレフタレート、ポリカーボネート、環状ポリオレフィン、マレイミド系樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド等が挙げられる。また、ハードコート層やガスバリア層を積層することも可能である。該ハードコート層としては、例えば、シリコン系樹脂、アクリル系樹脂、アクリルシリコン系樹脂、紫外線硬化型樹脂、ウレタン系ハードコート剤等の層が挙げられ、これらは、一種類以上で用いることができる。透明性、耐傷付き性、耐薬品性の点から、紫外線硬化型樹脂が好ましい。紫外線硬化型樹脂としては、紫外線硬化型アクリルウレタン、紫外線硬化型エポキシアクリレート、紫外線硬化型(ポリ)エステルアクリレート、紫外線硬化型オキセタンなどから選ばれる一種類以上の紫外線硬化樹脂が挙げられる。ハードコート層の厚みは、耐傷付き性、フィルムの表面性等を維持するため、0.1〜100μmが好ましく、さらに好ましくは1〜50μm、特に好ましくは2〜20μmである。
【0040】
該ガスバリア層としては、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素、窒化酸化ケイ素、酸化アルミ、酸化タンタル、アルミ膜などの無機物層;ポリビニルアルコール、ポリオレフィンなどの有機膜層等が挙げられ、特に、光学特性、ガスバリア性能、高精細なディスプレイに重要である寸法安定性に優れることから酸化ケイ素、窒化ケイ素、窒化酸化ケイ素を主体とするものが好ましい。ガスバリア層の厚みは無機膜の場合は、成膜製およびガスバリア性が良好のため、1nm〜1000nmが好ましく、さらに好ましくは10nm〜300nmであり、有機層の場合には、塗工性が良好となるため、0.1μm〜100μmが好ましく、さらに好ましくは1μm〜50μmである。これらガスバリア層は有機層と無機層を積層化、多層化することも出来る。ガスバリア層は、蒸着、スパッタ、PECVD、CatCVD、コーティングやラミネーティングなど公知の手法により形成することが出来る。
【0041】
本発明の耐熱透明プラスチック基板は、熱安定性を向上させるために酸化防止剤を含有することが好ましい。該酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ラクトン酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、ヒドロキシルアミン系酸化防止剤、ビタミンE系酸化防止剤、その他酸化防止剤が挙げられ、これら酸化防止剤はそれぞれ単独で用いてもよく、それぞれを併用して用いても良い。そして、熱安定性向上に対して、フェノール系酸化防止剤が好ましく、更には、熱着色の点からヒンダードフェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤を併用して用いることが好ましい、その際には例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤100重量部に対してリン系酸化防止剤を0〜1000重量部、特に100〜500重量部の割合で混合して使用することが特に好ましい。また、該酸化防止剤の添加量としては、高温暴露時の熱安定性、耐熱着色に優れ、基板表面荒れ、ブリード、ヘーズ悪化等の発生の可能性が無いことからフマル酸ジエステル系樹脂100重量部に対し、0.01〜10重量部であることが好ましく、特に0.5〜3.0重量部の範囲であることが好ましい。
【0042】
また、本発明の耐熱透明プラスチック基板は、ヒンダードアミン系光安定剤を含有していてもよく、該ヒンダードアミン系光安定剤としては、熱着色抑制効果に優れるディスプレイ用プラスチック基板となることから分子量が1000以上のものが好ましく、特に1500以上であることが好ましい。さらに、ヒンダードアミン系光安定剤の添加量としては、熱着色防止効果および光安定化効果に優れるディスプレイ用プラスチック基板となることからフマル酸ジエステル重合体100重量部に対して0.01〜1.5重量部を用いることが好ましく、0.05〜1重量部がさらに好ましく、特に0.1〜0.5重量部であることが好ましい。このようなヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、ポリ((6−モルフォリノ−s−トリアジン−2,4−ジイル)((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ))(分子量1,600)、ポリ((6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5―トリアジン−2、4−ジイル)((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ))(分子量2,000〜3,100)、ジブチルアミン−1,3,5−トリアジン−N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物(分子量2,600〜3,400)、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン−2,4−ビス(N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ)−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物(分子量2,000以上)、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン縮合物(分子量3,100〜4,000)等が挙げられ、これらは一種類以上で用いることができる。
【0043】
本発明のディスプレイ用耐熱透明プラスチック基板は、液晶化合物の劣化防止などの目的で、紫外線吸収剤を含有していてもよく、該紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、トリアジン、ベンゾエートなどの紫外線吸収剤を必要に応じて添加することもできる。
【0044】
さらに、本発明の耐熱透明プラスチック基板は、発明の効果を奏する範囲で、その他ポリマー、界面活性剤、高分子電解質、導電性錯体、無機フィラー、顔料、染料、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、滑剤等を含有していてもよい。
【発明の効果】
【0045】
本発明の耐熱透明プラスチック基板は、基板厚み方向の位相差が小さく、良好な機械特性を示すことから、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、マイクロカプセル方式や電子粉流方式などの電子ペーパー用プラスチック基板等として有用である。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
なお、実施例により示す諸物性は、以下の方法により測定した。
【0048】
<重合体の解析>
共重合体の組成は核磁気共鳴測定装置(日本電子製、商品名:JNM−GX270)を用い、プロトン核磁気共鳴分光(H−NMR)スペクトル分析より求めた。
【0049】
<数平均分子量の測定>
ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)装置(東ソー製、商品名:C0−8011(カラムGMHHR−Hを装着))を用い、テトラヒドロフランを溶媒として、40℃で測定し、標準ポリスチレン換算値として求めた。
【0050】
<プラスチック基板の光線透過率及びヘーズの測定>
作成したフィルムの光線透過率及びヘーズは、ヘーズメーター(日本電色工業製、商品名:NDH2000)を使用し、光線透過率の測定はJIS K 7361−1(1997版)に、ヘーズの測定はJIS−K 7136(2000年版)に、それぞれ準拠して測定した。
【0051】
<プラスチック基板の厚み方向の位相差(Rth)測定>
試料傾斜型自動複屈折計(王子計測機器株式会社製、商品名:KOBRA−WR)を用いて波長589nmの光りを用いて仰角を変えてプラスチック基板の厚み方向の位相差(Rth)を測定した。
【0052】
<耐熱性評価>
200℃にセットしたオーブンにプラスチック基板を入れ30分加熱後の外観変化により評価した。
【0053】
<引張り伸度の測定>
10mm×100mm(SSK 1874−1)に打ち抜いた試験片を、テンシロン型引張試験機(株式会社オリエンテック製、商品名:UTM−2.5T)にて速度5mm/minで引張り、最大点伸度を求めた。
【0054】
合成例1(フマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジエチル重合体の製造)
5リットルオートクレーブ中に、ヒドロキシプロピルメチルセルロース0.2wt%を含む蒸留水2400g、フマル酸ジイソプロピル1388g、フマル酸ジエチル212g、重合開始剤としてパーブチルPV12.7gを仕込み、重合温度45℃、重合時間36時間の条件にて懸濁ラジカル重合反応を行った。得られ重合体粒子を濾過回収し、水、メタノールで十分に洗浄し80℃にて乾燥することにより、フマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジエチル重合体を得た。得られたフマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジエチル重合体の数平均分子量は120000、フマル酸ジイソプロピル単位87モル%、フマル酸ジエチル単位13モル%であった。
【0055】
合成例2(フマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジ−n−ブチル重合体の製造)
5リットルオートクレーブ中に、ヒドロキシプロピルメチルセルロース0.2wt%を含む蒸留水2600g、フマル酸ジイソプロピル1232g、フマル酸ジ−n−ブチル168g、重合開始剤としてパーブチルPV11gを仕込み、重合温度46℃、重合時間42時間の条件にて懸濁ラジカル重合反応を行った。得られ重合体粒子を濾過回収し、水、メタノールで十分に洗浄し80℃にて乾燥することにより、フマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジ−n−ブチル重合体を得た。得られた重合体の数平均分子量は98000、フマル酸ジイソプロピル単位90モル%、フマル酸ジブチル単位10モル%であった。
【0056】
合成例3(フマル酸ジイソプロピル単独重合体の製造)
200mLアンプルにフマル酸ジイソプロピル28g、パーブチルPV0.2gを仕込み、脱気−窒素置換を数回繰り返した後、重合温度50℃で24時間重合反応を行った。重合終了後アンプルにトルエン120mLを添加し内容物を溶解させた後、過剰のメタノールに内容物を注ぎ、重合体を析出させた。濾過、メタノール洗浄を3回繰り返し重合体を80℃で乾燥させた。得られた重合体の数平均分子量は146000、フマル酸ジイソプロピル単位100モル%であった。
【0057】
実施例1
合成例1により得られたフマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジエチル重合体80g、アクリル酸エチル重合体(アルドリッチ製、分子量4.8万)20gをトルエン400gに溶解し20重量%溶液とし、さらに、酸化防止剤としてトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト0.15gおよびペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)0.05gを添加した後、Tダイ法により溶液流延装置の支持体に流延し、乾燥温度80℃、次いで120℃と段階的に乾燥した後、幅200mm、厚み50μmのディスプレイ用耐熱透明プラスチック基板を得た。
【0058】
そして、得られたプラスチック基板の全光線透過率、ヘーズ、基板厚み方向の位相差(Rth)、耐熱性、引張り伸度を測定した。その結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

得られたディスプレイ用プラスチック基板は、全光線透過率が高く透明性に優れる、ヘーズが小さい、厚み方向の位相差(Rth)が小さいなど優れた光学特性を有するものであった。更に200℃でも変形が認められず非常に優れた耐熱性を有していた。また、引張り伸度も良好でありプラスチック基板としてのハンドリング性にも優れていた。
【0060】
実施例2
合成例2により得られたフマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジ−n−ブチル重合体90g、アクリル酸エチル重合体(アルドリッチ製、分子量4.8万)10gをトルエン400gに溶解し20重量%溶液とし、さらに、酸化防止剤としてトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト0.15gおよびペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)0.05gを添加した後、Tダイ法により溶液流延装置の支持体に流延し、乾燥温度80℃、次いで120℃と段階的に乾燥した後、幅200mm、厚み47μmのディスプレイ用耐熱透明プラスチック基板を得た。
【0061】
そして、得られたプラスチック基板の全光線透過率、ヘーズ、基板厚み方向の位相差(Rth)、耐熱性、引張り伸度を測定した。その結果を表1に示す。
【0062】
得られたディスプレイ用プラスチック基板は、全光線透過率が高く透明性に優れる、ヘーズが小さい、厚み方向の位相差(Rth)が小さいなど優れた光学特性を有するものであった。更に200℃でも変形が認められず非常に優れた耐熱性を有していた。また、引張り伸度も良好でありプラスチック基板としてのハンドリング性にも優れていた。
【0063】
実施例3
合成例1により得られたフマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジエチル重合体75g、アクリル酸エチル重合体(アルドリッチ製、分子量4.8万)25gをトルエン400gに溶解し20重量%溶液とし、さらに、酸化防止剤としてトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト0.15gおよびペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)0.05gを添加した後、Tダイ法により溶液流延装置の支持体に流延し、乾燥温度80℃、次いで120℃と段階的に乾燥した後、幅200mm、厚み45μmのディスプレイ用耐熱透明プラスチック基板を得た。
【0064】
そして、得られたプラスチック基板の全光線透過率、ヘーズ、基板厚み方向の位相差(Rth)、耐熱性、引張り伸度を測定した。その結果を表1に示す。
【0065】
得られたディスプレイ用プラスチック基板は、全光線透過率が高く透明性に優れる、ヘーズが小さい、厚み方向の位相差(Rth)が小さいなど優れた光学特性を有するものであった。更に200℃でも変形が認められず非常に優れた耐熱性を有していた。また、引張り伸度も良好でありプラスチック基板としてのハンドリング性にも優れていた。
【0066】
実施例4
合成例3により得られたフマル酸ジイソプロピル単独重合体85g、アクリル酸エチル重合体(アルドリッチ製、分子量4.8万)15gをトルエン400gに溶解し20重量%溶液とし、さらに、酸化防止剤としてトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト0.15gおよびペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)0.05gを添加した後、Tダイ法により溶液流延装置の支持体に流延し、乾燥温度80℃、次いで120℃と段階的に乾燥した後、幅200mm、厚み50μmのディスプレイ用耐熱透明プラスチック基板を得た。
【0067】
そして、得られたプラスチック基板の全光線透過率、ヘーズ、基板厚み方向の位相差(Rth)、耐熱性、引張り伸度を測定した。その結果を表1に示す。
【0068】
得られたディスプレイ用プラスチック基板は、全光線透過率が高く透明性に優れ、厚み方向の位相差(Rth)が小さいプラスチック基板が得られた。更に200℃でも変形が認められず非常に優れた耐熱性を有していた。また、引張り伸度も良好でありプラスチック基板としてのハンドリング性にも優れていた。
【0069】
実施例5
合成例2により得られたフマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジ−n−ブチル重合体90g、アクリル酸ブチル重合体(総研化学製、分子量15万)10gをトルエン400gに溶解し20重量%溶液とし、さらに、酸化防止剤としてトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト0.15gおよびペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)0.05gを添加した後、Tダイ法により溶液流延装置の支持体に流延し、乾燥温度80℃、次いで120℃と段階的に乾燥した後、幅200mm、厚み47μmのディスプレイ用耐熱透明プラスチック基板を得た。
【0070】
そして、得られたプラスチック基板の全光線透過率、ヘーズ、基板厚み方向の位相差(Rth)、耐熱性、引張り伸度を測定した。その結果を表1に示す。
【0071】
得られたディスプレイ用プラスチック基板は、全光線透過率が高く透明性に優れる、ヘーズが小さい、厚み方向の位相差(Rth)が小さいなど優れた光学特性を有するものであった。更に200℃でも変形が認められず非常に優れた耐熱性を有していた。また、引張り伸度も良好でありプラスチック基板としてのハンドリング性にも優れていた。
【0072】
比較例1
合成例1により得られたフマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジエチル重合体100gをトルエン400gに溶解し20重量%溶液とし、さらに、酸化防止剤としてトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト0.15gおよびペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)0.05gを添加した後、Tダイ法により溶液流延装置の支持体に流延し、乾燥温度80℃、次いで120℃と段階的に乾燥した後、幅200mm、厚み50μmのディスプレイ用耐熱透明プラスチック基板を得た。
【0073】
そして、得られたプラスチック基板の全光線透過率、ヘーズ、基板厚み方向の位相差(Rth)、耐熱性、引張り伸度を測定した。その結果を表1に示す。
【0074】
得られたディスプレイ用プラスチック基板は、全光線透過率が高く透明性、耐熱性に優れるものの、厚み方向の位相差(Rth)が大きく、引張り伸度も小さいものであった。
【0075】
比較例2
アクリル酸エチル重合体(アルドリッチ製、分子量4.8万)100gをトルエン400gに溶解し20重量%溶液とし、さらに、酸化防止剤としてトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト0.15gおよびペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)0.05gを添加した後、Tダイ法により溶液流延装置の支持体に流延し、乾燥温度80℃、次いで120℃と段階的に乾燥した後、幅200mm、厚み50μmのプラスチック基板を得た。
【0076】
そして、得られたプラスチック基板の全光線透過率、ヘーズ、基板厚み方向の位相差(Rth)、耐熱性、引張り伸度を測定した。その結果を表1に示す。
【0077】
得られたプラスチック基板は、粘調なものであり、200℃加熱により大きな変形がみとめられ、耐熱性に劣ったものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるフマル酸ジエステル残基単位を含むフマル酸ジエステル重合体(A)及び下記一般式(2)で示されるアクリル酸エステル残基単位を含むアクリル酸エステル重合体(B)を含有することを特徴とするフラットパネルディスプレイ用耐熱透明プラスチック基板。
【化1】

(式中、R、Rはそれぞれ独立して炭素数3〜12の分岐状アルキル基又は環状アルキル基を示す。)
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基又は環状アルキル基を示す。)
【請求項2】
フマル酸ジエステル重合体(A)が、一般式(1)で示されるフマル酸ジエステル残基単位60モル%以上、及びフマル酸ジエステル類と共重合可能な残基単位40モル%以下を含む重合体であることを特徴とする請求項1に記載のフラットパネルディスプレイ用耐熱透明プラスチック基板。
【請求項3】
フマル酸ジエステル重合体(A)が、一般式(1)で示されるフマル酸ジエステル残基単位60〜90モル%、及びフマル酸ジエチル残基単位、フマル酸ジ−n−プロピル残基単位、フマル酸ジ−n−ブチル残基単位から選ばれるフマル酸ジエステル残基単位10〜40モル%を含む重合体であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のフラットパネルディスプレイ用耐熱透明プラスチック基板。
【請求項4】
アクリル酸エステル重合体(B)が、一般式(2)で示されるアクリル酸エステル残基単位60モル%以上を含む重合体であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかの項に記載のフラットパネルディスプレイ用耐熱透明プラスチック基板。
【請求項5】
フマル酸ジエステル重合体(A)60〜99重量%及びアクリル酸エステル重合体(B)1〜40重量%を含有することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかの項に記載のフラットパネルディスプレイ用耐熱透明プラスチック基板。
【請求項6】
基板の厚みが10〜200μmであり、基板厚み方向の位相差(Rth)が0〜−200nmであることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかの項に記載のフラットパネルディスプレイ用耐熱透明プラスチック基板。
【請求項7】
ヘーズが2%以下であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかの項に記載のフラットパネルディスプレイ用耐熱透明プラスチック基板。

【公開番号】特開2012−97134(P2012−97134A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243375(P2010−243375)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】