説明

ブラダーおよびそれを用いたタイヤ製造方法

【課題】カーカス層のスプライス部の存在に起因してサイドウォール部において発生する凹凸構造(バンピーサイド故障)を低減する空気入りタイヤの提供。
【解決手段】タイヤ成形時に使用するブラダーのカーカススプライス部が当接する部分に凹部を形成する。タイヤ成形時にブラダーに設けたこの凹部にカーカススプライス部を配置し、このカーカススプライス部にブラダーの凹部を、インナーライナー層を介して当接した状態で、ブラダー内部から加圧流体を供給しブラダーをインフレートして、グリーンタイヤを加硫する。このブラダー凹部は少なくともタイヤサイドウォール部内面に当節する範囲のブラダー部位に配置される。ブラダー凹部のサイズに関しては、タイヤ周方向長さはカーカススプライス長さの1〜5倍であり、凹部の最大深さはカーカス層厚さの0.5〜3倍であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーカススプライス部に起因するサイドウォール部上の凹凸を低減するタイヤ製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、空気入りタイヤのカーカス層は、成形ドラムの周長よりも若干長くなるように切断されたシート状のカーカス部材を両端部が重なり合うようにスプライスした構造にすることにより、タイヤ成形工程においてトロイダル状に膨張させる際にスプライス部が離れるのを防止している。
【0003】
しかしながら、スプライス部を重ね合わせた構造にすると、補強コードもスプライス部で2〜5本程度オーバーラップするため、スプライス部の剛性がカーカス層の他の部分よりも大きくなり、カーカス層の不均一変形が生じやすくなる。その結果、サイドウォール部の表面に筋状の凹凸が発生する、いわゆるバンピーサイド(あるいはバンピースプライスとも言う)(BPS)によってタイヤの外観を損なうととともに、ユニフォミティを悪化させるという問題があった。特に、カーカス層を多数の帯状のカーカス部材(カーカスプライ)によって形成する場合は、スプライス部も多くなるため、カーカス層の不均一変形の発生率も高くなる。特に、近年のようにタイヤの軽量化対策上からサイドウォールのゴム厚を次第に薄肉化するにつれ、筋状の凹凸がますます顕著にあらわれるようになっている。そのため、タイヤの高級化指向と相まって、その対策が強く要求されるようになっている。カーカススプライス部により発生する凹みは強度上問題はないが、外観不良として商品性を悪くするという問題があり、それを解消しようとする種々の方法が提案されている。
【0004】
たとえば、サイドウォール部に細かな凹凸(セレーション)を設けることにより、凹みを目立たなくする方法が取られている。(特許文献1)また、補強コードを間に配置した一対の帯状ゴムを互いに幅方向にずらして重ね合わせ、一対のロールで圧延することにより、幅方向両端部にゴムのみからなるフランジ状の接合部を有する帯状のカーカス部材を形成し、この接合部同士を重ね合わせてスプライスするようにしたものが知られている(特許文献2)。これにより、スプライス部における補強コードのオーバーラップがなくなるとともに、スプライス部によるゴム厚の不均一も生じなくなるというものである。あるいは、図9は、ゴム引きシート(カーカス材料)の端末部の接合部を改良するための従来構造を示す工程断面図((a)〜(c))であるが、この図に示されるように、ゴム引きシートの端末部WaおよびWbの接合部間Sに、接合部の周囲領域Saを覆い、かつゴム引きシートの一方の端末部上から他方のゴム引きシートの端末部内側に中間ゴムシート3を介在させて一体的に接合させる方法も提案されている。(特許文献3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開H09−315111号公報
【特許文献2】特開2001−322403号公報
【特許文献3】特開平10−006414
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1等に提案されているセレーションを設ける対策は、サイドウォール部に別の刻印を付ける場合にはセレーションによりその刻印の視認性が悪くなるので採用することができない。バンピーサイドの出現状態によってはセレーションによって返ってBPSが浮き出て目立ってしまうこともある。またセレーションは模様であるから、模様を好まないユーザーにはセレーションの入ったタイヤは売れないことになり、自ずと限界がある。さらに、セレーション加工部をタイヤ周方向に沿って渦巻き状にしてサイドウォール部表面の広い範囲にわたって形成すると、そのセレーション加工部の鋸歯状の凹凸列の角からクラックが発生し易くなるという問題もある。
【0007】
特許文献2に提案されているゴムのみからなるフランジ状の接合部では、接合部(スプライス部)に補強コードが配置されないため、接合部の強度が弱くなるという問題がある。また、所望の帯状部材製造用の特殊な製造装置を使用する必要があり、生産性の面やコスト上の制約が多いという問題もある。特許文献3に提案されているスプライス部におけるカーカス層間に中間ゴムシートを介在させる方法では、スプライス部における剛性を緩和させる効果はあるが、中間ゴムシートという部材を新たに選択する必要があり構成要素が増えて条件設定が複雑になるという問題や、中間ゴムシートを所定位置にセットする工程および装置が必要になるという問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解消し特殊な装置を使用せずに、また新たな部材や工程を付加することなく、カーカススプライス部に起因するサイドウォール部上の凹凸を低減する方法を提供するものである。従来のタイヤにおいて、カーカススプライス部のカーカス層は周囲のカーカス層よりも厚くなっているため、その上のゴム層の厚みが周囲のゴム層よりも薄くなっている。我々は、このゴム層の薄い部分を厚くすることによりBPSを低減できることを発見し本発明に至った。すなわち、タイヤ成形時に使用するブラダーのカーカススプライス部がインナーライナー層を介して当接する部分に凹部を形成しておく。タイヤ成形時にブラダーに設けたこの凹部にインナーライナー層を介してカーカススプライス部を配置し、このカーカススプライス部にブラダーの凹部を、インナーライナー層を介して当接した状態で、ブラダー内部から加圧流体を供給しブラダーをインフレート(膨張)させて、グリーンタイヤを加硫する。このブラダー凹部は少なくともタイヤサイドウォール部内面に当節する範囲のブラダー部位に配置される。ブラダー凹部のサイズに関しては、タイヤ周方向長さはカーカススプライス長さの1〜5倍であり、凹部の最大深さはカーカス層厚さの0.5〜3倍であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
周囲より厚いカーカススプライス部をブラダーの凹部に配置することにより、カーカススプライス部をタイヤ内側に逃し、カーカススプライス部上のゴム層の厚みを周囲のゴム層の厚みと同程度とする。この結果、タイヤ成形後のサイドウォール部上の凹部はブラダーによってインフレートされてカーカスが変形する変形量に起因する分だけとなり、サイドウォール部においても目視では分からないほどの大きさの凹凸となるので、BPSを大幅に低減できる。特別に新しい装置や新たな部材を用いることもないし、製造工程を増加することもなく、従来の製造ラインおよび製造工程を使用してBPS低減を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の製造方法を説明する図であり、金型内にグリーンタイヤをセットした状態を示す図である。
【図2】図2は、グリーンタイヤの内周空洞部にブラダーを合わせた状態で配置した図である。
【図3】図3は、ブラダーをブラダー内に加圧流体を供給して圧力をかけた状態を示した図である。
【図4】図4は、本発明の製品タイヤの右半分断面図である。
【図5】図5は、本発明のブラダーの窪み部の大きさを見積もった図である。
【図6】図6は、カーカススプライス部分が入り込むブラダーの種々の窪み形状を示した図である。
【図7】図7は、ブラダーのインフレート前後におけるカーカススプライス部近傍のサイドウォール部の状態を模式的に示した従来図を示す図である。
【図8】図8は、ブラダーのインフレート前後におけるカーカススプライス部近傍のサイドウォール部の状態を模式的に示した本発明を示す図である。
【図9】図9は、ゴム引きシート(カーカス材料)の端末部の接合部を改良するための従来構造を示す工程断面図である
【発明を実施するための形態】
【0011】
図7および図8は、ブラダーのインフレート前後におけるカーカススプライス部近傍のサイドウォール部の状態を模式的に示した図である。図7は従来法による場合であり、図7(a)がブラダーのインフレート前の状態を示す図で、図7(b)はブラダーのインフレート後の状態を示す図である。カーカス層11は一周して一端部11−1と他端部11−2がカーカススプライス部13で重なって接着している。従って、スプライス部13のカーカス11(11−1+11−2)の厚みは、カーカス(プライ)一枚の厚みTの約2倍となる。カーカス層11の周囲はタイヤゴム層で覆われている。すなわち、カーカス層11のタイヤ内側はインナーライナーゴム層15で、カーカス層11のタイヤ外側はサイドウォールゴム層17で被覆されている。カーカス11はカーカスコード19をゴム引きして作製される。ブラダー21はインナーライナーゴム層15の内側に配置されている。
【0012】
ブラダーがインフレート(膨張)する前は、図7(a)に示すように、サイドウォールゴム層17の表面は平坦である。スプライス部13上のサイドウォールゴム層17の厚みをb2、スプライス部13でない領域のサイドウォールゴム層17の厚みをb1とすると、b2<b1となり、スプライス部13上のサイドウォールゴム層17の厚みは周囲のサイドウォールゴム層17の厚みより薄くなっている。また、b1≒b2+Tとなり、スプライス部13上のサイドウォールゴム層17の厚みは概略カーカス層11の厚みTだけ周囲より薄い。(接着層の厚みやスプライスした時のロール圧力等によりスプライス部のカーカス層は少しつぶれているので、概略等しいという表現となる。)
【0013】
次に、図7(a)の状態のグリーンタイヤ10をインナーライナーゴム層15の内側に当接するブラダー21を内側からインフレートさせる。エア等の高温加圧流体をブラダー内に供給し、グリーンタイヤ10を外側の金型(不図示)の内面に向けて適正な圧力で押し付ける(図7(b)に白抜き矢印で示す)ので、グリーンタイヤ10は加熱並びに加圧を施されて同時に加硫する。カーカス層11のスプライス部13は、カーカスコード19をゴム引きしたカーカス層が2枚積層しているので、他の領域のカーカス層11に比べて剛性が大きくなり、ブラダー21のインフレーション(膨張)による変形が小さい。従って、加硫後は図7(b)に示すように、カーカススプライス部の領域が凹部になり、それ以外のカーカス層11の領域が相対的に凸状態になる。また、インナーライナーゴム層15およびサイドウォールゴム層17もカーカス層11の変形に応じて変化する。この状態で加硫が終了するので、完成したタイヤ20において、カーカススプライス部13に対応する部分(のサイドウォールゴム層17)に凹部23が形成される。この凹部23がバンピーサイド(BPS)である。BPSの凹部の深さをhとすると、h>b1−b2=Δbとなり、カーカススプライス上およびその周囲のサイドウォールゴム層の厚み差ΔbよりもBPSの凹部の深さhは大きい。この違いをΔaとすれば、h=Δb+Δaであるが、Δaはブラダー21のインフレーションによってカーカススプライス部13のカーカス層とその周囲の(スプライスしていない)カーカス層との剛性差から生じるBPSの凹部の深さ相当分と考えることができる。
【0014】
BPSを低減する種々の対策は、これまでΔaを小さくすることに注力したものが多いが、本発明者はΔbを小さくすることに着目した。図8は、本発明の概念図を説明した模式図である。図8(a)はブラダー25をインフレートする前の図である。ブラダー25に窪み部25Cを設け、このブラダー窪み部25Cにカーカス11のスプライス部13が配置されるようにセットする。この状態が図8(a)である。このようにカーカス11のスプライス部13がブラダー25の窪み部25Cに入り込むようにセットすると、カーカス層11のスプライス部13上のサイドウォールゴム層17の厚みb4は、カーカス層11のスプライス部13以外の部分のサイドウォールゴム層17の厚みb3とほぼ等しくなる。(b3=b4)すなわち、サイドウォールゴム層17の厚みは、スプライス部13およびそれ以外のスプライス部13の周囲でほぼ一様な厚みとなる。
【0015】
次に、図8(a)の状態のグリーンタイヤ1をインナーライナーゴム層15の内側に当接するブラダー25を内側からインフレートさせる。エア等の高温加圧流体をブラダー内に供給し、グリーンタイヤ1を外側の金型(不図示)の内面に向けて適正な圧力で押し付ける(白抜き矢印で示す)ので、グリーンタイヤ1は加熱並びに加圧を施されて同時に加硫する。カーカス層11のスプライス部13は、他の領域のカーカス層11に比べて剛性が大きいため、ブラダー25のインフレーション(膨張)による変形が小さい。従って、加硫後は図8(b)に示すように、カーカススプライス部に対応する領域が凹部になりそれ以外のカーカス層11に対応する領域が凸状態になる。また、インナーライナーゴム層15およびサイドウォールゴム層17もカーカス層11の変形に応じて変化する。
【0016】
この状態で加硫が終了するので、完成したタイヤ2において、カーカススプライス部13の対応する部分に凹部26が形成される。この凹部がバンピーサイド(BPS)である。図7と同様に、BPSの凹部の深さhは、h=Δb+Δaであるが、Δb=b3−b4≒0であるから、h≒Δaである。すなわち、BPSの深さは、ブラダーのインフレーションによってカーカススプライス部のカーカス層とその周囲の(スプライスしていない)カーカス層との剛性差から生じるBPSの凹部の深さの相当分だけである。従って、ブラダーに設けた窪み部(凹部)25にカーカススプライス部13を配置して当接しながら加硫するとBPSを低減することができる。
【0017】
本発明のタイヤ製造方法について、図1〜図4を参照して詳細に説明する。図1は金型31内にグリーンタイヤ33をセットした図である。図1はグリーンタイヤおよび金型の片側半部を示している。金型31は、たとえば、中央部および両サイド部の3つ、または多数のセグメントからなる分割式の金型で、タイヤ表面の形状を決定する。トレッドパターン等もこれらの金型31を用いてタイヤのトレッド部34に転写する。(部位等の番号については、図1〜図4のすべてを参照のこと)図1に示すように、グリーンタイヤ33のトレッド部34、サイドウォール部35およびビード部36を対応する金型31の各部分に合わせて配置する。グリーンタイヤ31は、カーカス37がトレッド部34からサイドウォール部35へかけて一定の曲率で曲がり、タイヤ径方向内側へ延びサイド部に連なるビード部36のビードコア38で折り返され、ビードフィラー39において係止され終端している。図1においては、カーカス(層)37は1枚のカーカスプライで示しているが、複数のカーカスプライでカーカス37を形成することもできる。
【0018】
カーカス層37の内側には、ブチルゴムなどの非通気性に優れたゴムからなるインナーライナー41が設けられている。トレッド部34において、カーカス層37の外周側にはスチールコードからなる2層のベルト層43が設けられ、その外側はトレッドゴム44で被覆されている。サイドウォール部35において、カーカス層37の外側は天然ゴムやジエン系ゴムなどからなるサイドウォールゴム47で被覆されている。
【0019】
グリーンタイヤ33の内周空洞部に、ブラダーを収縮させた状態で配置する。ブラダー45は膨張した際に、グリーンタイヤ33の内周空洞部と同じ大きさで同形状になるように形成されている。従って、ブラダー45は、インフレートするとグリーンタイヤの内周面全体に密着する。図2は、グリーンタイヤ33の内周空洞部にブラダー45が密着して合わせた状態を示す図である。このブラダー45は窪み部45Cを有していて、この窪み部45Cはカーカススプライス部37Sが入り込むことができる程度の大きさである。ブラダー45が膨張したときに、この窪み部45Cがカーカススプライス部37Sに(インナーライナー41を介して)当接するように、ブラダー45をグリーンタイヤ33に位置決めする。この位置決めは目視で合わせることもできるし、センサーを用いて機械的に位置決めすることも可能である。
【0020】
次に、図3に示すように、グリーンタイヤ33の内側に配置されたブラダー45内にエアまたはスチーム等の加圧流体を供給して、ブラダー45をタイヤ外側へ(白抜き矢印方向へ)ブラダー45をインフレート(膨張)させて、ブラダー45にてグリーンタイヤ33を金型31の内面に向け適度な圧力で押しつける。加圧流体の温度は高い(たとえば、160℃〜220℃)ので、同時にグリーンタイヤ33は加硫される。この工程において、ブラダーの窪み部(凹部)45Cは(インナーライナー41を介して)カーカススプライス部37Sに当接した状態で圧力を受けて同時に加硫される。上述したように、カーカススプライス部37Sの周囲のカーカスはカーカススプライス部37Sに比較して剛性が小さいので、ブラダー45の膨張によりタイヤ外側方向の力を受けてタイヤ外側方向に変形する。一方カーカススプライス部37Sはカーカススプライス部37Sの周囲のカーカスに比較して剛性が大きいので、タイヤ外側方向への変形は小さい。
【0021】
加硫工程が終了すれば、グリーンタイヤ33は硬く強度のある加硫タイヤとなるので、ブラダー45を収縮させて金型31から加硫成型されたタイヤを取り出し、図4に示す製品タイヤ40が作製される。カーカススプライス部37Sがブラダー45の窪み部45Cに対応した部分でタイヤ内側へ突状になり(少し誇張して描いている)、およびインナーライナーもタイヤ内側へ突状部分41Sが形成される。一方、サイドウォール部においては、カーカススプライス部37Sに対応する領域およびその周辺領域47SにおけるBPSは小さくなっており外観上目立たなくなる。バンピーサイドは、トレッドパターン等の模様のないサイドウォール部で顕著に目立つので、本発明のブラダーの窪み部を配置する箇所は、サイドウォール部にカーカスストライプがくる部分に対応する場所に配置すれば充分であるが、もっと正確に言えば、タイヤ幅方向接地端からビードフィラーの頂点にかけての範囲である。ビードフィラーを持たないか、ビードフィラー高さが低い場合には、組み合わされるリムのフランジ高さまでの部分に対応するブラダーの部分に窪み部を設ければ良い。
【0022】
図5は、本発明のブラダーの窪み部の大きさを見積もった図である。カーカス51の両端部51−1および51−2が重なった部分がカーカススプライス部51Sである。また、このカーカススプライス部51Sはブラダー53の窪み部53Cに合わせ込んで配置される。カーカススプライス部51Sの長さ(タイヤ周方向となる)をM、ブラダー53の窪み部53Cの長さ(タイヤ周方向)をLとする。カーカススプライス部51Sは完全にブラダー53の窪み部53Cに入り込むとBPS低減効果が大きいので、L≧Mとなる。ただし、ブラダー53の窪み部53Cが余り大きすぎるとブラダーが平坦な場合と余り変わらなくなるので、カーカススプライス部51Sの長さMの5倍以下が良い。すなわち、L≦5Mである。また、ブラダー53の窪み部53Cの深さHは、カーカス51の厚みをTとしたとき、0.5xT≦H≦3xTとするのが良い。カーカススプライス部51Sがある程度ブラダー53の窪み部53Cの中に入り込めばBPS低減の効果が出てくる。すなわち、Hは0.5xT程度でBPS低減の効果が出てくる。しかし、Hが3Tより大きくなるとブラダー53の窪み部53Cの底部がインナーライナー52に接触しなくなり、充分な圧力と温度がこの部分のタイヤに伝わらなくなり、この部分および周辺のゴム層(インナーライナー、カーカス、サイドウォール)の加硫が不十分となるため好ましくない。また、エア溜まりも起こる場合がある。乗用車用タイヤの場合Hは好適には0.5mm〜10mmの範囲である。0.5mmより小さいとBPS低減効果が小さく、10mm以上だとブラダーの窪み分の体積を埋めることができずエア溜まりも生じる。
【0023】
図6は、カーカススプライス部分が入り込むブラダーの種々の窪み形状を示した図である。図5に示した窪みと同様な直方体形状の窪み(図6(b))、楕円体状の窪み、(図6(c))、円錐状の窪み、(図6(d))、コニーデ形状の窪み、(図6(e))など種々の形状でも良い。重要なことは、カーカススプライス部51Sが入り込む部分のすべての領域が上述した条件(L≦5M、0.5xT≦H≦3xT)を満足すれば良い。尚、ブラダー窪みはエア抜き溝を代用できるが、さらにエア抜き用あるいはブラダーの脱着用の溝(主溝)を補助するために副溝として、ブラダー窪み部にマイクログルーブおよびペブル模様を配置しても良い。マイクログルーブやペブル模様は、内圧が大気圧状態のブラダー上において深さが約0.1mm〜1.0mmの範囲内の溝を言う。
【実施例】
【0024】
カーカススプライス部にインナーライナーを介して当接するブラダーの窪み部の大きさを種々変えたブラダーを作製し、これらを用いてタイヤを試作した。これらのタイヤを各仕様で20本加硫しバンピーサイド(BPS)量を計測した。試作および計測条件は以下の通りである。
タイヤサイズ:205/55R16 91V
タイヤサイズ:205/55R16 91V
計測部位;タイヤバットレス部
計測方式:レーザー変位計
計測固体数:各20本
タイヤ:60rpm
空気圧:200kPa
ブラダーの凹み形成箇所:ベルト端〜最大幅部に当接する範囲
カーカス層厚さ(T):1mm
カーカススプライス部の長さ(M):5mm
ブラダーの凹み深さ:カーカス層の厚さ(T)に対して0.4T〜4Tで変化させた。
ブラダーの凹み部周方向長さ:カーカススプライス部の長さ(M)に対してM〜6Mの範囲で変化させた。
結果を表1に示す。表1の窪み部の深さおよび長さに関しては、それぞれ上記のTおよびMに対する比で示す。
【0025】
【表1】

【0026】
各20本のタイヤのバンピーサイド(BPS)量の平均について、従来例(窪(凹)み部のないブラダーで作製したタイヤ)との比較で示した。表1に示す平均BPS量(指数)は従来例を100とし、この従来例に対してどの程度平均BPS量が小さくなったかを示している。指数70というのは平均BPS量が従来例の70%に低減したことを表す。指数が90以上は効果なしと判定した。指数が90以下について効果があると判定したが、指数80〜90は効果ありとし(△)、指数70〜80は効果が大きいと判定し(○)、指数が70以下は非常に効果が大きいと判定した(◎)。比較例2の場合、窪み部の深さが大きすぎたため窪み部内面にライト故障が発生し、窪み部周囲のライナー厚さが減少した。これは窪み分の体積を埋めきれずにエア溜まりが発生したものと考えられる。これらの結果から、ブラダーに窪み部を付けて、カーカススプライス部をこのブラダーの窪み部にインナーライナー層を介して合わせて、全体を当接したブラダーをインフレーションして加硫すれば、BPSを低減できることが明らかになった。また、窪み部の深さHについては0.5T≦H≦3T、窪み部の周方向長さLは、M≦L≦5Mであれば、BPS低減効果があることを確認した。
【0027】
以上説明したように、サイドウォール部において、タイヤ成形時に使用するブラダーのカーカススプライス部が当接する部分に凹部(窪み部)を形成しておき、タイヤ成形時にブラダーに設けたこの凹部にインナーライナー層を介してカーカススプライス部を配置して、ブラダーをインフレートした際にこのカーカススプライス部にブラダーの凹部を当接した状態で加硫する。このようにして作製した加硫済みタイヤはバンピーサイドサイズが小さくなり、バンピーサイド不良を大幅に低減できる。
尚、明細書のある部分に記載し説明した内容を記載しなかった他の部分においても矛盾なく適用できることに関しては、当該他の部分に当該内容を適用できることは言うまでもない。さらに、上記実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施でき、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことも言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、カーカススプライス部以外にも帯状部材のスプライス部を有するタイヤに利用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1・・・グリーンタイヤ、2・・・完成タイヤ、10・・・グリーンタイヤ
11・・・カーカス層、13・・・カーカススプライス部、
15・・・インナーライナーゴム層、17・・・サイドウォールゴム層、
19・・・カーカスコード、20・・・完成タイヤ、21・・・ブラダー、
23・・・凹部、25・・・ブラダー、25C・・・ブラダー窪み部、26・・・凹部、
31・・・金型、33・・・グリーンタイヤ、34・・・トレッド部、
35・・・サイドウォール部、36・・・ビード部、37・・・カーカス(層)、
37S・・・カーカススプライス部、38・・・ビードコア、39・・・ビードフィラー、
40・・・製品タイヤ、41・・・インナーライナー、41S・・・突状部分、
43・・・ベルト層、44・・・トレッドゴム、45・・・ブラダー、
45C・・・ブラダー窪み部、47・・・サイドウォールゴム、
51・・・カーカス、51S・・・カーカススプライス部、52・・・インナーライナー、
53・・・ブラダー、53C・・・ブラダー窪み部、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーカススプライス部に当接する凹部を有するブラダーを用いたタイヤ製造方法であって、タイヤ内面の前記カーカススプライス部に前記ブラダーの凹部を位置決めする工程と、前記カーカススプライス部に前記ブラダー凹部を当接させた状態で加硫する工程を含むことを特徴とするタイヤ製造方法。
【請求項2】
前記ブラダー凹部は少なくともタイヤサイドウォール部内面に当接する範囲に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ製造方法。
【請求項3】
前記ブラダー凹部のタイヤ周方向長さはカーカススプライス長さの1〜5倍であることを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ製造方法。
【請求項4】
前記ブラダー凹部の深さはカーカス層厚さの0.5〜3倍であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載のタイヤ製造方法。
【請求項5】
カーカススプライス部に当接する凹部を有するブラダー。
【請求項6】
前記ブラダー凹部は少なくともタイヤサイドウォール部内面に当節する範囲に配置されていることを特徴とする請求項5に記載のブラダー。
【請求項7】
前記ブラダー凹部のタイヤ周方向長さはカーカススプライス長さの1〜5倍であることを特徴とする請求項1または2に記載のブラダー。
【請求項8】
前記ブラダー凹部の深さはカーカス層厚さの0.5〜3倍であることを特徴とする請求項5〜7のいずれかの項に記載のブラダー。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれかの項に記載のブラダーを用いて作製された空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−52582(P2013−52582A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192181(P2011−192181)
【出願日】平成23年9月3日(2011.9.3)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】