説明

ブレーキバンドを用いた前後進切換え機構

【課題】同じ容量の湿式多板ブレーキと比較して引き摺りトルクを低減し、これにより動力損失を低減し、燃費の向上を図ることができる前後進切換え装置を提供すること。
【解決手段】同軸に設けられ、相対回転自在の入力要素と固定要素と出力要素とを備え、前記入力要素に伝達される内燃機関の回転駆動力を、前記入力要素と前記固定要素と前記出力要素を介して、前記入力要素の回転方向と同方向又は逆転方向の回転駆動力として前記出力要素から出力する遊星機構と、前記遊星機構の前記固定要素を固定可能とするブレーキ手段とを備え、車両用自動変速機に用いられる前後進切換え装置において、前記ブレーキ手段は、前記固定要素と一体に形成され外周面を備えた回転ドラムと、該回転ドラムの外周面を取巻き固定可能なブレーキバンドとから成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用自動変速機の前後進切換え機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の自動変速機は、トルクコンバータに連結された変速機入力軸から変速機出力軸までの間に配設された前後進切換え装置と自動変速装置とを備えている。これら前後進切換え装置及び自動変速装置は、複数のブレーキ機構と複数のクラッチ機構と複数の遊星歯車機構とを組み合わせて構成されている。遊星歯車機構は、小径で外歯を有するサンギヤと、大径で内歯を有するリングギヤとが同軸上に設けられ、サンギヤとリングギヤとの間に、プラネタリーキャリアに支持されたピニオンギヤが配設されている。
【0003】
自動変速装置では、遊星歯車機構のサンギヤ、リングギヤ、及びプラネタリーキャリアは、それぞれ入力要素、固定要素、及び出力要素の何れかに対応し、何れの部材を何れの要素に対応させるかにより入力要素に対する出力要素の速度比が変化して変速がなされる構成になっている。そして、何れの部材を入力要素、固定要素、又は出力要素とするかは、各要素に連結されたブレーキ機構及びクラッチ機構の締結、解放を行うことにより行なわれる。
【0004】
前後進切換え装置においても、ブレーキ機構及びクラッチ機構の締結、解放を行うことにより遊星歯車機構のサンギヤ、リングギヤ、及びプラネタリーキャリアをそれぞれ入力要素、固定要素、及び出力要素の何れかに対応させ、入力要素に対する出力要素の回転方向を、入力要素の回転と同方向または逆転方向に切換えている。
【0005】
車両の自動変速機には、上記のような遊星歯車機構を用いた有段式のものと、有段式に比べて燃費の面でも効率が良く、変速ショックのないベルトとプーリーを用いた無段式のものがある(特許文献1、特許文献2参照)。また、これらを組み合わせた方式のものも開示されている(特許文献3参照)。しかし、無段変速機(以下CVTという)を採用した車両においても、前後進の切換え装置としては遊星歯車機構を用いている。上記各特許文献においては、エンジンからトルクコンバータを通して入力された駆動力を、特許文献1の図1に記載されている前後進切換え装置(3)、特許文献2の図1に記載されている前後進切換機構60、特許文献3の図1の前後進切り換え機構41により、前後進を切換えている。
【0006】
これらのCVTに使用されている前後進切換え装置には、シングルピニオン式遊星歯車機構又はダブルピニオン式遊星歯車機構が用いられている。一般的に、ダブルピニオン式遊星歯車機構を用いた場合には、後進時において、サンギヤを入力要素、リングギヤを固定要素、プラネタリーキャリアを出力要素として入力要素の回転方向と逆転方向の回転として出力をする。また、シングルピニオン式遊星歯車機構を用いた場合には、後進時において、サンギヤを入力要素、プラネタリーキャリアを固定要素、リングギヤを出力要素として、又はリングギヤを入力要素、プラネタリーキャリアを固定要素、サンギヤを出力要素として、入力要素の回転方向と逆転方向の回転として出力をする。これらの前後進切替え装置の遊星歯車機構においては、後進時にリングギヤ又はプラネタリーキャリアを固定要素とするために使用されるブレーキとしては、いずれも湿式多板ブレーキが使用されている。
【特許文献1】特開2002−89687号公報
【特許文献2】特開2004−144139号公報
【特許文献3】特開2002−98171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前後進切換え装置において、遊星歯車機構の固定要素は、エンジンが回転中で、かつ、ブレーキが作動していない間も常時回転している。
【0008】
このため、前後進切換え装置の遊星歯車機構に湿式多板ブレーキを用いた場合、湿式多板ブレーキのフリクションプレートとセパレータプレート間の引き摺りトルクは、CVTの効率に悪影響を及ぼす。近年、益々燃費向上の要求が高まり、CVTの効率向上も強く要求されているため、このような引き摺りトルクの低減も強く要求されている。
【0009】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、同じ容量の湿式多板ブレーキと比較して引き摺りトルクを低減し、これにより動力損失を低減し、燃費の向上を図ることができる前後進切換え装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る前後進切換え装置は、同軸に設けられ、相対回転自在の入力要素と固定要素と出力要素とを備え、前記入力要素に伝達される内燃機関の回転駆動力を、前記入力要素と前記固定要素と前記出力要素を介して、前記入力要素の回転方向と同方向又は逆転方向の回転駆動力として前記出力要素から出力する遊星機構と、前記遊星機構の前記固定要素を固定可能とするブレーキ手段とを備え、車両用自動変速機に用いられる前後進切換え装置において、前記ブレーキ手段は、前記固定要素と一体に形成され、外周面を備えた回転ドラムと、該回転ドラムの外周面を取巻き固定可能なブレーキバンドとから成ることを特徴とする。
【0011】
また、前記遊星機構は、サンギヤと、該サンギヤの径方向外側に配置され、該サンギヤと噛合うピニオンギヤと、該ピニオンギヤを自転及び公転自在に支持するプラネタリーキャリアと、前記ピニオンギヤを介して前記サンギヤと噛合うリングギヤとを備え、前記サンギヤと前記プラネタリーキャリアと前記リングギヤは、それぞれ前記入力要素、前記固定要素及び前記出力要素の何れかを構成する遊星歯車機構であることを特徴とする。
【0012】
好適には、請求項1又は2に記載の前後進切換え装置は、無段変速機を用いた自動変速機に用いられることを特徴とする。
【0013】
また、請求項1乃至3の何れか一項に記載の前後進切換え装置において、前記遊星歯車機構は、前記サンギヤが前記入力要素を構成し、前記リングギヤが前記固定要素を構成し、前記プラネタリーキャリアが前記出力要素を構成しており、前記リングギヤを前記ブレーキバンドで固定することにより、前記サンギヤに伝達される前記内燃機関の回転駆動力を、前記ピニオンギヤを介して前記サンギヤの回転方向とは逆転方向の回転駆動力として前記プラネタリーキャリアから出力することを特徴とする。
【0014】
また、請求項1乃至3の何れか一項に記載の前後進切換え装置において、前記遊星歯車機構は、前記サンギヤが前記入力要素を構成し、前記プラネタリーキャリアが前記固定要素を構成し、前記リングギヤが前記出力要素を構成しており、前記プラネタリーキャリアを前記ブレーキバンドで固定することにより、前記サンギヤに伝達される前記内燃機関の回転駆動力を、前記ピニオンギヤを介して前記サンギヤの回転方向とは逆転方向の回転駆動力として前記リングギヤから出力することを特徴とする。
【0015】
また、請求項1乃至3の何れか一項に記載の前後進切換え装置において、前記遊星歯車機構は、前記リングギヤが前記入力要素を構成し、前記プラネタリーキャリアが前記固定要素を構成し、前記サンギヤが前記出力要素を構成しており、前記プラネタリーキャリアを前記ブレーキバンドで固定することにより、前記リングギヤに伝達される前記内燃機関の回転駆動力を、前記ピニオンギヤを介して前記リングギヤの回転方向とは逆転方向の回転駆動力として前記サンギヤから出力することを特徴とする。
【0016】
好適には、請求項3乃至6の何れか一項に記載の前後進切換え装置において、前記出力要素は、前記無段変速機を用いた自動変速機の入力軸に連結していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る前後進切換え装置によれば、同じ容量の湿式多板ブレーキと比較して、引き摺りトルクはおよそ半分に低減される。これにより動力損失が低減されるため、自動変速機の前後進切換え装置のブレーキとして用いれば、燃費向上に寄与するものである。特に無段変速機を採用した車両に用いれば、より一層無段変速機の効率向上が達成でき、燃費の向上に大きく貢献する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る前後進切換え装置について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1は、本発明の第1実施形態に係る前後進切換え装置1の構成を示すスケルトン図である。前後進切換え装置1は、図1右方の図示しないトルクコンバータを介してエンジン側に接続している入力軸2と連結しており、入力軸2と同軸に配置された遊星歯車機構5と、ミッションケース15に固設されたブレーキ4とを備えている。本実施形態では、遊星歯車機構5はダブルピニオン式の遊星歯車機構を用いている。遊星歯車機構5は、入力軸2に一体に連結されて回転駆動するサンギヤSと、サンギヤSの径方向外側に配置され、サンギヤSに噛合うピニオンギヤP1と、ピニオンギヤP1の外径側で該ピニオンギヤP1に噛合うピニオンギヤP2と、ピニオンギヤP1及びP2を自転及び公転自在に支持するプラネタリーキャリアCRと、ピニオンギヤP2と噛合う内歯を備えたリングギヤRとで構成されている。リングギヤRは回転ドラムDを外周に一体に形成して、クラッチ3を介して入力軸2に係脱可能に連結しており、回転ドラムDの外周面は図5を参照して後述するブレーキ4により固定可能に配設されている。プラネタリーキャリアCRは、入力軸2と同軸で無段変速機25の入力軸であるプライマリシャフト30と一体に連結している。
【0020】
無段変速機25は、プライマリシャフト30と、プライマリシャフト30に支持されたプライマリプーリ32と、無段変速機25の出力軸であるセカンダリシャフト34と、セカンダリシャフト34に支持されたセカンダリプーリ36と、プライマリプーリ32とセカンダリプーリ36との間に巻き掛けられてこれら両プーリを連結する金属ベルト38とを備えている。プライマリプーリ32は、プライマリシャフト30と一体回転する固定側プーリ半体32aと可動側プーリ半体32bとを備え、可動側プーリ半体32bは固定側プーリ半体32aに対して接近、離反するように軸方向に移動可能に配設されている。固定側プーリ半体32aと可動側プーリ半体32bとの間にはV字状の溝が形成されている。セカンダリプーリ36は、セカンダリシャフト34と一体回転する固定側プーリ半体36aと可動側プーリ半体36bとを備え、可動側プーリ半体36bは固定側プーリ半体36aに対して接近、離反するように軸方向に移動可能に配設されている。固定側プーリ半体36aと可動側プーリ半体36bとの間にはV字状の溝が形成されている。
【0021】
プライマリプーリ32の可動側プーリ半体32bとセカンダリプーリ36の可動側プーリ半体36bは、油圧を利用してそれぞれ軸方向に移動可能となっており、これらの可動側プーリ半体32b、36bの移動によりプライマリプーリ32とセカンダリプーリ36のそれぞれのV字状溝幅が変更可能になっている。これら両プーリ32、36のV字状溝幅を変更することにより両プーリ32、36に対する金属ベルト38の巻き掛け円弧径を変化させる構成となっている。
【0022】
セカンダリシャフト34は、図示しないディファレンシャルギヤ装置に接続され、ディファレンシャルギヤ装置は図示しない駆動車輪へと接続されている。
【0023】
車両の前進走行時は、制御装置20を介してクラッチ3が締結され、図示しないトルクコンバータを介して入力軸2に伝達されるエンジンの回転駆動力はサンギヤS及びリングギヤRに伝達され、サンギヤS及びリングギヤRは入力軸2の回転方向と同方向に一体となって回転する。サンギヤS及びリングギヤRの一体回転により、ピニオンギヤP1及びP2を介してプラネタリーキャリアCRも同方向に一体となって回転する。すなわち、サンギヤS、プラネタリーキャリアCR、リングギヤRは一体となって入力軸2の回転方向と同方向に回転し、入力軸2の回転をそのままプラネタリーキャリアCRに一体に連結された無段変速機25のプライマリシャフト30に伝達する。
【0024】
プライマリシャフト30と一体回転するプライマリプーリ32も同方向に回転し、プライマリプーリ32の回転は金属ベルト38を介してセカンダリプーリ36に伝達される。ここで、プライマリプーリ32の可動側プーリ半体32bとセカンダリプーリ36の可動側プーリ半体36bとを油圧によってそれぞれ軸方向に移動することにより、両プーリ32、36のV字状溝幅が変更され、両プーリ32、36に対する金属ベルト38の巻き掛け円弧径が変化する。これによりプライマリプーリ32の回転は無段階に変速されてセカンダリプーリ36に伝達される。
【0025】
こうして、セカンダリシャフト34に伝達された入力軸2の回転方向と同方向の回転駆動力は、図示しないディファレンシャルギヤ装置を介して図示しない駆動車輪に伝達され、車両は前進走行可能となる。
【0026】
一方、車両の後進走行時は、制御装置20を介してクラッチ3は解放され、図5を参照して後述するブレーキ4が締結されて回転ドラムDが固定される。ブレーキ4はミッションケース15に固設されているため、リングギヤRは固定要素となる。このため、入力軸2に伝達されるエンジンの回転駆動力はサンギヤSに伝達され、ピニオンギヤP1及びP2を介することによりプラネタリーキャリアCRを入力軸2の回転方向とは逆転方向に回転させる。こうして、プラネタリーキャリアCRに一体に連結された無段変速機25のプライマリシャフト30は入力軸2の回転方向とは逆転方向に回転し、プライマリシャフト30に設けられたプライマリプーリ32も入力軸2の回転方向とは逆転方向に回転する。プライマリプーリ32の回転は金属ベルト38を介してセカンダリプーリ36に伝達される。こうして、セカンダリプーリ36とセカンダリシャフト34は一体回転し、入力軸2の回転方向と逆転方向の回転駆動力は、図示しないディファレンシャルギヤ装置を介して駆動車輪に伝達され、車両は後進走行可能となる。
【0027】
本実施形態の前後進切換え装置1では、後進走行時において遊星歯車機構5の固定要素となるリングギヤRを固定するブレーキ手段として、ブレーキバンド10を用いている。図5は、本実施の形態に用いるブレーキバンド10の斜視図である。ブレーキバンド10は、一箇所で破断した環状のストラップ11と、ストラップ11の破断したそれぞれの端部に設けられたアンカーブラケット12及びアプライブラケット13と、ストラップ11の内周に固着された摩擦材14とからなる。ストラップ11の内径側にはリングギヤRが配設される。アンカーブラケット12はアンカーピン(図示なし)によりミッションケース15に固設され、一方、アプライブラケット13は可動となっている。
【0028】
アプライブラケット13に図示しないアプライピンによる力を加えることにより、アプライブラケット13をアンカーブラケット12に近づけるように変位させることでブレーキバンド10の内径を小さくし、ブレーキバンド10の内周面が図示しないリングギヤRの外周に一体形成された回転ドラムDの外周面に圧接する。このようにして、回転ドラムDの外周面はブレーキバンド10により取巻き固定され、リングギヤRが停止状態で固定される。
【0029】
図6は、従来の湿式多板ブレーキを用いた前後進切換え装置におけるフリクションプレートとセパレータプレート間の引き摺りトルクと、本発明に係る前後進切換え装置1におけるブレーキバンド10と回転ドラムD間の引き摺りトルクを比較したものである。図6から分かるように、本発明に係る前後進切換え装置1におけるブレーキバンド10と回転ドラムDとの引き摺りトルクは、従来の湿式多板ブレーキを用いた前後進切替え装置のフリクションプレートとセパレータプレートとの引き摺りトルクのおよそ半分に低減されている。従って本発明に係る前後進切替え装置を用いれば、引き摺りトルクによる動力損失は大幅に低減され、効率の向上及び燃費の向上を図ることができる。
【0030】
図2は本発明の第2実施形態に係る前後進切換え装置の構成を示すスケルトン図である。本実施形態に係る前後進切換え装置1では、遊星歯車機構5にシングルピニオン式の遊星歯車機構を用いている。本実施形態においては、シングルピニオン式の遊星歯車機構は、入力軸2に一体に連結されて回転駆動するサンギヤSと、サンギヤSの径方向外側に配置され、サンギヤSと噛合うピニオンギヤPと、ピニオンギヤPを自転及び公転自在に支持するプラネタリーキャリアCRと、ピニオンギヤPと噛合う内歯を備えたリングギヤRとで構成されている。プラネタリーキャリアCRは、同軸の回転ドラムDを一体に形成して、クラッチ3を介して入力軸2に係脱可能に連結されており、回転ドラムDの外周面は図5を参照して後述するブレーキ4により固定可能に配設されている。リングギヤRは、入力軸2と同軸で無段変速機25の入力軸であるプライマリシャフト30と一体に連結されている。無段変速機25の構成は上記第1実施形態と同様である。
【0031】
本実施形態においては、車両の前進走行時は、制御装置20を介してクラッチ3が締結され、図示しないトルクコンバータを介して入力軸2に伝達されるエンジンの回転駆動力はサンギヤS及びプラネタリーキャリアCRに伝達され、サンギヤS及びプラネタリーキャリアCRは入力軸2の回転方向と同方向に一体となって回転する。サンギヤS及びプラネタリーキャリアCRの一体回転により、ピニオンギヤPを介してリングギヤRも同方向に一体となって回転する。すなわち、サンギヤS、プラネタリーキャリアCR、リングギヤRは一体となって入力軸2の回転方向と同方向に回転し、入力軸2の回転をそのままリングギヤRに一体に連結された無段変速機25のプライマリシャフト30に伝達する。プライマリシャフト30に伝達された入力軸2の回転方向と同方向の回転駆動力は、上記第1実施形態の前進走行時と同様の回転伝達経路を介して駆動車輪に伝達され、車両は前進走行可能となる。
【0032】
一方、車両の後進走行時は、制御装置20を介してクラッチ3は解放され、図5を参照して後述するブレーキ4が締結されて回転ドラムDが固定されることにより、プラネタリーキャリアCRは固定要素となる。このため、入力軸2に伝達されるエンジンの回転はサンギヤSに伝達され、ピニオンギヤPを介することによりリングギヤRを入力軸2の回転方向とは逆転方向に回転させる。こうして、リングギヤRに一体に連結された無段変速機25のプライマリシャフト30は入力軸2の回転方向とは逆転方向に回転する。プライマリシャフト30に伝達された入力軸2の回転方向と逆転方向の回転駆動力は、上記第1実施形態の後進走行時と同様の回転伝達経路を介して駆動車輪に伝達され、車両は後進走行可能となる。
【0033】
本実施形態に係る前後進切換え装置1においても、後進走行時において遊星歯車機構5の固定要素となるプラネタリーキャリアCRを固定するブレーキ手段として、図5に示すブレーキバンド10を用いている。ブレーキバンド10の構成は上記実施例と同様であるが、ブレーキバンド10によって固定される対象は、プラネタリーキャリアCRと同軸に一体形成された回転ドラムである。
【0034】
図3は本発明の第2実施形態の第1変形例に係る前後進切換え装置のスケルトン図である。本変形例に係る前後進切換え装置1では、遊星歯車機構5にシングルピニオン式の遊星歯車機構を用いている。本変形例においては、シングルピニオン式の遊星歯車機構は、入力軸2に一体に連結されて回転駆動する内歯を備えたリングギヤRと、リングギヤRの径方向内側に配置され、リングギヤRと噛合うピニオンギヤPと、ピニオンギヤPを自転及び公転自在に支持するプラネタリーキャリアCRと、ピニオンギヤPと噛合うサンギヤSとで構成されている。プラネタリーキャリアCRは、同軸の回転ドラムDを一体に形成して、クラッチ3を介して入力軸2に係脱可能に連結されおり、回転ドラムDの外周面は図5を参照して後述するブレーキ4により固定可能に配設されている。サンギヤSは、入力軸2と同軸で無段変速機25の入力軸であるプライマリシャフト30と一体に連結している。無段変速機25の構成要素は上記第2実施形態と同様である。
【0035】
本変形例においては、車両の前進走行時は、制御装置20を介してクラッチ3が締結され、トルクコンバータを介して入力軸2に伝達されるエンジンの回転はリングギヤR及びプラネタリーキャリアCRに伝達され、リングギヤR及びプラネタリーキャリアCRは入力軸2の回転方向と同方向に一体となって回転する。リングギヤR及びプラネタリーキャリアCRの一体回転により、ピニオンギヤPを介してサンギヤSも入力軸2の回転方向と同方向に一体となって回転する。すなわち、サンギヤS、プラネタリーキャリアCR、リングギヤRは一体となって入力軸2の回転方向と同方向に回転し、入力軸2の回転をそのままサンギヤSに一体に連結された無段変速機25のプライマリシャフト30に伝達する。プライマリシャフト30に伝達された入力軸2の回転方向と同方向の回転駆動力は、上記第2実施形態の前進走行時と同様の回転伝達経路を介して駆動車輪に伝達され、車両は前進走行可能となる。
【0036】
一方、車両の後進走行時は、制御装置20を介してクラッチ3は解放され、図5を参照して後述するブレーキ4が締結されて回転ドラムDが固定されることにより、プラネタリーキャリアCRは固定要素となる。このため、入力軸2に伝達されるエンジンの回転はリングギヤRに伝達され、ピニオンギヤPを介することによりサンギヤSを入力軸2の回転方向とは逆転方向に回転させる。こうして、サンギヤSに一体に連結された無段変速機25のプライマリシャフト30は入力軸2の回転方向とは逆転方向に回転する。プライマリシャフト30に伝達された入力軸2の回転方向と逆転方向の回転駆動力は、上記第2実施形態の後進走行時と同様の回転伝達経路を介して駆動車輪に伝達され、車両は後進走行可能となる。
【0037】
本変形例に係る前後進切換え装置1においても、後進走行時において遊星歯車機構5の固定要素となるプラネタリーキャリアCRを固定するブレーキ手段として、図5に示すブレーキバンド10を用いている。ブレーキバンド10の構成は上記第2実施形態と同様である。
【0038】
図4は本発明の第2実施形態の第2変形例に係る前後進切換え装置のスケルトン図である。本変形例に係る前後進切換え装置1では、遊星歯車機構5にシングルピニオン式の遊星歯車機構を用いている。本変形例においては、シングルピニオン式の遊星歯車機構は、入力軸2に一体に連結されて回転駆動する内歯を備えたリングギヤRと、リングギヤRの径方向内側に配置され、リングギヤRと噛合うピニオンギヤPと、ピニオンギヤPを自転及び公転自在に支持するプラネタリーキャリアCRと、ピニオンギヤPと噛合うサンギヤSとで構成されている。プラネタリーキャリアCRは、同軸の回転ドラムDを一体に形成しており、回転ドラムDの外周面は図5を参照して後述するブレーキ4により固定可能に配設されている。サンギヤSは、入力側でクラッチ3を介して入力軸2に係脱可能に連結し、出力側で入力軸2と同軸で無段変速機25の入力軸であるプライマリシャフト30と一体に連結している。無段変速機25の構成要素は上記第2実施形態と同様である。
【0039】
本変形例においては、車両の前進走行時は、制御装置20を介してクラッチ3が締結され、トルクコンバータを介して入力軸2に伝達されるエンジンの回転はリングギヤR及びサンギヤSに伝達され、リングギヤR及びサンギヤSは入力軸2の回転方向と同方向に一体となって回転する。リングギヤR及びサンギヤSの一体回転により、ピニオンギヤPを介してプラネタリーキャリアCRも入力軸2の回転方向と同方向に一体となって回転する。すなわち、サンギヤS、プラネタリーキャリアCR、リングギヤRは一体となって入力軸2の回転方向と同方向に回転し、入力軸2の回転をそのままサンギヤSに一体に連結された無段変速機25のプライマリシャフト30に伝達する。プライマリシャフト30に伝達された入力軸2の回転方向と同方向の回転駆動力は、上記第2実施形態の前進走行時と同様の回転伝達経路を介して駆動車輪に伝達され、車両は前進走行可能となる。
【0040】
一方、車両の後進走行時は、制御装置20を介してクラッチ3は解放され、図5を参照して後述するブレーキ4が締結されて回転ドラムDが固定されることにより、プラネタリーキャリアCRは固定要素となる。このため、入力軸2に伝達されるエンジンの回転はリングギヤRに伝達され、ピニオンギヤPを介することによりサンギヤSを入力軸2の回転方向とは逆転方向に回転させる。こうして、サンギヤSに一体に連結された無段変速機25のプライマリシャフト30は入力軸2の回転方向とは逆転方向に回転する。プライマリシャフト30に伝達された入力軸2の回転方向と逆転方向の回転駆動力は、上記第2実施形態の後進走行時と同様の回転伝達経路を介して駆動車輪に伝達され、車両は後進走行可能となる。
【0041】
本変形例に係る前後進切換え装置1においても、後進走行時において遊星歯車機構5の固定要素となるプラネタリーキャリアCRを固定するブレーキ手段として、図5に示すブレーキバンド10を用いている。ブレーキバンド10の構成は上記第2実施形態と同様である。
【0042】
上記第2実施形態、第2実施形態の第1変形例及び第2変形例に係る前後進切換え装置1においても、ブレーキバンド10と遊星歯車機構5の固定要素との引き摺りトルクは、図6から分かるように、従来の湿式多板ブレーキを用いた前後進切換え装置のフリクションプレートとセパレータプレートとの引き摺りトルクのおよそ半分に低減されている。
【0043】
このように本発明に係る前後進切換え装置を用いれば、エンジンが回転中で前後進切換え装置のブレーキが作動していない状態であっても、ブレーキと遊星歯車機構の固定要素との引き摺りトルクが大幅に低減されるため、動力損失が低減され、自動変速機の効率向上及び燃費の向上を図ることができる。特に効率向上が強く要求されているCVTに用いれば、大きな効果を得ることができる。
【0044】
なお、本発明に係る前後進切換え装置は、上記の実施例及び変形例に限定されることはなく、種々変形可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1実施形態に係る前後進切換え装置の構成を示すスケルトン図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る前後進切換え装置の構成を示すスケルトン図である。
【図3】本発明の第2実施形態の第1変形例に係る前後進切換え装置の構成を示すスケルトン図である。
【図4】本発明の第2実施形態の第2変形例に係る前後進切換え装置の構成を示すスケルトン図である。
【図5】本発明の実施形態及び変形例に係る形態に用いたブレーキバンドの斜視図である。
【図6】従来品と本発明品との引き摺りトルクの比較例である。
【符号の説明】
【0046】
1 前後進切換え装置
2 入力軸
3 クラッチ
4 ブレーキ
5 遊星歯車機構
10 ブレーキバンド
11 ストラップ
12 アンカーブラケット
13 アプライブラケット
14 摩擦材
15 ミッションケース
20 制御装置
25 無段変速機
30 プライマリシャフト
32 プライマリプーリ
32a 固定側プーリ半体
32b 可動側プーリ半体
34 セカンダリシャフト
36 セカンダリプーリ
36a 固定側プーリ半体
36b 可動側プーリ半体
38 金属ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸に設けられ、相対回転自在の入力要素と固定要素と出力要素とを備え、前記入力要素に伝達される内燃機関の回転駆動力を、前記入力要素と前記固定要素と前記出力要素を介して、前記入力要素の回転方向と同方向又は逆転方向の回転駆動力として前記出力要素から出力する遊星機構と、
前記遊星機構の前記固定要素を固定可能とするブレーキ手段とを備え、車両用自動変速機に用いられる前後進切換え装置において、
前記ブレーキ手段は、前記固定要素と一体に形成され外周面を備えた回転ドラムと、該回転ドラムの外周面を取巻き固定可能なブレーキバンドとから成ることを特徴とする前後進切換え装置。
【請求項2】
前記遊星機構は、サンギヤと、
該サンギヤの径方向外側に配置され、該サンギヤと噛合うピニオンギヤと、
該ピニオンギヤを自転及び公転自在に支持するプラネタリーキャリアと、
前記ピニオンギヤを介して前記サンギヤと噛合うリングギヤとを備え、前記サンギヤと前記プラネタリーキャリアと前記リングギヤは、それぞれ前記入力要素、前記固定要素及び前記出力要素の何れかを構成する遊星歯車機構であることを特徴とする請求項1に記載の前後進切換え装置。
【請求項3】
無段変速機を用いた自動変速機に用いられることを特徴とする請求項1又は2に記載の前後進切換え装置。
【請求項4】
前記遊星歯車機構は、前記サンギヤが前記入力要素を構成し、前記リングギヤが前記固定要素を構成し、前記プラネタリーキャリアが前記出力要素を構成しており、前記リングギヤを前記ブレーキバンドで固定することにより、前記サンギヤに伝達される前記内燃機関の回転駆動力を、前記ピニオンギヤを介して前記サンギヤの回転方向とは逆転方向の回転駆動力として前記プラネタリーキャリアから出力することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の前後進切換え装置。
【請求項5】
前記遊星歯車機構は、前記サンギヤが前記入力要素を構成し、前記プラネタリーキャリアが前記固定要素を構成し、前記リングギヤが前記出力要素を構成しており、前記プラネタリーキャリアを前記ブレーキバンドで固定することにより、前記サンギヤに伝達される前記内燃機関の回転駆動力を、前記ピニオンギヤを介して前記サンギヤの回転方向とは逆転方向の回転駆動力として前記リングギヤから出力することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の前後進切換え装置。
【請求項6】
前記遊星歯車機構は、前記リングギヤが前記入力要素を構成し、前記プラネタリーキャリアが前記固定要素を構成し、前記サンギヤが前記出力要素を構成しており、前記プラネタリーキャリアを前記ブレーキバンドで固定することにより、前記リングギヤに伝達される前記内燃機関の回転駆動力を、前記ピニオンギヤを介して前記リングギヤの回転方向とは逆転方向の回転駆動力として前記サンギヤから出力することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の前後進切換え装置。
【請求項7】
前記出力要素は、前記無段変速機を用いた自動変速機の入力軸に連結していることを特徴とする請求項3乃至6の何れか一項に記載の前後進切換え装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−196670(P2008−196670A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−35374(P2007−35374)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000102784)NSKワーナー株式会社 (149)
【Fターム(参考)】