説明

ブレーキ制御装置及びエア混入検出方法

【課題】エアの混入を精度よく検出することが可能なブレーキ制御装置を提供する。
【解決手段】ブレーキ制御装置は、封入された気体を、運転者のブレーキ操作から独立した動力を用いて供給される作動流体により圧縮することで蓄圧する動力液圧源と、動力液圧源とホイールシリンダとを接続し、動力液圧源からホイールシリンダへの作動流体の供給が可能なように連通される動力液圧伝達経路と、制御弁の開閉を制御するとともに、動力液圧伝達経路における作動流体の圧力を制御する制御部と、動力液圧伝達経路へのエアの混入を検出するエア混入検出手段84とを備える。エア混入検出手段84は、封入された気体の温度と相関のある情報に応じて閾値を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられた車輪に付与される制動力を制御するブレーキ制御装置に関し、特に、ブレーキ制御装置内に混入したエアを検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブレーキペダルの操作量に応じた液圧を液圧回路内に発生させ、ホイールシリンダにその液圧回路内の液圧を供給することにより車両に設けられた車輪に制動力を付与する液圧制御装置が知られている。また、車輪ごとに設けられたホイールシリンダの増圧用あるいは減圧用に用いられる一対の電磁制御弁を含むアクチュエータと、このアクチュエータを制御する電子制御ユニットとを備えた液圧制御装置が知られている。この液圧制御装置によれば、運転者によるブレーキペダルの操作量は、センサ等により測定され電気信号に変換されて電子制御ユニットに供される。そして電子制御ユニットにより増圧用または減圧用の電磁制御弁が制御され、車両の4輪のホイールシリンダ圧が独立かつ最適に制御される。このため、高度の走行安定性及び安全性を実現することができる。このように運転者による操作入力を電気信号に置き換えて制動力を制御することは、一般にブレーキバイワイヤと称されている。
【0003】
前述の液圧制御装置においては、その液圧回路内にエアが混入すると、ブレーキペダルの操作フィーリングが低下したり、急制動が必要なときにブレーキペダルを強く踏み込んでも充分な制動力が得られないという問題が発生する。そのため、装置の組み立て時や車両の走行時にエアの混入の有無を検出し、エアの混入が有った場合はそれを作業者や運転者に知らせることが望まれる。特に、前述のブレーキバイワイヤシステムにおいては、ブレーキペダルの操作力は液圧回路内の液圧からは直接的には影響を受けないため、液圧回路内にエアが混入した場合であってもブレーキペダルの操作フィーリングが低下するという現象が発生せず、運転者がエアの混入に気づきにくい。
【0004】
このような課題に対して、特許文献1には、アキュムレータを有する補助液圧源と、補助液圧源から供給された液圧をブレーキ操作量に応じた液圧に調圧して出力する調圧装置とを備え、調圧装置が出力したマスターシリンダ圧の増加量に対する補助液圧源が出力したアキュムレータ圧の低下量により液圧回路内へのエアの混入を検出可能な車両用液圧ブレーキ装置が開示されている。
【特許文献1】特開2003−127849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の装置のようにエアの混入を判断する際にアキュムレータ圧の変化を用いる場合、アキュムレータのP−V特性が温度に依存するため、装置が使用される環境によっては、エアの混入の検出が正確に行われない可能性がある。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エアの混入を精度よく検出することが可能なブレーキ制御装置及びエア混入検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のブレーキ制御装置は、封入された気体を、運転者のブレーキ操作から独立した動力を用いて供給される作動流体により圧縮することで蓄圧可能な動力液圧源と、作動流体の供給を受けて車輪に制動力を付与するホイールシリンダと、前記動力液圧源と前記ホイールシリンダとを接続し、前記動力液圧源から前記ホイールシリンダへの作動流体の供給が可能なように連通される動力液圧伝達経路と、前記動力液圧伝達経路に設けられ、前記動力液圧源から前記ホイールシリンダへの作動流体の供給を制御する制御弁と、前記制御弁の開閉を制御するとともに、前記動力液圧伝達経路における作動流体の圧力を制御する制御部と、前記制御弁と前記動力液圧源との間に設けられ、前記動力液圧源で蓄圧されている作動流体の圧力を検出する動力液圧源圧力センサと、前記制御弁が開弁された際に前記動力液圧源圧力センサにより検出された前記作動流体の圧力の情報に基づいて演算された演算値とエアの混入の有無を判定するための閾値とを比較し、前記動力液圧伝達経路へのエアの混入を検出するエア混入検出手段とを備える。前記エア混入検出手段は、前記封入された気体の温度と相関のある情報に応じて前記閾値を決定する。
【0008】
この態様によると、動力液圧源においては、封入された気体を作動流体により圧縮することで蓄圧を行っている。その際、封入された気体は同じ圧力であっても温度によって容積が変化する。換言すれば、蓄圧された作動流体を所定の圧力だけ変化させると、それに伴い変化する気体の容積は温度によって異なる。この態様のブレーキ制御装置は、動力液圧伝達経路へのエアの混入を検出するために、動力液圧伝達経路に設けられた制御弁が開弁された際に動力液圧源圧力センサにより検出された作動流体の圧力の情報に基づいて演算された演算値を用いている。そして、この演算値と予め設定されている閾値とを比較することでエアの混入を検出することができる。
【0009】
つまり、エアの混入が有る場合には、制御弁を開き動力液圧伝達経路内の圧力が平衡となるまでの圧力低下幅が、エアの混入が無い場合と比較して大きくなる。詳述すると、エアの混入が無い場合、作動流体としてのブレーキオイル等は加わる圧力が変化してもその体積はほぼ変化しない。それに対して、例えば、制御弁の下流側に大気圧に近い状態でエアが混入していた場合、制御弁の開弁に伴い動力液圧源に蓄圧されていた圧力によりエアが圧縮されるため、高圧の作動流体が制御弁の下流に流入する。そのため、動力液圧源で蓄圧されていた作動流体の圧力低下幅は、エアが混入していない場合と比較して大きくなる。そこで、この圧力低下幅と予め設定されている閾値とを比較することでエアの混入を検出することができる。
【0010】
また、エアが混入している場合の圧力低下幅は、エアが混入していない場合に動力液圧伝達経路内の圧力が平衡となるまでの圧力低下幅に加えて、動力液圧源において封入されている気体の容積がエアの混入分変化する際の圧力変化分大きくなる。そのため、エアの混入量が同じ場合であっても、封入されている気体の温度に応じて、圧力低下幅が異なることになる。そこで、封入された気体の温度と相関のある情報に応じて閾値を決定することで、エアの混入をより精度良く検出することができる。
【0011】
ここで、予め設定されている閾値としては、例えば、エアの混入が無い場合あるいはブレーキに対して影響がない程度の所定のエア混入量以下の場合に、作動流体が所定の圧力で動力液圧源に蓄圧されている状態で制御弁を開いて動力液圧伝達経路内の圧力が平衡となるまでの圧力低下幅として定義することができる。あるいは、制御弁を開いて圧力が平衡となるまでの時間として定義してもよい。あるいは、制御弁を開いて圧力が低下する際の圧力変動の傾きとして定義してもよい。また、封入された気体の温度と相関のある情報とは、例えば、動力液圧源の温度やブレーキ制御装置の環境温度、作動流体の温度等、封入された気体の温度を推定することができる温度情報であってもよい。
【0012】
前記封入された気体の温度と相関のある情報を検出する温度センサを更に備えてもよい。前記エア混入検出手段は、前記動力液圧源圧力センサが検出した作動流体の圧力の情報から圧力の低下幅を算出する圧力変動演算部と、前記温度センサが検出した温度の情報から前記閾値を決定する閾値決定部と、前記圧力の低下幅と前記閾値とを比較してエアの混入を判定するエア混入判定部とを有してもよい。前記エア混入判定部は、前記閾値より前記圧力の低下幅が大きい場合、エアが混入していると判定してもよい。
【0013】
これにより、動力液圧源圧力センサが検出した作動流体の圧力の情報から圧力の低下幅を算出することができ、この圧力の低下幅と温度センサが検出した温度の情報から決定された閾値とを比較することで、例えば、閾値より圧力の低下幅が大きい場合、エアが混入していることを検出することができる。また、動力液圧源の温度が変わっても、それに応じて閾値を変更することができるので、エアの混入を検出する際の環境が変化してもエアの混入を精度よく検出することができる。
【0014】
前記封入された気体の温度と相関のある情報を検出する温度センサを更に備えてもよい。前記エア混入検出手段は、前記動力液圧源圧力センサが検出した作動流体の圧力の情報から圧力の低下幅を算出する圧力変動演算部と、前記温度センサが検出した温度の情報から前記閾値を決定する閾値決定部と、前記圧力の低下幅と前記閾値とを比較してエアの混入量を算出するエア混入量算出部とを有してもよい。前記エア混入量算出部は、前記閾値より前記圧力の低下幅が大きい場合、前記閾値と前記圧力の低下幅との差からエアの混入量を算出してもよい。
【0015】
これにより、動力液圧源圧力センサが検出した作動流体の圧力の情報から圧力の低下幅を算出することができ、この圧力の低下幅と温度センサが検出した温度の情報から決定された閾値とを比較することで、閾値より圧力の低下幅が大きい場合、閾値と圧力の低下幅との差からエアの混入量を算出することができる。また、動力液圧源の温度が変わっても、それに応じて閾値を変更することができるので、エアの混入量を検出する際の環境が変化してもエアの混入量を精度よく検出することができる。
【0016】
収容された作動流体を運転者によるブレーキ操作部材の操作量に応じて加圧する第1の圧力源と、前記第1の圧力源の作動流体の圧力に合わせて作動流体を調圧する第2の圧力源とを含むマニュアル圧力源と、前記マニュアル圧力源と前記ホイールシリンダとを接続し、所定の条件において前記マニュアル圧力源から前記ホイールシリンダへの作動流体の供給が許容されるよう連通されるマニュアル圧力伝達経路とを更に備えてもよい。前記ホイールシリンダは、制動力配分が大きく設定されている車輪に制動力を付与する第1のホイールシリンダと、該第1のホイールシリンダよりも制動力配分が小さく設定されている車輪に制動力を付与する第2のホイールシリンダとを更に含んでもよい。前記マニュアル圧力伝達経路は、前記第1の圧力源と前記第1のホイールシリンダとを接続する第1の供給経路と、前記第2の圧力源と前記第2のホイールシリンダとを接続する第2の供給経路と、該第1の供給経路と該第2の供給経路とを接続する流路の中途に設けられ、閉弁時に前記第1の供給経路と前記第2の供給経路とを分離する分離弁と、前記第1の供給経路上に設けられた第1の開閉弁と、前記第2の供給経路上に設けられた第2の開閉弁と、前記第1のホイールシリンダと前記第1の開閉弁との間に設けられ、前記第1のホイールシリンダの圧力を検出するホイールシリンダ圧力センサとを更に含んでもよい。前記制御部は、前記分離弁及び前記第1の開閉弁及び前記第2の開閉弁の開閉を制御するとともに、前記マニュアル圧力伝達経路における作動流体の圧力を制御し、前記エア混入検出手段は、前記分離弁が閉じられているとともに前記第1の開閉弁が開弁されている状態で、前記ホイールシリンダ圧力センサにより検出された前記作動流体の圧力が所定の圧力となるまでブレーキ操作部材が操作された場合、該ブレーキ操作部材に入力された操作量とエアの混入の有無を判定するための閾値とを比較し、前記第1の供給経路へのエアの混入を検出する。
【0017】
これにより、マニュアル圧力源からホイールシリンダへの作動流体の供給が許容されるよう連通されるマニュアル圧力伝達経路のうち、ブレーキ操作部材の操作量に応じて加圧する第1の圧力源と第1のホイールシリンダとを接続する第1の供給経路におけるエアの混入を検出することができる。詳述すると、第1の供給経路と第2の供給経路とを接続する流路の中途に設けられた分離弁を閉じることで、第1の供給経路と第2の供給経路とを分離することができる。そして、分離弁が閉じられているとともに第1の開閉弁が開弁されている状態で、ブレーキ操作部材に所定の操作量が入力された場合、ホイールシリンダ圧力センサにより第1の供給経路における作動流体の圧力を検出することができる。つまり、エアの混入が無い場合あるいはブレーキに対して影響がない程度の所定のエア混入量以下の場合にホイールシリンダ圧力センサにより検出された作動流体の圧力が所定の圧力となるまでにブレーキ操作部材に入力された操作量を、エアの混入の有無を判定するための閾値として予め設定しておくとよい。そして、ホイールシリンダ圧力センサが検出した作動流体の圧力の情報に基づいて演算された演算値と閾値とを比較し、第1の供給経路へのエアの混入を検出することができる。
【0018】
前記制御部は、前記ブレーキ操作部材により前記第1の供給経路が所定の圧力になった後に、前記第1の開閉弁、前記第2の開閉弁および前記制御弁を閉じた状態で、前記分離弁を開き、前記エア混入検出手段は、前記分離弁が開弁された際に前記ホイールシリンダ圧力センサにより検出された前記作動流体の圧力の情報に基づいて演算された演算値とエアの混入の有無を判定するための閾値とを比較し、前記第2の供給経路へのエアの混入を検出する。
【0019】
これにより、マニュアル圧力源からホイールシリンダへの作動流体の供給が許容されるよう連通されるマニュアル圧力伝達経路のうち、第1の圧力源の作動流体の圧力に合わせて作動流体を調圧する第2の圧力源と第2のホイールシリンダとを接続する第2の供給経路におけるエアの混入を検出することができる。詳述すると、第1の開閉弁、第2の開閉弁および分離弁を閉じることで、第1の供給経路のうち第1の開閉弁と第1のホイールシリンダとの間の経路における作動流体は、前述のブレーキ操作部材に所定の操作量が入力された状態における所定の圧力で維持されることになる。また、第2の開閉弁および制御弁を閉じているので、第2の供給経路のうち第2の開閉弁と第2のホイールシリンダとの間の経路は他の経路と遮断され、所定の圧力、例えば大気圧で維持されることになる。
【0020】
この状態で分離弁を開弁することで、第1の開閉弁と第1のホイールシリンダとの間の経路における作動流体に発生していた圧力により、第2の供給経路のうち第2の開閉弁と第2のホイールシリンダとの間の経路における作動流体の圧力が上昇する。また、それとともに第1の開閉弁と第1のホイールシリンダとの間の経路における作動流体の圧力は低下し、その圧力の低下をホイールシリンダ圧力センサにより検出することができる。
【0021】
そして、第2の開閉弁と第2のホイールシリンダとの間の経路にエアが混入していない場合に分離弁を開いたときのホイールシリンダ圧力センサにおける検出圧力の低下幅を、エアの混入の有無を判定するための閾値として予め設定しておくとよい。その結果、ホイールシリンダ圧力センサにより検出された作動流体の圧力の情報に基づいて演算された演算値と閾値とを比較し、第2の供給経路へのエアの混入、特に、第2の供給経路のうち第2の開閉弁と第2のホイールシリンダとの間の経路へのエアの混入を検出することができる。
【0022】
前記制御部は、前記制御弁を閉じた状態で前記動力液圧源に蓄圧した後に、前記第2の開閉弁および前記分離弁を閉じた状態で前記制御弁を開き、前記エア混入検出手段は、前記制御弁が開弁された際に前記動力液圧源圧力センサにより検出された前記作動流体の圧力の情報に基づいて演算された演算値とエアの混入の有無を判定するための閾値とを比較し、前記動力液圧伝達経路へのエアの混入を検出する。
【0023】
これにより、動力液圧伝達経路のうち、制御弁から第2のホイールシリンダへの経路におけるエアの混入を検出することができる。詳述すると、制御弁、第2の開閉弁および分離弁を閉じることで、動力液圧伝達経路のうち制御弁と第2のホイールシリンダとの間の経路は他の経路と遮断され、所定の圧力、例えば大気圧で維持されることになる。
【0024】
この状態で制御弁を開弁することで、動力液圧源において蓄圧している圧力により、制御弁から第2のホイールシリンダへの経路における作動流体の圧力が上昇する。また、それとともに動力液圧源と制御弁との間の経路における作動流体の圧力は低下し、その圧力の低下を動力液圧源圧力センサにより検出することができる。
【0025】
そして、制御弁と第2のホイールシリンダとの間の経路にエアの混入が無い場合あるいはブレーキに対して影響がない程度の所定のエア混入量以下の場合に制御弁を開いたときの、動力液圧源圧力センサにおける検出圧力の低下幅を、エアの混入の有無を判定するための閾値として予め設定しておくとよい。そして、動力液圧源圧力センサが検出した作動流体の圧力の情報に基づいて演算された演算値と閾値とを比較し、動力液圧伝達経路へのエアの混入、特に、制御弁と第2のホイールシリンダとの間の経路へのエアの混入を検出することができる。
【0026】
前記制御部は、前記ブレーキ操作部材により前記第1の供給経路が所定の圧力になった後に、前記動力液圧源が蓄圧されていない状態、かつ、前記第1の開閉弁および前記第2の開閉弁を閉じ前記制御弁を開いている状態で前記分離弁を開き、前記エア混入検出手段は、前記分離弁が開弁された際に前記動力液圧源圧力センサにより検出された前記作動流体の圧力の情報に基づいて演算された演算値とエアの混入の有無を判定するための閾値とを比較し、動力液圧伝達経路へのエアの混入を検出する。
【0027】
これにより、動力液圧伝達経路のうち、動力液圧源から第2のホイールシリンダへの経路におけるエアの混入を検出することができる。詳述すると、第1の開閉弁、第2の開閉弁および分離弁を閉じることで、第1の供給経路のうち第1の開閉弁と第1のホイールシリンダとの間の経路における作動流体は、前述のブレーキ操作部材に所定の操作量が入力された状態における所定の圧力で維持されることになる。また、動力液圧源が蓄圧されていない状態で制御弁を閉じているので、動力液圧伝達経路のうち動力液圧源と第2のホイールシリンダとの間の経路は、第1の開閉弁と第1のホイールシリンダとの間の経路と遮断され、所定の圧力、例えば大気圧で維持されることになる。
【0028】
この状態で分離弁を開弁することで、第1の開閉弁と第1のホイールシリンダとの間の経路における作動流体で発生していた圧力により、動力液圧伝達経路のうち動力液圧源と第2のホイールシリンダとの間の経路における作動流体の圧力が上昇する。その圧力の変動を動力液圧源圧力センサにより検出することができる。
【0029】
そして、動力液圧源と第2のホイールシリンダとの間の経路にエアが混入していない場合に分離弁を開いたときの動力液圧源圧力センサにおける検出圧力の変動幅を、エアの混入の有無を判定するための閾値として予め設定しておくとよい。その結果、動力液圧源圧力センサが検出した作動流体の圧力の情報に基づいて演算された演算値と閾値とを比較し、動力液圧伝達経路へのエアの混入、特に、動力液圧源と第2のホイールシリンダとの間の経路へのエアの混入を検出することができる。
【0030】
本発明の別の態様は、エア混入検出方法である。この方法は、封入された気体を、運転者のブレーキ操作から独立した動力を用いて供給される作動流体により圧縮することで蓄圧可能な動力液圧源と、作動流体の供給を受けて車輪に制動力を付与するホイールシリンダと、前記動力液圧源と前記ホイールシリンダとを接続し、前記動力液圧源から前記ホイールシリンダへの作動流体の供給が可能なように連通される動力液圧伝達経路と、前記動力液圧伝達経路における作動流体の圧力を制御する制御部とを備え、車輪に付与される制動力を制御するブレーキ制御装置へのエアの混入を検出するエア混入検出方法であって、前記動力液圧源における作動流体の圧力の情報に基づいて圧力変化幅を算出する工程と、前記封入された気体の温度と相関のある温度情報を取得する工程と、エアの混入の有無を判定するための閾値を前記温度情報に基づいて選択する工程と、前記圧力変化幅と前記閾値とを比較してエアの混入の有無を検出する工程と、を有する。
【0031】
この態様によると、動力液圧伝達経路へのエアの混入を検出するために、動力液圧伝達経路に設けられた制御弁が開弁された際に動力液圧源圧力センサにより検出された作動流体の圧力の情報に基づいて演算された演算値を用いている。そして、この演算値と予め設定されている閾値とを比較することでエアの混入を検出することができる。
【0032】
つまり、エアの混入が有る場合には、制御弁を開いて動力液圧伝達経路内の圧力が平衡となるまでの圧力低下幅が、エアの混入が無い場合と比較して大きくなる。そのため、動力液圧源で蓄圧されていた作動流体の圧力低下幅は、エアが混入していない場合と比較して大きくなる。そこで、この圧力低下幅と予め設定されている閾値とを比較することでエアの混入を検出することができる。
【0033】
また、エアが混入している場合の圧力低下幅は、エアが混入していない場合に動力液圧伝達回路内の圧力が平衡となるまでの圧力低下幅に加えて、動力液圧源において封入されている気体の容積がエアの混入分変化する際の圧力変化分大きくなる。そのため、エアの混入量が同じ場合であっても、封入されている気体の温度に応じて、圧力低下幅が異なることになる。そこで、封入された気体の温度と相関のある情報に応じて閾値を決定することで、エアの混入をより精度良く検出することができる。
【0034】
なお、本発明を方法、装置、あるいはシステムとして表現したもの、それらの表現を入れ替えたものなどもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、エアの混入を精度よく検出することが可能なブレーキ制御装置及びエア混入検出方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0037】
(ブレーキ制御装置)
図1は、本発明の一実施の形態に係るブレーキ制御装置20を示す系統図である。図1に示されるブレーキ制御装置20は、車両用の電子制御式ブレーキシステム(ECB)を構成しており、車両に設けられた4つの車輪に付与される制動力を制御する。本実施の形態に係るブレーキ制御装置20は、例えば、走行駆動源として電動モータと内燃機関とを備えるハイブリッド車両に搭載される。このようなハイブリッド車両においては、車両の運動エネルギを電気エネルギに回生することによって車両を制動する回生制動と、ブレーキ制御装置20による液圧制動とのそれぞれを車両の制動に用いることができる。本実施の形態における車両は、これらの回生制動と液圧制動とを併用して所望の制動力を発生させるブレーキ回生協調制御を実行することができる。
【0038】
ブレーキ制御装置20は、図1に示されるように、各車輪に対応して設けられたディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLと、マスタシリンダユニット27と、動力液圧源30と、液圧アクチュエータ40とを含む。
【0039】
ディスクブレーキユニット21FR,21FL,21RRおよび21RLは、車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。本実施の形態では、通常、前輪のほうが後輪よりも制動力配分が大きく設定されている。マニュアル液圧源としてのマスタシリンダユニット27は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル24の運転者による操作量に応じて加圧されたブレーキフルードをディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出する。
【0040】
動力液圧源30は、封入された気体を、運転者のブレーキ操作から独立した動力を用いて供給される作動流体により圧縮することで蓄圧することができる。そして、動力の供給により加圧された作動流体としてのブレーキフルードを、運転者によるブレーキペダル24の操作から独立してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出することが可能である。液圧アクチュエータ40は、動力液圧源30またはマスタシリンダユニット27から供給されたブレーキフルードの液圧を適宜調整してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに送出する。これにより、液圧制動による各車輪に対する制動力が調整される。
【0041】
ディスクブレーキユニット21FR〜21RL、マスタシリンダユニット27、動力液圧源30、および液圧アクチュエータ40のそれぞれについて以下で更に詳しく説明する。
【0042】
(ディスクブレーキユニット)
各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22とブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ23FR〜23RLを含む。そして、各ホイールシリンダ23FR〜23RLは、それぞれ異なる流体通路を介して液圧アクチュエータ40に接続されている。なお以下では適宜、ホイールシリンダ23FR〜23RLを総称して「ホイールシリンダ23」という。
【0043】
ディスクブレーキユニット21FR〜21RLにおいては、ホイールシリンダ23に液圧アクチュエータ40からブレーキフルードが供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスク22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。なお、本実施の形態においてはディスクブレーキユニット21FR〜21RLを用いているが、例えばドラムブレーキ等のホイールシリンダ23を含む他の制動力付与機構を用いてもよい。
【0044】
(マスタシリンダユニット)
マスタシリンダユニット27は、本実施の形態では液圧ブースタ付きマスタシリンダであり、液圧ブースタ31、マスタシリンダ32、レギュレータ33、およびリザーバ34を含む。液圧ブースタ31は、ブレーキペダル24に連結されており、ブレーキペダル24に加えられたペダル踏力を増幅してマスタシリンダ32に伝達する。動力液圧源30からレギュレータ33を介して液圧ブースタ31にブレーキフルードが供給されることにより、ペダル踏力は増幅される。そして、マスタシリンダ32は、ペダル踏力に対して所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧を発生する。
【0045】
マスタシリンダ32とレギュレータ33との上部には、ブレーキフルードを貯留するリザーバ34が配置されている。マスタシリンダ32は、ブレーキペダル24の踏み込みが解除されているときにリザーバ34と連通する。一方、レギュレータ33は、リザーバ34と動力液圧源30のアキュムレータ35との双方と連通しており、リザーバ34を低圧源とすると共に、アキュムレータ35を高圧源とし、マスタシリンダ圧とほぼ等しい液圧を発生する。レギュレータ33における液圧を以下では適宜、「レギュレータ圧」という。なお、マスタシリンダ圧とレギュレータ圧とは厳密に同一圧にされる必要はなく、例えばレギュレータ圧のほうが若干高圧となるようにマスタシリンダユニット27を設計することも可能である。なお、本実施の形態に係るマスタシリンダユニット27においては、マスタシリンダ32は、収容されたブレーキフルードを運転者によるブレーキペダル24の操作量に応じて加圧する第1の圧力源として機能し、レギュレータ33は、マスタシリンダ32のブレーキフルードの圧力に合わせてブレーキフルードを調圧する第2の圧力源として機能する。
【0046】
(動力液圧源)
動力液圧源30は、アキュムレータ35およびポンプ36を含む。アキュムレータ35は、ポンプ36により昇圧されたブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギ、例えば14〜22MPa程度に変換して蓄えるものである。ポンプ36は、運転者のブレーキ操作から独立した動力である駆動源としてモータ36aを有し、その吸込口がリザーバ34に接続される一方、その吐出口がアキュムレータ35に接続される。また、アキュムレータ35は、マスタシリンダユニット27に設けられたリリーフバルブ35aにも接続されている。アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ35aが開き、高圧のブレーキフルードはリザーバ34へと戻される。
【0047】
上述のように、ブレーキ制御装置20は、ホイールシリンダ23に対するブレーキフルードの供給源として、マスタシリンダ32、レギュレータ33およびアキュムレータ35を有している。そして、マスタシリンダ32にはマスタ配管37が、レギュレータ33にはレギュレータ配管38が、アキュムレータ35にはアキュムレータ配管39が接続されている。これらのマスタ配管37、レギュレータ配管38およびアキュムレータ配管39は、それぞれ液圧アクチュエータ40に接続される。
【0048】
(液圧アクチュエータ)
液圧アクチュエータ40は、複数の流路が形成されるアクチュエータブロックと、複数の電磁制御弁を含む。アクチュエータブロックに形成された流路には、個別流路41,42,43および44と、主流路45とが含まれる。個別流路41〜44は、それぞれ主流路45から分岐されて、対応するディスクブレーキユニット21FR,21FL,21RR,21RLのホイールシリンダ23FR,23FL,23RR,23RLに接続されている。これにより、各ホイールシリンダ23は主流路45と連通可能となる。
【0049】
また、個別流路41,42,43および44の中途には、ABS保持弁51,52,53および54が設けられている。各ABS保持弁51〜54は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされた各ABS保持弁51〜54は、ブレーキフルードを双方向に流通させることができる。つまり、主流路45からホイールシリンダ23へとブレーキフルードを流すことができるとともに、逆にホイールシリンダ23から主流路45へもブレーキフルードを流すことができる。ソレノイドに通電されて各ABS保持弁51〜54が閉じると、個別流路41〜44におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0050】
さらに、ホイールシリンダ23は、個別流路41〜44にそれぞれ接続された減圧用流路46,47,48および49を介してリザーバ流路55に接続されている。減圧用流路46,47,48および49の中途には、ABS減圧弁56,57,58および59が設けられている。各ABS減圧弁56〜59は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。各ABS減圧弁56〜59が閉状態であるときには、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて各ABS減圧弁56〜59が開弁されると、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通が許容され、ブレーキフルードがホイールシリンダ23から減圧用流路46〜49およびリザーバ流路55を介してリザーバ34へと還流する。なお、リザーバ流路55は、リザーバ配管77を介してマスタシリンダユニット27のリザーバ34に接続されている。
【0051】
主流路45は、中途に分離弁60を有する。この分離弁60により、主流路45は、個別流路41および42と接続される第1流路45aと、個別流路43および44と接続される第2流路45bとに区分けされている。第1流路45aは、個別流路41および42を介して前輪側のホイールシリンダ23FRおよび23FLに接続され、第2流路45bは、個別流路43および44を介して後輪側のホイールシリンダ23RRおよび23RLに接続される。
【0052】
分離弁60は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。分離弁60が閉状態であるときには、主流路45におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて分離弁60が開弁されると、第1流路45aと第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
【0053】
また、液圧アクチュエータ40においては、主流路45に連通するマスタ流路61およびレギュレータ流路62が形成されている。より詳細には、マスタ流路61は、主流路45の第1流路45aに接続されており、レギュレータ流路62は、主流路45の第2流路45bに接続されている。また、マスタ流路61は、マスタシリンダ32と連通するマスタ配管37に接続される。レギュレータ流路62は、レギュレータ33と連通するレギュレータ配管38に接続される。
【0054】
マスタ流路61は、中途にマスタカット弁64を有する。マスタカット弁64は、マスタシリンダ32から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。マスタカット弁64は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開弁状態とされる常開型電磁制御弁である。開弁状態とされたマスタカット弁64は、マスタシリンダ32と主流路45の第1流路45aとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに規定の制御電流が通電されてマスタカット弁64が閉じると、マスタ流路61におけるブレーキフルードの流通は遮断される。本実施の形態においては、マスタ流路61、第1流路45a、個別流路41,42により、マスタシリンダ32とホイールシリンダ23FR,FLとを接続する第1の供給経路を構成する。
【0055】
また、マスタ流路61には、マスタカット弁64よりも上流側において、シミュレータカット弁68を介してストロークシミュレータ69が接続されている。すなわち、シミュレータカット弁68は、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69とを接続する流路に設けられている。シミュレータカット弁68は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。シミュレータカット弁68が閉状態であるときには、マスタ流路61とストロークシミュレータ69との間のブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されてシミュレータカット弁68が開弁されると、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69との間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
【0056】
ストロークシミュレータ69は、複数のピストンやスプリングを含むものであり、シミュレータカット弁68の開放時に運転者によるブレーキペダル24の踏力に応じた反力を創出する。ストロークシミュレータ69としては、運転者によるブレーキ操作のフィーリングを向上させるために、多段のバネ特性を有するものが採用されると好ましい。
【0057】
レギュレータ流路62は、中途にレギュレータカット弁65を有する。レギュレータカット弁65は、レギュレータ33から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。レギュレータカット弁65も、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたレギュレータカット弁65は、レギュレータ33と主流路45の第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてレギュレータカット弁65が閉じると、レギュレータ流路62におけるブレーキフルードの流通は遮断される。本実施の形態においては、レギュレータ流路62、第2流路45b、個別流路43,44により、レギュレータ33とホイールシリンダ23RR,RLとを接続する第2の供給経路を構成する。
【0058】
液圧アクチュエータ40には、マスタ流路61およびレギュレータ流路62に加えて、アキュムレータ流路63も形成されている。アキュムレータ流路63の一端は、主流路45の第2流路45bに接続され、他端は、アキュムレータ35と連通するアキュムレータ配管39に接続される。本実施の形態においては、アキュムレータ流路63、主流路45、個別流路41〜44により、動力液圧源30からホイールシリンダ23への作動流体の供給が可能なように連通された動力液圧伝達通路を構成する。
【0059】
アキュムレータ流路63は、中途に増圧リニア制御弁66を有する。また、アキュムレータ流路63および主流路45の第2流路45bは、減圧リニア制御弁67を介してリザーバ流路55に接続されている。増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67とは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。
【0060】
増圧リニア制御弁66は、各車輪に対応して複数設けられた各ホイールシリンダ23に対して共通の増圧用制御弁として設けられている。また、減圧リニア制御弁67も同様に、各ホイールシリンダ23に対して共通の減圧用制御弁として設けられている。つまり、本実施の形態においては、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、動力液圧源30から送出される作動流体を各ホイールシリンダ23へ給排制御する1対の共通の制御弁として設けられている。このように増圧リニア制御弁66等を各ホイールシリンダ23に対して共通化すれば、ホイールシリンダ23ごとにリニア制御弁を設けるのと比べて、コストの観点からは好ましい。
【0061】
なお、ここで、増圧リニア制御弁66の出入口間の差圧は、アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力と主流路45におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応し、減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧は、主流路45におけるブレーキフルードの圧力とリザーバ34におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応する。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力に応じた電磁駆動力をF1とし、スプリングの付勢力をF2とし、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧に応じた差圧作用力をF3とすると、F1+F3=F2という関係が成立する。従って、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力を連続的に制御することにより、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧を制御することができる。
【0062】
ブレーキ制御装置20において、動力液圧源30および液圧アクチュエータ40は、本実施の形態における制御部としてのブレーキECU70により制御される。図2は、本実施の形態に係るブレーキECU70のブロック図である。ブレーキECU70は、CPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。そして、ブレーキECU70は、上位のハイブリッドECU(図示せず)などと通信可能であり、ハイブリッドECUからの制御信号や、各種センサからの信号に基づいて動力液圧源30のポンプ36や、液圧アクチュエータ40を構成するABS保持弁51〜54、ABS減圧弁56〜59、分離弁60、マスタカット弁64、レギュレータカット弁65、増圧リニア制御弁66、減圧リニア制御弁67、シミュレータカット弁68を制御する制御部80を備える。
【0063】
また、ブレーキECU70には、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、および制御圧センサ73が接続される。レギュレータ圧センサ71は、レギュレータカット弁65の上流側でレギュレータ流路62内のブレーキフルードの圧力、すなわち動力液圧源30で蓄圧されているレギュレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。アキュムレータ圧センサ72は、増圧リニア制御弁66の上流側でアキュムレータ流路63内のブレーキフルードの圧力、すなわちアキュムレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。制御圧センサ73は、主流路45の第1流路45a内のブレーキフルードの圧力を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72および制御圧センサ73の検出値は、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。また、ブレーキECU70は、ブレーキ制御装置20における油圧回路中に混入するエアを検出するために後述するエア混入検出手段84を備える。
【0064】
分離弁60が開状態とされて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通している場合、制御圧センサ73の出力値は、増圧リニア制御弁66の低圧側の液圧を示すと共に減圧リニア制御弁67の高圧側の液圧を示すので、この出力値を増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の制御に利用することができる。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67が閉鎖されていると共に、マスタカット弁64が開状態とされている場合、制御圧センサ73の出力値は、マスタシリンダ圧を示す。更に、分離弁60が開放されて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通しており、各ABS保持弁51〜54が開放される一方、各ABS減圧弁56〜59が閉鎖されている場合、制御圧センサの73の出力値は、各ホイールシリンダ23に作用する作動流体圧、すなわちホイールシリンダ圧を示す。
【0065】
さらに、ブレーキECU70に接続されるセンサには、ブレーキペダル24に設けられたストロークセンサ25および温度センサ82も含まれる。ストロークセンサ25は、ブレーキペダル24の操作量としてのペダルストロークを検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。ストロークセンサ25の出力値も、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。なお、ストロークセンサ25以外のブレーキ操作状態検出手段をストロークセンサ25に加えて、あるいは、ストロークセンサ25に代えて設け、ブレーキECU70に接続してもよい。ブレーキ操作状態検出手段としては、例えば、ブレーキペダル24の操作力を検出するペダル踏力センサや、ブレーキペダル24が踏み込まれたことを検出するブレーキスイッチなどがある。
【0066】
温度センサ82は、アキュムレータ35において封入された気体の温度と相関のある情報を検出し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。温度センサ82としては、例えば、動力液圧源30の温度やブレーキ制御装置20の環境温度、ブレーキフルードの温度等、封入された気体の温度を推定することができる温度情報を検出するものである。
【0067】
上述のように構成されたブレーキ制御装置20は、ブレーキ回生協調制御を実行することができる。ブレーキ制御装置20は制動要求を受けて制動を開始する。制動要求は、例えば運転者がブレーキペダル24を操作した場合など、車両に制動力を付与すべきときに生起される。制動要求を受けて、ブレーキECU70は、要求制動力から回生による制動力を減じることにより、ブレーキ制御装置20により発生させるべき制動力である要求液圧制動力を算出する。ここで、回生による制動力は、ハイブリッドECUからブレーキ制御装置20に供給される。そして、ブレーキECU70は、算出した要求液圧制動力に基づいて各ホイールシリンダ23FR〜23RLの目標液圧を算出する。ブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧が目標液圧となるように、フィードバック制御則により増圧リニア制御弁66や減圧リニア制御弁67に対する供給電流の値を決定する。
【0068】
その結果、ブレーキ制御装置20においては、動力液圧源30から増圧リニア制御弁66を介してブレーキフルードが各ホイールシリンダ23に供給されて車輪に制動力が付与される。また、各ホイールシリンダ23からブレーキフルードが減圧リニア制御弁67を介して必要に応じて排出され、車輪に付与される制動力が調整される。本実施の形態においては、動力液圧源30、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67等を含んでホイールシリンダ圧制御系統が構成されている。ホイールシリンダ圧制御系統によりいわゆるブレーキバイワイヤによる制動力制御が行われる。ホイールシリンダ圧制御系統は、マスタシリンダユニット27からホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路に並列に設けられている。
【0069】
このとき、ブレーキECU70は、第2の開閉弁としてのレギュレータカット弁65を閉状態とし、第2の液圧源としてのレギュレータ33から送出されるブレーキフルードがホイールシリンダ23へ供給されないようにする。更にブレーキECU70は、第1の開閉弁としてのマスタカット弁64を閉状態とするとともにシミュレータカット弁68を開状態とする。これは、運転者によるブレーキペダル24の操作に伴って第1の液圧源としてのマスタシリンダ32から送出されるブレーキフルードがホイールシリンダ23ではなくストロークシミュレータ69へと供給されるようにするためである。
【0070】
(エア混入検出手段)
上述のブレーキ制御装置20をはじめ液圧アクチュエータを備えるブレーキ制御装置においては、製造におけるブレーキフルードの充填時や車両の走行時において、エアが混入する可能性がある。そのため、何らかの方法によりブレーキ制御装置へのエアの混入の有無を精度よく検出することが求められている。
【0071】
本実施の形態に係るブレーキ制御装置20は、エアの混入の検出動作の要求を受けてエアの混入の検出を開始する。検出動作要求は、例えば製造におけるブレーキフルードの充填後や車両が一定の距離走行した後、イグニッションキーを抜いた後等において、その状態を検出したときに生起される。そして、エア混入検出手段84は、制御部80によりポンプ36や各弁が適宜制御された際に検出した各種センサの値に基づいてエアの混入を検出することができる。
【0072】
エア混入検出手段84は、図2に示すように、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、制御圧センサ73が検出した作動流体の圧力の情報から圧力の変動に基づく演算値を算出する圧力変動演算部86と、温度センサ82が検出した温度の情報や各圧センサが検出した圧力の情報からエアの混入の有無を判定するための閾値を決定する閾値決定部88と、圧力の変動に基づく演算値や圧力値と、閾値とを比較してエアの混入を判定するエア混入判定部90とを有する。そして、エア混入検出手段84は、エアの混入が有った場合に、その情報を乗員や作業員に警告を発するための報知部92に伝達する。そこで、このようなエア混入検出手段84を備えたブレーキ制御装置において、動力液圧源30、マスタシリンダユニット27、液圧アクチュエータ40等の作動流体を用いている各箇所でのエアの混入の有無を検出する方法について各実施例を参照して以下に説明する。
【0073】
[実施例1]
実施例1では、第1の供給経路を構成するマスタ流路61、第1流路45a、個別流路41,42におけるエアの混入を検出する方法について説明する。図3は、実施例1におけるエア混入検出方法を実行する際のブレーキ制御装置20の状態を示す系統図である。本実施例においては、分離弁60およびシミュレータカット弁68を閉じ、マスタカット弁64を開いた状態とすることで、図3に示す太線の経路、つまり第1の供給経路における作動流体の圧力はほぼ均一となる。その際、分離弁60を閉じることで、第1の供給経路と第2の供給経路とを分離することができる。
【0074】
その状態で、人力によりあるいは機械によりブレーキペダル24に所定の操作量を入力し、制御圧センサ73により第1の供給経路における作動流体の圧力を検出する。図4は、実施例1におけるブレーキペダル24のストローク量と制御圧センサ73で検出した圧力との関係を示すグラフである。図4に示すように、エアが混入していない場合に制御圧センサ73で検出される圧力が目標圧力Ptargetとなるまでに操作されたストローク量をS、エアが混入している場合に目標圧力Ptargetとなるまでに操作されたストローク量をSairとすると、S<Sairとなる。これは、エアが第1の供給経路に混入している場合、圧力によりエアがつぶれるまでにエアの体積に応じたストローク量が必要となるためである。
【0075】
そこで、エア混入検出手段84は、S<Sthとなる閾値Sthを予め設定しておくことで、この閾値Sthとストローク量Sを比較しエアの混入を検出することができる。つまり、エアの混入が無い場合あるいはブレーキに対して影響がない程度の所定のエア混入量以下の場合(以下、「エアの混入が実質的に無い場合」という)に制御圧センサ73により検出された作動流体の圧力が所定の圧力となるまでにブレーキペダル24に入力されたストローク量Sthを、エアの混入の有無を判定するための閾値として予め設定しておくとよい。そして、ストロークセンサ25が検出したストローク量の情報に基づいて演算された演算値と閾値Sthとを比較し、第1の供給経路へのエアの混入を検出することができる。なお、閾値は、実質的にエアの混入が無い場合にブレーキペダル24に所定のストローク量を入力したときの作動流体の圧力としてもよい。
【0076】
[実施例2]
実施例2では、シミュレータカット弁68からストロークシミュレータ69までの流路におけるエアの混入を検出する方法について説明する。図5は、実施例2におけるエア混入検出方法を実行する際のブレーキ制御装置20の状態を示す系統図である。本実施例においては、実施例1におけるエアの混入の検出を行った後にシミュレータカット弁68を開いた状態とすることで、図5に示す太線の経路における作動流体の圧力が矢印A1のようにストロークシミュレータ69とシミュレータカット弁68との間にかかる。
【0077】
そこで、制御圧センサ73により検出する作動流体の圧力が一定となるように、人力によりあるいは機械によりブレーキペダル24に所定の操作量を入力する。このとき、シミュレータカット弁68とストロークシミュレータ69との間にエアが混入している場合、エアが混入していない場合と比較して、第1の供給経路からシミュレータカット弁68とストロークシミュレータ69との間の流路に流入する作動流体の量が多くなる。そのため、制御圧センサ73により検出する作動流体の圧力を一定とするために必要なストローク量も多くなる。そこで、エア混入検出手段84は、制御圧センサ73により検出する作動流体の圧力が一定となるのに必要なストローク量と予め設定してある閾値とを比較することでシミュレータカット弁68とストロークシミュレータ69との間のエアの混入を検出することができる。
【0078】
[実施例3]
実施例3では、第2の供給経路を構成する第2流路45b、個別流路43,44におけるエアの混入を検出する方法について説明する。図6は、実施例3におけるエア混入検出方法を実行する際のブレーキ制御装置20の状態を示す系統図である。本実施例においては、実施例1におけるエアの混入の検出を行った後に、マスタカット弁64、レギュレータカット弁65、増圧リニア制御弁66、減圧リニア制御弁67を閉じた状態とする。これにより第1の供給経路のうちマスタカット弁64とホイールシリンダ23FR,23FLとの間の第1流路45aにおける作動流体は、前述のブレーキペダル24に所定の操作量が入力された状態における所定の圧力で維持されることになる。
【0079】
また、レギュレータカット弁65、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67を閉じているので、第2の供給経路のうちレギュレータカット弁65とホイールシリンダ23RR,23RLとの間の第2流路45bは他の経路と遮断され、所定の圧力、例えば大気圧で維持されることになる。この状態で、分離弁60を開くことで、図6に示す太線の経路における作動流体の圧力が、矢印A2のように第2流路45bに加わり、第2流路45b、個別流路43,44における作動流体の圧力が上昇する。また、それとともにマスタカット弁64とホイールシリンダ23FR,23FLとの間の経路における作動流体の圧力は低下し、その圧力の低下を制御圧センサ73により検出することができる。
【0080】
このとき、第2流路45b、個別流路43,44のいずれかにエアが混入している場合、エアが混入していない場合と比較して、第1の供給経路から分離弁60を通過して第2流路45bに作動流体が多く流入する。そのため、制御圧センサ73により検出する作動流体の圧力の低下幅は大きくなる。そこで、エア混入検出手段84は、制御圧センサ73により検出する作動流体の圧力の低下幅とエアの混入の有無を判定するために予め設定してある閾値とを比較することで、第2流路45b、個別流路43,44におけるエアの混入を検出することができる。ここで、予め設定してある閾値とは、エアの混入が実質的に無い場合に分離弁60を開いたときの制御圧センサ73により検出する作動流体の圧力の低下幅として定義することができる。
【0081】
[実施例4]
実施例4では、動力液圧源30から各ホイールシリンダ23までのアキュムレータ流路63、主流路45、個別流路41〜44を含む動力液圧伝達経路におけるエアの混入を検出する方法について説明する。図7は、実施例4におけるエア混入検出方法を実行する際のブレーキ制御装置20の状態を示す系統図である。本実施例では、はじめに、増圧リニア制御弁66を閉じた状態でアキュムレータ35を蓄圧する。その際、マスタカット弁64、レギュレータカット弁65、減圧リニア制御弁67を閉じることで、主流路45および個別流路41〜44は、他の経路から遮断されるとともに一定の圧力で維持されることになる。
【0082】
この状態で、アキュムレータ35における圧力が所定の圧力に達した場合、増圧リニア制御弁66を開弁することで、図7に示す太線の経路における作動流体の圧力が、矢印A3のように主流路45に加わり、主流路45および個別流路41〜44における作動流体の圧力が上昇する。また、それとともにアキュムレータ35から増圧リニア制御弁66との間の経路における作動流体の圧力は低下し、その圧力の低下をアキュムレータ圧センサ72により検出することができる。
【0083】
このとき、アキュムレータ流路63、主流路45、個別流路41〜44のいずれかにエアが混入している場合、エアが混入していない場合と比較して、動力液圧源30と増圧リニア制御弁66との間にある作動流体が増圧リニア制御弁66を通過して主流路45に多く流入する。そのため、エアが混入している場合に動力液圧伝達経路内の圧力が平衡となるまでの、アキュムレータ圧センサ72により検出される作動流体の圧力低下幅は、エアが混入していない場合と比較して大きくなる。詳述すると、エアが混入していない場合、作動流体としてのブレーキオイル等は加わる圧力が変化してもその体積はほぼ変化しない。それに対して、例えば、増圧リニア制御弁66の下流側に大気圧に近い状態でエアが混入していた場合、増圧リニア制御弁66の開弁に伴い動力液圧源30に蓄圧されていた圧力によりエアが圧縮されることで、高圧の作動流体が増圧リニア制御弁66の下流に流入する。そのため、動力液圧源30で蓄圧されていた作動流体の圧力低下幅は、エアが混入していない場合と比較して大きくなる。
【0084】
図8は、実施例4において増圧リニア制御弁66を開いてから平衡圧力となるまでのアキュムレータ圧と経過時間との関係を示すグラフである。なお、P1はアキュムレータ圧の制御圧上限、P2は制御圧下限である。図8に示すように、エアの混入が有る場合のアキュムレータ圧の低下幅ΔPairは、エアの混入が無い場合のアキュムレータ圧の低下幅ΔPaccより大きくなる。
【0085】
そこで、エア混入検出手段84は、アキュムレータ圧センサ72により検出する作動流体の圧力の低下幅とエアの混入の有無を判定するために予め設定してある閾値とを比較することで、アキュムレータ流路63、主流路45、個別流路41〜44におけるエアの混入を検出することができる。ここで、予め設定してある閾値とは、エアの混入が実質的にない場合に増圧リニア制御弁66を開いたときのアキュムレータ圧センサ72により検出する作動流体の圧力の低下幅として定義することができる。なお、実施例4においては、増圧リニア制御弁66を開弁する際に分離弁60も開いた状態で圧力の低下幅を検出しているが、分離弁60を閉じて圧力の低下幅を検出すれば、第2流路45bおよび個別流路43,44におけるエアの混入を検出することができる。
【0086】
以上のように動力液圧源30におけるアキュムレータ35を用いることで、動力液圧伝達経路におけるエアの混入を簡便に検出することができる。さらに、以下の方法によれば、動力液圧源30の温度変化による誤検知の影響を軽減し、より精度の高いエアの混入の検出を行うことができる。
【0087】
実施例4においては、エアの混入の検出に際してアキュムレータ35を含む動力液圧源30を用いている。この動力液圧源30においては、封入された気体を作動流体により圧縮することで蓄圧を行っている。その際、封入された気体は同じ圧力であっても温度によって容積が変化する。換言すれば、蓄圧された作動流体が所定の圧力だけ変化すると、それに伴い変化する封入されている気体の容積は温度によって異なる。また、封入されている気体の容積が所定の容量だけ変化すると、それに伴い変化する気体の圧力は温度によって異なる。
【0088】
具体的に説明すると、温度20℃の環境においてアキュムレータ35に封入した気体の封入圧をP、そのときの容量をVとし、これを使用環境温度Tにおいて制御圧上限であるPまで蓄圧すると、そのときの封入された気体の容量Vは、式1により算出される。
=V×((T+273)/(20+273))×(P/P)・・・(式1)
【0089】
この状態から、制御圧下限P2まで減圧したときに封入されている気体の容量をVとすると、VとVとの間には以下の関係がある。
1/n×V=P1/n×V・・・(式2)
=V(P/P1/n・・・(式3)
したがって、アキュムレータ35に蓄圧してある圧力がP1からP2まで減圧した場合の容量変化ΔVは、式4により算出され、使用環境温度Tによって異なる。
ΔV=V−V
=V×((T+273)/(20+273))×(P/P)×[(P/P)1/n−1]・・・(式4)
【0090】
また、エアが混入している場合の圧力低下幅は、エアが混入していない場合の圧力低下幅に加えて、動力液圧源30において封入されている気体の容積がエアの混入量変化する際の圧力変化の分だけ大きくなる。そのため、エアの混入量が同じ場合であっても、封入されている気体の温度、間接的には使用環境温度Tに応じて、圧力低下幅が異なることになる。そこで、封入されている気体の温度と相関のある情報に応じて閾値を決定することで、エアの混入をより精度良く検出することができる。
【0091】
図9は、アキュムレータにおいて封入されている気体のP−V特性と温度との関係を模式的に示したグラフである。曲線C,C,Cはそれぞれ温度が高温(例えば70℃)、室温(例えば20℃)、低温(例えば−20℃)の場合における封入された気体のP−V特性を示している。
【0092】
実施例4において、動力液圧源30において制御上限圧P1まで蓄圧した状態で増圧リニア制御弁66を開弁すると、増圧リニア制御弁66の下流側にエアが混入していない場合、アキュムレータ圧は図9に示すように平衡圧Pまで低下する。この場合、封入されている気体の温度によって容量変化ΔV,ΔV,ΔVは異なるが、作動流体としてのブレーキオイル等は加わる圧力が変化してもその体積はほぼ変化しないため、使用環境温度や封入されている気体の温度によってはアキュムレータ圧の低下幅もほぼ変化せず平衡圧Pとなる。
【0093】
しかし、増圧リニア制御弁66の下流側にエアが混入している場合、エアをつぶすために流入する作動流体の容量(エアの混入量ΔVairに相当)に応じてアキュムレータ35に封入されている気体も容量ΔVairだけ膨張し、それに応じて圧力が低下する。図9に示すように、ΔVairだけ変化したときの圧力低下幅は、封入されている気体の温度によって異なり、本実施例では、ΔPLair>ΔPRair>ΔPHairとなる。つまり、増圧リニア制御弁66の下流側にエアが混入している場合の各温度における圧力低下幅は、以下の式5に示す関係を有する。
ΔP(=ΔP+ΔPLair)>ΔP(=ΔP+ΔPRair)>ΔP(=ΔP+ΔPHair)・・・(式5)
【0094】
したがって、本実施例に係るエア混入検出手段84は、エアの混入の有無を判定するために圧力低下幅と比較するための閾値を、封入された気体の温度と相関のある情報に応じて決定する。そして、エア混入検出手段84は、増圧リニア制御弁66が開弁された際のアキュムレータ圧の圧力低下幅と温度と相関のある情報に報じて決定された閾値とを比較することで、動力液圧伝達経路へのエアの混入をより精度よく検出することができる。
【0095】
図10は、実施例4においてエアの混入を検出する際の処理を示すフローチャートである。図10に示す処理は、ブレーキ制御装置20の製造時における検査や、車両が一定距離走行した後の所定のタイミングで行ってもよい。
【0096】
図10に示す処理が開始されると、ブレーキECU70は、増圧リニア制御弁66を閉じる(S10)。そして、アキュムレータ圧センサ72からの情報に基づいてアキュムレータ35において所望の圧力が蓄圧されているか否かを判定する(S12)。アキュムレータ35において所望の圧力が蓄圧されていない場合(S12のNo)、ポンプ36を駆動し作動流体をアキュムレータ35に送出することで昇圧する(S14)。
【0097】
アキュムレータ35において所望の圧力が蓄圧されている場合(S12のYes)、マスタカット弁64、レギュレータカット弁65、減圧リニア制御弁67を閉じた状態で、増圧リニア制御弁66を開き(S16)、アキュムレータ圧センサ72によりアキュムレータ圧Paccを測定する(S18)。エア混入検出手段84は、圧力変動演算部86において、アキュムレータ圧センサ72が検出した作動流体の圧力の情報から圧力の低下幅ΔPaccを算出する(S20)。
【0098】
次に、温度センサ82によりアキュムレータ35の温度を測定し(S22)、閾値決定部88において、温度センサ82が検出した温度の情報から閾値ΔPthが決定される(S24)。なお、閾値ΔPthの決定には、例えば、温度毎に数値が関連付けされたテーブルや、温度と閾値との関係が数式化された関数を用いてもよい。次に、圧力低下幅ΔPaccと閾値ΔPthとはエア混入判定部90において比較され、圧力低下幅ΔPaccがΔPth以下の場合(S26のNo)、エアの混入が無いと判定される(S28)。一方、圧力低下幅ΔPaccがΔPthより大きい場合(S26のYes)、エアの混入が有ると判定され(S30)、報知部92により乗員や作業員に警告が発せられる(S32)。
【0099】
なお、エア混入検出手段84は、エア混入判定部90のかわりに圧力の低下幅ΔPaccと閾値ΔPthとを比較してエアの混入量を算出するエア混入量算出部を備えてもよい。エア混入量算出部は、閾値ΔPthより圧力の低下幅ΔPaccが大きい場合、閾値ΔPthと圧力の低下幅ΔPaccとの差からエアの混入量を算出する。これにより、エアの混入の有無だけでなく、エアの混入量についても精度よく算出することができる。
【0100】
[実施例5]
実施例5では、第2の供給経路を構成するアキュムレータ流路63、第2流路45b、個別流路43,44におけるエアの混入を検出する方法について説明する。図11は、実施例5におけるエア混入検出方法を実行する際のブレーキ制御装置20の状態を示す系統図である。本実施例においては、実施例1におけるエアの混入の検出を行った後に、マスタカット弁64、レギュレータカット弁65、減圧リニア制御弁67を閉じた状態とする。これにより第1の供給経路のうちマスタカット弁64とホイールシリンダ23FR,23FLとの間の第1流路45aにおける作動流体は、前述のブレーキペダル24に所定の操作量が入力された状態における所定の圧力で維持されることになる。
【0101】
また、増圧リニア制御弁66を開き、レギュレータカット弁65および減圧リニア制御弁67を閉じているので、動力液圧伝達経路のうち動力液圧源30とホイールシリンダ23RR,23RLとの間の第2流路45bは他の経路と遮断され、所定の圧力、例えば大気圧で維持されることになる。アキュムレータ35において蓄圧が行われていない場合、この状態で分離弁60を開くことで、図11に示す太線の経路における作動流体の圧力が、矢印A2、A4のように第2流路45bおよびアキュムレータ配管39に加わり、アキュムレータ35、アキュムレータ配管39、第2流路45b、個別流路43,44における作動流体の圧力が上昇する。そして、その圧力の上昇をアキュムレータ圧センサ72により検出することができる。また、それとともにマスタカット弁64とホイールシリンダ23FR,23FLとの間の経路における作動流体の圧力の低下を制御圧センサ73により検出することができる。
【0102】
このとき、動力液圧源30からホイールシリンダ23FR,23FLへの経路、例えば、第2流路45b、個別流路43,44のいずれかにエアが混入している場合、エアが混入していない場合と比較して、第1の供給経路から分離弁60、増圧リニア制御弁66を通過してアキュムレータ配管39に流入する作動流体によりエアをつぶすため圧力の上昇が遅れる。つまり、アキュムレータ圧センサ72により検出する作動流体の圧力の上昇が遅れる。そこで、エア混入検出手段84は、アキュムレータ圧センサ72により検出する作動流体の圧力の応答遅れとエアの混入の有無を判定するために予め設定してある閾値とを比較することで、動力液圧源30からホイールシリンダ23FR,23FLへの経路、例えば、第2流路45b、個別流路43,44におけるエアの混入を検出することができる。ここで、予め設定してある閾値とは、エアの混入が実質的にない場合に分離弁60を開いてからアキュムレータ圧センサ72により検出する作動流体の圧力上昇の応答遅れとして定義することができる。
【0103】
[実施例6]
実施例6では、アキュムレータ35やポンプ36から増圧リニア制御弁66までの経路におけるエアの混入を検出する方法について説明する。図12、図13は、実施例6におけるエア混入検出方法を実行する際のブレーキ制御装置20の状態を示す系統図である。本実施例においては、実施例1あるいは実施例3におけるエアの混入の検出を行った後に、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67を閉じ、アキュムレータ35を蓄圧する。そして、図12に示すように、分離弁60、マスタカット弁64、レギュレータカット弁65を開き、ブレーキペダル24の操作を繰り返すことで、主流路45および個別流路41〜44における作動流体の圧力が所定の圧力になるまで昇圧する。
【0104】
所定の圧力になった後、増圧リニア制御弁66、減圧リニア制御弁67を閉じた状態でブレーキペダル24の操作を終了すると、マスタカット弁64およびレギュレータカット弁65の上流側(マスタシリンダユニット27側)の圧力は大気圧となる。そして、アキュムレータ35に蓄圧されていた圧力を開放し、増圧リニア制御弁66を開弁すると、図13に示す太線の経路における作動流体の圧力が、矢印A5のようにアキュムレータ配管39に加わり、アキュムレータ35やポンプ36から増圧リニア制御弁66までの経路における作動流体の圧力が上昇する。そして、その圧力の上昇をアキュムレータ圧センサ72により検出することができる。また、それとともに主流路45および個別流路41〜44における作動流体の圧力は低下し、その圧力の低下を制御圧センサ73により検出することができる。
【0105】
このとき、アキュムレータ35やポンプ36から増圧リニア制御弁66までの経路にエアが混入している場合、エアが混入していない場合と比較して、主流路45から増圧リニア制御弁66を通過してアキュムレータ配管39に流入する作動流体によりエアをつぶすため圧力の上昇が遅れる。つまり、アキュムレータ圧センサ72により検出する作動流体の圧力の上昇が遅れる。そこで、エア混入検出手段84は、アキュムレータ圧センサ72により検出する作動流体の圧力の応答遅れとエアの混入の有無を判定するために予め設定してある閾値とを比較することで、アキュムレータ35やポンプ36から増圧リニア制御弁66への経路、例えば、アキュムレータ配管39におけるエアの混入を検出することができる。ここで、予め設定してある閾値とは、エアの混入が実質的にない場合に増圧リニア制御弁66を開いてからアキュムレータ圧センサ72により検出する作動流体の圧力上昇の応答遅れとして定義することができる。また、本実施例では、アキュムレータ圧センサ72において検出した圧力上昇の応答遅れを基準としてエアの混入を検出しているが、制御圧センサ73において検出した圧力低下幅を基準としてエアの混入を検出してもよい。
【0106】
[実施例7]
実施例7では、レギュレータ33からレギュレータカット弁65までの経路におけるエアの混入を検出する方法について説明する。図14は、実施例7におけるエア混入検出方法を実行する際のブレーキ制御装置20の状態を示す系統図である。本実施例においては、実施例1〜実施例6におけるエアの混入の検出によりレギュレータ33からレギュレータカット弁65までの経路以外にエアの混入がなかった場合に行うとよい。これにより、レギュレータ33からレギュレータカット弁65までの経路におけるエアの混入を精度良く検出することができる。
【0107】
本実施例においては、増圧リニア制御弁66、減圧リニア制御弁67を閉じアキュムレータ35に蓄圧した後、レギュレータカット弁65を閉じ、ブレーキペダル24によりレギュレータ圧センサ71が所定の圧力となるまで操作を行う。このとき、レギュレータ圧センサ71の圧力が所定の圧力となるまでに必要なブレーキペダル24のストローク量、あるいはアキュムレータ圧センサ72の圧力の低下幅を参照して、エアの混入を検出することができる。
【0108】
このとき、レギュレータ33からレギュレータカット弁65までの経路にエアが混入している場合、エアが混入していない場合と比較して、レギュレータ圧センサ71の圧力が所定の圧力となるまでに必要なブレーキペダル24のストローク量が大きくなる。また、同様に、アキュムレータ圧センサ72の圧力の低下幅も実施例4で詳述した理由により大きくなる。そこで、エア混入検出手段84は、所定の圧力となるまでに必要なブレーキペダル24のストローク量とエアの混入の有無を判定するために予め設定してある閾値とを比較することで、レギュレータ33からレギュレータカット弁65までの経路におけるエアの混入を検出することができる。また、エア混入検出手段84は、アキュムレータ圧センサ72の圧力の低下幅とエアの混入の有無を判定するために予め設定してある閾値とを比較することで、レギュレータ33からレギュレータカット弁65までの経路におけるエアの混入を検出することができる。なお、本実施例では、アキュムレータ圧センサ72で検出したアキュムレータ35の圧力の低下幅と閾値とを比較して、エアの混入を検出するので、本実施例に係るエア混入検出手段84は、エアの混入の有無を判定するために圧力低下幅と比較するための閾値を、封入された気体の温度と相関のある情報に応じて決定するとよい。
【0109】
[実施例8]
実施例8では、例えば実施例1においてマスタ流路61、第1流路45a、個別流路41,42のいずれかにエアの混入を検出した場合、さらにホイールシリンダ23FRを含む個別流路41,ホイールシリンダ23FLを含む個別流路42のいずれかにエアの混入が有るか否かを判別する方法について説明する。図15は、実施例8におけるエア混入検出方法を実行する際のブレーキ制御装置20の状態を示す系統図である。
【0110】
まず、分離弁60およびABS保持弁52を閉じた状態でブレーキペダル24によるペダル操作を実施し、制御圧センサ73が所定の圧力となるまで昇圧する。そして、マスタカット弁64を閉じることで、第1流路45aおよび個別流路41における作動流体が所定の圧力で維持される。その後、ABS保持弁52を開くことで、図15に示す太線の経路における作動流体の圧力が矢印A6のように個別流路42を介してホイールシリンダ23FLに加わる。
【0111】
このとき、個別流路42にエアが混入している場合、エアが混入していない場合と比較して、第1流路45aからABS保持弁52を通過してホイールシリンダ23FLに作動流体が多く流入する。そのため、制御圧センサ73により検出する作動流体の圧力の低下幅は大きくなる。そこで、エア混入検出手段84は、制御圧センサ73により検出する作動流体の圧力の低下幅とエアの混入の有無を判定するために予め設定してある閾値とを比較することで、個別流路42におけるエアの混入を検出することができる。ここで、予め設定してある閾値とは、エアの混入が実質的にない場合にABS保持弁52を開いたときの制御圧センサ73により検出する作動流体の圧力の低下幅として定義することができる。また、実施例1においてエアの混入を検出しているにもかかわらず、本実施例において個別流路42やホイールシリンダ23FL内へのエアの混入が無い場合、エア混入検出手段84は、個別流路41やホイールシリンダ23FR内へのエアの混入を推定することができる。なお、分離弁60およびABS保持弁51を閉じた状態でブレーキペダル24によるペダル操作を実施し、前述の制御を行うことで個別流路41におけるエアの混入を検出することができる。
【0112】
[実施例9]
実施例9では、例えば実施例3において第2流路45b、個別流路43,44のいずれかにエアの混入を検出した場合、さらに、ホイールシリンダ23RRを含む個別流路43,ホイールシリンダ23RLを含む個別流路44のいずれかにエアの混入が有るか否かを判別する方法について説明する。図16は、実施例9におけるエア混入検出方法を実行する際のブレーキ制御装置20の状態を示す系統図である。
【0113】
まず、分離弁60を開き、マスタカット弁64、レギュレータカット弁65、ABS保持弁51,52,54を閉じた状態で、増圧リニア制御弁66を開き、蓄圧されているアキュムレータ35の圧力を主流路45及び個別流路43に導入し、制御圧センサ73が所定の圧力となるまで昇圧する。そして、増圧リニア制御弁66を閉じることで、主流路45および個別流路43における作動流体が所定の圧力で維持される。その後、ABS保持弁54を開くことで、図16に示す太線の経路における作動流体の圧力が矢印A7のように個別流路44を介してホイールシリンダ23RLに加わる。
【0114】
このとき、個別流路44にエアが混入している場合、エアが混入していない場合と比較して、第1流路45aからABS保持弁54を通過してホイールシリンダ23RLに作動流体が多く流入する。そのため、制御圧センサ73により検出する作動流体の圧力の低下幅は大きくなる。そこで、エア混入検出手段84は、制御圧センサ73により検出する作動流体の圧力の低下幅とエアの混入の有無を判定するために予め設定してある閾値とを比較することで、個別流路42におけるエアの混入を検出することができる。ここで、予め設定してある閾値とは、エアの混入が実質的にない場合にABS保持弁54を開いたときの制御圧センサ73により検出する作動流体の圧力の低下幅として定義することができる。また、実施例3においてエアの混入を検出しているにもかかわらず、本実施例において個別流路44やホイールシリンダ23RL内へのエアの混入が無い場合、エア混入検出手段84は、個別流路43やホイールシリンダ23RR内へのエアの混入を推定することができる。なお、はじめにABS保持弁54を閉じるかわりにABS保持弁53を閉じた状態で前述の制御を行うことで、個別流路43におけるエアの混入を検出することができる。
【0115】
[実施例10]
実施例10では、前述の各実施例におけるエア混入検出手段を行う前に、レギュレータ33からレギュレータカット弁65までに混入しているエアをレギュレータカット弁65より下流側、例えば主流路45に移動させる方法について説明する。図17は、実施例10における混入したエアを移動させる方法を行う際のブレーキ制御装置20の状態を示す系統図である。
【0116】
まず、増圧リニア制御弁66を閉じた状態でアキュムレータ35に蓄圧する。そして、レギュレータカット弁65および減圧リニア制御弁67を開いた状態でブレーキペダル24を繰り返し操作する。これにより、アキュムレータ35により蓄圧された圧力がレギュレータ流路62に加わり、レギュレータ33からレギュレータカット弁65までにエアが混入していれば、図17に示す矢印A8のようにレギュレータカット弁65の下流側に移動させることができる。その結果、レギュレータ33からレギュレータカット弁65までのエアの混入を検出する方法、例えば、実施例7におけるエア混入検出方法を実行する必要が無くなり、ブレーキ制御装置20において効率よくエアの混入を検出することができる。
【0117】
[実施例11]
実施例11では、レギュレータ33からレギュレータカット弁65までに混入しているエアを高圧の作動流体を循環させることでリザーバ34に戻す方法について説明する。図18は、実施例11における混入したエアをリザーバに戻す際のブレーキ制御装置20の状態を示す系統図である。
【0118】
まず、増圧リニア制御弁66を閉じた状態でアキュムレータ35に蓄圧する。そして、分離弁60、減圧リニア制御弁67およびABS保持弁53,54を閉じ、レギュレータカット弁65を開いた状態で増圧リニア制御弁66を開く。これにより、アキュムレータ35により蓄圧された圧力が加わっている高圧の作動流体は、図18に示す矢印A9のように第2流路45bおよびレギュレータ流路62を経由してレギュレータ33へと循環する。その結果、レギュレータ33からレギュレータカット弁65までにエアが混入していれば、リザーバ34に戻ることになり、エアを除去することができる。
【0119】
[実施例12]
実施例12では、マスタシリンダ32からマスタカット弁64までに混入しているエアを高圧の作動流体を循環させることでリザーバ34に戻す方法について説明する。図19は、実施例12における混入したエアをリザーバに戻す際のブレーキ制御装置20の状態を示す系統図である。
【0120】
まず、増圧リニア制御弁66を閉じた状態でアキュムレータ35に蓄圧する。そして、レギュレータカット弁65、減圧リニア制御弁67およびABS保持弁51,52,53,54を閉じ、分離弁60、マスタカット弁64を開いた状態で増圧リニア制御弁66を開く。これにより、アキュムレータ35により蓄圧された圧力が加わっている高圧の作動流体は、図19に示す矢印A10のように第2流路45b、第1流路45aおよびマスタ流路61を経由してマスタシリンダ32へと循環する。その結果、マスタシリンダ32からマスタカット弁64までにエアが混入していれば、リザーバ34に戻ることになり、エアを除去することができる。
【0121】
以上、本発明を上述の実施の形態や各実施例を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態および各実施例に限定されるものではなく、実施の形態や各実施例の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施例におけるエアの混入の検出の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態や各実施例に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明の一実施の形態に係るブレーキ制御装置を示す系統図である。
【図2】本実施の形態に係るブレーキECUのブロック図である。
【図3】実施例1におけるエア混入検出方法を実行する際のブレーキ制御装置の状態を示す系統図である。
【図4】実施例1におけるブレーキペダル24のストローク量と制御圧センサで検出した圧力との関係を示すグラフである。
【図5】実施例2におけるエア混入検出方法を実行する際のブレーキ制御装置の状態を示す系統図である。
【図6】実施例3におけるエア混入検出方法を実行する際のブレーキ制御装置の状態を示す系統図である。
【図7】実施例4におけるエア混入検出方法を実行する際のブレーキ制御装置の状態を示す系統図である。
【図8】実施例4において増圧リニア制御弁を開いてから平衡圧力となるまでのアキュムレータ圧と経過時間との関係を示すグラフである。
【図9】アキュムレータにおいて封入されている気体のP−V特性と温度との関係を模式的に示したグラフである。
【図10】実施例4においてエアの混入を検出する際の処理を示すフローチャートである。
【図11】実施例5におけるエア混入検出方法を実行する際のブレーキ制御装置の状態を示す系統図である。
【図12】実施例6におけるエア混入検出方法を実行する際のブレーキ制御装置の状態を示す系統図である。
【図13】実施例6におけるエア混入検出方法を実行する際のブレーキ制御装置の状態を示す系統図である。
【図14】実施例7におけるエア混入検出方法を実行する際のブレーキ制御装置の状態を示す系統図である。
【図15】実施例8におけるエア混入検出方法を実行する際のブレーキ制御装置の状態を示す系統図である。
【図16】実施例9におけるエア混入検出方法を実行する際のブレーキ制御装置の状態を示す系統図である。
【図17】実施例10における混入したエアを移動させる方法を行う際のブレーキ制御装置の状態を示す系統図である。
【図18】実施例11における混入したエアをリザーバに戻す際のブレーキ制御装置の状態を示す系統図である。
【図19】実施例12における混入したエアをリザーバに戻す際のブレーキ制御装置の状態を示す系統図である。
【符号の説明】
【0123】
20 ブレーキ制御装置、 23 ホイールシリンダ、 24 ブレーキペダル、 25 ストロークセンサ、 27 マスタシリンダユニット、 30 動力液圧源、 32 マスタシリンダ、 33 レギュレータ、 34 リザーバ、 35 アキュムレータ、 36 ポンプ、 40 液圧アクチュエータ、 45 主流路、 45a 第1流路、 45b 第2流路、 51 ABS保持弁、 56 ABS減圧弁、 60 分離弁、 61 マスタ流路、 62 レギュレータ流路、 63 アキュムレータ流路、 64 マスタカット弁、 65 レギュレータカット弁、 66 増圧リニア制御弁、 67 減圧リニア制御弁、 70 ブレーキECU、 71 レギュレータ圧センサ、 72 アキュムレータ圧センサ、 73 制御圧センサ、 80 制御部、 82 温度センサ、 84 エア混入検出手段、 86 圧力変動演算部、 88 閾値決定部、 90 エア混入判定部、 92 報知部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
封入された気体を、運転者のブレーキ操作から独立した動力を用いて供給される作動流体により圧縮することで蓄圧可能な動力液圧源と、
作動流体の供給を受けて車輪に制動力を付与するホイールシリンダと、
前記動力液圧源と前記ホイールシリンダとを接続し、前記動力液圧源から前記ホイールシリンダへの作動流体の供給が可能なように連通される動力液圧伝達経路と、
前記動力液圧伝達経路に設けられ、前記動力液圧源から前記ホイールシリンダへの作動流体の供給を制御する制御弁と、
前記制御弁の開閉を制御するとともに、前記動力液圧伝達経路における作動流体の圧力を制御する制御部と、
前記制御弁と前記動力液圧源との間に設けられ、前記動力液圧源で蓄圧されている作動流体の圧力を検出する動力液圧源圧力センサと、
前記制御弁が開弁された際に前記動力液圧源圧力センサにより検出された前記作動流体の圧力の情報に基づいて演算された演算値とエアの混入の有無を判定するための閾値とを比較し、前記動力液圧伝達経路へのエアの混入を検出するエア混入検出手段とを備え、
前記エア混入検出手段は、前記封入された気体の温度と相関のある情報に応じて前記閾値を決定することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記封入された気体の温度と相関のある情報を検出する温度センサを更に備え、
前記エア混入検出手段は、
前記動力液圧源圧力センサが検出した作動流体の圧力の情報から圧力の低下幅を算出する圧力変動演算部と、
前記温度センサが検出した温度の情報から前記閾値を決定する閾値決定部と、
前記圧力の低下幅と前記閾値とを比較してエアの混入を判定するエア混入判定部とを有し、
前記エア混入判定部は、前記閾値より前記圧力の低下幅が大きい場合、エアが混入していると判定することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記封入された気体の温度と相関のある情報を検出する温度センサを更に備え、
前記エア混入検出手段は、
前記動力液圧源圧力センサが検出した作動流体の圧力の情報から圧力の低下幅を算出する圧力変動演算部と、
前記温度センサが検出した温度の情報から前記閾値を決定する閾値決定部と、
前記圧力の低下幅と前記閾値とを比較してエアの混入量を算出するエア混入量算出部とを有し、
前記エア混入量算出部は、前記閾値より前記圧力の低下幅が大きい場合、前記閾値と前記圧力の低下幅との差からエアの混入量を算出することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項4】
収容された作動流体を運転者によるブレーキ操作部材の操作量に応じて加圧する第1の圧力源と、前記第1の圧力源の作動流体の圧力に合わせて作動流体を調圧する第2の圧力源とを含むマニュアル圧力源と、
前記マニュアル圧力源と前記ホイールシリンダとを接続し、所定の条件において前記マニュアル圧力源から前記ホイールシリンダへの作動流体の供給が許容されるよう連通されるマニュアル圧力伝達経路とを更に備え、
前記ホイールシリンダは、制動力配分が大きく設定されている車輪に制動力を付与する第1のホイールシリンダと、該第1のホイールシリンダよりも制動力配分が小さく設定されている車輪に制動力を付与する第2のホイールシリンダとを更に含み、
前記マニュアル圧力伝達経路は、前記第1の圧力源と前記第1のホイールシリンダとを接続する第1の供給経路と、前記第2の圧力源と前記第2のホイールシリンダとを接続する第2の供給経路と、該第1の供給経路と該第2の供給経路とを接続する流路の中途に設けられ、閉弁時に前記第1の供給経路と前記第2の供給経路とを分離する分離弁と、前記第1の供給経路上に設けられた第1の開閉弁と、前記第2の供給経路上に設けられた第2の開閉弁と、前記第1のホイールシリンダと前記第1の開閉弁との間に設けられ、前記第1のホイールシリンダの圧力を検出するホイールシリンダ圧力センサとを更に含み、
前記制御部は、前記分離弁および前記第1の開閉弁および前記第2の開閉弁の開閉を制御するとともに、前記マニュアル圧力伝達経路における作動流体の圧力を制御し、
前記エア混入検出手段は、前記分離弁が閉じられているとともに前記第1の開閉弁が開弁されている状態で、前記ホイールシリンダ圧力センサにより検出された前記作動流体の圧力が所定の圧力となるまでブレーキ操作部材が操作された場合、該ブレーキ操作部材に入力された操作量とエアの混入の有無を判定するための閾値とを比較し、前記第1の供給経路へのエアの混入を検出する、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記ブレーキ操作部材により前記第1の供給経路が所定の圧力になった後に、前記第1の開閉弁、前記第2の開閉弁および前記制御弁を閉じた状態で、前記分離弁を開き、
前記エア混入検出手段は、前記分離弁が開弁された際に前記ホイールシリンダ圧力センサにより検出された前記作動流体の圧力の情報に基づいて演算された演算値とエアの混入の有無を判定するための閾値とを比較し、前記第2の供給経路へのエアの混入を検出する、
ことを特徴とする請求項4に記載のブレーキ制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記制御弁を閉じた状態で前記動力液圧源に蓄圧した後に、前記第2の開閉弁および前記分離弁を閉じた状態で前記制御弁を開き、
前記エア混入検出手段は、前記制御弁が開弁された際に前記動力液圧源圧力センサにより検出された前記作動流体の圧力の情報に基づいて演算された演算値とエアの混入の有無を判定するための閾値とを比較し、前記動力液圧伝達経路へのエアの混入を検出する、
ことを特徴とする請求項4に記載のブレーキ制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記ブレーキ操作部材により前記第1の供給経路が所定の圧力になった後に、前記動力液圧源が蓄圧されていない状態、かつ、前記第1の開閉弁および前記第2の開閉弁を閉じ前記制御弁を開いている状態で前記分離弁を開き、
前記エア混入検出手段は、前記分離弁が開弁された際に前記動力液圧源圧力センサにより検出された前記作動流体の圧力の情報に基づいて演算された演算値とエアの混入の有無を判定するための閾値とを比較し、動力液圧伝達経路へのエアの混入を検出する、
ことを特徴とする請求項4に記載のブレーキ制御装置。
【請求項8】
封入された気体を、運転者のブレーキ操作から独立した動力を用いて供給される作動流体により圧縮することで蓄圧可能な動力液圧源と、
作動流体の供給を受けて車輪に制動力を付与するホイールシリンダと、
前記動力液圧源と前記ホイールシリンダとを接続し、前記動力液圧源から前記ホイールシリンダへの作動流体の供給が可能なように連通される動力液圧伝達経路と、
前記動力液圧伝達経路における作動流体の圧力を制御する制御部とを備え、車輪に付与される制動力を制御するブレーキ制御装置へのエアの混入を検出するエア混入検出方法であって、
前記動力液圧源における作動流体の圧力の情報に基づいて圧力変化幅を算出する工程と、
前記封入された気体の温度と相関のある温度情報を取得する工程と、
エアの混入の有無を判定するための閾値を前記温度情報に基づいて選択する工程と、
前記圧力変化幅と前記閾値とを比較してエアの混入の有無を検出する工程と、
を有することを特徴とするエア混入検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2008−30545(P2008−30545A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−203973(P2006−203973)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】