説明

プラズマ発生装置による絶縁性膜層の成膜方法、プラズマ発生装置による導電性膜層の成膜方法、絶縁性膜層、導電性膜層およびプラズマ発生装置

【課題】高品質な膜の形成を可能とできるプラズマ成膜方法を提供する。
【解決手段】プラズマ状態とし、重畳バイアス電圧をバイアス電圧印加部11に印加し、マイナス電圧区間ではイオンがワーク14に衝突して該ワーク表面に膜層を形成して行き、プラス電圧区間53では前記膜層の弱い付着力のイオンは該膜層から離れ移動し、かつ、電子が前記膜層に衝突して弱い付着力のイオンおよび該膜層の一部を剥がし、強付着力の膜による第1回目強付着膜層を残し、マイナス電圧区間とプラス電圧区間を繰り返すことにより、前記第1回目強付着膜層〜前記第n回目強付着膜層からなる多層膜を成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ発生装置による絶縁性膜層の成膜方法、プラズマ発生装置による導電性膜層の成膜方法、絶縁性膜層、導電性膜層およびプラズマ発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電位0状態で接地されたチャンバ―と、このチャンバ―内に設けられプラズマを発生させる双極子電極と、この双極子電極に高周波を供給する、発振器とトランスを有する自励式の高周波発振部と、前記チャンバ―に導電形態で一体化されて前記発振器とトランスを覆うように設けられた発振器シールドカバー、該チャンバ―とからなるシールド体と、トランスの中位点と前記チャンバ―を電位0状態で接地してなる中位点接続部と、前記チャンバ―内に該チャンバ―と絶縁状態で設けられたバイアス電圧印加部と、このバイアス電圧印加部に直流バイアス電圧を印加する前記シールド体と電位0状態で接地されたバイアス形成用直流電源とからなっているプラズマ発生装置が知られている。(例えば、特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-212234号公報(図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1の技術にあっては、直流バイアス電圧印加部に印加される電圧は直流電圧であるため、その極性はマイナスかプラスのいずれかである。
直流バイアス電圧がプラズマ電位に対してマイナスである場合で、例えば、アルミニウム製部材のワークに絶縁性膜である窒化アルミニウム膜(成膜対象)を形成するプラズマ処理の場合にあっては、電離されたプラスの窒素イオンがマイナスバイアスされたワーク台およびアルミニウムワークに引き寄せられ(イオン吸引効果と呼ぶ)衝突しあるいは反応して、窒化アルミニウム膜が生成される。
【0005】
しかるに、衝突し反応した窒化アルミニウムは絶縁体であるために該窒化アルミニウム膜が生成されるとこの膜の上に、絶縁体ゆえにプラスのイオンが堆積し、このためワーク表面のイオン吸引効果が弱まり、よって窒素イオンの衝突、反応力が弱まって行く。この結果、一旦薄い絶縁性膜層ができると、イオン吸引効果が減るばかりでなく、絶縁体である窒化アルミニウム膜層の膜形成速度が低下する。
そこで、成膜速度を速めるためにあるいは厚い窒化アルミニウム膜を形成しようと、強い直流バイアス電圧を印加すると、より大きなチャージアップによって、膜の絶縁破壊が起こり部分的に表面に放電痕が生じ、成膜面にはところどころに放電禍根のある荒れた表面となる。
【0006】
よって、高品質、高平坦面の絶縁性膜を形成しようとすると、直流バイアス電圧を低くしての処理となり、結果的に長時間処理を要するという欠点を有するものであった。
すなわち、バイアス電圧がマイナス直流バイアス電圧のみだと、時間の経過とともに電荷堆積が増え、ますます窒化反応は阻害されるばかりでなく、電荷量(チャージアップ量)が増えると、端面や薄い層部分では、絶縁破壊が起きワーク表面に放電痕を生じ、表面の層が荒れるという欠点が生ずる。反応を速めようとして、バイアス電圧を強く(深く)すると、より一層チャージアップ量が増えるので放電痕がひどくなり、高品質な窒化膜は得られなくなる。高品質な膜を得るためには、部分放電を起こさないような低いバイアス電圧で、長時間、ゆっくりと反応を待つしかないことになのである。
また、ワーク(母材)がすでに絶縁性(たとえばガラス(不導体)や半導体)のもの、あるいはワークが導電性ではあるが既に絶縁性膜で覆われているもの上に導電性膜を成膜する場合にあっても同様なことが言えるものである。
【0007】
また、特許文献1以外の技術で電極を有する高周波プラズマ装置、即ち静電容量型あるいは平行平板型プラズマ装置では、チャンバ―が片側電極の役目となっているので、電極の自己バイアス現象も生じ、プラズマの電位中心が常に0になるとは限らない。片側電極、即ちチャンバ―(導体)を強制的に電位0(アーズ)としているので、逆に中のプラズマ電位の中心は不定である。
【0008】
本発明は上述したような従来技術の欠点に鑑みてなされたものであって、その第1の目的は、成膜対象が絶縁性でありかつその該絶縁性膜を施すワークが導電性を有するものにあって、高品質な絶縁性膜層を高速に成膜可能とするプラズマ発生装置による絶縁性膜層の成膜方法を提供するにある。
第2の目的は、成膜対象が導電性でありかつ該導電性膜を施すワークが絶縁性を有するものにあって、高品質な導電性膜層を高速に成膜可能とするプラズマ発生装置による導電性膜層の成膜方法を提供するにある。
第3の目的は、高品質の絶縁性膜層および高品質の導電性膜層を提供することを目的としている。
第4の目的は、前記第1の目的、前記第2の目的および前記第3の目的を実現するプラズマ発生装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は次に述べるような構成となっている。
<請求項1記載の発明>
電位0状態で接地された導電性部材からなるチャンバ―、このチャンバ―内に設けられた高周波プラズマ(プラズマ)を発生させる双極子電極、この双極子電極に高周波電力を供給するための発振器およびトランス、前記双極子電極、前記発振器、前記トランス、前記高周波プラズマ(プラズマ)とによって形成される、周波数が可変となる自励式の高周波発振部、前記チャンバ―に導電形態で一体化されて前記発振器および前記トランスを覆うように設けられた、導電性部材からなる発振器シールドカバー、前記高周波発振部および該チャンバ―内で生ずる高周波ノイズの外部輻射を生じなくさせるための、前記チャンバ―と前記発振器シールドカバーとによって形成されてなるシールド体、前記トランスの中位点と前記チャンバ―を電位0状態で接地してなる中位点接続部、前記シールド体と絶縁状態で前記発振器に電力を供給する発振器用電源、前記チャンバ―内に該チャンバ―と絶縁状態で設けられた、バイアス電圧が印加されるバイアス電圧印加部、このバイアス電圧印加部に直流バイアス電圧を印加する電圧を可変できる可変型直流電源、前記バイアス電圧印加部に前記直流バイアス電圧と重畳できる交流バイアス電圧を印加する、周波数および電圧を可変できる可変型交流電源、前記直流バイアス電圧と前記交流バイアス電圧が重畳された重畳バイアス電圧の波形、前記重畳バイアス電圧の波形の0Vラインを上回った電圧よりなるプラス電圧区間、前記重畳バイアス電圧の波形の0Vラインを下回った電圧よりなるマイナス電圧区間とからなるとともに、前記プラス電圧区間の幅と電圧および前記マイナス電圧区間の幅と電圧を、前記可変型直流電源と前記可変型交流電源を調節することにより自在に設定することができるようにしてなることを特徴とするプラズマ発生装置による絶縁性膜層の成膜方法であって、
前記絶縁性膜層の成膜に適した前記重畳バイアス電圧の波形が得られるように前記可変型直流電源と前記可変型交流電源を設定し、
前記バイアス電圧印加部に導電性ワークをセットし、
前記チャンバ―内に成膜ガスを導入し、
前記双極子電極に高周波電流を流して前記成膜ガスをプラズマ状態であるプラスイオン化し、
前記重畳バイアス電圧を前記バイアス電圧印加部に印加し、
前記マイナス電圧区間では前記プラスイオンが前記導電性ワークに衝突して該導電性ワーク表面に絶縁性膜層を形成して行き、前記プラス電圧区間では前記プラスイオンは該絶縁性膜層から離れ移動し、かつ、電子が前記絶縁性膜層に衝突して弱い付着力の前記プラスイオンおよび該絶縁性膜層の一部を剥がし、弱い付着力部分が除かれた強付着力の膜による第1回目強付着絶縁性膜層を残し、前記マイナス電圧区間と前記プラス電圧区間を繰り返すことにより、前記第1回目強付着絶縁性膜層上に第2回目強付着絶縁性膜層を形成し、この第2回目強付着絶縁性膜層上に第3回目強付着絶縁性膜層を形成するという工程を繰り返して第n回目強付着絶縁性膜層を形成して、前記第1回目強付着絶縁性膜層〜前記第n回目強付着絶縁性膜層からなる絶縁性膜層を成膜するようにしたことを特徴とするプラズマ発生装置による絶縁性膜層の成膜方法である。
【0010】
本願発明にあっては、「可変型直流電源」には、電圧の正逆印加切り替え型電源もその技術的範疇に含むものであり、「可変型交流電源」にはパルス波形電圧、正弦波電圧、三角派電圧、脈流など、様々な交流波形の電圧と周波数を可変とすることもその技術的範疇に含むものである。このことは、以下の請求項の発明についても適用されるものである。
【0011】
<請求項2記載の発明>
電位0状態で接地された導電性部材からなるチャンバ―、このチャンバ―内に設けられた高周波プラズマ(プラズマ)を発生させる双極子電極、この双極子電極に高周波電力を供給するための発振器およびトランス、前記双極子電極、前記発振器、前記トランス、前記高周波プラズマ(プラズマ)とによって形成される、周波数が可変となる自励式の高周波発振部、前記チャンバ―に導電形態で一体化されて前記発振器および前記トランスを覆うように設けられた、導電性部材からなる発振器シールドカバー、前記高周波発振部および該チャンバ―内で生ずる高周波ノイズの外部輻射を生じなくさせるための、前記チャンバ―と前記発振器シールドカバーとによって形成されてなるシールド体、前記トランスの中位点と前記チャンバ―を電位0状態で接地してなる中位点接続部、前記シールド体と絶縁状態で前記発振器に電力を供給する発振器用電源、前記チャンバ―内に該チャンバ―と絶縁状態で設けられた、バイアス電圧が印加されるバイアス電圧印加部、このバイアス電圧印加部に直流バイアス電圧を印加する電圧を可変できる可変型直流電源、前記バイアス電圧印加部に前記直流バイアス電圧と重畳できる交流バイアス電圧を印加する、周波数および電圧を可変できる可変型交流電源、前記直流バイアス電圧と前記交流バイアス電圧が重畳された重畳バイアス電圧の波形、前記重畳バイアス電圧の波形の0Vラインを上回った電圧よりなるプラス電圧区間、前記重畳バイアス電圧の波形の0Vラインを下回った電圧よりなるマイナス電圧区間とからなるとともに、前記プラス電圧区間の幅と電圧および前記マイナス電圧区間の幅と電圧を、前記可変型直流電源と前記可変型交流電源を調節することにより自在に設定することができるようにしてなることを特徴とするプラズマ発生装置による導電性膜層の成膜方法であって、
前記導電性成膜層に適した前記重畳バイアス電圧の波形が得られるように前記可変型直流電源と前記可変型交流電源を設定し、
前記バイアス電圧印加部に絶縁性ワークをセットし、
前記チャンバ―内に成膜ガスを導入し、
前記双極子電極に高周波電流を流して前記成膜ガスをプラズマ状態であるプラスイオン化し、
前記重畳バイアス電圧を前記バイアス電圧印加部に印加し、
前記マイナス電圧区間では前記プラスイオンが前記絶縁性ワーク側に移動されて該絶縁ワーク表面に導電性膜層が集積して行き、前記プラス電圧区間では前記プラスイオンの弱い付着力の弱い部分は該導電性膜層から離れ移動し、かつ、電子が前記導電性膜層に移動して当って弱い付着力の前記プラスイオンを剥がし、弱い付着力部分が除かれた強付着力の膜による第1回目強付着導電性膜層を残し、前記マイナス電圧区間と前記プラス電圧区間を繰り返すことにより、前記第1回目強付着導電性膜層上に第2回目強付着導電性膜層を形成し、この第2回目強付着導電性膜層上に第3回目強付着導電性膜層を形成するという工程を繰り返して第n回目強付着導電性膜層を形成して、前記第1回目強付着導電性膜層〜前記第n回目強付着導電性膜層からなる導電性膜層を成膜するようにしたことを特徴とするプラズマ発生装置による導電性膜層の成膜方法である。
【0012】
<請求項3記載の発明>
請求項1記載のプラズマ発生装置による絶縁性膜層の成膜方法により成膜された第1回目強付着絶縁性膜層〜第n回目強付着絶縁性膜層からなることを特徴とする絶縁性膜層である。
【0013】
<請求項4記載の発明>
請求項2記載のプラズマ発生装置による導電性膜層の成膜方法により成膜された第1回目強付着導電性膜層〜第n回目強付着導電性膜層からなることを特徴とする導電性膜層である。
【0014】
<請求項5記載の発明>
電位0状態で接地された導電性部材からなるチャンバ―と、
このチャンバ―内に設けられた高周波プラズマ(プラズマ)を発生させる双極子電極と、
この双極子電極に高周波電力を供給するための発振器およびトランスと、
前記双極子電極、前記発振器、前記トランス、前記高周波プラズマ(プラズマ)とによって形成される、周波数が可変となる自励式の高周波発振部と、
前記チャンバ―に導電形態で一体化されて前記発振器および前記トランスを覆うように設けられた、導電性部材からなる発振器シールドカバーと、
前記高周波発振部および該チャンバ―内で生ずる高周波ノイズの外部輻射を生じなくさせるための、前記チャンバ―と前記発振器シールドカバーとによって形成されてなるシールド体と、
前記トランスの中位点と前記チャンバ―を電位0状態で接地してなる中位点接続部と、
前記シールド体と絶縁状態で前記発振器に電力を供給する発振器用電源と、
前記チャンバ―内に該チャンバ―と絶縁状態で設けられた、バイアス電圧が印加されるバイアス電圧印加部と、
このバイアス電圧印加部に直流バイアス電圧を印加する電圧を可変できる可変型直流電源と、
前記バイアス電圧印加部に前記直流バイアス電圧と重畳できる交流バイアス電圧を印加する、周波数および電圧を可変できる可変型交流電源と、
前記直流バイアス電圧と前記交流バイアス電圧が重畳された重畳バイアス電圧の波形と、
前記重畳バイアス電圧の波形の0Vラインを上回った電圧よりなるプラス電圧区間と、
前記重畳バイアス電圧の波形の0Vラインを下回った電圧よりなるマイナス電圧区間とからなるとともに、
前記プラス電圧区間の幅と電圧および前記マイナス電圧区間の幅と電圧を、前記可変型直流電源と前記可変型交流電源を調節することにより自在に設定することができるようにしてなることを特徴とするプラズマ発生装置である。
【発明の効果】
【0015】
以上の説明から明らかなように、本発明にあっては次に列挙する効果が得られる。
<請求項1記載の発明の効果>
[基本動作]
プラズマとは、チャンバ―内の気体が電離し、マイナスの電子とプラスのイオンが混在した状態にある。チャンバ―に囲まれたプラズマの電位は、チャンバ―内壁(導体)に接しているので、電位0状態のチャンバ―電位と同じである。このチャンバ―内に設けられたバイアス電圧印加部(例えばワーク台)およびそこにセットされたワークに直流バイアス電圧と交流バイアス電圧を重畳させた重畳バイアス電圧が印加される。
【0016】
この重畳バイアス電圧の印加による基本動作は次のようである。
重畳バイアス電圧がプラズマに対して、マイナス電圧区間では、プラズマ中のプラスのイオンはマイナスであるバイアス電圧印加部および導電性のワークに引寄せられ移動し(イオン吸引効果)、マイナスの電子は反発される(電子反発効果)。逆にプラス電圧区間ではプラスのイオンはバイアス電圧印加部側から反発され(イオン反発効果)、電子は引き寄せられる(電子吸引効果)。
【0017】
本願発明のプラズマ発生装置では、チャンバ―2は電位が常に0であるので、プラズマの電位中心も常に0であり、イオンおよび電子がチャンバ―からの電位的な影響を受けての挙動が生じなく、よって、重畳バイアス電圧による効率的で効果的なイオンおよび電子の挙動制御を可能としている。
【0018】
[作用効果]
このような、重畳バイアス電圧の印加の基本動作によってもたらされる作用効果について、例えば、窒素ガスをプラズマ化して導電性部材であるアルミニウム製部材(導電性ワーク)の表面に絶縁性膜である窒化アルミニウム膜を形成する成膜処理の例で説明する。
まず、電子電荷のチャージが起こったり部分放電が起こったりしないように、マイナス電圧区間とプラス電圧区間の、区間長さ(幅)と電圧の大きさを窒化アルミニウム膜の成膜条件に最適な値に設定する。
【0019】
A: マイナス電圧区間での挙動
電離されたプラスイオンである窒素イオンが引寄せられ移動反応して、マイナスであるアルミニウム製部材(導電性ワーク)の表面に窒化アルミニウム膜層が形成されて行く。そして、窒化アルミニウム膜層は絶縁体(不導体)であるので、この膜層が薄くできるとこの膜層の上にプラスの電荷(窒素イオンばかりではない)が堆積して行き、結果プラスイオンの吸引力が弱くなり、窒化の成膜反応速度も減少する。同時に窒化反応に寄与しないプラスイオンも混在堆積し、結果、付着力の弱い窒化膜も生ずる。
【0020】
B: プラス電圧区間に転じたときの挙動
導電性ワークであるアルミニウム製部材もプラスとなり、形成された窒化アルミニウム膜層の上に堆積した電荷は、プラス同士なので反発力を受け表面から離脱、あるいは、電子が引き寄せられ電荷に衝突して中和(+と−が打ち消される)される。このプラス電圧区間では成膜反応は進行しない。このようにして処理表面にはプラス電荷の存在は無い状態の第1回目強付着絶縁性膜層が形成される。ちょうど表面の電荷をクリーニング(電荷クリーニング)された状態となる。
C: A=B=A=B=・・・を繰り返す。
【0021】
このように、第1回目強付着絶縁性膜層が形成され、電荷クリーニングされ、その上に第2回目強付着絶縁性膜層が形成され、第3回目強付着絶縁性膜層、第4回目強付着絶縁性膜層・・第n回目強付着絶縁性膜層(第n回目強付着窒化アルミニウム膜層)が成膜されてゆき、第1回目強付着絶縁性膜層(第1回目強付着窒化アルミニウム膜層)〜第n回目強付着絶縁性膜層((第n回目強付着窒化アルミニウム膜層)からなる高密度・高強度である高品質の強付着絶縁膜層が多層した絶縁性膜層が形成される。
【0022】
上記成膜工程は、絶縁性膜の弱い部分を電荷クリーニングにより除去して該絶縁性膜を薄くしながら、すなわち絶縁性を弱めることによって成膜速度を上げての成膜を実現しているので、従来のものに比べて成膜速度が向上され(成膜時間の短縮を実現し)、かつ、高品質の成膜を実現しているものである。
このような、重畳バイアス電圧の印加を継続させることによって、高強度・高密度・高品質(例えば、荒れのない滑らかな平坦表面)の絶縁性多層膜を短時間で形成できるという効果を奏する。
これは、特に高速で緻密な平坦性が求められる成膜用途に有効である。
【0023】
本発明にあっては、電圧が可変できる可変型直流電源と周波数および電圧を可変できる可変型交流電源とによる調節によって、絶縁性膜の上に異なる種類の膜を形成する、あるいは、異なる種類の多種多層膜を形成するにあたって、それぞれの膜の種類、膜の状態に応じた、バイアス電圧、交流バイアス電圧の波形、交流バイアス電圧周波数を適宜選択し設定した重畳バイアス電圧の波形を用いて、あるいはこれらの電圧、周波数を変化させながら成膜を進めて行くことを可能としているという効果を奏する。
【0024】
<請求項2記載の発明の効果>
[基本動作]
プラズマとは、チャンバ―内の気体が電離し、マイナスの電子とプラスのイオンが混在した状態にある。チャンバ―に囲まれたプラズマの電位は、チャンバ―内壁(導体)に接しているので、電位0状態のチャンバ―電位と同じである。このチャンバ―内に設けられたバイアス電圧印加部(例えばワーク台)およびそこにセットされたワークに直流バイアス電圧と交流バイアス電圧を重畳させた重畳バイアス電圧が印加される。
この重畳バイアス電圧の印加による基本動作は次のようである。
【0025】
重畳バイアス電圧がプラズマに対して、マイナス電圧区間では、プラズマ中のプラスのイオンはマイナスであるバイアス電圧印加部および導電性のワークに移動(降り積もる)し、マイナスの電子は反発される(電子反発効果で降り積もり難い)。逆にプラス電圧区間ではプラスのイオンはバイアス電圧印加部側から反発され(イオン反発効果)、電子は降り積もる(電子吸引効果)。
本願発明のプラズマ発生装置ではチャンバ―2は電位が常に0であるので、プラズマの電位中心も常に0であり、イオンおよび電子がチャンバ―からの電位的な影響を受けての挙動が生じなく、よって、重畳バイアス電圧による効率的で効果的なイオンおよび電子の挙動制御を可能としている。
【0026】
[作用効果]
このような、重畳バイアス電圧の印加の基本動作によってもたらされる作用効果について、例えば、アルミニウムガスをプラズマ化して導電性部材であるガラス製部材(絶縁性ワーク)の表面に導電性膜であるアルミニウム膜を形成する成膜処理の例で説明する。
まず、電子電荷のチャージが起こったり部分放電が起こったりしないように、マイナス電圧区間とプラス電圧区間の、区間長さ(幅)と電圧の大きさ(強さ)をアルミニウム膜の成膜条件に最適な値に設定する。
【0027】
A: マイナス電圧区間での挙動
ガラス製部材(絶縁性ワーク)がセットされたバイアス電圧印加部がマイナスとなるので、電離されたプラスイオンであるアルミニウムイオンがガラス製部材(絶縁性ワーク)の側に引き寄せられその表面に降り積もりアルミニウム膜層が形成されて行く。そして、アルミニウム膜層が薄くできるとともに、この膜層の上にプラスの電荷(アルミニウムイオンばかりではない)が堆積して行き、結果、外側に行くほど付着力の弱いプラスの電荷層が形成される。
【0028】
B: プラス電圧区間に転じたときの挙動
バイアス電圧印加部がプラスとなるので、プラスイオンのガラス製部材への降り移動は止まり軽いマイナスの電子が引き寄せられ、引き寄せられたマイナスの電子は付着力の弱いプラスの電荷層に衝突する。弱いプラスの電荷層はバイアス電圧印加部のプラス状態によって反発状態の剥がれやすい状態となっているので、電子の衝突でアルミニウム膜層表面から離脱、あるいは、電子が引き寄せられ電荷に衝突して中和(+と−が打ち消される)される。このプラス電圧区間では成膜反応は進行しない。このようにして処理表面には高密度で強い付着力のアルミニウム膜層である第1回目強付着導電性膜層が形成される。ちょうど表面の電荷をクリーニング(電荷クリーニング)させた状態となる。
C: A=B=A=B=・・・を繰り返す。
【0029】
このように、第1回目強付着導電性膜層が形成され、電荷クリーニングされ、その上に第2回目強付着導電性膜層が形成され、第3回目強付着導電性膜層、第4回目強付着導電性膜層・・・第n回目強付着導電性膜層(第n回目強付着窒化アルミニウム膜層)が成膜されてゆき、第1回目強付着導電性膜層(第1回目強付着窒化アルミニウム膜層)〜第n回目強付着導電性膜層((第n回目強付着窒化アルミニウム膜層)からなる高密度・高強度である高品質の強付着絶縁膜層が多層した導電性膜層が形成される。
このような、重畳バイアス電圧の印加を継続させることによって、高強度・高密度・高品質(例えば、荒れのない滑らかな平坦表面)の導電性多層膜を短時間で形成できるという効果を奏する。
これは、特に高速で緻密な平坦性が求められる成膜用途に有効である。
【0030】
本発明にあっては、シールド体と絶縁状態とされ且つ該シールド体と電位0状態で接地された電圧が可変できる可変型直流電源とシールド体と絶縁状態とされ且つ該シールド体と電位0状態で接地された周波数および電圧を可変できる可変型交流電源とによる調節によって、導電性膜の上に異なる種類の膜を形成する、あるいは、異なる種類の多種多層膜を形成するにあたって、それぞれの膜の種類、膜の状態に応じた、バイアス電圧(直流バイアス電圧と交流バイアス電圧)、交流バイアス電圧の波形、交流バイアス電圧周波数を適宜選択し設定した重畳バイアス電圧を用いて、あるいはこれらの電圧、周波数などを変化させながら成膜を進めて行くことを可能としているという効果を奏する。
【0031】
<請求項3記載の発明の効果>
請求項1の発明に記載のプラズマ発生装置による絶縁性膜層の成膜方法により成膜された第1回目強付着絶縁性膜層〜第n回目強付着絶縁性膜層からなることを特徴とする絶縁性膜層であるので、前記請求項1に記載の発明で述べているように、高密度、高強度、平坦度の高い高品質な絶縁性膜層であるという効果を奏する。
【0032】
<請求項4記載の発明の効果>
請求項2の発明に記載のプラズマ発生装置による導電性膜層の成膜方法により成膜された第1回目強付着導電性膜層〜第n回目強付着導電性膜層からなることを特徴とする導電性膜層であるので、前記請求項2に記載の発明で述べているように、高密度、高強度、平坦度の高い高品質な導電性膜層であるという効果を奏する。
【0033】
<請求項5記載の発明の効果>
前記請求項1に記載の発明のプラズマ発生装置による絶縁性膜層の成膜方法、前記請求項2に記載の発明のプラズマ発生装置による導電性膜層の成膜方法、前記請求項3に記載の発明の絶縁性膜層、前記請求項4に記載の発明の導電性膜層を実現するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施例1を示す構成図。
【図2】本発明の実施例1の重畳された電圧の波形を示す図。
【図3】本発明の実施例1の双極子電極プラズマの等価回路図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施例を説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、後述する実施例の説明にあたっては前述してある実施例の構成と同じ構成については同じ符号を付しその説明を省略する。
【実施例1】
【0036】
図1ないし図3に示す本発明の実施例1において1はプラズマ発生装置であって、このプラズマ発生装置1は次のような構成となっている。
電位0状態で接地された導電性部材からなるチャンバ―2と、このチャンバ―2内に該チャンバ―2とは絶縁状態に設けられてプラズマを発生させる電極A、電極Bからなる双極子電極(対称電極)である双極子電極3と、直流電力を高周波電力に変えて前記双極子電極3に供給する発振器4およびトランス5と、前記双極子電極3、前記発振器4、前記トランス5、前記高周波プラズマとによって形成される、周波数が可変となる自励式の高周波発振部6と、前記チャンバ―2に導電形態で一体化されて前記発振器4および前記トランス5を覆うように設けられた導電性部材からなる発振器シールドカバー7と、前記トランス5の中位点と前記チャンバ―2を電位0状態で接地してなる中位点接続部8と、前記高周波発振部6および前記チャンバ―2内で生ずる高周波によるノイズ輻射を生じなくさせるための、前記チャンバ―2と前記発振器シールドカバー7とによって形成されてなるシールド体9と、このシールド体9と絶縁状態で前記発振器4に電力を供給する発振器用電源10と、前記チャンバ―2内に該チャンバ―2と絶縁状態で設けられた、ワーク14をセットするバイアス電圧印加部11と、このバイアス電圧印加部11にプラス直流バイアス電圧46とマイナス直流バイアス電圧41を切り替えて印加することができる、前記シールド体9と絶縁状態とされ且つ該シールド体9と電位0状態で接地された電圧が可変できる可変型直流電源12と、前記バイアス電圧印加部11にプラス直流バイアス電圧46とあるいはマイナス直流バイアス電圧41と重畳された重畳バイアス電圧49あるいは重畳バイアス電圧44を形成する交流バイアス電圧48あるいは交流バイアス電圧43を印加する、前記シールド体9と絶縁状態とされ且つ該シールド体9と電位0状態で接地された、周波数および電圧を可変できる可変型交流電源40と、前記直流バイアス電圧と前記交流バイアス電圧が重畳された重畳バイアス電圧49あるいは重畳バイアス電圧44と、前記重畳バイアス電圧49あるいは重畳バイアス電圧44の0Vラインを上回った電圧よりなるプラス電圧区間56あるいはプラス電圧区間53と、このプラス電圧区間56あるいはプラス電圧区間53と次のプラス電圧区間56あるいはプラス電圧区間53との間の0Vラインを下回った電圧よりなるマイナス電圧区間55あるいはマイナス電圧区間54とからなるとともに、前記プラス電圧区間56、53の幅と電圧および前記マイナス電圧区間55、54の幅と電圧を、前記可変型直流電源12と前記可変型交流電源40とを調節することにより自在に設定することができるようにしてなっている。
【0037】
可変型直流電源12の電圧がマイナス直流電圧波形41である場合は、交流電圧波形39の一部が0Vラインを上回った波形である重畳プラス電圧波形部位42を形成し、交流電圧波形39の一部が0Vラインを下回った波形である重畳マイナス電圧波形部位43を形成し、重畳プラス電圧波形部位42がプラス電圧区間53を形成し、重畳マイナス電圧波形部位43がマイナス電圧区間54を形成している。
あるいは、可変型直流電源12の電圧がプラス直流電圧波形46である場合は、交流電圧波形47の一部が0Vラインを上回った波形である重畳プラス電圧波形部位48を形成し、交流電圧波形47の一部が0Vラインを下回った波形である重畳マイナス電圧波形部位57を形成し、重畳プラス電圧波形部位48がプラス電圧区間53を形成し、重畳マイナス電圧波形部位57がマイナス電圧区間55を形成している。
【0038】
プラズマを発生させるための双極子電極3に与える高周波電力は自在に可変制御できるようになっている。
可変型交流電源40は50Hz〜200KHzの間で高周波を自在に可変制御でき、かつ、電圧も自在に可変制御できるようになっている。
可変型直流電源12の電圧は0〜600Vまで自在に可変制御、また極性も切替できるようになっている。
高周波発振部6、発振器用電源10、可変型交流電源40、可変型直流電源12は制御部(図示せず省略)の設定に基づいて自動的に制御することができるようになっている。
【0039】
加熱手段である誘導加熱装置22(事例では2MHzの高周波電流を供給しているが、周波数はこれに限定されるものではない。)の高周波加熱コイル21がチャンバ―2内に設けられ、この高周波加熱コイル21はワーク14に付着させる物質23を加熱気化させるためのものである。
高周波加熱コイル21は複数設けられ、付着させる蒸発させる物質も複数(個、種類)をチャンバ―2内に予め収納しておくことができる蒸発物質収納部(図示せず省略)が設けられ、蒸発させる物質を高周波加熱コイル21に搬送するための搬送手段(図示せず省略)が設けられている。
蒸発手段は誘導加熱装置に限定されず、タングステンボートなどを用いた抵抗加熱や、電子ビーム、レーザ光線など他の手段でもよい。
【0040】
直流バイアス電圧はマイナスバイアスでも、逆接続してプラスバイアスとすることができるようになっている。
チャンバ―2内には印加電圧を可変できるダミー電極用電源24によって直流バイアス電圧が印加される、シールド体9と絶縁状態とされ且つ該シールド体9と電位0状態で接地されたダミー電極26が設けられている。
これは、バイアス電圧印加部14には電圧を与えず、ダミー電極26にマイナスの電圧を与えると、プラスイオンはバイアス電圧印加部14には引着されず、ダミー電極26に引着する。これによりチャンバ―内の残存イオンをダミー電極26に引着できるので、チャンバ―内の清浄化を真空の解除することなく可能にできるので、生産性の向上を図ることを可能にする。
【0041】
また、ダミー電極26に交流バイアス電圧を印加する可変交流電源53と同様な可変交流電源を設けることにより、直流バイアス電圧と交流バイアス電圧の重畳された電圧である重畳バイアス電圧44あるいは重畳バイアス電圧49を印加することが可能となり、バイアス電圧印加部11への電圧印加と関連付けた制御とすることにより成膜形成に影響を与えることができる。
チャンバ―2の内壁はガラス製部材、セラミックス製部材などの耐蝕壁13としてもよい。
チャンバ―2内を減圧したり、排気をしたりするための真空ポンプ(図示せず省略)に連結され、また、チャンバ―2内にアルゴン、窒素、酸素ガスなどを送り込むためのガス注入部(図示せず省略)が設けられている。
【0042】
プラズマ発生装置1による多層膜の成膜方法について説明する。
多層膜の成膜に適した重畳された電圧の波形である重畳バイアス電圧の波形45あるいは重畳バイアス電圧の波形50が得られるように可変型直流電源12と可変型交流電源53を設定し、バイアス電圧印加部11にワーク14をセットし、チャンバ―内2に成膜ガス(図示せず省略)を導入し、双極子電極3に高周波電流を流して前記成膜ガスをプラズマ状態(イオン状態)とし、重畳バイアス電圧44あるいは重畳バイアス電圧49をバイアス電圧印加部11に印加し、マイナス電圧区間54あるいはマイナス電圧区間55ではイオンがワーク14に衝突(イオン吸引効果)して該ワーク11表面に膜層を形成して行き、プラス電圧区間53あるいはプラス電圧区間56では前記膜層の弱い付着力のイオンは該膜層から離れ移動し、かつ、電子が前記膜層に衝突して弱い付着力のイオンおよび該膜層の一部を剥がし、弱い付着力部分が除かれた強付着力の膜による第1回目強付着膜層を残し、マイナス電圧区間54とプラス電圧区間53あるいはマイナス電圧区間55とプラス電圧区間56を繰り返すことにより、前記第1回目強付着膜層上に第2回目強付着膜層を形成し、この第2回目強付着膜層上に第3回目強付着膜層を形成するという成膜工程を繰り返して第n回目強付着膜層を形成して、前記第1回目強付着膜層〜前記第n回目強付着膜層からなる多層膜を成膜するようにしたプラズマ発生装置による成膜方法である。
【0043】
具体例で説明する。
可変型直流電源12の直流バイアス電圧をマイナス直流バイアス電圧41とし、窒素ガス(図示せず省略)をプラズマにして導電性部材であるアルミニウム製部材からなるワーク14の表面に絶縁性膜である窒化アルミニウム膜を形成する成膜処理の例で説明する。
マイナス電圧区間54ではプラスイオンである窒素イオンがイオン引寄せられ移動(衝突)反応してマイナスであるワーク14の表面に窒化アルミニウム層が形成されて行く。
ここで、プラス電圧区間53になるとワーク14はプラスとなり、窒化アルミニウム層の弱い付着力の窒素イオンはイオン離れ移動し、かつ、マイナスの電子が電子引き寄せられ移動して窒化アルミニウム層に衝突して弱い付着力の窒素イオンおよび窒化アルミニウムを剥がし(以下「弱膜剥がし段階」という)、強付着力の窒化アルミニウム層である第1回目強付着絶縁性膜層が残る。
【0044】
ここで、マイナス電圧区間54にもどり、第1回目強付着絶縁性膜層の上に強付着力の第2回目強付着絶縁性膜層(第2回目強付着窒化アルミニウム層)が形成されその上に弱付着力の窒化アルミニウム層が形成され、次にプラス電圧区間53の弱膜剥がし段階となって、イオンおよび弱付着力の窒化アルミニウム層は剥がされ強い付着力の第1回目強付着絶縁性膜層+第2回目強付着絶縁性膜層(第1回目強付着窒化アルミニウム層+第2回目強付着窒化アルミニウム層)が形成される。このようにして、弱付着力の窒化アルミニウム層が除いた状態にしての、第n回目強付着絶縁性膜層(第n回目強付着窒化アルミニウム層)である絶縁多層膜を形成してゆくので、強付着窒化アルミニウム層の形成速度を早くし、よって形成時間を短縮することができる。
【0045】
このような、重畳バイアス電圧の印加を継続させることによって、高強度・高密度・高品質(例えば、荒れのない滑らかな平坦表面)の絶縁多層膜を短間で形成できるという効果を奏する。
これは、特に高速で緻密な製膜や平坦性が求められる用途に有効である。
(2)また、絶縁多層膜の上に異なる種類の膜を形成する、あるいは、異なる種類の多層膜である多種多層膜を形成にあたって、それぞれの膜の種類、膜の状態に応じて、それに適した、直流バイアス電圧、交流バイアス電圧の大きさ、波形、周波数を選択しながら成膜を進めて行くことを可能としているものである。
【0046】
[イオン吸引効果]
導体ワークのときでは、プラスイオンがマイナスのワーク台に吸引され、ワーク及びワーク台に衝突しその電荷を失う。その際、2次電子が放出され、その電子がプラスイオンと再結合して発光する。ワーク台には電流は流れる。表面で中和したイオンは、中性の分子の形で残る。
不導体ワーク(絶縁体)のときでは、初期にはイオンはワークに吸引される。しかしプラス電荷がチャージUPされると、プラスオンは吸引されず衝突反応できない。それゆえ、絶縁体ワークの上面では2次電子放出が起こらず再結合発光しない。イオン吸引効果が激減する。
ワークに絶縁性膜(層)が生じたときは、たとえ薄い絶縁性膜であっても絶縁体ワークと同じことが起きる。絶縁性膜(体)生成過程では、生膜厚は均一に進むとは限らないので、膜の薄い部分では絶縁破壊や、膜の境界部分での部分放電(ディスチャージ)も起こしやすくなる。またワーク台のバイアスを強くすると、この放電による”肌荒れ”が頻繁に起こるようになる。
【0047】
[イオン反発効果]
ワークやワーク台がプラスに転じた時は、電子は軽いので直ぐにワーク(導体ワーク)に引き寄せられる。プラスの電圧が低い時、またはプラスに転じている時間が短いときは、イオンは重いので、反発して離れようとするが急には動けない。低い電圧、短時間周期(高い周波数)では離れることはできない。
【0048】
電子が交流電場Eから受ける力Fは、
F=-e・Eo sin(ωt)・・・・(1) 電子の電荷:e=-1.6×10^-19 q
また、Newtonの法則から、
F=mα ・・・・(2)
電子の質量:m=9.1×10^-31 kg α:電子の加速度 m/s^2
(1)、(2)より
mα=-e・Eo・sin(ωt)
α=-(e・Eo/m)・sin(ωt)
上式を、2度積分すると、電子の移動距離:Xは次のような式になる。
X=-(e・Eo/m)ω^2 ・sin(ωt)
高周波周波数fを13.56(MHz)、ω=2πf 電場強度Eoを10K(V/m)とすると
X ≒ 0.24 sin(ωt)と計算され、電子は、1周期で、0.24m進み、0.24m戻ることになる。
今、イオンも電子と同じ電荷を持つとして、計算すると
イオンは質量 1.67262×10^-27 (電子質量の1836倍に相当する。)
移動距離は 、1836分の1になる。 (半周期時間)
13.56MHzでは 0.24/1836= 0.13 μm (0.037 μsec)
では、周波数fを2.0(MHz)、電場強度Eoを同じ10K(V/m)として計算する。
X ≒ 11.1 sin(ωt)となる。
つまり、電子は、1周期で、11.1m進み、11.1m戻る。
今、イオンも同様に
2.0MHz 11.1/1836= 6 mm (0.25 μsec)
2MHzの半周期では 電子は 11.1m進み イオンは反対方向に 6mm進む
(概ね2MHzではイオンは±6mm前後で”震えて”いることになる。)
【0049】
<絶縁性多層膜の成膜方法>
[a]高周波加熱コイル21に昇華させる物質23としてアルミニウムをセットする。
[b]ワーク14としてアルミニウム製部材をバイアス電圧印加部11にセットする。
[c]チャンバ―2内に窒素ガスを導入し、プラズマを発生させる。
[d]バイアス電圧印加部11に重畳バイアス電圧44を印加し、ワーク14を重畳バイアス電圧の印加状態にする。
[e]ワーク14表面に第1回目窒化アルミニウム膜が形成される。
[f]重畳バイアス電圧44の印加を停止し、ダミー電極にマイナスの直流バイアス電圧を印加し、窒素イオンを吸着しチャンバ―2内の窒素イオンを除去する。
[g]蒸発させる物質23を蒸発させアルミニウムをガス化させ、プラズマを発生させる。
[h]バイアス電圧印加部11に重畳バイアス電圧44を印加し、ワーク14を重畳バイアス電圧の印加状態にし、第1回目窒化アルミニウム膜上に第1回目のアルミニウム膜を形成する。
[i]重畳バイアス電圧44の印加を停止し、ダミー電極にマイナスの直流バイアス電圧を印加し、アルミニウムイオンを吸着しチャンバ―2内のアルミニウムイオンを除去する。
[j]チャンバ―2内に窒素ガスを導入し、プラズマを発生させる。
[k]バイアス電圧印加部11に重畳バイアス電圧44を印加する。
[l]第1回目のアルミニウム膜に窒素イオンが衝突し、第1回目窒化アルミニウム膜上に第2回目の窒化アルミニウム膜が形成される。
[k]以下、[f]〜[l]の工程を繰り返すことによって、第1回目強付着膜層〜第n回目強付着膜層からなる多層膜を成膜する。
【0050】
ダミー電極は複数設けておいて、あるいは交換可能な複数の交換ダミー電極をチャンバ―内に収納しておいて自動交換手段により交換するなどして、一回ないし複数回イオンを吸着したら新たなものに変えて行くのもよい。
第1回アルミニウム膜から第n回アルミニウム膜に重畳バイアス電圧44ないし重畳バイアス電圧49を独自に印加する、移動制御される膜用バイアス電圧印加手段(図示せず省略)を設けている。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明はプラズマ成膜産業あるいはプラズマ発生装置を製造する産業で利用される。
【符号の説明】
【0052】
1:プラズマ発生装置、
2:チャンバ―、
3:双極子電極、
4:発振器、
5:トランス、
6:高周波発振部、
7:発振器シールドカバー、
8:中位点接続部、
9:シールド体、
10:発振器用電源、
11:バイアス電圧印加部、
12:可変型直流電源、
13:耐蝕壁、
14:ワーク、
15:中位点、
21:高周波加熱コイル
22:誘導加熱装置、
23:蒸発させる物質、
24:ダミー電極用電源、
25:可変型直流電源、
26:ダミー電極、
39:交流電圧波形、
40:可変型交流電源、
41:マイナス直流電圧波形、
42:重畳プラス電圧波形部位、
43:重畳マイナス電圧波形部位、
44:重畳バイアス電圧、
45:重畳バイアス電圧の波形、
46:プラス直流電圧波形、
47:交流電圧波形、
48:重畳プラス電圧波形部位、
49:重畳バイアス電圧、
50:重畳バイアス電圧の波形、
53:プラス電圧区間、
54:マイナス電圧区間、
55:マイナス電圧区間、
56:プラス電圧区間、
57:重畳マイナス電圧波形部位。







































【特許請求の範囲】
【請求項1】
電位0状態で接地された導電性部材からなるチャンバ―、このチャンバ―内に設けられた高周波プラズマを発生させる双極子電極、この双極子電極に高周波電力を供給するための発振器およびトランス、前記双極子電極、前記発振器、前記トランス、前記高周波プラズマとによって形成される、周波数が可変となる自励式の高周波発振部、前記チャンバ―に導電形態で一体化されて前記発振器および前記トランスを覆うように設けられた、導電性部材からなる発振器シールドカバー、前記高周波発振部および該チャンバ―内で生ずる高周波ノイズの外部輻射を生じなくさせるための、前記チャンバ―と前記発振器シールドカバーとによって形成されてなるシールド体、前記トランスの中位点と前記チャンバ―を電位0状態で接地してなる中位点接続部、前記シールド体と絶縁状態で前記発振器に電力を供給する発振器用電源、前記チャンバ―内に該チャンバ―と絶縁状態で設けられた、バイアス電圧が印加されるバイアス電圧印加部、このバイアス電圧印加部に直流バイアス電圧を印加する電圧を可変できる可変型直流電源、前記バイアス電圧印加部に前記直流バイアス電圧と重畳できる交流バイアス電圧を印加する、周波数および電圧を可変できる可変型交流電源、前記直流バイアス電圧と前記交流バイアス電圧が重畳された重畳バイアス電圧の波形、前記重畳バイアス電圧の波形の0Vラインを上回った電圧よりなるプラス電圧区間、このプラス電圧区間と次のプラス電圧区間との間の0Vラインを下回った電圧よりなるマイナス電圧区間とからなるとともに、前記プラス電圧区間の幅と電圧および前記マイナス電圧区間の幅と電圧を、前記可変型直流電源と前記可変型交流電源を調節することにより自在に設定することができるようにしてなることを特徴とするプラズマ発生装置による絶縁性膜層の成膜方法であって、
前記絶縁性膜層の成膜に適した前記重畳バイアス電圧の波形が得られるように前記可変型直流電源と前記可変型交流電源を設定し、
前記バイアス電圧印加部に導電性ワークをセットし、
前記チャンバ―内に成膜ガスを導入し、
前記双極子電極に高周波電流を流して前記成膜ガスをプラズマ状態であるプラスイオン化し、
前記重畳バイアス電圧を前記バイアス電圧印加部に印加し、
前記マイナス電圧区間では前記プラスイオンが前記導電性ワークに衝突して該導電性ワーク表面に絶縁性膜層を形成して行き、前記プラス電圧区間では前記プラスイオンは該絶縁性膜層から離れ移動し、かつ、電子が前記絶縁性膜層に衝突して弱い付着力の前記プラスイオンおよび該絶縁性膜層の一部を剥がし、弱い付着力部分が除かれた強付着力の膜による第1回目強付着絶縁性膜層を残し、前記マイナス電圧区間と前記プラス電圧区間を繰り返すことにより、前記第1回目強付着絶縁性膜層上に第2回目強付着絶縁性膜層を形成し、この第2回目強付着絶縁性膜層上に第3回目強付着絶縁性膜層を形成するという工程を繰り返して第n回目強付着絶縁性膜層を形成して、前記第1回目強付着絶縁性膜層〜前記第n回目強付着絶縁性膜層からなる絶縁性膜層を成膜するようにしたことを特徴とするプラズマ発生装置による絶縁性膜層の成膜方法。
【請求項2】
電位0状態で接地された導電性部材からなるチャンバ―、このチャンバ―内に設けられた高周波プラズマを発生させる双極子電極、この双極子電極に高周波電力を供給するための発振器およびトランス、前記双極子電極、前記発振器、前記トランス、前記高周波プラズマとによって形成される、周波数が可変となる自励式の高周波発振部、前記チャンバ―に導電形態で一体化されて前記発振器および前記トランスを覆うように設けられた、導電性部材からなる発振器シールドカバー、前記高周波発振部および該チャンバ―内で生ずる高周波ノイズの外部輻射を生じなくさせるための、前記チャンバ―と前記発振器シールドカバーとによって形成されてなるシールド体、前記トランスの中位点と前記チャンバ―を電位0状態で接地してなる中位点接続部、前記シールド体と絶縁状態で前記発振器に電力を供給する発振器用電源、前記チャンバ―内に該チャンバ―と絶縁状態で設けられた、バイアス電圧が印加されるバイアス電圧印加部、このバイアス電圧印加部に直流バイアス電圧を印加する電圧を可変できる可変型直流電源、前記バイアス電圧印加部に前記直流バイアス電圧と重畳できる交流バイアス電圧を印加する、周波数および電圧を可変できる可変型交流電源、前記直流バイアス電圧と前記交流バイアス電圧が重畳された重畳バイアス電圧の波形、前記重畳バイアス電圧の波形の0Vラインを上回った電圧よりなるプラス電圧区間、前記重畳バイアス電圧の波形の0Vラインを下回った電圧よりなるマイナス電圧区間とからなるとともに、前記プラス電圧区間の幅と電圧および前記マイナス電圧区間の幅と電圧を、前記可変型直流電源と前記可変型交流電源を調節することにより自在に設定することができるようにしてなることを特徴とするプラズマ発生装置による導電性膜層の成膜方法であって、
前記導電性成膜層に適した前記重畳バイアス電圧の波形が得られるように前記可変型直流電源と前記可変型交流電源を設定し、
前記バイアス電圧印加部に絶縁性ワークをセットし、
前記チャンバ―内に成膜ガスを導入し、
前記双極子電極に高周波電流を流して前記成膜ガスをプラズマ状態であるプラスイオン化し、
前記重畳バイアス電圧を前記バイアス電圧印加部に印加し、
前記マイナス電圧区間では前記プラスイオンが前記絶縁性ワーク側に移動されて該絶縁ワーク表面に導電性膜層が集積して行き、前記プラス電圧区間では前記プラスイオンの弱い付着力の弱い部分は該導電性膜層から離れ移動し、かつ、電子が前記導電性膜層に移動して当って弱い付着力の前記プラスイオンを剥がし、弱い付着力部分が除かれた強付着力の膜による第1回目強付着導電性膜層を残し、前記マイナス電圧区間と前記プラス電圧区間を繰り返すことにより、前記第1回目強付着導電性膜層上に第2回目強付着導電性膜層を形成し、この第2回目強付着導電性膜層上に第3回目強付着導電性膜層を形成するという工程を繰り返して第n回目強付着導電性膜層を形成して、前記第1回目強付着導電性膜層〜前記第n回目強付着導電性膜層からなる導電性膜層を成膜するようにしたことを特徴とするプラズマ発生装置による導電性膜層の成膜方法。
【請求項3】
請求項1記載のプラズマ発生装置による絶縁性膜層の成膜方法により成膜された第1回目強付着絶縁性膜層〜第n回目強付着絶縁性膜層からなることを特徴とする絶縁性膜層。
【請求項4】
請求項2記載のプラズマ発生装置による導電性膜層の成膜方法により成膜された第1回目強付着導電性膜層〜第n回目強付着導電性膜層からなることを特徴とする導電性膜層。
【請求項5】
電位0状態で接地された導電性部材からなるチャンバ―と、
このチャンバ―内に設けられた高周波プラズマを発生させる双極子電極と、
この双極子電極に高周波電力を供給するための発振器およびトランスと、
前記双極子電極、前記発振器、前記トランス、前記高周波プラズマとによって形成される、周波数が可変となる自励式の高周波発振部と、
前記チャンバ―に導電形態で一体化されて前記発振器および前記トランスを覆うように設けられた、導電性部材からなる発振器シールドカバーと、
前記高周波発振部および該チャンバ―内で生ずる高周波ノイズの外部輻射を生じなくさせるための、前記チャンバ―と前記発振器シールドカバーとによって形成されてなるシールド体と、
前記トランスの中位点と前記チャンバ―を電位0状態で接地してなる中位点接続部と、
前記シールド体と絶縁状態で前記発振器に電力を供給する発振器用電源と、
前記チャンバ―内に該チャンバ―と絶縁状態で設けられた、バイアス電圧が印加されるバイアス電圧印加部と、
このバイアス電圧印加部に直流バイアス電圧を印加する電圧を可変できる可変型直流電源と、
前記バイアス電圧印加部に前記直流バイアス電圧と重畳できる交流バイアス電圧を印加する、周波数および電圧を可変できる可変型交流電源と、
前記直流バイアス電圧と前記交流バイアス電圧が重畳された重畳バイアス電圧の波形と、
前記重畳バイアス電圧の波形の0Vラインを上回った電圧よりなるプラス電圧区間と、
このプラス電圧区間と次のプラス電圧区間との間の0Vラインを下回った電圧よりなるマイナス電圧区間とからなるとともに、
前記プラス電圧区間の幅と電圧および前記マイナス電圧区間の幅と電圧を、前記可変型直流電源と前記可変型交流電源を調節することにより自在に設定することができるようにしてなることを特徴とするプラズマ発生装置。







































【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−237032(P2012−237032A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105901(P2011−105901)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(591090828)ワイエス電子工業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】