説明

プリプレグシート用樹脂組成物、プリプレグシートおよび繊維強化複合材料

【課題】含浸性に優れるプリプレグシート用樹脂組成物、該プリプレグシート用樹脂組成物を繊維に含浸させて得られるフィレット形成性が良好なプリプレグシート、ならびに、該プリプレグシートを硬化させることにより得られる強度が良好となる繊維強化複合材料の提供。
【解決手段】熱硬化性樹脂と、熱可塑性樹脂と、硬化剤と、下記式(1)で表されるマレイミド重付加物とを含有し、硬化中の最低粘度が10〜150Pa・sとなり、100℃での粘度が300Pa・s以下となる、プリプレグシート用樹脂組成物。


(式中、nは1〜10,000の整数であり、R1、Xは、それぞれ独立に、1〜24個の炭素原子を有する2価の有機基を表し、R2は、それぞれ独立に、1〜24個の炭素原子を有する1価の有機基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグシート用樹脂組成物、プリプレグシートおよび繊維強化複合材料に関する。更に詳しくは、強度が良好な繊維強化複合材料、該繊維強化複合材料を形成し、ハニカムコアとの接着に際して接着剤シートが不要となる自己接着性のプリプレグシートおよび該プリプレグシートを形成しうるプリプレグシート用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂組成物は、耐熱性に優れた樹脂として、建築、土木、自動車、航空機等の分野で利用されている。
このようなエポキシ樹脂組成物をマトリックス樹脂とする繊維強化複合材料は力学特性、耐熱性、耐水性に優れており、これまで、さまざまな組成を有するエポキシ樹脂と補強繊維の組み合わせによるプリプレグシートが提案されている。
また、航空機構造材料等の繊維強化複合材料においては、構造材料の軽量化の観点から蜂の巣構造をとるハニカムコアの断面にプリプレグシートの平面を接合させた構造に成形されることが多く、従来、ハニカムコアとプリプレグシートとの接着には、ハニカムコアとプリプレグとの間に介在させるシート状の接着剤が用いられている。
【0003】
そこで、製造工程の短縮化と更なる軽量化の観点から、シート状の接着剤を介さずに、ハニカムコアの両面にプリプレグシートを積層し、プリプレグシートそのものの硬化とハニカムコアとの接着を同時に、しかも接着剤なしで行う、いわゆる自己接着性のコキュア成形がプリプレグシートに要求されてきており、種々のプリプレグシート用樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1〜3等参照。)。
【0004】
特許文献1では、ポロシティー(樹脂硬化中に発生するボイド、空隙)の発生を回避することを目的として、「エポキシ樹脂と、芳香族アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、ジシアンジアミド系硬化剤およびノボラック系硬化剤からなる群より選ばれた1種または2種以上の硬化剤と、固形ゴムとからなるエポキシ樹脂組成物であって、80℃において振動周波数0.02Hzで測定した複素粘性率η0.02が5000ポイズ以上であり、振動周波数2Hzで測定した複素粘性率η2 と上記振動周波数0.02Hzで測定した複素粘性率η0.02との関係がlogη0.02−logη2≧0.5を満足することを特徴とするエポキシ樹脂組成物」が提案されている。また、特許文献1には、エポキシ樹脂組成物に、さらにポリエーテルスルホンを添加することが記載されている。
【0005】
しかしながら、従来公知の自己接着性のプリプレグシートを使用した場合、プリプレグシート用樹脂組成物の繊維への含浸性(以下、単に「含浸性」ともいう。)、および、繊維強化複合材料(例えば、ハニカムコアサンドイッチパネル)の作製時のフィレット形成性(以下、単に「フィレット形成性」ともいう。)をすべて満足させるのが困難なため、作製した繊維強化複合材料の強度(例えば、ATSM D1781に準じたクライミングドラムピール(Climbing Drum Peel)試験を行った際のはく離強度等)が劣る問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開平5−239317号公報
【特許文献2】特開平9−194611号公報
【特許文献3】特開平11−254435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、含浸性に優れるプリプレグシート用樹脂組成物、該プリプレグシート用樹脂組成物を繊維に含浸させて得られるフィレット形成性が良好なプリプレグシート、および、該プリプレグシートを硬化させることにより得られる強度が良好となる繊維強化複合材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、含浸性の観点から、50〜100℃付近、特に100℃での粘度がある程度低く、フィレットの形成性の観点から、通常120〜150℃付近で観測される硬化中の最低粘度がある程度高いことが必要となることを知見した。
この新しい知見に基づき、特定の構造を有するマレイミド重付加物を含有し、特定の温度において所定の粘度範囲となる樹脂組成物が、含浸性に優れ、該プリプレグシート用樹脂組成物を繊維に含浸させて得られるプリプレグシートが、フィレット形成性に優れ、該プリプレグシートを硬化させることにより得られる繊維強化複合材料が、強度に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(13)を提供する。
(1)熱硬化性樹脂と、熱可塑性樹脂と、硬化剤と、下記式(1)で表されるマレイミド重付加物とを含有し、
硬化中の最低粘度が10〜150Pa・sとなり、100℃での粘度が300Pa・s以下となる、プリプレグシート用樹脂組成物。
【0010】
【化5】

【0011】
(式中、nは1〜10,000の整数であり、R1、Xは、それぞれ独立に、置換基を有してもよく、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のへテロ原子を含んでもよい、1〜24個の炭素原子を有する2価の有機基を表し、R2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよく、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のへテロ原子を含んでもよい、1〜24個の炭素原子を有する1価の有機基を表す。)
【0012】
(2)前記Xにおいて、前記2価の有機基が、下記式(2)で表される基である上記(1)に記載のプリプレグシート用樹脂組成物。
【0013】
【化6】

【0014】
(式中、R3、R4は、それぞれ独立に、水素原子または1〜10個の炭素原子を有するアルキル基、芳香族基、アルキル芳香族基を表す。)
【0015】
(3)前記1価の有機基が、フェニル基、シクロヘキシル基、1〜6個の炭素原子を有するアルキル基および下記式(3)で表される基からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記(1)または(2)に記載のプリプレグシート用樹脂組成物。
【0016】
【化7】

【0017】
(式中、R5は、置換基を有してもよく、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のへテロ原子を含んでもよい、1〜19個の炭素原子を有する2価の有機基を表す。)
【0018】
(4)前記R1において、前記2価の有機基が、下記式(4)で表される基である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のプリプレグシート用樹脂組成物。
【0019】
【化8】

【0020】
(5)前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂および/またはシアネートエステル樹脂である上記(1)〜(4)のいずれかに記載のプリプレグシート用樹脂組成物。
(6)前記熱可塑性樹脂が、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドおよびポリスルホンからなる群から選択される少なくとも1種である上記(1)〜(5)のいずれかに記載のプリプレグシート用樹脂組成物。
(7)前記熱可塑性樹脂の含有量が、前記熱硬化性樹脂100質量部に対して30〜50質量部である上記(1)〜(6)のいずれかに記載のプリプレグシート用樹脂組成物。
(8)前記硬化剤が、ジアミノジフェニルスルホン、有機酸ジヒドラジドおよびジシアンジアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する上記(1)〜(7)のいずれかに記載のプリプレグシート用樹脂組成物。
(9)前記硬化剤の含有量が、前記熱硬化性樹脂100質量部に対して25〜45質量部である上記(1)〜(8)のいずれかに記載のプリプレグシート用樹脂組成物。
(10)前記マレイミド重付加物の含有量が、前記熱硬化性樹脂100質量部に対して、1〜20質量部である上記(1)〜(9)のいずれかに記載のプリプレグシート用樹脂組成物。
(11)上記(1)〜(10)のいずれかに記載のプリプレグシート用樹脂組成物を繊維に含浸させることにより得られうるプリプレグシート。
(12)前記繊維が、炭素繊維、アラミド繊維およびガラス繊維からなる群から選択される少なくとも1種である上記(11)に記載のプリプレグシート。
(13)上記(11)または(12)に記載のプリプレグシートを硬化させることにより得られうる繊維強化複合材料。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、含浸性に優れるプリプレグシート用樹脂組成物、該プリプレグシート用樹脂組成物を繊維に含浸させて得られるフィレット形成性が良好なプリプレグシート、および、該プリプレグシートを硬化させることにより得られる強度が良好となる繊維強化複合材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明のプリプレグシート用樹脂組成物(以下、単に「本発明の組成物」ともいう。)は、
熱硬化性樹脂と、熱可塑性樹脂と、硬化剤と、下記式(1)で表されるマレイミド重付加物とを含有し、
硬化中の最低粘度が10〜150Pa・sとなり、100℃での粘度が300Pa・s以下となる組成物である。
【0023】
【化9】

【0024】
(式中、nは1〜10,000の整数であり、R1、Xは、それぞれ独立に、置換基を有してもよく、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のへテロ原子を含んでもよい、1〜24個の炭素原子を有する2価の有機基を表し、R2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよく、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のへテロ原子を含んでもよい、1〜24個の炭素原子を有する1価の有機基を表す。)
【0025】
<熱硬化性樹脂>
熱硬化性樹脂について以下に説明する。
本発明の組成物に用いられる熱硬化性樹脂は、加熱すると網状構造となって不溶不融の状態に硬化する合成樹脂であれば特に限定されず、その具体例としては、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、本質的に機械的、熱的、電気的性質に優れているが、脆さがしばしばその用途拡大を妨げる要因となっている、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂またはこれらの混合樹脂であるのが、得られる本発明の組成物の靱性、延いては本発明の繊維強化複合材料の強度がより向上する理由から好ましい。
【0026】
上記エポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のオキシラン環(エポキシ基)を有する化合物からなる樹脂であれば特に限定されず、一般的に、エポキシ当量が90〜2000のものである。
このようなエポキシ樹脂としては、従来公知のエポキシ樹脂を用いることができる。
具体的には、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型等のビスフェニル基を有するエポキシ化合物や、ポリアルキレングリコール型、アルキレングリコール型のエポキシ化合物や、ナフタレン環を有するエポキシ化合物や、フルオレン基を有するエポキシ化合物等の二官能型のグリシジルエーテル系エポキシ樹脂;
フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、テトラフェニロールエタン型等の多官能型のグリシジルエーテル系エポキシ樹脂;
ダイマー酸等の合成脂肪酸のグリシジルエステル系エポキシ樹脂;
下記式(5)で表されるN,N,N′,N′−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)、テトラグリシジルジアミノジフェニルスルホン(TGDDS)、テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン(TGMXDA)、下記式(6)で表されるトリグリシジル−p−アミノフェノール、トリグリシジル−m−アミノフェノール、N,N−ジグリシジルアニリン、テトラグリシジル1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン(TG1,3−BAC)、トリグリシジルイソシアヌレート(TGIC)等のグリシジルアミン系エポキシ樹脂;
【0027】
【化10】

【0028】
下記式(7)で表されるトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を有するエポキシ化合物、具体的には、例えば、ジシクロペンタジエンとメタクレゾール等のクレゾール類またはフェノール類を重合させた後、エピクロルヒドリンを反応させる公知の製造方法によって得ることができるエポキシ化合物;
【0029】
【化11】


(式中、mは、0〜15の整数を示す。)
【0030】
脂環型エポキシ樹脂;東レチオコール社製のフレップ10に代表されるエポキシ樹脂主鎖に硫黄原子を有するエポキシ樹脂;ウレタン結合を有するウレタン変性エポキシ樹脂;ポリブタジエン、液状ポリアクリロニトリル−ブタジエンゴムまたはアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)を含有するゴム変性エポキシ樹脂等が挙げられる。
これらは1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0031】
本発明においては、グリシジルアミン系エポキシ樹脂およびビスフェノールF型エポキシ樹脂を併用するのが、得られる本発明の組成物の粘度ならびに硬化後の機械的性質(例えば、弾性率、靱性等)および熱的性質(例えば、ガラス転移温度、熱膨張率等)を調整しやすく、その結果、本発明の繊維強化複合材料の強度も調整しやすくなる理由から好ましい。
グリシジルアミン系エポキシ樹脂のうち、上記式(5)で表されるテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)としては、例えば、ELM−434(住友化学工業社製)、MY−721(ハンツマンアドバンストマテリアル社製)等の市販品を用いることができ、上記式(6)で表されるトリグリシジル−p−アミノフェノールとしては、例えば、MY−0510(ハンツマンアドバンストマテリアル社製)、エピコート630(ジャパンエポキシレジン社製)等の市販品を用いることができる。
ビスフェノールF型エポキシ樹脂としては、例えば、エピコート806、エピコート807(いずれもジャパンエポキシレジン社製)等の市販品を用いることができる。
【0032】
また、本発明においては、上記グリシジルアミン系エポキシ樹脂およびビスフェノールF型エポキシ樹脂に他のエポキシ樹脂を併用する場合、他のエポキシ樹脂としては、骨格に芳香環を有するエポキシ樹脂を用いるのが、架橋形態の制御による硬化物の機械的性質および熱的性質の最適化に好都合であるという理由から好ましい。
他のエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート828、ジャパンエポキシレジン社製)、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(エピコート154、ジャパンエポキシレジン社製)、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(TETRAD−X、三菱ガス化学社製)等の市販品を用いることができる。
【0033】
上記シアネートエステル樹脂は、下記式(8)で示されるものであれば特に限定されない。
【0034】
R−(O−C≡N)n (8)
(式中、Rは芳香環を有する2価以上の有機基を表し、nは2以上の整数を表す。)
【0035】
このようなシアネートエステル樹脂としては、具体的には、例えば、1,3−ジシアナートベンゼン、1,4−ジシアナートベンゼン、1,3,5−トリシアナートベンゼン、1,8−または2,6−または2,7−ジシアナートナフタレン、4,4′−ジシアナートビフェニル、ビス(4−シアナートフェニル)メタン、2,2−ビス(4−シアナートフェニル)プロパン、ビス(3,5-ジメチル-4-シアナートフェニル)メタン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−シアナートフェニル)プロパン、ビス(4−シアナートフェニル)スルホン、トリス(4−シアナートフェニル)ホスファイト、1,1′−ビス(4−シアナートフェニル)エタン、1,3−ビス(4−シアナートフェニル−1−(1−メチルエチリデン))ベンゼン、2,2−ビス(4−シアナートフェニル)ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
【0036】
本発明においては、上記で例示した各種シアネートエステル樹脂のうち、1,1′−ビス(4−シアナートフェニル)エタン、1,3−ビス(4−シアナートフェニル−1−(1−メチルエチリデン))ベンゼンを併用するのが、得られる本発明の組成物の粘度ならびに硬化後の機械的性質および熱的性質を調整しやすい理由から好ましい。
熱硬化性樹脂は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
<熱可塑性樹脂>
熱可塑性樹脂について以下に説明する。
本発明の組成物に用いられる熱可塑性樹脂は、加熱により、成形できる程度の熱可塑性が得られる合成樹脂であれば特に限定されず、その具体例としては、ポリアセタール、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルホルマール、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンオキシド、ポリアリレート、ポリアリーレンオキシド、ポリスチレン(PS)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリカーボネート、ポリベンズイミダゾール、ポリメタクリル酸メチル等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドおよびポリスルホンからなる群から選択される少なくとも1種であるのが、上記熱硬化性樹脂との相溶性が高い理由から好ましい。
【0038】
上記熱可塑性樹脂を含有させることにより、得られる本発明の組成物を用いた本発明のプリプレグシートのフィレット形成性が良好となるとともに、該組成物の靱性、延いては該プリプレグシートを用いた本発明の繊維強化複合材料の強度が良好となる。これは、得られる本発明の組成物の粘度を熱硬化性樹脂が硬化しうる温度(例えば、120〜150℃)の範囲にわたって底上げするとともに、靱性の高い熱可塑性樹脂のネットワークが、脆い熱硬化性樹脂を補強するためであると考えられる。
【0039】
本発明においては、上記熱可塑性樹脂の数平均分子量は、10,000〜30,000であるのが好ましく、15,000〜25,000であるのがより好ましい。熱可塑性樹脂の数平均分子量がこの範囲であると、得られる本発明の組成物の粘度範囲が適当となり、本発明の繊維強化複合材料の強度がより向上する。
【0040】
また、本発明においては、上記熱可塑性樹脂の含有量は、上記熱硬化性樹脂100質量部に対して30〜50質量部であるのが好ましく、35〜45質量部であるのがより好ましい。熱可塑性樹脂の含有量がこの範囲であると、得られる本発明の組成物の含浸性、フィレット形成性がより良好となる。
【0041】
<硬化剤>
硬化剤について以下に説明する。
本発明の組成物に用いられる硬化剤は、熱硬化性樹脂および/または熱可塑性樹脂と反応しうるものであれば特に制限されない。例えば、1分子中に、少なくとも1個の芳香族炭化水素基と少なくとも2個のアミノ基とを有する芳香族アミン化合物、ジシアンジアミド(DICY)、有機酸ジヒドラジドが挙げられる。
【0042】
芳香族アミン化合物は、得られる本発明の組成物の耐熱性が優れるという理由から好ましい。
芳香族アミン化合物としては、例えば、下記式(9)で示されるジアミノジフェニルスルホン(DDS)、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、ジアミノジフェニルエーテル(DADPE)、ビスアニリン、ベンジルジメチルアニリン等が挙げられる。
【0043】
【化12】

【0044】
ジシアンジアミドは、H2N−C(=NH)−NH−CNで表される化合物である。
有機酸ジヒドラジドは、カルボキシ基のヒドロキシ基をヒドラジノ基(−NH−NH2)で置換した基(−C(=O)−NH−NH2)を2個有する化合物である。
有機酸ジヒドラジドとしては、例えば、セバシン酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、バリンジヒドラジドが挙げられる。
樹脂の強靭性を改善する観点から、ジシアンジアミド(DICY)と有機酸ジヒドラジドの添加が好ましい。
【0045】
なかでも、ジアミノジフェニルスルホンと、有機酸ジヒドラジドおよび/またはジシアンジアミドとを併用するのが、得られる本発明の組成物を用いた本発明のプリプレグシートのフィレット形成性がより良好となるとともに、該組成物の靱性、延いては該プリプレグシートを用いた本発明の繊維強化複合材料の強度がより良好となる理由からより好ましい。
【0046】
本発明においては、上記硬化剤の含有量は、上記熱硬化性樹脂100質量部に対して25〜45質量部であるのが好ましく、30〜40質量部であるのがより好ましい。硬化剤の含有量がこの範囲であると、得られる本発明の組成物の耐熱性が良好となるとともに、該組成物の靱性、延いては本発明の繊維強化複合材料の強度がより良好となる。
なお、上記硬化剤の含有量は、(上記硬化剤の活性水素基)/(上記硬化剤中の活性水素基と反応する上記熱硬化性樹脂中の官能基)で表される当量比が、0.5〜0.9となるのが好ましく、0.6〜0.8となるのがより好ましい。
【0047】
<マレイミド重付加物>
マレイミド重付加物について以下に説明する。
本発明の組成物に用いられるマレイミド重付加物は、下記式(1)で表される重付加物である。
【0048】
【化13】

【0049】
式中、nは1〜10,000の整数であり、R1、Xは、それぞれ独立に、置換基を有してもよく、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のへテロ原子を含んでもよい、1〜24個の炭素原子を有する2価の有機基を表し、R2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよく、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のへテロ原子を含んでもよい、1〜24個の炭素原子を有する1価の有機基を表す。
【0050】
式(1)において、nは、1〜10,000の整数である。
nは、硬化後の樹脂の弾性率を高く保つという観点から、1〜5,000の整数であることが好ましく、3〜2,500の整数であることがより好ましく、さらに好ましくは、nが5〜1,000の整数である。
【0051】
1は、それぞれ独立に、置換基を有してもよく、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のへテロ原子を含んでもよい、1〜24個の炭素原子を有する2価の有機基を表す。
1〜24個の炭素原子を有する2価の有機基としては、例えば、1〜24個の炭素原子を有する分岐していてもよい鎖状脂肪族基、5〜18個の炭素原子を有する環状脂肪族基、6〜18個の炭素原子を有する芳香族基、7〜24個の炭素原子を有するアルキル芳香族基、複素環基が挙げられる。
置換基は、マレイミド重付加物を製造する際の反応に影響を及ぼさないものであれば特に限定されない。例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基が挙げられる。
ヘテロ原子は、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選ばれる少なくとも1種であればよく、これらを組み合わせて官能基(例えば、スルホニル基)とすることができる。
【0052】
なかでも、重付加反応をスムーズに進めやすいという観点から、5〜18個の炭素原子を有する環状脂肪族基、6〜18個の炭素原子を有する芳香族基、7〜24個の炭素原子を有するアルキル芳香族基が好ましい。
1としては、例えば、下記式(4)で表される基が挙げられる。
【0053】
【化14】

【0054】
Xは、それぞれ独立に、置換基を有してもよく、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のへテロ原子を含んでもよい、1〜24個の炭素原子を有する2価の有機基を表す。
Xとしての2価の有機基、置換基、ヘテロ原子は、上記と同義である。
なかでも、Xは、重付加反応をスムーズに進めやすいという観点から、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のへテロ原子を含む、6〜18個の炭素原子を有する芳香族基、7〜24個の炭素原子を有するアルキル芳香族基、複素環基が好ましい。
【0055】
Xとしては、例えば、下記式(2)で表される基が挙げられる。
【0056】
【化15】

【0057】
式(2)中、R3、R4は、それぞれ独立に、水素原子または1〜10個の炭素原子を有するアルキル基、芳香族基、アルキル芳香族基を表す。
アルキル基は、1〜10個の炭素原子を有するものであれば特に制限されず、分岐していても良い。
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基が挙げられる。
芳香族基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。
アルキル芳香族基としては、例えば、トリル基、キシリル基が挙げられる。
3およびR4が、n−ブチル基であるのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0058】
2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよく、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のへテロ原子を含んでもよい、1〜24個の炭素原子を有する1価の有機基を表す。
【0059】
1〜24個の炭素原子を有する1価の有機基としては、例えば、1〜24個の炭素原子を有する分岐していてもよい鎖状脂肪族基、5〜18個の炭素原子を有する環状脂肪族基、6〜18個の炭素原子を有する芳香族基、7〜24個の炭素原子を有するアルキル芳香族基、複素環基が挙げられる。
置換基は、マレイミド重付加物を製造する際の反応に影響を及ぼさないものであれば特に限定されない。例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基が挙げられる。
【0060】
なかでも、重付加反応をスムーズに進めやすいという観点から、5〜18個の炭素原子を有する環状脂肪族基、6〜18個の炭素原子を有する芳香族基、7〜24個の炭素原子を有するアルキル芳香族基が好ましい。
【0061】
1価の有機基としては、例えば、フェニル基、シクロヘキシル基、1〜6個の炭素原子を有するアルキル基、下記式(3)で表される基が挙げられる。
【0062】
【化16】

【0063】
式(3)中、R5は、置換基を有してもよく、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のへテロ原子を含んでもよい、1〜19個の炭素原子を有する2価の有機基を表す。
【0064】
式(3)のR5の2価の有機基としては、例えば、1〜19個の炭素原子を有する分岐していてもよい鎖状脂肪族基、5〜19個の炭素原子を有する環状脂肪族基、6〜19個の炭素原子を有する芳香族基、7〜19個の炭素原子を有するアルキル芳香族基、複素環基が挙げられる。
置換基、へテロ原子は、それぞれ上記と同義である。
【0065】
なかでも、式(3)のR5は、重付加反応をスムーズに進めやすいという観点から、5〜19個の炭素原子を有する環状脂肪族基、6〜19個の炭素原子を有する芳香族基、7〜19個の炭素原子を有するアルキル芳香族基が好ましい。
5としては、例えば、下記式(4)で表される基が挙げられる。
【0066】
【化17】

【0067】
1〜6個の炭素原子を有するアルキル基は、分岐してもよく、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられる。
【0068】
なかでも、1価の有機基は、含浸性により優れ、プリプレグシートとされた際にフィレット形成性により優れるという観点から、フェニル基、シクロヘキシル基、1〜6個の炭素原子を有するアルキル基および式(3)で表される基からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。
【0069】
また、式(1)で表されるマレイミド重付加物のR2は、粉砕しやすいという観点から、フェニル基および/または式(3)で表される基であるのが好ましい。
具体的には、両方のR2がフェニル基であるのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0070】
式(1)で表されるマレイミド重付加物としては、例えば、下記式(10)、下記式(11)で表される重付加物が挙げられる。
式(10)中のnは、10〜1,000である。
式(11)中のnは、5〜500である。
【0071】
【化18】

【0072】
式(1)で表されるマレイミド重付加物は、含浸性により優れ、プリプレグシートとされた際にフィレット形成性により優れるという観点から、式(10)および/または式11)で表されるものが好ましい。
また、式(1)で表されるマレイミド重付加物は、粉砕しやすいという観点から、式(11)で表されるマレイミド重付加物であるのが好ましい。
マレイミド重付加物は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0073】
マレイミド重付加物は、その製造について特に制限されない。
例えば、式(10)で表されるマレイミド重付加物のように、両末端に同じ構造のビスマレイミドを有する場合、1分子中に2個以上のチオール基を含有する化合物とビスマレイミド化合物とを反応させる方法が挙げられる。
【0074】
また、例えば、式(11)で表されるマレイミド重付加物のように、両末端にN−炭化水素基置換マレイミドを有する場合、1分子中に2個以上のチオール基を含有する化合物とビスマレイミド化合物とを反応させて、両末端が1分子中に2個以上のチオール基を含有する化合物であるマレイミド重付加物とし、反応後にN−炭化水素基置換マレイミド化合物を両末端が1分子中に2個以上のチオール基を含有する化合物であるマレイミド重付加物にさらに反応させる方法が挙げられる。
【0075】
まず、1分子中に2個以上のチオール基を含有する化合物とビスマレイミド化合物とを反応させることによってマレイミド重付加物を得る方法について説明する。
【0076】
マレイミド重付加物の製造の際に使用されるチオール基を含有する化合物は、1分子中に2個以上のチオール基を含有するものであれば特に制限されない。例えば、置換基を有してもよく、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のへテロ原子を含んでもよい、1〜24個の炭素原子を有する2価の有機基に2個のチオール基が結合しているものが挙げられる。
【0077】
2価の有機基、置換基、ヘテロ原子は、上記と同義である。
なかでも、重付加反応をスムーズに進めやすいという観点から、5〜18個の炭素原子を有する環状脂肪族基、6〜18個の炭素原子を有する芳香族基、7〜24個の炭素原子を有するアルキル芳香族基、複素環基が好ましい。
2価の有機基としては、例えば、下記式(2)で表される基が挙げられる。
【0078】
【化19】

【0079】
式(2)中、R3、R4は、それぞれ独立に、水素原子または1〜10個の炭素原子を有するアルキル基を表す。アルキル基は上記と同義である。
【0080】
1分子中に2個以上のチオール基を含有する化合物としては、例えば、メタンジチオール、1,3−ブタンジチオール、1,4−ブタンジチオール、2,3−ブタンジチオール、1,2−ベンゼンジチオール、1,3−ベンゼンジチオール、1,4−ベンゼンジチオール、1,10−デカンジチオール、1,2−エタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,9−ノナンジチオール、1,8−オクタンジチオール、1,5−ペンタンジチオール、1,2−プロパンジチオール、1,3−プロパジチオール、トルエン−3,4−ジチオール、3,6−ジクロロ−1,2−ベンゼンジチオール、1,5−ナフタレンジチオール、1,2−ベンゼンジメタンチオール、1,3−ベンゼンジメタンチオール、1,4−ベンゼンジメタンチオール、4,4′−チオビスベンゼンチオール、1,3,4−チアジアゾール−2,5−ジチオール、1,8−ジメルカプト−3,6−ジオキサオクタン、1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオール(トリメルカプト−トリアジン)、2−ジ−n−ブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジン、トリメチロールプロパントリス(β−チオプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、ポリチオール(チオコール、またはチオール変性高分子(樹脂、ゴム等))が挙げられる。
【0081】
なかでも、含浸性、フィレット形成性により優れるという観点から、1分子中に2個以上のチオール基を含有する芳香族性チオール、または複素環式チオールであるのが好ましく、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2−ジ−n−ブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジン、トリメルカプト−トリアジンがより好ましい。
また、固体で臭気がないため取り扱い易く、硬化速度が速いという観点から、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2−ジ−n−ブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジンが好ましい。
1分子中に2個以上のチオール基を含有する化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
式(1)中のXは、1分子中にチオール基を2個以上含有する化合物により決めることができる。式(1)中のXが芳香族基または複素環基である場合、1分子中にチオール基を2個以上含有する化合物として、芳香族性チオールまたは複素環式チオールを用いればよい。
【0082】
マレイミド重付加物を製造する際に使用されるビスマレイミド化合物は特に制限されない。例えば、置換基を有してもよく、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のへテロ原子を含んでもよい、1〜24個の炭素原子を有する2価の有機基を有するものが挙げられる。2価の有機基は、マレイミド構造の窒素原子に結合するのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
2価の有機基、置換基、ヘテロ原子は、上記と同義である。
【0083】
なかでも、重付加反応をスムーズに進めやすいという観点から、5〜18個の炭素原子を有する環状脂肪族基、6〜18個の炭素原子を有する芳香族基、7〜24個の炭素原子を有するアルキル芳香族基が好ましい。
2価の有機基としては、例えば、下記式(4)で表される基が挙げられる。
【0084】
【化20】

【0085】
ビスマレイミド化合物としては、例えば、1,2−ビスマレイミドエタン、1,6−ビスマレイミドへキサン、N,N′−1,2−フェニレンビスマレイミド、N,N′−1,3−フェニレンビスマレイミド、N,N′−1,4−フェニレンビスマレイミド、N,N′−1,4−フェニレン−2−メチルジマレイミド、N,N′−(1,1′−ビフェニル−4,4′−ジイル)ビスマレイミド、N,N′−(3,3’−ジメチル−1,1′−ビフェニル−4,4′−ジイル)ビスマレイミド、4,4′−ジフェニルメタンビスマレイミド、N,N′−(メチレンジ(2−クロロ−4,1−フェニレン))ビスマレイミド、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン(商品名:BMI−70(ケイアイ化成(株)社製))、2,2−ビス(4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン、N,N′−(スルホニルビス(1,3−フェニレン))ジマレイミド、N,N′−(4,4′−トリメチレングリコールジベンゾエート)ビスマレイミド、マレイミド変性高分子化合物(樹脂、ゴム等)が挙げられる。
【0086】
なかでも、1,6−ビスマレイミドへキサン、1,2−ビスマレイミドエタン、4,4′−ジフェニルメタンビスマレイミドを用いることが経済的な理由から好ましい。
ビスマレイミド化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0087】
式(1)中のR1は、ビスマレイミド化合物の構造により決めることができる。例えば、ビスマレイミド化合物が、1,6−ビスマレイミドへキサンである場合、式(1)中のR1はヘキシレン基となり、4,4′−ジフェニルメタンビスマレイミドである場合、式(1)中のR1は式(4)で表される基となる。
【0088】
ビスマレイミド化合物の使用量は、含浸性、フィレット形成性により優れるという観点から、1分子中に2個以上のチオール基を含有する化合物のチオール基1モルに対して、ビスマレイミド化合物のマレイミド基が1.05〜1.2当量であるのが好ましく、1.05〜1.15当量であるのがより好ましい。
【0089】
また、この反応において、nは上記ビスマレイミド化合物と1分子中にチオール基を2個以上含有する化合物との混合比(モル比)により決定する。例えば、ビスマレイミド化合物を1分子中にチオール基を2個以上含有する化合物に対して等モル加えて反応させた場合、重合反応が生起し、n>10となるのに対し、ビスマレイミド化合物を1分子中にチオール基を2個以上含有する化合物に対して2倍モル加えて反応させた場合は、nは1または2となる。したがって、上記式(1)中のnが0であるマレイミド重付加物は、ビスマレイミド化合物を1分子中にチオール基を2個以上含有する化合物に対して2倍モル加えて反応させることで得ることができる。
【0090】
反応は、有機溶媒中、室温〜150℃、1〜24時間攪拌させて行うのが好ましい態様として挙げられる。
【0091】
反応に使用される有機溶媒は、上記ビスマレイミド化合物と上記1分子中に2個以上のチオール基を含有する化合物とがともに可溶となるものであれば何れでもよく、アセトン、メチルエチルケトン、N−メチル−2−ピロリドン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミドが挙げられ、これらのうちメチルエチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミドが高い溶解性を示すことから好ましい。
反応終了後、減圧下で有機溶剤を濃縮除去することによりマレイミド重付加物を得ることができる。
【0092】
次に、マレイミド重付加物が式(11)で表されるマレイミド重付加物のように、両末端にN−炭化水素基置換マレイミドを有するマレイミド重付加物の製造について説明する。
このようなマレイミド重付加物を製造する方法としては、例えば、まず、1分子中に2個以上のチオール基を含有する化合物とビスマレイミド化合物とを反応させて、両末端が1分子中に2個以上のチオール基を含有する化合物であるマレイミド重付加物とし、反応後にN−炭化水素基置換マレイミド化合物を両末端が1分子中に2個以上のチオール基を含有する化合物であるマレイミド重付加物にさらに反応させる方法が挙げられる。
【0093】
1分子中に2個以上のチオール基を含有する化合物とビスマレイミド化合物との反応において使用する、1分子中に2個以上のチオール基を含有する化合物は上記と同義であり、ビスマレイミド化合物は上記のビスマレイミド化合物と同義である。
【0094】
このような場合における1分子中に2個以上のチオール基を含有する化合物の使用量は、含浸性、フィレット形成性により優れ、両末端が1分子中に2個以上のチオール基を含有する化合物とすることができるという観点から、ビスマレイミド化合物のマレイミド基1モルに対して、1分子中に2個以上のチオール基を含有する化合物のチオール基が1.05〜1.2当量であるのが好ましく、1.05〜1.15当量であるのがより好ましい。
【0095】
このように、1分子中に2個以上のチオール基を含有する化合物とビスマレイミド化合物とを反応させて、両末端が1分子中に2個以上のチオール基を含有する化合物であるマレイミド重付加物とする。
そして、この反応後にN−炭化水素基置換マレイミド化合物を両末端が1分子中に2個以上のチオール基を含有する化合物であるマレイミド重付加物にさらに反応させることによって、両末端にN−炭化水素基置換マレイミドを有するマレイミド重付加物を得ることができる。
【0096】
N−炭化水素基置換マレイミド化合物としては、マレイミド構造と炭化水素基とを有する化合物であれば特に制限されない。例えば、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−ヘキシルマレイミド、N−ジクロロヘキシルマレイミドのようなN−アルキル基置換マレイミド;N−シクロヘキシルマレイミドのようなN−シクロアルキル基置換マレイミド;N−フェニルマレイミドのようなN−芳香族基置換マレイミドが挙げられる。
なかでも、マレイミド重付加物が粉砕しやすいという観点から、N−フェニルマレイミドが好ましい。
また、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミドが安価に入手することができる点で好ましい。
N−炭化水素基置換マレイミド化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0097】
N−炭化水素基置換マレイミド化合物の使用量は、得られるマレイミド重付加物の末端をすべてこれにより封止するという観点から、両末端が1分子中に2個以上のチオール基を含有する化合物であるマレイミド重付加物1モルに対して、2〜2.5モルであるのが好ましく、2〜2.1モルであるのがより好ましい。
【0098】
N−炭化水素基置換マレイミド化合物と、両末端が1分子中に2個以上のチオール基を含有する化合物であるマレイミド重付加物との反応は、有機溶媒中、室温〜150℃、1〜24時間攪拌させて行うのが好ましい態様として挙げられる。
反応の際に使用する有機溶媒は上記と同義である。
【0099】
本発明の組成物において、マレイミド重付加物は、含浸性により優れ、プリプレグシートのフィレット形成性により優れるという観点から、粉砕されて微細な粒子となったものを使用するのが好ましい。
マレイミド重付加物を粉砕する方法は特に制限されない。例えば、ジェット粉砕機(セイシン企業社製)のような粉砕装置を使用する方法が挙げられる。
粉砕後の平均粒径は、含浸性により優れ、プリプレグシートのフィレット形成性により優れるという観点から、1〜60μmであるのが好ましく、1〜30μmであるのがより好ましい。
なお、本発明において、粉砕後のマレイミド重付加物の平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定器(セイシン企業社製)によって測定された。
【0100】
本発明の組成物において、マレイミド重付加物の含有量は、含浸性、フィレット形成性により優れるという観点から、熱硬化性樹脂100質量部に対して、1〜20質量部であるのが好ましく、1〜10質量部であるのがより好ましい。
【0101】
本発明の組成物は、上述した熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、硬化剤およびマレイミド重付加物を含有するものであり、硬化中の最低粘度が10〜150Pa・sであり、100℃での粘度が300Pa・s以下のものである。上述したように、この粘度範囲、特に、硬化中の最低粘度が10〜150Pa・sであることにより本発明の組成物を用いた本発明のプリプレグシートのフィレット形成性が良好となり、100℃での粘度が300Pa・s以下であることにより本発明の組成物の含浸性が良好となる。
ここで、硬化中の最低粘度および100℃での粘度は、それぞれ、昇温速度2℃/分で25℃から200℃まで上昇させながら、粘弾性測定装置(DMA)(例えば、TAインスツルメント社製のRDS−II等)を用い、振動周波数10rad/sで30秒おきに測定した粘度のうちの最低値および100℃での複素粘性率をいう。
【0102】
また、本発明の組成物は、硬化後の破壊靭性値(KIC)が2.00以上であるのが好ましい。破壊靭性値(KIC)がこの範囲であると、本発明の組成物の靱性が十分に良好であるといえ、また、本発明の繊維強化複合材料の強度、特に、はく離強度がより良好となる。
ここで、硬化後の破壊靱性値(KIC)は、プリプレグ用樹脂組成物の硬化物からなる樹脂版を用い、ASTMD5045−91に記載の方法に準じて、片側ノッチ付き3点曲げ試験によって測定した破壊靱性値(MPa・m1/2)をいう。
更に、本発明の繊維強化複合材料は、はく離強度が25(lb−in/3in)以上であるのが好ましい。はく離強度がこの範囲であると、極めて高い強度が要求される工業品、特に、航空機材料として好適に使用し得る。
ここで、はく離強度は、ATSM D1781に準じたクライミングドラムピール(Climbing Drum Peel)試験を行った際のはく離時の強度(lb−in/3in)をいう。
【0103】
本発明のプリプレグシート用樹脂組成物は、必要に応じて、本発明の目的を損わない範囲で、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、可塑剤、揺変性付与剤、紫外線吸収剤、難燃剤、溶剤、界面活性剤(レベリング剤を含む)、分散剤、脱水剤、接着付与剤、帯電防止剤等の各種添加剤等を含有することができる。
【0104】
老化防止剤としては、具体的には、例えば、ヒンダードフェノール系等の化合物が挙げられる。
酸化防止剤としては、具体的には、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)が挙げられる。
【0105】
可塑剤としては、具体的には、例えば、ジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP);アジピン酸ジオクチル、コハク酸イソデシル;ジエチレングリコールジベンゾエート、ペンタエリスリトールエステル;オレイン酸ブチル、アセチルリシノール酸メチル;リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル;アジピン酸プロピレングリコールポリエステル、アジピン酸ブチレングリコールポリエステルが挙げられる。
【0106】
揺変性付与剤としては、具体的には、例えば、エアロジル(日本エアロジル社製)、ディスパロン(楠本化成社製)が挙げられる。
接着付与剤としては、具体的には、例えば、テルペン樹脂、フェノール樹脂、テルペン−フェノール樹脂、ロジン樹脂、キシレン樹脂が挙げられる。
【0107】
難燃剤としては、具体的には、例えば、クロロアルキルホスフェート、ジメチルメチルホスホネート、臭素原子および/またはリン原子含有化合物、アンモニウムポリホスフェート、ネオペンチルブロマイド−ポリエーテル、臭素化ポリエーテルが挙げられる。
帯電防止剤としては、例えば、第四級アンモニウム塩;ポリグリコール、エチレンオキサイド誘導体等の親水性化合物が挙げられる。
【0108】
本発明のプリプレグシート用樹脂組成物は、その製造について、特に限定されない。例えば、反応容器に上記の各必須成分と任意成分とを入れ、減圧下で温度制御しながら混合ミキサー等のかくはん機を用いて十分に混練する方法が挙げられる。
【0109】
本発明のプリプレグシート用樹脂組成物は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂およびマレイミド重付加物を含有する主剤と、硬化剤とを含有する1液型のプリプレグシート用樹脂組成物として用いることができる。
【0110】
次に、本発明のプリプレグシートについて説明する。
本発明のプリプレグシートは、上述した本発明のプリプレグシート用樹脂組成物を繊維に含浸させることにより得られうるプリプレグシートである。
【0111】
本発明のプリプレグシート用樹脂組成物を含浸させる繊維としては、具体的には、例えば、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、高強度ポリエチレン繊維、タングステンカーバイド繊維、PBO繊維、ガラス繊維、金属繊維のような強化繊維等を挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、炭素繊維、アラミド繊維およびガラス繊維からなる群から選択される少なくとも1種であるのが、含浸させる工程が簡便となる理由から好ましい。
【0112】
本発明においては、炭素繊維は特に限定されず、その具体例としては、ポリアクリロニトリル系炭素繊維(PAN系炭素繊維)、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。
また、炭素繊維は、その形態や配列について特に限定されず、例えば、強化繊維を一方向に引き揃えた一方向材、製織した織物、短く裁断した強化繊維からなる不織布、組み紐、トウ、ニット、マット等が挙げられる。炭素繊維の形態や配列は、使用する部位や用途に応じて自由に選択することができる。
【0113】
また、本発明においては、このような繊維に含浸するプリプレグシート用樹脂組成物の含有量は、強度等の特性の観点から、プリプレグシート全体の容積中、70〜35体積%であるのが好ましく、60〜40体積%であるのが好ましい。
【0114】
本発明のプリプレグシートの製造方法は、本発明のプリプレグシート用樹脂組成物を繊維に含浸させるものであれば特に限定されない。
含浸させる方法としては、例えば、ウェット法、ホットメルト法等が挙げられる。
また、含浸は、加熱下で行うのが好ましい。
【0115】
ウェット法でプリプレグシートの製造を行う場合、本発明のプリプレグシート用樹脂組成物を溶剤に溶解させ、ワニスを調製してから繊維に含浸させるのが好ましい。ワニス調製時に使用する溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン類の溶剤が挙げられる。溶剤の使用量は、本発明のプリプレグシート用樹脂組成物100質量部に対して、1〜20質量部であるのが、乾燥工程が短くて済む理由から好ましい。
【0116】
ホットメルト法でプリプレグシートを製造する場合、本発明のプリプレグシート用樹脂組成物を加熱して溶融させた後、未硬化の間に離型紙上に均一に塗布して樹脂フィルムを作製し、その樹脂フィルムで繊維を両面から挟み込み、次いで樹脂を加圧、加熱しながら含浸させるのが好ましい。
【0117】
含浸中の加熱温度は、60〜150℃であるのが好ましい。加熱温度が60℃以上の場合、プリプレグシート用樹脂組成物が炭素繊維へ十分に含浸することができ、プリプレグシートが適度なタックを有し取り扱い性に優れる。また、加熱温度が150℃以下の場合、プリプレグシート用樹脂組成物を炭素繊維に含浸させる最中に樹脂の硬化反応が進行し過ぎることがなく、プリプレグシートのドレープに優れる。
【0118】
本発明のプリプレグシートは、本発明の組成物を用いていることから、ハニカムコアとの接着に際してシート状の接着剤が不要となり、また、フィレット形成性にも優れる。
【0119】
次に、本発明の繊維強化複合材料について説明する。
本発明の繊維強化複合材料は、上述した本発明のプリプレグシートを硬化させることにより得られうる繊維強化複合材料である。
【0120】
添付の図面を用いてプリプレグとハニカムコアとの接着方法について説明する。
図1および図2は、プリプレグシートとハニカムコアとを接着させた繊維強化複合材料の一例を示す。
図1は、繊維強化複合材料1を模式的に示す斜視図である。
図2は、繊維強化複合材料1をハニカムコア11の角柱の側面と平行に切断した断面を模式的に示す断面図である。
図2において、a部は、従来のプリプレグシート用樹脂組成物で形成したプリプレグシートを接着させた繊維強化複合材料、b部は、本発明のプリプレグ用樹脂組成物で形成したプリプレグシートを接着させた繊維強化複合材料を示す。
繊維強化複合材料1は、図1に示すとおり、プリプレグシート10とハニカムコア11とを接着させて得られるが、蜂の巣状の構造を示すハニカムコアの端部12の一方または両方の端面に本発明の組成物で形成したプリプレグシート10を接合し、両端から圧着しながらオートクレーブ等で加熱硬化させることによって作製される。
【0121】
しかし、加熱硬化の際に、プリプレグシート10とハニカムコア11とを均等に圧着しても、従来の組成物を用いると図2のa部に示されるとおり、プリプレグシート用樹脂組成物が全て下面部13’に落ちて上面部13にフィレットが形成されなかったり、部分的にプリプレグシート10とハニカムコア11との接着面に隙間が生じる場合がある。
これに対して、図2のb部に示されるとおり、本発明のプリプレグシート用樹脂組成物では、フィレット形成性にも優れることから、プリプレグシート10とハニカムコア11との接着が完全に行われ、しかもプリプレグシートからプリプレグシート用樹脂組成物が流出し過ぎて樹脂成分がプリプレグシート中からなくなることなく、プリプレグシートに適量のプリプレグシート用樹脂組成物が存在することができる。したがって、上部フィレット14の適切な形状を維持しながら硬化を完了することができる。また、下面においても、粘度が一度低下したときに表面張力によって下部フィレット14’が形成されプリプレグシート用樹脂組成物が適度に保持されて硬化を完了することができる。
【0122】
本発明の繊維強化複合材料の用途は特に制限されないが、その具体例としては、オートバイフレーム、カウル、フェンダー等の二輪車部品;ドア、ボンネット、テールゲート、サイドフェンダー、側面パネル、フェンダー、エネルギー吸収部材、トランクリッド、ハードップ、サイドミラーカバー、スポイラー、ディフューザー、スキーキャリアー、エンジンシリンダーカバー、エンジンフード、シャシー、エアースポイラー、プロペラシャフト等の自動車部品;先頭車両ノーズ、ルーフ、サイドパネル、ドア、台車カバー、側スカートなどの車輌用外板;荷物棚、座席等の鉄道車輌部品;インテリア、ウイングトラックにおけるウイングのインナーパネル、アウターパネル、ルーフ、フロアー等、自動車や単車に装着するやサイドスカートなどのエアロパーツ;窓枠、荷物棚、座席、フロアパネル、翼、プロペラ、胴体等の航空機部品;ノートパソコン、携帯電話等の筐体用途;X線カセッテ、天板等のメディカル用途;フラットスピーカーパネル、スピーカーコーン等の音響製品用途;ゴルフヘッド、フェースプレート、スノーボード、サーフィンボード、プロテクター等のスポーツ用品用途;板バネ、風車ブレード、エレベーター(籠パネル、ドア)のような一般産業用途が挙げられる。
【0123】
本発明者らは、本発明の組成物をプリプレグシートとする際、本発明の組成物に含有されるマレイミド重付加物のイオウ結合が高温下(例えば、100℃付近)で熱解離を起こして解離物を生成し、これによって本発明の組成物は100℃での粘度が300Pa・s以下となり、さらに、得られたプリプレグシートを繊維強化複合材料とする際、解離物が熱硬化性樹脂の架橋に組み込まれることによって、熱硬化性樹脂の硬化を加速し、最低粘度を上昇させていると推察する。
なお、上記のメカニズムは本発明者らの推測であり、仮にメカニズムが異なるものであっても本発明の範囲に含まれる。
【実施例】
【0124】
以下、実施例を示して、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0125】
<熱硬化性樹脂1>
熱硬化性樹脂1として、下記式(6)で表されるトリグリシジル−p−アミノフェノール(MY−0510、ハンツマンアドバンストマテリアル社製)を用いた。
【0126】
【化21】

【0127】
<熱硬化性樹脂2>
熱硬化性樹脂2として、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エピコート806、ジャパンエポキシレジン社製)を用いた。
【0128】
<熱可塑性樹脂1>
熱可塑性樹脂1として、住友化学工業社製のポリエーテルスルホン(PES)を用いた。
【0129】
<硬化剤1>
硬化剤1として、和歌山精化工業社製の3,3′−ジアミノジフェニルスルホン(3,3′−DDS)を用いた。
【0130】
<硬化剤2>
硬化剤2として、ジシアンジアミド(エピキュアDICY15、ジャパンエポキシレジン社製)を用いた。
【0131】
<マレイミド重付加物1>
メチルエチルケトン1,500g中に、2−ジ−n−ブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジン(三協化成社製)と4,4′−ビスマレイミドビフェニルメタン(ケイ・アイ化成社製)とを、2−ジ−n−ブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジンと4,4′−ビスマレイミドビフェニルメタンの比が1:1.1となるように、2−ジ−n−ブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジンを272g(1モル)、4,4′−ビスマレイミドビフェニルメタンを394g(1.1モル)入れて、70℃で3時間反応させた。反応終了後、メチルエチルケトンを減圧留去し、下記式(10)で表されるマレイミド重付加物を650g(収率98%)で得た。得られたマレイミド重付加物をマレイミド重付加物1とする。
【0132】
【化22】

【0133】
<マレイミド重付加物2>
メチルエチルケトン1,500g中に、2−ジ−n−ブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジンと4,4′−ビスマレイミドビフェニルメタンとを、2−ジ−n−ブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジンと4,4′−ビスマレイミドビフェニルメタンの比が1.15:1となるように、2−ジ−n−ブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジンを313g(1.15モル)、4,4′−ビスマレイミドビフェニルメタン(ケイ・アイ化成社製)358g(1モル)を入れて、70℃で3時間反応させた。次に、反応液にN−フェニルマレイミド52g(0.3モル)を入れて、70℃で1時間反応させた。反応終了後、メチルエチルケトンを減圧留去し、下記式(11)で表されるマレイミド重付加物を710g(収率98%)で得た。得られたマレイミド重付加物をマレイミド重付加物2とする。
【0134】
【化23】

【0135】
<マレイミド重付加物の粉砕>
500gの、マレイミド重付加物1またはマレイミド重付加物2をジェット粉砕機(セイシン企業社製)を用いて、2回通しの条件で粉砕した。
粉砕されたマレイミド重付加物の粒径について、レーザー回折・散乱式粒度分布測定器(セイシン企業社製)を用いて測定し、測定値をもとに縦軸がCDF(cumulative distribution function)で、横軸が粒径である粒径分布のグラフが得られた。このグラフをもとに、CDFが50%のときの粒径(D50、単位:μm)およびCDFが90%のときの粒径(D90、単位:μm)を求めた。
粉砕加工性の評価基準は、D50<30μmの場合を○、D50<60μmの場合を△、D50<90μmの場合を×とした。
結果を第1表に示す。
【0136】
1.プリプレグシート用樹脂組成物の調製
(実施例1〜2、比較例1)
上記の各成分を、下記第1表に示す組成(質量部)で、かくはん機を用いて混合し、実施例1〜2、比較例1のプリプレグシート用樹脂組成物を得た。
得られた各プリプレグシート用樹脂組成物について、硬化中の最低粘度、100℃での粘度および破壊靭性値(KIC)を以下に示す方法で測定した。結果を第1表に示す。
【0137】
(1)硬化中の最低粘度(下記第1表中、「最低粘度」と略す。)
得られた各プリプレグ用樹脂組成物の粘度を昇温速度2℃/分で25℃から200℃まで上昇させながら、粘弾性測定装置(DMA)(TAインスツルメント社製のRDS−II等)を用いて測定した。
実施例1、2、比較例1の組成物の粘度の測定結果として得られたグラフを添付の図面に示す。
図3は、粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定された、実施例1および比較例1の組成物の粘度と、温度との関係を示すグラフである。
図4は、粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定された、実施例2および比較例1の組成物の粘度と、温度との関係を示すグラフである。
また、実施例1、2、比較例1の組成物の粘度の測定結果から、硬化中の最低粘度の値を求めた。
最低粘度が、10Pa・s以上であるものをプリプレグ用樹脂組成物を用いたプリプレグシートのフィレット形成性が優れるものと評価した。
【0138】
(2)100℃での粘度(下記第1表中、「100℃粘度」と略す。)
得られた各プリプレグ用樹脂組成物の100℃での粘度を上記と同様に粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定した。
100℃粘度が、300Pa・s以下であるものをプリプレグ用樹脂組成物の繊維への含浸性が優れるものと評価した。
【0139】
(3)破壊靭性値(KIC
得られた各プリプレグ用樹脂組成物をプログラムオーブンに入れ、常圧下、昇温速度2℃/分で25℃から180℃まで昇温し、その後、180℃で2時間硬化させて、厚さ7mmの樹脂板を作製し、この樹脂板を用いてASTMD5045−91に記載の方法に準じて、片側ノッチ付き3点曲げ試験によって破壊靱性値(MPa・m1/2)を測定した。
最低粘度が10Pa・s以上、100℃での粘度が300Pa・s以下であり、破壊靱性値が2.00MPa・m1/2以上であるものを、プリプレグ用樹脂組成物を用いたプリプレグシートを硬化させた繊維強化複合材料の強度が優れるものと評価した。
【0140】
【表1】

【0141】
2.プリプレグシートの作製
各プリプレグシート用樹脂組成物をリバースロールコーターを用いて離型紙上に塗布して樹脂フィルムを作製した。次に、この樹脂フィルム2枚で、シート状に一方向に配列させた炭素繊維(トレカ(登録商標)T−700、引張弾性率230GPa、東レ社製)の両面を挟み込むように重ね合わせた。その後、加熱加圧して炭素繊維に樹脂を含浸させ、炭素繊維の目付量が196±5g/cm2、マトリックス樹脂の質量分率が34%の一方向プリプレグシートを作製した。
各プリプレグシート用樹脂組成物の繊維への含浸性は、いずれも良好であった。この結果からも、プリプレグ用樹脂組成物の100℃粘度が300Pa・s以下であるものが、繊維への含浸性が優れることが確認できた。
【0142】
3.ハニカムコアサンドイッチパネルの作製
得られた各プリプレグシートを、昭和飛行機社製のノーメックスハニカムコアの蜂の巣状の模様を呈する両方の断面と接合させ、バキュームバック法でプレアッシーした後、オートクレーブで昇温速度2℃/分、成形圧力3kg/cm2で180℃まで昇温し、その後180℃で2時間硬化させて、ハニカムコアサンドイッチパネルを作製した。
得られたハニカムコアサンドイッチパネルをハニカムコアの角柱に平行に切断し、ハニカムコアの両端上下に形成するフィレットを目視により確認したところ、比較例1で調製したプリプレグシート用樹脂組成物を用いて作製したプリプレグシートを使用した場合以外は、いずれも400μm以上のフィレットが形成されており、フィレット形成性は良好であった。この結果からも、プリプレグ用樹脂組成物の最低粘度が10Pa・s以上であるものが、プリプレグシートのフィレット形成性が優れることが確認できた。
【0143】
また、得られたハニカムコアサンドイッチパネルについて、ATSM D1781に準じたクライミングドラムピール(Climbing Drum Peel)試験を行い、はく離強度(lb−in/3in)を求めた。その結果を上記第1表に示す。
その結果、実施例1〜2で調製したプリプレグシート用樹脂組成物を用いて作製したプリプレグシートを使用したハニカムコアサンドイッチパネルは、はく離強度が25(lb−in/3in)以上となり、極めて高い強度が要求される工業品、特に、航空機材料としての応用に適することができることが分かった。この結果からも、本発明の繊維強化複合材料の強度が優れることが確認できた。
【0144】
以上に示す結果から明らかなように、実施例で調製したプリプレグシート用樹脂組成物は、100℃粘度および最低粘度が所定の範囲にあり含浸性およびフィレット形成性が良好であることが分かる。
従来、エポキシ樹脂とポリエーテルスルホンとを含有する組成物が提案されている。
しかし、エポキシ樹脂組成物にポリエーテルスルホンを添加すると、組成物の硬化中の最低粘度が高くなる一方、100℃付近の粘度も高くなってしまい、組成物の繊維への含浸性に劣るという問題が生じる。
これに対して、本発明の組成物は、100℃粘度および硬化中の最低粘度が所定の範囲にあり含浸性およびフィレット形成性が良好である。
これについて、添付の図3を用いて説明する。
図3は、上述のとおり、粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定された、実施例1および比較例1の組成物の粘度と、温度との関係を示すグラフである。
図3において、実施例1の100℃での粘度は比較例1に近い。したがって、実施例1の組成物は、比較例1と略同じくらい繊維に含浸しやすいといえる。
また、実施例1の硬化中の最低粘度は、比較例1よりも高く、これによって、実施例1の組成物を用いて作製したプリプレグシートはフィレット形成性に優れるのである。
このように本発明の組成物は、マレイミド重付加物を含有することによって、100℃での粘度の上昇が抑制され、かつ、マレイミド重付加物を含有しない組成物と比べて硬化中の最低粘度を高くすることができる。
【0145】
また、本発明の組成物は、破壊靭性値(KIC)も良好となることから、靱性が良好であることが分かる。
また、プリプレグシートおよびハニカムコアサンドイッチパネルの作製した結果から、プリプレグシートのフィレット形成性ならびにハニカムコアサンドイッチパネルの強度が良好であることも確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】図1は、ハニカムコアとプリプレグシートよりなる繊維強化複合材料を模式的に示す斜視図である。
【図2】図2は、ハニカムコアとプリプレグシートよりなる繊維強化複合材料の断面を模式的に示す断面図である。
【図3】図3は、粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定された、実施例1および比較例1の組成物の粘度と、温度との関係を示すグラフである。
【図4】図4は、粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定された、実施例2および比較例1の組成物の粘度と、温度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0147】
1 繊維強化複合材料
10 プリプレグシート
11 ハニカムコア
12 端部
13 上面部
13’下面部
14 上部フィレット
14’下部フィレット
a 従来のマトリックス樹脂で形成したプリプレグを用いた構造体
b 本発明の組成物をマトリックス樹脂としたプリプレグを用いた構造体
c セルサイズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂と、熱可塑性樹脂と、硬化剤と、下記式(1)で表されるマレイミド重付加物とを含有し、
硬化中の最低粘度が10〜150Pa・sとなり、100℃での粘度が300Pa・s以下となる、プリプレグシート用樹脂組成物。
【化1】


(式中、nは1〜10,000の整数であり、R1、Xは、それぞれ独立に、置換基を有してもよく、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のへテロ原子を含んでもよい、1〜24個の炭素原子を有する2価の有機基を表し、R2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよく、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のへテロ原子を含んでもよい、1〜24個の炭素原子を有する1価の有機基を表す。)
【請求項2】
前記Xにおいて、前記2価の有機基が、下記式(2)で表される基である請求項1に記載のプリプレグシート用樹脂組成物。
【化2】


(式中、R3、R4は、それぞれ独立に、水素原子または1〜10個の炭素原子を有するアルキル基、芳香族基、アルキル芳香族基を表す。)
【請求項3】
前記1価の有機基が、フェニル基、シクロヘキシル基、1〜6個の炭素原子を有するアルキル基および下記式(3)で表される基からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載のプリプレグシート用樹脂組成物。
【化3】


(式中、R5は、置換基を有してもよく、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のへテロ原子を含んでもよい、1〜19個の炭素原子を有する2価の有機基を表す。)
【請求項4】
前記R1において、前記2価の有機基が、下記式(4)で表される基である請求項1〜3のいずれかに記載のプリプレグシート用樹脂組成物。
【化4】

【請求項5】
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂および/またはシアネートエステル樹脂である請求項1〜4のいずれかに記載のプリプレグシート用樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂が、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドおよびポリスルホンからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜5のいずれかに記載のプリプレグシート用樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂の含有量が、前記熱硬化性樹脂100質量部に対して30〜50質量部である請求項1〜6のいずれかに記載のプリプレグシート用樹脂組成物。
【請求項8】
前記硬化剤が、ジアミノジフェニルスルホン、有機酸ジヒドラジドおよびジシアンジアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1〜7のいずれかに記載のプリプレグシート用樹脂組成物。
【請求項9】
前記硬化剤の含有量が、前記熱硬化性樹脂100質量部に対して25〜45質量部である請求項1〜8のいずれかに記載のプリプレグシート用樹脂組成物。
【請求項10】
前記マレイミド重付加物の含有量が、前記熱硬化性樹脂100質量部に対して、1〜20質量部である請求項1〜9のいずれかに記載のプリプレグシート用樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のプリプレグシート用樹脂組成物を繊維に含浸させることにより得られうるプリプレグシート。
【請求項12】
前記繊維が、炭素繊維、アラミド繊維およびガラス繊維からなる群から選択される少なくとも1種である請求項11に記載のプリプレグシート。
【請求項13】
請求項11または12に記載のプリプレグシートを硬化させることにより得られうる繊維強化複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−297547(P2007−297547A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128202(P2006−128202)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】