説明

プリプレグ及び積層体

【課題】非ハロゲン系での難燃性と機械強度に優れた積層体の製造に有用なプリプレグ、及び該積層体を提供すること。
【解決手段】シクロオレフィンモノマー、重合触媒、連鎖移動剤、架橋剤、架橋助剤、リン酸エステル、及び金属水酸化物を含む重合性組成物を炭素繊維に含浸した後、重合してなるプリプレグ、並びに前記プリプレグと、当該プリプレグ及び/又は他の材料とを積層した後、硬化してなる積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグ、及び積層体に関する。詳しくは、非ハロゲン系での難燃性(以下、非ハロゲン難燃性という。)と機械強度に優れた積層体の製造に有用なプリプレグ、及び該積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化樹脂は、その力学的特性が優れていることから、ゴルフクラブ、テニスラケット、釣竿などのスポーツ用途から自動車や航空機などの乗物用構造体用途、一般産業用途までの幅広い用途で用いられている。この中で、特に自動車や航空機などの構造材料、建築材料などにおいては、火災によって構造材料が着火延焼することを防ぐため、材料に難燃性を有することが強く求められている。従来使用されているハロゲン系難燃剤は難燃効果が高い反面、着火して消火するまでの間にハロゲン化水素や有機ハロゲン化物などの有害ガスを発生するため、非ハロゲン系難燃剤への転換が求められていた。
【0003】
例えば、特許文献1には、ノルボルネン系モノマーと重合触媒を含んでなる樹脂組成物をアクリル系炭素繊維に含浸した後、重合してなるプリプレグが開示され、充填材として水酸化アルミニウムを用いた場合に難燃性を付与できることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、芳香環を有するシクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒、連鎖移動剤、架橋剤、及び難燃剤等を含む重合性組成物を塊状重合して樹脂成形体を製造する方法が開示されている。具体的には、芳香環含有シクロオレフィンモノマーとジシクロペンタジエン、メタセシス重合触媒、及び難燃剤として赤リン、ポリリン酸アンモニウム及び水酸化アルミニウムを組み合わせた重合性組成物を70℃の金型内に移送し重合して成形物を得、または、シクロオレフィンモノマーとして、芳香環含有シクロオレフィンモノマー、テトラシクロドデセン及び2−ノルボルネン、メタセシス重合触媒、連鎖移動剤としてメタクリル酸アリル、架橋剤としてジ−t−ブチルペルオキシド、並びに難燃剤として、水酸化マグネシウム、ポリリン酸メラミン、及び赤リンの組み合わせを含む重合性組成物をガラスクロスに含浸させた後に重合し加熱硬化して積層板を得ている。本文献には、また、難燃剤を多量に添加できること、難燃剤としてハロゲン系難燃剤、アンチモン系難燃剤、金属水酸化物系難燃剤、赤リン、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、ポリリン酸アンモニウム、リン酸グアニジン、フォスファゼンなどのリン系難燃剤、窒素系難燃剤などが使用できること、及び架橋剤、充填剤、強化材等を添加できることが記載されている。
【0005】
特許文献3には、シクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒、架橋剤、架橋助剤、連鎖移動剤、及び難燃剤として金属水酸化物と金属酸化物との組み合わせを含む重合性組成物を繊維状強化材に含浸させ、次いで開環重合して得られる樹脂成形体、及び該樹脂成形体を基体材料に積層し加熱して架橋してなる架橋樹脂複合材料が開示されている。具体的には、具体的には、シクロオレフィンモノマーとして、芳香環を有するモノマーと、芳香環を有さないモノマーとを組み合わせて、連鎖移動剤としてアリルメタクリレート、架橋剤としてジ−t−ブチルペルオキシド、難燃剤として水酸化マグネシウムと酸化銅との組み合わせを含む重合性組成物を調製した後、該重合性組成物をガラスクロスに含浸させて150℃に熱した加熱炉中で1分間加熱し、重合してプリプレグを得、さらに該プリプレグを12枚重ねた後、熱プレスにて3MPa、200℃で15分間加熱圧着して積層体を得ている。本文献には、また、シクロオレフィンモノマーとしてジシクロペンタジエンを使用すると難燃化が難しくなるデータが示されている。さらに、重合性組成物には、ガラス粉末、セラミックス粉末などの無機充填剤を配合してもよいことが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−171479号公報
【特許文献2】国際公開第05/014690号パンフレット
【特許文献3】特開2008−138050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、特許文献1で得られるプリプレグは、多量の未反応モノマーが存在するため、べた付きの多い状態で取り扱わなければならず、また、時間とともに物性が変化する、さらにプリプレグには多数のボイドが発生しており、プリプレグを積層して得られる積層体の機械強度が低下するなどの問題があること、また、特許文献2と特許文献3の発明では、主にガラスクロスを使用しているが、炭素繊維に置き換えたところ、得られる積層体への難燃性の付与が難しく、充分な難燃性が得られないという問題があることが明らかとなった。
本発明の目的は、非ハロゲン難燃性と機械強度に優れた、炭素繊維強化積層体の製造に有用なプリプレグ、及び該積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討の結果、(1)シクロオレフィンモノマー、重合触媒、連鎖移動剤、架橋剤、架橋助剤、及び非ハロゲン系難燃剤を含有してなる重合性組成物を炭素繊維に含浸した後に重合してプリプレグを作製し、次いで該プリプレグを硬化する、あるいは該プリプレグ同士を積層して硬化することにより積層体を製造する際、非ハロゲン難燃性の付与が困難になること、(2)プリプレグ中に、難燃剤としてリン系の特定難燃剤と金属水酸化物とを含むことにより優れた非ハロゲン難燃性を維持したまま機械強度の熱的低下を大幅に抑制できること、(3)特定の炭素繊維を用いることにより、難燃性と機械強度が高度にバランスされること、及び(4)重合性組成物に、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を有する連鎖移動剤等を配合することにより、非ハロゲン難燃性と機械強度をさらに高度にバランスさせることができることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
〔1〕シクロオレフィンモノマー、重合触媒、連鎖移動剤、架橋剤、架橋助剤、リン酸エステル、及び金属水酸化物を含む重合性組成物を炭素繊維に含浸した後、重合してなるプリプレグ、
〔2〕炭素繊維が、アクリル系炭素繊維である前記〔1〕記載のプリプレグ、
〔3〕連鎖移動剤が、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するものである前記〔1〕又は〔2〕記載のプリプレグ、並びに
〔4〕前記〔1〕〜〔3〕いずれかに記載のプリプレグと、該プリプレグおよび/または他の材料とを積層した後、硬化してなる積層体、
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、非ハロゲン難燃性と機械強度に優れた、炭素繊維強化積層体の製造に有用なプリプレグ、及び該積層体が提供される。本発明の積層体は、前記特性を有することから、自動車や航空機などの乗物用部材として、また、スポーツ、土木、建築などの分野において種々の部材として、好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のプリプレグは、シクロオレフィンモノマー、重合触媒、連鎖移動剤、架橋剤、架橋助剤、リン酸エステル、及び金属水酸化物を含む重合性組成物を炭素繊維に含浸した後、重合してなる。また、本発明の積層体は、前記プリプレグと、該プリプレグ及び/又は他の材料とを積層した後、硬化してなる。
【0012】
(シクロオレフィンモノマー)
本発明に使用されるシクロオレフィンモノマーは、炭素原子で形成される環構造を有し、かつ該環構造中に重合性の炭素−炭素二重結合を1つ有する化合物である。本明細書において「重合性の炭素−炭素二重結合」とは、連鎖重合(開環重合)可能な炭素−炭素二重結合をいう。開環重合には、イオン重合、ラジカル重合、メタセシス重合など種々の形態のものが存在するが、本発明においては、通常、メタセス開環重合をいう。
【0013】
シクロオレフィンモノマーの環構造としては、単環、多環、縮合多環、橋かけ環、及びこれらの組み合わせた環などが挙げられる。各環構造を構成する炭素数に特に限定はないが、通常、4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個である。
シクロオレフィンモノマーは、アルキル基、アルケニル基、アルキリデン基、アリール基などの炭素数2〜15の炭化水素基や、カルボキシル基又は酸無水物基などの極性基を置換基として有していてもよい。
【0014】
シクロオレフィンモノマーとしては、単環のシクロオレフィンモノマーと多環のシクロオレフィンモノマーのいずれをも用いることができる。得られる積層体の耐熱性と耐水性とを高度にバランスさせる観点から、多環のシクロオレフィンモノマーが好ましい。多環のシクロオレフィンモノマーとしては、特にノルボルネン系モノマーが好ましい。「ノルボルネン系モノマー」とは、ノルボルネン環構造を分子内に有するシクロオレフィンモノマーをいう。例えば、ノルボルネン類、ジシクロペンタジエン類、テトラシクロドデセン類などが挙げられる。
【0015】
シクロオレフィンモノマーは、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を持たないものと、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するものとに分けられる。本明細書において「架橋性の炭素−炭素不飽和結合」とは、開環重合には関与せず、架橋反応に関与可能な炭素−炭素不飽和結合をいう。架橋反応とは橋架け構造を形成する反応であり、縮合反応、付加反応、ラジカル反応、メタセシス反応など種々の形態のものが存在するが、本発明においては、通常、ラジカル架橋反応又はメタセシス架橋反応、特にラジカル架橋反応をいう。架橋性の炭素−炭素不飽和結合としては、芳香族炭素−炭素不飽和結合を除く炭素−炭素不飽和結合、すなわち、脂肪族炭素−炭素二重結合又は三重結合が挙げられ、本発明においては、通常、脂肪族炭素−炭素二重結合をいう。架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するシクロオレフィンモノマー中、不飽和結合の位置は特に限定されるものではなく、炭素原子で形成される環構造内の他、該環構造以外の任意の位置、例えば、側鎖の末端や内部に存在していてもよい。
【0016】
架橋性の炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーとしては、例えば、シクロペンテン、3−メチルシクロペンテン、4−メチルシクロペンテン、3,4−ジメチルシクロペンテン、3,5−ジメチルシクロペンテン、3−クロロシクロペンテン、シクロへキセン、3−メチルシクロへキセン、4−メチルシクロヘキセン、3,4−ジメチルシクロヘキセン、3−クロロシクロヘキセン、シクロへプテンなどの単環シクロオレフィンモノマー;ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−プロピル−2−ノルボルネン、5,6−ジメチル−2−ノルボルネン、1−メチル−2−ノルボルネン、7−メチル−2−ノルボルネン、5,5,6−トリメチル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、テトラシクロドデセン、1,4−メタノ−1.4.4a.9aテトラヒドロフルオレン(MTF)、1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−メチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−エチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2,3−ジメチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−ヘキシル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−エチリデン−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−フルオロ−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,5−ジメチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−シクロへキシル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2,3−ジクロロ−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−イソブチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,2−ジヒドロジシクロペンタジエン、5−クロロ−2−ノルボルネン、5,5−ジクロロ−2−ノルボルネン、5−フルオロ−2−ノルボルネン、5,5,6−トリフルオロ−6−トリフルオロメチル−2−ノルボルネン、5−クロロメチル−2−ノルボルネン、5−メトキシ−2−ノルボルネン、5,6−ジカルボキシル−2−ノルボルネンアンハイドレート、5−ジメチルアミノ−2−ノルボルネン、5−シアノ−2−ノルボルネンなどのノルボルネン系モノマー;を挙げることができ、好ましくは架橋性の炭素−炭素不飽和結合を持たないノルボルネン系モノマーである。
【0017】
架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するシクロオレフィンモノマーとしては、例えば、3−ビニルシクロヘキセン、4−ビニルシクロヘキセン、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロへキサジエン、1,4−シクロへキサジエン、5−エチル−1,3−シクロへキサジエン、1,3−シクロへプタジエン、1,3−シクロオクタジエンなどの単環シクロオレフィンモノマー;5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メチリデン−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−アリル−2−ノルボルネン、5,6−ジエチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、2,5−ノルボルナジエンなどのノルボルネン系モノマー;を挙げることができ、好ましくは架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するノルボルネン系モノマーである。
これらのシクロオレフィンモノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、本発明の所望の効果の発現を阻害しない範囲であれば、シクロオレフィンモノマーと共重合可能な任意のモノマーをさらに用いることができる。
【0018】
本発明に使用されるシクロオレフィンモノマーとしては、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するシクロオレフィンモノマーを含むものを使用するのが、得られる積層体において機械強度が向上し、好適である。
本発明の重合性組成物に配合するシクロオレフィンモノマー中、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するシクロオレフィンモノマーと架橋性の炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーとの配合割合は所望により適宜選択されるが、重量比(架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するシクロオレフィンモノマー/架橋性の炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマー)で、通常、5/95〜100/0、好ましくは10/90〜90/10、より好ましくは15/85〜70/30の範囲である。当該配合割合がかかる範囲にあれば、得られる積層体において機械強度、層間密着性、及び非ハロゲン難燃性等の各特性が高度にバランスされ、好適である。
【0019】
(重合触媒)
本発明に使用される重合触媒としては、前記シクロオレフィンモノマーを重合できるものであれば特に限定はないが、本発明に使用する重合性組成物は、本発明のプリプレグの製造において、直接塊状重合に供して用いるのが好適であり、通常、メタセシス重合触媒を用いるのが好ましい。
【0020】
メタセシス重合触媒としては、前記シクロオレフィンモノマーをメタセシス開環重合可能である、通常、遷移金属原子を中心原子として、複数のイオン、原子、多原子イオン、及び化合物などが結合してなる錯体が挙げられる。遷移金属原子としては、第5族、第6族及び第8族(長周期型周期表による。以下、同じ。)の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、第5族の原子としては、例えば、タンタルが挙げられ、第6族の原子としては、例えば、モリブデンやタングステンが挙げられ、第8族の原子としては、例えば、ルテニウムやオスミウムが挙げられる。遷移金属原子としては中でも、第8族のルテニウムやオスミウムが好ましい。すなわち、本発明に使用されるメタセシス重合触媒としては、ルテニウム又はオスミウムを中心原子とする錯体が好ましく、ルテニウムを中心原子とする錯体がより好ましい。ルテニウムを中心原子とする錯体としては、カルベン化合物がルテニウムに配位してなるルテニウムカルベン錯体が好ましい。ここで、「カルベン化合物」とは、メチレン遊離基を有する化合物の総称であり、(>C:)で表されるような電荷のない2価の炭素原子(カルベン炭素)を持つ化合物をいう。ルテニウムカルベン錯体は、重合時の触媒活性に優れるため、本発明に使用する重合性組成物を塊状重合に供してプリプレグを得る場合、得られるプリプレグには未反応のモノマーに由来する臭気が少なく、生産性良く良質なプリプレグが得られる。また、酸素や空気中の水分に対して比較的安定であって、失活しにくいので、大気下でも使用可能である。
【0021】
前記ルテニウムカルベン錯体としては、得られるプリプレグ及び積層体の機械強度と耐衝撃性とが高度にバランスされ得ることから、ヘテロ環構造を有するカルベン化合物を配位子として少なくとも1つ有するものが好ましい。ヘテロ環構造を構成するヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子等が挙げられ、好ましくは窒素原子である。また、ヘテロ環構造としては、イミダゾリン環構造、又はイミダゾリジン環構造が好ましい。かかるヘテロ環構造を有する化合物の具体例としては、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジメシチルオクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン、1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン、N,N,N’,N’−テトライソプロピルホルムアミジニリデン、1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデンなどが挙げられる。
【0022】
本発明においてメタセシス重合触媒として使用される、好適なルテニウムカルベン錯体の具体例としては、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−オクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン[1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)(1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジイソプロピルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン)(エトキシメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)ピリジンルテニウムジクロリドなどの、配位子として、ヘテロ環構造を有するカルベン化合物と、その他の中性電子供与体とを有するルテニウムカルベン錯体が挙げられる。ここで「中性電子供与体」とは、中心金属原子から引き離されたときに中性の電荷を持つ配位子をいう。
【0023】
前記メタセシス重合触媒は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。メタセシス重合触媒の使用量は、モル比(メタセシス重合触媒中の金属原子:シクロオレフィンモノマー)で、通常、1:2,000〜1:2,000,000、好ましくは1:5,000〜1:1,000,000、より好ましくは1:10,000〜1:500,000の範囲である。
【0024】
メタセシス重合触媒は所望により、少量の不活性溶媒に溶解又は懸濁して使用することができる。かかる溶媒としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、流動パラフィン、ミネラルスピリットなどの鎖状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ジシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;インデン、テトラヒドロナフタレンなどの脂環と芳香環とを有する炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素;などが挙げられる。これらの中では、鎖状脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、及び脂環と芳香環とを有する炭化水素の使用が好ましい。
【0025】
(連鎖移動剤)
本発明においては、重合性組成物に連鎖移動剤を配合することにより、得られるプリプレグの流動性や賦形性、及び得られる積層体の機械強度、積層体の各材料間の密着性、及び耐熱性等の各特性を高度にバランスさせることができる。
連鎖移動剤は、開環重合に関与でき、本発明の重合性組成物を重合反応に供して得られる重合体の末端に結合可能な脂肪族炭素−炭素二重結合を1つ有する化合物である。当該二重結合の例としては、末端ビニル基が挙げられる。連鎖移動剤は、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有していてもよい。
【0026】
かかる連鎖移動剤の具体例としては、1−ヘキセン、2−ヘキセン、スチレン、ビニルシクロヘキサン、アリルアミン、アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、エチルビニルエーテル、メチルビニルケトン、2−(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、4−ビニルアニリンなどの、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を持たない連鎖移動剤;ジビニルベンゼン、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸スチリル、アクリル酸アリル、メタクリル酸ウンデセニル、アクリル酸スチリル、エチレングリコールジアクリレートなどの、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1つ有する連鎖移動剤;アリルトリビニルシラン、アリルメチルジビニルシランなどの、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を2以上有する連鎖移動剤などが挙げられる。これらの中でも、得られる積層体において、非ハロゲン難燃性と機械強度とを高度にバランスさせる観点から、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するものが好ましく、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1つ有するものがより好ましい。かかる連鎖移動剤の中でも、ビニル基とメタクリル基とを1つずつ有する連鎖移動剤が好ましく、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸スチリル、メタクリル酸ウンデセニルなどが特に好ましい。
【0027】
これらの連鎖移動剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の重合性組成物への連鎖移動剤の配合量としては、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部である。
【0028】
(架橋剤)
本発明で使用される架橋剤は、本発明の重合性組成物を重合反応に供して得られる重合体において架橋反応を誘起する目的で使用される。従って、該重合体は、後架橋可能な熱可塑性樹脂となる。本発明において架橋剤としては、通常、ラジカル発生剤が好適に用いられる。ラジカル発生剤としては、有機過酸化物、ジアゾ化合物、及び非極性ラジカル発生剤などが挙げられ、好ましくは有機過酸化物、及び非極性ラジカル発生剤である。
有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類;ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンなどのジアルキルペルオキシド類;ジプロピオニルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類;2,2−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブタン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサンなどのペルオキシケタール類;t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシベンゾエートなどのペルオキシエステル類;t−ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、ジ(イソプロピルペルオキシ)ジカルボナートなどのペルオキシカルボナート類;t−ブチルトリメチルシリルペルオキシドなどのアルキルシリルペルオキシド類;3,3,5,7,7−ペンタメチル−1,2,4−トリオキセパン、3,6,9−トリエチル−3,6,9−トリメチル−1,4,7−トリパーオキソナン、3,6−ジエチル−3,6−ジメチル−1,2,4,5−テトロキサンなどの環状ペルオキシド類;が挙げられる。特に、メタセシス重合に供して重合体を製造する場合には、メタセシス重合反応に対する障害が少ない点で、環状ペルオキシド類、ジアルキルペルオキシド類、及びペルオキシケタール類が好ましい。
ジアゾ化合物としては、例えば、4,4’−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノンなどが挙げられる。
非極性ラジカル発生剤としては、例えば、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、1,1,2−トリフェニルエタン、1,1,1−トリフェニル−2−フェニルエタンなどが挙げられる。
【0029】
本発明に使用される架橋剤がラジカル発生剤の場合の1分間半減期温度は、硬化(本発明の重合性組成物を重合反応に供して得られる重合体の架橋)の条件により適宜選択されるが、通常、100〜300℃、好ましくは150〜250℃、より好ましくは160〜230℃の範囲である。ここで1分間半減期温度は、ラジカル発生剤の半量が1分間で分解する温度である。ラジカル発生剤の1分間半減期温度は、例えば、各ラジカル発生剤メーカー(例えば、日本油脂株式会社)のカタログやホームページを参照すればよい。
前記ラジカル発生剤は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の重合性組成物へのラジカル発生剤の使用量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部の範囲である。
【0030】
(架橋助剤)
本発明においては、重合性組成物に架橋助剤を加えることにより、重合性組成物の炭素繊維への含浸性を向上でき、また、プリプレグの賦形性、積層体の機械強度及び耐熱性を高度にバランスさせることができる。架橋助剤としては、開環重合に関与せず、架橋剤により誘起される架橋反応に関与可能な架橋性の炭素−炭素不飽和結合を2以上有する多官能性化合物が好適に用いられる。かかる架橋性の炭素−炭素不飽和結合は、架橋助剤を構成する化合物中、例えば末端ビニリデン基として、特にイソプロペニル基やメタクリル基として存在するのが好ましい。
【0031】
架橋助剤の具体例としては、p−ジイソプロペニルベンゼン、m−ジイソプロペニルベンゼン、o−ジイソプロペニルベンゼンなどの、イソプロペニル基を2以上有する多官能性化合物;エチレンジメタクリレート、1,3−ブチレンジメタクリレート、1,4−ブチレンジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、2,2’−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、トリメチロ−ルプロパントリメタクリレート、ペンタエリトリトールトリメタクリレートなどの、メタクリル基を2以上有する多官能性化合物などを挙げることができる。中でも、架橋助剤としては、メタクリル基を2以上有する多官能性化合物が好ましい。メタクリル基を2以上有する多官能性化合物の中では、特に、トリメチロ−ルプロパントリメタクリレート、ペンタエリトリトールトリメタクリレートなどの、メタクリル基を3つ有する多官能性化合物がより好適である。
これらの架橋助剤は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。架橋助剤の使用量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対し、通常、0.1〜100重量部、好ましくは0.5〜50重量部、より好ましくは1〜30重量部である。
【0032】
(難燃剤)
本発明では、リン酸エステルと金属水酸化物とを難燃剤として使用する。
【0033】
前記リン酸エステルは、オルトリン酸 〔O=P(OH)〕が持つ3個の水素原子の全て又は一部が有機基で置き換わった構造を有する化合物である。リン酸エステルとしては、1個の水素原子が有機基で置換されたリン酸モノエステル、2個の水素原子が有機基で置換されたリン酸ジエステル、3個の水素原子が有機基で置換されたリン酸トリエステルが挙げられるが、好ましくはリン酸トリエステルである。
【0034】
前記リン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニル)ホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニル)ホスフェート、ビスフェノールAビス(ジクレジル)ホスフェート、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドなどが挙げられる。これらの中でも、トリキシレニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニル)ホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニル)ホスフェート、ビスフェノールAビス(ジクレジル)ホスフェート、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドなどが好適である。
これらのリン酸エステルは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
前記金属水酸化物は、金属の陽イオンと水酸化物イオンとがイオン結合により化合してなる化合物である。本発明においては、通常、150℃よりも高温に加熱されたときに、結晶水を脱水放出するか、又は化学分解により水を放出する、金属水酸化物が好適に用いられる。
【0036】
前記金属水酸化物の具体例としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マンガン、水酸化スズナトリウムなどが挙げられ、中でも、水酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムが好ましい。
【0037】
本発明に使用される金属水酸化物は、表面吸着水を含むものであってもよい。表面吸着水は、150℃で1時間、熱風乾燥機中で金属水酸化物を乾燥することにより加熱減量として測定される。金属水酸化物中の表面吸着水の含有量は、通常、0.01〜5重量%であり、好ましくは0.1〜3重量%の範囲である。
【0038】
本発明に使用される金属水酸化物が粒子である場合、当該粒子の粒子径(平均粒子径)は、粒子を三次元的にみたときの長手方向と短手方向の長さの平均値で、通常、0.001〜50μm、好ましくは0.01〜10μm、より好ましくは0.1〜5μmの範囲である。金属水酸化物の粒子径がこの範囲にあると、得られる積層体の非ハロゲン難燃性が特に優れるので好ましい。金属水酸化物の粒子径は、揃えて使用してもよいし、揃えずに使用しても良い。例えば、大きな粒子径の粒子と小さな粒子径の粒子が混在した状態のものを用いても良い。
【0039】
本発明に使用される金属水酸化物の嵩比重は、特に限定はされないが、通常、0.1〜5g/mL、好ましくは0.2〜3g/mLの範囲である。金属水酸化物の嵩比重がこの範囲にあれば、得られる積層体の非ハロゲン難燃性が特に優れ、好適である。嵩比重は、適当量の金属水酸化物をメスシリンダーに入れ、加重をかけることなく、重量と体積を測定することによりそれらの比(重量/体積)として表される。
前記金属水酸化物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらの金属水酸化物は、本発明に使用する重合性組成物を重合反応に供して得られる重合体との密着性を向上させる観点から、Si、Ti、Al、Zrなどを含むカップリング剤などで表面処理されているものが好適である。かかる表面処理された金属水酸化物は市販品として入手可能である。
【0040】
本発明において難燃剤として使用される、リン酸エステルと金属水酸化物との配合割合は、所望により適宜選択すればよいが、得られる積層体の非ハロゲン難燃性を向上させる観点から、重量比(リン酸エステル/金属水酸化物)で、通常、5/95〜90/10、好ましくは10/90〜70/30、より好ましくは20/80〜50/50の範囲である。
本発明に使用されるリン酸エステルと金属水酸化物との合計配合量は、所望により適宜選択すればよいが、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、10〜1,000重量部、より好ましくは50〜500重量部、さらに好ましくは70〜300重量部の範囲である。
難燃剤としてのリン酸エステルと金属水酸化物は、得られる積層体に優れた非ハロゲン難燃性を付与する観点から、両者の配合割合が20/80〜50/50の範囲であって、かつ両者の合計配合量が70〜300重量部の範囲となるように、本発明に使用する重合性組成物に配合するのが特に好適である。また、リン酸エステルと金属水酸化物との組合せとしては、リン酸エステルとしてトリキシレニルホスフェート又は9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドと、金属水酸化物として水酸化マグネシウム又は水酸化アルミニウムとの、任意の組合せが好適である。
【0041】
本発明では、特に、リン酸エステルと金属水酸化物とを難燃剤として使用するが、所望により、その他の難燃剤をさらに配合することができる。その他の難燃剤としては、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等の金属酸化物系難燃剤;メラミン誘導体類、グアニジン類、イソシアヌル類等の窒素系難燃剤;ポリリン酸アンモニウム、リン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラム、リン酸グアニジン、フォスファゼン類等の、リンと窒素の双方を含有する難燃剤;などを挙げることができる。これらのその他の難燃剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。その配合量は、本発明の効果を損ねない範囲で適宜選択すればよいが、本発明に使用する重合性組成物に配合する全難燃剤中、通常、リン酸エステルと金属水酸化物との合計含有量は90重量%以上、好ましくは95重量%以上とするのが好適である。
【0042】
(重合性組成物)
本発明に使用する重合性組成物には、上記シクロオレフィンモノマー、重合触媒、連鎖移動剤、架橋剤、架橋助剤、及び難燃剤を必須成分として、所望により重合調整剤、重合反応遅延剤、充填剤、老化防止剤、エラストマー材料、及びその他の配合剤を添加することができる。
重合調整剤は、メタセシス重合活性を制御したり、メタセシス重合反応率を向上させたりする目的で配合されるものであり、例えば、トリアルコキシアルミニウム、トリフェノキシアルミニウム、ジアルコキシアルキルアルミニウム、アルコキシジアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウム、ジアルコキシアルミニウムクロリド、アルコキシアルキルアルミニウムクロリド、ジアルキルアルミニウムクロリド、トリアルコキシスカンジウム、テトラアルコキシチタン、テトラアルコキシスズ、テトラアルコキシジルコニウムなどが挙げられる。これらの重合調整剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合調整剤の使用量は、例えば(メタセシス重合触媒中の金属原子:重合調整剤)のモル比で、通常、1:0.05〜1:100、好ましくは1:0.2〜1:20、より好ましくは1:0.5〜1:10の範囲である。
【0043】
本発明においては、重合性組成物に重合反応遅延剤を配合することにより、その粘度増加を抑制しうる。従って、重合反応遅延剤を配合してなる重合性組成物は、プリプレグを作製する際、重合性組成物を均一に炭素繊維に含浸することが容易となるので、好ましい。重合反応遅延剤としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、ジシクロヘキシルホスフィン、ビニルジフェニルホスフィン、アリルジフェニルホスフィン、トリアリルホスフィン、スチリルジフェニルホスフィンなどのホスフィン化合物;アニリン、ピリジンなどのルイス塩基;等を用いることができる。
【0044】
これら重合反応遅延剤の中でも、室温以下での重合反応の進行を抑制する効果が大きいことから、ホスフィン化合物が好ましく、トリフェニルホスフィン、トリエチルホスフィン、ジシクロヘキシルホスフィン及びビニルジフェニルホスフィンがより好ましい。これらの重合反応遅延剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は、(メタセシス重合触媒中の金属原子:重合反応遅延剤)のモル比で、通常、1:0.01〜1:100重量部、好ましくは1:0.1〜1:10重量部、より好ましくは1:0.1〜1:5重量部の範囲である。
【0045】
本発明においては、重合性組成物に充填剤を配合することで、積層体の機械強度、耐熱性、耐薬品性等の各特性を高度にバランスさせることができ好適である。充填剤としては、工業的に一般に使用されるものであれば格別な限定はなく、無機充填剤や有機充填剤のいずれも用いることができるが、好適には無機充填剤である。
【0046】
無機充填剤としては、例えば、鉄、銅、ニッケル、金、銀、アルミニウム、鉛、タングステン等の金属粒子;カーボンブラック、グラファイト、活性炭、炭素バルーン等の炭素粒子;シリカ、シリカバルーン、アルミナ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化すず、酸化ベリリウム、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト等の無機酸化物粒子;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム等の無機炭酸塩粒子;硫酸カルシウム等の無機硫酸塩粒子;タルク、クレー、マイカ、カオリン、フライアッシュ、モンモリロナイト、ケイ酸カルシウム、ガラス、ガラスバルーン等の無機ケイ酸塩粒子;チタン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛等のチタン酸塩粒子、窒化アルミニウムやウィスカー等が挙げられる。
【0047】
有機充填剤としては、例えば、木粉、デンプン、有機顔料、ポリスチレン、ナイロン、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン、塩化ビニル、各種エラストマー、廃プラスチック等の粒子化合物が挙げられる。
【0048】
これらの充填剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、50重量部以上、好ましくは50〜1,000重量部、より好ましくは50〜750重量部、さらに好ましくは50〜500重量部の範囲である。充填剤がこの範囲にあるときに積層体の機械強度、耐熱性、耐薬品性等の各特性を高度にバランスさせることができ好適である。
【0049】
本発明においては、重合性組成物に老化防止剤として、フェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤、リン系老化防止剤及びイオウ系老化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の老化防止剤を加えることにより、架橋反応を阻害しないで、得られる積層体の耐熱性を高度に向上させることができ好適である。これらの中でも、フェノール系老化防止剤とアミン系老化防止剤が好ましく、フェノール系老化防止剤が特に好ましい。
これらの老化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。老化防止剤の使用量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、0.0001〜10重量部、好ましくは0.001〜5重量部、より好ましくは0.01〜2重量部の範囲である。
【0050】
本発明に使用される重合性組成物に、エラストマー材料を加えることにより、得られる積層体の靭性を向上させることができ好適である。エラストマー材料としては、例えば、天然ゴム、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、クロロプレン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びこれらの水素添加物が挙げられる。これらのエラストマー材料は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。その配合量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常0.1〜100重量部、好ましくは1〜50重量部、より好ましくは3〜30重量部の範囲である。
【0051】
本発明に用いられる重合性組成物は、その他の配合剤を配合することができる。その他の配合剤としては、着色剤、光安定剤、顔料、発泡剤、高分子改質剤などを用いることができる。着色剤としては、染料、顔料などが用いられる。染料の種類は多様であり、公知のものを適宜選択して使用すればよい。これらのその他の配合剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、本発明の効果を損ねない範囲で適宜選択される。
【0052】
本発明に使用する重合性組成物は、上記成分を混合して得ることができる。混合方法としては、常法に従えばよく、例えば、重合触媒を適当な溶媒に溶解若しくは分散させた液(触媒液)を調製し、別にシクロオレフィンモノマーや架橋剤などの必須成分、及び所望によりその他の配合剤を配合した液(モノマー液)を調製し、該モノマー液に該触媒液を添加し、攪拌することによって調製することができる。
【0053】
(炭素繊維)
本発明に使用される炭素繊維は、従来公知の材料を格別な限定なく用いることができる。炭素繊維の種類に特に限定はなく、例えば、アクリル系、ピッチ系、レーヨン系等の各種の炭素繊維が使用できる。特に、メタセシス重合によりシクロオレフィンモノマーを重合する場合、アクリル系繊維(ポリアクリロニトリル繊維)を原料として製造される炭素繊維であるアクリル系炭素繊維は当該重合の阻害を生じず、得られる積層体の機械強度、靭性、耐熱性等の特性を高度に改善でき、好適である。また、アクリル系炭素繊維は、シクロオレフィンモノマーとの親和性が良いため、該モノマーの炭素繊維への含浸性に優れ、ボイドの少ないプリプレグが得られ、該プリプレグを硬化して得られる積層体の、機械強度、及び非ハロゲン難燃性が良好となり、好適である。
【0054】
本発明に使用される炭素繊維の強度特性は、格別な限定はなく所望により適宜選択される。引張強度としては、JIS R7601に従って測定されるストランド引張強度で、通常、0.5〜50GPa、好ましくは1〜10GPa、より好ましくは2〜8GPaの範囲である。引張弾性率としては、JIS R7601に従って測定されるストランド引張弾性率で、通常、100〜1,000GPa、好ましくは200〜800GPa、より好ましくは300〜700GPaの範囲である。伸びとしては、JIS R7601に従って測定されるストランド引張伸びで、通常、0.1〜10%、好ましくは0.5〜5%、より好ましくは1〜3%の範囲である。炭素繊維の強度特性がこれらの範囲にあれば、得られる積層体の機械強度と靭性が高度にバランスされ好適である。
【0055】
本発明に使用される炭素繊維の断面形状は、格別な限定はないが、実質的に円形であるものが好ましい。断面形状が円形であると、重合性組成物を含浸させる際、フィラメントの再配列が起こりやすくなり、繊維間へのシクロオレフィンモノマーの浸み込みが容易になり、好適である。さらに、繊維束の厚みを薄くすることが可能となるため、ドレープ性に優れたプリプレグを得やすい利点がある。なお、断面形状が実質的に円形であるとは、その断面の外接円半径Rと内接円半径rとの比(R/r)を変形度として定義した場合に、この変形度が1.1以下であるものを意味する。
【0056】
本発明に使用される炭素繊維の長さは格別な限定無く所望により適宜選択され、炭素繊維としては短繊維及び長繊維のいずれも用いることができるが、より高い機械強度と靭性を有する積層体を得たい場合は、繊維長が1cm以上、好ましくは2cm以上、より好ましくは3cm以上、さらに好ましくは3cmを超える連続繊維を用いるのが好適である。
【0057】
本発明に使用される炭素繊維の形態は、特に限定されず、織物、不織布、マット、ニット、組み紐、一方向ストランド、ロービング、チョップド等から適宜選択できる。これらの中でも、靭性と耐衝撃性がより高い水準にある積層体を得る観点から、炭素繊維の形態は、織物、一方向ストランド、ロービング等の連続繊維の形態が好ましい。織物の形態としては、従来公知のものを使用でき、例えば、平織、繻子織、綾織、3軸織物などの、繊維が交錯する織り構造の全てが使用できる。また、織物の形態としては、2次元だけでなく、織物の厚み方向に繊維が補強されているステッチ織物や3次元織物等も使用できる。
【0058】
本発明に使用される炭素繊維は、織物等で使用する場合は繊維束糸条として利用するのが好ましい。その場合の繊維束糸条1本中のフィラメント数は、格別な限定はないが、好ましくは1,000〜100,000本、より好ましくは5,000〜50,000本、さらに好ましく波10,000〜30,000本の範囲である。
これらの炭素繊維は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。その配合量は、所望により適宜選択されるが、本発明のプリプレグ中、通常、10〜90重量%、好ましくは20〜85重量%、より好ましくは30〜80重量%の範囲である。
【0059】
(プリプレグ)
本発明のプリプレグは、前記重合性組成物を前記炭素繊維に含浸させた後、重合してなるものである。
重合性組成物の炭素繊維への含浸は、例えば、重合性組成物の所定量を、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スリットコート法等の公知の方法により、予め保護フィルムの上に設置した炭素繊維上に塗布し、所望によりその上にもう一枚の保護フィルムを重ね、上側からローラーなどで押圧することにより行うことができる。重合性組成物を炭素繊維に含浸させた後、含浸物を所定温度に加熱することにより、重合性組成物を塊状重合させることができ、それによってシート状又はフィルム状のプリプレグが得られる。ここで用いる保護フィルムとしては、特に限定されず、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ナイロンなどの樹脂;鉄、ステンレス、銅、アルミニウム、ニッケル、クロム、金、銀などの金属材料;などからなるものが挙げられる。その形状についても特に限定はないが、通常、金属箔、又は樹脂フィルムとして使用する。これらの金属箔又は樹脂フィルムの厚さは、作業性などの観点から、通常、1〜150μm、好ましくは2〜100μm、より好ましくは3〜75μmである
【0060】
含浸を型内で行う場合は、型内に炭素繊維を設置し、該型内に重合性組成物を注ぎ込んで行う。この方法によれば、任意の形状のプリプレグを得ることができる。その形状としては、シート状、フィルム状、柱状、円柱状、多角柱状等が挙げられる。ここで用いる型としては、従来公知の成形型、例えば、割型構造すなわちコア型とキャビティー型を有する成形型を用いることができ、それらの空隙部(キャビティー)に重合性組成物を注入して塊状重合させる。コア型とキャビティー型は、目的とするプリプレグの形状にあった空隙部を形成するように作製される。また、成形型の形状、材質、大きさなどは特に制限されない。また、ガラス板や金属板などの板状成形型と所定の厚さのスペーサーとを用意し、スペーサーを2枚の板状成形型で挟んで形成される空間内に重合性組成物を注入し、該型内で重合を行うことにより、シート状又はフィルム状のプリプレグを得ることができる。
【0061】
本発明に使用する重合性組成物は、従来、プリプレグや積層体の製造に用いられている、エポキシ樹脂等を溶媒に溶かしてなる重合体ワニスと比較して低粘度であり、炭素繊維に対する含浸性に優れるので、得られるプリプレグ及び積層体中にはボイドが実質的になく、該積層体は機械強度に優れる。
【0062】
また、塊状重合を行う場合、重合性組成物は反応に関与しない溶媒等を実質的に含まないので、炭素繊維に含浸させた後に溶媒を除去するなどの工程が不要であり、従って、プリプレグの生産性に優れ、また、プリプレグでは、残存溶媒による臭気やフクレ等も生じないので好適である。さらに、得られるプリプレグは未反応のモノマーを実質的に含まず、よって、該モノマーに起因する臭気が実質的になく、また、得られる積層体は耐熱性に優れたものとなる。
【0063】
炭素繊維がチョップドなどの短繊維である場合には、炭素繊維を重合性組成物に混合し、次いで塊状重合を行う方法をとりうる。炭素繊維は、モノマー液と触媒液を混合する前にモノマー液及び/又は触媒液に添加してもよいし、モノマー液と触媒液とを混合した後に添加してもよい。塊状重合の方法としては、上記と同様に型内で塊状重合を行う方法をとりうる。また、短繊維と長繊維からなる織物とを併用し、炭素繊維の短繊維を含む重合性組成物を、上記と同様に長繊維からなる織物に含浸させてから重合してもよい。
【0064】
本発明に使用する重合性組成物は、通常、メタセシス重合触媒を含んでなるが、上記いずれの方法においても、重合性組成物を重合させるための加熱温度は、通常、50〜250℃、好ましくは80〜200℃、より好ましくは90〜150℃の範囲であり、かつ前記架橋剤、通常、ラジカル発生剤の1分間半減期温度以下、好ましくは10℃以下、より好ましくは20℃以下である。重合時間は適宜選択すればよいが、通常、10秒間から60分間、好ましくは10秒間から20分間以内である。重合性組成物をかかる条件で加熱することにより未反応モノマーの少ないプリプレグが得られるので好適である。
【0065】
本発明のプリプレグの厚さは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常、0.001〜10mm、好ましくは0.005〜1mm、より好ましくは0.01〜0.5mmの範囲である。プリプレグの厚さがこの範囲であれば、積層時の賦形性、また、硬化して得られる積層体の機械強度や靭性の特性が充分に発揮され好適である。
【0066】
本発明のプリプレグの揮発成分量は、200℃で1時間加熱したときに揮発する量で、通常、30重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、もっとも好ましくは1重量%以下である。未反応モノマーなど、プリプレグの揮発成分量が過度に多いと、プリプレグにベタ付きが発生し、その操作性、及び保存安定性が悪くなり、また、硬化後の繊維強化樹脂成形体や積層体にボイドが発生し、外観や機械強度が低下したり、ブリードや耐熱性、耐薬品性等に問題が生じる可能性がある。
【0067】
(積層体)
本発明の積層体は、前記プリプレグと、当該プリプレグ及び/又は他の材料とを積層し、所望により賦形した後に、硬化することで製造することができる。
【0068】
積層してもよい他の材料としては、所望により適宜選択されるが、例えば、熱可塑性樹脂材料、金属材料などが挙げられ、特に金属材料が好適に用いられる。熱可塑性樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、液晶ポリエステルなどのポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブリレンなどのポリオレフィン;ポリスチレン、ポリオキシメチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリメチレンメタクリレート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホンなどが挙げられる。金属材料としては、ステンレス鋼や鉄、炭素鋼、ステンレス合金、アルミニウム合金、チタン合金、マグネシウム合金、その他種々の金属、及び合金などが挙げられる。中でも、ステンレス鋼、アルミニウム合金及びチタン合金が好ましく、特にアルミニウム合金やチタン合金が軽量で、かつ機械強度が高いため好適である。金属材料の厚さは、所望により適宜選択されるが、通常0.5〜50μm、好ましくは1〜30μm、より好ましくは3〜20μm、さらに好ましくは3〜15μmの範囲である。
【0069】
本発明においては、使用する炭素繊維が一方向材である場合、プリプレグは、プリプレグの層が4層又は8層となるよう連続的に又は断続的に積層し、積層体として使用するのが好ましい。その場合、各層を構成するプリプレグは、各プリプレグの炭素繊維の方向の角度を互いにずらして積層するのが好適である。具体的には、プリプレグを4層積層する場合、一層目のプリプレグの炭素繊維の方向を基準とし、基準となる該方向に対する他のプリプレグの炭素繊維の方向のなす角度(絶対値が小さい方)をθとして、順にθ=−45°、45°、45°、−45°となるように積層するのが好ましい。また、プリプレグを8層積層する場合、同様に、順にθ=0°、90°、−45°、45°、45°、−45°、90°、0°となるように積層するのが好ましい。各プリプレグをこのように積層すれば、得られる繊維強化樹脂成形体及び積層体に反りが生じず、機械強度の異方性がなくなるため好適である。
【0070】
積層及び硬化させる方法は、常法に従えばよく、例えば、平板成形用のプレス枠型を有する公知のプレス機、シートモールドコンパウンド(SMC)やバルクモールドコンパウンド(BMC)などのプレス成形機を用いて熱プレスを行なうことができる。加熱温度は、架橋剤により架橋反応が誘起される温度以上である。例えば、架橋剤としてラジカル発生剤を用いた場合、通常、1分間半減期温度以上、好ましくは1分間半減期温度より5℃以上高い温度、より好ましくは1分間半減期温度より10℃以上高い温度である。典型的には、100〜300℃、好ましくは150〜250℃の範囲である。加熱時間は、0.1〜180分、好ましくは1〜120分、より好ましくは2〜60分の範囲である。プレス圧力としては、通常0.1〜20MPa、好ましくは0.1〜10MPa、より好ましくは1〜5MPaである。また、熱プレスは、真空または減圧雰囲気下で行ってもよい。
【0071】
かくして得られる本発明の積層体は、難燃性と機械強度に優れるため、スポーツ用途、自動車や航空機などの乗用車構造体用途、一般産業用途に広く好適に用いられる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における部及び%は、特に断りのない限り重量基準である。
【0073】
実施例及び比較例における各特性は、以下の方法に従い測定し、評価した。
(1)非ハロゲン難燃性
125mm×15mm×0.6mmの積層体に10秒間接炎したのちの総発熱量を測定し、以下の基準で評価した。
良好:3KJ/g未満
可:3KJ以上、6KJ/g未満
不良:6KJ/g以上
(2)機械強度
積層体を220℃の恒温槽に2時間放置した後、該積層体の引張強度をJIS K−7073に規定する試験方法に従い、標点間距離150mm及びクロスヘッド速度2mm/分の条件で測定して引張強度2を得、恒温槽に2時間放置前に同様にして測定して得た引張強度1に対する変化率を以下の式:
引張強度の変化率(%)=〔(引張強度2−引張強度1)/引張強度1〕×100
により算出し、以下の基準で評価した。
良好:試験後の変化率が20%未満
不良:試験後の変化率が20%以上
【0074】
(実施例1)
ベンジリデン(1,3−ジメチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド51部と、トリフェニルホスフィン79部とを、トルエン952部に溶解させて触媒液を調製した。これとは別に、テトラシクロドデセン(TCD)70部と1,4−メタノ−1.4.4a.9aテトラヒドロフルオレン(MTF)30部に対し、連鎖移動剤としてアリルメタクリレートを0.74部、架橋剤として3,3,5,7,7−ペンタメチル−1,2,4−トリオキセパン(1分間半減期温度205℃)を2部、架橋助剤としてトリメチロールプロパントリメタクリレートを10部、難燃剤としてトリキシレニルホスフェイトを40部と水酸化アルミニウム(平均粒子径0.4μm、嵩比重1.1g/cc)を40部、フェノール系老化防止剤として3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール1部を加えて混合した後、上記触媒液をシクロオレフィンモノマー100gあたり0.12mLの割合で加えて撹拌し、重合性組成物を調製した。
【0075】
ついで、この重合性組成物100部をポリエチレンナフタレートフィルム(タイプQ51、厚み75μm;帝人デュポンフィルム社製)の上に流延し、その上に一方向に配列させたアクリル系炭素繊維(パイロフィルTR 30S 3L;三菱レイヨン社製)を敷いて、さらにその上に上記重合性組成物80部を流延した。その上からさらにポリエチレンナフタレートフィルムを被せ、フィルムの上からローラーを用いて押圧し、重合性組成物を炭素繊維に含浸させた。ついで、これを150℃に熱した加熱炉中で1分間加熱し、重合性組成物を塊状重合させて厚さ125μmのプリプレグを得た。
【0076】
得られたプリプレグ4枚を、各層の炭素繊維の方向が、下から順にθ=−45°/45°/45°/−45°となるように重ね、さらにその両端面に12μmF2銅箔(シランカップリング剤処理電解銅箔、粗度Rz=1600nm、古河サーキットホイル社製)を重ね、220℃で2時間、3MPaにて加熱プレスを行い積層体を得た。表面の銅をエッチングにて取り除き、得られた積層体の非ハロゲン難燃性と機械強度を評価した。その結果を表1に示す。
【0077】
(実施例2)
難燃剤として、水酸化アルミニウムを水酸化マグネシウム(平均粒子径0.4μm、嵩比重1.2g/mL)に変えた以外は実施例1と同様にして積層体を得、各特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0078】
(実施例3)
難燃剤として、トリキシレニルホスファイトを9,10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドに変えた以外は実施例1と同様にして積層体を得、各特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0079】
(実施例4)
難燃剤の使用量をトリキシレニルホスフェイト20部と水酸化アルミニウム80部とに変えた以外は、実施例1と同様にして積層体を得、各特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0080】
(比較例1)
難燃剤をポリリン酸アンモニウム50部、赤リン10部、及び水酸化アルミニウム50部に変えた以外は、実施例1と同様にして積層体を得、各特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0081】
(比較例2)
難燃剤を水酸化アルミニウム100部に変えた以外は、実施例1と同様にして積層体を得、各特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0082】
(比較例3)
難燃剤をトリキシレニルホスフェイト70部に変えた以外は、実施例1と同様にして積層体を得、各特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
表1より、実施例1〜4で得られた積層体は優れた非ハロゲン難燃性と機械強度を示すことが分かる。これに対し、難燃剤として、リン酸エステルと金属水酸化物とを併用しなかった比較例1〜3で得られた積層体では非ハロゲン難燃性と機械強度が共に不充分であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロオレフィンモノマー、重合触媒、連鎖移動剤、架橋剤、架橋助剤、リン酸エステル、及び金属水酸化物を含む重合性組成物を炭素繊維に含浸した後、重合してなるプリプレグ。
【請求項2】
炭素繊維が、アクリル系炭素繊維である請求項1記載のプリプレグ。
【請求項3】
連鎖移動剤が、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するものである請求項1または2記載のプリプレグ。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載のプリプレグと、該プリプレグおよび/または他の材料とを積層した後、硬化してなる積層体。

【公開番号】特開2010−106215(P2010−106215A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−282213(P2008−282213)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】