説明

プロセスプラズマ発生装置及び材料プロセシング方法

【課題】大面積(大規模)、あるいは、3次元的に任意の形状のプラズマ発生を可能とし、任意の形状の容器・場所に簡単にプラズマ発生させる事が可能になり、その材料プロセシング応用も容易に行えるプロセスプラズマ発生装置を提供する。
【解決手段】厚み10μmから1mmのフレキシブルシート基板10は、フレキシブルなフィルム、例えばポリイミド層11上に電極あるいはコイル用の金属薄膜、例えば銅層12が接合されて形成される。プラズマガスとしては空気を用い、80Torrの条件下で電極ギャップ14に2.45GHzのマイクロ波電力を供給し、非熱平衡プラズマを発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大面積(大規模)、あるいは、3次元的に任意の形状のプラズマ発生電極又はプラズマ発生コイルを具備し、任意の形状の容器・場所に簡単にプラズマ発生させる事が出来るようにしたプロセスプラズマ発生装置、および、そのプロセスプラズマ発生装置を用いる材料プロセシング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、材料開発や生産技術等における多くの分野でプラズマによる材料プロセシング技術が用いられており、今後もプロセスプラズマの果たす役割は益々重要になるものと予想されている。
【0003】
例えば、半導体等の電子デバイスのプロセシングを例に挙げると、この様な電子デバイスのプロセシングにおいても、プラズマによるプロセシング技術は欠かせないことは周知の事実である。この様な電子デバイスの更なる要求の一つとして、最近、大面積(大規模化)が重要な技術課題の一つとして研究が進められている。
【0004】
特許文献1は、基板上に一対以上の電極を配して、対の電極間でプラズマを発生させることにより、同一基板平面上に複数の微小プラズマを任意の場所に発生させることを可能としたプラズマ発生装置を、提案している。
【0005】
しかし、特許文献1記載の基板上に電極を多数個配列させたプラズマ発生装置は、プラズマを3次元的な形状にするのが困難であった。また任意の形状のプラズマチャンバーに対応するプラズマ発生電極の作製も困難である。
【特許文献1】特開2000−164395号公報
【特許文献2】特開2003−197611号公報
【特許文献3】特開2001−089126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のような背景の下、本発明は、大面積(大規模)、あるいは、3次元的に任意の形状のプラズマ発生電極を具備し、任意の形状の容器・場所に簡単にプラズマ発生させる事が出来るようにしたプロセスプラズマ発生装置、および、該プラズマ発生装置を用いる材料プロセシング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のプロセスプラズマ発生装置は、フレキシブルシート基板上にプラズマ発生電極、あるいは、プラズマ発生コイルを具備したことを特徴とする。
前記シート基板の厚さが10μm以上1mm以下であることが好ましい。
【0008】
前記電極構造が、金属及び少なくとも該金属を被覆する誘電体からなることが好適である。前記誘電体が、二酸化珪素被膜であり、ペルヒドロポリシラザン溶液を用いて前記二酸化珪素被膜を形成するのが好ましい。前記二酸化珪素被膜の厚さが0.1〜5μm、好ましくは0.1〜3μm、さらに好ましくは0.1〜1μmであるの好適である。なお、本発明のプロセスプラズマ発生装置の全面、即ちフレキシブルシート基板及びプラズマ発生電極、あるいは、プラズマ発生コイルの全面を誘電体、好ましくは二酸化珪素被膜で被覆するのが好適である。
【0009】
前記二酸化珪素被膜の形成処理が、ペルヒドロポリシラザン溶液を前記フレキシブルシート基板及び金属の表面に塗布し所定の膜厚の塗布膜を形成する塗布膜形成処理と、前記塗布されたペルヒドロポリシラザン塗布膜を過熱水蒸気によって所定時間加熱して二酸化珪素被膜とする被膜形成熱処理とを含むのが好ましい。前記加熱処理によって形成された二酸化珪素被膜の表面を冷水又は温水で洗浄する処理をさらに含むのが望ましい。
【0010】
本発明の材料プロセシング方法は、本発明のプロセスプラズマ発生装置により、材料合成、堆積、エッチング又は表面処理を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、大面積(大規模)、あるいは、3次元的に任意の形状のプラズマ発生電極を具備し、任意の形状の容器・場所に簡単にプラズマ発生させる事が可能になり、その材料プロセシング応用も容易に行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明のプロセスプラズマ発生装置の電極構造図の一例を示す上面概略説明図である。図2は、図1の電極ギャップ近傍部分Xの拡大図である。図3は、図2の部分拡大図である。図4は、図1の電極ギャップ部分の断面概略説明図である。図5は、本発明のプロセスプラズマ発生装置の電極構造図の他の例を示す図4と同様の図面である。
【0013】
図1〜4において、符号10はフレキシブルシート基板であり、フレキシブルなフィルム、例えばポリイミド層11上に電極あるいはコイル用の金属薄膜、例えば銅層12が接合されて形成される。
本発明において、フレキシブルシート基板10としては、公知のフレキシブルな薄膜が使用可能である。フレキシブルシート基板10の材質は特に限定されず、有機物質あるいは無機物質のいずれも使用可能であるが、具体的には、図1〜4に示した如く、ポリイミド層11及び銅層12の二層構造を有するポリイミド−銅(PI−Cu)のフレキシブルシート基板を用いることが好適である。
フレキシブルシート基板10の厚さは特に制限はないが、10μm以上1mm以下が好ましい。
【0014】
本発明において、プラズマ発生電極は特に限定されないが、図1〜4に示した如く、電極ギャップ14を設けた銅電極対20,22を用いることが好ましい。なお、図1〜4において、符号16は銅線であり、符号A及びBは曲げ線である。
【0015】
本発明において、プラズマ発生電極の電極構造は銅層12等の金属層のみでもよいが、図5に示したように、金属層(銅層等)12及び少なくとも該金属層12を被覆する誘電体層24からなることが好ましい。金属層12からなる電極表面を誘電体層24で被覆(コーティング)することにより、電極のプラズマによる損傷を低減することができる。誘電体としては、公知の誘電体を使用できるが、ペルヒドロポリシラザン溶液を用いて形成される二酸化珪素被膜を用いるのが好適である。前記二酸化珪素被膜の厚さが0.1〜5μm、好ましくは0.1〜3μm、さらに好ましくは0.1〜1μmであるの好適である。
なお、図1〜5ではプラズマ発生電極を示したが、本発明において、プラズマ発生電極の代わりにプラズマ発生コイルを用いてもよい。
【0016】
前述した如く、プラズマ発生電極あるいはプラズマ発生コイルが形成されたフレキシブルシート(フィルム)基板10を3次元的な構造物に貼り付けることにより、任意な電極構造のプロセスプラズマ発生装置が可能になる。例えば、図1のフレキシブルシート基板10を曲げ線A及び曲げ線Bに沿って各々折曲げ、Y面を所定の部材に貼り付けることにより、任意の形状のプロセスプラズマ発生装置を作製することができ、金属電極部分と各種の電源をケーブルでつなぎプラズマを発生させることにより、任意の形状の容器・場所に簡単にプラズマを発生させる事ができる。
【0017】
前記二酸化珪素被膜の形成処理が、ペルヒドロポリシラザン溶液を前記フレキシブルシート基板及び金属の表面に塗布し所定の膜厚の塗布膜を形成する塗布膜形成処理と、前記塗布されたペルヒドロポリシラザン塗布膜を過熱水蒸気によって所定時間加熱して二酸化珪素被膜とする被膜形成熱処理とを含むのが好ましい。前記加熱処理によって形成された二酸化珪素被膜の表面を冷水又は温水で洗浄する処理をさらに含むのが望ましい。
【0018】
上記ペルヒドロポリシラザンを溶解する溶剤としては公知のものを用いればよいが、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、エーテル、THF、塩化メチレン、四塩化炭素のほか特許文献2に記載されたようなアニソール、デカリン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、リモネン、ヘキサン、オクタン、ノナン、デカン、C8−C11アルカン混合物、C18−C11芳香族炭化水素混合物、C8以上の芳香族炭化水素を5重量%以上25重量%以下含有する脂肪族/脂環式炭化水素混合物、ソルベッソ、ジイソプロピルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル、デカヒドロナフタリン及びジブチルエーテルなどを用いることができる。
【0019】
上記した各種溶剤に溶解されて作製されるペルヒドロポリシラザン溶液は、そのままでも過熱水蒸気による加熱処理によって二酸化珪素へ転化するが、反応速度の増加、反応時間の短縮、反応温度の低下、形成される二酸化珪素被膜の密着性の向上等を図る目的で触媒を用いるのが好ましい。これらの触媒も公知であり、例えばアミンやパラジウムが用いられるが、具体的には、特許文献3に記載されるように、有機アミン、例えばC1−5のアルキル基が1−3個配置された第1−第3級の直鎖状脂肪族アミン、フェニル基が1−3個配置された第1−第3級の芳香族アミン、ピリジン又はこれにメチル、エチル基等のアルキル基が核置換された環状脂肪族アミン等が挙げられ、さらに好ましいものとして、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノブチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン等を挙げることができる。これらの触媒はペルヒドロポリシラザン溶液に予め添加しておいてもよく、また過熱水蒸気による加熱処理の際の処理雰囲気中に気化状態で含有させることもできる。
【0020】
ペルヒドロポリシラザン溶液の塗布膜の厚さはペルヒドロポリシラザン溶液の濃度に依存して変動するが、被膜形成熱処理後の二酸化珪素被膜の厚さが0.1〜5μm、好ましくは0.1〜3μm、さらに好ましくは0.1〜1μmになるように塗布すればよい。例えば、ペルヒドロポリシラザン溶液の濃度が20%の場合には目標とする二酸化珪素被膜の厚さの5倍程度の塗布厚さとすればよい。加熱時間は過熱水蒸気の温度によって変動するが、5分〜1時間程度で十分である。
【0021】
前記加熱処理によって形成された二酸化珪素被膜の表面を冷水又は温水で洗浄する工程をさらに含むのが好ましい。形成された二酸化珪素被膜の表面を冷水又は温水で洗浄することによって、二酸化珪素被膜の品質を向上させることができる。冷水は常温水を用いればよく、温水は40℃〜100℃程度の加熱水を用いればよい。洗浄時間は30秒〜10分程度で十分である。
【0022】
上記ペルヒドロポリシラザンの塗布方式としては、スプレーコート、インクジェット塗布、メニスカスコート、ファウンテインコート、ディップコート、回転塗布、ロール塗布、ワイヤーバー塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、カーテン塗布等を用いることができる。前記過熱水蒸気の温度は100℃を超えるもの、好ましくは300℃以下のものが用いられる。
【0023】
本発明のプロセスプラズマ発生装置を用いて、材料合成、堆積、エッチング、表面処理プロセスなどのプラズマ材料プロセシングを行うことができる。
【実施例】
【0024】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
【0025】
(実施例1)
膜厚20μmのポリイミド層11及び膜厚35μmの銅層12の二層構造を有するフレキシブルシート基板10を用い、図1に示した電極構造を有するプラズマプラズマ発生装置を作製した。実施例1において、フレキシブルシート10は、幅50mm、上端から曲げ線Aまでの長さ50mm、曲げ線A−B間の距離2.5mm、曲げ線Bから下端までの長さ50mmとした。リソグラフィー技術により、図1の曲げ線A−B間に、100μmの等間隔の電極ギャップ14を作製した。銅電極対20,22の幅は各1.2mm、銅線16は厚さ35μm、幅2.0mmに設定した。作製した電極ギャップ14近傍の写真を図6に示した。
電極を形成したフレキシブルシート10を図1に示した曲げ線A及びBに沿って折曲げ、図1のY面をアルミナ基板に貼り付け、プロセスプラズマ発生装置を作製した。
【0026】
前記作製したプラズマプラズマ発生装置の電極間に2.45GHzのマイクロ波電源から電力を供給し、プラズマを発生させた。プラズマガスとしては、空気を用い、5W、80Torrの条件下で行った。プラズマプラズマ発生装置により発生した非平衡プラズマの発生の写真を図7に示した。電力の供給量の増大と共に、プラズマは大きく、そして発光は明るく変化した。
【0027】
プラズマガスとして、空気の他、酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、およびその混合ガスによるプラズマの発生にも成功しており、任意のガスによるプラズマの生成が可能であることが判明した。
窒素ガスを用いたプラズマの場合、発光分光測定よりガス温度がおよそ400Kであり、低温プラズマであることも確かめられた。
【0028】
(実施例2)
ペルヒドロポリシラザンの20%ジブチルエーテル溶液(製品名:アクアミカNL120A−20、「アクアミカ」はAZエレクトリックマテリアルズ株式会社の登録商標)をプラズマプラズマ発生装置の全面、即ちフレキシブルシート基板10面及び銅層12面に対してHVLPスプレー塗布を行った。当該プロセスプラズマ発生装置に均一に塗布された塗布膜厚は0.8μmであった。このペルヒドロポリシラザンが塗布されたプロセスプラズマ発生装置を過熱水蒸気(200℃/100%RH)で30分間処理した。このプロセスプラズマ発生装置の表面には膜厚0.2μmの二酸化珪素被膜が形成された。このようにプロセスプラズマ発生装置をコーティングした以外は実施例1と同様にプロセスプラズマ発生装置を作製した。実施例1と同様にプラズマを発生させた結果、実施例1に比べて、電極のプラズマによる損傷が低減され、安定的なプラズマの発生が達成された。
【0029】
(実施例3)
実施例1記載のプロセスプラズマ発生装置を用いて、ポリスチレン基板の表面処理を行った。
プラズマガスとしては空気を用い、5W、80Torrの条件下で行った。前記処理前及び処理後のポリスチレン基板の水滴の接触角を測定した。未処理のポリスチレン基板の表面は疎水性であり、水滴の接触角は82°であったが、処理後の表面の水滴の接触角は23°であり、親水性の表面になっており、親水化処理されたことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明のプロセスプラズマ発生装置の電極構造図の一例を示す上面概略説明図である。
【図2】図1の電極ギャップ近傍部分Xの拡大図である。
【図3】図2の部分拡大図である。
【図4】図1の電極ギャップ部分の断面概略説明図である。
【図5】本発明のプロセスプラズマ発生装置の電極構造図の他の例を示す図4と同様の図面である。
【図6】実施例1のプロセスプラズマ発生装置の電極ギャップ近傍の写真である。
【図7】実施例1のプロセスプラズマ発生装置により発生した非平衡プラズマの発生の写真である。
【符号の説明】
【0031】
10:フレキシブルシート基板、11:ポリイミド層、12:銅層、14:電極ギャップ、16:銅線、20,22:銅電極対、24:誘電体層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレキシブルシート基板上にプラズマ発生電極、あるいは、プラズマ発生コイルを具備することを特徴とするプロセスプラズマ発生装置。
【請求項2】
前記シート基板の厚さが10μm以上1mm以下であることを特徴とする請求項1記載のプロセスプラズマ発生装置。
【請求項3】
前記電極構造が、金属及び少なくとも該金属を被覆する誘電体からなることを特徴とする請求項1又は2記載のプロセスプラズマ発生装置。
【請求項4】
前記誘電体が、二酸化珪素被膜であり、ペルヒドロポリシラザン溶液を用いて前記二酸化珪素被膜を形成することを特徴とする請求項3記載のプロセスプラズマ発生装置。
【請求項5】
前記二酸化珪素被膜の厚さが0.1〜5μmであることを特徴とする請求項4記載のプロセスプラズマ発生装置。
【請求項6】
前記二酸化珪素被膜の形成処理が、ペルヒドロポリシラザン溶液を前記フレキシブルシート基板及び金属の表面に塗布し所定の膜厚の塗布膜を形成する塗布膜形成処理と、前記塗布されたペルヒドロポリシラザン塗布膜を過熱水蒸気によって所定時間加熱して二酸化珪素被膜とする被膜形成熱処理とを含むことを特徴とする請求項4又は5記載のプロセスプラズマ発生装置。
【請求項7】
前記加熱処理によって形成された二酸化珪素被膜の表面を冷水又は温水で洗浄する処理をさらに含むことを特徴とする請求項6記載のプロセスプラズマ発生装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載のプロセスプラズマ発生装置により、材料合成、堆積、エッチング又は表面処理を行うことを特徴とする材料プロセシング方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−242596(P2007−242596A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−19056(P2007−19056)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000131625)株式会社シンク・ラボラトリー (52)
【Fターム(参考)】