説明

ヘテロダインレーザー干渉測長器

【課題】測長結果から精度よくデッドパスの影響を排除するヘテロダインレーザー干渉測長器を提供する。
【解決手段】ヘテロダインレーザー光源10からのビームを分岐させて測定ビームB1と参照ビームB2を生成する分岐器80と、測定ビームB1及び参照ビームB2を分割する偏光ビームスプリッタ30と、測定光路LP1,LP2に設けられる1/4波長板31,32と、可動測定物50に固定され、測定ビームB11,B12が照射される測定ミラー341,342と、測定ミラー341,342近傍に配置され、参照ビームB21,B22が照射される反射ミラー411,412と、測定ミラー341,342の反射光を干渉させた光と反射ミラー411,412の反射光を干渉させた光に基づく2つのビート信号から変位を算出する演算回路70を備え、分機器80は測定ビームB1と参照ビームB2の光量比を連続的に変化させて調整する調整手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密機械、半導体、光ディスクなどの加工製造に利用されるレーザー光を用いて被測定物の変位を測定するヘテロダインレーザー干渉測長器や電子線描画装置等精密加工装置の可動部の移動距離計測に応用されるヘテロダインレーザー干渉測長器に関し、具体的には、デッドパスエラー補正を行うヘテロダインレーザー干渉測長器に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー干渉測長として利用されている方式で代表的なものは、高精度で安定性があるヘテロダインレーザー干渉測長器である。
【0003】
図1に、従来のヘテロダインレーザー干渉測長器の代表構成例を示す。
ヘテロダインレーザー光源10は、互いに周波数がわずかに異なり偏光面が直交する、2つの直線偏光出射ビームを出射する。また、ヘテロダインレーザー光源10から出射されてビームスプリッタ20で分岐されたビームは、光検出器21で干渉状態を電気信号に変換し、基準信号回路22でビート信号を検出する。
一方、ビームスプリッタ20を透過したビームは、偏光ビームスプリッタ30で基準ビームと測定ビームに分割される。
【0004】
基準ビームは、1/4波長板31を透過後、位置固定されている基準ミラー33で反射され、1/4波長板31を経て偏光ビームスプリッタ30へ戻る。
測定ビームは、1/4波長板32を透過後、可動測定ミラー34で反射され、1/4波長板32を経て偏光ビームスプリッタ30へ戻る。
【0005】
基準ミラー33と測定ミラー34で反射した基準ビームと測定ビームは、それぞれ2回1/4波長板31,32を通るので偏光面が回転し、偏光ビームスプリッタ30から出射ビームとは分離され、光検出器35で干渉状態を電気信号に変換され、測定信号回路36でビート信号が検出される。なお、偏光ビームスプリッタ30と2つの1/4波長板31,32は一体化されている場合も多い。
ついで、基準信号回路22と測定信号回路36の出力は、演算回路70で演算処理される。
【0006】
測定対象に搭載して固定された可動測定ミラー34が動くと、測定信号回路36のビート信号位相が変化し、また周波数が速度に応じてドップラーシフトするため、演算回路70が、基準信号回路22をもとにこれらを演算処理することで移動距離を測定できる。
【0007】
この移動距離は絶対値測定ではなく相対値測定で行われ、任意に定めた測定原点(O)で測定値をゼロリセットする。測定原点における基準ビームと測定ビームの光路長差がデッドパスである。
【0008】
一般に光学系配置の制約等から、デッドパスをゼロとすることは困難である。周囲環境の温度、湿度、気圧によってレーザー光の波長は変化する(エドレンの式として知られている)ので、レーザー干渉測長の測定値も変化するが、デッドパス中の変化分は測定値から分離することができないため、結果として可動測定ミラー34の移動距離測定精度が低下するという問題がある。
【0009】
そのため、デッドパスの影響を低減させる方法や装置が提案されている。
まず、設計上のデッドパス量をあらかじめ求めておき、環境変化によるデッドパス量変化分を計算してデッドパスを含む実際の測長結果を補正する方法がある(特許文献1,2参照。)。
すなわち、デッドパス長Ldを何らかの手段(例えば、メジャーなど)によって測定し、レーザー干渉を利用して測定した測長結果をL、符号ダッシュを温度等環境を考慮したエドレンの式による補正後の測長結果とすると、真の移動距離LaをLa=L’−(Ld−Ld’)として求める(特許文献1)。
また、温度等環境条件の検出部を備え、デッドパスを入力部に操作者がデッドパス長Cd(正しくは距離に対応するカウント値)を入力し、自動的にエドレンの式による補正が行われるようにし、測定した移動距離Cpの値に対し、真の移動距離をC=Cp−(Cd−Cd’)としている(特許文献2)。
【0010】
しかしながら、これらの従来技術では、デッドパス量をあらかじめ求めておき、環境変化によるデッドパス量変化分を計算してデッドパスを含む測長結果を補正するが、間接的であり、またあらかじめ求めておくデッドパス量の精度が低い、という問題があった。
【0011】
また、参照および測定光路に伸縮機構を備え、基準ミラー・測定物と偏光ビームスプリッタとの距離を増減できるようにし、デッドパスゼロに相当する光源からの基準信号を元に、参照および測定光路の位相差を算出し、参照光路の長さを伸縮させて、実際にデッドパス長をゼロに調整することで、デッドパス自体を光学系から取り除くようにする装置が提案されている(特許文献3参照。)。
【0012】
しかしながら、この従来技術では、デッドパス量を実際に求めてそれ自体を解消させるが、そのために必要な光路伸縮機構が必要であり、実際の装置搭載を考えると実現が難しく、実現した場合も設置スペースの点で問題があった。
【0013】
また、基準光路の1/4波長板を基準ビームに部分的に挿入し、測定光路の1/4波長板の表面の一部をミラーとし測定原点に配置して、基準信号は、基準光路の1/4波長板を通らず基準ミラーから反射される部分と、測定光路の1/4波長板表面から反射される部分の干渉によって発生し、測定信号は、基準光路の1/4波長板を通り基準ミラーから反射される部分と、測定光路の1/4波長板を通り測定ミラーから反射される部分の干渉によって発生するようにしているので、デッドパスの測長を基準信号で行い、測定ミラー位置の測長を測定信号で行ない、測定ミラーの測長結果からデッドパス量変化を相殺する装置が提案されている(特許文献4参照。)。
【0014】
しかしながら、この従来技術では、対象と共にデッドパス部の光学測長も行なうことでデッドパス量変化を相殺しているが、基準ミラーは位置固定とするのが前提と読み取れる。あえて基準ミラーの可動を許し差動検出光学系に適用しようとすると、2つの光路間で測定光路の位置が光軸に対して反転するため、測定光路を測定ミラーの同一直線上に合わせるためには光路をシフトさせる必要があり、そのための機構が余分に必要になる問題があった。
【0015】
また、レーザー干渉測長では基準光路を測定光路として利用し、分解能を向上させる方法がある。
図2に代表的な構成を示すが、被測定物50にお互いのミラー面が反対方向に向いた基準ミラー33と測定ミラー34が搭載された形になっている。
また、基準ミラー33への基準ビームは、1/4波長板31から方向を変えるための3つのミラー51,52,53を経て導かれている。基準ビームと測定ビームは同一直線上にあり、基準ミラー33と測定ミラー34のミラー面はビームに対して垂直となるように配置されている。
【0016】
図1のヘテロダインレーザー干渉測長器と比較すると、基準ミラー33のミラー面が光軸に相当する直線に対して測定ミラー34のミラー面と反対方向を向いて測定対象に搭載される点が違っている。この構成では、測定対象の光軸方向移動量に対し光路長が差動検出されて2倍になるので分解能が2倍に向上する。
【0017】
また、このような差動検出光学系構成では、基準ミラー33と測定ミラー34の働きは全く同等になる。ただし光学的差動検出では、測定対象を挟み込むような光学系を構成する必要があるため、基本的には被測定物に移動量を加えた程度の不等長光路となり、デッドパスが図1で示す通常の光学系に比較して大きくなる。そのため、より一層デッドパスによる測定精度の低下を抑制する手段を講ずる必要がある。
【0018】
特許文献5では、ヘテロダインレーザー干渉測長器の偏光ビームスプリッタで分離される2つの測定ビームを、それぞれ被測定物に対して仮想直線上の対向方向から照射し、その反射干渉光によって被測定物の変位を計測する場合に、被測定物近傍に設けた反射ミラーによって被測定物に照射される2本の測定ビーム断面の一部を反射し、同一光束として逆方向へ戻る被測定物からの反射ビームと上記反射ミラーからの反射ビームとを、偏光ビームスプリッタ以降で2分割し、被測定物からの反射干渉光のビート信号と、反射ミラーからの反射干渉光ビート信号の2角ビート信号の差分に対応する変移の算出を行っている。これにより、前者はデッドパスを含む被測定物の変位量に対応し、後者はデッドパス量に対応するので、その差分をとることによりデッドパス量を排除することができる。
【0019】
しかしながら、この従来技術では、対象と共にデッドパス部の光学測長も行なうことでデッドパスの影響を排除しているが、反射光束を物理的に2分割した上、さらに対象からの反射光および反射ミラーからの光を開口制限により選択している。そのため、ビート信号に関する光検出器に到達する光量が少なく、対象の反射率によっては測定精度が影響を受けたり、測定できなくなったりする問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであり、光学的差動検出を用いたヘテロダインレーザー干渉測長器において、測長結果から精度よくデッドパスの影響を排除することのできるヘテロダインレーザー干渉測長器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記課題を解決するために提供する本発明は、被測定物(可動測定物50)の変位を測定するヘテロダインレーザー干渉測長器であって、仮想直線上にお互いの反射面を反対方向に向けて前記被測定物に固定される2つの測定ミラー(測定ミラー341,342)と、異なる周波数で偏光面が直交する2つの直線偏光レーザービームを物理的に1本のレーザービームとして出射するヘテロダインレーザー光源(ヘテロダインレーザー光源10)と、前記ヘテロダインレーザー光源からのレーザービームを分岐させて測定ビーム(測定ビームB1)と参照ビーム(参照ビームB2)からなる2本の物理的に離れた平行なレーザービームを生成する分岐器(分岐器80)と、前記分岐器からの測定ビーム及び参照ビームを2方向に分割する偏光ビームスプリッタ(偏光ビームスプリッタ30)と、前記2方向に分割された測定ビーム及び参照ビームのうち、一方向の測定ビーム(第1の測定ビームB11)及び参照ビーム(第1の参照ビームB21)を前記仮想直線に沿って前記2つの測定ミラーの一方の測定ミラー(測定ミラー341)側へ導き、他方向の測定ビーム(第2の測定ビームB12)及び参照ビーム(第2の参照ビームB22)を前記仮想直線に沿って他方の測定ミラー(測定ミラー342)側へ導く2つの測定光路(測定光路LP1,LP2)と、前記2つの測定光路それぞれの光路中に設けられる2つの1/4波長板(1/4波長板31,32)と、前記2つの測定光路ごとに前記1/4波長板と前記測定ミラーの間に配置され、前記参照ビームを反射する2つの反射ミラー(反射ミラー411,412)と、前記2つの測定ミラーで反射されたそれぞれの前記測定ビームを前記偏光ビームスプリッタで干渉させた測定ビーム干渉光(測定ビーム干渉光B1k)の強度を電気的に検出する測定ビーム光検出器(光検出器35)と、前記測定ビーム光検出器の出力からビート信号を生成する測定ビーム測定回路(測定信号回路36)と、前記2つの反射ミラーで反射されたそれぞれの前記参照ビームを前記偏光ビームスプリッタで干渉させた参照ビーム干渉光(参照ビーム干渉光B2k)の強度を電気的に検出する参照ビーム光検出器(光検出器37)と、前記参照ビーム光検出器の出力からビート信号を生成する参照ビーム測定回路(測定信号回路38)と、前記測定ビーム測定回路で生成されるビート信号と前記参照ビーム測定回路で生成されるビート信号の差分に対応する変位の算出を行う演算回路(演算回路70)と、を備え、前記分岐器は、前記測定ビームと参照ビームの光量比を連続的に変化させて調整する調整手段を有することを特徴とするヘテロダインレーザー干渉測長器である(図3,図4,図9)。
【0022】
また、前記課題を解決するために提供する本発明は、被測定物(可動測定物50)の変位を測定するヘテロダインレーザー干渉測長器であって、仮想直線上にお互いの反射面を反対方向に向けて前記被測定物に固定される2つの測定ミラー(測定ミラー341,342)と、異なる周波数で偏光面が直交する2つの直線偏光レーザービームを含むレーザービームを発生し、該レーザービームを分岐させて測定ビーム(測定ビームB1)と参照ビーム(参照ビームB2)からなる2本の物理的に離れた平行なレーザービームとして出射するヘテロダインレーザー光源(ヘテロダインレーザー光源10)と、前記ヘテロダインレーザー光源からの測定ビーム及び参照ビームを2方向に分割する偏光ビームスプリッタ(偏光ビームスプリッタ30)と、前記2方向に分割された測定ビーム及び参照ビームのうち、一方向の測定ビーム(第1の測定ビームB11)及び参照ビーム(第1の参照ビームB21)を前記仮想直線に沿って前記2つの測定ミラーの一方の測定ミラー(測定ミラー341)側へ導き、他方向の測定ビーム(第2の測定ビームB12)及び参照ビーム(第2の参照ビームB22)を前記仮想直線に沿って他方の測定ミラー(測定ミラー342)側へ導く2つの測定光路(測定光路LP1,LP2)と、前記2つの測定光路それぞれの光路中に設けられる2つの1/4波長板(1/4波長板31,32)と、前記2つの測定光路ごとに前記1/4波長板と前記測定ミラーの間に配置され、前記参照ビームを反射する2つの反射ミラー(反射ミラー411,412)と、前記2つの測定ミラーで反射されたそれぞれの前記測定ビームを前記偏光ビームスプリッタで干渉させた測定ビーム干渉光(測定ビーム干渉光B1k)の強度を電気的に検出する測定ビーム光検出器(光検出器35)と、前記測定ビーム光検出器の出力からビート信号を生成する測定ビーム測定回路(測定信号回路36)と、前記2つの反射ミラーで反射されたそれぞれの前記参照ビームを前記偏光ビームスプリッタで干渉させた参照ビーム干渉光(参照ビーム干渉光B2k)の強度を電気的に検出する参照ビーム光検出器(光検出器37)と、前記参照ビーム光検出器の出力からビート信号を生成する参照ビーム測定回路(測定信号回路38)と、前記測定ビーム測定回路で生成されるビート信号と前記参照ビーム測定回路で生成されるビート信号の差分に対応する変位の算出を行う演算回路(演算回路70)と、を備え、前記ヘテロダインレーザー光源は、前記測定ビームと参照ビームの光量比を連続的に変化させて調整する調整手段を有することを特徴とするヘテロダインレーザー干渉測長器である(図5,図6,図9)。
【0023】
また、前記課題を解決するために提供する本発明は、被測定物(可動測定物50(円筒物体50a))の変位を測定するヘテロダインレーザー干渉測長器であって、異なる周波数で偏光面が直交する2つの直線偏光レーザービームを物理的に1本のレーザービームとして出射するヘテロダインレーザー光源(ヘテロダインレーザー光源10)と、前記ヘテロダインレーザー光源からのレーザービームを分岐させて測定ビーム(測定ビームB1)と参照ビーム(参照ビームB2)からなる2本の物理的に離れた平行なレーザービームを生成する分岐器(分岐器80)と、前記分岐器からの測定ビーム及び参照ビームを2方向に分割する偏光ビームスプリッタ(偏光ビームスプリッタ30)と、前記2方向に分割された測定ビーム及び参照ビームのうち、一方向の測定ビーム(第1の測定ビームB11)及び参照ビーム(第1の参照ビームB21)を前記被測定物の一方側へ導き、他方向の測定ビーム(第2の測定ビームB12)及び参照ビーム(第2の参照ビームB22)を正対する前記被測定物の他方側へ導く2つの測定光路(測定光路LP1,LP2)と、前記2つの測定光路それぞれの光路中に設けられる2つの1/4波長板(1/4波長板31,32)と、前記2つの測定光路ごとに前記1/4波長板と前記被測定物の間に配置され、前記参照ビームを反射する2つの反射ミラー(反射ミラー411,412)と、前記被測定物の双方側で反射されたそれぞれの前記測定ビームを前記偏光ビームスプリッタで干渉させた測定ビーム干渉光(測定ビーム干渉光B1k)の強度を電気的に検出する測定ビーム光検出器(光検出器35)と、前記測定ビーム光検出器の出力からビート信号を生成する測定ビーム測定回路(測定信号回路36)と、前記2つの反射ミラーで反射されたそれぞれの前記参照ビームを前記偏光ビームスプリッタで干渉させた参照ビーム干渉光(参照ビーム干渉光B2k)の強度を電気的に検出する参照ビーム光検出器(光検出器37)と、前記参照ビーム光検出器の出力からビート信号を生成する参照ビーム測定回路(測定信号回路38)と、前記測定ビーム測定回路で生成されるビート信号と前記参照ビーム測定回路で生成されるビート信号の差分に対応する変位の算出を行う演算回路(演算回路70)と、を備え、前記分岐器は、前記測定ビームと参照ビームの光量比を連続的に変化させて調整する調整手段を有することを特徴とするヘテロダインレーザー干渉測長器である(図10)。
【発明の効果】
【0024】
本発明のヘテロダインレーザー干渉測長器によれば、光学的差動検出構成で測定対象の測長を行うと同時に、測定対象に近接した部分に反射ミラーを設置し、測定ビームの一部でデッドパス測長も行って、最終的な測長結果からデッドパスの値を取り除いているので、分解能2倍であっても測長結果からデッドパスの影響を排除することができる。また、測定ビームと参照ビームは物理的に離れた平行ビームであり、ビーム分割することなく各々全光量をビート信号の光検出器が利用できるので、精度良く測定を行うことができる。またこのとき、調整手段により測定ビームと参照ビームの光量比率を連続的に変えることができるので、測定対象に対して最適な測定ビーム光量を設定することが可能になり、測定精度の信頼性がより向上する。これにより、反射率が低い測定対象に対しても測定が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】従来のヘテロダインレーザー干渉測長器の構成例1を示すブロック図である。
【図2】従来のヘテロダインレーザー干渉測長器の構成例2を示すブロック図である。
【図3】本発明に係るヘテロダインレーザー干渉測長器の第1の実施形態における構成を示すブロック図である。
【図4】本発明に係るヘテロダインレーザー干渉測長器の第2の実施形態における構成を示すブロック図である。
【図5】本発明に係るヘテロダインレーザー干渉測長器の第3の実施形態における構成を示すブロック図である。
【図6】本発明に係るヘテロダインレーザー干渉測長器の第4の実施形態における構成を示すブロック図である。
【図7】本発明に係るヘテロダインレーザー干渉測長器における測定ビームと参照ビームの光量比の調整手段の参考例1を示す概略図である。
【図8】本発明に係るヘテロダインレーザー干渉測長器における測定ビームと参照ビームの光量比の調整手段の参考例2を示す概略図である。
【図9】本発明に係るヘテロダインレーザー干渉測長器における測定ビームと参照ビームの光量比の調整手段の構成例を示す概略図である。
【図10】本発明に係るヘテロダインレーザー干渉測長器の第5の実施形態における構成を示すブロック図である。
【図11】(a)円筒物体の表面に生じた切削痕を示す断面模式図、(b)切削痕のある円筒物体の模式図である。
【図12】測定ビームの円筒物体に対する(a)X方向の照射状態、(b)Y方向の照射状態、(c)X,Y方向の照射状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明に係るヘテロダインレーザー干渉測長器の構成について説明する。
図3は、本発明に係るヘテロダインレーザー干渉測長器の第1の実施形態における構成を示すブロック図である。
図3に示すように、ヘテロダインレーザー光源10からは、互いに周波数がわずかに異なり偏光面が直交する、2つの直線偏光出射ビームが物理的に1本のレーザービームとして出射され、続いてこの1本のレーザービームが分岐器80によって物理的に離れた平行な2本の測定ビーム(B1)と参照ビーム(B2)に分岐される。分岐器80としては、無偏光ビームスプリッタとミラーの組み合わせなどが利用できる。
【0027】
分岐器80から出た測定ビーム(B1)と参照ビーム(B2)は、偏光ビームスプリッタ30に入射し、それぞれ偏光ビームスプリッタ30により2方向に分割される。なお、測定ビーム(B1)と参照ビーム(B2)は、物理的に離れた平行な2本のレーザービームとして偏光ビームスプリッタ30に入射することから、偏光ビームスプリッタ30内の異なる位置(点)で分割される。すなわち、偏光ビームスプリッタ30内において、測定ビーム(B1)は点P1で分割され、参照ビーム(B2)は点P2で分割される。
【0028】
このとき、測定ビーム(B1)は第1の測定ビームB11と第2の測定ビームB12に、参照ビーム(B2)は第1の参照ビームB21と第2の参照ビームB22に分割される。また、第1の測定ビームB11と第1の参照ビームB21は、偏光ビームスプリッタ30で反射されて図中上方に向かうビームであり、第2の測定ビームB12と第2の参照ビームB22は偏光ビームスプリッタ30を透過して図中右方に向かうビームである。さらに、第1の測定ビームB11と第1の参照ビームB21は、お互いが物理的に離れた平行な関係のまま測定光路LP1を通り、第2の測定ビームB12と第2の参照ビームB22は、お互いが物理的に離れた平行な関係のまま測定光路LP2を通る。
【0029】
測定光路LP1では、1/4波長板31と、ミラー51,52,53が配置されており、第1の測定ビームB11と第1の参照ビームB21は、お互いが物理的に離れた平行な関係が維持されたまま、1/4波長板31を透過した後、ミラー51,52,53で反射されて方向が変えられて、測定ミラー341側へ導かれる。
【0030】
ここで、第1の測定ビームB11は、そのまま測定ミラー341で反射されて、そこから測定光路LP1を遡り、1/4波長板31を経て偏光ビームスプリッタ30へ戻る。また、第1の参照ビームB21は、測定光路LP1中で、ミラー53までは第1の測定ビームB11と同じ光路を通り、測定ミラー341の手前の所定位置に配置された反射ミラー411で反射されて、そこから測定光路LP1を遡り、1/4波長板31を経て偏光ビームスプリッタ30へ戻る。
【0031】
なお、反射されて戻ってきた第1の測定ビームB11は、偏光ビームスプリッタ30において、前述の分岐器80から入射してきた測定ビームB1が分割された点P1に戻ってくる。また、反射されて戻ってきた第1の参照ビームB21は、偏光ビームスプリッタ30において、前述の分岐器80から入射してきた参照ビームB2が分割された点P2に戻ってくる。したがって、反射されて戻ってきた第1の測定ビームB11と第1の参照ビームB21は、偏光ビームスプリッタ30において異なる位置(点)に入射することになる。
【0032】
測定光路LP2では、1/4波長板32が配置されており、第2の測定ビームB12と第2の参照ビームB22は、お互いが物理的に離れた平行な関係が維持されたまま、1/4波長板32を透過した後、測定ミラー342側へ導かれる。
【0033】
ここで、第2の測定ビームB12は、そのまま測定ミラー342で反射されて、そこから測定光路LP2を遡り、1/4波長板32を経て偏光ビームスプリッタ30へ戻る。また、第2の参照ビームB22は、測定光路LP2中を第2の測定ビームB12と同じ光路を通り、測定ミラー342手前の所定位置に配置された反射ミラー412で反射されて、そこから測定光路LP2を遡り、1/4波長板32を経て偏光ビームスプリッタ30へ戻る。
【0034】
なお、反射されて戻ってきた第2の測定ビームB12は、偏光ビームスプリッタ30において、前述の分岐器80から入射してきた測定ビームB1が分割された点P1に戻ってくる。また、反射されて戻ってきた第2の参照ビームB22は、偏光ビームスプリッタ30において、前述の分岐器80から入射してきた参照ビームB2が分割された点P2に戻ってくる。したがって、反射されて戻ってきた第2の測定ビームB12と第2の参照ビームB22は、偏光ビームスプリッタ30において異なる位置(点)に入射するとともに、反射されて戻ってきた第1の測定ビームB11と第2の測定ビームB12は偏光ビームスプリッタ30において同じ位置(点P1)に入射し、反射されて戻ってきた第1の参照ビームB21と第2の参照ビームB22は偏光ビームスプリッタ30において同じ位置(点P2)に入射することになる。
【0035】
なお、偏光ビームスプリッタ30と2つの1/4波長板31,32は、一体化されていても差し支えない。
【0036】
また、ミラー53から測定ミラー341に向かう測定光路LP1と測定光路LP2は一直線(仮想直線)をなすように調整されており、2つの測定ミラー341,342のミラー面(反射面)は測定光路LP1,LP2の光軸に対し垂直に、かつ反対を向いた状態で可動測定物50に設置され、固定されている。
【0037】
また、反射ミラー411,412は、第1の参照ビームB21、第2の参照ビームB22それぞれを反射して測定光路LP1,LP2を遡らせるように、測定光路LP1,LP2光軸に対して配置する。
【0038】
さらに、反射ミラー411,412は、可能な限り測定ミラー341,342に近接させて配置する。
【0039】
上記の測定ミラー341,342及び反射ミラー411,412としては、平面ミラーやコーナーキューブの利用が考えられる。あるいは、測定ミラー341,342は、可動測定物の端面そのものを反射面としたものであってもよい。
【0040】
測定光路LP1において、偏光ビームスプリッタ30から測定ミラー341までの距離をMP1、偏光ビームスプリッタ30から反射ミラー411までの距離DP1とし、測定光路LP2において、偏光ビームスプリッタ30から測定ミラー342までの距離MP2、偏光ビームスプリッタ30から反射ミラー412までの距離をDP2とする。
【0041】
ここで、偏光ビームスプリッタ30から出て、測定ミラー341で反射されて再度偏光ビームスプリッタ30に戻ってきた第1の測定ビームB11は、1/4波長板31を2回通るので、偏光面が回転し、偏光ビームスプリッタ30では出射ビームとは分離され該偏光ビームスプリッタ30を図中下方向に透過する。また、偏光ビームスプリッタ30から出て、測定ミラー342で反射されて再度偏光ビームスプリッタ30に戻ってきた第2の測定ビームB12は、1/4波長板32を2回通るので、偏光面が回転し、偏光ビームスプリッタ30から出射ビームとは分離され該偏光ビームスプリッタ30で図中下方向に反射される。このとき、偏光ビームスプリッタ30では、測定ミラー341で反射されて戻ってきた第1の測定ビームB11と測定ミラー342で反射されて戻ってきた第2の測定ビームB12を干渉させた1本の測定ビーム干渉光B1kとして図中下方に出射することになる。
ついで、測定ビーム干渉光B1kは、ミラー60により折り曲げられて光検出器35に導かれる。
【0042】
光検出器35では、測定ビーム干渉光B1kの干渉状態(強度)を電気信号に変換し、ついで、測定信号回路36で光検出器35の出力信号からビート信号を生成する。この測定信号回路36のビート信号は、距離(MP1−MP2)に対応し、これは差動検出光学系におけるデッドパス量を含む測定対象の移動距離に相当する。
【0043】
一方、偏光ビームスプリッタ30から出て、反射ミラー411で反射されて再度偏光ビームスプリッタ30に戻ってきた第1の参照ビームB21は、1/4波長板31を2回通るので、偏光面が回転し、偏光ビームスプリッタ30では出射ビームとは分離され該偏光ビームスプリッタ30を図中下方向に透過する。また、偏光ビームスプリッタ30から出て、反射ミラー412で反射されて再度偏光ビームスプリッタ30に戻ってきた第2の参照ビームB22は、1/4波長板32を2回通るので、偏光面が回転し、偏光ビームスプリッタ30から出射ビームとは分離され該偏光ビームスプリッタ30で図中下方向に反射される。このとき、偏光ビームスプリッタ30では、反射ミラー411で反射されて戻ってきた第1の参照ビームB21と反射ミラー412で反射されて戻ってきた第2の参照ビームB22を干渉させた1本の参照ビーム干渉光B2kとして図中下方に出射することになる。また、参照ビーム干渉光B2kは、測定ビーム干渉光B1kと物理的に離れて平行な関係を維持したまま偏光ビームスプリッタ30から出射される。
ついで、参照ビーム干渉光B2kは、ミラー61により折り曲げられて光検出器37に導かれる。
【0044】
なお、測定ビーム干渉光B1kと参照ビーム干渉光B2kは、偏光ビームスプリッタ30からお互いに物理的に離れた平行な2本のビームとして出射されるため、測定ビーム干渉光B1k、参照ビーム干渉光B2kそれぞれをそのまま簡単に光検出器35,37に導くことができる。
【0045】
光検出器37では、参照ビーム干渉光B2kの干渉状態(強度)を電気信号に変換し、ついで、測定信号回路38で光検出器37の出力信号からビート信号を生成する。この測定信号回路38のビート信号は、距離(DP1−DP2)に対応し、これは差動検出光学系におけるデッドパス量に相当する。
【0046】
ついで、演算回路70は、測定信号回路36で生成されるビート信号と、測定信号回路38で生成されるビート信号とを受けて、両者の差分に対応する変位の算出を行う。すなわち、測定信号回路36,38でデッドパス量を含む測定対象の移動距離とデッドパス量とを電気的に検出できているので、演算回路70は、測定信号回路36の出力信号と測定信号回路38の出力信号の差((MP1−MP2)−(DP1−DP2))を算出し、差動検出光学系におけるデッドパス量を含まない測定対象の移動距離を得ることができる。
【0047】
なお、演算回路70における測定信号回路36の出力信号と測定信号回路38の出力信号の差の算出方法としては、測定信号回路36の出力信号を基準ビート信号として用い、測定信号回路38のビート信号との差を求める方法でよい。あるいは、図1,図2で説明した基準信号回路22(図3では図示していない)を利用し、測定信号回路36と測定信号回路38の出力信号それぞれと基準信号回路22の出力信号との差を求め、実際に(DP1−DP2)および(MP1−MP2)に相当するデータを算出してから、これらの差を演算する方法でもよい。
【0048】
本実施形態のヘテロダインレーザー干渉測長器は、一例として直動ステージの移動量測定に応用することができる。具体例として、半導体用や光ディスク、ハードディスクのパターン作製用の精密直動ステージに適用すれば、デッドパスの影響を受けることなく高精度にステージ移動量を計測しているので、ステージ送り制御の精度を高めることができ、作製パターンの精度を改善することが可能である。
【0049】
次に、本発明に係るヘテロダインレーザー干渉測長器の第2の実施形態における構成について説明する。
図4は、本発明に係るヘテロダインレーザー干渉測長器の第2の実施形態における構成を示すブロック図である。
本実施形態は、図3のヘテロダインレーザー干渉測長器(第1の実施形態)と比較して、測定ミラー341,342が可動測定物50の端面そのものを反射面としたものであり、測定ビームB11,B12を、それぞれ集光して測定ミラー341,342に照射するレンズ421,422を備える点で異なり、それ以外の部分については図3の構成と同一である。
【0050】
レンズ421,422で測定ビームB11,B12を集光することにより、光源のビーム径よりも小さな測定ミラー面積しかとることのできない被測定物や、測定ミラーが曲面となっている被測定物に対しても測定可能になる。
【0051】
また、反射ミラー411,412の位置として、反射面をレンズ421,422の入射面に配置させると、反射ミラー間隔を最大に取ることができるので好ましい。
【0052】
また、図4のヘテロダインレーザー干渉測長器における可動測定物50の測長の機構(方法)は、測定ビームB11,B12をレンズ421,422で集光して可動測定物50の端面(測定ミラー341,342)に照射し、その反射光をレンズ421,422を通過させて偏光ビームスプリッタ30に戻す点が第1の実施形態と異なるだけで、基本的な測長の機構(方法)は第1の実施形態と同じであるため、その説明は省略する。
【0053】
なおここでは、可動測定物50の端面そのものをミラー化して測定ミラー341,342とする例を取り上げたが、図3のように独立した測定ミラー341,342が可動測定物50に設置され、固定されていても差し支えない。
【0054】
本実施形態のヘテロダインレーザー干渉測長器は、一例として回転ステージの回転振れ量測定に応用することができる。具体例として、光ディスク、ハードディスクのパターン作製用の精密ターンテーブルに適用すれば、デッドパスの影響を受けることなく高精度にターンテーブル回転振れを計測するので、パターン作製用のレーザービーム位置に回転振れ量をフィードバックして、振れのないトラックパターンを作るなど精度を改善することが可能である。
【0055】
次に、本発明に係るヘテロダインレーザー干渉測長器の第3の実施形態における構成について説明する。
図5は、本発明に係るヘテロダインレーザー干渉測長器の第3の実施形態における構成を示すブロック図である。本実施形態では、第1の実施形態(図3)と比較して、ビームの分岐がヘテロダインレーザー光源10の内部で行われ、2本のビームが出射される点が異なる。
【0056】
図5に示すように、ヘテロダインレーザー光源10の内部では、はじめに互いに周波数がわずかに異なり偏光面が直交する、2つの直線偏光出射ビームが物理的に1本のビームとして生成され、続く分岐器80によって平行な2本の測定ビーム(B1)と参照ビーム(B2)に分岐されて外部に出射される。分岐器80としては無偏光ビームスプリッタとミラーの組み合わせなどが利用できる。
【0057】
ヘテロダインレーザー光源10から出射された測定ビーム(B1)と参照ビーム(B2)は、偏光ビームスプリッタ30に入射し、それぞれ偏光ビームスプリッタ30により2方向に分割される。なお、測定ビーム(B1)と参照ビーム(B2)は、物理的に離れた平行な2本のレーザービームとして偏光ビームスプリッタ30に入射することから、偏光ビームスプリッタ30内の異なる位置(点)で分割される。すなわち、偏光ビームスプリッタ30内において、測定ビーム(B1)は点P1で分割され、参照ビーム(B2)は点P2で分割される。
【0058】
このとき、測定ビーム(B1)は第1の測定ビームB11と第2の測定ビームB12に、参照ビーム(B2)は第1の参照ビームB21と第2の参照ビームB22に分割される。また、第1の測定ビームB11と第1の参照ビームB21は、偏光ビームスプリッタ30で反射されて図中上方に向かうビームであり、第2の測定ビームB12と第2の参照ビームB22は偏光ビームスプリッタ30を透過して図中右方に向かうビームである。さらに、第1の測定ビームB11と第1の参照ビームB21は、お互いが物理的に離れた平行な関係のまま測定光路LP1を通り、第2の測定ビームB12と第2の参照ビームB22は、お互いが物理的に離れた平行な関係のまま測定光路LP2を通る。
【0059】
測定光路LP1では、1/4波長板31と、ミラー51,52,53が配置されており、第1の測定ビームB11と第1の参照ビームB21は、お互いが物理的に離れた平行な関係が維持されたまま、1/4波長板31を透過した後、ミラー51,52,53で反射されて方向が変えられて、測定ミラー341側へ導かれる。
【0060】
ここで、第1の測定ビームB11は、そのまま測定ミラー341で反射されて、そこから測定光路LP1を遡り、1/4波長板31を経て偏光ビームスプリッタ30へ戻る。また、第1の参照ビームB21は、測定光路LP1中で、ミラー53までは第1の測定ビームB11と同じ光路を通り、測定ミラー341の手前の所定位置に配置された反射ミラー411で反射されて、そこから測定光路LP1を遡り、1/4波長板31を経て偏光ビームスプリッタ30へ戻る。
【0061】
なお、反射されて戻ってきた第1の測定ビームB11は、偏光ビームスプリッタ30において、前述の分岐器80から入射してきた測定ビームB1が分割された点P1に戻ってくる。また、反射されて戻ってきた第1の参照ビームB21は、偏光ビームスプリッタ30において、前述の分岐器80から入射してきた参照ビームB2が分割された点P2に戻ってくる。したがって、反射されて戻ってきた第1の測定ビームB11と第1の参照ビームB21は、偏光ビームスプリッタ30において異なる位置(点)に入射することになる。
【0062】
測定光路LP2では、1/4波長板32が配置されており、第2の測定ビームB12と第2の参照ビームB22は、お互いが物理的に離れた平行な関係が維持されたまま、1/4波長板32を透過した後、測定ミラー342側へ導かれる。
【0063】
ここで、第2の測定ビームB12は、そのまま測定ミラー342で反射されて、そこから測定光路LP2を遡り、1/4波長板32を経て偏光ビームスプリッタ30へ戻る。また、第2の参照ビームB22は、測定光路LP2中を第2の測定ビームB12と同じ光路を通り、測定ミラー342手前の所定位置に配置された反射ミラー412で反射されて、そこから測定光路LP2を遡り、1/4波長板32を経て偏光ビームスプリッタ30へ戻る。
【0064】
なお、反射されて戻ってきた第2の測定ビームB12は、偏光ビームスプリッタ30において、前述の分岐器80から入射してきた測定ビームB1が分割された点P1に戻ってくる。また、反射されて戻ってきた第2の参照ビームB22は、偏光ビームスプリッタ30において、前述の分岐器80から入射してきた参照ビームB2が分割された点P2に戻ってくる。したがって、反射されて戻ってきた第2の測定ビームB12と第2の参照ビームB22は、偏光ビームスプリッタ30において異なる位置(点)に入射するとともに、反射されて戻ってきた第1の測定ビームB11と第2の測定ビームB12は偏光ビームスプリッタ30において同じ位置(点P1)に入射し、反射されて戻ってきた第1の参照ビームB21と第2の参照ビームB22は偏光ビームスプリッタ30において同じ位置(点P2)に入射することになる。
【0065】
なお、偏光ビームスプリッタ30と2つの1/4波長板31,32は、一体化されていても差し支えない。
【0066】
また、ミラー53から測定ミラー341に向かう測定光路LP1と測定光路LP2は一直線(仮想直線)をなすように調整されており、2つの測定ミラー341,342のミラー面(反射面)は測定光路LP1,LP2の光軸に対し垂直に、かつ反対を向いた状態で可動測定物50に設置され、固定されている。
【0067】
また、反射ミラー411,412は、第1の参照ビームB21、第2の参照ビームB22それぞれを反射して測定光路LP1,LP2を遡らせるように、測定光路LP1,LP2光軸に対して配置する。
【0068】
さらに、反射ミラー411,412は、可能な限り測定ミラー341,342に近接させて配置する。
【0069】
上記の測定ミラー341,342及び反射ミラー411,412としては、平面ミラーやコーナーキューブの利用が考えられる。あるいは、測定ミラー341,342は、可動測定物の端面そのものを反射面としたものであってもよい。
【0070】
測定光路LP1において、偏光ビームスプリッタ30から測定ミラー341までの距離をMP1、偏光ビームスプリッタ30から反射ミラー411までの距離DP1とし、測定光路LP2において、偏光ビームスプリッタ30から測定ミラー342までの距離MP2、偏光ビームスプリッタ30から反射ミラー412までの距離をDP2とする。
【0071】
ここで、偏光ビームスプリッタ30から出て、測定ミラー341で反射されて再度偏光ビームスプリッタ30に戻ってきた第1の測定ビームB11は、1/4波長板31を2回通るので、偏光面が回転し、偏光ビームスプリッタ30では出射ビームとは分離され該偏光ビームスプリッタ30を図中下方向に透過する。また、偏光ビームスプリッタ30から出て、測定ミラー342で反射されて再度偏光ビームスプリッタ30に戻ってきた第2の測定ビームB12は、1/4波長板32を2回通るので、偏光面が回転し、偏光ビームスプリッタ30から出射ビームとは分離され該偏光ビームスプリッタ30で図中下方向に反射される。このとき、偏光ビームスプリッタ30では、測定ミラー341で反射されて戻ってきた第1の測定ビームB11と測定ミラー342で反射されて戻ってきた第2の測定ビームB12を干渉させた1本の測定ビーム干渉光B1kとして図中下方に出射することになる。
ついで、測定ビーム干渉光B1kは、ミラー60により折り曲げられて光検出器35に導かれる。
【0072】
光検出器35では、測定ビーム干渉光B1kの干渉状態(強度)を電気信号に変換し、ついで、測定信号回路36で光検出器35の出力信号からビート信号を生成する。この測定信号回路36のビート信号は、距離(MP1−MP2)に対応し、これは差動検出光学系におけるデッドパス量を含む測定対象の移動距離に相当する。
【0073】
一方、偏光ビームスプリッタ30から出て、反射ミラー411で反射されて再度偏光ビームスプリッタ30に戻ってきた第1の参照ビームB21は、1/4波長板31を2回通るので、偏光面が回転し、偏光ビームスプリッタ30では出射ビームとは分離され該偏光ビームスプリッタ30を図中下方向に透過する。また、偏光ビームスプリッタ30から出て、反射ミラー412で反射されて再度偏光ビームスプリッタ30に戻ってきた第2の参照ビームB22は、1/4波長板32を2回通るので、偏光面が回転し、偏光ビームスプリッタ30から出射ビームとは分離され該偏光ビームスプリッタ30で図中下方向に反射される。このとき、偏光ビームスプリッタ30では、反射ミラー411で反射されて戻ってきた第1の参照ビームB21と反射ミラー412で反射されて戻ってきた第2の参照ビームB22を干渉させた1本の参照ビーム干渉光B2kとして図中下方に出射することになる。また、参照ビーム干渉光B2kは、測定ビーム干渉光B1kと物理的に離れて平行な関係を維持したまま偏光ビームスプリッタ30から出射される。
ついで、参照ビーム干渉光B2kは、ミラー61により折り曲げられて光検出器37に導かれる。
【0074】
なお、測定ビーム干渉光B1kと参照ビーム干渉光B2kは、偏光ビームスプリッタ30からお互いに物理的に離れた平行な2本のビームとして出射されるため、測定ビーム干渉光B1k、参照ビーム干渉光B2kそれぞれをそのまま簡単に光検出器35,37に導くことができる。
【0075】
光検出器37では、参照ビーム干渉光B2kの干渉状態(強度)を電気信号に変換し、ついで、測定信号回路38で光検出器37の出力信号からビート信号を生成する。この測定信号回路38のビート信号は、距離(DP1−DP2)に対応し、これは差動検出光学系におけるデッドパス量に相当する。
【0076】
ついで、演算回路70は、測定信号回路36で生成されるビート信号と、測定信号回路38で生成されるビート信号とを受けて、両者の差分に対応する変位の算出を行う。すなわち、測定信号回路36,38でデッドパス量を含む測定対象の移動距離とデッドパス量とを電気的に検出できているので、演算回路70は、測定信号回路36の出力信号と測定信号回路38の出力信号の差((MP1−MP2)−(DP1−DP2))を算出し、差動検出光学系におけるデッドパス量を含まない測定対象の移動距離を得ることができる。
【0077】
なお、演算回路70における測定信号回路36の出力信号と測定信号回路38の出力信号の差の算出方法としては、測定信号回路36の出力信号を基準ビート信号として用い、測定信号回路38のビート信号との差を求める方法でよい。あるいは、図1,図2で説明した基準信号回路22(図5では図示していない)を利用し、測定信号回路36と測定信号回路38の出力信号それぞれと基準信号回路22の出力信号との差を求め、実際に(DP1−DP2)および(MP1−MP2)に相当するデータを算出してから、これらの差を演算する方法でもよい。
【0078】
本実施形態のヘテロダインレーザー干渉測長器は、一例として直動ステージの移動量測定に応用することができる。具体例として、半導体用や光ディスク、ハードディスクのパターン作製用の精密直動ステージに適用すれば、デッドパスの影響を受けることなく高精度にステージ移動量を計測しているので、ステージ送り制御の精度を高めることができ、作製パターンの精度を改善することが可能である。なお、ヘテロダインレーザー光源10から物理的に離れた平行な測定ビームと参照ビームが出射されるようにしているので、測定ビームと参照ビームを分岐させる光学系を設置することなく、本発明の第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0079】
次に、本発明に係るヘテロダインレーザー干渉測長器の第4の実施形態における構成について説明する。
図6は、本発明に係るヘテロダインレーザー干渉測長器の第4の実施形態における構成を示すブロック図である。
本実施形態は、図5のヘテロダインレーザー干渉測長器(第3の実施形態)と比較して、測定ミラー341,342が可動測定物50の端面そのものを反射面としたものであり、測定ビームB11,B12を、それぞれ集光して測定ミラー341,342に照射するレンズ421,422を備える点で異なり、それ以外の部分については図5の構成と同一である。
【0080】
レンズ421,422で測定ビームB11,B12を集光することにより、光源のビーム径よりも小さな測定ミラー面積しかとることのできない被測定物や、測定ミラーが曲面となっている被測定物に対しても測定可能になる。
【0081】
また、反射ミラー411,412の位置として、反射面をレンズ421,422の入射面に配置させると、反射ミラー間隔を最大に取ることができるので好ましい。
【0082】
また、図6のヘテロダインレーザー干渉測長器における可動測定物50の測長の機構(方法)は、測定ビームB11,B12をレンズ421,422で集光して可動測定物50の端面(測定ミラー341,342)に照射し、その反射光をレンズ421,422を通過させて偏光ビームスプリッタ30に戻す点が第1の実施形態と異なるだけで、基本的な測長の機構(方法)は第3の実施形態と同じであるため、その説明は省略する。
【0083】
なおここでは、可動測定物50の端面そのものをミラー化して測定ミラー341,342とする例を取り上げたが、図5のように独立した測定ミラー341,342が可動測定物50に設置され、固定されていても差し支えない。
【0084】
ここで、図3〜図6に示したヘテロダインレーザー干渉測長器は、分岐器80において、測定ビームB1と参照ビームB2の光量比の調整手段を有する。
例えば、分岐器80において、光量分割比率が異なる複数の無偏光ビームスプリッタを用意し、その中から一つを選択して所定位置に配置し、無偏光ビームスプリッタとは別に用意されたミラーからなる光路によって、無偏光ビームスプリッタに入射するビームから、2本の平行ビーム(測定ビームB1と参照ビームB2)を分岐・発生させるようするとよい。
【0085】
その具体例としては、図7に示すように、光量分割比率が異なる無偏光ビームスプリッタを複数(ここでは3個の無偏光ビームスプリッタ811、812、813)用意し回転を利用してその中の一つを選択して所定位置(図7において無偏光ビームスプリッタ812の位置)に配置し、固定されたミラー82と合わせて光路とする構成がある。
【0086】
また、図8に示すように、相対位置が固定された光量分割比率が異なる無偏光ビームスプリッタとミラーの組み合わせを複数組(ここでは、無偏光ビームスプリッタ811とミラー821、無偏光ビームスプリッタ812とミラー822、無偏光ビームスプリッタ813とミラー823の3組)用意し、回転を利用してその中から一組選択して所定位置(図8において無偏光ビームスプリッタ812とミラー822の組の位置)に配置し、光路とする構成がある。
【0087】
このようにすることで、測定ビームB1と参照ビームB2を分岐させると同時に両者の光量比を変更することができ、測定対象(可動測定物50)の反射率が小さい場合は、測定ビームB1の光量比率を大きくすることで光検出器35に到達する光量を増やし、測定ビームB1と参照ビームB2の光量比率が固定の場合(例えば1:1の場合)に比べ、測定の安定性や精度を向上させることが可能となる。これは、図4,図6に示す構成のように、可動測定物50の端面そのものを反射面(測定ミラー341,342)とした場合に特に有効である。なおこの場合、参照ビームB2の光量が相対的に小さくなるが、参照ビームB2が反射するのは反射ミラー411,412であるためその反射率は高く、通常は反射光量が相当量減っても問題にならない。
【0088】
ところで、図7,図8に示す調整手段では、予め決められた複数の測定ビームB1と参照ビームB2の光量比から選択する構成であるため、測定ビームB1と参照ビームB2の光量比が調整できるとしても段階的な(不連続な)調整であり、必ずしも測定対象(可動測定物50)の反射率に最適な測定ビーム光量にはならないことがあった。また、装置構造上、調整手段に測定ビームB1と参照ビームB2の光量比の選択肢(複数の固定的な光量比)を数多く備えることは困難であり、その場合、測定の精度や安定性がやや失われたままとなる。
【0089】
そこで本発明では、分岐器80は、測定ビームB1と参照ビームB2の光量比を連続的に変化させて調整する調整手段を有することとする。具体的には、調整手段は、入射するレーザービームを第1のビーム(f1)と第2のビーム(f2)に偏光分離する第1の偏光ビームスプリッタ(偏光ビームスプリッタ911)と、前記第1のビーム、前記第2のビームそれぞれの偏光方向を調整する2つの1/2波長板(1/2波長板921,922)と、前記偏光方向が調整された第1のビームをS偏光成分(◎)とP偏光成分(↑)に分離する第2の偏光ビームスプリッタ(偏光ビームスプリッタ913)と、前記偏光方向が調整された第2のビームをS偏光成分(◎)とP偏光成分(↑)に分離する第3の偏光ビームスプリッタ(偏光ビームスプリッタ912)と、前記第1のビームのS偏光成分と前記第2のビームのP偏光成分を合成して前記測定ビームB1(または参照ビーム)とする第4の偏光ビームスプリッタ(偏光ビームスプリッタ914)と、前記第1のビームのP偏光成分と前記第2のビームのS偏光成分を合成して1本のビームとする第5の偏光ビームスプリッタ(偏光ビームスプリッタ915)と、前記第5の偏光ビームスプリッタからの1本のビームの偏光方向を90度回転させて前記参照ビームB2(または測定ビーム)とする1/2波長板(1/2波長板923)と、を有する。
【0090】
図9に、本発明のヘテロダインレーザー干渉測長器の分光器80における調整手段の構成例を示す。
図9に示すように、調整手段は、偏光を利用して、偏光ビームスプリッタ911に入射するビームから、2本の平行ビーム(測定ビームB1と参照ビームB2)を分岐・発生させる構成とされている。なお、図9において、符号911、912、913、914、915は偏光ビームスプリッタであり、符号921、922、923は1/2波長板であり、符号821、822、823は光路を折り曲げるミラーである。
【0091】
図9に示す調整手段は、以下のような光学的機能を有する。
すなわち、光源(ヘテロダインレーザー光源10)からの出射ビームは偏光面が直交する2つの直線偏光出射ビームであるため、偏光ビームスプリッタ911により、第1のビームf1と第2のビームf2に分離される。このとき、第1のビームf1はS偏光成分(図中◎印で表す)であり、第2のビームはP偏光成分(図中↑印で表す)である。
【0092】
ついで、第1のビームf1は、ミラー821で反射されて1/2波長板922を通過するが、該1/2波長板922を所定角度回転させて第1のビームf1の偏光方向をS偏光からずらすことにより、1/2波長板922通過後のビームf1にはP偏光成分も発生する。この状態で第1のビームf1が偏光ビームスプリッタ913に入射すると、S偏光成分とP偏光成分に分離される(S偏光成分(◎)は反射され、P偏光成分(↑)は透過する)。
【0093】
同様に、第2のビームf2は、1/2波長板921を通過するが、該1/2波長板921を所定角度回転させて第2のビームf2の偏光方向をP偏光からずらすことにより、1/2波長板921通過後のビームf2にはS偏光成分も発生する。この状態で第2のビームf2が偏光ビームスプリッタ912に入射すると、S偏光成分とP偏光成分に分離される(S偏光成分(◎)は反射され、P偏光成分(↑)は透過する)。
【0094】
つぎに、偏光ビームスプリッタ913で分離された第1のビームf1のS偏光成分(◎)と、偏光ビームスプリッタ912で分離された第2のビームf2のP偏光成分(↑)は、偏光ビームスプリッタ914で1本のビームとして合成され測定ビームB1となる。
【0095】
同様に、偏光ビームスプリッタ913で分離された第1のビームf1のP偏光成分(↑)と、偏光ビームスプリッタ912で分離された第2のビームf2のS偏光成分(◎)は、偏光ビームスプリッタ915で1本のビームとして合成され、1/2波長板923により偏光方向が90度回転されて参照ビームB2となる。
【0096】
このような調整手段において、測定ビームB1と参照ビームB2の光量比を、1/2波長板921,922の回転角度に応じて、0:1から1:0の間で連続的に変化させて調整することが可能である。
【0097】
このようにすることで、分光器80において、測定ビームB1と参照ビームB2を分岐させると同時に両者の光量比を連続的に変化させて調整することができるので、種々の測定対象(可動測定物50)に対して最適な測定ビーム光量とすることができ、測定のさらなる信頼性向上が可能となる。例えば、測定対象(可動測定物50)の反射率が小さい場合は、測定ビームB1の光量比率を大きくすることで光検出器35に到達する光量を増やし、測定ビームB1と参照ビームB2の光量比率が固定の場合(例えば1:1の場合)に比べ、測定の安定性や精度を向上させることが可能となる。これは、図4,図6に示す構成のように、可動測定物50の端面そのものを反射面(測定ミラー341,342)とした場合に特に有効である。
【0098】
次に、本発明に係るヘテロダインレーザー干渉測長器の第5の実施形態における構成について説明する。なお、第1〜第4の実施形態と同様の点についての説明は省略する。図10は、本発明に係るヘテロダインレーザー干渉測長器の第5の実施形態における構成を示すブロック図である。
【0099】
本実施形態は、図4のヘテロダインレーザー干渉測長器(第2の実施形態)と比較して、測定対象(可動測定物50)が回転ステージ等の円筒物体50aであって、測定ビームB11,B12を、それぞれ集光して円筒物体50aの周面(測定ミラー341,342に相当する面)に照射するレンズ431,432を備える点で異なり、それ以外の部分については図4の構成と同一である。
【0100】
円筒物体50aの回転振れ量測定にヘテロダインレーザー干渉測長器を用いる場合、測定する面は、例えば、ターンテーブル側面やスピンドル軸となり、回転する円筒物体50aに測定ビームB11,B12を照射することになる。
【0101】
円筒物体50aの側面は曲面になっているため、第2の実施形態(図4)や第4の実施形態(図6)で説明したように、測定ビームB11,B12をレンズ431,432で絞って照射するが、対象とする曲面の大きさによっては照射するビームスポットサイズを相当小さくする必要がある。なお、照射するビームスポットサイズは、被測定面の曲率半径との関係も考慮する必要があるが、例えば、直径100mmを下回る場合、おおよそ数〜数十ミクロン程度が必要である。
【0102】
このようなビームスポットサイズに対し、円筒物体50aの側面(曲面)がミラーなど、十分に研磨された平滑面(例えば、λ/10程度;λはレーザー波長で0.5〜1ミクロン程度)であれば問題ないが、円筒物体50aの側面が、例えば、金属切削面などで構成される場合は、ビームスポットサイズに対して切削痕が無視できない大きさとなる場合がある。例えば、図11(a)に示すように、切削痕(図11中、50bで示す)の深さがレーザー波長と同程度以上となると、照射される測定ビームB11,B12(図11中、50cで示す)が切削痕50bのどこに当たっているか、あるいは切削痕50bとの重なりに応じて測長データが変動するようになる。
【0103】
図11(b)に示すように、回転中の円筒物体50aの側面の変位測定を行う場合において、円筒物体50aが金属切削して製作されている場合、概ね図のY方向(円筒の断面円を含む平面)近傍に切削痕50bが残るが、切削痕50bは完全に平行に形成されるものではなく、また、蛇行したり部分的に消えたりする。また、円筒物体50aの回転にも振れがあるので、測定ビームB11,B12を固定しても回転中に測定ビーム測定ビームB11,B12は、切削痕50bの横断を繰り返すことになる。
【0104】
そのため、円筒物体50aの側面の切削痕50b横断により測長データ(測定ビーム干渉光B1kの干渉状態)が変動し、円筒側面の変位測定精度が低下してしまうという問題がある。
【0105】
本願発明者らが、アルミ切削して製作した直径120ミリのターンテーブルを1200rpmで回転させながらヘテロダインレーザー干渉測長器により変位測定した(約10ミクロンのビームスポットに絞り込んだ)ところ、想定される振れ量以外のドリフト成分が発生した。これは、円筒物体50aの切削痕50bに限らず、可動測定物50に傷が存在する場合や粗面の場合でも、大きさによっては同様の現象が起こり得る。
【0106】
また、上述のように、変位測定中に測定対象が移動すると、一般的には、測定ビームB11,B12のビームスポットの照射位置も移動するので、ビームスポットが切削痕や傷などを横断する。
【0107】
以上のように、測定対象の表面のミクロな凹凸の存在により、測長データが変動を受け、物体曲面の変位というマクロ的な量を計測しているのにも関わらず、変位測定精度が低下するという問題が生じる。なお、測定対象の曲面を研磨して鏡面化することができれば、上記問題を解決することはできるが、ミクロンレベルの曲面研磨は技術的に難易度が高く、形状、大きさ、材質、加工性、費用等の観点から難しい場合も多い。
【0108】
そこで、本実施形態では、図12(a)(b)に示すように、一方向(ここでは、Y方向)のみに収束作用を有するレンズ431,432を用いて測定ビームB11,B12を一方向のみに収束させるようにしている。なお、レンズ431,432としては、例えば、シリンドリカルレンズ等を用いることができる。
【0109】
レンズ431,432により、測定ビームB11,B12をY方向のみに収束させて、図12(c)に示すように、円筒物体50aの表面にスリット状(図12中、50cで示す)に集光されるよう照射する。
【0110】
ビームの収束方向は円筒物体50aの曲面方向(Y方向)と一致させるようにしている。曲面が切削製作された場合、Y方向に延びた切削痕50bがX方向に並ぶことになるが、レンズ431,432により、測定ビームB11,B12はX方向には集光されないので、被測定面のミクロな凹凸である切削痕50bや傷等と比べて十分な大きさ(通常数mm程度)を持たせることが可能となる。このため、被測定面の切削痕50bや傷等の影響を平均化して、変位データ精度に影響を与えないものとすることができる。また、測定ビームB11,B12は、Y方向には小さく絞られているため、円筒物体50aの表面からの反射光が得られ、曲面の変位測定を行うことができる。
【0111】
本実施形態のヘテロダインレーザー干渉測長器では、測定ビームB11,B12を一方向のみに収束させるレンズ(レンズ431,432)を用いて測定対象(円筒物体50a)に照射し、測定対象の表面にスリット状に集光されるよう照射している。そのため、一方向のみに曲面を有する測定対象であっても、測定ビームB11,B12の集束方向を測定対象の曲面方向と一致させることができ、かつ、照射されるビームスポットを測定対象の非曲面方向で長くとることができるため、測定対象の表面の微細な凹凸等の影響を平均化して、精度良く変位測定することが可能となる。
【0112】
以上説明したように、本実施形態のヘテロダインレーザー干渉測長器は、回転ステージ等の回転振れ量測定にも適用することができる。例えば、光ディスク、ハードディスクのパターン作製用の精密ターンテーブルに適用することで、デッドパスの影響を受けることなく高精度にターンテーブル回転振れを計測し、パターン作製用のレーザービーム位置に回転振れ量をフィードバックして、振れのないトラックパターンを作るなど精度を改善することが可能である。なお、ヘテロダインレーザー光源10から物理的に離れた平行な測定ビームと参照ビームが出射されるようにしているので、測定ビームと参照ビームを分岐させる光学系を設置することなく、本発明の第2の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0113】
以上のように、本発明のヘテロダインレーザー干渉測長器によれば、測定ビーム、参照ビームのビート信号に関する光量を減らすことなく、そのまま光検出器に到達させるため、測定対象の反射率の影響を受けることなく、測長結果からデッドパスの影響を排除し、高精度の測長結果を得ることができる。
【0114】
なお、これまで本発明を図面に示した実施形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0115】
10 ヘテロダインレーザー光源
20 ビームスプリッタ
21,35,37 光検出器
22 基準信号回路
30,911,912,913,914,915 偏光ビームスプリッタ
31,32 1/4波長板
33 基準ミラー
34,341,342 測定ミラー
36,38 測定信号回路
50 可動測定物
50a 円筒物体
50b 切削痕
50c ビームスポット
51,52,53,60,61 ミラー
70 演算回路
80 分岐器
82,821,822,823 ミラー
411,412 反射ミラー
421,422 レンズ
431,432 レンズ
811,812,813 無偏光ビームスプリッタ
921,922,923 1/2波長板
B1,B11,B12 測定ビーム
B1k 測定ビーム干渉光
B2,B21,B22 参照ビーム
B2k 参照ビーム干渉光
DP1,DP2,MP1,MP2 距離
f1 第1のビーム
f2 第2のビーム
LP1,LP2 測定光路
P1,P2 点
【先行技術文献】
【特許文献】
【0116】
【特許文献1】特開平06−058711号公報
【特許文献2】特開平09−287917号公報
【特許文献3】特開2003−287403号公報
【特許文献4】特開平11−257915号公報
【特許文献5】特開2007−327819号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物の変位を測定するヘテロダインレーザー干渉測長器であって、
仮想直線上にお互いの反射面を反対方向に向けて前記被測定物に固定される2つの測定ミラーと、
異なる周波数で偏光面が直交する2つの直線偏光レーザービームを物理的に1本のレーザービームとして出射するヘテロダインレーザー光源と、
前記ヘテロダインレーザー光源からのレーザービームを分岐させて測定ビームと参照ビームからなる2本の物理的に離れた平行なレーザービームを生成する分岐器と、
前記分岐器からの測定ビーム及び参照ビームを2方向に分割する偏光ビームスプリッタと、
前記2方向に分割された測定ビーム及び参照ビームのうち、一方向の測定ビーム及び参照ビームを前記仮想直線に沿って前記2つの測定ミラーの一方の測定ミラー側へ導き、他方向の測定ビーム及び参照ビームを前記仮想直線に沿って他方の測定ミラー側へ導く2つの測定光路と、
前記2つの測定光路それぞれの光路中に設けられる2つの1/4波長板と、
前記2つの測定光路ごとに前記1/4波長板と前記測定ミラーの間に配置され、前記参照ビームを反射する2つの反射ミラーと、
前記2つの測定ミラーで反射されたそれぞれの前記測定ビームを前記偏光ビームスプリッタで干渉させた測定ビーム干渉光の強度を電気的に検出する測定ビーム光検出器と、
前記測定ビーム光検出器の出力からビート信号を生成する測定ビーム測定回路と、
前記2つの反射ミラーで反射されたそれぞれの前記参照ビームを前記偏光ビームスプリッタで干渉させた参照ビーム干渉光の強度を電気的に検出する参照ビーム光検出器と、
前記参照ビーム光検出器の出力からビート信号を生成する参照ビーム測定回路と、
前記測定ビーム測定回路で生成されるビート信号と前記参照ビーム測定回路で生成されるビート信号の差分に対応する変位の算出を行う演算回路と、
を備え、
前記分岐器は、前記測定ビームと参照ビームの光量比を連続的に変化させて調整する調整手段を有することを特徴とするヘテロダインレーザー干渉測長器。
【請求項2】
前記調整手段は、入射するレーザービームを第1のビームと第2のビームに偏光分離する第1の偏光ビームスプリッタと、前記第1のビーム、前記第2のビームそれぞれの偏光方向を調整する2つの1/2波長板と、前記偏光方向が調整された第1のビームをS偏光成分とP偏光成分に分離する第2の偏光ビームスプリッタと、前記偏光方向が調整された第2のビームをS偏光成分とP偏光成分に分離する第3の偏光ビームスプリッタと、前記第1のビームのS偏光成分と前記第2のビームのP偏光成分を合成して前記測定ビームまたは参照ビームとする第4の偏光ビームスプリッタと、前記第1のビームのP偏光成分と前記第2のビームのS偏光成分を合成して1本のビームとする第5の偏光ビームスプリッタと、前記第5の偏光ビームスプリッタからの1本のビームの偏光方向を90度回転させて前記参照ビームまたは測定ビームとする1/2波長板と、を有することを特徴とする請求項1に記載のヘテロダインレーザー干渉測長器。
【請求項3】
前記2つの測定光路ごとに前記反射ミラーと前記測定ミラーの間に配置され、前記測定ビームを該測定ミラーの反射面に集光させる2つのレンズを備えることを特徴とする請求項1または2に記載のヘテロダインレーザー干渉測長器。
【請求項4】
被測定物の変位を測定するヘテロダインレーザー干渉測長器であって、
仮想直線上にお互いの反射面を反対方向に向けて前記被測定物に固定される2つの測定ミラーと、
異なる周波数で偏光面が直交する2つの直線偏光レーザービームを含むレーザービームを発生し、該レーザービームを分岐させて測定ビームと参照ビームからなる2本の物理的に離れた平行なレーザービームとして出射するヘテロダインレーザー光源と、
前記ヘテロダインレーザー光源からの測定ビーム及び参照ビームを2方向に分割する偏光ビームスプリッタと、
前記2方向に分割された測定ビーム及び参照ビームのうち、一方向の測定ビーム及び参照ビームを前記仮想直線に沿って前記2つの測定ミラーの一方の測定ミラー側へ導き、他方向の測定ビーム及び参照ビームを前記仮想直線に沿って他方の測定ミラー側へ導く2つの測定光路と、
前記2つの測定光路それぞれの光路中に設けられる2つの1/4波長板と、
前記2つの測定光路ごとに前記1/4波長板と前記測定ミラーの間に配置され、前記参照ビームを反射する2つの反射ミラーと、
前記2つの測定ミラーで反射されたそれぞれの前記測定ビームを前記偏光ビームスプリッタで干渉させた測定ビーム干渉光の強度を電気的に検出する測定ビーム光検出器と、
前記測定ビーム光検出器の出力からビート信号を生成する測定ビーム測定回路と、
前記2つの反射ミラーで反射されたそれぞれの前記参照ビームを前記偏光ビームスプリッタで干渉させた参照ビーム干渉光の強度を電気的に検出する参照ビーム光検出器と、
前記参照ビーム光検出器の出力からビート信号を生成する参照ビーム測定回路と、
前記測定ビーム測定回路で生成されるビート信号と前記参照ビーム測定回路で生成されるビート信号の差分に対応する変位の算出を行う演算回路と、
を備え、
前記ヘテロダインレーザー光源は、前記測定ビームと参照ビームの光量比を連続的に変化させて調整する調整手段を有することを特徴とするヘテロダインレーザー干渉測長器。
【請求項5】
前記調整手段は、入射するレーザービームを第1のビームと第2のビームに偏光分離する第1の偏光ビームスプリッタと、前記第1のビーム、前記第2のビームそれぞれの偏光方向を調整する2つの1/2波長板と、前記偏光方向が調整された第1のビームをS偏光成分とP偏光成分に分離する第2の偏光ビームスプリッタと、前記偏光方向が調整された第2のビームをS偏光成分とP偏光成分に分離する第3の偏光ビームスプリッタと、前記第1のビームのS偏光成分と前記第2のビームのP偏光成分を合成して前記測定ビームまたは参照ビームとする第4の偏光ビームスプリッタと、前記第1のビームのP偏光成分と前記第2のビームのS偏光成分を合成して1本のビームとする第5の偏光ビームスプリッタと、前記第5の偏光ビームスプリッタからの1本のビームの偏光方向を90度回転させて前記参照ビームまたは測定ビームとする1/2波長板と、を有することを特徴とする請求項4に記載のヘテロダインレーザー干渉測長器。
【請求項6】
前記2つの測定光路ごとに前記反射ミラーと前記測定ミラーの間に配置され、前記測定ビームを該測定ミラーの反射面に集光させる2つのレンズを備えることを特徴とする請求項4または5に記載のヘテロダインレーザー干渉測長器。
【請求項7】
前記測定ミラーは、前記被測定物の端面を反射面としたものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のヘテロダインレーザー干渉測長器。
【請求項8】
被測定物の変位を測定するヘテロダインレーザー干渉測長器であって、
異なる周波数で偏光面が直交する2つの直線偏光レーザービームを物理的に1本のレーザービームとして出射するヘテロダインレーザー光源と、
前記ヘテロダインレーザー光源からのレーザービームを分岐させて測定ビームと参照ビームからなる2本の物理的に離れた平行なレーザービームを生成する分岐器と、
前記分岐器からの測定ビーム及び参照ビームを2方向に分割する偏光ビームスプリッタと、
前記2方向に分割された測定ビーム及び参照ビームのうち、一方向の測定ビーム及び参照ビームを前記被測定物の一方側へ導き、他方向の測定ビーム及び参照ビームを正対する前記被測定物の他方側へ導く2つの測定光路と、
前記2つの測定光路それぞれの光路中に設けられる2つの1/4波長板と、
前記2つの測定光路ごとに前記1/4波長板と前記被測定物の間に配置され、前記参照ビームを反射する2つの反射ミラーと、
前記被測定物の双方側で反射されたそれぞれの前記測定ビームを前記偏光ビームスプリッタで干渉させた測定ビーム干渉光の強度を電気的に検出する測定ビーム光検出器と、
前記測定ビーム光検出器の出力からビート信号を生成する測定ビーム測定回路と、
前記2つの反射ミラーで反射されたそれぞれの前記参照ビームを前記偏光ビームスプリッタで干渉させた参照ビーム干渉光の強度を電気的に検出する参照ビーム光検出器と、
前記参照ビーム光検出器の出力からビート信号を生成する参照ビーム測定回路と、
前記測定ビーム測定回路で生成されるビート信号と前記参照ビーム測定回路で生成されるビート信号の差分に対応する変位の算出を行う演算回路と、
を備え、
前記分岐器は、前記測定ビームと参照ビームの光量比を連続的に変化させて調整する調整手段を有することを特徴とするヘテロダインレーザー干渉測長器。
【請求項9】
前記2つの測定光路ごとに前記反射ミラーと前記被測定物の間に配置され、前記測定ビームを1方向に集光して前記被測定物に照射させる2つのレンズを備えることを特徴とする請求項8に記載のヘテロダインレーザー干渉測長器。
【請求項10】
前記偏光ビームスプリッタは、前記2つの1/4波長板を一体化して備えることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のヘテロダインレーザー干渉測長器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2013−33018(P2013−33018A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−265478(P2011−265478)
【出願日】平成23年12月5日(2011.12.5)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】