説明

マイクロチップ、及びマイクロチップを用いた検査システム

【課題】測定ノイズを低減し、精度の高い検査結果を得ることができるマイクロチップ、及び小型、低コストのマイクロチップを用いた検査システムを提供すること。
【解決手段】第1の流体が流れる第1の流路と、第2の流体が流れる第2の流路と、前記第1の流路と前記第2の流路が合流する合流流路と、が少なくとも形成された基材と、該基材の流路を被覆する蓋材と、を有するマイクロチップにおいて、前記合流流路を流れる流体の混合又は反応状態を検出するために光が照射される前記蓋材の被検出部の分光透過率が、照射光の発光スペクトル及び前記流体における混合状態又は反応状態を特徴付ける吸収スペクトルのうちの少なくとも1つのスペクトルに対して特定の関係となる波長選択性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップ、及びマイクロチップを用いた検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロマシン技術および超微細加工技術を駆使することにより、化学分析、化学合成などを行うための装置、手段(例えばポンプ、バルブ、流路、センサなど)を微細化して1チップ上に集積化したシステムが開発されている。これはμ−TAS(Micro total Analysis System:マイクロ総合分析システム)とも呼ばれ、マイクロチップといわれる部材に、試薬液と検体液(たとえば、検査を受ける被験者の尿、唾液、血液、DNA処理した抽出溶液など)を合流させ、その反応を検出することにより検体の特性を調べる方法である。
【0003】
マイクロチップは、樹脂材料やガラス材料からなる基体に、射出成型やフォトリソプロセス(パターン像を薬品によってエッチングして溝を作成する方法)や、レーザ光を利用して溝加工を行い、検体液や試薬液を流すことができる微細な流路と試薬を蓄える液溜部を設けており、さまざまなパターンが提案されている。
【0004】
さらにこのμーTASは、医療検査、診断分野、環境測定分野、農産製造分野でその応用が期待されている。現実には遺伝子検査に見られるように、煩雑な工程、熟練した手技、機器類の操作が必要とされる場合には、自動化、高速化および簡便化されたマイクロ総合分析システムによって、コスト、必要試量、所要時間のみならず、時間および場所を選ばない分析が可能となり、その恩恵は多大と言える。
【0005】
そして各種の分析、検査ではこれらのマイクロチップにおける反応検出の精度、信頼性などが重要視される。
【0006】
特に、試薬の混合や化学反応結果を検査する手段として、例えば、試薬の反応による試片の部分的な変色を光学的に精度良く測定するため、吸光光度計を用いて測定する反応検出装置が提案され、特許文献1には検体流路と試薬流路とが合流し、合流流路近傍に検体と試薬との反応を検出できるようにする反応被検出部を設け、さらに検体を検出できる参照反応被検出部を設けることが提案されている。これは試薬との反応検査以外に、例えばノイズ成分の検出や検体の特性の検出などを行い、参照被検出部からの検出結果に基づき、反応被検出部からの検出結果について反応被検出部でのノイズ成分を除去する補正をしたり、検体の特性に応じて試薬との混合を制御する等して、検査の精度を向上することができるとしている。
【0007】
また、特許文献2では、検体に光を当てその蛍光を検出するときに、マイクロチップ基板から発する蛍光ノイズ光を除去する手段が記載されている。すなわち、基板に用いられているプラスチックが受ける励起光の侵入を阻止し、励起光により発する蛍光を検出器に届かないように材料を改質し成形されたプラスチックから構成されるマイクロチップ用プラスチック基板について記載されている。
【0008】
特許文献3は、特定の紫外線領域波長の光源に対して、優れた光透過性を示す、1,3−シクロヘキサジエン(CHD)またはCHD誘導体からなる単独重合体及びこれらと共重合可能な他の単量体との共重合による重合体を水素添加した重合体で射出成形等の加工方法を用いて樹脂製マイクロチップを作成することにより、紫外線波長領域である230〜400nmにおける光線透過性に優れた光学分析用マイクロチップを提供することが記載されている。
【0009】
特許文献4では、一対の石英ガラス基板と、これらの石英ガラス基板間にアルカリイオン含有ガラス層を挟み、石英ガラス基板間の接着部材として機能させつつ、実用可能な紫外から可視の波長域の光の透過性を向上させる微小流路素子を提供することが記載されている。
【特許文献1】特開2003−4752号公報
【特許文献2】特開2003−130874号公報
【特許文献3】特開2000−39420号公報
【特許文献4】特開2001−349826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、高精度な検査を行うためには、光検出時のノイズの影響が無視できないが、上記特許文献においては基体の材料を透過性の良い部材にする提案や、蛍光として発するノイズ光を除去する手段が記載されているが、微小な濃度差などを検査結果として測定する際には様々な工夫を施す必要がある。
【0011】
例えば、ノイズとなる微弱なバックグラウンド光も除去する必要があり、検出信号を高めるために光源と測定対象(例えば呈色反応結果)との波長のマッチングを高める必要などが生じる。そのため、従来では強固な遮光、光源と受光にチョッパーを掛ける、ノイズに埋もれた検出信号を抽出するための高度な信号処理、などの多大な工夫を設けて測定する事が多く、装置のサイズやコストに制約が生じる事が多い。
【0012】
また、診断システムで用いる診断チップが複数種あり、その試薬の種類や反応が異なる場合は、光検出に感度の良い(ローノイズ・高感度)波長を選択する必要があるが、それぞれ適した分光感度にマッチさせるように装置側に光学フィルターなどを多数種準備し切り替え機構を設ける等が生じるが、装置のサイズが大きくなり、また製造コストが上がるなどのデメリットが生じる。
【0013】
更に、例えば干渉フィルターなどの光学フィルターは、一般的に吸湿による特性変化(分光特性の変化)を生じやすく、長期的に特性を維持するには、装置の防湿対策などを十分に行う必要がある。また、フィルターへのゴミや汚れ・曇り付着が生じると誤差を生じるため、メンテナンスへも留意が必要である。
【0014】
本発明の目的は、測定ノイズを低減し、精度の高い検査結果を得ることができるマイクロチップ、及び小型、低コストのマイクロチップを用いた検査システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題は以下の構成により解決できる。
1.第1の流体が流れる第1の流路と、第2の流体が流れる第2の流路と、前記第1の流路と前記第2の流路が合流する合流流路と、が少なくとも形成された基材と、
該基材の流路を被覆する蓋材と、
を有するマイクロチップにおいて、
前記合流流路を流れる流体の混合又は反応状態を検出するために光が照射される前記蓋材の被検出部の分光透過率が、照射光の発光スペクトル及び前記流体における混合状態又は反応状態を特徴付ける吸収スペクトルのうちの少なくとも1つのスペクトルに対して特定の関係となる波長選択性を有することを特徴とするマイクロチップ。
2.前記分光透過率の半値巾(λ1±Δλ1)は、前記発光スペクトルの半値巾(λ2±Δλ2)に対して
(λ2±Δλ2)≦(λ1±Δλ1)≦3×(λ2±Δλ2)
であることを特徴とする1に記載のマイクロチップ。
なお(λ±Δλ)で示す式は、ピーク波長λの半値巾で囲まれた波長範囲を示す。
3.前記分光透過率の半値巾(λ1±Δλ1)は、前記吸収スペクトルの半値巾(λ3±Δλ3)に対して
(λ3±Δλ3)≦(λ1±Δλ1)≦3×(λ3±Δλ3)
であることを特徴とする1に記載のマイクロチップ。
なお(λ±Δλ)で示す式は、ピーク波長λの半値巾で囲まれた波長範囲を示す。
4.前記分光透過率の半値巾(λ1±Δλ1)は、可視光域内に存在することを特徴とする2又は3に記載のマイクロチップ。
5.前記分光透過率の半値巾(λ1±Δλ1)の範囲内の分光透過率の絶対値は、50%以上であることを特徴とする2乃至4の何れかに記載のマイクロチップ。
6.前記発光スペクトルの半値巾(λ2±Δλ2)の4倍、又は前記吸収スペクトルの半値巾(λ3±Δλ3)の4倍よりも外側にある領域の前記分光透過率は、内側の領域の最大分光透過率に対して1/10以下であることを特徴とする2乃至5の何れかに記載のマイクロチップ。
7.前記蓋材の被検出部は、前記波長選択性を有する素材、前記波長選択性を有する材料の塗工、又は前記波長選択性を有する材料の含有により構成されることを特徴とする1乃至6に記載のマイクロチップ。
8.前記照射光が照射される面と反対の面は、高反射性を有することを特徴とする1乃至7に記載のマイクロチップ。
9.1乃至8に記載のマイクロチップと、
前記マイクロチップが収容可能なマイクロチップ収容部と、
前記マイクロチップ収容部に収容される前記マイクロチップの被検出部に光を照射する光源と、
前記マイクロチップ収容部に収容される前記マイクロチップの被検出部からの光を受光する受光部と、
を有することを特徴とするマイクロチップを用いた検査システム。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、検査装置側ではなくマイクロチップ側に波長選択性の機能をもたせているので、小型、低コストの装置を実現できるとともに、測定ノイズを低減し精度の高い検査結果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本実施形態では、一例として、特定DNAの反応を検出するDNAチップのように、検体と試薬とをマイクロチップ上で反応させる場合について示すが、これに限られず、少なくとも2種類の流体をマイクロチップ上で混合させる場合に適用することができる。
〈装置構成〉
図1は、本実施形態に係るマイクロチップを用いる検査装置80の外観図である。検査装置80は、マイクロチップ1に予め注入された検体と試薬とを自動的に反応させ、反応結果を自動的に出力する装置である。
【0018】
検査装置80の筐体82には、マイクロチップ1を装置内部に挿入するための挿入口83、表示部84、メモリカードスロット85、プリント出力口86、操作パネル87、外部入出力端子88が設けられている。
【0019】
検査担当者は、図1の矢印方向にマイクロチップ1を挿入し、操作パネル87を操作して検査を開始させる。検査装置80の内部では、マイクロチップ1内の反応の検査が自動的に行われ、検査が終了すると表示部84に結果が表示される。検査結果は操作パネル87の操作により、プリント出力口86よりプリントを出力したり、メモリカードスロット85に挿入されたメモリカードに記憶することができる。また、外部入出力端子88から例えばLANケーブルを使って、パソコンなどにデータを保存することができる。検査終了後、検査担当者はマイクロチップ1を挿入口83から取り出す。
【0020】
図2は、本実施形態に係るマイクロチップを用いる検査装置80の構成図である。図2においては、マイクロチップが図1に示す挿入口83から挿入され、セットが完了している状態を示している。
【0021】
検査装置80は、マイクロチップ1に予め注入された検体及び試薬を送液するための駆動液11を貯留する駆動液タンク10、マイクロチップ1に駆動液11を供給するためのポンプ5、ポンプ5とマイクロチップ1とを駆動液11が漏れないように接続するパッキン6、マイクロチップ1の必要部分を温調する温度調節ユニット3、マイクロチップ1をずれないようにパッキン6に密着させるためのチップ押圧板2、チップ押圧板2を昇降させるための押圧板駆動部32、マイクロチップ1をポンプ5に対して精度良く位置決めする規制部材31、マイクロチップ1内の検体と試薬との反応状態等を検出する光検出部4を備えている。
【0022】
チップ押圧板2は、初期状態においては、図2に示す位置より上方に退避している。これにより、マイクロチップ1は矢印X方向に挿抜可能であり、検査担当者は挿入口83(図1参照)から規制部材31に当接するまでマイクロチップ1を挿入する。その後、チップ押圧板2は、押圧板駆動部32により下降してマイクロチップ1に当接し、マイクロチップ1の下面が温度調節ユニット3及びパッキン6に密着される。
【0023】
温度調節ユニット3は、マイクロチップ1の必要部分を温調するもので、試薬が収容されている部分を冷却して試薬が変性しないようにしたり、検体と試薬とが反応する部分を加熱して反応を促進させたりする。
【0024】
光検出部4は、発光部4a及び受光部4bから構成され、発光部4aからの光をマイクロチップ1に照射し、マイクロチップ1を透過した光を受光部4bにより検出する。受光部4bはチップ押圧板2の内部に一体的に設けられている。発光部4a及び受光部4bは、後述のマイクロチップ1の被検出部111a〜111dのそれぞれに対向するように複数設けられている。
【0025】
ポンプ5は、ポンプ室52、ポンプ室52の容積を変化させる圧電素子51、ポンプ室52のマイクロチップ1側に位置する第1絞り流路53、ポンプ室の駆動液タンク10側に位置する第2絞り流路54、等から構成されている。第1絞り流路53及び第2絞り流路54は絞られた狭い流路となっており、また、第1絞り流路53は第2絞り流路54よりも長い流路となっている。
【0026】
駆動液11を順方向(マイクロチップ1に向かう方向)に送液する場合には、まず、ポンプ室52の容積を急激に減少させるように圧電素子51を駆動する。そうすると、短い絞り流路である第2絞り流路54において乱流が発生し、第2絞り流路54における流路抵抗が長い絞り流路である第1絞り流路53に比べて相対的に大きくなる。これにより、ポンプ室52内の駆動液11は、第1絞り流路53の方に支配的に押し出され送液される。次に、ポンプ室52の容積を緩やかに増加させるように圧電素子51を駆動する。そうすると、ポンプ室52内の容積増加に伴って駆動液11が第1絞り流路53及び第2絞り流路54から流れ込む。このとき、第2絞り流路54の方が第1絞り流路53と比べて長さが短いので、第2絞り流路54の方が第1絞り流路53と比べて流路抵抗が小さくなり、ポンプ室52内には第2絞り流路54の方から支配的に駆動液11が流入する。以上の動作を圧電素子51が繰り返すことにより、駆動液11が順方向に送液されることになる。
【0027】
一方、駆動液11を逆方向(駆動液タンク10に向かう方向)に送液する場合には、まず、ポンプ室52の容積を緩やかに減少させるように圧電素子51を駆動する。そうすると、第2絞り流路54の方が第1絞り流路53と比べて長さが短いので、第2絞り流路54の方が第1絞り流路53と比べて流路抵抗が小さくなる。これにより、ポンプ室52内の駆動液11は、第2絞り流路54の方に支配的に押し出され送液される。次に、ポンプ室52の容積を急激に増加させるように圧電素子51を駆動する。そうすると、ポンプ室52内の容積増加に伴って駆動液11が第1絞り流路53及び第2絞り流路54から流れ込む。このとき、短い絞り流路である第2絞り流路54において乱流が発生し、第2絞り流路54における流路抵抗が長い絞り流路である第1絞り流路53に比べて相対的に大きくなる。これにより、ポンプ室52内には第1絞り流路53の方から支配的に駆動液11が流入する。以上の動作を圧電素子51が繰り返すことにより、駆動液11が逆方向に送液されることになる。
〈マイクロチップの構成〉
図3は、本実施形態に係るマイクロチップ1の構成図である。一例の構成を示すものであり、これに限定されない。
【0028】
図3(a)において矢印は、検査装置80にマイクロチップ1を挿入する挿入方向であり、図3(a)は挿入時にマイクロチップ1の下面となる面を図示している。図3(b)はマイクロチップ1の側面図である。
【0029】
図3(b)に示すように、マイクロチップ1は溝形成基板108と、溝形成基板108を覆う被覆基板109から構成されている。
【0030】
本実施形態に係るマイクロチップ1には、検体と試薬とをマイクロチップ1上で混合・反応させるための微細流路及び流路エレメントが配設されている。これらの微細流路および流路エレメントによってマイクロチップ1内で行われる処理の一例を図3(c)を用いて説明する。図3(c)は、図3(a)において被覆基板109が取り外された状態で流路エレメントとその接合状態を模式的に示している。
【0031】
微細流路には、検体液を収容する検体収容部121、試薬を収容する試薬収容部120、ポジティブコントロール用の試薬を収容するポジティブコントロール収容部122、ネガティブコントロール用の試薬を収容するネガティブコントロール収容部123等が設けられている。試薬、ポジティブコントロール及びネガティブコントロールは、予め各収容部に収容されている。ポジティブコントロールは試薬と反応して陽性を示すもので、ネガティブコントロールは試薬と反応して陰性を示すものであり、正確な検査が実施されたか否かを確認するためのものである。
【0032】
なお、図3(c)は、説明を簡単にするため模式的に示しており、実際は、複数の試薬や希釈用溶液などをチップに収容し、チップ内での試薬の調合などを行わせてもよい。
【0033】
検体注入部113はマイクロチップ1に検体を注入するための注入部であり、駆動液注入部110a〜110dはマイクロチップ1に駆動液11を注入するための注入部である。
【0034】
まず、マイクロチップ1による検査を行うに先立って、検査担当者は検体を検体注入部113から注射器等を用いて注入する。図3(c)に示すように、検体注入部113から注入された検体は、連通する微細流路を通って検体収容部121に収容される。
【0035】
次に、検体の注入されたマイクロチップ1は、検査担当者により図1に示す検査装置80の挿入口83に挿入され、図2に示すようにセットされる。
【0036】
次に、図2に示すポンプ5が制御部(不図示)から指令される所定の手順に従い順方向に駆動され駆動液注入部110a〜110dから駆動液11が注入される。駆動液注入部110aから注入された駆動液11は、連通する微細流路を通って検体収容部121に収容されている検体を押し出し、反応部124に検体を送り込む。駆動液注入部110bから注入された駆動液11は、連通する微細流路を通ってポジティブコントロール収容部122に収容されているポジティブコントロール用の試薬を押し出し、反応部125にポジティブコントロールを送り込む。駆動液注入部110cから注入された駆動液11は、連通する微細流路を通ってネガティブコントロール収容部123に収容されているネガティブコントロール用の試薬を押し出し、反応部126にネガティブコントロールを送り込む。駆動液注入部110dから注入された駆動液11は、連通する微細流路を通って試薬収容部120に収容されている試薬を押し出し、上記の反応部124〜126に試薬を送り込む。
【0037】
このようにして、反応部124では検体と試薬とが合流し、反応部125ではポジティブコントロールと試薬とが合流し、反応部126ではネガティブコントロールと試薬とが合流する。
【0038】
その後、反応部124で合流した検体と試薬との混合液の一部は、被検出部111aに送液される。反応部124で合流した検体と試薬との混合液の一部並びに反応部125で合流したポジティブコントロールと試薬との混合液の一部は、被検出部111bに送液される。反応部125で合流したポジティブコントロールと試薬との混合液の一部は、被検出部111cに送液される。反応部126で合流したネガティブコントロールと試薬との混合液は、被検出部111dに送液される。
〈被検出部〉
本発明のマイクロチップ1における被検出部111の分光透過率について説明する。マイクロチップ1の被検出部111では、検体と前記マイクロチップ1内に貯蔵された試薬が反応して、例えば呈色、励起光による蛍光、混濁などをおこす。本実施形態では試薬の反応結果を光学的に検出する。試薬の反応結果を測光するマイクロチップ1の被検出部111の溝形成基板108と被覆基板109は、光透過性の材料になっていて、試薬と検体の反応結果は、マイクロチップ1の被検出部111を透過又は反射する光を測光または測色することで解析することができる。
【0039】
ここで図4(a)は、発光部4aからの光が被検出部111を通過して受光部4bにて光量を測定することにより検出を行う透過型の例を示す。被覆基板109は、ポリプロピレン等の光透過性を有する樹脂材料からなり、被覆基板109の表面には、分光透過率が、発光部4aの発光スペクトル及び目的とする対象が存在したときの試薬反応の吸収スペクトルのうちの少なくとも1つのスペクトルに対して特定の関係となる波長選択性を有する材料が塗工されている。溝形成基板108はポリプロピレン等の光透過性を有する樹脂材料からなっている。光検出部4の発光部4aから発光された光は、マイクロチップの被検出部111に存在する反応液を透過して受光部4bに受光される。このとき目的の検体対象が存在したとき、例えば金コロイドなどにより標的されたプローブが吸着され呈色するようにしておく。この呈色反応を反応前後の透過光量差(すなわち光学濃度差)などで測定し検査する。
【0040】
図4(b)は光源からの光が被検出部111にあたり反射してきた光を受光部にて光の量を測定することにより検出を行う反射型の例を示す。この場合反射光を受光するとき被覆基板109を2回通過することになり反射光量が減少するので、図4(c)に示すように、溝形成基板108の被検出部111の裏面側に高反射率の加工、例えば、アルミ蒸着処理や白色塗装を施すことにより反射光量を増しS/Nを向上すことができる。
【0041】
次に発光部4aが緑色帯LEDの場合の発光スペクトルの一例を図5(a)に示し、被覆基板109の分光透過率を図5(b)に示す。分光透過率の半値巾を(λ1±Δλ1)、発光スペクトルの半値巾を(λ2±Δλ2)と定義すると、
(λ1±Δλ1)≧(λ2±Δλ2)
となる。分光透過率の半値巾(λ1±Δλ1)の範囲内に発光スペクトルの半値巾(λ2±Δλ2)が含まれる。
【0042】
このとき分光透過率の半値巾の範囲内では分光透過率の絶対値を50%以上にすることにより、チップ素材自体の光吸収に伴う信号低減を抑制しS/N比を向上させている。なお(λ1±Δλ1)、(λ2±Δλ2)はピークに対して半値巾の広がりをもつ領域を示しており、数学的に厳密な式を示すものではない。
【0043】
また、試薬に金コロイドを使った試薬反応の吸収スペクトルを図6(a)に示し、分光透過率の半値巾を図6(b)に示す。吸収スペクトルの半値巾を(λ3±Δλ3)とすると、
(λ1±Δλ1)≧(λ3±Δλ3)
となる。分光透過率の半値巾(λ1±Δλ1)の範囲内に吸収スペクトルの半値巾(λ3±Δλ3)が含まれる。
【0044】
しかしながら、分光透過率の半値巾を必要以上に広くする必要はなく、具体的には発光スペクトルのときは、
(λ2±Δλ2)≦(λ1±Δλ1)≦3(λ2±Δλ2)
吸収スペクトルのときは、
(λ3±Δλ3)≦(λ1±Δλ1)≦3(λ3±Δλ3)
というように、分光透過率の半値巾(λ1±Δλ1)は、発光スペクトルの半値巾(λ2±Δλ2)、吸収スペクトルの半値巾(λ3±Δλ3)の3倍以下にすることが望ましい。
【0045】
さらに図7に示すように、外乱となる光成分のノイズをほぼ無視できるまで除去するために、分光透過率が、発光スペクトル(図7(a))の半値巾の多くても4倍、又は吸収スペクトルの半値巾の多くても4倍よりも外側にある領域(図7(b))では、内側にある領域の最大分光透過率に対して1/10以下になるようにスペクトルをカットオフさせている。
【0046】
なおこれらの波長域をすべて可視光域で計測できるようにすることによって、装置による自動検知の他に、目視色判別などで反応結果を再確認できる。
【0047】
またマイクロチップを溝形成基板108と被覆基板109との2ピース以上の構造とし、マイクロチップの製造時に被覆基板109に波長選択性を有する素材を塗布したり、あるいは含有させて光学特性を変えることにより、微妙な特性差を補償することが可能となり、精度の高いマイクロチップを提供できる。
【0048】
さらに、溝構成基板は、表裏両面に溝を形成し、表裏面に被覆基板を設けても良い。この時、図4(c)に示したAl蒸着は、裏面の被覆基板に設けることもできる。
【0049】
さらに、図4(a)や(b)における溝構成基板の裏面に塗工等により波長選択性をもたせ、光源の照射を図の裏面側から行っても良いことは明らかであるが、加工性が良く、平面生を保ち易い被覆基板に波長選択性をもたせる方がより好ましい。
【0050】
さらに被覆基板109は、波長選択性をもたせる材質、加工を行うとともに、水分、酸素などを遮蔽するガスバリア性能を持たせた材質や表面処理をおこなうことにより、マイクロチップ保管中にチップ内の試薬が蒸発することを防止し、チップ外部から水分や酸素などがチップ中の試薬に及ぼす劣化や変質が防止できる。
【0051】
以上のように、本実施形態によれば、検査装置側ではなくマイクロチップ側に波長選択性の機能をもたせているので、小型、低コストの装置を実現できるとともに、測定ノイズを低減し精度の高い検査結果を得ることができる。
【0052】
さらに、マイクロチップの分光透過率の半値巾を、光源スペクトルの半値巾や光吸収スペクトルの半値巾よりも広くすることにより、マイクロチップの基材や蓋材による、検出光のロスを少なく抑えることができ、信号分を有効に利用することが可能となりS/N比が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施形態における反応検出装置80の外観図である。
【図2】本実施形態に係るマイクロチップを用いる検査装置の構成図である。
【図3】本実施形態に係るマイクロチップの構成図である。
【図4】図4(a)は透過型の例、図4(b)は反射型の例を示す図である。
【図5】発光スペクトルと分光透過率の半値巾を示す図である。
【図6】試薬反応の吸収スペクトルと、分光透過率の半値巾との関係を示す図である。
【図7】分光透過率の半値巾の領域外では、スペクトルを1/10にカットオフさせた図である。
【符号の説明】
【0054】
1 マイクロチップ
4 光検出部
80 検査装置
108 溝形成基板
109 被覆基板
111 被検出部
120 試薬収容部
121 検体収容部
122 ポジティブコントロール収容部
123 ネガティブコントロール収容部
124、125、126 反応部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の流体が流れる第1の流路と、第2の流体が流れる第2の流路と、前記第1の流路と前記第2の流路が合流する合流流路と、が少なくとも形成された基材と、
該基材の流路を被覆する蓋材と、
を有するマイクロチップにおいて、
前記合流流路を流れる流体の混合又は反応状態を検出するために光が照射される前記蓋材の被検出部の分光透過率が、照射光の発光スペクトル及び前記流体における混合状態又は反応状態を特徴付ける吸収スペクトルのうちの少なくとも1つのスペクトルに対して特定の関係となる波長選択性を有することを特徴とするマイクロチップ。
【請求項2】
前記分光透過率の半値巾(λ1±Δλ1)は、前記発光スペクトルの半値巾(λ2±Δλ2)に対して
(λ2±Δλ2)≦(λ1±Δλ1)≦3×(λ2±Δλ2)
であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロチップ。
なお(λ±Δλ)で示す式は、ピーク波長λの半値巾で囲まれた波長範囲を示す。
【請求項3】
前記分光透過率の半値巾(λ1±Δλ1)は、前記吸収スペクトルの半値巾(λ3±Δλ3)に対して
(λ3±Δλ3)≦(λ1±Δλ1)≦3×(λ3±Δλ3)
であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロチップ。
なお(λ±Δλ)で示す式は、ピーク波長λの半値巾で囲まれた波長範囲を示す。
【請求項4】
前記分光透過率の半値巾(λ1±Δλ1)は、可視光域内に存在することを特徴とする請求項2又は3に記載のマイクロチップ。
【請求項5】
前記分光透過率の半値巾(λ1±Δλ1)の範囲内の分光透過率の絶対値は、50%以上であることを特徴とする請求項2乃至4の何れか1項に記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記発光スペクトルの半値巾(λ2±Δλ2)の4倍、又は前記吸収スペクトルの半値巾(λ3±Δλ3)の4倍よりも外側にある領域の前記分光透過率は、内側の領域の最大分光透過率に対して1/10以下であることを特徴とする請求項2乃至5の何れか1項に記載のマイクロチップ。
【請求項7】
前記蓋材の被検出部は、前記波長選択性を有する素材、前記波長選択性を有する材料の塗工、又は前記波長選択性を有する材料の含有により構成されることを特徴とする請求項1乃至6に記載のマイクロチップ。
【請求項8】
前記照射光が照射される面と反対の面は、高反射性を有することを特徴とする請求項1乃至7に記載のマイクロチップ。
【請求項9】
請求項1乃至8に記載のマイクロチップと、
前記マイクロチップが収容可能なマイクロチップ収容部と、
前記マイクロチップ収容部に収容される前記マイクロチップの被検出部に光を照射する光源と、
前記マイクロチップ収容部に収容される前記マイクロチップの被検出部からの光を受光する受光部と、
を有することを特徴とするマイクロチップを用いた検査システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−248426(P2007−248426A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−76360(P2006−76360)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】