説明

マイクロチップ

【課題】耐圧性に優れた流体制御バルブを有するマイクロチップを提供する
【解決手段】内部に流路FAが形成されたチップ本体と、流路FAを開閉する流体制御バルブ40と、を備えたマイクロチップであって、流体制御バルブ40は、チップ本体に形成され流路FAに連通する孔部41と、孔部41に挿入された閉塞部材42と、孔部41と閉塞部材42との間に充填され閉塞部材42を流路FA側に変位可能に支持する充填部材43と、充填部材43の孔部41からの離脱を防止する離脱防止手段44と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体制御バルブを有するマイクロチップに関する。より詳しくは、耐圧性を向上させた流体制御バルブを有するマイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微小空間で化学反応等を発生させる反応器として、マイクロチップ(マイクロリアクタともいう)が知られている。マイクロチップは、通常の反応器に比べ、エネルギー効率、反応速度、収率、安全性、装置の設置箇所や対応できる反応、条件の制御性に優れる。
例えば、図8に、特許文献1に記載のマイクロチップ9の分解斜視図を示す。また、マイクロチップ9の平面図を図9に示す。
【0003】
図8および図9に示すように、マイクロチップ9は、Y字溝911が刻まれた流路形成面910Aを有する第一基板910と、流路形成面910Aに積層される第二基板920と、を備える。第二基板920によって蓋をされたY字溝911は、流体である試料RG9の流路FA9を形成する。
【0004】
第二基板920の、Y字溝911の末端に対応する部分には、3つの孔921が形成されている。この3つの孔921のうちの2つが試料RG91,RG92の導入口922,923とされ、残りの1つが生成物である試料RG93の排出口924とされる。
流路FA9は、平面Y字状であり、3本の経路FA91,FA92,FA93を有する。Y字状の流路FA9の二股部分は、2つの導入口922,923から導入された試料RG91,RG92の合流部JCT9となっている。
【0005】
マイクロチップ9では、2つの導入口922,923から導入された2種類の試料RG91,RG92が、それぞれ経路FA91,FA92を通過し、合流部JCT9で混合される。混合された2種類の試料RG91,RG92は、反応を起こしながら経路FA93を通過し、生成物(試料RG93)となって排出口924から流出する。
【0006】
このようなマイクロチップ9においては、流路FA9内の圧力や試料RG9の流通速度などを制御する手段として、第二基板920の経路FA93に対応する位置に、流体制御バルブ940が設けられている。
図10に、流体制御バルブ940の断面図を示す。図10(A)は、流路FA9(経路FA93)の幅方向における断面図であり、図10(B)は、流路FA9に沿った方向における断面図である。
【0007】
流体制御バルブ940は、図10に示すように、第二基板920に形成された孔部941と、孔部941に挿入される閉塞部材942と、孔部941と閉塞部材942との間に充填され閉塞部材942を流路FA9側に変位可能に支持する充填部材943と、を有する。
閉塞部材942は、硬質材料によって形成された硬質部材942Aと、この硬質部材942Aに重ねられた弾性部材942Bと、を有する部材である。閉塞部材942は、弾性部材942Bが流路FA9側に位置するように孔部941に挿入される。
閉塞部材942を流路FA9側に押圧すると、弾性部材942BがY字溝911の内周面に倣って弾性変形し、流路FA9が閉塞される。ここで、弾性部材942Bの突出量に応じて流路FA9の断面積が狭くなるので、押圧の強弱によって試料RG9の流れを調整することができる。
【0008】
【特許文献1】特開2006−283965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載のマイクロチップ9では、硬質部材942Aを有する閉塞部材942を用いることで、流路FA9の内圧に対する流体制御バルブ940の耐圧性を向上している。
しかしながら、特許文献1に記載のマイクロチップ9においては、充填部材943と第二基板920との接着力によっては、十分な耐圧性が得られないおそれがあった。
例えば、マイクロチップ9の厚さを薄くする必要がある場合、第二基板920も薄くなり、充填部材943と第二基板920との接着面積が減少する。接着面積が小さければ十分な接着力が得られず、流路FA9の内圧が上昇した場合などに、閉塞部材942がマイクロチップ9から離脱するおそれがある。
また、一般的な充填剤との接着性が低いPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)やフッ素系樹脂などを第二基板920として使用した場合にも、充填部材943と第二基板920との接着力が不足するおそれがある。
【0010】
本発明の目的は、上記の問題点などを解決し、耐圧性に優れた流体制御バルブを有するマイクロチップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のマイクロチップは、第一基板と第二基板とを積層することにより内部に流路を形成したチップ本体と、前記流路を開閉する流体制御バルブと、を備えたマイクロチップであって、前記流体制御バルブは、前記チップ本体に形成され前記流路に連通する孔部と、前記孔部に挿入された閉塞部材と、前記孔部と前記閉塞部材との間に充填され前記閉塞部材を前記流路側に変位可能に支持する充填部材と、前記充填部材の前記孔部からの離脱を防止する離脱防止手段と、を有することを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、チップ本体に流路と連通する孔部が設けられ、充填部材が、この孔部に挿入された閉塞部材を流路側に変位可能に支持する。ここで、閉塞部材を流路側に変位させれば、流路が閉塞される。つまり、閉塞部材の変位により流路を開閉することができ、流路内の圧力や流路内を流れる流体の速度などを制御することができる。
そして、流体制御バルブが離脱防止手段を有するので、充填部材と孔部との接着力が不足するような場合や、流路の内圧が上昇したような場合であっても、充填部材が孔部から離脱することを防止できる。
したがって、本発明によれば、耐圧性に優れた流体制御バルブを有するマイクロチップを提供することができる。
【0013】
本発明のマイクロチップにおいて、前記離脱防止手段は、前記孔部の内周面に形成された突起部であることが好ましい。
このような構成によれば、充填部材を孔部から離脱させるような力が作用した場合でも、孔部の内周面に形成した突起部により、充填部材を孔部に係止することができる。
また、微細な突起部を多数形成すれば、アンカー効果により充填部材の孔部からの離脱を防止する力を高めることができる。また、接着界面の一部で剥離が生じた場合でも、微細な突起部の摩擦力により、充填部材の孔部からの離脱を防止することができる。
これにより、流体制御バルブの高い耐圧性を確保することができる。
【0014】
本発明のマイクロチップにおいて、前記離脱防止手段は、前記孔部の内周面に形成された雌ネジ部であることが好ましい。
このような構成によれば、充填部材を孔部から離脱させるような力が作用した場合でも、孔部の内周面に形成した雌ネジ部により、充填部材を孔部に係止することができる。
これにより、流体制御バルブの高い耐圧性を確保することができる。
また、雌ネジ部は安価に加工でき、マイクロチップの製造コストを低減することができる。
【0015】
本発明のマイクロチップにおいて、前記離脱防止手段は、前記孔部の内周面に前記流路側ほど開口が大きくなるように形成されたテーパ部であることが好ましい。
このような構成によれば、流路の内圧が上昇し、充填部材を孔部から離脱させるような力が作用した場合でも、孔部の内周面に形成したテーパ部により、充填部材を孔部に係止することができる。
これにより、流体制御バルブの高い耐圧性を確保することができる。
【0016】
本発明のマイクロチップにおいて、前記孔部は、第一孔部と、前記第一孔部の前記第一基板側に隣接する第二孔部と、を有し、前記閉塞部材が変位する方向と垂直な面における前記第一孔部の断面積は、前記第二孔部の断面積よりも小さく、前記離脱防止手段は、前記第一孔部と前記第二孔部との間の段差部であることが好ましい。
このような構成によれば、流路の内圧が上昇し、充填部材を孔部から離脱させるような力が作用した場合でも、孔部の内周面に形成した段差部により、充填部材を孔部に係止することができる。
これにより、流体制御バルブの高い耐圧性を確保することができる。
【0017】
本発明のマイクロチップにおいて、前記チップ本体は、溝が刻まれた流路形成面を有する前記第一基板と、前記流路形成面に積層される前記第二基板と、を有し、前記流路は、前記溝と前記第二基板とによって形成され、前記流体制御バルブは、前記第二基板に設けられることが好ましい。
このような構成によれば、溝が刻まれた流路形成面を有する第一基板と、第二基板とを積層するだけで、流路を有するチップ本体を構成することができるので、マイクロチップの製造が容易である。
また、流体制御バルブが第二基板に設けられるので、従来のマイクロチップと同様の第一基板に、流体制御バルブを設けた第二基板を積層することで、容易に本発明のマイクロチップを得ることができる。
【0018】
本発明のマイクロチップにおいて、前記第二基板は、ポリエーテルエーテルケトンまたはフッ素樹脂により形成されることが好ましい。
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)やフッ素樹脂は、耐薬品性に優れ化学・分析用として広く使用されている。しかし、これらの材料は高価であるため、コストを下げるために板厚を薄くする必要がある。板厚が薄いと流体制御バルブの耐圧性が低下する恐れがある。
また、PEEKおよびフッ素樹脂は、一般的な充填剤(例えば、シリコーン系の充填材やフッ素ゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ウレタンなどの接着剤、シール剤など)との接着性が低く、第二基板をPEEKまたはフッ素樹脂で形成した場合、流体制御バルブの耐圧性が低下する恐れがある。
これに対し、本発明では、流体制御バルブが離脱防止手段を有するので、第二基板の材質によらず、流体制御バルブの高い耐圧性を確保することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、離脱防止手段を設けることにより、耐圧性に優れた流体制御バルブを有するマイクロチップを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
[第1実施形態]
[マイクロチップの構成]
図1に、本発明の第1実施形態に係るマイクロチップ1の分解斜視図を示す。また、マイクロチップ1の平面図を図2に示す。
図1および図2に示すように、マイクロチップ1は、内部に流路FAが形成されたチップ本体100と、流路FAを開閉する流体制御バルブ40と、を備える。
チップ本体100は、Y字溝11が刻まれた流路形成面10Aを有する第一基板10と、流路形成面10Aに積層される第二基板20と、を有する。第二基板20によって蓋をされたY字溝11は、流体である試料RGの流路FAを形成する。
【0022】
第一基板10および第二基板20は、略平板矩形形状の部材である。
第一基板10および第二基板20の材質は、耐圧力性能(強度)、加工性、流路FAに流通させる試料RGに対する耐薬品性などを考慮して選定する必要がある。
第一基板10および第二基板20の材質として、例えば、石英またはホウ珪酸ガラスなどのガラス材料、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などのシリコンゴム、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのアクリル樹脂、PEEKなどの特殊エンジニアリングプラスチック、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などのフッ素系樹脂、サファイア、珪素(シリコン)、および酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化珪素などのセラミックス、あるいはステンレスなどの金属材料などが挙げられる。
【0023】
なお、光の透過が必要な用途では、ガラス材料などの光の透過率の高い材料が望ましい。スチレン、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの比較的軟質のプラスチック材料を選択する場合は、ある程度の耐食性、および光の透過度が考慮されるが、使い捨てで使用できる安価な汎用材料であること、および加工性も重要な点である。
ここで、第一基板10および第二基板20の材質は同材料に限定されず、第一基板10と第二基板20とが、それぞれ異なる材料で形成されていてもよい。
本発明では、第二基板20は、PEEKまたはフッ素系樹脂により形成されることが好ましい。
【0024】
第一基板10および第二基板20は互いに重ね合わされ、第一基板10および第二基板20が重ねられた面には、試料RGの流路FAが形成されている。
この流路FAは、図2に示すように、チップ本体100の長手方向にほぼ沿って延びる平面視Y字状であり、そのY字形状における二股部分は、合流部JCTとなっている。
すなわち、流路FAにおいて、合流部JCTよりも上流側には、試料RG(RG1,RG2)の導入口22,23から合流部JCTにかけて複数方向に流れる経路FA1,FA2があり、合流部JCTよりも下流側は、1本の経路FA3となっている。
経路FA3は、試料RG1,RG2の反応が行われる反応場である。反応場としての経路FA3は、合成、濃縮、抽出、分析など、ユーザの目的に応じ、様々な目的で使用される。
【0025】
このような流路FAは、図1および図3(A)に示すように、第一基板10の流路形成面10Aに窪むように形成された断面半円形状のY字溝11の内周面と、このY字溝11と向き合う第二基板20の板面との内側に形成されている。
なお、本実施形態では、経路FA1,FA2,FA3においてY字溝11は同径となっているが、例えば、経路FA3におけるY字溝11の径を経路FA1,FA2におけるY字溝11の径よりも大径にするなど、Y字溝11の径寸法は適宜設定できる。
【0026】
第二基板20は、図1および図2に示すように、第一基板10と重ねられた際に、流路FAのY字形状における3つの端部の位置でY字溝11と連通するように穿孔された孔21を有する。
3つの孔21のうち、Y字溝11の拡開側の両端部に形成されたものがそれぞれ、試料RG1,RG2の導入口22,23とされる。そして、Y字溝11の拡開側と反対側の端部に形成された孔21が、生成物である試料RG3の排出口24とされる。
【0027】
試料RG(RG1,RG2,RG3)は、気体、液体、コロイド溶液など、その態様は任意である。
ここで、本実施形態のRGとしては、例えば、水と水、油と油など、成分が混ざり合う試料RG1と試料RG2とが用いられている。そして、一方の導入口22には試料RG1を導入し、他方の導入口23には試料RG2を導入する。
【0028】
流体制御バルブ40は、第二基板20の経路FA1,FA2に対応する位置に設けられる。
図3に、本実施形態の流体制御バルブ40の断面図を示す。
図3(A)は、流路FA(経路FA1または経路FA2)の幅方向における断面図であり、図3(B)は、流路FAに沿った方向における断面図である。
流体制御バルブ40は、第二基板20に形成され流路FAに連通する孔部41と、孔部41に挿入された閉塞部材42と、孔部41と閉塞部材42との間に充填され閉塞部材42を流路FA側に変位可能に支持する充填部材43と、充填部材43の孔部41からの離脱を防止する離脱防止手段44と、を有する。
【0029】
孔部41は、図2に示すように、平面視円形の孔であり、第一基板10のY字溝11と重なる位置に設けられている。ここで、図2および図3(A)に示すように、孔部41の径がY字溝11の幅よりも大きいので、Y字溝11の幅方向両端部が孔部41の内側にそれぞれ露出している。この露出部分は、図3(A)に示すように、閉塞部材42の配設時に閉塞部材42が配置される被載置面12となっている。
また、孔部41は、図3に示すように、その内周面に突起部としての雌ネジ部411を有する。この雌ネジ部411は、本実施形態における離脱防止手段44として作用する。
【0030】
閉塞部材42は、直径1mm程度の略円柱形状の部材であり、硬質材料によって形成された硬質部材421と、この硬質部材421に重ねられた弾性部材422とを有する。閉塞部材42は、弾性部材422が流路FA側に位置するように孔部41に挿入される。
硬質部材421の材料としては、ステンレス等の金属やガラス、プラスチック、サファイア、および酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化珪素などのセラミックスなどの硬質材料を使用することができる。
一方、弾性部材422の材料として、本実施形態では、耐食性が高いフッ素ゴムを使用している。このほかにも、シリコーンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴムなどの弾性変形が可能な材料を使用することができる。
弾性部材422の流路FA側の表面422Aは平坦であり、第一基板10の被載置面12に対し密着するように配置されている。
【0031】
なお、弾性部材422の厚さは、流路FAの深さの0.2〜5倍程度が好ましい。
弾性部材422が流路FAの深さの5倍よりも厚いと、試料RGの流体圧力が高圧となった場合に、流体圧力による弾性部材422の変形量が過大となる。これにより、試料RGの流れに乱れが生じ分析や合成などに悪影響を与える原因となる。
また、弾性変形の程度が大き過ぎて押し込み量が弾性部材422の表面422A(試料RGとの接液面)まで伝わりづらくなり、試料RGの流量などの調節が困難となる。
一方、弾性部材422が流路FAの深さの0.2倍程度よりも薄いと、弾性部材422の変形量が小さ過ぎ、流路FAの閉塞が困難となる。
【0032】
充填部材43は、孔部41と閉塞部材42との間に充填され、閉塞部材42を流路FA側に変位可能に支持する充填剤である。
充填部材43は、閉塞部材42を変位可能に支持するため、延性および弾性を有する。
充填部材43の材質としては、一般的な充填剤が利用できる。例えば、シリコーン系の充填材やフッ素ゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴムなどの接着剤、シール剤などを、充填部材43とすることができる。
【0033】
[マイクロチップの製造方法]
本実施形態に係るマイクロチップ1の具体的な製造方法を次に説明する。
【0034】
[チップ本体の製造手順]
第一基板10の材料がプラスチック以外である場合には、サンドブラスト、エッチング、機械加工などにより、Y字溝11を形成する。
第一基板10の材料がプラスチックである場合には、機械加工、プレス、射出成形などによってY字溝11を形成する。
また、導入口22,23、排出口24および孔部41についても、第二基板20の材料に応じた適当な手段によってそれぞれ形成する。
具体的には、第二基板20の材料がプラスチック以外である場合、サンドブラスト、放電加工、超音波加工、ドリル加工、レーザー加工、エッチングなどにより加工する。
一方、第二基板20の材料がプラスチックである場合には、ドリル加工、レーザー加工、プレス、射出成形などにより形成する。
【0035】
そして、第一基板10および第二基板20をY字溝11のY字形状と導入口22,23および排出口24との位置が合うように重ね合わせ、熱融着を実施する。
なお、熱融着以外の接合方法として、陽極接合、レーザー接合、ろう付け、表面活性化直接接合などを用いて、第一基板10および第二基板20を接合してもよい。また、接合しないで、第一基板10および第二基板20を互いに重ねた状態で挟み、機械的に固定してもよい。
これにより、チップ本体100が完成する。
【0036】
[閉塞部材42の製造方法]
金属製、セラミックス製、プラスチック製などのウェーハや板材からダイシング、スライシングなどによって硬質部材421を切り出す。
また、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴムなどのウェーハやシート材からプレス加工などにより切り出したり、型成形により弾性部材422を得る。
硬質部材421に弾性部材422をそれぞれ貼り合わせて閉塞部材42を得る。
なお、この方法によらず、ウェーハや板材の状態である硬質部材421にスピンコート、ディップコート、スプレーコートなどで弾性部材422のゴム材料を塗布したものや、所定の厚さのゴム製シートを貼り付けたものから適宜切り出すことで、閉塞部材42を製作することもできる。
【0037】
[流体制御バルブ40の製造]
閉塞部材42を、第二基板20の孔部41に挿入する。
孔部41と閉塞部材42との隙間に、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴムなどの弾性変形が可能な充填剤を充填する。充填剤は充填部材43となる。
以上の方法により、流体制御バルブ40を有したマイクロチップ1が完成する。
【0038】
なお、充填剤は適度な粘度の充填剤を用いることにより、流路FA内に充填剤が流入せずに、閉塞部材42が孔部41の内周面に弾性変形可能な状態で接着される。
また、熱硬化や紫外線硬化などによる硬化型の充填剤も使用することができる。
閉塞部材42の、孔部41への配設にあたっては、被載置面12と弾性部材422の表面422Aとを密着させることが好ましい。これにより、閉塞部材42の配設部分に試料RGが溜まり、流れが阻害されたり、試料RGの液量に誤差が生じるのを防止できる。
【0039】
また、次のような製造手順も採用できる。
第一基板10と第二基板20とを接合する前に、閉塞部材42を孔部41に配設する。
閉塞部材42を配設する際には、第二基板20の片面にテフロン(登録商標)シートなどの剥離可能なシート部材(不図示)を貼設し、このシート部材で孔部41の一端側が覆われた状態とする。
この状態で、孔部41の他端側から、閉塞部材42を挿入し、充填剤を孔部41の内周面と閉塞部材42との間に充填する。
【0040】
ここで、孔部41の周縁にシート部材が密着するので、孔部41の内周面から充填剤が第二基板20の板面に回り込まず第二基板20の板面に充填剤が付着しない。このため、第二基板20の板面と弾性部材422の表面422Aとが同一平面になる。
そして、充填剤の充填後、シート部材を剥離し、第一基板10と第二基板20とを重ね合わせて接合する。
【0041】
この接合の際、第二基板20の板面と弾性部材422の表面422Aとが同一平面に形成されているので、被載置面12と弾性部材422の表面422Aとを正確に密着させることができる。
この方法を用いる場合、第二基板20の厚さが厚い場合においても容易に流体制御バルブ40を形成することができるという利点がある。
【0042】
[流体制御バルブの動作]
次に、マイクロチップ1において試料RGを分析する際の流体制御について説明する。
試料RG1,RG2を分析する際には、図2に示すように、導入口22から試料RG1を、そして、導入口23からは試料RG2を、図示しない装置により所定の圧力または流量または流速でそれぞれ導入する。
すると、試料RG1,RG2は経路FA1,FA2をそれぞれ流れ、合流部JCTに向かう。そして、これらの試料RG1,RG2は、合流部JCTに達すると混合流を形成し、経路FA3を流れて排出口24から排出される。
【0043】
しかし、試料RG1,RG2の圧力、流量、流速は、導入口22,23における圧力抵抗や、流路FAの内周面となるY字溝11や第二基板20の板面の圧力抵抗などにより、変動する。
流体制御バルブ40によれば、このような条件の変動を補償し、試料RG1,RG2を所定の圧力、流量、流速の条件で反応させることができる。
【0044】
閉塞部材42は、図3(A)に示すように、孔部41の内部で被載置面12に支持され、この状態では、流路FAを閉塞しない全開状態となっている。
この閉塞部材42を、任意の押圧手段により、適宜、流路FAとは反対側から押し込むと、弾性部材422は孔部41の周縁およびY字溝11の端部に隙間なく密接した状態でY字溝11の内周面に倣って弾性変形し、流路FAが閉塞される。
すなわち、弾性部材422の被載置面12からの突出量に応じて流路FAの断面積が狭くなり、これによって試料RG1,RG2の流れが絞られる。
【0045】
また、弾性部材422をY字溝11の底部まで押し込み、流路FAを全閉状態とすることも可能である。
すなわち、マイクロチップ1の導入口22,23や排出口24に他のマイクロチップの排出口や導入口が連結されたり、マイクロチップ1の流路FAがいくつも連結されてシステムが構築されることもあるから、試料RG1、RG2の反応速度などの理由で流体制御バルブ40を全閉状態として試料RG1、RG2の流れを止める場合も考えられる。
このように、流体制御バルブ40は、開閉切り替えバルブ(ON/OFFバルブ)としても、開閉量調節弁としても使用できる。
【0046】
[第1実施形態の作用効果]
このような本実施形態によれば、次のような効果がある。
(1)流体制御バルブ40が離脱防止手段44を有するので、充填部材43と孔部41との接着力が不足するような場合や、流路FAの内圧が上昇したような場合であっても、充填部材43が孔部41から離脱することを防止できる。
(2)流体制御バルブ40が離脱防止手段44を有するので、第二基板20(孔部41)の材質によらず、流体制御バルブ40の高い耐圧性を確保することができる。
特に、本発明では、接着性が低いPEEKまたはフッ素系樹脂で第二基板20(孔部41)を形成した場合にも、流体制御バルブ40の耐圧性を確保することができるという利点がある。
【0047】
(3)充填部材43を孔部41から離脱させるような力が作用した場合でも、孔部41の内周面に形成した雌ネジ部411により、充填部材43を孔部41に係止することができる。これにより、流体制御バルブ40の高い耐圧性を確保することができる。
(4)Y字溝11が刻まれた流路形成面10Aを有する第一基板10と、第二基板20とを積層するだけで、流路FAを有するチップ本体100を構成することができるので、マイクロチップ1の製造が容易である。
(5)流体制御バルブ40が第二基板20に設けられるので、従来のマイクロチップ1と同様の第一基板10に、流体制御バルブ40を設けた第二基板20を積層することで、容易に本発明のマイクロチップ1を得ることができる。
【0048】
(6)硬質部材421および弾性部材422の2つの部材によって閉塞部材42が構成されるので、孔部41に押し込まれる際の変位が硬質部材421を介して弾性部材422に正確に伝達される。これにより、弾性部材422の弾性変形量のコントロールが容易となって、流路FAの開閉量を容易に調節することができる。
(7)弾性部材422が適度な厚さに設けられているため、孔部41に押し込まれた際や、流路FA内の流体圧力を受けた際に、弾性部材422の流路FA側の表面422Aが変形することが防止される。これにより、試料RGの流れが阻害されることなく、試料RGの操作を適切に行うことができる。
【0049】
(8)弾性部材422の流路FA側の表面422Aが平坦に形成されていることにより、弾性部材422が充填部材43を介して孔部41の周縁に隙間無く密接し、試料RGの溜まり部分が生じないので、デッドボリュームを小さくできる。これにより、閉塞部材42の配設部分に試料RGが溜まったり、気泡が生じて試料RGの流れに影響が及ぶことがなく、液量に誤差が生じることもない。また、閉塞部材42の配設部分に試料RGが残ってマイクロチップ1の清浄度を確保できないなどの問題を回避できる。
(9)孔部41の径寸法が流路FAの幅よりも大きいことから、孔部41の内側で流路FAの幅方向端部である被載置面12が閉塞部材42の度当たり(ストッパー)として機能し、流路FA壁面と弾性部材422の表面422Aとがほぼ同一面上に揃うので、試料RGの流れに影響を及ぼすことなく閉塞部材42をマイクロチップ1に配設可能となる。
(10)弾性部材422が高耐食性のフッ素ゴムで形成されていることにより、試料RGが腐食性であっても問題がなく、マイクロチップ1の信頼性および汎用性をさらに向上させることができる。
【0050】
以下の各実施形態のマイクロチップ1は、流体制御バルブ40の構成を除いて、上述の第1実施形態と同様の構成を備える。
よって、共通部分には同一の符号を用い、重複する説明は省略する。
【0051】
[第2実施形態]
図4に、本実施形態の流体制御バルブ40の断面図を示す。
本実施形態では、図4に示したように、孔部41の内周面に流路FA側ほど開口が大きくなるように形成されたテーパ部412が設けられている。
このテーパ部412は、離脱防止手段44として作用する。
本実施形態によれば、前述の第1実施形態の作用効果(3)に代えて次のような効果がある。
(11)流路FAの内圧が上昇し、充填部材43を孔部41から離脱させるような力が作用した場合でも、孔部41の内周面に形成したテーパ部412により、充填部材43を孔部41に係止することができる。これにより、流体制御バルブ40の高い耐圧性を確保することができる。
【0052】
[第3実施形態]
図5に、本実施形態の流体制御バルブ40の断面図を示す。
本実施形態では、図5に示したように、孔部41が、第一孔部41Aと、第一孔部41Aの第一基板10側に隣接する第二孔部41Bと、を有する。
ここで、閉塞部材42が変位する方向(図5上下方向)と垂直な面における第一孔部41Aの断面積は、第二孔部41Bの断面積よりも小さい。
本実施形態では、第一孔部41Aと第二孔部41Bとの間の段差部413が、離脱防止手段44として作用する。
本実施形態によれば、前述の第1実施形態の作用効果(3)に代えて次のような効果がある。
(12)流路FAの内圧が上昇し、充填部材43を孔部41から離脱させるような力が作用した場合でも、孔部41の内周面に形成した段差部413により、充填部材43を孔部41に係止することができる。これにより、流体制御バルブ40の高い耐圧性を確保することができる。
【0053】
[第4実施形態]
図6に、本実施形態の流体制御バルブ40の断面図を示す。
本実施形態では、図6に示したように、充填部材43および孔部41の、流路FAと逆側の端面を覆うようにして、リング状のストッパ414が設けられている。
このストッパ414が、離脱防止手段44として作用する。
本実施形態によれば、前述の第1実施形態の作用効果(3)に代えて次のような効果がある。
(13)充填部材43を孔部41から離脱させるような力が作用した場合でも、ストッパ414により、充填部材43を孔部41に係止することができる。これにより、流体制御バルブ40の高い耐圧性を確保することができる。
【0054】
[変形例]
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる他の構成などを含み、以下に示すような変形なども本発明に含まれる。
【0055】
マイクロチップ1を構成する各部材の材質や形状などは、上述の各実施形態で例示したものに限らない。
例えば、上述の各実施形態において、略円柱形状の閉塞部材42を例示したが、図7に示すように、閉塞部材42の硬質部材421を円錐台形状としてもよい。
なお、図7に示す流体制御バルブ40においては、円錐台形状の硬質部材421にあわせ、孔部41の内周面にテーパ部412を形成している。本変形例に係るマイクロチップ1では、テーパ部412が、離脱防止手段44として作用する。
【0056】
上述の第1実施形態において、孔部41の内周面に形成される突起部として、雌ネジ部411を例示したが、これに限定されない。
例えば、サンドブラストなどの適宜の手段により、孔部41の内周面に微細な突起部を多数形成してもよい。
この場合、アンカー効果により充填部材43の孔部41からの離脱を防止する力を高めることができる。また、接着界面の一部で剥離が生じた場合でも、微細な突起部の摩擦力により、充填部材43の孔部41からの離脱を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、耐圧性を向上させた流体制御バルブを有するマイクロチップとして利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1実施形態に係るマイクロチップの分解斜視図。
【図2】本発明の第1実施形態に係るマイクロチップの平面図。
【図3】本発明の第1実施形態に係るマイクロチップの流体制御バルブの断面図。
【図4】本発明の第2実施形態に係るマイクロチップの流体制御バルブの断面図。
【図5】本発明の第3実施形態に係るマイクロチップの流体制御バルブの断面図。
【図6】本発明の第4実施形態に係るマイクロチップの流体制御バルブの断面図。
【図7】本発明の実施形態に係る変形例の流体制御バルブの断面図。
【図8】従来のマイクロチップの分解斜視図。
【図9】従来のマイクロチップの平面図。
【図10】従来のマイクロチップの流体制御バルブの断面図。
【符号の説明】
【0059】
1 マイクロチップ
40 流体制御バルブ
41 孔部
41A 第一孔部
41B 第二孔部
42 閉塞部材
43 充填部材
44 離脱防止手段
100 チップ本体
411 雌ネジ部
412 テーパ部
413 段差部
FA 流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一基板と第二基板とを積層することにより内部に流路を形成したチップ本体と、前記流路を開閉する流体制御バルブと、を備えたマイクロチップであって、
前記流体制御バルブは、
前記チップ本体に形成され前記流路に連通する孔部と、
前記孔部に挿入された閉塞部材と、
前記孔部と前記閉塞部材との間に充填され前記閉塞部材を前記流路側に変位可能に支持する充填部材と、
前記充填部材の前記孔部からの離脱を防止する離脱防止手段と、
を有する
ことを特徴とするマイクロチップ。
【請求項2】
請求項1に記載のマイクロチップにおいて、
前記離脱防止手段は、前記孔部の内周面に形成された突起部である
ことを特徴とするマイクロチップ。
【請求項3】
請求項1に記載のマイクロチップにおいて、
前記離脱防止手段は、前記孔部の内周面に形成された雌ネジ部である
ことを特徴とするマイクロチップ。
【請求項4】
請求項1に記載のマイクロチップにおいて、
前記離脱防止手段は、前記孔部の内周面に前記流路側ほど開口が大きくなるように形成されたテーパ部である
ことを特徴とするマイクロチップ。
【請求項5】
請求項1に記載のマイクロチップにおいて、
前記孔部は、第一孔部と、前記第一孔部の前記第一基板側に隣接する第二孔部と、を有し、
前記閉塞部材が変位する方向と垂直な面における前記第一孔部の断面積は、前記第二孔部の断面積よりも小さく、
前記離脱防止手段は、前記第一孔部と前記第二孔部との間の段差部である
ことを特徴とするマイクロチップ。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のマイクロチップにおいて、
前記チップ本体は、
溝が刻まれた流路形成面を有する前記第一基板と、前記流路形成面に積層される前記第二基板と、を有し、
前記流路は、前記溝と前記第二基板とによって形成され、
前記流体制御バルブは、前記第二基板に設けられる
ことを特徴とするマイクロチップ。
【請求項7】
請求項6に記載のマイクロチップにおいて、
前記第二基板は、ポリエーテルエーテルケトンまたはフッ素樹脂により形成される
ことを特徴とするマイクロチップ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−168216(P2009−168216A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−9311(P2008−9311)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(000150707)長野計器株式会社 (62)
【Fターム(参考)】